特許第6863478号(P6863478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6863478炭素繊維束、炭素繊維束の製造方法、及びシートモールディングコンパウンドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863478
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】炭素繊維束、炭素繊維束の製造方法、及びシートモールディングコンパウンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/22 20060101AFI20210412BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20210412BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20210412BHJP
   B29B 15/10 20060101ALI20210412BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20210412BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   D01F9/22
   D06M15/55
   D06M13/224
   B29B15/10
   B29K105:12
   D06M101:40
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2019-558633(P2019-558633)
(86)(22)【出願日】2019年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2019039938
(87)【国際公開番号】WO2020080238
(87)【国際公開日】20200423
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-197594(P2018-197594)
(32)【優先日】2018年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
(72)【発明者】
【氏名】若林 巧己
(72)【発明者】
【氏名】中尾 洋之
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−092218(JP,A)
【文献】 特開平07−197381(JP,A)
【文献】 特開2011−148146(JP,A)
【文献】 特開2004−060131(JP,A)
【文献】 特開平10−121325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B29C41/00−41/36
41/46−41/52
70/00−70/88
C08J5/04−5/10
5/24
D01F1/00−6/96
9/00−9/32
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
前記サブトウの質量が100〜1000mg/mである、炭素繊維束。
【数1】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項2】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
前記サブトウのフィラメント数が500〜15000本である、炭素繊維束。
【数2】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項3】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
それぞれの前記サブトウの交絡回数の平均が20〜50回/mである、炭素繊維束。
【数3】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項4】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
それぞれの前記サブトウのカンチレバー値の平均値が110〜300mmである、炭素繊維束。
【数4】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項5】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
それぞれの前記サブトウが隣接するサブトウと断続的に分割された状態となっている、炭素繊維束。
【数5】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項6】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
下記に定義される分繊性の割合Qが20%以上である、炭素繊維束。
(分繊性の割合Q)
連続した炭素繊維束を長さ1インチにチョップ(裁断)し、サブトウ同士の未分割部分を含まないチョップド炭素繊維束をピンセットで100個ランダムに拾い上げ、それぞれ質量を測定する。これら100個の質量測定値から、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束の個数をカウントし、その個数の割合を計算し、分繊性の割合Qとする。
【数6】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項7】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
下記方法(I)で算出される嵩密度が60〜400g/L以上である、炭素繊維束。
(方法(I))
(手順I−1)炭素繊維束を繊維長が25mmとなるようにロータリーカッターで裁断した試験用チョップド繊維束100gを2Lのメスシリンダー(Φ88mm、高さ485mmの円柱状)に充填する。
(手順I−2)メスシリンダー内の前記試験用チョップド繊維束の上部から均一に500gの荷重をかけ、体積に変化が無くなったときの充填された前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)を測定し、前記試験用チョップド繊維束の総質量(100g)を前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)で除して嵩密度を算出する。
【数7】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項8】
複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、
シートモールディングコンパウンド用炭素繊維束である、炭素繊維束。
【数8】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【請求項9】
複数本の前記サブトウ同士がサイジング剤で結着されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の炭素繊維束。
【請求項10】
総フィラメント数が1000〜120000本である、請求項1〜のいずれか一項に記載の炭素繊維束。
【請求項11】
下記の工程(a)〜(d)を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の炭素繊維束の製造方法。
(a)サイジング剤を含む水分散液を浸漬槽に収容し、複数本のサブトウを含む炭素繊維束を走行させつつ前記水分散液に連続的に浸漬して通過させる。
(b)前記水分散液から引き上げた前記炭素繊維束をローラーの周面に接触させつつ、前記炭素繊維束にエアーを吹き付けて余剰の水分散液を除去する。
(c)工程(b)の後、前記水分散液が付着した前記炭素繊維束をニップ処理し、前記炭素繊維束と前記水分散液の合計質量に対する前記水分散液の質量の割合を40質量%以下とする。
(d)工程(c)の後、周面が110〜200℃に加熱された加熱ローラーに前記炭素繊維束を接触させて乾燥させる。
【請求項12】
前記サイジング剤が、下記の成分(A)及び成分(B)を含有し、
前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量の質量比(成分(A)の含有量/成分(B)の含有量)が1〜20であり、
前記サイジング剤の全量(100質量%)に対する前記成分(A)と前記成分(B)の合計含有量の割合が80質量%以上である、請求項11に記載の炭素繊維束の製造方法。
成分(A):30℃における粘度が500〜120000Pa・sであるエポキシ樹脂組成物。
成分(B):凝固点が50℃以下である脂肪族エステル化合物。
【請求項13】
複数本のサブトウを含み、下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、かつ前記サブトウの質量が100〜1000mg/mである炭素繊維束を用い、前記炭素繊維束を長手方向に間隔を空けて裁断した繊維束を樹脂に含浸させる、シートモールディングコンパウンドの製造方法。
【数9】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維束、炭素繊維束の製造方法、及びシートモールディングコンパウンドの製造方法に関する。
本願は、2018年10月19日に、日本に出願された特願2018−197594号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含む成形材料を成形した炭素繊維強化複合材料は、軽量かつ高強度であることから様々な分野で広く用いられている。成形材料としては、短繊維を使用するシートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」とも言う。)や、連続繊維を使用するプリプレグ等が知られている。SMCは、流動性に優れるため、プリプレグでは成形が困難な複雑形状を形成するのに好適である。
【0003】
短繊維を使用した場合、複合材料の機械特性は、複合材料中の短繊維の分散状態や形態の影響を強く受けることが知られている。炭素繊維は製造コストが比較的高いことから、これを複数本束ねて炭素繊維束とされることがあるが、複合材料中では細かい繊維束が分散している方が、複合材料の機械特性が良好になる。そこで、複数のサブトウを含み、チョップ(裁断)した際に各サブトウが分割されて分散される炭素繊維束をSMCの製造に用いることが知られている。例えば、特許文献1には、複数の繊維束(サブトウ)を引き揃えることなく単一のボビンに巻き取った炭素繊維束を、チョップしてSMCの製造に使用することが提案されている。しかし、この炭素繊維束はサブトウ同士が充分に一体化されていないために、炭素繊維束の製造時や加工時に、一部のサブトウが分離し、ロール等への巻き付き等が発生することがある。
【0004】
ところで、サイジング剤を炭素繊維束に付着させることで、耐擦過性やチョップ性といった高次加工性を改善する方法が提案されている。例えば、特許文献2には、特定の成分を有するサイジング剤を炭素繊維束に塗布することで、高次加工性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2010−163536号公報
【特許文献2】日本国特開2008−274520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数のサブトウを含む炭素繊維束をサイジング剤で集束する場合、十分な集束性が得られるサイジング剤でサブトウ同士を結着させると、炭素繊維束をチョップした際のチョップド炭素繊維束の分繊性(チョップ分繊性)が悪化し、各サブトウが十分に分割されない傾向がある。一方、チョップ分繊性を確保しようとしてサイジング剤の付着量を減らしたり、集束性の低いサイジング剤を使用したりすると、サブトウ内の炭素繊維の単糸がばらけて他のサブトウに絡み、チョップ分繊性が低下することがある。
【0007】
本発明は、チョップ時の優れたチョップ性と分繊性を両立でき、特にSMCの製造に好適に用いることができる炭素繊維束、及びチョップ時の優れたチョップ性と分繊性を両立でき、特にSMCの製造に好適に用いることができる炭素繊維束の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1]複数本のサブトウを含む炭素繊維束であって、
下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%である、炭素繊維束。
【0010】
【数1】
【0011】
(式中、Wtは前記炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは前記炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
[2]複数本の前記サブトウ同士がサイジング剤で結着されている、[1]に記載の炭素繊維束。
[3]前記サブトウの質量が100〜1000mg/mである、[1]又は[2]に記載の炭素繊維束。
[4]前記サブトウのフィラメント数が500〜15000本である、[1]〜[3]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[5]それぞれの前記サブトウの交絡回数の平均が20〜50回/mである、[1]〜[4]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[6]それぞれの前記サブトウのカンチレバー値の平均値が110〜300mmである、[1]〜[5]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[7]総フィラメント数が1000〜120000本である、[1]〜[6]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[8]それぞれの前記サブトウが隣接するサブトウと断続的に分割された状態となっている、[1]〜[7]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[9]下記に定義される分繊性の割合Qが20%以上である、[1]〜[8]のいずれかに記載の炭素繊維束。
(分繊性の割合Q)
連続した炭素繊維束を長さ1インチにチョップ(裁断)し、サブトウ同士の未分割部分を含まないチョップド炭素繊維束をピンセットで100個ランダムに拾い上げ、それぞれ質量を測定する。これら100個の質量測定値から、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束の個数をカウントし、その個数の割合を計算し、分繊性の割合Qとする。
[10]下記方法(I)で算出される嵩密度が60〜400g/L以上である、[1]〜[9]のいずれかに記載の炭素繊維束。
(方法(I))
(手順I−1)炭素繊維束を繊維長が25mmとなるようにロータリーカッターで裁断した試験用チョップド繊維束100gを2Lのメスシリンダー(Φ88mm、高さ485mmの円柱状)に充填する。
(手順I−2)メスシリンダー内の前記試験用チョップド繊維束の上部から均一に500gの荷重をかけ、体積に変化が無くなったときの充填された前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)を測定し、前記試験用チョップド繊維束の総質量(100g)を前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)で除して嵩密度を算出する。
[11]シートモールディングコンパウンド用炭素繊維束である、[1]〜[10]のいずれかに記載の炭素繊維束。
[12]下記の工程(a)〜(d)を含む、[1]〜[11]のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。
(a)サイジング剤を含む水分散液を浸漬槽に収容し、複数本のサブトウを含む炭素繊維束を走行させつつ前記水分散液に連続的に浸漬して通過させる。
(b)前記水分散液から引き上げた前記炭素繊維束をローラーの周面に接触させつつ、前記炭素繊維束にエアーを吹き付けて余剰の水分散液を除去する。
(c)工程(b)の後、前記水分散液が付着した前記炭素繊維束をニップ処理し、前記炭素繊維束と前記水分散液の合計質量に対する前記水分散液の質量の割合を40質量%以下とする。
(d)工程(c)の後、周面が110〜200℃に加熱された加熱ローラーに前記炭素繊維束を接触させて乾燥させる。
[13]前記サイジング剤が、下記の成分(A)及び成分(B)を含有し、
前記成分(B)の含有量に対する前記成分(A)の含有量の質量比(成分(A)の含有量/成分(B)の含有量)が1〜20であり、
前記サイジング剤の全量(100質量%)に対する前記成分(A)と前記成分(B)の合計含有量の割合が80質量%以上である、[12]に記載の炭素繊維束の製造方法。
成分(A):30℃における粘度が500〜120000Pa・sであるエポキシ樹脂組成物。
成分(B):凝固点が50℃以下である脂肪族エステル化合物。
[14][1]〜[11]のいずれかに記載の炭素繊維束を長手方向に間隔を空けて裁断した繊維束を樹脂に含浸させる、シートモールディングコンパウンドの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維束は、チョップ時の優れたチョップ性と分繊性を両立でき、特にSMCの製造に好適に用いることができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法によれば、チョップ時の優れたチョップ性と分繊性を両立でき、特にSMCの製造に好適に用いることができる炭素繊維束を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】サブトウのカンチレバー値の測定方法における手順1、2について説明する模式図である。
図2】サブトウのカンチレバー値の測定方法における手順3、4について説明する模式図である。
図3】本発明の炭素繊維束における炭素繊維束の重なり率Pについて説明する斜視図である。
図4】本発明の炭素繊維束の製造に用いる製造装置の一例を示した模式図である。
図5】本発明の炭素繊維束の製造に用いる製造装置の一例を示した模式図である。
図6】本発明の炭素繊維束の製造に用いる製造装置の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[炭素繊維束]
本発明の炭素繊維束は、複数本のサブトウを含む。本発明の炭素繊維束に含まれる複数本のサブトウ同士は、サイジング剤で結着されていてもよい。
【0015】
(炭素繊維束)
炭素繊維束を構成する炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
炭素繊維束の長さは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。
【0016】
本発明の炭素繊維束は、複数本のサブトウを含む。複数本のサブトウを含む炭素繊維束は、別々に製造した複数本のサブトウを束ねて合糸したものであってもよく、ラージトウを複数本のサブトウに分割して束ねたものであってもよい。
特に、本発明の炭素繊維束においては、それぞれのサブトウが隣接するサブトウと断続的に分割された状態、つまり、隣接するサブトウ同士が断続的に分割された状態とすることもできる。このように隣接するサブトウ間で未分割部分を局所的に有することにより、炭素繊維束の生産性や加工時における形態安定性をさらに向上させることができる。
【0017】
本発明の炭素繊維束に含まれるサブトウの数は、特に限定されず、例えば、2〜50本とすることができる。
本発明の炭素繊維束の総フィラメント数は、製造コストや取扱い性等の面から、1000〜120000本程度であるのが好ましい。
シートモールディングコンパウンド用炭素繊維束として好適に使用することができることから、本発明の炭素繊維束に含まれるサブトウのフィラメント数は、500〜15000本程度とするのが好ましい。
さらに、本発明の炭素繊維束に含まれるサブトウの形状が扁平状であれば、シートモールディングコンパウンド製造時における、炭素繊維束の裁断性や裁断された炭素繊維束への樹脂含浸性が良好になる傾向にあるので好ましい。
また、本発明の炭素繊維束に含まれる、それぞれのサブトウの質量は、100〜1000mg/m程度であるのが好ましい。
【0018】
本発明の炭素繊維束に含まれる、それぞれのサブトウのカンチレバー値の平均値は、110〜300mmであり、140〜250mmが好ましく、160〜220mmがより好ましい。
それぞれのサブトウのカンチレバー値の平均値が110mm以上、好ましくは140mm以上、より好ましくは160mm以上であれば、炭素繊維束のチョップ時にロールへの巻き付きが生じず、連続的なチョップの容易性(チョップ良好性)に優れる。それぞれのサブトウのカンチレバー値の平均値が300mm以下、好ましくは250mm以下、より好ましくは220mm以下であれば、炭素繊維束のチョップ分繊性に優れる。
サブトウ同士がサイジング剤で結着されている場合、サイジング剤で結着されているサブトウのカンチレバー値は、サイジング剤が付着した状態の炭素繊維束についての測定値である。なお、サブトウのカンチレバー値は、炭素繊維束に付着させるサイジング剤の組成や付着量等を調節することで調節できる。
【0019】
以下、サブトウのカンチレバー値の測定方法について、図1及び図2に基づいて説明する。
(手順1)本発明の炭素繊維束から長さ40cmの試験用サブトウ100を切り出す。
(手順2)図1に示すように、水平面12と、水平面12の一端から下方に向かって傾斜する、傾斜角度が45度の斜面14とを有する測定台10の、水平面12上に試験用サブトウ100を載せる。このとき、試験用サブトウ100の長さ方向の第1の端部102を斜面14と水平面12との境界線Aに合わせる。試験用サブトウの上に押さえ板200を載せ、押さえ板200の端部202を境界線Aに合わせる。
(手順3)図2に示すように、押さえ板200を斜面14側に水平方向に2cm/秒の速さで移動させ、試験用サブトウ100の第1の端部102が斜面14と接触した時点で押さえ板200の移動を停止させる。
(手順4)手順3における押さえ板200の移動距離x(mm)を測定する。
【0020】
押さえ板200の大きさは、測定に支障がない大きさであればよく、例えば、縦400mm×横200mm×厚み5mmの板とすることができる。
押さえ板200の重さは、測定に支障がない重さであればよく、例えば、1000gとすることができる。
【0021】
本発明の炭素繊維束に含まれる、それぞれのサブトウの交絡回数の平均は、20〜50回/mであり、30〜40回/mが好ましい。
それぞれのサブトウの交絡が20回/m以上、好ましくは30回/m以上であれば、サブトウの結束力が強くなり、サブトウ同士の絡まりが生じなくなる。それぞれのサブトウの交絡が50回/m以下、好ましくは40回/m以下であれば、サブトウの結束力が強すぎることによる、樹脂の含侵性の低下を防ぐことができる。
【0022】
なお、サブトウの交絡回数は、以下の方法により測定される。
熱処理によってサイジング剤を取り除いた炭素繊維束を張力付与手段に通し、トウ張力を1.0Nに制御して、サブトウに分割された状態の前記炭素繊維束を走行速度1.2m/分で巻取る。その間に、前記張力付与手段を通過直後の前記サブトウにヤーン・テンションメーターのセラミックピンを貫通させて0.5cN以上の交絡強度が検出された回数をサブトウの交絡回数とする。
【0023】
本発明の炭素繊維束では、下記式(1)で表される重なり率Pが5〜80%であり、10〜60%が好ましく、15〜50%がより好ましく、20〜40%がさらに好ましい。
炭素繊維束の重なり率Pが5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%であれば、ボビン巻取り時にサブトウの結着が解除されずに巻き取れる。炭素繊維束の重なり率Pが80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらにこのましくは40%以下であれば、チョップ分繊性に優れた炭素繊維束が得られる。
重なり率は、サイジング剤塗布工程において、浸漬用フラットローラーの前に、溝付きガイドローラーを設置した際の、前記ガイドローラーの溝の幅、もしくは1つの溝へのサブトウの投入本数、又はサイジング剤塗布工程でのトウ張力によって調節できる。
【0024】
【数2】
【0025】
(式中、Wtは炭素繊維束の幅の平均値(mm)を示し、Wstはそれぞれのサブトウの幅の平均値(mm)を示し、nは炭素繊維束に含まれるサブトウの本数(本)を示す。)
【0026】
例えば、図3に例示した5本(n=5)の扁平状のサブトウ32を含む炭素繊維束30の場合、炭素繊維束30の幅を繊維長手方向に20cmおきに5箇所において測定し、それらを平均してWtとする。また、5本のサブトウ32の幅をそれぞれ測定し、それらを平均してWstとする。そして、式(1)を用いて重なり率Pを算出する。
【0027】
(サイジング剤)
本発明の炭素繊維束の製造に際しては、サイジング剤を適宜使用することができる。ここで使用されるサイジング剤としては特に限定されるものではないが、チョップ分繊性が特に優れる点から、成分(A)及び成分(B)を含有するサイジング剤が好ましい。
【0028】
成分(A)は、30℃における粘度が500〜120000Pa・sであるエポキシ樹脂組成物である。
成分(A)の30℃における粘度は、500〜120000Pa・sであり、4000〜100000Pa・sが好ましい。
成分(A)の30℃における粘度が500Pa・s以上、好ましくは4000Pa・s以上であれば、炭素繊維束のチョップ良好性に優れる。成分(A)の30℃における粘度が120000Pa・s以下、好ましくは100000Pa・s以下であれば、炭素繊維束のチョップ分繊性に優れる。
なお、粘度は、JIS Z8803(2011)における、円すい−板形回転粘度計による粘度測定方法により測定される。
【0029】
成分(A)の粘度は、使用するエポキシ樹脂の種類や組み合わせ、比率によって調節できる。
成分(A)は、炭素繊維同士の摩擦抵抗が低減される点から、軟化点が50℃以上のエポキシ樹脂を含有することが好ましい。軟化点が50℃以上のエポキシ樹脂を用いる場合、30℃における粘度が1〜100Pa・sであるエポキシ樹脂を混合して成分(A)の粘度が前記範囲内となるように調節する。
なお、エポキシ樹脂の軟化点は、JIS K 7234(1986)エポキシ樹脂の軟化点試験方法における、環球法により測定される値である。
【0030】
成分(A)においては、軟化点が50℃以上のエポキシ樹脂と30℃における粘度が1〜100Pa・sであるエポキシ樹脂を組み合わせることが好ましく、軟化点が50〜100℃のエポキシ樹脂と30℃における粘度が1〜100Pa・sであるエポキシ樹脂を組み合わせることがより好ましい。
【0031】
軟化点が50℃以上のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、多官能型のエポキシ樹脂である点から、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
30℃における粘度が1〜100Pa・sであるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、芳香族エポキシ樹脂の中で低粘度である、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
成分(A)に用いるエポキシ樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0032】
成分(B)は、凝固点が50℃以下である脂肪族エステル化合物である。
なお、脂肪族エステル化合物の凝固点は、JIS K0065(1992)における、化学製品の凝固点測定方法により測定される値である。
【0033】
脂肪族エステル化合物の凝固点は、50℃以下であり、30℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。また、脂肪族エステル化合物の凝固点は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましく、−10℃以上がさらに好ましい。具体的には、脂肪族エステル化合物の凝固点は、−30〜50℃が好ましく、−20〜30℃がより好ましく、−10〜15℃がさらに好ましい。
脂肪族エステル化合物の凝固点が50℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下であれば、炭素繊維束のチョップ分繊性に優れる。脂肪族エステル化合物の凝固点が−30℃以上、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−10℃以上であれば、炭素繊維束のチョップ良好性に優れる。
【0034】
成分(B)としては、分子内にエステル結合を1つ又は2つ有する脂肪族エステル化合物を含むことが好ましい。これにより、炭素繊維同士の摩擦抵抗が低減される。
分子内にエステル結合を1つ有する脂肪族エステル化合物としては、例えば、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。
分子内にエステル結合を2つ有する脂肪族エステル化合物としては、例えば、アジピン酸イソブチル、アジピン酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0035】
成分(B)としては、分子内にエステル結合を3つ以上有する脂肪族エステル化合物を用いてもよい。例えば、1,2,3−プロパントリカルボン酸エステル、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸エステル等が挙げられる。
成分(B)に用いる脂肪族エステル化合物としては、炭素繊維同士の摩擦抵抗を低減させる点から、分子内にエステル結合を1つ有する脂肪族エステル化合物が好ましい。
成分(B)に用いる脂肪族エステル化合物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0036】
サイジング剤は、成分(A)及び成分(B)に加えて、成分(A)及び成分(B)以外の他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、例えば、界面活性剤、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
他の成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0037】
サイジング剤の全量(100質量%)に対する成分(A)と成分(B)の合計含有量の割合は80質量%以上であり、80〜95質量%が好ましく、80〜90質量%がより好ましい。
サイジング剤の全量(100質量%)に対する成分(A)と成分(B)の合計含有量の割合が80質量%以上であれば、炭素繊維束のチョップ良好性及びチョップ分繊性に優れる。
【0038】
サイジング剤中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量の質量比(成分(A)の含有量/成分(B)の含有量)は1〜20であり、1.5〜10が好ましく、3〜5がより好ましい。
サイジング剤中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量の質量比が1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは3以上であれば、炭素繊維束のチョップ良好性に優れる。サイジング剤中の成分(B)の含有量に対する成分(A)の含有量の質量比が20以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下であれば、炭素繊維束のチョップ分繊性に優れる。
【0039】
サイジング剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて用いる他の成分を公知の方法で混合する方法が挙げられる。
【0040】
本発明の炭素繊維束に含まれるサブトウ同士がサイジング剤で結着されている場合、本発明の炭素繊維束の総質量(100質量%)に対するサイジング剤の付着量は、0.6〜1.6質量%が好ましく、0.8〜1.4質量%がより好ましく、1.0〜1.2質量%がさらに好ましい。
本発明の炭素繊維束の総質量(100質量%)に対するサイジング剤の付着量が0.6質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であれば、炭素繊維束のチョップ良好性に優れる。本発明の炭素繊維束の総質量(100質量%)に対するサイジング剤の付着量が1.6質量%以下、より好ましくは1.4質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下であれば、炭素繊維束のチョップ分繊性に優れる。
【0041】
<分繊性の割合Q>
また、本発明の炭素繊維束は、以下に定義される分繊性の割合Qが20%以上であることが好ましい。
【0042】
分繊性の割合Q:
連続した炭素繊維束を長さ1インチにチョップ(裁断)し、サブトウ同士の未分割部分を含まないチョップド炭素繊維束をピンセットで100個ランダムに拾い上げ、それぞれ質量を測定する。これら100個の質量測定値から、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束の個数をカウントし、その個数の割合を計算し、分繊性の割合Qとする。
【0043】
ここで、チョップド炭素繊維束をサブトウ同士の未分割部分を含まないものとするのは、例えば、ラージトウが複数のサブトウに断続的に分割された炭素繊維束をチョップしてチョップド炭素繊維束を得た場合において、未分割部分に由来してサブトウ同士がつながったチョップド炭素繊維束は、分繊性の割合Qの評価対象外とすることを意味する。
また、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束とは、サブトウの平均繊度に相当する質量の120%以下の質量のチョップド炭素繊維束である。
【0044】
分繊性の割合Qが高いほど、炭素繊維束のチョップ時の分繊性に優れるが、分繊性の割合Qが20%以上であれば、チョップした炭素繊維束へのエアー吹付けや、表面に複数の突起部が設けられた回転体にチョップした炭素繊維束を衝突させる等の工程を追加することによって、繊維強化樹脂成形材料の原料として充分に分繊したチョップド炭素繊維束を得ることができる。
【0045】
炭素繊維束の分繊性の割合Qは、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、60%以上がいっそう好ましい。炭素繊維束の分繊性の割合Qが20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上であれば、優れたチョップ性を有し、チョップ分繊性をより向上させることができる。
炭素繊維束の分繊性の割合Qは、上述のサブトウを上述のサイジング剤で結着させることによって、20%以上とすることができる。
【0046】
上述のように、本発明の炭素繊維束においては、それぞれのサブトウが隣接するサブトウと断続的に分割された状態とすることができるが、この場合、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さは、1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。また、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さは、50mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、25mm以下がより好ましい。具体的には、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さは、1〜50mmが好ましく、3〜35mmがより好ましく、5〜25mmがさらに好ましい。
隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さが1mm以上、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上であれば、炭素繊維束の生産性や加工時における形態安定性をさらに向上させることができ、繊維束が切れて回転刃やロール等に巻付く工程トラブルを抑制しやすい。隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さが50mm以下、好ましくは35mm以下、より好ましくは25mm以下であれば、裁断後のチョップド炭素繊維束に含まれる未分繊部分の割合を小さくできるため、得られた成形材料を成形した成形品の物性が向上する傾向にある。
【0047】
<式(1)>
また、上述のように、本発明の炭素繊維束においては、隣接するサブトウ同士が断続的に分割された状態とすることができるが、この場合、断続的に分割された状態が、下式(1)の条件を満たすことが好ましい。
【0048】
0.7≦a/(a+b)<1 ・・・(1)
式(1)中、aは隣接するサブトウ同士の分割部分の長さであり、bは隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さである。
【0049】
このように、連続した炭素繊維束に未分繊部分が存在する(すなわち、b>0)ことによって、炭素繊維束の製造時や加工時における、一部のサブトウのたるみや分離の発生が抑制され、炭素繊維束のロール等への巻き付き等を低減させることができる。
【0050】
a/(a+b)の値が0.7以上、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上、いっそう好ましくは0.92以上であると、サブトウ同士がつながったチョップド繊維束の比率を低減できる。これにより、例えば、シートモールディングコンパウンドのような繊維強化樹脂成形材料の製造時におけるチョップド炭素繊維束の樹脂ペースト上への散布時に、チョップド炭素繊維束をペースト上に均一に分散させることができるとともに、炭素繊維への樹脂の含浸性が良好となり、製造される成形材料の品質が良好となる。
また、a/(a+b)の値が1未満であれば、炭素繊維束を安定した状態で裁断機まで供給しチョップできる。a/(a+b)の値は0.99以下であってもよい。
【0051】
隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaは、1mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、100mm以上がさらに好ましい。また、隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaは、5000mm以下が好ましく、3000mm以下がより好ましく、1000mm以下がさらに好ましい。具体的には、隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaは、1〜5000mmが好ましく、10〜3000mmがより好ましく、100〜1000mmがさらに好ましい。
隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaが1mm以上、好ましくは10mm以上、より好ましくは100mm以上であれば、得られた成形材料を成形した成形品の物性がより向上する。隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaが5000mm以下、好ましくは3000mm以下、より好ましくは1000mm以下であれば、炭素繊維束が切れたり弛んだりすることによって回転刃又はロールに巻き付く工程トラブルを抑制しやすい。
【0052】
隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbは、0mm超が好ましく、1mm以上がより好ましく、3mm以上がさらに好ましく、5mm以上がいっそう好ましい。また、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbは、50mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、25mm以下がさらに好ましい。具体的には、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbは、0mm超50mm以下が好ましく、1〜50mmがより好ましく、3〜35mmがさらに好ましく、5〜25mmが特に好ましい。
隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbが0mm超、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは5mm以上であれば、繊維束が切れて回転刃やロール等に巻付く工程トラブルを抑制しやすい。隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbが50mm以下、好ましくは35mm以下、さらに好ましくは25mm以下であれば、裁断後のチョップド炭素繊維束に含まれる未分繊部分の割合を小さくできるため、得られた成形材料を成形した成形品の物性が向上する。
【0053】
それぞれのサブトウが隣接するサブトウと断続的に分割された状態とする方法としては、ラージトウの幅方向に所定の間隔で並ぶ連なった複数の刃物を、連続するラージトウに間欠的に突き刺す方法や、連続するラージトウの幅方向の複数箇所に空気等の流体を間欠的に吹き付ける方法等を挙げることができる。
【0054】
<式(2)、式(3)、式(4)>
本発明の炭素繊維束は、繊維強化樹脂成形材料の原料として使用することができ、チョップ時のチョップ性及び分繊性に優れることから、SMC用炭素繊維束として特に有用である。
【0055】
本発明の炭素繊維束をSMCに使用することで、均一に分繊された細かい炭素繊維束が分散されたSMCが得られるため、SMCの品質のバラツキが低減されるとともに、本発明の炭素繊維束を使用したSMCを成形して得た繊維強化複合材料は機械特性に優れたものとなる。
【0056】
繊維強化樹脂成形材料の製造に際し、本発明の炭素繊維束を裁断したチョップド炭素繊維束を使用する場合は、本発明の炭素繊維束を下式(2)の条件を満たすように裁断することが好ましい。
【0057】
a/L≦1000 ・・・(2)
式(2)中、aは隣接するサブトウ同士の分割部分の長さであり、Lは前記連続した炭素繊維束が裁断される間隔である。
【0058】
a/Lは、1000以下であり、200以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
a/Lが1000以下、好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下であれば、炭素繊維束が切れたり、弛んだりすることで回転刃やロール等に巻付く工程トラブルを抑制しやすい。
【0059】
また、繊維強化樹脂成形材料の製造に際し、本発明の炭素繊維束を裁断したチョップド炭素繊維束を使用する場合は、本発明の炭素繊維束を下式(3)の条件を満たすように裁断することが好ましい。
【0060】
1≦a/L ・・・(3)
式(3)中、aは隣接するサブトウ同士の分割部分の長さであり、Lは前記連続した炭素繊維束が裁断される間隔である。
【0061】
a/Lは、1以上であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
a/Lが1以上、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上であれば、裁断後のチョップド炭素繊維束に含まれる未分繊部分の割合を小さくできるため、得られた成形材料を成形した成形品の物性が向上する。
【0062】
さらに、繊維強化樹脂成形材料の製造に際し、本発明の炭素繊維束を裁断したチョップド炭素繊維束を使用する場合は、本発明の炭素繊維束を下式(4)の条件を満たすように裁断することが好ましい。
【0063】
0≦b/L<1 ・・・(4)
式(4)中、bは隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さであり、Lは前記連続した炭素繊維束が裁断される間隔である。
【0064】
b/Lは、0以上1未満であり、0.03〜0.8が好ましく、0.1〜0.6がより好ましい。
b/Lが0以上1未満、好ましくは0.03〜0.8、より好ましくは0.1〜0.6であれば、炭素繊維束が切れたり、弛んだりすることで回転刃やロール等に巻付く工程トラブルを抑制しやすく、裁断後のチョップド炭素繊維束に含まれる未分繊部分の割合を小さくできるため、得られた成形材料を成形した成形品の物性が向上する。
【0065】
本発明の炭素繊維束は、チョップ分繊性に優れることから、シートモールディングコンパウンド(SMC)用炭素繊維束として特に有用である。本発明の炭素繊維束をSMCに使用することで、細かい炭素繊維束が分散されたSMCが得られるため、本発明の炭素繊維束を使用したSMCを成形して得た炭素繊維強化複合材料の機械特性が優れたものとなる。
【0066】
[炭素繊維束の製造方法]
本発明の炭素繊維束の製造方法は、特に限定されない。例えば、上記のサイジング剤を水に加え、乳化して水分散液とし、前記水分散液を炭素繊維束に塗布して乾燥させる方法が挙げられる。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法としては、サイジング剤でサブトウ同士をなるべく結着させないという点から、下記の工程(a)〜(d)を含む方法が好ましい。
(a)サイジング剤を含む水分散液を浸漬槽に収容し、複数本のサブトウを含む炭素繊維束を走行させつつ前記水分散液に連続的に浸漬して通過させる。
(b)前記水分散液から引き上げた前記炭素繊維束をローラーの周面に接触させつつ、前記炭素繊維束にエアーを吹き付けて余剰の水分散液を除去する。
(c)工程(b)の後、前記水分散液が付着した前記炭素繊維束をニップ処理し、前記炭素繊維束と前記水分散液の合計質量に対する前記水分散液の質量の割合を40質量%以下とする。
(d)工程(c)の後、周面が110〜200℃に加熱された加熱ローラーに前記炭素繊維束を接触させて乾燥させる。
【0067】
具体的には、図4に例示した製造装置300を用いる方法が挙げられる。
製造装置300は、浸漬槽310と、浸漬用のフラットローラー312と、引き上げ用のフラットローラー314と、フィードローラー316と、ニップローラー318と、エアー吹き付け手段320と、複数の加熱ローラー322とを備えている。
【0068】
浸漬槽310は、サイジング剤を含む水分散液50を収容できるようになっている。
フラットローラー312とフラットローラー314はいずれも、浸漬槽310に収容された水分散液50に一部が浸漬するように設けられている。フラットローラー314は、フラットローラー312の下流側に設けられている。フラットローラー312により、浸漬槽110に収容された水分散液50に炭素繊維束40を走行させつつ浸漬させ、フラットローラー314により、炭素繊維束40を水分散液50から引き上げるようになっている。
フィードローラー316とニップローラー318は、浸漬槽310の下流側において、炭素繊維束40をニップ処理するように設けられている。
エアー吹き付け手段320は、フラットローラー314の上方に設けられている。
複数の加熱ローラー322は、フィードローラー316とニップローラー318の下流側に設けられている。
【0069】
工程(a)では、サイジング剤を含む水分散液50を浸漬槽310に収容し、フラットローラー312によって、炭素繊維束40を走行させつつ水分散液50に連続的に浸漬し、フラットローラー314によって引き上げて通過させる。
【0070】
水分散液中のサイジング剤の濃度は、1〜10質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましい。
水分散液中のサイジング剤の濃度が1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であれば、チョップ良好性に優れる炭素繊維束が得られる。水分散液中のサイジング剤の濃度が前記範囲の10質量%以下、より好ましくは6質量%以下であれば、チョップ分繊性に優れた炭素繊維束が得られる。
【0071】
工程(b)では、水分散液50から引き上げた炭素繊維束40をフラットローラー314の周面に接触させつつ、エアー吹き付け手段320によって炭素繊維束40にエアーを吹き付けて余剰の水分散液50を除去する。
【0072】
次いで、工程(c)において、フィードローラー316とニップローラー318により、水分散液50が付着した炭素繊維束40を走行させつつニップ処理し、炭素繊維束40と水分散液50の合計質量に対する水分散液50の質量の割合を40質量%以下とする。
【0073】
工程(c)でのニップ処理後の炭素繊維束と水分散液の合計質量に対する水分散液の質量の割合は、40質量%以下が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜25質量%がさらに好ましい。
炭素繊維束と水分散液の合計質量に対する水分散液の質量の割合が5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であれば、サイジング剤が均一に付与できる。炭素繊維束と水分散液の合計質量に対する水分散液の質量の割合が40質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下であれば、チョップ時のサブトウ同士の分割性が向上する。
炭素繊維束へのサイジング剤の付着量は、水分散液中のサイジング剤の濃度や、浸漬後の搾りの程度等によって調節できる。
【0074】
工程(d)では、周面が110〜200℃に加熱された加熱ローラー322に炭素繊維束40を接触させて乾燥させる。
炭素繊維束40を乾燥させる際の加熱ローラー322の周面の温度は、110〜200℃が好ましく、110〜170℃がより好ましく、130〜150℃がさらに好ましい。
加熱ローラーの周面温度が110℃以上、さらに好ましくは130℃以上であれば、サイジング剤を含む水分散液が十分に乾燥される。加熱ローラーの周面温度が200℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは150℃以下であれば、サイジング剤を熱分解させずに炭素繊維束40に付与できる。
【0075】
なお、本発明の炭素繊維束の製造方法は、サイジング剤を含む水分散液に炭素繊維束を浸漬してサイジング剤を塗布する方法には限定されない。
【0076】
浸漬法以外のサイジング剤の塗布方法としては、例えば、タッチロール法を採用してもよい。
具体的には、本発明の炭素繊維束の製造方法としては、図5に例示した製造装置300Aを用いる方法であってもよい。図5における図4と同じ部分は、同符号を付して説明を省略する。
【0077】
製造装置300Aは、浸漬槽310と、第1のタッチローラー324と、第2のタッチローラー326と、フィードローラー316と、ニップローラー318と、複数の加熱ローラー322とを備えている。製造装置300Aは、フラットローラー312、314の代わりに第1のタッチローラー324と第2のタッチローラー326が設けられ、エアー吹き付け手段320が設けられないこと以外は、製造装置300と同じ態様である。
【0078】
製造装置300Aを用いる方法では、サイジング剤を含む水分散液50を浸漬槽310に収容し、第1のタッチローラー324と第2のタッチローラー326により、炭素繊維束40を走行させつつ水分散液50に連続的に塗布する。次いで、フィードローラー316とニップローラー318により、水分散液50が付着した炭素繊維束40を走行させつつニップ処理した後、炭素繊維束40を加熱ローラー322に接触させて乾燥させる。
【0079】
また、本発明の炭素繊維束の製造方法としては、図6に例示した製造装置300Bを用いる方法であってもよい。図6における図4と同じ部分は、同符号を付して説明を省略する。
製造装置300Bは、引き上げ用のフラットローラー314の代わりに浸漬用のフラットローラー314Aが設けられ、エアー吹き付け手段320が設けられないこと以外は、製造装置300と同じ態様である。
【0080】
製造装置300Bを用いる方法は、炭素繊維束40に水分散液50を塗布した後、ローラーの周面に接触させつつエアーを吹き付けない以外は、製造装置300を用いる方法と同様である。
【0081】
以上説明したように、本発明においては、炭素繊維束に含まれる複数本のサブトウ同士がサイジング剤で結着され、各サブトウのカンチレバー値の平均値、及び交絡回数の平均が特定の範囲に制御されている。これにより、炭素繊維束のチョップ時には優れたチョップ分繊性が得られ、十分に分割されたチョップド炭素繊維束が得られる。
【0082】
[シートモールディングコンパウンド(SMC)]
本発明の炭素繊維束を長手方向に間隔を空けて裁断した繊維束(チョップド繊維束)を樹脂(マトリックス樹脂)に含浸させることによって、SMCを製造することができる。
【0083】
このSMCは、本発明の炭素繊維束がチョップされたチョップド繊維束を含む以外は、公知の態様を採用できる。
【0084】
チョップド繊維束の平均繊維長は、特に限定されず、例えば、1〜60mmとすることができる。なお、チョップド繊維束の平均繊維長とは、100個のチョップド繊維束の繊維長の平均値である。
【0085】
特に、下記方法(I)で算出される嵩密度を60〜400g/Lの範囲とすることによって、SMC製造時の樹脂含侵性等が良好となり、SMCを加熱加圧成形して得られる繊維強化複合材料の機械的特性をより向上させることができる。
(方法(I))
(手順I−1)炭素繊維束を繊維長が25mmとなるようにロータリーカッターで裁断した試験用チョップド繊維束100gを2Lのメスシリンダー(Φ88mm、高さ485mmの円柱状)に充填する。
(手順I−2)メスシリンダー内の試験用チョップド繊維束の上部から均一に500gの荷重をかけ、体積に変化が無くなったときの充填された前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)を測定し、前記試験用チョップド繊維束の総質量(100g)を前記試験用チョップド炭素繊維束の総体積(L)で除して嵩密度を算出する。
【0086】
本発明の炭素繊維束において、方法(I)で測定される嵩密度は60〜400g/Lが好ましく、70〜350g/Lがより好ましく、80〜320g/Lがさらに好ましく、100〜280g/Lが特に好ましい。
方法(I)で測定される炭素繊維束の嵩密度が60〜400g/L、好ましくは70〜350g/L、より好ましくは80〜320g/L、さらに好ましくは100〜280g/Lであれば、SMC中でチョップド炭素繊維束同士が強固に絡み合うため、高強度の繊維強化複合材料を得ることができる。また、チョップド繊維束の剛直さと樹脂含浸性を両立することが可能となり、機械的特性の向上が可能となる。
【0087】
炭素繊維束において、方法(I)で測定される嵩密度が60g/L以上、好ましくは70g/L以上、より好ましくは80g/L以上、さらに好ましくは100g/L以上であれば、SMC製造時の樹脂含浸性に優れるため、繊維強化複合材料の機械的特性が向上する。炭素繊維束において、方法(I)で測定される嵩密度が400g/L以下、好ましくは350g/L以下、より好ましくは320g/L以下、さらに好ましくは280g/L以下であれば、SMC中でチョップド繊維束同士が強固に絡み合うため、高強度の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0088】
本発明の炭素繊維束を使用したSMCを製造する際のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂のみを用いてもよく、熱可塑性樹脂のみを用いてもよく、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の両方を用いてもよい。
【0089】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、尿素性樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。
マトリックス樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
マトリックス樹脂には、内部離型剤、脱泡剤、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、増粘剤等の添加剤を配合してもよい。
【0091】
本発明のSMCの製造方法は、特に限定されない。例えば、長尺の本発明の炭素繊維束をチョップしてチョップド繊維束とし、チョップド繊維束を含む繊維基材を形成し、マトリックス樹脂を含浸してSMCを得る方法が挙げられる。
【0092】
[繊維強化複合材料]
本発明で得られるSMCを金型内に配置し、加熱加圧成形することによって、繊維強化複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0094】
[原料]
本実施例で使用した原料を以下に示す。
【0095】
<成分(A)>
成分(A−1):ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(商品名「E157S70」、三菱ケミカル株式会社、軟化点:70℃)。
成分(A−2):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「jER(登録商標。以下同様。)807」、三菱ケミカル株式会社、30℃における粘度:2Pa・s)。
成分(A−3):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER1001」、三菱ケミカル株式会社、軟化点:64℃)。
成分(A−4):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER828」、三菱ケミカル株式会社、30℃における粘度:10〜15Pa・s)。
【0096】
<成分(B)>
成分(B−1):ステアリン酸2−エチルヘキシル(商品名「エキセパール(登録商標) EH−S」、花王株式会社、凝固点:10℃)。
【0097】
<他の成分>
界面活性剤(C−1):多環フェノールエチレンオキサイド付加物硫酸エステルアンモニウム塩(商品名「ハイテノール(登録商標)NF−17」、第一工業製薬株式会社)。
【0098】
[カンチレバー値]
サブトウのカンチレバー値の測定は、以下の手順1〜4により行った。
(手順1)炭素繊維束から長さ40cmの試験用サブトウを切り出した。
(手順2)水平面と、水平面の一端から下方に向かって傾斜する、傾斜角度が45度の斜面とを有する測定台の、水平面上に試験用サブトウを載せ、試験用サブトウの長さ方向の第1の端部を斜面と水平面との境界線に合わせた。試験用サブトウの上に押さえ板を載せ、押さえ板の端部を境界線に合わせた。
(手順3)押さえ板を斜面側に水平方向に2cm/秒の速さで移動させ、試験用サブトウの第1の端部が斜面と接触した時点で押さえ板の移動を停止させた。
(手順4)手順3における押さえ板の移動距離x(mm)を測定した。
【0099】
[交絡回数]
サブトウの交絡回数は、以下の方法で測定した。
サイジング剤付与工程の前のサイジング剤が付与されていない炭素繊維束を採取し、炭素繊維束を鉛直方向に引き上げ、張力付与手段に通し、トウ張力を1.0Nに制御して走行速度1.2m/分で巻取った。その間に、張力付与手段を通過直後の分割されたサブトウに対して、ヤーン・テンションメーターのセラミックピンを貫通させて0.5cN以上の交絡強度が検出された回数を計測し、サブトウの交絡回数とした。
【0100】
[サイジング剤の付着量]
各例で得たサイジング剤付き炭素繊維束のサイジング剤の付着量は、メチルエチルケトンによるソックスレー抽出法により測定した。抽出時間は1時間とした。
【0101】
[チョップ分繊性の評価]
連続した炭素繊維束を長さ1インチにチョップ(裁断)し、サブトウ同士の未分割部分を含まないチョップド炭素繊維束をピンセットで丁寧に100個ランダムに拾い上げ、それぞれ質量を測定した。これら100個の質量測定値から、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束の個数をカウントし、その個数の割合を計算し、分散性の割合Qとした。
具体的には、ロータリーカッターを用いて、サイジング剤付き炭素繊維束を長さ1インチにチョップ(裁断)し、チョップ分繊性を上記の方法で計算した分散性の割合Qで評価した。
ここで、サブトウの質量に相当するチョップド炭素繊維束とは、サブトウの平均繊度の120%以下のチョップド炭素繊維束である。
【0102】
以下の基準でチョップ分繊性を評価した。
A:分散性の割合Qが80%以上。
B:分散性の割合Qが60%以上80%未満。
C:分散性の割合Qが40%以上60%未満。
D:分散性の割合Qが20%以上40%未満。
E:分散性の割合Qが20%未満。
【0103】
[チョップ良好性の評価]
ロータリーカッターのゴムロールへのチョップド炭素繊維束の貼り付き状態を目視にて確認し、以下の基準に従ってチョップ良好性を評価した。
A:ゴムロールへのチョップド炭素繊維束の貼り付きがほとんど見られず、連続的にチョップできた。
B:ゴムロールへのチョップド炭素繊維束の貼り付きが多少見られたが、連続的にチョップできた。
C:ゴムロールへのチョップド炭素繊維束の貼り付きが多く、チョップ不良が発生し、連続的なチョップが困難であった。
【0104】
[嵩密度]
炭素繊維束の嵩密度の測定は、以下の手順I−1〜I−2により行った。
(手順I−1)炭素繊維束を繊維長が25mmとなるようにロータリーカッターで裁断した切断片100gを2Lのメスシリンダー(Φ88mm、高さ485mmの円柱状)に充填した。
(手順I−2)メスシリンダー内の切断片の上部から均一に500gの荷重をかけ、体積に変化が無くなったときの充填された切断片の総体積(L)を測定し、切断片の総質量(100g)を切断片の総体積(L)で除して嵩密度を算出した。
【0105】
[SMCの樹脂含浸性の評価]
<マトリックス樹脂組成物の調製>
エポキシ(メタ)アクリレート樹脂と不飽和ポリエステル樹脂との混合物(日本ユピカ株式会社製、製品名:ネオポール(登録商標)8113)の100質量部、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの75質量%溶液(日油株式会社製、製品名:パーヘキサ(登録商標)C−75(EB))の0.5質量部、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの74質量%溶液(化薬アクゾ株式会社製、製品名:カヤカルボン(登録商標)BIC−75)の0.5質量部、内部離型剤(リン酸エステル系誘導体組成物)(アクセルプラスチックリサーチラボラトリー社製、製品名:MOLD WIZ INT−EQ−6)の0.35質量部、変性ジフェニルメタンジイソシアネート(三井化学株式会社製、製品名:コスモネート(登録商標)LL)の22.0質量部、1,4−ベンゾキノン(精工化学株式会社製)の0.04質量部を、万能撹拌機を用いて充分に混合撹拌し、マトリックス樹脂組成物を得た。
【0106】
<SMCの製造>
得られたマトリックス樹脂組成物を、ドクターブレードを用いてポリエチレン製フィルム(キャリアフィルム)上に厚さ1.0mmになるように塗布し、その上に繊維長25mmのチョップド炭素繊維束を、炭素繊維束の目付が略均一になるように、かつ炭素繊維束の方向がランダムになるように散布した。別のポリエチレン製のキャリアフィルム上に、同じマトリックス樹脂組成物を厚さ1.0mmになるように塗布し、前記の散布した炭素繊維束上に、マトリックス樹脂組成物側が対向するように重ね、積層体を得た。この積層体を、ロールの間に通して押圧して、マトリックス樹脂組成物を炭素繊維束に含浸させてSMC前駆体を得た。
得られたSMC前駆体を室温(23℃)にて168時間(7日間)静置した。これにより、SMC前駆体中のマトリックス樹脂組成物を充分に増粘させてSMCを得た。
【0107】
上記のSMC前駆体を得た際に、樹脂含浸性を目視と触感で確認し、以下の評価基準で評価した。
A:マトリックス樹脂組成物が、チョップド炭素繊維束に充分に含浸している。
B:マトリックス樹脂組成物が、チョップド炭素繊維束に含浸していない部分が若干確認される。
C:マトリックス樹脂組成物が、チョップド炭素繊維束に含浸していない部分が数多く確認される。
【0108】
[実施例1]
<サイジング剤の水分散液の調製>
成分(A)として成分(A−1)54質量部及び成分(A−2)11質量部を混合した樹脂組成物と、成分(B−1)20質量部と、界面活性剤(C−1)15質量部とを混合してサイジング剤を得た。得られたサイジング剤にイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転相乳化によって、サイジング剤の濃度が3.3質量%の水分散液を調製した。
【0109】
<サイジング剤付き炭素繊維束の製造>
アクリルニトリル系共重合体を湿式紡糸し、フィラメント数3000本、総繊度3600テックスの炭素繊維束前駆体を得て、これらを5本束ねてボビンに巻き取った。束ねた炭素繊維束前駆体を焼成し、5本のサブトウ(質量:298mg/m)を含む、総フィラメント数15000本、総繊度1000テックスの炭素繊維束を得た。次いで、炭素繊維束を、炭酸水素アンモニウムを電解液として電解酸化処理し、水洗して、150℃に加熱されたローラーにより乾燥した。
【0110】
次いで、図4に例示した製造装置300を用い、フラットローラー312、314により、表面処理が施された炭素繊維束(炭素繊維束40)を、浸漬槽310に満たしたサイジング剤の水分散液(水分散液50)に浸漬して通過させた。水分散液50から引き上げた炭素繊維束40をフラットローラー314の周面に接触させつつ、エアー吹き付け手段320によって炭素繊維束40にエアーを吹き付けて余剰の水分散液50を除去した。次いで、フィードローラー316とニップローラー318により、水分散液50が付着した炭素繊維束40を走行させつつニップ処理し、炭素繊維束40と水分散液50の合計質量に対する水分散液50の質量の割合Wを20質量%とした。次いで、周面が140℃に加熱された加熱ローラー322に炭素繊維束40を15秒間接触させて乾燥させ、サイジング剤付き炭素繊維束をボビンに巻き取った。得られたサイジング剤付き炭素繊維束におけるサイジング剤の付着量は1.2質量%であった。
【0111】
[実施例2〜7及び実施例10、11]
サイジング剤付き炭素繊維束の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付き炭素繊維束を製造した。
【0112】
[実施例8、9]
成分(A)として成分(A−3)42.5質量部及び成分(A−4)42.5質量部を混合した樹脂組成物と、界面活性剤(C−1)15質量部とを混合してサイジング剤を得た。前記サイジング剤にイオン交換水を加え、ホモミキサーを用いた転相乳化によって、サイジング剤の濃度が3.3質量%の水分散液を調製した。得られた水分散液を用い、サイジング剤付き炭素繊維束の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付き炭素繊維束を製造した。
【0113】
[実施例12]
連続する繊維束として炭素繊維束(商品名「TR50S 15L」、三菱ケミカル社製)を使用した。隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaを800mm、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbを25mmとなるように炭素繊維束を断続的に分割し、9本のサブトウを含む、総フィラメント数15000本、総繊度1000テックスの炭素繊維束を得た。次いで、実施例1と同様にしてサイジング剤付き炭素繊維束を製造した。
【0114】
[比較例1]
サイジング剤付き炭素繊維束の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付き炭素繊維束を製造した。
【0115】
[比較例2]
連続する繊維束として炭素繊維束(商品名「TRW40 50L」、三菱ケミカル社製)を使用した。隣接するサブトウ同士の分割部分の長さaを800mm、隣接するサブトウ同士の未分割部分の長さbを25mmとなるように炭素繊維束を断続的に分割し、30本のサブトウを含む、総フィラメント数50000本、総繊度3750テックスの炭素繊維束を得た。次いで、サイジング剤付き炭素繊維束の製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付き炭素繊維束を製造した。
【0116】
実施例及び比較例における評価結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示すように、実施例1〜9のサイジング剤付き炭素繊維束は、チョップ時におけるチョップ分繊性が優れていた。カンチレバー値の低い実施例8、9、12では、チョップ良好性に劣っていたが、SMCの製造には充分適用できるレベルであった。
また、重なり率Pが高めである実施例10では、チョップ分繊性に劣っていたが、SMCの製造に充分適用できるレベルであった。交絡回数の少ない実施例11ではチョップ分繊性及びチョップ良好性が劣っていたが、SMCの製造に充分適用できるレベルであった。
一方、重なり率Pが低い比較例1は、チョップ分繊性やチョップ良好性は良好であったが、SMCの製造時において、分離したサブトウの装置への巻きつき等のトラブルが高頻度で発生した。また、比較例1のチョップド繊維束は、樹脂含侵性が低く、SMCの製造に適用できるレベルではなかった。
さらに、重なり率Pが高い比較例2は、チョップ分繊性は比較的良好であったが、チョップ良好性及び樹脂含侵性が低く、SMCの製造に適用できるレベルではなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6