特許第6866713号(P6866713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6866713-複合材料の成形方法および成型品 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866713
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】複合材料の成形方法および成型品
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/52 20060101AFI20210419BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210419BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20210419BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20210419BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20210419BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   B29C43/52
   C08L101/00
   C08K7/06
   B29C43/18
   B29K101:12
   B29K105:08
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-53893(P2017-53893)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-154064(P2018-154064A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥中 理
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−091930(JP,A)
【文献】 特開平05−154900(JP,A)
【文献】 特開2016−172322(JP,A)
【文献】 特開平6−296634(JP,A)
【文献】 特開2011−122080(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/122500(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 53/00−53/84
B29C 70/00−70/88
C08K 7/06
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)が結晶性樹脂(A−1)及び非晶性樹脂(A−2)を含み、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)を含む複合材料を、ガラス転移点(Tg)以上、融点(Tm)以下の温度で塑性加工する成形方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)が6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、12ナイロン、MXD6ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、またはポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1に記載の成形方法
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)の60%以上95%以下が非晶性樹脂(A−2)である複合材料を塑性加工する、請求項1または2に記載の成形方法。
【請求項4】
塑性加工が、絞り加工または曲げ加工の何れかである請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項5】
塑性加工した後に、ガラス転移点以下の温度で金型から取り出す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項6】
複合材料の厚さが、0.4mm以上2.5mm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の成形方法を用いる成形品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の成形方法および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維及び炭素繊維複合材料は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、耐薬品性、疲労特性、耐摩耗性に優れる、線膨張係数が小さく寸法安定性に優れる、電磁波シールド性、X線透過性に富むなどの優れた特長を有していることから、スポーツ・レジャー、航空・宇宙、一般産業用途に幅広く適用されている。従来は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を複合材料のマトリックスとすることが多かったが、最近、リサイクル性・高速成型性の観点から熱可塑性樹脂が注目されている。
【0003】
特許文献1〜3には、熱可塑性樹脂と炭素繊維からなる複合材料が開示されている。
特許文献1では、ポリプロピレンと炭素繊維からなる複合材料が開示されており、流動成形性の評価として、230℃で複合材料を予熱したスタンピング成形を行なっている。一般的にポリプロピレンのガラス転移温度は0℃、融点は180℃と言われており、融点以上の温度へ予熱した後に成形されている。
また特許文献2では、6ナイロンと炭素繊維からなる複合材料が開示されており、280℃で複合材料を予熱したスタンピング成形を行なっている。一般的に6ナイロンのガラス転移温度は50℃、融点は225℃と言われており、融点以上の温度へ予熱した後に成形されている。
特許文献3では、ポリカーボネートと炭素繊維を含む炭素長繊維含有樹脂材料が開示されており、シリンダー温度300℃で可塑化して射出成形を行なっている。一般的にポリカーボネートのガラス転移温度は145℃と言われており、ガラス転移温度より150℃以上高温で可塑化した後に成形されている。
【0004】
このように、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む複合材料を成形する場合に、ガラス転移温度より150℃以上高温への予熱や、融点以上への予熱の後に成形する事は一般的であり、広く実施されている。
しかしながらこれらの方法では、高温まで予熱するため、熱可塑性樹脂が熱劣化する恐れや、著しく軟化する事で取扱いが困難になる恐れがあった。
【0005】
また炭素繊維複合材料は、従来板金などの金属を使っていた部品を代替するために、例えば2.5mm以下の薄肉での活用が検討される場合がある。
特許文献1の実施例では、厚さ4mmの複合材料を融点以上に予熱した後に金型内に運搬してプレス成形しているが、流動させるためには高いプレス圧力が必要であり、例えば1000cm以上といった大きな投影面積で、薄肉まで流動させる事は困難となる場合がある。
特許文献2の実施例1では、厚さ1.1mmの複合材料を予熱した後に金型内に運搬してプレス成形しているが、融点以上の高温では複合材料が十分に軟化すると考えられるため、運搬が困難になる場合がある。
特許文献3の実施例では、ガラス転移温度より150℃以上の高温で可塑化した後に金型内に射出成形しているが、例えば1000cm以上といった大きな投影面積で、薄肉成形品を射出成形する場合には、高い型締め圧が必要となり、困難となる場合がある。
【0006】
このような状況から、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む複合材料の成形方法として、より薄肉に対応し易い方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO15/122500号
【特許文献2】WO10/013645号
【特許文献3】特開2015−203060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む複合材料から、熱劣化の恐れが少なく、かつ薄肉の成形品を得やすい成形方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の温度範囲で塑性加工する事で、薄肉でも成形し易い事を見出し、また特定の組成で特に成形し易い事を見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明の要旨は、以下の[1]〜[7]に存する。
〔1〕 熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)を含む複合材料を、ガラス転移点(Tg)以上、Tg+120℃以下の温度で塑性加工する成形方法。
〔2〕 前記塑性樹脂(A)が、晶性樹脂(A−1)を含む複合材料を融点以下の温度で塑性加工したものである上記〔1〕記載の成形方法。
〔3〕 熱可塑性樹脂(A)の50%以上が非晶性樹脂(A−2)である複合材料を塑性加工する、上記〔1〕または〔2〕に記載の成形方法。
〔4〕 塑性加工が、絞り加工または曲げ加工の何れかである上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の成形方法。
〔5〕 塑性加工した後に、ガラス転移点以下の温度で金型から取り出す、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の成形方法。
〔6〕 複合材料の厚さが、0.4mm以上2.5mm以下である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の成形方法。
〔7〕 上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに成形方法によって得られた成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、熱可塑性樹脂と炭素繊維を含む複合材料から、熱劣化の恐れが少なく、かつ薄肉の成形品を得やすい成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例で用いた金型の概略断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(熱可塑性樹脂(A))
本発明で用いられる複合材料は、熱可塑性樹脂(A)を含む。樹脂成分の主成分が熱可塑性樹脂(A)であり、樹脂成分の95%以上が熱可塑性樹脂(A)である事が好ましく、樹脂成分が熱可塑性樹脂(A)からなる事がさらに好ましい。熱可塑性である事で、本発明の成形方法で成形し易い。
熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリプロピレン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、12ナイロン、MXD6ナイロン、XD10ナイロン、9Tナイロン、10Tナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等の結晶性樹脂;ポリカーボネート、ABS、アクリル等の非晶性樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
複合材料中の熱可塑性樹脂(A)の含有率は、複合材料100質量%中、30質量%以上80質量%以下が好ましく、40質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以上65質量%以下が更に好ましい。
複合材料中の熱可塑性樹脂(A)の含有率が30質量%以上であると、複合材料の成形性に優れる。また、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の含有率が80質量%以下であると、炭素繊維(B)を十分配合できるため、成形品の機械特性に優れる。
【0013】
(結晶性樹脂(A−1))
熱可塑性樹脂(A)は、結晶性樹脂(A−1)を含むことが好ましい。
結晶性樹脂(A−1)としては、ポリプロピレン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、12ナイロン、MXD6ナイロン、XD10ナイロン、9Tナイロン、10Tナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。耐熱性、成形性のバランスから、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、12ナイロン、MXD6ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、が好ましく、吸湿による物性低下が少なく比較的安価な事から、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
熱可塑性樹脂(A)中の結晶性樹脂(A−1)の配合量は、50%以下が好ましく、5%以上40%以下がさらに好ましく、15%以上30%以下が最も好ましい。
結晶性樹脂(A−1)を含むことで、ガラス転移点以上であっても、べたつきが少なく、ハンドリングし易い。
【0014】
(非晶性樹脂(A−2))
熱可塑性樹脂(A)は、非晶性樹脂(A−2)を含むことが好ましい。
非晶性樹脂(A−2)としては、ポリカーボネート、ABS、アクリル、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。ガラス転移温度が高く耐熱性が高い点から、ポリカーボネートが好ましい。
非晶性樹脂(A−2)は、熱可塑性樹脂(A)の50%以上である事が好ましい。さらに好ましくは60%以上95%以下であり、もっとも好ましくは70%以上85%以下である。非晶性樹脂(A−2)がこの範囲であると、塑性加工し易い。
また熱可塑性樹脂(A)は、成形性に優れる事から、結晶性樹脂(A−1)と非晶性樹脂(A−2)を含むポリマーアロイが好ましい。また、成形性と機械特性のバランスに優れる事から、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレートアロイ、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレートアロイがさらに好ましい。
【0015】
(炭素繊維(B))
本発明に用いられる複合材料は、炭素繊維(B)を含む。炭素繊維としては、PAN系炭素繊維や、ピッチ系炭素繊維が挙げられるが、PAN系炭素繊維が好ましい。
ここでPAN系炭素繊維とは、「アクリロニトリルを主成分として重合させたポリアクリルニトリル系樹脂からなる繊維を、不融化させて、さらに炭化させて生成した実質的に炭素のみからなるフィラメント繊維」を主たる成分として構成される繊維の集合体であることを意味する。PAN系炭素繊維は、低密度及び高比強度といった利点がある。
PAN系炭素繊維を構成するフィラメント繊維の最大フェレ径をPAN系炭素繊維の直径とした場合、PAN系炭素繊維の直径は1μm以上20μm以下が好ましく、4μm以上15μm以下がさらに好ましく、特に好ましくは5μm以上8μm以下である。
PAN系炭素繊維は、長繊維、チョップドファイバー、ミルドファイバーを用いる事ができるが、所望の機械特性や加工性を得るために、質量平均長さを制御する観点から、長繊維や、チョップドファイバーが好ましい。
以上のような性質を有するPAN系炭素繊維として好適に用いられている市販品としては、パイロフィル(登録商標)チョップドファイバー TR06U、TR06UL,TR06NE、TR06NL、MR06NE、MR03NE、長繊維 TR50S 15L、TRH50 18M、TRH50 60M、TRW40 50L、MR60H 24P、HR40 12M(以上、商品名、三菱レイヨン社製)などが挙げられる。
複合材料中の炭素繊維(B)の含有率は、複合材料100質量%中、20質量%以上70質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がより好ましく、35質量%以上50質量%以下が更に好ましい。
複合材料中の炭素繊維(B)の含有率が20質量%以上であると、成形品の機械特性に優れる。また、熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維(B)の含有率が70質量%以下であると、熱可塑性樹脂(A)を十分配合できるため、成形性に優れる。
複合材料中の炭素繊維(B)の質量平均繊維長に特に制限は無いが、機械特性の観点から0.1mm以上が好ましく、10mm以上がさらに好ましい。また成形性の観点から、50mm以下が好ましく。30mm以下がさらに好ましい。
【0016】
(複合材料)
本発明に用いられる複合材料は、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)以外に、必要に応じて他の添加剤を含んでも良い。他の添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、金属不活性材、カーボンブラック、造核剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ガラス繊維、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、溶融張力向上剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。これらの他の添加剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
複合材料中の他の添加剤の含有率は、複合材料や成形品の本来の性能を損なわないことから、複合材料100質量%中、0質量%以上10質量%以下が好ましく、0質量%以上5質量%以下がより好ましく、0質量%以上3質量%以下が更に好ましい。
複合材料の厚さは、0.4mm以上2.5mm以下が好ましく、0.5mm以上1.7mm以下がさらに好ましい。0.4mm以上である事で、複合材料の優れた機械特性を活かす事ができる。また、2.5mm以下であれば、より薄肉軽量な成形品を得る事ができる。
複合材料の製造方法に特に制限はないが、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)からなるプリプレグを積層する方法や、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)からなるペレットを射出成形する方法、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)からなるペレットを押出成形する方法等が挙げられる。ペレットを用いる場合に、より大きな面積の複合材料を効率的に得るためには、押出成形が好ましい。
【0017】
(塑性加工)
本発明の成形方法は、塑性加工である。
ここで塑性加工とは、延伸、鍛造、絞り、曲げ加工であり、これらを組み合わせた方法も含む。好ましくは、曲げ加工、絞り加工であり、さらに好ましくは曲げ加工である。
本発明の塑性加工では、曲げ加工機等の従来板金加工で用いられている加工機を用いる事が可能であるが、より複雑な成形品を効率的に生産する観点から、金型を用いたプレス加工が好ましい。
金型を用いる場合、複合材料をTg以上Tg+120℃以下の温度に予熱した後に、金型内に運搬し、金型を閉じる事で所望の塑性加工を行う方法が好ましい。金型の温度に特に制限はないが、高い生産性を求める場合には、Tg以下の温度が好ましい。また、少量の加工であれば、Tg以上の温度の金型を用いて塑性加工した後に、金型をTg以下に冷やしてから取り出す方法が容易である。
【0018】
(加工温度)
本発明の成形方法では、ガラス転移点(Tg)以上、Tg+120℃以下で塑性加工する。Tg+20℃以上が好ましく、Tg+30℃以上がさらに好ましい。また、Tg+80℃以下が好ましく、Tg+70℃以下がさらに好ましい。
また、熱可塑性樹脂(A)が結晶性樹脂(A−1)を含む場合には、融点(Tm)以下が好ましく、Tm−40℃以下がさらに好ましい。
この範囲では、より加工性に優れる。
ここでガラス転移点(Tg)、融点(Tm)は、複合材料の一部を切出し、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の速度で昇温しながら測定した値である。
本発明の成形方法で金型を用いる場合、Tg以上であっても、Tgに近い温度であれば変形が少なく金型から取り出す事が可能であるが、安定した成形のためには、成形品の表面の温度がTg以下になってから金型から取り出す事が好ましい。Tg以上で取出した場合には、金型から取り出した後に変形が生じ、所望の寸法精度が得られない場合がある。取り出し時の金型の温度は、Tg以下が好ましく、Tg−5℃以下がさらに好ましい。
【0019】
(成形品)
本発明の成形品は、複合材料を塑性加工する事によって得られるが、その50%以上の面積において、複合材料の厚さの90%以上の厚さが好ましく、複合材料の厚さと等しい事が好ましい。本発明の成形方法では、厚さの変化を伴う加工も可能であるが、より高い加圧力が必要となるため、加工費用が高くなる恐れがある。
成形品の平均厚さは、0.4mm以上2mm以下が好ましく、0.5mm以上1.7mm以下がさらに好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(ガラス転移点、融点の測定)
複合材料をニッパーで切断し、約10mgをアルミニウム容器に精秤し、示差走査熱量計(機種名「DSC7020」、SII社製)を用いて測定した。280℃に加熱した後に−40℃まで急冷し、その後に−40℃から280℃まで10℃/分の昇温条件で測定する事で、ガラス転移点、融点を測定した。
【0022】
(取扱い性)
ステンレス板上で加工温度となった複合材料を軍手で運ぶ際の取扱い性を、以下の基準で評価した。
○:容易に運ぶ事ができる。
△:表面がざらつき、やや運び難い。
×:軟らかすぎて運び難い。
【0023】
(加工性)
加工性を以下の基準で評価した。
○:成形品に割れやヒビ等が無く良好である。
△:成形品にヒビが発生するが、割れない。
×:成形品が割れる。
【0024】
(外観)
成形品外観を以下の基準で評価した。
○:形状や表面外観に異常が無く、良好。
△:概略形状は良好だが、表面に凹凸が発生。
×:形状不良。
【0025】
(原料)
熱可塑性ポリエステル樹脂(A−1):ポリブチレンテレフタレート樹脂(商品名「ノバデュラン5008」、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)
ポリカーボネート樹脂(A−2−1):ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンH−4000」、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)
ポリカーボネート樹脂(A−2−2):ポリカーボネート樹脂(商品名「ノバレックス7020IR」、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)
炭素繊維(B−1):PAN系炭素繊維(商品名「パイロフィル TR50S」、三菱レイヨン(株)製)
炭素繊維(B−2):PAN系炭素繊維(商品名「パイロフィル TR06UL」、三菱レイヨン(株)製、繊維長6mm、チョップドファイバー)
耐衝撃性改良剤:シリコーン−アクリル複合ゴム系耐衝撃性改良剤(商品名「メタブレン S−2006」、三菱レイヨン(株)製)
【0026】
(参考例1)0.5mm厚の複合材料(X−1)の製造
ポリカーボネート樹脂(A−2−1)80質量部、熱可塑性ポリエステル樹脂(A−1)20質量部、耐衝撃性改良剤 5質量部、安定剤 0.9質量部を二軸押出機で混練してPC/PBTアロイのペレットを得た。
【0027】
このペレットと炭素繊維(B−1)を特許文献1記載の方法に従って複合化し、炭素繊維を44%含む、厚さ0.5mmの複合材料(X−1)を得た。ガラス転移点 97℃、融点 210℃であった。
【0028】
(参考例2)0.6mm厚の複合材料(X−2)の製造
ポリカーボネート樹脂(A−2−2)76質量部、熱可塑性ポリエステル樹脂(A−1)19質量部、耐衝撃性改良剤 5質量部、安定剤 0.4質量部を二軸押出機のメインフィーダーから供給し、炭素繊維(B−2)67質量部をサイドフィーダーから供給し、ダイスから出たストランドを水冷した後にストランドカッターでカットし、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物(Y)を得た。
ここで得られた熱可塑性樹脂組成物(Y)を、シリンダー温度270℃、金型温度100℃で射出成形した後に、2枚のステンレス板に挟んで、270℃に設定したプレス成形機で厚さ0.6mmになるように圧縮し、その後80℃に設定したプレス成形機で冷却した後にステンレス板の間から取り出して、炭素繊維を40%含む、厚さ0.6mmの複合材料(X−2)を得た。ガラス転移点 104℃、融点 210℃であった。
【0029】
(参考例3)2mm厚の複合材料(X−3)の製造
(参考例2)のペレット状で得られた熱可塑性樹脂組成物(Y)を、シリンダー温度270℃、金型温度100℃の条件で、100mm×100mm×2mmのキャビティを有する金型を用いて射出成形する事で、炭素繊維を40%含む、厚さ2mmの複合材料(X−3)を得た。ガラス転移点 104℃、融点 210℃であった。
【0030】
(実施例1)複合材料(X−1)のプレス機を使った曲げ加工
図1に記載の概略断面を有する金型を150℃に加熱し、その一方で70mm(下型の凸部は60mm)に切断した複合材料(X−1)を150℃の金属板上で予熱した。金型の上型(キャビティ側)を外し、複合材料(X−1)を下型(コア側)の上に置き、手で軽く押しつけた後に、その上に上型を置き、プレス成形した。金型が閉じきってすぐに、80℃に設定したプレス機に金型ごと移動し、加圧したまま100℃以下になるまで冷却した。その後に金型を開き、成形品を得た。天面の厚さは0.5mmであり、端部は曲げ加工されており、外観は平滑であった。
【0031】
(実施例2)複合材料(X−2)のプレス機を使った曲げ加工
複合材料(X−1)の代わりに複合材料(X−2)を用いる点を除いては、実施例1と同様に実施し、成形品を得た。天面の厚さは1mmであり、端部は曲げ加工されており、外観は平滑であった。
【0032】
(実施例3)複合材料(X−1)の曲げ加工
複合材料(X−2)を70×25mmに切断し、140℃の金属板上で予熱した。これを軍手で掴んで、曲げ加工機(ミニシャーベンダー MSB−8(株式会社東洋アソシエイツ製))にセットし、直ちに曲げ加工を実施し、成型品を得た。
【0033】
(実施例4〜11)複合材料の曲げ加工
複合材料の種類と加工温度を表1に記載の通りに変更する点を除いては、実施例3と同様に実施し、成型品を得た。
【0034】
(比較例1〜2)複合材料の低温での曲げ加工
複合材料の種類と加工温度を表1に記載の通りに変更する点を除いては、実施例3と同様に実施したが、曲げ加工の際に複合材料が割れてしまい、成型品が得られなかった。
【0035】
(比較例3〜4)複合材料の高温での曲げ加工
複合材料の種類と加工温度を表1に記載の通りに変更する点を除いては、実施例3と同様に実施したが、複合材料が軟らかいため、曲げ加工機に運ぶ際に掴んだ部分の周辺が大きく変形してしまった。曲げ加工は可能なものの、加工部分以外が大きく変形した。
【0036】
【表1】
【0037】
以上から明らかなように、実施例1〜11は、曲げ加工可能であった。特に実施例1〜7は好ましい範囲内のため、加工性や外観が特に優れていた。比較例1〜2は、加工温度が低すぎるために、複合材料の軟化が不十分であり、曲げ加工できずに割れてしまった。比較例3〜4は、加工温度が高すぎるために複合材料が軟らかくなりすぎ取扱い辛かった。
図1