特許第6865334号(P6865334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6865334紙用コーティング剤及びそれを用いた塗工紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6865334
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】紙用コーティング剤及びそれを用いた塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20210419BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   D21H19/20 B
   D21H27/00 A
   D21H27/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2021-506346(P2021-506346)
(86)(22)【出願日】2020年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2020038859
【審査請求日】2021年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2019-189779(P2019-189779)
(32)【優先日】2019年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2019-237551(P2019-237551)
(32)【優先日】2019年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田岡 悠太
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−516472(JP,A)
【文献】 特開2001−254292(JP,A)
【文献】 特開2017−043872(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0194514(US,A1)
【文献】 国際公開第2019/203216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00−10/00
101/00−201/10
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する、紙用コーティング剤。
【請求項2】
共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、0.000001〜0.01質量部含有する、請求項1に記載の紙用コーティング剤。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度が80〜99.7モル%である、請求項1又は2に記載の紙用コーティング剤。
【請求項4】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度が300〜5000である、請求項1〜3のいずれかに記載の紙用コーティング剤。
【請求項5】
さらにアイオノマーを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の紙用コーティング剤。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のコーティング剤が紙に塗工された、塗工紙。
【請求項7】
剥離紙原紙である、請求項に記載の塗工紙。
【請求項8】
耐油紙である、請求項に記載の塗工紙。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のコーティング剤を紙に塗工する、塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する紙用コーティング剤に関する。また、本発明は、当該コーティング剤を用いた塗工紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある。)に代表されるビニルアルコール系重合体は、水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維であるビニロンの原料、紙加工剤、繊維加工剤、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルム等の用途に広く用いられている。特に、PVAを紙に塗工することにより紙力増強、耐水化、耐油化、ガスバリア性付与等が可能となることが知られており、ビニルアルコール系重合体が紙に塗工されてなる塗工紙が広く使用されている。また、ビニルアルコール系重合体は、無機物のバインダーや分散安定剤等の、紙に機能性を付与するための添加剤とともに用いられる助剤としても使用されている。
【0003】
塗工紙のうち、特に剥離紙においては、紙を構成するパルプ繊維間の空隙を低減させ、紙表面に塗工されたシリコーンの歩留まりを向上させる目的で、目止め層(バリア層)としてPVA系重合体が一般的に用いられている。中でも部分けん化PVAは、バリア性に優れるため、好んで用いられている。
【0004】
しかしながら、部分けん化PVAは、耐水性に劣るため、粘着加工等において、加湿されることによりPVAが溶出し、ブロッキングが生じたり、後加工で水分散性ワニスが使用できなかったりするという問題があり、その解決が求められていた。
【0005】
特許文献1には、エチレン変性PVAとカルボキシメチルセルロースを含むコーティング液を用いることで、バリア性と耐水性が両立できると記載されている。
【0006】
しかしながら、当該コーティング液は粘度安定性が十分でない場合があった。また、コーティング液の作製時及び塗工時に当該液にせん断応力がかかることに起因して、多数のフィブリル状析出物が発生して工程通過性に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−21788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、粘度安定性に優れるとともに、バリア性及び耐水性に優れた塗工紙を得ることができるコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する、紙用コーティング剤を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、前記コーティング剤が、さらに共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、0.000001〜0.01質量部含有することが好ましい。前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度が80〜99.7モル%であることも好ましい。前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度が300〜5000であることも好ましい。前記コーティング剤が、さらにアイオノマーを含有することも好ましい。
【0011】
上記課題は、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であるエチレン−ビニルアルコール共重合体及びアイオノマーを含有する紙用コーティング剤を提供することによっても解決される。
【0012】
このとき、前記コーティング剤が、さらに共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、0.000001〜0.01質量部含有することが好ましい。前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度が80〜99.7モル%であることも好ましい。前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度が300〜5000であることも好ましい。
【0013】
前記コーティング剤が紙に塗工された塗工紙が本発明の好適な実施態様である。前記塗工紙が剥離紙原紙であることがより好ましい。前記塗工紙が耐油紙であることもより好ましい。前記コーティング剤を紙に塗工する塗工紙の製造方法もまた本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
特定の構造を有する前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する本発明の紙用コーティング剤は、粘度安定性に優れる。また、前記コーティング剤を用いることにより、バリア性及び耐水性に優れた塗工紙、特に、剥離紙及び耐油紙が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で用いた重合装置の概略図である。
図2】本発明で用いられるワイドパドル翼の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の紙用コーティング剤はエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有するものである。
【0017】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体]
本発明の紙用コーティング剤に含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であることを特徴とする。この点について、以下説明する。
【0018】
(エチレン単位のブロックキャラクター)
エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であることが、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の大きな特徴である。前記ブロックキャラクターが0.90以上であることにより、コーティング剤の粘度安定性が向上するとともに、得られる塗工紙のバリア性が向上する。当該ブロックキャラクターは、好適には0.93以上であり、より好適には0.95以上である。一方、前記ブロックキャラクターは0.99以下である。前記ブロックキャラクターが0.99以下であることにより、得られる塗工紙の耐水性が向上する。
【0019】
なお、前記ブロックキャラクターとは、エチレン単位と、ビニルエステル単位のけん化によって生じるビニルアルコール単位の分布を表した数値であり、0から2の間の値をとる。0が完全にブロック的にエチレン単位又はビニルアルコール単位が分布しているということを示し、値が増加するにつれて交互性が増していき、1がエチレン単位とビニルアルコール単位が完全にランダムに存在し、2がエチレン単位とビニルアルコール単位が完全に交互に存在することを示している。前記ブロックキャラクターは13C−NMRによって以下のとおり求められる。まずエチレン−ビニルアルコール共重合体をけん化度99.9モル%以上にけん化した後、メタノールで十分に洗浄を行い、90℃で2日間減圧乾燥させる。得られた完全けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体をDMSO−dに溶解させた後、得られた試料を500MHzの13C−NMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定する。得られたスペクトルチャートからT.Moritani and H.Iwasaki,11,1251−1259,Macromolecules(1978)に記載の方法で帰属、算出したビニルアルコール・エチレンの2単位連鎖のモル分率(AE)、ビニルアルコール単位のモル分率(A)、エチレン単位のモル分率(E)を用いて下記式よりエチレン単位のブロックキャラクター(η)を求める。
η=(AE)/{2×(A)×(E)}
【0020】
上記で規定されるエチレン単位のブロックキャラクターを有するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、後述する重合工程とけん化工程を含む特別な製造方法によって得ることができる。本発明者らが鋭意検討した結果、このような製造方法を採用することによって、エチレン単位のブロックキャラクターを制御することに成功した。そして、エチレン単位のブロックキャラクターを上述した範囲とすることにより、コーティング剤の粘度安定性が向上するとともに、得られる塗工紙のバリア性及び耐水性も向上することを見出した。以下、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体についてより詳細に説明する。
【0021】
(ビニルエステル)
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレンとビニルエステルを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得た後に、当該エチレン−ビニルエステル共重合体をけん化することにより得られる。用いられるビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0022】
(エチレン単位の含有率)
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有率は1モル%以上20モル%未満である。エチレン単位の含有率が1モル%未満の場合は、得られる塗工紙の耐水性が低下する。エチレン単位の含有率は、好適には1.5モル%以上であり、より好適には2モル%以上であり、さらに好適には2.5モル%以上である。一方、エチレン単位の含有率が20モル%以上の場合は、エチレン−ビニルアルコール共重合体が水に不溶となり、水溶液の調製が困難となる。エチレン単位の含有率は、好適には15モル%以下であり、より好適には10モル%以下であり、さらに好適には8.5モル%以下である。
【0023】
エチレン単位の含有率は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体の前駆体又は再酢化物であるエチレン−ビニルエステル共重合体のH−NMRから以下の方法により求められる。試料のエチレン−ビニルエステル共重合体の再沈精製をn−ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥して分析用のエチレン−ビニルエステル共重合体を作製する。得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をDMSO−dに溶解し、80℃でH−NMR(500MHz)測定を行う。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7〜5.2ppm)とエチレン及びビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(0.8〜1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有率を算出できる。
【0024】
(けん化度)
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度は、好適には80モル%以上、より好適には85モル%以上であり、さらに好適には90モル%以上である。一方、けん化度は、好適には99.7モル%以下、より好適には99モル%以下である。けん化度が上記下限値以上の場合は、得られる塗工紙の耐水性がさらに向上する。一方、けん化度が上記上限値以下である場合は、得られる塗工紙のバリア性がさらに向上するうえに、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を安定に製造しやすい。前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度はJIS K6726(1994年)に準じて測定できる。
【0025】
(粘度平均重合度)
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度は、好適には300以上、より好適には500以上、さらに好適には700以上、特に好適には900以上である。一方、粘度平均重合度は、好適には5000以下、より好適には4000以下、さらに好適には3500以下であり、特に好適には2400以下である。粘度平均重合度が上記下限値以上の場合は、得られる塗工紙の耐水性がさらに向上する。一方、粘度平均重合度が上記上限値以下の場合は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体が溶解したコーティング剤溶液(好適には水溶液)が適度な粘度を有するため、取り扱い易い。粘度平均重合度PはJIS K6726(1994年)に準じて測定できる。すなわち、本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体をけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](L/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
【0026】
(他の単量体単位)
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、エチレン単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位としては、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルに由来する単位等が挙げられる。これらの他の単量体単位の含有率は、使用される目的や用途等によって異なるが、好適には10モル%以下であり、より好適には5モル%未満であり、さらに好適には1モル%未満であり、特に好適には0.5モル%未満である。
【0027】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法]
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体の好適な製造方法は、エチレンとビニルエステルを反応させてエチレン−ビニルエステル共重合体を得た後に、該エチレン−ビニルエステル共重合体をけん化するエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法であって、エチレン−ビニルエステル共重合体を得る際に、(a)重合槽内で、ワイドパドル翼を用いて、単位体積あたりの撹拌動力Pvが0.5〜10kW/m、フルード数Frが0.05〜0.2となるようにビニルエステルを含む溶液を撹拌しながらエチレン含有ガスと接触させる工程を含む方法である。このような方法でビニルエステルを含む溶液とエチレン含有ガスを接触させることによって、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位のブロックキャラクターを上記範囲とすることが可能となる。以下、前記製造方法について詳細に説明する。
【0028】
(重合工程)
重合工程において、エチレンとビニルエステルを反応(共重合)させることによりエチレン−ビニルエステル共重合体を得る。エチレンとビニルエステルとを共重合させる方法としては、エチレンとビニルエステルをアルコール等の有機溶媒中で重合する溶液重合法が好ましい。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好ましい。重合に使用される開始剤としては、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネート等のアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。
【0029】
重合工程において、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体の粘度平均重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させてもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。中でも、アルデヒド及びケトンが好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするエチレン−ビニルエステル共重合体の粘度平均重合度に応じて決定されるが、通常、使用するビニルエステル100質量部に対して0.1〜10質量部である。
【0030】
重合操作にあたっては、連続法、半回分法及び回分法のいずれの重合方式も採用できるが、連続法が好ましい。重合反応器としては、連続槽型反応器、回分反応器、管型反応器等が挙げられるが、連続槽型反応器が好ましい。
【0031】
以下、具体的な重合装置とそれを用いた重合工程について、図を参照しながら説明する。図1は、実施例1で用いた重合装置の概略図である。当該装置は、連続槽型反応器であり、重合槽1が導管3、4を介して熱交換器2と接続されたものである。前記熱交換器2内でビニルエステルとエチレンとが向流接触することができる。
【0032】
重合槽1に、複数の導管5、6、7が接続されている。導管の本数や配置は図示した形態に限らない。これらの導管を通して、エチレン、重合開始剤及び有機溶媒が重合槽1に供給される。単位時間当たり重合槽内に導入される原料の割合は、ビニルエステル100質量部に対して、エチレンが0.1〜20質量部、有機溶媒が1〜100質量部、重合開始剤が0.00001〜1質量部であることが好ましい。場合によっては、ビニルエステルや他の単量体を、これらの導管を通して供給することもできる。重合槽1内の反応液は、重合槽1の底部に接続された反応液導出管9から連続的に排出される。
【0033】
重合槽1内には、撹拌翼としてワイドパドル翼を有する撹拌機8が設置されている。前記ワイドパドル翼を用いて、ビニルエステルを含む溶液を撹拌しながらエチレン含有ガスと接触させることにより、エチレンとビニルエステルを反応させてエチレン−ビニルエステル共重合体を得る。
【0034】
ビニルエステルを含む溶液を撹拌する撹拌翼として、ワイドパドル翼を用いることが好ましい。図2に本発明で用いられるワイドパドル翼の例の概略図を示す。図2に示されるように、幅bの広いパドルを有することがワイドパドル翼の特徴である。ワイドパドル翼の幅bは重合槽1の容量等によって適宜調整できるが、後述の通り1〜10mが好ましい。このようなパドルを用いることで溶液が底から液面まで均一に混合されるとともに、ビニルエステルを含む溶液にエチレンが効率的に吸収される。前記ワイドパドル翼は単段(例えば、マックスブレンド翼)であってもよいし、多段(例えば、フルゾーン翼)であってもよい。ビニルエステルにエチレンがさらに効率的に吸収される点から、ビニルエステルを含む溶液の撹拌中に、当該溶液の液面が撹拌翼上端部近傍にあることが好ましい。ワイドパドル翼として、具体的には、マックスブレンド翼(住友重機械プロセス機器株式会社)、フルゾーン翼(株式会社神鋼環境ソリューション)、サンメラー翼(三菱重工業株式会社)、Hi−Fiミキサー翼(綜研化学株式会社)、スーパーミックス翼(佐竹化学機械工業株式会社、スーパーミックス MR203、スーパーミックス MR205)、ベンドリーフ翼(八光産業株式会社)等が挙げられる。
【0035】
重合時における重合槽内のエチレン圧力は0.01〜0.9MPaが好ましく、0.05〜0.8MPaがより好ましく、0.1〜0.7MPaがさらに好ましい。重合槽出口でのビニルエステルの重合率は特に限定されないが、通常、10〜90%が好ましく、15〜85%がより好ましい。
【0036】
重合温度は特に限定されないが、通常、0〜180℃が好ましく、20〜160℃がより好ましく、30〜150℃がさらに好ましい。
【0037】
エチレンとビニルエステルを反応させる際に、重合槽内で、ビニルエステルを含む溶液の単位体積あたりの撹拌動力Pvが0.5〜10kW/mとなるように当該溶液を撹拌することが好ましい。撹拌動力が0.5kW/m未満の場合、ビニルエステルに取り込まれるエチレンの量が不十分になるとともに、反応液の均一性も不十分になり、エチレン単位のブロックキャラクターが上記範囲であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができない。撹拌動力は、より好適には1kW/m以上であり、さらに好適には1.5kW/m以上である。一方、撹拌動力が10kW/mを超える場合、運転に使用される動力が非常に大きくなり、工業的に好ましくない。撹拌動力は、より好適には7kW/m以下であり、さらに好適には5kW/m以下である。ビニルエステルを含む溶液の単位体積あたりの撹拌動力Pvは、後述する実施例に記載された方法により測定される。
【0038】
フルード数Frは以下の式で定義される慣性力と重力との比であり、液表面の渦の形状の指標となる。
Fr=n×d/g
n:撹拌翼の回転数(rps)
d:撹拌翼径(m)
g:重力加速度(m/s
【0039】
エチレンとビニルエステルを反応させる際に、重合槽内で、フルード数Frが0.05〜0.2となるようにビニルエステルを含む溶液を撹拌することが好ましい。フルード数Frを上記範囲に調整して液表面の渦の形状を制御することによって、ビニルエステルにエチレンが適度に吸収されるため、エチレン単位のブロックキャラクターが上記範囲にあるエチレン−ビニルアルコール共重合体を容易に得ることができるものと考えられる。フルード数Frは、より好適には0.06以上であり、さらに好適には0.07以上である。一方、フルード数Frは、より好適には0.18以下であり、さらに好適には0.15以下である。フルード数Frを上記範囲とするためには撹拌翼の回転数n、または撹拌翼径dを適宜変更すればよい。
【0040】
ワイドパドル翼の撹拌翼径dは、撹拌動力Pv、およびフルード数Frが上記範囲内となるように調整すればよく特に限定されないが、エチレン吸収効率が向上する点から0.5〜5mが好ましい。撹拌翼径dは0.75m以上がより好ましい。一方、撹拌翼径dは4m以下がより好ましい。撹拌翼径dは、回転軸から翼の先端(回転軸から最も遠い点)までの距離を2倍した値である。
【0041】
ワイドパドル翼(パドル)の幅b(高さ方向の長さ)は重合槽1の容量等によって調整すればよく特に限定されないが、エチレン吸収効率が向上する点から1〜10mが好ましい。幅bは1.5m以上がより好ましい。一方、幅bは8m以下がより好ましい。
【0042】
ワイドパドル翼の撹拌翼径dに対する幅(パドルの幅)bの比(b/d)は重合槽1の形状等によって決定すればよく特に限定されないが、エチレン吸収効率が向上する点から1以上が好ましい。一方、前記比(b/d)は、通常2.5以下である。
【0043】
重合槽1の形状は特に限定されないが、通常、略円柱状のものが用いられる。この場合、ワイドパドル翼は、略円柱状の重合槽1内に重合槽1の回転軸とワイドパドル翼の回転軸とが一致するように配置される。重合槽の内径D(m)に対する撹拌翼径d(m)の比(d/D)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、使用される重合槽に応じて適宜調整すればよいが、通常、0.4〜0.9である。重合槽の容量は特に限定されないが、通常、1〜200klである。
【0044】
撹拌翼の回転数nは、撹拌動力Pv、およびフルード数Frが上記範囲内となるように調整すればよく特に限定されないが、0.5〜1.35rpsが好ましい。回転数nが0.5rps未満の場合、伝熱面近傍で重合溶液の過冷却が進行しやすくなるため、重合槽の内壁にゲル状物が生成して、長期運転が困難となる場合がある。一方、回転数nが1.35rpsを超えると粘度が低い重合溶液を用いた場合に、当該溶液が飛び跳ねて重合槽の気相部の内壁へ付着する場合がある。このような付着物が固化して重合溶液に混入すると異物が形成されるため、安定した運転ができない場合がある。
【0045】
従来、エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造に際して、撹拌強度の指標である、単位体積あたりの撹拌動力を制御してきた。しかしながら、撹拌動力は、反応液の容量、粘度及び密度、重合槽の形状、並びに撹拌翼の形状及び回転数等の様々な影響を受ける。したがって、撹拌動力を制御しただけでエチレン単位のブロック性を高度に制御することは困難であり、結果として、エチレン連鎖の伸長(エチレン単位のブロック化)を招き、得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体におけるエチレン単位のブロックキャラクターが0.90未満であった。そして、エチレン連鎖の伸長によって分子間の疎水性相互作用が強くなるために、得られる塗工紙のバリア性が十分とはいえなかった。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体に対して、カルボキシメチルセルロースを添加した場合でも、バリア性の改善効果になお改善の余地があるうえに、水溶液の粘度安定性も低下した。このような問題に対して発明者らは鋭意検討した結果、特定の条件下において重合反応を進行させることで、従来よりもエチレン連鎖が短い(エチレン単位の位置がランダムな)共重合体が得られることを見出して、エチレン−ビニルアルコール共重合体の水溶液の粘度安定性と、得られる塗工紙のバリア性をともに向上させることに成功した。
【0046】
エチレン単位のブロックキャラクターをさらに高度に制御できる点から、前記製造方法において、重合工程で使用される前記重合槽が配管を介して熱交換器と接続されたものであって、エチレン−ビニルエステル共重合体を得る際に、(b)前記重合槽の気相部に存在するエチレン含有ガスを前記熱交換器に導入する工程、(c)前記熱交換器にビニルエステルを供給する工程、(d)前記熱交換器の中で、ビニルエステルとエチレン含有ガスを接触させる工程及び(e)前記熱交換器からエチレンが溶解したビニルエステルを導出し、前記重合槽内に導入する工程をさらに含むことが好ましい。ビニルエステルを、熱交換器を経由させずに直接重合槽に供給してもよいが、このように予め熱交換器中でビニルエステルにエチレンを吸収させてから重合槽に供給することによって、ビニルエステルにエチレンが効率的に吸収されるため、エチレン単位のブロックキャラクターが高度に制御される。重合槽に供給するビニルエステルの一部を、熱交換器中でエチレン含有ガスと接触させることもできるが、供給するビニルエステルの全てを、熱交換器中でエチレン含有ガスと接触させることが好ましい。
【0047】
使用する熱交換器は特に限定されないが、エチレンの効率的な吸収の点から表面積の大きい熱交換器が好ましい。例えば、縦型濡壁式熱交換器、縦型濡壁多管式熱交換器、充填塔式あるいは多孔板または泡鐘式吸収器にジャケットおよび/またはコイルを設けた熱交換器等が挙げられる。中でも縦型濡壁多管式熱交換器がより好ましい。
【0048】
図1に示される装置では、熱交換器2として縦型濡壁多管式熱交換器が用いられている。当該熱交換器2にビニルエステル導入管10が接続されており、これを通して熱交換器2の上部にビニルエステルが供給される。原料のビニルエステルとして、ビニルエステルを単独で用いてもよいし、上述した有機溶媒とビニルエステルを含む混合液を用いてもよいが、後者が好ましい。
【0049】
図1に示される熱交換器2には冷媒管11、12が接続されている。管の位置は図示した形態に限らないが、冷媒は熱交換器2の下部に接続された冷媒管12から供給し、熱交換器2の上部に接続された冷媒管11から排出するのが好ましい。このように接続することによって、ビニルエステルを効率的に冷却することができ、エチレン吸収効率がよい。冷却媒体は特に限定されず、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール水溶液、食塩や塩化カルシウムの水溶液、フロンなどを用いることができる。取扱いの容易さやコストなどの理由から、アルコール水溶液、特にメタノール水溶液が好適に用いられる。
【0050】
熱交換器2から気体を排出するための気体排出管13が熱交換器2の上部に接続されている。この気体排出管13には、ミスト分離器(図示せず)が接続されていてもよい。排出された気体中の液滴は、ミスト分離器により除去され、ミストがないエチレンを回収または放出できる。ミスト分離器は、重力・遠心力・静電気力といった外力、または、遮りもしくは篩効果を利用して気体中に浮遊している液滴を分離する装置である。ミスト分離器としては、重力沈降器、サイクロン、電気集塵機、スクラバー、バグフィルター、充填層が挙げられる。中でも、サイクロンが好ましい。
【0051】
熱交換器2の中で、ビニルエステルとエチレン含有ガスを接触させる方法は特に限定されない。例えば、熱交換器2の上部からビニルエステルを流下させるとともに、熱交換器2の下部に加圧されたエチレン含有ガスを供給し、該熱交換器2の中で、両者を向流接触させる方法や、熱交換器2の上部からビニルエステルを流下させるとともに、熱交換器2の上部に加圧されたエチレン含有ガスを供給し、該熱交換器2の中で、両者を並流接触させる方法などが挙げられる。効率的なエチレン吸収の点から、前者が好ましい。
【0052】
図1に示される装置では、2本の導管3、4が重合槽1と熱交換器2とを接続している。エチレン含有ガスは重合槽1から導管3を通って熱交換器2の下部へと導入され、エチレンを吸収したビニルエステルは熱交換器2の下部から導管4を通って重合槽1へと導入される。
【0053】
ビニルエステルは、導入管10を通して熱交換器2へ供給される。熱交換器2の上部に導入されたビニルエステルは、熱交換器2を通過しながらエチレンを吸収する。
【0054】
エチレン含有ガスは、熱交換器2の下部に接続された導管3を通して熱交換器2へと導入される。熱交換器側の導管3は熱交換器2の下部に接続されており、一方、ビニルエステル導入管10は、熱交換器2の上部に接続される。エチレン含有ガスは、ビニルエステルと向流接触しながら熱交換器2内を上昇していく。その結果、ガス中のエチレンがビニルエステルに溶解する。
【0055】
エチレンを吸収したビニルエステルは、導管4を通して重合槽1へ導入される。連続製造の場合は、エチレンは、重合槽1、熱交換器2および導管3、4を循環する。エチレンの一部はビニルエステルに含まれて反応液導出管9から排出されるので、重合槽1に接続されたエチレン供給源から、導管5、6、7の少なくとも1つを介して補充される。
【0056】
(けん化工程)
重合工程で得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をけん化することにより前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を得る。このとき、前記エチレン−ビニルエステル共重合体を有機溶媒中において、触媒の存在下で加アルコール分解又は加水分解反応によってけん化することが好ましい。けん化工程で用いられる触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒;または、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒が挙げられる。けん化工程で用いられる有機溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用できる。中でも、メタノール、又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。けん化触媒の使用量は、エチレン−ビニルエステル共重合体中のビニルエステル単位に対するモル比で0.001〜0.5が好ましい。当該モル比は、より好適には0.002以上である。一方、当該モル比は、より好適には0.4以下であり、さらに好適には0.3以下である。
【0057】
けん化工程を行った後、粉砕工程と乾燥工程を行ってもよい。さらに粉砕工程は予備粉砕工程と本粉砕工程に分かれていてもよい。けん化工程を行った後、さらに必要に応じて酢酸ナトリウムなどの不純物を除去するための洗浄工程を行ってもよい。
【0058】
(共役二重結合を有する化合物)
本発明の紙用コーティング剤は、さらに共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を含有することが好ましい。前記化合物を用いることにより、コーティング剤の安定性やバリア性が向上する。そのメカニズムは定かではないが、極性溶媒中において共役二重結合部位が前記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位と相互作用することで、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体同士の分子間相互作用を適度に阻害することに起因すると推定される。
【0059】
本発明において共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物は、脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物、又は脂肪族二重結合と芳香環との共役二重結合を有する化合物であることが好ましい。コーティング剤の安定性やバリア性の点から、前者がより好ましい。また、分子量は1000以下であり、800以下が好ましく、500以下がより好ましい。
【0060】
脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物は、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造を有するものであって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、共役二重結合を有する化合物である。具体的には、2個の炭素−炭素二重結合、1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合、2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役トリエン化合物(例えば、2,4,6−オクタトリエン)、及びそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役ポリエン化合物等が挙げられる。中でも、コーティング剤の安定性やバリア性の点から、共役ジエン化合物が好ましい。本発明で用いられる共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば、桐油のように共役トリエンを同一分子内に3個有する化合物も含まれる。
【0061】
共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物は、共役二重結合以外の他の官能基を有していてもよい。他の官能基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、ハロゲン原子等の極性基やフェニル基等の非極性基が挙げられる。コーティング剤の安定性やバリア性の点から、他の官能基として、極性基が好ましく、カルボキシ基及びその塩、並びに水酸基がより好ましい。他の官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合していてもよいし、共役二重結合から離れた位置に結合していてもよい。他の官能基中の多重結合は前記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えば、フェニル基を有する1−フェニル−1,3−ブタジエンやカルボキシ基を有するソルビン酸等も前記共役二重結合を有する化合物として用いられる。また、前記共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物は、非共役二重結合や非共役三重結合を有していてもよい。
【0062】
前記共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物として、具体的には、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等の脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物や、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、α-メチルスチレン重合体、1,3−ジフェニル−1−ブテン等の脂肪族二重結合と芳香環との共役二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0063】
前記紙用コーティング剤中の、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物の含有量は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、0.000001〜0.01質量部が好ましい。当該含有量は、より好適には0.000002質量部以上であり、さらに好適には0.000003質量部以上である。一方、前記含有量はより好適には0.0075質量部以下であり、さらに好適には0.005質量部以下であり、特に好適には0.0025質量部以下である。
【0064】
本発明において、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物の添加方法は特に限定されない。例えば、1)得られたエチレン−ビニルエステル共重合体(A)に前記化合物を添加した後にけん化する方法、2)エチレン−ビニルエステル共重合体をけん化する際に前記化合物を添加する方法、3)エチレン−ビニルアルコール共重合体に対して、前記化合物を含む液を噴霧する方法、4)エチレン−ビニルアルコール共重合体を前記化合物を含む液に含侵した後、乾燥させる方法、5)エチレン−ビニルアルコール共重合体及び上記化合物を含有する水溶液を調製した後乾燥させる方法、6)エチレン−ビニルアルコール共重合体及び上記化合物を含有する水溶液を調製し、該水溶液を各種用途に使用する方法、などが挙げられる。この中でも上記化合物の含有量を調整しやすい観点から、2)及び6)の方法が好ましい。
【0065】
[紙用コーティング剤]
前記紙用コーティング剤は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体が溶解した溶液であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。前記紙用コーティング剤が後述するアイオノマーを含む場合は、当該アイオノマーは、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体が溶解した溶液に溶解していてもよいし、分散していてもよい。前記溶液中の固形分の合計量は、通常50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0066】
本発明のコーティング剤として用いられる前記エチレン−ビニルアルコール共重合体が溶解した水溶液には、メタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール、セロソルブなどの水溶性の有機溶媒が含まれていても構わない。当該有機溶媒の含有量は、水100質量部に対して、好適には100質量部以下であり、より好適には50質量部以下であり、さらに好適には10質量部以下であり、前記水溶液が水以外の溶媒を含まないことが特に好ましい。
【0067】
前記紙用コーティング剤中の前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の含有量は、好適には0.1〜30質量%である。前記含有量が0.1質量%以上の場合、塗布効率がより優れる。前記含有量はより好適には0.5質量%以上であり、さらに好適には2質量%以上であり、特に好適には5質量%以上である。一方、前記含有量が30質量%以下の場合、塗工性がより優れる。前記含有量はより好適には25質量%以下である。
【0068】
(アイオノマー)
本発明の紙用コーティング剤は、アイオノマーを含むことが好ましい。本発明の紙用コーティング剤がアイオノマーを含むことにより、当該紙用コーティング剤を用いて得られる塗工紙を折り曲げた際に形成される折り曲げ部のバリア性が優れる。本発明においてアイオノマーとは、イオンによる分子間の架橋構造又は凝集構造を有する高分子化合物を意味する。例えば、イオン性官能基を有する高分子化合物であって、少なくとも一部のイオン性官能基がイオンによって結合又は相互作用することによって、前記高分子化合物同士が架橋又は凝集した構造を有するものが挙げられる。前記イオンは特に制限されず、陽イオンであっても陰イオンであってもよいが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等の周期律表第1族の金属イオン;マグネシウムイオン等の周期律表第2族の金属イオン;亜鉛イオン等の周期律表第12族の金属イオン;有機アンモニウムイオン等の有機陽イオン;塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオン等が挙げられる。前記イオン性官能基を有する高分子化合物は特に制限されず、例えば、オレフィンと、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体との共重合体が挙げられる。前記オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、スチレン等が挙げられ、中でもエチレンが好ましい。前記不飽和カルボン酸としては、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられ、中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。前記不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。前記イオン性官能基を有する高分子化合物として具体的には、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体のスチレングラフト重合体等が挙げられる。
【0069】
本発明の紙用コーティング剤がアイオノマーを含むとき、紙用コーティング剤中のアイオノマーの含有量は、好適には0.1質量%以上、より好適には0.5質量%以上である。前記含有量が前記下限値以上であると、紙用コーティング剤を用いて作製した塗工紙を折り曲げた際の折り曲げ部のバリア性が優れる。一方、前記含有量は、好適には30質量%以下、より好適には25質量%以下、さらに好適には20質量%以下である。前記含有量が前記上限値以下であると、紙用コーティング剤を用いて作製した塗工紙の平面部のバリア性に優れる。
【0070】
本発明の紙用コーティング剤がアイオノマーを含むとき、得られる塗工紙の折り曲げ部のバリア性に優れる点からは、紙用コーティング剤中のアイオノマーに対するエチレン−ビニルアルコール共重合体の質量比(エチレン−ビニルアルコール共重合体/アイオノマー)は、好適には99/1以下、より好適には97/3以下、さらに好適には94/6以下、特に好適には92/8以下である。一方、得られる塗工紙の平面部のバリア性に優れる点からは、質量比(エチレン−ビニルアルコール共重合体/アイオノマー)は、好適には1/99以上、より好適には5/95以上、さらに好適には25/75以上、特に好適には50/50以上、最も好適には65/35以上である。
【0071】
上述したアイオノマーの添加効果は、エチレン単位のブロックキャラクターが上記範囲ではないエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた場合でも奏される。したがって、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であるエチレン−ビニルアルコール共重合体及びアイオノマーを含有するコーティング剤も紙用途に好適に用いられる。前記ブロックキャラクターが限定されないことを除き、当該コーティング剤に含有されるエチレン−ビニルアルコール共重合体及びアイオノマーの好適な態様、その他当該コーティング剤の好適な態様は、上述したエチレン単位のブロックキャラクターが所定の範囲であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有するコーティング剤と同様である。また、これらのコーティング剤の好適な実施態様として後述するものが挙げられる。
【0072】
本発明のコーティング剤は、必要に応じてグリオキザール、尿素樹脂、メラミン樹脂、多価金属塩、水溶性ポリアミド樹脂等の耐水化剤;グリコール類、グリセリン等の可塑剤;アンモニア、カセイソーダ、炭酸ソーダ、リン酸等のpH調節剤;消泡剤;離型剤;界面活性剤;顔料等の着色剤等の各種の添加剤を含有してもよい。さらに、本発明のコーティング剤は、無変性PVA、カルボキシル変性PVA、スルホン酸基変性PVA、アクリルアミド変性PVA、カチオン基変性PVA、長鎖アルキル基変性PVA等の、エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の変性PVA;カゼイン、生澱粉(小麦、コーン、米、馬鈴薯、甘しょ、タピオカ、サゴ椰子)、生澱粉分解産物(デキストリン等)、澱粉誘導体(酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉)等)、海藻多糖類(アルギン酸ソーダ、カラギーナン、寒天(アガロース、アガロペクチン)、ファーセルラン等)等の水溶性高分子;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体エマルジョン等の合成樹脂エマルジョンを、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。
【0073】
上述した本発明のコーティング剤は、剥離紙原紙における目止め層を形成するためのコーティング剤、耐油紙における耐油層を形成するためのコーティング剤、クリアーコーティング剤、顔料等を含有する白色又は有色コーティング剤、インクジェット記録材におけるインク受理層を形成するためのコーティング剤、感熱記録材におけるオーバーコート層や感熱発色層等を形成するためのコーティング剤等、接着剤を除く種々の紙用途に用いられる。
【0074】
[塗工紙]
本発明の好適な実施態様は、前記コーティング剤が紙に塗工されてなる塗工紙である。当該塗工紙に用いられる基材の紙として、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ等の化学パルプやGP(砕木パルプ)、RGP(リファイナーグランドパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ等を抄紙して得られる公知の紙または合成紙を用いることができる。また、上記紙として、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙、または段ボール用、建材用、マニラボール用、白ボール用、チップボール用等に用いられる板紙、白板紙等も用いることができる。前紙の坪量としては、用途によって調整すればよく特に限定されないが、通常10〜500g/m以下であり、好ましくは40〜200g/mである。なお、前記塗工紙に用いられる紙には、有機又は無機の顔料や、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤等の抄紙補助薬品が含まれてもよい。また、前記塗工紙に用いられる紙は各種表面処理が施されたものであってもよい。
【0075】
前記コーティング剤の塗工量は、塗工対象の紙の性状に応じて任意に選択することができるが、通常固形分換算で0.1〜30g/m程度が好ましい。前記コーティング剤を紙の表面に塗工してもよいし、内部まで含侵させてもよい。また、前者の場合、前記コーティング剤を紙の片面に塗工してもよいし、両面に塗工してもよい。本発明のコーティング剤は膜を形成し易いため、塗工量が少なくても紙の表面近傍に前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むコーティング層が形成されてバリア性が向上する。このような特徴をより活かせる点からは、前記コーティング剤を紙の表面に塗工することが好ましい。
【0076】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体が溶解した溶液からなるコーティング剤を紙に塗工する方法としては、シムサイザー、ゲートロールコーター等の転写方式、サイズプレス等の含侵方式が挙げられる。コーティング層がさらに形成され易い点からは、転写方式が好ましい。一方、本発明のコーティング剤は膜を形成しやすいため、含侵方式を採用した場合でも、前記コーティング剤の紙の内部への浸透が抑制されて、効率的に表面近傍にコーティング層が形成される。そのため、塗工量が低減されるうえに、乾燥も容易になり、コストが低減される。塗工する際の前記コーティング剤の温度は、通常、常温〜100℃である。
【0077】
前記コーティング剤の溶液が塗工された紙の乾燥は、公知の方法、例えば、熱風、赤外線、加熱シリンダー又はこれらを組み合わせた方法により行うことができる。乾燥温度は通常、常温〜120℃である。乾燥した塗工紙を、調湿及びカレンダー処理することにより、バリア性をさらに向上させることができる。カレンダー処理条件としては、通常ロール温度が常温〜100℃、ロール線圧20〜300kg/cmである。
【0078】
前記塗工紙は、後述する剥離層等の、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むコーティング層以外の層を有していても構わない。
【0079】
前記コーティング剤を紙に塗工してなる塗工紙は、剥離原紙、耐油紙、感熱紙、インクジェット用紙、感圧紙、ガスバリアー紙、その他バリアー紙等の特殊紙としても用いられ、中でも剥離原子紙及び耐油紙として好適に用いられる。
【0080】
[剥離紙原紙]
前記塗工紙からなる剥離原紙が本発明のより好適な実施態様である。この剥離紙原紙の上に剥離層を形成する際に、前記コーティング剤が目止め剤の役割を担うことになる。つまり、前記コーティング剤を紙に塗工してなる剥離紙原紙は、基材の紙の上に目止め層(バリア層)が形成されてなるものである。本発明のコーティング剤を用いて形成される目止め層はバリア性及び耐水性に優れるため、後述する剥離剤の紙への浸透が抑制される。また、水分散性ワニス等を使用した場合でも、前記目止め層のバリア性が維持される。前記紙の少なくとも一面に前記目止め層が形成される。前記コーティング剤の塗工量は、塗工対象の紙の性状に応じて任意に選択することができるが、紙の片面当たり0.3〜3g/m程度が好ましい。
【0081】
バリア性がさらに向上する観点からは、前記剥離紙原紙の、JIS P8117(2009年)に準じて王研式滑度透気度試験機を用いて測定される透気抵抗度は20000秒以上が好ましく、30000秒以上がより好ましく、37000秒以上がさらに好ましい。
【0082】
[剥離紙]
前記剥離原紙の上に剥離層が形成されてなる剥離紙が前記剥離原紙の好適な実施態様である。前記剥離層は前記目止め層の上に形成される。得られる剥離紙は、粘着ラベル、粘着テープ、工業用粘着紙、離型紙等に好適に用いることができる。前記剥離層としてシリコーン樹脂が好適に用いられる。このような剥離層を形成するために用いられる剥離剤として、溶媒系のシリコーン、非溶媒系(エマルジョン系、オリゴマー系)のシリコーンが挙げられる。剥離剤が含む溶媒としては、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0083】
本発明の剥離紙の剥離層には、上記成分以外にも、一般に製紙用途で使用される顔料、蛍光増白剤、蛍光増白剤の被染着物質、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の薬品を適宜含有させることができる。
【0084】
前記剥離剤の塗工は、一般の塗工紙用の設備で行うことができる。例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター、ワイヤーバーコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、紙に一層又は多層に分けてコーティング剤を塗工できる。また、塗工後の乾燥方法としては、例えば、熱回転ドラム、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方法を適宜採用することができる。剥離剤の塗工量は固形分換算で通常0.1〜2g/mである。
【0085】
また、後加工に用いられる水分散性ワニスとして、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステルおよび/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス;エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス等も挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0086】
[耐油紙]
前記塗工紙からなる耐油紙も本発明のより好適な実施態様である。前記耐油紙において、前記紙の少なくとも一面に前記コーティング剤を塗工してなる塗工層が形成される。このような塗工層が形成された耐油紙は高い耐油性と耐水性とを併せ持つ。前記コーティング剤の塗工方法として、前記剥離紙原紙の目止め層を形成する方法として、上述した方法が採用される。前記コーティング剤の塗工量は固形分換算で通常0.1〜20g/mである。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
【0088】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度及びけん化度]
エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度及びけん化度は、JIS K6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0089】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位のブロックキャラクター]
エチレン−ビニルアルコール共重合体をけん化度99.9モル%以上にけん化後、メタノールで十分に洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間した共重合体をDMSO−dに溶解し、600MHzの13C−NMRを用いて、80℃で測定した。得られたスペクトルチャートからT.Moritani and H.Iwasaki,11,1251−1259,Macromolecules(1978)に記載の方法で帰属、算出したビニルアルコール・エチレンの2単位連鎖のモル分率(AE)、ビニルアルコール単位のモル分率(A)、エチレン単位のモル分率(E)を用いて下記式よりエチレン単位のブロックキャラクター(η)を求めた。
η=(AE)/{2×(A)×(E)}
【0090】
[紙用コーティング剤の粘度安定性]
コーティング剤の水溶液の30℃における初期粘度(η)と当該水溶液を300mlのガラス製ビーカーにいれて30℃で1日間放置した後の粘度(η)との比(η/η)を求め以下の基準で評価した。測定は、JISK6726(1994年)の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用い30℃で行った。
A:η/ηが1以上5未満であり、水溶液のゲル化及び相分離は生じなかった。
B:η/ηが5以上10未満であり、水溶液のゲル化及び相分離は生じなかった。
C:η/ηが10以上であるか、又は水溶液がゲル化又は相分離した。
【0091】
[塗工紙の評価]
(1)透気抵抗度
塗工紙の透気抵抗度を、JIS P8117(2009年)に準じ王研式滑度透気度試験器を用いて測定した。透気抵抗度の値は、一定面積を空気100mLが通過する時間を示す。よって、透気抵抗度の値が大きいほど空気が通過し難く、目止め性が高いことを示す。
【0092】
(2)油性インクの裏抜け
油性ペンにより塗工紙の片面に印字し、非印字面へのインクの裏抜けの程度を目視観察し、以下の基準で評価した。
A:裏抜け無し
B:一部裏抜けあり
C:全面に裏抜けあり
【0093】
(3)耐水表面強度
塗工紙の表面に、20℃のイオン交換水約0.1mlを滴下した後、指先でこすり、コーティング剤の溶出状態を観察し、以下の基準で評価した。
A:ヌメリ感がなし
B:ヌメリ感が有り、又はコーティング剤の一部が乳化した
C:コーティング剤の全部が乳化又は溶解した
【0094】
(4)耐油度
耐油度測定用に作製した塗工紙について、以下の方法に従って平面部の耐油度、折り曲げ部の耐油度を測定した。
(平面部の耐油度)
TAPPINo.T559cm−02に基づいて塗工面(平面部)の耐油度を測定した。測定は目視により行った。なお、フッ素樹脂を用いた市販の耐油紙の耐油度(KIT値)は通常5級以上であり、一般的な使用において問題とならない耐油度は5級以上である。したがって、塗工紙の耐油度は5級以上であることが好ましく、より高い耐油性が求められる用途においては7級以上が好ましく、10級以上がさらに好ましい。
(折り曲げ部の耐油度)
塗工面が外面となるようにして塗工紙を2つに折り曲げ、その折り曲げ部分の上から幅1.0mm、深さ0.7mm、圧力2.5kgf/cm・secの条件で押圧して完全に折り目を付け、その後、塗工紙を広げ、折り目部分の耐油度をTAPPINo.T559cm−02によって測定した。測定は目視により行った。折り曲げ部についても問題とならない耐油度は5級以上であるため、当該部分の耐油度は5級以上であることが好ましく、より高い耐油度を求められる用途においては7級以上が好ましく、10級以上がさらに好ましい。
【0095】
使用した重合装置の概略図を図1に示す。撹拌翼8としてマックスブレンド翼[株式会社神鋼環境ソリューション製、撹拌翼径(直径)d:1.1m、翼(パドル)幅b:1.5m]を備えた略円柱状の重合槽1[容量:7kl、槽内径D:1.8m]に、槽内エチレン圧力が0.23MPaとなるように導管5からエチレンを、3L/hrの速度で導管6から重合開始剤の2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の1質量%メタノール溶液を、それぞれ導入した。また、導入管10と熱交換器2とを介して、酢酸ビニル含有液(酢酸ビニル:777L/hr、メタノール:170L/hr)を重合槽1に導入した。また、エチレン含有ガスを重合槽1から導管3を介して熱交換器2に導入した。酢酸ビニル含有液は管の表面に沿って流下することでエチレンを吸収し、導管4を介して重合槽1に注ぎ込まれ、反応液と混合され、エチレンとの連続重合に供された。重合槽1内の液面が一定になるように導管9から重合液を連続的に取り出した。重合槽1出口における酢酸ビニルの重合率が30%になるよう調整した。また単位体積あたりの撹拌動力Pvは2.2kW/mであり、フルード数Frは0.13となるように調整した。翼(パドル)全体が反応液に浸かり、なおかつ液面と翼(パドル)の上端とが近接した状態で反応液を撹拌した。重合槽における反応液の滞留時間は5時間であった。重合槽出口の温度は60℃であった。連続的に取り出した重合液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液(濃度32質量%)を得た。
【0096】
前記重合工程で得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液(濃度32質量%)に、けん化触媒である水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度4質量%)を、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比が0.012となるように添加した。さらに、ソルビン酸のメタノール溶液(濃度10質量%)を、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して固形分換算で0.00009質量部添加し、得られた混合物をスタティックミキサーで混合した後、ベルト上に載置し、40℃で18分保持してけん化反応を進行させた。その後、前記混合物を粉砕、乾燥し、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−1)(以下、共重合体(A−1)と称する)を得た。得られた共重合体(A−1)のエチレン単位の含有率は2モル%であり、粘度平均重合度は1700であり、けん化度は98.5モル%であり、エチレン単位のブロックキャラクターは0.95であり、ソルビン酸の含有量はエチレン−ビニルアルコール共重合体100質量部に対して、0.00018質量部であった。
【0097】
(共重合体(A−2)、(A−3)、(A−5)、(A−6)及びPVA−7の製造)
重合時におけるエチレン、酢酸ビニル、メタノール及び開始剤のフィード量、重合率、撹拌翼の種類(A−6:アンカー翼、撹拌翼径(直径)d:1.7m、翼(パドル)幅b:0.85m、翼(パドル)幅bが小さいため、ワイドパドル翼に該当せず)、撹拌動力Pv、フルード数Fr並びにけん化時におけるエチレン−ビニルエステル共重合体溶液の濃度、水酸化ナトリウムのモル比並びに共役二重結合を含む化合物の種類及び添加量を変更したこと以外は、共重合体(A−1)と同様の方法によりエチレン−ビニルアルコール共重合体(共重合体(A−2)、(A−3)、(A−5)、(A−6))及びPVA(PVA−7)を製造した。製造時の重合条件及びけん化条件、得られた重合体の重合度、けん化度、エチレン単位及びブロックキャラクター、並びに共役二重結合を含有する化合物の種類及び含有量を表1にまとめて示す。
【0098】
(共重合体(A−4)の製造)
撹拌翼8として2段傾斜パドル翼[撹拌翼径(直径)d:1.5m、翼(パドル)幅b:0.88m]を備えた重合槽1[容量:7kl、槽内径D:1.8m]に、槽内エチレン圧力が0.61MPaとなるように導管5からエチレンを、9L/hrの速度で導管6から重合開始剤の2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の1質量%メタノール溶液を、それぞれ導入した。また、導入管7から酢酸ビニル含有液(酢酸ビニル:751L/hr、メタノール:190L/hr)を重合槽1に導入した。重合槽1内の液面が一定になるように導管9から重合液を連続的に取り出した。重合槽1出口の重合率が43%になるよう調整した。また撹拌動力Pvは2kW/mであり、フルード数Frは0.18となるように調整した。重合槽における反応液の滞留時間は5時間であった。重合槽出口の温度は60℃であった。連続的に取り出した重合液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A−4)のメタノール溶液(濃度40質量%)を得た。エチレン−ビニルエステル共重合体溶液の濃度及び水酸化ナトリウムのモル比を変更したこと以外は、共重合体(A−1)と同様の方法によりけん化工程を行うことによりエチレン−ビニルアルコール共重合体(A−4)を製造した。製造時の重合条件及びけん化条件、得られた重合体の重合度、けん化度、エチレン単位及びブロックキャラクター、並びに共役二重結合を含有する化合物の種類及び含有量を表1にまとめて示す。
【0099】
【表1】
【0100】
[実施例1]
(紙用コーティング剤の作製)
得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体(A−1)の粉体(10部)を撹拌している水(90部、20℃)に投入し、95℃まで加熱することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−1)が溶解したコーティング剤(水溶液)を得た。得られたコーティング剤の粘度安定性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0101】
(透気抵抗度、油性インクの裏抜け、耐水表面強度測定用塗工紙の作製)
得られたコーティング剤を、試験用2−ロールサイズプレス機(熊谷理機工業製)を用いて、坪量70g/m、透気抵抗度20secのPPC(Plain paper copier)用紙(上質紙)に、50℃にて100m/分の条件で塗工した後、100℃で5分間乾燥させることにより塗工紙を得た。前記コーティング剤の固形分換算の塗工量は0.8g/m(両面の合計量)であった。得られた塗工紙を20℃、65%RHで72時間調湿後、塗工紙の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0102】
(耐油度測定用塗工紙の作製)
コーティング剤の固形分換算の塗工量を3.5g/m(両面の合計量)に変更した以外は上記と同様にして塗工紙を得た。得られた塗工紙を20℃、65%RHで72時間調湿後、塗工紙の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
[実施例2、3及び比較例1〜4]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−1)を、表2に示されるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A−2)〜(A−6)またはPVA−7に変更した以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤及び塗工紙を作製し、当該コーティング剤及び塗工紙の物性を評価した。その結果を表2に示す。なお、共重合体(A−6)は水に不溶であり、水溶液が得られなかった。
【0104】
[実施例4〜7]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−2)の粉体(10部)を撹拌している水(90部、20℃)に投入し、95℃まで加熱することにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−2)が溶解した水溶液を得た。当該水溶液、アイオノマー(三井化学社製ケミパール(登録商標)S−100、エチレン−アクリル酸共重合体のナトリウム塩水分散液)及び必要に応じて水を混合することにより、共重合体(A−2)が溶解した水溶液に前記アイオノマーが分散したコーティング剤を得た。このとき、コーティング剤の組成が表2に示されるとおりとなるように、前記水溶液、アイオノマー及び水の添加量を調整した。得られたコーティング剤の評価を実施例1と同様にして行った。また、得られたコーティング剤を用いた以外は実施例1と同様にして、塗工紙の作製及びその物性の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0105】
[比較例5]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A−1)を共重合体(A−4)に変更し、カルボキシメチルセルロース(CMC)を共重合体(A−4)100質量部に対して、5質量部添加した以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製し、当該塗工紙の物性を評価した。その結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【符号の説明】
【0107】
1 重合槽
2 熱交換器
3〜7 導管
8 撹拌機
9 反応液導出管
10 ビニルエステル導入管
11、12 冷媒管
13 気体排出管
21 マックスブレンド翼
22 スーパーミックス MR203
23 スーパーミックス MR205
24 フルゾーン翼

【要約】
エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、エチレン単位のブロックキャラクターが0.90〜0.99であるエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する、紙用コーティング剤である。また、このようなコーティング剤が紙に塗工された、塗工紙である。本発明のコーティング剤は粘度安定性に優れるとともに、得られる塗工紙はバリア性及び耐水性に優れる。
図1
図2