(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成分(A)のエポキシ基のグラム当量数に対する、前記成分(B)の酸基のグラム当量数及び前記成分(D)の酸基のグラム当量数の合計の比率が0.1〜0.5である、請求項9又は10に記載のシートモールディングコンパウンド。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における以下の用語の意味は、以下の通りである。
「25℃において液状」とは、25℃、1気圧の条件下で液体であることを意味する。
「エポキシ樹脂」は、エポキシ基を分子内に2個以上有する化合物である。
「エポキシ当量」は、JIS K−7236:2001に準拠して測定される値であり、例えばエポキシ樹脂中のエポキシ基1つのあたりの分子量に相当する。
「酸無水物基」は、2つの酸基(カルボキシ基等)から1つの水分子が除去された構造を有する基である。
「酸無水物」は、酸無水物基を有する化合物である。
「酸当量」は、例えば化合物中の1つの酸基あたりの分子量に相当する。
「酸価」とは、特に断りのない限り、中和滴定により算出される値である。
「粘度」は、レオメータを用い、測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mmの条件で測定される値である。
「熟成」とは、熱硬化性樹脂組成物の各構成成分の混合物を3〜20日間、15〜80℃の環境下に静置することを意味する。また静置する期間を「熟成期間」と記載し、静置する際の温度を「熟成温度」と記載する。
「熟成粘度」は、特定の予備反応物を含む熱硬化性樹脂組成物について25℃で測定される粘度である。
「溶融粘度」は、特定の予備反応物を含む熱硬化性樹脂組成物が加熱によって溶融している状態で測定される粘度である。
「最低粘度」とは、溶融状態の熱硬化性樹脂組成物の温度の上昇に伴い、溶融粘度が低下から増加に転じる際の変曲点の粘度である。
「硬化開始温度」とは、溶融状態の熱硬化性樹脂組成物の温度の上昇に伴い、溶融粘度が低下から増加に転じる際のSMCの温度である。
「融点」とは、示唆走査熱流計(例えば、TAインスツルメント社製Q1000)で測定される値である。具体的には、例えば、専用のアルミニウムハーメチックパンに測定資料を約3mg封入し、−50℃〜300℃まで昇温速度10℃/minで昇温したデータを取得し、横軸に温度、縦軸に発熱量をプロットし、発熱量のベースラインと、吸熱反応によって生じたピークトップとの変曲点を融点とする。
「バリ」とは、SMCのプレス成形時に上下の金型の隙間からSMCの溶融物が流出し、固化することで成形品(SMCのプレス成形物)の端部に形成される不要部分である。
「室温」とは、25℃を意味する。
数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
<シートモールディングコンパウンド>
本発明のシートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」と記載する。)は、熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束とを含む。SMCはシート状の成形材料であり、熱硬化性樹脂組成物は強化繊維束に含浸している。以下、本発明のSMCの第1の態様、第2の態様について順に説明する。
【0015】
[第1の態様]
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の第1の態様において、熱硬化性樹脂組成物は特定のエポキシ樹脂成分(E)と下記成分(C)とを含む。特定のエポキシ樹脂成分(E)は、下記成分(A)と下記成分(B)との反応生成物(1)を含む。このエポキシ樹脂成分(E)は、下記成分(A)と下記成分(B)の少なくとも一部が反応した予備反応物であるとも言える。また、熱硬化性樹脂組成物は、後述の任意成分をさらに含んでもよい。
成分(A):25℃において液状であるエポキシ樹脂。
成分(B):成分(A)と反応性を有する官能基を持つ重合体。
成分(C):エポキシ硬化剤。
【0016】
エポキシ樹脂成分(E)は、少なくとも反応生成物(1)を含む。反応生成物(1)は、成分(A)、及び成分(A)と反応性を有する官能基を持つ重合体である成分(B)とが反応して生成する反応生成物である。反応生成物(1)としては、例えば、成分(A)におけるエポキシ基の一部と成分(B)の官能基とが反応して生成する反応生成物を挙げることができる。
成分(B)の官能基は、エポキシ基と反応することで、成分(A)と成分(B)とを化学的に結合させることができるものであれば、特に限定されない。成分(B)の官能基としては、例えば、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基等を挙げることができる。
また、成分(A)がエポキシ基以外の官能基を有する場合、成分(B)の官能基は、成分(A)におけるエポキシ基以外の官能基と反応性を有する官能基であってもよい。例えば、成分(A)がビスフェノール型エポキシ樹脂のように水酸基を有する場合は、成分(B)の官能基として、イソシアネート基等の水酸基と反応性を有する官能基を採用できる。
これら成分(B)の官能基は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。ただし、SMCの製造時におけるマトリクス樹脂の強化樹脂への含侵性、含侵後のマトリクス樹脂の増粘性がさらに優れるとともに、製造後のSMCの貯蔵安定性等もさらに優れる傾向にあることから、成分(B)の官能基としては、酸無水物基が好ましい。
【0017】
成分(B)の重合体は、成分(A)と反応性を有する官能基を持つものであれば、特に限定されない。成分(B)の重合体としては、例えば、ビニル系共重合体、ビニルエステル系重合体、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等を挙げることができる。
これら成分(B)の重合体は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。ただし、分子量及び官能基量を幅広く選択することができ、特に酸無水物基の導入が容易であることから、成分(B)の重合体としては、ビニル系共重合体が好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂成分(E)は、前記成分(A)と前記成分(B)と下記成分(D)との反応生成物(2)をさらに含んでもよい。成分(A)と成分(B)と成分(D)とを反応させるときは、反応生成物(1)及び反応生成物(2)の両方が生成する。
成分(D):分子内に1個の酸無水物基を有する液状の単官能酸無水物。
【0019】
エポキシ樹脂成分(E)において、反応生成物(1)及び反応生成物(2)はエポキシ基を有する。反応生成物(1)及び反応生成物(2)のエポキシ基は、成分(A)由来の反応せずに残存したエポキシ基であり、好ましくは、酸無水物基と反応せずに残存したエポキシ基である。
エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量の上限値は500以下が好ましく、400以下がより好ましい。エポキシ当量が好ましくは500以下であると、SMCの成形時に成分(C)と反応しうるエポキシ基が充分に残存し、成形品を得る際の硬化不良が抑制され、SMCが適度なタック性を具備する。このように、エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量が好ましくは500以下であると、本発明のSMCは取扱性に優れる。
【0020】
エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量の下限値は、100以上が好ましく、150以上がより好ましい。エポキシ当量が好ましくは100以上であると、エポキシ樹脂成分(E)に残存するエポキシ基と成分(C)とが反応する時に短時間で強い発熱が生じにくく、硬化反応を穏やかに進行させることができる。その結果、成分(C)とエポキシ基との意図せぬ硬化反応の誘発をさらに抑制できる。このように、エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量が好ましくは100以上であると、SMCが適度なドレープ性を具備しやすく、SMCが取扱性にさらに優れる。
以上から、エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量は、100〜500が好ましく、150〜400がより好ましい。ここで、本明細書におけるエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量は、成分(A)と成分(B)と必要に応じて成分(D)の合計質量[g]をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ基のグラム当量数で除した値とすることができる。
エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ基のグラム当量数は、成分(A)のエポキシ基のグラム当量数から成分(B)と必要に応じて成分(D)の酸基のグラム当量数の合計値を減じた値とすることができる。
【0021】
成分(A)としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、これらのハロゲン置換体等)のグリシジルエーテル;フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノール類のグリシジルエーテル;多価アルコール類(ポリオキシアルキレンビスフェノールA等)のグリシジルエーテル;芳香族アミン類から誘導されるポリグリシジル化合物等が挙げられる。
成分(A)は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、成分(A)は固体のエポキシ樹脂を液体のエポキシ樹脂に溶解又は相溶させることで得られる液状エポキシ樹脂でもよい。
【0022】
成分(A)は、二官能のエポキシ樹脂でもよく、三官能のエポキシ樹脂でもよく、四官能のエポキシ樹脂でもよい。
ここで「二官能のエポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を2つ有する樹脂を意味する。また、「三官能のエポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を3つ有する樹脂を意味する。そして、「四官能のエポキシ樹脂」とは、分子内にエポキシ基を4つ有する樹脂を意味する。
【0023】
二官能のエポキシ樹脂としては、二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。二官能のビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としては、下記のものが挙げられる。
三菱ケミカル社製のjER(登録商標)の825、827、828、828EL、828XA、806、806H、807、4004P、4005P、4007P、4010P、
DIC社製のエピクロン(登録商標)の840、840−S、850、850−S、EXA−850CRP、850−LC、830、830−S、835、EXA−830CRP、EXA−830LVP、EXA−835LV、
新日鉄住金化学社製のエポトート(登録商標)のYD−115、YD−115G、YD−115CA、YD−118T、YD−127、YD−128、YD−128G、YD−128S、YD−128CA、YDF−170、YDF−2001、YDF−2004、YDF−2005RL等。
【0024】
三官能以上のエポキシ樹脂の市販品としては、下記のものが挙げられる。
三菱ケミカル社製のjER(登録商標)の152、154、157S70、1031S、1032H60、604、630、630LSD、
DIC社製のN−730A、N−740、N−770、N−775、N−740−80M、N−770−70M、N−865、N−865−80M、N−660、N−665、N−670、N−673、N−680、N−690、N−695、N−665−EXP、N−672−EXP、N−655−EXP−S、N−662−EXP−S、N−665−EXP−S、N−670−EXP−S、N−685−EXP−S、HP−5000、三菱ガス化学社製のTETRAD−X、TETRAD−C等。
【0025】
成分(A)は、経済性、耐薬品性、耐熱性及び力学物性に優れるため、ビスフェノール型エポキシ樹脂を主成分とすることが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状低粘度であるビスフェノールF型エポキシ樹脂が特に好ましい。また、耐候性及び破壊靭性が向上する点から、脂環式エポキシ樹脂(株式会社ダイセル製のセロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2000、JIANGSU TETRA NEW MATERIAL TECHNOLOGY社製のTTA26等。)を併用することも好ましい。
【0026】
成形品に靭性を付与でき、粘度が低く含浸性に優れることから、多価アルコールのグリシジルエーテル類(例えば三菱ケミカル社製のYED216M等)を成分(A)として配合することも効果的である。
多価アルコールのグリシジルエーテル類は、一般的に水酸基を含有する場合がある。この場合、多価アルコールのグリシジルエーテル類は、硬化性の微調整及び硬化速度の微調整にも用いることができる。
【0027】
成分(A)としてTETRAD−X等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用し、都度配合量を調整する場合、予備反応物としてのエポキシ樹脂成分(E)の反応速度を速めて、以降の経時変化を抑制できる。すなわち、グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量を調整することにより、SMCとしての特性を実質的に悪化させずに、熟成工程に要する時間を短縮しつつ、熟成後の貯蔵安定性に優れるSMCが得られる。
グリシジルアミン系エポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンが好ましい。
【0028】
成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用する場合、グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量は、成分(A)100質量%に対し、1〜30質量%程度が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、3〜15質量%がさらに好ましい。グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量のこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であると、SMCの増粘速度がさらに速くなり、好適な熟成粘度に早期に到達させ、熟成粘度の経時変化が抑制されやすい。グリシジルアミン系エポキシ樹脂の含有量が、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であると、SMC熟成後の経時変化が抑制され、かつ、熟成時の反応熱を時間的に分散できるため、温度上昇を防ぎ副反応の発生を抑制できる。
【0029】
成分(A)として、YED216M等のアルキルアルコールのエポキシ付加物を用いる場合、アルキルアルコールのエポキシ付加物の含有量は、成分(A)100質量%に対し、1〜20質量%程度が好ましく、2〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。アルキルアルコールのエポキシ付加物の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であると、成形品に靭性を付与でき、力学物性がさらに向上する。アルキルアルコールのエポキシ付加物の含有量が、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であると、成形品のTgが極端に低下しにくくなる。
【0030】
成分(A)のエポキシ当量は、エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量が所定の範囲に収まるように調整すればよい。例えば、成分(A)のエポキシ当量の下限値は、100以上が好ましく、150以上がより好ましい。成分(A)のエポキシ当量が好ましくは100以上であると、成分(B)(又は成分(B)及び成分(D)を含む混合物)との予備反応によってエポキシ樹脂成分(E)を得る際に、短時間で強い発熱を生じにくく、穏やかに反応を進行させることができるため、意図せぬ暴走反応を抑制できる。
成分(A)のエポキシ当量の上限値は、500以下が好ましく、450以下がより好ましく、400以下がさらに好ましい。成分(A)のエポキシ当量が前記上限値以下であると、予備反応物としてのエポキシ樹脂成分(E)が、エポキシ硬化剤である成分(C)と反応するのに充分なエポキシ基を有することとなる。
以上から、成分(A)のエポキシ当量は、100〜500が好ましく、150〜450がより好ましく、150〜400がさらに好ましい。成分(A)のエポキシ当量の含有量のこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
成分(A)が複数の構成成分の混合物である場合、成分(A)のエポキシ当量は、各構成成分のエポキシ当量と質量比とを乗じた値の総和として算出される。
【0031】
成分(A)のエポキシ当量をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量で除した値は、0.5以上が好ましく、0.55以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。また成分(A)のエポキシ当量をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量で除した値は、0.95以下が好ましく、0.90以下が好ましく、0.85以下がさらに好ましい。
成分(A)のエポキシ当量をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量で除した値が好ましくは前記下限値以上であると、エポキシ樹脂成分(E)には成形時に作用するに充分なエポキシ基が残存しているため、硬化不良が生じにくく、硬化反応の速度が高くなり、成形時間を充分短くすることができる。また、成分(A)のエポキシ当量をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量で除した値が好ましくは前記上限値以下であると、成分(A)と成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)との反応生成物(すなわち、反応生成物(1)、反応生成物(2))のエポキシ樹脂成分(E)における割合が充分高く、エポキシ樹脂成分(E)の分子量が適正な値となりやすい。さらに、エポキシ樹脂成分(E)のガラス転移温度(℃)(以下、ガラス転移温度(℃)を「Tg」と記載する。)も向上するため、熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度の低下を抑制できる。その結果、SMCの成形時に細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、得られる成形品が力学物性にさらに優れる。
以上から、前記成分(A)のエポキシ当量を前記エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量で除した値は、0.5〜0.95が好ましく、0.55〜0.9がより好ましく、0.6〜0.85がさらに好ましい。これらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
【0032】
成分(B)は、成分(A)と反応性を有する官能基を持つ重合体である。上述のように、成分(B)の官能基としては、アミノ基、イソシアネート基、酸無水物基等が挙げられる。
成分(B)は、ビニル化合物とエチレン性不飽和酸無水物とを共重合させることで得てもよい。ビニル化合物、エチレン性不飽和酸無水物は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
成分(B)は、交互共重合体でもよく、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよく、グラフト共重合体等でもよい。成分(B)は、これらの共重合体から適宜必要な特性を鑑みて選択できる。
【0033】
成分(B)にアミノ基を導入する場合、共重合体成分として、エチレン性不飽和二重結合及びアミノ基(無置換又は置換アミノ基)を有するアミノ基含有ビニル化合物を使用することができる。アミノ基含有ビニル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノメチル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸アミノイソプロピル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルや(メタ)アクリル酸N−(t−ブチル)アミノエチル等のN−アルキルアミノアルキルの(メタ)アクリル酸エステル等の一置換アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル等のN,N−ジアルキルアミノアルキルの(メタ)アクリル酸エステル等の二置換アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;これらアミノ基含有単量体の四級化塩等;p−アミノスチレン等のアミノ基含有スチレン類;3−(ジメチルアミノ)スチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等のジアルキルアミノ基を有するスチレン類;N,N−ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N,N−ジエチルアミノエチルビニルエーテル等のジアルキルアミノアルキルビニルエーテル類;アリルアミン、4−ジイソプロピルアミノ−1−ブテン、トランス−2−ブテン−1,4−ジアミン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。
【0034】
成分(B)にイソシアネート基を導入する場合、共重合体成分として、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のイソシアネート基含有ビニル化合物を使用することができる。
【0035】
成分(B)としては、酸無水物基を有するビニル系共重合体、すなわち、ビニル化合物に基づく単位とエチレン性不飽和酸無水物に基づく単位とを有する共重合体が好ましい。成分(B)は、より好ましくは、分子内に2個以上の酸無水物基を有する共重合体である。
【0036】
酸無水物基を有する成分(B)の一例としては、共重合体成分として無水マレイン酸を用いたものが挙げられる。
酸無水物基を有する成分(B)の市販品として、例えば、スチレン−無水マレイン酸共重合体(CRAY VALLEY社製 SMAシリーズ)、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(Ashland社製 Gantrez ANシリーズ)、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体クロスポリマー(Ashland社製 Stabileze QM)、オレフィン−無水マレイン酸基共重合体(三菱ケミカル社製 ダイヤカルナシリーズ)、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体(Kuraray社製 イソバンシリーズ)、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体(Arkema社製 LOTADERシリーズ、BONDINEシリーズ)等を挙げことができる。ただし、これらの例示は酸無水物基を有する成分(B)の市販品の一例であり、酸無水物基を有する成分(B)の市販品はこれらの例示に限定されない。
【0037】
ビニル化合物は、上記以外のものも適宜使用することができ、特に限定されない。ただし、ビニル化合物として多官能ビニル化合物を用いると、3次元網目構造が形成され、エポキシ樹脂への溶解性、相溶性が極端に悪化するおそれがある。そのため、ビニル化合物としては、単官能のビニル化合物が好ましい。特に、ビニル化合物は、経済性、疎水性及び共重合性の点から、スチレン骨格を有する化合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
エチレン性不飽和酸無水物は、酸無水物骨格にビニル基を有している化合物であれば特に限定されない。エチレン性不飽和酸無水物としては、経済性の点から無水マレイン酸が好ましい。
これらを鑑みて、成分(B)は、スチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
【0038】
SMCとした際の離型性の発現等を考慮する場合、ビニル化合物としてオレフィンを用いることも可能である。ただし、オレフィンが多く含まれるとエポキシ樹脂との相溶性が悪化する可能性があり、またTgが低いと脱水時に加熱温度が上げられず真空乾燥等の設備が必要となり経済性を失う傾向にある。そのため、オレフィンを使用する場合には必要な特性を鑑みて配合比を決定することが好ましい。
【0039】
成分(B)がスチレン−無水マレイン酸共重合体である場合、無水マレイン酸とスチレンの比率(無水マレイン酸/スチレン)は1/8〜1/1が好ましく、1/6〜1/1がより好ましく、1/5〜1/1がさらに好ましい。前記比率が好ましくは1/8〜1/1であると、成分(A)との相溶性に優れ、高いガラス転移点(Tg)を満たし、吸水を抑制できる。前記比率は、必要なSMC特性と吸水性とを鑑みて選択すればよい。例えば、吸水の抑制を重視する場合は、スチレンの割合を増やし、無水マレイン酸とスチレンの比率を1/5〜1/2とすることがより好ましい。
【0040】
成分(B)の酸価は、100〜700mgKOH/gが好ましく、100〜550mgKOH/gがより好ましく、160〜500mgKOH/gがさらに好ましく、160〜450mgKOH/gが特に好ましい。成分(B)の酸価のこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
成分(B)の酸価が好ましくは700以下、より好ましくは550以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは450以下であると、成分(B)がエポキシ樹脂である成分(A)との相溶性に優れる。また、ビニル化合物として分子量が極端に小さい成分を使用しなくてもよくなる。さらに、成分(B)の保管時における吸水量が少なくなり、SMCの製造時に酸無水物基が加水分解することによるSMCの品質低下を防ぐことができ、品質管理が容易である。
一方、酸価が好ましくは100以上、さらに好ましくは160以上である成分(B)は、1分子あたりの酸無水物基の割合が充分であるとともに、その分子量が過度に高くない傾向にある。よって、酸価が100以上である成分(B)を用いて得られるエポキシ樹脂成分(E)によれば、熟成前の熱硬化性樹脂組成物の樹脂粘度が低くなり、SMCの溶融粘度が過度に低下しにくい傾向にある。このように、製造時の含浸性を損なうことなく、溶融粘度の低下が抑制されるため、SMCが溶融した時に熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束とが分離しにくくなる。その結果、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、かつ、バリの発生がさらに少なくなる。
特に、成分(B)が無水マレイン酸に基づく単位を有し、成分(B)の酸価が100〜700mgKOH/gである場合、上述の効果が顕著に得られる。
【0041】
成分(B)の質量平均分子量は、1000〜15000が好ましく、1500〜10000がより好ましい。成分(B)の質量平均分子量のこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
成分(B)の質量平均分子量が好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上であると、成分(B)の分子量分布をシャープにすることができるため、エポキシ樹脂成分(E)の特性の再現性が良好になる傾向にある。
一方、成分(B)の質量平均分子量が好ましくは15000以下、より好ましくは10000以下であると、エポキシ樹脂成分(E)の平均分子量が相対的に低くなり、SMCがタック性及びドレープ性の両方を具備しやすく、プレス成形時の加工性に優れる傾向がある。
【0042】
成分(B)は、好ましくは1分子内に酸無水物基を2個以上有する。成分(B)が1分子内に有する酸無水物基の数は、8〜50個がより好ましく、10〜40個がさらに好ましく、10〜30個が特に好ましい。成分(B)が1分子内に有する酸無水物基の数に関するこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
成分(B)が1分子内に酸無水物基を好ましくは2個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは10個以上有することで、SMCの成形時に溶融粘度の極端な低下を抑制できる。その結果、バリの発生が少なくなり、かつ、熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束とが分離しにくくなり、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、力学物性及び耐熱性に優れる成形品が得られる。
成分(B)が1分子内に有する酸無水物基の数が好ましくは50個以下、より好ましくは40個以下、さらに好ましくは30個以下であると、SMCの製造時に、成分(A)と成分(B)と必要に応じて成分(D)とを配合した直後の混合物(すなわち、後述の熱硬化性樹脂前駆体)の粘度が高くなりにくく、強化繊維への含浸性にさらに優れ、SMCの品質がさらに優れる。
【0043】
成分(B)はSMCの製造に使用する前に、予め脱水して使用することが好ましい。例えば、成分(B)のTgが100℃超である場合、100℃のオーブンで脱水することが好ましい。成分(B)のTgが100℃以下である場合、オーブンの温度を適宜下げ、加熱時間を長くする又は真空下で加熱することで、水分を除去した後に、使用することが好ましい。成分(B)を予め充分に脱水することで、成分(B)の酸無水物基が加水分解してカルボキシル基となりにくく、SMCの製造時に成分(C)と反応しにくい。その結果、SMCの品質の低下が起きにくくなる。
【0044】
成分(D)は分子内に1個の酸無水物基を有する液状の単官能酸無水物である。ここで、「液状」の単官能酸無水物とは、25℃で液状であることを意味する。
成分(D)の具体例としては、1分子中に環状の酸無水物基(−C(O)OC(O)−)を1つだけ有するジカルボン酸化合物等の酸無水物を挙げることができる。
より具体的には、1つの環状酸無水物基を有する化合物としては、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、3−アセトアミドフタル酸無水物、4−ペンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、6−ブロモ−1,2−ジヒドロ−4H−3,1−ベンゾオキサジン−2,4−ジオン、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
液状の単官能酸無水物は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。液状の単官能酸無水物は、液体の単官能酸無水物に固体の単官能酸無水物と溶解させて得てもよい。
【0045】
これらのなかでも、熱硬化性樹脂組成物の増粘安定性、成形品の耐熱性及び機械特性の点から、成分(D)としては、無水フタル酸、水素添加無水フタル酸が好ましい。またこれらの成分(D)は、メチル基等の官能基をさらに有してもよい。ここで、水素添加無水フタル酸は、無水フタル酸のベンゼン環の不飽和炭素結合の一部又は全部が飽和炭素結合に置き換えられた化合物である。
【0046】
成分(A)のエポキシ基のグラム当量数に対する、成分(B)の酸基のグラム当量数の比率は、0.005〜0.08が好ましく、0.010〜0.08がより好ましく、0.012〜0.07がさらに好ましい。当該比率に関するこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
エポキシ樹脂成分(E)において、成分(B)の酸基のグラム当量数は、成分(B)由来の酸無水物基が成分(A)のエポキシ基との反応により形成されるカルボキシル基に基づいて算出できる。同様に、成分(D)の酸基のグラム当量数は、成分(D)由来の酸無水物基が成分(A)のエポキシ基との反応により形成されるカルボキシル基に基づいて算出できる。
成分(B)が複数の構成成分の混合物である場合、成分(B)の酸基のグラム当量数は、各構成成分の酸基のグラム当量数と質量比とを乗じた値の総和として算出される。成分(D)についても同様である。
【0047】
特に、エポキシ樹脂成分(E)が反応生成物(1)と反応生成物(2)とを含む場合、成分(A)のエポキシ基のグラム当量数に対する、成分(B)の酸基のグラム当量数の比率は、0.005〜0.08が好ましく、成分(A)のエポキシ基のグラム当量数に対する、成分(B)の酸基のグラム当量数及び成分(D)の酸基のグラム当量数の合計の比率は、0.1〜0.5が好ましい。この場合、SMCがタック性及びドレープ性の両方にさらに優れ、取扱性がさらに優れる。そして、SMC中の熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度が、適度な数値範囲に収まりやすく、SMC成形時に細かい凹凸等の複雑な形状への強化繊維充填性がさらに向上する。その結果、力学物性にさらに優れ、かつ、成形品内の力学物性斑がさらに少ない成形品が得られる。
【0048】
エポキシ樹脂成分(E)は、少なくとも成分(A)と成分(B)とを反応させて反応生成物(1)を生成させることで得られる。そのため、エポキシ樹脂成分(E)は、反応生成物(1)に加えて、未反応の成分(A)と未反応の成分(B)とをさらに含むことがある。
エポキシ樹脂成分(E)は、成分(A)と成分(B)と成分(D)とを反応させて、反応生成物(1)に加えて反応生成物(2)を生成させることで得てもよい。この場合、エポキシ樹脂成分(E)は、反応生成物(1)及び反応生成物(2)に加えて、未反応の成分(A)と未反応の成分(B)と未反応の成分(D)とをさらに含むことがある。
【0049】
エポキシ樹脂成分(E)は、本発明の効果を損なわない範囲において、成分(A)及び成分(B)に加えて、成分(A)、成分(B)及び成分(D)以外の他の成分と反応させて得てもよい。他の成分を使用してエポキシ樹脂成分(E)を得る場合、エポキシ樹脂成分(E)は、成分(A)、成分(B)及び成分(D)からなる群から選ばれる少なくとも1つと、その他の成分とが反応して生成する反応生成物をさらに含む場合がある。
【0050】
成分(C)は、エポキシ硬化剤である。
成分(C)としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、二級アミン、三級アミン、イミダゾール系化合物、メルカプタン類、ジシアンジアミド等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
SMCの貯蔵安定性及び速硬化性を維持しながら、成形品に優れた靱性及び耐熱性を付与できる点から、硬化剤の融点は180〜300℃が好ましい。融点が180〜300℃である硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール系化合物が好ましい。イミダゾール系化合物の中でも、例えば、耐熱性が高く、貯蔵安定性が良好なことから、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンを好適に使用できる。
【0051】
成分(C)の粒子サイズは、0.1〜10μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
成分(C)の粒子サイズが好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上であるとエポキシ樹脂の接触界面が相対的に小さくなり、プレス成形時の硬化速度の増加が抑えられ、発熱によってさらなる硬化反応が誘発される暴走反応が生じにくくなる。また、SMCを製造した後に貯蔵している間も、硬化反応が進行しにくく、貯蔵安定性に優れる。
成分(C)の粒子サイズが好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下であると、エポキシ樹脂と成分(C)との接触界面が相対的に大きくなり、プレス成形時に充分な硬化速度を維持しやすい。
【0052】
任意成分の具体例としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤、無機質充填材、内部離型剤、界面活性剤、有機顔料、無機顔料、減粘材、表面調整剤、他の樹脂(熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及びエラストマー)等が挙げられる。
【0053】
エポキシ樹脂の硬化促進剤としては、繊維強化複合材料の機械特性(曲げ強度、曲げ弾性率)が高くなる点から、尿素化合物が好ましい。
尿素化合物としては、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエン、1,1’−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(3,3−ジメチル尿素)等が挙げられる。
【0054】
無機質充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、クレー、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、中空ガラスビーズ、エアロジル等が挙げられる。
内部離型剤としては、カルナバワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0055】
SMCが界面活性剤を含む場合、SMCからのキャリアフィルムの離型性がさらに向上し、ボイドの発生を減らすことができる。表面への移行性から液状の界面活性剤が好ましく、更に炭素数12〜18のアルキル鎖を含む液状の界面活性剤がより好ましい。
【0056】
熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及びエラストマーは、エポキシ樹脂組成物の粘弾性を変化させて、エポキシ樹脂組成物の粘度、貯蔵弾性率及びチキソ性を適正化するだけでなく、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靭性を向上させる役割がある。熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー及びエラストマーは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
熱硬化樹脂組成物の熟成粘度及び溶融粘度は、熱硬化性樹脂組成物の硬化特性に応じて、下記の要件(i)〜(iii)を満たすことが好ましい。
具体的には、熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が70℃以上100℃未満である場合、熱硬化性樹脂組成物は下記の要件(i)、(ii)を満たすことが好ましい。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、熱硬化性樹脂組成物は下記の要件(i)〜(iii)のすべてを満たすことが好ましい。
【0058】
要件(i):25℃における熟成粘度が5000〜90000Pa・sである。
要件(ii):70℃における溶融粘度が15Pa・s以上である。
要件(iii):100℃における溶融粘度が1Pa・s以上である。
要件(i)〜(iii)の詳細については、後述の本発明の[第2の態様]の項で詳細に説明する。
【0059】
上記の熱硬化樹脂組成物の熟成粘度及び溶融粘度は、さらに下記の要件(iv)を満たすことがより好ましい。
要件(iv):溶融粘度における最低粘度が0.5Pa・s以上である。
要件(iv)の詳細については、後述の本発明の[第2の態様]の項で詳細に説明する。
【0060】
(熱硬化性樹脂組成物の製造方法)
熱硬化性樹脂組成物は、例えば、少なくとも成分(A)と成分(B)と成分(C)とを混合して熱硬化性樹脂前駆体を調製し、熱硬化性樹脂前駆体において、少なくとも成分(A)と成分(B)とを反応させることで製造できる。熱硬化性樹脂前駆体を熟成させて熱硬化性樹脂組成物としてもよい。
【0061】
熱硬化性樹脂前駆体は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と必要に応じて成分(D)とを同時に混合して調製してもよく、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる群から選択される2種を含む予混合物同士を混合して調製してもよい。
なかでも、成分(A)と成分(C)とを含む予混合物と、成分(B)と成分(D)とを含む予混合物とを混合することが好ましい。その際、成分(B)を成分(D)に予め溶解して使用することが好ましい。
さらに、一般のSMCの製造プロセスに適用する点から、予め成分(B)を成分(D)に溶解させ、成分(B)と成分(D)の混合物を得た後に、成分(A)をさらに配合して予備反応させることでエポキシ樹脂成分(E)を製造することが好ましい。
予め成分(B)を成分(D)に溶解させることで、成分(A)と液液界面で反応が進行するために、短い期間で反応が完結する傾向にある。また、反応が短い期間で進行することで、外部からの水分の影響を受けるリスクを低減できる。
以上より、成分(D)は成分(B)を溶解可能な化合物が好ましい。
【0062】
成分(B)の配合量は成分(A)100質量部に対して、0.3〜15質量部が好ましく、0.7〜15質量部がより好ましく、0.8〜14質量部がさらに好ましい。
成分(B)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上であると、成形時のバリの発生がさらに少なくなり、SMCが強化繊維充填性にさらに優れる。
成分(B)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは15質量部以下、より好ましくは14質量部以下であると、SMCの品質がさらに優れる。
【0063】
成分(C)の配合量は成分(A)100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましく、4〜10質量部がさらに好ましい。
成分(C)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは4質量部以上であると、成形時のバリの発生がさらに少なくなり、SMCが強化繊維充填性にさらに優れる。
成分(C)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下であると、熱硬化性樹脂組成物の強化繊維束に対する含浸性がさらに高くなる。
【0064】
成分(D)を配合する場合、成分(D)の配合量は成分(A)100質量部に対して、5〜20質量部が好ましく、8〜13質量部がより好ましく、9〜12質量部がさらに好ましい。
成分(D)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上であると、増粘後の成形時のバリの発生がさらに少なくなり、SMCが強化繊維充填性にさらに優れる。
成分(D)の配合量が成分(A)100質量部に対して好ましくは20質量部以下、より好ましくは13質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下であると、SMCの品質がさらに優れる。
ここで、成分(B)、成分(C)、成分(D)の成分(A)に対する各配合量に関する上述の下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
【0065】
混合手法としては、一般の機器を用いて混合することが可能である。例えば、らいかい機、アトライタ、プラネタリミキサー、ディゾルバー、三本ロール、ニーダー、万能撹拌機、ホモジナイザー、ホモディスペンサー、ボールミル、ビーズミルが挙げられる。これらは段階的に、2種以上を併用してもよい。なお、選択する手法に応じて、せん断発熱等が生じる場合があるため、温度が過度に上昇しないように適宜冷却等を行っていく必要がある。
【0066】
熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度は、0.15〜15Pa・sが好ましく、0.3〜10Pa・sがより好ましい。熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度に関するこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度が好ましくは0.15Pa・s以上、より好ましくは0.3Pa・s以下であると、熱硬化性樹脂前駆体中に分散している成分(C)が沈降しにくく、またSMCの製造時に成分(C)が強化繊維束の表層側に残りにくくなる。その結果、繊維強化束中に成分(C)を担持させることができ、SMCの製造時に、キャリアフィルム上に熱硬化性樹脂前駆体を製膜する際に、熱硬化性樹脂前駆体のみがレベリングすることを防ぐことができる。
熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度が好ましくは15Pa・s以下、より好ましくは10Pa・s以下であると、SMCの製造時に強化繊維束内に熱硬化性樹脂前駆体が均一に含浸させることができるため、優れたSMC品質を維持できる。
【0067】
熱硬化性樹脂前駆体において、配合された成分(A)と成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)との反応を促進することで熱硬化性樹脂組成物が得られる。
具体的には、例えば、熱硬化性樹脂前駆体を、15〜80℃の温度下で3〜20日間静置することで、成分(A)におけるエポキシ基の一部と成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)の酸無水物基とが反応し、エポキシ樹脂成分(E)が生成し、熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0068】
熟成期間としては、成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)の酸無水物基と成分(A)のエポキシ基の一部が、実使用上問題ない程度まで反応し、熟成粘度が上述の要件(i)に記載の範囲内になるまでの期間でもよい。具体的には、例えば成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)由来の反応性を有する官能基(酸無水物基等)が、反応性を有する官能基の熟成開始時の総量に対して20%程度まで減少していれば実質的に反応が進行していると判断してもよく、以降は熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度で判断できる。
【0069】
熟成温度は用いる成分(C)に応じて適宜決定できる。成分(A)と成分(B)(又は成分(B)と成分(D)との混合物)との反応の進行を過度に抑制しにくく、かつ成分(A)及び予備反応物と成分(C)との意図せぬ反応を抑制する点から15〜50℃の範囲で熟成することが好適である。
熟成が完了したら、冷凍保管することが好ましい。冷凍時の温度は、熱硬化性樹脂組成物のTgから適宜決定できる。例えば、Tgに対して1℃以上減じた温度で冷凍することが好ましく、例えば−10℃以下であれば実質的に経時変化を抑えることができる。
【0070】
(強化繊維束)
SMCにおける強化繊維束は、連続する強化繊維からなる強化繊維束を裁断することで得ることができる。強化繊維束に用いられる強化繊維の種類は、特に限定されない。強化繊維の具体例としては、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が挙げられる。
無機繊維としては、炭素繊維(黒鉛繊維を含む。以下同様)、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられる。無機繊維は表面が金属で被覆された炭素繊維でもよい。
強化繊維としては、無機繊維が好ましい。無機繊維のなかでも、成形品の強度等の機械物性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。
【0071】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。なかでも、圧縮強度に優れ低密度である点から、PAN系炭素繊維が好ましい。これら炭素繊維は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0072】
強化繊維束の繊維長は、5〜120mmが好ましく、10〜80mmがより好ましく、20〜80mmがさらに好ましい。強化繊維束の繊維長に関するこれらの下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
強化繊維束の繊維長が好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上、さらに好ましくは20mm以上であると、SMCを成形して成形品の力学物性が低下する傾向がある。強化繊維束の繊維長が好ましくは120mm以下、より好ましくは80mm以下であると、成形時のSMCの流動性が向上する傾向がある。強化繊維束の繊維長が好ましくは5〜120mm、より好ましくは10〜80mm、さらに好ましくは20〜80mmであると、成形品の力学物及び成形時のSMCの流動性を両立することができ、また成形品内の力学物性斑を抑制できる傾向がある。
【0073】
強化繊維束のフィラメント数は、1000〜30000本が好ましく、1500〜20000本がより好ましい。強化繊維束のフィラメント数に関するこれらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
強化繊維束のフィラメント数が好ましくは1000本以上、より好ましくは1500本以上であると、SMCを製造する際における繊維同士の絡み合いを抑え、SMCの流動性が向上させることができる。強化繊維束のフィラメント数が30000本以下、より好ましくは20000本以下であると、繊維束一つ一つの大きさが充分小さいため、SMCの力学物性のばらつきを低減できる。
また、強化繊維束のフィラメント数は、製造時に用いる強化繊維束のフィラメント数と必ずしも一致している必要はない。製造時の強化繊維束のフィラメント数は、例えば、1000〜100000本の範囲のものを好適に使用できる。具体的には、例えばフィラメント数が30000本超の強化繊維束をインラインでその都度繊維束の分割等を行い使用してもよい。
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、SMCは、繊維長が5mm未満である強化繊維束、繊維長が120mm超である強化繊維束をそれぞれさらに含んでもよく、フィラメント数が1000未満である強化繊維、フィラメント数が30000超である強化繊維をそれぞれさらに含んでもよい。
【0074】
強化繊維束の目付は、100〜3000g/m
2が好ましく、300〜2000g/m
2がより好ましく、500〜2000g/m
2がさらに好ましい。強化繊維束の目付に関するこれらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
裁断した強化繊維束の個数は、4000〜1000000個/m
2が好ましく、10000〜800000個/m
2がさらに好ましい。強化繊維束の目付及び個数が前記範囲内であると、SMCの製造時に熱硬化性樹脂の含浸不良が抑制され、またSMC内部の強化繊維の裁断斑及び散布斑の発生が抑えられる。その結果、成形品内部の力学物性等の品質斑が抑制され、さらに優れた品質のSMC及び成形品が得られる。
【0075】
SMCが炭素繊維束を含む場合、炭素繊維束の割合(炭素繊維含有率)は、SMC100質量%に対して30〜75質量%が好ましく、35〜70質量%がより好ましい。炭素繊維束の割合(炭素繊維含有率)に関するこれらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
炭素繊維含有率が好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上であると、成形品が充分な力学物性を具備し、強度及び弾性にさらに優れる。炭素繊維含有率が好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下であると、炭素繊維束に熱硬化性樹脂組成物を含浸させやすく、またSMCの成形時に良好な流動性を発現しやすく、また成形品の外観不良を抑制しやすい。
【0076】
(SMCの製造方法)
SMCは、熱硬化性樹脂前駆体を、所望の長さに裁断し散布された強化繊維束に含浸させしめた後、熟成させることで予備反応物を含む熱硬化性樹脂を含むSMCを得ることができる。
より具体的には、例えば、熱硬化性樹脂前駆体を製膜したフィルムを2枚用意する。一方のフィルム上に製膜された熱硬化性樹脂前駆体の上に所望の長さに裁断しながら強化繊維束をシート状に散布する。次いで、残るもう1枚のフィルムの熱硬化性樹脂前駆体が、裁断した強化繊維束に接するように貼り合わせ、圧着含浸させる。最後に、熱硬化性樹脂前駆体を熟成させることで予備反応が進行し熱硬化性樹脂を含むSMCが得られる。熱硬化性樹脂前駆体の熟成の詳細及び好ましい態様は、熱硬化性樹脂組成物の製造方法で述べた内容と同様である。
【0077】
(作用効果)
以上説明した本発明の第1の態様のSMCは、特定のエポキシ樹脂成分(E)を含むため、適度なタック性(粘着性)及び適度なドレープ性(柔軟性)の両方を具備し、取扱性に優れる。特に成分(B)が1分子内に酸無水物基を2個以上有する場合は、SMCの溶融粘度の極端な低下が抑制される。よって、溶融樹脂の流出が少なくなり、バリの発生が少なくなる。さらに、熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束との分離が抑制され、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、成形品内部に強化繊維の斑が生じにくくなる。その結果、SMCの強化繊維充填性が良くなり、力学物性及び耐熱性に優れる成形品が得られる。
【0078】
[第2の態様]
本発明の第2の態様のSMCは、熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束とを含む。熱硬化性樹脂組成物及び強化繊維束の詳細及び好ましい態様は、本発明の第1の態様のSMCについて説明した内容と同様である。
【0079】
本発明の第2の態様のSMCにおいて、熱硬化樹脂組成物の熟成粘度及び溶融粘度は、熱硬化性樹脂組成物の硬化特性に応じて、下記の要件(i)〜(iii)を満たす。
すなわち、熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が70℃以上100℃未満である場合、熱硬化性樹脂組成物は下記の要件(i)、(ii)を満たす。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、熱硬化性樹脂組成物は下記の要件(i)〜(iii)のすべてを満たす。
【0080】
要件(i):25℃における熟成粘度が5000〜90000Pa・sである。
要件(ii):70℃における溶融粘度が15Pa・s以上である。
要件(iii):100℃における溶融粘度が1Pa・s以上である。
【0081】
要件(i)について説明する。
本発明の第2の態様のSMCにおいて、熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度は、5000〜90000Pa・sであり、6000〜90000Pa・sが好ましい。熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度が前記数値範囲であるため、SMCは適度なタック性及び適度なドレープ性を具備し、SMCを成形する前にSMCを裁断する場合に加工が容易である。SMCを積層する場合も適度なタック性を具備するため、作業性に優れる。また、SMCをキャリアフィルムから剥がす際に、キャリアフィルムに樹脂が残存しにくく、キャリアフィルムの剥離が容易である。
なお、熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度が低く、5000Pa・s近傍である場合には、界面活性剤を配合することでキャリアフィルムの剥離性を向上させてもよい。熱硬化性樹脂組成物の樹脂粘度に関する上述の下限値及び上限値は、任意に組み合わせることができる。
【0082】
要件(ii)について説明する。
本発明の第2の態様のSMCにおいて、熱硬化性樹脂組成物の70℃における溶融粘度は15Pa・s以上であり、18Pa・s以上が好ましい。70℃における溶融粘度が15Pa・s以上であるため、細かい凹凸等を有する複雑な形状の成形品を製造する際に、溶融状態となった熱硬化性樹脂組成物と強化繊維束との分離を抑制できる。すなわち、成形時に熱硬化性樹脂組成物が強化繊維束から分離しにくく、強化繊維束と一体的にSMC全体が成形による圧力を受けることができる。その結果、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、力学物性及び耐熱性に優れる成形品が得られる。
【0083】
要件(iii)について説明する。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、100℃における溶融粘度は1Pa・s以上であり、1.3Pa・s以上が好ましく、1.5Pa・s以上がより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、本発明の第2の態様のSMCにおいては熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度が要件(ii)及び要件(iii)に規定される下限値以上である。そのため、細かい凹凸等の複雑な形状の成形品を製造する際に、溶融状態となった熱硬化性樹脂と強化繊維束との分離を抑制できる。すなわち、成形時にSMCから熱硬化性樹脂が強化繊維束から分離して流出しにくく、強化繊維束と一体的にSMC全体が成形による圧力を受けることができる。その結果、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、力学物性及び耐熱性に優れる成形品が得られる。
【0084】
本発明の第2の態様のSMCにおいて、熱硬化樹脂組成物の熟成粘度及び溶融粘度は、さらに、下記の要件(iv)を満たすことが好ましい。
要件(iv):溶融粘度における最低粘度が0.5Pa・s以上である。
【0085】
要件(iv)について説明する。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、溶融粘度における最低粘度は0.5Pa・s以上であり、0.55Pa・s以上が好ましく、0.6Pa・s以上がより好ましい。
本発明の第2の態様のSMCにおいては、最低粘度が0.5Pa・s以上であるため、SMCの溶融物が流出しにくく、バリの発生が少なくなる。さらに、硬化開始温度が100℃以上であるような硬化が遅い場合であっても、成形時に過度のバリの発生が少なく、細かい凹凸等の複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、得られる成形品の力学物性を高く維持でき、成形品内の力学物性斑も抑えることができる。
【0086】
(作用効果)
以上説明した本発明の第2の態様のSMCは、熱硬化性樹脂組成物の硬化特性に応じて、上述の要件(i)〜(iii)を満たし、好ましくは上述の要件(i)〜(iv)を満たす。よって、SMCは適度なタック性(粘着性)及び適度なドレープ性(柔軟性)の両方を具備し、SMCの成形作業時の取扱性が良くなる。また、溶融状態のSMCの粘度が特定の値以上であるため、バリの発生が少なく、強化繊維束と熱硬化性樹脂組成物との分離が抑制され、複雑な形状に強化繊維が充分に充填され、強化繊維の斑が生じにくい。その結果、SMCの強化繊維充填性が良くなり、力学物性及び耐熱性に優れる成形品が得られる。
【0087】
<成形品>
本発明の成形品は、上述の本発明のSMCのプレス成形物である。本発明の成形品は、本発明のSMCを加熱加圧成形することで硬化させた硬化物であるとも言える。
本発明のSMCを硬化させる方法としては、本発明のSMCを一枚又は複数枚重ねた積層体を、一対の加熱された金型の間に配置した後、配置したSMCを加圧して、SMC中の熱硬化性樹脂組成物を硬化させる方法が挙げられる。
【0088】
加熱加圧成形する際の温度は、例えば、80〜180℃でもよい。例えば、一般的にエポキシ樹脂は、成形時の温度に依存して成形品のTgが上下することが知られている。また、成形温度が高いほど、SMC中の熱硬化性樹脂組成物の温度が上昇し、熱硬化性樹脂組成物が早期に溶融状態となる。
これらの点から、複雑な形状を成形する場合は、成形時に熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度の過度な低下を防ぎながら、SMCを成形する必要がある。よって、成形温度は成形品に求められるTgと成形形状を鑑みて適宜決定する必要がある。
成形時間は、例えば、0.5分間〜60分間でもよい。成形品の形状及び流動厚み等を鑑みて適宜選択すればよい。
【0089】
本発明の成形品は、本発明のSMCと、一般的な熱硬化性プリプレグ、熱可塑性のプリプレグ;一方向材、織布、不織布等の繊維基材と組み合わせることでも製造できる。特に、本発明のSMCと熱硬化性又は熱可塑性のプリプレグとを同時成形して得られる成形品は、プリプレグ層により優れた力学物性を発現する。加えて、当該成形品にあっては、SMCによってリブ及びボス等の凸部を形成できるため、成形形状の自由度がさらに高くなる。
【0090】
本発明の成形品は、本発明のSMCを表裏層に配置し、その間に例えば、ダンボール等のハニカム構造体を芯材としたり、中空層を設けたり、繊維を含まない樹脂層を配置し、加熱加圧成形して得てもよい。この場合において成形品の軽量度が向上するとともに、成形品が優れた力学物性を発現する傾向にある。
【0091】
(作用効果)
本発明の成形品は、本発明のSMCのプレス成形物であるから、力学物性及び耐熱性に優れる。
【0092】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されない。
【0094】
<各成分>
(成分(A))
・jER828(三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量:186g/eq、25℃における樹脂粘度12Pa・s)
・TETRAD−X(三菱ガス化学社製、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、エポキシ当量:102g/eq、25℃における樹脂粘度2Pa・s)
・YED216M(三菱ケミカル社製、キサンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ当量:150g/eq、25℃における樹脂粘度0.02Pa・s)
・ARUFON UG−4040(東亜合成社製、エポキシ基を有するアクリル系重合体、エポキシ当量:455g/eq、25℃において固体)
【0095】
(成分(B))
・SMA1000(CRAY VALLEY社製、スチレン−マレイン酸共重合体、酸価472mgKOH/g、酸無水物基約23個、質量平均分子量約5500、酸当量119g/eq)
・SMA3000(CRAY VALLEY社製、スチレン−マレイン酸共重合体、酸価280mgKOH/g、酸無水物基約23個、質量平均分子量約9500、酸当量200g/eq)
・SMAEF60(CRAY VALLEY社製、スチレン−マレイン酸共重合体、酸価155mgKOH/g、酸無水物基約16個、質量平均分子量約11500、酸当量362g/eq)
【0096】
(成分(C))
・2MZA−PW((四国化成工業社製、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、融点253℃)
・DICYANEX1400F(エアープロダクツ社製、ジシアンジアミド、融点206℃)
【0097】
(成分(D))
・HN−2200(日立化成社製、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸又は4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、酸当量83g/eq、25℃における粘度0.075Pa・s)
【0098】
<マスターバッチの調製方法>
本実施例では成分(A)と成分(C)との混合物であるマスターバッチ(以下、「MB」と記載する。)を使用した。まず、成分(C)のぞれぞれの成分とjER828とを質量比で1:1に配合した後、遊星式撹拌・脱泡装置MAZERUSTAR(倉敷紡績株式会社製)を用いて予備混合した。次いで、それぞれを三本ロールで混練しMBを得た。
なお、特に断りがない限り、表1〜4に記載の成分(C)は、それぞれjER828とのMBを用いたときの使用量である。また、表1〜4には、MBに含まれる個々の配合量のみを記載した。例えば、jER828を50質量部、DICYANEX1400FとjER828とを質量比で1:1のMBを10部配合した場合は、jER828を55質量部、DICYANEX1400Fを5部と記載した。
【0099】
<成分(B)と成分(D)の混合物の調製方法>
予めを100℃で一昼夜加熱乾燥した後、デシケーター中で室温に放冷した成分(B)のそれぞれの成分と、成分(D)とをフラスコに添加し、混合及び分散を行った。次いで、撹拌を行いながら70℃になるように昇温を行い、70℃到達後は2〜4時間加熱撹拌を継続した。次いで、室温まで冷却し、析出物が無いことを確認し、成分(B)のそれぞれの成分と成分(D)とからなる混合液を得た。その際、フラスコ内の体積変化により外部の水分を引き込まないように、リーク口を除き密閉し、リーク口には塩化カルシウムを詰め水分が吸入しないようにおこなった。
【0100】
<算出方法>
(成分(A)のエポキシ基のグラム当量数)
使用した各成分のエポキシ当量に基づき、配合比を乗じて成分(A)のエポキシ基のグラム当量数(meq)を算出した。
【0101】
(成分(A)のエポキシ当量)
成分(A)のエポキシ基のグラム当量数の逆数に10
5を乗じた値として成分(A)のエポキシ当量(g/eq)を算出した。
【0102】
(成分(B)、成分(D)の酸基のグラム当量数)
使用した各成分の酸当量に基づき、配合比を乗じて算出した。
【0103】
(エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量)
エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ当量(g/eq)は、成分(A)と成分(B)と成分(D)の合計質量(g)をエポキシ樹脂成分(E)のエポキシ基のグラム当量数で除した値として算出した。ここで、エポキシ樹脂成分(E)のエポキシ基のグラム当量数は、成分(A)のエポキシ基のグラム当量数から成分(B)と成分(D)の酸基のグラム当量数の合計値を減じた値として算出した。
【0104】
<測定方法及び評価方法>
(樹脂粘度)
本実施例では樹脂粘度は、成分(A)及び熱硬化性樹脂前駆体について測定した。25℃においてM3ローターを備えるTB−10(東機産業株式会社製)を用いて測定を行ない、得られた粘度値を樹脂粘度とした。ローター回転数は12〜60rpmの範囲で適宜設定した。
【0105】
(熟成粘度及び溶融粘度の測定)
本実施例では熱硬化性樹脂前駆体を25℃で168〜240時間静置させて得られた熱硬化性樹脂組成物について熟成粘度及び溶融粘度を以下の記載にしたがって測定した。
レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、HAAKE MARS40)のプレートを25℃に加温した。温度が25℃で安定したことを確認してから、熱硬化性樹脂をプレート上に配し、ギャップを調整した後、ノーマルフォース値が5N以下になるまで待ち、25℃で10分間の粘度値の測定を行い、安定した時の粘度値を熟成粘度とした。
次いで、25℃から2℃/minで昇温させていき、70℃と100℃における粘度値を各温度における溶融粘度とした。熱硬化性樹脂の硬化反応に伴う粘度上昇が生じた際に、粘度の低下から上昇に転じた際の変曲点における粘度値を溶融粘度における最低粘度とし、その際の温度を硬化開始温度とした。
測定条件は以下の通りである。
測定モード:応力一定、応力値:300Pa、周波数:1.59Hz、プレート径:25mm、プレートタイプ:パラレルプレート、プレートギャップ:0.5mm。
【0106】
(熟成粘度及び溶融粘度の評価)
熟成粘度及び溶融粘度は、以下の記載にしたがって評価した。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が70℃以上100℃未満である場合、以下の要件(i)及び要件(ii)を満たす場合、熟成粘度及び溶融粘度が良好であると判断した。
要件(i):25℃における熟成粘度が5000〜90000Pa・sである。
要件(ii):70℃における溶融粘度が15Pa・s以上である。
熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が100℃以上である場合、上述の要件(i)及び要件(ii)に加えて、要件(iii)を満たす場合、熟成粘度及び溶融粘度が良好であると判断し、要件(iv)をさらに満たす場合、熟成粘度及び溶融粘度が非常に良好であると判断した。
要件(iii):100℃における溶融粘度が1Pa・s以上である。
要件(iv):溶融粘度における最低粘度が0.5Pa・s以上である。
【0107】
(取扱性)
熱硬化性樹脂組成物の取扱性については、下記のタック性評価及び硬さ評価の結果から総合的に判断し、タック性評価及び硬さ評価の結果がAである場合に、熱硬化性樹脂組成物の取扱性が良好であるとした。
SMCの取扱性については、下記のタック性評価及びドレープ性評価の結果から総合的に判断し、タック性評価及びドレープ性評価の結果がAである場合に、SMCの取扱性が良好であるとした。
【0108】
(熱硬化性樹脂組成物のタック性評価)
25℃に静置された熱硬化性樹脂組成物を以下の基準で評価した。
A:手で触ったところ適度なタック性を具備し、手又はスパーチュラで定量分取が可能である。
B:手で触ったところべたつきが強く、手又はスパーチュラで定量分取が不可能である。
【0109】
(熱硬化性樹脂組成物の硬さ評価)
25℃に静置された熱硬化性樹脂組成物を以下の基準で評価した。
A:取り扱う際に適度な柔らかさ又はしなやかさを具備し、手又はスパーチュラで分取が可能である。
B:取り扱う際に剛直であるか又は硬く、手又はスパーチュラで分取が不可能である。
【0110】
(SMCのタック性評価)
25℃に静置されたSMCを以下の基準で評価した。
A:手で触ったところ適度なタック性を具備し、複数枚のSMCを積層する作業が簡便である。
B:手で触ったところべたつきが強く、複数枚のSMCを積層する作業が不可能である。
【0111】
(SMCのドレープ性評価)
25℃に静置されたSMCを以下の基準で評価した。
A:取り扱う際に適度な柔らかさ又はしなやかさを具備し、成形時に刃物で容易に裁断可能である。
B:取り扱う際に剛直であるか又は硬く、成形時に刃物での裁断が不可能であるか又は困難である。
【0112】
(バリ発生率)
下記の平板成形方法に準拠した成形を行い、成形時に金型にチャージしたSMCの質量(Ws)と、成形後のバリを除去した成形品の質量(We)とから、下式で算出される。
(バリ発生率)=(Ws−We)/Ws×100
評価基準は以下とし、A又はBを良好であると判断した。
A:バリ発生率が0.5質量%以上、3質量%未満である。
B:バリ発生率が3質量%以上5質量%未満である。
C:バリ発生率が5質量%以上10質量%未満である。
D:バリ発生率が0.5質量%未満又は10質量%以上である。
【0113】
(平板成形方法)
縦300mm、横300mmの金型に縦280mm、横280mmに裁断したSMCを2ply積層した積層物をチャージし、金型温度150℃、圧力4MPaの条件で5分間加熱圧縮し、300mm角、厚さ約2mmの平板状の成形品を得た。
【0114】
(リブ充填性評価)
縦400mm、横50mmの天面部と、長手方向に続く立面と立面から続く幅10mmのフランジとを備える形状である金型を用意した。金型は前記立面に挟まれた空間(即ち、前記天面の裏面側)の中に、縦方向に55mmピッチ、横方向に15mmピッチに刻まれた高さ10mm、厚み2mmのクロスリブを備える。この金型を用いリブ充填性評価を行った。
次いで、縦390mm、横85mmに裁断したSMCの2plyと、縦390mm、横45mmに裁断したSMCの2plyとを積層した積層物を上述の金型にチャージし、金型温度150℃、圧力4MPaの条件で5分間加熱圧縮し成形品を得た。
成形品の外観から以下のように評価を行い、Aを良好と判断した。
A:成形品に強化繊維の未充填部がなく、リブ部に軽微な繊維未充填部(樹脂リッチ部)がある。
B:成形品に強化繊維の未充填部がなく、リブ部に繊維未充填部(樹脂リッチ部)がある。
C:成形品に強化繊維の未充填部がある。
【0115】
成形品の力学物性の総合評価は、下記の3点曲げ試験と引張試験の結果から以下のように評価を行い、A又はBを良好と判断した。
A:曲げ試験及び引張試験の結果の両方がAである場合。
B:曲げ試験と引張試験のいずれかがAであり、他方がBである場合。
C:曲げ試験と引張試験のいずれかがBであり、他方がB又はCである場合。
D:曲げ試験及び引張試験のいずれもCである場合。
【0116】
(3点曲げ試験)
平板成形方法により得た厚み2mmの成形板を幅25mm、長さ100mm、厚さ約2mmの試験片を12枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン5965)を用い、下記条件にて曲げ強度、曲げ弾性率、曲げ破断伸度を測定し、12枚の平均値を求めた。JIS K 7017に準拠して試験を行った。
測定条件は、クロスヘッドスピードを1mm/分とし、スパン間距離を成形板の厚みに16を乗じた値とした。評価基準は以下の通りである。
A:曲げ強度が450MPa以上であり、曲げ弾性率が30GPa以上である。
B:曲げ強度が350以上450MPa未満であり、曲げ弾性率が25GPa以上30GPa未満である。
C:曲げ強度が350GPa以下であり、曲げ弾性率が25GPa以下である。
【0117】
(引張試験)
平板成形方法により得た厚み2mmの成形板を幅25mm、長さ250mm、厚さ約2mmの試験片を6枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン4482型)を用い、下記条件にて引張強度、引張弾性率を測定し、6枚の平均値を求めた。JIS K 7164に準拠して試験を行った。
評価条件:スパン間距離150mm、歪ゲージKFGS−20−120−C1−11L1M2R(ゲージ長20mm)、データ記録装置:KYOWA EDX100A、クロスヘッドスピード:2mm/分とした。評価基準は以下の通りである。
A:引張強度が300MPa以上であり、引張弾性率が35GPa以上である。
B:引張強度が250以上300MPa未満であり、引張弾性率が30GPa以上35GPa未満である。
C:引張強度が250GPa以下であり、引張弾性率が30GPa以下である。
【0118】
(耐熱性)
平板成形方法により得た厚み2mmの成形品を長さ55mm、幅12.5mmの試験片に切り出し、レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES−RDA)を用いて測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で測定を行った。tanδのピークのトップ(tanδmax)をガラス転移点とした。耐熱性について、下記の基準で評価を行い、A又はBを良好とした。
A:tanδmaxが160℃以上である。
B:tanδmaxが140℃以上160℃未満である。
C:tanδmaxが120℃以上140℃未満である。
D:tanδmaxが120℃未満である。
【0119】
<熱硬化性樹脂組成物の製造及び評価>
(実施例1〜19)
表1〜4に記載の配合量にしたがい、成分(D)に成分(B)を予め溶解させ、成分(B)と成分(D)の混合物を調製した。次いで、室温下において、表1〜4に記載の配合量にしたがい、成分(B)と成分(D)の混合物と、成分(A)と、成分(C)とを配合し、遊星式撹拌・脱泡装置MAZERUSTAR(倉敷紡績株式会社製)で均一に撹拌し、均一の熱硬化性樹脂前駆体を得た。ここで、成分(C)は上述の記載にしたがって予め調整したMBを使用した。得られた各例の熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度を測定した。結果を表5〜8に示す。
次いで、25℃で168時間又は240時間、静置することで、成分(A)と成分(B)及び成分(D)との反応を促進させ、各例の熱硬化性樹脂組成物を得た。ここで、実施例1では熟成期間を10日(240時間)とし、実施例2〜19では熟成期間を7日(168時間)とした。
各例の熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度、溶融粘度、最低粘度及び硬化開始温度を測定し、熱硬化性樹脂組成物の取扱性を評価した。結果を表5〜8に示す。
【0120】
(比較例1〜4)
室温下において、表1に記載の配合量にしたがい、成分(A)と成分(C)と成分(D)を室温で配合した以外は実施例1〜19と同様にして、各例の熱硬化性樹脂前駆体を得た。ただし、成分(A)としてARUFON UG−4040を使用した比較例4では、予め100℃でjER828と加熱溶解させてから、ARUFON UG−4040を使用した。得られた各例の熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度を測定し、表5に記載した。
次いで、25℃で168〜240時間静置することで、成分(A)と成分(D)との反応を促進させ比較例の熱硬化性樹脂組成物を得た。
各例の熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度、溶融粘度、最低粘度及び硬化開始温度を測定し、熱硬化性樹脂組成物の取扱性を評価した。結果を表5に示す。ここで、比較例1では、熱硬化性樹脂組成物の評価において、タック性の評価結果がBであった。そのため、熱硬化性樹脂組成物の熟成粘度のみを測定し、溶融粘度、最低粘度及び硬化開始温度を測定しなかった。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【0127】
【表7】
【0128】
【表8】
【0129】
実施例1では、成分(A)にグリシジルアミン系エポキシ樹脂を用いず、かつ、成分(B)としてスチレン−無水マレイン酸の質量比を1:1で共重合して得られる材料を使用した。熱硬化性樹脂前駆体の熟成期間に10日を必要とした以外、熱硬化性樹脂組成物のタック性及び硬さの評価結果は良好であり、70℃と100℃における溶融粘度と最低粘度はいずれも良好であった。
【0130】
実施例2〜7では、成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用し、かつ、成分(B)と成分(D)の混合物の合計量を増減させて配合した点で実施例1と異なる。実施例2〜7では熟成期間が7日間に短縮された。加えて、熱硬化性樹脂組成物のタック性及び硬さの評価結果はいずれも良好であり、70℃と100℃における溶融粘度と最低粘度がいずれも良好であった。
実施例2〜7の結果より、成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシを併用することで、熟成期間が短縮されることが判る。よって、熟成期間の短縮が必要な場合、グリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用することが有意義であると言える。
【0131】
実施例8、9では、成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂及びヘキサンジオールのエポキシ付加物を併用し、かつ、成分(B)と成分(D)の混合物の配合量を増減させて配合した点で実施例1と異なる。実施例2〜7と同様に熟成期間が実施例1と比較して7日間に短縮された。加えて、得られた熱硬化性樹脂のタック性及び硬さの評価結果はいずれも良好であり、70℃と100℃における溶融粘度と最低粘度がいずれも良好であった。
さらに、実施例8、9では熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度が、実施例2〜7の熱硬化性樹脂前駆体の樹脂粘度より低い値であった。実施例8、9の熱硬化性樹脂前駆体は、実施例2〜7の熱硬化性樹脂前駆体と比較して強化繊維束に対する含浸性にさらに優れると予想される。加えて、高靭性が期待できるヘキサンジオールのエポキシ付加物を併用していることから、得られる成形品の力学物性、特に引張物性の向上が期待される。
【0132】
実施例10〜14では、成分(A)としてグリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用し、成分(B)としてスチレン−無水マレイン酸の質量比を3:1で共重合して得られる材料を使用し、かつ、成分(B)と成分(D)との混合物の合計量を増減させて配合した点で実施例1と異なる。実施例2〜9と同様に、熟成期間が実施例1と比較して7日間に短縮された。加えて、熱硬化性樹脂組成物のタック性及び硬さの評価結果はいずれも良好であり、70℃と100℃における溶融粘度と最低粘度がいずれも良好であった。
実施例10〜14の結果から、成分(B)の各構成成分の1分子あたりに含まれる酸無水物基の個数が互いに近い場合は、より質量平均分子量の高い材料を用いることが、熱硬化性樹脂の70℃及び100℃における溶融粘度及び最低粘度の最小値を高くする点で好ましいことが判る。
【0133】
実施例15〜19では、成分(A)にグリシジルアミン系エポキシ樹脂を併用し、成分(B)としてスチレン−無水マレイン酸の質量比を6:1で共重合して得られる材料を併用し、かつ、成分(B)と成分(D)の混合物の配合量を増減させて配合した点で実施例1と異なる。実施例2〜14と同様に、熟成期間が実施例1と比較して7日間に短縮された。加えて、得られた熱硬化性樹脂のタック性及び硬さの評価結果はいずれも良好であり、70℃と100℃における溶融粘度と最低粘度がいずれも良好であった。
実施例15〜19の結果から、成分(B)に含まれる成分の質量平均分子量が相対的に高くても、1分子あたりに含まれる酸無水物基の個数が多い方が、熱硬化性樹脂の70℃及び100℃における溶融粘度及び最低粘度の最小値を高くする点で好ましいことが判った。
【0134】
比較例1〜3は、成分(B)を用いず成分(D)のみを用い、成分(D)の添加量を増減した例である。比較例1の熱硬化性樹脂組成物は熟成粘度が低く、適度なタック性を具備せず、取扱性が不充分であった。比較例2の熱硬化性樹脂は、適度なタック性及び硬さを具備したが、70℃と100℃における溶融粘度及び最低粘度が基準値より低く、SMCの強化繊維充填性が劣っていた。比較例3の熱硬化性樹脂は、硬さが良好ではなく、取扱性が不充分であった。
【0135】
比較例4では、比較例1〜3に対して成分(A)にエポキシ基を有するアクリル系重合体を用いた点で比較例1〜3と異なる。比較例4の熱硬化性樹脂の熟成粘度は、非常に高く、硬さの評価結果も良好ではなかった。
【0136】
<SMCの製造及び評価>
(実施例1、6、7及び比較例2)
室温下にて、表1〜2に記載の配合量にしたがって熱硬化性樹脂前駆体を製造した後、ドクターブレードを用いて第1のポリエチレン製キャリアフィルム上に360g/m
2となるように塗布した。製膜した熱硬化性樹脂前駆体の上に、フィラメント数が3,000本の炭素繊維束(三菱ケミカル社製、TR50S 3L)を長さ25mmに切断しながら、炭素繊維の目付が1080g/m
2で略均一になり、かつ炭素繊維の繊維方向がランダムになるように散布した。
さらに、同一の熱硬化性樹脂前駆体をドクターブレードを用いて第2のポリエチレン製キャリアフィルム上に厚さ360g/m
2になるように塗布した。次いで、散布した炭素繊維束が熱硬化性樹脂前駆体で挟まれるように、第1のポリエチレン製キャリアフィルム及び第2のポリエチレン製キャリアフィルムを配置してロールの間に通して押圧して、散布した炭素繊維束に熱硬化性樹脂前駆体を含浸させてSMC前駆体を得た。次いでSMC前駆体を25℃にて7〜10日間静置することによって熱硬化性樹脂前駆体中の成分(A)と成分(B)及び(D)又は成分(A)と成分(D)とを反応させ、熱硬化性樹脂組成物を含むSMCを得た。なお、実施例1では熟成期間を10日とし、実施例6、7、比較例2では、熟成期間を7日とした。得られた成形品について、バリ発生率を測定し、3点曲げ試験及び引張試験を行い、リブ充填性及び耐熱性を評価した。結果を表5,6に示す。
ここでバリ発生率は、実施例1では4.5質量%であり、実施例6では3.2質量%であり、実施例7では2.3質量%であり、比較例2では6.2質量%であった。
また、tanδmaxは、実施例1では162℃%であり、実施例7では164℃であり、比較例2では157℃であった。
【0137】
実施例1、6、7及び比較例2で得られたSMCはいずれも適度なタック性及び適度なドレープ性の両方を具備し、取扱性に優れていた。
実施例1、6、7及び比較例2で得られたSMCを用いて、上述の平板成形方法にしたがい厚み2mmの成形板を製造した。その際、バリ発生率を算出し、リブ充填性評価を行った。評価結果は表5、6に示した。
【0138】
実施例1、6、7の成形品は、力学物性及び耐熱性に優れていた。さらに、成形時のバリ発生率及びリブ充填性の評価結果のいずれも良好であった。このように実施例1、6、7のSMCは強化繊維充填性に優れることが判った。
比較例2の成形品は、成形時のバリ発生率及びリブ充填性の評価結果がいずれも良好でなかった。
これらの結果から、成分(B)を用いずに得られる比較例2では、バリの発生が多く、リブ充填率も低いため、SMCの強化繊維充填性が不充分となることが判った。