【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成27年度経済産業省「発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業(フィルタベントの性能評価のための技術基盤整備)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉等において事故が発生した際には、原子炉圧力容器を格納している原子炉格納容器の破損を防ぐために、原子炉格納容器内からガスを排出するベント操作が行われることがある。このベント操作においては、原子炉格納容器内のガスから放射性物質を十分に除去した上で屋外環境に排出することが求められる。
【0003】
ベント操作において放射性物質を除去する従来技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の技術に関する具体的構成を
図6に示す。
原子炉圧力容器102を格納する原子炉格納容器101内のガスは、ドライウェル103から降下するベント管104を介して、サプレッションチャンバー105に貯留されているサプレッションプール水105aに放出され、サプレッションプール水105aを通過した後に原子炉格納容器101から排出される。
原子炉格納容器101から排出されたガスは、第一の配管106を通過し、第一の配管106の先端に接続されたノズル109を介して、フィルタベント容器108に貯留されているスクラバ水108aに放出(噴出)される。スクラバ水108aに放出されたガスは、スクラバ水108aを上昇して液面から放出され、スクラバ水108aの液面よりも上方に配設されたフィルタ107a及び銀ゼオライト層107bを順に通過した後、フィルタベント容器108から排出される。なお、銀ゼオライトとは、銀又は銀塩が添着されたゼオライトを意味している。
フィルタベント容器108から排出されたガスは、第二の配管111を通過し、スタック112から屋外環境に排出される。
【0004】
特許文献1に記載の技術において、原子炉格納容器101内のガスに含まれる放射性エアロゾル及び放射性ヨウ素を含有するヨウ素ガス(I
2)の大部分は、サプレッションプール水105a及びスクラバ水108a並びにフィルタ107aによる水滴除去によって捕捉される。放射性エアロゾルは液相と接触することで物理的に捕捉されるからである。また、放射性ヨウ素を含有するヨウ素ガスは水溶性を呈するからである。なお、以降の説明では、「放射性ヨウ素を含有するヨウ素ガス」を「放射性ヨウ素ガス」と呼ぶ。
一方、原子炉格納容器101内のガスに含まれる放射性ヨウ素を含有する有機ヨウ素は、サプレッションプール水105a及びスクラバ水108a並びにフィルタ107aによる水滴除去によっては捕捉されず、フィルタ107aの上方に設置された銀ゼオライト層107bに吸着されて捕捉される。
なお、放射性ヨウ素を含有する有機ヨウ素とは、放射性ヨウ素を含有する有機化合物であり、少なくとも1つ以上の炭素−ヨウ素結合を持つ有機化合物等が挙げられる。このような有機化合物としては、例えばヨウ化メチル等が挙げられる。以降の説明では、「放射性ヨウ素を含有する有機ヨウ素」を「放射性有機ヨウ素」と呼ぶ。
【0005】
ところで、銀ゼオライトの放射性有機ヨウ素の吸着性能は、湿潤環境下では低下してしまうことが知られている。そこで、例えば特許文献2では、銀ゼオライトをフィルタベント装置110の内部ではなく外部に設置するようにしている。具体的には、フィルタベント装置110の後段に銀ゼオライト粒子を充填した吸着塔を設置し、さらにこの吸着塔とフィルタベント装置110の間に、フィルタベント装置110から排出されるガス成分(例えば水素)により発熱が生じる発熱手段を設けるようにしている。このような構成を採用することにより、フィルタベント装置110から排出されるガスを発熱手段で加熱して、吸着塔内に充填された銀ゼオライト粒子を加熱し、吸着塔内において結露が発生するのを防いで、銀ゼオライトの放射性有機ヨウ素の吸着性能を安定して発揮させるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、銀ゼオライト粒子を充填した吸着塔とフィルタベント装置との間に発熱手段を設け、銀ゼオライト粒子を充填した吸着塔内を加熱し続けて結露を防止する必要があり、構成が複雑化してしまう。また、ベント操作初期において、銀ゼオライト粒子を充填した吸着塔内は十分に加熱されていない状況にあることから、吸着塔内で結露が生じやすい。したがって、ベント操作初期においては放射性有機ヨウ素の吸着性能が十分に発揮されない可能性もある。このように、銀ゼオライト粒子等の固体吸着材を利用した乾式処理方式により放射性有機ヨウ素を捕捉する際には、結露に関する問題がつきまとうことになる。
【0008】
そこで、本発明者等は、乾式処理方式に代えて、結露に関する問題を特に考慮する必要のない湿式処理方式を採用して放射性有機ヨウ素を捕捉することについて検討した。放射性有機ヨウ素を湿式処理方式で捕捉することができれば、液相と接触することで物理的に捕捉される放射性エアロゾルについてもスクラバ液の種類によらず一括して捕捉することができる。また、使用するスクラバ液の種類によっては、放射性ヨウ素ガスも一括して捕捉することができると考えられる。したがって、例えばフィルタベント装置内において、放射性エアロゾルや放射性ヨウ素ガスのみならず、放射性有機ヨウ素も一括して捕捉することが可能になると考えられる。
【0009】
しかしながら、湿式処理方式により、放射性有機ヨウ素、放射性エアロゾル、及び放射性ヨウ素ガスを一括して捕捉する手法は未だ確立されていない。例えば特許文献2では、スクラバ液として水に代えて水酸化ナトリウム水溶液や硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いることも提案されているが、このようなアルカリ水溶液を用いても、その効果は放射性ヨウ素ガスの捕捉効果の向上にとどまり、放射性有機ヨウ素を捕捉することはできない。
【0010】
そこで、本発明は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内で、湿式処理方式により、当該ガス中の放射性有機ヨウ素、さらには放射性ヨウ素ガス及び放射性エアロゾルを捕捉して除去することのできるガス中放射性物質除去方法、ガス中放射性物質除去用スクラバ、及びフィルタベント装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本発明のガス中放射性物質除去方法は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内で、当該ガスを遮光下にて
スクラバ液としての硝酸銀濃度10wt%以上の硝酸銀水溶液中に放出させる工程を含むようにしている。
【0012】
また、かかる課題を解決するため、本発明のガス中放射性物質除去用スクラバは、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内に設置され、
スクラバ液としての硝酸銀濃度10wt%以上の硝酸銀水溶液が貯留されている遮光性のスクラバタンクと、当該ガスを硝酸銀水溶液中に放出させるガス放出部とを有するものとしている。
【0013】
さらに、かかる課題を解決するため、本発明のフィルタベント装置は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内に設置され、
スクラバ液としての硝酸銀濃度10wt%以上の硝酸銀水溶液が貯留されている遮光性のスクラバタンクと、当該ガスを前記硝酸銀水溶液中に放出させるガス放出部と、硝酸銀水溶液の液面よりも上方に配設されるフィルタとを有し、硝酸銀水溶液を通過したガスがフィルタを通過した上でスクラバタンクから排出されるものとしている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内で、湿式処理方式により、当該ガス中の放射性有機ヨウ素、さらには放射性ヨウ素ガス及び放射性エアロゾルを捕捉して除去することが可能となる。
【0015】
しかも、放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスはともに
スクラバ液としての硝酸銀濃度10wt%以上の硝酸銀水溶液と反応して不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって、硝酸銀水溶液中に安定に保持される。したがって、一旦捕捉した放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスに含まれる放射性ヨウ素原子の再放出を抑えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本発明のガス中放射性物質除去方法は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内で、当該ガスを遮光下にて硝酸銀水溶液中に放出させる工程を含むようにしている。
【0019】
以下、本発明のガス中放射性物質除去方法の実施形態の例として、本発明のフィルタベント装置を用いる例を第一の実施形態として説明し、本発明のガス中放射性物質除去用スクラバを用いる例を第二の実施形態として説明する。
【0020】
<第一の実施形態>
本発明のフィルタベント装置の実施形態の一例を
図1に示す。
図1に示すフィルタベント装置9は、原子炉格納容器内のガス3を屋外環境に排出する経路内、具体的には原子炉格納容器の後段に設置され、スクラバ液4が貯留されている遮光性のスクラバタンク1と、ガス3をスクラバ液4中に放出させるガス放出部10と、スクラバ液4の液面よりも上方に配設されるフィルタ5とを有し、スクラバ液4を通過したガス3がフィルタ5を通過した上でスクラバタンク1から排出されるものとしている。そして、本発明では、スクラバ液4として硝酸銀水溶液を用いることが大きな特徴である。
【0021】
遮光性のスクラバタンク1は、例えば従来のフィルタベント装置のスクラバタンクと同様、原子炉格納容器内のガス3の導入経路及び放出経路以外を密封構造としたステンレス鋼性の容器である。ステンレス鋼を用いることで、遮光性は確保される。つまり、本発明では、従来のフィルタベント装置のスクラバタンクをそのまま利用することができ、好都合である。
但し、スクラバタンク1は、ステンレス鋼性の容器には限定されず、遮光性を有する他の材質で構成されるものとしても勿論よい。また、一種類の材質により構成されるものには限定されず、二種以上の材質を組み合わせてもよい。例えば、金属製の容器の内面(スクラバ液4との接触面)にテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂コーティングを施したものを用いるようにしてもよい。
【0022】
原子炉格納容器から排出されたガス3は第一のガス流動管路2を通過し、ガス放出部10を介してスクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出(噴出)される。本実施形態において、ガス放出部10は、複数のノズルを備えるものとしているが、必ずしもこのような構成には限定されず、ガス3をスクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出(噴出)させて、ガス3と硝酸銀水溶液を気液接触させることができるものであれば特に制限されない。
【0023】
スクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出されたガス3に含まれている放射性有機ヨウ素は、硝酸銀水溶液と接触することで硝酸銀と反応し、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって、硝酸銀水溶液中に安定に保持される。これにより、一旦捕捉した放射性有機ヨウ素に含まれる放射性ヨウ素の再放出を抑えることができる。
【0024】
また、スクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出されたガス3に含まれている放射性ヨウ素ガスについても、硝酸銀水溶液と接触することで硝酸銀と反応し、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって、硝酸銀水溶液中に安定に保持される。これにより、一旦捕捉した放射性ヨウ素ガスに含まれる放射性ヨウ素の再放出も抑えることができる。
なお、スクラバ液として水あるいは水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いた場合には、放射性ヨウ素ガスがスクラバ液中でヨウ素イオン又はヨウ素酸イオンの形態で存在する。したがって、スクラバ液にガスを放出することで生じる飛沫にこれらのイオンが同伴し、フィルタ5で捕捉されることなくスクラバタンク1の外部に放出されることがある。また、放射性ヨウ素ガスがスクラバ液中でヨウ素イオン又はヨウ素酸イオンの形態で存在する場合、スクラバ液のpH変化が生じ、このpH変化に起因して放射性ヨウ素ガスが再放出され、スクラバタンク1の外部に放出されることもある。
これに対し、本発明の場合には、放射性ヨウ素ガスをスクラバ液4としての硝酸銀水溶液中に不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿として保持できるので、飛沫にヨウ素イオンやヨウ素酸イオンが同伴したり、pH変化に起因して放射性ヨウ素ガスが再放出したりすることによって、放射性ヨウ素がスクラバタンク1の外部に放出されるのを抑えることができる。
【0025】
さらに、スクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出されたガス3に含まれている放射性エアロゾルは、硝酸銀水溶液と接触することで物理的に捕捉され、除去される。
【0026】
このように、本発明では、スクラバ液4としての硝酸銀水溶液に放出されたガス3に含まれている放射性有機ヨウ素、放射性ヨウ素ガス、及び放射性エアロゾルを一括して硝酸銀水溶液に捕捉し、ガス3から除去することができる。しかも、硝酸銀水溶液に捕捉された放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスは、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって硝酸銀水溶液中に安定に保持される。したがって、スクラバ液として硝酸銀水溶液を用いることで、スクラバ液として水あるいは水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いた従来技術と比較して、放射性有機ヨウ素の捕捉を可能としながらも、放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスに含まれる放射性ヨウ素の再放出を抑えることができるという圧倒的に優れた効果が奏される。
【0027】
なお、原子炉格納容器内は不活性ガスである窒素ガスで満たされていることから、原子炉格納容器内のガス3は窒素ガスを主体として構成される。したがって、硝酸銀は放射性有機ヨウ素や放射性ヨウ素ガス以外の物質との化学反応による消費を受けにくい。しかも、硝酸銀水溶液は遮光下に置かれることから、光劣化も生じにくい。このように、所期の目的である放射性有機ヨウ素や放射性ヨウ素ガスの捕捉のために利用されるまでの間、硝酸銀を安定に維持することができる点において、本発明は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路内に適用するのに極めて適しているといえる。
【0028】
ここで、スクラバ液4としての硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度については、フィルタベント装置において要求される除染能力に応じて設定される。例えば、放射性有機ヨウ素について要求されるDF(DecontaminationFactor:除染係数)が50である場合、硝酸銀濃度は10wt%程度とすることが好ましい。また、放射性有機ヨウ素について要求されるDFが50を超える場合には、硝酸銀濃度は10wt%超とすることが好ましい。なお、硝酸銀濃度が10wt%の場合、放射性ヨウ素ガスについてのDF値は100を超えることから、フィルタベント装置において一般的に要求される放射性ヨウ素ガスに対する除染能力値も満たすものとできる。
【0029】
スクラバ液4としての硝酸銀水溶液を通過して上昇したガス3は、さらにフィルタ5を通過し、当該フィルタ5を通過する間に硝酸銀水溶液によって捕集しきれなかったエアロゾルや飛沫がフィルタ5に捕集される。
なお、放射性ヨウ素は自己発熱(放射性崩壊)することから、飛沫の放射性ヨウ素濃度が高いほど、飛沫の水分が蒸発しやすくなる。この場合、飛沫がフィルタベント装置9内の上昇流に同伴する過程で小さくなりやすく、飛沫がフィルタ5に捕捉されにくくなって、放射性ヨウ素がフィルタベント装置9の外部に排出されてしまうことがある。また、フィルタ5に捕捉された飛沫から水分が蒸発し、放射性ヨウ素がフィルタベント装置9の外部に排出されてしまうこともある。
これに対し、本発明では、硝酸銀水溶液に捕捉された放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスは、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって硝酸銀水溶液中に安定に保持される。したがって、飛沫の放射性ヨウ素濃度は低減されており、放射性ヨウ素の自己発熱に起因する飛沫当たりの発熱量が小さくなるので、飛沫の水分が蒸発しにくい。したがって、フィルタベント装置9内の上昇流に同伴する過程で飛沫がフィルタ5に捕捉されやすい。また、フィルタ5に捕捉された飛沫からの水分の蒸発を抑制して、飛沫に含まれる放射性ヨウ素がフィルタベント装置9の外部に排出されるのを抑えやすい。
フィルタ5は、捕集対象物の特性などが考慮された上で適当なものが適宜選択される。具体的には、例えばステンレス繊維フィルタなどの金属繊維フィルタが用いられるが、必ずしもこのようなフィルタに限定されるものではない。フィルタ5を通過したガス3は放出経路6からスクラバタンク1の外部へと放出される。
【0030】
本発明のフィルタベント装置によれば、 原子炉格納容器から排出されたガス3に含まれる放射性有機ヨウ素、放射性ヨウ素ガス、及び放射性エアロゾルを一括してスクラバ液4としての硝酸銀水溶液に捕捉し、除去することが可能となる。したがって、本発明のフィルタベント装置の後段に乾式処理設備(例えば、銀ゼオライト粒子を充填した吸着塔)を設置することなく、ガス中放射性物質を除去するための構成の簡素化を図ることも可能となる。
しかも、硝酸銀水溶液に捕捉された放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスは、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって硝酸銀水溶液中に安定に保持されるので、放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスに含まれる放射性ヨウ素の再放出を抑えることができる。
なお、硝酸銀水溶液は中性であり、しかも不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿の生成に伴って生じる硝酸の量も微量であることから、フィルタベント装置を構成する部材の腐食も殆ど起こらない。したがって、フィルタベント装置を構成する部材に対して高度な耐腐食性が要求されることもない。
【0031】
<第二の実施形態>
本発明のガス中放射性物質除去用スクラバの実施形態の一例を
図2に示す。
図2に示すガス中放射性物質除去用スクラバ11は、原子炉格納容器内のガス3を屋外環境に排出する経路内、具体的には、フィルタベント装置9’の後段に設置される。本実施形態において、フィルタベント装置9’の構成は、スクラバ液4’として水あるいは水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いたこと以外については、第一の実施形態にかかるフィルタベント装置9と同様である。つまり、フィルタベント装置9’は、スクラバ液4’として水あるいは水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いる従来型のフィルタベント装置である。
【0032】
ガス中放射性物質除去用スクラバ11は、スクラバ液14が貯留されている遮光性のスクラバタンク13と、ガス3をスクラバ液14中に放出させるガス放出部15とを有するものとしている。そして、本発明では、スクラバ液14として硝酸銀水溶液を用いることが大きな特徴である。
【0033】
第二の実施形態では、従来型のフィルタベント装置9’において、ガス3に含まれる放射性エアロゾル及び放射性ヨウ素ガスは実質的に除去されている。したがって、第二の実施形態では、従来型のフィルタベント装置9’では除去することができない放射性有機ヨウ素が実質的な除去対象物質となる。
【0034】
スクラバタンク13やガス放出部15の構成については、第一の実施形態にかかるフィルタベント装置9におけるスクラバタンク1やガス放出部10と同様の構成を採用することができる。なお、除去対象物質が実質的に放射性有機ヨウ素のみであることを踏まえて、第一の実施形態にかかるフィルタベント装置9におけるスクラバタンク1よりも小型化してもよい。
【0035】
スクラバ液14としての硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度については、ガス中放射性物質除去用スクラバにおいて要求される除染能力に応じて設定される。
【0036】
従来型のフィルタベント装置9’から排出されたガス3は第二のガス流動管路12を通過し、ガス放出部15を介してスクラバ液14としての硝酸銀水溶液に放出(噴出)される。硝酸銀水溶液を通過して上昇したガス3は、放出経路16からスクラバタンク1の外部へと放出される。
【0037】
スクラバ液14としての硝酸銀水溶液に放出されたガス3に含まれている放射性有機ヨウ素は、硝酸銀水溶液と接触することで硝酸銀と反応し、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって、硝酸銀水溶液中に安定に保持される。これにより、一旦捕捉した放射性有機ヨウ素に含まれる放射性ヨウ素の再放出を抑えることができる。
【0038】
なお、上述したように、従来型のフィルタベント装置9’においては、スクラバ液として水あるいは水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いていることから、放射性ヨウ素ガスがスクラバ液中でヨウ素イオン又はヨウ素酸イオンの形態で存在する。したがって、スクラバ液にガスを放出することで生じる飛沫にこれらのイオンが同伴し、フィルタ5で捕捉されることなくスクラバタンク1の外部に放出されることがある。また、放射性ヨウ素ガスがスクラバ液中でヨウ素イオン又はヨウ素酸イオンの形態で存在する場合、スクラバ液のpH変化が生じ、このpH変化に起因して放射性ヨウ素ガスが再放出され、スクラバタンク1の外部に放出されることもある。
第二の実施形態にかかる本発明のガス中放射性物質除去用スクラバによれば、このようにスクラバタンク1の外部に放出された放射性ヨウ素ガスあるいは放射性ヨウ素ガス由来の放射性ヨウ素についても捕捉することができる。スクラバタンク1の外部に放出された放射性ヨウ素ガスあるいは放射性ヨウ素ガス由来の放射性ヨウ素は、スクラバ液14としての硝酸銀水溶液と接触することで硝酸銀と反応し、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって、硝酸銀水溶液中に安定に保持される。したがって、再放出が抑えられる。
また、フィルタベント装置9’で捕捉できずスクラバタンク1の外部に放出された放射性エアロゾルについても捕捉することができる。
【0039】
このように、第二の実施形態にかかる本発明のガス中放射性物質除去用スクラバによれば、除去対象物質である放射性有機ヨウ素をしっかりと捕捉しながらも、スクラバタンク1の外部に放出された放射性ヨウ素ガスあるいは放射性ヨウ素ガス由来の放射性ヨウ素、さらには放射性エアロゾルについてもしっかりと捕捉することができるとともに再放出も抑えることができる。
【0040】
しかも、放射性有機ヨウ素を湿式処理方式で捕捉することができるので、乾式処理方式のように結露を防ぐための加熱手段を設ける等といった複雑な構成を採用する必要がない。また、乾式処理方式のようにベント操作初期に吸着等内で結露等が発生することにより放射性有機ヨウ素の吸着性能が低下する等の問題が生じないので、ベント操作初期からしっかりと放射性有機ヨウ素の捕捉性能を安定して発揮することができる。
【0041】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0042】
例えば、本発明のガス中放射性物質除去方法を、原子力発電設備のサプレッションチャンバー内において適用してもよい。サプレッションチャンバー内は通常遮光されており、しかも窒素ガスで満たされていることから、サプレッションチャンバー内のサプレッションプール水を硝酸銀水溶液とし、原子炉格納容器内に充満するガスをサプレッションプール水に放出することで、当該ガスを遮光下にて硝酸銀水溶液中に放出させる工程が実施されることになる。したがって、サプレッションプール水に放射性有機ヨウ素、放射性ヨウ素ガス、及び放射性エアロゾルを捕捉し、ガス中からこれらの放射性物質を除去した上でガスを排出することが可能となる。しかも、上述したように、硝酸銀水溶液に捕捉された放射性有機ヨウ素、放射性ヨウ素ガスは、不溶性のヨウ化銀(AgI)の沈殿となって硝酸銀水溶液中に安定に保持されるので、再放出を抑えることもできる。
つまり、本発明において、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路には、上述したフィルタベント装置やフィルタベント装置後段だけでなく、サプレッションチャンバー内等も包含される。
また、本発明のガス中放射性物質除去方法は、原子炉格納容器内のガスを屋外環境に排出する経路の1個所のみで実施するようにしてもよいし、2個所以上で実施するようにしてもよい。
【0043】
また、上述の第一の実施形態にかかる本発明のフィルタベント装置について、フィルタ5を省略した形態、つまり、第二の実施形態において説明した形態のガス中放射性物質除去用スクラバを用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0045】
[実施例1]
硝酸銀水溶液による有機ヨウ素の除去性能について、有機ヨウ素としてヨウ化メチルを用いて検討した。
【0046】
<実験方法>
各種濃度に調整した硝酸銀水溶液20mLとヨウ化メチルガス30mL(10ppm)とを50mL容器に封入し、上下に振って攪拌した。なお、攪拌時間は、フィルタベント装置での気液接触時間を想定して2秒間に設定した。
攪拌を停止した後、50mL容器内の上部空間のガスを吸引してヨウ化メチル吸収液(1−ブタノール)に吸収させ、ヨウ化メチルが溶け込んだ1−ブタノールに対してGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)を行い、1−ブタノール中のヨウ化メチル濃度を計測した。
そして、GC−MSによる計測結果から50mL容器内の上部空間のガス中のヨウ化メチル濃度を算出し、初期濃度(10ppm)との比から除染係数(DF)を得た。
【0047】
<実験結果>
硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度[wt%]に対するヨウ化メチルの除去性能を
図3に示す。
ヨウ化メチルの除去性能は硝酸銀水溶液の濃度に比例することが明らかとなった。
また、硝酸銀濃度を10wt%以上とすることで、フィルタベント装置において要求されるDF50を上回ることが明らかとなった。したがって、硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度は10wt%以上とすることが好ましいと考えられる。
また、実験終了後に不溶性の沈殿が確認されたことから、捕捉したヨウ化メチルは銀との反応によりヨウ化銀(AgI)となり、硝酸銀水溶液中に安定に保持できることも明らかとなった。
【0048】
[実施例2]
硝酸銀水溶液によるヨウ素(I
2)の除去性能について検討した。
【0049】
<実験方法>
実験に使用した装置の構成を
図4に示す。
図4に示す実験装置は、ヨウ素発生装置において固体(粒)状のヨウ素を加熱することにより発生させたヨウ素ガスを、キャリアガス(空気)で搬送し、ヨウ素発生装置の後段に設置した第1段目の容器内の試験溶液と第1段目の容器の後段に設置した第2段目の容器内の溶液とに順次通気させる構成とした。
第1段目の容器内の試験溶液は、硝酸銀水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液とした。
第2段目の容器内の溶液は、ヨウ素ガスに対して99%以上の吸収効率を有する吸収剤であるチオ硫酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合液とした。以下、この溶液のことを吸収液と呼ぶ。
実験終了後の吸収液のヨウ素濃度をICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)により測定した。
【0050】
実験は、以下の手順で実施した。
まず、第1段目の容器内に試験溶液を収容することなく実験を実施し、吸収液のヨウ素濃度を得た。これを入口濃度とした。
次いで、第1段目の容器内に試験溶液として各種濃度の硝酸銀水溶液又は0.5wt%水酸化ナトリウム水溶液を収容して実験を実施し、試験溶液として第1段目の容器に収容した硝酸銀水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液にヨウ素ガスが吸収された後の吸収液のヨウ素濃度を得た。これを出口濃度とした。
これらの実験により得られた入口濃度及び出口濃度から除染係数(DF)を得た。
【0051】
<実験結果>
硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度に対するヨウ素の除去性能を
図5に示す。
いずれの濃度の硝酸銀水溶液も、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合と同等のヨウ素除去性能を発揮し、フィルタベント装置において要求されるDF100を上回ることが明らかとなった。
また、実施例1の結果も踏まえて総合的に判断すると、硝酸銀水溶液の硝酸銀濃度を10wt%以上とすることで、フィルタベント装置において要求される放射性有機ヨウ素及び放射性ヨウ素ガスの双方についての除去性能を満足することができることが明らかとなった。