特許第6863545号(P6863545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863545
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】MEMS素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B81B 3/00 20060101AFI20210412BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20210412BHJP
   H04R 19/04 20060101ALI20210412BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B81B3/00
   B81C1/00
   H04R19/04
   H04R31/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-12679(P2017-12679)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-118356(P2018-118356A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】荒木 新一
【審査官】 大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−244752(JP,A)
【文献】 特開2016−002625(JP,A)
【文献】 特開2016−022544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
B81C 1/00
H04R 19/04
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えたシリコン基板と、該シリコン基板上に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、
前記シリコン基板と前記可動電極の間に第2のスペーサーと、
前記シリコン基板と対向する前記可動電極との間の寸法を前記バックチャンバー側面端部側で大きくする段部とを備え、
該段部は、前記第2のスペーサーを構成する熱酸化膜と前記バックチャンバーを構成する前記シリコン基板の側面との間に該シリコン基板の側面に沿って環状に配置されていることを特徴とするMEMS素子。
【請求項2】
バックチャンバーを備えたシリコン基板上に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置したMEMS素子の製造方法において、
第2のスペーサー形成予定領域の内側に配置する環状形状の凹部内を充填するように前記シリコン基板表面を熱酸化する工程と、
前記シリコン基板表面の熱酸化膜上に、前記可動電極を形成する工程と、
前記可動電極上に、絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜上に、前記固定電極を形成する工程と、
前記固定電極に貫通孔を形成する工程と、
前記シリコン基板の一部をエッチング除去し、側面が前記環状形状の凹部に位置するように前記バックチャンバーを形成する工程と、
前記貫通孔から前記絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第1のスペーサーを形成し、前記固定電極と前記可動電極との間にエアーギャップを形成すると同時に、前記凹部内に埋め込まれた熱酸化膜を除去し、前記シリコン基板表面の熱酸化膜の一部を残し、第2のスペーサーを形成する工程と、を含むことを特徴とするMEMS素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子に関し、特にマイクロフォン、各種センサ、スイッチ等として用いられる容量型のMEMS素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体プロセスを用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子は、半導体基板上に固定電極、犠牲層(絶縁膜)および可動電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定された固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成されている。
【0003】
例えば、容量型のMEMS素子であるコンデンサマイクロフォンでは、音圧を通過させる複数の貫通孔を備えた固定電極と、音圧を受けて振動する可動電極(ダイアフラム膜)とを対向して配置し、音圧を受けて振動する可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。
【0004】
図4は、一般的なコンデンサマイクロフォンの製造方法の説明図である。まず、結晶方位(100)面の厚さ420μmのシリコン基板1上に、厚さ1μm程度の熱酸化膜2を形成し、熱酸化膜2上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.2〜2.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に導電性ポリシリコン膜を通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、可動電極6を形成する(図4a)。
【0005】
次に、可動電極6上に厚さ2.0〜5.0μm程度の第1のスペーサーとなるUSG(Undoped Silicate Glass)膜からなる犠牲層7を積層形成し、さらに、犠牲層7上に厚さ0.1〜1.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。導電性ポリシリコン膜を通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、固定電極8を形成する。固定電極8上には、さらに減圧CVD法により窒化膜を積層形成し、固定電極8と一体となったバックプレート9を形成する。固定電極8とバックプレート9には貫通孔10を形成し、犠牲層7を露出させる(図4b)。
【0006】
その後、シリコン基板1を裏面側から熱酸化膜2が露出するまでシリコン基板1をエッチングすることでバックチャンバー11を形成する。最後に貫通孔10から犠牲層7の一部をエッチングし、第1のスペーサー12を形成すると同時に、バックチャンバー11側に残る熱酸化膜の一部をエッチングし、第2のスペーサー13を形成し、固定電極8と可動電極6が対向するMEMS素子を形成する(図4c)。このような一般的なコンデンサマイクロフォンの製造方法は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−274096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このようにシリコン基板1をエッチングすることでバックチャンバー11を形成すると、非常に深くシリコン基板1をエッチングする必要があるため、シリコン基板1の底面(バックチャンバー側面端部15)は、スムーズな円形とはならず突起部が残ってしまう。図5は、バックチャンバー11の側面端部と熱酸化膜の一部をエッチングして形成した第2のスペーサー13の端部を可動電極6側から模式的に表している。図5に示すように、バックチャンバー側面端部15に突起部16が形成されると、熱酸化膜は等方的にエッチングされるため、第2のスペーサー13の側端部にも突起部17が形成されてしまう。このように突起部17が存在する第2のスペーサー13に支持された可動電極6に圧力が加わると、第2のスペーサー13の突起部17先端と可動電極6との接続点18に応力が集中し、可動電極6に破壊しやすくなってしまうという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消し、MEMS素子の破壊を防止することができるMEMS素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えたシリコン基板と、該シリコン基板上に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置することでエアーギャップが形成されたMEMS素子において、前記シリコン基板と前記可動電極の間に第2のスペーサーと、前記シリコン基板と対向する前記可動電極との間の寸法を前記バックチャンバー側面端部側で大きくする段部とを備え、該段部は、前記第2のスペーサーを構成する熱酸化膜と前記バックチャンバーを構成する前記シリコン基板の側面との間に該シリコン基板の側面に沿って環状に配置されていることを特徴とする。
【0011】
本願請求項2に係る発明は、バックチャンバーを備えたシリコン基板上に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置したMEMS素子の製造方法において、第2のスペーサー形成予定領域の内側に配置する環状形状の凹部内を充填するように前記シリコン基板表面を熱酸化する工程と、前記シリコン基板表面の熱酸化膜上に、前記可動電極を形成する工程と、前記可動電極上に、絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜上に、前記固定電極を形成する工程と、前記固定電極に貫通孔を形成する工程と、前記シリコン基板の一部をエッチング除去し、側面が前記環状形状の凹部に位置するように前記バックチャンバーを形成する工程と、前記貫通孔から前記絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第1のスペーサーを形成し、前記固定電極と前記可動電極との間にエアーギャップを形成すると同時に、前記凹部内に埋め込まれた熱酸化膜を除去し、前記シリコン基板表面の熱酸化膜の一部を残し、第2のスペーサーを形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のMEMS素子の製造方法により製造したMEMS素子は、バックチャンバーの側面端部に突起部が形成されたとしても、第2のスペーサーの側端部には突起部が形成されずスムーズな円形形状とすることで、可動電極が破壊に至ることを防止できる。また突起部は、可動電極から離れ、可動電極の振動の際に突起部に接触して破損することも防止できる。
【0013】
本発明のMEMS素子の製造方法は、通常の半導体装置の製造工程で、一般的に用いられている工程のみで構成されているため、非常に安定的に、また安価にMEMS素子を形成することができるという利点がある。特にシリコン基板の熱酸化により、側面及び底面がスムーズな形状となっている凹部内に充填された熱酸化膜からエッチングを開始することで第2のスペーサーを形成するため、バックチャンバーの側面端部に突起部が残されていても、第2のスペーサーの側端部に突起を形成することがなくなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のMEMS素子の製造工程の説明図である。
図2】本発明のMEMS素子の製造工程の説明図である。
図3】本発明のMEMS素子の製造方法の効果を説明する図である。
図4】従来のMEMS素子の製造工程の説明図である。
図5】従来のMEMS素子の製造方法の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るMEMS素子は、バックチャンバーの側面端部と第2のスペーサーが形成される領域との間が一部厚くなるようにシリコン基板表面を熱酸化して熱酸化膜を形成する。この熱酸化膜は通常の半導体装置の製造工程に従い形成されるため、厚さの厚い部分の形状は、スムーズな環状、例えば円形形状に形成することができる。しかも、第2のスペーサーとして残る熱酸化膜の内側に厚い熱酸化膜を形成することで、バックチャンバーの側面端部に残る突起部の影響を受けない構造とすることが可能となる。以下、本発明のMEMS素子の製造方法に従い、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例について、製造工程に従い説明する。まず、結晶方位(100)面の厚さ420μmのシリコン基板1上に、厚さ1μm程度の熱酸化膜2(SiO2)を形成し、通常のフォトリソグラフ法により熱酸化膜2をパターニングし、シリコン基板1に幅0.5μm、深さ1μm程度の環状溝3をシリコン基板1の縁周に沿って複数形成する。このとき、環状溝3のうち最も外側の環状溝3aの外周が、バックチャンバー形成予定位置よりも外側で、第2のスペーサー形成予定位置より内側になるように形成する(図1a)。
【0017】
その後、シリコン基板1表面を熱酸化することにより、環状溝3間のシリコン基板4を熱酸化し、環状凹部5を形成すると同時に環状凹部5内を熱酸化膜2aで埋める(図1b)。なお、環状凹部5内を熱酸化膜2aで埋めるために、環状溝3を複数形成すると熱酸化後に熱酸化膜2aの表面が平坦となり、簡便な方法となる。
【0018】
以下、通常の製造工程に従い、熱酸化膜2上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.2〜2.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に導電性ポリシリコン膜を通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、可動電極6を形成する(図1c)。
【0019】
次に、可動電極6上に厚さ2.0〜5.0μm程度の第1のスペーサーとなるUSG(Undoped Silicate Glass)膜からなる犠牲層7を積層形成し、さらに、犠牲層7上に厚さ0.1〜1.0μm程度の導電性ポリシリコン膜を積層形成する。導電性ポリシリコン膜を通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、固定電極8を形成する。固定電極8上には、さらに減圧CVD法により窒化膜を積層形成し、固定電極8と一体となったバックプレート9を形成する。固定電極8とバックプレート9には貫通孔10を形成し、犠牲層7を露出させる(図2a)。
【0020】
その後、シリコン基板1を裏面側から熱酸化膜2が露出するまでエッチングすることでバックチャンバー11を形成する。このとき、バックチャンバー11の側壁端部が、図2(b)に示すように、先に形成した環状凹部5内に埋め込まれた熱酸化膜2aの底部となるように配置する。
【0021】
最後に貫通孔10から犠牲層7の一部をエッチングし、第1のスペーサー12を形成すると同時に、バックチャンバー11側に残る熱酸化膜2の一部をエッチングし、第2のスペーサー13を形成し、固定電極8と可動電極6が対向するMEMS素子を形成する(図2c)。
【0022】
このように形成するMEMS素子は、図3に示すように、バックチャンバー11を形成する際、バックチャンバーの側面端部14に突起部16が形成されたとしても、第2のスペーサー13の側端部には突起が形成されずスムーズな円形形状となる。これは、熱酸化膜がエッチングされる際、熱酸化膜2aの側面部2bと底面がスムーズな円形形状であることにより、このスムーズな円形形状の面をトレースするように等方的なエッチングが進行し、突起部が形成されないためである。また、バックチャンバーの側壁端部14に突起部16が形成されているために突起をトレースするように熱酸化膜2のエッチングが進行するものの、このエッチングは熱酸化膜2aの側面部2cに達するとすべての熱酸化膜2aがエッチングされ、第2のスペーサー13のエッチング形状に影響を与えることがない。このように、突起のない構造とすることにより、可動電極6に圧力が加わっても、第2のスペーサー13と可動電極6の特定の接続点に応力が集中することはなく、可動電極6の破壊を防止することができることになる。
【0023】
以上本発明について説明したか、本発明はこれに限定されるものではなく、種々変更可能である。例えば、環状凹部5内に熱酸化膜を充填する方法は、図1(a)に示すように複数の環状溝3を形成する方法に限定されるものではなく、幅の広い凹部内に熱酸化膜を充填して環状凹部5を形成してもよい。また、可動電極や熱酸化膜が埋め込まれる凹部等の形状は円形に限るものでもない。
【符号の説明】
【0024】
1:シリコン基板、2:熱酸化膜、2a,2b,2c:環状凹部に埋め込まれた熱酸化膜、3,3a:環状溝、4:環状溝3間のシリコン基板、5:環状凹部、6:可動電極、7:犠牲層、8:固定電極、9:バックプレート、10:貫通孔、11:バックチャンバー、12:第1のスペーサー、13:第2のスペーサー、14,15:バックチャンバー側面端部、16,17:突起部、18:接続点
図1
図2
図3
図4
図5