特許第6864428号(P6864428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6864428ジェランガムのゲル化促進方法及びゲル製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864428
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】ジェランガムのゲル化促進方法及びゲル製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/20 20160101AFI20210419BHJP
   A61K 8/00 20060101ALN20210419BHJP
   A61K 8/99 20170101ALN20210419BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20210419BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   A23L29/20
   !A61K8/00
   !A61K8/99
   !A61K9/06
   !A61K47/36
【請求項の数】25
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-89577(P2015-89577)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-202101(P2016-202101A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】窪 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】諸田 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 優見
(72)【発明者】
【氏名】藤田 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 克亮
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−258260(JP,A)
【文献】 特開2009−291163(JP,A)
【文献】 特開平04−158752(JP,A)
【文献】 特開2013−000111(JP,A)
【文献】 特開2014−212735(JP,A)
【文献】 特開2011−000074(JP,A)
【文献】 特開2009−011229(JP,A)
【文献】 日本食品科学工学会誌第59巻第11号2012年, pp.545-555
【文献】 Carbohydrate Polymers 84 (2011) pp.662-668
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含む方法。
【請求項2】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程
を含む、方法。
【請求項3】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に加熱しないことを特徴とする、方法。
【請求項4】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に加熱しないことを特徴とする、方法。
【請求項5】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、方法
【請求項6】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする方法。
【請求項7】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、方法
【請求項8】
脱アシル型ジェランガムのゲル化促進方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記ゲル化する工程後の前記分散液を65℃以上100℃以下で加熱する工程を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ジェランガムを分散させた分散液中のジェランガム濃度が0.15質量%〜1.0質量%である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
10MPa以上の圧力条件で、高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程
を含む、製造方法。
【請求項13】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項14】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程
を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項15】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項16】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程
を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項17】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項18】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、カリウム塩またはカルシウム塩を含む、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理して、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程
を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項19】
ゲルの製造方法であって、
脱アシル型ジェランガムを分散させた、pHが3.0以上4.6以下の分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する工程;及び
処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加し、前記脱アシル型ジェランガムをゲル化する工程を含み、
前記分散液を高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて処理する前に50℃以上で加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【請求項20】
前記ゲル化する工程後の前記分散液を65℃以上100℃以下で加熱する工程を含む、請求項12〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
10MPa以上の圧力条件で、高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて前記分散液を処理する、請求項12〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
40MPa以上の圧力条件で、高圧ホモジナイザー、高圧噴射装置又は湿式微粒化装置を用いて前記分散液を処理する、請求項12〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項23】
前記ジェランガムを分散させた分散液中のジェランガム濃度が0.15質量%〜1.0質量%である、請求項12〜22のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項24】
前記ゲル化する工程後の前記分散液を冷却する工程をさらに含む、請求項12〜23のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項25】
5℃以上50℃以下になるように、前記ゲル化する工程後の前記分散液を冷却する、請求項24に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェランガムのゲル化促進方法及びゲル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェランガムは微生物(Sphingomonas elodea; 以前はPseudomonas elodeaと呼ばれた)が菌体外に産出する高分子多糖類であり,少ない添加量でゲルを形成するため、増粘安定剤として広く利用されている。ジェランガムには脱アシル型ジェランガムとネイティブジェランガムの2つのタイプがあるが、脱アシル型ジェランガムのゲルは、耐酸性があり、食感としては適度なかたさと崩壊性を有し、風味に関してフレーバーリリースが良好で、外観上も透明性が高いので、特にゼリーに関する食品分野で広く使用されている。
【0003】
脱アシル型ジェランガムをゲル化するためには、一般に、カルシウムイオンを含有しない水性溶媒に脱アシル型ジェランガムを分散させ、90℃以上に加熱溶解した後、カルシウムイオンを添加し30〜40℃に冷却するという方法が用いられている。脱アシル型ジェランガムのゲル化機構としては、加熱溶解によって生じたランダムコイルが、冷却に伴いダブルヘリックスへと構造を変え、さらなる冷却でダブルヘリックス分子鎖が集合してゲルになるとされる。ゲル化に影響を与える因子としてはカリウムイオンやナトリウムイオンなどの1価イオン、カルシウムイオンなどの2価イオンの他、分子量、pH、熱履歴などが挙げられる(非特許文献1参照)。
【0004】
また、二価のカチオンは低い温度での脱アシル型ジェランガムの溶解を妨げることになる(非特許文献2参照)。このため、カルシウムイオンを含有した水性溶媒に脱アシル型ジェランガムを分散させ、加熱により溶解させるには100℃を越える温度が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】窪孝雄ら、日本食品科学工学会誌 第59巻 第11号 2012年 545−555頁
【非特許文献2】國崎直道・佐野征男、食品多糖類(幸書房)156−157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ジェランガムの新規なゲル化促進方法及びゲル製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、ジェランガムのゲル化促進方法であって、ジェランガムを分散させた分散液を加圧処理する工程を含む。前記分散液がカリウム塩またはカルシウム塩を含んでもよい。加圧処理した分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加してもよい。前記分散液を加圧処理する前に加熱しなくてもよい。その場合、前記分散液を加圧処理する前に90℃以上で加熱しないことが好ましい。加圧処理された前記分散液を65℃以上100℃以下で加熱してもよい。また、前記ジェランガムを分散させた分散液を10MPa以上の圧力で加圧処理してもよく、40MPa以上の圧力で加圧処理してもよい。
【0008】
本発明の他の実施態様は、ゲルの製造方法であって、ジェランガムを分散させた分散液を加圧処理し、前記分散液を加圧処理する前に加熱しないことを特徴とする。前記ジェランガムを分散させた分散液を加圧処理する前に90℃以上で加熱しないことが好ましい。加圧された前記分散液を65℃以上100℃以下で加熱してもよい。前記ジェランガムを分散させた分散液を10MPa以上の圧力で加圧処理してもよく、40MPa以上の圧力で加圧処理してもよい。前記ジェランガムを分散させた分散液がカリウム塩またはカルシウム塩を含んでもよいが、加圧処理された分散液にカリウム塩またはカルシウム塩を添加してもよい。前記ジェランガムを分散させた分散液でキャビテーションまたは摩擦力が発生するようにジェランガムを衝突させながら、ジェランガムに剪断力を加えながら、あるいはジェランガムを微細化しながら前記分散液を加圧処理してもよい。加圧処理された前記分散液のpHが1以上7以下であってもよい。前記ジェランガムを分散させた分散液中のジェランガム濃度が0.05〜4.00質量%であってもよい。上記いずれのゲルの製造方法においても、加圧処理された前記分散液を冷却する工程をさらに含んでもよく、5℃以上50℃以下になるように、前記分散液を冷却してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、ジェランガムの新規なゲル化促進方法及びゲル製造方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例を挙げながら、本発明の実施形態を詳細に述べる。
【0011】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==ジェランガム==
ジェランガムは直鎖状のヘテロ多糖類で、二つのD-グルコース残基とそれぞれ一つずつのL-ラムノース残基とD-グルクロン酸残基から構成される四糖の繰返し単位から構成されている。以下にその構造式を示す。
【0013】
[D-Glc(β1→4)D-GlcA(β1→4)D-Glc(β1→4)L-Rha(α1→3)]n
ジェランガムには、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの2種類が知られている。ネイティブ型ジェランガムでは、1−3結合したグルコースに由来するアシル基(アセチル基とグリセリル基)が存在するが、脱アシル型ジェランガムでは、これらアシル基が除去されている。本発明に用いるジェランガムは、脱アシル型ジェランガムが好ましい。
【0014】
==ジェランガムのゲル化促進方法==
本発明のジェランガムのゲル化促進方法は、ジェランガムを分散させた分散液を加圧処理する工程を含む。この方法でゲルを製造することによって、ジェランガムを溶解させるために与えなければならない熱エネルギーの量を少なくすることができる。加熱処理でゲル化するより、ゲルの食感が均一になり、口溶けが良くなる。以下、ジェランガムのゲル化促進方法について、詳細に述べる。
【0015】
まず、ジェランガムを水性溶媒に分散させることにより、ジェランガムの分散液を作製する。水性溶媒は特に限定されないが、水または塩を溶解した水溶液が好ましい。塩は特に限定されない。分散液のpHも特に限定されないが、ジェランガムは酸性側でゲル化しやすいため、pH1.0以上7.0以下が好ましく、pH1.0以上4.0以下あるいはpH3.0以上7.0以下がより好ましく、pH3.0以上4.6以下がさらに好ましく、pH3.0以上4.0以下が最も好ましい。ジェランガムの濃度は特に限定されず、0.05〜4.00%であってもよいが、0.07〜2.00%が好ましく、0.10〜1.00%がより好ましく、0.15〜1.00%がさらに好ましい。なお、本明細書で用いる濃度(%)は、いずれも質量%で表されるものとする。
【0016】
ジェランガムはカチオン存在下でゲル化する。カチオンは、加圧工程の前に添加し、分散液に含有させてもよく、加圧工程の後、冷却工程の前に添加してもよい。加圧工程の前に添加する場合、上記水性溶媒にジェランガムを分散する前にカチオンを加えても、分散した後に加えてもよい。その後、水性溶媒を混合し、塩を溶解させる。
【0017】
添加するカチオンは1価であっても2価であってもよく、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが例示できるが、カチオンの種類によって、得られるゲルの物性が異なる。特に、カルシウムイオンの存在はゲル強度に影響を与え、少量の添加によって、ゲル強度や耐熱性が上昇するため、本方法においても、カルシウムイオンを添加することが好ましい。
【0018】
カチオンは、塩として添加されるのが好ましい。添加される塩は特に限定されず、乳酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、塩化塩、炭酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩等が例示できる。具体的には、例えば、カルシウムイオンとしては乳酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム等を使用することができるが、乳酸カルシウムを使用することが好ましい。なお、添加する2価のカチオンの濃度は、0.005〜1.0%が好ましく、0.01〜0.5%がより好ましい。カリウムイオンとしては塩化カリウムや炭酸カリウム等を使用することができるが、塩化カリウムを使用することが好ましい。なお、添加する1価のカチオンの濃度は、0.005〜0.5%が好ましく、0.01〜0.3%がより好ましい。
【0019】
このようにして製造した、ジェランガムの分散液を加圧する。分散液を加圧前または加圧時に加熱する場合、90℃未満、好ましくは70℃未満、さらに好ましくは50℃未満であればよい(すなわち、90℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは50℃以上に加熱しない)が、加圧前に加熱しないことが最も好ましい。加圧自体で温度が上昇する場合でも、90℃以上にならないことが好ましく、70℃以上にならないことがより好ましく、50℃以上にならないことがさらに好ましい。
【0020】
加圧処理方法は特に限定されないが、キャビテーションまたは摩擦力が発生するように加圧してもよく、ジェランガムを衝突させながら、または微細化しながら、あるいはジェランガムに剪断力を加えながら加圧するのが好ましい。加圧に用いる装置も特に限定されないが、高圧ホモジナイザー(例えば、三和エンジニアリング(株)社製、(株)イズミフードマシナリ社製)、高圧噴射装置、湿式微粒化装置(例えば、装置名:スターバースト (株)スギノマシン社製、装置名:システマイザー (株)システムサポート社製)等が例示できる。加圧の際の圧力は特に限定されないが、10MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。また、1000MPa以下であることが好ましく、500MPa以下であることがより好ましく、400MPa以下であることがさらに好ましく、300MPa以下であることが一層好ましい。所定の圧力で加圧する時間は特に限定されないが、総処理時間は、30分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、1分以下であることがさらに好ましく、30秒以下であることが一層好ましく、10秒以下であることがなお一層好ましい。
【0021】
このようにして分散液を加圧処理した後、上限温度は50℃以下、または40℃以下、または30℃以下、そして下限温度は15℃以上、または10℃以上、または5℃以上となるように冷却すると、ジェランガムがゲル化する。冷却方法は特に限定されず、自然冷却でもよい。加圧処理後冷却前に、例えば殺菌などの理由により、分散液を加熱しても良い。加熱温度は特に限定されないが、65℃以上100℃以下であってもよく、好ましくは80℃以上100℃以下であってもよく、より好ましくは90℃以上100℃以下であってもよい。この加熱処理によって、例えばゲルの保存性が向上する。
【0022】
なお、この分散液に、タンパク質原料や糖原料等の副原料を添加してもよい。添加段階は、ゲル化に影響がない限り特に限定されず、加圧前で、脱アシル型ジェランガムの添加前であっても後であってもよく、カルシウムイオンの添加前であっても後であってもよい。また加圧後で、冷却前であっても後であってもよい。
【0023】
また、分散液は、ジェランガム以外のゲル化剤を含んでいてもよい。
【0024】
==ゲル製造方法==
本発明のゲル製造方法は、ジェランガムを分散させた分散液を加圧処理し、前記分散液を加圧処理する前に加熱しないことを特徴とする。この際のジェランガムのゲル化方法は、上記ジェランガムのゲル化促進方法を適用する。
【0025】
本発明の方法で製造されたゲルの用途は限定されないが、例えば、ゼリーなどの飲食品、内服液、医薬部外品、医薬品、化粧品などに使用可能であり、飲食品が好ましい。
【実施例】
【0026】
(1)ジェランガム分散液の調製
【表1】
【0027】
本実施例で用いるジェランガム分散液は、表1の成分を混合することで調製した。脱アシル型ジェランガムはケルコ社から入手したものを、表2に記載の濃度で用いた。ジェランガム分散液中では、脱アシル型ジェランガムは分散状態であったが、他の成分は完全に溶解させた。最終的なpHは、3.6であった。
【0028】
(2)加圧処理とゲルの分析 I
ジェランガム分散液を、加熱することなく、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株)社)を用い、圧力を10〜50MPaとして、1回、加圧処理した。その後、「再加熱あり」の試料として、95℃に達するまで加熱した。そして、「再加熱なし」「再加熱あり」の試料をともに、20℃になるまで冷却したところ、いずれの場合も脱アシル型ジェランガムはゲル化した。なお、圧力をかけない場合には、95℃まで加熱後、冷却してもゲル化しなかった。
【0029】
こうして得られたゲルを、レオメーター(サン科学社CR−500DX)を用いて圧縮試験(直径10mmの円柱型プランジャー、進入速度60mm/分)を行い、ゲルが破断したときの最大応力を測定した。それぞれの結果を表2に示す。
【表2】
【0030】
表2で示されるように、ジェランガム分散液を、あらかじめ加熱すること無く加圧処理をすることによって、ゲル化させることができる。
【0031】
(3)加圧処理とゲルの分析 II(pH及び圧力の影響)
次に、脱アシル型ジェランガムのゲル化に対するpH及び圧力の影響を調べた。その条件を表3に示す。
【表3】
【0032】
条件1では、分散液にクエン酸を加えず、pH7.0の状態でゲル化させた。条件2では、圧力を120MPaと高めに設定した。条件3では、スターバーストラボ((株)スギノマシン製)を用いて、さらに圧力を高圧にした。これらの条件で得られたゲルの最大応力を(2)と同様にして測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0033】
このように、分散液が中性であってもゲル化し、また、分散液に加える圧力をより高圧にしてもゲル化できる。
【0034】
(4)加圧処理とゲルの分析 III(カチオンの影響)
次に、脱アシル型ジェランガムのゲル化に対するカチオンの影響を調べた。その条件を表5に示す。
【表5】
【0035】
条件4及び5では、分散液中にカチオンを添加し、条件6及び7では、加圧処理後にカチオンを添加した。条件4及び6では、カルシウム塩として乳酸カルシウムを0.2%用い、条件5及び7では、カリウム塩として、塩化カリウムを0.2%用いた。カチオン以外の条件は(1)及び(2)と同様とし、ゲルの最大応力を(2)と同様にして測定した。その結果を表6に示す。
【表6】
【0036】
このように、本発明で用いるカチオンは、1価であっても2価であってもよく、また、カチオンを添加するのは、加圧処理前であっても加圧処理後であってもかまわない。