特許第6864250号(P6864250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6864250-炭素材、及び、非水系二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864250
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】炭素材、及び、非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20210419BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 C
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-165993(P2015-165993)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-45574(P2017-45574A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石渡 信亨
(72)【発明者】
【氏名】長山 大悟
(72)【発明者】
【氏名】曽我 巌
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−135811(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/141372(WO,A1)
【文献】 特開平11−354122(JP,A)
【文献】 特開2012−094505(JP,A)
【文献】 特開2013−191302(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/059040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/00−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造粒炭素材の表面に炭素質物を含有する非水系二次電池用炭素材であって、
造粒炭素材が黒鉛であり、
炭素質物が非晶質炭素であり、
体積基準平均粒径(d50)が19.4μm以下であり、
TG−DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)
曲線が、500℃以上1000℃以下の範囲に相対的に低温側の第1のピークと、相対的
に高温側の第2のピークとを有し、前記第1のピークと前記第2のピークが下記式1を満
足することを特徴とする、非水系二次電池用炭素材。
(式1)
(第1のピークにおけるDTA[μV])/(第2のピークにおけるDTA[μV])≧
0.4
【請求項2】
窒素吸着により測定されたBET比表面積が、2.0m/g以上であることを特徴と
する請求項1に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項3】
真密度が1.90g/cm以上、2.26g/cm未満であることを特徴とする請
求項1または2に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項4】
フロー式粒子像分析より求められる平均円形度が0.91以上であることを特徴とする
請求項1乃至3の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項5】
造粒炭素材が鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、及び塊状黒鉛を造粒処理した球状黒鉛粒子である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項6】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該
負極が集電体と該集電体上に形成された負極活物質層とを備えると共に、該負極活物質層
が請求項1乃至5の何れか一項に記載の炭素材を含有することを特徴とする非水系二次電
池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材と、その炭素材を用いた非水系二次電池用負極を備えた非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。従来、リチウムイオン二次電池の高容量化は広く検討されているが、近年、リチウムイオン二次電池に対する更なる高性能化の要求が高まってきており、更なる高容量化、高入出力化、高寿命化を達成することが求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池については、負極用活物質として、黒鉛等の炭素材料を使用することが知られている。中でも、黒鉛化度の大きい黒鉛は、リチウムイオン二次電池用の負極用活物質として用いた場合、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、さらに、コスト・耐久性にも優れることから、負極用活物質として好ましいことが知られている。一方、高容量化のために負極材料を含む活物質層を高密度化すると、材料の破壊・変形により、初期サイクル時の充放電不可逆容量の増加、大電流充放電特性の低下、サイクル特性の低下といった問題点があった。
【0004】
上記の問題を解決するために、例えば、特許文献1には、鱗片状天然黒鉛に力学的エネルギー処理を施すことにより球形化天然黒鉛を製造し、更に球形化天然黒鉛を核黒鉛としてその表面に非晶質炭素を被覆することにより、充填性や高速充放電特性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、黒鉛性炭素質物の表面に有機物の炭化物を付着してなる炭素質物複合炭素材であって、有機物の炭化物量を該黒鉛性炭素質物100重量部に対する残炭量として12重量部以下0.1重量部以上となるように調整することにより、放電容量が高く、且つ初期サイクル時の充放電不可逆容量が低く抑えられ、更に電解液に対する安全性も高い非水溶媒二次電池が得られることが開示されている。特許文献3には、TG−DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線が前記非黒
鉛炭素被膜に由来する相対的に低温側の第1のピークと、前記粒子状黒鉛に由来する相対的に高温側の第2のピークとを有し、前記第1のピークと前記第2のピークとのピーク温度差が60〜160℃である非水電解質二次電池用の負極活物質を用いることにより、初期抵抗を低減した非水溶媒二次電池が得られることが開示されている。
特許文献4には、リチウムを吸蔵且つ放出可能な負極活物質であって、前記負極活物質は低結晶性炭素の被覆層を黒鉛核材の表面に有する複合炭素粒子であり、前記被覆層にC=O、C−OH及びC−Oの官能基を有し、前記被覆層の炭素原子及び酸素原子の総量中の酸素原子の含有率が、2atom%〜5atom%であり、空気中の熱重量測定法において、350℃以上600℃未満と600℃以上850℃以下のそれぞれの温度範囲に少なくとも1つの酸化ピークを有し、350℃以上850℃以下の範囲内において最も高い温度にピークを有する酸化ピークと、最も低い温度にピークを有する酸化ピークとのピーク温度差が300℃以下である負極活物質を用いることにより、サイクル寿命と高温保存特性が向上した非水溶媒二次電池が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−340232号公報
【特許文献2】特開平09−213328号公報
【特許文献3】特開2013−191302号公報
【特許文献4】国際公開第2012/039477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1〜4で開示されている黒鉛表面に非晶質炭素を被覆した複合黒鉛は、原料として用いた鱗片状黒鉛粒子が緻密さに欠ける構造であり、その粒子表面が非晶質炭素で覆われることにより、比表面積が小さくなり、粒子のLiイオン挿入脱離サイトが小さく、電池の入出力特性の向上には改善の余地があった。
一般的に、比表面積の大きな黒鉛粒子を用いることにより、黒鉛粒子のLiイオン挿入脱離サイトを大きく使えるため、電池とした時の入出力特性を向上することが知られている。
一方で、炭素質物を被覆した黒鉛粒子の炭素質物は、黒鉛と比較し結晶性が低く、Liイオン挿入脱離がしやすい構造を有するため、電池とした時の入出力特性を向上させることが分かっている。すなわち、比表面積を大きくし、黒鉛粒子の結晶性を低下させることにより、より入出力特性の向上させることができると考えられる。しかしながら、Liイオン挿入脱離がしやすい結晶性の低い領域を増やすために、黒鉛粒子に炭素質物を被覆した場合、粒子表面の微細構造が覆われてしまうことから、比表面積の拡大と炭素質物の被覆による低結晶性領域の増加はトレードオフの関係にある。
また、結晶性の低い炭素質物の割合を増やすと、炭素質物は黒鉛よりも硬いため複合粒子が硬くなってしまい、プレスにより負極材密度を上げようとした場合、炭素質物の割合が多いほど高いプレス荷重が必要となっていた。
【0008】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は従来の比表面積と低結晶性領域のトレードオフの関係から脱却した、優れた入出力特性とより低荷重で粒子を圧縮できるプレス特性を備えた非水系二次電池用炭素材を提供し、その結果として、高性能な非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な非水系二次電池用炭素材であって、該炭素材が造粒炭素材の表面に炭素質物を含有するものであり、TG−DTA測定によるDTA(Differential Thermal
Analysis)曲線が有するピークが特定の値を満足することにより、優れた入出力特性と
プレス特性を有する非水系二次電池用炭素材を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明に係る炭素材が前記効果を奏する理由については、推定であるが次の様に考えている。
本発明に係る炭素材は従来の炭素質物を粒子表面に含有している炭素材に比べ、TG−DTA測定時に500℃以上1000℃以下の範囲に存在する相対的に低温側の第1のピークが高い。この第一ピークは主に低結晶性の炭素質物成分の燃焼に由来するものであると考えられる。すなわち、低結晶性の炭素質物成分が核となる黒鉛粒子の表面に偏在することなく存在することから、Liイオンの挿入脱離が良好である。
つまり、比表面積による入出力特性の向上効果と低結晶性の炭素質物による入出力特性の向上効果を併せ持っていると考えられる。
また、本発明に係る炭素材は従来の炭素質物を粒子表面に含有している炭素材と比較して、低結晶性の炭素質物成分が核となる造粒炭素材の表面に偏在することなく存在するため、プレス機等で負極材を高密度化する際に、硬い部分が偏在しないのでより低荷重で粒
子を圧縮できるプレス特性を有する。
【0010】
すなわち本発明の第1の要旨は、造粒炭素材の表面に炭素質物を含有する非水系二次電池用炭素材であって、TG−DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential
Thermal Analysis)曲線が、500℃以上1000℃以下の範囲に相対的に低温側の第
1のピークと、相対的に高温側の第2のピークとを有し、前記第1のピークと前記第2のピークが下記式1を満足することを特徴とする、非水系二次電池用炭素材に存する。
(式1)
(第1のピークにおけるDTA[μV])/(第2のピークにおけるDTA[μV])≧0.4
【0011】
また本発明の他の要旨は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに、電解質を備えると共に、該負極が集電体と該集電体上に形成された負極活物質層とを備えると共に、該負極活物質層が上記の炭素材を含有することを特徴とする非水系二次電池に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素材は、それを非水系二次電池用の負極活物質として用いることにより、優れた入出力特性とより低荷重で粒子を圧縮できるプレス特性を有する非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の炭素材のTG−DTA測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
【0015】
<非水系二次電池用炭素材の種類>
本発明のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な非水系二次電池用炭素材は、造粒炭素材の表面に炭素質物を含有し、且つTG−DTA測定によるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線が有するピークが特定の値を満足すれば特に限定されないが、例えば、黒
鉛、黒鉛化度の小さい炭素質物等の炭素材の表面に炭素質物を含有するものであり、中でも商業的に容易に入手可能であり、さらには他の負極用活物質を用いた場合と比較して優れた入出力特性とより低荷重で粒子を圧縮できるプレス特性を有するものであることが好ましい。さらに黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられ、高容量且つ低荷重で粒子を圧縮できるプレス特性が良好な点から天然黒鉛であることがより好ましい。
また、黒鉛としては不純物の少ないものが好ましく、不純物の少ない黒鉛は公知である種々の精製処理を施すことで得ることができる。
【0016】
天然黒鉛は、その性状によって、鱗片状黒(Flake Graphite)、鱗状黒鉛(Crystal L
ine Graphite)、塊状黒鉛(Vein Graphite)、土壌黒鉛(Amorphous Graphite)に分類され
る(「粉粒体プロセス技術集成」((株)産業技術センター、昭和49年発行)の黒鉛の
項、および「HANDBOOKOF CARBON,GRAPHITE,DIAMOND AND FULLERENES」(NoyesPubLicatio
ns発行)参照)。黒鉛化度は、鱗状黒鉛や塊状黒鉛が100%で最も高く、これに次いで
鱗片状黒鉛が99.9%で高く、本発明において好適である。
【0017】
鱗片状天然黒鉛の産地は、主にマダガスカル、中国、ブラジル、ウクライナ、カナダ等であり、鱗状黒鉛の産地は、主にスリランカである。土壌黒鉛の主な産地は、朝鮮半島、
中国、メキシコ等である。
天然黒鉛の中でも、例えば、鱗状、鱗片状、又は塊状の天然黒鉛、高純度化した鱗片状黒鉛、後述する球形化処理した天然黒鉛(以降、球形化天然黒鉛とよぶことがある)等が挙げられる。中でも、炭素材の内部に好適な緻密な細孔を形成させることができ、優れた粒子の充填性や充放電負荷特性を発揮するという観点から好ましい。
【0018】
人造黒鉛としては、例えば、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を焼成し、黒鉛化したものやバルクメソフェーズを黒鉛化したものが挙げられる。
また、バルクメソフェーズ等の黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と、黒鉛化可能な有機物とに黒鉛化触媒を添加して混合し、焼成した後、粉砕することにより得た造粒型人造黒鉛を用いることもできる。
焼成温度は、2500℃以上、3200℃以下の範囲とすることができ、焼成の際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。
【0019】
黒鉛化度の小さい炭素質物としては、有機物を通常2500℃未満の温度で焼成したものが挙げられ、具体的には、例えばバルクメソフェーズや非晶質炭素が挙げられる。有機物としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0020】
バルクメソフェーズとしては、例えば、石油系重質油、石炭系重質油、直留系重質油を400〜600℃で熱処理した炭素質物が挙げられる。
【0021】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、炭素質物前駆体を不融化処理し、焼成した粒子が挙げられる。
【0022】
非晶質炭素は結晶化度の程度に応じて、焼成温度は600℃以上とすることができ、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上であり、通常2500℃未満とすることができ、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。
焼成の際、有機物に燐酸、ホウ酸、塩酸などの酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類などを混合することもできる。
【0023】
また、本発明の非水系二次電池用炭素材は、酸化物やその他金属を含んでいてもよい。その他金属としては、Sn、Si、Al、BiなどのLiと合金化可能な金属が挙げられる。
【0024】
<非水系二次電池用炭素材の製造方法>
本発明の非水系二次電池用炭素材は、造粒炭素材の表面に炭素質物を含有し、且つTG−DTA測定によるDTA(Differential Thermal Analysis)曲線が有するピークが特
定の値を満足すれば特に制限はないが、達成手段の一つとしては、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を造粒し、前記造粒工程は、下記1)及び2)の条件を満足する造粒剤の存在下で行うことにより得ら
れる造粒炭素材の表面に炭素質物を被覆することで製造することができる。
【0025】
(造粒工程の条件)
1)前記原料炭素材を造粒する工程時に液体
2)造粒剤が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、又は引火点を有する場合には該引火点が5℃以上である。
【0026】
上記造粒工程を有すれば、必要に応じて別の工程を更に有していてもよい。別の工程は単独で実施しても良いし、複数工程を同時に実施しても良い。
【0027】
上記方法にて造粒処理を施すと、規定の物性の造粒剤により黒鉛粒子間の液架橋付着力が生じ、炭素材粒子同士がより強固に付着することが可能となるため、比表面積が高くLiイオン挿入脱離サイトが多い微粉が、造粒処理した炭素材(以降、造粒炭素材と称す。)となる母材に付着、及び/又は造粒炭素材に内包された構造を取り易くなるため、比表面積が高くLi挿入脱離サイトが多い造粒炭素材を製造することが可能となる。
そして上記特性を有する造粒炭素材を核とすることにより、低結晶性の炭素質物成分が核となる造粒炭素材の表面に偏在することなく存在することが可能となる。
上記製造方法のより好ましい実施態様として、下記の第1工程乃至第4工程を含む製造方法が挙げられる。
【0028】
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程
(第4工程)造粒炭素材に、さら造粒炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工程
以下、これら工程について説明する。
【0029】
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
本発明で用いる原料炭素材は特に限定されず、上述した黒鉛、黒鉛化度の小さい炭素質物等の炭素材を使用することが出来る。中でも、結晶性が高く高容量であることから天然黒鉛を使用することが好ましい。
【0030】
これら原料炭素材の平均粒径(d50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは35μm以下、非常に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。平均粒径は後述の方法により測定することが出来る。
【0031】
平均粒径が上記範囲にある場合、造粒工程中に生成する微粉を、造粒炭素材となる母材に付着或いは母材の内部に包む込みながら造粒することが可能になり、球形化度が高く微粉が少ない造粒炭素材を得ることが出来る。
【0032】
原料炭素材の平均粒径(d50)を上記範囲に調整する方法として、例えば炭素材粒子を粉砕、及び/または分級する方法が挙げられる。
粉砕に用いる装置に特に制限はないが、例えば、粗粉砕機としてはせん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としては、機械式粉砕機、気流式粉砕機、旋回流式粉砕機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル、サイクロンミル、ターボミル等が挙げられる。特に、10μm以下の炭素材粒子を得る場合には、気流式粉砕機や旋回流式粉砕機を用いることが好ましい。
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合は、回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合は、重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)を用いることができ、また、湿式篩い分け、機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0033】
また、原料炭素材としては以下のような物性を満足することが好ましい。
原料炭素材に含まれる灰分は、全質量に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。また、灰分の下限は1ppm以上であることが好ましい。
灰分が上記範囲内であると非水系二次電池とした場合に、充放電時の負極材と電解液との反応による電池性能の劣化を無視できる程度に抑えることができる。また、負極材の製造に多大な時間とエネルギーと汚染防止のための設備とを必要としないため、コストの上昇も抑えられる。
【0034】
原料炭素材のアスペクト比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは15以上である。また、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。アスペクト比は、後述する実施例の方法により測定する。アスペクト比が上記範囲内にあると、粒径が100μm程度の大きな粒子が出来難く、一方で強固な造粒炭素材を得易くなる。
【0035】
原料炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)は、通常(d002)が3.37Å以下で(Lc)が900Å以上であり、(d0
02)が3.36Å以下で(Lc)が950Å以上であることが好ましい。面間隔(d0
02)及び結晶子の大きさ(Lc)は、負極材バルクの結晶性を示す値であり、002面の面間隔(d002)の値が小さいほど、また結晶子の大きさ(Lc)が大きいほど、結晶性が高い負極材であることを示し、黒鉛層間に入るリチウムの量が理論値に近づくので容量が増加する。結晶性が低いと高結晶性炭素材を電極に用いた場合の優れた電池特性(高容量で、且つ不可逆容量が低い)が発現されない。面間隔(d002)と結晶子サイズ(Lc)は、上記範囲が組み合わされていることが特に好ましい。
X線回折は以下の手法により測定する。炭素粉末に総量の約15質量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。その後、学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0036】
原料炭素材の充填構造は、粒子の大きさ、形状、粒子間相互作用力の程度等によって左右されるが、本明細書では充填構造を定量的に議論する指標の一つとしてタッピング密度を適用することも可能である。本発明者らの検討では、真密度と平均粒径がほぼ等しい鉛質粒子では、形状が球状で粒子表面が平滑であるほど、タップ密度が高い値を示すことが確認されている。すなわち、タップ密度を上げるためには、粒子の形状に丸みを帯びさせて球状に近づけ、粒子表面のささくれや欠損を除き平滑さを保つことが重要である。粒子形状が球状に近づき粒子表面が平滑であると、粉体の充填性も大きく向上する。原料炭素材のタッピング密度は、好ましくは0.1g/cm以上であり、より好ましくは0.2g/cm以上であり、更に好ましくは0.3g/cm以上である。タッピング密度は実施例で後述する方法により測定する。
【0037】
原料炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルは粒子の表面の性状を現す指標として利用されている。原料黒鉛のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1
580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値は、好ましくは0.05以上0.9以下であり、より好ましくは0.05以上0.7以下であり、更に好ましくは0.05以上0.5以下である。R値は炭素粒子の表面近傍(粒子表面から100Å位まで)の結晶性を表す指標であり、R値が小さいほど結晶性が高い、あるいは結晶状態が乱れていないことを示す。ラマンスペクトルは以下に示す方法により測定する。具体的には、測定対象粒子をラマン分光器測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。なお、アルゴンイオンレーザー光の波長は514.5nmとする。
【0038】
原料炭素材のX線広角回折法は、粒子全体の結晶性を表す指標として用いられ、X線広角回折法による菱面体結晶構造に基づく101面の強度3R(101)と六方晶結晶構造に基づく101面の強度2H(101)との比3R/2Hが好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上である。菱面体結晶構造とは、黒鉛の網面構造の積み重なりが3層おきに繰り返される結晶形態である。また、六方晶結晶構造とはとは黒鉛の網面構造の積み重なりが2層おきに繰り返される結晶形態である。菱面体結晶構造3Rの比率の多い結晶形態を示す鱗片状黒鉛の場合、菱面体結晶構造3Rの比率の少ない黒鉛に比べLiイオンの受け入れ性が高い。
【0039】
原料炭素材のBET法による比表面積は、好ましくは1m/g以上30m/g以下、より好ましくは2m/g以上20m/g以下、更に好ましくは5m/g以上15m/g以下である。BET法による比表面積は後述する実施例の方法により測定する。原料炭素材の比表面積が上記範囲内にあると、Liイオンの受け入れ性が良好となり、不可逆容量の増加による電池容量の減少を防ぐことができる。
【0040】
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
本発明の非水系二次電池用炭素材を得るには、造粒剤を用いて原料炭素材を造粒することが好ましい。造粒剤は、1)前記原料炭素材を造粒する工程時に液体及び2)造粒剤が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、又は引火点を有する場合には該引火点が5℃以上、の条件を満足するものである。
上記要件を満たす造粒剤を有することで、続く第3工程における原料炭素材を造粒する工程の際に、原料炭素材間を造粒剤が液架橋することにより、原料炭素材間に液橋内の毛管負圧と液の表面張力によって生じる引力が粒子間に液架橋付着力として働くため、原料炭素材間の液架橋付着力が増大し、原料炭素材がより強固に付着することが可能となる。
【0041】
本発明においては、原料炭素材間を造粒剤が液架橋することによる原料炭素材間の液架橋付着力の強さはγcosθ値に比例する(ここで、γ:液の表面張力、θ:液と粒子の接触角)。すなわち、原料炭素材を造粒する際に、造粒剤は原料炭素材との濡れ性が高いことが好ましく、具体的にはγcosθ値>0となるようにcosθ>0となる造粒剤を選択するのが好ましく、造粒剤の下記測定方法で測定した炭素材との接触角θが90°未満であることが好ましい。
【0042】
<炭素材との接触角θの測定方法>
HOPG表面に1.2μlの造粒剤を滴下し、濡れ広がりが収束して一秒間の接触角θの変化率が3%以下となったとき(定常状態ともいう)の接触角を接触角測定装置(協和界面社製自動接触角計DM−501)にて測定する。ここで、25℃における粘度が500cP以下の造粒剤を用いる場合には25℃における値を、25℃における粘度が500cPより大きい造粒剤を用いる場合には、粘度が500cP以下となる温度まで加温した温度における接触角θの測定値とする。
【0043】
さらに、原料炭素材と造粒剤の接触角θが0°に近いほど、γcosθ値が大きくなるため、炭素材粒子間の液架橋付着力が増大し、炭素材粒子同士がより強固に付着することが可能となる。従って、前記造粒剤の炭素材との接触角θは85°以下であることがより好ましく、80°以下であることが更に好ましく、50°以下であることがこと更に好ましく、30°以下であることが特に好ましく、20°以下であることが最も好ましい。
【0044】
表面張力γが大きい造粒剤を使用することによっても、γcosθ値が大きくなり炭素材粒子の付着力は向上するため、γは好ましくは0以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは30以上である。
【0045】
また、粒子の移動に伴う液橋の伸びに対する抵抗成分として粘性力が働き、その大きさは粘度に比例する。このため、原料黒鉛を造粒する造粒工程時において液体であれば造粒剤の粘度は特段限定されないが、造粒工程時において1cP以上であることが好ましい。また造粒剤の、25℃における粘度が1cP以上100000cP以下であることが好ましく、5cP以上10000cP以下であることがより好ましく、10cP以上8000cP以下であることが更に好ましく、50cP以上6000cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、原料炭素材を造粒する際に、ローターやケーシングとの衝突などの衝撃力による付着粒子の脱離を妨ぐことが可能となる。
【0046】
さらに、本発明で用いる造粒剤は、有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、あるいは引火点を有する場合は引火点が5℃以上のものである。これにより、続く第3工程における原料炭素材を造粒する際に、衝撃や発熱に誘発される有機化合物の引火、火災、及び爆発の危険を防止することができるため、安定的に効率良く製造を実施することが出来る。
【0047】
本発明で用いる造粒剤としては、例えば、コールタール、石油系重質油、流動パラフィンなどのパラフィン系オイルやオレフィン系オイルやナフテン系オイルや芳香族系オイルなどの合成油、植物系油脂類や動物系脂肪族類やエステル類や高級アルコール類などの天然油、引火点21℃以上の溶媒中に樹脂バインダを溶解させた樹脂バインダ溶液などの有機化合物、水などの水系溶媒、及びそれらの混合物などが挙げられる。樹脂バインダとしては、公知のものを使用することができる。例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、及びそれらの塩等のセルロース系の樹脂バインダ、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリル酸、及びそれらの塩等のアクリル系の樹脂バインダ、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のメタクリル系の樹脂バインダ、フェノール樹脂バインダ等を使用することができる。以上の中でも、コールタール、石油系重質油、流動パラフィンなどのパラフィン系オイル、芳香族系オイルが、球形化度が高く微粉が少ない負極材を製造できるため好ましい。
【0048】
造粒剤としては、効率よく除去が可能であり、容量や入出力特性や保存・サイクル特性などの電池特性への悪影響を与えることが無い性状のものが好ましい。具体的には、不活性雰囲気下700℃に加熱した時に通常50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上重量減少するものを適宜選択することが出来る。
【0049】
原料炭素材と造粒剤を混合する方法として、例えば、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法や、有機化合物を低粘度希釈溶媒に溶解させた造粒剤と原料炭素材を混合した後に該希釈溶媒を除去する方法等が挙げられる。また、続く第3工程にて原料炭素材を造粒する際に、造粒装置に造粒剤と原料炭素材とを投入して、原料炭素材と造粒剤を混合する工程と造粒する工程とを同時に行う方法も挙げられる。
【0050】
造粒剤の添加量は、原料炭素材100重量部に対して好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上、より更に好ましくは6重量部以上、こと更に好ましくは10重量部以上、特に好ましくは12重量部以上、最も好ましくは15重量部以上であり、好ましくは1000重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは80重量部以下、特に好ましくは50重量部以下、最も好ましくは20重量部以下である。上記範囲内にあると、粒子間付着力の低下による球形化度の低下や、装置への原料炭素材の付着による生産性の低下といった問題が生じ難くなる。
【0051】
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程
本発明は、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を造粒する工程により製造されることが好ましい。この工程に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に、原料炭素材の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し与える装置を用いることができる。
【0052】
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された原料炭素材に対して衝撃、圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、原料炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返し与える機構を有するものであるのが好ましい。
このような装置としては、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン、クリプトロンオーブ(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム、ノビルタ、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)、COMPOSI(日本コークス工業製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0053】
前記装置を用いて処理する場合、例えば、回転するローターの周速度は好ましくは30m/秒以上、より好ましくは50m/秒以上、更に好ましくは60m/秒以上、特に好ましくは70m/秒以上、最も好ましくは80m/秒以上であり、好ましくは100m/秒以下である。上記範囲内であると、より効率的に球形化と同時に微粉の母材への付着や母材による内包を行うことができるため好ましい。
また、原料炭素材に機械的作用を与える処理は、単に原料炭素材を通過させるだけでも可能であるが、原料黒鉛を30秒以上、装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、より好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上、装置内を循環又は滞留させて処理する。
【0054】
また原料炭素材を造粒する工程においては、原料炭素材を、その他の物質存在下で造粒してもよく、その他の物質としては、例えばリチウムと合金化可能な金属或いはその酸化物、非晶質炭素、及び生コークスなどが挙げられる。原料炭素材以外の物質と併せて造粒することで様々なタイプの粒子構造の非水系二次電池用負極材を製造できる。
【0055】
また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に全量投入してもよく、分けて逐次投入してもよく、連続投入してもよい。また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に同時に投入してもよく、混合して投入してもよく、別々に投入してもよい。原料炭素材と造粒剤と上記その他の物質を同時に混合してもよいし、原料炭素材と造粒剤を混合したものに上記その他の物質を添加してもよいし、その他の物質と造粒剤を混合したものに原料炭素材を添加してもよい。粒子設計に併せて、別途適切なタイミングで添加・混合することができる。
【0056】
(第4工程)造粒炭素材に、さら造粒炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工

本発明では、造粒炭素材に、さらに造粒炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工
程を有する。この工程によれば、電解液との副反応抑制や、急速充放電性の向上できる負
極材を得ることができる。
造粒炭素材に、さらに造粒炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着した複合炭素材を「
炭素質物複合炭素材」と呼ぶことがある)。
【0057】
造粒炭素材への炭素質物添着処理は炭素質物となる有機化合物と、造粒炭素材を混合し、非酸化性雰囲気下、好ましくは窒素、アルゴン、二酸化炭素などの流通下に加熱して、有機化合物を炭素化又は黒鉛化させる処理である。
【0058】
炭素質物となる具体的な有機化合物としては、軟質ないし硬質の種々のコールタールピッチや石炭液化油などの炭素系重質油、原油の常圧又は減圧蒸留残渣油などの石油系重質油、ナフサ分解によるエチレン製造の副生物である分解系重質油など種々のものを用いることができる。
また、分解系重質油を熱処理することで得られるエチレンタールピッチ、FCCデカントオイル、アシュランドピッチなどの熱処理ピッチ等を挙げることができる。さらにポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等のビニル系高分子と3−メチルフェノールホルムアルデヒド樹脂、3,5−ジメチルフェノールホルムアルデヒド樹脂等の置換フェノール樹脂、アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジンなどの窒素環化合物、チオフェンなどのイオウ環化合物などを挙げることができる。また、固相で炭素化を進行させる有機化合物としては、セルロースなどの天然高分子、ポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリルなどの鎖状ビニル樹脂、ポリフェニレン等の芳香族系ポリマー、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等熱硬化性樹脂やフルフリルアルコールのような熱硬化性樹脂原料などを挙げることができる。これらの中でも石油系重質油が好ましい。
【0059】
加熱温度(焼成温度)は混合物の調製に用いた有機化合物により異なるが、通常は800℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上に加熱して十分に炭素化又は黒鉛化させる。加熱温度の上限は有機化合物の炭化物が、天然黒鉛の結晶構造と同等の結晶構造に達しない温度であり、通常は高くても3500℃である。加熱温度の上限は3000℃、好ましくは2000℃、より好ましくは1500℃に止めるのが好ましい。
【0060】
上述したような処理を行った後、次いで解砕及び/又は粉砕処理を施すことにより、炭素質物複合炭素材とすることができる。
形状は任意であるが、平均粒径は、通常2〜50μmであり、5〜35μmが好ましく、特に8〜30μmである。上記粒径範囲となるよう、必要に応じて、解砕及び/又は粉砕及び/又は分級を行う。
炭素質物複合炭素材中の炭素質物の含有量は、原料となる造粒炭素材に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3%以上、特に好ましくは0.7質量%以上であり、また前記含有量は、通常20質量%以下、好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは7質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。
【0061】
炭素質物複合炭素材中の炭素質物の含有量が多すぎると、非水系二次電池において高容量を達成する為に十分な圧力で圧延を行った場合に、負極材にダメージが与えられて材料破壊が起こり、初期サイクル時充放電不可逆容量の増大、初期効率の低下を招く傾向がある。
一方、含有量が小さすぎると、被覆による効果が得られにくくなる傾向がある。
【0062】
また、炭素質物複合炭素材中の炭素質物の含有量は、下記式のように材料焼成前後のサンプル質量より算出できる。なおこのとき、造粒炭素材の焼成前後質量変化はないものとして計算する。
【0063】
炭素質物の含有量(質量%)=[(w2−w1)/w1]×100
(w1を造粒炭素材の質量(kg)、w2を炭素質物複合炭素材の質量(kg)とする)
【0064】
(その他の工程)
本発明では、必要に応じて、他の工程を第1工程〜第4工程の前後もしくは間に適宜行っても良い。
・造粒剤を除去する工程
本発明においては、前記造粒剤を除去する工程を有していてもよい。造粒剤を除去する方法としては、例えば、溶剤により洗浄する方法や、熱処理により造粒剤を揮発・分解除去する方法が挙げられる。
熱処理温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは200℃以上、より更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは400℃以上、最も好ましくは500℃であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1000℃以下、更に好ましくは800℃以下である。上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産性を向上できる。
【0065】
熱処理時間は、好ましくは0.5〜48時間、より好ましくは1〜40時間、更に好ましくは2〜30時間、特に好ましくは3〜24時間である。上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産性を向上できる。
【0066】
熱処理の雰囲気は、大気雰囲気などの活性雰囲気、もしくは、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気があげられ、200℃〜300℃で熱処理する場合には特段制限はないが、300℃以上で熱処理を行う場合には、炭素材表面の酸化を防止する観点で、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気が好ましい。
【0067】
・造粒炭素材を高純度化する工程
本発明においては、造粒炭素材を高純度化する工程を有していてもよい。造粒炭素材を高純度化する方法としては、硝酸や塩酸を含む酸処理を行う方法が挙げられ、活性の高い硫黄元となりうる硫酸塩を系内に導入することなく炭素材中の金属、金属化合物、無機化合物などの不純物を除去できるため好ましい。
なお、上記酸処理は、硝酸や塩酸を含む酸を用いればよく、その他の酸、例えば、臭素酸、フッ酸、ホウ酸あるいはヨウ素酸などの無機酸、または、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリクロロ酢酸あるいはトリフルオロ酢酸などの有機酸を適宜混合した酸を用いることもできる。好ましくは濃フッ酸、濃硝酸、濃塩酸であり、より好ましくは濃硝酸、濃塩酸である。なお、本発明において硫酸にて黒鉛を処理してもよいが、本発明の効果や物性を損なわない程度の量と濃度にて用いることとする。
【0068】
酸を複数用いる場合、例えば、フッ酸、硝酸、塩酸の組み合わせが、上記不純物を効率良く除去できるため好ましい。上記のように酸の種類を組み合わせた場合の混合酸の混合比率は、最も少ないものが通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは、25質量%以上である。上限は、全て等量混合した値である(100質量%/酸の種類で表される)。
【0069】
酸処理における黒鉛と酸の混合比率(質量比率)は、通常100:10以上、好ましく
は100:20以上、より好ましくは、100:30以上、更に好ましくは、100:40以上であり、また100:1000以下、好ましくは100:500以下、より好ましくは100:300以下である。
【0070】
酸処理は、炭素材を前記のような酸性溶液に浸漬することにより行われる。浸漬時間は、通常0.5〜48時間、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜30、更に好ましくは、3〜24時間である。
浸漬温度は、通常25℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは、60℃以上である。水系の酸を用いる場合の理論上限は水の沸点である100℃である。
【0071】
酸洗浄により残った酸分を除去し、pHを弱酸性から中性域にまで上昇させる目的で、更に水洗浄を実施することが好ましい。例えば、前記処理黒鉛のpHが、通常3以上、好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは4.5以上であれば、水で洗浄することは省略できるし、もし上記範囲でなければ、必要に応じて水で洗浄することが好ましい。洗浄する水は、イオン交換水や蒸留水を用いることが、洗浄効率の向上、不純物混入防止の観点から好ましい。水中のイオン量の指標となる比抵抗が、通常0.1MΩ・cm以上、好ましくは1MΩ・cm以上、より好ましくは、更に好ましくは10MΩ・cm以上、である。25℃での理論上限は18.24MΩ・cmである。
【0072】
水で洗浄する、つまり前記処理黒鉛と水とを撹拌する時間は、通常0.5〜48時間、好ましくは1〜40時間、より好ましくは2〜30時間、更に好ましくは、3〜24時間である。
前記処理炭素材と水との混合割合は、通常100:10以上、好ましくは100:30以上、より好ましくは、100:50以上、更に好ましくは、100:100以上であり、また100:1000以下、好ましくは100:700以下、より好ましくは100:500以下、更に好ましくは100:400以下である。
【0073】
撹拌温度は、通常25℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは、60℃以上である。上限は水の沸点である100℃である。また、水洗浄処理をバッチ式にて行う場合は、純水中での攪拌−ろ過の処理工程を複数回繰り返して洗浄行うことが不純物・酸分除去の観点から好ましい。上記処理は、上述した処理炭素材のpHが上記範囲になるように繰り返し行ってもよい。通常、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは、3回以上である。
【0074】
上述したように処理を施すことにより、得られた炭素材の廃水イオン濃度が、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、また通常1ppm以上、好ましくは2ppm以上、より好ましくは3ppm以上、更に好ましくは4ppm以上となる。
【0075】
・造粒炭素材を熱処理する工程
本発明においては、造粒炭素材の不安定炭素量や結晶性を調整するため、熱処理する工程を有していてもよい。
上述の造粒処理を施す場合には炭素材粒子表面の不安低炭素量が増大しすぎる場合があり、熱処理を行なうことによって、不安低炭素量を適度に少なくすることができる。
熱処理時の温度条件は特に制限されないが、目的とする結晶化度の程度に応じて、通常300℃以上、好ましくは500℃、更に好ましくは700℃、特に好ましくは800℃以上、また、通常2000℃以下、好ましくは1500℃以下、特に好ましくは1200℃以下の範囲である。上記温度条件であると、炭素材粒子表面の結晶性を適度に高めることができる。
また、造粒炭素材として結晶性が低い炭素材を含有する場合、放電容量を大きくすること目的とし、本工程において結晶性の低い炭素材を黒鉛化して結晶性を高めることが出来る。熱処理時の温度条件は特に制限されないが、目的とする結晶化度の程度に応じて、通常600℃以上、好ましくは900℃、更に好ましくは1600℃、特に好ましくは2500℃以上、また、通常3200℃以下、好ましくは3100℃以下の範囲である。上記温度条件であると、炭素材粒子表面の結晶性を高めることができる。
熱処理を行なう時に、温度条件を上記範囲に保持
する保持時間は特に制限されないが、通常10秒より長時間であり、72時間以下である。
熱処理は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、又は、原料黒鉛から発生するガスによる非酸化性雰囲気下で行なう。熱処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、シャトル炉、トンネル炉、電気炉、リードハンマー炉、ロータリーキルン、直接通電炉、アチソン炉、抵抗加熱炉、誘導加熱炉等を用いることができる。
【0076】
[炭素材料の混合]
また、本発明では、極板の配向性、電解液の浸透性、導電パス等を向上させ、サイクル特性、極版膨れ等の改善を目的とし、前記造粒炭素材とは異なる炭素材料を混合することができる(以下、前記造粒炭素材に、前記造粒炭素材とは異なる炭素材料を混合して得られた炭素材を「混合炭素材」と呼ぶことがある)。
前記炭素材とは異なる炭素材料としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、炭素材を炭素質物で被覆した被覆黒鉛、非晶質炭素、金属粒子や金属化合物を含有した炭素材の中から選ばれる材料を用いることができる。これらの材料は、何れかを一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で併用しても良い。
【0077】
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した炭素材や球形化した天然黒鉛を用いることができる。本発明でいう高純度化とは、通常、塩酸、硫酸、硝酸、弗酸などの酸中で処理する、若しくは複数の酸処理工程を組み合わせて行なうことにより、低純度天然黒鉛中に含まれる灰分や金属等を溶解除去する操作のことを意味し、通常、酸処理工程の後に水洗処理等を行ない高純度化処理工程で用いた酸分の除去をする。また、酸処理工程の代わりに2000℃以上の高温で処理することにより、灰分や金属等を蒸発、除去しても構わない。また、高温熱処理時に塩素ガス等ハロゲンガス雰囲気で処理することにより灰分や金属等を除去しても構わない。更にまた、これらの手法を任意に組み合わせて用いても良い。
【0078】
天然黒鉛の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは12μm以上また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下の範囲である。平均粒径がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
天然黒鉛のBET比表面積は、通常1m/g以上、好ましくは2m/g以上、また、通常30m/g以下、好ましくは15m/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
また、天然黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm以上、0.7g/cm以上が好ましく、0.8g/cm以上がより好ましく、0.85g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.3g/cm以下、1.2g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。この範囲であれば高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
【0079】
人造黒鉛としては、炭素材を黒鉛化した粒子等が挙げられ、例えば、単一の黒鉛前駆体粒子を粉状のまま焼成、黒鉛化した粒子や、複数の黒鉛前駆体粒子を成形し焼成、黒鉛化し解砕した造粒粒子などを用いることができる。
人造黒鉛の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通
常60μm以下、好ましくは40μm、更に好ましくは30μm以下の範囲である。この範囲であれば、極板膨れの抑制や工程性が良好となるため好ましい。
人造黒鉛のBET比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは1.0m/g以上、また、通常8m/g以下、好ましくは6m/g以下、更に好ましくは4m2/g以下の範囲である。この範囲であれば、極板膨れの抑制や工程性が良好となるため好ましい。
【0080】
また、人造黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm以上、0.7g/cm以上が好ましく、0.8g/cm以上がより好ましく、0.85g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.5g/cm以下、1.4g/cm以下が好ましく、1.3g/cm以下がより好ましい。この範囲であれば、極板膨れの抑制や工程性が良好となるため好ましい。
【0081】
炭素材を炭素質物で被覆した被覆黒鉛としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛に上述した炭素質物の前駆体である有機化合物を被覆、焼成及び/又は黒鉛化した粒子や、天然黒鉛や人造黒鉛に炭素質物をCVDにより被覆した粒子を用いることができる。
【0082】
被覆黒鉛の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは12μm以上また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下の範囲である。平均粒径がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
被覆黒鉛のBET比表面積は、通常1m/g以上、好ましくは2m/g以上、更に好ましくは2.5m/g以上、また、通常20m/g以下、好ましくは10m/g以下、更に好ましくは8m/g以下、特に好ましくは5m/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
【0083】
また、被覆黒鉛のタップ密度は、通常0.6g/cm以上、0.7g/cm以上が好ましく、0.8g/cm以上がより好ましく、0.85g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.3g/cm以下、1.2g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。タップ密度がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
【0084】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、易黒鉛化性有機化合物を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。
非晶質炭素の体積基準平均粒径は、通常5μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下の範囲である。この範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
非晶質炭素のBET比表面積は、通常1m/g以上、好ましくは2m/g以上、更に好ましくは2.5m/g以上、また、通常8m/g以下、好ましくは6m/g以下、更に好ましくは4m/g以下の範囲である。比表面積がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
【0085】
また、非晶質炭素のタップ密度は、通常0.6g/cm以上、0.7g/cm以上が好ましく、0.8g/cm以上がより好ましく、0.85g/cm以上が更に好ましい。また、通常1.3g/cm以下、1.2g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以下がより好ましい。タップ密度がこの範囲であれば、高速充放電特性、工程性が良好となるため好ましい。
【0086】
金属粒子や金属化合物を含有した炭素材は、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Ag、Si、Sn、Al、Zr、Cr、P、S、V、Mn、Nb、Mo、Cu、Z
n、Ge、In、Ti等からなる群から選ばれる金属又はその化合物を黒鉛と複合化した材料が挙げられる。用いることができる金属又はその化合物としては、2種以上の金属からなる合金を使用しても良く、金属粒子が、2種以上の金属元素により形成された合金粒子であってもよい。これらの中でも、Si、Sn、As、Sb、Al、Zn及びWからなる群から選ばれる金属又はその化合物が好ましく、中でも好ましくはSi及びSiOxである。この一般式SiOxは、二酸化Si(SiO2)と金属Si(Si)とを原料として得られるが、そのxの値は通常0<x<2であり、好ましくは0.2以上、1.8以下、より好ましくは0.4以上、1.6以下、更に好ましくは0.6以上、1.4以下である。この範囲であれば、高容量であると同時に、Liと酸素との結合による不可逆容量を低減させることが可能となる。
金属粒子の体積基準平均粒径は、サイクル寿命の観点から、通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.03μm以上であり、通常10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下である。平均粒径がこの範囲であると充放電に伴う体積膨張が低減され、充放電容量を維持しつつ、良好なサイクル特性を得ることができる。
金属粒子のBET比表面積は、通常0.5m/g以上120m/g以下、1m/g以上100m/g以下であることが好ましい。比表面積が前記範囲内であると、電池の充放電効率および放電容量が高く、高速充放電においてリチウムの出し入れが速く、レート特性に優れるので好ましい。
【0087】
前記造粒炭素材と前記造粒炭素材とは異なる炭素材料を混合するために用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、
Pugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0088】
<非水系二次電池用炭素材の物性>
本発明の炭素材は、造粒炭素材の表面に炭素質物を含有し、且つ下記式1の関係を満足するものである。
(式1)
(第1のピークにおけるDTA[μV])/(第2のピークにおけるDTA[μV] )≧
0.4
【0089】
上記式1で表される関係が満足できない場合、Liイオン挿入脱離サイトが不十分になり、低温入出力特性が低下する傾向がある。なお、上記式(1)の計算に用いる各物性の測定方法については後述する。
【0090】
本発明の炭素材は上記式(1)を満足するものであれば特に制限されない。以下、本発明材の炭素材の好ましい物性を記載する。
【0091】
・BET比表面積(SA)
本発明の炭素材のBET法により測定した比表面積(SA)は、通常1m/g以上、
好ましくは2m/g以上、より好ましくは2.5m/g以上、更に好ましくは4m
/g以上、最も好ましくは5m/g以上、最も好ましくは6m/g以上である。また
、好ましくは30m/g以下、より好ましくは20m/g以下、更に好ましくは10
/g以下である。比表面積が上記範囲内であると、Liが出入りする部位を十分確保
することができるため高速充放電特性出力特性に優れ、活物質の電解液に対する活性も適
抑えることができるため、初期不可逆容量が大きくならず、高容量電池を製造できる
傾向にある。
【0092】
また、炭素材を使用して負極を形成した場合の、その電解液との反応性の増加を抑制でき、ガス発生を抑えることができるため、好ましい非水系二次電池を提供することができる。 BET比表面積は、表面積計(例えば大倉理研社製比表面積測定装置「AMS8000」)を用い、炭素材試料に対して窒素流通下100℃、3時間の予備減圧乾燥を行なった後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET法によって測定した値として定義する。
【0093】
・TG−DTA測定
本発明の炭素材は、TG−DTA測定を実施したとき、得られるDTA(Differential
Thermal Analysis)曲線が、500℃以上1000℃以下の範囲に相対的に低温側の第
1のピークと、相対的に高温側の第2のピークとを有する。500℃以上1000℃以下の範囲に相対的に低温側の第1のピークは、主に低結晶性の炭素質物成分の燃焼に由来するものであると考えられる。また、相対的に高温側の第2のピークは主に造粒炭素材を構成している黒鉛の燃焼に由来するものであると考えられる。本発明の炭素材の第1のピークと第2のピークの比は、従来の黒鉛粒子の表面に炭素質物を含有する炭素材に比べ、第1のピークが高い。これは比表面積が高い、且つ低結晶性の炭素質物成分が十分に存在するためであると考えられる。
よって、本発明の炭素材の第1のピークと第2のピークの比「(第1のピークにおけるDTA[μV])/(第2のピークにおけるDTA[μV])」は、通常0.5以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは、0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。また、通常3.0以下、好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
なお、TG−DTA測定は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0094】
・体積基準平均粒径(d50)
本発明の炭素材の体積基準平均粒径(「d50」とも記載する)は好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは8μm以上である。また平均粒径d50は、通常50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下である。平均粒径d50が小さすぎると、前記炭素材を用いて得られる非水系二次電池の不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を招く傾向があり、一方平均粒径d50が大きすぎるとスラリー塗布における筋引きなどの工程不都合の発生、高電流密度充放電特性の低下、低温入出力特性の低下を招く場合がある。
【0095】
また、本明細書において平均粒径d50は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標)が挙げられる)の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、これを測定サンプルとして市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製LA−920)に導入し、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、前記測定装置において体積基準のメジアン径として測定したものであると定義する。
【0096】
・真密度
本発明の炭素材の真密度は、好ましくは1.9g/cm3以上、より好ましくは2g/
cm3以上、更に好ましくは2.1g/cm3以上、特に好ましくは2.2g/cm3以上
であり、上限は2.26g/cm3である。上限は黒鉛の理論値である。
【0097】
真密度が上記範囲内であると、Liイオンが挿入脱離しやすい結晶性の低い構造が適度に得られるため、良好な入出力特性を得ることができる。
真密度は、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメータ法)によって測
定したもので定義する。
【0098】
・タップ密度
本発明の炭素材のタップ密度は通常0.75g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは0.85g/cm以上、特に好ましくは0.90g/cm以上、好ましくは1.3g/cm以下であり、より好ましくは1.2g/cm以下であり、更に好ましくは1.1g/cm以下である。
【0099】
タップ密度が上記範囲内であると、極板化作製時のスジ引きなどの工程性が良好になり高速充放電特性に優れる。また、粒子内炭素密度が上昇し難いため圧延性も良好で、高密度の負極シートを形成する易くなる傾向にある。
前記タップ密度は、粉体密度測定器を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して本発明の炭素材を落下させて、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なって、その時の体積と試料の質量から求めた密度として定義する。
【0100】
・ラマンR値
本発明の炭素材の下記式1で表されるラマンR値は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上、特に好ましくは0.3以上、最も好ましくは0.35以上である。また、ラマンR値の上限に特に制限はないが、通常1以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0101】
式1ラマン値R=ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I/1580cm-1付近のピークPの強度I
なお、本明細書において「1580cm−1付近」とは1580〜1620cm-1の範囲を、「1360cm−1付近」とは1350〜1370cm-1の範囲を指す。
【0102】
ラマンR値が上記範囲内であれば、炭素材粒子表面の結晶性が適度であるため、Liイオン挿入脱離サイトが十分に存在できるため、良好な低温入出力特性と放電容量を持つ炭素材が得られる傾向がある。
【0103】
前記ラマンスペクトルは、ラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。測定条件は以下の通りである。
【0104】
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
【0105】
・円形度
本発明の炭素材の円形度は、0.88以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは
0.91以上、更に好ましくは0.92以上である。また、円形度は好ましくは1以下、
より好ましくは0.98以下、更に好ましくは0.97以下である。円形度が上記範囲内
であると、非水系二次電池の高電流密度充放電特性の低下を抑制できる傾向にある。なお
、円形度は以下の式で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
円形度が上記範囲内であると、Liイオン拡散の屈曲度が下がって粒子間空隙中の電解
液移動がスムーズになり、且つ適度に炭素材同士が接触することが可能なため、良好な急
速充放電特性、及びサイクル特性を示す傾向がある。
【0106】
円形度=(粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長)/(粒子投影形状の実際の周囲長)
【0107】
円形度の値としては、例えば、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックスインダストリアル社製FPIA)を用い、試料(炭素材)約0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約50mL)に分散させ、分散液に28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が1.5〜40μmの範囲の粒子について測定した値を用いる。
【0108】
・X線パラメータ
本発明の炭素材の、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、好ましくは0.335nm以上、0.340nm未満である。ここで、d値はより好ましくは0.339nm以下、更に好ましくは0.337nm以下である。d002値が上記範囲内にあると、黒鉛の結晶性が高いため、初期不可逆容量が増加を抑制する傾向にある。ここで、0.335nmは黒鉛の理論値である。
【0109】
また、学振法によるX線回折で求めた前記炭素材の結晶子サイズ(Lc)は、好ましくは1.5nm以上、より好ましくは3.0nm以上の範囲である。上記範囲内であると、結晶性が低過ぎない粒子となり、非水系二次電池とした場合に可逆容量が減少し難くなる。なお、Lcの下限は黒鉛の理論値である。
【0110】
<非水系二次電池用負極>
本発明の非水系二次電池用負極(以下適宜「電極シート」ともいう。)は、集電体と、集電体上に形成された負極活物質層とを備えると共に、活物質層は少なくとも本発明の炭素材とを含有することを特徴とする。更に好ましくはバインダを含有する。
バインダとしては、分子内にオレフィン性不飽和結合を有するものを用いる。その種類は特に制限されないが、具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダを用いることにより、活物質層の電解液に対する膨潤性を低減することができる。中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0111】
このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダと、前述の活物質とを組み合わせて用いることにより、負極板の強度を高くすることができる。負極の強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。また、本発明に係る負極では、活物質層と集電体との接着強度が高いので、活物質層中のバインダの含有量を低減させても、負極を捲回して電池を製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0112】
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダとしては、その分子量が大きいものか、或いは、不飽和結合の割合が大きいものが望ましい。具体的に、分子量が大きいバインダの場合には、その重量平均分子量が好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、また、好ましくは100万以下、より好ましくは30万以下の範囲にあるものが望ましい。また、不飽和結合の割合が大きいバインダの場合には、全バインダの1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数が、好ましくは2.5×10−7モル以上、より好ましくは8×10−7モル以上、また、好ましくは1×10−6モル以下、より好ましくは5×1
−6モル以下の範囲にあるものが望ましい。バインダとしては、これらの分子量に関する規定と不飽和結合の割合に関する規定のうち、少なくとも何れか一方を満たしていればよいが、両方の規定を同時に満たすものがより好ましい。オレフィン性不飽和結合を有するバインダの分子量が上記範囲内であると機械的強度と可撓性に優れる。
【0113】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダは、その不飽和度が、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは40%以上、また、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。なお、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位に対する二重結合の割合(%)を表す。
本発明においては、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダも、本発明の効果が失われない範囲において、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダと併用することができる。オレフィン性不飽和結合を有するバインダに対する、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの混合比率は、好ましくは150質量%以下、より好ましくは120質量%以下の範囲である。
【0114】
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダを併用することにより、塗布性を向上することができるが、併用量が多すぎると活物質層の強度が低下する。
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサンタンガム)等の増粘多糖類、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ酸、或いはこれらポリマーの金属塩、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのアルカン系ポリマー及びこれらの共重合体などが挙げられる。
【0115】
本発明の炭素材は、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダとを組み合わせて用いた場合、活物質層に用いるバインダの比率を従来に比べて低減することができる。具体的に、本発明の炭素材と、バインダ(これは場合によっては、上述のように不飽和結合を有するバインダと、不飽和結合を有さないバインダとの混合物であってもよい。)との質量比率は、それぞれの乾燥質量比で、好ましくは90/10以上、より好ましくは95/5以上であり、好ましくは99.9/0.1以下、より好ましくは99.5/0.5以下の範囲である。バインダの割合が上記範囲内であると容量の減少や抵抗増大を抑制でき、さらに極板強度にも優れる。
【0116】
本発明の負極は、上述の本発明の炭素材とバインダとを分散媒に分散させてスラリーとし、これを集電体に塗布することにより形成される。分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。このスラリーには更に、所望により導電剤を加えてもよい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などが挙げられる。導電剤の添加量は、本発明の炭素材に対して好ましくは10質量%以下程度である。
【0117】
スラリーを塗布する集電体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、圧延銅箔、電解銅箔、ステンレス箔等の金属薄膜が挙げられる。集電体の厚さは、好ましくは4μm以上、より好ましくは6μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
スラリーを集電体上に塗布した後、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、また、好ましくは200℃以下、より好ましくは195℃以下の温度で、乾燥空気又は不活性雰囲気下で乾燥し、活物性層を形成する。
【0118】
スラリーを塗布、乾燥して得られる活物質層の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層の厚みが上記範囲内であると、活物質の粒径との兼ね合いから負極としての実用性に優れ、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能を得ることができる。
【0119】
活物質層における炭素材の密度は、用途により異なるが、容量を重視する用途では、好ましくは1.30g/cm3以上、より好ましくは1.35g/cm3以上、更に好ましくは1.40g/cm3以上、特に好ましくは1.50g/cm3以上である。また、好ましくは1.9g/cm以下である。密度が上記範囲内であると、単位体積あたりの電池の容量は充分確保でき、レート特性も低下し難くなる。
【0120】
以上説明した本発明の炭素材を用いて非水系二次電池用負極を作製する場合、その手法や他の材料の選択については、特に制限されない。また、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を作製する場合も、リチウムイオン二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、本発明の炭素材を用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0121】
<非水系二次電池>
本発明の非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。負極としては、上述した本発明の負極を用いる。
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
【0122】
正極活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、モリブデンの酸化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、タングステンの酸化物などの遷移金属酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの硫化物、チタンの硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物、NiPS、FePS等の遷移金属のリン−硫黄化合物、VSe、NbSeなどの遷移金属のセレン化合物、Fe0.250.75、Na0.1CrSなどの遷移金属の複合酸化物、LiCoS、LiNiSなどの遷移金属の複合硫化物等が挙げられる。
【0123】
これらの中でも、V、V13、VO、Cr、MnO、TiO、MoV、LiCoO、LiNiO、LiMn、TiS、V、Cr0.250.75、Cr0.50.5などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO、LiNiO、LiMnや、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0124】
正極活物質を結着するバインダとしては、公知のものを任意に選択して用いることができる。例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の不飽和結合を有さない樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、不飽和結合を有さない樹脂である。正極活物質を結着する樹脂として不飽和結合を有する樹脂を用いると酸化反応時に分解される恐れがある。これらの樹脂の重量平均分子量は通常1万以上、好ましくは10万以上、また、通常300万以下、好ましくは100万以下の範囲である。
【0125】
正極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電剤としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
正極板は、前記したような負極の製造と同様の手法で、正極活物質やバインダを溶剤でスラリー化し、集電体上に塗布、乾燥することにより形成する。正極の集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール(SUS)などが用いられるが、何ら限定されない。
【0126】
電解質としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液や、この非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしたものなどが用いられる。
非水系電解液に使用される非水系溶媒は特に制限されず、従来から非水系電解液の溶媒として提案されている公知の非水系溶媒の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類などが挙げられる。
【0127】
これらの非水系溶媒は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。混合溶媒の場合は、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組合せが好ましく、環状カーボネートが、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの混合溶媒であることが、低温でも高いイオン電導度を発現でき、低温充電不可特性が向上するという点で特に好ましい。中でもプロピレンカーボネートが非水系溶媒全体に対し、2質量%以上80質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上70質量%以下の範囲がより好ましく、10質量%以上60質量%以下の範囲がさらに好ましい。プロピレンカーボネートの割合が上記より低いと低温でのイオン電導度が低下し、プロピレンカーボネートの割合が上記より高いと、黒鉛系電極を用いた場合にはリチウムイオンに溶媒和したプロピレンカーボネートが黒鉛相間へ共挿入することにより黒鉛系負極活物質の層間剥離劣化がおこり、十分な容量が得られなくなる問題がある。
【0128】
非水系電解液に使用されるリチウム塩も特に制限されず、この用途に用い得ることが知られている公知のリチウム塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、LiCl、LiBrなどのハロゲン化物、LiClO、LiBrO、LiClOなどの過ハロゲン酸塩、LiPF、LiBF、LiAsFなどの無機フッ化物塩などの無機リチウム塩、LiCFSO、LiCSOなどのパーフルオロアルカンスルホン酸塩、Liトリフルオロスルフォンイミド((CFSONLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩などの含フッ素有機リチウム塩などが挙げられ、この中でもLiClO、LiPF、LiBFが好ましい。
【0129】
リチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5mol/L以上、2.0mol/L以下の範囲である。
また、上述の非水系電解液に有機高分子化合物を含ませ、ゲル状、ゴム状、或いは固体シート状にして使用する場合、有機高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物;ポリエーテル系高分子化合物の架橋体高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのビニルアルコール系高分子化合物;ビニルアルコール系高分子化合物の不溶化物;ポリエピクロルヒド
リン;ポリフォスファゼン;ポリシロキサン;ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリルなどのビニル系高分子化合物;ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート)、ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート−co−メチルメタクリレート)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)等のポリマー共重合体などが挙げられる。
【0130】
上述の非水系電解液は、更に被膜形成剤を含んでいても良い。被膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイドなどのアルケンサルファイド;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物などの酸無水物などが挙げられる。更に、ジフェニルエーテル、シクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。上記添加剤を用いる場合、その含有量は通常10質量%以下、中でも8質量%以下、更には5質量%以下、特に2質量%以下の範囲が好ましい。上記添加剤の含有量が多過ぎると、初期不可逆容量の増加や低温特性、レート特性の低下等、他の電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0131】
また、電解質として、リチウムイオン等のアルカリ金属カチオンの導電体である高分子固体電解質を用いることもできる。高分子固体電解質としては、前述のポリエーテル系高分子化合物にリチウムの塩を溶解させたものや、ポリエーテルの末端水酸基がアルコキシドに置換されているポリマーなどが挙げられる。
正極と負極との間には通常、電極間の短絡を防止するために、多孔膜や不織布などの多孔性のセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、多孔性のセパレータに含浸させて用いる。セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエーテルスルホンなどが用いられ、好ましくはポリオレフィンである。
【0132】
本発明の非水系二次電池の形態は特に制限されない。例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0133】
本発明の非水系二次電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよいが、例を挙げると、外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池にすることができる。
【実施例】
【0134】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。 実施例において、製造した負極材の物性は以下の方法により測定した。
【0135】
<電極シートの作製>
実施例又は比較例の黒鉛質粒子を用い、活物質層密度1.35±0.03g/cm3
活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材50.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を50.00±0.02g(固形分換算で0.500g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.5gを、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0136】
このスラリーを、集電体である厚さ10μmの銅箔上に、負極材料が6.0±0.3mg/cm2、又は12.0±0.3mg/cm2付着するように、伊藤忠マシニング製小型ダイコーターを用いて幅10cmに塗布し、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.35±0.03g/cm3になるよう調整し電極シートを得
た。
【0137】
<非水系二次電池(ラミネート型電池)の作製方法>
上記方法で作製した、負極材料が6.0±0.3mg/cm2付着した、活物質層の密
度が1.35±0.03g/cm3の電極シートを4cm×3cmに切り出し負極とし、
NMCからなる正極を同面積で切り出し、負極と正極の間にはセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、組み合わせた。エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(容積比=3:3:4)に、LiPFを1.2mol/Lになるように溶解させた電解液を200μl注液してラミネート型電池を作製した。
【0138】
<低温出力特性>
上記非水電解液二次電池の作製法により作製したラミネート型非水電解液二次電池を用いて、下記の測定方法で低温出力特性を測定した。
充放電サイクルを経ていない非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲4.1V〜3.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて3サイクル、電圧範囲4.2V〜3.0V、電流値0.2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電をさらに2.5時間実施)2サイクル、初期充放電を行った。
さらに、SOC50%まで電流値0.2Cで充電を行った後、−30℃の低温環境下で、1/8C、1/4C、1/2C、1.5C、2Cの各電流値で2秒間定電流放電させ、各々の条件の放電における2秒後の電池電圧の降下を測定し、それらの測定値から充電上限電圧を3Vとした際に、2秒間に流すことのできる電流値Iを算出し、3×I(W)という式で計算される値をそれぞれの電池の低温出力特性とした。
【0139】
<プレス荷重>
三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗測定システムMCP−PD51を用い、直径2cmの円柱型の容器に3.0gの炭素材を投入し、炭素材の密度が1.35g/ccとなるようにプレスを行い。そのときにかけた荷重をプレス荷重とした。
【0140】
<体積基準平均粒径(d50)>
界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標)が挙げられる)の0.2質量%水溶液10mLに、炭素材0.01gを懸濁させ、これを測定サンプルとして市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製LA−920)に導入し、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、前記測定装置において体積基準のメジアン径として測定した。
【0141】
<真密度>
真密度測定器(セイシン企業社製オート・トゥルーデンサーMAT−7000)を用い、液相置換法により炭素材試料の真密度を測定した。
【0142】
<BET比表面積(SA)>
表面積計(大倉理研社製比表面積測定装置「AMS8000」)を用い、炭素材0.4gをセルに充填し、炭素材試料に対して窒素流通下350℃で15分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウ
ム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET法によって測定した。
【0143】
<TG−DTA測定>
測定装置としてリガク社製差動型示差熱天秤TG8120を用いた。測定条件としては空気を100ml/minの流量で流し、昇温速度10℃/minとした。測定容器にはφ5mm×高さ2.5mmの白金パンを用い、測定サンプル質量は5mgとした。
【0144】
(実施例1)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を乾式旋回流式粉砕機により粉砕し、d50が8.1μm、タップ密度が0.39g/cm、水分量0.08質量%の鱗片状天然黒鉛を得た。得られた鱗片状天然黒鉛100gに造粒剤としてパラフィン系オイル(流動パラフィン、和光純薬工業社製、一級、25℃における物性:粘度=95cP、接触角=13.
2°、表面張力=31.7mN/m、rcоsθ=30.9)を12g添加して撹拌混合した後、得られたサンプルをハンマーミル(IKA社製MF10)で回転数3000rpmにて解砕混合し、造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を得た。得られた造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、球形化処理中に生成する微粉を母材に付着、及び球形化粒子に内包させながら、ローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行い、不活性ガス中で720℃熱処理を施すことで、d50が13μmの球形化黒鉛質粒子(造粒炭素材)を得た。
得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と原料黒鉛より結晶性が低い炭素質物(非晶質炭素)との質量比率(球形化天然黒鉛:非晶質炭素)は1:0.07であることが確認された。得られたサンプルのTG−DTA(第1ピーク)/(第2ピーク)
、真密度、d50、比表面積、低温出力特性、プレス荷重を測定した。結果を表1に示す。
【0145】
(実施例2)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を粉砕ローターとライナーを有する機械式粉砕機により粉砕し、d50が6μm、水分量0.08質量%の鱗片状天然黒鉛を得た。得られた鱗片状天然黒鉛100gに造粒剤としてパラフィン系オイル(流動パラフィン、和光純薬工業社製、一級、25℃における物性:粘度=95cP、接触角=13.2°、表面張
力=31.7mN/m、rcоsθ=30.9)を12g添加して撹拌混合した後、得られたサンプルをハンマーミル(IKA社製MF10)で回転数3000rpmにて解砕混合し、造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を得た。得られた造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、球形化処理中に生成する微粉を母材に付着、及び球形化粒子に内包させながら、ローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行い、d50が9.2μmの球形化黒鉛質粒子(造粒炭素材)を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.10であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0146】
(実施例3)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を粉砕ローターとライナーを有する機械式粉砕機により粉砕し、d50が30μm、水分量0.03質量%の鱗片状天然黒鉛を得た。得ら
れた鱗片状天然黒鉛100gに造粒剤としてパラフィン系オイル(流動パラフィン、和光純薬工業社製、一級、25℃における物性:粘度=95cP、接触角=13.2°、表面
張力=31.7mN/m、rcоsθ=30.9)を6g添加して撹拌混合した後、得られたサンプルをハンマーミル(IKA社製MF10)で回転数3000rpmにて解砕混合し、造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を得た。得られた造粒剤が均一に添着した鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、球形化処理中に生成する微粉を母材に付着、及び球形化粒子に内包させながら、ローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行い、d50が19.4μmの球形化黒鉛質粒子(造粒炭素材)を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化天然黒鉛と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.042であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0147】
(実施例4)
実施例3で得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.05であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0148】
参考例5)
実施例3で得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを
混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理すること
により、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成
収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質
量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.10であることが確認された。実施
例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0149】
(比較例1)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度85m/秒で3分間の機械的作用による球形化処理を行った。得られたサンプルには母材に付着、及び内包されていない状態の鱗片黒鉛や球形化処理中に生成する鱗片黒鉛状微粉が多く存在していることが確認された。このサンプルを分級により上記鱗片黒鉛状微粉を除去し、d50が15.7μmの球形化黒鉛質粒子を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.04であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0150】
(比較例2)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行った。得られたサンプルには母材に付着、及び内包されていない状態の鱗片黒鉛や球形化処理中に生成する鱗片黒鉛状微粉が多く存在していることが確認された。このサンプルを分級により上記鱗片黒鉛状微粉を除去し、d50が10.8μmの球形化黒鉛
質粒子を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1000℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.06であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0151】
(比較例3)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度85m/秒で3分間の機械的作用による球形化処理を行った。得られたサンプルには母材に付着、及び内包されていない状態の鱗片黒鉛や球形化処理中に生成する鱗片黒鉛状微粉が多く存在していることが確認された。このサンプルを分級により上記鱗片黒鉛状微粉を除去し、d50が15.7μmの球形化黒鉛質粒子を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で3000℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.15であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0152】
(比較例4)
d50が100μmの鱗片状天然黒鉛を、奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS−1型にて、ローター周速度85m/秒で10分間の機械的作用による球形化処理を行った。得られたサンプルには母材に付着、及び内包されていない状態の鱗片黒鉛や球形化処理中に生成する鱗片黒鉛状微粉が多く存在していることが確認された。このサンプルを分級により上記鱗片黒鉛状微粉を除去し、d50が7.8μmの球形化黒鉛質粒子を得た。得られた球形化黒鉛質粒子と一次粒子径が24nm、BET比表面積が115m2/g、DBP吸油量が110ml/100gのカーボンブラックを、球形化黒鉛質粒子100質量部に対して2質量部添加し、チョッパーによるカーボンブラック凝集体の粉砕機構とシャベルの回転による粉体の混合撹拌機構を有する回転式ミキサーにより、チョッパー回転数3000rpmで20分撹拌することで球形化黒鉛質粒子とカーボンブラックの複合体を得た。得られた複合体と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1100℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、球形化黒鉛質粒子とカーボンブラックの複合体と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、球形化黒鉛質粒子とカーボンブラックの複合体と非晶質炭素との質量比率(球形化天然黒鉛とカーボンブラックの複合体:非晶質炭素)は1:0.03であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0153】
(比較例5)
d50が5μmの鱗片状天然黒鉛と非晶質炭素前駆体としてコールタールピッチを混合し、不活性ガス中で1300℃熱処理を施した後、焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子と非晶質炭素とが複合化した炭素質物複合炭素材を得た。焼成収率から、得られた炭素質物複合炭素材において、黒鉛質粒子と非晶質炭素との質量比率(黒鉛質粒子:非晶質炭素)は1:0.06であることが確認された。実施例1同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
実施例1〜5は、規定粒度へ調整した鱗片状天然黒鉛に規定の物性の造粒剤を添加して造粒処理を行うことにより、TG−DTAの第一ピークと第二ピークの比を規定範囲内とすることが出来たため、プレス荷重が小さく、高い低温出力特性を示した。一方で、規定範囲外である比較例1〜5は低温入出力特性の低下やプレス荷重が大きくなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の炭素材は、それを非水系二次電池負極用の活物質として用いることにより、入出力特性とプレス特性が優れた非水系二次電池を提供することができる。また、当該材料の製造方法によれば、その工程数が少ない故、安定して効率的且つ安価に製造することができる。
図1