(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品、なかでもクッキーやケーキなどの焼菓子のしとり感を改良する方法としては、水分含量の高い焼菓子生地とするか、焼成時の水分の消失を抑制する目的で糖類、あるいはゲル化剤や増粘多糖類やゼラチンを配合する方法が採られる。
【0003】
しかし、ただ水分含量を増やしただけではべたついた食感の焼菓子になってしまうことからクッキーのようなさっくり感を大切にする菓子には不適当である。またケーキであってもべとついた食感になってしまう問題、さらに焼成時間が伸びてしまうことから局所的に水分含量が低くなった焼菓子になってしまったり、焦げを生じてしまうなどの問題がある。
糖類を増やす方法では、糖分が糊化を抑制することに加え、火抜けが悪いため焼成時間を長くとる必要があり、そのため生地表面部分の水分が飛びすぎて硬い食感となってしまったり、焦げを生じてしまう問題などがあった。
ゲル化剤や増粘多糖類やゼラチンを配合する方法では、上記のような極端な食感の変化は起きないものの、ねちゃついた、歯切れの悪い食感となってしまうこともあった。
そしてやはり配合成分による食感改良方法では生地物性も変わってしまう。このため焼き上がりの形状にも変化がでてしまい、焼流れして潰れた形状となってしまったり、反対に一部分が盛り上がった形状になってしまったりして、均質な安定した形状の製品が得られなくなってしまうという問題もあった。
【0004】
一方、ブランデーケーキやバターケーキでよく行われるように、焼成後にシロップ液を含浸させる方法もあるが、製造工程が煩雑になり、また焼菓子内部まで均質に含浸させるのが難しく、さらには焼菓子表面がべたついてしまうという問題があった。
【0005】
このような焼菓子の問題を解決する方法として、特殊な増粘安定剤を使用する方法(たとえば特許文献1参照)、特定の水分含量且つ特定の水分活性に調整する方法(たとえば特許文献2参照)、特定の水中油型乳化物を使用する方法(たとえば特許文献3参照)、特定の食物繊維を使用する方法(たとえば特許文献4、5,6参照)などが考案されたが、これらの方法では焼菓子の表面部分が水分含量が高くなってしまい、とくにクッキーではべたついた食感になってしまいやすかった。
一方、焼菓子生地の内部に水分含量の高い焼菓子生地やフィリング材を包餡して焼成することで、内部からの水分移行により、焼菓子をしっとりさせる方法(たとえば特許文献7参照)や、あるいはいったんバッターを焼成した焼菓子を得てこれを粉砕し、ショートペースト中に分散させた後再焼成してなる焼菓子や、いったんショートペーストを焼成した焼菓子を得てこれを粉砕し、バッター中に分散させた後再焼成してなる焼菓子など、生地中の水分を偏在させることで、生地全体の水分含量を調整し、流動性を防止しつつ火抜けの向上を図る方法(たとえば特許文献8参照)についても提案されている。
【0006】
しかし、これらの方法では、焼成時間が極めて長くなってしまう問題や、火どおりが悪いため水分活性の高いベーカリー製品となってしまい、とくに焼菓子では保存性が悪いという問題、また、水分移行の時間が長くかかるため、外包材部分の食感がソフトでしっとりしたものとなるまでの時間が長くかかってしまうという問題、さらには経日的に水分含量が高まり続けるため、長期保管時にはべたついた食感になってしまうなど、安定した食感が得られない問題があった。
【0007】
ここで、水分含量の高いフィリング材として、ジャムがある。
ジャムはその水分含量の高さゆえ、賞味期限が短くなってしまうことに加え、ベーカリー生地に包餡して焼成すると突沸しやすく、さらには焼残り耐性も低いため、グルテンのつながりの少ないケーキ生地やクッキー生地で包餡した場合はパンクしたり、焼成品の形状が不安定になってしまう。そのためパン生地への包餡によりジャムパンとすることは行われるが、焼菓子のフィリングとして使用されることはほとんど行われない。
【0008】
そのため焼菓子に使用する際は、増粘安定剤を多く含有するジャムを使用するか(たとえば特許文献9、10参照)、さらには、スポンジケーキやパンクラムに果汁やジャムを浸みこませたフィリング材を使用する方法(たとえば特許文献11参照)なども考案された。しかしこれらの方法ではジャムの食感が失われてしまうという問題があった。
【0009】
一方、ジャムの改良の一方向としてスプレッド性の改良の目的で、ジャムに油脂を配合することがある。過去には高カロリーのジャムとして油脂を16質量%混合したジャム(たとえば特許文献12参照)や、溶解したマーガリンをジャムに混合した油脂33〜50質量%のスプレッド用ジャム(たとえば特許文献13参照)などが提案されている。
【0010】
また、最近ではジャムとバターのフィリング材としての融合の流れから、「ジャムバター」という新しいジャンルのフィリング材が見られるようになってきている。とくにリンゴジャムとバターの等量混合品は「りんごバター」として食パンへのスプレッド用途などに使われることが増えている。
【0011】
しかし、これらのジャム加工品は上記のようにスプレッド用であることから水分含量が高く、包餡焼成用に適したものではなく、とくに焼菓子の包餡焼成用として使用することはなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、まず、本発明の包餡焼成用ジャム類について述べる。
本発明におけるジャム類とは、JAS法品質表示基準の「果実、野菜又は花弁を糖類等と共にゼリー化するようになるまで加熱したもの、またはそれらに果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの」に限定されず、果実、野菜又は花弁については、濃縮果汁や抽出液、しぼり汁等を用いたものであってもよく、また、ゼリー状の他、固形状であったり、フルーツソースのような流動状のものであってもよい。
また、果実、野菜又は花弁の原形がほとんど残らない形態であっても、また、その形状が残る、いわゆるプレザーブタイプであってもよい。
【0021】
上記果実、野菜又は花弁としては、例えば、バレンシアオレンジ、ネーブル、ブラッドオレンジ、グレープフルーツ、レモン、ゆず、シークワーサー、ライム、カボス、日向夏、すだち、スウィーティ―、へべス、温州みかん、ぽんかん、たんかん、八朔、甘夏、夏みかん、ばんぺいゆ、河内晩柑、ざぼん、文旦、金柑、たまたま、ベルガモット、まりひめ、橘、いよかん、清見、不知火、セミノール、ミネオラ、せとか、はるみ、マーコット、メロン、ドラゴンフルーツ、スターフルーツ、パッションフルーツ、ざくろ、パイナップル、イチジク、アプリコット、チェリー、ブドウ、ラズベリー、ストロベリー、ブルーベリー、クランベリー、アサイー、ハスカップ、プラム、プルーン、りんご、桃、ネクタリン、梨(和梨)、梅、栗、アンズ、柿、カリン、すいか、洋梨、アセロラ、キウィーフルーツ、グァバ、ココナッツ、マンゴー、マンゴスチン、バナナ、パパイア、ドリアン、ライチ、びわ、せろり、キュウイ、ケール、大麦、パセリ、ニンジン、クワの葉、アロエ、アスパラガス、ネギ、タマネギ、ホウレン草、ニガウリ、胡瓜、冬瓜、シソ、シュンギク、レタス、ニワトコ、ハコベ、ヨモギ、ショウガ、トマト、ピーマン、トウガラシ、キャベツ、ブロコッリー、カブ、白菜、芽キャベツ、大根、大根の葉、カリフラワー、クレソン、センブリ、大豆、グリーンピース、そら豆、明日葉、茶葉、紅茶葉、バラの花、ラベンダーの花などが挙げられる。
中でも焼成後に透明感があり、且つ、焼残り性の高いジャム類が得られることから、バレンシアオレンジ、ネーブル、ブラッドオレンジ、グレープフルーツ、レモン、ゆず、シークワーサー、ライム、カボス、日向夏、すだち、スウィーティ―、へべス、温州みかん、ぽんかん、たんかん、八朔、甘夏、夏みかん、ばんぺいゆ、河内晩柑、ざぼん、文旦、金柑、たまたま、ベルガモット、まりひめ、橘、いよかん、清見、不知火、セミノール、ミネオラ、せとか、はるみ、マーコット、メロン、ドラゴンフルーツ、スターフルーツ、パッションフルーツ、ざくろ、パイナップル、イチジク、アプリコット、チェリー、ブドウ、ラズベリー、ストロベリー、ブルーベリー、クランベリー、アサイー、ハスカップ、プラム、プルーン、りんご、桃、ネクタリン、梨(和梨)、梅、栗、アンズ、柿、カリン、すいか、洋梨、アセロラ、キウィーフルーツ、グァバ、ココナッツ、マンゴー、マンゴスチン、バナナ、パパイア、ドリアン、ライチ、びわのうちの1種又は2種以上であることが好ましく、果皮や種がなくとも良好な風味と食感が得られ、適度の酸味を有する点でパイナップル、アプリコット、チェリー、ブドウ、りんご、桃、ネクタリン、アンズ、マンゴーのうちの1種又は2種以上であることが特に好ましい。
【0022】
本発明におけるジャム類のブリックス値は60%超であることが本発明の効果が顕著に顕れる点、保存性が良好である点、焼成時のパンク防止、さらには焼菓子の場合、保管時に焼菓子部分の軟化の抑制の点から好ましく、特に好ましくは65%以上である。
なお本発明におけるブリックス(Brix)値とは、糖用屈折計示度を用いて測定される値であり、いわゆる可溶性固形分濃度のことである。
【0023】
本発明におけるジャム類で使用する糖類としてはとくに制限されず、上白糖、グラニュー糖、粉糖をはじめ、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖、還元パラチノース、ソルビトール、乳糖、還元乳糖、L-アラビノース、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノース、パラチノースオリゴ糖等の糖類や糖アルコール等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。また、蜂蜜やカエデ糖などの天然の甘味料成分をも広く使用することができる。
【0024】
本発明のジャム類は、油脂含量が2〜20質量%、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは5〜12質量%である。油脂を含有することで、まず焼成時の油分移行によりベーカリー生地部分にしとりを付与すると同時にジャム類が透明化し、更に、焼成後の油分移行によりベーカリー生地部分にさらにしとりを付与することができる。
2質量%未満であると本発明の効果が得られず、20質量%を超えると油分分離が発生したり、得られるベーカリー製品に油性感が感じられる問題、さらには、焼成後のジャム類が透明感がなく濁った感じになってしまうという問題が発生する。
【0025】
本発明で使用する油脂としては食用油脂であればとくに制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、バターオイル等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明では、上記の油脂の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
また、上記油脂は、例えば、ショートニング・マーガリン・バター等の可塑性油脂組成物や、サラダ油・流動ショートニング・溶かしバター等の流動状油脂組成物、また、粉末油脂等の形態であってもよく、油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び油中水中油型や水中油中水型などの二重乳化型の何れでも構わないが油中水型又は油中水中油型であることが好ましい。
ただし、油脂組成物が乳化物である場合、その水分含有量は、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは20質量%以下である。
【0026】
本発明でジャム類に含有させる油脂としては、少量の添加量で上記しとり感の効果が出やすい点、包餡作業時のべとつきが抑えられる点で作業性が良好である点で、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFC(固体脂含量)が、25℃における基準SFCの80%以下、好ましくは75%以下である油脂であることが好ましい。「油脂が60℃で融解後」とは「油脂が60℃で完全融解した後」を指す。
尚、本発明において、25℃における基準SFCとは、油脂を60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(固体脂含量)をいう。
油脂の入手しやすさやジャム類への混合のしやすさ、及び口溶けの点から、本発明におけるジャム類に含まれる油脂の基準SFCは、7〜40%であることが好ましく、
7〜30%であることがより好ましい。また、本発明におけるジャム類に含まれる油脂の60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは、5〜30%であることが好ましく、5〜25%であることがより好ましい。
【0027】
上記のような油脂は、上記条件を満たすように、食用油脂、及び/又は油溶性原料を混合、溶解することによって得ることができる。
具体的には、食用油脂に対して結晶化調整剤を添加する方法、及び/又は相溶性の低い食用油脂を組み合わせて配合した混合油脂を使用する方法によって得ることができる。
先ず、食用油脂に対して結晶化調整剤を添加する方法(以下、第1の方法という)について述べる。
上記食用油脂としては、上述の食用油脂を特に限定されず使用することができる。
【0028】
ここで、上記結晶化調整剤とは、食用油脂に少量添加することで食用油脂の結晶性を遅延させる効果を有する添加物であり、その例としては、HLBが7以上、好ましくはHLBが10以上であるシュガーエステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステル、エタノール、グリセリン、ジグリセリド、植物ステロール脂肪酸エステル等が挙げられる。
上記食用油脂に対する上記結晶化調整剤の添加量は、食用油脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは1〜8質量部、更に好ましくは2〜5質量%である。
【0029】
次に、相溶性の低い食用油脂を組み合わせて配合した混合油脂を使用する方法(以下、第2の方法という)について述べる。
ここで、相溶性の低い食用油脂の組み合わせ方としては、例えば以下の(1)〜(3)の組み合わせが挙げられる。
(1)パーム系油脂と、ラウリン系油脂
(2)パーム系油脂と、豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂
(3)パーム系油脂と、ランダムエステル交換油脂
【0030】
先ず(1)のパーム系油脂と、ラウリン系油脂の組み合わせた場合の詳細について述べる。
上記のパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油を挙げることができる。
上記のパーム分別油としては、例えばパームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パーム中融点部等を用いることができる。
パーム油を分別する方法には特に制限はなく、溶剤分別、乾式分別、乳化分別の何れの方法を用いてもよい。本発明では上記のパーム系油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。パーム系油脂はランダム交換油脂を除くものとする。
【0031】
ただし、パームステアリンについては融点が高く、本発明の効果が低いため、混合油脂中に10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以下とする。
【0032】
また、上記のパーム系油脂としては、ジャムへの練り込み適性の観点から、ヨウ素価が30〜70であるものが好ましく、ヨウ素価が30〜65であるものが更に好ましく、ヨウ素価が30〜54であるものが最も好ましい。
【0033】
一方、上記のラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、ババス油等のラウリン酸を多量に含む油脂や、これらを分別して得られた分別油や水素添加油を挙げることができ、これらのラウリン系油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
本発明ではラウリン系油脂として、ヤシ油及び/又はパーム核油を用いることが好ましい。
上記(1)の組み合わせにおいて、混合油脂中のパーム系油脂の含有量は好ましくは40〜85質量%、更に好ましくは48〜85質量%、最も好ましくは51〜80質量%である。
また、混合油脂中のラウリン系油脂の含有量は好ましくは4〜30質量%、更に好ましくは8〜30質量%、最も好ましくは8〜20質量%である。
【0035】
またパーム系油脂とラウリン系油脂の含有量は、混合油脂中のSMSで表されるトリグリセリド(1,3位がS、2位がMであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)の含有量が、混合油脂中で好ましくは10〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%、更に好ましくは12〜19質量%となる量であり、且つ、構成脂肪酸組成においてラウリン酸が好ましくは2〜12質量%、より好ましくは4〜12質量%、更に好ましくは4〜10質量%となる量である。
尚、混合油脂中のSMSで表されるトリグリセリドの含有量と構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量の質量比率は、該SMSで表されるトリグリセリドの含有量を1としたときに、該ラウリン酸の含有量が好ましくは0.2〜1.2、更に好ましくは0.3〜1.0、最も好ましくは0.3〜0.5とする。
【0036】
次に(2)のパーム系油脂と、豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂の組み合わせの場合の詳細について述べる。
上記のパーム系油脂としては、上記(1)の組み合わせで説明したパーム系油脂を使用することができる。
上記の豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂としては、具体的には豚脂、牛脂並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を挙げることができる。
本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では特に豚脂を用いることが好ましい。
【0037】
上記(2)の組み合わせにおいて、混合油脂中のパーム系油脂の含有量は好ましくは12〜80質量%、更に好ましくは15〜60質量%、最も好ましくは15〜49質量%である。
また、豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂の含有量は好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは40〜80質量%、最も好ましくは51〜80質量%である。
【0038】
またパーム系油脂と、豚脂系油脂及び/又は牛脂系油脂の含有量は、混合油脂中のSMSで表されるトリグリセリド(1,3位がS、2位がMであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)の含有量が、混合油脂中で好ましくは10〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは10〜20質量%となる量であり、且つ、MSMで表されるトリグリセリド(1,3位がM、2位がSであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)の含有量が、混合油脂中で好ましくは10〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは10〜20質量%となる量である。
【0039】
次に(3)のパーム系油脂と、ランダムエステル交換油脂の組み合わせの場合の詳細について述べる。
上記のパーム系油脂としては、上記(1)の組み合わせで説明したパーム系油脂を使用することができる。
【0040】
上記のランダムエステル交換油脂としては、具体的にはパーム油、パーム核油、ヤシ油、ハバス油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、ハイエルシン菜種油、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、並びにこれらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、及び脂肪酸低級アルコールエステルから選択される1種又は2種以上を用いて製造したランダムエステル交換油脂を使用することができる。
【0041】
上記(3)の組み合わせにおいて、混合油脂中のパーム系油脂の含有量は好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%、最も好ましくは40〜60質量%である。
また混合油脂中のランダムエステル交換油脂の含有量は好ましくは25〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%、更に好ましくは40〜60質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。
【0042】
本発明では上記ランダムエステル交換油脂として、上記ランダムエステル交換油脂の一部又は全部に、ヨウ素価52〜70、好ましくはヨウ素価55〜70、さらに好ましくはヨウ素価58〜70のパーム分別軟部油、又は該パーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したランダムエステル交換油脂を使用することが好ましい。
【0043】
上記油脂配合物に配合する、上記パーム分別軟部油以外の油脂としては大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂を用いることができ、更に、これらの食用油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油、又は該パーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したランダムエステル交換油脂の混合油脂中の含有量は、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜30質量%である。
【0045】
上記ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油、又は該パーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をランダムエステル交換したランダムエステル交換油脂に必要に応じ加配するその他のランダムエステル交換油脂としては、融点が36℃以下であるランダムエステル交換油脂が好ましく、より好ましくは融点が33℃以下であるランダムエステル交換油脂を使用する。
【0046】
上記その他のランダムエステル交換油脂の好ましい例としては、構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなるランダムエステル交換油脂が挙げられる。
【0047】
ここで、上記の構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなるエステル交換油脂について説明する。
【0048】
上記油脂配合物は、その構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂、及びその構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂を用いて、上記構成脂肪酸組成となるように配合することにより得ることができる。上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数14以下の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30〜100質量%、より好ましくは65〜100質量%である。また、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂において、炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量は、その構成脂肪酸中に好ましくは30〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
【0049】
上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、上記のラウリン系油脂を使用することができる。
【0050】
また、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えば、パーム油、大豆油、ナタネ油、ハイエルシンナタネ油、豚脂、牛脂、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油又はナタネ硬化油、さらに好ましくは、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油、ナタネ極度硬化油及びハイエルシンナタネ極度硬化油のうちの1種又は2種以上を使用する。
【0051】
上記油脂配合物において、上記の炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%、好ましくは40〜55質量%となるように配合される。
【0052】
また、上記油脂配合物において、上記の炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂は、上記油脂配合物の構成脂肪酸組成において、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%、好ましくは30〜45質量%となるように配合される。
【0053】
上記油脂配合物には、その構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量及び炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が上記の範囲であれば、その他の油脂を加えてもよい。その他の油脂としては、例えば、コーン油、米油、カカオバター、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなるランダムエステル交換油脂の混合油脂中の含有量は、好ましくは10〜
50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0055】
上記(3)の組み合わせにおいて、パーム系油脂と、ランダムエステル交換油の配合量は、混合油脂中のSMSで表されるトリグリセリド(1,3位がS、2位がMであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)含量が、油相基準で好ましくは15〜60質量%、より好ましくは20〜34質量%、更に好ましくは20〜30質量%となる量であり、且つ、MSMで表されるトリグリセリド(1,3位がM、2位がSであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)含量が、油相基準で好ましくは5質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下となる量であることが好ましい。混合油脂中のMSMで表されるトリグリセリドの含有量の下限としては、良好な結晶性の点から1%である。
【0056】
第2の方法において、(1)〜(3)の組み合わせに係る混合油脂は、極度硬化油脂を混合油脂中で0.3〜9質量%、好ましくは0.3〜7質量%、更に好ましくは0.3〜5質量%、最も好ましくは0.3〜3質量%含有することが好ましい。
上記の極度硬化油脂としては、ナタネ極度硬化油、ハイエルシンナタネ極度硬化油、大豆極度硬化油、パーム極度硬化油等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明ではハイエルシンナタネ極度硬化油、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油の中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
【0057】
第2の方法において、上記混合油脂は、必要に応じ、本発明の効果を妨げない範囲において、上記の(1)〜(3)にそれぞれに記載の油脂、及び、上記極度硬化油脂以外の「その他の油脂」を含有させることができる。
上記の「その他の油脂」としては、食用に適する油脂であればよく、その代表例としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油、ハイオレイックべに花油、ハイオレイックひまわり油、各種食用油脂の分別軟部油等の常温で液体の油脂や、乳脂等が挙げられるが特に限定されない。
【0058】
第2の方法において、(1)〜(3)の組み合わせに係る混合油脂は、混合油脂中で「その他の油脂」を好ましくは30質量%以下含有させることができる。尚、上記(2)及び(3)の組み合わせの場合は、「その他の油脂」の含有量を、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
なお本発明のジャム類に含まれる油脂は、油脂結晶が粗大化するような不安定な油脂である方が好ましいため、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。トランス酸を含有すると油脂は融点が低い場合であっても硬い物性になり、また、固化速度が速く、更には油脂結晶が微細化してしまう特徴があるためである。ここでいう「トランス酸を実質的に含有しない」とは、トランス酸含量が、ジャム類に含まれている油脂の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
【0060】
本発明のジャム類は、上記以外のその他の成分を含有することができる。
上記その他の成分としては、例えばゲル化剤や増粘安定剤、タンパク質、食物繊維、乳化剤、着色料、酸味料、香料、塩味剤、保存剤、水、酵素、高甘味度甘味料、アルコール、酒、リキュール、アミノ酸、カカオ製品、紅茶、抹茶、緑茶、コーヒー等の食品や食品添加物を挙げることができる。
【0061】
上記ゲル化剤及び増粘安定剤としては、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガムが挙げられる。本発明では、上記ゲル化剤や安定剤の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0062】
また上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、卵黄油、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、上記乳化剤の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0063】
本発明のジャム類の製造方法について述べる。
上記本発明のジャム類は、最終的な油脂含量が2〜20質量%となるように油脂を加える工程を含む以外は一般的なジャムの製法で得ることができる。
具体的には(1)ジャム類に対し、最終的な油脂含量が2〜20質量%となるように液状または溶解した油脂を添加及び混合する方法か、(2)ジャム原料に対し、最終的な油脂含量が2〜20質量%となるように油脂を配合し、炊き上げる方法のいずれかであることが好ましい。ここで(1)の方法において、油脂を固体状〜ペースト状のまま添加及び混合すると、本発明のジャム類の保管中に油分が分離しやすくなってしまう問題がある。
液状または溶解した油脂とは、室温(25℃)で液状である油脂、または、室温(25℃)で固形状若しくはペースト状等の半固形状であって、加温して液状に溶解させた油脂を指す。また、ここでいう(1)の方法において、ジャム類に油脂を配合した後、又は配合と同時に更にジャム類を加熱してもよく、加熱しなくてもよい。また(2)の方法におけるジャム原料としては、上記の果実、野菜又は花弁が挙げられ、更に糖類、並びに必要に応じて上記その他の成分が含まれていてもよい。上記の果実、野菜又は花弁としては、収穫後の果実、野菜又は花弁の植物体そのものであってもよく、或いは該植物体の缶詰品、レトルト品、乾燥品をはじめ、プレザーブ、果汁、濃縮果汁、抽出液、しぼり汁、あるいはそれらの凍結及び/又は加熱等の加工物であってもよい。(2)の「炊き上げる」処理の例としては、加熱等してジャムを仕上げる処理が挙げられる。(2)の炊き上げの際の加熱には、油脂の配合後に加熱する場合と、油脂の配合及び加熱を同時に行う場合の両方が含まれる。
【0064】
なお(2)の方法の場合では、油脂は液状である必要はないが、混合が容易である点で液状または溶解した油脂を添加することが好ましい。
【0065】
本発明では、上記のジャム類を包餡焼成用に使用することが特徴の一つである。
ここで包餡するためのベーカリー生地としては、例えば、餅生地、まんじゅう生地、乳菓生地などの和菓子生地や、クッキー生地、サブレ生地、ガレット生地、タルト生地、練りパイ生地、折パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等の焼菓子生地や、食パン生地、フランスパン生地、バラエティブレッド生地、ブリオッシュ生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地、マフィン生地、ピザ生地、スコーン生地、蒸しパン生地、ワッフル生地、イングリッシュマフィン生地、バンズ生地等のパン生地が挙げられるが、本発明では、本発明の効果が高い点で焼菓子生地であることが好ましく、とりわけ、水分含量の低い焼菓子生地である点でクッキー生地、サブレ生地、ガレット生地、タルト生地、練りパイ生地のうちのいずれかであることが特に好ましい。
なお、該ベーカリー生地の製造方法は、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができ、焼菓子生地であれば、オールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法、後粉法、別立法、後油法等、パン生地であれば中種法、ストレート法、湯種法、長時間冷蔵法等を適宜選択可能である。
【0066】
以下、本発明の包餡生地について詳述する。
本発明の包餡生地は、上記包餡焼成用ジャム類を上記ベーカリー生地で包餡したものである。
また、勿論、本発明の包餡生地は、ベーカリー生地及び/又は包餡焼成用ジャム類を2種以上使用する多重包餡生地であってもよい。
【0067】
ここで、本発明の包餡生地では、上記包餡焼成用ジャム類と上記ベーカリー生地の比率は、ベーカリー生地100質量部に対し、包餡焼成用ジャム類は10〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜150質量部である。10質量部未満であると、ソフトでしっとりしたベーカリー製品が得られないことがあり、200質量部を超えると包餡成形が困難なことに加え、焼成中に包餡焼成用ジャム類が突沸したり、漏れ出してきれいな外観のベーカリー製品が得られず、商品価値が著しく損なわれてしまうおそれがある。
【0068】
なお、包餡生地の形状は特に限定されず、棒状、球状、平板状、立方体状、直方体状など、好みの形状を選択可能である。
なお、包餡生地の質量は、とくに制限されないが、好ましくは1つ当たり2g〜200g、より好ましくは5g〜150gである。とくにクッキー生地、サブレ生地、ガレット生地、タルト生地、練りパイ生地を使用する場合は、好ましくは5g〜100g、さらに好ましくは10g〜60gである。
【0069】
包餡方法は特に限定されず、手包み成形や、各種の自動包餡機を使用した方法などを適宜選択使用することができる。
具体的には、例えばベーカリー生地を薄いシート状に成形したのち、中央部に、包餡焼成用ジャム類を積置した後に四方より折り畳み、巾着包みをする方法でもよいし、ベーカリー生地で包餡焼成用ジャム類を完全に包む方法でもよい。その際、生地の内面側及び/又は内部のジャム類が一部露出するような成形をおこなってもよい。
上記包餡生地は勿論冷凍することが可能である。
【0070】
次に、本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は、上記包餡生地の焼成品であり、具体的には上記包餡生地を、必要に応じ圧延、成形、ホイロ、ラックタイム、レストタイム等をとった後、焼成することによって得られるベーカリー製品である。
【0071】
上記ベーカリー生地や包餡生地を焼成する場合、ホイロについては、イーストを含まない生地を使用する場合は必要なく、イーストを配合した場合のみ必要であり、体積の大きく、層剥れの少ないベーカリー製品を得るためには、好ましくは温度25〜40℃、相対湿度50〜80%で20〜90分、さらに好ましくは32℃〜38℃、相対湿度50〜80%で30〜60分である。
焼成方法は、通常のベーカリー製品同様、160℃〜250℃、好ましくは170℃〜220℃で行なうのが好ましい。160℃未満であると火どおりが悪く、また、250℃を超えると焦げを生じ、食味が悪くなる。
以上のようにして得られたベーカリー製品は焼成直後から、ソフトでしっとりし、且つ、歯切れのよい食感を有する。また、火抜けが良好であるため、保存性が高いものである。
【0072】
本発明のしとり感の改良方法について述べる。
本発明のしとり感の改良方法は、油脂含量が2〜20質量%であるジャム類をベーカリー生地で包餡し、焼成することを特徴とするものである。
油脂の種類、ジャム類への油脂の添加方法やベーカリー生地の種類、焼成方法については前述のとおりである。
【実施例】
【0073】
本発明の内容を以下の製造例、実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例、実施例及び比較例に何ら限定されるものではない。尚、特に説明しない限り、「%」及び「部」は質量基準である。
【0074】
製造例1及び2は、本発明の包餡焼成用ジャム類の原料として使用するエステル交換油脂の製造例であり、製造例3〜5は、本発明の包餡焼成用ジャム類の原料として使用する混合油脂の製造例であり、製造例6は、本発明の包餡焼成用ジャム類の原料として使用する油脂組成物の製造例である。尚、製造例3〜5の混合油脂は、上記第2の方法において、それぞれ上記(1)、(2)及び(3)の油脂の組み合わせを採用したものである。
実施例1〜14並びに比較例1及び2は、本発明及び比較用の包餡焼成用ジャム類の製造例であり、得られた包餡焼成用ジャム類は下記のベーカリー試験に供した。
【0075】
<エステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕
構成脂肪酸組成において炭素数14(以下、「C14」と表す)以下の飽和脂肪酸含量が68%、炭素数16(以下、「C16」と表す)以上の飽和脂肪酸含量が11%であるパーム核油75%に、構成脂肪酸組成においてC14以下の飽和脂肪酸含量が0%、C16以上の飽和脂肪酸含量が99%であるパーム極度硬化油25%を配合し、構成脂肪酸組成においてC14以下の飽和脂肪酸含量が51%、C16以上の飽和脂肪酸含量が33%である油脂配合物を得た。この油脂配合物100部に対し、触媒として0.1部のナトリウムメチラートを添加し、80℃で30分間ランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、融点が32℃であるエステル交換油脂Aを得た。
【0076】
〔製造例2〕
ヨウ素価60のパーム分別軟部油100部に対し、触媒として0.1部のナトリウムメチラートを添加し、80℃で30分間ランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、融点が34℃であるエステル交換油脂Bを得た。
【0077】
<混合油脂の製造>
〔製造例3〕
ヨウ素価51のパーム油60%、ヤシ油10.3%、ナタネ液状油29%、及びハイエルシンナタネ極度硬化油0.7%を混合溶解し、混合油脂Aを得た。
得られた混合油脂AのSMSで表されるトリグリセリド(1,3位がS、2位がMであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)(以後SMSという)の含有量(油相基準)は15.0%、構成脂肪酸組成におけるラウリン酸の含有量は5.3%、トランス酸の含有量は1.2%、該SMSの含有量を1としたときの該ラウリン酸の含有量(油相基準)は0.35であった。
また得られた混合油脂Aを60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は10%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは7.4%であり、25℃における基準SFCの74%であった。
【0078】
〔製造例4〕
ヨウ素価51のパーム油43%、豚脂55%、及びハイエルシンナタネ極度硬化油2%を混合溶解し、混合油脂Bを得た。
得られた混合油脂BのSMSの含有量は13%、MSMで表されるトリグリセリド(1,3位がM、2位がSであるトリグリセリド。但し、S=炭素数16〜24の飽和脂肪酸、M=炭素数16〜24のモノ不飽和脂肪酸)(以後MSMという)の含有量は13%であり、構成脂肪酸組成におけるトランス酸の含有量は1.5%であった。
また得られた混合油脂Bを60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は14.5%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは9.5%であり、25℃における基準SFCの66%であった。
【0079】
〔製造例5〕
ヨウ素価51のパーム油35%、ヨウ素価35のパーム中融点部20%、エステル交換油脂A18%、エステル交換油脂B25%、及び大豆極度硬化油2%を混合溶解し、混合油脂Cを得た。
得られた混合油脂Cにおいて、SMSの含有量(油相基準)は24%、MSMの含有量は2.9%であり、構成脂肪酸組成におけるトランス酸の含有量は0.8%であった。
得られた混合油脂Cを60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は27.8%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは19.5%であり、25℃における基準SFCの70%であった。
【0080】
<可塑性油脂組成物の製造>
〔製造例6〕
ヨウ素価51のパーム油43%、豚脂55%、及びハイエルシンナタネ極度硬化油2%からなる混合油脂80部、レシチン0.5部、グリセリンモノ脂肪酸エステル0.5部からなる油相81部を溶解し、水19部からなる水相を、添加、混合及び急冷可塑化して、可塑性油脂組成物Aを得た。
得られた可塑性油脂組成物Aにおいて、SMSの含有量(油相基準)は13%、MSMの含有量(油相基準)は13%であり、構成脂肪酸組成におけるトランス酸の含有量は1.5%であった。
また得られた可塑性油脂組成物Aの油相を60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は14.5%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは9.5%であり、25℃における基準SFCの66%であった。
【0081】
<包餡焼成用ジャム類の製造>
〔実施例1〕
缶詰の桃ダイスカット品700gをシロップ切りし、グラニュー糖280gとペクチン3gと共に鍋に投入し、ブリックス値68%になるまで炊き上げた。ここに製造例3で得られた混合油脂Aを60℃で溶解してから最終的に3%になるように添加し、十分に混合し、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類1を得た。
【0082】
〔実施例2〕
実施例1における油脂の添加量を3%から8.5%に変更した以外は実施例1と同様にして、ブリックス値68%である本発明の包餡焼成用ジャム類2を得た。
【0083】
〔実施例3〕
実施例1における油脂の添加量を3%から15%に変更した以外は実施例1と同様にして、ブリックス値68%である本発明の包餡焼成用ジャム類3を得た。
【0084】
〔実施例4〕
缶詰の桃ダイスカット品700gをシロップ切りし、グラニュー糖280g、ペクチン3gとさらに上記製造例3で得られた混合油脂A50gを共に鍋に投入し、ブリックス値68%になるまで炊き上げ、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類4を得た。
【0085】
〔実施例5〕
実施例4で使用した混合油脂Aに代えて上記製造例4で得られた混合油脂Bを使用した以外は実施例4と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類5を得た。
【0086】
〔実施例6〕
実施例4で使用した混合油脂Aに代えて上記製造例5で得られた混合油脂Cを使用した以外は実施例4と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類6を得た。
【0087】
〔実施例7〕
実施例4で使用した混合油脂Aに代えて菜種液状油を使用した以外は実施例4と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類7を得た。なお、使用した菜種液状油は、60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は0%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは0%であり、25℃における基準SFCは計算不能であった。
【0088】
〔実施例8〕
実施例2における炊き上げ時間を延長しブリックス値を73%とした以外は実施例2と同様にして、油脂含量8.5%の本発明の包餡焼成用ジャム類8を得た。
【0089】
〔実施例9〕
実施例2における炊き上げ時間を短縮しブリックス値を60%とした以外は実施例2と同様にして、油脂含量8.5%の本発明の包餡焼成用ジャム類9を得た。
【0090】
〔実施例10〕
缶詰の桃ダイスカット品700gをシロップ切りし、グラニュー糖280gとペクチン3gと共に鍋に投入し、ブリックス値68%になるまで炊き上げた。ここに上記製造例6で得られた可塑性油脂組成物Aを油脂含量が8.5%になるように添加し、十分に混合し、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類10を得た。
【0091】
〔実施例11〕
実施例10で使用した可塑性油脂組成物Aに代えて無塩バターを使用した以外は実施例10と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類11を得た。なお、使用したバターは、60℃で融解した後、0℃で30分、25℃で30分保持後のSFC(25℃における基準SFC)は11.2%であるのに対し、60℃で融解した後、25℃で100分保持後のSFCは、9.1%であり、25℃における基準SFCの81%であった。
【0092】
〔実施例12〕
実施例2における缶詰の桃ダイスカット品700gを缶詰のリンゴスライスカット品700gに変更した以外は、実施例2と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類12を得た。
【0093】
〔実施例13〕
実施例2における缶詰の桃ダイスカット品700gをブルーベリー700gに変更した以外は、実施例2と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値60%の本発明の包餡焼成用ジャム類13を得た。
【0094】
〔実施例14〕
実施例2における缶詰の桃ダイスカット品700gを缶詰のパイナップルスライスカット品700gに変更した以外は、実施例2と同様にして、油脂含量8.5%、ブリックス値68%の本発明の包餡焼成用ジャム類14を得た。
【0095】
〔比較例1〕
実施例1における油脂の添加量を3%から0%、すなわち油脂無添加に変更した以外は実施例1と同様にして、ブリックス値68%である比較例の包餡焼成用ジャム類15を得た。
【0096】
〔比較例2〕
実施例1における油脂の添加量を3%から30%に変更した以外は実施例1と同様にして、ブリックス値68%である比較例の包餡焼成用ジャム類16を得た。
【0097】
<ベーカリー試験>
上記実施例1〜14及び比較例1、2で得られた包餡焼成用ジャム類1〜16を使用し、下記の配合及び製法で包餡生地1〜16、及び、ベーカリー製品1〜16を得た。得られたベーカリー製品1〜16は、室温放冷後袋詰めし、25℃で10日間保管後に試食し、下記の評価基準に従ってクッキー生地部分の食感(ソフト性、しとり感、歯切れ、油性感)、並びに、ジャム部分の食感(ソフト性、しとり感、歯切れ)及び外観(透明感、油分分離)を評価し、結果を表1に記載した。
【0098】
〔ベーカリー生地の配合・製法〕
バターリッチナチュラル(株式会社ADEKA製)40部及び無塩バター35部をミキサーボウルに投入し、さらに粉糖40部、食塩0.5部を投入し、ビーターを使用し、比重0.85になるまでクリーミングした。ここに卵黄15部を添加し、十分に混合した。さらに薄力粉100部及びアーモンドプードル30部をあらかじめ混合して篩っておいたものを添加し、軽く混合し、本発明で使用するベーカリー生地であるクッキー生地を得た。
得られたクッキー生地は2℃の冷蔵庫で30分寝かせた後、このクッキー生地を外包材、包餡焼成用ジャム類を内包材として、質量比が外包材:内包材=50:50、総質量30gで包餡成形し包餡生地とした。この包餡生地を40mm×40mm×深さ30mmの角型天板に入れ、固定オーブンで170℃25分焼成し、ベーカリー製品(フルーツクッキー)を得た。
【0099】
(クッキー部分評価基準)
・ソフト性
◎:良好。
○:やや良好。
△:やや硬い食感である。
×:硬い食感である。
【0100】
・しとり感
◎:極めて良好。
○:良好。
△:ややぱさついている。
×:ぽろぽろした脆い食感である。
【0101】
・歯切れ
○:良好。
△:ややねちゃつきが感じられる。
×:ねちゃつきが強く、不良である。
【0102】
・油性感
◎:油性感が感じられず良好。
○:やや油性感が感じられるが良好。
△:油性感がやや強く感じられる
×:油性感が強く、不良である。
【0103】
(ジャム部分評価基準)
・ソフト性
◎:ソフト感があり良好である。
○:ややソフトである。
△:やや硬い物性であり、ソフト感に乏しい。
×:硬い食感であり、不良である。
【0104】
・しとり感。
◎:極めて良好。
○:良好。
△:ややパサつき感がある。
×:パサつき感が感じられ不良である。
【0105】
・歯切れ
○:良好。
△:ガム感があり、不良である。
×:べたつき、不良である。
【0106】
・透明感
◎:つやのある透明感があり、極めて良好。
○:つやがないが透明感があり、良好。
△:やや濁っており、やや不良である。
×:白く濁っており、不良である。
【0107】
・油分分離
◎:油分分離が見られず良好。
○:わずかに油分分離が見られる。
△:油分分離がやや多い。
×:油分分離が激しく、不良である。
【0108】
【表1】