特許第6864498号(P6864498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6864498高透磁率および高耐候性を有する軟磁性扁平粉末およびこれを含有する軟磁性樹脂組成物
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  • 特許6864498-高透磁率および高耐候性を有する軟磁性扁平粉末およびこれを含有する軟磁性樹脂組成物 図000022
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864498
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】高透磁率および高耐候性を有する軟磁性扁平粉末およびこれを含有する軟磁性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20210419BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20210419BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210419BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20210419BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210419BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   H01F1/147 191
   H01F1/26
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   C22C38/00 303T
   !C22C19/03 E
【請求項の数】2
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-35634(P2017-35634)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-142618(P2018-142618A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 滉大
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−77316(JP,A)
【文献】 特開2016−72577(JP,A)
【文献】 特開2001−152211(JP,A)
【文献】 特開2004−263231(JP,A)
【文献】 特開2009−249739(JP,A)
【文献】 特開昭60−43486(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/145520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147
B22F 1/00
B22F 1/02
C22C 38/00
H01F 1/26
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Si−Al系合金からなり、扁平粉末の表面に存在するC量/BET値が、0.01以上、1.00以下であることを特徴とする軟磁性扁平粉末。
【請求項2】
請求項1に記載する軟磁性扁平粉末を含有する軟磁性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子デバイスなどに用いられる、高透磁率および高耐候性を有する軟磁性扁平粉末およびこれを含有する磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォン、携帯電話、ノート型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューターなど、各種の電子機器が普及し、その小型化による電磁干渉が問題となったり、通信の高速化による高周波化が進むことによって、高周波で高い透磁率の実数部(以下、μ’と記す)を示す磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物の要求が高まっている。これら電子機器の中で、磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物は、電磁波吸収体、RFID(Radio Frequency Identification)用アンテナ、デジタイザ用シート、インダクタ用部材などに用いられ、Fe−Si−Al系合金などの軟磁性扁平粉末を、ゴムや樹脂と混練し、シート状にした軟磁性樹脂組成物が広く用いられている。
【0003】
なお、ここで言う軟磁性樹脂組成物とは、軟磁性フィラーを含有するゴムや樹脂などであり、シート状、フィルム状、ブロック状に塗布や成形されて使用されることが可能である。ここで、いわゆる、Ollendorfの式に示されるように、高いμ’を有する磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物を実現するためには、高いアスペクト比と、高い初透磁率を有する軟磁性フィラーを外部磁場方向に配向させて高充填することが有利であることが知られている。
【0004】
また、高いアスペクト比の粉末を得るために、鋳造粉砕法や各種のアトマイズ法により製造したFe−Si−Al系などの合金粉末を原料粉末とし、各種のボールミル法により扁平化させて用いることが知られている。さらに、ボールミル法による扁平化の際には、原料粉末とボール(粉砕メディア)を、各種有機溶媒中で強制撹拌することが多く提案されている。
【0005】
前述のように、高いアスペクト比を有する扁平粉末の製造には、各種のボールミル法による扁平化加工が適用され、この加工には各種の有機溶媒が用いられる。例えば、特開2016−72577号公報(特許文献1)には、扁平加工に有機溶媒を用いることが好ましいことが記載され、実施例では工業エタノールを使用している。また、特開2009−266960号公報(特許文献2)にも有機溶媒を用いることが好ましいことが記載され、実施例では、トルエン、2−プロパノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノールなどを使用している。さらに、特開2010−196123号公報(特許文献3)では、実施例においてナフテゾールを使用している。
【0006】
一方、これら特許文献1〜3には、扁平加工後に有機溶媒と扁平粉末の分離についての詳細な記述はない。一般に、扁平加工後に扁平粉末と有機溶媒を取り出し、各種の濾過機や分離機により、扁平粉末と有機溶媒を分離したのち、これを例えば、特許文献1の実施例のように、80℃で24時間のような条件で乾燥させて用いられる。ここで、有機溶媒の沸点は一般に200℃程度以下であること、および、本発明が対象とするような著しく高μ’を狙う扁平粉末の場合、ボールミルによる扁平加工により導入された歪みを高温(特許文献1〜3の実施例においては700℃以上)の熱処理により除去することが必須であることから、この高温熱処理工程で200℃程度の低沸点の有機溶媒は完全に蒸発してしまうと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−72577号公報
【特許文献2】特開2009−266960号公報
【特許文献3】特開2010−196123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物は、使用環境によっては発銹することが問題となり、高い耐候性が要求される場合もある。特に近年、磁性シートの高μ’化および薄肉化の要求が極めて強く、磁性シート中の軟磁性フィラー充填率を極限まで増加させたものが使用されるようになってきている。そのため、軟磁性フィラーの発銹を抑制するような添加剤を磁性シートに添加することは難しくなり、また逆に樹脂の体積率を減少せざるを得なくなり軟磁性フィラー全体が必ずしも樹脂で取り囲まれておらず、シート表面にむき出しになったり、樹脂と軟磁性フィラーの界面に隙間ができ、軟磁性フィラー表面が酸化雰囲気に晒されやすくなるなど、磁性シートに含有される軟磁性フィラーにとって、より発銹しやすい使用環境になってきつつある。
【0009】
従来、球状、扁平状を問わず金属粉末の耐候性を改善するための方法として、主に、金属粉末の合金組成として高い耐候性を有するものを用いる方法か、粉末表面にNiメッキをはじめとした高耐候性皮膜を形成する方法が採用されるのが一般である。しかしながら、本発明が対象とする極めて高いμ’を必要とする扁平粉末や軟磁性樹脂組成物においては、いわゆる電磁ステンレスのような高耐候性合金ではμ’が十分ではなく、一方、パーマロイなどの耐候性の高いFe−Ni系合金は原材料費が高価であるため適用が困難である。また高耐候性皮膜の形成のための従来のメッキ法は著しく高価であるとともに皮膜形成にともなう歪み導入の影響により著しくμ’が減少するため、やはり、本発明が対象とするような高μ’を示す扁平粉末および軟磁性樹脂組成物に適用することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、従来、問題とならなかった磁性シートの発銹を抑制することを目的とし、本発明では、高い初透磁率を示すFe−Si−Al系合金の扁平粉末に、極めて安価で、かつ、耐候性改善に有効な表面皮膜を形成し、高いμ’と耐候性を両立させた軟磁性扁平粉末およびこれを含有する軟磁性樹脂組成物を検討した。
【0011】
このように、沸点より熱処理温度が著しく高く、熱処理後に有機溶媒の残渣が残るとは考えられておらず、有機溶媒中での扁平加工後の扁平粉末と有機溶媒の分離には、従来、大きな注意が払われておらず、分離後の乾燥時間短縮のため、十分な濾過や分離が行われるのが通常である。しかしながら、発明者らの鋭意検討において、扁平加工、濾過、乾燥した後の扁平粉末を、十分に高温で熱処理した後も、有機溶媒の主成分であるCが扁平粉末表面から検出されることを見出し、また、そのC量が、乾燥工程前の有機溶媒の残量とともに増加することを見出し、さらには、この扁平粉末表面から検出されるCが形成していると考えられる皮膜が、耐候性の改善に極めて有効であることまで見出し、本発明に至った。
【0012】
従来、このような一連の知見は知られておらず、したがって、実際に扁平粉末と有機溶媒の濾過、分離工程後の有機溶媒の残量を検討された例や、さらにはその残量と扁平粉末および軟磁性樹脂組成物の耐候性との関係を検討された例は過去にない。また、本発明で問題視している磁性シートの発銹については、近年の磁性シートの著しい高μ’化、薄肉化の要求にともなうもので、従来は問題となっていなかった点であり、したがって、前述のように、扁平粉末の有機溶媒からの濾過、分離工程にも十分な注意を払われていなかったのが実状である。
【0013】
これに対し、本発明におけるもっとも重要なパラメータである、「扁平粉末の表面に存在するC量/BET値」をモニタリングすることは、実量産工程で製造される扁平粉末のロット毎の耐候性を把握するうえでも、極めて重要な手法とでき、安定した耐候性の扁平粉末の管理手法とすることもできる。
【0014】
その発明の要旨とするところは、
(1)Fe−Si−Al系合金からなり、扁平粉末の表面に存在するC量/BET値が、0.01以上、1.00以下であることを特徴とする軟磁性扁平粉末。
(2)前記(1)に記載する軟磁性扁平粉末を含有する軟磁性樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明により、各種の電子デバイスなどに用いられる、高透磁率および高耐候性を有する軟磁性扁平粉末およびこれを含有する磁性シートなどの軟磁性樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る特徴を示す概念的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の規制した理由について説明する。
扁平粉末の表面に存在するC量/BET値が、0.01以上、1.00以下
本発明において、扁平粉末の表面に存在するC量/BET値は、扁平粉末の単位表面積当たりにおける、Cを含有する耐候性皮膜の量に影響する数値であり、0.01未満では耐候性改善の効果が十分ではなく、1.00を超えると高μ’を有するFe−Si−Al合金部の体積が減少することから扁平粉末のμ’を減少させてしまう。好ましくは、0.05を超え、0.75未満、より好ましくは、0.07を超え、0.50未満である。なお、扁平粉末の表面に存在するC量は、扁平粉末全体のC量から、有機溶媒による扁平加工前の原料粉末全体のC量を減じた値によって算出することが可能である。なお、C量は質量%、BET値は比表面積であり単位はm2 /gである。
【0018】
ここで、本発明において、図1に示すように、Fe−Si−Al系合金扁平粉末1の表面に、C濃縮皮膜2を形成することができる。このように有機溶媒の沸点よりも十分に高い温度での熱処理の後も、扁平粉末の表面にCが残留する原因についての詳細は不明であるが、以下のことが推測される。ボールミルによる扁平加工により、原料粉末は著しく大きな加工を受ける。この時、粉末表面に存在する有機溶媒の一部は、粉末表面と反応を起こしたり、粉末の結晶粒界に侵入し、変質している可能性が考えられる。さらに、乾燥時には、その変質物の層が、残留している有機溶媒と接触しながら温度が上昇することにより、さらなる変質層の増加を促進している可能性が考えられる。
【0019】
なお、後述する実施例における高温熱処理後の扁平粉末をオージェ分析した際に検出されるC濃縮層厚さは、0.1nmを超え、5nm未満の範囲であった。詳細な構造や成分は不明であるが、このC濃縮層がFe−Si−Al系合金扁平粉末と外気や腐食性液との接触を抑制し、耐候性改善に寄与していると考えられる。
【0020】
本発明は、従来より提案されている高μ’を有するFe−Si−Al系合金扁平粉末において、その高μ’を維持したまま耐候性を改善できるため、扁平粉末の表面の物性である「扁平粉末の表面に存在するC量/BET値」以外の、扁平粉末そのものに関する物性値については、従来例のものを適用することが可能であるが、高μ’を得るために好ましい各物性の範囲は以下のとおりである。
【0021】
Fe−Si−Al系合金の組成において、Siは6.5%を超え11%未満、より好ましくは7%を超え9.5%未満、さらに好ましくは7.5%を超え8%未満であり、Alは4%を超え10%未満、より好ましくは5.5%を超え9.5%未満、さらに好ましくは7%を超え9%未満である。
【0022】
また、平均粒径は20〜100μm、より好ましくは35〜80μm、さらに好ましくは50〜70μmである。タップ密度は0.50〜1.50Mg/m3、より好ましくは0.55〜1.00Mg/m3、さらに好ましくは0.60〜0.80Mg/m3である。長手方向に印加して測定した保磁力は24〜800A/m、より好ましくは32〜240A/m、さらに好ましくは40〜120A/mである。
【0023】
厚さ方向に印加して測定した保磁力は48〜2000A/m、より好ましくは64〜1000A/m、さらに好ましくは80〜320A/mである。厚さ方向に印加して測定した保磁力/長手方向に印加して測定した保磁力は1.5〜4.0、より好ましくは2.0〜3.5、さらに好ましくは2.3〜3.3である。酸素量は1.5%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.7%以下である。窒素量は0.50%以下、より好ましくは0.10%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
【0024】
平均アスペクト比は5以上、より好ましくは15以上、さらに好ましく30以上である。BET値は0.5〜1.5m2/g、より好ましくは0.6〜1.3m2/g、さらに好ましくは0.8〜1.2m2/gである。添加元素については高い初透磁率を示すFe−Si−Al系合金に大きな影響を与えない範囲の元素添加が可能であり、例えば、Mn、Cr、Ni、Cuのいずれか1種または2種以上が合計で5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、無添加がさらに好ましい。ただし、これらの各種物性値の範囲により、本発明の範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0026】
(扁平粉末の作製)
水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法または溶融による合金化後の粉砕法(鋳造粉砕法)のいずれかにより所定の成分の粉末を作製し150μm以下に分級した。各種アトマイズは従来提案されている一般的な方法で可能であり、アルミナ製坩堝を溶解に用い、坩堝下の直径2mmのノズルから合金溶湯を出湯し、これに高圧水を噴霧し溶湯を分断、高圧ガス(アルゴンまたは窒素)を噴霧し溶湯を分断、または回転ディスクにより遠心力で溶湯を分断することで実施した。これら粉末の一部には、次に続く扁平加工の前に熱処理を施した。これらを原料粉末として、扁平加工を実施した。扁平加工は従来提案されている一般的な方法で可能であり、アトライタ加工を用い、SUJ2製の直径4.8mmのボールを使用し、原料粉末100gと各種有機溶媒とともに攪拌容器に投入し、羽根の回転数を300rpmとして実施した。
【0027】
有機溶媒の添加量は、原料粉末100質量部に対し、100質量部とした。扁平化加工時間とともにタップ密度は低下していくが、扁平化加工中に少量の粉末をサンプリングし、所定のタップ密度が得られた時点で扁平加工を完了とした。扁平加工後に、扁平粉末と有機溶媒をビーカーに取り出し、上澄み液を捨てた後、目開き1000μmの分級網の上に敷いた紙ウエスの上に取り出し、常温常圧で所定の時間放置し、有機溶媒を濾過した(最大1時間濾過)。一部の粉末(1時間濾過し余剰の有機溶媒が十分に除去されたもの)においては、濾過後に所定の重量の有機溶媒を再度滴下し、含ませたものも作製した。
以上のように有機溶媒が残留している状態で、これらをステンレス製の皿に移し、80℃で24時間乾燥させた。さらに、このようにして得られた扁平粉末を真空中、アルゴン中または窒素中で熱処理し、各種の評価に用いた。
【0028】
(扁平粉末の評価)
得られた熱処理後の扁平粉末の平均粒径、タップ密度、保磁力(長手方向および厚さ方向)、酸素値、窒素値、BET値、オージェ分析によるC濃縮層厚さをそれぞれ測定した。平均粒径はレーザー回折法、タップ密度は、約20gの扁平粉末を、容積100cm3のシリンダーに充填し、落下高さ10mmタップ回数200回の時の充填密度、保磁力は市販の保磁力メータで評価した。また、得られた熱処理後の扁平粉末と扁平加工前の原料粉末のC量も評価し、その差分を算出し、扁平粉末の表面に存在するC量とした。
【0029】
(磁性シートの作製および平均アスペクト比とμ’の評価)
扁平粉末以外の磁性シートの構成としては、従来提案されている一般的な構成が適用可能であり、磁性シート作製も従来提案されている一般的な方法で可能である。トルエンに塩素化ポリエチレンを溶解し、これに得られた扁平粉末を混合、分散した。この分散液をポリエステル樹脂に厚さ100μm程度に塗布し、常温常湿で乾燥させた。その後、130℃、15MPaの圧力でプレス加工し、磁性シートを得た。磁性シートのサイズは150mm×150mmで厚さは50μmである。なお、磁性シート中の扁平粉末の体積充填率はいずれも約50%であった。
【0030】
次に、この磁性シートを、外径7mm、内径3mmのドーナツ状に切り出し、インピーダンス測定器により、室温でインピーダンス特性の周波数特性を測定し、その結果からμ’を算出した。ここで、μ’の評価として1〜5MHzの平均値を用いた。さらに、得られた磁性シートの厚さ方向が観察できる樹脂埋め研磨試料を作製し、SEM観察により無作為に選んだ50粉末について、画像解析から平均厚さと平均アスペクト比を算出した。なお、アスペクト比は、「扁平粉末の長手方向長さ/扁平粉末の厚さ」である。
【0031】
(磁性シートの耐候性評価)
得られた磁性シート20×20mmに切り抜き、20%NaCl水溶液に、60℃で100時間浸漬し、その後の発銹状態を観察した。磁性シートに発銹が全く見られないものをA、一部に点状の茶褐色の変色が見られたものをB、全面が茶褐色に変色したものをCとして評価した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
【表7】
【0039】
【表8】
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
【表11】
【0043】
【表12】
【0044】
【表13】
【0045】
【表14】
【0046】
【表15】
【0047】
【表16】
【0048】
【表17】
【0049】
【表18】
【0050】
【表19】
【0051】
【表20】
表1〜20に示すように、表1、3、5、7、9、11、13、15、17、19は、各原料粉末合金組成についての製造条件である。また、表2、4、6、8、10、12、14、16、18、20は、前記製造条件に基づく扁平粉末の特性および性能等を示す。
【0052】
表2に示す比較例No.1は、表面C量/BET値が高く、μ´の値が本発明の目的とする値に欠けている。また、比較例No.6は、表面C量/BET値が0のために耐候性が悪い。同様に、表4、表6、表8、表10、表12、表14に示す比較例No.7、13、19、25、31、37は、表面C量/BET値が高く、μ´の値が本発明の目的とする値に欠けている。また、比較例No.12、18、24、30、36、42は、表面C量/BET値が0のために耐候性が悪い。
【0053】
また、表16、表18、表20に示す比較例No.43、49、55は、表面C量/BET値が0であるために耐候性が悪い。比較例No.48、54、60は、表面C量/BET値が高く、μ´の値が本発明の目的とする値に欠けている。これに対し、本発明例No.2〜5、8〜11、14〜17、20〜23、26〜29、32〜35、38〜41、44〜47、50〜53、56〜59は、いづれも本発明の条件を満足していることで、高μ´と高耐候性の優れていることが分かる。
【0054】
以上述べたように、Fe−Si−Al系合金からなり、有機溶媒中での扁平化処理およびその後の有機溶媒の濾過工程で適量の有機溶媒を残存させたまま乾燥させることにより、扁平粉末表面にC濃縮層を生成することができ、これにより、このFe−Si−Al系合金粉末本来の持つ透磁率(μ´)を維持しつつ、安価に耐候性の改善を実現可能とした極めて優れた効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0055】
1 Fe−Si−Al系合金扁平粉末
2 C濃縮皮膜


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊
図1