(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863796
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】炒め調理用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20210412BHJP
A23L 7/10 20160101ALN20210412BHJP
A23L 19/00 20160101ALN20210412BHJP
【FI】
A23D9/00 506
!A23L7/10 Z
!A23L19/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-66645(P2017-66645)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-166444(P2018-166444A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】関屋 佳明
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/028483(WO,A1)
【文献】
特開2017−029081(JP,A)
【文献】
特開2015−186446(JP,A)
【文献】
特開平04−011838(JP,A)
【文献】
特開2017−029044(JP,A)
【文献】
特開2013−255484(JP,A)
【文献】
特開2007−236206(JP,A)
【文献】
特開平03−041194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭油をベース油とする炒め調理用油脂組成物であって、焙煎菜種油を0.5〜17質量%、及び焙煎ごま油を0.5〜5質量%含有することを特徴とする炒め調理用油脂組成物。
【請求項2】
前記焙煎菜種油及び焙煎ごま油は、脱臭処理を行っていないものである、請求項1に記載の炒め調理用油脂組成物。
【請求項3】
前記脱臭油は精製菜種油及び/又は精製大豆油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炒め調理用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の油脂組成物を使用する炒め料理の調理方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の油脂組成物を使用して得られる炒め料理。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炒め調理用の油脂組成物に関するものであり、特に、脱臭油をベース油として特定量の焙煎菜種油を含有する炒め調理用の油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、炒め調理を行う際には、素材に熱を効率よく伝達すると共に、加熱による調理器具への食品素材や調味料の焦げ付き等を防止し、食品にコク味を付与する等の目的で食用油脂が利用されている。食用油脂のうち、液状油としてはサラダ油等が使用されており、固形脂としては、パーム油、ラード等が使用されている。また、食品に香ばしい風味を付与するために、香味成分を含有させた香味油を利用した炒め調理もされている。
【0003】
近年では、単身者の自炊や惣菜専門店の普及によって、炒め料理も食事のたびに調理するだけでなく、大量に調理して、数回に分けて消費するケースが増えてきている。しかし、炒め料理は、冷めてしまうと炒め感やコク味が薄れてしまい、電子レンジ等で再加熱しても、それらの風味が戻らず、調理直後の風味を味わえないものがほとんどであった。
【0004】
炒め調理用の油脂として、特定量のレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び風味油脂を含有する調理用油脂組成物(特許文献1)や、HLBが4.7〜8の乳化剤を含有する澱粉系食材の炒め調理用の油脂組成物(特許文献2)等が報告されているが、冷えたものや再加熱したものでも、炒め感とコク味に優れる炒め料理が得られるような炒め調理用の油脂組成物に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−92987号公報
【特許文献2】特開2016−101138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、炒め調理直後の、炒め料理の炒め感とコク味に優れ、且つエグ味を感じず、さらに、該炒め料理が冷えたもの、又は再加熱したものでも炒め感とコク味に優れるものが得られる、炒め調理用の油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、脱臭油をベース油として特定量の焙煎菜種油を含有することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1)脱臭油をベース油とする炒め調理用油脂組成物であって、焙煎菜種油を0.5〜17質量%含有することを特徴とする炒め調理用油脂組成物。
(2)焙煎ごま油を0.5〜5質量%含有することを特徴とする(1)に記載の炒め調理用油脂組成物。
(3)前記脱臭油は精製菜種油及び/又は精製大豆油であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の炒め調理用油脂組成物。
(4)(1)から(3)のいずれか1つに記載の油脂組成物を使用する炒め料理の調理方法。
(5)(1)から(3)のいずれか1つに記載の油脂組成物を使用して得られる炒め料理。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、炒め調理直後の、炒め料理の炒め感とコク味に優れ、且つエグ味を感じず、さらに、該炒め料理が冷えたもの、又は再加熱したものでも炒め感とコク味に優れるものが得られる、炒め調理用の油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、下記の実施形態になんら限定されるものではない。
【0011】
〔ベース油〕
本発明におけるベース油とは、炒め調理用油脂組成物を構成する主要成分であり、脱臭された油脂(以下、脱臭油とも言う。)を指す。前記脱臭油は、脱臭工程を経た食用油脂であれば特に限定されないが、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、小麦はい芽油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、菜種油、米油、落花生油、フラックス油、エゴマ油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油などの植物油脂、これら2種以上を混合した調合油、または、これらを分別した分別油、これらの水素添加油、エステル交換油等のほか、中鎖脂肪酸トリグリセリドのような直接エステル化反応により製造された食用油脂等が使用できる。本発明に使用するベース油としては、脱臭工程を経た、精製菜種油及び/又は精製大豆油を使用することが好ましい。
【0012】
前記脱臭工程とは、通常の食用油脂の精製工程で行われる脱臭であれば、特に限定されないが、例えば、減圧水蒸気蒸留を、120〜260℃で30〜180分間行うことにより食用油脂を脱臭することができる。
また、本発明に使用するベース油は、必要に応じて、公知の方法で脱ガム、脱酸、乾燥等の処理を行うこともできる。
【0013】
本発明の炒め調理用油脂組成物中の前記ベース油の含有量は、好ましくは60〜99質量%であり、より好ましくは70〜97質量%であり、さらにより好ましくは80〜96質量%であり、最も好ましくは85〜95質量%である。ベース油の含有量が前記の範囲にあると、焙煎菜種油による風味をより引き立たせることができる。
【0014】
〔焙煎菜種油〕
本発明における焙煎菜種油とは、菜種種子を焙煎し、圧搾により搾油したものであり、脱臭処理を行っていないものである。
具体的には、原料である菜種種子を焙煎温度(品温)220〜300℃で焙煎する工程を経て得られる。焙煎温度の下限値は、225℃以上であることが好ましく、230℃以上であることがより好ましい。一方、焙煎温度の上限値は、280℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、255℃以下であることが最も好ましい。
【0015】
焙煎時間は、焙煎温度、焙煎処理量、焙煎処理機等によって異なるが、上記焙煎温度にて1〜30分間程度行うことが好ましく、3〜25分程度行うことがより好ましく、5〜20分程度行うことがさらに好ましい。温度上昇の方法は、特に限定されるものではないが、一定の上昇率(例えば、10〜20℃上昇/分)で徐々に温度上昇することが好ましい。
【0016】
焙煎方法は特に限定されないが、例えば、外部より過加熱水蒸気、電熱、熱風、バーナー、マイクロ波などを介して菜種種子を加熱することにより行うことができる。また、使用する焙煎機は特に限定されないが、例えば、回転流動床式、回転ドラム式、ロータリーキルン式などを使用することができる。
【0017】
焙煎処理された菜種種子は、圧搾機にて機械的に圧搾され、油分が搾り取られる。油分をろ過することで焙煎菜種油(圧搾粗油)が得られる。圧搾機は、特に型式は問わないが、例えば円筒状に形成されたケーシングとその内部に回転自在に設けられたスクリューよりなるエキスペラー式圧搾機を好適に利用することができる。回転数や処理量は適宜調整することができる。
【0018】
本発明における焙煎菜種油は、必要に応じて搾油後、公知の方法で水脱ガム、脱酸、乾燥等の処理を行うこともできる。特に水脱ガムにより、リン分を2ppm以下にしたものが好ましい。
【0019】
本発明の炒め調理用油脂組成物中の前記焙煎菜種油の含有量は0.5〜17質量%であり、好ましくは0.7〜12質量%であり、より好ましくは1〜7質量%であり、最も好ましくは1.6〜3質量%である。焙煎菜種油の含有量が前記の範囲にあると、炒め料理は、炒め調理直後、冷めた後、及び再加熱したものでも炒め感とコク味に優れる。
【0020】
〔焙煎ごま油〕
本発明における焙煎ごま油とは、ごまを焙煎し、圧搾により搾油したものであり、脱臭処理を行っていないものである。焙煎時間、焙煎方法、及び圧搾方法については、前述の焙煎菜種油の場合と同様である。また、本発明における焙煎ごま油は、必要に応じて搾油後、公知の方法で水脱ガム、脱酸、乾燥等の処理を行うこともできる。
【0021】
本発明の炒め調理用油脂組成物中の前記焙煎ごま油の含有量は、好ましくは0.5〜5質量%であり、より好ましくは0.7〜4質量%であり、さらにより好ましくは0.8〜2質量%であり、最も好ましくは1.0〜1.5質量%である。焙煎ごま油の含有量が前記の範囲にあると、炒め料理は、炒め調理直後、冷めた後、及び再加熱したものでもコク味に優れる。
【0022】
〔その他の原料〕
本発明の炒め調理用油脂組成物は、本発明の効果を奏する限りにおいて、前記脱臭油、前記焙煎菜種油、及び前記焙煎ごま油以外の油脂、酸化防止剤、乳化剤、並びに消泡剤を配合することもできる。前記乳化剤を配合する場合、本発明の炒め調理用油脂組成物中の前記乳化剤の含有量は、0.5〜3.5質量%が好ましい。
【0023】
(用途)
本発明の炒め調理用油脂組成物は、野菜などの具材を炒める際に使用する調理用油脂組成物であり、例えば、加熱したフライパンに該調理用油脂組成物をひいて、野菜などの具材を一定時間加熱することで、炒め調理をするために使用される調理用油脂組成物である。
なお、本発明における炒め料理とは、本発明の炒め調理用油脂組成物を使用して炒め調理することで得られる料理であり、例えば、焼きそば、チンジャオロース、ホイコウロウ、八宝菜、チャーハン等の中華料理、スパゲティ、一般的な肉類、野菜類、魚介類の炒め物、ソテー、焼肉等、その他これらに類する料理が挙げられる。
【0024】
本発明の炒め調理用油脂組成物は、炒め調理をする際に、通常の炒め調理で使用する炒め油と同様の量を使用することができ、具材の種類や量によって使用量を適宜変更できる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔焙煎菜種油の製造〕
菜種種子を、菜種種子の品温が130〜200℃の範囲で約5分間、焙煎を行い、圧搾により搾油した。搾油後、水脱ガム、乾燥、ろ過を行い、リン分が2ppmの未脱臭の焙煎菜種油を得た。
【0026】
〔焙煎ごま油の製造〕
ごまを、ごまの品温が130〜200℃の範囲で約2分間、焙煎を行い、圧搾により搾油した。搾油後、室温にて1週間静置し、沈殿物を分離した。さらに室温にて1週間静置し、沈殿物を分離して未脱臭の焙煎ごま油を得た。
【0027】
〔焙煎大豆油の製造〕
大豆を、大豆の品温が130〜220℃の範囲で約10分間、焙煎を行い、圧搾により搾油した。搾油後、約1日静置し、ろ過を行い、未脱臭の焙煎大豆油を得た。
【0028】
〔炒め調理用油脂組成物の調製〕
表1〜3の配合に従い、各原料を均一に混合して炒め調理用の油脂組成物を調製した。なお、脱臭油−1及び2は下記の原料を使用した。
脱臭油−1(精製菜種油):商品名 日清菜種白絞油、日清オイリオグループ(株)製
脱臭油−2(精製大豆油):商品名 日清大豆サラダ油、日清オイリオグループ(株)製
【0029】
〔野菜炒めの評価〕
調製した各種の炒め調理用油脂組成物を使用して、野菜炒めを調理し、官能評価を行った。
(野菜炒めの調理)
フライパンに炒め調理用油脂組成物15gを入れ強火で60秒間加熱する。次に、ざく切りにしたキャベツ150g、もやし100g、薄切りにしたニンジン50gをフライパンに入れ、60秒間炒める。次に、塩2g、胡椒0.2gを加え強火で30秒間撹拌しながら加熱し、野菜炒めを得た。
【0030】
野菜炒めの官能評価は、5名の専門パネラーが各状態の野菜炒めを食して、下記の評価基準で評価した。評価は専門パネラーの総意である。評価結果を表1〜3に示す。
(調理直後の炒め感の評価)
◎:○よりも炒め感に優れる
○:対照例よりも炒め感に優れる
×:対照例と同等の炒め感、又は対照例よりも炒め感が劣る
(調理直後のコク味の評価)
◎:○よりもコク味に優れる
○:対照例よりもコク味に優れる
×:対照例と同等のコク味、又は対照例よりもコク味が劣る
(調理直後のエグ味の評価)
◎:エグ味を感じない
○:若干エグ味を感じるが、問題ない程度である
×:エグ味を感じる
【0031】
調理後、3時間室温で放冷した野菜炒め(対照例も含む)について評価した。
(放冷後の炒め感の評価)
◎:○よりも炒め感に優れる
○:対照例よりも炒め感に優れる
×:対照例と同等の炒め感、又は対照例よりも炒め感が劣る
(放冷後のコク味の評価)
◎:○よりもコク味に優れる
○:対照例よりもコク味に優れる
×:対照例と同等のコク味、又は対照例よりもコク味が劣る
【0032】
調理後、3時間室温で放冷し、さらに電子レンジで再加熱(600W、1.5分間)した野菜炒め(対照例も含む)について評価した。
(再加熱後の炒め感の評価)
◎:○よりも炒め感に優れる
○:対照例よりも炒め感に優れる
×:対照例と同等の炒め感、又は対照例よりも炒め感が劣る
(再加熱後のコク味の評価)
◎:○よりもコク味に優れる
○:対照例よりもコク味に優れる
×:対照例と同等のコク味、又は対照例よりもコク味が劣る
【0033】
〔チャーハンの評価〕
調製した各種の炒め調理用油脂組成物を使用して、チャーハンを調理し、官能評価を行った。
(チャーハンの調理)
フライパンに炒め調理用油脂組成物14gを入れ、強火で60秒間加熱する。次に、溶き卵40gを加え30秒間撹拌しながら加熱し、さらに、長ネギみじん切り3g、チャーシューみじん切り10gを加え30秒間撹拌しながら加熱する。次に、塩2g、胡椒0.15g、うまみ調味料0.4g、醤油3mLを加え30秒間撹拌しながら加熱する。火を止めて、あたためた白飯200gをほぐしながら加え均一に混ぜてチャーハンを得た。
【0034】
チャーハンの官能評価は、上記の野菜炒めの官能評価と同様の評価を行った。5名の専門パネラーが各状態のチャーハンを食して、野菜炒めの官能評価と同様に評価した。評価は専門パネラーの総意である。評価結果を表1〜3に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
脱臭油(ベース油)に焙煎菜種油を0.5〜15質量%含有する炒め調理用油脂組成物(実施例1〜9)は、野菜炒め、及びチャーハンの評価で、調理直後の、炒め感とコク味に優れ、且つエグ味を感じず、さらに、該炒め料理が冷えたもの、又は再加熱したものでも炒め感とコク味に優れるものであった。特に、精製菜種油(ベース油)に特定量の焙煎菜種油と焙煎ごま油とを含む実施例4の炒め調理用油脂組成物は、最も優れた評価結果であった。