(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、分離の完全性やコンパクト性などに優れる、濾過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。
特に、精密濾過膜や限外濾過膜などの多孔質膜を使用した濾過技術の、浄水処理や排水処理等の水処理分野への普及が進んでいる。
多孔質膜の材質としては、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。また、多孔質膜の形態としては、平膜、中空糸膜、チューブラー膜などが挙げられる。
特に中空糸膜は、高分子溶液をミクロ相分離させた後、この高分子溶液を非溶媒中で凝固させて製造するものであり、高空孔率で且つ非対称な構造を持ち、省スペースながら大容量の水の濾過が可能である。
しかし、このような高分子の相分離構造体のみからなる濾過膜は機械的強度が不十分となる傾向にあり、長期間の使用により膜が破損してしまう恐れがある。
【0003】
破損への対策としては、例えば、マルチフィラメントを中空の紐状体あるいはシート状に加工して形成した支持層(「支持体」ともいう。)に隣接して多孔質膜層を形成する方法が挙げられる(例えば、特許文献1、2参照)。このような構成の水処理膜は、物理的強度が増強され破損の恐れが大幅に緩和される。特に中空状編紐による支持層は低コストであり、高分子の多孔質体の耐剥離性に優れている。
【0004】
上記の様な紐状物を支持層とした中空糸膜の一般的製法は以下の工程からなる。
(1) 中空状の紐状物の製造。
(2) 中空状の紐状物(例えば、編紐)上への製膜原液の塗布。
(3) 製膜原液の凝固、洗浄および乾燥。
【0005】
ところで、このような紐状物の製造に用いられるマルチフィラメントの製造の際には、紡糸工程時や巻取り時工程等の糸切れや強度低下を防止し、工程を安定化するため、紡糸、および、延伸・加工前に紡糸油剤、アフターオイルを付着させることが通常行われている(例えば、特許文献3、4)。
紡糸油剤やアフターオイル中には鉱物油や界面活性剤が含まれる。紡糸油剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤により水性エマルジョン化されたものが用いられる。紡糸油剤は、紡糸後および中空糸膜の一般的製法後も残存している。
【0006】
マルチフィラメントのような繊維状物に残存する紡糸油剤を除去する方法としては、例えば特許文献5に記載のように、界面活性剤を含む精練剤等を含有する洗浄液が満たされている処理槽に、アルカリ条件下で繊維状物を浸漬させて精練する方法が一般的に知られている。
【0007】
特許文献6には、マルチフィラメントを含む中空糸膜において、紡糸油剤に対するアフターオイルの付着量を規定することで、後段の検査工程において界面活性剤を含む検査液の白濁を低減する方法が開示されている。
しかし、特許文献6に記載の方法は、中空糸膜を界面活性剤に浸漬するのみであり、紡糸油剤を十分に除去できるものではない。また、中空糸膜の欠陥点の要因となる毛羽の発生を無くすためには、例えば、紡糸油剤に対し重量比で0.4以上添加する必要があり、アフターオイルを添加しない場合においても、紡糸油剤が残存している。
【0008】
紡糸油剤、特に非イオン性界面活性剤は泡立ちの要因となるため、飲料水への混入は望ましくなく、日本においては水道水として水道法第4条の規定に基づき、「水質基準に関する省令」で規定する水質として0.02mg/L以下、膜分離技術振興協会 水道用膜モジュール性能調査として、水への進出試験における水への溶出が0.005mg/Lといった基準がある。
【0009】
中空糸膜中の残存非イオン性界面活性剤は、当該中空糸膜を用いて濾過を行った際、処理水中に溶出する。したがって、飲料水を濾過生成する際に使用される濾過膜は、紡糸油剤を含有することは好ましくない。
したがって、中空の紐状物を支持層とした中空糸膜等を飲料水用の濾過膜として用いる場合、一般的に、中空糸膜および膜モジュールの使用前に洗浄して紡糸油剤等を除去しておくことが望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0019】
「水処理膜」
図1は、水処理膜の一例を示す概略図である。この例の水処理膜1の形態は中空糸膜であり、マルチフィラメントの加工物である中空状の支持層10と、この支持層10に隣接して設けられた多孔質膜層11とを有する。
水処理膜の形態としては、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが挙げられる。これらの中でも、省スペースながら大容量の水の濾過が可能であることから中空糸膜が好ましい。
【0020】
<支持層>
支持層は、マルチフィラメントを加工して形成された加工物である。
水処理膜が中空糸膜の場合、支持層は中空状である。中空状の支持層は、例えば、組紐や編紐などの中空状の紐状物が挙げられるが、機械的強度等の観点から、編紐を支持層とした編紐支持層が好ましい。
図2は、中空状の支持層の一例を示す概略図である。この例の支持層10は、糸を丸編みして得られる中空状編紐12からなる中空状の構造体である。
【0021】
マルチフィラメントを構成する繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維などが挙げられる。
合成繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリエステル系繊維;ポリアクリロニトリル等のアクリル系繊維;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維;ポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニリデン系繊維;ポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン系繊維;フェノール樹脂系繊維;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系繊維;ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維などが挙げられる。
【0022】
半合成繊維としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、キチン、キトサン等を原料としたセルロース誘導体系繊維;プロミックスと呼称される蛋白質系繊維などが挙げられる。
再生繊維としては、ビスコース法、銅−アンモニア法、有機溶剤法等により得られるセルロース系再生繊維(例えばレイヨン、キュプラ、ポリノジック等)などが挙げられる。
天然繊維としては、亜麻、黄麻などが挙げられる。
【0023】
これらの繊維のうち、特に、耐薬品性に優れる点から、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維が好ましく、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維がより好ましい。これらの中でも特に、加工性および強度にも優れる観点から、ポリエステル繊維が好ましい。
【0024】
マルチフィラメントは1種類の繊維からなるものであってもよいし、種類の異なる繊維を2種類以上混合したものであってもよい。
ここで、「種類の異なる」とは、繊度、単繊維径、機械特性および材料のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0025】
マルチフィラメントを加工して支持層を形成する方法としては特に制限されず、公知の方法により支持層は形成される。中空状の支持層を形成する場合、例えば
図3または
図4に示す装置を用いることで、容易に中空状の支持層を製造できる。
図3は、中空糸膜用編紐支持層の製造装置(以下、「支持層製造装置」ともいう)の一例を示す概略構成図である。この例の支持層製造装置20は、複数のボビン22と、各ボビン22から引き出された糸16を1本にまとめたものを丸編する丸編機24と、丸編機24によって編成された中空状編紐12を一定の張力で引っ張る紐供給装置26と、中空状編紐12を熱処理する加熱ダイス28と、熱処理された中空状編紐12を引き取る引取り装置30と、中空状編紐12を支持層10としてボビンに巻き取る巻き取り装置32とを具備する。また、
図4に示すように、中空状編紐12を一定の張力で引っ張る紐供給装置の代わりにダンサーロール27を用いて一定の荷重(張力)を付与してもよい。
【0026】
上述により製造された支持層には、マルチフィラメントに紡糸油剤やアフターオイルが付着している。
紡糸油剤とは繊維の製造工程において、繊維に平滑性、帯電防止性等を付与し、紡糸、延伸工程および後加工工程を円滑に進める目的で用いられる油剤である。紡糸油剤は、一般的には鉱物油や界面活性剤等が混合されたものである。例えば、マルチフィラメントがポリエステル糸の場合、ポリエチレンオキサイド/ポリプロピレンオキサイドエステル系潤滑剤を主剤とし、これにイオン性界面活性剤等を混合した油剤が一般的に用いられる。本発明においては一般的に用いられる任意の紡糸油剤を用いたマルチフィラメントを使用することができる。
【0027】
アフターオイルとは延伸・加工糸の巻き取り前に糸切れ、毛羽の発生を抑制するために付与される油剤である。アフターオイルは、一般的には鉱物油や界面活性剤等が混合されたものである。例えば、マルチフィラメントがポリエステル糸の場合、エステル系潤滑剤、鉱物油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、水等を混合したものが用いられる。本発明においては一般的に用いられる任意の製紐油剤を使用することができる。
【0028】
<多孔質膜層>
多孔質膜層は、支持層に隣接して設けられたものである。水処理膜の形態が中空糸膜の場合、多孔質膜層は中空状の支持層の外周面に隣接して設けられる。
多孔質膜層は、単層であってもよく、2層以上の複合多孔質膜層であってもよい。
【0029】
多孔質膜層の原料としては、分離膜の形状に成形可能なものであれば特に制限されないが、耐薬品性、耐候性、耐酸化劣化性に優れる観点から、疎水性を有する材料が好ましい。以下、疎水性を有する材料から形成される多孔質膜層を「疎水性多孔質膜層」ともいう。
疎水性を有する材料としては、例えば、セルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、ポリスルホン系、ポリアクリロニトリル系、フッ素系樹脂などが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリスルホン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。特に疎水性多孔質膜の表面特性の観点から、疎水性の強い樹脂を用いることが好ましく、フッ素系樹脂が好適である。フッ素系樹脂の中でも、膜への賦形性と耐薬品性などからフッ化ビニリデン樹脂が好適である。また、耐薬品性と耐熱性などの点では、ポリフッ化ビニリデンとポリビニルピロリドンとの組み合わせが好適である。
ここでフッ化ビニリデン樹脂としては、フッ化ビニリデンのホモポリマーの他、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどが挙げられる。
【0030】
多孔質膜層は、多孔質膜層の原料を溶媒に溶解させて製膜原液とし、これを支持層の表面に塗布し、支持層に塗布された製膜原液を凝固することで形成される。水処理膜の形態が中空糸膜の場合、多孔質膜層は中空状の支持層の外周面に製膜原液を塗布し、支持層に塗布された製膜原液を凝固することで形成される。
【0031】
<物性>
本発明の第一の態様の水処理膜において、水処理膜の膜表面積1m
2あたり83Lの水を20℃で通水した後の水処理膜を、水処理膜の膜表面積1m
2あたり22Lの水に20℃で16時間浸漬した後の浸漬水への全有機炭素(以下、「TOC」という。)の溶出量は、2.0mg/L以下(すなわち、浸漬水1Lあたり2.0mg以下)である。TOCの溶出量は少ない程好ましく、1.5mg/L以下が好ましく、1.2mg/L以下がより好ましく、0mg/Lが特に好ましい。
本発明の第二の態様の水処理膜において、水処理膜の膜表面積1m
2あたり83Lの水を20℃で通水した後の水処理膜を、水処理膜の膜表面積1m
2あたり22Lの水に20℃で16時間浸漬した後の浸漬水への非イオン性界面活性剤の溶出量は、0.5mg/L以下(すなわち、浸漬水1Lあたり0.5mg以下)である。非イオン性界面活性剤の溶出量は少ない程好ましく、0.4mg/L以下が好ましく、0.3mg/L以下がより好ましく、0mg/Lが特に好ましい。
浸漬水へのTOCの溶出量が2.0mg/L以下である水処理膜、あるいは浸漬水への非イオン性界面活性剤の溶出量が0.5mg/L以下である水処理膜は、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤が十分に除去されている。よって、本発明の水処理膜は、飲料水用の濾過膜として好適である。
【0032】
「水処理膜エレメント」
水処理膜は、例えば、水処理膜の一方の端部または両方の端部(両端)をハウジングにより固定され、水処理膜エレメントとして水処理に用いられる。すなわち、水処理膜エレメントは上述した水処理膜を備えるので、水処理膜の膜表面積1m
2あたり83Lの水を20℃で通水した後の水処理膜エレメントを、水処理膜の膜表面積1m
2あたり22Lの水に20℃で16時間浸漬した後の浸漬水へのTOCの溶出量は2.0mg/L以下である。TOCの溶出量は少ない程好ましく、1.5mg/L以下が好ましく、1.2mg/L以下がより好ましく、0mg/Lが特に好ましい。
また、水処理膜の膜表面積1m
2あたり83Lの水を20℃で通水した後の水処理膜エレメントを、水処理膜の膜表面積1m
2あたり22Lの水に20℃で16時間浸漬した後の浸漬水への非イオン性界面活性剤の溶出量は0.5mg/L以下である。非イオン性界面活性剤の溶出量は少ない程好ましく、0.4mg/L以下が好ましく、0.3mg/L以下がより好ましく、0mg/Lが特に好ましい。
【0033】
浸漬水へのTOCの溶出量、非イオン性界面活性剤の溶出量を上記範囲内とするには、水処理膜を処理するか、水処理膜になる前の支持層(水処理膜用の支持層)を処理すればよい。
以下、水処理膜エレメントの製造方法の一例について説明する。
【0034】
「水処理膜エレメントの製造方法」
<第三の実施形態>
本発明の第三の実施形態の水処理膜エレメントの製造方法は、後述する洗浄工程を有する。また、詳しくは後述するが、洗浄液として界面活性剤溶液を用いる場合、乾燥工程をさらに有することが好ましい。
なお、洗浄工程前の水処理膜を「被水処理膜」ともいう。
【0035】
(洗浄工程)
本実施形態の洗浄工程は、洗浄液中に水処理膜の少なくとも多孔質膜層側が接液するように水処理膜を浸漬した後、洗浄液を多孔質膜層側から支持層へ透過させ、支持層へ透過した洗浄液を水処理膜の外部へ排出する工程である。
【0036】
洗浄液としては非イオン性界面活性剤を溶解可能であれば特に制限されないが、例えば、界面活性剤を含む界面活性剤溶液;n−ヘキサン、n−オクタン、キシレン、トルエン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤などが挙げられる。
【0037】
ところで、上述したように、多孔質膜層には耐薬品性、耐候性、耐酸化劣化性の面から、疎水性の材料を使用することが好ましい。疎水性多孔質膜層はそのままでは水を透過しにくい、あるいは水を透過できても大きな圧力を要する。そのため、多孔質膜層に疎水性の材料を使用する場合、疎水性多孔質膜層を親水化処理することが好ましい。疎水性多孔質膜層を親水化処理することで、小さな圧力でも水を十分に透過させることができる。
洗浄液として界面活性剤を含む界面活性剤溶液を用いれば、水処理膜を洗浄しつつ、疎水性多孔質膜層を親水化処理することもできる。以下、洗浄液として界面活性剤を含む界面活性剤溶液を用いる場合の洗浄工程を「洗浄・親水化工程」ともいう。
【0038】
界面活性剤溶液に含まれる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が挙げられる。発泡や起泡が少ないという観点から、非イオン性界面活性剤が特に好ましい。
界面活性剤溶液に含まれる非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンのブロック共重合体、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系界面活性剤、フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0039】
界面活性剤溶液に含まれる非イオン性界面活性剤としては、上述した中でも、特に優れた低起泡性、乳化性を有する点で、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体が好ましい。特に、ブロック共重合体の総質量に対して、ポリオキシエチレンの割合が45質量%以下であると、効果をさらに発揮できる。また、ポリオキシエチレンの割合が45質量%以下である、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体は、比較的安定な物質であり、長期にわたる膜保管時においても生物による腐敗を受けにくいという特徴も有する。前記効果の観点から、非イオン性界面活性剤としては、ブロック共重合体の総質量に対して、ポリオキシエチレンの割合が45質量%以下のポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。ブロック共重合体の総質量に対するポリオキシエチレンの割合は、10質量%以上が好ましい。
【0040】
界面活性剤溶液に含まれる非イオン性界面活性剤のHLB(親水性疎水性バランス)は、1以上、7以下であることが好ましい。非イオン性界面活性剤のHLBが上記範囲内であれば、紡糸油剤への親和性が向上し、マルチフィラメントに残存する油剤をより除去しやすくなる。非イオン性界面活性剤のHLBが7より大きいと、発泡性が高くなるため、水処理膜への使用に際して、濾過開始初期に濾過水が泡立ちやすくなる傾向にある。非イオン性界面活性剤のHLBは、3以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましい。また、非イオン性界面活性剤のHLBは、6以下がより好ましく、5.5以下がさらに好ましい。
【0041】
ここで、非イオン性界面活性剤のHLBは、グリフィン法により算出されるものであり、下記式(1)で表される。
非イオン性界面活性剤のHLB=(非イオン性界面活性剤の親水基部分の分子量/非イオン性界面活性剤の分子量)×100/5 ・・・(1)
【0042】
界面活性剤溶液の溶媒としては、水、電解質を含む水溶液(例えば、生理食塩水等)、炭素数1〜4、好ましくは、炭素数1〜2の低級アルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)、ピリジン、クロロホルム、シクロヘキサン、エチルアセテート、トルエン、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。これらの中でも、多孔質膜層への影響や、溶媒の後処理、取扱性、コストなどの面から水を用いることが好ましい。
特に、通常の水道水やイオン交換水を孔径0.01μm以上、1μm以下程度の濾過膜で濾過したものが好ましい。
【0043】
界面活性剤溶液中の界面活性剤の濃度は、0.075質量%以上、0.3質量%未満であることが好ましい。界面活性剤の濃度が0.075質量%以上であれば、疎水性多孔質膜層を十分に親水化できるとともに、紡糸油剤の除去性も向上する。一方、界面活性剤の濃度が0.3質量%未満であれば、界面活性剤の使用量を抑えることができ、コストを削減できる。また、水処理膜内に界面活性剤が多く残存することを抑制できるので、水処理膜内に残存する界面活性剤を洗浄する際の洗浄液の使用量を減らすことができる。
【0044】
洗浄工程では、まず、界面活性剤溶液等の洗浄液中に水処理膜(被水処理膜)の少なくとも多孔質膜層側が接液するように水処理膜を浸漬させる。ついで、例えば
図5に示すように、洗浄液を水処理膜1の多孔質膜層11側から支持層10へ透過させ、支持層10へ透過した洗浄液を水処理膜1の外部へ排出する(洗浄液を水処理膜1へ通水させる)。なお、
図5中の符号「F」は、界面活性剤溶液等の洗浄液の流れを示している。
【0045】
洗浄液を多孔質膜層から支持層へ透過させ、支持層へ透過した洗浄液を水処理膜の外部へ排出する方法としては、多孔質膜層側を加圧する方法、支持層側を減圧する方法などが挙げられる。加圧または減圧する手段としては、ポンプ等の機器を用いる方法や、水頭差を利用する方法などが挙げられる。
【0046】
洗浄液の透過量は水処理膜の有効膜面積1m
2あたり1L以上、4L以下であることが好ましい。洗浄液の透過量が1L以上でれば、紡糸油剤の除去性がより向上する。一方、洗浄液の透過量が4L以下であれば、廃液処理や洗浄の手間を減らすことができ、コストを削減できる。また、洗浄液として界面活性剤溶液を用いる場合は、界面活性剤の使用量も減らすことができる。
【0047】
洗浄液が多孔質膜層から支持層へ透過し、さらに支持層へ透過した洗浄液が水処理膜の外部へ排出することで、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を効率的に除去できる。また、多孔質膜層が疎水性多孔質膜層であり、洗浄液として界面活性剤溶液を用いる場合は、界面活性剤溶液が疎水性多孔質膜層を通過することで、疎水性多孔質膜層が親水化される。
【0048】
多孔質膜層から支持層へ透過し、支持層から除去された紡糸油剤を含んだ洗浄液は水処理膜の外部へ排出される。排出された洗浄液は、回収されて廃液処理されるか、河川・下水等に放流される。紡糸油剤の再汚染を防止するため、回収された洗浄液を処理することなく再び水処理膜と接触させないことが望ましい。
【0049】
(乾燥工程)
乾燥工程は、洗浄・親水化工程の後に、少なくとも疎水性多孔質膜層内に界面活性剤溶液が残存する状態で水処理膜を乾燥する工程である。
乾燥工程を行うことで、疎水性多孔質膜層の細孔内表面が界面活性剤により被覆され、より効果的に疎水性多孔質膜層が親水化される。よって、乾燥工程後に再び水中に水処理膜を浸漬することにより、疎水性多孔質膜層の透過性がより発現しやすくなる。また、乾燥工程を行うことで、水処理膜の軽量化の効果も得られ、梱包や運送も容易となる。
【0050】
乾燥温度は、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。特に、乾燥温度が40℃以上であれば、短時間で十分に乾燥できる。乾燥温度が高くなるほど乾燥時間を短縮できるが、高すぎると支持層の熱収縮や疎水性多孔質膜層の熱変形が発生するおそれがある。よって、乾燥温度は60℃以下が好ましい。
乾燥時間は、5時間以上が好ましい。乾燥時間が5時間以上であれば、界面活性剤溶液中の溶媒が十分に気化し、疎水性多孔質膜層の細孔内表面が界面活性剤により十分に被覆される。乾燥時間が長くなるほど、溶媒がより気化して細孔内表面が界面活性剤により被覆されやすくなるが、全ての溶媒が気化した以降は効果が低い。よって、乾燥時間は15時間以下が好ましい。
乾燥方法としては、大気中で放置する方法、乾燥機を用いる方法などが挙げられる。
【0051】
なお、本実施形態においては、例えば上述した方法により支持層および多孔質膜層を形成して被水処理膜を製造した後に、洗浄工程などを行ってもよいし、市販の水処理膜を被水処理膜として用いて洗浄工程などを行ってもよい。
また、洗浄工程などを行った後の水処理膜を水処理膜エレメントに加工してもよいが、洗浄工程では洗浄液を水処理膜へ通水させることから、予め被水処理膜を公知の方法により水処理膜エレメントに加工しておき、水処理膜エレメントの状態で洗浄工程などを行うことが好ましい。被水処理膜を水処理膜エレメントに加工する方法としては特に制限されない。例えば、被水処理膜を複数本束ね、1本当たりの有効長が所望の値となるように両端をハウジングにより接着固定し、片端を開口状態とすることで、被水処理膜を水処理膜エレメントに加工できる。また、被水処理膜を複数本束ね、1本当たりの有効長が所望の値となるように一方の端部をハウジングにより接着固定してもよい。
【0052】
(作用効果)
本発明の第三の実施形態の水処理膜エレメントの製造方法によれば、特定の洗浄液を水処理膜へ通水させて水処理膜を処理するので、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を効率的に除去できる。
多孔質膜層が疎水性多孔質膜層である場合、洗浄液として界面活性剤溶液を用いれば、紡糸油剤を除去しつつ、疎水性多孔質膜層を親水化できる。特に、洗浄・親水化工程の後に乾燥工程を行えば、疎水性多孔質膜層をより効果的に親水化できる。また、洗浄液として界面活性剤溶液を用いれば、グリセリンを使用することなく疎水性多孔質膜層を親水化できる。よって、疎水性多孔質膜層の親水化後、水処理膜を洗浄する際に多量の洗浄液を必要とせず、洗浄廃液の量を軽減できる。
【0053】
なお、洗浄液として界面活性剤溶液を用いる場合、本実施形態により得られる水処理膜エレメントの少なくとも水処理膜には、界面活性剤溶液が付着している。よって、洗浄・親水化工程後(乾燥工程を行う場合は乾燥工程後)に、水処理膜を洗浄液で洗浄することが好ましい。
洗浄方法としては、洗浄液を水処理膜へ通水させる方法が挙げられ、具体的にはポンプ等を用いたり水頭差を利用したりして、疎水性多孔質膜層側を加圧する方法、支持層側を減圧する方法などが挙げられる。
洗浄液としては、水、エタノールなどが挙げられる。水処理施設内での洗浄も想定されることから、洗浄液を除去する必要性を考慮すると、これらの中でも水が好ましい。
【0054】
<第四の実施形態>
本発明の第四の実施形態の水処理膜エレメントの製造方法は、後述する洗浄工程と製膜工程とを有する。
【0055】
(洗浄工程)
本実施形態の洗浄工程は、2種以上の異なる溶剤で支持層を洗浄する工程である。
支持層としては、例えば上述した方法により形成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0056】
支持層の洗浄の方法は溶媒による浸漬洗浄、界面活性剤溶液で浸漬洗浄した後に水で洗浄、加熱除去などの任意の方法を取ることができるが、洗浄の容易さから溶媒による浸漬洗浄が好ましい。より好ましくは極性の異なる2種以上の溶媒で各々浸漬洗浄することが望ましい。
【0057】
浸漬洗浄時の温度は用いる溶媒の沸点以下であることが好ましい。また、温度調整の容易さから室温以上であることが好ましい。
【0058】
洗浄に用いる溶剤は、マルチフィラメントを溶解しない任意の溶媒を用いることができるが、例えば、n−ヘキサン(SP値7.3)、トルエン(SP値8.8)、酢酸エチル(SP値9.0)、アセトン(SP値10.0)、イソプロパノール(SP値11.5)、エタノール(SP値12.7)、メタノール(SP値14.5)等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤の洗浄性(溶解性)の観点から、溶解度パラメータ(以下、SP値)が7以上、20以下の溶剤を用いることが好ましい。
また、非イオン性界面活性剤の洗浄性(溶解性)の観点から、低SP値溶剤(低極性溶剤)と高SP値溶剤(高極性溶剤)とで、それぞれ支持層を洗浄することが好ましく、7.0≦SP値≦10.0の低極性溶剤、および、10.0<SP値≦20.0の高極性溶剤で、それぞれ支持層を洗浄することがより好ましい。低極性溶剤と高極性溶剤の組み合わせとしては、例えば、n−ヘキサン(SP値7.3)とエタノール(SP値12.7)の組み合わせ、アセトン(SP値9.9)とエタノール(SP値12.7)の組み合わせなどが挙げられる。
なお、本発明におけるSP値は、Polymer Handbook (JOHN WILEY&Sons、第二版(1996年)、IV−347〜352)記載の値である。
【0059】
洗浄に用いる溶媒量は支持層が全量浸漬される量以上であることが好ましく、より好ましくは支持層に対する容積比として10以上である。洗浄温度は非イオン性界面活性剤の溶解度の観点から0℃以上、各溶媒の沸点以下が好ましく、より好ましくは20℃以上、各溶媒の沸点以下である。
【0060】
洗浄工程では、支持層20gあたり200mLのトルエンに40℃で3時間浸漬した後のトルエンへのTOCの溶出量が、支持層1kgあたり20mg以下となるように、2種以上の異なる溶剤で支持層を洗浄することが好ましい。また、支持層20gあたり200mLのトルエンに40℃で3時間浸漬した後のトルエンへの非イオン性界面活性剤の溶出量が0.01mg/L以下(すなわち、トルエン1Lあたり0.01mg以下)となるように、2種以上の異なる溶剤で支持層を洗浄することが好ましい。
低極性溶剤と高極性溶剤とで、それぞれ支持層を洗浄することで、トルエンへのTOCの溶出量や非イオン性界面活性剤の溶出量が上記範囲内となりやすい。
【0061】
洗浄工程により洗浄された支持層は、支持層20gあたり200mLのトルエンに40℃で3時間浸漬した後のトルエンへの非イオン性界面活性剤の溶出量が0.01mg/L以下となりやすい。また、洗浄工程により洗浄された支持層は、支持層20gあたり200mLのトルエンに40℃で3時間浸漬した後のトルエンへのTOCの溶出量が、支持層1kgあたり20mg以下となりやすい。
なお、トルエンへのTOCや非イオン性界面活性剤の溶出量は、支持層に含まれるTOCや非イオン性界面活性剤の含有量(支持層中の含有量)に相当する。
【0062】
(製膜工程)
製膜工程は、洗浄後の支持層に隣接するように多孔質膜層を形成する工程である。支持層に隣接するように多孔質膜層を形成することで、水処理膜が得られる。
多孔質膜層は、多孔質膜層の原料を溶媒に溶解させて製膜原液とし、これを洗浄後の支持層の表面に塗布し、支持層に塗布された製膜原液を凝固することで形成される。水処理膜の形態が中空糸膜の場合、多孔質膜層は中空状の支持層の外周面に製膜原液を塗布し、支持層に塗布された製膜原液を凝固することで形成される。
【0063】
多孔質膜層が2層の複合多孔質膜層の場合、例えば下記(i)〜(vii)工程を有する製造方法によって水処理膜は製造される。
(i) 支持層の外周面に第1の製膜原液を塗布する工程;
(ii) 支持層に塗布された第1の製膜原液を凝固させて、第1の多孔質膜層を形成し、中空糸膜前駆体を得る工程;
(iii) 中空糸膜前駆体の外周面に第2の製膜原液を塗布する工程;
(iv) 中空糸膜前駆体に塗布された第2の製膜原液を凝固させて、第2の多孔質膜層を形成し、中空糸膜を得る工程;
(v) 中空糸膜を洗浄する工程;
(vi) 中空糸膜を乾燥する工程;
(vii) 中空糸膜を巻き取る工程;
【0064】
製膜工程により得られた水処理膜を公知の方法により加工して、水処理膜エレメントを得る。水処理膜を水処理膜エレメントに加工する方法としては特に制限されない。例えば、被水処理膜を複数本束ね、1本当たりの有効長が所望の値となるように両端をハウジングにより接着固定し、片端を開口状態とすることで、水処理膜を水処理膜エレメントに加工できる。また、被水処理膜を複数本束ね、1本当たりの有効長が所望の値となるように一方の端部をハウジングにより接着固定してもよい。
【0065】
(作用効果)
本発明の第四の実施形態の水処理膜エレメントの製造方法によれば、予め支持層を2種以上の異なる溶剤を用いて洗浄しておくので、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を効率的に除去できる。よって、非イオン性界面活性剤やTOCの溶出のきわめて低い水処理膜および水処理膜エレメントを容易に得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
「測定方法」
<測定1:TOCの溶出量の測定>
燃焼式全有機炭素分析装置(三菱化学アナリテック社製、「TOC−300V」)を用いて、浸漬水へのTOCの溶出量を測定した。
【0068】
<測定2:TOCの溶出量の測定>
支持層または中空糸膜を浸漬した後のトルエン相を115℃で乾固してトルエンを除去した。残渣を超純水に再溶解させた後、燃焼式全有機炭素分析装置(三菱化学アナリテック社製、「TOC−300V」)を用いて、TOC量を測定した。
【0069】
<測定3:非イオン性界面活性剤の溶出量の測定>
固相抽出−HPLC法により、以下のようにして浸漬水への非イオン性界面活性剤の溶出量を測定した。
すなわち、浸漬水に溶出した非イオン性界面活性剤を固相カラムにより抽出後、トルエンで溶出し、さらにチオシアノコバルト(II)酸アンモニウム水溶液を加え、コバルトと錯形成させ、トルエン相に取り込まれたコバルトを、PAR(4−(2−ピリジルアゾ)−レゾルシノール)と反応させ、水相中のCo−PARをHPLC法で定量することにより、中空糸膜または水処理膜エレメントから浸漬水に溶出した非イオン性界面活性剤を、ヘプタオキシエチレンドデシルエーテルを標準として定量した。
【0070】
<測定4:非イオン性界面活性剤の溶出量の測定>
吸光度法により、以下のようにしてトルエンへの非イオン性界面活性剤の溶出量を測定した。
すなわち、支持層または中空糸膜を浸漬した後のトルエン相を濃縮した後、トルエンに溶出した非イオン性界面活性剤にチオシアノコバルト(II)酸アンモニウム水溶液を加え、コバルトと錯形成させ、トルエン相に取り込まれたコバルトを、PAR(4−(2−ピリジルアゾ)−レゾルシノール)と反応させ、水相中のCo−PARを分光光度法で定量することにより、支持層または中空糸膜からトルエンに溶出した非イオン性界面活性剤を定量した。定量した値を支持層中または中空糸膜中の非イオン性界面活性剤の含有量とみなす。なお、標準試薬として、ヘプタオキシエチレンドデシルエーテルを用いて定量した。
【0071】
「実施例1」
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体(Pluronic RPE2520(BASF社製)、HLB:4、当該ブロック共重合体の総質量に対するポリオキシエチレンの割合:20質量%)を濃度が0.1質量%になるように純水で希釈し、界面活性剤溶液(洗浄液)を調製した。
【0072】
図6に示すように、水処理膜1として、ポリエステル繊維からなるマルチフィラメントを中空状に加工した支持層の外周面に、ポリフッ化ビニリデンからなる疎水性多孔質膜層を形成した外径2.8mmの中空糸膜(三菱レイヨン社製)を用い、この中空糸膜を15本束ね、1本当たりの有効長が350mmとなるよう両端をハウジング41により接着固定し、片端を開口状態とし、水処理膜エレメント40を作製した。
なお、前記中空糸膜を膜表面積1m
2あたり22Lの純水中に20℃で浸漬し、16時間静置した後の純水(浸漬水)中に溶出したTOCを測定1の方法で測定したところ、4.8mg/Lであった。同様に、浸漬水中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定3の方法で測定したところ、0.95mg/Lであった。
【0073】
図6に示すように、界面活性剤溶液51で満たされた水槽50に水処理膜エレメント40を設置し、界面活性剤溶液51に30分間浸漬させた。その後、ポンプ52を水処理膜エレメント40の一方のハウジング41に接続し、界面活性剤溶液51が疎水性多孔質膜層から支持層へ透過し、支持層へ透過した界面活性剤溶液51が水処理膜1の外部へ排出するように、流束3m/日で4分間吸引濾過し、界面活性剤溶液51を水処理膜1へ通水させた(洗浄・親水化工程)。この際、濾過液(水処理膜1の外部へ排出された界面活性剤溶液)が、水槽50中の界面活性剤溶液51と混合しないように、水槽50とは別の容器(図示略)に濾過液を排水した。また、濾過中に水処理膜1が大気中に露出しないように、十分な量の界面活性剤溶液51中で濾過を実施した。
濾過後、水処理膜エレメント40を水槽50から取り出し、大気中で16時間以上静置して乾燥させた(乾燥工程)。
【0074】
乾燥後、20℃に保持された純水で満たされた水槽に水処理膜エレメントを設置し、ポンプを水処理膜エレメントの一方のハウジングに接続した。水処理膜の膜表面積1m
2あたり83Lの純水が通水するように、直ちに流束1m/日で2時間吸引濾過して、水処理膜エレメント内の界面活性剤を十分に除去した。この際、濾過液(水処理膜の外部へ排出された純水)が、水槽中の純水と混合しないように、水槽とは別の容器濾過液を排水した。また、新たな純水を水槽に順次供給し、水処理膜が大気中に露出しないようにした。
界面活性剤を除去した後、水処理膜エレメントを中空糸膜(水処理膜)の膜表面積1m
2あたり22Lの純水中に20℃で浸漬し、16時間静置した。その後、水処理膜エレメントを純水から取り出し、純水(浸漬水)中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0075】
「実施例2」
界面活性剤として、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体(Pluronic RPE1740(BASF社製)、HLB:8、当該ブロック共重合体の総質量に対するポリオキシエチレンの割合:40質量%)を濃度が0.1質量%になるように純水で希釈して調製した界面活性剤溶液(洗浄液)を用いた以外は、実施例1と同様にして水処理膜を処理し、浸漬水中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0076】
「実施例3」
界面活性剤として、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのブロック共重合体(Pluronic RPE3110(BASF社製)、HLB:2、当該ブロック共重合体の総質量に対するポリオキシエチレンの割合:10質量%)を濃度が0.1質量%になるように純水で希釈して調製した界面活性剤溶液(洗浄液)を用いた以外は、実施例1と同様にして水処理膜を処理し、浸漬水中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0077】
「実施例4」
図3に示す支持層製造装置20を用いて、中空状編紐12からなる支持層10を製造した。支持層を構成する繊維としては、油剤の含有量が0.4質量%のポリエステル繊維(繊度:84dtex、フィラメント数:36)を用いた。ボビン22としては、前記ポリエステル繊維の5kgを巻いたものを5つ用意した。丸編機24としては、卓上型紐編機(圓井繊維機械社製、メリヤス針数:12本、針サイズ:16ゲージ、スピンドルの円周直径:8mm)を用いた。紐供給装置26および引取り装置30としては、ネルソンロールを用いた。加熱ダイス28としては、加熱手段を有するステンレス製のダイス(内径D:5mm、内径d:2.2mm、長さ:300mm)を用いた。
【0078】
製紐油剤として、鉱物油、ソルビタンモノオレート、リン酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる油剤を用い、含有量が糸に対し1.0質量%となるように油剤を付着させ、ボビン22から引き出されたポリエステル繊維を1つにまとめて糸16(合計繊度は420dtex)とした後、丸編機24によって丸編して中空状編紐12を編成し、この中空状編紐12を195℃の加熱ダイス28に通し、熱処理された中空状編紐12を支持層10として巻き取り速度100m/hrで巻き取り装置32に巻き取った。ボビン22のポリエステル繊維がなくなるまで支持層10の製造を行った。
【0079】
得られた支持層について、溶剤との質量比(溶剤/支持層)が20となるようにエタノール(SP値12.7)を用いて浸漬洗浄し、続いてn−ヘキサン(SP値7.3)を用いて浸漬洗浄した後、80℃で3時間加温して乾燥した。
乾燥後の支持層20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.008mg/Lであった。すなわち、支持層中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり0.08mgであった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、支持層1kgあたり10mgであった。これを、支持層中のTOCの含有量とする。
また、支持層と水との質量比(水/支持層)が50となるように超純水中に20℃で浸漬し、8時間静置した。その後、支持層を超純水から取り出し、超純水(浸漬水)中に溶出した非イオン性界面活性剤の溶出量を測定3の方法で測定したところ、0.002mg/Lであった。
【0080】
次いで、乾燥後の支持層の外周面に、ポリフッ化ビニリデンおよびポリビニルピロリドンからなる疎水性多孔質膜層を以下のようにして形成し、中空糸膜を得た。
まず、ポリフッ化ビニリデン(アルケマジャパン社製:「カイナー761A」)およびポリビニルピロリドン(日本触媒社製「K80−M」)をN、N’−ジメチルアセトアミドに、 質量比(ポリフッ化ビニリデン/ポリビニルピロリドン/N、N’−ジメチルアセトアミド)が18/10/72となるように溶解し、製膜原液を調製した。
得られた製膜原液に支持層を40℃で30分間浸漬し、孔径3.0mmのシリコーンシートからなるノズルを通し、その後、水とN、N’−ジメチルアセトアミドとからなる凝固液(質量比(水/N、N’−ジメチルアセトアミド)=60/40)中に25℃で10分間浸漬した。
次いで、製膜原液および凝固液に浸漬した後の支持層を10000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウムに60℃で5時間浸漬し、さらに純水中に60℃で6時間浸漬し、純水を入れ替えた後、水中に60℃で6時間浸漬し再び洗浄を行い、80℃で3時間加温後、22℃にて8時間乾燥し、中空糸膜を得た。
得られた中空糸膜20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.005mg/L未満であった。すなわち、中空糸膜中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり0.05mg未満であった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、中空糸膜1kgあたり10mgであった。これを、中空糸膜中のTOCの含有量とする。
【0081】
別途、エタノールを純水で50質量%に希釈して親水化溶液を調製した。
先に得られた中空糸膜を中空糸膜の膜表面積1m
2あたり22Lの親水化溶液中に20℃で浸漬し、30分静置した。その後、中空糸膜を純水中で8時間すすぎ、105℃で3時間乾燥させて、中空糸膜を親水化処理した。
親水化処理した後の中空糸膜を中空糸膜の膜表面積1m
2あたり22Lの純水中に20℃で浸漬し、16時間静置した。その後、中空糸膜を純水から取り出し、純水(浸漬水)中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0082】
「比較例1」
洗浄・親水化工程において、吸引濾過しなかった(界面活性剤溶液を水処理膜へ通水しなかった)以外は、実施例1と同様にして水処理膜を処理し、浸漬水中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0083】
「比較例2」
エタノールを純水で50質量%に希釈して親水化溶液を調製した。
洗浄・親水化工程において、界面活性剤溶液の代わりに得られた親水化溶液を用い、浸漬時間を10分に変更し、かつ乾燥工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして水処理膜を処理し、浸漬水中に溶出したTOCおよび非イオン性界面活性剤を測定1または測定3の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例1〜4の場合、浸漬水へのTOCおよび非イオン性界面活性剤の溶出量が低く、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を効率的に除去できた。また、疎水性多孔質膜層を親水化できた。特に、HLBが4である非イオン性界面活性剤を用いた実施例1、および予め支持層を2種類の溶剤で洗浄した実施例4は、浸漬水へのTOCおよび非イオン性界面活性剤の溶出量がより低く、紡糸油剤の除去により有効であった。
一方、界面活性剤溶液に水処理膜エレメントを浸漬させるのみで、界面活性剤溶液を水処理膜へ通水させなかった比較例1は、浸漬水へのTOCおよび非イオン性界面活性剤の溶出量が高く、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を十分に除去できなかった。
界面活性剤溶液の代わりにエタノール水溶液を用いた比較例2は、疎水性多孔質膜層を親水化できたものの、浸漬水へのTOCおよび非イオン性界面活性剤の溶出量が高く、マルチフィラメントに残存する紡糸油剤を十分に除去できなかった。
【0086】
「比較例3」
支持層の洗浄において、エタノール(SP値12.7)およびn−ヘキサン(SP値7.3)の代わりに水(SP値23.4)を用いた以外は、実施例4と同様にして支持層を製造し、洗浄および乾燥を行った。
乾燥後の支持層20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.02g/Lであった。すなわち、支持層中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり0.2gであった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、支持層1kgあたり12gであった。これを、中空糸膜中のTOCの含有量とする。
また、支持層と水との質量比(水/支持層)が50となるように超純水中に20℃で浸漬し、8時間静置した。その後、支持層を超純水から取り出し、超純水(浸漬水)中に溶出した非イオン性界面活性剤の溶出量を測定3の方法で測定したところ、0.1mg/Lであった。
【0087】
「比較例4」
支持層の洗浄をエタノール(SP値12.7)のみで行った以外は、実施例4と同様にして支持層を製造し、洗浄および乾燥を行った。
乾燥後の支持層20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.16mg/Lであった。すなわち、支持層中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり1.6mgであった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、支持層1kgあたり130mgであった。これを、中空糸膜中のTOCの含有量とする。
また、支持層と水との質量比(水/支持層)が50となるように超純水中に20℃で浸漬し、8時間静置した。その後、支持層を超純水から取り出し、超純水(浸漬水)中に溶出した非イオン性界面活性剤の溶出量を測定3の方法で測定したところ、0.03mg/Lであった。
【0088】
「比較例5」
支持層の洗浄をヘキサンのみ(SP値7.3)のみで行った以外は、実施例4と同様にして支持層を製造し、洗浄および乾燥を行った。
乾燥後の支持層20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.3mg/Lであった。すなわち、支持層中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり3.0mgであった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、支持層1kgあたり80mgであった。これを、中空糸膜中のTOCの含有量とする。
また、支持層と水との質量比(水/支持層)が50となるように超純水中に20℃で浸漬し、8時間静置した。その後、支持層を超純水から取り出し、超純水(浸漬水)中に溶出した非イオン性界面活性剤の溶出量を測定3の方法で測定したところ、0.056mg/Lであった。
【0089】
「実施例5」
支持層を構成する繊維として、油剤の含有量が1.2質量%のポリエステル繊維(繊度:111dtex、フィラメント数:48)を用い、加熱ダイス28として、加熱手段を有するステンレス製のダイス(内径D:5mm、内径d:1.5mm、長さ:300mm)を用いた以外は、実施例4と同様にして支持層を製造し、洗浄および乾燥を行った。
乾燥後の支持層20gあたり200mLのトルエン中に40℃で浸漬し、3時間静置した後のトルエン中に溶出した非イオン性界面活性剤を測定4の方法で測定したところ、0.005mg/L未満であった。すなわち、支持層中の非イオン性界面活性剤の含有量は、支持層1kgあたり0.05mg未満であった。同様に、トルエン中に溶出したTOCを測定2の方法で測定したところ、支持層1kgあたり10mg未満であった。これを、中空糸膜中のTOCの含有量とする。
また、支持層と水との質量比(水/支持層)が50となるように超純水中に20℃で浸漬し、8時間静置した。その後、支持層を超純水から取り出し、超純水(浸漬水)中に溶出した非イオン性界面活性剤の溶出量を測定3の方法で測定したところ、0.002mg/L未満であった。
【0090】
以上、実施例5および比較例3〜5の結果から明らかなように、トルエンへの非イオン性界面活性剤の溶出量が0.01mg/L以下(すなわち、支持層中の非イオン界面活性剤の含有量が0.1mg/kg以下)である支持層の水への非イオン性界面活性剤の溶出量は0.005mg/L以下であり、水処理膜、特に飲料水用途に用いる水処理膜用の支持層として好適である。また、支持層の製法として2種以上の異なる溶剤での洗浄が有効である。