特許第6864563号(P6864563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000002
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000003
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000004
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000005
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000006
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000007
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000008
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000009
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000010
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000011
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000012
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000013
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000014
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000015
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000016
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000017
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000018
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000019
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000020
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000021
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000022
  • 特許6864563-被加工物の加工方法 図000023
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864563
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】被加工物の加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20210419BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20210419BHJP
   B23K 26/035 20140101ALI20210419BHJP
【FI】
   H01L21/78 B
   B23K26/53
   B23K26/035
【請求項の数】1
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-112708(P2017-112708)
(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公開番号】特開2018-207009(P2018-207009A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 怡慧
(72)【発明者】
【氏名】古田 健次
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−205180(JP,A)
【文献】 特開2010−024068(JP,A)
【文献】 特開2006−108478(JP,A)
【文献】 特開2008−068319(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/074823(WO,A1)
【文献】 特開2016−030292(JP,A)
【文献】 特開2009−010105(JP,A)
【文献】 特表2013−536081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/035
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割予定ラインを有した被加工物の加工方法であって、
被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で該分割予定ラインに沿って該レーザビームを照射して改質領域を形成する第1レーザ加工ステップと、
該第1レーザ加工ステップを実施した後、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの第1集光点と第2集光点とをそれぞれ該改質領域の上端側と下端側とに位置づけた状態で該改質領域に沿って該レーザビームを照射して該改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長するクラックを発生させることで被加工物を該分割予定ラインに沿って分割する第2レーザ加工ステップと、を備えた加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割予定ラインを有した被加工物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、レーザビームを用いてシリコンウェーハ等の被加工物を個々のデバイスチップに分割する方法(例えば、特許文献1参照)が開発され実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−149444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されているような方法においては、例えば、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を分割予定ラインに対応する被加工物の内部に位置づけて、レーザビームを分割予定ラインに沿って照射して被加工物の内部に改質領域を形成するとともに改質領域から裏面または表面に至るクラックが伸長するようにレーザ加工を施した後、例えばテープエキスパンドによって被加工物に外力を付与してチップへと分割している。しかし、クラックが真っ直ぐに伸長しない場合が多く、結果、被加工物が厚さ方向に真っ直ぐに分断されずにひびや欠けがチップに発生することがあった。
【0005】
よって、レーザビームの照射により改質領域を形成し被加工物を個々のデバイスチップに分割する場合においては、被加工物を分割した際、ひびや欠けがチップに発生してしまうことを抑制するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本課題を解決するための本発明は、分割予定ラインを有した被加工物の加工方法であって、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で該分割予定ラインに沿って該レーザビームを照射して改質領域を形成する第1レーザ加工ステップと、該第1レーザ加工ステップを実施した後、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの第1集光点と第2集光点とをそれぞれ該改質領域の上端側と下端側とに位置づけた状態で該改質領域に沿って該レーザビームを照射して該改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長するクラックを発生させることで被加工物を該分割予定ラインに沿って分割する第2レーザ加工ステップと、を備えた加工方法である。
【発明の効果】
【0007】
従来の加工方法のように、改質領域を形成した後、表面または裏面に至るクラックを形成し、次いで、残りの裏面または表面に至るクラックを形成する場合においては、先に形成された方のクラックが面方向に開いてしまうことで、次いで形成するクラックが完全には裏面または表面に至らず被加工物に分割されない領域が発生してしまったり、クラックが裏面または表面に真っ直ぐに伸長しなかったりする場合がある。
一方、本発明に係る加工方法は、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で分割予定ラインに沿ってレーザビームを照射して改質領域を形成する第1レーザ加工ステップと、第1レーザ加工ステップを実施した後、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの第1集光点と第2集光点とをそれぞれ改質領域の上端側と下端側とに位置づけた状態で改質領域に沿ってレーザビームを照射して改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長するクラックを発生させることで被加工物を分割予定ラインに沿って分割する第2レーザ加工ステップとを備えているため、改質領域から被加工物の表裏面に至るクラックを同時に伸長させて被加工物を分割することで、被加工物が分割予定ラインに沿って真っ直ぐに分断されずにひびや欠けがチップに発生してしまったり、被加工物に分割されない領域が発生してしまったりすることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】被加工物の一例を示す斜視図である。
図2】被加工物をレーザ加工装置のチャックテーブルで吸引保持した状態を示す断面図である。
図3】往方向への加工送りで被加工物の裏面の高さ位置を測定している状態を示す断面図である。
図4】復方向への加工送りで集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で分割予定ラインに沿ってレーザビームを照射して、被加工物に改質領域を形成している状態を示す断面図である。
図5】改質領域が内部に形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図6】往方向への加工送りにおいて、レーザビームの二焦点同時照射により、改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長するクラックを同時に形成している状態を示す断面図である。
図7】クラックが形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図8】被加工物の別例を示す斜視図である。
図9】往方向への加工送りで被加工物の裏面の高さ位置を測定している状態を示す断面図である。
図10】復方向への加工送りで集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で分割予定ラインに沿ってレーザビームを2焦点同時照射して、被加工物に改質領域となる1層目の改質層を形成している状態を示す断面図である。
図11】往方向への加工送りで集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で分割予定ラインに沿ってレーザビームを2焦点同時照射して、被加工物に改質領域となる2層目の改質層を形成している状態を示す断面図である。
図12】改質領域が内部に形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図13】復方向への加工送りにおいて、レーザビームの二焦点同時照射により、改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長し到達するクラックを同時に形成している状態を示す断面図である。
図14】クラックが形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図15】被加工物の別例を示す斜視図である。
図16】被加工物をレーザ加工装置のチャックテーブルで吸引保持した状態を示す断面図である。
図17】往方向への加工送りで被加工物の裏面の高さ位置を測定している状態を示す断面図である。
図18】復方向への加工送りで集光点を被加工物の内部に位置づけた状態で分割予定ラインに沿ってレーザビームを2焦点同時照射して、被加工物に改質領域となる2層の改質層を同時に形成している状態を示す断面図である。
図19】改質領域が内部に形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図20】往方向への加工送りにおいて、レーザビームの二焦点同時照射により、改質領域から被加工物の表裏面にそれぞれ伸長するクラックを同時に形成している状態を示す断面図である。
図21】クラックが形成された被加工物の一部を拡大して示す断面図である。
図22】テープへの転写が行われた分割後の被加工物を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態1)
以下に、本発明に係る被加工物の加工方法を実施して図1に示す被加工物Wをチップに分割する場合の、加工方法の各ステップについて説明していく。
【0010】
図1に示す被加工物Wは、例えば外形が円形板状のシリコンウェーハであり、被加工物Wの表面Waには複数の分割予定ラインSがそれぞれ直交するように設定されている。分割予定ラインSによって区画された格子状の領域には、デバイスDがそれぞれ形成されている。即ち、被加工物Wの表面Waは、分割予定ラインSに沿って分割されることでデバイスDを備えるチップとなるデバイス領域Wa1と、デバイス領域Wa1を囲み分割後に主に廃材となる外周領域Wa2とからなる。被加工物Wの外周縁には、結晶方位を識別するためのノッチNが、被加工物Wの中心に向けて径方向内側に窪むように形成されている。被加工物Wは、例えば、厚みが200μmの割れにくい45°品シリコンウェーハである。
図1に示すように、被加工物Wは、その裏面Wbに被加工物Wよりも大径の保護テープTが貼着されており、保護テープTの粘着面の外周部は、環状フレームFに貼着された状態になっている。そして、被加工物Wは、保護テープTを介して環状フレームFに支持されることで、環状フレームFによるハンドリングが可能な状態になっている。
【0011】
まず、被加工物Wは、図2に示すレーザ加工装置1に搬送される。レーザ加工装置1は、被加工物Wを吸引保持するチャックテーブル2を備えている。チャックテーブル2は、その外形が円形状であり、保持面20上で被加工物Wを保持する。例えば、保持面20の中央部分20aは、被加工物Wの表面Waのデバイス領域Wa1を傷付けないための非常に細かなポーラス部材等で形成されており、保持面20の外周部分20bは図示しない吸引源に連通し被加工物Wの表面Waの外周領域Wa2に対応する吸引面となっている。
【0012】
チャックテーブル2は、鉛直方向(Z軸方向)の軸心周りに回転可能であるとともに、図示しない加工送り手段によってX軸方向に往復移動可能となっている。チャックテーブル2の外周部には、例えば4つ(図2においては、2つのみ図示している)の固定クランプ21が均等に配設されている。挟持板21aと挟持台21bとからなる固定クランプ21は、図示しないバネ等によって回転軸21cを軸に挟持板21aが回動可能となっており、挟持板21aの下面と挟持台21bの上面との間に環状フレームFを挟み込む。
【0013】
環状フレームFで支持された被加工物Wが、裏面Wbが上側を向いた状態、即ち、保護テープTが上側になった状態でチャックテーブル2に載置される。図示しない吸引源が生み出す吸引力が保持面20の外周部分20bに伝達されることで、チャックテーブル2が被加工物Wを吸引保持する。また、各固定クランプ21によって環状フレームFが固定される。このように被加工物Wをチャックテーブル2で吸引保持する理由は、被加工物Wの表面Wa側からレーザビームを照射するとデバイスDが傷つくおそれがあるためである。
【0014】
図3に示すように、レーザ加工装置1は、被加工物Wに対してレーザビームを照射することができるレーザビーム照射手段3を備えている。レーザビーム照射手段3は、例えば、レーザビーム発振ユニット30と、レーザビーム発振ユニット30から出力されたレーザビームを伝送する外部光学系ユニット31と、レーザビームをチャックテーブル2で吸引保持された被加工物Wに集光して照射する集光器33とを備えている。
【0015】
レーザビーム発振ユニット30は、図3に示すように、例えばYAGパルスレーザを発振するレーザビーム発振器300と、繰り返し周波数設定手段301と、パルス幅調整手段302と、パワー調整手段303とを含んでいる。本実施形態におけるレーザビーム発振器300は、例えば、被加工物Wに対して透過性を有する波長1342nmのパルスレーザを発振するYAGパルスレーザであるが、これに限定されるものではなく、YVO4パルスレーザであってもよい。
【0016】
外部光学系ユニット31は、例えば、1/2波長板310、315、318と、第一偏光ビームスプリッタ311及び第二偏光ビームスプリッタ317と、ミラー313a、316と、第一のビームシャッター313b及び第二のビームシャッター314bと、第一のアッテネータ313c及び第二のアッテネータ314cとから構成される。
【0017】
レーザビーム発振器300から発振されパワー調整手段303によって出力が調整されたレーザビームLBは、図示しない回転角度調整手段によって回転角度を調整可能な1/2波長板310で、その偏光面が所定角度回転されて第一偏光ビームスプリッタ311に向かって水平に出射される。そして、レーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311を透過するP偏光の第一のレーザビームLB1(第一の光路)と第一偏光ビームスプリッタ311で反射されるS偏光の第二のレーザビームLB2(第二の光路)とに分岐される。第一偏光ビームスプリッタ311は、例えば、平板ガラスのプレートタイプ又は直角プリズムを合わせたキューブタイプのものである。
【0018】
例えば、レーザビームLBの光路上には、波長変換結晶等から構成される波長変換機構34が配置されている。波長変換機構34は、レーザビーム発振器300が発振した波長1342nmのパルスレーザを、被加工物Wに透過性を有する波長1064nmのパルスレーザに適宜変換することができる。
【0019】
第一の光路に出射された第一のレーザビームLB1はミラー313aで直角に反射された後、第一のビームシャッター313bを通過して、第一のアッテネータ313cに入力される。第二の光路に出射された第二のレーザビームLB2は、第二のビームシャッター314bを通過して、第二のアッテネータ314cに入力される。
第一のビームシャッター313b及び第二のビームシャッター314bには、図示しないシャッター駆動装置が備えられており、第一のレーザビームLB1、第二のレーザビームLB2を遮断する位置、及び遮断しない位置に駆動可能に構成され、第一のレーザビームLB1のみを被加工物Wに対して照射したり、第二のレーザビームLB2のみを被加工物Wに照射したり、あるいは両方同時に被加工物Wに対して照射する等、適宜切り替えることが可能になっている。
減衰器モジュール等から構成される第一のアッテネータ313c及び第二のアッテネータ314cは、被加工物Wに対する必要な加工条件に対応して、適宜第一のレーザビームLB1、第二のレーザビームLB2の出力を調整することができる。
【0020】
第一のアッテネータ313cを通過した第一のレーザビームLB1は1/2波長板315によりその偏光面が90度回転されてS偏光の第一のレーザビームLB1に変換される。
S偏光の第一のレーザビームLB1は、ミラー316で直角に反射された後第二偏光ビームスプリッタ317に入射されて、第二偏光ビームスプリッタ317の偏光分離膜317aで鉛直方向に反射される。
【0021】
一方、第一偏光ビームスプリッタ311で第二の光路に反射されたS偏光の第二のレーザビームLB2は、1/2波長板318によりその偏光面が90度回転されてP偏光の第二のレーザビームLB2に変換された後、第二偏光ビームスプリッタ317に入射され、第二偏光ビームスプリッタ317の偏光分離膜317aを透過する。
【0022】
そして、第二偏光ビームスプリッタ317で反射された第一のレーザビームLB1を、集光器33の内部の集光レンズ33aに入光させることで、第一のレーザビームLB1をチャックテーブル2で保持された被加工物Wの所定の高さ位置に集光して照射できる。また、第二偏光ビームスプリッタ317を透過した第二のレーザビームLB2を、集光器33の内部の集光レンズ33aに入光させることで、第二のレーザビームLB2を被加工物Wの所定の高さ位置に集光して照射できる。集光器33によって集光される各レーザビームの集光点位置は、図示しない集光点位置調整手段によってチャックテーブル2の保持面20に対して垂直な方向(Z軸方向)にそれぞれ調整可能となっている。
なお、レーザビーム照射手段3は本実施形態に示す例に限定されるものではない。レーザビーム照射手段3は、例えば、レーザビームの位相を変調可能な空間光位相変調器(LCOS−SLM:Liquid Crystal On Silicon Spatial Light Modulator)を備えており、レーザビームの分岐を該空間光位相変調器で透過または反射させることで制御できるようになっていてもよい。
【0023】
レーザビーム照射手段3の近傍には、被加工物Wの分割予定ラインSを検出するアライメント手段4が配設されている。アライメント手段4は、赤外線を照射する図示しない赤外線照射手段と、赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された赤外線カメラ40とを備えており、赤外線カメラ40により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の画像処理によって被加工物Wの表面Waの分割予定ラインSを検出することができる。レーザビーム照射手段3とアライメント手段4とは、連動してY軸方向及びZ軸方向へと移動する。
なお、チャックテーブル2をX軸方向に往復移動可能であるとともにY軸方向にも往復移動可能な構成とし、固定されているレーザビーム照射手段3に対してチャックテーブル2がX軸方向又はY軸方向に相対的に移動するものとしてもよい。
【0024】
被加工物Wがチャックテーブル2により吸引保持された後、チャックテーブル2に吸引保持された被加工物Wの裏面Wbの高さ位置が測定される。この高さ位置の測定は、例えばレーザビーム照射手段3のレーザビームの照射によって実現される。
【0025】
図3に示すように、チャックテーブル2に保持された被加工物Wが−X方向(往方向)に送られるとともに、アライメント手段4により分割予定ラインSが検出される。ここで、分割予定ラインSが形成されている被加工物Wの表面Waは下側に位置し、アライメント手段4と直接対向してはいないが、赤外線カメラ40により被加工物Wの裏面Wb側から透過させて分割予定ラインSを撮像することができる。赤外線カメラ40によって撮像された分割予定ラインSの画像により、アライメント手段4がパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザビームを照射する基準となる分割予定ラインSの位置が検出される。
【0026】
分割予定ラインSが検出されるのに伴って、レーザビーム照射手段3がY軸方向に駆動され、レーザビームを照射する基準となる分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせがなされる。この位置合わせは、例えば、集光器33に備える集光レンズ33aの直下に分割予定ラインSの中心線が位置するように行われる。
【0027】
例えば、レーザビーム発振器300から発振されパワー調整手段303により非常に弱い出力に調整されたレーザビームLBが、外部光学系ユニット31の第一偏光ビームスプリッタ311により第二のレーザビームLB2に分岐して、第二のレーザビームLB2が集光器33により被加工物Wの裏面Wbに集光され照射される。なお、第一のビームシャッター313bが第一のレーザビームLB1を遮断する位置に位置づけられており、レーザビームLBが分岐した第一のレーザビームLB1は被加工物Wに対して照射されない。
【0028】
例えば、集光器33の側面には、第二のレーザビームLB2が被加工物Wの裏面Wbで反射した際の反射光を測定する図示しない高さ位置測定器が配設されている。高さ位置測定器は、反射光を基に三角測量の原理で裏面Wbの高さ位置を測定するものや、第二のレーザビームLB2とその反射光との位相差から裏面Wbの高さ位置を測定するものである。
【0029】
一本の分割予定ラインSに沿って被加工物Wの裏面Wbに第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物Wが−X方向に進行すると、第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物Wの−X方向への加工送りを停止させる。また、図示しない高さ位置測定器により、被加工物Wの裏面Wbの高さ位置が測定された状態になる。
【0030】
(1)第1レーザ加工ステップ
次いで、図4に示すように、被加工物Wを+X方向(復方向)へ加工送りするとともに、被加工物Wに対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を被加工物Wの内部に位置づけた状態で分割予定ラインSに沿ってレーザビームを照射して改質領域を形成する。即ち、図示しない高さ位置測定器により測定された被加工物Wの裏面Wbの高さ位置を基準として、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の集光点位置を、被加工物Wの内部の所定の高さ位置に位置づける。
【0031】
被加工物Wを、例えば、500mm/秒の加工送り速度で+X方向(復方向)へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。レーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により第二のレーザビームLB2に分岐して、第二のレーザビームLB2が集光器33により集光され裏面Wb側から被加工物Wの内部に照射される。第二のレーザビームLB2は、例えば、波長1342nm、出力1.8W、繰り返し周波数90kHzである。本実施形態においては、第一のビームシャッター313bが第一のレーザビームLB1を遮断する位置に位置づけられており、レーザビームLBが分岐した第一のレーザビームLB1は被加工物Wに対して照射されない。
【0032】
集光点に到達する前の第二のレーザビームLB2は、被加工物Wに対して透過性を有しているが、集光点に到達した第二のレーザビームLB2は被加工物Wに対して局所的に非常に高い吸収特性を示す。そのため、集光点付近の被加工物Wは第二のレーザビームLB2を吸収して改質され、被加工物Wの内部に図4、5に示すように改質領域Mが形成されていく。改質領域Mは、例えば厚みが約90μmとなるように形成される。なお、改質領域Mの被加工物W内部における形成高さ位置は、後述する第2レーザ加工ステップにおいて被加工物Wの表面Wa及び裏面Wbにそれぞれ伸長させるクラックの長さを考慮して決められる。また、改質領域Mの上端側と被加工物Wの裏面Wbとの間の距離(改質領域Mが形成されていない領域の距離)が大きいほど、被加工物Wを分割して作製できるチップの抗折強度が高くなるため好ましい。
【0033】
分割予定ラインSに沿って被加工物Wの裏面Wb側から第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物Wが+X方向に進行すると、第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物Wの+X方向への加工送りを停止させる。
【0034】
なお、例えば、第一のビームシャッター313bを第一のレーザビームLB1を遮断しない位置に位置づけて、第一のレーザビームLB1が被加工物Wに対して照射されるようにしてもよい。そして、集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の集光点位置と、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の集光点位置とを、被加工物Wの内部の異なる高さ位置に位置づける。このようにして、被加工物Wの厚みに応じて、被加工物Wの内部に、レーザビームの2焦点同時照射により厚い改質領域を形成するようにしてもよいし、レーザビームの2焦点同時照射により2層の改質領域を同時に形成してもよい。
【0035】
また、加工条件は、被加工物Wの種類や厚みに応じて、以下に示す数値又は数値範囲内で適宜選定される。
波長 :1342nm又は1064nm
繰り返し周波数 :70kHz〜200kHz
平均出力 :0.5W〜1.8W
加工送り速度 :200mm/秒〜700mm/秒
【0036】
(2)第2レーザ加工ステップ
次に、図6に示すように、第一のビームシャッター313bを第一のレーザビームLB1を遮断しない位置に位置づけて、第一のレーザビームLB1を被加工物Wに対して照射可能とする。そして、集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の第1集光点P1の高さ位置と、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の第2集光点P2の高さ位置とが、それぞれ、改質領域Mの下端側と上端側とに位置づけられる。
【0037】
被加工物Wを、例えば、500mm/秒の加工送り速度で−X方向(往方向)へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。レーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により裏面Wb側から被加工物Wの内部にそれぞれ集光され照射される。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1342nm、出力1.5W、繰り返し周波数90kHzである。
【0038】
レーザビームの二焦点同時照射により、改質領域Mから被加工物Wの表面Wa及び裏面Wbにそれぞれ伸長し到達する多数の微細なクラックCが同時に形成されていく。なお、第一のレーザビームLB1の出力と第二のレーザビームLB2の出力とを共に1.5Wにしているが、形成したいクラックCの厚み(長さ)に応じて、第一のアッテネータ313c又は第二のアッテネータ314cを作動させて、第一のレーザビームLB1の出力と第二のレーザビームLB2の出力とを異なる値にしてもよい。
【0039】
図7に示すように、被加工物Wの表面Wa側に伸長するクラックCの厚みは、例えば、本実施形態においては約50μmであるが、40μm以上〜60μm以下であるとよい。被加工物Wの表面Wa側に伸長するクラックCの厚みは、第一のレーザビームLB1の出力に応じてスプラッシュが発生しない厚み、即ち、第一のレーザビームLB1が散乱し表面Wa側に形成されたデバイスDへアタックすることがない厚みに適宜設定される。例えば、第一のレーザビームLB1の出力を上記のように1.5Wとしている場合においては、被加工物Wの表面Wa側に伸長するクラックCの厚みを40μm未満とすると、スプラッシュが発生する可能性がある。
被加工物Wの裏面Wb側に伸長するクラックCの厚みは、例えば、本実施形態においては約60μmであるが、50μm以上〜70μm以下であるとよい。
【0040】
改質領域Mに沿って被加工物Wの裏面Wb側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物Wが−X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物Wの−X方向への加工送りを停止させる。その結果、被加工物Wは、被加工物Wの表面Wa及び裏面Wbに伸長し到達したクラックCによって、分割予定ラインSに沿って分割される。
【0041】
図6に示すレーザビーム照射手段3をY軸方向に割り出し送りし、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が照射された分割予定ラインSの隣に位置しレーザビームがまだ照射されていない分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせを行う。そして、分割予定ラインS毎の被加工物Wの裏面Wbの高さ位置測定と、第1レーザ加工ステップにおける改質領域Mの形成と、第2レーザ加工ステップにおけるクラックCの形成による被加工物Wの分割とを、同様に順次繰り返し実施していく。
なお、一本目の分割予定ラインSに沿って行った上記加工においては、チャックテーブル2の往方向(−X方向)への加工送りで被加工物Wの裏面Wbの高さ位置測定を行い、チャックテーブル2の復方向(+X方向)への加工送りで被加工物Wに改質領域Mを形成し、さらに、チャックテーブル2の往方向への加工送りで被加工物Wの表面Wa側及び裏面Wb側にクラックCを同時に伸長させ形成しているが、一本目の分割予定ラインSに隣接する次の分割予定ラインSに沿って加工を施すにあたっては、チャックテーブル2の復方向への加工送りで高さ位置測定を行い、往方向への加工送りで改質領域Mを形成し、復方向への加工送りで被加工物Wの表面Wa側及び裏面Wb側に同時にクラックCを伸長させ形成する。
【0042】
1方向の全ての分割予定ラインSに沿って上記加工を行った後、さらに、チャックテーブル2を90度回転させてから同様の加工を被加工物Wに対して行うと、縦横全ての分割予定ラインSに沿って被加工物Wがチップに分割される。
【0043】
従来の加工方法のように、被加工物Wに改質領域を形成した後、表面Waまたは裏面Wb側に至るクラックを形成し、次いで、残りの裏面Wbまたは表面Wa側に至るクラックを形成した場合には、先に形成された方のクラックが開いてしまうことで、次いで形成するクラックが、完全には裏面Wbまたは表面Waに至らず被加工物Wに分割されない領域が発生してしまったり、クラックが裏面Wbまたは表面Waに真っ直ぐに伸長しなかったりする場合がある。
【0044】
一方、本発明に係る加工方法は、第2レーザ加工ステップにおいて、改質領域Mから被加工物Wの表面Wa及び裏面Wbに至るクラックCを同時に伸長させて被加工物Wを分割することで、被加工物Wに分割されない領域が発生してしまったり、被加工物Wが分割予定ラインSに沿って真っ直ぐに分断されずにひびや欠けがチップに発生してしまったりすることを防ぐことができる。
なお、例えば、第1レーザ加工ステップ後に第2レーザ加工ステップを実施しない場合には、改質領域Mから被加工物Wの表面Wa及び裏面Wbに至るクラックが同時に形成されないため、被加工物Wは分割されない。また、第2レーザ加工ステップだけを実施しても、クラックが完全には裏面Wbまたは表面Waに至らず被加工物Wに分割されない領域が発生してしまったり、クラックが裏面Wbまたは表面Waに真っ直ぐに伸長しなかったりする。
【0045】
第2レーザ加工ステップ実施後に、チップに分割された被加工物Wは、図示しないエキスパンド装置に搬送され、保護テープTがエキスパンドされることで、チップ間に所定の間隔が形成される。その後、被加工物Wからチップがピックアップされる。
【0046】
(実施形態2)
以下に、本発明に係る被加工物の加工方法を実施して図8に示す被加工物W1をチップに分割する場合の、加工方法の各ステップについて説明していく。
【0047】
図8に示す被加工物W1は、外形が円形板状のシリコンウェーハであり、被加工物W1の表面W1aの分割予定ラインSによって区画された格子状の領域には、デバイスDが形成されている。被加工物W1の表面W1aは、チップとなるデバイス領域W1cと、デバイス領域W1cを囲む外周領域W1dとからなる。被加工物W1の外周縁には、結晶方位を識別するためのノッチN1が、被加工物W1の中心に向けて径方向内側に窪んだ状態で形成されている。被加工物W1は、例えば、厚みが150μmの割れにくい45°品シリコンウェーハである。図1に示すように、被加工物W1は、その裏面W1bに保護テープT1が貼着されており、保護テープT1を介して環状フレームF1に支持されている。
【0048】
まず、被加工物W1は、図9に示すレーザ加工装置1のチャックテーブル2に搬送される。そして、環状フレームF1によって支持されている被加工物W1が、裏面W1bが上側を向いた状態、即ち保護テープT1が上側になった状態でチャックテーブル2に載置される。そして、図示しない吸引源が生み出す吸引力が保持面20の外周部分20bに伝達されることで、チャックテーブル2が被加工物W1を吸引保持する。また、各固定クランプ21によって環状フレームF1が固定される。
【0049】
被加工物W1がチャックテーブル2により吸引保持された後、チャックテーブル2に吸引保持された被加工物W1の裏面W1bの高さ位置が測定される。被加工物Wが−X方向(往方向)に送られるとともに、アライメント手段4により分割予定ラインSが検出される。また、レーザビーム照射手段3がY軸方向に駆動され、レーザビームを照射する基準となる分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせがなされる。
【0050】
レーザビーム発振器300から発振されパワー調整手段303により非常に弱い出力に調整されたレーザビームLBが、第一偏光ビームスプリッタ311により第二のレーザビームLB2に分岐して、第二のレーザビームLB2が集光器33により集光され被加工物W1の裏面W1bに照射される。なお、第一のビームシャッター313bが第一のレーザビームLB1を遮断する位置に位置づけられており、レーザビームLBが分岐した第一のレーザビームLB1は被加工物W1に対して照射されない。そして、一本の分割予定ラインSに沿って被加工物W1の裏面W1bに第二のレーザビームLB2を照射し終える所定の位置まで被加工物W1が−X方向に進行すると、第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W1の−X方向への加工送りを停止させる。また、図示しない高さ位置測定器により被加工物W1の裏面W1bの高さ位置が測定された状態になる。
【0051】
(1)第1レーザ加工ステップ
次いで、図示しない高さ位置測定器により測定された被加工物W1の裏面W1bの高さ位置を基準として、第二のレーザビームLB2の集光点位置を、被加工物W1の内部の所定の高さ位置に位置づける。また、第一のビームシャッター313bを第一のレーザビームLB1を遮断しない位置に位置づけて、第一のレーザビームLB1が被加工物W1に対して照射されるようにし、集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の集光点位置を、被加工物W1の内部の所定の高さ位置に位置づける。
【0052】
図10に示すように、被加工物W1を、例えば300mm/秒の加工送り速度で+X方向(復方向)へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。そして、波長変換機構34を作動させて、レーザビーム発振器300により発振された波長1342nmのレーザビームLBを、被加工物W1に透過性を有する波長1064nmのレーザビームLBに変換する。
【0053】
波長1064nmのレーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により、第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により集光され裏面W1b側から被加工物W1の内部にそれぞれ照射される(2焦点同時照射)。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1064nm、出力0.7W、繰り返し周波数80kHzである。
【0054】
被加工物W1の内部に図10に示すように改質層M11が形成されていく。改質層M11は、例えば厚みが約50μmとなるように形成される。一本の分割予定ラインSに沿って被加工物W1の裏面W2b側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物W1が+X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W1の+X方向への加工送りを停止させる。
【0055】
次いで、第一のレーザビームLB1の集光点の高さ位置と、第二のレーザビームLB2の集光点の高さ位置とが、例えば、被加工物W1の内部の改質層M11よりも上方の高さ位置に位置づけられる。
図11に示すように、被加工物W1を、例えば、300mm/秒の加工送り速度で−X方向へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。また、波長変換機構34を作動させて、波長1342nmのレーザビームLBを、被加工物W1に透過性を有する波長1064nmのレーザビームLBに変換する。
【0056】
波長1064nmのレーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により、第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により裏面W1b側から被加工物W1の内部にそれぞれ集光され照射される(2焦点同時照射)。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1064nm、繰り返し周波数80kHzである。また、第1のアッテネータ313c、第2のアッテネータ314cが作動して、第一のレーザビームLB1の出力は0.7Wとなり、第二のレーザビームLB2の出力は0.4Wとなる。
【0057】
被加工物W1の内部に図11,12に示すように改質層M12が、例えば、改質層M11の上方に形成されていく。改質層M12は、例えば厚みが約50μmとなるように形成される。分割予定ラインSに沿って被加工物W1の裏面W1b側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物W1が−X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止すると共に被加工物W1の−X方向への加工送りを停止させる。本実施形態において、改質領域は、改質層M12及び改質層M11からなる領域であり、改質領域の下端側は改質層M11の下端側となり、改質領域の上端側は改質層M12の上端側となる。
【0058】
(2)第2レーザ加工ステップ
図13に示す集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の第1集光点P11の高さ位置が、被加工物W1の表面W1aにより近い改質層M11の下端側に位置づけられる。また、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の第2集光点P21の高さ位置が、被加工物W1の裏面W1bにより近い改質層M12の上端側に位置づけられる。
【0059】
被加工物W1を、300mm/秒の加工送り速度で+X方向へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。波長変換機構34により波長が1064nmとなったレーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により裏面W1b側から被加工物W1の内部にそれぞれ集光され照射される。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1064nm、繰り返し周波数80kHzである。また、第1のアッテネータ313c、第2のアッテネータ314cが作動して、第一のレーザビームLB1の出力は0.7Wとなり、第二のレーザビームLB2の出力は0.4Wとなる。
【0060】
その結果、図13、14に示すように、改質層M11から被加工物W1の表面W1aに伸長し到達するクラックC1と改質層M12から被加工物W1の裏面W1bに伸長し到達するクラックC1とが同時に形成される。
図14に示すように、被加工物W1の表面W1a側に伸長するクラックC1の厚みは、例えば、本実施形態においては約20μmであるが、15μm以上〜30μm以下であるとよい。被加工物W1の表面W1a側に伸長するクラックC1の厚みは、第一のレーザビームLB1の出力に応じてスプラッシュが発生しない厚みに適宜設定される。例えば、第一のレーザビームLB1の出力を上記のように0.7Wとしている場合においては、被加工物W1の表面W1a側に伸長するクラックC1の厚みを15μm未満とすると、スプラッシュが発生する可能性がある。
被加工物W1の裏面W1b側に伸長するクラックC1の厚み(長さ)は、例えば、本実施形態においては約30μmであるが、20μm以上〜35μm以下であるとよい。
【0061】
改質層M11及び改質層M12に沿って被加工物W1の裏面W1b側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終える所定の位置まで被加工物W1が+X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W1の+X方向への加工送りを停止させる。そして、被加工物W1は、被加工物W1の表面W1a及び裏面W1bに伸長し到達したクラックC1によって、分割予定ラインSに沿って分割される。
【0062】
次いで、図13に示すレーザビーム照射手段3をY軸方向に割り出し送りし、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が照射された分割予定ラインSの隣に位置する分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせを行う。そして、分割予定ラインS毎の被加工物W1の裏面W1bの高さ位置測定と、改質層M11の形成と、改質層M12の形成と、クラックC1の形成による分割とを同様に順次繰り返し実施していく。
なお、一本目の分割予定ラインSに沿って行った上記加工においては、往方向(−X方向)への加工送りで裏面W1bの高さ位置測定を行い、復方向(+X方向)への加工送りで被加工物W1に改質層M11を形成し、往方向への加工送りで被加工物W1に改質層M12を形成し、復方向への加工送りで被加工物W1の表面W1a側及び裏面W1b側にクラックC1を同時に伸長させ到達させているが、一本目の分割予定ラインSに隣接する次の分割予定ラインSに沿って加工を施していくにあたっては、同様に、一本目の分割予定ラインSに沿った加工と同様に、往方向(−X方向)への加工送りで被加工物W1の裏面W1bの高さ位置測定を行い、復方向(+X方向)への加工送りで被加工物W1に改質層M11を形成し、往方向への加工送りで被加工物W1に改質層M12を形成し、復方向への加工送りで被加工物W1の表面W1a側及び裏面W1b側にクラックC1を同時に伸長させ到達させている。
【0063】
1方向の全ての分割予定ラインSに沿って上記加工を行った後、さらに、チャックテーブル2を90度回転させてから同様の加工を被加工物W1に対して行うと、縦横全ての分割予定ラインSに沿って被加工物W1が分割される。
本発明に係る加工方法は、第2レーザ加工ステップにおいて、改質層M11及び改質層M12で構成される改質領域から被加工物W1の表面W1a及び裏面W1bに至るクラックC1を同時に伸長させて被加工物W1を分割することで、被加工物W1が分割予定ラインSに沿って真っ直ぐに分断されずにひびや欠けがチップに発生してしまうことを抑制することができる。
【0064】
第2レーザ加工ステップ実施後に、チップに分割された被加工物W1は、図示しないエキスパンド装置に搬送され、保護テープT1がエキスパンドされることで、チップ間に所定の間隔が形成される。その後、被加工物W1からチップがピックアップされる。
【0065】
(実施形態3)
以下に、本発明に係る被加工物の加工方法を実施して図15に示す被加工物W2をチップに分割する場合の、加工方法の各ステップについて説明していく。
【0066】
図15に示す被加工物W2は、例えば外形が円形板状のシリコンウェーハであり、被加工物W2の表面W2aの分割予定ラインSによって区画された格子状の領域には、デバイスDがそれぞれ形成されている。被加工物W2の外周縁には、結晶方位を識別するためのノッチN2が、被加工物W2の中心に向けて径方向内側に窪んだ状態で形成されている。被加工物W2は、例えば、厚みが280μmの割れやすい0°品シリコンウェーハである。図15に示すように、被加工物W2は、その表面W2aに被加工物W2よりも大径の保護テープT2が貼着されており、保護テープT2の粘着面の外周部は、環状フレームF2に貼着された状態になっている。
【0067】
まず、被加工物W2は、図16に示すレーザ加工装置1に搬送される。レーザ加工装置1は、例えば、被加工物W2を吸引保持するチャックテーブル2Aを備えている。チャックテーブル2Aは、図2に示すチャックテーブル2と異なり、図16に示す保持面200が中央領域と外周領域とに分かれておらず、図示しない吸引源に連通する保持面200全面で被加工物W2を吸引保持することができる。チャックテーブル2Aのその他の構成は、図2に示すチャックテーブル2と同様である。
【0068】
環状フレームF2によって支持されている被加工物W2が、裏面W2bが上側を向いた状態でチャックテーブル2Aに載置される。そして、図示しない吸引源が生み出す吸引力が保持面200に伝達されることで、チャックテーブル2Aが保護テープT2を介して被加工物W2を吸引保持する。各固定クランプ21によって環状フレームF2が固定される。
【0069】
被加工物W2がチャックテーブル2Aにより吸引保持された後、チャックテーブル2Aに吸引保持された被加工物W2の裏面W2bの高さ位置が測定される。図17に示すように、被加工物W2が−X方向(往方向)に送られるとともに、アライメント手段4により分割予定ラインSが検出される。また、レーザビーム照射手段3がY軸方向に駆動され、レーザビームを照射する基準となる分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせがなされる。
【0070】
レーザビーム発振器300から発振されパワー調整手段303により非常に弱い出力に調整されたレーザビームLBが、第一偏光ビームスプリッタ311により第二のレーザビームLB2に分岐して、第二のレーザビームLB2が集光器33により被加工物W2の裏面W2bに集光され照射される。なお、第一のビームシャッター313bが第一のレーザビームLB1を遮断する位置に位置づけられており、レーザビームLBが分岐した第一のレーザビームLB1は被加工物W2に対して照射されない。
一本の分割予定ラインSに沿って被加工物W2の裏面W2bに第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物W2が−X方向に進行すると、第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W2の−X方向への加工送りを停止させる。また、図示しない高さ位置測定器により被加工物W2の裏面W2bの高さ位置が測定された状態になる。
【0071】
(1)第1レーザ加工ステップ
図示しない高さ位置測定器により測定された被加工物W2の裏面W2bの高さ位置を基準として、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の集光点位置を、被加工物W2の内部の所定の高さ位置に位置づける。また、第一のビームシャッター313bを第一のレーザビームLB1を遮断しない位置に位置づけて、第一のレーザビームLB1が被加工物W2に対して照射されるようにし、集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の集光点位置を、被加工物W2の内部の所定の高さ位置に位置づける。
【0072】
図18に示すように、被加工物W2を、例えば、700mm/秒の加工送り速度で+X方向(復方向)へ送ると共に、レーザビーム発振器300から波長1342nmのレーザビームLBを発振させる。レーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により、第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により集光され裏面W2b側から被加工物W2の内部にそれぞれ照射される(2焦点同時照射)。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1342nm、出力1.5W、繰り返し周波数90kHzである。
【0073】
被加工物W2の内部に図18、19に示すように、2層の改質層M21及び改質層22が形成されていく。本実施形態においては、改質領域は、改質層M22及び改質層M21からなる領域であり、被加工物W2の厚み方向の中間位置に形成される。よって、改質領域の下端側は改質層M21の下端側となり、改質領域の上端側は改質層M22の上端側となる。両改質層は、例えば厚みが各々約80μmとなるように形成される。改質領域の厚み、即ち、改質層M21と改質層M22とを合わせた厚みは、厚み約160μmとなる。そして、一本の分割予定ラインSに沿って被加工物W2の裏面W2b側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物W2が+X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W2の+X方向への加工送りを停止させる。
【0074】
(2)第2レーザ加工ステップ
次いで、図20に示す集光レンズ33aによって集光される第一のレーザビームLB1の第1集光点P12の高さ位置が、被加工物W2の表面W2aにより近い改質層M21の下端側に位置づけられる。また、集光レンズ33aによって集光される第二のレーザビームLB2の第2集光点P22の高さ位置が、被加工物W2の裏面W2bにより近い改質層M22の上端側に位置づけられる。
【0075】
被加工物W2を、例えば、700mm/秒の加工送り速度で−X方向へ送ると共に、レーザビーム発振器300からレーザビームLBを発振させる。レーザビームLBは、第一偏光ビームスプリッタ311により第一のレーザビームLB1と第二のレーザビームLB2とに分岐して、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が集光器33により裏面W2b側から被加工物W2の内部にそれぞれ集光され照射される。なお、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2は、それぞれ、波長1342nm、出力1.5W、繰り返し周波数90kHzである。
【0076】
その結果、図20に示すように、改質層M21から被加工物W2の表面W2aに伸長し到達するクラックC2と改質層M22から被加工物W2の裏面W2bに伸長し到達するクラックC2とが同時に形成される。
図21に示すように、被加工物W2の表面W2a側に伸長するクラックC2及び被加工物W2の裏面W2b側に伸長するクラックC2の厚みは、約60μmであり、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の出力及び波長に応じてスプラッシュが発生しない厚みに適宜設定される。例えば、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の出力が上記のように1.5Wであり、かつ、波長が1342nmである場合においては、各クラックC2の厚みを60μm未満とすると、スプラッシュが発生する可能性がある。
【0077】
改質層M21及び改質層M22に沿って被加工物W2の裏面W2b側から第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2を照射し終える所定の位置まで被加工物W2が−X方向に進行すると、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2の照射を停止するとともに被加工物W2の−X方向への加工送りを停止させる。そして、被加工物W2は、被加工物W2の表面W2a及び裏面W2bに伸長し到達したクラックC2によって、分割予定ラインSに沿って分割される。
【0078】
次いで、図20に示すレーザビーム照射手段3をY軸方向に割り出し送りし、第一のレーザビームLB1及び第二のレーザビームLB2が照射された分割予定ラインSの隣に位置する分割予定ラインSと集光器33とのY軸方向における位置合わせを行う。そして、分割予定ラインS毎の被加工物W2の裏面W2bの高さ位置測定と、改質層M21及び改質層M22の同時形成と、クラックC2の形成による分割とを同様に順次繰り返し実施していく。
なお、一本目の分割予定ラインSに沿って行った上記加工においては、往方向(−X方向)への加工送りで被加工物W2の裏面W2bの高さ位置測定を行い、復方向(+X方向)への加工送りで被加工物W2に改質層M21及び改質層M22からなる改質領域を形成し、往方向への加工送りで被加工物W2の表面W2a側及び裏面W2b側にクラックC2を同時に伸長させ形成しているが、一本目の分割予定ラインSに隣接する次の分割予定ラインSに沿って加工を施していくにあたっては、チャックテーブル2Aの復方向への加工送りで被加工物W2の裏面W2bの高さ位置測定を行い、往方向への加工送りで被加工物W2に改質層M21及び改質層M22からなる改質領域を形成し、復方向への加工送りで被加工物W2の表面W2a側及び裏面W2b側にクラックC2を伸長させ到達させる。
【0079】
1方向の全ての分割予定ラインSに沿って上記加工を行った後、さらに、チャックテーブル2Aを90度回転させてから同様の加工を被加工物W2に対して行うと、縦横全ての分割予定ラインSに沿って被加工物W2が分割される。
本発明に係る加工方法は、第2レーザ加工ステップにおいて、改質層M21及び改質層M22で構成される改質領域から被加工物W2の表面W2a及び裏面W2bに至るクラックC2を同時に伸長させて被加工物W2を分割することで、被加工物W2が分割予定ラインSに沿って真っ直ぐに分断されずにひびや欠けがチップに発生してしまうことを抑制することができる。
【0080】
第2レーザ加工ステップ実施後に、チップに分割された被加工物W2のテープ転写が行われる。図22に示すように、例えば、被加工物W2は、その表面W2aから保護テープT2が剥離され、環状フレームF2による支持が解除される。さらに、被加工物W2は、裏面W2bに被加工物W2よりも大径のエキスパンドテープT3が貼着され、エキスパンドテープT3の粘着面の外周部がリングフレームF3に貼着された状態になる。その後、被加工物W2は、図示しないエキスパンド装置に搬送され、エキスパンドテープT3がエキスパンドされることで、チップ間に所定の間隔が形成される。そして、被加工物W2からチップがピックアップされる。
【符号の説明】
【0081】
W:被加工物 Wa:被加工物の表面 Wb:被加工物の裏面 S:分割予定ライン D:デバイス T:保護テープ F:環状フレーム M:改質領域 C:クラック
1:レーザ加工装置 2:チャックテーブル 20:保持面 21:固定クランプ
3:レーザビーム照射手段
30:レーザビーム発振ユニット 300:レーザ発振器 303:パワー調整手段
31:外部光学系ユニット 310、315、318:1/2波長板
311:第一偏光ビームスプリッタ 317:第二辺孔ビームスプリッタ
313a、316:ミラー 313b:第一のビームシャッター 314b:第二のビームシャッター 313c:第一のアッテネータ 314c:第二のアッテネータ
34:波長変換機構
4:アライメント手段 40:赤外線カメラ
W1:被加工物 M11、M12:改質層 C1:クラック
W2:被加工物 M21、M22:改質層 C2:クラック T3:エキスパンドテープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22