特許第6863343号(P6863343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特許6863343ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法
<>
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000004
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000005
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000006
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000007
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000008
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000009
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000010
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000011
  • 特許6863343-ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863343
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20210412BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20210412BHJP
   C03C 17/42 20060101ALI20210412BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20210412BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20210412BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B17/06
   C03C17/42
   G09F9/00 302
   G09F9/00 313
   G02F1/1333 500
   G02F1/1335
   G02F1/1333
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-132157(P2018-132157)
(22)【出願日】2018年7月12日
(65)【公開番号】特開2020-6651(P2020-6651A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2020年12月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
(72)【発明者】
【氏名】末原 道教
(72)【発明者】
【氏名】遠山 一成
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/034290(WO,A1)
【文献】 特開2017−227898(JP,A)
【文献】 特開2017−145191(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047673(WO,A1)
【文献】 特開2017−039279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C03C15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の主面と第二の主面とを有するガラス基体と、前記第一の主面と前記第二の主面のうち少なくとも一方に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層と、前記反射防止層に積層された防汚層と、を備え、
前記反射防止層における前記ガラス基体から最も離れた最表層は、主成分がSiOの前記低屈折率層であり、
前記最表層の厚さ方向におけるフッ素濃度の分布が、二次イオン質量分析法による測定でピークを有する、ことを特徴とするガラス積層体。
【請求項2】
前記防汚層がフッ素原子を含む防汚層である、請求項1に記載のガラス積層体。
【請求項3】
前記最表層の厚さが60nm以上130nm以下である、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【請求項4】
前記反射防止層は、1層以上6層以下の前記低屈折率層および前記低屈折率層と同じ層数の前記高屈折率層から構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス積層体。
【請求項5】
前記反射防止層は、それぞれ1層ずつの前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、
前記高屈折率層の主成分は、SiN、TiO、Nb、Ta、ZrOのうちいずれか1種である、請求項4に記載のガラス積層体。
【請求項6】
前記反射防止層は、それぞれ2層以上6層以下の前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、
前記高屈折率層の主成分は、SiN、TiO、Nb、Ta、ZrOのうちいずれか1種であり、
全ての前記高屈折率層の主成分が同じ、または、少なくとも1層の前記高屈折率層の主成分が他の高屈折率層の主成分とは異なる、請求項4に記載のガラス積層体。
【請求項7】
前記防汚層は、フッ素系シランカップリング材料から形成される、請求項1から6のいずれか一項に記載のガラス積層体。
【請求項8】
前記反射防止層は、それぞれ2層以上6層以下の前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、
前記最表層を構成するSiOの成分が前記最表層の最表面側から5nm以内の範囲では95質量%以上であり
前記最表層以外の前記低屈折率層は、主成分がAl−SiOである、請求項7に記載のガラス積層体。
【請求項9】
前記ガラス基体の前記反射防止層が設けられた主面には、防眩加工が施されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のガラス積層体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のガラス積層体を備えるディスプレイ用前面板。
【請求項11】
請求項10に記載のディスプレイ用前面板を備える表示装置。
【請求項12】
第一の主面と第二の主面とを有するガラス基体と、前記第一の主面と前記第二の主面のうち少なくとも一方の主面に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層と、前記反射防止層に接しフッ素原子を含む防汚層とを備え、前記反射防止層における前記ガラス基体から最も離れた最表層の主成分がSiOの前記低屈折率層であるガラス積層体を製造する方法であって、
前記反射防止層における前記最表層の厚さ方向の一部を除く層を、第一装置を用いて前記ガラス基体に成膜し、
その後、前記最表層の厚さ方向の一部と前記防汚層とを前記第一装置とは異なる第二装置で連続的に成膜する、ことを特徴とするガラス積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォン、タブレットPC、カーナビゲーション装置の表示装置等に用いられるタッチパネルや表示パネルの前面板として、カバーガラスが用いられている。このようなカバーガラスとして、ガラス基材に一方の主面に低反射膜(反射防止層)を設け、低反射膜上に防汚膜を設ける積層体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の従来例では、透明基体と、透明基体上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された低反射膜と、低反射膜上に積層された防汚膜とを備え、防汚膜の表面粗さRaを3nm以下にすることで、防汚膜の耐久性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2014/129333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の従来例では、防汚膜の表面粗さRaを調整することにより、防汚膜の耐久性が向上したが、低反射膜についての耐久性の改善を図るものではない。
このことから、防汚層が積層された反射防止層の耐久性の向上が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、反射防止層の耐久性の向上が図れるガラス積層体、ディスプレイ用前面板、表示装置およびガラス積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下のガラス積層体およびガラス積層体の製造方法であれば、上記課題を解決しうることを見出した。
[1]第一の主面と第二の主面とを有するガラス基体と、前記第一の主面と前記第二の主面のうち少なくとも一方に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層と、前記反射防止層に積層された防汚層と、を備え、前記反射防止層における前記ガラス基体から最も離れた最表層は、主成分がSiOの前記低屈折率層であり、前記最表層の厚さ方向におけるフッ素濃度の分布が、二次イオン質量分析法による測定でピークを有する、ことを特徴とするガラス積層体。
ここで、主成分とは、層中でその成分を50質量%以上含むことをいい、SiO(酸化ケイ素)に炭素原子を除く不純物が含まれていてもよいことを意味する。
また、ピークとは、二次イオン質量分析法(SIMS)により、反射防止層の表面からの深さをX軸、二次イオン強度をY軸とした場合のグラフを作成し、このグラフにおけるフッ素濃度の分布、つまり、フッ素の二次イオン強度曲線が最表層中の一部で凸形状になっている場合における、その頂点部をいう。凸形状は一つであることが好ましい。
例えば、以下に示す手順で、最表層におけるピークの有無を確認できる。
1) 最表層のケイ素(Si)の二次イオン強度および酸素(O)の二次イオン強度が、反射防止層の表面から深さ方向、つまり、ガラス基体の方向に向かってみたときに、変化が少なく、横ばいになり始めた測定点に、Y軸と平行に直線LAを設定し、直線LAとフッ素の二次イオン強度の交点をAとする(図9参照)。
2) 高屈折率層である2番目の層を構成する材料、例えば、Nb+Oの二次イオン強度が急激に大きくなって立ち上がる点であって、近傍にケイ素(Si)が低下してくる点に、Y軸と並行に直線LBを設定し、直線LBとフッ素の二次イオン強度曲線の交点をBとする(図9参照)。
3) 交点Aと交点Bを結ぶ範囲のフッ素の二次イオン強度曲線に対して、下から接するベースとなる直線LCを引く(図9参照)。
ここで、直線LCが下から接する点とは、二次イオン強度曲線上の2つの極小値であって、これらの極小値を結んだ直線に、二次イオン強度曲線が交差しない点である。二次イオン強度曲線の形状が複雑であり接する2つの点を結ぶ直線が複数ある場合、2点間の距離が最も大きい直線が直線LCである。
4) 3)で設定した直線LCとフッ素の二次イオン強度曲線との2接点C,Dの区間内、つまり、接点Cから接点Dの間で、フッ素の二次イオン強度曲線の極大値を与える点を求める。接する点が複数ある場合は、3)で設定した直線LCから最も離れている点をとる(図9参照)。
5) 4)で設定した極大値を与える点と、3)で設定した直線LCとの間を二等分し、その2等分した点Eを通るように、3)で設定した直線LCに平行な直線LEを設定する(図9参照)。
6) 接点Cと接点Dの間で、5)で設定した直線LEが、フッ素の二次イオン強度曲線と1または2点で交わる場合、4)で設定した極大値を与える点をピークPとする(図9参照)。
このようにすれば、2次イオン強度曲線が傾斜していたり、多少のノイズがあった場合でも、簡便にピークの有無を確認できる。特に、交点A、交点Bの近傍は膜が切り替わる部分であり、二次イオン強度曲線が急激に変化するため、ノイズが生じやすい。2次イオン強度のノイズが大きい場合は、Savitzky−Golay法等で平滑化処理することが好ましい。
応力を緩和する効果を十分に得る観点から、極大値は、ピークPからY軸と並行に引いた直線が直線LCと交わる点におけるイオン強度を、ベースとなる直線上のイオン強度としたときに、このベースとなる直線上のイオン強度よりも2倍以上大きいことが好ましい。
【0008】
反射防止層の最表層は、主成分がSiOであるので、圧縮応力が強くなって、膜剥がれが生じるおそれがある。
本発明では、最表層中、つまり、SiO膜の内部にフッ素の多い部分を設ける。こうすることによって、SiO膜内の応力は、フッ素の多い部分でいったん緩和されることになる。したがって、SiO膜全体の応力は、フッ素の多い場合に比べて緩和され、傷の進展や膜自体の剥がれを抑えることができる。
【0009】
[2]前記防汚層がフッ素原子を含む防汚層である、[1]に記載のガラス積層体。
本発明のこの構成では、防汚層を反射防止層の上に成膜する際に、フッ素原子が用いられるので、このフッ素原子が反射防止層の最表層の一部に含まれる。そのため、反射防止層の形成に際して、フッ素を供給する装置を別途用いることなく、上述の効果を得られるガラス積層体を簡易に製造できる。なお、最表層にフッ素を有する反射防止層を成膜したガラス積層体を用いて本発明のガラス積層体を製造してもよい。
また、防汚層を最表面に設置することで、摩擦係数が低下し、外的な力の膜への伝達が低減されることによって、膜へのダメージが抑えられる効果もあるので、好ましい。
【0010】
[3]前記最表層の厚さが60nm以上130nm以下である、[1]または[2]に記載のガラス積層体。
本発明のこの態様では、最表層の厚さを上記範囲とすることで反射防止効果と応力の緩和とを両立できる
【0011】
[4]前記反射防止層は、1層以上6層以下の前記低屈折率層および前記低屈折率層と同じ層数の前記高屈折率層から構成される、[1]から[3]のいずれかのガラス積層体。
ここで、反射防止層としては合計12層以下であること、が好ましい。
反射防止層を構成する低屈折率層と高屈折率層との数は、上記層数が反射防止層としての機能を達成する上で、好ましい。
【0012】
[5]前記反射防止層は、それぞれ1層ずつの前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、前記高屈折率層の主成分は、SiN、TiO、Nb、Ta、ZrOのうちいずれか1種である、[4]に記載のガラス積層体。
このような主成分を用いることで、低屈折率層および高屈折率層がそれぞれ1層ずつのガラス積層体であっても有効に反射率を低減できる。
【0013】
[6]前記反射防止層は、それぞれ2層以上6層以下の前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、前記高屈折率層の主成分は、SiN、TiO、Nb、Ta、ZrOのうちいずれか1種であり、全ての前記高屈折率層の主成分が同じ、または、少なくとも1層の前記高屈折率層の主成分が他の高屈折率層の主成分とは異なる、[4]に記載のガラス積層体。
このような主成分を用いることで、より少ない低屈折率層および高屈折率層の数で所望の反射防止性能を有するガラス積層体を提供できる。
【0014】
[7]前記防汚層は、フッ素系シランカップリング材料から形成される、[1]から[6]のいずれか1に記載のガラス積層体。
本発明のこの態様では、人間の指等がガラス積層体に触れても、防汚層により、指紋、皮脂、汗等による汚れが付着しにくくなり、汚れが付着したとしても容易に除去できる。そのため、汚れが付着した部分とそうでない部分とでの光の散乱や反射の違いが少なくなるので、視認性や美観を損ねることがない。
【0015】
[8]前記反射防止層は、それぞれ2層以上6層以下の前記低屈折率層および前記高屈折率層から構成され、前記最表層を構成するSiOの成分が前記最表層の最表面側から5nm以内の範囲では95質量%以上であり、前記最表層以外の前記低屈折率層は、主成分がAl−SiOである、[7]に記載のガラス積層体。
本発明のこの態様では、最表層を構成するSiOの成分が前記最表層の最表面側から5nmは95質量%以上であるので、最表層の最表面は純粋なSiOの層であり、フッ素系シランカップリング材料からなる防汚層がSiO表面に密度が高く化学結合することができ、撥水性が向上する。さらに、低屈折率層のうち最表層以外がAl−SiOとすることで、成膜時の成膜レートが向上し、アーキング等の成膜トラブルを抑制できるため、生産性が向上する。Alの含有量は、AlとSiの重量比Al/(Si+Al)が5%超であれば、有効な生産性の向上が得られるので好ましく、6%超がより好ましい。Alの含有量は、AlとSiの重量比Al/(Si+Al)が15%未満であれば、成膜した後の膜の屈折率が上昇せず良好な反射特性が得られるので好ましく、10%未満がより好ましい。
【0016】
[9]前記ガラス基体の前記反射防止層が設けられた主面には、防眩加工が施されている、[1]から[8]のいずれか1に記載のガラス積層体。
本発明のこの態様では、ガラス基体の主面に防眩層が形成されるので、ガラス基体の反射や映りこみを防止できる。
本発明のこの態様では、ガラス基体の反射や映りこみを効果的に防止できる。
【0017】
[10] [1]から[9]のいずれか1に記載のガラス積層体を備えるディスプレイ用前面板。
ここで、ディスプレイとは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)、表面電界ディスプレイ(SED)等の画像表示装置をいう。このうち、ELDは、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)を含む。好ましくは、ディスプレイとは車載用のディスプレイをいい、さらに好ましくはLCD、ELDを用いた車載用ディスプレイをいう。
[11] [10]に記載のディスプレイ用前面板を備える表示装置。
【0018】
[12]第一の主面と第二の主面とを有するガラス基体と、前記第一の主面と前記第二の主面のうち少なくとも一方に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層と、前記反射防止層に接しフッ素原子を含む防汚層とを備え、前記反射防止層における前記ガラス基体から最も離れた最表層の主成分がSiOの前記低屈折率層であるガラス積層体を製造する方法であって、前記反射防止層における前記最表層の厚さ方向の一部を除く層を、第一装置を用いて前記ガラス基体に成膜し、その後、前記最表層の厚さ方向の一部と前記防汚層とを前記第一装置とは異なる第二装置で連続的に成膜することを特徴とするガラス積層体の製造方法。
【0019】
本発明では、第一装置において、ガラス基体に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して反射防止層のうち最表層の厚さ方向の一部、つまり、最表層を構成する部分のうち最も上にある層上部を除くベース層部を成膜する。最表層の主成分はSiOである。そして、第二装置において、反射防止層のうち残りの部分、つまり、最表層の厚さ方向の一部を最表層のうち既に成膜されている部分の上に成膜し、その後、フッ素原子を含む防汚層を成膜する。
【0020】
ここで、第二装置における成膜工程において、防汚層を成膜する前でも、条件確認等で事前にチャンバ内に放出されたフッ素が第二装置の内部に残存している。したがって、第二装置で、層上部を成膜済のベース層部上に成膜するために、真空チャンバに基板を導入した時点で、残存していたフッ素がSiO表面に吸着する。このようにしてSiO膜中にフッ素のごく薄い層が形成される。その後、層上部を成膜すると、フッ素のごく薄い層の上にSiO層が形成され、最表層であるSiO膜の中間部にフッ素のピークが形成されることとなる。SiO膜がフッ素の薄い層によって中間部でいったん分離されているので、最表層全体の応力は、最表層中にフッ素がない場合と比べて緩和されているため、最表層に傷がついても、その傷の進展がフッ素濃度の高い部分で抑制される。その結果、傷がガラス基体側の高屈折率層まで伝播することが抑制され、反射防止層の耐久性が向上する。
【0021】
上記の方法により最表層の厚さ方向におけるフッ素濃度の分布が、二次イオン質量分析法による測定でピークを有することを特徴とするガラス積層体を製造できる。
また、防汚層を最表面に設置することで、摩擦係数が低下し、外的な力の膜への伝達が低減されることによって膜へのダメージが抑えられる効果もあるので、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態のガラス積層体の概略を示す断面図。
図2】(A)はガラス積層体の要部を示す断面図、(B)は最表層の概略を示す断面図。
図3】粘着剤およびキャリア基材を貼り付けた状態のガラス基体の概略を示す平面図。
図4】粘着剤およびキャリア基材を貼り付けた状態のガラス基体の他の態様を概略的に示す平面図。
図5図4に示すガラス基体のA−A線断面図。
図6】第一装置および第二装置の一例を概略的に示す図。
図7】本発明の一実施形態の表示装置の概略を示す断面図。
図8】反射防止層の各層と各層に含まれる原子との関係を示すグラフ。
図9】最表層の内部におけるフッ素濃度の分布のピークを説明するために図8の要部を拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
[ガラス積層体]
(ガラス積層体の概略構成)
図1は、ガラス積層体の概略を示す断面図である。
図1において、ガラス積層体1は、相互に対向する第一の主面2と、第二の主面3と、第一の主面2と第二の主面3とを接続する端面4とを有するガラス基体5を備えている。
ガラス基体5の第一の主面2上には、反射防止層6および防汚層7がその順に積層されている。また、ガラス積層体1は、第二の主面3の周縁部に印刷層8を備えている。印刷層8は必須ではなく、必要に応じて備えられる。
【0024】
(ガラス基体)
(材料)
ガラス基体5としては、例えば、SiO(酸化ケイ素)を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基体を使用できる。
(形状)
ガラス積層体1に用いられるガラス基体5の形状は、図1で示されるような平坦な形状のみでなく、一か所以上の屈曲部を有するガラスのような曲面を有する形状であってもよい。最近では、画像表示装置を備える各種機器、例えば、テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。
【0025】
ガラス基体5が曲面を有する形状であるガラス積層体1は、このような画像表示装置用として有用である。例えば、屈曲部を有する断面コ字状のガラスを使用してガラス積層体1を作製し、携帯電話などの前面板として使用した場合、使用者がガラス積層体1に触れる頻度が増加する。これにより、防汚層7が徐々に剥離し、汚れ付着抑制効果が低下するおそれがある。本実施形態のガラス積層体1であれば耐摩耗性に優れ、前記用途に有用である。
【0026】
ガラス基体5が曲面を有する場合、ガラス基体5の表面は、全体が曲面で構成されてもよいし、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。表面全体が曲面で構成される場合の例として、たとえば、ガラス基材の断面が円弧状である場合が挙げられる。
ガラス基体5が曲面を有する場合、前記面の曲率半径(以下、「R」ともいう。)は、ガラス積層体1の用途、ガラス基体5の種類等に応じて適宜設定でき、25000mm以下であることが好ましく、1mm〜5000mmがより好ましく、5mm〜3000mmが特に好ましい。Rが前記の上限値以下であれば、平板に比較し、意匠性に優れる。Rが前記の下限値以上であれば、曲面表面へも均一に防汚層7を形成できる。
【0027】
(厚さ)
ガラス基体5の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。ガラス基体5の厚さは、0.1mm〜5mmであることが好ましく、0.2mm〜2mmであることがより好ましく、0.5mm〜2mmであることがさらに好ましい。ガラス基体5の厚さが5mm以下であれば、ガラス基体5に、化学強化処理を行う場合に、これを効果的に実施でき、軽量化と強度とを両立できる。化学強化処理を効果的に行う点からは、ガラス基体5の厚さは3mm以下であることがより好ましい。また、ガラス基体5の厚さが1mm以上であれば、タッチパネルに用いた場合に、優れた強度を得られる。ガラス基体5の厚さを2mm以下にすれば、タッチパネルに用いた場合に、優れた感度が得られる。
【0028】
(反射防止層)
(層構成)
図2(A)は、反射防止層6を拡大した図である。
反射防止層6とは、反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、画像表示装置に使用した場合には、画像表示装置からの光の透過率を向上でき、画像表示装置の視認性を向上できる層のことである。
反射防止層6の構成としては光の反射を抑制できる構成であればよく、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを交互に積層した構成にできる。低屈折率層と高屈折率層との層数については、低屈折率層は、1層以上6層以下であり、高屈折率層は低屈折率層と同じ層数からなることが好ましい。なお、図2(A)では、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ3層から構成される場合が例示される。本発明では、低屈折率層と高屈折率層とをそれぞれ1層から構成するものでもよい。
反射防止層6として、低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ複数から構成される場合、ガラス基体5から最も離れた層、つまり、防汚層7と接する層を最表層61とし、最表層61を1番目としてガラス基体側に向けて層を数えたときに、最表層61を含む奇数の層、つまり、図2(A)では、最表層61、3番目の層63、5番目の層65は、低屈折率層から構成される。最表層61よりガラス基体側に隣接する層を2番目の層62とすると、2番目の層62を含む偶数の層、つまり、図2(A)では、2番目の層62、4番目の層64、6番目の層66は、高屈折率層から構成される。最表層61から最も離れた高屈折率層、図2(A)では、6番目の層66がガラス基体5に接する。
低屈折率層と高屈折率層とがそれぞれ1層ずつから構成される場合、低屈折率層が最表層61であり、高屈折率層が2番目の層62である。
反射防止層6の厚さは、100nm以上600nm以下、好ましくは、140nm以上550nm以下、より好ましくは、178nm以上506nm以下である。
【0029】
(最表層)
最表層61の厚さは、60nm以上130nm以下、好ましくは、70nm以上120nm以下である。最表層61の厚さが60nm以上であれば、所望の反射防止特性を得ることができ、130nm以下であれば応力による剥がれが生じにくい。
【0030】
最表層61の厚さの測定は、SEM(Scanning Electron Microscopy)もしくはTEM(Transmission Electron Microscopy)による断面観察による実膜厚の測定、または、偏光解析法による光学測定が挙げられる。防眩処理がなされている場合は、SEMやTEMを使って、実膜厚を測定することが好ましい。また、各層の屈折率が既知の場合は、分光反射率や透過率から、膜厚を導出することができる(参考文献:「学薄膜と成膜技術」 著者李正中 訳者アルバック 出版社アグネ技術センター 出版年2002年)。特に、各層の屈折率が既知である場合には、分光反射率で膜厚を測定することが好ましい。
この厚さの測定方法は、反射防止層全体、反射防止層の各層、および防汚層の厚さの測定にも適用できるが、防汚層は大変薄いため、防汚層の一部を後述の方法で除去したのち、光学測定で差分を見ることによって膜厚を導出したほうが好ましい(参考文献:国際公開WO2016/068112の段落[0125]〜[0129])。
【0031】
最表層61は、SiO(酸化ケイ素)を主成分とし、炭素濃度が5×1018以上5×1019atoms/cm以下の含炭素酸化ケイ素層であることが好ましい。
最表層61の酸化ケイ素の屈折率は、炭素原子を含有しない場合、通常1.43以上1.50以下であるが、屈折率が1.40以上1.53以下、好ましくは1.45以上1.52以下となる程度に不純物を含んでもよい。
最表層61の主成分が、上述した範囲の含炭素酸化ケイ素層であることで、防汚層7が反射防止層6を介してガラス基体5に強固に密着されるため、ガラス積層体1は優れた耐摩耗性を有する。
【0032】
最表層61では、酸化ケイ素以外に、F(フッ素原子)、その他の原子が含まれる。
最表層61では、後述する通り、反射防止層6の厚さ方向におけるフッ素濃度の分布が、最表層61の内部においてピークPを有する(図8,9参照)。つまり、最表層61は、図2(B)に示される通り、2番目の層62に隣接するベース層部6Aと、ベース層部6A上に形成され最も上にある層上部6Bとから構成される。最表層61は、ベース層部6Aと層上部6Bとの境界付近でピークPを有する。
層上部6Bの厚さは、好ましくは10nm以上、50nm以下である。10nm以上であれば、防汚層と反応するシラノール基の密度が維持でき、良好な撥水性が得られる。また、50nm以下であれば、層上部6B自体の厚さが応力緩和の効果を得るのに適切である。より好ましくは、層上部6Bの厚さは、10nm以上、40nm以下である。最も好ましくは、層上部6Bの厚さは、10nm以上、30nm以下である。
【0033】
なお、最表層61を含む奇数の層は、いずれか1層において、酸化ケイ素にアルミをドープしたAl−SiO(アルミドープ酸化ケイ素)であってもよい。
【0034】
2番目の層62を構成する高屈折率層の主成分は、例えば、SiN(窒化ケイ素)、TiO(酸化チタン)、Nb(酸化ニオブ)、Ta(酸化タンタル)、ZrO(酸化ジルコニウム)から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、これらの材料のうち、生産性や、屈折率の観点から、窒化ケイ素、酸化ニオブ、酸化タンタルがより好ましく、酸化ニオブが最も好ましい。
4番目の層以降の偶数の層、例えば、図2(A)では、4番目の層64と6番目の層66との主成分は、2番目の層62と同様に、主成分が同様であってもよく、2番目の層62とは異なる材料でもよい。2番目の層62を構成する主成分が酸化ニオブの場合、この4以降の偶数の層は、2番目の層62と同様に酸化ニオブでもよく、2番目の層62とは異なる材料でもよい。
【0035】
(表面粗さ)
最表層61における表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることより好ましく、1.5nm以下であることがさらに好ましい。Raが、3nm以下であれば、布等が防汚層7の凹凸形状に沿って変形できるため、防汚層7表面全体に略均一に荷重がかかる。そのため、防汚層の剥がれが抑制され、耐摩耗性が向上されると考えられる。
なお、算術平均粗さ(Ra)は、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、基準面からの絶対値偏差を平均した値である。Raは0に近いほど、完全な平滑面に近いことを示す。Raは、例えば、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定できる。Raの測定方法として具体的には、走査型プローブ顕微鏡(型式:SPA400、セイコーインスツル社製)により、試料である反射防止層6形成後のガラス基体5の測定面に対して、3μm×3μmの視野範囲を設定し、ガラス基体5の平面プロファイルを測定する。測定された平面プロファイルから、Raを算出できる。
【0036】
ガラス基体5の第一の主面2が凹凸形状を有する場合、反射防止層6の防汚層7と接する最表層61における二乗平均粗さ(RMS)は、下限値として10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。上限値として1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。RMSが前記範囲であれば、防汚層7の剥がれが抑制され耐摩耗性が向上されるだけでなく、ギラツキ防止性や防眩性も両立できる。ここで、ギラツキとは、第一の主面2と第二の主面3のいずれかに凹凸形状を有するガラス基体5をピクセルマトリックスタイプの表示装置のディスプレイ前面板に用いる場合、ガラス基体5上に、ピクセルマトリックスよりも大きな周期を持つ多くの光の粒が観察され、これにより視認性が阻害される度合いを意味する。
凹凸形状のRMSの測定に際しては、上述の反射防止層6の算術平均粗さ(Ra)の測定とは反対に、測定領域に円形状の孔が十分多く含まれるように測定領域を選べばよい。また、上述のように、反射防止層6や防汚層7の表面粗さは十分平滑なので、反射防止層6や防汚層7がある状態で、上述の方法で測定されたRMSの値は、凹凸形状のRMSと同値であると考えてよい。
【0037】
なお、二乗平均粗さ(RMS)は、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定できる。RMSの測定方法として具体的には、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 商品名:VK−9700)により、試料である防眩処理後のガラス基体5の測定面に対して、300μm×200μmの視野範囲を設定し、ガラス基体5の高さ情報を測定する。測定値に対して、カットオフ補正を行ない、得られた高さの二乗平均を求めることでRMSを算出できる。当該カットオフ値としては0.08mmを使用することが好ましい。ヘイズ値は、JIS K 7136の規定により測定される値である。
また、凹凸形状を有する第一の主面2を上方から観察すると、円形状の孔が観察される。このように観察される円形状の孔の大きさ、つまり、真円換算での直径は、5μm〜50μmであることが好ましい。このような範囲にあることにより、ガラス積層体1のギラツキ防止性と防眩性を両立可能である。
【0038】
ガラス基体5の第一の主面2が凹凸形状を有する場合に反射防止層の算術平均粗さ(Ra)を測定する際には、当該凹凸形状を影響されないように測定領域を設定すればよい。円形状の孔の径や二乗平均粗さ(RMS)が上述の好ましい範囲にあれば、測定領域を例えば凹凸の稜線を除く領域に設定するなどして、反射防止層のRaを測定可能である。例えば、第一の主面2が凹凸形状を有する場合に、反射防止層のRaまたはRMSの測定に際して、当該凹凸形状が測定されないように、1μm×1μmの領域程度の微細な領域を選択して測定する、測定領域を選定することが好ましい。
【0039】
(防汚層)
防汚層7とは、表面への有機物、無機物の付着を抑制する層、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。
【0040】
防汚層7の厚さは、防汚層7が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、2nm以上20nm以下、2nm以上15nm以下、2nm以上10nm、以下、であり、このうち、2nm以上8nm以下、2nm以上6nm以下の順で好ましく、特に好ましくは4nmである。厚さが2nm以上であれば、防汚層7によってガラス基体5の第一の主面2上が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。厚さが20nm以下であれば、防汚層7が形成された状態でのガラス積層体1のヘイズ値等の光学特性が良好である。
防汚層7の厚さが2nm以上20nm以下程度である場合、防汚層7の厚さが薄いため、防汚層7の表面の凹凸構造は、反射防止層6の表面形状がそのままトレースされて形成される。そのため、防汚層7の算術平均粗さ(Ra)は、反射防止層6の、Raと同視できる。また、防汚層7の二乗平均粗さ(RMS)も、反射防止層6のRMSと同視できる。したがって、反射防止層6の表面粗さ(RaまたはRMS)を、防汚層7形成後のガラス積層体1のRaまたはRMSにより測定できる。ただし、ガラス基体5の第一の主面2が凹凸形状を有する場合、防汚層7のRaまたはRMSの測定に際して、当該凹凸形状が測定されないように、例えば、1μm×1μmの領域程度の微細な領域を選択して測定する等、測定領域を選定することが好ましい。
【0041】
防汚層7としては、例えば、撥水・撥油性を有して、得られるガラス積層体1に防汚性を付与できるものであればよく、例えば、フッ素系シランカップリング材料からなる含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応させることで硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
【0042】
防汚層7は、含フッ素有機ケイ素化合物等の含フッ素加水分解性ケイ素化合物が、ガラス基体の第一の主面2上に形成された反射防止層6の表面で以下のように加水分解縮合反応して形成されるものであり、撥水性や撥油性を有する。本明細書において、含フッ素加水分解性ケイ素化合物とは、ケイ素原子に加水分解可能な基または原子が結合した加水分解性シリル基を有し、さらにそのケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物をいう。なお、前記ケイ素原子に結合して加水分解性シリル基を構成する加水分解可能な基または原子を併せて、「加水分解性基」という。
すなわち、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解性シリル基が、加水分解によりシラノール基となり、さらにこれらが分子間で脱水縮合して−Si−O−Si−で表されるシロキサン結合を生成して、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される。含フッ素有機ケイ素化合物被膜において、シロキサン結合のケイ素原子に結合する前記含フッ素有機基のほとんどは、反射防止層6側の被膜表面付近に存在し、この含フッ素有機基の作用により、撥水性や撥油性の発現が可能となる。この際、シラノール基は、防汚層7が形成される被成膜面である反射防止層6の防汚層7側の表面、つまり、酸化ケイ素層の表面の、水酸基と、脱水縮合反応により化学結合して、シロキサン結合を介して接着した点を形成する。このように、ガラス積層体1において、防汚層7が反射防止層6を介してガラス基体5に強固に付着されているため、ガラス積層体1は優れた防汚性を有する。
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、ケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物であって、シラノール基を有した含フッ素ケイ素化合物であってもよく、この場合にも上記と同様の効果が得られる。
【0043】
(印刷層)
印刷層8は、例えば、表示の視認性と美観を高める目的で、携帯機器の表示装置の外周近傍に配置された配線回路や、携帯機器の筺体とガラス積層体1の接着部等を隠ぺいするように必要に応じて備えられる。印刷層8は、ガラス積層体1の第二の主面3の周縁部に備えられてもよい。
ここで、周縁部とは、外周から中央部に向かって、所定の幅を有する帯状領域を意味する。印刷層8は、第二の主面3の周縁全周に備えられていてもよく(図3および図4参照)、周縁一部に備えられてもよい。
ガラス積層体1が印刷層8を備える場合、印刷層8は、例えば、上記配線回路や接着部を隠ぺい可能な幅で適宜設定できる。また、印刷層8の色は、目的に応じて所望の色を選択可能である。印刷層8は、インクを印刷する方法等により形成される。
【0044】
インクとしては、例えば、セラミックス焼成体等を含む無機系インク、染料または顔料のような色料と有機樹脂を含む有機系インクのいずれを用いてもよい。
例えば、印刷層8を黒色で形成する場合、黒色の無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等が挙げられる。黒色の印刷層8は、前記セラミックスとシリカからなるインクを溶融し、所望のパターンで印刷した後、乾燥して得られる。この無機系インクは、溶融、乾燥工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
【0045】
有機系インクは、所望の色の染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、透明ABS樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。
上記無機系インクおよび有機系インクのなかでは、乾燥温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましい。耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
【0046】
[ガラス積層体の製造方法]
以下、本発明のガラス積層体1の製造方法の各工程について説明する。
(反射防止層および防汚層の形成)
(粘着剤、キャリア基材の貼り付け)
図3に示される通り、ガラス基体5の第二の主面3(図1参照)の上に、炭素含有材料からなる帯状の粘着剤9を付着させ、さらに、粘着剤9の表面にキャリア基材10を貼り付ける。
粘着剤9の形状は、図3に示す帯状の他、鉤型状等の形状であってもよい。また、粘着剤9は、連続的または断続的のいずれの態様でガラス基体5上に付着されていてもよい。
【0047】
ガラス基体5上に印刷層8を有している場合には、粘着剤9は、印刷層8の表面に貼り付けているが、ガラス基体5上に印刷層8を有しない場合には、粘着剤9は、第二の主面3に直接貼り付けられる。
1つのキャリア基材10に1つまたは複数のガラス基体5が保持される。
【0048】
(粘着剤、キャリア基材の貼り付けの他の例)
図4に、粘着剤9およびキャリア基材10を貼り付けた際の、ガラス基体5に対する粘着剤9およびキャリア基材10の配置の他の例を概略的に示す。図5は、図4に示すガラス基体のA−A線断面図である。
図4においては、キャリア基材10のガラス基体5の貼り付けられる面の全部に粘着剤9が付着されて、この粘着剤9上にガラス基体5が貼り付けられている。このように、キャリア基材10の一方の主面全面に粘着剤9を付着させ、これによりガラス基体5が貼り付けられてもよい。
【0049】
粘着剤9の材料としては、シリコーンゴムやシリコーンレジンを用いたシリコーン系粘着剤、1種以上のアクリル酸エステルのモノマーを重合または共重合させて合成されるアクリル系粘着剤、ポリウレタンを用いたポリウレタン系の粘着剤等が挙げられる。ここで、ガラス積層体1は、携帯機器等に組み付けられる際、第二の主面3側で接着剤等により携帯機器等の表示装置または筺体に接着される。そのため、接着性の観点から第二の主面3は、撥水・撥油性の低い方が好ましい。このような点から、粘着剤9の材料としては上記した中でも、アクリル系、ポリウレタン系が好ましい。
粘着剤9の粘着力は、ガラス基体5または印刷層8とキャリア基材10との、接着力および防汚層成膜後に粘着剤9およびキャリア基材10を除去する際の粘着剤9の剥離性のバランスの点から、JIS Z 0237で規定された180度剥離・アクリル板への付着力測定での値で、0.02N/25mm〜0.4N/25mmが好ましく、0.05N/25mm〜0.2N/25mmがより好ましい。
粘着剤9の厚みは、ガラス基体5または印刷層8とキャリア基材10との接着力および剥離性の観点から、5μm〜50μmであることが好ましい。
【0050】
粘着剤9は、基材を有していてもよい。基材としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられるが、耐熱性の観点からポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂が好ましい。
【0051】
キャリア基材10としては、ガラス基体5を保持したまま垂直状態または水平状態を維持できる程度の強度を有し、反射防止層6および防汚層7を形成する温度、圧力、雰囲気等の条件に耐え得る材質のものであればよく、ガラス製、樹脂製、金属製等のものを使用できる。キャリア基材10の形状としては、板状、フィルム状の基材を使用できる。なお、ガラス基体5が曲面を有する場合には、キャリア基材10は、ガラス基体5の第二の主面3と対応する形状に加工されていてもよい。
樹脂製のキャリア基材10として、具体的には、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好適に用いられる。樹脂製のキャリア基材10として、耐熱性の観点からは、ポリイミド樹脂、PET樹脂が好ましいが、コストの観点からはPET樹脂のほうが好ましい。樹脂製のキャリア基材10としては、フィルム状であることが好ましく、上記した樹脂のフィルムが好適に用いられる。
また、粘着剤付き保護フィルム等、予め粘着剤9が備えられたキャリア基材10を用いてもよい。この場合、ラミネート機等を用いて、ガラス基体5を搬送しながら、第二の主面3に、粘着剤付きフィルムを連続的に供給、載置した後、加圧して、貼り付けられる。この際のラミネート条件は、例えばガラス基体5の搬送速度を1mm/min〜5mm/min、加圧力は、線圧で1kgf/cm〜10kgf/mの条件で、第二の主面3に粘着剤付きフィルムを貼り付けられる。
【0052】
粘着剤9が備えられたキャリア基材10としては、シリコーン系粘着剤付きのポリイミドテープとして、No.6500(商品名、日立マクセル社製)等、アクリル系粘着剤付きのPETフィルムとして、RP−207(商品名、日東電工社製)等、ポリウレタン系付きのPETフィルムとして、UA−3004AS(商品名、スミロン社製)等を使用でき、このような粘着剤9を備えたキャリア基材10を用いることで、基板の保持を効率的に実施できる。
粘着剤9がガラス基体5に対して充分な保持力を有する場合、粘着剤9がキャリア基材10の機能を兼ねるため、別途キャリア基材10を用いなくてもよい。
キャリア基材10の大きさは、ガラス基体5の保持力の点からは、ガラス基体5の第二の主面3よりも大きいことが好ましい。キャリア基材10がガラス基体5よりも大きい場合には、例えば、スパッタリングにより反射防止層6が形成される場合、スパッタリングが行われる過程で、反射防止層を形成する材料が端面4に回り込んで、端面4上に反射防止層6が形成される。さらに、蒸着により防汚層7が形成される場合、蒸着が行われる過程で、防汚層形成材料が端面4に回り込んで、端面4上に防汚層7が形成される。このようにして、ガラス基体5の第一の主面2から端面4にわたる領域に、反射防止層6が形成される。この場合、反射防止層6および防汚層7が、それぞれの機能を発揮し得る態様で、第一の主面2および端面4上の大部分に備えられる。これにより、端面4でのマイクロクラックの発生を抑制し、ガラス積層体1に高い強度を付与できる。
第二の主面3の面積よりもより小さいキャリア基材10を用いてもよい。この場合、ガラス基体5を、第二の主面3より面積の小さいキャリア基材10上に貼り付けた状態で、例えば、反射防止層6をスパッタリングにより形成し、さらに、防汚層7を蒸着により形成すれば、第二の主面3側の最表面の外周近傍まで、反射防止層6を形成できる。
【0053】
(反射防止層および防汚層の成膜装置の構成)
図6に示される通り、成膜装置は、第一装置31と第二装置32とを有する。本実施形態では、反射防止層6における最表層61の厚さ方向の一部、つまり層上部6Bを除くベース層部6Aを、第一装置31を用いてガラス基体5に成膜し、その後、最表層61の層上部6Bと防汚層7とを第一装置31とは異なる第二装置32で連続的に成膜する。
第一装置31は、チャンバ310と、チャンバ310に回転自在に設けられたドラム311と、ドラム311に取り付けられたガラス基体5に高屈折率層を形成するための高屈折率層用スパッタリング機構312と、低屈折率層を形成するための低屈折率層用スパッタリング機構313とを有する。
【0054】
ドラム311には、複数のガラス基体5が着脱自在に装着される。図6では、キャリア基材10の厚さを薄くし、印刷層8および粘着剤9を省略して図示されている。
高屈折率層用スパッタリング機構312は、Nbを含む反射防止層形成材料をスパッタリングして高屈折率層を成膜する。
低屈折率層用スパッタリング機構313は、酸化ケイ素を含む反射防止層形成材料を第一の主面2に向けてスパッタリングして低屈折率層を成膜する。なお、低屈折率層用スパッタリング機構313は、アルミをドープしたAl−SiOを含む反射防止層形成材料をスパッタリングして低屈折率層を成膜するものでもよい。
【0055】
第二装置32は、チャンバ320と、ガラス基体5を着脱自在に取り付ける図示しない被装着部と、ベース層部6Aの上に酸化ケイ素を含む反射防止層形成材料をスパッタリングして層上部6Bを成膜するスパッタリング機構321と、層上部6Bの上に防汚層7を成膜する蒸着機構322とを有する。
スパッタリング機構321は、第一装置31のスパッタリング機構312,313と同様の構造である。
蒸着機構322は、チャンバ320外に被膜形成用組成物を加熱する図示しない加熱容器と、被膜形成用組成物の蒸気をチャンバ320内に供給する図示しない配管と、配管を介して供給される蒸気を噴射する噴射口を有する図示しないマニホールドとを有する。本実施形態では、蒸着機構322は、被膜形成用組成物として、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する防汚材料を蒸着する。
【0056】
(反射防止層の成膜)
まず、ガラス基体5が装着されたドラム311を回転させながら高屈折率層用スパッタリング機構312を作動して、ガラス基体5にそれぞれ所定厚さの高屈折率層、例えば、図2(A)の6番目の層66を形成する。
その後、ドラム311の回転および高屈折率層用スパッタリング機構312の作動を停止し、この後、ドラム311を回転させながら低屈折率層用スパッタリング機構313を作動して、高屈折率層(6番目の層66)の上に、低屈折率層(図2(A)では、5番目の層65)を形成する。そして、ドラム311の回転および低屈折率層用スパッタリング機構313の作動を停止し、その後、上述のように、高屈折率層用スパッタリング機構312と低屈折率層用スパッタリング機構313とを交互に作動させながら、2番の層62まで成膜し、さらに、2番目の層62の上に、最表層61のうちベース層部6Aまでを成膜する。
【0057】
第一装置31での成膜工程が終了し、ベース層部6Aまで反射防止層6が形成されたガラス基体5を、第一装置31から取り出して第二装置32に設置し、残りの成膜工程を実施する。
まず、スパッタリング機構321を作動して、ベース層部6Aの上に層上部6Bを成膜する。この成膜のとき、第二装置32のチャンバ320内には、従前に行われた蒸着機構322による蒸着工程によってフッ素原子が存在するため、このフッ素原子がベース層部6Aと層上部6Bの境界部に取り込まれる。その結果、最表層61にフッ素濃度の分布のピークPが存在する反射防止層6が形成される。
【0058】
このような反射防止層6の成膜において、スパッタリング法を用いることで、緻密で耐久性の高い膜を形成できる。特に、パルススパッタリング法、ACスパッタリング法、デジタルスパッタリング法等のスパッタリング法により成膜することが好ましい。
例えば、パルススパッタリング法により成膜する場合は、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気のチャンバ内に、ガラス基体5を配置し、反射防止層形成材料として、所望の組成となるようにターゲットを選択して成膜する。このとき、チャンバ内の不活性ガスのガス種は、例えば、アルゴンやヘリウム等、各種不活性ガスを使用できる。
【0059】
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力は、0.5Pa以下の範囲とすることにより、形成される膜の表面粗さを好ましい範囲とすることが容易である。これは、以下に示す理由によると考えられる。すなわち、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力が0.5Pa以下であると、成膜分子の平均自由行程が確保され、成膜分子がより多くのエネルギーをもって基体に到達する。そのため、成膜分子の再配置が促され、比較的密で平滑な表面の膜ができると考えられる。不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力の下限値は、例えば、0.1Pa以上であることが好ましい。
【0060】
また、加熱やプラズマに晒されることで、粘着剤に含まれる炭素成分が揮発して、酸化ケイ素層に取り込まれることから、粘着剤を構成する材料を選択して、フッ素(F)等を、酸化ケイ素層中に取り込ませた層を形成することも可能である。また、粘着剤以外の、酸化ケイ素層中に取り込ませようとする元素を含む材料を用い、当該材料が熱やプラズマに晒される状態で、酸化ケイ素層を形成すれば、当該元素を取り込んだ酸化ケイ素層を形成できる。
パルススパッタリング法により高屈折率層および低屈折率層を成膜する場合、各層の層厚の調整は、例えば、放電電力の調整、成膜時間の調整等により可能である。
【0061】
(防汚層の成膜)
次に、反射防止層6が形成されたガラス基体5を、図示しない搬送手段により図6の第二装置32中で左側から右側に搬送し、蒸着機構322による蒸着工程を行うことで、含フッ素有機ケイ素化合物を含む防汚層7を成膜する。
防汚層7を成膜するとき、チャンバ320内の圧力は、生産安定性の観点から、1Pa以下に維持されることが好ましく、0.1Pa以下がより好ましい。この圧力であれば、抵抗加熱法による真空蒸着を問題なく実施できる。
また、加熱容器による被膜形成用組成物の加熱温度は30℃〜400℃が好ましく、150℃〜350℃が特に好ましい。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、成膜速度が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解が生じることなく、ガラス基体5の第一の主面2上に防汚性を有する被膜を形成できる。
ここで、上述の方法においては、真空蒸着の際に、加熱容器内の含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を蒸着開始温度まで昇温した後、その蒸気を所定の時間、系外に排出する前処理を設けることが好ましい。この前処理により、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が通常含有する、得られる被膜の耐久性に影響を与える低分子量成分等を除去でき、さらには、蒸着源から供給する原料蒸気の組成の安定化が可能となる。これにより、耐久性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を安定して形成することが可能となる。また、真空蒸着時における、ガラス基体5の温度は室温(20〜25℃)から200℃までの範囲であることが好ましい。ガラス基体5の温度が200℃以下であると、成膜速度が良好になる。ガラス基体5の温度の上限値は150℃がより好ましく、100℃が特に好ましい。
【0062】
このようにして、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物が、ガラス基体5の反射防止層6上に付着される。さらに付着と同時にまたは付着後、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が加水分解縮合反応することにより、反射防止層6に化学結合するとともに、分子間でシロキサン結合して含フッ素有機ケイ素化合物被膜となる。
含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解縮合反応は、付着と同時に上記反射防止層6の表面で進行するが、さらにこの反応を十分に促進させるために、必要に応じて、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成されたガラス基体5を、チャンバ320から取り出した後、ホットプレートや恒温恒湿槽を使用した加熱処理を行ってもよい。加熱処理の条件としては、例えば、80〜200℃の温度で10〜60分間の加熱処理が挙げられる。
このようにして得られるガラス積層体1は、撥水性や撥油性等の防汚性に優れるとともに、防汚層が高い耐摩耗性を有するものである。ガラス積層体1を備えてディスプレイ用前面板1Aが構成される。
【0063】
(防眩処理)
ガラス基体5に防眩処理を行うこともできる。防眩処理として、例えば、ガラス基体5の第一の主面2に化学的な方法、または物理的な方法で表面処理を施し、所望の表面粗さの凹凸形状を形成する方法を使用できる。また、防眩処理として、ガラス基体5の第一の主面に防眩膜用の塗布液を塗布または噴霧して、ガラス基体5上に防眩膜を堆積させて、凹凸形状を付与してもよい。
化学的な方法による防眩処理として、具体的には、フロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基体5を浸漬して行われる。
物理的方法による防眩処理として、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基体5の表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせて、これを用いてガラス基体5表面を研磨する方法等で行われる。
中でも、化学的表面処理であるフロスト処理は、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、ガラス基体5の強度の低下が生じ難いため、好ましく利用できる。
【0064】
防眩処理を施したガラス基体5の第一の主面2に対して、その表面形状を整えるためのエッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理としては、例えば、ガラス基体5を、フッ化水素の水溶液であるエッチング溶液に浸漬して、化学的にエッチングする方法を使用できる。エッチング溶液には、フッ化水素以外にも、塩酸、硝酸、クエン酸などの酸が含有されていてもよい。エッチング溶液に、これらの酸を含有させることで、ガラス基体5に含有されるNaイオン、Kイオン等の陽イオン成分とフッ化水素との反応による、析出物の局所的な発生を抑制できるほか、エッチングを処理面内で均一に進行させられる。
エッチング処理を行う場合、エッチング溶液の濃度や、エッチング溶液へのガラス基体5の浸漬時間等を調節して、エッチング量を調節し、これによりガラス基体5の防眩処理面のヘイズ値を所望の値に調整できる。また、防眩処理を、サンドブラスト処理等の物理的表面処理で行った場合、クラックが生じることがあるが、エッチング処理によってこのようなクラックを除去できる。また、エッチング処理によって、ガラス積層体1のギラツキを抑えるという効果も得られる。ガラス基体5は、所望の大きさに切断される場合、上記防眩処理を行った後、次の化学強化処理を行う前に切断されることが好ましい。
【0065】
防眩処理として、防眩膜用の塗布液を塗布する方法としては、公知のウェットコート法であり、スプレーコート法、静電塗装法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等を使用できる。
中でもスプレーコーティング法や静電塗装法は、防眩膜を堆積する優れた方法として挙げられる。防眩膜用の塗布液を用い、スプレー装置によりガラス基体5に処理して防眩膜を形成でき、ガラス基体5の防眩処理ができる。スプレーコーティング法によれば、広い範囲でヘイズ値などを変更できる。これは塗布液の塗布量、材料構成を自由に変えることで要求特性を得るのに必要な凹凸形状を比較的に容易に作製できるためである。特に静電塗装法はより好ましい。
【0066】
防眩膜用の塗布液には、粒子を含んでもよい。粒子としては金属酸化物粒子、金属粒子、顔料系粒子、樹脂系粒子などを使用できる。
金属酸化物粒子の材料としては、Al、SiO、SnO、TiO、ZrO、ZnO、CeO、Sb含有SnO(アンチモン含有酸化スズ、ATO)、Sn含有In(ITO)、RuO等が挙げられる。屈折率がマトリックスと同じため、SiOが好ましい。
金属粒子の材料としては、金属(Ag、Ru等)、合金(AgPd、RuAu等)等が挙げられる。
顔料系粒子としては、チタンブラック、カーボンブラック等の無機顔料、有機顔料が挙げられる。
樹脂粒子の材料としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、メラニン樹脂等が挙げられる。
【0067】
粒子の形状としては鱗片状、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、不定形状等が挙げられる。他の粒子は、各粒子が独立した状態で存在していてもよく、各粒子が鎖状に連結していてもよく、各粒子が凝集していてもよい。
粒子は、中実粒子でもよく、中空粒子でもよく、多孔質粒子等の穴あき粒子でもよい。
鱗片状粒子としては、鱗片状シリカ(SiO)粒子、鱗片状アルミナ(Al)粒子、鱗片状チタニア(TiO)、鱗片状ジルコニア(ZrO)等が挙げられ、膜の屈折率上昇を抑え、反射率を下げられる点から、鱗片状シリカ粒子が好ましい。
他の粒子としては、球状シリカ粒子、棒状シリカ粒子、針状シリカ粒子等のシリカ粒子が好ましい。中でも、防眩膜付き基材のヘイズが充分に高くなり、かつ防眩膜の表面における60゜鏡面光沢度が充分に低くなり、その結果、防眩効果が充分に発揮される点から、球状シリカ粒子が好ましく、多孔質球状シリカ粒子がより好ましい。
【0068】
静電塗装法では、静電塗装ガンを備える静電塗装装置を用いて、防眩膜用塗布液を帯電させて噴霧する。静電塗装ガンから噴霧された防眩膜用塗布液の液滴は、マイナス電荷を帯びているため、接地されたガラス基材に向かって静電引力によって引き寄せられる。そのため、帯電させずに噴霧する場合に比べて、ガラス基体5上に効率よく付着する。
防眩処理方法は1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。例えば、エッチング処理、塗布液を用いたスプレーコーティング法などによる防眩処理は、通常それぞれ単独で実施するが、併用しても構わない。
【0069】
(化学強化処理)
ガラス基体5に化学処理強化を行うこともできる。化学強化処理方法としては、ガラス基体5の表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する方法が挙げられる。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、ガラス基体5の表面のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン、例えば、Liイオン、Naイオンを、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン、例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオン、Naイオンに対してはKイオンに置換する。これにより、ガラス基体5の表面に圧縮応力が残留し、ガラス基体5の強度を向上させる。
【0070】
(印刷層の形成)
ガラス基体5に印刷層を形成することもできる。例えば、ガラス基体5の第二の主面3側に例えばインクが印刷され、印刷層8が形成される。印刷法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法、インクジェット法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基材に印刷でき、またガラス基体5のサイズに合わせて印刷可能であることから、スクリーン印刷法が好ましい。印刷層8は複数の層を積層した複層からなってもよく、単一の層からなってもよい。印刷層8が複層からなる場合、印刷層8は、上記インクの印刷、乾燥を繰り返すことで形成できる。
【0071】
[ガラス積層体の作用効果]
ガラス積層体1は、ガラス基体5と、ガラス基体5の2つの主面のうち少なくとも一方の主面に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層6と、反射防止層6に接する防汚層7とを備え、反射防止層6におけるガラス基体5から最も離れた最表層61は、主成分がSiOの低屈折率層であり、反射防止層の厚さ方向におけるフッ素濃度の分布が、最表層61の内部においてピークを有する。最表層61は、主成分がSiOであるので、圧縮応力が強くなって、膜剥がれが生じるおそれがあるが、最表層61にフッ素濃度の分布のピークが存在することで、最表層61の中で応力がいったん緩和されることになる。したがって膜全体の応力で見ると、フッ素ピークがない時に比べて小さな値となり、傷がガラス基体側の高屈折率層まで伝播することが抑制され、反射防止層の耐久性が向上する。
[ガラス積層体の製造方法の作用効果]
ガラス積層体の製造方法は、ガラス基体5と、ガラス基体5の2つの主面のうち少なくとも一方の主面に設けられ低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された反射防止層6と、反射防止層6に接しフッ素原子を含む防汚層7とを備え、反射防止層6におけるガラス基体5から最も離れた最表層61の主成分がSiOの低屈折率層であるガラス積層体1を製造する方法であって、反射防止層6における最表層61の厚さ方向の一部を除く層を、第一装置31を用いてガラス基体5に成膜し、その後、最表層61の厚さ方向の一部と、防汚層7とを第一装置31とは異なる第二装置32で連続的に成膜した。第二装置32で、SiO2を主成分とする層上部6Bを、既に成膜された部分の上に成膜する際に、第二装置32のチャンバ320内に残存するフッ素原子が最表層61のベース層部6Aと層上部6Bの境界付近に含まれることになり、最表層61にフッ素濃度の分布のピークが存在する。したがって、上述の効果を有するガラス積層体1を製造するにあたり、フッ素を供給する装置を別途用いることを要しないので、成膜のための装置を簡易なものにできる。
【0072】
[表示装置]
以上の工程で製造されたガラス積層体1を備えた表示装置11の一例について、図7に基づいて説明する。本実施形態における表示装置として、車載用のカーナビゲーションシステムのような表示装置、スマートフォンのような携帯用表示装置を例示できる。
図7で示される表示装置11は、車載用表示装置の一例である。表示装置11は、フレーム15を備える。フレーム15は、底部151と、底部151に対して交差する側壁部152と、底部151に対向する開口部153とを備える。底部151と側壁部152とで囲まれた空間には、液晶モジュール16が配置されている。液晶モジュール16は、例えば、底部151側に配置されたバックライト161と、バックライト161上に配置された表示パネルとしての液晶パネル162とを備える。液晶パネル162は、例えば、IPS液晶を備え、タッチ機能を有する素子が液晶素子に埋め込まれたインセル型である。
【0073】
フレーム15の上端には、ガラス積層体1を備えたディスプレイ用前面板1Aが設けられている。ディスプレイ用前面板1Aは、開口部153および側壁部152の上端面に設けられた接着層17を介して、フレーム15と液晶モジュール16に貼合されている。
なお、接着層17は、透明で、化学強化ガラスとの屈折率差が小さいことが好ましい。接着層17としては、例えば、液状の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる透明樹脂からなる層が挙げられる。硬化性樹脂組成物としては、例えば、光硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物等が挙げられ、その中でも、硬化性化合物および光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物が好ましい。硬化性樹脂組成物を、例えば、ダイコータ、ロールコータ等の方法を用いて塗布し、硬化性樹脂組成物膜を形成する。
接着層17は、OCAフィルム(OCAテープ)であってもよい。
【0074】
[ガラス基体の変形]
(組成)
ガラス基体5のガラスの組成は、成形、化学強化処理による強化が可能な組成であることが好ましく、ナトリウム、リチウム等のイオン半径の小さいアルカリ金属を含んでいることが好ましい。このようなガラスとして、具体的に例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラスを用いることが好ましい。
ガラス基体5のガラス組成としては、種々の組成を有するガラスを使用できる。ガラス組成として、例えば、以下のガラス組成が挙げられる。なお、いずれも、アルミノシリケートガラスである。
(i)モル%で表示した組成で、SiOを50〜80%、Alを2〜25%、LiOを0〜10%、NaOを0〜18%、KOを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrOを0〜5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiOを50〜74%、Alを1〜10%、NaOを6〜14%、KOを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrOを0〜5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiOを68〜80%、Alを4〜10%、NaOを5〜15%、KOを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrOを0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiOを67〜75%、Alを0〜4%、NaOを7〜15%、KOを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrOを0〜1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71〜75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
ガラス基体5としては、視認性を妨げない程度であれば着色成分(Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、およびNdの金属酸化物)を含有するガラスを使用してもよい。
【0075】
(製造方法)
ガラス基体5の製造方法は、例えば、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。
ガラス基体5の成形方法については、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等のダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を使用できる。
(化学強化処理)
ガラス基体5は、物理強化処理または化学強化処理により強化されていることが好ましく、化学強化処理されていることがより好ましい。
化学強化処理が施されたガラス基体5は、例えば、表面圧縮応力(CS)が450MPa〜1200MPa、応力層の深さ(DOL)が10μm〜50μmである。
【0076】
(防眩性の付与)
ガラス積層体1において、用いられるガラス基体5の第一の主面2は、ガラス積層体1に防眩性を付与するための凹凸形状を有することが好ましい。
凹凸形状は、例えば、防眩処理およびエッチング処理によって付与される。凹凸形状を有する第一の主面2の形状としては、表面粗さは、二乗平均粗さ(RMS)で、10〜1500nmであることが好ましく、10nm〜1000nmであることがより好ましく、10nm〜500nmであることがさらに好ましく、10nm〜200nmであることがとくに好ましい。RMSが上記した範囲であることで、凹凸形状を有する第一の主面2のヘイズ値を3〜30%に調整でき、その結果、得られるガラス積層体1に優れた防眩性を付与できる。
【0077】
[防汚層の変形]
本発明では、防汚層7を形成するための被膜形成用組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、真空蒸着法による被膜形成が可能な組成物であればよい。被膜形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素加水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、および、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、用いる部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、真空蒸着が可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
【0078】
含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであればよい。
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物として、KP−801(商品名、信越化学工業社製)、X−71(商品名、信越化学工業社製)、KY−130(商品名、信越化学工業社製)、KY−178(商品名、信越化学工業社製)、KY−185(商品名、信越化学工業社製)、KY−195(商品名、信越化学工業社製)、Afluid(登録商標)S−550(商品名、旭硝子社製)、オプツ−ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY−185、KY−195、オプツ−ルDSX、S−550を用いることがより好ましい。
【0079】
なお、市販品の含フッ素加水分解性ケイ素化合物について、これが溶剤とともに供給される場合には、溶剤を除去して使用される。本発明に用いる、被膜形成用組成物は、上記含フッ素加水分解性ケイ素化合物と必要に応じて添加される任意成分を混合して調製され、真空蒸着に供される。
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を、反射防止層6表面に付着させ反応させて成膜して、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。なお、具体的な真空蒸着方法、反応条件については従来公知の方法、条件等が適用可能である。
【0080】
(反射防止層および防汚層の成膜方法の変形)
反射防止層6の最表層61のうちベース層部6Aと、最表層61の層上部6Bおよび防汚層7とを、第一装置31と第二装置32に分けて成膜したが、これらの成膜を1つの装置で実施してもよく、さらには、反射防止層と防汚層とを分けて成膜してもよい。この場合、必要に応じてフッ素を装置の内部に供給するものでもよい。例えば、反射防止層を1つの装置で成膜する場合、ベース層部6Aまでは通常通り行い、層上部6Bを成膜する際に、フッ素を装置に供給する構成としてもよい。
また、酸化ケイ素層中にフッ素原子を含有させる場合には、キャリア基材10の、ガラス基体5が貼り付けられる側の主面上に、ガラス基体5とは別に、フッ素を含有する粘着剤、または粘着剤9以外のフッ素含有材料を配置させてもよい。また、フッ素含有材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)樹脂等のフッ素含有樹脂や、フッ素含有グリースを使用できる。この場合、フッ素含有樹脂の形状は、フィルム状やブロック状など、製造条件などにあわせて適宜設計できる。
【0081】
反射防止層6の各層を成膜する方法はスパッタリング法に限定されず、他の成膜方法、例えば、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、プラズマCVD法等を使用できる。
防汚層7を形成するための方法は蒸着法に限定されない。すなわち、含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する方法としては、パーフルオロアルキル基;パーフルオロ(ポリオキシアルキレン)鎖を含むフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の組成物を、ガラス基体5の第一の主面2上に形成された反射防止層6の表面に、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布した後必要に応じて加熱処理する方法、または含フッ素有機ケイ素化合物を反射防止層6の表面に気相蒸着させた後必要に応じて加熱処理する真空蒸着法等が挙げられる。密着性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を得るには、真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法による含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を用いて行うことが好ましい。
【0082】
(反射防止層および防汚層の成膜箇所の変形)
本発明では、反射防止層6および防汚層7はそれぞれ、ガラス基体5の第一の主面2に代えてまたは、第一の主面2に加えて、第二の主面3側に設けられるものでもよい。この場合、端面4まで反射防止層6および防汚層7を設けるものであってもよい。
【実施例】
【0083】
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
例1〜例9は本発明の実施例であり、例10〜例11は比較例である。
ガラス基体として、厚さ1.3mmの、対向する一対の主面が四角形の板状ガラスDT(強化処理を実施していないDragontrail(登録商標)、旭硝子社製、化学強化用アルミノシリケートガラス)を用い、以下の各例の手順で、それぞれガラス積層体を得た。
反射防止層および防汚層の膜厚については、各層の屈折率が既知であることから、分光反射率を用いて膜厚を測定した。
【0084】
(例1)
ガラス基体に次のように(1)防眩処理、(2)化学強化処理、(3)アルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成、(5)反射防止層(低反射膜)の形成、(6)防汚層の形成をその順に以下の手順で行い、ガラス積層体を得た。
(1)防眩処理(AG)
ガラス基体の第一の主面に以下の手順により、フロスト処理による防眩処理を施した。
まず、耐酸性の保護フィルムを、ガラス基体の防眩処理を施さない第二の主面に貼合した。次いで、このガラス基体を3質量%のフッ化水素水溶液に3分間浸漬し、ガラス基体の第一の主面の表面をエッチングして表面に付着した汚れを除去した。次いでガラス基体を15質量%フッ化水素、15質量%フッ化カリウム混合水溶液に3分間浸漬し、ガラス基体の第一の主面の表面に対してフロスト処理を行った。このガラス基体を10質量%フッ化水素水溶液に6分間浸漬して第1面表面のヘイズ値を25%に調整した。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136に拠り、ヘイズメータ(商品名:HZ-V3、スガ試験機社製)を用いて測定した。
上記で防眩処理のされたガラス基体を、150mm×250mmの大きさに切断し、その後、化学強化処理を行った。
【0085】
(2)化学強化処理
上記でガラス基体に貼り付けた保護フィルムを除去した後、450℃に加熱・溶解させた硝酸カリウム塩にガラス基体を2時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷して化学強化ガラス基体を得た。こうして得られた化学強化ガラス基体の表面圧縮応力(CS)は730MPa、応力層の深さ(DOL)は30μmである。
(3)アルカリ処理
次いで、このガラス基体を、アルカリ溶液(ライオン社製、サンウォッシュTL−75)に4時間浸漬して、表面の汚れを除去した。
【0086】
(4)黒色印刷層の形成
次いで、以下の手順により、ガラス基体の防眩処理がなされていない第二の主面の周辺部の四辺に、スクリーン印刷によって2cm幅の黒枠状に印刷を施し、黒色印刷層を形成した。まず、スクリーン印刷機により、顔料を含む有機系インクである黒色インク(商品名:GLSHF、帝国インキ製)を5μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上記と同じ手順で、上記同様の黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。このようにして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された黒色印刷層を形成し、第二の主面の外側周辺部に黒色印刷層を備えたガラス基体を得た。
【0087】
(5)反射防止層の形成
次に、以下の方法で、防眩処理がなされている第一の主面側と側面に反射防止層を形成した。例1では、3つの高屈折率層と3つの低屈折率層との合計6層から反射防止層を形成した(図2(A)参照)。
まず、ガラス基体の第二の主面の黒色印刷層上に、粘着剤として、幅20mm×長さ400mmのポリイミドの両面テープ(商品名:No6500、日立マクセル社製)を貼りつけ、ガラス基体を、厚さ2mm、300mm×1000mm角の、上記ガラス基体よりも大きなキャリア基材に貼りつけた。
【0088】
次に、ガラス基体をキャリア基材に貼りつけた状態でドラムに装着し、第一装置を作動してガラス基体にベース層部まで反射防止層を成膜した。
まず、酸化ニオブターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス社製)が設置された高屈折率層用スパッタリング機構を用いて、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、圧力0.3Pa、周波数20kHz、成膜パワー3.8W/cm、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、厚さ13nmの酸化ニオブを主成分とする高屈折率層として、図2(A)における6番目の層66を形成した。なお、成膜パワーは以後の工程でも同じ3.8W/cmである。
次いで、アルミが10質量%添加されたシリコンターゲット(SOLERAS社製)が設置された低屈折率層用スパッタリング機構を用いて、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、パルススパッタリングを行い、6番目の層66の上に厚さ45nmのアルミドープされた酸化ケイ素(Al−SiO)を主成分とする低屈折率層として、5番目の層65を形成した。
【0089】
次いで、6番目の層66と同様にして、5番目の層65の上に、厚さ22nmの酸化ニオブを主成分とする高屈折率層として、4番目の層64を形成した。次いで、5番目の層65と同様にして、4番目の層64の上に、厚さ27nmのAl−SiOを主成分とする低屈折率層として、3番目の層63を形成した。さらに、4番目の層64と同様にして、3番目の層63の上に、厚さ25nmの酸化ニオブを主成分とする高屈折率層として、2番目の層62を形成し、3番目の層と同様にして、2番目の層62の上に、厚さ58nmのAl−SiOを主成分とする最表層のうち一部を除いた部分、つまり、最表層のベース層部6Aを形成した。
【0090】
その後、ベース層部6Aまで形成された反射防止層6を有するガラス基体を、第二装置32に配置し、残りの成膜工程を実施した。
まず、第二装置のスパッタリング機構を作動してベース層部の上に厚さ30nmのSiOを主成分とする層上部6Bを成膜することで、厚さ58nmのベース層部6Aと、厚さ30nmの層上部6Bとからなる厚さ88nmの最表層61を形成した。なお、例1から例9において、層上部6Bは、後述する防汚層の下地層となる。例1では、下地層は、厚さ30nmである。
このようにして、酸化ニオブを主成分とする3つの高屈折率層とAl−SiOを主成分とする3つの低屈折率層と、最表層の表層側はSiOからなる総計6層の反射防止層を形成した。
【0091】
(6)防汚層(AFP層)の形成
次に、第二装置の蒸着装置を作動して最表層の層上部の上に防汚層を形成した。
まず、防汚層の材料として、含フッ素有機ケイ素化合物膜の形成材料を、第二装置の加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行い、含フッ素有機ケイ素化合物膜の形成用組成物(以下、防汚層形成用組成物という。)とした。防汚層形成用組成物として、KY−185(信越化学工業社製)を用いた。
次いで、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。270℃に到達後は、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、反射防止層が形成されたガラス基体を真空チャンバ内に設置した後、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器に接続されたマニホールドから、ガラス基体の反射防止層に向けて防汚層形成用組成物を供給し、成膜を行った。
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、反射防止層上のフッ素含有有機ケイ素化合物膜の厚さが4nmになるまで行った。次いで、真空チャンバから取り出されたガラス基体を、フッ素含有有機ケイ素化合物膜面を上向きにしてホットプレートに設置し、大気中150℃で60分間加熱処理を行った。
【0092】
(例2)
高屈折率層および低屈折率層をそれぞれ2層ずつにしたこと、および、各層の厚さ以外は例1と同じ条件で、例2のガラス積層体を形成した。4番目の層を13nm、3番目の層を35nm、2番目の層を115nm、最表層を80nmにし、最表層のうち層上部を10nmにした。層上部は、下地層である。
【0093】
(例3)
低屈折率層の主成分および最表層を構成する各部の厚さ以外は、例2と同じ条件で、例3のガラス積層体を形成した。低屈折率層である最表層と3番目の層の主成分をSiO(酸化ケイ素)にした。この酸化ケイ素を主成分とする低屈折率層の形成には、シリコンターゲット(AGCセラミックス社製)を用いた。また、最表層を80nmにし、そのうち、層上部を30nmにした。
(例4)
低屈折率層である最表層のベース層部と3番目の層の主成分を酸化ケイ素にしたこと以外は例2と同じ条件で、例4のガラス積層体を形成した。
【0094】
(例5)
高屈折率層および低屈折率層をそれぞれ5層ずつにしたこと、および、各層の厚さ以外は例3と同じ条件で、例5のガラス積層体を形成した。高屈折率層である10番目、8番目、6番目、4番目、2番目の層をそれぞれ13nm、110nm、10nm、10nm、100nmにし、低屈折率層である9番目、7番目、5番目、3番目の層、最表層をそれぞれ32nm、32nm、97nm、25nm、77nmにし、最表層のうち層上部を30nmにした。
【0095】
(例6)
防眩処理をしていないこと以外は例3と同じ条件で、例6のガラス積層体を形成した。
【0096】
(例7)
高屈折率層および低屈折率層をそれぞれ1層ずつにしたこと、および、各層の厚さ以外は例3と同じ条件で、例7のガラス積層体を形成した。2番目の層を115nm、最表層を110nmにし、最表層のうち層上部を30nmにした。
【0097】
(例8)
高屈折率層および低屈折率層をそれぞれ3層ずつにしたこと、および、各層の厚さ以外は例1と同じ条件で、例8のガラス積層体を形成した。6番目の層を13nm、5番目の層を45nm、4番目の層を22nm、3番目の層を27nm、2番目の層を25nm、最表層を120nmにし、最表層のうち層上部を30nmにした。
【0098】
(例9)
層の数は例8と同じ条件で、例9のガラス積層体を形成した。6番目の層を13nm、5番目の層を25nm、4番目の層を30nm、3番目の層を25nm、2番目の層を15nm、最表層を70nmにし、最表層のうち層上部を30nmにした。また、最表層のベース層部、3番目の層、5番目の層の主成分をAl−SiOとした。
【0099】
(例10)
低屈折率層である最表層の形成方法、最表層の構成、および防汚層の形成方法以外は例3と同じ条件で、例10のガラス積層体を形成した。第一装置を用いて最表層全体を形成し、その厚さを80nmにした。
【0100】
(例11)
低屈折率層である最表層の形成方法、最表層の構成、および防汚層の形成方法以外は、例2と同じ条件で、例11のガラス積層体を形成した。第一装置を用いて最表層全体を形成し、その厚さを80nmにした。
【0101】
例1から例11で得られたガラス積層体について、次のような評価を行った。
(反射防止層におけるフッ素濃度等のピークの測定)
まず、ガラス積層体に形成された防汚層や、表面有機汚染を除去する。そのため、酸素プラズマ処理を実施し、その後、紫外線(UV)オゾン処理を実施した。これらは、防汚層の膜厚や表面汚染の度合いによってはどちらか一方の処理でもよい。
酸素プラズマ処理では、低温灰化装置(LTA−102型、ヤナコ分析工業株式会社製)を用いた。処理条件は、高周波出力:50W、酸素流量:50ml/min、処理時間:60分である。
UVオゾン処理では、紫外線照射装置PL30−200(センエンジニアリング株式会社製)を使用し、紫外線照射装置電源としてUB2001D−20を使用した。処理条件は、紫外線波長:254nm、処理時間:10分である。
UVオゾン処理の終了後のガラス積層体について、X線光電子分光法でフッ素のピークがないことを確認することにより、表面の防汚層が除去されていることを確認できる。
【0102】
次に、以下の手順にしたがって、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Mass Spectrometry)にて、ガラス積層体の測定を行う。
評価対象の試料をSIMS装置内へ搬送し順番に測定を行い、フッ素(19)およびケイ素(30Si)、酸素が付加したニオブ(93Nb16)、アルミニウム(27Al)、酸素(18)の二次イオン強度の深さ方向プロファイルを取得する。SIMSの測定には、ADEPT1010(アルバック・ファイ社製)を用いる。SIMSの測定条件は、一次イオン種としてCsを用い、加速電圧:5kV、電流値:50nA、入射角:試料面の法線に対して60°、一次イオンのラスターサイズ:400μm×400μmで一次イオン照射を行う。二次イオンの検出については、検出領域を80μm×80μm(一次イオンのラスターサイズの4%)、検出器のField Apertureを1、測定した二次イオンのField Axis Potensitalは、いずれも0に設定し、極性がマイナスの二次イオンを検出する。この際、中和銃を使用する。なお、測定精度を確保するために、装置内を極力高真空にしておくことが好ましい。今回のSIMSの測定開始前のメインチャンバーの真空度は3.0×10−7Paであった。装置真空度と同様、測定精度を確保するために、極力スパッタレートの高い条件で測定を行うことが好ましい。
SIMSによる例1の測定結果を図8のグラフに示す。図8のグラフは、SIMSからの出力に基づいて、反射防止層の表面からの深さをX軸で示し、二次イオン強度をY軸で示したものである。また、61は最表層に対応する位置を示し、62から66は2番目から6番目の層に対応する位置を示し、67はガラス基体5に対応する位置を示す。なお、例2から例11においても、例1と同様に、SIMSによる測定結果を求める。
【0103】
次いで、以下に示す手順で、最表層61におけるフッ素濃度の分布、つまり、二次イオン強度曲線のピークPの有無を確認した。
まず、最表層におけるフッ素濃度の分布のピークPの定義を図9に基づいて説明する。図9図8の要部を拡大した図である。
1) 最表層61のケイ素(30Si)の二次イオン強度および酸素(18)の二次イオン強度が反射防止層の表面から深さの方向、つまり、ガラス基体の方向に向かってみたときに、変化が少なく、いわば、横ばいになり始めた測定点において、Y軸と並行に直線LAを設定し、直線LAとフッ素(19)の二次イオン強度の交点をAとする。
2) 2番目の層62の酸素が付加されたニオブ(93Nb16)の二次イオン強度が急激に大きくなって立ち上がる点であって、近傍に最表層61のケイ素(30Si)が低下してくる点に、Y軸と並行に直線LBを設定し、直線LBとフッ素(19)の二次イオン強度曲線の交点をBとする。
3) 交点Aと交点Bを直線で結ぶ範囲のフッ素の二次イオン強度曲線に対して、下から接する直線LCを設定する。ここで、直線LCが下から接する点とは、二次イオン強度曲線上の2つの極小値であって、これらの極小値を結んだ直線に、二次イオン強度曲線が交差しない点である。図9では、交点Aと交点Bとの間において、二次イオン強度曲線に2つの極小値があり、これらの極小値を下から結ぶ線分が直線LCである。二次イオン強度曲線が複雑であり、接する2つの点を結ぶ直線が複数ある場合、2点間の距離が最も大きい直線が直線LCである。
4) 3)で設定した直線LCとフッ素(19)の二次イオン強度曲線との2つの接点C,Dの区間内、つまり、接点Cから接点Dの間で、フッ素(19)の二次イオン強度曲線の極大値を与える点を求める。極大値の候補となる点が複数ある場合は、3)で設定した直線LCからY軸上において最も離れている点を極大値を与える点と特定する。
5) 4)で設定した極大値を与える点と、3)で設定した直線LCのうち極大値の深さに対応する点との間を二等分し、その2等分した点、つまり、点Eを通るように3)で設定した直線LCに平行な直線LEを設定する。
6) 接点Cと接点Dの間で、5)で設定した直線LEが、フッ素の二次イオン強度曲線と1または2点で交わる場合、4)で設定した極大値を与える点をピークPとする。これに対して、フッ素(19)の二次イオン強度曲線と直線LEとが3点以上で交わる場合や、二次イオン曲線がなだらかに変化して極小値を持たない場合には、ピークPは存在しないことになる。
例2から例11についても、例1と同様の濃度測定を行った。
【0104】
(傷つき擦り耐性の測定)
例1から例11のガラス積層体の反射防止層にカッターで傷をつけた。このとき、例1から例9のガラス積層体には、防汚層を介して反射防止層に到達する傷を付けた。次に1cmの圧子にワイパー(小津産業株式会社製 シェルパー)を巻きつけ、20Nの荷重をかけて、50mm/secのスピード、40mmのストロークで1分間、ガラス積層体を擦った。擦り試験後、傷付近から膜が剥がれていないか、100倍の顕微鏡で確認した。その結果を表1および表2に示す。表1および表2において、膜が剥がれていない状態を「OK」で示し、剥がれている状態を「NG」で示す。
【0105】
(視感反射率の測定)
ガラス積層体の黒色印刷層に対向する領域について、分光測色計(形式:CM−2600d、コニカミノルタ製)により、分光反射率をSCIモードで測定し、その分光反射率から、視感反射率(JIS Z8701において規定されている反射の刺激値Y)を求めた。その結果を表1および表2に示す。
【0106】
例1から例11におけるガラス積層体に対する各処理の内容および評価結果を表1および表2に示す。表1および表2において、防眩処理、化学強化処理の欄は、処理を行った場合を「有り」、行わない場合を「無し」で表わす。また、黒色印刷層の欄は、黒色印刷層を形成した場合を「有り」、行わない場合を「無し」で表わす。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
図8に示される通り、反射防止層の厚さ方向におけるフッ素の二次イオン強度は、最表層61の内部においてピークPを有していた。また、フッ素Fの濃度は、最表層61に比べて2番目の層62で低くなり、3番目の層63で2番目の層62と最表層61との間の値となり、4番目の層64で3番目の層63より低くなり、5番目の層65で3番目の層63とほぼ同じ値となっていた。
【0110】
アルミニウムAlの二次イオン強度は、最表層61に対して2番目の層62が低くなり、3番目の層63が高くなり、3番目の層に対して4番目の層が低くなり、4番目の層に対して5番目の層が高くなり、5番目の層に対して6番目の層が低くなっていた。
酸素(O)の二次イオン強度は、各層でほぼ同じであるが、最表層61と2番目の層62との境界部分、3番目の層63と4番目の層64との境界部分で、若干高くなる。
酸素(O)が付加されたニオブ(Nb+O)の二次イオン強度は、最表層61で低い値を示すが、最表層61と2番目の層62との境界部分で高くなり、2番目の層62から3番目の層63の途中まで低くなるが、そこから3番目の層63と4番目の層64との境界部分にしたがって再度、高くなり、5番目の層65の途中にかけて再度低くなり、6番目の層66では再度高くなる。
【0111】
また、例1から例9までは、最表層においてフッ素Fの二次イオン強度のピークが見られたが、例10と例11とでは、フッ素Fの二次イオン強度のピークが見られなかった。
このようなフッ素Fの二次イオン強度に差が出た理由は、以下のように考えられる。
例1から例9は、反射防止層における最表層のベース層部を第一装置で成膜し、層上部を第二装置で成膜したため、防汚層の成膜後に第二装置内に残留したフッ素原子が層上部に取り込まれ、その結果、最表層61の内部においてピークPが存在することになったと考えられる。一方、例10および例11は、反射防止層の最表層全体を第一装置で成膜したため、最表層61の内部においてピークPが存在しなかったと考えられる。
この結果より、層上部6Bの厚さは5nm以上、60nm以下が好ましいと考えられる。層上部6Bの厚さが5nm以上であれば、防汚層と反応するシラノール基の密度が適切になり、良好な撥水性を発現する。また、層上部6Bの厚さが60nm以下であれば、層上部6B自体の厚さが応力緩和の効果を得る観点で適切である。また好ましくは、層上部6Bの厚さは10nm以上、50nm以下である。より好ましくは層上部6Bの厚さは10nm以上、40nm以下である。最も好ましくは層上部6Bの厚さは10nm以上、30nm以下である。
【0112】
傷つき擦り耐性については、例1から例9のいずれにおいても、膜剥がれがなかったが、例10、例11では、膜剥がれが生じていた。その理由は、以下のように考えられる。
例1から例9は、反射防止層の最表層にフッ素Fの濃度の分布のピークが存在するため、最表層の傷の伸展がフッ素濃度の高い部分で抑制され、その傷がガラス基体側の層まで伝播することが抑制されたためと考えられる。一方、例10および例11は、反射防止層の最表層にフッ素Fの濃度の分布のピークが存在しないため、最表層の傷の伸展が抑制されることがなく、その傷がガラス基体側の層まで伝播したためと考えられる。
視感反射率については、例1から例9のいずれにおいても0.73%から1.20%であり、問題はなかった。
【符号の説明】
【0113】
1…ガラス積層体、2…第一の主面、3…第二の主面、31…第一装置、32…第二装置、4…端面、5…ガラス基体、6…反射防止層、61…最表層、6A…ベース層部、6B…層上部、62…2番目の層、63…3番目の層、64…4番目の層、65…5番目の層、66…6番目の層、7…防汚層、8…印刷層、9…粘着剤、10…キャリア基材、P…ピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9