(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着層における(スチレン系エラストマー):(ポリプロピレン系樹脂)の割合が、重量比として5:95〜50:50の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
前記接着層に含まれる前記ポリプロピレン系樹脂が、エチレン又は炭素数4〜8のα−オレフィンの少なくとも1種以上が共重合されたプロピレン系共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【背景技術】
【0002】
近年、点滴静注用の製剤として、あらかじめ希釈調製済みの注射用薬剤をプラスチック樹脂等で成形された容器に充填したプレミックス型のソフトバッグ製剤が開発されている。この種の製剤は、濃縮薬剤を瓶やアンプル等のガラス製容器に充填した場合と比較して、薬剤使用時の利便性や迅速性に加え、容器の廃棄性にも優れている。
【0003】
しかし、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)やポリ塩化ビニル等の一般的な樹脂をソフトバッグ製剤の容器材料とした場合、例えばニトログリセリン、アルブミン、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等、一部の薬剤が吸着又は透過することが知られている。このため、薬剤の吸着性及び透過性がない材料として環状オレフィン系樹脂層を有する容器は、ソフトバッグ製剤の容器に有用である(例えば特許文献1,2)。
【0004】
環状オレフィン系樹脂は、ポリエチレン等と比較し、高密度で三次元的な分子構造を形成するため、環状オレフィン系樹脂を単独でシートに成形すると、硬くて脆いシートとなりやすい。そのため、ソフトバッグに加工するためには、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等を積層することが一般的である。
【0005】
一方で、環状オレフィン系樹脂は、他の材質との接着強度が得られにくいという課題がある。これを解決する手段として、環状オレフィン系樹脂層に隣接して、シングルサイト系触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主成分とする接着層を設ける方法が提案されている(例えば特許文献3)。
【0006】
例えば特許文献3には、最内層が環状オレフィン系樹脂、中間層がシングルサイト系触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、最外層が高密度ポリエチレンとした積層シートが提案されている。この構成は、層間の接着安定性に優れるものの、一般に柔軟性や透明性に乏しい高密度ポリエチレンが使用されている。このため、耐熱性を確保するために最外層の厚みを上げると、内容物の視認性や排出性が損なわれ、医薬品容器に必要な性能が満たされないという欠点がある。また、高密度ポリエチレンは融点が120℃程度と低いために、それより高温で加熱処理や滅菌処理を行うと、容器の変形等を生じるおそれがある。
【0007】
容器に耐熱性を付与する手段として、ポリエチレンより融点の高いポリプロピレン系樹脂を用いることは一般的であるが、ポリプロピレン系樹脂層と環状オレフィン系樹脂層とを強固に接着させることは従来困難であった。この課題を解決するために、例えば特許文献4には、環状ポリオレフィン樹脂層とポリプロピレン系樹脂層との間の接着層として、シングルサイト系触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と、ポリプロピレン系樹脂をブレンドした構成が提案されている。
なお、特許文献5には、2層構造ではあるが、環状オレフィン系樹脂層に隣接するポリプロピレン系樹脂層が、スチレン系エラストマーを含む多層容器が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0017】
本実施形態の積層体は、環状オレフィン系樹脂層と、接着層と、ポリプロピレン系樹脂層とが、この順序で積層された構成を含む、少なくとも3層以上の積層体である。接着層は、環状オレフィン系樹脂層とポリプロピレン系樹脂層との間を接着するための中間層である。
【0018】
接着層は、直鎖状低密度ポリエチレンとスチレン系エラストマーとポリプロピレン系樹脂を含む。接着層に含まれる樹脂成分は、実質的に、直鎖状低密度ポリエチレンと、スチレン系エラストマーと、ポリプロピレン系樹脂との3成分から構成されてもよい。接着層は、樹脂成分以外に、添加剤成分を含んでもよい。
【0019】
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、通常、炭素数4以上のα−オレフィンを共重合させ、短鎖の分岐を導入することで、長鎖の分岐が少なく、直鎖状の分子構造を有する。LLDPEに共重合されるα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。
【0020】
接着層に含まれるLLDPEの種類としては、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合された樹脂、シングルサイト系触媒を用いて重合された樹脂等が挙げられる。シングルサイト系触媒を用いて重合されたLLDPEは、分子量分布が狭く、機械的特性に優れるので好ましい。シングルサイト系触媒としては、メタロセン系触媒が挙げられる。メタロセン系触媒としては、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含み、金属がジルコニウム、ハフニウム等であるメタロセン化合物を含む触媒が挙げられる。
【0021】
接着層に含まれるポリプロピレン系樹脂としては、エチレン又は炭素数4〜8のα−オレフィンの少なくとも1種以上が共重合されたプロピレン系共重合体が好ましく、中でも、シングルサイト系触媒を用いて重合されたプロピレン系共重合体が好ましい。ポリプロピレン系樹脂に共重合されるコモノマーとしては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。接着層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。
【0022】
接着層に含まれるスチレン系エラストマーとしては、スチレンと脂肪族オレフィンとの共重合体が挙げられる。スチレンを含むブロックがハードブロックを構成し、脂肪族オレフィンを含むブロックがソフトブロックを構成する。分子中のスチレン含有量が高いほど強固な接着強度を発現することができる。しかし、スチレン含有量が高すぎると、柔軟性が損なわれるため、スチレン系エラストマーにおけるスチレン含有量は、10〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、10〜20重量%が更に好ましい。
【0023】
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、水添スチレン−ブタジエンゴム(HSBR)、等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、SEBS、SEPS、SEBC、HSBRから選択される1種以上が好ましく、特にSEBSが好ましい。
なお、SEBSは、一般的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加(水添)で、ブタジエンユニットをエチレンユニット2つ又はブチレンユニットに変換して得られるものであるが、変性や選択的水素添加等がなされたものでもよい。
【0024】
接着層における(直鎖状低密度ポリエチレン):(スチレン系エラストマー及びポリプロピレン系樹脂の合計)の割合が、重量比として40:60〜95:5の範囲内であることが好ましい。また、接着層における(スチレン系エラストマー):(ポリプロピレン系樹脂)の割合が、重量比として5:95〜50:50の範囲内であることが好ましい。
【0025】
接着層を構成する樹脂成分のうち、直鎖状低密度ポリエチレンとスチレン系エラストマーとポリプロピレン系樹脂の割合としては、例えば樹脂成分全体を100重量部として、直鎖状低密度ポリエチレンが40〜95重量部、スチレン系エラストマーが1〜50重量部、ポリプロピレン系樹脂が1〜59重量部の割合が挙げられる。
ここで、直鎖状低密度ポリエチレンが40〜80重量部の割合がより好ましい。
また、スチレン系エラストマーが1〜30重量部の割合がより好ましい。
また、ポリプロピレン系樹脂が30〜50重量部の割合がより好ましい。
【0026】
接着層において、直鎖状低密度ポリエチレンと、スチレン系エラストマーと、ポリプロピレン系樹脂との3成分の合計は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、100重量%でもよい。接着層は、前記3成分以外の樹脂成分又は添加剤成分を含んでもよいが、その割合は、接着層全体の10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0027】
ポリプロピレン系樹脂層は、ポリプロピレン(PP)系樹脂を主として含む層である。ポリプロピレン系樹脂層に使用されるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体であってもよいし、エチレン又は炭素数4〜8のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であってもよい。ポリプロピレン系樹脂層に含まれるポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合、その共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。ポリプロピレン系樹脂層は、1種のポリプロピレン系樹脂を含有してもよく、2種以上のポリプロピレン系樹脂層を含有してもよい。
【0028】
環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂を主として含む層である。環状オレフィン系樹脂に含まれる環状オレフィン系樹脂は、1種以上のオレフィンモノマーからなる重合体又はその二重結合が水素化された重合体であり、かつ、オレフィンモノマーのうち少なくとも1種は環状炭化水素骨格を有する環状オレフィンモノマーである。環状オレフィンモノマーとしては、例えばノルボルネン化合物等が挙げられる。
なお、以下の説明で、単に「環状オレフィン系樹脂」というのは、環状オレフィン系樹脂に含まれる環状オレフィン系樹脂を指す。
【0029】
環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合の後、残った二重結合を水素化した重合体、2種以上の環状オレフィンモノマーからなる付加重合体、環状オレフィンモノマーと非環状オレフィンモノマーとを共重合した付加重合体などを包含する。ただし、環状オレフィンモノマー1種のみの単独付加重合体は好ましくない。
環状オレフィン系樹脂の製造方法としては、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化する方法、2種以上の環状オレフィンモノマーの共重合反応による方法、環状オレフィンモノマーとα−オレフィンの共重合反応による方法が挙げられる。
【0030】
環状オレフィン系樹脂のうち、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化した重合体の基本構造としては、例えば、次の式(I)が挙げられる。すなわち式(I)では、環状骨格とエチレン骨格が交互配置されたポリマーとして記述される。式(1)の環状骨格は、1,3−シクロペンチレン骨格である。ただし、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体自体は、共重合体である必要はない。
【0032】
式(I)において、nは1以上の整数であり、R
1及びR
2は水素原子またはアルキル基を示す。R
1及びR
2は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R
1及びR
2は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0033】
式(I)に示す構造は、n個の1,3−シクロペンチレン骨格の有する置換基R
1及びR
2が互いに同一で、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体が単独重合体(ホモポリマー)である場合に限られない。式(I)に示す構造は、2種以上のノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化したポリマーであってもよい。その例として、次の式(II)が挙げられる。
【0035】
式(II)において、m及びnは1以上の整数であり、R
1及びR
2は水素原子またはアルキル基を示す。m及びnは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R
1及びR
2は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R
1及びR
2は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0036】
ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化した重合体の具体例として、例えば日本ゼオン株式会社製の「ZEONEX(登録商標)」、「ZEONOR(登録商標)」等が挙げられる。
【0037】
また、環状オレフィンモノマーと非環状オレフィンモノマーとを共重合した付加重合体としては、次の式(III)が挙げられる。式(III)の共重合体は、環状骨格とエチレン骨格がランダム配置されたポリマーとして記述される。式(I1I)の環状骨格は、2,3−ノルボルナニレン骨格である。
【0039】
式(III)において、m及びnは1以上の整数であり、R
1、R
2及びR
3は水素原子またはアルキル基を示す。m及びnは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R
1、R
2及びR
3は互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R
1及びR
2は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0040】
ここで、R
1、R
2、R
3がともに水素原子であるポリマーとしては、ポリプラスチック株式会社製「TOPAS(登録商標)」が挙げられる。また、R
1及びR2がアルキル基であり、R
3が水素原子であるポリマーとしては、三井化学株式会社製「アペル(登録商標)」が挙げられる。
【0041】
これらの環状オレフィン系樹脂は、水蒸気バリア性に優れ、入手も容易である。上述のように、本実施形態の積層体においては、環状オレフィン系樹脂層の主成分として、これらの環状オレフィン系樹脂を使用することができる。環状オレフィン系樹脂層は、1種の環状オレフィン系樹脂を含んでもよく、2種以上の環状オレフィン系樹脂を含んでもよい。ここで、2種以上の環状オレフィン系樹脂とは、式(I)〜(III)のうちいずれか1つの式に該当する2種以上の環状オレフィン系樹脂でもよく、式(I)〜(III)のうち2つ以上の式について各々1種以上の環状オレフィン系樹脂でもよく、更に式(I)〜(III)に該当しない環状オレフィン系樹脂を含んでもよい。また、環状オレフィン系樹脂層は、積層体における最内層(シーラント層)であってもよい。
【0042】
次に、環状オレフィン系樹脂の市販品を例示する。上記と一部が重複するが、例えば、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン株式会社製、ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体の水素化ポリマー)、TOPAS(登録商標)(ポリプラスチックス株式会社製、ノルボルネンとエチレンとのコポリマー)、ZEONOR(登録商標)(日本ゼオン株式会社製、ジシクロペンタジエンとテトラシクロペンタドデセンとの開環重合に基づくコポリマー)、アペル(登録商標)(三井化学株式会社製、エチレンとテトラシクロドデセンとのコポリマー)、アートン(登録商標)(JSR株式会社製、ジシクロペンタジエン及びメタクリル酸エステルを原料とする極性基を含む環状オレフィン樹脂)等を挙げることができる。
【0043】
環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂以外に、他の樹脂成分を含有してもよい。環状オレフィン系樹脂に含まれてもよい他の樹脂成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、スチレン系樹脂、シラン系樹脂等の1種又は2種以上が挙げられる。これらのうち、スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン系エラストマー等が挙げられる。なかでも、特にスチレンブタジエンブロック共重合体、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体、これらの水素添加物(例えばSEBS、SEPS等)、スチレンブタジエンランダム共重合体等の1種又は2種以上が0.05〜20質量%の範囲で環状オレフィン系樹脂層に含有されると好ましい。
他の樹脂成分を含有する場合、容器の低温での耐衝撃性や高圧蒸気滅菌処理直後の透明性の維持、柔軟性の向上など、容器として所望の性能の向上を図ることが可能である。
【0044】
環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂のみを樹脂成分とすること(樹脂でない添加剤を含んでもよい)が好ましく、環状オレフィン系樹脂を100質量%含有してもよい(他に添加剤も含まない)。上記の他の樹脂成分を含む場合、環状オレフィン系樹脂層が環状オレフィン系樹脂を主成分とすること、すなわち1種の環状オレフィン系樹脂又は2種以上の環状オレフィン系樹脂の合計で50質量%以上含有することが好ましく、特に70質量%以上含有することが好ましい。環状オレフィン系樹脂の組成比率が低い場合、微量成分やプラスチックと親和性の高い薬剤成分が吸着され、収容される薬剤成分の保存安定性が不十分となるおそれがある。
【0045】
積層体を構成する各層、すなわちポリプロピレン系樹脂層、接着層、環状オレフィン系樹脂層等を構成する材料には、容器外観の向上や品質の安定化、その他必要とされる性能を付与するために、安全衛生性を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤等の各種添加剤等を含有してもよい。
【0046】
本実施形態の積層体(シート)に用いる各層(フィルム)を成形する方法は特に制約ないが、Tダイ成形、インフレーション成形等が挙げられる。Tダイ成形後にフィルム、シート等を冷却ロールで急冷してもよい。長尺のフィルム、シート等を連続的に成形する場合には、成形後にフィルム、シート等の長尺成形体を巻き取ると、生産性に優れるので好ましい。
【0047】
積層体は、基材とシーラント層、必要に応じて他の層を積層した構成が例示される。すなわち、各層間には接着剤層またはアンカー剤層を介しても良いし、層間が直接接するように積層されていても良い。他の層としては、補強層、ガスバリア層、遮光層、印刷層など、適宜、一層または複数層を選択することができる。シーラント層とは、ヒートシールに用いられる層であり、包装材料としては内容品に接する最内層に配置される。ヒートシールは、シーラント層を溶融させることにより接着させる方法であるが、シール方法には特に制約はなく、熱板シール、超音波シール、高周波シール、インパルスシール等が挙げられる。基材は、積層体のうちシーラント層とは反対側である他方の最表面であってもよいし、他方の最表面より内側に積層されてもよい。
【0048】
本実施形態の積層体の製造方法としては、特に限定されることなく、押出ラミネート工法、ドライラミネート工法、共押出工法、又はこれらのうち2以上の工法の併用により、積層体を構成する各層を適宜積層すればよい。シーラント層の厚みは、包装材料の用途にも依存し、特に限定されるものではないが、通常は5〜150μm程度であり、好ましくは15〜80μmである。接着層の厚みは、特に限定されないが、例えば10〜100μmである。
【0049】
積層体のうち、環状オレフィン系樹脂層と、接着層と、ポリプロピレン系樹脂層との3層を共押出工法で積層すると、これら3層の間が接着剤層またはアンカー剤層を介せず積層される。積層体が、環状オレフィン系樹脂層/接着層/ポリプロピレン系樹脂層/接着層/環状オレフィン系樹脂層の5層を含んでもよく、ポリプロピレン系樹脂層/接着層/環状オレフィン系樹脂層/接着層/ポリプロピレン系樹脂層の5層を含んでもよい。
【0050】
本実施形態の積層体によれば、環状オレフィン系樹脂層と接着層の間の層間強度、及びポリプロピレン系樹脂層と接着層の間の層間強度を大幅に向上することができる。
また、本実施形態の積層体は、ポリエチレン系樹脂層と環状オレフィン系樹脂層とから構成される積層体と比較して、高い耐熱性を有する。このため、120℃を超える高温に対しても耐熱性を有し、高圧蒸気滅菌も可能である。
また、本実施形態の積層体は、ポリプロピレン系樹脂層と環状オレフィン系樹脂層とから構成される積層体と比較して、高い耐熱性を有し、高圧蒸気滅菌を実施しても剥離強度の低下が抑制され、容器の耐衝撃性を向上することができる。
【0051】
本実施形態の容器は、本実施形態の積層体を用いて形成することができる。容器としては、包装袋(パウチ)、チューブ包装等が挙げられる。包装袋に注出口を設ける場合、注出口としては、包装袋を構成する積層体のシーラント層と接合して密封性が確保できれば好適に使用できる。好ましくは、積層体のシーラント層とヒートシール可能な樹脂からなる注出口を用いて、注出口と積層体とをヒートシールによって接合することが望ましい。積層体と注出口をヒートシールする場合、シーラント層を内側として積層体を重ね合わせた間に注出口を挿入してヒートシールしてもよいし、注出口の一端にフランジ部や舟形形状の融着基部を設け、このフランジ部や融着基部を積層体に設けた穴の周縁や包装袋の開口部内面とヒートシールしてもよい。
【0052】
本実施形態の容器は、薬剤、飲食物、化粧品等を収容するための容器として好適に利用できる。薬剤は、ニトログリセリン、アルブミン、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等、一般の樹脂に対する吸着性又は透過性が高い物質でもよい。
包装袋の形態は、三方袋、四方袋、合掌貼り袋、ガゼット袋、自立袋等の小型包装袋(パウチ)のほか、例えばバッグインボックス用の内袋やドラム缶内装袋などの大型の袋等、特に限定なく適用可能である。
【0053】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0055】
(積層体の製造方法)
Tダイ式多層製膜機を用いて、表層/中間層/最内層の厚みがそれぞれ180μm/50μm/30μmとなるように共押出工法により積層体を製造した。
表層には、ポリプロピレンをベースとする熱可塑性エラストマー「ゼラス(登録商標)」(三菱化学株式会社製、密度0.89g/cm
3、融解ピーク温度162℃)を用いた。最内層には、環状オレフィン系ポリマー「ZEONEX(登録商標)」(日本ゼオン株式会社製、密度1.02g/cm
3、ガラス転移温度136℃)を用いた。
【0056】
中間層には、LLDPEとポリプロピレン(PP)とエラストマー(相溶化剤)とからなる3成分を所定の比率でドライブレンドしたペレットを用いた。
LLDPEとしては、気相法メタロセン系ポリエチレン「ハーモレックス(登録商標)」(日本ポリエチレン株式会社製、密度0.908g/cm
3、融解ピーク温度120℃)を用いた。
PPとしては、メタロセン系ポリプロピレン「ウィンテック(登録商標)」(日本ポリプロ株式会社製、密度0.90g/cm
3、融解ピーク温度125℃)を用いた。
エラストマーとしては、下記の表1に示す熱可塑性エラストマーを用いた。
【0057】
【表1】
【0058】
4種のSEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体)としては、「タフテック(登録商標)」(旭化成株式会社製、スチレン含有量12〜43重量%)を用いた。
SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体)としては、「セプトン(登録商標)」(株式会社クラレ製、スチレン含有量18重量%)を用いた。
SEBC(スチレン−エチレン−ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体)、HSBR(水添スチレン−ブタジエンゴム)、CEBC(オレフィン結晶−エチレン−ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体)としては、それぞれ「ダイナロン(登録商標)」(株式会社JSR製)を用いた。
【0059】
(第1実験例)
上記の積層体の製造方法を用いて、表2に示す組成の中間層を有する積層体を製造した。製膜した積層体を用い、最内層同士を重ね合わせ、充填口を除いて積層体の外周をヒートシールし、外寸が172mm×115mmとなる輸液バッグ形状のパウチ容器を作製した。外周シール幅が5mmとなるようにトリミングし、パウチの内部に105mLの水を充填した後、充填口をヒートシールしてパウチを密封した。
【0060】
【表2】
【0061】
密封後のパウチの高圧滅菌処理を、高圧蒸気滅菌器により、121℃、20分間の条件で実施した。高圧滅菌処理後は、冷却水によりパウチの温度を速やかに下げた後、パウチのヒートシール強度及び層間接着強度を測定した。
【0062】
ヒートシール強度は、次の手順により測定した。まず、パウチのヒートシール部分から直角の方向に幅15.0mm、展開長さ100mm以上の試験片を採取し、試験片のヒートシール部分を中央にしてヒートシール部分の両側のシート部を180°に開き、両側の各シート部を、つかみ間隔50mmで引張試験機のつかみ部に取り付けた。次に、引張速度300mm/minの一定速度でヒートシール部分が破断するまで引張荷重を測定し、破断するまでの最大荷重(N/15mm)をヒートシール強度とした。
ヒートシール強度の評価については、JIS Z0238(ヒートシール軟包装袋及び半剛性容器の試験方法)を考慮して、「レトルト殺菌用袋などで、強いヒートシール強さを要する場合」の23N/15mm以上を「良」、それ未満を「不良」と評価した。
【0063】
層間接着強度は、次の手順により測定した。まず、パウチのヒートシールされていないシート部分を15mm幅×150mm長に切り取り、酢酸エチルを用いてシートの一端から層間の一部を分離させた。層間が分離した長さが20mm以上となるまで展開し、層間が分離した両端部をそれぞれ引張試験機のつかみ部に取り付けた。次に、引張速度5mm/minで引張荷重を付与し、30mmの長さを層間剥離させ、平均荷重(N/15mm)を層間接着強度とした。
層間接着強度の評価については、包装製品の実績を参考にして、10N/15mm以上を「良」、それ未満を「不良」と評価した。
【0064】
パウチの層間接着強度の測定に際し、分離した剥離面を観察した。パウチのヒートシール強度、層間接着強度、剥離面の結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
スチレン系エラストマーを添加せず、PPとLLDPEのいずれか単独又は2成分で中間層を構成した場合(番号1−1から1−6)と比べて、スチレン系エラストマーを添加した場合(番号1−7から1−12)では、滅菌前後のヒートシール強度及び層間接着強度の値が大きく上昇する傾向が見られた。また、滅菌前と比較した滅菌後の強度の低下の程度は、スチレン系エラストマーを添加しない場合よりも、スチレン系エラストマーを添加した場合のほうが小さくなり、容器としての性能を高めることができた。
【0067】
中間層の組成の大部分をPPが占める場合、剥離面が「中間層/最内層」となる傾向がみられる。ヒートシール強度が規格値を上回る良好な水準となったのは、中間層にLLDPEが40質量%以上の割合で含まれる場合(番号1−9から1−12)であった。
一方で、中間層の組成の大部分をLLDPEが占める場合、剥離面が「表層/中間層」となる傾向がみられる。中間層がLLDPEとSEBSの2成分からなる場合(番号1−12)では、滅菌処理後の層間接着強度が10N/15mmを下回った。
【0068】
ソフトバッグ製剤として長期保存中に層間接着強度が徐々に低下しても層間分離(デラミネーション)を抑制し、外観を含めた製剤の商品価値を維持する観点では、滅菌処理後の層間接着強度が高いことが好ましい。そこで、中間層を構成するLLDPEと(PP+SEBS)との好ましい比率は、40:60〜95:5、より好ましくは40:60〜80:20である。なお、表3でスチレン系エラストマーを添加した場合において、LLDPEとPPとの比率が、40:50〜60:30の場合に「剥離不能」となり、極めて優れた性能を示している。
【0069】
(第2実験例)
中間層におけるエラストマーの添加量を10重量%から変化させた場合を検証するため、表4に示す組成の中間層を有する積層体を製造した。その他の手順(パウチの作製、滅菌処理、ヒートシール強度及び層間接着強度の測定)は、第1実験例と同様にした。
【0070】
【表4】
【0071】
また、第2実験例におけるパウチのヒートシール強度、層間接着強度、剥離面の結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
中間層におけるエラストマーの添加量が5重量%の場合(番号2−1から2−6)、全体的にヒートシール強度及び層間接着強度の値が上昇する傾向を示した。第1実験例で中間層にエラストマーを10重量%添加した場合(番号1−7から1−14)と合わせて考察すると、中間層におけるLLDPEの添加量が少なすぎる場合には、滅菌後のヒートシール強度及び層間接着強度の値があまり上昇しないと考えられる。一方で、中間層におけるPPの添加量が少なすぎる場合には、ヒートシール強度は滅菌後も十分な水準を維持するものの、層間接着強度の低下が著しい。このことから、中間層にはLLDPE、PP、エラストマーの3成分が適正な比率で配合されることが望ましい。
【0074】
(第3実験例)
中間層におけるエラストマーの種類又はスチレン含有量を変化させた場合を検証するため、表6に示す組成の中間層を有する積層体を製造した。その他の手順(パウチの作製、滅菌処理、ヒートシール強度及び層間接着強度の測定)は、第1実験例と同様にした。なお、表6及び表7には、比較のため第1実験例による番号1−9及び1−3を併記した。
【0075】
【表6】
【0076】
また、第3実験例におけるパウチのヒートシール強度、層間接着強度、剥離面の結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
滅菌後も剥離不能な程度まで層間接着強度を向上できたエラストマーは、スチレン含有量が18重量%以下のSEBS(番号1−9及び3−1)であった。スチレン含有量が30重量%以上のSEBSをエラストマーとして中間層に添加した場合(番号3−2及び3−3)、滅菌後のヒートシール強度が上記JIS規格による23N/15mm以上とはなるものの、番号1−9及び3−1に比べて低い数値となった。
SEBS以外のスチレン系エラストマーを使用した場合(番号3−4から3−6)でも、一定の性能向上効果が認められた。しかし、スチレンブロックを含まないエラストマーとしてCEBCを使用した場合(番号3−7)には、中間層にエラストマーを添加しない場合(番号1−3)と比べて、大きく違わない結果となった。
このことから、ヒートシール強度及び層間接着強度を向上するには、中間層にスチレン系エラストマーを添加することが必要であることが示唆された。