(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867565
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】雑音低減手法を備えたブレインマシンインターフェースシステム、およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/369 20210101AFI20210419BHJP
A61B 5/24 20210101ALI20210419BHJP
【FI】
A61B5/04 320B
A61B5/04 R
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-215375(P2016-215375)
(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公開番号】特開2018-68886(P2018-68886A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)・平成27年度 国立研究開発法人情報通信研究機構 高度通信・放送研究開発委託研究 大容量体内‐体外無線通信技術及び大規模脳情報処理技術の研究開発とBMIへの応用、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 ・平成27年度 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 脳科学研究戦略推進プログラム BMIを用いた運動・コミュニケーション機能の代替、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】521014962
【氏名又は名称】株式会社JiMED
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 郁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克佳
(72)【発明者】
【氏名】平田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 成司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆文
(72)【発明者】
【氏名】安藤 博士
【審査官】
永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0090756(US,A1)
【文献】
特開昭59−177024(JP,A)
【文献】
特開平05−121977(JP,A)
【文献】
特開2008−237379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04 − 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、 前記生体の脳波信号を取得するN個(Nは2以上)の電極群と、
前記N個の増幅素子群と、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記電極群と前記増幅素子群の電気的接続、および前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
前記N個の電極群を通じて取得された前記生体の脳波信号の少なくとも一つを一つの電極と一つの増幅素子が対応するように前記増幅素子群に入力することにより生成された増幅脳波信号を、前記通信部に無線送信させる通常動作モードと、
前記N個よりも少ないM個の電極群を通じて取得された前記生体の脳波信号の少なくとも一つを一つの電極と複数の増幅素子が対応するように前記増幅素子群に入力し、当該複数の増幅素子からの出力を用いて生成された一つの増幅脳波信号を、前記通信部に無線送信させるノイズ低減動作モードと、
の少なくとも一方を実行する、
体内装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記複数の増幅素子の出力を加算平均することにより、前記増幅脳波信号を取得する、
請求項1に記載の体内装置。
【請求項3】
複数の基準電圧供給源を備えており、
前記制御部は、前記複数の基準電圧供給源のいずれかを切り替え可能に、前記増幅素子群と電気的に接続させる、
請求項1または2に記載の体内装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記体外装置から前記通信部が受信した信号に基づいて、前記通常動作モードと前記ノイズ低減動作モードの選択を行なう、
請求項1から3のいずれか一項に記載の体内装置。
【請求項5】
前記制御部は、取得された前記脳波信号のノイズレベルに基づいて前記通常動作モードと前記ノイズ低減動作モードの選択を自動的に行なう、
請求項1から3のいずれか一項に記載の体内装置。
【請求項6】
生体内に埋め込まれた体内装置を含むブレインマシンインターフェースシステムの制御方法であって、
前記体内装置においてN個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号の少なくとも一つを、一つの電極と一つの増幅素子が対応するように増幅素子群に入力することにより増幅脳波信号を取得する通常動作モードと、
前記体内装置において、前記N個よりも少ないM個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号の少なくとも一つを、一つの電極と複数の増幅素子が対応するように前記増幅素子群に入力し、当該複数の増幅素子からの出力を用いて一つの増幅脳波信号を生成することにより、増幅脳波信号を取得するノイズ低減動作モードと、
の少なくとも一方を前記体内装置の制御部が実行する、
制御方法。
【請求項7】
前記制御部は、前記複数の増幅素子の出力を加算平均することにより、前記増幅脳波信号を取得する、
請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
複数の基準電位供給源のいずれかを切り替え可能に、前記増幅素子群と電気的に接続させる工程を、
前記制御部が行なう、
請求項6または7に記載の制御方法。
【請求項9】
前記制御部による前記通常動作モードと前記ノイズ低減動作モードの選択は、体外装置から無線送信された信号に基づいて行なわれる、
請求項6から8のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項10】
前記制御部による前記通常動作モードと前記ノイズ低減動作モードの選択は、検出された前記脳波信号のノイズレベルに基づいて自動的に行なわれる、
請求項6から8のいずれか一項に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に埋め込まれる体内装置と生体外に配置される体外装置からなるブレインマシンインターフェース(BMI)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
体内装置は、信号源としての脳波を取得することにより脳活動を検出し、当該脳活動に応じた信号や当該信号を加工して得られた信号を体外装置へ送信する。体外装置は、体内装置から受信した信号に応じた動作を行なう。特許文献1に記載された体内装置は、生体内に埋め込まれて脳波を検出する複数の電極を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0049957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋委縮性側索硬化症(ALS)などの患者の脳に上記のような体内装置を埋め込み、当該患者との意思疎通の支援が行なわれている。しかしながら、ALSでは上位運動ニューロンの変性が強い場合、脳波は次第に減弱していく。減弱した脳波信号を適切に取得するためには、体内装置に搭載されている信号増幅素子群の低ノイズ性を、減弱後の脳波信号レベルを見越して設計する必要がある。しかしながら、そのような設計は、増幅回路の大規模化に伴う体内装置の大型化や消費電力の増加に伴う発熱が避けられず、埋め込み型の体内装置としては適切でない。
【0005】
本発明は、疾患の進行に伴って脳波の強度が減弱する患者に対しても、長期間にわたりBMI制御の可能性を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明がとりうる第一の態様は、生体内に埋め込まれるブレインマシンインターフェースシステムの体内装置であって、
前記生体の脳波信号を取得するN個(Nは2以上)の電極群と、
前記N個の増幅素子群と、
体外装置と無線通信を行なう通信部と、
前記電極群と前記増幅素子群の電気的接続、および前記通信部を制御する制御部と、
を備えており、
前記制御部は、
前記N個の電極群を通じて取得された前記生体の脳波信号を、一つの電極と一つの増幅素子が対応するように増幅素子群に入力することにより、前記通信部にN個の増幅脳波信号を無線送信させる通常動作モードと、
前記N個よりも少ないM個の電極群を通じて取得された前記生体の脳波信号を、一つの電極と複数の増幅素子が対応するように前記増幅素子群に入力することにより、前記通信部にM個の増幅脳波信号を無線送信させるノイズ低減動作モードと、
のいずれかを選択的に実行する。
【0007】
上記の目的を達成するために本発明がとりうる第二の態様は、生体内に埋め込まれたブレインマシンインターフェースシステムの体内装置の制御方法であって、
N個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号を、一つの電極と一つの増幅素子が対応するように増幅素子群に入力することにより、N個の増幅脳波信号を出力する通常動作モードと、
前記N個よりも少ないM個の電極群を通じて検出された前記生体の脳波信号を、一つの電極と複数の増幅素子が対応するように前記増幅素子群に入力することにより、M個の増幅脳波信号を出力するノイズ低減動作モードと、
のいずれかを前記ブレインマシンインターフェース装置の制御部が選択的に実行する。
【0008】
上記の構成によれば、通常動作モードにおいては、できる限り多くの(N個の)電極群を用いて患者の脳波信号が取得される。そのため、通信部を通じて体外装置へ入力される増幅脳波信号のチャネル数も最大限とされる。したがって、自由度が高く迅速なBMI制御が可能とされる。
【0009】
脳波が疾患の進行によって減弱する患者の場合、疾患の進行に伴い、取得される脳波信号のSN比は低下する。通常動作モードを通じて取得される脳波信号に基づいては有意なBMI制御の遂行が困難な時期に至ると、制御部によりノイズ低減動作モードが実行されうる。このとき、脳波信号の取得を継続するM個の電極群が、N個の電極群から選定される。
【0010】
ノイズ低減動作モードにおいては、SN比が低下したM個の脳波信号の各々は、複数の増幅素子に入力される。結果として、通常動作モードの場合と比較してノイズが低減されたM個の増幅脳波信号が得られる。使用する電極群の数、すなわちチャネル数が減るため、BMI制御の自由度そのものが低下することは避けられない。しかしながら、従来はノイズに埋もれていた患者の脳波の微弱な変化を識別できる。したがって、疾患の進行に伴って脳波の強度が減弱する患者に対しても、長期間にわたりBMI制御の可能性を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るBMIシステムの機能構成を示す図である。
【
図2】上記BMIシステムの体内装置の一部を示す回路図である。
【
図3】上記体内装置の動作を説明する回路図である。
【
図4】上記体内装置の動作を説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係るBMIシステム100の機能構成を示している。BMIシステム100は、体内装置1と体外装置200を含んでいる。体内装置1は、生体300内(具体的には頭部)に埋め込まれて使用されるように構成されている。体外装置200は、生体300外に配置されて使用されるように構成されている。
【0014】
体内装置1は、N個の電極群2を備えている。以降の説明において、Nは2以上の整数である。電極群2の各々は、生体300の脳における所定の箇所に装着され、当該箇所における脳波信号を取得するように構成されている。
【0015】
体内装置1は、N個の増幅素子群3とマトリクススイッチ4を備えている。増幅素子群3は、マトリクススイッチ4を介して電極群2と電気的に接続されている。増幅素子群3の各々は、入力された信号を増幅して出力するように構成されている。
【0016】
体内装置1は、通信部5を備えている。通信部5は、増幅素子群3の各出力端子と電気的に接続されている。通信部5は、体外装置200と無線通信を遂行可能に構成されている。
【0017】
体内装置1は、制御部6を備えている。制御部6は、マトリクススイッチ4を操作することにより電極群2と増幅素子群3の電気的接続状態を制御可能に構成されている。制御部6は、通信部5の動作も制御可能に構成されている。
【0018】
図2は、体内装置1の一部の具体的な回路構成を示している。N個の電極群2は、電極21、22、23、…、2Nを含んでいる。N個の増幅素子群3は、増幅素子31、32、33、…、3Nを含んでいる。
【0019】
マトリクススイッチ4は、N×N個のスイッチ素子を含んでいる。各スイッチ素子は、図示しない信号線を介して制御部6と電気的に接続されている。これにより、制御部6は、各スイッチ素子の開閉を制御できる。
【0020】
スイッチ素子は、スイッチ素子411、412、413、…、41Nを含んでいる。スイッチ素子411、412、413、…、41Nの各入力端は、電極21と電気的に接続されている。
【0021】
スイッチ素子は、スイッチ素子421、422、423、…、42Nを含んでいる。スイッチ素子421、422、423、…、42Nの各入力端は、電極22と電気的に接続されている。
【0022】
スイッチ素子は、スイッチ素子431、432、433、…、43Nを含んでいる。スイッチ素子431、432、433、…、43Nの各入力端は、電極23と電気的に接続されている。
【0023】
スイッチ素子は、スイッチ素子4N1、4N2、4N3、…、4NNを含んでいる。スイッチ素子4N1、4N2、4N3、…、4NNの各入力端は、電極2Nと電気的に接続されている。
【0024】
スイッチ素子411、421、431、…、4N1の各出力端は、増幅素子31と電気的に出力されている。例えばスイッチ素子4N1が閉じられると、電極2Nにより取得された脳波信号が増幅素子31に入力される。
【0025】
スイッチ素子412、422、432、…、4N2の各出力端は、増幅素子32と電気的に出力されている。例えばスイッチ素子432が閉じられると、電極23により取得された脳波信号が増幅素子32に入力される。
【0026】
スイッチ素子413、423、433、…、4N3の各出力端は、増幅素子33と電気的に出力されている。例えばスイッチ素子423が閉じられると、電極22により取得された脳波信号が増幅素子33に入力される。
【0027】
スイッチ素子41N、42N、43N、…、4NNの各出力端は、増幅素子3Nと電気的に出力されている。例えばスイッチ素子41Nが閉じられると、電極21により取得された脳波信号が増幅素子3Nに入力される。
【0028】
電極群2は、電極2Rを含んでいる。電極2Rを通じて取得された脳波信号は、基準電位信号として増幅素子31、32、…、3Nの各々に入力される。すなわち、電極2Rは、基準電位供給源として使用される。
【0029】
増幅素子31、32、33、…、3Nの各々は、入力された脳波信号と基準電位信号の差分を所定の増幅率で増幅して出力するように構成されている。増幅素子31、32、33、…、3Nの各々により出力された増幅脳波信号は、制御部6に入力される。
【0030】
制御部6は、通常動作モードとノイズ低減動作モードのいずれかを選択的に実行可能に構成されている。
図3は、通常動作モードの実行時におけるマトリクススイッチ4の構成例を示している。
図4は、ノイズ低減動作モードの実行時におけるマトリクススイッチ4の構成例を示している。
【0031】
通常動作モードが実行される場合、制御部6は、N個の電極群2を通じて取得された生体300の脳波信号を、一つの電極と一つの増幅素子が対応するようにN個の増幅素子群3に入力させる。
【0032】
例えば
図3に示されるように、制御部6は、スイッチ素子411、422、433、…、4NNを閉じるようにマトリクススイッチ4を制御する。これにより、電極21を通じて取得された脳波信号は、増幅素子31に入力される。同様に、電極22を通じて取得された脳波信号は増幅素子32に入力され、電極23を通じて取得された脳波信号は増幅素子33に入力され、電極2Nを通じて取得された脳波信号は増幅素子3Nに入力される。
【0033】
結果として、増幅素子31、32、33、…、3Nより出力されたN個の増幅脳波信号が、制御部6に入力される。制御部6は、入力されたN個の増幅脳波信号をそのまま通信部5に中継する。その後、制御部6は、所定のタイミングで当該N個の増幅脳波信号を通信部5に無線送信させる。無線送信された増幅脳波信号は、体外装置200により受信される。体外装置200は、受信した増幅脳波信号に応じた動作を行なう。
【0034】
体外装置200は、体内装置1より送信された信号を受信し、当該信号に基づく動作を実行する装置と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、体外装置200は、体内装置1より送信された信号を受信し、当該信号に基づく動作を別の外部機器に実行させる制御信号を送信する装置であってもよい。
【0035】
ノイズ低減動作モードが実行される場合、制御部6は、N個よりも少ないM個の電極群2を通じて取得された生体300の脳波信号を、一つの電極と複数の増幅素子が対応するように増幅素子群3に入力させる。
【0036】
例えば、
図4に示されるように、制御部6は、スイッチ素子412、412、433、…、43Nを閉じるようにマトリクススイッチ4を制御する。これにより、電極21を通じて取得された脳波信号は、増幅素子31と増幅素子32に並列入力される。同様に、電極23を通じて取得された脳波信号は、増幅素子33と増幅素子3Nを含む増幅素子群に並列入力される。すなわち、本例においてMは2である。
【0037】
次に制御部6は、M個の電極群の各々に対応付けられた複数の増幅素子から出力された増幅脳波信号を加算平均する処理を行なう。本例においては、電極21に対応付けられた増幅素子31と増幅素子32から出力された増幅脳波信号を加算平均する。同様に、電極23に対応付けられた増幅素子33と増幅素子3Nを含む増幅素子群から出力された増幅脳波信号を加算平均する。結果として、制御部6は、M個(本例では2個)の加算平均された増幅脳波信号を取得する。
【0038】
ノイズを伴う信号をn個の増幅素子に入力し、当該n個の増幅素子から出力されたn個の増幅信号を加算平均すると、得られる信号におけるノイズは、加算平均を経ていない信号のノイズと比較して1/√nに低減されることが知られている。したがって、本例の場合、増幅素子31と増幅素子32から出力された増幅脳波信号を加算平均することにより、ノイズを1/√2に低減できる。同様に、増幅素子33と増幅素子3Nを含む増幅素子群の数がm個の場合、当該増幅素子群から出力された増幅脳波信号を加算平均することにより、ノイズを1/√mに低減できる。
【0039】
制御部6は、ノイズが低減されたM個の増幅脳波信号を通信部5に中継する。その後、制御部6は、所定のタイミングで当該M個の増幅脳波信号を通信部5に無線送信させる。無線送信された増幅脳波信号は、体外装置200により受信される。体外装置200は、受信した増幅脳波信号に応じた動作を行なう。
【0040】
次に、このような構成を有する体内装置1の運用方法について説明する。生体300として、脳波が疾患の進行によって減弱する患者を想定する。疾患の例としてはALSが挙げられる。体内装置1は、当該患者との意思疎通が十分に行なえる段階で当該患者の頭部に埋め込まれる。
【0041】
制御部6は、まず通常動作モードを実行する。この動作モードにおいては、できる限り多くの(N個の)電極群2を用いて患者の脳波信号が取得されるため、通信部5を通じて体外装置200へ入力される増幅脳波信号のチャネル数も最大限とされる。したがって、自由度が高く迅速なBMI制御が可能とされる。
【0042】
疾患の進行に伴い、患者の脳波は減弱し、取得される脳波信号のSN比は低下する。通常動作モードを通じて取得される脳波信号に基づいては有意なBMI制御の遂行が困難であると判断されると、制御部6によりノイズ低減動作モードが実行される。
【0043】
具体的には、脳波信号の取得を継続するM個の電極群2が、N個の電極群2から選定される。M個の電極群2は、通常動作モードで行なわれたBMI制御の観察などを通じて、有意なBMI制御を行なうために優先度のより高い電極群として選定される。選定されるM個の電極群は、患者ごとに異なりうる。選定されたM個の電極群2を指定する信号は、体外装置200から無線送信され、通信部5によって受信される。制御部6は、通信部5が受信した信号に基づいて、マトリクススイッチ4の操作を行なう。
【0044】
SN比が低下したM個の脳波信号の各々は、複数の増幅素子に入力される。当該複数の増幅素子から出力された増幅脳波信号は、加算平均される。結果として、通常動作モードの場合と比較してノイズが低減されたM個の増幅脳波信号が得られる。使用する電極群2の数、すなわちチャネル数が減るため、BMI制御の自由度そのものが低下することは避けられない。しかしながら、従来はノイズに埋もれていた患者の脳波の微弱な変化を識別できる。したがって、疾患の進行に伴って脳波の強度が減弱する患者に対しても、長期間にわたりBMI制御の可能性を提供できる。
【0045】
本実施形態において、制御部6の機能は、通信可能に接続されたプロセッサとメモリの協働により実行されるソフトウェアにより実現されている。プロセッサの例としては、CPUやMPUが挙げられる。メモリの例としては、RAMやROMが挙げられる。しかしながら、制御部6の機能は、ASICやFPGAなどのハードウェアにより、またはハードウェアとソフトウェアの組合せにより実現されうる。
【0046】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の各実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。また、等価物が本発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
【0047】
上記の実施形態においては、電極2Rにより取得された脳波信号が、基準電位信号として増幅素子群3の各々に入力される。しかしながら、
図5に示されるように、二つの電極2R1、2R2(複数の基準電位供給源の一例)のいずれかが、切り替え可能に増幅素子群3と電気的に接続される構成が採用されうる。切り替え可能とされる電極の数は、三つ以上でもよい。
【0048】
体内装置1は、生体300に埋め込まれて使用されるため、運用を開始すると容易に取り出すことができない。上記の構成によれば、当初の基準電位供給源として使用される電極2R1に何らかの不具合が生じたとしても、基準電圧の供給源を別の電極2R2に切り替えることにより、増幅素子群3を動作させ続けることができる。これにより、生体300に負担を与える体内装置1の交換機会を減らし、長期間にわたるBMI制御の可能性を提供できる。
【0049】
図6に示されるように、前述した電極2R1と電極2R2間の切り替え機能をより一般化したマトリクススイッチ4Rを備える構成も採用されうる。マトリクススイッチ4Rは、L×N個のスイッチ素子(11R、12R、…LNR)を含んでいる。LはN以下の整数である。電極群2は、L個の電極2R1、2R2、2R3、…、2RLを含んでいる。
【0050】
電極2R1〜2RLのいずれかに入力端が接続された全てのスイッチ素子(例えば電極2R3に接続されているスイッチ素子31R〜3NR)を閉じることにより、電極2R3を通じて入力される電位が基準電位あるいは差動入力として増幅素子31〜31Nに入力される。
【0051】
あるいは、マトリクススイッチ4に含まれるスイッチ素子411〜4NNとマトリクススイッチ4Rに含まれるスイッチ素子11R〜LNRのうち、任意の組合せのスイッチ素子を閉じることにより、電極21〜2Nのいずれかにより取得された脳波信号と電極2R1〜2RLのいずれかより取得された基準電位あるいは差動入力を、増幅素子31〜3Nのうち任意のものに入力させることができる。
【0052】
基準電位供給源の切り替えは、体外装置200から無線送信された切替信号を通信部5が受信し、受信された信号に基づいて制御部6により実行されうる。あるいは、当初の基準電位供給源の故障を制御部6が検出し、基準電位供給源の切り替えが制御部6により自動的に行なわれる構成も採用されうる。
【0053】
上記の実施形態におけるマトリクススイッチ4に代えて、体内装置1は、
図7の(A)に示される梯子型スイッチ回路網7を備えてもよい。本例においては、電極群2の一部として電極21〜26、増幅素子群3の一部として増幅素子31〜36、梯子型スイッチ回路網7の一部として、スイッチ素子71〜76、712〜756が図示されている。
【0054】
スイッチ素子71の入力端は、電極21に接続されている。スイッチ素子71の出力端は、増幅素子31に接続されている。スイッチ素子712は、隣接するスイッチ素子71とスイッチ素子72の出力端同士を接続可能とされている。同様に、nを任意の整数とした場合、スイッチ素子7nの入力端は電極2nに接続され、スイッチ素子7nの出力端は増幅素子3nに接続される。また、スイッチ素子7n(n+1)は、スイッチ素子7nの出力端とスイッチ素子7(n+1)の出力端同士を接続する。
【0055】
図7の(B)は、このように構成された梯子型スイッチ回路網7の動作の一例を示している。スイッチ素子71、712、723が閉じられることにより、電極21により取得された脳波信号が増幅素子31、32、33に入力されている。同様に、スイッチ素子75、745、756が閉じられることにより、電極25により取得された脳波信号が増幅素子34、35、36に入力されている。
【0056】
上記の実施形態においては、通常動作モードとノイズ低減動作モードの選択は、体外装置200から通信部5が受信した信号に基づいて、制御部6により行なわれる。しかしながら、体内装置1は、電極群2により取得された脳波信号のノイズレベルを検出するように構成されうる。この場合、制御部6は、検出されたノイズレベルに基づいて、通常動作モードで有意なBMI制御を行なえるかを判断する。通常動作モードでは有意なBMI制御を行なえないと判断されると、制御部6は、ノイズ低減動作モードを自動的に選択する。
【符号の説明】
【0057】
1:体内装置、2:電極群、3:増幅素子群、5:通信部、6:制御部、100:BMIシステム、200:体外装置、300:生体