(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、実施形態を概略的に示したものであるため、部材のスケールや間隔、位置関係などが誇張や変形、あるいは、部材の一部の図示が省略されている場合がある。なお、以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明はこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
本明細書に記載される「〜」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として有する意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された下限値または上限値は、他の段階的に記載されている下限値または上限値に置き換えてもよく、実施例に示された数値に置き換えてもよい。
本明細書では、温度検知フィルムを例にして説明するが、本発明の技術的思想は、時間−温度インジケータ(Time Temperature Indicator;TTI)などに対しても適用することができる。
【0013】
はじめに、本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムに好適に用いることのできる温度検知材料について説明し、次いで、温度検知フィルムの構成およびその製造方法について説明する。
【0014】
<温度検知材料>
本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムは、製造方法の項目で説明するように、マトリックス材料と、前記マトリックス材料中に分散された示温材と、を含む温度検知材料を所定の形状に成形することによって好適に製造される。
【0015】
参照する図面において、
図1および
図2はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムに用いられる温度検知材料が含み得る示温材の温度による色濃度の変化を示した模式図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムに好適に用いることのできる温度検知材料の色濃度の変化を示した模式図である。
【0016】
本実施形態で好適に用いることのできる温度検知材料は、
図1または
図2に示すように、色濃度−温度曲線のヒステリシス特性が相違する示温材のうちの少なくとも1つ、好ましくは
図3に示すように2つを含んでいる。なお、本実施形態で好適に用いることのできる温度検知材料は、マトリックス材料を用いて示温材を固体化することで得ることができる。
【0017】
(示温材)
示温材は、温度変化(昇温/降温)により色濃度が可逆的に変化する材料を用いる。示温材は、電子供与性化合物であるロイコ染料と、電子受容性化合物である顕色剤と、変色の温度範囲を制御するための消色剤と、を含む。
【0018】
図1から
図3を参照して示温材についてさらに詳細に説明する。なお、
図1から
図3において、Tは温度、aは顕色、dは消色、1および2はそれぞれ第1示温材および第2示温材を示す。従って、例えば、「Ta1」は、第1示温材の顕色温度を示し、「Td1」は、第1示温材の消色温度を示す。また、
図1から
図3において、横軸は温度を示し、縦軸は色濃度を示している。温度と色濃度はともに原点から矢印の方向に離れるほど値が高くなる。
【0019】
第1示温材は、
図1に示す色濃度変化のヒステリシス特性を有する。第1示温材は、消色温度Td1以上の溶融状態であるP1の状態から温度が低下していくと、顕色温度Ta1までは消色状態を維持している。顕色温度Ta1以下になると、消色剤が凝固点以下で結晶状態になり、ロイコ染料と顕色剤とが分離されることで、ロイコ染料と顕色剤とが結合し顕色する。
【0020】
第2示温材は、
図2に示す色濃度変化のヒステリシス特性を有する。第2示温材は、消色剤に結晶化し難い材料を用いると、第2示温材の消色温度Td2以上の溶融状態であるP1から顕色温度Ta2以下に急冷させた際、消色剤が顕色剤を取り込んだまま非晶状態を形成して消色状態を保持することが可能である。この状態から、昇温過程で、顕色温度Ta2以上(ガラス転移点近傍の結晶化開始温度以上)に温度を上げると、消色剤が結晶化して顕色する。
【0021】
本実施形態では、商品等の物品の流通時における物品の温度管理を保証することを目的としている。温度変化により可逆的に色変化する温度検知材料を用いた場合、流通時に一度温度が上昇または降下し、温度検知材料の色が変化したとしても、流通過程で再び温度が降下または上昇した場合に色が元に戻ってしまい、温度の変化の有無を把握することができない。しかしながら、示温材として
図1および
図2の変色現象を示す材料を用いれば、色戻りし難いために温度環境の変化を知ることができる。
図3は、第1示温材および第2示温材を1つの温度検知材料に混合した場合における色濃度−温度曲線のヒステリシス特性を図示している。
図3に示す例において、Ta2は、第2示温材の顕色温度であるとともに、物品の上限温度逸脱の検知温度を示している。また、Ta1は、第1示温材の顕色温度であるとともに、物品の下限温度逸脱の検知温度を示している。そして、
図3中の斜線部は物品の管理温度の範囲である。
【0022】
つまり、
図3に示す例では、温度検知材料は、示温材が過冷却状態であり、融点以下の状態でも液体状態のままであり消色状態のもの、すなわち、第1示温材を下限検知に用いている。また、
図3に示す例では、示温材の融点以上の溶融状態から急冷させ、示温材が非晶状態を形成しており、消色状態のもの、すなわち、第2示温材を上限検知に用いている。本実施形態における温度検知材料は、この2種の示温材の変色幅を調整することにより、温度環境の変化の有無を好適に検知することができる。また、本実施形態における温度検知材料は、この2種の示温材の組合せにより、温度上昇および温度下降の両方を検知することができる。また、本実施形態における温度検知材料は、それぞれの示温材を融点以上の温度に上げることで、一度顕色した変色状態を初期の消色状態に戻すことができる。そのため、本実施形態における温度検知材料は、2種の示温材の融点以下の温度において不可逆性を示し、上限および下限での温度逸脱が検知可能であり、融点以上の温度に昇温後に管理温度まで急冷させることで、機能の初期化が可能な組合せになる。
【0023】
温度検知材料中における示温材の含有量は、温度検知材料として機能できる範囲で(つまり、示温材の顕色および消色が確認できる範囲で)任意に設定可能であり、特に限定されない。なお、温度検知材料中における示温材の含有量は、例えば、温度検知材料を100質量%とした場合に、50質量%未満とすることが、視認性の点から好ましい。温度検知材料中における示温材の含有量は、この範囲で視認性およびコストなどを勘案して任意に設定可能である。
【0024】
(ロイコ染料)
ロイコ染料は、顕色剤により発色することが可能な電子供与性の化合物である。ロイコ染料は、従来、感圧複写紙用の染料や感熱記録紙用染料として用いられている公知のものを利用できる。ロイコ染料としては、例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系などを用いることができる。ロイコ染料の具体例としては、例えば、9−(N−エチル−N−イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン−12,3’−フタリド]、2−メチル−6−(Np−トリル−N−エチルアミノ)−フルオラン、6−(ジエチルアミノ)−2−[(3−トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン−9−スピロ−3’−フタリド、3,3−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、2’−アニリノ−6’−(ジブチルアミノ)−3’−メチルスピロ[フタリド−3,9’−キサンテン]、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1−エチル−8−[N−エチル−N−(4−メチルフェニル)アミノ]−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロスピロ[11H−クロメノ[2,3−g]キノリン−11,3’−フタリド]などが挙げられる。
本実施形態における示温材のロイコ染料は、これらのロイコ染料を1種だけ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本実施形態においては、要求温度に応じて示温材に適したロイコ染料を適宜選定できる(第1示温材および第2示温材を用いる場合はそれぞれに適したロイコ染料を適宜選定できる)。第1示温材と第2示温材とを使用する場合、前記したロイコ染料は第1示温材と第2示温材の両方に共通して使用することができる。
【0025】
(顕色剤)
顕色剤は、電子供与性のロイコ染料と接触することで、ロイコ染料の構造を変化させて呈色させるものである。顕色剤は、従来、感熱記録紙や感圧複写紙などに用いられている公知のものを利用できる。このような顕色剤の具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’−ビフェノール、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、α,α,α’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル等のフェノール類などを挙げることができる。顕色剤は、これらに限定されるものではなく、電子受容体でありロイコ染料を変色させることができる化合物であればよい。また、顕色剤は、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸およびサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類などを用いてもよい。特に、顕色剤は、ロイコ染料や後述する消色剤に対する相溶性が高いものが好ましく、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’−ビスフェノール、ビスフェノールA、没食子酸エステル類などの有機系顕色剤が好ましい。
【0026】
本実施形態における示温材の顕色剤は、これらの顕色剤を1種だけ用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。顕色剤を組み合わせることによりロイコ染料の呈色時の色濃度をより精緻に調整し得る。なお、本実施形態においては、要求温度に応じて示温材に適した顕色剤を適宜選定できる(第1示温材および第2示温材を用いる場合はそれぞれに適した顕色剤を適宜選定できる)。第1示温材と第2示温材とを使用する場合、前記した顕色剤は第1示温材と第2示温材の両方に共通して使用することができる。顕色剤の使用量は所望される色濃度に応じて選択する。顕色剤の使用量は、例えば、前記したロイコ染料1質量部に対して、0.1質量部〜100質量部程度の範囲内で選択すればよい。
【0027】
(消色剤)
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な化合物であり、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度を制御できる化合物である。一般的に、ロイコ染料が呈色した状態の温度範囲では、消色剤が相分離した状態で固化している。また、ロイコ染料が消色状態となる温度範囲では、消色剤は融解しているか非晶状態で固化しており、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる機能が発揮された状態である。そのため、消色剤の状態変化温度が示温材の温度制御に対して重要になる。
【0028】
消色剤の材料としては、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料を幅広く用いることができる。極性が低くロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料と顕色剤を溶解させる程度に極性が高ければ、様々な材料が消色剤になり得る。消色剤として代表的には、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N−オキシド化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物、アルカロイド化合物、ステロイド化合物など、多様な有機化合物を用いることができる。このような消色剤の具体例としては、トリカプリン、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸m−トリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、1,4−ジアセトキシブタン、デカン酸デシル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、クエン酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ブチルフタリルブチルグリコラート、N−メチルアントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸2−ヒドロキシエチル、ニコチン酸メチル、4−アミノ安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、4−ニトロ安息香酸エチル、フェニル酢酸2−フェニルエチル、ケイ皮酸ベンジル、アセト酢酸メチルなどのエステル化合物やステロイド化合物などが挙げられる。消色剤は、ロイコ染料および顕色剤との相溶性の観点から、これらの化合物を含むことが好ましい。本実施形態における示温材の消色剤は、これらの消色剤を1種だけ用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。消色剤を組み合わせることにより、凝固点、融点、ガラス転移点、結晶化速度などの調整が可能である。また、消色剤を組み合わせることにより、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度をより精緻に制御し得る。勿論、本実施形態で用いることのできる消色剤はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0029】
なお、本実施形態においては、要求温度に応じて示温材に適した消色剤を適宜選定できる(第1示温材および第2示温材を用いる場合はそれぞれに適した消色剤を適宜選定できる)。第1示温材と第2示温材とを使用する場合、前記した消色剤は第1示温材と第2示温材の両方に共通して使用することができる。消色剤の使用量は所望される呈色温度に応じて選択する。消色剤の使用量は、例えば、前記したロイコ染料1質量部に対して、10質量部〜100質量部程度の範囲内で選択すればよい。
【0030】
上記の消色剤の状態変化温度が重要である。急冷により非晶状態を形成することで、上限温度逸脱の検知に用いる示温材の消色剤としては、急冷過程において結晶化せず、ガラス転移点近傍で非晶化する必要がある。そのため、結晶化し難い材料が好ましい。急冷速度を非常に速くすればほとんどの材料で非晶状態を形成するが、実用性を考慮すると、汎用的な冷却装置による急冷で非晶状態を形成する程度に結晶化し難い材料が好ましい。さらに最も好ましいのは、融点以上の融解状態から自然に冷却する過程で非晶状態を形成する程度に結晶化し難い材料である。この条件として、100℃/分以下の速度で融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤が好ましく、20℃/分以下の速度で融点からガラス転移点まで冷却したときに非晶状態を形成する消色剤が最も好ましい。
【0031】
融点以下で過冷却状態となり液体状態で存在することで下限温度逸脱の検知に用いる示温材の消色剤としては、過冷却状態の温度範囲が広いこと、すなわち消色剤の凝固点と融点の温度差が大きいことが望ましい。また、消色剤の融点または凝固点の温度は、対象とする温度管理範囲に依存する。
【0032】
機能の初期化のため、上限温度逸脱の検知に用いる示温材の消色剤および下限温度逸脱の検知に用いる示温材の消色剤それぞれの融点以上に温度を上げる必要がある。機能の初期化温度としては、管理温度付近では起こりづらい程度に高温である必要があるが、実用性を考慮すると、汎用的な加熱装置により加熱可能な温度域であることが望ましい。また、温度検知材料としては、示温材を保護するためにマトリックス材料やインジケータ用の基材を用いるため、これらの耐熱性も考慮する必要がある。機能の初期化温度は、具体的には、40℃〜200℃程度が好ましく、60℃〜150℃程度が最も好ましい。
【0033】
<温度検知材料の形態>
上記の示温材の組合せは、温度検知材料として用いる場合、複数の形態が存在する。ただし、上限温度逸脱の検知に用いる示温材(上限検知用の示温材)と下限温度逸脱の検知に用いる示温材(下限検知用の示温材)とを同じマトリックス材料中で混合させると、それぞれの機能を阻害してしまうため、これらが分離して存在する構造が必要である。また、下限検知用の示温材は、液体が結晶化することで顕色する。すなわち、下限検知用の示温材は、示温材の構造が変化する。そのため、下限検知用の示温材は、取扱い性の観点から、液体を保護する形態が必要である。
【0034】
この観点より、示温材をマイクロカプセルで保護することが一般的に用いられる。上限検知用の示温材と下限検知用の示温材をそれぞれマイクロカプセル化すると、同じ温度検知材料中に(マトリックス材料中に)それらを混合させることができる。従って、このようにすると、同じ温度検知材料で上限検知と下限検知の同時検知が可能となる。
【0035】
また、本実施形態においては、示温材を顕色作用および消色作用のないマトリックス材料で保護した固体材料(相分離構造体)とすることもできる。この場合、相分離構造体は、上限検知用の示温材で形成したものと、下限検知用の示温材で形成したものとの2種を用いることが好ましい。このようにすると、マイクロカプセルと同様に取り扱うことができる。
【0036】
なお、上限検知用の示温材に関しては、非晶状態が結晶化することで顕色する。そのため、固体状態での変色になる。従って、上限検知用の示温材は、示温材単体で使用することもできる。ただし、機能の初期化のためには示温材を融解する必要があり、その状態では液体状態になるため、取扱い性には難がある。このような理由から、上限検知用の示温材についてもマイクロカプセル化または相分離構造体化することが好ましい。
【0037】
このように、上限検知用の示温材としては、マイクロカプセル化した示温材、相分離構造体化した示温材、あるいは示温材単体を使用する。また、下限検知用の示温材としては、マイクロカプセル化した示温材、相分離構造体化した示温材を使用する。そして、これらを混合することで、上限検知と下限検知の同時検知が可能な固体材料を得ることができる。
【0038】
<マイクロカプセル化>
マイクロカプセル化することにより、前記したように組成の湿度等に対する耐環境性が向上し、保存安定性、変色特性の安定化などを図ることができる。また、マイクロカプセル化すると、製造時に樹脂組成物とした際に、ロイコ染料、顕色剤および消色剤が、他の樹脂剤、添加剤などの化合物から受ける影響を抑制できる。
【0039】
マイクロカプセル化には、公知の各種手法を適用することができる。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、コアセルベーション法、界面重合法、スプレードライング法などを適用することができるが、これらに限定されるものではない。また、2種以上異なる方法を組み合わせてもよい。
これらの手法でマイクロカプセル化された示温材を製造し、マトリックス材料中に含ませて混合し(混合工程)、冷却することで(冷却工程)、マイクロカプセル化された示温材をマトリックス材料中に含む温度検知材料を製造することができる。この温度検知材料の製造方法は、後述する本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムの製造方法における示温材製造工程の一態様に相当する。
【0040】
マイクロカプセルに用いる樹脂被膜としては、例えば、多価アミンとカルボニル化合物から成る尿素樹脂被膜、メラミン・ホルマリンプレポリマー、メチロールメラミンプレポリマー、メチル化メラミンプレポリマーから成るメラミン樹脂被膜、多価イソシアネートとポリオール化合物から成るウレタン樹脂被膜、多塩基酸クロライドと多価アミンから成るアミド樹脂被膜、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニルなどの各種モノマー類から成るビニル系の樹脂被膜を用いることができるが、これらに限定されない。さらに、本実施形態においては、形成した樹脂被膜の表面処理を行い、樹脂組成物とする際の表面エネルギーを調整することで、マイクロカプセルの分散安定性を向上させるなどの追加の処理をすることもできる。
【0041】
マイクロカプセルの直径は、装置適合性、保存安定性などを考慮して、0.1μm〜100μm程度の範囲が好ましく、0.1μm〜10μmの範囲がより好ましい。
【0042】
<相分離構造体化>
相分離構造体とは、示温材であるロイコ染料、顕色剤、消色剤をマトリックス材料中に分散させ、固体材料化したものである。これにより、マイクロカプセル化ではない簡便な手法で、マイクロカプセル同様に保存安定性、変色特性の安定化などを図ることができる。また、相分離構造体は、粉体化することができるので、粉体化した相分離構造体を用いることにより、製造時に樹脂組成物とした際に、ロイコ染料、顕色剤、消色剤が他の樹脂剤、添加剤などの化合物から受ける影響を抑制できる。
【0043】
図4A〜
図4Dに本発明の一実施形態に係る温度検知フィルム100(温度検知材料120)の相分離構造の模式図を示す。なお、
図4Aは、示温材121が顕色している状態を図示しており、
図4Bは、
図4A中のivb部拡大図である。
図4Cは、示温材121が消色している状態を図示しており、
図4Dは、
図4C中のivd部拡大図である。
【0044】
図4A〜
図4Dに示すように、温度検知フィルム100は、マトリックス材料122中に示温材121が分散した相分離構造を形成している。つまり、温度検知フィルム100は、ロイコ染料と顕色剤と消色剤とを含む相(示温材121)が、マトリックス材料122中に分散した構造を形成している。
【0045】
なお、本実施形態に係る温度検知フィルム100は、後述するように、マトリックス材料122の融点Bが示温材121または消色剤の融点Aよりも高いので、示温材121の変色温度において固体状態を保持できる。そのため、示温材121が固体から液体、液体から固体への状態変化を伴い、色変化が生じたとしても、温度検知フィルム100(温度検知材料120)は、
図4A〜
図4Dに示すように固体状態のままである。
【0046】
また、
図4B、
図4Dに示すように、マトリックス材料122と示温材121とは相分離しており、かつマトリックス材料122が示温材121の色変化に影響を与えないことから、示温材121の温度検知機能をそのまま保持することができる。
【0047】
マトリックス材料122中に分散した示温材121からなる相の長径は、100nm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。示温材121からなる相の長径は特に限定されないが、100nm以上とすることにより示温材121とマトリックス材料122の界面による検知温度への影響を抑制できる。また、示温材121からなる相の長径を1mm以下とすることにより、示温材121とマトリックス材料122とを区別して視認することが困難となり、温度検知材料120の色ムラを抑えることができる。示温材121からなる相の長径は、界面活性剤を添加することや、初期の消色状態とする際に行う冷却工程で攪拌しながら冷却することによって小さくすることができる。なお、示温材121からなる相の長径とは、示温材121からなる相を楕円に近似したときの近似楕円の長径である。
【0048】
相分離構造体は、乳鉢などで砕いて、粉体化することも可能である。これによりマイクロカプセルと同様の取扱いが可能になる。
【0049】
<相分離構造体の製造方法>
相分離構造体の製造方法としては、例えば、混合工程と冷却工程とを有し、これらの工程についてはこの順序で行うことが挙げられる。なお、この相分離構造体の製造方法は、後述する本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムの製造方法における示温材製造工程の一態様に相当する。
【0050】
前記した混合工程では、ロイコ染料と、顕色剤と、消色剤と、マトリックス材料122とを、マトリックス材料122の融点以上の温度に加温し、混合する。
そして、前記した冷却工程では、混合工程で得られた混合物を、マトリックス材料122の凝固点以下の温度に冷却する。この冷却工程において、マトリックス材料122と示温材121とが速やかに相分離し、マトリックス材料122中にロイコ染料と、顕色剤と、消色剤とからなる相が分散した相分離構造が形成される。
なお、第1示温材と第2示温材とを用いる場合は、それぞれの示温材121について前記した混合工程と冷却工程とを行って製造するとよい。
【0051】
混合工程でマトリックス材料122の融点以上に加温し液体状態にする際、示温材121とマトリックス材料122の相溶性次第で、示温材121と非顕色性材料が相溶する場合と、相溶しない場合がある。このとき、相溶している方が取扱い易さの観点において好ましい。示温材121とマトリックス材料122は、マトリックス材料122が固体状態である使用温度のときは相分離する必要があるが、マトリックス材料122が液体状態である加温状態ではその限りではない。使用温度で示温材121とマトリックス材料122が相分離し、加温状態で示温材121とマトリックス材料122が相溶するためには、特に含有量の多い消色剤の極性がある程度の範囲内にあるとよい。消色剤の極性が小さ過ぎると使用温度でマトリックス材料122と相溶してしまい、極性が大き過ぎると、加温状態でマトリックス材料122と分離してしまう。
【0052】
消色剤の具体的な極性の計算方法として、ハンセン溶解度パラメータが挙げられる。本実施形態においては、ハンセン溶解度パラメータにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδdおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ1以上10以下である消色剤を好ましく用いることができる。なお、消色剤の極性が大きく、加温状態でも示温材121とマトリックス材料122が相溶しない材料についても、攪拌しながら冷却することで、相分離構造を形成させることができる。また、界面活性剤を添加して相溶させても相分離構造を形成させることができる。
【0053】
マトリックス材料122の凝固点以下に冷却し、相分離構造を形成させる際、示温材121とマトリックス材料122の相溶性により、示温材121の分散構造の大きさ(相の長径)を調整することができる。例えば、含有量の多い消色剤とマトリックス材料122について、ある程度相溶性が良いと細かく分散し、相溶性が悪いと大きく分散する。分散構造の大きさ(相の長径)は特に限定されないが、前記したように、100nm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。この分散構造を実現するためにも前記したように、ハンセン溶解度パラメータにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδdおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ1以上10以下である消色剤を用いることが好ましい。
【0054】
(マトリックス材料)
マトリックス材料122は、示温材121と混合したときに、示温材121の顕色性および消色性を損なわない材料である必要がある。そのため、それ自身が顕色性を示さない材料であることが好ましい。このような材料として、電子受容体ではない非極性材料を用いることができる。
【0055】
また、マトリックス材料122中に示温材121が分散した相分離構造を形成させる場合、マトリックス材料122としては次の3つの条件を満たす材料を用いる必要がある。
3つの条件とは、温度検知材料120の使用温度(変色温度)で固体状態であること、融点Bが示温材121または消色剤の融点Aよりも高いこと、ロイコ染料、顕色剤および消色剤と相溶性の低い材料であること、である。ロイコ染料、顕色剤、消色剤のいずれかの材料がマトリックス材料122と固溶した状態であると、温度検知機能が損なわれる。また、使用温度で固体状態のマトリックス材料122を用いることにより、温度検知材料120の取扱いが容易となる。
【0056】
さらに、本実施形態においては、マトリックス材料122と示温材121とを含む温度検知材料120が、フィルム化可能な物性を有する必要がある。
【0057】
以上の条件を満たすマトリックス材料122としては、ハンセン溶解度パラメータにより予測される分子間の双極子相互作用によるエネルギーδdおよび分子間の水素結合によるエネルギーδhがそれぞれ3以下である材料を好ましく用いることができる。そのようなマトリックス材料122として、ポリオレフィン系の高分子を用いることができる。このようにすると、後記するメルトフローレートを所定の範囲とすることができる。なお、本明細書において、ポリオレフィン系の高分子とは、単純なオレフィン類やアルケンをモノマーとして合成されたものであり、C、H、Oからなる長鎖分子である。一部二重結合を含むものも広義的にポリオレフィンとして扱う。具体的には、ポリオレフィン系の高分子とは、分子量が1万以上のもの、好ましくは1万〜100万のものをいう。
【0058】
マトリックス材料122は、具体的には、炭化水素のみで構成される材料が好ましく、極性基を有さない材料がより好ましい。このようなマトリックス材料122として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレンが挙げられる。また、前記したマトリックス材料122は、これらを複数種併用することも可能である。なお、本実施形態においては、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレンの骨格を多く持つ高分子材料やこれらの共重合体なども好適に用いることができる。
【0059】
さらに、マトリックス材料122は、有機溶媒に溶け、有機溶媒の揮発過程で固体化する材料も取扱い性がよい。これらの観点からも、マトリックス材料122としては、前記した中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレンなどの骨格を多く持つ高分子材料を用いることが好ましい。
【0060】
そして、本実施形態に係る温度検知フィルム100は、マトリックス材料122と示温材121とを含む温度検知材料120を用いてフィルム化するため、溶融させた樹脂の流動性が温度検知フィルム100の機能および成形性に大きく影響する。樹脂の流動性の評価方法として、規格化(JIS K7210)されたメルトフローレートがある。このメルトフローレートは、具体的には、シリンダーの中で190℃に加熱した樹脂に、2.16kgの加重を掛けて、細孔から10分間に流れ出る樹脂の量を指標とするものである。マトリックス材料122と示温材121とを混合した樹脂のメルトフローレートが0.5g/10min以上50g/10min以下であると、マトリックス材料122と示温材121との混合性およびフィルム成形性を両立できる。前記したメルトフローレートは、温度検知材料120をマイクロカプセル化で得る場合および相分離構造体化で得る場合のいずれの態様であっても、この範囲となるようにそれぞれの材料を選択する。なお、前記したメルトフローレートは0.5g/10min以上10g/10min以下であることが好ましい。このようにすると、マトリックス材料122と示温材121との混合性およびフィルム成形性をより高いレベルで両立できる。
【0061】
本実施形態に係る温度検知フィルム100は、示温材121または消色剤の融点Aとマトリックス材料122の融点Bとの関係が融点B−融点A>30℃であることとしている。ここで、示温材121の融点Aと消色剤の融点Aとが異なる場合はいずれか低い方の融点を適用すればよく、これらの融点が同じである場合は、どちらの融点を適用してもよい。このようにすると、マトリックス材料122の融点Bが、示温材121または消色剤の融点Aよりも高いので、示温材121の変色温度において固体状態を保持できる。そのため、示温材121が固体から液体、液体から固体への状態変化を伴い、色変化が生じたとしても、温度検知フィルム100(温度検知材料120)は固体状態のままである。このように、示温材121が状態変化を行うような温度にした場合であっても、温度検知フィルム100(温度検知材料120)は固体状態のままであるので、温度検知フィルム100(温度検知材料120)の分子が動き難くなる。そのため、示温材121の分子運動も鈍くなるため、本実施形態に係る温度検知フィルム100は、温度検知時間を長くできる。同様の観点から、前記した融点Aと融点Bとの関係は融点B−融点A>40℃であることが好ましく、融点B−融点A>50℃であることがより好ましい。
【0062】
本実施形態に係る温度検知フィルム100においては、マトリックス材料122の含有量を50質量%以上としている(温度検知フィルム100を構成する温度検知材料120を100質量%とした場合に、マトリックス材料122の含有量を50質量%以上としている)。言い換えると、示温材121の含有量は50質量%未満としている。このようにすると、マトリックス材料122中における示温材121の分散性が高くなる。また、このようにすると、マトリックス材料122は示温材121を保持できるとともに、温度検知材料120としての視認性を確保できる。さらに、このようにすると、温度検知材料120の固化を好適に行わせることができるので、温度検知材料120のフィルム化が行い易い。なお、温度検知フィルム100(温度検知材料120)中のマトリックス材料122の含有量は、70質量%以上95質量%以下であることが好ましい。このようにすると、分散性およびフィルム化がより好適となることに加えて、温度検知フィルム100の加工性が向上する。
【0063】
なお、示温材121の成分、マトリックス材料122の種類および含有量は、例えば、核磁気共鳴装置や質量分析計などの成分を分析することのできる装置を用いることで容易に確認できる。
また、示温材121または消色剤の融点Aとマトリックス材料122の融点Bとは、例えば、示差走査熱量計(DSC)により測定できる。測定は、例えば、融点を測定する試料10mgを秤量したものをアルミパンに載せて−40℃に降温し、5分間−40℃で保持した後、5℃/minにて200℃まで昇温し、得られた温度に対する熱流の変化図から、融解による吸熱ピークの立ち下がりの温度を抽出することで容易に確認できる。
【0064】
(温度検知フィルムの製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムの製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る温度検知フィルムの製造方法の内容を説明するフローチャートである。
図5に示すように、本製造方法は、示温材製造工程S1と、温度検知材料製造工程S2と、温度検知フィルム製造工程S3と、を含み、これらの工程についてはこの順に行う。
【0065】
示温材製造工程S1は、ロイコ染料と、顕色剤と、消色剤と、を用いて示温材121を製造する工程である。この示温材製造工程S1では、前述した方法により、示温材121をマトリックス材料122中に相分離構造体化およびマイクロカプセル化の少なくとも一方の状態で分散させることが好ましい。
そして、温度検知材料製造工程S2は、ポリオレフィン系の高分子であるマトリックス材料122を熱溶融させつつ、示温材製造工程S1で製造した示温材121を加えて混練し、温度検知材料120を製造する工程である。
示温材製造工程S1および温度検知材料製造工程S2は、それぞれ任意のミキサーなどを用いて行うことができる。
【0066】
温度検知フィルム製造工程S3は、温度検知材料製造工程S2で混練した温度検知材料120を冷まして固めた後、所定の形状に成形して温度検知フィルム100を製造する工程である。
温度検知材料120の冷却は、汎用的な冷却装置や自然放冷(自然に冷却)でマトリックス材料122の凝固点以下の温度に冷却することにより行うことができる。冷却を行う際は、固めた温度検知材料120が所望の厚さ寸法となるように調整することが好ましい。そして、適宜裁断したり、打ち抜いたりすることで所望の形状の温度検知フィルム100に成形できる。また、温度検知フィルム製造工程S3においては、温度検知材料製造工程S2で混練した温度検知材料120を所定の型に流し入れて冷却することで、所定の形状の温度検知フィルム100に成形してもよい。
【0067】
そして、本製造方法では、示温材121およびマトリックス材料122は、前記した示温材121または消色剤の融点Aと前記したマトリックス材料122の融点Bとの関係が融点B−融点A>30℃となるように、かつ、温度検知フィルム100のメルトフローレートが0.5g/10min以上50g/10min以下となるように、それぞれ材料を選択する。これらの材料の選択は、当業者であれば本明細書の説明に基づいて適宜行うことができる。また、本製造方法においては、温度検知材料製造工程S2におけるマトリックス材料122の含有量を50質量%以上とする。このようにすると、本製造方法により、前記した本実施形態に係る温度検知フィルム100を好適に製造することができる。
【0068】
本実施形態に係る温度検知フィルム100は、以上に説明したように、マトリックス材料122を特定するとともにその含有量を特定し、さらに、メルトフローレートを特定の範囲としているので、温度検知材料120のフィルム化を好適に行うことができる。このように好適にフィルム化できることから、本実施形態に係る温度検知フィルム100はそれ単体で使用することができ、温度検知ラベルのように、基材、透明基材、スペーサなどの部材を必要としないから、低コスト化できる。
また、温度検知フィルム100は、示温材121または消色剤の融点Aとマトリックス材料122の融点Bとの関係を特定の範囲としているので、温度検知時間を長くできる。
本実施形態に係る温度検知フィルムの製造方法は、これらの効果を奏する本実施形態に係る温度検知フィルム100を好適に製造できる。
【0069】
<温度インジケータ>
前記したように、本実施形態に係る温度検知フィルム100は、それ単体で使用することができ、低コストかつ温度検知時間を長くすることができるが、長期間の使用を考えた場合、より強度を高めたり、材料の劣化防止等を図ったりしたいという要望が考えられる。
そのため、本実施形態に係る温度検知フィルム100は、樹脂、ガラス、金属などの基材(図示せず)に貼り付けたり、透明基材およびスペーサ(いずれも図示せず)でカバーしたりするなどして、上限検知と下限検知を同時検知可能な温度インジケータ(図示せず)とすることができる。このように、本実施形態に係る温度検知フィルム100を用いて温度インジケータとした場合、前記した理由により温度検知時間を長くできるので、温度検知フィルム100や従来の温度インジケータよりも温度検知時間をさらに長くすることができる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例および比較例を示しながら、本発明の効果を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
メルトフローレートが2.5g/10minのポリプロピレン(PP)と、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを85質量%:15質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、実施例1に係る温度検知フィルムを製造した。なお、この実施例1に係る温度検知フィルムは、昇温して8℃以上になると顕色する示温材を適用したものであり、初期化後室温で放置すると均一に顕色変化する。実施例1に係る温度検知フィルムは、消色剤の融点AとPP(マトッリクス材料)の融点Bとの関係が、融点B−融点A=40℃であったので、
図6A〜
図6Cに示すように、初期状態および顕色状態のいずれもフィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)。
【0072】
なお、
図6Aは、実施例1に係る温度検知フィルムについて、製造直後(室温で0時間保存)で顕色前の状態(初期状態)を上方から撮影した写真である。
図6Bは、実施例1に係る温度検知フィルムについて、室温で5日保存(約120時間保存)して顕色させた状態を上方から撮影した写真である。
図6Cは、
図6Bに示す実施例1に係る温度検知フィルムについて、側方から撮影した写真である。
図6A〜
図6Cにおいて、右下のスケールバーはいずれも10mmを表している。また、
図6Cに示すように、実施例1に係る温度検知フィルムの厚さは400μm(t=400μm)である。前記したように、実施例1に係る温度検知フィルムは、
図6A〜
図6Cに示す如く、初期状態および顕色状態のいずれもフィルム形状を保てることが確認された。
【0073】
(検知温度と検知時間の抽出)
そして、前記した実施例1に係る温度検知フィルムを8℃、15℃、25℃、50℃で保存し、色みが50%の濃度になった時間を抽出した。色の濃度は、撮影画像から専用の画像解析ソフト(オープンソースのImageJ)を用いてR(赤)、G(緑)、B(青)値を抽出して判断した。なお、今回使用した染料が青色であるため、3B/(R+G+B)の式に画像から読み取った値を導入して算出した。初期化直後の色の濃度を0%とし、色が変化しなくなるまで室温で十分に放置した色の濃度を100%とし、その中間の色みになったときを50%の色濃度であると判断した。
【0074】
(実施例2)
実施例1に係る温度検知フィルムと同じ材料を用いてPPと示温材とを70質量%:30質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、実施例2に係る温度検知フィルムを製造した。そして、この実施例2に係る温度検知フィルムを用い、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。なお、この実施例2に係る温度検知フィルムも、初期状態および顕色状態のいずれにおいてもフィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)。
【0075】
(実施例3)
実施例1に係る温度検知フィルムと同じ材料を用いてPPと示温材とを50質量%:50質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、実施例3に係る温度検知フィルムを製造した。そして、この実施例3に係る温度検知フィルムを用い、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。なお、この実施例3に係る温度検知フィルムも、初期状態および顕色状態のいずれにおいてもフィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)。
【0076】
(実施例4)
メルトフローレートが50g/10minのPPと、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを70質量%:30質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、実施例4に係る温度検知フィルムを製造した。そして、この実施例4に係る温度検知フィルムを用い、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。なお、この実施例4に係る温度検知フィルムも、初期状態および顕色状態のいずれにおいてもフィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)。
【0077】
(実施例5)
メルトフローレートが0.5g/10minのポリエチレン(PE)と、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを70質量%:30質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、実施例5に係る温度検知フィルムを製造した。そして、この実施例5に係る温度検知フィルムを用い、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。なお、この実施例5に係る温度検知フィルムも、初期状態および顕色状態のいずれにおいてもフィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)。
【0078】
(比較例1)
メルトフローレートが50g/10minを超える低融点(低分子量)ポリエチレンワックス(WAX)と、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを、70質量%:30質量%で混合して熱溶融し、アルミの型に流し込むことで400μmの厚みに固化成形して、比較例1に係る薄片状の温度検知材料を製造した(固形ワックス状態であった)。消色剤の融点Aとマトリックス材料のポリエチレンワックスの融点Bとの関係は融点B−融点A≦30℃であり、顕色状態では固体であるが、初期状態では液体状態であった。そして、この比較例1に係る温度検知材料を25℃で保存し、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。
【0079】
(比較例2)
メルトフローレートが50g/10minを超えるPPと、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを70質量%:30質量%で混合して熱溶融し、400μmの厚みにフィルム成形して、比較例2に係る温度検知フィルムを製造した。そして、この比較例2に係る温度検知フィルムを用い、実施例1と同様の条件および基準で検知温度と検知時間の抽出を行った。なお、この比較例2に係るフィルムは、フィルム形状を保てることが確認された(固体状態のままであった)が、2100hでも顕色を示さなかった(顕色を示さず)。
【0080】
(比較例3)
メルトフローレートが0.5g/10min以上50g/10min以下のポリエチレンワックス(WAX)と、ロイコ染料、顕色剤および消色剤からなる示温材とを30質量%:70質量%で混合して熱溶融したが、この材料(比較例3に係る材料)はフィルム状に成形することができなかった(フィルム化不可)。比較例3に係る材料は、顕色状態では固体であるが、初期状態では半固体状態であった。
【0081】
表1に、実施例1〜5および比較例1〜3に係る温度検知フィルムの条件(マトリックス材料の種類と含有量(質量%))と、8℃、15℃、25℃、50℃の各温度で保存し、色みが50%の濃度になった時間を抽出した結果とを示す。なお、表1中の「−」は、時間を抽出していないことを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、実施例1〜5に係る温度検知フィルムは、本発明の要件を満たしていたので、本発明の要件を満たさない比較例1(具体的には、メルトフローレートが上限を超え、マトリックス材料が低分子量のポリエチレンワックスを用いていた比較例1)よりも検出時間(温度検出時間)を長くできることが確認された。また、実施例1〜5に係る温度検知フィルムは、前記したように、初期状態も顕色状態もフィルム形状を保つことができたので、温度検知フィルム単体での使用が可能であることが確認された。そのため、本発明の要件を満たす温度検知フィルムは、基材、透明基材、スペーサなどの部材を必要とする従来の温度検知ラベル(温度インジケータ)と比較すると、これらの部材を必要としないので低コスト化できることが確認された。
【0084】
以上、本発明に係る温度検知フィルムおよびその製造方法について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。