(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のインクは、ワックス、顔料、顔料分散樹脂、水性媒体、及び、必要に応じてバインダー樹脂を含有するインクであって、前記ワックスの含有量が、前記インクの全量に対して0.5質量%〜2質量%の範囲であり、かつ、前記インクの全量に対する前記バインダー樹脂の含有量が0質量%〜2質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明のインクを用いることによって、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に高発色性の印刷物を製造することができる。また、本発明のインクを用いて得られた印刷物は、前記したように印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を有するだけでなく、24時間程度乾燥させることによって、より一層優れた耐擦過性を有する。
【0013】
本発明のインクとしては、水性媒体や有機溶剤等の溶媒にワックスや顔料や顔料分散樹脂等が溶解または分散したものを使用することができ、水性媒体にワックス等が溶解又は分散した水性インクを使用することが好ましい。
【0014】
はじめに、本発明のインクを構成するワックスについて説明する。
【0015】
本発明で使用するワックスは、印刷物に優れた耐擦過性と高発色性とを付与するうえで使用する。
【0016】
前記ワックスとしては、例えばポリオレフィンワックスを使用することができる。
【0017】
前記ポリオレフィンワックスとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン系炭化水素の単独または2種以上の重合体を使用することができる。
【0018】
前記ポリオレフィンワックスとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンとプロピレンまたはブチレンとの重合体を使用することが好ましく、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンを使用することがより好ましく、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンを使用することがさらに好ましく、ポリテトラフルオロエチレンを使用することが、インクジェット印刷方式で印刷可能で、発色性や耐擦過性に優れた印刷物を得ることが可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0019】
前記ワックスとしては、被記録媒体の表面で、粒子形状を保持可能なものを使用することが、より一層優れた耐擦過性を備えた印刷物を得るうえで好ましい。前記粒子形状を保持可能なワックスを含むインクを製造する際には、前記ワックスが予め水中に分散したサスペンション、エマルジョンを使用することが好ましい。
【0020】
前記ワックスとしては、例えば普通紙へ印刷した場合であっても高発色性を維持し、かつ、より一層優れた耐擦過性を備えた印刷物を得ることのできるインクを得るうえで、体積平均粒子径0.04μm〜2.0μmであるワックスを使用することが好ましく、0.5μm〜1.5μmであるワックスを使用することがより好ましく、0.6μm〜0.9μmの範囲のものを使用することが、耐擦過性と発色性を両立するうえで特に好ましい。また、前記ワックスとしてポリエチレンを使用する場合、ポリエチレンの体積平均粒子径が0.81〜1.1μmのものを使用することが、優れた耐擦過性を備えた印刷物を得る上で好ましい。なお、前記体積平均粒子径は、マイクロトラックUPA150EX(日機装(株)製)を用いて、セル温度25℃にて測定した値である。
【0021】
前記ワックスとしては、pHが7〜14の範囲のものを使用することが好ましく、7〜11の範囲のものを使用することが、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に高発色性の印刷物の製造に使用でき、かつ、インクの良好な保存安定性を維持するうえで好ましい。
【0022】
前記ワックスは、本発明のインクの全量に対して0.5質量%〜2質量%の範囲で使用する。これにより、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に高発色性の印刷物を製造可能なインクを得ることができる。
【0023】
前記ワックスは、本発明のインクの全量に対して0.7質量%〜1.5質量%の範囲で使用することが、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、より一層優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合により一層高発色の印刷物を得るうえでより好ましい。
【0024】
次に、本発明で使用する顔料について説明する。
【0025】
前記顔料としては、例えば有機顔料または無機顔料を単独または2種以上組合せ使用することができる。
【0026】
前記有機顔料としては、例えばキナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、フタロン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等を使用することができる。
【0027】
前記無機顔料としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナ白、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトボン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデートオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、カーボンブラック、アルミニウム粉、パール系顔料等を使用することができる。
【0028】
前記顔料としては、水性媒体に自己分散可能な顔料を使用することもできる。
【0029】
前記顔料は、前記インクの全量に対して、0.1質量%〜20質量%の範囲で使用することが好ましく、5質量%〜10質量%の範囲で使用することが、良好な保存安定性を有し、かつ、インクジェット印刷法に適用した場合に優れた吐出安定性を有するインクを得るうえで好ましい。
【0030】
次に、本発明で使用する顔料分散樹脂について説明する。
【0031】
前記顔料分散樹脂は、顔料に水分散性を付与するために使用する。
【0032】
前記顔料分散樹脂としては、例えばアニオン性基を有する顔料分散樹脂を使用することができる。前記アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。
【0033】
前記アニオン性基を有する顔料分散樹脂としては、疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂を使用することが、本発明のインクの安定性を保つ構造の設計自由度が高く、普通紙への発色性に優れた印刷物を形成可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0034】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、例えば前記顔料分散樹脂がスチレン由来の構造単位とアクリル酸由来の構造単位とを有する樹脂を使用することができる。
【0035】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、酸価60〜300mgKOH/gの範囲のものを使用することが好ましく、100〜180mgKOH/gの範囲のものを使用することが、顔料の分散性、インクの安定性、高印刷濃度のバランスを取る観点から適している。
【0036】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、水性媒体中における顔料の分散性、インクの安定性、耐擦過性、高印刷濃度、更には吐出性のバランスを取る観点から重量平均分子量が3000〜50000の範囲のものを使用することが好ましく、4000〜40000の範囲のものを使用することがより好ましく、5000〜30000の範囲のものを使用することさらに好ましく、5000〜20000の範囲のものを使用することが特に好ましい。
【0037】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、本発明のインクをサーマルジェット方式のインクジェット印刷法に適用した場合であっても、サーマルジェット方式に由来する熱の影響によって前記樹脂が変質することなく、優れた吐出安定性を維持するうえで、ガラス転移温度60℃〜150℃の範囲のものを使用することが好ましく、70℃〜150℃の範囲のものを使用することがさらに好ましい。
【0038】
前記疎水性の構造単位と親水性のアニオン性基由来の構造単位とを有する樹脂としては、アニオン性基の中和により水分散性となり得るものが好ましく、中和剤となる塩基性化合物の作用下で乳化剤等の分散安定剤を用いることなく、安定な水分散粒子を形成できる能力を有する樹脂であることが好ましい。
【0039】
前記顔料分散樹脂としてアニオン性基を有する樹脂を使用する場合、前記アニオン性基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、無機系塩基性化合物、有機系塩基性化合物を使用することができる。前記塩基性化合物としては、より一層優れた保存安定性を有するインクを得るうえで、無機系塩基性化合物を使用することが好ましい。
【0040】
前記無機系塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム等を使用することができ、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を使用することが、前記顔料により一層優れた分散安定性を付与するうえで好ましい。前記無機系塩基性化合物は、混合性向上の点などから、予め水に溶解または分散した濃度20質量%〜50質量%の水溶液を使用することができる。
【0041】
また、前記有機系塩基性化合物としては例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンを使用することができる。前記アミンは一般に液体状であるので、そのままの形態で用いることができる。
【0042】
前記塩基性化合物の含有量は、前記アニオン性基を有する樹脂の中和率が好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上となるように調整することが、前記水性媒体中の分散速度の向上、良好な分散安定性や長期保存安定性を確保するうえで好適である。前記中和率の上限値は特に限定しないが、実質的には、長期保存でもインクの安定性があり、ゲル化しないためにも、好ましくは200%以下、より好ましくは120%以下である。なお、ここで中和率とは、下記の式によって計算される値である。
【0043】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{顔料分散樹脂の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×顔料分散樹脂の質量(g)}]×100
【0044】
前記顔料分散樹脂としては、より具体的には、例えば前記したアニオン性基を有するポリエステル樹脂、アニオン性基を有するエポキシ樹脂、アニオン性基を有するウレタン樹脂、アニオン性基を有するアクリル酸系樹脂、アニオン性基を有するマレイン酸系樹脂、アニオン性基を有するスチレン系樹脂、アニオン性基を有するポリビニール酢酸系樹脂等のアニオン性基を有するビニル系共重合体等を使用することができる。
【0045】
前記顔料分散樹脂としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体を使用することができる。
【0046】
次に、本発明で使用する水性媒体について説明する。
【0047】
前記水性媒体としては、例えば水や水溶性有機溶剤等を使用することもできる。前記水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透膜処理水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0048】
本発明のインクとしては、必要に応じてバインダー樹脂を含有するものを使用することができる。しかし、前記バインダー樹脂を含むインクは、普通紙へ印刷した場合に顔料の凝集を抑制しやすく印刷物の発色性の低下を引き起こす場合がある。そのため、前記バインダー樹脂は前記インクの全量に対して0質量%〜2質量%の範囲で使用する。前記バインダー樹脂の含有量が2質量%を超えるインクは、前記発色性の低下を引き起こす場合がある。
【0049】
一方、本発明では、単に前記バインダー樹脂の含有量を0質量%〜2質量%の範囲に調整することのみでは、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に高発色性の印刷物を得ることができない場合がある。前記バインダー樹脂の含有量を0質量%〜2質量%の範囲に調整し、かつ、前記ワックスの含有量を0.5質量%〜2質量%の範囲に調整することによってはじめて、本発明の課題を解決することができる。
【0050】
前記バインダー樹脂の含有量は、前記インクの全量に対して0質量%〜1.5質量の範囲であることが好ましく、0質量%〜0.5質量%であることがより好ましく、0質量%であることが、印刷後の乾燥時間が非常に短い場合であっても、優れた耐擦過性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に高発色性の印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0051】
前記バインダー樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シェラックなどが挙げられる。
【0052】
前記バインダー樹脂としては、とりわけ重量平均分子量が1万以上のものの使用量を低減することが好ましい。
【0053】
本発明のインクには、例えばアルカリ剤、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを必要な特性に応じて配合しても良い。
【0054】
本発明のインクとしては、前記した成分の他に、必要に応じて湿潤剤等の添加剤を含有するものを使用することができる。
【0055】
前記湿潤剤としては、例えばエチレングリコール、グリセロール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのエーテル類;グリセリンのポリオキシアルキレン付加物;N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;トリエチルアミン等の有機アミン類、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等を単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0056】
前記湿潤剤としては、前記顔料と顔料分散樹脂とを均一に分散させるためには高沸点のものを使用することが好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物等の多価アルコール類を使用することがより好ましい。
【0057】
前記湿潤剤は、前記顔料の全量に対して10質量%〜300質量%の範囲で使用することが好ましく、30質量〜200質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0058】
本発明のインクは、例えば前記顔料と顔料分散樹脂と水性媒体と必要に応じて塩基性化合物や湿潤剤とを混合して得た顔料分散体、ワックス、及び、必要に応じて水性媒体や湿潤剤やバインダー樹脂を混合することによって製造することができる。
【0059】
前記顔料分散体は、例えば前記顔料と顔料分散樹脂と必要に応じて塩基性化合物や湿潤剤を含有する組成物を混練する工程[1]、前記工程[1]で得られた混練物を水性媒体に希釈分散させる工程[2]等を経ることによって製造することができる。
【0060】
前記工程[1]及び[2]において、顔料分散樹脂を適切に選択することで、顔料分散樹脂の顔料への親和性が極めて良好となり、水性顔料分散体の分散安定性が向上するとともに、顔料分散体を用いて得られたインクを普通紙に印刷することによって形成された印刷物の光沢や耐久性や耐水性等を向上させることができる。
【0061】
前記工程[1]では、例えばロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、プラネタリーミキサー等の装置を使用することができ、撹拌槽と撹拌羽根を有し、撹拌槽が密閉可能なヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、プラネタリーミキサー等の装置を使用することが、前記工程[1]中の前記組成物の固形分比率を一定に保つことができ、分散状態の良好な混練物が得られるため好ましく、プラネタリーミキサーを使用することが、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり好ましい。
【0062】
また、前記工程[2]では、前記工程[1]で得られた混練物を、水性媒体に希釈分散させる工程である。
【0063】
前記方法で得られた水性顔料分散体は、顔料等の原材料に由来する粗大粒子や凝集粒子を除去するうえで遠心分離処理またはろ過処理することが、本発明のインクをインクジェット印刷法に適用する際に、インク吐出ノズルの詰まり等の発生を防止するうえで好ましい。
【0064】
本発明のインクは、前記方法で得られた顔料分散体、ワックス、及び、必要に応じて水性媒体や湿潤剤やバインダー樹脂を混合することによって製造することができる。
【0065】
具体的には、本発明のインクは、前記顔料分散体に、純水等の水性媒体を供給し、次に必要に応じて潤滑剤を供給し、室温で30〜90分間攪拌した後、予め水性媒体にワックスが分散したエマルジョンなどを供給し、さらに室温で30〜90分間攪拌し、次に水酸化カリウムの濃度が5質量%の水酸化カリウム水溶液を供給しインクのpHを8.5〜9.8に調整し、室温で30〜90分間攪拌することによって製造することができる。
【0066】
水性顔料分散体を希釈する必要がある場合には、顔料を分散するために用いる湿潤剤と同様の物質を使用して希釈することが、インクの粘度や顔料濃度を調整しやすく、普通紙へのインクの浸透性を調整しやすいため好ましい。
【0067】
前記方法で得られた本発明のインクとしては、例えば粘度が1〜10mPa・sec範囲のものを使用することが好ましい。とりわけ、後述するインクジェット印刷方式で本発明のインクを吐出する場合には、粘度が1〜6mPa・secのものを使用することがより好ましい。
【0068】
また、前記方法で得られた本発明のインクとしては、前記インクの全量に対する顔料の質量割合が1質量%〜10質量%のものを使用することが好ましく、3質量%〜8質量%のものを使用することが、より一層優れた保存安定性を備えたインクを得るうえで特に好ましい。
【0069】
本発明のインクは、被記録媒体への印刷に使用することができる。
【0070】
前記被記録媒体としては、例えばインクの乾燥を促進する薬剤が表面に薄層コートされた微コート紙を使用することができる。本発明のインクであれば、前記被記録媒体として普通紙を選択した場合であっても、高光沢の印刷物を製造することができる。
【0071】
前記普通紙としては、代表的なものとして、電子写真方式の複写機等に用いられるPPC用紙等が挙げられる。前記普通紙は、銘柄によって古紙パルプの使用率や漂白度等が異なり、紙厚もさまざまであるが、安価であることと引き換えに、インク受理層等は塗布されていないため、特にインクジェット印刷方式を用いて両面印刷を行う際、普通紙の一方の面(表面)に印刷された片面印刷物が反転される際に、前記片面印刷物の印刷面に搬送ロールが接触すると、印刷面に傷がつき、印刷品質の低下を引き起こしやすい。
【0072】
本発明のインクであれば、前記普通紙に対して両面印刷する場合であっても、傷が少なく、高発色性の印刷物を得ることができる。
【0073】
本発明のインクは、様々な印刷方式に適用できるが、もっぱらインクジェット印刷方式による印刷場面で好適に使用することができる。
【0074】
前記インクジェット印刷方式としては、例えば連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)等が挙げられるが、本発明のインクは、サーマル型のインクジェット印刷方式での印刷に好適である。そして、このインクジェット記録用水性インクは、基本的にこれら各種のインクジェット方式に適用した場合に、極めて安定したインク吐出が可能となり、加えて形成された画像の良好な耐傷性、耐擦過性を実現することができる。
【0075】
本発明のインクを用いて印刷された印刷物は、前記したとおり優れた耐擦過性と高発色性とを両立することから、例えば普通紙への両面印刷が可能なプリンターを用いて得られる書類等に使用することができる。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
ジョンクリル JDX−6639(BASF社製、スチレンアクリル樹脂水溶液、重量平均分子量8000、酸価120〜130、ガラス転移点70℃、粘度1500 mPa・s、pH8、不揮発分約29質量%)500質量部と、マゼンタ顔料(FASTOGEN Super Magenta RY、DIC(株)製)5000質量部とを、容量50Lのプラネタリーミキサー((株)井上製作所製)に仕込み、ジャケットを加温した。
【0077】
前記プラネタリーミキサーの内容物の温度が60℃に達した後、自転回転数:80回転/分及び公転回転数:25回転/分の条件で前記内容物を攪拌し混合した。
【0078】
前記攪拌開始から5分後、トリエチレングリコール3700質量部と、34質量%水酸化カリウム水溶液172質量部とを加えた。
【0079】
その後、プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示した時点から起算し、120分経過するまで混合を継続することによって混練物を得た。
【0080】
次に、前記混練物に、60℃のイオン交換水10000質量部を、2時間かけて加えることによって液状混合物を得た。前記液状混合物に含まれる前記スチレンアクリル樹脂の前記マゼンタ顔料に対する質量割合は0.029であった。
【0081】
次に、前記液状混合物に、イオン交換水とトリエチレングリコールとを加え、マゼンタ顔料濃度14.3質量%、前記マゼンタ顔料に対するトリエチレングリコールの濃度が100質量%であるマゼンタ水性顔料分散体を得た。
【0082】
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部と、2−ピロリジノン(BASF社製)5.6質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業(株)製)5.6質量部と、精製グリセリン(花王(株)製)2.1質量部と、サーフィノール440(非イオン系界面活性剤、2,4,7,9テトラメチル−5デシン−4,7ジオール、エボニックジャパン(株))0.3質量部と、イオン交換水とを、100mlのポリ容器に入れ、1時間攪拌した後、さらに前記マゼンタ水性顔料分散体24.5質量部を加えて1時間攪拌した。
【0083】
次に、5質量%水酸化カリウム水溶液を用いpHを9〜9.8の範囲内に調整したものを、孔径5〜10μmのフィルターでろ過することによって、合計70質量部の水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0084】
(
参考例2)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールW900:水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0085】
(
参考例3)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールW4005(水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0086】
(
参考例4)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールW950(水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0087】
(
参考例5)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールW401(水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0088】
(
参考例6)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールW700(水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0089】
(
参考例7)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)2.1質量部の代わりに、ケミパールWF640(水分散性ポリエチレンワックス、三井化学株式会社製)2.6質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0090】
(比較例1)
NanoflonW50C(水分散性ポリテトラフロロエチレンワックス(PTFEワックス)、シャムロックテクノロジー社製)の使用量を2.1質量部から0質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0091】
(比較例2)
イソホロンジイソシアネート30質量部と2,2−ジメチロールプロピオン酸10質量部とポリオキシテトラメチレンエーテルグリコール(水酸基価110)60質量部との反応物であるポリウレタン(重量平均分子量42000、酸価約41mgKOH/g)が有するカルボキシル基を水酸化カリウムで100%中和して得られたポリウレタン水分散体B(固形分20質量%)を用意した。
【0092】
次に、2−ピロリジノン(BASF社製)5.6質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業(株)製)5.6質量部と、精製グリセリン(花王(株)製)2.1質量部と、サーフィノール440(非イオン系界面活性剤、2,4,7,9テトラメチル−5デシン−4,7ジオール、エボニックジャパン(株))0.3質量部と、イオン交換水とを、100mlのポリ容器に入れ、1時間攪拌した後、さらに前記マゼンタ水性顔料分散体24.5質量部を加えて1時間攪拌した。
【0093】
前記攪拌後、前記ポリ容器に前記ポリウレタン水分散体Bを5.3質量部供給し、混合した。
【0094】
前記混合によって得られたもののpHが9〜9.8の範囲内となるように、5質量%水酸化カリウム水溶液を用いて調整することによって、合計70質量部の水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0095】
(比較例3)
前記ポリウレタン水分散体Bの使用量を5.3質量部から14質量部に変更し、NanoflonW50Cを2.1質量部使用したこと以外は、比較例2と同様の方法で水性インク(マゼンタ顔料濃度5質量%)を得た。
【0096】
実施例及び比較例で使用したワックスの特性値を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
[発色性1(バーコーター)の評価方法]
実施例及び比較例で得られた水性インクを、バーコーター(番線の番号No.3、膜厚約6.87μm、第一理化株式会社製)を用い、PPC用紙(古紙配合率30%、紙厚約90μm、坪量約68g/m
2)に塗工し、常温環境下に24時間放置し乾燥したものを試験片Aとした。
【0100】
前記試験片Aの塗工面の光学濃度(OD値)を、濃度計(eXactシリーズ、X−Rite社)を用いて測定した。
【0101】
○;OD値が、比較例1の試験片のOD値よりも1%以上高い。
【0102】
△;OD値が、比較例1の試験片のOD値と比較して±1%以内である。
【0103】
×;OD値が、比較例1の試験片のOD値よりも1%以上低い。
【0104】
[発色性2(ジェット印刷)の評価方法]
実施例及び比較例で得られた水性インクを、市販のサーマルジェット方式インクジェットプリンター(Envy4500、ヒューレットパッカード社製)を用い、PPC用紙(古紙配合率30%、紙厚約90μm、坪量約68g/m
2)に下書き(1パス)モードで100%ベタ印刷し、常温環境下に24時間放置し乾燥したものを試験片Bとした。
【0105】
前記試験片Bの印刷面の光学濃度(OD値)を、濃度計(eXactシリーズ、X−Rite社)を用いて測定した。
【0106】
○;OD値が、比較例1の試験片のOD値よりも1%を超えて高い。
【0107】
△;OD値が、比較例1の試験片のOD値と比較して±1%以内である。
【0108】
×;OD値が、比較例1の試験片のOD値よりも1%を超えて低い。
【0109】
[耐擦過性1(印刷直後)の評価方法]
はじめに、学振式摩擦試験機(RT−300、(株)大栄科学精機製作所)が備えるおもり200gに、摩擦紙として塗工紙(光沢、HP Brochure用紙 ヒューレットパッカード社製)1枚を装着した。
【0110】
次に、実施例及び比較例で得た水性インクを、バーコーター(番線の番号No.3、膜厚約6.87μm、第一理化株式会社製)を用い、塗工紙(光沢、HP Brochure用紙 ヒューレットパッカード社製)に塗工した。
【0111】
前記塗工後、常温環境下に1分放置したものを試験片Cとし、試験片Cの塗工面を、前記学振式摩擦試験機を用いて1往復擦過した。
【0112】
前記擦過後の試験片Cの塗工面を目視で観察し、傷(前記塗工紙の表面が露出した傷)の有無を下記評価基準で評価した。
○:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が5%未満
△:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が5%以上30%未満
×:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が30%以上
【0113】
[耐擦過性2(印刷から24時間経過後)の評価方法]
はじめに、学振式摩擦試験機(RT−300、(株)大栄科学精機製作所)が備えるおもり200gに、摩擦紙として塗工紙(光沢、HP Brochure用紙 ヒューレットパッカード社製)1枚を装着した。
【0114】
次に、実施例及び比較例で得た水性インクを、バーコーター(番線の番号No.3、膜厚約6.87μm、第一理化株式会社製)を用い、塗工紙(光沢、HP Brochure用紙 ヒューレットパッカード社製)に塗工した。
【0115】
前記塗工後、常温環境下に24時間放置したものを試験片Dとし、試験片Dの塗工面を、前記学振式摩擦試験機を用いて5往復擦過した。
【0116】
前記擦過後の試験片Dの塗工面を目視で観察し、傷(前記塗工紙の表面が露出した傷)の有無を下記評価基準で評価した。
○:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が5%未満
△:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が5%以上30%未満
×:前記塗工面の面積に対する前記傷の面積の割合が30%以上
【0117】
[耐擦過性3(ジェット印刷法による両面印刷)の評価方法]
実施例及び比較例で得られた水性インクを、市販のサーマルジェット方式インクジェットプリンター(Envy4500、ヒューレットパッカード社製)を用い、塗工紙(光沢、HP Brochure用紙 ヒューレットパッカード社製)の両面に、印刷濃度が60%から80%まで変化した帯状の画像を、最高(4パス)モードで印刷したものを試験片Eとした。
【0118】
前記試験片Eの印刷面を目視で観察し、下記評価基準に基づいて評価した。
○:印刷面に傷がまったく確認されなかった。
△:印刷面に傷が確認されたが、塗工紙が露出していなかった。
×:印刷面に傷が確認され、塗工紙が露出した。
【0119】
【表3】
【0120】
表中の「−
a」は、水性インクがサーマルジェット方式インクジェットプリンター(Envy4500、ヒューレットパッカード社製)で吐出できなかったものを指す。