特許第6866894号(P6866894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6866894
(24)【登録日】2021年4月12日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】ε−カプロラクタムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 201/04 20060101AFI20210419BHJP
   C07D 223/10 20060101ALI20210419BHJP
   C01B 39/36 20060101ALI20210419BHJP
   B01J 29/035 20060101ALI20210419BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20210419BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20210419BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   C07D201/04
   C07D223/10
   C01B39/36
   B01J29/035 Z
   C01B37/02
   B01J29/40 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-539654(P2018-539654)
(86)(22)【出願日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2017032205
(87)【国際公開番号】WO2018051869
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2020年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-179279(P2016-179279)
(32)【優先日】2016年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和晃
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宣史
(72)【発明者】
【氏名】関 航平
(72)【発明者】
【氏名】寺森 正志
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓介
【審査官】 進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−533580(JP,A)
【文献】 特開2001−181260(JP,A)
【文献】 特開昭62−123167(JP,A)
【文献】 特表2010−527770(JP,A)
【文献】 特開2013−147356(JP,A)
【文献】 特開2009−190930(JP,A)
【文献】 特開平06−256304(JP,A)
【文献】 特開2009−114219(JP,A)
【文献】 Jounral of the Japan Petroleum Institute,2004年,Vol.47, No.3,pp.190-196,[検索日 2020.12.17], インターネット:<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpi/47/3/47_3_190/_pdf>
【文献】 Netsu Sokutei,1992年,Vol.19, No.2,pp.70-75,[検索日 2020.12.17], インターネット:<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscta1974/19/2/19_2_70/_pdf>
【文献】 New Dev. Zeolite Sci. Technol.,1986年,Vol.28,pp.755-762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 201/04
B01J 29/035
B01J 29/40
C01B 37/02
C01B 39/36
C07D 223/10
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素元素と、マグネシウム元素とを含有するゼオライト触媒の存在下で、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる工程を含み、前記ゼオライト触媒中の前記マグネシウム元素の濃度が質量ppm以上5000質量ppm以下である、ε−カプロラクタムの製造方法。
【請求項2】
下記混合工程を含む方法で前記ゼオライト触媒を製造する工程をさらに含む、請求項1に記載のε−カプロラクタムの製造方法。
混合工程:ゼオライトと、マグネシウム元素を有する化合物を含有する溶液とを混合する工程
【請求項3】
前記ゼオライトがペンタシル型構造である請求項2に記載のε−カプロラクタムの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトがネストシラノールを有するゼオライトであり、前記ネストシラノールを有するゼオライトが下記工程(1)及び下記工程(2)を順に含む方法で製造される、請求項2または3に記載のε−カプロラクタムの製造方法。
工程(1):ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、ケイ素化合物とを含む混合物を反応させて、ゼオライト結晶を得る工程
工程(2):前記ゼオライト結晶を、無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含む水溶液で接触処理する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト触媒の存在下で、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる工程を含むε−カプロラクタムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ε−カプロラクタムの製造方法の1つとして、ゼオライトを触媒として用いて、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、触媒として、アンモニア、低級アルキルアミン、アリルアミン及び水酸化アルキルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種の塩基性物質と、アンモニウム塩との水溶液に、又はアンモニア水に、接触させて得られる固体触媒を用いる方法が提案されている。また、特許文献2には、ゼオライト−触媒に接して、250〜450℃の温度範囲で、気相で、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転移により、ε−カプロラクタムを製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−170732号公報
【特許文献2】特開平9−12540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献に記載の製造方法は、初期の触媒活性が低く、また時間の経過に伴って触媒活性が低下するため、長期間にわたって、シクロヘキサノンオキシムを高転化率で反応させ、ε−カプロラクタムを製造し続けることが難しく、生産性が満足できるものではなかった。
本発明の目的は、初期の触媒活性が高く、且つ長期間にわたって高い触媒活性を維持でき、生産性に優れるε−カプロラクタムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ケイ素元素と、アルカリ土類金属元素及びマグネシウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素とを含有するゼオライト触媒を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、ケイ素元素と、アルカリ土類金属元素及びマグネシウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含有するゼオライト触媒の存在下で、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる工程を含み、前記ゼオライト触媒中の前記アルカリ土類金属元素及びマグネシウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素の濃度が3質量ppm以上10000質量ppm以下である、ε−カプロラクタムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期の触媒活性が高く、且つ長期間にわたって高い触媒活性を維持でき、生産性に優れるε−カプロラクタムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1および比較例1における反応速度定数の変化を示す図である。
図2】ネストシラノールの構造を示す図である。
図3】実施例2〜5および比較例2におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いるゼオライト触媒は、ケイ素元素と、アルカリ土類金属元素及びマグネシウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素(以下、元素Aと称することがある。)とを含有する触媒であって、具体的には、ケイ素元素と酸素元素と元素Aとを含有する触媒である。上記ゼオライト触媒は、上記以外の他の元素を含んでいてもよい。
【0010】
元素Aとしては、カルシウム元素、ストロンチウム元素、バリウム元素等のアルカリ土類金属元素や、マグネシウム元素等が挙げられ、好ましくはマグネシウム元素である。
【0011】
上記ゼオライト触媒中の元素Aの濃度は、3質量ppm以上10000質量ppm以下であり、5質量ppm以上5000質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以上2000質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以上300質量ppm以下であることがさらに好ましく、20質量ppm以上300質量ppm以下であることがよりいっそう好ましい。元素Aの濃度が上記の範囲であるゼオライト触媒を用いることにより、長期間にわたって高い触媒活性を維持し、ε−カプロラクタムを生産性よく製造することができるだけでなく、初期のε−カプロラクタムの選択率をより高くすることができる。ゼオライト触媒中の元素Aの濃度は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES法)又は誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)で測定することができる。ゼオライト触媒中の元素Aの濃度が少量(例えば、10質量ppm以下)の場合は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)で測定することが好ましく、そうでない場合は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES法)で測定することが好ましい。
【0012】
上記ゼオライト触媒の製造方法としては、ゼオライトと、元素Aを有する化合物を含有する溶液とを混合する工程(混合工程)を含む方法等が挙げられる。
【0013】
上記ゼオライトは、その骨格を構成する元素としてケイ素元素と酸素元素を含むものであり、ケイ素元素と酸素元素とから骨格が構成される結晶性シリカであってもよく、骨格を構成する元素としてさらに他の元素(ただし、元素Aを除く)を含む結晶性メタロシリケート等であってもよい。
上記ゼオライトとしては、種々の構造のものが知られているが、中でもペンタシル型構造を有するものが好ましい。ペンタシル型構造としては、ABW、ACO、AEI、AEL、AEN、AET、AFG、AFI、AFN、AFO、AFR、AFS、AFT、AFX、AFY、AHT、ANA、APC、APD、AST、ATN、ATO、ATS、ATT、ATV、AWO、AWW、BEA、BIK、BOG、BPH、BRE、CAN、CAS、CFI、CGF、CGS、CHA、CHI、CLO、CON、CZP、DAC、DDR、DFO、DFT、DOH、DON、EAB、EDI、EMT、EPI、ERI、ESV、EUO、FAU、FER、GIS、GME、GOO、HEU、IFR、ISV、ITE、JBW、KFI、LAU、LEV、LIO、LOS、LOV、LTA、LTL、LTN、MAZ、MEI、MEL、MEP、MER、MFI、MFS、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTT、MTW、MWW、NAT、NES、NON、OFF、OSI、PAR、PAU、PHI、RHO、RON、RSN、RTE、RTH、RUT、SAO、SAT、SBE、SBS、SBT、SFF、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、THO、TON、TSC、VET、VFI、VNI、VSV、WEI、WEN、YUG、ZON構造、またはこれらの2種以上の組み合わせからなる構造が挙げられる。ペンタシル型構造を有するゼオライトとしては、MFI構造を有するものが好ましい。上記ゼオライトの構造は、X線回折装置を用いて分析することができる。
【0014】
上記ゼオライトとして、好ましくは、ネストシラノールを有するゼオライトが好ましい。ネストシラノールとは、主にケイ素元素と酸素元素とで構成されるゼオライト骨格の、T−サイトが欠損することにより、4つのシラノールが隣接して水酸基が互いに水素結合している構造であり、具体的には図2のような構造である。上記ネストシラノールは、赤外線分光スペクトルにおいて3500cm−1近辺にピークとして確認される。上記ネストシラノールを有するゼオライトと、元素Aを有する化合物を含有する溶液と混合することにより、ゼオライト骨格に元素Aが容易に挿入されやすく、より高い活性を持つ触媒を得ることができ、生産性を向上させることができる。
ネストシラノールを有するゼオライトは、特許文献1、特許文献2、特開2013−147356号公報、特開2017−30986号公報等に記載されている方法で製造することができ、例えば、下記工程(1)及び下記工程(2)を順に含む方法で製造することができる。
工程(1):ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、ケイ素化合物とを含む混合物を反応させて、ゼオライト結晶を得る工程
工程(2):前記ゼオライト結晶を、無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含む水溶液で接触処理する工程
【0015】
ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、テトラフルオロホウ酸アンモニウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、テトラエチルホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリメチレン、ホウ酸トリエチル、テトラフルオロホウ酸、トリ−n−ブチルホウ酸、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリエタノールアミン、テトラフルオロホウ酸ニトロシル、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、臭化ゲルマニウム、ヨウ化ゲルマニウム、テトラエチルゲルマニウム、テトラメチルゲルマニウム、テトライソプロポキシゲルマニウムなどが挙げられ、好ましくは、ホウ酸、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、または酸化ゲルマニウムである。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0016】
ケイ素化合物としては、オルトケイ酸テトラアルキル、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルカリ金属のケイ酸塩、マグネシウム、およびアルカリ土類金属のケイ酸塩等が挙げられ、好ましくは、オルトケイ酸テトラアルキルである。
【0017】
ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とケイ素化合物とを含む混合物は、水や構造規定剤、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の塩基性化合物を含んでいてもよい。
構造規定剤とは、ゼオライト構造の形成に利用される有機化合物を意味する。前記構造規定剤は、その周囲にポリケイ酸イオンやポリメタロケイ酸イオンを組織することによりゼオライト構造の前駆体を形成することができる(ゼオライトの科学と工学、講談社サイエンティフィク、2000年、p.33−34を参照)。構造規定剤としては、例えば、水酸化4級アンモニウム、水酸化ナトリウム、ペンタエリスリトール、ジプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンイミン等が挙げられ、水酸化4級アンモニウムが好ましい。
【0018】
水酸化4級アンモニウムとしては、例えば、次の式(I)で示される化合物が挙げられ、水酸化テトラアルキルアンモニウムが好ましい。
OH (I)
(式(I)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立してアルキル基、アルケニル基、アラルキル基又はアリール基を表す。なお、R、R、R、及びRは、互いに同じ基であっても異なる基であってもよい。)
水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチル、水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、水酸化トリ−n−プロピルメチルアンモニウム、水酸化トリ−n−ブチルメチルアンモニウム等が挙げられ、好ましくは水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウムである。
【0019】
ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とケイ素化合物とを含む混合物に含まれるケイ素元素の量は、前記混合物に含まれるホウ素元素およびゲルマニウム元素の合計量1モルに対して、5モル以上100モル以下であることが好ましい。
【0020】
ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とケイ素化合物とを含む混合物を反応させる方法としては、例えば、該混合物を水熱合成反応に付す方法等が挙げられる。水熱合成反応とは、加温および加圧下において化合物を合成する反応、あるいは結晶を成長させる反応である。水熱合成反応に付する際の反応温度は、例えば80℃以上160℃以下であり、反応時間は、例えば1時間以上200時間以下であり、反応時の圧力は、例えば0.1MPa以上5MPa以下である。水熱合成反応の方法は、特に限定されないが、例えば、前記混合物をオートクレーブ等の反応容器に封入し、密閉状態で前記反応温度および前記圧力条件下、撹拌することにより行われる。
ホウ素化合物及びゲルマニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とケイ素化合物とを含む混合物を反応させた後、必要に応じて、濃縮、濾過、デカンテーション等の固液分離、メタノールやエタノール等の有機溶媒や水による洗浄処理、乾燥、焼成等の操作を行うことで、ゼオライト結晶を得ることができる。
焼成は、通常、酸素含有ガス雰囲気下、例えば、空気雰囲気下や空気と窒素との混合ガス雰囲気下に、400℃以上600℃以下の温度で好適に行われる。焼成時間は、例えば0.5時間以上12時間以下である。
【0021】
上記工程(1)で得られたゼオライト結晶中に含まれるケイ素元素の量は、ゼオライト結晶に含まれるホウ素元素およびゲルマニウム元素の合計量1モルに対して、好ましくは5モル以上400モル以下であり、より好ましくは10モル以上400モル以下である。ゼオライト結晶に含まれるホウ素及びゲルマニウム元素の量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により求めることができる。ケイ素元素の量は例えば、ICP発光分析により求めることや、焼成されたゼオライト結晶に含まれる元素の全量から、ケイ素元素以外の元素の含有量を差し引くことにより求めることができる。
【0022】
上記工程(2)で用いる無機酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、クエン酸、蓚酸、テレフタル酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。無機酸および有機酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸としては、無機酸が好ましく、硝酸または塩酸がより好ましく、硝酸がさらに好ましい。
【0023】
無機酸及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含む水溶液に含まれる、無機酸および有機酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸の水素イオン濃度は、好ましくは0.001mol/L以上20mol/L以下である。また、前記水溶液は、前記無機酸および有機酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸の他に、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの塩を含んでいてもよい。該水溶液の使用量は、ゼオライト結晶100重量部に対して、好ましくは80重量部以上5000重量部以下である。
【0024】
上記工程(2)の「ゼオライト結晶を水溶液で接触処理する」とは、該ゼオライト結晶を該水溶液に接触させることを意味する。上記工程(2)によって、ゼオライト結晶に取り込まれている、ホウ素元素やゲルマニウム元素等を除去することができる。接触処理時の温度は、例えば、0℃以上100℃以下であり、接触処理時に作用させる圧力は、例えば、0.1MPa以上5MPa以下であり、接触処理時の処理時間は、例えば、0.1時間以上100時間以下である。また、接触処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中で焼成されたゼオライト結晶を前記水溶液に浸漬して攪拌してもよく、焼成されたゼオライト結晶を充填した管状容器に前記水溶液を流通させてもよい。回分式で行う場合には、後述の固液分離後に、再度、前記接触処理することも可能である。接触処理の回数は、例えば、1回以上10回以下である。
【0025】
接触処理後、必要に応じて、濃縮、濾過、デカンテーション等の固液分離、メタノールやエタノール等の有機溶媒や水による洗浄処理、乾燥等の操作を行うことで、ネストシラノールを有するゼオライトを得ることができる。
【0026】
上記ゼオライト触媒製造時に用いる上記元素Aを有する化合物としては、上記元素Aを有する、ハロゲン化物、オキソ酸塩(硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩等)、有機酸塩(酢酸塩、クエン酸塩等)、酸化物、水酸化物、硫化物、水素化物等が挙げられ、中でも、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、酸化物、又は水酸化物が好ましく、ハロゲン化物、又は硝酸塩がより好ましい。上記元素Aを有するハロゲン化物としては、塩化物が好ましい。上記元素Aを有する化合物は2種以上用いてもよい。
【0027】
マグネシウム元素を有する化合物としては、フッ化マグネシウム(MgF)、塩化マグネシウム(MgCl)、臭化マグネシウム(MgBr)、ヨウ化マグネシウム(MgI)等のハロゲン化マグネシウム;炭酸マグネシウム(MgCO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、亜硫酸マグネシウム(MgSO)、硝酸マグネシウム(Mg(NO)、亜硝酸マグネシウム(Mg(NO)、チオ硫酸マグネシウム(MgS)、ケイ酸マグネシウム(MgO・nSiO、n=1〜4[モル比])、リン酸マグネシウム(MgHPO)、ホウ酸マグネシウム(MgB)等のオキソ酸マグネシウム;酸化マグネシウム(MgO)、過酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))等の酸化物及び水酸化物;酢酸マグネシウム(Mg(CHCOO))、クエン酸マグネシウム等の有機酸マグネシウム;水素化マグネシウム(MgH);硫化マグネシウム(MgS)等が挙げられ、これらの水和物が存在する場合は該水和物を用いてもよい。また、これらの化合物は2種以上用いてもよい。
【0028】
カルシウム元素を有する化合物としては、フッ化カルシウム(CaF)、塩化カルシウム(CaCl)、臭化カルシウム(CaBr)、ヨウ化カルシウム(CaI)などのハロゲン化カルシウム;炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸カルシウム(CaSO)、亜硫酸カルシウム(CaSO)、硝酸カルシウム(Ca(NO)、亜硝酸カルシウム(Ca(NO)、チオ硫酸カルシウム(CaS)、ケイ酸カルシウム(CaO・nSiO、n=1〜4[モル比])、リン酸カルシウム(CaHPO)、ホウ酸カルシウム(CaB)等のオキソ酸カルシウム;酸化カルシウム(CaO)、過酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等の酸化物及び水酸化物;酢酸カルシウム(Ca(CHCOO))、クエン酸カルシウム等の有機酸カルシウム;水素化カルシウム(CaH);硫化カルシウム(CaS)等が挙げられ、これらの水和物が存在する場合は該水和物を用いてもよい。また、これらの化合物は2種以上用いてもよい。
【0029】
ストロンチウム元素を有する化合物としては、フッ化ストロンチウム(SrF)、塩化ストロンチウム(SrCl)、臭化ストロンチウム(SrBr)、ヨウ化ストロチウム(SrI)等のハロゲン化ストロンチウム;炭酸ストロンチウム(SrCO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)、亜硫酸ストロンチウム(SrSO)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、亜硝酸ストロンチウム(Sr(NO)、チオ硫酸ストロンチウム(SrS)、ケイ酸ストロンチウム(SrO・nSiO、n=1〜4[モル比])、リン酸ストロンチウム(SrHPO)、ホウ酸ストロンチウム(SrB)等のオキソ酸ストロンチウム;酸化ストロンチウム(SrO)、過酸化ストロンチウム(SrO)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))等の酸化物及び水酸化物;酢酸ストロンチウム(Sr(CHCOO))、クエン酸ストロンチウム等の有機酸ストロンチウム;水素化ストロンチウム(SrH);硫化ストロンチウム(SrS)等が挙げられ、これらの水和物が存在する場合は該水和物を用いてもよい。また、これらの化合物は2種以上用いてもよい。
【0030】
バリウム元素を有する化合物としては、フッ化バリウム(BaF)、塩化バリウム(BaCl)、臭化バリウム(BaBr)、ヨウ化ストロチウム(BaI)等のハロゲン化バリウム;炭酸バリウム(BaCO)、硫酸バリウム(BaSO)、亜硫酸バリウム(BaSO)、硝酸バリウム(Ba(NO)、亜硝酸バリウム(Ba(NO)、チオ硫酸バリウム(BaS)、ケイ酸バリウム(BaO・nSiO、n=1〜4[モル比])、リン酸バリウム(BaHPO)、ホウ酸バリウム(BaB)等のオキソ酸バリウム;酸化バリウム(BaO)、過酸化バリウム(BaO)、水酸化バリウム(Ba(OH))等の酸化物及び水酸化物;酢酸バリウム(Ba(CHCOO))、クエン酸バリウム等の有機酸バリウム;水素化バリウム(BaH);硫化バリウム(BaS)等が挙げられ、これらの水和物を用いてもよい。また、必要に応じて、それらの2種以上を用いてもよい。
【0031】
元素Aを有する化合物を含有する溶液に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等の有機溶媒や水等が挙げられ、好ましくは水である。
元素Aを有する化合物を含有する溶液の濃度として、好ましくは0.001mmol/L以上1000mmol/L以下であり、より好ましくは0.01mmol/L以上10mmol/L以下である。
上記混合工程時には、アンモニア水溶液を混合させてもよく、生成物に含まれる余剰の元素Aを有する化合物等を除去する目的で、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウムなどのアンモニウム塩を混合させてもよい。上記混合工程時の温度として、好ましくは0℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上100℃以下である。上記混合工程時の圧力として、好ましくは0.1MPa以上5MPa以下である。上記混合工程時の混合時間として、好ましくは、0.1時間以上100時間以下である。上記混合工程は、複数回行ってもよい。
【0032】
上記混合工程後、得られたゼオライト触媒を洗浄する工程(洗浄工程I)を行ってもよい。洗浄工程Iを行うことにより、ゼオライト触媒に含まれる余剰の元素Aおよび元素Aを有する化合物を除去することができる。洗浄工程Iで用いる溶媒としては、メタノール、エタノール等の有機溶媒や、水等が挙げられる。上記洗浄工程I時の温度として、好ましくは0℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上100℃以下である。生成物に含まれる余剰の元素Aおよび元素Aを有する化合物をより効率的に除去できるため、上記洗浄工程I時の温度は高い方が好ましい。上記洗浄工程I時の圧力として、好ましくは0.1MPa以上5MPa以下である。洗浄工程I時の時間として、好ましくは0.1時間以上100時間以下である。洗浄処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中でゼオライト触媒を水等に浸漬して攪拌してもよく、ゼオライト触媒を充填した管状容器に水等を流通させてもよい。回分式の場合、洗浄工程Iを複数回行うことも可能であるが、洗浄工程Iの回数は、1回以上40回以下が好ましい。
【0033】
上記混合工程後、又は、上記混合工程および洗浄工程Iを行った後、得られるゼオライト触媒と酸を含む溶液とを混合する工程(酸処理工程)を行ってもよい。上記酸処理工程を行うことによって、ゼオライト触媒に含まれる余剰の元素Aおよび元素Aを含む化合物を除去することができ、シクロヘキサノンオキシムをより高転化率で反応させ、ε−カプロラクタムをより高選択率で製造することができる。
【0034】
酸を含む溶液としては、無機酸を含む水溶液、有機酸を含む水溶液、又は、無機酸および有機酸を含む水溶液が好ましい。無機酸としては、硝酸、塩酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過塩素酸、臭化水素酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸などが挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2,2−ジメチルプロパン酸、安息香酸、クエン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、メタフタル酸、オルトフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンカルボン酸、メシチレンカルボン酸、フェノール、オルトクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、2,4‐ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、シクロヘキサンスルホン酸、オルトトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、メシチレンスルホン酸などが挙げられる。無機酸および有機酸は、2種以上の酸を併用してもよい。
【0035】
上記酸を含む溶液において、酸の濃度(H濃度)は、上記混合工程で用いた元素Aの量に応じて調整すればよく、例えば、0.001mmol/L以上20mmol/L以下である。また、上記酸を含む溶液の添加量は、上記混合工程で用いた元素Aの量に応じて調整すればよく、例えば、上記混合工程で用いた元素Aの量に対して、0.1倍以上100倍以下等量の酸を含む量が挙げられる。
酸処理工程時の温度は、0℃以上100℃以下が好ましく、酸処理工程時の圧力は、0.1MPa以上5MPa以下が好ましい。酸処理工程時の処理時間は、0.1時間以上100時間以下が好ましい。酸処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中でゼオライト触媒を、上記酸を含む溶液に浸漬して攪拌してもよく、ゼオライト触媒を充填した管状容器に上記酸を含む溶液を流通させてもよい。回分式の場合、分離後、再度酸処理工程を行うことも可能であるが、酸処理工程の回数は、1回以上10回以下であることが好ましい。
【0036】
上記混合工程後、又は上記混合工程と、上記洗浄工程Iおよび上記酸処理工程からなる群より選ばれる少なくとも一つの工程とを行った後、濃縮、ろ過、デカンテーション等で生成物と液とを分離する工程(分離工程)や、ゼオライト触媒を洗浄する工程(洗浄工程II)を行ってもよい。上記分離工程や上記洗浄工程IIを行うことにより、より精製されたゼオライト触媒を得ることができる。上記洗浄工程IIで用いる溶媒は、メタノール、エタノール等の有機溶媒や水等が挙げられる。上記洗浄工程II時の温度として、好ましくは0℃以上100℃以下であり、圧力として、好ましくは0.1MPa以上5MPa以下である。上記洗浄工程II時の時間として、好ましくは0.1時間以上100時間以下である。洗浄処理は、回分式で行ってもよいし、連続式で行ってもよく、例えば、攪拌槽中でゼオライト触媒を水等に浸漬して攪拌してもよく、ゼオライト触媒を充填した管状容器に水等を流通させてもよい。回分式の場合、上記洗浄工程IIを複数回行うことも可能であるが、上記洗浄工程IIの回数は、1回以上10回以下が好ましい。上記分離工程において、ゼオライト触媒と液とが完全に分離している必要はなく、例えば、濃縮、ろ過、デカンテーション等により、ゼオライト触媒と液をある程度分離させた後、適宜乾燥させることでゼオライト触媒を得てもよい。
【0037】
ゼオライト触媒は、固体状であってもスラリー状であってもよい。また、ゼオライト触媒は、担体に担持して使用してもよい。該担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物、並びに、2種類以上の金属酸化物の混合物及び2種類以上の金属の複合酸化物等が挙げられる。
ゼオライト触媒は、使用する反応器等に合わせて、成形して使用してもよい。ゼオライト触媒の成形方法としては、例えば、固体状のゼオライト触媒を圧縮して成形する方法や、スラリー状のゼオライト触媒を噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。また、ゼオライト触媒は、成形させた後、例えば、水蒸気による接触処理を行うことにより、強度を向上させることができる。
【0038】
本発明のε−カプロラクタムの製造方法は、上記ゼオライト触媒の存在下で、シクロヘキサノンオキシムを気相にてベックマン転位反応させる工程を含む方法であり、該工程の前に、上記混合工程を含む方法で上記ゼオライト触媒を製造する工程を行うことが好ましい。上記混合工程を含む方法としては、上記混合工程の後に、上記洗浄工程I、上記酸処理工程、上記分離工程、及び上記洗浄工程IIからなる群より選ばれる少なくとも一つの工程を行う方法が好ましい。
【0039】
ベックマン転位反応における反応温度として、好ましくは250℃以上500℃以下であり、より好ましくは300℃以上450℃以下であり、反応圧力として、好ましくは0.005MPa以上0.5MPa以下であり、より好ましくは0.005MPa以上0.2MPa以下である。ベックマン転位反応は、固定床形式で行ってもよく、流動床形式で行ってもよい。原料のシクロヘキサノンオキシムの供給速度は、触媒1gあたりのシクロヘキサノンオキシムの供給速度(g/h)、すなわち空間速度WHSV(h−1)として、好ましくは0.1h−1以上20h−1以下であり、より好ましくは0.2h−1以上10h−1以下である。
【0040】
シクロヘキサノンオキシムは、例えば、単独で反応系内に導入してもよいし、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスと共に導入してもよい。また、特開平2−250866号公報に記載の如きエーテルを共存させる方法、特開平2−275850号公報に記載の如き低級アルコールを共存させる方法、特開平5−201965号公報に記載の如きアルコール及び/又はエーテルと水を共存させる方法、特開平5−201966号公報に記載の如きアンモニアを共存させる方法、特開平6−107627号公報に記載の如きメチルアミンを共存させる方法等も有効である。
【0041】
シクロヘキサノンオキシムは、例えば、シクロヘキサノンをヒドロキシルアミンまたはその塩でオキシム化することにより調製されたものであってもよく、チタノシリケート等の触媒存在下で、シクロヘキサノンをアンモニアと過酸化水素を用いてアンモオキシム化することにより調製されたものであってもよく、シクロヘキシルアミンを酸化することにより調製されたものであってもよい。
【0042】
またベックマン転位反応は、ゼオライト触媒を空気等の酸素含有ガス雰囲気下に焼成する処理(触媒焼成処理)と組み合わせて実施してもよい。この触媒焼成処理により、触媒上に析出した炭素質物質を燃焼除去することができ、シクロヘキサノンオキシムの転化率やε−カプロラクタムの選択率の持続性を高めることができる。例えば、ベックマン転位反応を固定床式で行う場合には、固体触媒を充填した固定床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給してベックマン転位反応を行った後、シクロヘキサノンオキシムの供給を止め、次いで、酸素含有ガスを供給して焼成を行い、さらに、ベックマン転位反応および焼成を繰り返す処方が、好適に採用される。また、ベックマン転位反応を流動床式で行う場合には、固体触媒が流動した流動床式反応器に、シクロヘキサノンオキシムを必要に応じて他の成分と共に供給してベックマン転位反応を行いながら、該反応器から固体触媒を連続的または断続的に抜き出し、焼成器で焼成してから再び反応器に戻す処方が、好適に採用される。
【0043】
本発明のε−カプロラクタムの製造方法は、上記ベックマン転位反応させる工程を行った後、得られた生成物の後処理を行う工程を含んでいてもよい。後処理の方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、反応生成ガスを冷却して凝縮させた後、抽出、蒸留、晶析等により、ε−カプロラクタムを分離する方法等が挙げられる。
【0044】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、シクロヘキサノンオキシムの空間速度WHSV(h−1)は、シクロヘキサノンオキシムの供給速度(g/h)を触媒重量(g)で除することにより算出した。また、シクロヘキサノンオキシム及びε−カプロラクタムの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率及びε−カプロラクタムの選択率は、供給したシクロヘキサノンオキシムの物質量(mol)をX、未反応のシクロヘキサノンオキシムの物質量(mol)をY、生成したε−カプロラクタムの物質量(mol)をZとして、それぞれ以下の式により算出した。
・シクロヘキサノンオキシムの転化率(%)=[(X−Y)/X]×100
・ε−カプロラクタムの選択率(%)=[Z/(X−Y)]×100
【0045】
<実施例1>
(a)ゼオライト触媒(A)の製造方法
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト20gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液220g、25質量%アンモニア水溶液336g、硝酸マグネシウム六水和物0.0106g、及び臭化テトラプロピルアンモニウム0.0056gの混合液556gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、上記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、硝酸マグネシウム六水和物、及び臭化テトラプロピルアンモニウムの混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(A)を得た。ICP−MS法による分析の結果、ゼオライト触媒(A)中のMgの濃度は170質量ppmであった。
【0046】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(A)0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を327℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。混合物の供給開始より6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:6.5時間))の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析を行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出した。その結果、シクロヘキサノンオキシムの転化率が100.0%であり、ε−カプロラクタムの選択率が95.6%であった。また、シクロヘキサノンオキシムの転化率から反応速度係数を算出した。次いで、触媒層の温度を430℃まで昇温し、同温度で13時間、触媒を空気で焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げ、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を上記と同様の供給速度で反応管に供給し、再び反応を行った。再び混合物の供給を開始してから6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:13時間))の反応ガスを捕集し、同様の操作によりシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出し、シクロヘキサノンオキシムの転化率から反応速度係数を算出した。さらに、触媒層の温度を430℃まで昇温し、同温度で13時間、触媒を空気で焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げ、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を上記と同様の供給速度で反応管に供給し、再び反応を行った。再び混合物の供給を開始してから6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:19.5時間))の反応ガスを捕集し、同様の操作によりシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出し、シクロヘキサノンオキシムの転化率から反応速度係数を算出した。触媒層の温度を430℃へ昇温する工程から、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出する工程までを1つのサイクルとし、該サイクルを繰り返した。各合計反応時間における反応速度係数をプロットした結果を図1に示す。なお、合計反応時間とは、各サイクルにおける混合物の供給開始後から反応ガスを捕集し終えるまでの時間を合計したものであり、触媒層の温度を430℃まで昇温する時間、同温度で13時間空気焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げる時間、およびシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出する時間は含まれない。
【0047】
<実施例2>
(a)ゼオライト触媒(A−2)の製造方法
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト24gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液264g、25質量%アンモニア水溶液403g、硝酸マグネシウム六水和物0.0025g、及び臭化テトラプロピルアンモニウム0.0067gの混合液667gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、上記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、硝酸マグネシウム六水和物、及び臭化テトラプロピルアンモニウムの混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(A−2)を得た。ICP−AES法による分析の結果、ゼオライト触媒(A−2)中のMgの濃度は36質量ppmであった。
【0048】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(A−2)0.375gを、内径1cmの石英ガラス製反応管中に充填して触媒層を形成させ、窒素4.2L/hの流通下、350℃にて1時間予熱処理した。次いで、窒素4.2L/hの流通下、触媒層の温度を327℃に下げた後、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を8.4g/h(シクロヘキサノンオキシムのWHSV=8h−1)の供給速度で反応管に供給し、反応を行った。混合物の供給開始より6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:6.5時間))の反応ガスを捕集し、ガスクロマトグラフィーにより分析を行い、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出した。その結果、シクロヘキサノンオキシムの転化率が100.0%であり、ε−カプロラクタムの選択率が96.1%であった。次いで、触媒層の温度を430℃まで昇温し、同温度で13時間、触媒を空気で焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げ、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を上記と同様の供給速度で反応管に供給し、再び反応を行った。再び混合物の供給を開始してから6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:13時間))の反応ガスを捕集し、同様の操作によりシクロヘキサノンオキシムの転化率を算出した。さらに、触媒層の温度を430℃まで昇温し、同温度で13時間、触媒を空気で焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げ、気化させたシクロヘキサノンオキシム/メタノール=1/1.8(重量比)の混合物を上記と同様の供給速度で反応管に供給し、再び反応を行った。再び混合物の供給を開始してから6時間15分経過後、15分間(供給開始より6時間15分後から6時間30分後(合計反応時間:19.5時間))の反応ガスを捕集し、同様の操作によりシクロヘキサノンオキシムの転化率を算出した。触媒層の温度を430℃へ昇温する工程から、シクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出する工程までを1つのサイクルとし、該サイクルを繰り返した。各合計反応時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率をプロットした結果を図3に示す。なお、合計反応時間とは、各サイクルにおける混合物の供給開始後から反応ガスを捕集し終えるまでの時間を合計したものであり、触媒層の温度を430℃まで昇温する時間、同温度で13時間空気焼成した後、触媒層の温度を327℃に下げる時間、およびシクロヘキサノンオキシムの転化率およびε−カプロラクタムの選択率を算出する時間は含まれない。
【0049】
<実施例3>
(a)ゼオライト触媒(A−3)の製造方法
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト8gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液88g、25質量%アンモニア水溶液134.4g、及び、硝酸マグネシウム六水和物0.1266gの混合液223gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、上記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、及び、硝酸マグネシウム六水和物の混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(A−3)を得た。ICP−AES法による分析の結果、ゼオライト触媒(A−3)中のMgの濃度は4000質量ppmであった。
【0050】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(A−3)を使用したこと以外は、実施例2と同様に反応させた。合計反応時間が6.5時間のとき、シクロヘキサノンオキシムの転化率が100.0%であり、ε−カプロラクタムの選択率が95.0%であった。各合計反応時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率をプロットした結果を図3に示す。
【0051】
<実施例4>
(a)ゼオライト触媒(A−4)の製造方法
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト24gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液264g、25質量%アンモニア水溶液403.2g、及び、臭化テトラプロピルアンモニウム0.0067gの混合液667gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、上記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、及び、臭化テトラプロピルアンモニウムの混合液による処理をさらに1回繰り返すことにより得た固体をオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液264g、25質量%アンモニア水溶液403.2g、臭化テトラプロピルアンモニウム0.0067g、及び、硝酸マグネシウム六水和物0.0013gの混合液223gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対して、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(A−4)を得た。ICP−MS法による分析の結果、ゼオライト触媒(A−4)中のMgの濃度は8.0質量ppmであった。
【0052】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(A−4)を使用したこと以外は、実施例2と同様に反応させた。合計反応時間が6.5時間のとき、シクロヘキサノンオキシムの転化率が100.0%であり、ε−カプロラクタムの選択率が96.0%であった。各合計反応時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率をプロットした結果を図3に示す。
【0053】
<実施例5>
(a)ゼオライト触媒(A−5)の製造方法
[工程(A)]
ガラス製ビーカーにオルトケイ酸テトラエチル[Si(OC]115g、39.7重量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液(0.9重量%カリウム、1.0%臭化水素、58.4重量%水含有)105g、ホウ酸3.4g、水酸化カリウム0.13g及び水118gを入れ、室温にて120分間激しく攪拌し、混合物を得た。得られた混合物に含まれるケイ素元素の量は、前記混合物に含まれるホウ素元素1モルに対して、10.0モルであった。
[工程(B)]
前記工程(A)で得られた混合物をステンレス製オートクレーブに仕込み、140℃にて24時間攪拌し、水熱合成反応を行った。得られた反応混合物を濾過し、洗液のpHが9以下になるまでイオン交換水で複数回洗浄した後、100℃以上で乾燥した。得られた結晶を、530℃にて1時間窒素流通下に焼成した後、530℃にて1時間空気流通下に焼成し、ゼオライト結晶を得た。
[工程(C)]
得られたゼオライト結晶を、10.0gをオートクレーブに入れ、この中に、0.2mol/L硝酸水溶液300gを加えて、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により結晶を分離した。このゼオライト結晶に対し、上記と同様の硝酸水溶液による処理をさらに2回繰り返した後、洗液のpHが5以上になるまでイオン交換水で複数回洗浄し、100℃以上で乾燥して、ゼオライトを得た。
[工程(D)]
前記工程(C)で得られたゼオライト5gをオートクレーブに入れ、この中に、25質量%アンモニア水溶液8.3g、硝酸マグネシウム六水和物0.0156g、及び、水130.7gの混合液139gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対して、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(A−5)を得た。ICP−AES法による分析の結果、ゼオライト触媒(A−5)中のMgの濃度は180質量ppmであった。
【0054】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(A−5)を使用したこと以外は、実施例2と同様に反応させた。合計反応時間が6.5時間のとき、シクロヘキサノンオキシムの転化率が99.7%であり、ε−カプロラクタムの選択率が96.1%であった。各合計反応時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率をプロットした結果を図3に示す。
【0055】
<比較例1>
(a)ゼオライト触媒(B)の製造
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト10gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液110g、25質量%アンモニア水溶液168g、及び、臭化テトラプロピルアンモニウム0.0028gとの混合液278gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体を用いた以外は実施例1と同様にして、ゼオライト触媒(B)を得た。
【0056】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記(a)で得られたゼオライト触媒(B)を用い、実施例1と同様に反応させた。合計反応時間:6.5時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率が100.0%であり、ε−カプロラクタムの選択率が96.2%であった。また各合計反応時間における反応速度係数をプロットした結果を図1に示す。
【0057】
<比較例2>
(a)ゼオライト触媒(B−2)の製造方法
特開2013−147356号公報に記載の方法で製造したゼオライト8gをオートクレーブに入れ、この中に、7.5質量%硝酸アンモニウム水溶液88g、25質量%アンモニア水溶液134.4g、及び、硝酸マグネシウム六水和物0.3799gの混合液223gを加え、90℃にて1時間攪拌した後、濾過により固体を分離した。この固体に対し、上記と同様の硝酸アンモニウム水溶液、アンモニア水溶液、及び、硝酸マグネシウム六水和物の混合液による処理をさらに2回繰り返した後、水洗、乾燥を行い、ゼオライト触媒(B−2)を得た。ICP−AES法による分析の結果、ゼオライト触媒(B−2)中のMgの濃度は17000質量ppmであった。
【0058】
(b)ε−カプロラクタムの製造
上記ゼオライト触媒(B−2)を使用したこと以外は、実施例2と同様に反応させた。合計反応時間が6.5時間のとき、シクロヘキサノンオキシムの転化率が99.9%であり、ε−カプロラクタムの選択率が93.8%であった。各合計反応時間におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率をプロットした結果を図3に示す。
【0059】
実施例1および比較例1における反応速度定数の変化を図1に示した。なお、反応速度定数(s−1)はシクロヘキサノンオキシムの転化率をχ(%)、シクロヘキサノンオキシムの空間速度をWHSV(h−1)として、下記式で求めた。
反応速度定数(s−1)=−ln(1−χ/100)×(WHSV/3600)
ここで、ln(1−χ/100)は(1−χ/100)の自然対数を表す。なお、シクロヘキサノンオキシムの空間速度WHSV(h−1)は、シクロヘキサノンオキシムの供給速度(g/h)を触媒重量(g)で除することにより算出した。
図1の通り、実施例1のゼオライト触媒を用いてε−カプロラクタムを製造した場合、比較例1のゼオライト触媒を用いた時と比較して、初期の反応速度定数が高く、また長時間にわたって高い反応速度係数を維持している。これらの結果より、本発明のε−カプロラクタムの製造方法は、初期の触媒活性が高く、且つ長期間にわたって高い触媒活性を維持できるため、生産性に優れることが分かる。
【0060】
実施例2〜5および比較例2におけるシクロヘキサノンオキシムの転化率の変化を図3に示した。図3の通り、比較例2では合計反応時間が160時間で転化率が99.0%未満まで減少しているのに対して、実施例2〜5では合計反応時間が160時間を越えても99.0%以上の転化率を維持している。このように、実施例2〜5のゼオライト触媒を用いてε−カプロラクタムを製造した場合、比較例2のゼオライト触媒を用いた時と比較して、長時間にわたって高い転化率を維持している。これらの結果より、本発明のε−カプロラクタムの製造方法は、長期間にわたって高い触媒活性を維持できるため、生産性に優れることが分かる。また、特に実施例1、実施例2、実施例4、及び実施例5のゼオライト触媒を用いてε−カプロラクタムを製造した場合、上記生産性に優れることに加えて、初期の選択率も高いことが分かる。
図1
図2
図3