特許第6863380号(P6863380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許6863380ムチン酸生産能を有する微生物並びにムチン酸、2,5−フランジカルボン酸及び2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法
<>
  • 特許6863380-ムチン酸生産能を有する微生物並びにムチン酸、2,5−フランジカルボン酸及び2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863380
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ムチン酸生産能を有する微生物並びにムチン酸、2,5−フランジカルボン酸及び2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20210412BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20210412BHJP
   C12P 7/44 20060101ALI20210412BHJP
   C12P 17/04 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N15/31
   C12N15/54
   C12N15/53
   C12N15/61
   C12N15/55
   C12P7/44ZNA
   C12P17/04
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2018-527578(P2018-527578)
(86)(22)【出願日】2017年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2017024963
(87)【国際公開番号】WO2018012426
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2018年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-138802(P2016-138802)
(32)【優先日】2016年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 岳志
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02546336(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0206047(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0045804(US,A1)
【文献】 特開2008−127282(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02723945(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02723946(EP,A1)
【文献】 特開2007−332147(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/182171(WO,A1)
【文献】 Metabolic Engineering (2013) Vol.18, pp.78-85
【文献】 Applied and Environmental Microbiology (2010) Vol.76, No.1, pp.169-175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12N 15/00
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、ガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性と、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性と、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性が、
非改変株と比較して増強するように改変された、
大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、糸状菌、および酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つである、微生物。
【請求項2】
さらに、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
さらに、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項1または請求項2に記載の微生物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を水性媒体中で有機原料に作用させることを特徴とするムチン酸の製造方法であって、
前記有機原料が、グルコース、スクロース、およびラクトースからなる群より選ばれる1種類以上を含む、製造方法。
【請求項5】
UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、ガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性と、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、
大腸菌、コリネ型細菌、バチルス属細菌、ラクトバチルス属細菌、アクチノバチルス属細菌、糸状菌、および酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つである、微生物。
【請求項6】
さらに、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、ガラクトキナーゼ活性、UDP−ガラクトースピロホスホリラーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、請求項に記載の微生物。
【請求項7】
さらに、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された、請求項または請求項に記載の微生物。
【請求項8】
請求項〜7のいずれか一項に記載の微生物を水性媒体中で有機原料に作用させることを特徴とするムチン酸の製造方法であって、
前記有機原料が、グルコース、スクロース、ガラクトース、およびラクトースからなる群より選ばれる1種類以上を含む、製造方法。
【請求項9】
請求項4または8に記載の方法によりムチン酸を製造する工程、および前記工程で得られたムチン酸を2,5−フランジカルボン酸へ変換する工程を含む、2,5−フランジカルボン酸の製造方法。
【請求項10】
請求項4または8に記載の方法によりムチン酸を製造する工程、および前記工程で得られたムチン酸を2,5−フランジカルボン酸ジエステルへ変換する工程を含む、2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムチン酸生産能を有する新規な微生物およびそれを用いたムチン酸の製造方法に関するものである。また、該製造方法で得られたムチン酸を原料とする2,5−フランジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ムチン酸は、ガラクトースの1位のホルミル基(−CHO)と、主鎖の末端のヒドロキシメチル基(−CHOH)が共にカルボキシル基となったジカルボン酸であり、(meso)−ガラクタル酸とも呼ばれる。ムチン酸は、新規ポリマー原料として注目されている2,5−フランジカルボン酸や、2,5−フランジカルボン酸ジエステルの原料となるなど、様々な有用化学品へ誘導可能なバイオマス由来の基幹化合物として期待されている。
【0003】
ムチン酸は、ガラクトースの硝酸酸化によって合成できることが知られているが、この方法は高温高圧条件での酸化反応であることや、環境汚染の原因となる窒素酸化物が副生することなどの問題があった。そのため、常温常圧下において高い選択率での合成が可能な酵素変換や発酵による生産が試みられてきた。
【0004】
特許文献1には、ガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した真菌を用いることにより、ガラクツロン酸を原料としてムチン酸を製造する方法が開示されている。
また、非特許文献1には、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ遺伝子を大腸菌に導入して発現させることにより、UDP−ガラクツロン酸を基質としてガラクツロン酸−1−リン酸を生成する活性が検出されたことが記載されている。
【0005】
また、非特許文献2には、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ遺伝子を大腸菌に導入して発現させることにより、UDP−グルクロン酸を基質としてUDP−ガラクツロン酸を生成する活性が検出されたことが記載されている。
また、非特許文献3には、古細菌のHaloferax volcanii由来UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼにおいて、UDP−グルコースだけでなくUDP−ガラクトースも基質として認識し、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性が検出されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2010/072902号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Biol Chem.,2010,Vol.285(2),p878−87
【非特許文献2】Mol Microbiol.,1999,Vol.31(2),p703−13
【非特許文献3】Mol Microbiol.,2010,Vol.75(4),p1047−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、ガラクツロン酸を原料として使用する必要があり、一般的な有機原料からはムチン酸を製造することができない。そのため、グルコースなどの安価で容易に入手可能な有機原料を使用してムチン酸を製造する方法が望まれていた。
また、非特許文献1に記載の方法は、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ遺伝子を発現させ、その酵素活性を確認しただけで、ムチン酸を製造することに関しては何ら記載も示唆もない。
【0009】
また、非特許文献2に記載の方法は、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ遺伝子を発現させ、その酵素活性を確認しただけで、ムチン酸を製造することに関しては何ら記載も示唆もない。
さらに、非特許文献3に記載の方法は、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性を有するUDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼが開示されているが、ムチン酸を製造することに関しては何ら記載も示唆もない。
本発明の課題は、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料を使用して効率的にムチン酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、グルコースまたはガラクトースを出発物質として用い、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する新たな反応工程により、ムチン酸を製造できることを見出した。
さらに、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性から選択される1種類以上の酵素活性とを増強するように微生物を改変することにより、グルコースまたはガラクトースからムチン酸を生合成する代謝経路を構築することができ、前記反応工程を含むムチン酸の製造方法に好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ムチン酸の製造方法であって、グルコースまたはガラクトースを出発物質または中間体として用い、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する、ムチン酸の製造方法。
[2]グルコースを出発物質または中間体として用い、UDP−グルコース、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する、[1]に記載のムチン酸の製造方法。
[3]UDP−グルコースとUDP−ガラクツロン酸との間にUDP−グルクロン酸を中間体として経由する、[2]に記載のムチン酸の製造方法。
[4]UDP−グルコースとUDP−ガラクツロン酸との間にUDP−ガラクトースを中間体として経由する、[2]に記載のムチン酸の製造方法。
[5]ガラクトースを出発物質または中間体として用い、
UDP−ガラクトース、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する、[1]に記載のムチン酸の製造方法。
[6]UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性から選択される1種類以上の酵素活性とが、非改変株と比較して増強するように改変された微生物。
[7]UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[6]に記載の微生物。
[8]さらに、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[7]に記載の微生物。
[9]さらに、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された、[7]また[8]に記載の微生物。
[10]UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[6]に記載の微生物。
[11]さらに、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、ガラクトキナーゼ活性、UDP−ガラクトースピロホスホリラーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変された、[10]に記載の微生物。
[12]さらに、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された、[10]または[11]に記載の微生物。
[13]前記微生物が、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、糸状菌、および酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[6]〜[12]のいずれかに記載の微生物。
[14][6]〜[13]のいずれかに記載の微生物またはその処理物を水性媒体中で有機原料に作用させることを特徴とするムチン酸の製造方法。
[15]前記有機原料が、グルコース、スクロース、ガラクトース、およびラクトースからなる群より選ばれる1種類以上を含む、[14]に記載のムチン酸の製造方法。
[16][1]〜[5]、[14]または[15]に記載の方法によりムチン酸を製造する工程、および前記工程で得られたムチン酸を2,5−フランジカルボン酸へ変換する工程を含む、2,5−フランジカルボン酸の製造方法。
[17][1]〜[5]、[14]または[15]に記載の方法によりムチン酸を製造する工程、および前記工程で得られたムチン酸を2,5−フランジカルボン酸ジエステルへ変換する工程を含む、2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料からムチン酸を製造することができる。また、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料からムチン酸の生合成が可能な微生物を作製することができ、このような本発明の微生物を用いることにより、ムチン酸を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の製造方法における、ムチン酸の合成およびその副生物生成に関する経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
<第一のムチン酸の製造方法>
本発明者らが見出したムチン酸の製造方法は、グルコースまたはガラクトースを出発物質または中間体として用い、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する反応工程を含む。このような反応工程を経ることで、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料を用いるムチン酸の製造が可能となる。
【0016】
グルコースを出発物質または中間体として用いる場合は、UDP−グルコース、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する反応工程を含むことが好ましい。この場合、UDP−グルコースとUDP−ガラクツロン酸との間にUDP−グルクロン酸を中間体として経由する反応工程、またはUDP−グルコースとUDP−ガラクツロン酸との間にUDP−ガラクトースを中間体として経由する反応工程を含むことがより好ましい。
【0017】
グルコースを出発物質または中間体として用いる場合の反応経路について、図1を参照しながら説明するが、これに特に限定されない。
反応は、グルコースを出発原料として開始してもよいし、他の出発原料から適当な反応で生成されたグルコースから開始してもよい。グルコースは、例えば、リン酸化反応によりグルコース−6−リン酸になり、さらにリン酸転移反応によりグルコース−1−リン酸を経て、脱リン酸及びUDP付加反応によりUDP−グルコースになる。UDP−グルコースは、例えば、酸化反応によりUDP−グルクロン酸になり、さらに異性化反応によりUDP−ガラクツロン酸に至る。または、UDP−グルコースは、例えば、先に異性化反応によりUDP−ガラクトースになり、さらに酸化反応によりUDP−ガラクツロン酸に至る。UDP−ガラクツロン酸は、例えば、脱UDP及びリン酸付加反応によりガラクツロン酸−1−リン酸を経て、さらに脱リン酸反応によりガラクツロン酸になる。ガラクツロン酸の酸化反応を受けることにより、目的とするムチン酸が生成する。
【0018】
ガラクトースを出発物質または中間体として用いる場合は、UDP−ガラクトース、UDP−ガラクツロン酸、及びガラクツロン酸を順に中間体として経由する反応工程を含むことが好ましい。
【0019】
ガラクトースを出発物質または中間体として用いる場合の反応経路について、図1を参照しながら説明するが、これに特に限定されない。
反応は、ガラクトースを出発原料として開始してもよいし、他の出発原料から適当な反応で生成されたガラクトースから開始してもよい。ガラクトースは、例えば、リン酸化反応によりガラクトース−1−リン酸になり、さらに脱リン酸及びUDP付加反応によりUDP−ガラクトースを経て、さらに酸化反応によりUDP−ガラクツロン酸に至る。UDP−ガラクツロン酸は、前述のように例えば、脱UDP及びリン酸付加反応によりガラクツロン酸−1−リン酸を経て、さらに脱リン酸反応によりガラクツロン酸になる。ガラクツロン酸の酸化反応を受けることにより、目的とするムチン酸が生成する。
【0020】
本発明の第一のムチン酸の製造方法は、いずれの手法で行ってもよく、例えば、微生物の代謝経路を利用した生合成による方法、酵素反応を用いるインビトロでの合成方法、化学合成による方法などが挙げられる。これらのうち、微生物による生合成が特に好適なので、以降に詳述する。
【0021】
<本発明の微生物>
本発明の微生物は、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性から選択される1種類以上の酵素活性とが、非改変株と比較して増強するように改変された微生物である。
【0022】
これまで、多種多様な微生物において、UDP−グルコースの生合成経路が見出されており、さらに、本代謝物からUDP−グルクロン酸、UDP−ガラクトースを合成できることも一般的に知られている。
そこで、本発明者らはUDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性と、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性から選択される1種類以上の酵素活性とが、増強するように微生物を改変することによって、UDP−グルクロン酸またはUDP−ガラクトースからムチン酸を合成する代謝経路を構築することができることを見出した。ここで、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性を増強するように微生物を改変することが好ましく、この場合は、UDP−グルクロン酸からムチン酸を合成する代謝経路が構築される。また、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性を増強するように微生物を改変することも好ましく、この場合は、UDP−ガラクトースからムチン酸を合成する代謝経路が構築される。
【0023】
なお、これらの代謝経路でムチン酸を合成するためには、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼによって生じるガラクツロン酸−1−リン酸が脱リン酸化され、ガラクツロン酸へ変換されなければならないが、一般的に、脱リン酸化反応を触媒するホスファターゼは基質特異性が低く、通常、宿主となる微生物が保有する同酵素はこのガラクツロン酸−1−リン酸を基質として認識し、ガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性を有する。
【0024】
上述の通り、酵素活性を増強する改変を行うことによって、ムチン酸生産能を有する微生物を作製することができる。本発明において、「ムチン酸生産能」とは、微生物を培地中で培養したときに、該微生物が該培地中にムチン酸を生成蓄積することができることをいう。
ムチン酸は、ガラクトースの1位のホルミル基(−CHO)と、主鎖の末端のヒドロキシメチル基(−CHOH)が共にカルボキシル基となったジカルボン酸であり、(meso)−ガラクタル酸とも呼ばれる。
【0025】
上述した酵素活性を増強する手段としては、変異処理や遺伝子組換え処理などが挙げられ、それぞれの酵素をコードする外来の遺伝子を導入する、または内在の遺伝子の発現を強化するなど、公知の方法を採用することができる。
【0026】
本発明で用いる微生物は、特に限定されないが、UDP−グルクロン酸、または、UDP−ガラクトースを合成できる代謝経路を有する微生物が好ましい。具体的には、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、糸状菌、および酵母からなる群より選択される微生物であることが好ましい。
その中でも、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、糸状菌、および酵母からなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましく、より好ましくは大腸菌、コリネ型細菌、酵母であり、特に好ましくは大腸菌、酵母である。
【0027】
本発明で使用可能な大腸菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等が挙げられ、K12株、B株、またはこれらの誘導体であるBW25113、HB101、DH5α、JM109、JM110、BL21(DE3)、TH2、TOP10などを用いることができる。
【0028】
本発明で使用可能なコリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌、アースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌である。
【0029】
本発明で使用可能なコリネ型細菌の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831、およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Int J Syst Bacteriol., 1991, Vol.41, p255−260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、およびその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株およびMJ−233 AB−41株と同一の株とする。
【0030】
上記ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター)(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に受託番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。
【0031】
本発明で使用可能なバチルス(Bacillus)属細菌としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等が挙げられる。
本発明で使用可能なラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌としては、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)等が挙げられる。
【0032】
本発明で使用可能なアクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌としては、アクチノバチルス・サクシノジェネス(Actinobacillus succinogenes)等が挙げられる。
本発明で使用可能なシュードモナス(Pseudomonas)細菌としては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・ベロニイ(Pseudomonas veronii)、シュードモナス・ビリディフラバ(Pseudomonas viridiflava)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)等が挙げられる。
【0033】
本発明で使用可能な糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾパス(Rhizopus)属、ヒポクレア(Hypocrea)属等が挙げられる。
上記アスペルギルス(Aspergillus)属では、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等が挙げられる。
上記ペニシリウム(Penicillium)属では、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)等が挙げられる。
上記リゾパス(Rhizopus)属では、リゾパス・オリゼー(Rhizopus oryzae)等が挙げられる。
上記ヒポクレア(Hypocrea)属では、ヒポクレア・ジェコリナ(Hypocreajecorina)等が挙げられる。なお、この菌の不完全世代はトリコデルマ・リーセイ(Trichodermareesei)である。
【0034】
本発明で使用可能な酵母としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属等が挙げられる。
【0035】
上記サッカロミセス(Saccharomyces)属としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバラム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・バイアヌス(Saccharomyces bayanus)等が挙げられる。
上記シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。
上記キャンディダ(Candida)属としては、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・ボイディニィ(Candida boidinii)、キャンディダ・ソノレンシス(Candida sonorensis)、キャンディダ・グラブラタ(Candida glabrata)等が挙げられる。
上記ピキア(Pichia)属としては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等が挙げられる。
【0036】
上記クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属としては、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等が挙げられる。
上記ヤロウィア(Yarrowia)属としては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等が挙げられる。
上記チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属としては、チゴサッカロミセス・バイリィ(Zygosaccharomyces bailii)、チゴサッカロミセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)等が挙げられる。
【0037】
上記微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合若しくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0038】
本発明の微生物は、上述したようにUDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変すること、または、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変することによって得ることができる。
【0039】
本発明において、「UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ(以下、UDP−GLEとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルクロン酸を異性化してUDP−ガラクツロン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:5.1.3.6)をいう。「UDP−GLE活性が増強する」とは、UDP−GLE活性が非改変株よりも高くなったことをいう。UDP−GLE活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。UDP−GLE活性が付与または増強されたことは、公知の方法、例えばMunozらの方法(Mol.Microbiol.,1999,Vol.31(2),p703−13)により、UDP−GLE活性を測定することによって確認することができる。
【0040】
UDP−GLE活性を増強する方法としては、例えば、親株を変異剤によって処理する方法、UDP−GLEをコードするcap1J遺伝子のコピー数を高める方法、cap1J遺伝子やcap1J遺伝子のプロモーターを改変する方法などが挙げられる。さらに、これらUDP−GLE活性を増強する方法を複数組み合わせてもよい。
【0041】
以下、UDP−GLE活性が増強するように改変された株の具体的な作製方法について説明する。UDP−GLE活性が増強された株は、親株をN−メチル−N’−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、UDP−GLE活性が上昇した株を選択することによって得ることができる。
また、UDP−GLE活性が増強された株は、cap1J遺伝子を用いて改変することによっても得ることができる。具体的には、cap1J遺伝子のコピー数を高めることによって達成でき、コピー数を高めることは、cap1J遺伝子を含むベクターで形質転換すること、または相同組換え法等の手法によって染色体上に該遺伝子を導入し、染色体上で多コピー化させることなどによって達成できる。
【0042】
さらに、UDP−GLE活性が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上のcap1J遺伝子に変異を導入することによって、cap1J遺伝子がコードするタンパク質1分子当たりのUDP−GLE活性を増加させることによっても達成できる。
また、cap1J遺伝子の発現が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上でcap1J遺伝子のプロモーターへ変異を導入すること、より強力なプロモーターへ置換することなどでcap1J遺伝子を高発現化させることによっても達成できる。
【0043】
UDP−GLE活性の増強に用いるcap1J遺伝子としては、UDP−GLE活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来の遺伝子を挙げることができる。
さらに、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のcap1J遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のcap1J遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてUDP−GLE活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、UDP−GLE活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のcap1J遺伝子を用いてもよい。
【0044】
上記のようにして単離されたUDP−GLEをコードする遺伝子を公知の発現ベクターに発現可能なように挿入することにより、UDP−GLE発現ベクターが提供される。この発現ベクターで形質転換することにより、UDP−GLE活性が増強するように改変された株を得ることができる。あるいは、相同組換えなどによって、宿主微生物の染色体DNAにUDP−GLEをコードするDNAを発現可能なように組み込むことによってもUDP−GLE活性が増強するように改変された株を得ることができる。なお、形質転換、相同組換えは当業者に知られた通常の方法に従って行うことができる。
【0045】
染色体上またはプラスミド上にcap1J遺伝子を導入する場合には、適当なプロモーターを該遺伝子の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流にそれぞれ組み込む。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターであれば特に限定されず、cap1J遺伝子自身のプロモーターおよびターミネーターであってもよいし、他のプロモーターおよびターミネーターに置換してもよい。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーターおよびターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳細に記述されている。
【0046】
本発明において、「UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ(以下、UDP−GalAPPaseとも呼ぶ)活性」とは、UDP−ガラクツロン酸からガラクツロン酸−1−リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.7.64)をいう。「UDP−GalAPPase活性が増強する」とは、UDP−GalAPPase活性が非改変株よりも高くなったことをいう。UDP−GalAPPase活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。UDP−GalAPPase活性が増強されたことは、公知の方法、例えばDamerowらの方法(J. Biol. Chem.,2010,Vol.285(2),p878−87)により、UDP−GalAPPase活性を測定することによって確認することができる。
【0047】
UDP−GalAPPase活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
UDP−GalAPPase活性の増強に用いる遺伝子としては、UDP−GalAPPase活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばリーシュマニア・メジャー(Leishmania major)由来のLmjF17.1160遺伝子を挙げることができる。
さらに、リーシュマニア・メジャー(Leishmania major)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来の遺伝子を使用することもできる。LmjF17.1160遺伝子とのホモロジー等に基づいてUDP−GalAPPase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、UDP−GalAPPase活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類の遺伝子を用いてもよい。
【0048】
本発明において、「ガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ(以下、GalADHとも呼ぶ)活性」とは、ガラクツロン酸を酸化してムチン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.203)をいう。「GalADH活性が増強する」とは、GalADH活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalADH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalADH活性が増強されたことは、公知の方法、例えばYoonらの方法(J. Acteriol.,2009,Vol.191(5),p1565−73)により、GalADH活性を測定することによって確認することができる。
【0049】
GalADH活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalADH活性の増強に用いる遺伝子としては、GalADH活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のudh遺伝子、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来のudh遺伝子を挙げることができる。
さらに、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来の遺伝子を使用することもできる。udh遺伝子とのホモロジー等に基づいてGalADH活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalADH活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類の遺伝子を用いてもよい。
【0050】
本発明において、「UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ(以下、UDP−GalDHとも呼ぶ)活性」とは、UDP−ガラクトースを酸化してUDP−ガラクツロン酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「UDP−GalDH活性が増強する」とは、UDP−GalDH活性が非改変株よりも高くなったことをいう。UDP−GalDH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。UDP−GalDH活性が増強されたことは、公知の方法、例えばYurist−Doutschらの方法(Mol. Microbiol.,2010,Vol.75(4),p1047−58)により、UDP−GalDH活性を測定することによって確認することができる。
【0051】
UDP−GalDH活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
UDP−GalDH活性の増強に用いる遺伝子としては、UDP−GalDH活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)由来のaglM遺伝子を挙げることができる。
さらに、ハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来の遺伝子を使用することもできる。aglM遺伝子とのホモロジー等に基づいてUDP−GalDH活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、UDP−GalDH活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類の遺伝子を用いてもよい。
【0052】
ムチン酸の生産性を向上させるためには、UDP−グルクロン酸からムチン酸の生合成経路を構築することに加えて、グルコースからUDP−グルクロン酸を経由してムチン酸を生合成する代謝経路において律速となる反応を触媒する酵素活性を増強することが有効である。
【0053】
したがって、本発明の微生物は、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変する場合は、これらに加えて、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変されることが好ましい。ムチン酸の生産性をより向上させるためには、これら酵素活性のうち、好ましくは、2種類以上、より好ましくは、3種類以上、さらに好ましくは、4種類以上、特に好ましくは、5種類全ての活性を増強するような改変を行うことが望ましい。
【0054】
また、ムチン酸の生産性を向上させるためには、UDP−ガラクトースからムチン酸の生合成経路を構築することに加えて、グルコースまたはガラクトースからUDP−ガラクトースを経由してムチン酸を生合成する代謝経路において律速となる反応を触媒する酵素活性を増強することが有効である。
【0055】
したがって、本発明の微生物は、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変する場合は、これらに加えて、グルコキナーゼ活性、ホスホグルコムターゼ活性、グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、ガラクトキナーゼ活性、UDP−ガラクトースピロホスホリラーゼ活性、およびガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して増強するように改変されることが好ましい。ムチン酸の生産性をより向上させるためには、これら酵素活性のうち、好ましくは、2種類もしくは3種類以上、より好ましくは、4種類もしくは5種類以上、さらに好ましくは、6種類もしくは7種類以上、特に好ましくは、8種類全ての活性を増強するような改変を行うことが望ましい。
【0056】
本発明において、「グルコキナーゼ(以下、GLKとも呼ぶ)活性」とは、グルコースをリン酸化してグルコース−6−リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.1.1、2.7.1.2)をいう。「GLK活性が増強する」とは、GLK活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GLK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GLK活性が増強されたことは、公知の方法、例えばWuらの方法(PLoS. ONE,2011,Vol.6(8),p e23172))、FERNANDEZらの方法(J.Gen.Microbiol.,1985、Vol.131,p2705−2709)、またはMEYERらの方法(J.Bacteriol.Vol.179(4),p1298−306)により、GLK活性を測定することによって確認することができる。
【0057】
GLK活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GLK活性の増強に用いるglk遺伝子としては、GLK活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のglk遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のglk遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のglk遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGLK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GLK活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のglk遺伝子を用いてもよい。
【0058】
本発明において、「ホスホグルコムターゼ(以下、PGMとも呼ぶ)活性」とは、グルコース−6−リン酸の分子内転移によりグルコース−1−リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:5.4.2.2)をいう。「PGM活性が増強する」とは、PGM活性が非改変株よりも高くなったことをいう。PGM活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。PGM活性が増強されたことは、公知の方法、例えばLowryらの方法(J.BIOL.CHEM.,1969,Vol.244(4),p910−6)またはWaltherらの方法(FEBSLetters,2012、Vol.586(23),4114−8)により、PGM活性を測定することによって確認することができる。
【0059】
PGM活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
PGM活性の増強に用いるpgm遺伝子としては、PGM活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のpgm遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のpgm遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のpgm遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてPGM活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、PGM活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のpgm遺伝子を用いてもよい。
【0060】
本発明において、「グルコース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(以下、GalUFとも呼ぶ)活性」とは、UTPとグルコース−1−リン酸からUDP−グルコースを生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.7.9)をいう。「GalUF活性が増強する」とは、GalUF活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalUF活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalUF活性が増強されたことは、公知の方法、例えばYuらの方法(Biochem.J.,2012,Vol.442(2),p283−91)またはWEISSOBRNらの方法(J.Bacteriol,Vol.176(9),p2611−8)により、GalUF活性を測定することによって確認することができる。
【0061】
GalUF活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalUF活性の増強に用いるgalU遺伝子及びgalF遺伝子としては、GalUF活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のgalU遺伝子及びgalF遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のgalU遺伝子及びgalF遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のgalU遺伝子及びgalF遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGalUF活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalUF活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のgalU遺伝子及びgalF遺伝子を用いてもよい。
【0062】
本発明において、「ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(以下、GalTとも呼ぶ)活性」とは、ガラクトース−1−リン酸とUDP−グルコースからUDP−ガラクトースとグルコース−1−リン酸を生成する反応を触媒する活性、または、その逆反応を触媒する活性(EC:2.7.7.12)をいう。「GalT活性が増強する」とは、GalT活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalT活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalT活性が増強されたことは、公知の方法、例えばLiらの方法(Clin.Chem.2010,Vol.56(5),p772−80)またはGeeganageらの方法(Biochem.,1999,Vol.38(40),p13398−406またはBiochem.,2000,39(18),p5397−404)により、GalT活性を測定することによって確認することができる。
【0063】
GalT活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalT活性の増強に用いるgalT遺伝子としては、GalT活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のgalT遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のgalT遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のgalT遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGalT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalT活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のgalT遺伝子を用いてもよい。
【0064】
本発明において、「UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ(以下、UGDとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルコースを酸化してUDP−グルクロン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.22)をいう。「UGD活性が増強する」とは、UGD活性が非改変株よりも高くなったことをいう。UGD活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。UGD活性が増強されたことは、公知の方法、例えばPagniらの方法(Microbiol.,1999,Vol.145,p1049−53)、Sennetらの方法(Biochem.,2012,Vol.51(46),p9364−74)またはKadirvelraj(Biochem.,2013,Vol.52(8),p1456−65)により、UGD活性を測定することによって確認することができる。
【0065】
UGD活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
UGD活性の増強に用いるugd遺伝子としては、UGD活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のugd遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のugd遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のugd遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてUGD活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、UGD活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のugd遺伝子を用いてもよい。
【0066】
本発明において、「UDP−グルコース−4−エピメラーゼ(以下、GalEとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルコースを異性化してUDP−ガラクトースを生成する反応を触媒する活性(EC:5.1.3.2)をいう。「GalE活性が増強する」とは、GalE活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalE活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalE活性が増強されたことは、公知の方法、例えばDaenzerらの方法(PLoS. Genet.,2012,Vol.8(5),p e1002721)またはKimらの方法(Appl.Biochem.Biotechnol.,2011,Vol.163(3),p444−51)により、GalE活性を測定することによって確認することができる。
【0067】
GalE活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalE活性の増強に用いるgalE遺伝子としては、GalE活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のgalE遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のgalE遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のgalE遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGalE活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalE活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のgalE遺伝子を用いてもよい。
【0068】
本発明において、「ガラクトキナーゼ(以下、GalKとも呼ぶ)活性」とは、ガラクトースをリン酸化してガラクトース−1−リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.1.6)をいう。「GalK活性が増強する」とは、GalK活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalK活性が増強されたことは、公知の方法、例えばTedescoらの方法(J.Clin.Invest.,1969,Vol.48(12),p2390-7)またはHoffmeisterらの方法(ChemBioChem,2004Vol.5(7),p989−92)により、GalK活性を測定することによって確認することができる。
【0069】
GalK活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalK活性の増強に用いるgalK遺伝子としては、GalK活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のgalK遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のgalK遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のgalK遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGalK活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalK活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のgalK遺伝子を用いてもよい。
【0070】
本発明において、「UDP−ガラクトースピロホスホリラーゼ(以下、UDP−GalPPaseとも呼ぶ)活性」とは、UTPまたはTTPとガラクトース−1−リン酸からUDP−ガラクトースを生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.7.10、2.7.7.64)をいう。「UDP−GalPPase活性が増強する」とは、UDP−GalPPase活性が非改変株よりも高くなったことをいう。UDP−GalPPase活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。UDP−GalPPase活性が増強されたことは、公知の方法、例えばEbrechtらの方法(Biochimica et Biophysica Acta.,2015,Vol.1850(1),p88−96)またはDamerowらの方法(J. Biol. Chem.,2010,Vol.285(2),p878−87)により、UDP−GalPPase活性を測定することによって確認することができる。
【0071】
UDP−GalPPase活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
UDP−GalPPase活性の増強に用いるugp遺伝子としては、UDP−GalPPase活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)由来のugp遺伝子を挙げることができる。
さらに、ジアルジア・ランブリア(Giardia lamblia)以外の原生動物、または他の微生物や動植物由来のugp遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のugp遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてUDP−GalPPase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、UDP−GalPPase活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のugp遺伝子を用いてもよい。
【0072】
本発明において、「ガラクツロン酸−1−リン酸ホスファターゼ(以下、GalA1Pとも呼ぶ)活性」とは、ガラクツロン酸−1−リン酸を脱リン酸化してガラクツロン酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「GalA1P活性が増強する」とは、GalA1P活性が非改変株よりも高くなったことをいう。GalA1P活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。GalA1P活性が増強されたことは、公知の方法、例えばPassarielloらの方法(Biochimica et Biophysica Acta,2006,Vol.1764,p13-9)またはDassaらの方法(J.BIOL.CHEM.,1982,Vol.257(12),p6669−76)により、GalA1P活性を測定することによって確認することができる。
【0073】
GalA1P活性が増強するように改変された株は、上述のUDP−GLE活性を増強する方法と同様にして作製することができる。
GalA1P活性の増強に用いるホスファターゼ遺伝子としては、GalA1P活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のagp遺伝子、aphA遺伝子を挙げることができる。
さらに、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)以外の細菌、または他の微生物や動植物由来のホスファターゼ遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のホスファターゼ遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子や、ホモロジー等に基づいてGalA1P活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、GalA1P活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類のホスファターゼ遺伝子を用いてもよい。
なお、これらホスファターゼ遺伝子を使用する際には、変異を導入することによって基質特異性が改善されたものを用いることが望ましい。エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のagp遺伝子の場合では、94番目のアルギニンをヒスチジンに、123番目のメチオニンをバリンまたはアラニンに、196番目グルタミン酸をアスパラギン酸にアミノ酸残基を変更するような変異を導入することによって基質特異性を改善することができる。これらの変異導入は組み合わせて用いてもよい。
【0074】
ムチン酸の生産性を向上させるためには、UDP−グルクロン酸からムチン酸の生合成経路を構築することに加えて、グルコースからUDP−グルクロン酸を経由してムチン酸を生合成する代謝経路と競合し、副生物を生成する反応を触媒する酵素活性を低減することが有効である。
【0075】
したがって、本発明の微生物は、UDP−グルクロン酸−4−エピメラーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変することに加えて、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性、UDP−グルコース−4−エピメラーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物が好ましい。ムチン酸の生産性をより向上させるためには、これら酵素活性のうち、好ましくは、2種類以上、もしくは3種類以上、より好ましくは、4種類以上、もしくは5種類以上であってよく、さらに好ましくは、6種類以上、もしくは7種類以上であってよく、特に好ましくは、8種類以上、もしくは9種類以上、であってもよく、最も好ましくは、10種類全ての活性を低減するような改変を行うことが望ましい。
【0076】
さらに、ムチン酸の生産性を向上させるためには、これらの改変と、上述のグルコースからUDP−グルクロン酸を経由してムチン酸を生合成する代謝経路において律速となる反応を触媒する酵素活性を増強する改変を組み合わせることが望ましい。なお、これら複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
【0077】
また、ムチン酸の生産性を向上させるためには、UDP−ガラクトースからムチン酸の生合成経路を構築することに加えて、グルコースまたはガラクトースからUDP−ガラクトースを経由してムチン酸を生合成する代謝経路と競合し、副生物を生成する反応を触媒する酵素活性を低減することが有効である。
【0078】
したがって、本発明の微生物は、UDP−ガラクトース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−ガラクツロン酸ピロホスホリラーゼ活性、及びガラクツロン酸デヒドロゲナーゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変することに加えて、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ活性、グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性、ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性、UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ活性、UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ活性、ガラクツロン酸イソメラーゼ活性、ガラクツロン酸レダクターゼ活性、およびガラクタル酸デヒドラターゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変された微生物が好ましい。ムチン酸の生産性をより向上させるためには、これら酵素活性のうち、好ましくは、2種類以上、より好ましくは、3種類以上、もしくは4種類以上、さらに好ましくは、5種類以上、もしくは6種類以上
であってよく、特に好ましくは、7種類以上、もしくは8種類以上であってよく、最も好ましくは、9種類全ての活性を低減するような改変を行うことが望ましい。
【0079】
さらに、ムチン酸の生産性を向上させるためには、これらの改変と、上述のグルコースまたはガラクトースからUDP−ガラクトースを経由してムチン酸を生合成する代謝経路において律速となる反応を触媒する酵素活性を増強する改変を組み合わせることが望ましい。なお、これら複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
【0080】
本発明において、「グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(以下、ZWFとも呼ぶ)活性」とは、グルコース−6−リン酸を脱水素化して6−ホスホグルコノ−1,5−ラクトンを生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.49、1.1.1.363、1.1.1.388)をいう。「ZWF活性が低減する」とは、非改変株と比較してZWF活性が低下していることをいう。ZWF活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ZWF活性は完全に消失していてもよい。ZWF活性が低下したことは、公知の方法、例えばMaらの方法(J.Bacteriol.,1998,Vol.180(7),p1741-9)またはBanerjeeらの方法(J.Bacteriol.,1972,Vol.110(1),p155−60)によりZWF活性を測定することによって確認することができる。
【0081】
ZWF活性が低減するように改変された株は、上述した微生物を親株として用い、N−メチル−N’−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、ZWF活性が低減した株を選択することによってそれぞれ得ることができる。また、染色体上のzwf遺伝子を破壊したり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによっても達成される。具体的には、染色体上のプロモーター配列を含むzwf遺伝子の領域において、その一部または全てを欠失させること、塩基配列を挿入して分断すること、変異を導入すること、より微弱なプロモーターへ置換することなどが挙げられる。なお、これらZWF活性を低減する方法を複数組み合わせてもよい。
ZWF活性が低減するように改変された株の作製方法としては、染色体への相同組換えによる方法(特開平11−206385号公報等参照)や、sacB遺伝子を用いる方法(Gene,1994,Vol.145(1),p69−73)等が挙げられる。
【0082】
本発明において、「グルコース−6−リン酸イソメラーゼ(以下、PGIとも呼ぶ)活性」とは、グルコース−6−リン酸を異性化してフルクトース−6−リン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:5.3.1.9)をいう。「PGI活性が低減する」とは、非改変株と比較してPGI活性が低下していることをいう。PGI活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PGI活性は完全に消失していてもよい。PGI活性が低下したことは、公知の方法、例えばHorrocksらの方法(J.Clin.Pathol.,1963,Vol.16,p248−51)、またはMilewskiらの方法(Arch.Biochem.Biophys.,2006,Vol.450(1),p39-49)によりPGI活性を測定することによって確認することができる。
PGI活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0083】
本発明において、「グルコース−1−リン酸ホスファターゼ活性(以下、AGPとも呼ぶ)活性」とは、グルコース−1−リン酸を脱リン酸化してグルコースを生成する反応を触媒する活性(EC:3.1.3.10)をいう。「AGP活性が低減する」とは、非改変株と比較してAGP活性が低下していることをいう。AGP活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、AGP活性は完全に消失していてもよい。AGP活性が低下したことは、公知の方法、例えばPradelらの方法(J.Bacteriol.,1988,Vol.170(10),p4916−23)によりAGP活性を測定することによって確認することができる。
AGP活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0084】
本発明において、「ADP−グルコースピロホスホリラーゼ活性(以下、AGPaseとも呼ぶ)活性」とは、グルコース−1−リン酸とATPからADP−グルコースを生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.7.27)をいう。「AGPase活性が低減する」とは、非改変株と比較してAGPase活性が低下していることをいう。AGPase活性は非改変株と比較して、活性が単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、AGPase活性は完全に消失していてもよい。AGPase活性が低下したことは、公知の方法、例えばSeiboldらの方法(Microbiology,2007,Vol.153(Pt4),p1275−85)によりAGPase活性を測定することによって確認することができる。
AGPase活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0085】
本発明において、「ヘキソース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(以下、GalTとも呼ぶ)活性」とは、ガラクトース−1−リン酸とUDP−グルコースからUDP−ガラクトースとグルコース−1−リン酸を生成する反応を触媒する活性、または、その逆反応を触媒する活性(EC:2.7.7.12)をいう。「GalT活性が低減する」とは、非改変株と比較してGalT活性が低下していることをいう。GalT活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、GalT活性は完全に消失していてもよい。GalT活性が低下したことは、公知の方法、例えばSaitoらの方法(J.Biol.Chem.,1967,Vol.242(10),p2362−8)またはDavit−Spraulらの方法(FEBS Lett.,1994,Vol.354,p232−6)によりGalT活性を測定することによって確認することができる。
GalT活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0086】
本発明において、「UDP−グルコース−4−エピメラーゼ(以下、GalEとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルコースを異性化してUDP−ガラクトースを生成する反応を触媒する活性(EC:5.1.3.2)をいう。「GalE活性が低減する」とは、非改変株と比較してGalE活性が低下していることをいう。GalE活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、GalE活性は完全に消失していてもよい。GalE活性が低下したことは、公知の方法、例えばKotakeらの方法(Biochem.J.,2009,Vol.424(2)p169−77)またはSchulzらの方法(J Biol Chem.,2005,Vol.280(14),p13493−502)によりGalE活性を測定することによって確認することができる。
GalE活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0087】
本発明において、「UDP−グルコース−6−デヒドロゲナーゼ(以下、UGDとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルコースを酸化してUDP−グルクロン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.22)をいう。「UGD活性が低減する」とは、非改変株と比較してUGD活性が低下していることをいう。UGD活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、UGD活性は完全に消失していてもよい。UGD活性が低下したことは、公知の方法、例えばEasleyらの方法(Biochem.,2007,Vol.46(2),p369-378)、Sennetらの方法(Biochem.,2012,Vol.51(46),p9364−74)またはKadirvelraj(Biochem.,2013,Vol.52(8),p1456−65)によりUGD活性を測定することによって確認することができる。
UGD活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0088】
本発明において、「UDP−グルクロン酸デヒドロゲナーゼ(以下、ArnAとも呼ぶ)活性」とは、UDP−グルクロン酸を酸化的に脱炭酸してUDP−4−ケト−アラビノースを生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.305、2.1.2.13)をいう。「ArnA活性が低減する」とは、非改変株と比較してArnA活性が低下していることをいう。ArnA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ArnA活性は完全に消失していてもよい。ArnA活性が低下したことは、公知の方法、例えばGatzeva−Topalovaらの方法(Biochemistry,2004,Vol.43(42),p13370-9)によりArnA活性を測定することによって確認することができる。
ArnA活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0089】
本発明において、「ガラクツロン酸イソメラーゼ(以下、UxaCとも呼ぶ)活性」とは、ガラクツロン酸を異性化してタガツロン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:5.3.1.12)をいう。「UxaC活性が低減する」とは、非改変株と比較してUxaC活性が低下していることをいう。UxaC活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、UxaC活性は完全に消失していてもよい。UxaC活性が低下したことは、公知の方法、例えばPortalierらの方法(Mol. Gen. Genet.,1974,Vol.128(4),p301-19)によりUxaC活性を測定することによって確認することができる。
UxaC活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0090】
本発明において、「ガラクツロン酸レダクターゼ(以下、GalURとも呼ぶ)活性」とは、ガラクツロン酸を還元してガラクトン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.365)をいう。「GalUR活性が低減する」とは、非改変株と比較してGalUR活性が低下していることをいう。GalUR活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、GalUR活性は完全に消失していてもよい。GalUR活性が低下したことは、公知の方法、例えばMartens−Uzunovaらの方法(Fungal Genet. Biol.,2008,Vol.45(11),p1449-57)またはZhang(Fungal Genet.Biol.,2011,Vol.48(10),p990−7)によりGalUR活性を測定することによって確認することができる。
GalUR活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0091】
本発明において、「ガラクタル酸デヒドラターゼ(以下、GarDとも呼ぶ)活性」とは、ムチン酸を脱水して(2R,3S)−2,3−ジヒドロキシ−5−オキソヘキサン二酸を生成する反応を触媒する活性(EC:4.2.1.42)をいう。「GarD活性が低減する」とは、非改変株と比較してGarD活性が低下していることをいう。GarD活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、GarD活性は完全に消失していてもよい。GarD活性が低下したことは、公知の方法、例えばHubbardらの方法(Biochemistry,1998,Vol.37(41),p14369-75)またはWenらの方法(Biochem.,2007,46(33),p9564−77)によりGarD活性を測定することによって確認することができる。
GarD活性が低減するように改変された株は、上述のZWF活性を低減する方法と同様にして作製することができる。
【0092】
<第二のムチン酸の製造方法>
本発明の第二のムチン酸の製造方法は、本発明の微生物またはその処理物を水性媒体中で、有機原料に作用させることにより、ムチン酸を生産させる工程(以下、「発酵工程」という)を含む。本発明の第二のムチン酸の製造方法は、本発明の第一のムチン酸の製造方法の実施に好適な態様である。
【0093】
本発明の第二のムチン酸の製造方法では、本発明の微生物の菌体の処理物を使用することもできる。微生物の処理物としては、例えば、微生物の菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。通常、これらの処理物には、本発明の微生物が有する、ムチン酸の生合成に関与する種々の酵素が含まれる。
また、本発明の第二のムチン酸の製造方法は、前記発酵工程の後に、生産されたムチン酸を回収する工程(以下、「回収工程」という)を有することが好ましい。
【0094】
本発明の第二のムチン酸の製造方法に本発明の微生物を用いるに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接用いてもよいが、発酵工程に先立ち、必要に応じて上記微生物を予め液体培地で培養したものを用いてもよい。即ち、後述する種培養や本培養を行なうことで、本発明の微生物を予め増殖させた後に、発酵工程を行なうことができる。
なお、後述する種培養や本培養と、後述する発酵工程は、区別することなく、同時に行なうこともできる。また、種培養または本培養した微生物を反応液中で増殖させながら、有機原料と反応させることによってムチン酸を生産させることもできる。
【0095】
(種培養)
種培養は、本培養に供する本発明の微生物の菌体を調製するために行なうものである。種培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本発明の微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。
【0096】
種培養においては、必要に応じて、前記培地に炭素源を添加してもよい。種培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、ガラクトース、スクロースまたはラクトースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0097】
種培養は、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。一般的な生育至適温度とは、ムチン酸の生産に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。大腸菌の場合は、通常25℃〜40℃であり、30℃〜38℃がより好ましく、約37℃が特に好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常25℃〜35℃であり、28℃〜33℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。酵母の場合は、通常25℃〜40℃であり、28℃〜35℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
【0098】
種培養は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。一般的な生育至適pHとは、ムチン酸の生産に用いられる条件において最も生育速度が速いpHのことを言う。具体的な培養pHとしては、通常pH3〜10であり、pH5〜8が好ましい。大腸菌の場合は、通常pH5〜8.5であり、pH6〜8が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常pH6〜9であり、pH6.5〜8.5が好ましい。酵母の場合は、通常pH3〜8であり、pH4.5〜7.5が好ましい。
【0099】
また、種培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、種培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
【0100】
種培養後の菌体は、後述する本培養に用いることができるが、種培養については省略してもよく、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接本培養に用いてもよい。また、必要に応じて、種培養を何度か繰り返し行ってもよい。
【0101】
(本培養)
本培養は、後述するムチン酸生産反応に供する本発明の微生物の菌体を調製するために行なうものであり、主として菌体量を増やすことを目的とする。上述の種培養を行う場合は、種培養により得られた菌体を用いて本培養を行う。
【0102】
本培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、培養時の発泡を抑えるために、培地には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0103】
また、本培養においては、前記培地に炭素源を添加することが好ましい。本培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、ガラクトース、スクロースまたはラクトースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0104】
また、前記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用され、前記発酵性糖質がサトウキビ、甜菜、サトウカエデ等の植物から搾取した糖液であるものが好ましい。
これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
【0105】
前記炭素源の使用濃度は特に限定されないが、微生物の増殖を阻害しない範囲で添加するのが有利であり、培養液に対して、通常0.1〜10%(W/V)、好ましくは0.5〜5%(W/V)の範囲内で用いることができる。また、増殖に伴う前記炭素源の減少にあわせ、炭素源を追加で添加してもよい。
【0106】
また、本培養は、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。大腸菌の場合は、通常25℃〜40℃であり、30℃〜38℃がより好ましく、約37℃が特に好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常25℃〜35℃であり、28℃〜33℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。酵母の場合は、通常25℃〜40℃であり、28℃〜35℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
【0107】
また、本培養は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。具体的な培養pHとしては、通常pH4〜10であり、pH6〜8が好ましい。大腸菌の場合は、通常pH5〜8.5であり、pH6〜8が好ましい。コリネ型細菌の場合は、通常pH6〜9であり、pH6.5〜8.5が好ましい。酵母の場合は、通常pH3〜8であり、pH4.5〜7.5が好ましい。
【0108】
また、本培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、本培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
【0109】
また、本培養においては、よりムチン酸の製造に適した菌体の調製方法として、特開2008−259451号公報に記載の炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行う方法も用いることができる。
【0110】
本培養後の菌体は、後述するムチン酸生産反応に用いることができるが、培養液を直接用いてもよいし、遠心分離、膜分離等によって菌体を回収した後に用いてもよい。
【0111】
(発酵工程)
発酵工程では、上述のムチン酸生産能を有する微生物またはその処理物を水性媒体中で、有機原料に作用させることにより、ムチン酸を生産させる。この発酵工程で起こる反応を、以下、「ムチン酸生産反応」という。
【0112】
ここで、水性媒体とは、発酵工程におけるムチン酸生産反応を行う水溶液のことであり、後述するように窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。当該水性媒体中で、本発明の微生物またはその処理物と有機原料とを反応させることによりムチン酸生産反応を行うことができる。本明細書において、水性媒体とは、反応容器に含まれる液体全てを意味する。
【0113】
水性媒体としては、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよいが、反応液は窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本発明の微生物が資化してムチン酸を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0114】
本発明の第二のムチン酸の製造方法で用いる有機原料としては、本発明の微生物が資化してムチン酸を生産し得るものであれば特に限定されず、いわゆる一般的な糖質を用いることができる。
具体的には、グリセルアルデヒド等の炭素数3の単糖(トリオース);エリトロース、トレオース、エリトルロース等の炭素数4の単糖(テトロース);リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等の炭素数5の単糖(ペントース);アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フコース、フクロース、ラムノース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等の炭素数6の単糖(ヘキソース);、セドヘプツロース等の炭素数7の単糖(ヘプトース);スクロース、ラクトース、マルトース、トレハース、ツラノース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナオリゴ糖などのオリゴ糖類;デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等が挙げられる。
【0115】
上述した糖質の中でも、炭素数3以上7以下の単糖を構成成分として含む糖質が好ましく、これらの中でも、ヘキソース、ペントース、およびこれらを構成成分とする二糖類か
らなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
ヘキソースとしては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースが好ましく、グルコース、ガラクトースがより好ましい。ペントースとしてはキシロース、アラビノースが好ましく、キシロースがより好ましい。ヘキソースおよびペントースを構成成分とする二糖類としては、スクロース、ラクトースが好ましい。グルコース、ガラクトースキシロース、スクロース、ラクトースは、自然界、植物の主な構成成分となっているため、原料の入手が容易なためである。
なお、本発明の第二のムチン酸の製造方法で用いる有機原料には、1種類の糖が単独で含有されていてもよいし、2種類以上の糖が含有されていてもよい。
【0116】
本発明の第二のムチン酸の製造方法で用いる有機原料は、前記糖質を含んでいれば特に制限されないが、例えば、1種類以上の前記糖質を水に溶解して水溶液としたもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部を糖質まで分解したもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部から糖質を抽出したもの等を用いることができる。具体的には、後述するようなリグノセルロース分解原料、スクロース含有原料、デンプン分解原料等が挙げられる。
【0117】
本発明の第二のムチン酸の製造方法で用いる有機原料は、必要に応じて水等で希釈して糖質の濃度を下げて用いてもよいし、濃縮して糖質の濃度を高めて用いてもよい。
本発明の第二のムチン酸の製造方法における有機原料中に含まれる糖質の濃度としては、有機原料の由来や、含有する糖質の種類等によって大きく変動するため、特に限定されないが、発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスの生産性を考慮して、通常0.1質量%以上、好ましくは2質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下である。ただし、糖質を2種類以上含む場合は、その合計の濃度を示す。
【0118】
好ましい有機原料として、リグノセルロース分解原料が挙げられる。
リグノセルロースとは、構造性多糖のセルロース、ヘミセルロース、及び芳香族化合物の重合体のリグニンから構成される有機物である。リグノセルロースは、通常、食用にはできず、通常であれば廃棄、焼却処理をされるものが多いため、安定して供給でき、資源を有効利用できる点で好ましい。
リグノセルロース分解原料としては、バガス、コーンストーバー、麦わら、稲わら、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ササ、ススキ等の草本系バイオマスや、廃木材、オガ粉、樹皮、古紙等の木質系バイオマス等を好適に用いることができる。中でも、バガス、コーンストーバー、麦わらが好ましい。
【0119】
上述のリグノセルロース分解原料から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、リグノセルロースに対して必要に応じて前処理を施した後、酵素、酸、亜臨界水、超臨界水等による加水分解、または熱分解を行う方法等が挙げられる。
【0120】
また、好ましい有機原料として、スクロース含有原料が挙げられる。
また、スクロースは、細胞中にスクロースを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「スクロースを含む植物」という。スクロースを含む植物としては、サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ、オウギヤシ、ソルガム等の砂糖の原料として使用されるもの等が挙げられ、中でも、サトウキビ、テンサイが好ましい。
【0121】
スクロースを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物を粉砕した後に圧搾または浸出を行なう方法等が挙げられる。本発明の第二のムチン酸の製造方法においては、このようにして得られたスクロースを含む植物の搾汁(例えば、サトウキビの場合はケーンジュース)、粗糖、廃糖蜜等も有機原料として用いることができる。
【0122】
また、好ましい有機原料として、デンプン分解原料が挙げられる。
また、デンプンは、細胞中にデンプンを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「デンプンを含む植物」という。デンプンを含む植物としては、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、甘藷、サゴヤシ、米、クズ、カタクリ、緑豆、ワラビ、オオウバユリ等が挙げられ、中でも、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦が好ましい。
【0123】
デンプンを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物から抽出したデンプンを加水分解する方法等が挙げられる。
【0124】
前記有機原料の使用濃度は特に限定されないが、ムチン酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くすると生産性の点で有利であり、好ましい。水性媒体中に含まれる有機原料の濃度は、そこに含まれる糖質の濃度で、水性媒体に対して、通常5%(W/V)以上、好ましくは10%(W/V)以上であり、一方、通常30%(W/V)以下、好ましくは20%(W/V)以下である。また、ムチン酸の生産反応の進行に伴う前記有機原料の減少にあわせて、有機原料の追加で添加してもよい。
【0125】
ムチン酸生産反応中の水性媒体のpHは、用いる本発明の微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、大腸菌を用いる場合には、反応液のpHを、通常4.5以上、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、さらに好ましくは6.0以上であり、一方、通常9以下、好ましくは8.5以下、より好ましくは8.0以下とすることが好ましい。コリネ型細菌を用いる場合には、反応液のpHを、通常5.0以上、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは6.5以上であり、一方、通常10以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下とすることが好ましい。酵母を用いる場合には、反応液のpHを、通常2.5以上、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは4.0以上であり、一方、通常8.5以下、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下とすることが好ましい。
【0126】
水性媒体のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア(水酸化アンモニウム)、またはそれらの混合物等を添加することによって調整することができる。ムチン酸生産反応中に生産される副生物が塩基性物質である場合には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、それらの混合物等を添加すること、または二酸化炭素ガスを供給することによって調整することができる。
【0127】
ムチン酸生産反応に用いる微生物の菌体量は、特に限定されないが、湿菌体重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下、さらに好ましくは400g/L以下である。
【0128】
ムチン酸生産反応の時間は、特に限定はないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、一方、通常168時間以下、好ましくは72時間以下である。
【0129】
ムチン酸生産反応の温度は、用いる前記微生物の生育至適温度と同じ温度で行ってもよいが、生育至適温度より高い温度で行うことが有利であり、通常2℃〜20℃、好ましくは7℃〜15℃高い温度で行うことが好ましい。具体的には、大腸菌の場合には、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、さらに好ましくは37℃以上であり、一方、通常45℃以下、好ましくは43℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。コリネ型細菌の場合には、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、さらに好ましくは39℃以上であり、一方、通常45℃以下、好ましくは43℃以下、さらに好ましくは41℃以下である。酵母の場合には、通常27℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上であり、一方、通常45℃以下、好ましくは43℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。
ムチン酸生産反応の間、常に27℃〜45℃の範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記温度範囲にすることが望ましい。
【0130】
ムチン酸生産反応は、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよいが、通気、攪拌を行なうことが好ましい。具体的には、酸素移動速度として、通常0mmol/L/h以上、好ましくは10mmol/L/h以上、より好ましくは20mmol/L/h以上であり、一方、通常200mmol/L/h以下、好ましくは150mmol/L/h以下、さらに好ましくは100mmol/L/h以下である。
【0131】
本発明の第二のムチン酸の製造方法のムチン酸の製造方法は、特段の制限はないが、回分反応、半回分反応もしくは連続反応のいずれにも適用することができる。
【0132】
(回収工程)
本発明の第二のムチン酸の製造方法は、上記のムチン酸生産反応によりムチン酸が生成し、反応液中に蓄積させることができる。蓄積させたムチン酸は、常法に従って、水性媒体より回収する工程をさらに含んでいてもよい。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去し、再結晶や酸析することによって、高純度のムチン酸を回収することができる。
また、ムチン酸エステルに変換した後、水溶性不純物を水で洗浄したり、有機溶媒に溶解させ、水で分液洗浄を行った後、加水分解工程を経たりして、更なる高純度のムチン酸を回収することもできる。
得られたムチン酸は、新規ポリマー原料として注目されている2,5−フランジカルボン酸や、2,5−フランジカルボン酸ジエステルの原料として用いることができ、その他様々な有用化学品へ誘導可能である。
【0133】
<2,5−フランジカルボン酸の製造方法>
上述した方法によりムチン酸を製造した後に、得られたムチン酸を原料として、常法に従って、2,5−フランジカルボン酸を製造することができる。具体的には、例えば、酸触媒存在下で環化脱水する方法、後述する2,5−フランジカルボン酸ジエステルを加水分解する方法などが挙げられる。
使用する酸触媒は、本反応が進行すれば特に制限はないが、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファ―スルホン酸などのスルホン酸化合物、硫酸、リン酸、臭化水素酸、塩化水素酸などの無機酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸などのヘテロポリ酸等が挙げられる。反応性の観点からパラトルエンスルホン酸、臭化水素酸が好ましい。
反応温度は通常100℃以上が好ましく、120℃以上が更に好ましい。
フランジカルボン酸ジエステルからの加水分解によるフランジカルボン酸製造は公知の技術を用いることができる。
【0134】
2,5−フランジカルボン酸はポリエステル、ポリアミドの原料となるほか、カルボン酸の還元によりポリカーボネート、ポリエステルの原料となるジオールに変換可能であり、石油由来の既存合成樹脂をバイオマス由来に置き換えられる可能性があるため、その製造技術が注目されている。また、これら2,5−フランジカルボン酸を用いたポリマーはガスバリア性に優れている特長がある。
【0135】
<2,5−フランジカルボン酸ジエステルの製造方法>
上述した方法によりムチン酸を製造した後に、得られたムチン酸を原料として、常法に従って、2,5−フランジカルボン酸ジエステルを製造することができる。具体的には、例えば、溶媒と酸触媒存在下で環化脱水する方法、2,5−フランジカルボン酸とアルコールで脱水する方法、対応する酸クロライドに変換した後、アルコールと反応させる方法などが挙げられる。
【0136】
溶媒と酸触媒存在下で環化脱水する酸触媒は、本反応が進行すれば特に制限はないが、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、カンファ―スルホン酸などのスルホン酸化合物、硫酸、リン酸、臭化水素酸、塩化水素酸などの無機酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸などのヘテロポリ酸等が挙げられる。反応性の観点からパラトルエンスルホン酸、リン酸、硫酸が好ましい。
また、直接エステルまで製造するためには、水を分離しながら反応させることが好ましい。油水分離が可能な溶媒として炭素数4以上のアルコールが好ましく、反応後処理の観点から炭素数8以下のアルコールが好ましい。溶媒回収の観点からは単一溶媒が好ましいが、2つ以上の溶媒を任意の割合で併用してもよい。
なお、2,5−フランジカルボン酸を合成した後、エステルに変換する場合は、ポリマー化の反応性の観点から、メチルエステル、エチルエステルが好ましい。2,5−フランジカルボン酸とアルコールで脱水する方法、対応する酸クロライドに変換した後、アルコールと反応させる方法によるフランジカルボン酸ジエステル製造は公知の技術を用いることができる。
【0137】
2,5−フランジカルボン酸ジエステルはポリエステル、ポリアミドの原料となるほか、エステル部位の還元によりポリカーボネート、ポリエステルの原料となるジオールに変換可能であり、石油由来の既存合成樹脂をバイオマス由来に置き換えられる可能性があるため、その製造技術が注目されている。
また、これら2,5−フランジカルボン酸ジエステルを用いたポリマーはガスバリア性に優れている特長がある。
【実施例】
【0138】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
大腸菌BW25113株について、以下の通り、One−step inactivation method(Proc.Natl.Acad.Sci.,2000,Vol.97(12),p6640-5)により、galE遺伝子、galT遺伝子、uxaC遺伝子、garD遺伝子、pgi遺伝子、arnA遺伝子、およびagp遺伝子の破壊を行ない、大腸菌BW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株を作製した。
【0139】
galET遺伝子のフランキング領域と相同性を有する配列とFLP組換え酵素の認識部位であるFRT(FLP Recognition Target)を両端に持つカナマイシン耐性遺伝子を、pKD13を鋳型としてgETFおよびgETRプライマー(配列番号1および2)を用いたPCRによって増幅した。アラビノースによるRed recombinaseの誘導発現が可能なプラスミドpKD46を有するBW25113株をこのPCR産物で形質転換した。コロニーPCRによりgalET遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子が置き換わったことが確認された形質転換体において、pKD46のキュアリングを行い、FLP酵素の発現が可能なヘルパープラスミドpCP20を導入した。さらに、FLP酵素による組換えの結果、カナマイシン耐性遺伝子が脱落し、pCP20のキュアリングが確認された株をBW25113/ΔgalETとした。
【0140】
上記と同様にして、pKD46を有するBW25113株を用いてuxaC遺伝子とカナマイシン耐性遺伝子を置き換えた株を作製し、P1ドランスダクションによりBW25113/ΔgalETに形質を移した株を取得した。その後、ヘルパープラスミドpCP20を導入し、カナマイシン耐性遺伝子を脱落させることでgalET遺伝子およびuxaC遺伝子を欠損させた株を構築、BW25113/ΔgalET/ΔuxaCとした。
上記の方法を繰り返すことによって、garD遺伝子の欠損を組み合わせた株を構築し、BW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0141】
[実施例2]
実施例1と同様の方法により、galE遺伝子、galT遺伝子、uxaC遺伝子、garD遺伝子、およびpgi遺伝子の破壊を行ない、大腸菌BW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi株を作製した。
【0142】
[実施例3]
実施例1と同様の方法により、galE遺伝子、galT遺伝子、uxaC遺伝子、garD遺伝子、pgi遺伝子、arnA遺伝子、およびagp遺伝子の破壊を行ない、大腸菌BW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株を作製した。
【0143】
[実施例4]
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、agp遺伝子、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を作製した。
【0144】
ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型として、それぞれugdF/ugdR(配列番号3および4)、galUF/galUR(配列番号5および6)、galFF/galFR(配列番号7および8)、pgmF/pgmR(配列番号9および10)のプライマーの組み合わせを用いたPCRにより増幅した。大腸菌用発現ベクターpZA(ChemSusChem,2011,Vol.4(8),p1068-70)のプラスミド骨格はpZARおよびpZAFプライマー(配列番号11および12)を用いたPCRにより増幅した。Gibson Assembly法(Nat.Methods,2009,Vol.6(5),p343-5)にて、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子をpZAベクターのPLlacO1プロモーター下流に挿入した。構築したプラスミドはpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmと名付けた。
【0145】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来agp遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型としてagpFおよびagpRプライマー(配列番号13および14)を用いたPCRによって増幅した。シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来udh遺伝子、リーシュマニア・メジャー(Leishmania major)由来のLmjF17.1160遺伝子、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来cap1J遺伝子を、それぞれ大腸菌での発現を改善させるため、コドンを最適化した配列で合成した(それぞれ配列番号15、16、17)。これらの合成遺伝子を鋳型として、それぞれudhF/udhR(配列番号18および19)、LmjF17.1160F/LmjF17.1160R(配列番号20および21)、cap1JF/cap1JR(配列番号22および23)のプライマーの組み合わせを用いたPCRにより増幅した。大腸菌用発現ベクターpZE(ChemSusChem,2011,Vol.4(8),p1068-70)のプラスミド骨格は制限酵素Acc65IおよびXbaIで処理することにより調製し、Gibson Assembly法(Nat.Methods,2009,Vol.6(5),p343-5)にて、udh遺伝子、agp遺伝子、LmjF17.1160遺伝子、cap1J遺伝子をpZEベクターのPLlacO1プロモーター下流に挿入した。構築したプラスミドはpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jと名付けた。
【0146】
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を上記の通り構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0147】
[実施例5]
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(R94H)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp94H_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を作製した。
【0148】
94番目のアルギニンをヒスチジンに変異させたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来agp遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型としてagpFおよびagpR94HR(配列番号13および24)、agpR94HFおよびagpR(配列番号25および14)のプライマーの組み合わせを用いたオーバーラップPCR(Methods.Mol.Biol.,2003,Vol.226,p511-6)によって増幅した。その他は実施例4のpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jと同様にしてプラスミドを構築し、pZE_PLlacO1_udh_agp94H_LmjF17.1160_cap1Jと名付けた。
【0149】
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を上記の通り構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp94H_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp94H_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0150】
[実施例6]
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(M123V)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を作製した。
【0151】
123番目のメチオニンをバリンに変異させたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来agp遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型としてagpFおよびagpM123VR(配列番号13および26)、agpM123VFおよびagpR(配列番号27および14)のプライマーの組み合わせを用いたオーバーラップPCR(Methods.Mol.Biol.,2003,Vol.226,p511-6)によって増幅した。その他は実施例4のpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jと同様にしてプラスミドを構築し、pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1Jと名付けた。
【0152】
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を上記の通り構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0153】
[実施例7]
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(M123A)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123A_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を作製した。
【0154】
123番目のメチオニンをアラニンに変異させたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来agp遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型としてagpFおよびagpM123AR(配列番号13および28)、agpM123AFおよびagpR(配列番号29および14)のプライマーの組み合わせを用いたオーバーラップPCR(Methods.Mol.Biol.,2003,Vol.226,p511-6)によって増幅した。その他は実施例4のpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jと同様にしてプラスミドを構築し、pZE_PLlacO1_udh_agp123A_LmjF17.1160_cap1Jと名付けた。
【0155】
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を上記の通り構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp123A_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123A_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0156】
[実施例8]
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(E196D)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp196D_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を作製した。
【0157】
196目のグルタミン酸をアスパラギン酸に変異させたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来agp遺伝子を、大腸菌ゲノムを鋳型としてagpFおよびagpE196DR(配列番号13および30)、agpE196DFおよびagpR(配列番号31および14)のプライマーの組み合わせを用いたオーバーラップPCR(Methods.Mol.Biol.,2003,Vol.226,p511-6)によって増幅した。その他は実施例4のpZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1Jと同様にしてプラスミドを構築し、pZE_PLlacO1_udh_agp196D_LmjF17.1160_cap1Jと名付けた。
【0158】
実施例1にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を上記の通り構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp196D_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp196D_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarDとした。
【0159】
[実施例9]
実施例2にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(M123V)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi株を作製した。
【0160】
実施例2にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi株を実施例4および6にて構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgiとした。
【0161】
[実施例10]
実施例3にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株について、以下の通り、ugd遺伝子、galU遺伝子、galF遺伝子、pgm遺伝子、udh遺伝子、変異agp遺伝子(M123V)、LmjF17.1160遺伝子、およびcap1J遺伝子の増強を行ない、大腸菌BW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株を作製した。
【0162】
実施例3にて作製したBW25113/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株を実施例4および6にて構築したプラスミドpZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgmおよびpZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1Jで形質転換し、得られた株をBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagpとした。
【0163】
[実施例11]
実施例4にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を用いて、以下の通り、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。
【0164】
実施例4にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を2XYT培地(16g/L Bacto−trypton、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて一晩培養した。125mLフラスコに4%グルコース、5g/L Yeast extract、0.5mM IPTG、50μg/mL カナマイシン、50μg/mL アンピシリンを含むM9培地を5mL添加し、上記培養液を1/25希釈となるよう植菌、30℃で48時間培養を行った。培養液をHPLCにて分析を行い、同条件にて3回行った平均値を算出した結果、15.3mg/Lのムチン酸が検出された。
【0165】
[実施例12]
実施例5にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp94H_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を用いて、実施例11と同様に、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。その結果、14.0mg/Lのムチン酸が検出された。
【0166】
[実施例13]
実施例6にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を用いて、実施例11と同様に、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。その結果、19.8mg/Lのムチン酸が検出された。
【0167】
[実施例14]
実施例7にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123A_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を用いて、実施例11と同様に、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。その結果、17.7mg/Lのムチン酸が検出された。
【0168】
[実施例15]
実施例8にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp196D_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD株を用いて、実施例11と同様に、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。その結果、18.9mg/Lのムチン酸が検出された。
【0169】
[実施例16]
実施例9にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi株を用いて、以下の通り、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。
【0170】
125mLフラスコを用いた培養において、2%グルコース、2%グリセロール、5g/L Yeast extract、0.5mM IPTG、50μg/mL カナマイシン、50μg/mL アンピシリンを含むM9培地を用いたこと以外は実施例11と同様に行った。その結果、130mg/Lのムチン酸が検出された。
【0171】
[実施例17]
実施例10にて作製したBW25113/pZA_PLlacO1_ugd_galU_galF_pgm/pZE_PLlacO1_udh_agp123V_LmjF17.1160_cap1J/ΔgalET/ΔuxaC/ΔgarD/Δpgi/ΔarnA/Δagp株を用いて、実施例16と同様に、フラスコ培養によるムチン酸発酵評価を行った。その結果、214mg/Lのムチン酸が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明によれば、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料からムチン酸を効率的に製造することが可能な方法及び微生物を提供することができる。
このような本発明の微生物を用いることにより、ムチン酸を効率よく製造することができる。さらに、本発明の製造方法により得られたムチン酸を原料として2,5−フランジカルボン酸や、2,5−フランジカルボン酸ジエステルを効率よく製造することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]