【実施例】
【0021】
(脱水工程)
先ず、多孔質ガラス母材の上下両側または下側のみに遮熱板を装着した後、多孔質ガラス母材の一端を支持棒で保持して炉心管内に挿入し、炉心管の上部に蓋をする。次に、多孔質ガラス母材を所定の加熱位置にセットし、多段加熱ヒータを構成する加熱ヒータをそれぞれ所定の温度まで昇温する。各加熱ヒータの温度は、多孔質ガラス母材が所定の処理温度で処理できるように設定される。なお、脱水処理温度は900℃〜1300℃である。さらに、ガス導入口から塩素ガス、または塩素ガスとヘリウム、アルゴン、窒素など不活性ガスとの混合ガスなど、脱水に必要なガスを供給する。脱水処理中の炉心管内圧は、大気圧に比べて10〜5000Pa程度陽圧とする。
【0022】
多孔質ガラス母材を回転させつつ、必要であれば上下に移動させながら所定の時間加熱処理を行うことにより、多孔質ガラス母材の脱水処理が行われる。
図4に示すように、多段加熱ヒータが母材の両端部に装着された遮熱板の間に在る位置関係にすれば、加熱ヒータが放射する熱は炉心管長手方向への拡散が抑制され、加熱ヒータの熱を効率よく母材に伝熱することが可能となる。
【0023】
(焼結工程)
脱水工程が終了した後、第一の加熱ヒータ13Aの温度を、焼結可能な温度1400℃〜1650℃まで昇温し、ガス導入口からはヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを導入する。なお、焼結工程での炉心管内圧は、大気圧に比べて10〜5000Pa程度陽圧とする。
次に、多孔質ガラス母材をその軸を中心に回転させながら、第一の加熱ヒータ13Aによる加熱温度領域を所定の速度で降下させ、多孔質ガラス母材をその下端から順に焼結を行うことにより、多孔質ガラス母材は透明な光ファイバ母材となる。
【0024】
ここで、第一の加熱ヒータ13Aによる1400〜1650℃の加熱温度領域は多孔質ガラス母材の長さよりも短くするのがよく、母材の一端から他端に向かって、あるいは母材の中央部から一端に向かって徐々に焼結して透明ガラス化するのが好ましい。このようにして焼結することにより母材端にガスの逃げ口が確保され、気泡の少ない透明な光ファイバ用ガラス母材が得られる。
残る第二の加熱ヒータ13B、第三の加熱ヒータ13Cは、省電力のために設定温度を下げてもよく、あるいは焼結速度を促進するために1400℃未満の焼結しない程度の温度で制御して、未焼結の多孔質母材部分を予熱するようにしてもよい。
【0025】
従来、多段加熱ヒータ構成の焼結炉では、加熱ヒータ間に低温領域が形成され、この低温領域に位置する母材の該当部分は加熱不足となり、十分な脱水が行われず、残留水分による伝送損失が上昇する傾向があった。
本発明では、少なくとも母材の下側、または母材の両側に遮熱板を装着して脱水処理することにより、多段構成の加熱ヒータ間に低温領域が存在しても、加熱ヒータの熱は母材に効率良く伝達され、母材全体を十分に脱水することが可能になる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
図1に示すような焼結装置を用いて、OVD法で出発コア母材(ターゲット棒)の外周上にガラス微粒子を堆積させて形成した多孔質ガラス母材11の脱水、焼結を行い、光ファイバ母材の製造を行った。
多段加熱ヒータ13は三段構成とし、中心に第一の加熱ヒータ13A、その上側に第二の加熱ヒータ13B、下側に第三の加熱ヒータ13Cをそれぞれ配設した。各加熱ヒータの全長は第一、第二、第三の順に400mm、490mm、490mmであり、第一の加熱ヒータ13Aと第二の加熱ヒータ13Bの間隔は645mmであり、第一の加熱ヒータ13Aと第三の加熱ヒータ13Cとの間隔は510mmである。
【0027】
各加熱ヒータ13A、13B、13Cは、それぞれ温度計を備えており、PID制御により独立して温度制御可能である。加熱ヒータ13A,13B,13Cはそれぞれ順に炉体14A,14B,14C内に収容されており、炉体14Aと14B,14Aと14Cとはそれぞれ約200mmの間隔をおいて隣接して設置されている。多段加熱ヒータ全体の長さ(第二の加熱ヒータ13Bの上端から第三の加熱ヒータ13C下端まで)は約2500mmであり、多段加熱ヒータ域内に母材11の直胴部約2000mmを収容することが可能である。加熱ヒータを適切な温度に設定することにより、母材全体を900℃以上に加熱することが可能であり、多孔質母材全体を同時に加熱脱水することができる。
【0028】
脱水・焼結に供した多孔質ガラス母材11の全長は2800mm、直胴部の長さ2000mmで、シリカ堆積層の外径は330mmであった。使用した炉心管12の内径は382mmである。
先ず、多孔質ガラス母材11を垂直方向に吊り上げ、母材下端のターゲット棒(ハンドル)側部に設けられた半円状の切欠き部の上方に、不透明石英ガラス製の遮熱板21(内径41mm、外径310mm、厚さ13mm)を配置した後、側部に貫通孔(穴径11mm)を有する窒化ケイ素製のシャフト管31(内径41mm、外径62mm)を通し、シャフト管31の貫通孔とターゲット棒の切欠き部との位置を併せてピン32(直径9mm、長さ90mm)を挿入して、遮熱板21を母材の下側に装着した。
さらに、カーボン製の遮熱板20(内径90mm、外径364mm、厚さ1.5mm)を、母材11上部のテーパー部に載せた。
【0029】
母材の脱水に際し、先ず、炉心管12上端の開口部から、支持棒16に垂下した前記遮熱板20,21を装着した多孔質ガラス母材11を挿入し、軸方向長さ2800mmの多孔質ガラス母材11の直胴部の下端を加熱ヒータ13Cと相対する位置まで移動し、炉心管上端の開口部に蓋をした(
図4参照)。
【0030】
次に、多段加熱ヒータ13A、13B、13Cの温度をそれぞれ1150℃に設定し、加熱した。多段加熱ヒータにより形成された加熱温度領域中を、母材11を上下に移動させることで、母材全域を加熱した。上下方向への移動範囲は、多孔質ガラス母材11の直胴部上端が第二の加熱ヒータ13Bの上端に相当する位置から、母材11の直胴部下端が第三の加熱ヒータ13Cの下端に相当する位置までの範囲とした。
【0031】
母材11を回転させながら上下に移動させ脱水工程を実施した。回転速度は5rpm、上下方向への移動速度は3mm/minとした。このときガス導入口15から、脱水ガスとして塩素ガスを2SLMの流量で導入し、炉心管12の内圧を大気圧に対して10〜5000Pa陽圧に保った。
多孔質ガラス内に存在するOH基は塩素ガスと反応して、雰囲気ガスに取り込まれる。母材内のOH基を除去したガスは、排気管17から炉心管外に排気される。この処理を16時間継続した。
【0032】
脱水処理後、ガス導入口15からヘリウムを15SLMで30分間導入し、炉心管内の塩素ガスと置換した。加熱ヒータ13B,13Cの加熱を停止し、加熱ヒータ13Aの設定温度を1525℃に上昇させ、ヘリウムを2SLMの流量で導入し、炉心管12の内圧を大気圧に対して10〜5000Pa陽圧に保った。母材を5rpmの速度で回転させながら1.5mm/minの速度で引下げ、母材の下端から上端の方向へ向かって透明ガラス化を行い、光ファイバプリフォーム18Aを得た。
【0033】
炉心管内部での、遮熱板21を装着した状態での多孔質ガラス母材11Aの長手方向の温度分布を
図6に示す。図中、炉心管12の右側に示されたグラフでは、縦軸に長さを横軸に温度が目盛られている。
遮熱板21を装着していない下記比較例と比較して、中央の第一の加熱ヒータ13Aと下部の第三の加熱ヒータ13Cとの間の領域の温度低下が抑えられていることが認められる。
多孔質ガラス母材を脱水焼結して透明ガラス化されたプリフォームを公知の光ファイバ用線引装置に装着して光ファイバを製造した。その後、伝送損失の測定を行った結果、低損失の光ファイバが得られた。
【0034】
[比較例1]
図5に示した焼結装置を用い、母材の上側のみに遮熱板20を装着し、母材の下側には遮熱板21を装着しない状態で脱水焼結処理を行った。
先ず、多孔質ガラス母材11を垂直方向に吊り上げ、該母材上側のテーパー部にカーボン製の遮熱板20(内径90mm、外径364mm、厚さ1.5mm)を載せ、炉心管12上端の開口部から、支持棒16に垂下した多孔質ガラス母材11を挿入し、炉心管上端の開口部に蓋をした。以後、実施例と同様にして母材11の脱水焼結処理を行い、光ファイバ用プリフォームを製造した。
【0035】
遮熱板21を装着しない状態で脱水焼結処理を行った多孔質ガラス母材11Aの長手方向の温度分布を
図6に示す。
遮熱板21がある実施例の場合と比較して、中央の第一の加熱ヒータ13Aと下部の第三の加熱ヒータ13Cの間の領域の温度低下が大きいことが認められる。