(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、以下の項などである。なお、化学式において、「Me」はメチルであり、「Ph」はフェニルである。
【0008】
項1. アミノアルキルシラン化合物とモノクロロシラン化合物を、酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上である、3級アミン化合物の存在下で、反応させることによって、N−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0009】
項2. アミノアルキルシラン化合物が、式(1)で表される化合物である、項1に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
式(1)において、
R
1は炭素数1から5のアルキルであり;R
2は、水素、フェニル、または2−アミノエチルであり;mは、1、2、3、4、または5であり;nは、0、1、または2である。
【0010】
項3. 酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上である、3級アミン化合物が、少なくとも1つの酸素を有するアミン化合物、または少なくとも2つの窒素を有する共役系アミン化合物である、項1または2に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0011】
項4. 少なくとも1つの酸素を有するアミン化合物が、4−メチルモルホリンである、項3に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0012】
項5. 少なくとも2つの窒素を有する共役系アミン化合物が、アミジン骨格を有する化合物である、項3に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0013】
項6. アミジン骨格を有する化合物が、式(2)で表される化合物である、項5に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
式(2)において、
R
a、R
c、およびR
dは独立して、炭素数1から5のアルキルまたは炭素数1から5のアルケニルであり;R
bは、水素、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルケニル、または2つの水素が炭素数1から5のアルキルで置き換えられたアミノであり;
R
a、R
b、R
c、およびR
dから選ばれた2つは、お互いに結合して、環を形成してもよい。
【0014】
項7. アミジン骨格を有する化合物が、ヘテロ環化合物である、項5または6に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0015】
項8. アミジン骨格を有する化合物が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンである、項5または6に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
【0016】
項9. 式(3)、式(4)、または式(5)で表される化合物を目的物とする、項1から8のいずれか1項に記載のN−シリルアミノアルキルシラン化合物を製造する方法。
式(3)、式(4)、および式(5)において、
R
1は炭素数1から5のアルキルであり;R
3は水素、炭素数1から5のアルキル、またはフェニルであり;mは、1、2、3、4、または5であり;nは、0、1、または2である。
【0017】
本発明の原料であるアミノアルキルシラン化合物は、式(1)で表される化合物が好ましい。
式(1)において、
R
1は炭素数1から5のアルキルであり;R
2は、水素、フェニル、または2−アミノエチルであり;mは、1、2、3、4、または5であり;nは、0、1、または2である。
【0018】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アニリノプロピルトリエトキシシラン、3-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1−アミノメチルメチルジエトキシシラン、1−アミノメチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルメチルジエトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシランなどを、挙げることができる。
【0019】
もう一方の原料として、モノクロロシラン化合物を用いる。好ましいモノクロロシラン化合物は、式(6)で表される化合物である。
式(6)において、
R
3は、水素、炭素数1から5のアルキル、またはフェニルである。
【0020】
モノクロロシラン化合物は、例えば、トリメチルクロロシラン、ジメチルクロロシラン、エチルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、フェニルジメチルクロロシランなどである。
反応に添加するモノクロロシラン化合物の量は、アミノプロピルシラン化合物中のアミンにおける水素に対して、等倍モル以上であることが好ましい。より好ましくは、1倍モルから3倍モルの範囲であり、さらに好ましくは、1倍モルから2倍モルの範囲である。
【0021】
本発明に用いる3級アミン化合物は、酸解離定数(pKa)が7以上であり、極性表面積(PSA)が12A
2以上である。
酸解離定数(pKa)および極性表面積(PSA)は、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02 (c1994-2016 ACD/Labs)によって、計算することができる。例えば、データベースSciFinder(登録商標)から、それぞれの値を入手することができる。
【0022】
本発明に用いる3級アミン化合物は、脱塩化水素剤として用いるので、塩基であることが必要であり、より強い塩基であることが好ましい。従って、酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上であることが必要である。そして、この強塩基のアミン化合物の置換反応を避けるため、アミンの窒素に直接結合する水素が存在しない方が好ましいので、3級アミンとなる。
【0023】
酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上である、3級アミン化合物は、少なくとも1つの酸素を有するアミン化合物、または少なくとも2つの窒素を有する共役系アミン化合物であることが好ましい。
【0024】
少なくとも1つの酸素を有するアミン化合物は、4−メチルモルホリンが好ましい。
【0025】
少なくとも2つの窒素を有する共役系アミン化合物としては、ヘテロ環化合物、DMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)などが挙げられる。
【0026】
脱塩化水素剤として用いる、少なくとも2つの窒素を有する共役系アミン化合物は、アミジン骨格を有する化合物が好ましい。アミジン骨格を有する化合物としては、式(2)で表される化合物が好ましい。
式(2)において、
R
a、R
c、およびR
dは独立して、炭素数1から5のアルキルまたは炭素数1から5のアルケニルであり;R
bは、水素、炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルケニル、または2つの水素が炭素数1から5のアルキルで置き換えられたアミノであり;
R
a、R
b、R
c、およびR
dから選ばれた2つは、お互いに結合して、環を形成してもよい。
【0027】
式(2)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
【0028】
より好ましく用いられる脱塩化水素剤は、ヘテロ環化合物である。ヘテロ環化合物としては、DBU(登録商標;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン)などが、挙げられる。
最も好ましい脱塩化水素剤は、DBUである。
【0029】
反応に添加する、酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上であるアミン化合物の量は、アミノプロピルシラン化合物中のアミンにおける水素に対して、等倍モル以上であることが好ましい。より好ましくは、1倍モルから3倍モルの範囲であり、さらに好ましくは、1倍モルから2倍モルの範囲である
【0030】
本発明の反応において、溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、ベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの炭化水素系非極性溶媒が好ましい。用いる溶媒の量は、反応系内で生成するアミンの塩酸塩のスラリー濃度が40%未満になる量であることが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法では、アミノアルキルシラン化合物、モノクロロシラン化合物、および酸解離定数(pKa)が7以上であり、かつ極性表面積(PSA)が12A
2以上である、3級アミン化合物を仕込み、攪拌させることによって、反応は進行する。反応を好適に制御しながら進行させるために、モノクロロシラン化合物、およびこの3級アミン化合物を溶媒に溶かせておき、所定の反応温度にしてから、アミノアルキルシラン化合物を滴下させることが好ましい。
【0032】
反応温度は、0℃から100℃の範囲が好ましい。より好ましくは、10℃から80℃の範囲である。さらに好ましくは、20℃から60℃の範囲である。高い温度で反応の進行を促した後に、低い温度で熟成させることもできる
【0033】
反応の圧力は、特に制限されないが、減圧にすると低沸点のモノクロロシラン化合物が、揮散しやすくなるので、常圧以上が好ましい。
反応は、水分の混入を防ぐ目的で、乾燥空気、または乾燥窒素気流下で行なうことが好ましい。反応には、可燃物を取り扱うので、不活性雰囲気下、例えば、窒素、アルゴンなどの環境が好ましい。
【0034】
本発明の反応は、式(3)、式(4)、および式(5)で表される化合物を目的生成物とする場合に、好適に用いることができる。
式(3)、式(4)、および式(5)において、
R
1は炭素数1から5のアルキルであり;R
3は、水素、炭素数1から5のアルキル、またはフェニルであり;mは、1、2、3、4、または5であり;nは、0、1、または2である。
【0035】
式(1)で表される化合物において、R
2が水素であるとき、式(3)で表される化合が目的物となる。R
2がフェニルであるとき、式(4)で表される化合が目的物となる。R
2が2−アミノエチルであるとき、式(5)で表される化合が目的物となる。
【実施例】
【0036】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0037】
化合物は、下記の手順により合成した。合成した化合物は、NMR分析により同定し、ガスクロマト分析により定量を行なった。
【0038】
NMR分析:測定には、JEOL社製のECP400を用いた。
1H−NMRの測定では、試料をCDCl
3の重水素化溶媒に溶解させ、室温、400MHz、積算回数32回の条件で測定した。クロロホルムを内部標準として用いた。
13C−NMRの測定では、CDCl
3を内部標準として用い、積算回数14回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、mはマルチプレットであることを意味する。
【0039】
例えば、目的物の1つであるN,N−(ビストリメチルシリル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシランのスペクトルデータを示す。
【0040】
ガスクロマト分析:測定には、島津製作所製のGC−2014型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、パックドカラム内径2.6mm、長さ3m、充填剤、SE−30 10% 60/80、Shimalite WAWを用いた。キャリアーガスとしてはヘリウム(20ml/分)を用いた。試料気化室の温度を250℃、検出器(TCD)部分の温度を250℃に設定した。試料は0.5μmのシリンジフィルタでろ過後、ろ液1μlを試料気化室に注入した。記録計には島津製作所製のGCsolutionシステムなどを用いた。
【0041】
[実施例1]
【0042】
100mLの4つ口フラスコの系内を窒素で置換した後、室温下で、トルエン17.4g、DBU10.4g(69mmol)、およびトリメチルクロロシラン7.3g(67mmol)を仕込んだ。攪拌を行いながら、50℃に加熱し、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(APMS−E)5.0g(26.5mmol)を加えた。その後、50℃で1時間、さらに60℃に加熱し、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、20時間ほど熟成させた。ガスクロマト分析し、目的物であるN,N−(ビストリメチルシリル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシランを、GC収率93.9%で得た。
【0043】
実施例1で用いたDBUを含めて、以下の化合物を塩基1から塩基12とする。
【0044】
塩基1〜12の酸解離定数(pKa)および極性表面積(PSA)の値を、データベースSciFinder(登録商標)から、入手した。
【0045】
[実施例2〜4]
実施例1で用いたDBU(塩基1)の代わりに、塩基2〜4を用い、使用するアミノシラン、クロロシラン、およびトルエンは実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0046】
[比較例1〜8]
実施例1で用いたDBU(塩基1)の代わりに、塩基5〜12を用い、使用するアミノシラン、クロロシラン、およびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0047】
反応によっては、副生成物として、環化体(1−トリメチルシリル−2,2−ジエトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン)、モノ体(N−トリメチルシリル−3−アミノプロピルメチルジエトキシラン)が得られた。実施例1〜3および比較例1〜8の反応後の組成を示す。組成は、原料のアミノシラン、目的生成物、環化体、およびモノ体のGC%の合計を基準とし、各成分の割合を百分率で表している。
【0048】
【0049】
比較例1〜8は、未反応アミノシランが多く、環化体やモノ体が副生した。これに対して、実施例1〜4は、目的生成物であるN,N−(ビストリメチルシリル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシランを収率良く得ることができた。
【0050】
[実施例5]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにフェニルジメチルシランを用いて、使用するアミノアルキルシラン、塩基、およびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0051】
[比較例9]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにフェニルジメチルシランを用い、DBU(塩基1)の代わりにTEA(塩基8)を用いて、使用するアミノアルキルシランおよびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0052】
【0053】
比較例9は、未反応アミノアルキルシランが多く、モノ体が多く副生した。これに対して、実施例5は、目的生成物であるN,N−(ビスフェニルジメチルシリル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシランを収率良く得ることができた。
【0054】
[実施例6]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにジメチルシランを用いて、使用するアミノアルキルシラン、塩基、およびトルエンは実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0055】
[比較例10]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにジメチルシランを用い、DBU(塩基1)の代わりにTEA(塩基8)を用いて、使用するアミノアルキルシランおよびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0056】
比較例10は、モノ体がほとんどで、目的生成物はほとんど得られなかった。これに対して、実施例6は、目的生成物が多く得られた。
【0057】
[実施例7]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにビニルジメチルシランを用いて、使用するアミノアルキルシラン、塩基、およびトルエンは実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0058】
[比較例11]
実施例1で用いたトリメチルクロロシランの代わりにビニルジメチルシランを用い、DBU(塩基1)の代わりにTEA(塩基8)を用いて、使用するアミノアルキルシランおよびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0059】
比較例10は、モノ体がほとんどで、目的生成物はほとんど得られなかった。これに対して、実施例6は、目的生成物が多く得られた。
【0060】
[実施例8]
実施例1で用いた3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(APMS−E)の代わりに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(S330)を用いて、使用するモノクロロシラン、塩基、およびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0061】
[比較例12]
実施例1で用いた3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(APMS−E)の代わりに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(S330)を用い、DBU(塩基1)の代わりにTEA(塩基8)を用いて、使用するモノクロロシランおよびトルエンは、実施例1と同一とし、実施例1と同一の、原料等のモル比、反応装置、および反応方法によって、生成反応を行った。
【0062】
【0063】
[実施例9]
実施例1で用いた3−アミノプロピルメチルジエトキシシランの代わりに、3−(N−フェニルアミノ)プロピルメチルトリメトキシシランを用いた。トルエン20.0g、トリメチルクロロシラン2.44g(22.50mmol)、DBU(塩基1)3.87g(25.43mmol)、3−(N−フェニルアミノ)プロピルメチルトリメトキシシラン5.0g(19.56mmol)とした。実施例1と同一の、反応装置および反応方法によって、生成反応を行った。
反応液の組成は、原料アミノシアン2.06%で、目的生成物である3−(N−フェニル−N−トリメチルシリルアミノ)プロピルメチルトリメトキシシラン97.94%となり、高収率で目的生成物が得られた。