特許第6866042号(P6866042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6866042-液体の吐出方法 図000003
  • 特許6866042-液体の吐出方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866042
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】液体の吐出方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 25/00 20060101AFI20210419BHJP
   F16K 1/34 20060101ALI20210419BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   F16K25/00
   F16K1/34 H
   B05C11/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-185770(P2017-185770)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-60416(P2019-60416A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2019年8月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕一
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−007116(JP,A)
【文献】 特開2015−182043(JP,A)
【文献】 特開2005−081333(JP,A)
【文献】 特表2017−516039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 25/00
B05C 11/10
F16K 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁と弁座が接することで流体を閉鎖する吐出バルブを使用した液体の吐出方法であって、
前記弁座における前記弁と接する箇所は、引張弾性率が2GPa以上である材料から成り、予備吐出作業をすることなく液体を吐出し、
前記弁がニードル弁であることを特徴とする液体の吐出方法。
【請求項2】
弁と弁座が接することで流体を閉鎖する吐出バルブを使用した液体の吐出方法であって、
前記弁座における前記弁と接する箇所は、圧縮弾性率が2GPa以上である材料から成り、予備吐出作業をすることなく液体を吐出し、
前記弁がニードル弁であることを特徴とする液体の吐出方法。
【請求項3】
定量吐出バルブであることを特徴とする請求項1または2に記載の液体の吐出方法。
【請求項4】
前記弁座の前記弁と接する箇所を構成する材料は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ステンレスの群から選ばれる1種の材料であることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の液体の吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するための吐出バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
水、油、レジン等の液体を一定量で供給するディスペンサーは、半導体工程や医療分野などの様々な分野に使われている。半導体工程においては、アンダーフィル(underfill)工程にディスペンサーが多く使われており、半導体素子のパッケージの内部をレジンで充填する用途にもディスペンサーが多く使われている。また、LED素子の製造工程においては、蛍光物質とレジンとが混合された蛍光液をLEDチップに塗布する工程にディスペンサーが使われている。このようなディスペンサーでは、溶液の供給を受けて正確な位置に定量をディスペンスする吐出バルブが核心装置として使用される(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−182043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体を高精度で定量吐出することのできる定量吐出バルブでも、一定期間バルブを遮蔽していた直後に吐出した場合には、設定していた液量よりも多量の液体が吐出される傾向がある。これは吐出バルブが液体を遮蔽する際に、ステンレス製の弁が液体のリークを防ぐために、比較的強い圧力で弁を弁座に押し付けており、弁座における弁と接する箇所がわずかに弾性変形して凹み、直後の吐出では、液体流路がその凹みの分設定よりも広くなるためであると考えられる。すなわち、通常、液体を吐出する状態では、図2(a)に示すように、弁座12と弁11との間には、所定の幅の流路が形成され、遮蔽した状態では図2(b)に示すように、弁12が弁11に押し付けられた状態が維持される。そして、遮蔽状態が一定期間続いてから吐出状態へと移行した直後においては、図2(c)に示すように、弁座12における弁11と接する箇所12aが弾性変形して、その弾性変形から復帰するまでの間、流路が所定の幅よりも広い状態となり、所望より多量の液体が吐出される。
【0005】
弁の引上げ量を少なくして液体流路を狭くして、送圧を高く設定した場合、液体流路のゲート幅に対して弁座の変形量が占める割合が大きくなるので、液量の変動が大きくなる傾向にある。一方、送圧を低くして、弁の引上げ量を多くして液体流路を広く設定した場合には、弁の動作量が大きくなり液体流路に気体を巻き込むリスクが高くなる。したがって、精密吐出を行うためには、吐出初期時の予備吐出作業が必要となるが、これは作業性を悪化させ、吐出材料を無駄にすることになる。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑み成されたもので、吐出量の変動の少ない吐出バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの鋭意検討の結果、弁座の材質を弾性変形のしにくい材料にすることによって、弁が押し付けられることよる弁座の変形が小さく、特に、液体の吐出を再開する際など吐出初期時の吐出量の変動を抑制できることを見出した。
【0008】
すなわち、以下の吐出バルブである。
〔1〕弁と弁座が接することで流体を閉鎖する吐出バルブであって、弁座における弁と接する箇所は、引張弾性率が2GPa以上である材料から成ることを特徴とする吐出バルブ。
【0009】
〔2〕弁と弁座が接することで流体を閉鎖する吐出バルブであって、弁座における弁と接する箇所は、圧縮弾性率が2GPa以上である材料から成ることを特徴とする吐出バルブ。
【0010】
〔3〕弁がニードル弁であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の吐出バルブ。
【0011】
〔4〕定量吐出バルブであることを特徴とする〔1〕から〔3〕の何れかに記載の吐出バルブ。
【0012】
〔5〕弁座における弁と接する箇所を構成する材料は、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ステンレスの群から選ばれる1種の材料であることを特徴とする〔1〕から〔4〕の何れかに記載の吐出バルブ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吐出バルブによれば、液体の吐出量の変動を抑制することができ、液体の精密吐出が可能となる。また、精密吐出のために従来必要とされていた吐出初期時の予備吐出作業が不要になり、作業性の向上、吐出材料の節約が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】吐出バルブの模式図である。
図2】従来の吐出バルブにおいて、弁により加圧されていた弁座が変形して流路が広がり、液量が増加する原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る吐出バルブ1の構造を示す模式的断面図である。すなわち、吐出バルブ1は、バルブ本体10の内部に弁11と弁座12とを備え、弁11と弁座12とが接することで供給口13と吐出口14との間の流体の流路を閉鎖する。本実施形態の吐出バルブ1は、弁座12おける弁11と接する箇所12aが、引張弾性率が2GPa以上である材料から成ることを特徴とする。
【0016】
また、吐出バルブ1は、弁11と弁座12とが接することで流体を閉鎖する吐出バルブであって、弁座12における弁11と接する箇所12aが、圧縮弾性率が2GPa以上である材料から成ることを特徴とする。
【0017】
弁11は、ニードル弁であることが好ましい。また、吐出バルブ1は、定量吐出バルブであることが好ましい。
【0018】
弁座12における弁11と接する箇所12aの材質は、引張弾性率が2GPa以上の材料であれば特に限定されないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ステンレスの群から選ばれる1種の材料であることが好ましい。
【0019】
弁座12における弁11と接する箇所12aの引張弾性率は、3GPa以上であることが好ましく、4GPa以上であることがより好ましく、100GPa以上であることがさらに好ましい。弁座12における弁11と接する箇所12aの引張弾性率は、大きい方が変形しづらいため好ましいが、弁11を損傷させないために、弁11における弁座12と接する箇所の引張弾性率以下の引張弾性率である材料であることが好ましい。
【0020】
弁座12は、単一の材料から成ってもよく、複数の材料を組み合わせてもよい。例えば、弁座12における弁11と接する箇所12a以外には、引張弾性率が2GPa未満の材料を用いてもよい。
【0021】
なお、樹脂材料の引張弾性率は、ASTM D651に規定される。また、金属材料の引張弾性率は、JIS Z 2280:1993に規定される。ここでの引張弾性率は室温での値である。
【0022】
弁座12における弁11と接する箇所12aの材質は、圧縮弾性率が2GPa以上の材料であれば特に限定されないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ステンレスの群から選ばれる1種の材料であることが好ましい。
【0023】
弁座12における弁11と接する箇所12aの圧縮弾性率は、3GPa以上であることが好ましく、4GPa以上であることがより好ましく、100GPa以上であることがさらに好ましい。弁座12における弁11と接する箇所12aの圧縮弾性率は、大きい方が変形しづらいため好ましいが、弁11を損傷させないために、弁11における弁座12と接する箇所の圧縮弾性率以下の圧縮弾性率である材料であることが好ましい。
【0024】
弁座12は、単一の材料から成ってもよく、複数の材料を組み合わせてもよい。例えば、弁座12における弁11と接する箇所12a以外は、圧縮弾性率が2GPa未満の材料を用いてもよい。
【0025】
なお、樹脂材料の圧縮弾性率は、ASTM D695に規定される。ここでの圧縮弾性率は室温での値である。
【0026】
弁座12の弁11と接する箇所12aは、引張弾性率が2GPa以上で、かつ、圧縮弾性率が2GPa以上の材料から成ることが好ましい。
【0027】
弁座12は、リング形状に形成され、吐出口14と弁11との間に配置されることが好ましい。なお、弁11、弁座12、吐出口1の中心は、同一直線上に配置されることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び参考例に基づき説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
〈実施例1〉 岩下エンジニアリングの液体精密吐出用バルブAV502の弁(SUS304)が押し付けられるポリプロピレン(PP)製のリング状弁座を、同形状に成形したPEEK(ビクトレックス社製、引張弾性率:3.7GPa、圧縮弾性率:4.1GPa)製弁座と交換した。
【0030】
AV502バルブの液体投入孔にシリコーン樹脂を送圧0.30MPaで供給した。10秒間の液体吐出量が0.3g程度になるようにAV502上部の調整用バーニアハンドルを調整し、シリンダーの開度を設定した。
【0031】
1時間バルブを閉めて液体が遮断された状態にした後、AV502にバルブ開閉用のエアーを供給し液体を吐出させた。10秒間の液体吐出量を、1分間隔で7回測定したところ、液体吐出量は最大で0.32g、最小で0.27gであり、その変動量は0.05gであった。
【0032】
〈実施例2〉 岩下エンジニアリングの液体精密吐出用バルブAV502の弁(SUS304)が押し付けられるポリプロピレン(PP)製のリング状弁座を、同形状に成形したポリイミド(デュポン社製べスペル、引張弾性率:3.2GPa、圧縮弾性率:2.4GPa)製弁座と交換した。
【0033】
AV502バルブの液体投入孔にシリコーン樹脂を送圧0.30MPaで供給した。10秒間の液体吐出量が0.3g程度になるようにAV502上部の調整用バーニアハンドルを調整し、シリンダーの開度を設定した。
【0034】
1時間バルブを閉めて液体が遮断された状態にした後、AV502にバルブ開閉用のエアーを供給し液体を吐出させた。10秒間の液体吐出量を、1分間隔で7回測定したところ、液体吐出量は最大で0.33g、最小で0.27gであり、その変動量は0.06gであった。
【0035】
〈実施例3〉岩下エンジニアリングの液体精密吐出用バルブAV502の弁が押し付けられるポリプロピレン(PP)製のリング状弁座を、同形状に成形したステンレス(SUS304、引張弾性率:193GPa、圧縮弾性率:170GPa)製弁座と交換した。
【0036】
AV502バルブの液体投入孔にシリコーン樹脂を送圧0.30MPaで供給した。10秒間の液体吐出量が0.3g程度になるようにAV502上部の調整用バーニアハンドルを調整し、シリンダーの開度を設定した。
【0037】
1時間バルブを閉めて液体が遮断された状態にした後、AV502にバルブ開閉用のエアーを供給し液体を吐出させた。10秒間の液体吐出量を、1分間隔で7回測定したところ、液体吐出量は最大で0.31g、最小で0.29gであり、その変動量は0.02gであった。
【0038】
〈比較例1〉岩下エンジニアリングの液体精密吐出用バルブAV502の弁が押し付けられるポリプロピレン(PP、引張弾性率:1.5GPa、圧縮弾性率:1.5GPa)製のリング状弁座をそのまま使用した。 AV502バルブの液体投入孔にシリコーン樹脂を送圧0.30MPaで供給した。10秒間の液体吐出量が0.3g程度になるようにAV502上部の調整用バーニアハンドルを調整し、シリンダーの開度を設定した。
【0039】
1時間バルブを閉めて液体が遮断された状態にした後、AV502にバルブ開閉用のエアーを供給し液体を吐出させた。10秒間の液体吐出量を、1分間隔で7回測定したところ、液体吐出量は最大で0.57g、最小で0.26gであり、その変動量は0.31gであった。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、本発明による実施例1〜3を用いることで、比較例と比較すると、吐出量の変動を抑制することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0043】
1 吐出バルブ
10 バルブ本体
11 弁
12 弁座
13 供給口
14 吐出口

図1
図2