(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の有機EL素子、表示装置、照明装置について詳細に説明する。
「有機EL素子」
図1Aは、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図1Aに示す本実施形態の有機EL素子1は、陰極3と陽極9との間に発光層6を有し、陰極3と発光層6との間に、電子注入層20を有している。
本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陰極3と、電子注入層20と、電子輸送層10と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に形成された積層構造を有する。
【0023】
図1Aに示す有機EL素子1は、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子である。また、
図1Aに示す有機EL素子1は、有機EL素子を構成する層の一部(少なくとも金属酸化物層4)を、無機化合物を用いて形成した有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子である。
図1Aに示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0024】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0025】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0026】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1〜30mmであることが好ましく、0.1〜10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0027】
「陰極」
陰極3は、基板2上に直接接触して形成されている。
陰極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In
3O
3、SnO
2、Sb含有SnO
2、Al含有ZnO等の酸化物の導電材料が挙げられる。この中でも、陰極3の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
陰極3の平均厚さは、特に制限されないが、10〜500nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。
陰極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合、陰極3として鏡面反射性を有する金属電極(反射電極)を用いる。鏡面反射性を有する金属電極の材料としては、例えば、Ag、Cr、Mo、Al、Pd、Ni、およびそれらの合金などを用いることができる。
陰極3は、鏡面反射性を有する金属電極の上面または下面に接して、ITO、IZO、FTOなど上記の酸化物の導電材料からなる電極層が積層されたものであってもよい。
【0028】
「電子注入層」
電子注入層20は、陰極3から発光層6への電子の注入の速度・電子輸送性を改善する機能を有する。本実施形態の有機EL素子1の電子注入層20は、
図1Aに示すように、金属酸化物層4と、金属酸化物層4の発光層6側の面に形成された自己組織化単分子膜層5とを有する。
金属酸化物層4は、電子注入性を向上させるために、陰極3と自己組織化単分子層5との間に必要に応じて形成される。本実施形態においては、
図1Aに示す金属酸化物層4が形成されておらず、
図1Bに示すように、陰極3上に接して自己組織化単分子層5が形成されていている有機EL素子11としてもよい。
【0029】
(金属酸化物層)
金属酸化物層4は、電子注入層としての機能を有するものであり、電子注入層としての機能に加えて、陰極としての機能を備えていてもよい。
金属酸化物層4は、半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。具体的には、金属酸化物層4は、単体の金属酸化物からなる層、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属酸化物を混合した層のいずれであってもよい。
【0030】
金属酸化物層4を形成する金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。
【0031】
金属酸化物層4が、二種類以上の金属酸化物を混合した層を含む場合、金属酸化物を構成する金属元素の少なくとも一つが、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ハフニウム、ケイ素、チタンからなる層であることが好ましい。
金属酸化物層4が、単体の金属酸化物からなる層である場合、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタンからなる群から選ばれる金属酸化物からなる層であることが好ましい。
【0032】
金属酸化物層4は、上述した金属酸化物の中でも特に、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムから選ばれる1種以上の金属酸化物を含むことが好ましい。これらの金属酸化物中に含まれる金属元素は、自己組織化単分子膜層5の材料であるチオール化合物中のチオール基と相互作用が起こりやすく、チオール基が結合しやすい。このため、金属酸化物層4が、これらの金属酸化物を含む場合、金属酸化物層4上に後述するチオール化合物を用いて自己組織化単分子膜層5を容易に形成できるとともに、より優れた電子注入性が得られる。
【0033】
金属酸化物層4の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nmであることが好ましく、2〜100nmであることがより好ましい。
金属酸化物層4の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0034】
(自己組織化単分子膜層)
自己組織化単分子膜層5は、自己組織化単分子膜を形成する材料(前駆体)として、チオール化合物、または解裂することでチオール化合物と同様の効果を示すジスルフィド化合物を用いて形成されたものである。本実施形態における自己組織化単分子膜層5は、金属酸化物層4(
図1Bに示す有機EL素子11のように金属酸化物層4が形成されていない場合には陰極3)の表面とチオール化合物中のチオール基(またはジスルフィド化合物中のジスルフィド基)との相互作用により、金属酸化物層4(または陰極3)に結合されている。
本実施形態で自己組織化単分子層5の材料として用いられるチオール化合物(またはジスルフィド化合物)は、芳香族炭化水素または炭素数1〜10の鎖状飽和炭化水素を基本骨格とし、基本骨格の有する一つまたは複数の水素をチオール基(またはジスルフィド基)で置換したものである。したがって、金属酸化物層4(または陰極3)に結合されている自己組織化単分子層5は、上記基本骨格の有する一つまたは複数の水素を硫黄で置換した化学種からなる。
【0035】
チオール化合物の基本骨格である芳香族炭化水素は、単環芳香族炭化水素または多環芳香族炭化水素であり、ヘテロ原子や置換基を含んでも良い。具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、コロネン、チオフェン、チアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン、ナフチリジンおよびその誘導体などが挙げられる。これらの芳香族炭化水素の中でも特に、分子サイズが小さく、表面を高密度に覆うことができるためベンゼンが好ましい。
【0036】
チオール化合物の基本骨格である鎖状飽和炭化水素は、炭素数1〜10で、ヘテロ原子や置換基を含まないものである。鎖状飽和炭化水素の炭素数が10以上であると、絶縁層になってしまう。鎖状飽和炭化水素の炭素数が8以下であると、自己組織化単分子膜層5を設けることによる有機EL素子1の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
【0037】
炭素数1〜10の鎖状飽和炭化水素の有する一つまたは複数の水素をチオール基で置換したチオール化合物としては、具体的には、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオールなどが挙げられる。これらの中でも特に、取り扱いが容易で、電子注入性にも優れ、絶縁性の小さいプロパンチオール、ブタンチオールが好ましい。
【0038】
自己組織化単分子膜層5の平均厚さは、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。電子注入層5の平均厚さが5nm以下であると、有機EL素子1の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
自己組織化単分子膜層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0039】
「電子輸送層」
電子輸送層10としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの材料を用いてもよい。
具体的には、電子輸送層10の材料として、2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレン誘導体、フェニル−ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy
2)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス−1,3,5−(3’−(ピリジン−3’’−イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2−(3−(9−カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2−フェニル−4,6−ビス(3,5−ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4−ビス(4−ビフェニル)−6−(4’−(2−ピリジニル)−4−ビフェニル)−[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’−(1,3,5−ベントリイル)−トリス(1−フェニル−1−H−ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)
2)、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5−ビス(6’−(2’,2’’−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy),等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの電子輸送層10の材料の中でも、特に、POPy
2のようなホスフィンオキサイド誘導体、Alq
3のような金属錯体、TmPyPhBのようなピリジン誘導体を用いることが好ましい。
【0040】
電子輸送層10の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nmであることが好ましく、20〜100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層10の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0041】
「発光層」
発光層6を形成する材料としては、発光層6の材料として通常用いることのできるいずれの材料を用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。具体的には、例えば、発光層6として、ビス[2−(2−ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)
2)と、トリス[1−フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)
3)とを含むものとすることができる。
また、発光層6を形成する材料は、低分子材料であってもよいし、高分子材料であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0042】
発光層6を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ−フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ−フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレンビニレン)(RO−PPV)、シアノ−置換−ポリ(パラ−フェンビニレン)(CN−PPV)、ポリ(2−ジメチルオクチルシリル−パラ−フェニレンビニレン)(DMOS−PPV)、ポリ(2−メトキシ,5−(2’−エチルヘキソキシ)−パラ−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン−アルト−ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω−ビス[N,N’−ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]−ポリ[9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン−2,7−ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニル−オルト−コ(アントラセン−9,10−ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ−フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5−ジアルコキシ−パラ−フェニレン)(RO−PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物等が挙げられる。
【0043】
発光層6を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)
3)、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq
3)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq
3)、8−ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq
2)、(1,10−フェナントロリン)−トリス−(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)
3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6−ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’−ビス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレン−ジ−カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4−(ジ−シアノメチレン)−2−メチル−6−(パラ−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5−ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’−(パラ−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1,3−シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’−テトラフェニル−9,9’−スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(H
2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物等が挙げられる。
【0044】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0045】
「正孔輸送層」
正孔輸送層7に用いる正孔輸送性有機材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送層7の材料として、例えば、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)、N4,N4’−ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン−4−イル)−N4,N4’−ジフェニルビフェニルー4,4’−ジアミン(DBTPB)、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送層7の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、正孔輸送層7の材料として用いられるポリチオフェンを含有する混合物として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0046】
正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層7の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0047】
「正孔注入層」
正孔注入層8は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られやすい。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化モリブテン(MoO
3)、酸化ルテニウム(RuO
2)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3−f:2‘,3’−h]キノキサリン−2,3,6,7,10,11−ヘキサカルボニトリル(HAT−CN)や2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノ−キノジメタン(F4−TCNQ)等を用いることができる。
【0048】
正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、1〜1000nmであることが好ましく、5〜50nmであることがより好ましい。
正孔注入層8の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0049】
「陽極」
陽極9に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陽極9の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合、陽極9として透過性電極を用いる。
陽極9の平均厚さは、特に限定されないが、10〜1000nmであることが好ましく、30〜150nmであることがより好ましい。また、陽極9の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10〜30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陽極として使用できる。
陽極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陽極9の成膜時に測定できる。
【0050】
「封止」
図1Aに示す有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、
図1Aに示す有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂などからなるシール材を充填することにより封止してもよい。また、例えば、
図1Aに示す有機EL素子1は、陽極9上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陽極9と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間および枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0051】
図1Aに示す有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器または封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器または封止部材に用いられる樹脂材料およびガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0052】
本実施形態の有機EL素子1では、例えば、電子注入層として大気中で不安定な材料であるアルカリ金属を用いた場合と比較して、優れた耐久性が得られる。このため、封止容器または封止部材の水蒸気透過率が10
−3〜10
−4g/m
2/day程度であれば、有機EL素子1の劣化を十分に抑制できる。したがって、封止容器または封止部材の材料として、水蒸気透過率が10
−4g/m
2/day程度以下の樹脂材料を用いることが可能であり、柔軟性に優れた有機EL素子1を実現できる。
【0053】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、
図1Aに示す有機EL素子1の製造方法を説明する。
図1Aに示す有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陰極3を形成する。
陰極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陰極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0054】
次に、陰極3上に電子注入層20として、金属酸化物層4と自己組織化単分子膜層5とをこの順に形成する。金属酸化物層4は、必要に応じて形成されるものであり、形成しなくても良い。
金属酸化物層4は、例えば、スプレー熱分解法、ゾルゲル法、スパッタ法、真空蒸着法等の方法を用いて形成する。
【0055】
自己組織化単分子膜層5は、自己組織化単分子膜層5の材料であるチオール化合物(またはジスルフィド化合物)を、例えば、スピンコート法または浸漬法により、金属酸化物層4までの各層の形成された基板2の金属酸化物層4上(
図1Bに示す有機EL素子11のように金属酸化物層4が形成されていない場合には陰極3上)に塗布し、乾燥させる方法により形成できる。
【0056】
金属酸化物層4上に塗布するチオール化合物は、必要に応じてエタノールなどの希釈液を用いて希釈してから塗布してもよい。
また、金属酸化物層4までの各層の形成された基板2をチオール化合物中または希釈したチオール化合物中に浸漬させる場合、チオール化合物または希釈したチオール化合物に超音波をかけながら金属酸化物層4までの各層の形成された基板2を浸漬させてもよい。浸漬法を用いる場合、金属酸化物層4までの各層の形成された基板2をチオール化合物中または希釈したチオール化合物中に浸漬させる時間は、特に限定されるものではなく、例えば、1分〜180分とすることができ、5分〜40分とすることが好ましい。
【0057】
このようにして金属酸化物層4上にチオール化合物を塗布した後、乾燥させる前に必要に応じて、チオール化合物の塗布面をエタノールなどのリンス液を用いてリンスしてもよいし、有機溶剤などを用いて超音波洗浄を行ってもよい。
また、金属酸化物層4上に塗布したチオール化合物を乾燥させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、エアブローなどを用いて乾燥させることができる。
【0058】
また、自己組織化単分子膜層5は、気相法を用いて形成してもよい。気相法では、金属酸化物層4までの各層の形成された基板2(金属酸化物層4が形成されていない場合には陰極3の形成された基板2)とチオール化合物(またはジスルフィド化合物)とを密閉した容器に入れ、チオール化合物(またはジスルフィド化合物)の蒸気圧を利用して製膜する。なお、チオール化合物(またはジスルフィド化合物)の蒸気圧が低い場合、加熱しながら成膜してもよい。
気相法により金属酸化物層4上に自己組織化単分子膜層5を成膜した後、必要に応じてエタノールなどのリンス液を用いてリンスしてもよいし、有機溶剤などを用いて超音波洗浄を行ってもよい。
【0059】
このようにして金属酸化物層4上(金属酸化物層4が形成されていない場合には陰極3上)に自己組織化単分子膜層5を形成した後、自己組織化単分子膜層5までの各層の形成された基板2を、60℃〜180℃の温度で加熱する熱処理を行ってもよい。このような熱処理を行うことにより、自己組織化単分子膜層5をより確実に金属酸化物層4上(金属酸化物層4が形成されていない場合には陰極3上)に固定できる。
【0060】
次に、電子注入層20の自己組織化単分子膜層5上に、電子輸送層10、発光層6と、正孔輸送層7とをこの順で形成する。
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法は、特に限定されず、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7それぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
【0061】
具体的には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の各層を形成する方法として、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra−dilute Solution)法などが挙げられる。これらの電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法の中でも特に、塗布法を用いることが好ましい。なお、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物の溶媒溶解性が低い場合には、真空蒸着法、ESDUS法を用いることが好ましい。
【0062】
塗布法を用いて電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7を形成する場合には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ溶媒に溶解することにより、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ含む有機化合物溶液を形成する。
【0063】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0064】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。これらの塗布法の中でも、膜厚をより制御しやすいという点で、スピンコート法やスリットコート法を用いることが好ましい。
【0065】
次に、正孔輸送層7上に正孔注入層8と、陽極9とをこの順に形成する。
正孔注入層8が無機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、金属酸化物層4と同様にして形成できる。
正孔輸送層9が有機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7と同様にして形成できる。
陽極9は、例えば、陰極3と同様にして形成できる。
以上の工程により、
図1Aに示す有機EL素子1が得られる。
また、
図1Bに示す有機EL素子11は、金属酸化物層4を形成しないこと以外は、
図1Aに示す有機EL素子1と同様にして製造できる。
【0066】
「封止方法」
図1Aに示す有機EL素子1(または
図1Bに示す有機EL素子11)を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0067】
図1Aに示す本実施形態の有機EL素子1は、電子注入層20が、金属酸化物層4と、金属酸化物層4の発光層6側の面に形成された自己組織化単分子膜層5とを有する。そして、自己組織化単分子膜層5が、芳香族炭化水素または炭素数1〜10の鎖状飽和炭化水素の有する一つまたは複数の水素を硫黄で置換した化学種からなる。このため、本実施形態の有機EL素子1では、優れた電子注入性が得られ、陰極3から発光層6への電子注入速度が速く、駆動電圧の低いものとなる。
【0068】
また、本実施形態の有機EL素子1は、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子である。このため、基板2上に発光層6などの有機材料からなる層を形成する前に、電子注入層20を形成できる。したがって、スパッタ法を用いて電子注入層20の金属酸化物層4を形成しても、発光層6などの有機材料からなる層が損傷を受けることがなく、好ましい。
【0069】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものであってもよい。
【0070】
また、
図1Aに示す有機EL素子1においては、金属酸化物層4、電子輸送層10、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極3、金属酸化物層4、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0071】
また、
図1Aに示す有機EL素子1においては、
図1Aに示す陰極3、電子注入層20、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層の間に、他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層などを有していてもよい。
【0072】
本発明の有機EL素子は、発光層などの材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。したがって、本発明の有機EL素子は、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0073】
本発明の表示装置は、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、表示装置として好ましい。
また、本発明の照明装置は、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、照明装置として好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
「実験1」
チオフェノールを用いて、銀合金板上に、以下に示す方法により、自己組織化単分子膜層を形成した。
チオフェノールをエタノールで希釈して得た20×10
−3(mol/L)のエタノール溶液中に、銀合金板を10分間浸漬させて塗布した後、取り出した。
【0075】
次に、チオフェノールのエタノール溶液を塗布した銀合金板上を、エタノールを用いてリンスし、エアブローを用いて乾燥させた。
以上の工程により、銀合金板上に自己組織化単分子膜層を形成した。
【0076】
「実験2」
銀合金板を40分間浸漬させたこと以外は、実験1と同様にして銀合金板上に自己組織化単分子膜層を形成した。
【0077】
このようにして形成した実験1および実験2の自己組織化単分子膜層を有する銀合金板と、自己組織化単分子膜層を形成していない銀合金板の仕事関数を、仕事関数測定装置(商品名AC−3:理研計器製)を用いて測定した。
【0078】
その結果、実験1は3.75eV、実験2は3.88eV、自己組織化単分子膜層を形成していない銀合金板は4.98eVであった。このことから、銀合金板上にチオフェノールを用いて自己組織化単分子膜層を形成することにより、仕事関数が1eV以上低下することが確認できた。
この結果から、有機EL素子の電子注入層として金属酸化物層(金属酸化物層が形成されていない場合には陰極)の発光層側の面に自己組織化単分子膜層を形成することで、金属酸化物層(または陰極)の仕事関数が低下し、電子注入層と発光層とのエネルギー差を小さくできると推定される。
【0079】
「実施例1」
以下に示す方法により、
図1Aに示す有機EL素子1を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、ITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陰極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陰極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陰極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0080】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陰極3の形成されている基板2を、亜鉛金属ターゲットを持つミラトロンスパッタ装置の基板ホルダーに固定した。スパッタ装置のチャンバー内を、約1×10
−4Paの圧力となるまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でスパッタし、基板2の陰極3上に膜厚約7nmの酸化亜鉛層(金属酸化物層4)を作製した。なお、酸化亜鉛層を作製する際には、電極取り出しのために、ITO電極(陰極3)上の一部に酸化亜鉛が成膜されないようにした。金属酸化物層4を成膜した基板2に、大気下で400℃、1時間のアニールを行った。
【0081】
[工程3]
次に、自己組織化単分子膜層5の材料としてチオフェノールを用いて、金属酸化物層4上に、以下に示す方法により、自己組織化単分子膜層5を形成した。
チオフェノールをエタノールで希釈して得た20×10
−3(mol/L)のエタノール溶液中に、金属酸化物層4までの各層の形成された基板2を10分間浸漬させて塗布した後、取り出した。
【0082】
次に、チオフェノールのエタノール溶液を塗布した金属酸化物層4上を、エタノールを用いてリンスし、エアブローを用いて乾燥させた。
以上の工程により、金属酸化物層4と自己組織化単分子膜層5とからなる電子注入層20を形成した。
次に、電子注入層20までの各層が形成された基板2上に、以下に示す方法により、電子輸送層10を形成した。まず、2,7−ビス(3−ジベンゾボロリル−4−ピリジルフェニル)−9,9’−スピロフルオレン誘導体を、1重量%となるようにシクロペンタノンに溶解し、シクロペンタノン溶液とした。その後、シクロペンタノン溶液を電子注入層20までの各層が形成された基板2上に、MIKASA社製スピンコーターを用いて、回転数3000RPMで90秒間スピンコート法により途布し、窒素下で125℃、1時間のアニールを行った。
【0083】
[工程4]
次に、電子輸送層10までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、下記一般式(1)で示されるビス[2−(2−ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)
2)と、下記一般式(2)で示されるトリス[1−フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)
3)と、下記一般式(3)で示されるN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)と、下記一般式(4)で示されるN4,N4’−ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン−4−イル)−N4,N4’−ジフェニルビフェニルー4,4’−ジアミン(DBTPB)と、下記一般式(5)で示される1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン−2,3,6,7,10,11−ヘキサカルボニトリル(HAT−CN)と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。
【0084】
【化1】
【0085】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10
−5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、電子輸送層10上に、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9を連続して形成した。
【0086】
まず、Zn(BTZ)
2をホスト、Ir(piq)
3をドーパントとして20nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)
3が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。次に、発光層6まで形成した基板2上に、DBTPBを10nm、α−NPDを30nmこの順で成膜し、正孔輸送層7を形成した。さらに、HAT−CNを10nm成膜し、正孔注入層8を形成した。次に、正孔注入層8まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極9を成膜した。
【0087】
なお、陽極9は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm
2とした。
【0088】
[工程5]
次に、陽極9までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0089】
「比較例1」
自己組織化単分子膜層5を形成しないこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を得た。
【0090】
このようにして得られた実施例1および比較例1の有機EL素子について、以下に示すように特性を調べた。
各有機EL素子に対してケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS−100」を用いて輝度を測定し、印加した電圧と輝度の関係を調べた。その結果を
図2に示す。
【0091】
また、各有機EL素子について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を
図3に示す。
また、各有機EL素子について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」及びコニカミノルタ社製の「LS−100」を用いて電流密度と外部量子効率との関係を調べた。その結果を
図4に示す。
【0092】
また、各有機EL素子について、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」及びコニカミノルタ社製の「CS−1000」を用いて波長と吸光度との関係を調べた。その結果を
図5に示す。
また、各有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加して、フォトダイオードを用いて初期輝度が1000cd/m
2となるように電圧を調整した。その後、電圧および輝度を測定しながら連続駆動し、経過時間に対する電圧と輝度の変化を調べた。その結果を
図6に示す。
【0093】
図2に示すように、自己組織化単分子膜層5を有する実施例1では、自己組織化単分子膜層5のない比較例1と比較して、印加電圧が同じである場合に高い輝度が得られており、駆動電圧が低かった。
図3に示すように、実施例1では、比較例1と比較して、立ち上がり電圧が低かった。
図4に示すように、実施例1では、比較例1と比較して、電流密度が同じである場合に高い外部量子効率が得られており、発光効率が高かった。
図5に示すように、実施例1と比較例1とにおいて、発光の色味に差は見られなかった。
図6に示すように、実施例1では、比較例1と比較して1V程度低い電圧で同程度の輝度が得られた。また、実施例1と比較例1とにおいて、寿命(耐久性)の差は見られなかった。
【0094】
「実施例2」
以下に示す方法により、
図1Bに示す有機EL素子11を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、上面にAgからなる幅3mmにパターニングされた鏡面反射性を有する金属電極(陰極3)が設けられた平均厚さ0.7mmのガラス基板を用意した。陰極3(Ag)の厚みは60nmとした。
【0095】
[工程2]
次に、自己組織化単分子膜層5の材料としてチオフェノールを用いて、以下に示すように、気相法により基板2の陰極3上に、自己組織化単分子膜層5を形成した。
少量のチオフェノールを滴下したシャーレ内に、上記の鏡面反射性を有する金属電極(陰極3)が設けられた基板2を設置して密閉し、30分間放置してから取り出した。
【0096】
[工程3]
次に、自己組織化単分子膜層5が形成された基板2の自己組織化単分子膜層5上に、実施例1と同様にして、電子輸送層10を形成した。
【0097】
[工程4]
次に、電子輸送層10までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、一般式(1)で示されるZn(BTZ)
2と、一般式(2)で示されるIr(piq)
3と、一般式(3)で示されるα−NPDと、一般式(4)で示されるDBTPBと、一般式(5)で示されるHAT−CNと、酸化モリブデンとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。
そして、実施例1と同様にして、電子輸送層10上に、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8を連続して形成した。
【0098】
まず、Zn(BTZ)
2をホスト、Ir(piq)
3をドーパントとして25nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、実施例1と同様にドープ濃度は、Ir(piq)
3が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。次に、発光層6まで形成した基板2上に、DBTPBを10nm、α−NPDを35nmこの順で成膜し、正孔輸送層7を形成した。さらに、HAT−CNを10nm、酸化モリブデンを15nmこの順で成膜し、正孔注入層8を形成した。
【0099】
[工程5]
次に、正孔注入層8まで形成した基板2上に、スパッタ法により、陽極9として透過性電極である厚み30nmのITO電極を成膜した。陽極9は、ステンレス製のシャドウマスクを用いて幅3mmの帯状となるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm
2とした。
【0100】
[工程6]
次に、陽極9までの各層を形成した基板2を、実施例1と同様にして封止し、実施例2のトップエミッション型の有機EL素子を得た。
【0101】
「比較例2」
自己組織化単分子膜層5を形成しないこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の有機EL素子を得た。
【0102】
このようにして得られた実施例2および比較例2の有機EL素子について、実施例1および比較例1と同様にして、電圧と輝度の関係を調べた。その結果を
図7に示す。
また、実施例2および比較例2の有機EL素子について、実施例1および比較例1と同様にして、電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を
図8に示す。
【0103】
図7に示すように、自己組織化単分子膜層5を有する実施例2では、自己組織化単分子膜層5のない比較例2と比較して、印加電圧が同じである場合に高い輝度が得られており、駆動電圧が低かった。
図8に示すように、実施例2では、比較例2と比較して、低い立ち上がり電圧で駆動できた。