(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の一実施形態に係る正極活物質は、P2型の結晶構造を有し、一般式:Na
x[M1
1-aM2
a]O
2で表され、0<x<1.0および0.06≦a≦0.2を満たすナトリウム含有複合酸化物(以下、M1M2複合酸化物とも称する。)を含む。元素M1は、MnおよびNiを含み、元素M2は、LiおよびFeを含む。上記正極活物質を用いることにより、高容量かつ高電圧を発現するとともに良好なサイクル特性を示すナトリウムイオン二次電池を得ることができる。
【0014】
(2)上記一般式は0.666<xを満たすことが好ましい。これにより、M1M2複合酸化物中のナトリウム含有量が大きくなるため、高容量を得やすくなる。
【0015】
(3)上記一般式は、0.06≦a≦0.19を満たすことが好ましい。これにより、容量とサイクル特性のバランスにより優れたナトリウムイオン二次電池を得ることができる。
【0016】
(4)元素M2におけるLiの含有量をa
Li、Feの含有量をa
Feで表すとき、上記一般式は、0.02≦a
Li≦0.07および0.04≦a
Fe≦0.13並びにa=a
Li+a
Feを満たすことが好ましい。また、(5)0.02≦a
Li≦0.06および0.04≦a
Fe≦0.12を満たすことがより好ましい。また、(6)0.042≦a
Li≦0.06および0.085≦a
Fe≦0.11を満たすことが更に好ましい。これにより、ナトリウムイオン二次電池の容量とサイクル特性とのバランスが更に良くなる。
【0017】
(7)元素M1は、Ni
yA
zMn
1-y-z(ただし、0.2≦y≦0.3、0≦z<0.1)で表されることが好ましい。元素Aは、NiおよびMn以外の元素である。これにより、M1M2複合酸化物が、高容量かつ高電圧を発現しやすくなる。
【0018】
(8)本発明の一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する非水電解質と、を具備する。上記正極活物質を備える正極を用いることで、高容量かつ高電圧で、安定して充放電を繰り返すことができるナトリウムイオン二次電池を提供することができる。
【0019】
(9)本発明の一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、(i)ナトリウム塩と、元素M1の塩と、元素M2の塩と、を含む原料を調製する工程と、(ii)前記原料を、空気中もしくは酸化雰囲気中で、700℃以上、1100℃以下の温度で焼成してナトリウム含有複合酸化物を生成させる工程と、を有する。ただし、元素M1の塩に含まれる元素M1と元素M2の塩に含まれる元素M2との合計に対するナトリウム塩に含まれるナトリウムのモル比xは、0<x<1.0を満たす。元素M1は、MnおよびNiを含む。元素M2は、LiおよびFeを含む。元素M1の塩に含まれる元素M1と元素M2の塩に含まれる元素M2との合計に対する元素M2のモル比aは、0.06≦a≦0.2を満たす。上記方法によれば、不純物の少ないM1M2複合酸化物を効率的に製造することができる。
【0020】
[発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0021】
<正極活物質>
本発明の一実施形態に係る正極活物質は、P2型の結晶構造を有し、一般式:Na
x[M1
1-aM2
a]O
2で表され、0<x<1.0および0.06≦a≦0.2を満たすナトリウム含有複合酸化物(M1M2複合酸化物)を含む。元素M1は、MnおよびNiを含み、元素M2は、LiおよびFeを含む。M1M2複合酸化物は、P2型の結晶構造を有するNa
xM1O
2の元素M1の一部を元素M2で置換した構造を有する。M1M2複合酸化物は、Na
xM1O
2(典型的にはNa
2/3[Ni
1/3Mn
2/3]O
2)に由来する高い作動電圧と高容量を発現する。
【0022】
元素M1の中では、主にNiが酸化還元反応に寄与する。Ni価数は、2価と4価の間で変化する。元素M2の中では、Feが酸化還元反応に寄与する。Fe価数は、3価と4価の間で変化する。
【0023】
元素M2の中でも、Liは、結晶構造を安定化させて、充放電によるM1M2複合酸化物の劣化を抑制するため、サイクル特性の向上が期待できる。また、2価のNiを1価のLiで置換すると正電荷が不足するが、ナトリウム含有量を増量することで不足電荷が補償される。ナトリウム含有量が増えることにより、容量が向上する。
【0024】
元素M2のうちFeは、資源量が豊富であり、酸化還元反応にも関与する。元素M2がLiとともにFeを含むことにより、充放電によるM1M2複合酸化物の劣化が抑制される。更に、Liの一部をFeに置換することで、希少Liの使用量を低減しつつ、高容量かつ安価でサイクル特性の良好なナトリウムイオン二次電池の設計が可能になる。
【0025】
元素M2で置換される元素M1の量が多くなると、単相のP2型の結晶構造を有するM1M2複合酸化物の合成は次第に困難になる。よって、M1M2複合酸化物中に、所望の結晶構造を有さない第三成分が混入しやすくなる。上記一般式が0.06≦a≦0.2を満たす場合、第三成分の混入を避けることができる。
【0026】
M1M2複合酸化物は、水と反応しにくく、大気中および水溶液中でも変質しにくい。例えば、M1M2複合酸化物の0.1gを2cm
3の水と混合して25℃で30分間撹拌しても、CuKα線を用いた粉末X線回折像に変化がほとんど見られない。
【0027】
ここで、P2型結晶構造について更に説明する。代表的なP2型結晶構造は、その対称性から空間群P63/mmcに帰属される。基本的なP2型結晶は層状構造であるが、P2型の母構造にP3型および/またはO3型の積層欠陥が含まれる場合もある。複合酸化物がP2型結晶構造を有するか否かは、X線回折により確認することができる。例えばNa
2/3[Ni
1/3Mn
2/3]O
2は典型的なP2型結晶構造を有する。
【0028】
なお、X線源にCuKα線を用いた粉末X線回折測定において、18°〜25°の範囲にはピークが観察されない場合、P2型の結晶構造以外の第三成分がM1M2複合酸化物にほとんど含まれていないと判断することができる。ただし、ピークとは、客観的にその存在を確認できる実質的なピークであり、ノイズと判断されるピークは含まれない。
【0029】
上記一般式は0<x<1.0を満たせばよく、x値はP2型結晶構造が維持されるように選択される。例えば0.666<xが好ましく、0.68≦x<0.95が更に好ましく、0.69≦x<0.90が特に好ましい。なお、x値が1以上になると、O3型結晶構造が安定となるため、P2型結晶構造が形成されにくくなる。
【0030】
上記x値の範囲は、原料の焼成により生成するM1M2複合酸化物の組成における範囲である。x値は、ナトリウムイオン二次電池の充放電により増減する。x値は充電時に減少し、放電時に増加する。充電時のx値の下限は0.1≦xであることが好ましく、0.2≦xであることがより好ましい。放電時のx値の上限はx<1.0が好ましく、x≦0.9がより好ましい。
【0031】
上記一般式は0.06≦a≦0.2を満たせばよく、0.06≦a≦0.19が好ましく、0.06≦a≦0.15がより好ましい。また、元素M2におけるLiの含有量をa
Li、Feの含有量をa
Feで表すとき、0.02≦a
Li≦0.07および0.04≦a
Fe≦0.13並びにa=a
Li+a
Feを満たすことが好ましい。また、0.02≦a
Li≦0.06かつ0.04≦a
Fe≦0.12を満たすことがより好ましく、0.042≦a
Li≦0.06かつ0.085≦a
Fe≦0.11を満たすことが更に好ましい。
【0032】
元素M1は、NiとMnを含み、具体的には、元素M1がNi
yA
zMn
1-y-z(ただし、0.2≦y≦0.3、0≦z<0.1)で表されることが好ましい。ただし、元素Aは、NiおよびMn以外の元素である。元素Aとしては、Mg、Al、Co、Tiなどが挙げられる。y値は0.2≦y≦0.3を満たせばよいが、より良好なサイクル特性を確保する観点から、0.2≦y≦0.26が好ましい。
【0033】
(平均一次粒子径)
M1M2複合酸化物の平均一次粒子径は、特に限定されないが、例えば0.1μm以上であり、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。この範囲であれば、P2型結晶が十分に成長しているといえる。また、平均一次粒子径は、例えば5μm以下であり、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。平均一次粒子径は、複合酸化物の走査型電子顕微鏡(SEM)像において10〜30個の一次粒子を任意に選択し、選択した一次粒子の最大径の平均値として求めればよい。
【0034】
上記ナトリウム含有複合酸化物を含む正極を作製し、負極(対極)に金属ナトリウムを用いて電池を組み立てた場合、その開回路電圧(OCV)は、例えば1.5V以上である。正極は、金属ナトリウムの酸化還元電位に対して、1.5V〜4.6Vの範囲で充放電することができる。ただし、充放電サイクルを安定して繰り返す観点から、充電時の上限電圧は4.6V未満とすることが好ましく、4.5V以下がより好ましく、4.4V以下が更に好ましい。また、放電時の下限電圧は、1.7V以上が好ましく、2.0V以上がより好ましく、2.5V以上が更に好ましい。
【0035】
(M1M2複合酸化物の製造方法)
次に、原料を調製する工程(i)と、原料を焼成する工程(ii)と、を有するM1M2複合酸化物の製造方法について説明する。ただし、製造方法は、以下に限定されない。
【0036】
工程(i)
まず、Na塩と、元素M1の塩と、元素M2の塩と、を含む原料を調製する。元素M1の塩には、LiとFeを含む複塩を用いてもよいが、下記に示すようなLi塩とFe塩とを併用することが好ましい。また、元素M2の塩には、NiとMnを含む複塩等を用いてもよいが、下記に示すようなNi塩とMn塩とを併用することが好ましい。各複塩は、例えば、晶析法または共沈法により、酸化物もしくは水酸化物として調製することができる。
【0037】
Na塩、Li塩、Fe塩元、Ni塩およびMn塩には、例えば、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩(例えばシュウ酸塩)などを用いることができる。
【0038】
具体的には、Na塩としては、Na
2CO
3、NaHCO
3、Na
2Oなどを用いることができる。これらのうちでは、Na
2CO
3の取り扱いが最も容易である。
【0039】
Li塩としては、LiOH、Li
2CO
3、Li
2Oなどを用いることができる。これらのうちでは、Li
2CO
3の取り扱いが最も容易である。
【0040】
Fe塩としては、Fe
2O
3、FeO、Fe(OH)
3、Fe(OH)
2などを用いることができる。これらのうちでは、Fe
2O
3の取り扱いが最も容易である。
【0041】
Ni塩としては、NiCO
3、Ni(OH)
2、NiOOH、NiO、NiNO
3、Ni
2SO
4などを用いることができる。これらのうちでは、Ni(OH)
2、NiOOHおよびNiOの取り扱いが容易である。
【0042】
Mn塩としては、MnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4などを用いることができる。
【0043】
原料は、元素M1の塩に含まれる元素M1と元素M2の塩に含まれる元素M2との合計に対するナトリウムのモル比xが、0<x<1.0となるように配合する。同様に、元素M1の塩に含まれる元素M1と元素M2の塩に含まれる元素M2との合計に対する元素
M2のモル比aが、0.06≦a≦0.2を満たすように原料を配合する。x値およびa値は、所望のM1M2複合酸化物の組成に応じて選択される。
【0044】
M1M2複合酸化物において、元素M1がNi
yA
zMn
1-y-z(ただし、0.1≦y<0.33、0≦z<0.1)で表される場合、元素M1の塩に、所定の割合で元素Aを含む塩を含ませればよい。具体的には、ニッケルとマンガンと元素Aのモル比が、y:(1−y−z):zを満たすように元素M2の塩を準備すればよい。
【0045】
原料、すなわち、ナトリウム塩、元素M1の塩および元素M2の塩を含む混合物は、ボールミル、V型混合機、攪拌機などの混合装置を用いて、乾式または湿式で混合すればよい。
【0046】
工程(ii)
次に、原料を、空気中もしくは酸化雰囲気中で、700℃以上(好ましくは800℃以上)、1100℃以下(好ましくは1000℃以下)の温度で焼成し、M1M2複合酸化物を生成させる。焼成温度が700℃未満では、P2型結晶構造が十分に成長せず、原料成分を不純物として含むM1M2複合酸化物が生成しやすい。焼成温度が1100℃を超えると、P2型結晶構造は得られるものの、所望の結晶構造とは異なる結晶構造を有する第三成分を生成しやすい。
【0047】
なお、焼成温度とは、昇温過程および降温過程を除く期間(以下、本焼成期間)の平均的な温度である。よって、例えば、本焼成期間中に瞬間的に、もしくは短時間だけ700℃未満になったり、1100℃を超えたりすることは許容される。ただし、本焼成期間の80%程度は、焼成雰囲気の温度が700℃〜1100℃(好ましくは800℃〜1000℃)に維持されることが好ましい。
【0048】
本焼成期間は、例えば5時間以上であればよく、8時間〜15時間がより好ましく、10時間〜12時間が更に好ましい。これにより、より安定的にP2型結晶構造を成長させることができる。
【0049】
原料を酸化雰囲気で焼成する場合、大気圧下、空気中で焼成すればよい。また、空気より酸素濃度の高い雰囲気で原料を焼成してもよい。空気もしくは酸化雰囲気の圧力は、特に限定されないが、例えば0.9×10
5Pa〜1.1×10
5Paであればよい。
【0050】
上記焼成を行う前に、上記と同様の雰囲気中で、200〜500℃の温度範囲で原料の仮焼成を行ってもよい。仮焼成により、原料に含まれる揮発成分(例えば水分)が緩やかに除去され、本焼成期間での結晶成長が進行しやすくなる。
【0051】
<ナトリウムイオン二次電池>
次に、ナトリウムイオン二次電池について説明する。ナトリウムイオン二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する非水電解質と、を具備する。
図1は、一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池100を概略的に示す縦断面図である。ナトリウムイオン二次電池は、積層型の電極群、電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、例えばアルミニウム製であり、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。
【0052】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部正極端子14が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部負極端子が設けられる。
【0053】
積層型の電極群は、いずれもシート状の複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。各正極2の一端部には、正極リード片2aが形成されている。複数の正極2の正極リード片2aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子14に接続されている。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aが形成されている。複数の負極3の負極リード片3aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子に接続される。
【0054】
外部正極端子14および外部負極端子は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O−リング状のガスケット9を介して固定される。
【0055】
(正極)
正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された上記正極活物質(または正極合剤)とを含む。正極集電体は、金属箔でもよく、金属多孔体でもよい。正極集電体の材質としては、正極電位での安定性の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましい。
【0056】
正極活物質としては、M1M2複合酸化物を単独で用いてもよく、他のナトリウムイオンを吸蔵および放出(または挿入および脱離)する材料と併用してもよい。併用される材料は、特に限定されないが、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO
2)、ニッケルマンガン酸ナトリウム(NaNi
0.5Mn
0.5O
2、Na
2/3Ti
1/6Ni
1/3Mn
1/2O
2など)、鉄コバルト酸ナトリウム(NaFe
0.5Co
0.5O
2など)、鉄マンガン酸ナトリウム(Na
2/3Fe
1/3Mn
2/3O
2など)などが挙げられる。
【0057】
正極合剤は、正極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。正極は、正極集電体に正極合剤を塗布または充填し、乾燥し、必要に応じて、乾燥物を厚み方向に圧延することにより得られる。正極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。
【0058】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、および/または炭素繊維などが挙げられる。バインダとしては、例えば、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、および/またはセルロースエーテルなどが挙げられる。分散媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:N−methyl−2−pyrrolidone)などの有機溶媒の他、水などが用いられる。
【0059】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質(または負極合剤)とを含む。負極集電体は、正極集電体と同様に、金属箔または金属多孔体であってもよい。負極集電体の材質としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などが好ましい。
【0060】
負極活物質としては、例えば、ナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)する材料、ナトリウムと合金化する材料などが挙げられる。いずれの材料も、ファラデー反応により容量を発現する材料である。このような負極活物質としては、ナトリウム、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、ケイ素などの金属またはその合金、もしくはその化合物;および炭素質材料などが例示できる。
【0061】
金属化合物としては、チタン酸リチウム(Li
2Ti
3O
7および/またはLi
4Ti
5O
12など)などのリチウム含有チタン酸化物、およびチタン酸ナトリウム(Na
2Ti
3O
7および/またはNa
4Ti
5O
12など)などのナトリウム含有チタン酸化物が例示できる。 炭素質材料としては、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、および/または難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などが例示できる。負極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
負極は、例えば、正極の場合に準じて、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤を塗布または充填し、乾燥し、乾燥物を厚み方向に圧延することにより形成できる。負極活物質には、必要に応じて、ナトリウムイオンをプレドープしてもよい。
【0063】
負極合剤は、負極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。負極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。導電助剤、バインダ、および分散媒としては、それぞれ、正極について例示したものから適宜選択できる。
【0064】
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、樹脂製の微多孔膜、不織布などが使用できる。セパレータの材質は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが例示できる。
【0065】
[非水電解質]
非水電解質は、ナトリウムイオン伝導性を有する限り特に限定されない。例えば、有機溶媒にナトリウムイオンとアニオンとの塩(ナトリウム塩)を溶解させた有機電解質の他、ナトリウムイオンおよびアニオンを含むイオン液体などが用いられる。非水電解質におけるナトリウム塩の濃度は、例えば0.3〜3mol/リットルであればよい。
【0066】
ナトリウム塩を構成するアニオン(第1アニオン)の種類は特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF
6−)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF
4−)、過塩素酸イオン(ClO
4−)、リチウムビス(オキサラト)ボレートイオン(B(C
2O
4)
2−)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF
3SO
3−)、ビススルホニルアミドアニオンなどが挙げられる。ナトリウム塩は、一種を単独で用いてもよく、第1アニオンの種類が異なるナトリウム塩を二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0067】
非水電解質にイオン液体を用いる場合、非水電解質中のイオン液体の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。非水電解質は、イオン液体に加え、有機溶媒や添加剤を少量含んでもよい。なお、「イオン液体」とは、溶融状態の塩(溶融塩)である。
【0068】
非水電解質に有機電解質を用いる場合、非水電解質中における有機溶媒とアルカリ金属塩との合計量は、非水電解質の80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。非水電解質は、有機電解質に加え、イオン液体や添加剤を少量含んでもよい。
【0069】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトンなどの環状炭酸エステルなどを好ましく用いることができる。有機溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
イオン液体は、ナトリウムイオン(第1カチオン)に加え、さらに第2カチオンを含んでいてもよい。このような第2カチオンとしては、有機カチオンが好ましい。第2カチオンは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。有機カチオンとしては、窒素含有オニウムカチオンが好ましい。
【0071】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、何ら本発明を限定するものではない。
【0072】
(実施例1〜4)
<ナトリウム含有複合酸化物の合成>
Na
2CO
3、Li
2CO
3、Fe
2O
3、Ni(OH)
2およびMn
2O
3を、所定割合で混合し、600rpmのボールミルで12時間混合して原料を得た。得られた原料をペレットに成型した後、空気中で、900℃で12時間焼成し、以下の実施例1〜4の複合酸化物A1〜A4をそれぞれ合成した。
【0073】
(A1)Na
0.680[Li
0.021Fe
0.042Ni
0.280Mn
0.660]O
2
(A2)Na
0.694[Li
0.0417Fe
0.0833Ni
0.222Mn
0.653]O
2
(A3)Na
0.699[Li
0.0486Fe
0.0972Ni
0.204Mn
0.650]O
2
(A4)Na
0.708[Li
0.0625Fe
0.125Ni
0.167Mn
0.646]O
2
【0074】
(比較例1)
Na
2CO
3、Ni(OH)
2およびMn
2O
3を、所定割合で混合した原料を用い、実施例1〜4と同様の手順で下記の複合酸化物B1を合成した。
【0075】
(B1)Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2
【0076】
図2に、Na
x[FeLiNiMn]O
2固溶体の三角相図と、M1M2複合酸化物A1〜A4の座標を示す。複合酸化物A1〜A4は、Na
0.667Ni
0.333Mn
0.667O
2(NiMnと略記)と、Na
0.667Fe
0.5Mn
0.5O
2(FeMnと略記)と、Na
5/6Li
1/4Mn
3/4O
2(LiMnと略記)を以下の割合で含む固溶体(Na
x[FeLiNiMn]O
2)と見ることができる。
【0077】
(B1)(NiMn:FeMn:LiMn)=(1:0:0)
(A1)(NiMn:FeMn:LiMn)=(10:1:1)
(A2)(NiMn:FeMn:LiMn)=(4:1:1)
(A3)(NiMn:FeMn:LiMn)=(22:7:7)
(A4)(NiMn:FeMn:LiMn)=(2:1:1)
【0078】
[評価1]
複合酸化物B1およびA1〜A4の粉末X線回折測定を下記条件で行い、結晶構造の同定を行った。測定装置は、株式会社リガク製の粉末X線回折測定装置(MultiFlex)を用いた。
X線:CuKα
電圧−電流:40kV−20mA
測定角度範囲:2θ=10〜70°
ステップ:0.02°
スキャンスピード:6°/分
【0079】
図3に、複合酸化物B1およびA1〜A4の粉末X線回折像(XRDパターン)を示す。いずれも典型的なP2型結晶構造のパターンを示し、2θ=18°〜25°の範囲に不純物のピークも観察されていない。XRDパターンに基づく格子定数を表1に示す。
【0081】
[評価2]
所定の複合酸化物(B1またはA1〜A4)と、アセチレンブラック(AB)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを80:10:10の質量比で配合し、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を分散媒として用いてスラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布した。塗膜の厚さは220μmとした。塗膜を十分に乾燥させた後、アルミニウム箔とともに打ち抜いて、直径1.0cmのコイン形の正極を得た。正極と金属Naからなる負極を用いてコイン形セル(以下、試験電池)を作製した。非水電解質には、プロピレンカーボネートとフルオロエチレンカーボネートとの体積比98:2の混合溶媒に1mol/L濃度でNaPF
6を溶解させたものを用いた。セパレータにはガラスフィルタを使用した。
【0082】
図4に、20サイクルまでの試験電池の充放電曲線を示す。充放電の電流密度は、正極活物質の質量あたり概ね13mA/gとし、2.5V〜4.5Vの範囲で行った。
【0083】
複合酸化物B1を用いた試験電池では、サイクル特性が不十分であり、充放電曲線には、遷移金属の電荷整列による電子の局在化に由来すると見られるステップが観測される。一方、複合酸化物A1〜A4を用いた試験電池は、サイクル特性が大幅に改善している。中でも、複合酸化物A3、A4のサイクル特性の改善が顕著である。また、複合酸化物B1を用いた試験電池で見られた充放電曲線のステップは、複合酸化物A3、A4を用いた試験電池では解消している。
【0084】
図5に、試験電池の充放電サイクル数と放電容量との関係を示す。また、表2に2サイクル目の放電容量と平均作動電圧ならびに30サイクル目の容量維持率を示す。複合酸化物A3を用いた試験電池の容量とサイクル特性のバランスが最も優れていることが理解できる。
【0086】
図6には、複合酸化物A3を用いた試験電池に関し、充放電の下限電圧を2.0Vに変更したときの充放電曲線を示す。ここでは、1サイクル目から5サイクル目までは2.5〜4.5Vで充放電を行い、6サイクル目から8サイクル目までは2.0〜4.5Vで充放電を行い、充放電曲線を対比した。表3には、1サイクル目と6サイクル目の放電容量と平均作動電圧(Vave)を示す。
図6より、低い電圧領域でも安定した充放電が可能であることが理解できる。なお、低い電圧領域では、Mnの酸化還元に基づく容量が観測され、その分、放電容量が増加した。一方、平均作動電圧は低下した。
【0088】
図7には、複合酸化物A3を用いた試験電池に関し、放電レートと放電曲線との関係を示す。充電レートは、試験電池の設計容量に対して、C/20の電流値に固定し、放電レートをC/20から2Cまで変化させた。
図7より、高レート放電の場合にも高い放電容量が得られることが理解できる。2C放電時の放電容量は、C/20放電時の放電容量の88.2%を維持した。なお、1C以上の高レート放電では、大きな分極が観測されたが、これは正極活物質自身の性能を反映したものではなく、試験電池の製造条件や正極活物質を結着させるPVdFの影響が大きいと見られる。
【0089】
[評価3]
複合酸化物A3について、水蒸気暴露試験を実施した。室温で複合酸化物を90時間、飽和水蒸気に暴露し、所定時間ごとにXRDパターンを確認した。その後、複合酸化物を80℃で乾燥させて、更に、XRDパターンを確認した。
【0090】
図8に、水蒸気暴露試験で測定したXRDパターンを示す。表4には、XRDパターンに基づく格子定数を示す。水蒸気に暴露しても、不純物の生成が見られなかった。格子定数の変化より、複合酸化物の層間から僅かにNaが脱離していることが示唆されたが、複合酸化物が水分と反応しにくく、大気中でも変質しにくいことが示された。
【0092】
[評価4]
複合酸化物A3について、浸水試験を実施した。複合酸化物0.1gを2cm
3の純水に投入し、30分間攪拌した後、1時間静置した。その後、吸引濾過で複合酸化物を分離し、80℃で一晩乾燥させ、XRDパターンを確認した。
【0093】
図9に、浸水試験で測定したXRDパターンを示す。表5には、XRDパターンに基づくリートベルト解析結果の一部を示す。浸水による不純物の生成は見られず、複合酸化物が水中でも変質しにくいことが示された。なお、格子定数の変化より、複合酸化物の層間から僅かにNaが脱離していることが示唆された。