(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂成形体および当該塩化ビニル樹脂成形体を有する積層体を製造する際に用いることができる。ここで、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、パウダースラッシュ成形などの粉体成形により製造することができる。そして、当該塩化ビニル樹脂成形体および積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネル用の表皮など、自動車内装部品を構成する自動車内装材として用いることができる。
【0023】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)所定の化合物からなるジエステル可塑剤と、(c)所定の直鎖率のアルキル基を有する化合物からなるトリメリット酸エステル可塑剤とを含み、任意に、その他の可塑剤などの添加剤を更に含有する。
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は上記所定の2種類の可塑剤を併用しているため、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造した塩化ビニル樹脂成形体などに、低温下における高い強度および高い柔軟性を発揮させるよう調節することができる。
【0024】
<(a)塩化ビニル樹脂>
<<組成>>
ここで、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する共重合体が挙げられる。かかる塩化ビニル系共重合体の、塩化ビニルと共重合可能な単量体(共単量体)の具体例は、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル−3−クロロ−2−オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などである。以上に例示される単量体は、塩化ビニルと共重合可能な単量体(共単量体)の一部に過ぎず、共単量体としては、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75〜104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの単量体の1種又は2種以上が使用され得る。なお、上記(a)塩化ビニル樹脂には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニル、または、(2)塩化ビニルと、当該塩化ビニルと共重合可能な前記共単量体とがグラフト重合された樹脂も含まれる。
ここで、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0025】
そして、上記(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。
【0026】
また、(a)塩化ビニル樹脂は、1種類の塩化ビニル樹脂または2種類以上の塩化ビニル樹脂の混合物とすることができる。具体的には、(a)塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂組成物を調製する際の基材としての(つまり、マトリックス樹脂として機能する)塩化ビニル樹脂のみ、または、当該基材としての塩化ビニル樹脂と、基材以外の役割を担う塩化ビニル樹脂との混合物とすることができる。塩化ビニル樹脂が担い得る基材以外の役割としては、例えば、粉体流動性を改良することができるダスティング剤などが挙げられる。そして、(a)塩化ビニル樹脂は、基材としての塩化ビニル樹脂と、ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂とを併用することが好ましい。なお、ダスティング剤としては、後述する通り、塩化ビニル樹脂以外の任意の成分を用いることもでき、上記塩化ビニル樹脂と当該塩化ビニル樹脂以外の任意の成分を併用してもよい。
【0027】
ここで、(a)塩化ビニル樹脂が通常含有する基材としての塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法により製造することが好ましく、また、(a)塩化ビニル樹脂が含有し得るダスティング剤としての塩化ビニル樹脂は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0028】
<<性状>>
[平均重合度]
(a)塩化ビニル樹脂を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上が好ましく、900以上がより好ましく、5000以下が好ましく、3000以下がより好ましい。また、(a)塩化ビニル樹脂が基材としての塩化ビニル樹脂である場合の塩化ビニル樹脂の平均重合度も、上記と同様の範囲とすることができる。更に、(a)塩化ビニル樹脂が含み得るダスティング剤としての塩化ビニル樹脂は、当該塩化ビニル樹脂を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が500以上であることが好ましく、700以上であることが好ましく、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1200以下であることが更に好ましい。
(a)塩化ビニル樹脂の平均重合度が800以上であれば、当該塩化ビニル樹脂を含む塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形等してなる成形体の強度が良好になるからである。また、(a)塩化ビニル樹脂の平均重合度が5000以下であれば、当該成形体の柔軟性が良好になるからである。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720−2に準拠して測定することができる。
【0029】
[形状]
また、(a)塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂粒子であることが好ましい。換言すれば、(a)塩化ビニル樹脂は、粒子形状を有することが好ましい。また、(a)塩化ビニル樹脂が基材としての塩化ビニル樹脂である場合も、塩化ビニル樹脂は粒子形状であることが好ましい。更に、(a)塩化ビニル樹脂が含み得るダスティング剤としての塩化ビニル樹脂も粒子形状であることが好ましく、ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂は、基材としての塩化ビニル樹脂粒子よりも微細な微粒子(塩化ビニル樹脂微粒子)であることがより好ましい。
(a)塩化ビニル樹脂が塩化ビニル樹脂粒子であれば、当該塩化ビニル樹脂を含む塩化ビニル樹脂組成物を、パウダースラッシュ成形などの粉体成形に好適に用いることができるからである。また、ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂が塩化ビニル樹脂微粒子であれば、当該塩化ビニル樹脂微粒子を更に含む塩化ビニル樹脂組成物の、粉体流動性がより向上するからである。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0030】
[平均粒子径]
(a)塩化ビニル樹脂としての塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されることなく、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下が更に好ましい。また、(a)塩化ビニル樹脂が基材としての塩化ビニル樹脂粒子である場合の塩化ビニル樹脂の平均粒子径も、上記と同様の範囲とすることができる。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が50μm以上であれば、当該塩化ビニル樹脂粒子を含む塩化ビニル樹脂成形体の強度をより向上し得るからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が500μm以下であれば、当該塩化ビニル樹脂粒子を含む塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が向上するために粉体成形を容易に行え、かつ、当該塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体の平滑性を向上させることができるからである。
更に、(a)塩化ビニル樹脂が含み得るダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、特に制限されることなく、0.1μm以上であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。
従って、(a)塩化ビニル樹脂が2種類以上の塩化ビニル樹脂の粒子(塩化ビニル樹脂粒子、塩化ビニル樹脂微粒子など)を含む場合は、当該2種類以上の塩化ビニル樹脂の粒子径が異なることが好ましい。
なお、本発明において、「塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径」は、JIS Z8801に規定されたJIS標準篩による篩い分け法に準拠して測定することができる。また、本発明において、「塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所製、製品名「SALD−2300」)を用いて、レーザー回折法により測定することができる。
【0031】
<<配合割合>>
そして、(a)塩化ビニル樹脂中に、例えば、基材としての塩化ビニル樹脂粒子およびダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子が併存する場合には、(a)塩化ビニル樹脂100質量%中の基材としての塩化ビニル樹脂粒子の含有量は、通常、70質量%以上であり、70質量%超であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、100質量%未満であり、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、92質量%以下であることが更に好ましい。
また、(a)塩化ビニル樹脂中に、例えば、基材としての塩化ビニル樹脂粒子およびダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子が併存する場合には、(a)塩化ビニル樹脂100質量%中のダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子の含有量は、0質量%超であり、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることが更に好ましく、通常、30質量%以下であり、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
<可塑剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤として、(b)所定のジエステル可塑剤と、(c)所定の直鎖率のアルキル基を有するトリメリット酸エステル可塑剤とを含み、任意に、上記(b)ジエステル可塑剤および(c)トリメリット酸エステル可塑剤以外のその他の可塑剤を含むことができる。
【0033】
なお、可塑剤の形態は特に限定されないが、(a)塩化ビニル樹脂との混合容易性の観点から、また、製造された塩化ビニル樹脂成形体表面でのブルーミング発生(成形体表面に配合成分が折出し、表面が白くなる現象)を抑制する観点からは、常温で液体であることが好ましい。そして、後述する(b)ジエステル可塑剤が有するR
1及びR
3などの炭化水素基の種類を適切に選択することにより、可塑剤を所望の形態とすることができる。
【0034】
<<(b)ジエステル可塑剤>>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含む(b)ジエステル可塑剤は、下記式(1)で示される化合物からなることを特徴とする。
【化3】
ここで、上記式(1)中、R
1及びR
3は一価の炭化水素基である必要があり、一価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、一価の直鎖状炭化水素基であることがより好ましく、R
1及びR
3は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、上記式(1)中、R
2は二価の炭化水素基である必要があり、二価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、二価の直鎖状炭化水素基であることがより好ましく、二価の直鎖状飽和炭化水素基であることが更に好ましい。
【0035】
[炭化水素基の種類]
上記式(1)中のR
1及びR
3を構成する炭化水素基としては、特に制限されることなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基などの直鎖状飽和炭化水素基;
i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−テトラデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−テトラデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基などの分岐状飽和炭化水素基;
ソルビン酸、カプロレイン酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、ペトロセエライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、バセニン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、リノレンエライジン酸、ステアリドン酸、α−エレオステアリン酸、ゴンドイン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、パウリン酸、セトレイン酸、エルカ酸、クルパノドン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、セラコレイン酸、ネルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物に含まれる不飽和炭化水素基;
などが挙げられる。
中でも、R
1及びR
3としては、直鎖状炭化水素基を用いることが好ましく、例えば、オレイン酸などの不飽和カルボン酸化合物が有する直鎖状不飽和炭化水素基を用いることができる。なお、これらは、合成化合物、天然化合物の何れを用いてもよく、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0036】
また、上記式(1)中のR
2を構成する炭化水素基としては、特に制限されることなく、例えば、上述の直鎖状飽和炭化水素基および分岐状飽和炭化水素基などから水素を1個除いた炭化水素基が挙げられる。また、これらの中でも、R
2としては、直鎖状飽和炭化水素基を用いることが好ましく、ヘキサメチレン基などの直鎖状飽和炭化水素基を用いることがより好ましい。
【0037】
[炭化水素基の炭素数]
また、上記式(1)中のR
1の一価の炭化水素基は、炭素数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、16以上であることが一層好ましく、24以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、19以下であることが更に好ましい。
同様に、上記式(1)中のR
3の一価の炭化水素基は、炭素数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、16以上であることが一層好ましく、24以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、19以下であることが更に好ましい。
更に、上記式(1)中のR
2の二価の炭化水素基は、炭素数が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
上記式(1)中のR
1、R
2及びR
3の炭素数が2以上であれば、ジエステル可塑剤を含む塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造した成形体の柔軟性を更に高め得るからである。また、上記式(1)中のR
1及びR
3の炭素数が24以下、上記式(1)中のR
2の炭素数が15以下であれば、塩化ビニル樹脂成形体の強度を良好に維持し得るからである。
【0038】
[炭化水素基の直鎖率]
また、上記式(1)中、R
2の炭化水素基の直鎖率、並びに、R
1及びR
3の合計の炭化水素基の直鎖率は、R
2について、並びに、R
1及びR
3の合計について、それぞれ、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることが好ましく、100モル%であることが更に好ましい。つまり、塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(b)ジエステル可塑剤が有する炭化水素基は、全て直鎖状炭化水素基であることが好ましい。(b)ジエステル可塑剤が有するR
2、並びに、R
1及びR
3の合計が、直鎖率90モル%以上の炭化水素基であれば、例えば、パウダースラッシュ成形などの粉体成形により製造される塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性、並びに、低温における引張応力および引張り破断伸びなどの引張特性をより高めるよう制御することができるからである。
【0039】
<<(c)トリメリット酸エステル可塑剤>>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含む(c)トリメリット酸エステル可塑剤は、下記式(2)で示される化合物からなることを特徴とする。
【化4】
ここで、上記式(2)中、R
4、R
5及びR
6はアルキル基である必要があり、後述する所定の直鎖率を満たすため、塩化ビニル樹脂組成物中に存在するR
4、R
5及びR
6それぞれの少なくとも一部は、分岐状アルキル基であり、当該組成物中に存在するR
4、R
5及びR
6の全てが分岐状アルキル基であることが好ましく、R
4、R
5及びR
6は互いに同一であっても異なっていてもよい。換言すれば、塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(c)トリメリット酸エステル可塑剤が有するアルキル基は、全て分岐状アルキル基であることが好ましい。
【0040】
[アルキル基の直鎖率]
また、上記式(2)中、R
4、R
5及びR
6の直鎖率は、それぞれ90モル%未満である必要があり、50モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、0モル%であることが更に好ましい。(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物が有するR
1、R
2及びR
3がそれぞれ直鎖率90モル%未満のアルキル基であれば、当該(c)トリメリット酸エステル可塑剤と上述の(b)ジエステル可塑剤とを併用して製造した塩化ビニル樹脂成形体に良好な柔軟性を付与でき、また、当該塩化ビニル樹脂成形体に、低温下における、優れた引張応力および引張破断伸びなどの引張特性を与え、良好な強度を付与できる。換言すれば、上記所定の(c)トリメリット酸エステル可塑剤および所定の(b)ジエステル可塑剤を塩化ビニル樹脂組成物の調製に用いることにより、製造される塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性および強度を制御することができる。
【0041】
ここで、所定の低い直鎖率を有する当該(c)トリメリット酸エステル可塑剤に上述の(b)ジエステル可塑剤を併用させた場合に、これらの可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性および強度を制御することができる理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、当該組成物内において、塩化ビニル樹脂のポリマー鎖同士の間に入り込むことにより、第一の可塑剤としての役割を担う。その結果、当該トリメリット酸エステル化合物を介した塩化ビニル樹脂のポリマー鎖間距離が広がることにより、塩化ビニル樹脂組成物の柔軟性が高まる。このとき、(c)トリメリット酸エステル可塑剤が有するアルキル基の直鎖率は90モル%未満であるため、当該直鎖率が90モル%以上のトリメリット酸エステル可塑剤を含有する場合と比較し、塩化ビニル樹脂のポリマー鎖間距離を小さく保つことにより、製造される塩化ビニル樹脂成形体の強度を高く維持することができる。
ここで、上述の塩化ビニル樹脂組成物に対して(b)ジエステル可塑剤を更に用いた場合、上記(c)トリメリット酸エステル可塑剤とは異なる程度の可塑化効果をもたらす(b)ジエステル可塑剤が、当該組成物の可塑化程度を調節し得る第二の可塑剤としての役割を担う。つまり、(b)ジエステル可塑剤および(c)トリメリット酸エステル可塑剤の組成、配合量などを調節することにより、可塑化作用の程度の異なる複数種の可塑剤の併用効果を発揮させ、粉体成形などが施された塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性および強度を所望の程度に制御することができる。そして、このような第一および第二の可塑剤などの併用による塩化ビニル樹脂成形体の性状の制御効果は、上記(b)ジエステル可塑剤および上記(c)トリメリット酸エステル可塑剤がそれぞれに対して本明細書に記載された好適条件を満たす場合に、各可塑化作用がそれぞれ十分に発揮されることに主に起因して、特に良好に発揮されると考えられる。
【0042】
[アルキル基の種類]
(c)トリメリット酸エステル可塑剤としては、上記所定の直鎖率であるアルキル基を有する以外は特に制限されることなく、任意の、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物とすることができる。
ここで、(c)トリメリット酸エステル可塑剤が有するアルキル基の具体例としては、例えば、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−テトラデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−テトラデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基などの分岐状アルキル基;
メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基などの直鎖状アルキル基;
などを挙げることができる。
なお、上記(c)トリメリット酸エステル可塑剤は、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。
【0043】
[アルキル基の炭素数と含有割合]
ここで、(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、上記式(2)中のR
4、R
5及びR
6の合計アルキル基に対し、炭素数7以下のアルキル基の合計含有割合が0モル%以上10モル%以下であることが好ましい。つまり、上記R
4、R
5及びR
6の有する合計アルキル基に対し、炭素数1以上7以下のアルキル基が存在しなくてもよい。
また、(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、上記式(2)中のR
4、R
5及びR
6の合計アルキル基に対し、炭素数8及び炭素数9のアルキル基の合計含有割合が5モル%以上100モル%以下であることが好ましい。つまり、上記R
4、R
5及びR
6の有する合計アルキル基に対し、炭素数が8又は9であるいずれかのアルキル基が存在することが好ましく、炭素数が8であるアルキル基のみが存在しても良く、炭素数が9であるアルキル基のみが存在しても良く、炭素数が8および9のアルキル基のみが併存していてもよい。中でも、上記炭素数8及び炭素数9のアルキル基の合計含有割合が100モル%であることがより好ましい。
更に、(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、上記式(2)中のR
4、R
5及びR
6の合計アルキル基に対し、炭素数10のアルキル基の含有割合が0モル%以上95モル%以下であることが好ましい。つまり、上記R
4、R
5及びR
6の有する合計アルキル基に対し、炭素数10のアルキル基が存在しなくてもよい。
そして、(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、上記式(2)中のR
4、R
5及びR
6の合計アルキル基に対し、炭素数11以上のアルキル基の合計割合が0モル%以上10モル%以下であることが好ましい。つまり、上記R
4、R
5及びR
6の有する合計アルキル基に対し、炭素数11以上のアルキル基が存在しなくてもよい。
(c)トリメリット酸エステル可塑剤が少なくとも炭素数8又は9であるアルキル基をある程度有すれば、好ましくは、炭素数8又は9であるアルキル基のみからなれば、得られる塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性および強度をより両立させるよう制御することができるからである。
【0044】
更には、(c)トリメリット酸エステル可塑剤を構成するトリメリット酸エステル化合物は、上記式(2)中のR
4、R
5及びR
6のアルキル基が、それぞれ、炭素数7以上であることが好ましく、炭素数8以上であることがより好ましく、炭素数11以下であることが好ましく、炭素数10以下であることがより好ましく、炭素数9以下であることが更に好ましい。炭素数が上記下限以上であれば、得られる塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性をより向上できるからである。また、炭素数が上記上限以下であれば、得られる塩化ビニル樹脂成形体の強度をより向上できるからである。
【0045】
<添加剤>
塩化ビニル樹脂組成物は、上述した(a)塩化ビニル樹脂、(b)ジエステル可塑剤、及び(c)トリメリット酸エステル可塑剤以外に、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、上記(b)ジエステル可塑剤及び上記(c)トリメリット酸エステル可塑剤以外のその他の可塑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β−ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のダスティング剤;及び、その他の添加剤;などが挙げられる。
【0046】
<<その他の可塑剤>>
塩化ビニル樹脂組成物では、上述した(b)ジエステル可塑剤および(c)トリメリット酸エステル可塑剤に加え、1種又は2種以上の、その他の可塑剤(例えば、一次可塑剤、二次可塑剤など)を使用しうる。ここで、二次可塑剤を用いる場合は、当該二次可塑剤と等質量以上の一次可塑剤を併用することが好ましい。
ここで、いわゆる一次可塑剤としては、
ピロメリット酸テトラ−n−ヘキシル、ピロメリット酸テトラ−n−ヘプチル、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ−n−ノニル、ピロメリット酸テトラ−n−デシル、ピロメリット酸テトライソデシル、ピロメリット酸テトラ−n−ウンデシル、ピロメリット酸テトラ−n−ドデシル、ピロメリット酸テトラ−n−アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6〜12である。〕を分子内に2種以上有するエステル)等の、ピロメリット酸エステル可塑剤;
ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;
ジメチルイソフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;
ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ−n−オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;
ジ−n−ブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;
ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ−n−ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;
ジ−n−ブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ−(2−ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;
ジ−n−ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;
ジ−n−ブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;
トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;
モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ−(2−エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;
ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;
メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;
n−ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体(但し、12−ヒドロキシステアリン酸エステルを除く);
ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;
トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;
ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;
グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;
エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;
アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;
などが挙げられる。
【0047】
また、いわゆる二次可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどが挙げられる。
【0048】
そして、上述したその他の可塑剤の中でも、エポキシ化大豆油を、(b)ジエステル可塑剤および(c)トリメリット酸エステル可塑剤と併用することが好ましい。
【0049】
また、上記その他の可塑剤の含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。上記(b)ジエステル可塑剤及び上記(c)トリメリット酸エステル可塑剤以外のその他の可塑剤の含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、低温での良好な柔軟性を付与することができるからである。
【0050】
<<過塩素酸処理ハイドロタルサイト>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、過塩素酸処理ハイドロタルサイトは、例えば、ハイドロタルサイトを過塩素酸の希薄水溶液中に加えて撹拌し、その後必要に応じて、ろ過、脱水または乾燥することによって、ハイドロタルサイト中の炭酸アニオン(CO
32−)の少なくとも一部を過塩素酸アニオン(ClO
4−)で置換(炭酸アニオン1モルにつき過塩素酸アニオン2モルが置換)することにより、過塩素酸導入型ハイドロタルサイトとして容易に製造することができる。上記ハイドロタルサイトと上記過塩素酸とのモル比は任意に設定できるが、一般には、ハイドロタルサイト1モルに対し、過塩素酸0.1モル以上2モル以下とする。
【0051】
ここで、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは85モル%以上である。また、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは95モル%以下である。未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率が上記の範囲内にあることにより、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、良好な低温での柔軟性を付与することができるからである。
【0052】
ハイドロタルサイトは、一般式:[Mg
1−xAl
x(OH)
2]
x+[(CO
3)
x/2・mH
2O]
x−で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層[Mg
1−xAl
x(OH)
2]
x+と、マイナスに荷電した中間層[(CO
3)
x/2・mH
2O]
x−とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、上記一般式中、xは0より大きく0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトは、Mg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oである。合成されたハイドロタルサイトとしては、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、例えば特開昭61−174270号公報に記載されている。
【0053】
ここで、過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量は、特に制限されることなく、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が更に好ましく、7質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、5.5質量部以下が更に好ましい。過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、良好な低温での柔軟性を付与できるからである。
【0054】
<<ゼオライト>>
塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式:M
x/n・[(AlO
2)
x・(SiO
2)
y]・zH
2O(一般式中、Mは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表される化合物である。当該一般式中のMの種類としては、Na、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
【0055】
ここで、ゼオライトの含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0056】
<<β−ジケトン>>
β−ジケトンは、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体の初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β−ジケトンの具体例としては、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどが挙げられる。これらのβ−ジケトンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
なお、β−ジケトンの含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0058】
<<脂肪酸金属塩>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る脂肪酸金属塩は、特に制限されることなく、任意の脂肪酸金属塩とすることができる。中でも、一価脂肪酸金属塩が好ましく、炭素数12〜24の一価脂肪酸金属塩がより好ましく、炭素数15〜21の一価脂肪酸金属塩が更に好ましい。脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等である。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、多価陽イオンを生成しうる金属が好ましく、2価陽イオンを生成しうる金属がより好ましく、周期表第3周期〜第6周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が更に好ましく、周期表第4周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が特に好ましい。最も好ましい脂肪酸金属塩はステアリン酸亜鉛である。
【0059】
ここで、脂肪酸金属塩の含有量は、特に制限されることなく、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が上記範囲であれば、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、良好な低温での柔軟性を付与でき、更に色差の値を小さくできるからである。
【0060】
<<その他のダスティング剤>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、上記塩化ビニル樹脂微粒子以外の、その他のダスティング剤(粉体流動性改良剤)としては、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;ポリアクリロニトリル樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、ポリエステル樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子などの有機微粒子;が挙げられる。中でも、平均粒径が10nm以上100nm以下の無機微粒子が好ましい。
【0061】
ここで、その他のダスティング剤の含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、10質量部以上とすることができる。その他のダスティング剤は、1種類を単独で、又は2種類以上を併用しても良く、また、上述した塩化ビニル樹脂微粒子と併用してもよい。
【0062】
<<その他の添加剤>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るその他の添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、離型剤、着色剤(顔料)、耐衝撃性改良剤、過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防カビ剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、光安定剤、発泡剤等が挙げられる。
【0063】
離型剤としては、特に制限されることなく、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸オリゴマーなどの潤滑剤が挙げられる。
【0064】
着色剤(顔料)の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。
キナクリドン系顔料は、p−フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。
ペリレン系顔料は、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンとの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。
ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。
イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンとの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。
銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。
チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。
カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0065】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。塩化ビニル樹脂組成物では、1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。なお、耐衝撃性改良剤は、塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。塩化ビニル樹脂組成物では、当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が(a)塩化ビニル樹脂と相溶し、塩化ビニル樹脂組成物を用いて得られる塩化ビニル樹脂成形体の耐衝撃性が向上する。
【0066】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸塩などのリン系酸化防止剤などである。
【0067】
防カビ剤の具体例は、脂肪族エステル系防カビ剤、炭化水素系防カビ剤、有機窒素系防カビ剤、有機窒素硫黄系防カビ剤などである。
【0068】
難燃剤の具体例は、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
【0069】
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0070】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
【0071】
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などである。
【0072】
発泡剤の具体例は、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物などの有機発泡剤;フロンガス、炭酸ガス、水、ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、これらを内包したマイクロカプセルなどの、ガス系の発泡剤;などである。
【0073】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)ジエステル可塑剤と、(c)トリメリット酸エステル可塑剤と、必要に応じて更に併用される各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、上記塩化ビニル樹脂微粒子を含むダスティング剤を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0074】
<<可塑剤の配合量>>
また、各可塑剤の配合量としては、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、(b)ジエステル可塑剤及び(c)トリメリット酸エステル可塑剤の合計含有量が、5質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、180質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることが更に好ましい。(b)ジエステル可塑剤及び(c)トリメリット酸エステル可塑剤の合計含有量が5質量部以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体に、良好な低温での柔軟性を付与できるからである。また、(b)ジエステル可塑剤及び(c)トリメリット酸エステル可塑剤の合計含有量が200質量部以下であれば、当該塩化ビニル樹脂成形体の良好な強度を保ち易くなるからである。
【0075】
更に、(b)ジエステル可塑剤と(c)トリメリット酸エステル可塑剤との配合比(ジエステル可塑剤/トリメリット酸エステル可塑剤)としては、質量比で、1/99以上のジエステル可塑剤を配合することが好ましく、4/96以上のジエステル可塑剤を配合することがより好ましく、6/94以上のジエステル可塑剤を配合することが更に好ましく、99/1以下のジエステル可塑剤を配合することが好ましく、40/60以下のジエステル可塑剤を配合することがより好ましく、30/70以下のジエステル可塑剤を配合することが更に好ましい。ジエステル可塑剤/トリメリット酸エステル可塑剤を1/99以上のジエステル可塑剤となるように配合すれば、塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形してなる塩化ビニル樹脂成形体の低温における柔軟性をより制御し得るからである。また、ジエステル可塑剤/トリメリット酸エステル可塑剤を99/1以下のジエステル可塑剤となるように配合すれば、当該塩化ビニル樹脂成形体の低温における強度を良好に保ちつつ低温における柔軟性をより制御し得るからである。
【0076】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、パウダースラッシュ成形することにより得られる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造されているため、低温下における柔軟性および強度の両方に優れる。従って、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車内装材、例えば、インスツルメントパネル、ドアトリム等の表皮といった自動車内装部品用の自動車内装材として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネルの表皮として好適に用いられる。
【0077】
<<塩化ビニル樹脂成形体の成形方法>>
ここで、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0078】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、脱型された塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、金型の形状をかたどったシート状の成形体として得られる。
【0079】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体とを積層して得ることができる。そして、本発明の積層体は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて製造されているため、低温下における柔軟性および強度の両方に優れる。従って、本発明の積層体は、自動車内装材、例えばインスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品用の自動車内装材として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネルとして好適に用いられる。
【0080】
ここで、積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、又は公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても、塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)の方が好適である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、製造された塩化ビニル樹脂成形体の、低温下における引張応力、低温下における引張破断伸び、および損失弾性率のピークトップ温度は、下記の方法で測定および評価した。
【0082】
<引張応力>
塩化ビニル樹脂成形体の強度は、一指標として、引張試験による引張応力を測定することにより評価した。具体的には、製造された塩化ビニル樹脂成形シートを、JIS K6251に記載の1号ダンベルで打ち抜き、JIS K7113に準拠して、引張速度200mm/分で、−35℃における最大引張応力(MPa)を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
<引張破断伸び>
塩化ビニル樹脂成形体の強度および柔軟性は、一指標として、引張試験による引張破断伸びを測定することにより評価した。具体的には、製造された塩化ビニル樹脂成形シートを、JIS K6251に記載の1号ダンベルで打ち抜き、JIS K7113に準拠して、引張速度200mm/分で、−35℃における引張破断伸び(%)を測定した。
当該引張破断伸びの値が高いほど、低温下における、塩化ビニル樹脂成形体の強度および柔軟性が優れることを示す。結果を表1に示す。
【0084】
<損失弾性率のピークトップ温度>
塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性は、一指標として、動的粘弾性試験による損失弾性率のピークトップ温度を測定することにより評価した。具体的には、得られた塩化ビニル樹脂成形シートを、幅10mm×長さ40mmの寸法で打ち抜くことにより測定試料とした。そして、JIS K7244−4に準拠して、周波数10Hz、昇温速度2℃/分、測定温度−90℃〜+100℃の範囲で、当該測定試料についての損失弾性率のピークトップ温度(℃)を測定した。
当該ピークトップ温度が低いほど、低温下における、塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性が優れることを示す。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例1)
<1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤の調製>
0.59質量部の1,6−ヘキサンジオール、2.97質量部のオレイン酸、全仕込み量に対して5質量%のキシレンおよび全仕込み量に対して0.2質量%のパラトルエンスルホン酸を、攪拌機、温度計、窒素ガス吹き込み管及び冷却管付き水分分留受器を備える四つ口フラスコに加え、温度200℃下にて、理論生成水量の水が水分分留受器に溜まるまでエステル化反応を行った。
反応終了後、過剰の酸およびキシレンを蒸留して除去し、エステル化粗生成物を得た。次いで、得られたエステル化粗生成物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、中性になるまで水洗した。
その後、水洗されたエステル化粗生成物を活性炭で処理し、濾過により活性炭を除去することにより、ジエステル可塑剤として、2.59質量部の1,6−ヘキサンジオールジエステル化合物からなる1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤を得た。
なお、得られた1,6−ヘキサンジオールジエステル化合物において、R
1およびR
3の炭素数は17、R
2の炭素数は6であった。また、得られた1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤の酸価は0.4mgKOH/g、けん化価は177mgKOH/gであった。
【0086】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル可塑剤、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤、およびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である乳化重合塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点でダスティング剤である乳化重合塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
なお、塩化ビニル樹脂組成物の調製に用いたトリメリット酸エステル可塑剤としてのトリメリット酸エステル化合物においては、R
4、R
5及びR
6の合計アルキル基に対し、炭素数8のアルキル基の合計含有割合が100モル%であった。
また、得られた塩化ビニル樹脂組成物に含まれるトリメリット酸エステル化合物が有するR
4、R
5及びR
6の直鎖率は、いずれも0モル%であった。更に、得られた塩化ビニル樹脂組成物に含まれる1,6−ヘキサンジオールジエステル化合物が有するR
2の直鎖率、並びに、R
1及びR
3の合計の直鎖率は、いずれも100モル%であった。
【0087】
<塩化ビニル樹脂成形体の製造>
上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、10秒〜20秒程度の任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体として、145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シートについて、上述の方法により、低温下における引張応力、低温下における引張破断伸び、および損失弾性率のピークトップ温度を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、トリメリット酸エステル可塑剤の配合量を90質量部、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤の配合量を10質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形シートを製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤を用いず、トリメリット酸エステル可塑剤の配合量を100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形シートを製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、トリメリット酸エステル可塑剤の種類を、式(2)におけるR
4、R
5及びR
6の直鎖率が100モル%である可塑剤に変更した以外は実施例1と同様にして、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形シートを製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、トリメリット酸エステル可塑剤の種類を、式(2)におけるR
4、R
5及びR
6の直鎖率が100モル%である可塑剤に変更した以外は実施例2と同様にして、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤、塩化ビニル樹脂組成物、および塩化ビニル樹脂成形シートを製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST 1300S」(懸濁重合法、平均重合度:1300、平均粒径:113μm)
2)三菱ガス化学社製、製品名「TOTM」(R
4、R
5及びR
6の直鎖率:いずれも0モル%)
3)花王社製、製品名「トリメックスN−08」(R
4、R
5及びR
6の直鎖率:いずれも100モル%)
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O−130S」
5)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー5」
6)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
7)昭和電工社製、製品名「カレンズDK−1」
8)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ−2000」
9)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS−12」
10)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法、平均重合度:800、平均粒径:2μm)
11)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0094】
表1より、式(2)におけるR
4、R
5及びR
6の直鎖率がいずれも90モル%未満であるトリメリット酸エステル可塑剤と1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤とを併用した実施例1〜2の塩化ビニル樹脂成形体では、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤を用いなかった比較例1、および、当該直鎖率がいずれも90モル%以上であるトリメリット酸エステル可塑剤を用いた比較例2〜3と比較し、1,6−ヘキサンジオールジエステル可塑剤の配合量を増大させるにつれ、低温での引張り破断伸びおよび損失弾性率のピークトップ温度が顕著に向上していくことが分かる。
これより、塩化ビニル樹脂成形体の低温下における強度および柔軟性は、直鎖率の低い所定のトリメリット酸エステル可塑剤と所定のジエステル可塑剤との併用により、制御可能であることが判明した。