(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867575
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、バックグラインドフィルム、およびそれらの硬化物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20210419BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20210419BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20210419BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20210419BHJP
C08K 5/55 20060101ALI20210419BHJP
C09J 7/00 20180101ALI20210419BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20210419BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20210419BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20210419BHJP
C09J 161/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
C08L33/00
C08L61/06
C08L63/00 A
C08K5/55
C09J7/00
C09J133/00
C09J163/00
C09J11/06
C09J161/04
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-102366(P2017-102366)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2018-197298(P2018-197298A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】寺木 慎
【審査官】
工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/035350(WO,A1)
【文献】
特開2017−050321(JP,A)
【文献】
特開2006−233084(JP,A)
【文献】
特開2015−129226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C08L 1/00−101/16
C09J 1/00−199/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移点(Tg)が80℃以下であり、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、
(B)エポキシ樹脂、および
(C)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
を含み、硬化後のポリエチレンテレフタレートフィルムとのシェア強度が、10N以上であることを特徴とする、バックグラインドフィルム。
【請求項2】
さらに、(D)フェノール樹脂を含む、請求項1記載のバックグラインドフィルム。
【請求項3】
(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、5〜50質量部である、請求項1または2記載のバックグラインドフィルム。
【請求項4】
(A)成分のエポキシ樹脂と反応する官能基が、水酸基を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載のバックグラインドフィルム。
【請求項5】
(A)成分の水酸基価が、1〜30[mg/KOH]である、請求項4記載のバックグラインドフィルム。
【請求項6】
(A)成分の質量平均分子量(Mw)が、300,000〜800,000である、請求項1〜5のいずれか1項記載のバックグラインドフィルム。
【請求項7】
(D)成分が、テルペンフェノール樹脂である、請求項2〜6のいずれか1項記載のバックグラインドフィルム。
【請求項8】
(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、10〜35質量部である、請求項2〜7のいずれか1項記載のバックグラインドフィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のバックグラインドフィルムの硬化物。
【請求項10】
請求項9記載の硬化物を除去する工程を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、バックグラインドフィルム、およびそれらの硬化物に関する。特に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)工程におけるシリコンウエハのバックグラインドフィルム(バックグラインドの接着フィルム)に好適な樹脂組成物、バックグラインドフィルム、およびそれらの硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンなどの半導体基板上や、ガラスなどの絶縁体基板上、または金属基板上などに、微細な構造を作製するための技術として、MEMSが、検討されている。このMEMSの製造工程には、通常、バックグラインドフィルムに貼り付けられた加工済シリコンウエハの厚さを薄くするために、加工済シリコンウエハをバックグラインドした後、バックグラインドフィルムを剥がす工程が含まれる。
【0003】
ここで、バックグラインドフィルムとして使用可能なものとして、橋架環式炭化水素基を有する橋架環式アクリレート(A)と極性基を有する非橋架環式ビニル系化合物(B)と多官能ビニル系化合物(C)とを重合成分として含むビニル系共重合体を含む接着剤であって、前記多官能ビニル系化合物(C)のラジカル重合性基の合計モル数が、橋架環式アクリレート(A)のラジカル重合性基及び非橋架環式ビニル系化合物(B)のラジカル重合性基の合計100モルに対して1〜7モルである接着剤(特許文献1)や、橋架環式炭化水素基を有する橋架環式メタクリレート(A1)と橋架環式炭化水素基を有する橋架環式アクリレート(A2)と極性基を有する非橋架環式ビニル系化合物(A3)とを重合成分として含むビニル系共重合体(特許文献2)が、報告されている。
【0004】
しかしながら、これらの接着剤やビニル系共重合体は、シリコンウエハから剥離するときに160℃(特許文献1の第0079段落)や、160℃以上(特許文献2の第0074段落)の加熱をしているが、加熱した後も接着力が完全にはなくならないため、剥離時にシリコンウエハに応力がかかってしまう、という問題がある。
【0005】
これに対して、一方の面に接着剤層を介して基板の回路形成面が貼り合わされ、その中央付近において、厚み方向に形成された複数の第1の貫通孔と、前記接着剤層と接する前記一方の面に形成された前記第1の貫通孔に連通する溝と、その周縁部において、厚み方向に形成された前記溝に連通する複数の第2の貫通孔とを有するサポートプレートを用いた基板の薄板化方法であって、前記基板の回路形成面に、前記サポートプレートの溝が形成された一方の面を貼り合わせて積層体を形成する工程と、前記積層体において、前記サポートプレートの他方の面にシートを貼り合わせる工程と、前記シートを介して前記積層体が固定された状態で、前記基板の回路形成面とは反対側の面を研削する工程とを有することを特徴とする基板の薄板化方法(特許文献3)が、報告されている。
【0006】
この基板の薄板化方法によれば、シートを溶解することができるため、シートの剥離時にシリコンウエハに応力がかからない。
【0007】
しかしながら、この基板の薄板化方法に適した接着剤層は、いまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−074128号公報
【特許文献2】特開2014−074129号公報
【特許文献3】特開2007−073798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、溶剤で溶解可能で、シェア強度が高いバックグラインドフィルムを作製することができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した樹脂組成物、バックグラインドフィルム、硬化物、半導体素子の製造方法に関する。
〔1〕(A)ガラス転移点(Tg)が80℃以下であり、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、
(B)エポキシ樹脂、および
(C)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
を含み、硬化後のポリエチレンテレフタレートフィルムとのシェア強度が、10N以上であることを特徴とする、樹脂組成物。
〔2〕さらに、(D)フェノール樹脂を含む、上記〔1〕記載の樹脂組成物。
〔3〕(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、5〜50質量部である、上記〔1〕または〔2〕記載の樹脂組成物。
〔4〕(A)成分のエポキシ樹脂と反応する官能基が、水酸基を有する、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔5〕(A)成分の水酸基価が、1〜30[mg/KOH]である、上記〔4〕記載の樹脂組成物。
〔6〕(A)成分の質量平均分子量(Mw)が、300,000〜800,000である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔7〕(D)成分が、テルペンフェノール樹脂である、上記〔2〕〜〔6〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔8〕(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、10〜35質量部である、上記〔2〕〜〔7〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の樹脂組成物を含む、バックグラインドフィルム。
〔10〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物、または上記〔9〕記載のバックグラインドフィルムの硬化物。
〔11〕上記〔10〕記載の硬化物を除去する工程を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明〔1〕によれば、溶剤で溶解可能で、シェア強度が高いバックグラインドフィルムを作製することができる樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明〔10〕によれば、溶剤で溶解可能で、シェア強度が高いバックグラインドフィルムを作製することができる樹脂組成物の硬化物により、高信頼性の半導体素子を製造することができる。本発明〔11〕によれば、溶剤で溶解可能で、シェア強度が高いバックグラインドフィルムを作製することができる樹脂組成物の硬化物を使用する、高信頼性の半導体素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物(以下、樹脂組成物という)は、(A)ガラス転移点(Tg)が80℃以下であり、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するアクリル樹脂、
(B)エポキシ樹脂、および
(C)テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
を含み、硬化後のポリエチレンテレフタレートフィルムとのシェア強度が、10N以上であることを特徴とする。
【0015】
(A)成分であるアクリル樹脂は、樹脂組成物に、柔軟性、およびプレスによる熱圧着時の寸法安定性を付与する。また、樹脂フィルムを製造するとき、他成分との相溶性を向上させる。
【0016】
(A)成分であるアクリル樹脂は、樹脂組成物の加熱硬化時に、(B)成分であるエポキシ樹脂と反応するため、エポキシ樹脂と反応可能な官能基を有する。エポキシ樹脂と反応可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基等が、挙げられる。この中で、水酸基が、(C)成分であるテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートを、(B)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤として作用させる場合に、エポキシ樹脂との反応が良好である観点から、好ましい。
【0017】
(A)成分であるアクリル樹脂が、エポキシ樹脂と反応可能な官能基として水酸基を有する場合、アクリル樹脂の水酸基価は、1〜30[mg/KOH]であると、好ましい。アクリル樹脂の水酸基価が1[mg/KOH]未満であると、エポキシ樹脂との反応が起こりにくく、十分な接着力が得られないおそれがある。一方、アクリル樹脂の水酸基価が30[mg/KOH]を超えると、エポキシ樹脂との反応が過度に進行し、架橋密度が密になり易く、加熱硬化後の樹脂組成物を、有機溶剤で溶解除去できなくなるおそれがある。アクリル樹脂の水酸基は、5〜20[mg/KOH]であると、より好ましく、10〜15[mg/KOH]であると、さらに好ましい。
【0018】
(A)成分のアクリル樹脂は、ガラス転移点(Tg)は、80℃以下である。(A)成分のアクリル樹脂のTgは、20〜80℃であると好ましく、25〜80℃であると、より好ましく、30℃〜80℃であると、さらに好ましい。(A)成分のアクリル樹脂のTgが、20℃未満になると、樹脂組成物のTgが25℃未満になり易く、バックグラインドフィルムとして使用する時に、シリコンウエハ等がずれ易くなるおそれがある。一方、アクリル樹脂のTgが80℃を超えると、他成分との相溶性が低下し、樹脂組成物を製造する際の作業性が悪化し易くなる。また、樹脂組成物が、柔軟性に劣り易くなる。なお、アクリル樹脂のTgが30〜80℃であれば、樹脂組成物のタック発現温度が適度に高くなるため、30℃以下の常温で、樹脂組成物を載置する際にタックが発現することがないが、バックグラインドフィルムの用途では、タックの無さは、さほど重要ではない。
【0019】
(A)成分は、特に限定されないが、メタクリル酸メチル成分と、アクリル酸ブチル成分と、を含有するメタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体が、好ましい。なお、メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体を構成するこれらの成分を、単独で使用しても、意図する効果を発揮することができない。メタクリル酸メチル単独では、フィルムが柔軟性に劣り易く、アクリル酸ブチル単独では、Tgとは関係なく、30℃以下の常温でタックを発現する。
【0020】
ここで、メタクリル酸メチル成分(x)と、アクリル酸ブチル成分(y)と、を、x/y=8/2〜6/4の割合で含有するメタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体が、タック発現温度を制御した樹脂組成物を比較的容易に得られ、かつ、フィルムが柔軟性に優れることから好ましい。x/y>8/2だとフィルムが柔軟性に劣る傾向があり、x/y<6/4だとフィルムのタック発現温度をアクリル樹脂のTgで制御しにくくなる。
【0021】
また、メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体は、x/yが上記範囲内であることに加えて、質量平均分子量(Mw)が300,000〜800,000であると、他成分との相溶性およびフィルムの層間絶縁性保持の観点から、好ましい。Mwが300,000未満であると、フィルム貼り付け時にフィルムが変形しやすく厚みが不均一になるおそれがある。一方、Mwが800,000を超えると、他成分との相溶性が低下するため、フィルムの製造が困難になるおそれがある。メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体は、質量平均分子量(Mw)が400,000〜700,000であると、より好ましく、450,000〜600,000であると、さらに好ましい。ここで、質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。なお、(A)成分は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(B)成分であるエポキシ樹脂は、樹脂組成物に、熱硬化性および接着性を付与する。
【0023】
(B)成分のエポキシ樹脂は、特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂等の各種エポキシ樹脂が、挙げられる。これらの中でも、接着強度と耐熱性の相関性等の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が、好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が、より好ましい。
【0024】
(B)成分として使用するエポキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が100〜5,000であると、反応性、接着力、溶解性などの観点から、好ましい。エポキシ樹脂は、質量平均分子量(Mw)が200〜2,000であると、より好ましく、300〜1,000であると、さらに好ましい。なお、(B)成分は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(C)成分であるテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートは、樹脂組成物において、(B)成分であるエポキシ樹脂の硬化促進剤として作用する。なお、エポキシ樹脂の硬化促進剤として、一般的なイミダゾールを使用すると、エポキシ樹脂間で硬化反応が進行し、三次元的な架橋が形成されるため、架橋密度が密になり、加熱硬化後の樹脂組成物を、有機溶剤で溶解除去することができない。
【0026】
樹脂組成物において、(B)成分のエポキシ樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、5〜50質量部であると、好ましい。(B)成分のエポキシ樹脂の含有量が、5質量部未満であると、接着強度が不十分になるおそれがある。一方、(B)成分のエポキシ樹脂の含有量が、50質量部を超えると、他成分との相溶性やタック発現温度の調整が難しくなる。また、バックグラインドフィルムとした後のプレスによる熱圧着時の寸法変化が、大きくなり易くなる。(B)成分のエポキシ樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、30〜50質量部であると、より好ましく、35〜45質量部であると、さらに好ましい。
【0027】
樹脂組成物において、(C)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部であると、好ましい。(C)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量が、0.1質量部未満であると、エポキシ樹脂の硬化反応が進行せず、硬化不足により接着力不足になるおそれがある。一方、(C)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量が5質量部を超えると、エポキシ樹脂の硬化反応の進行が速すぎるため、樹脂組成物をバックグラインドフィルムとして使用するときに、シリコンウエハ等の凹凸への埋め込み性が発現し難くなるなどの問題が生じるおそれがある。(C)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートの含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、0.1〜3質量部であると、より好ましく、0.1〜2質量部であると、さらに好ましい。
【0028】
樹脂組成物は、さらに、(D)成分であるフェノール樹脂を含むと、好ましい。(D)成分は、樹脂組成物の粘着性付与剤、および、(B)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として、作用する。また、樹脂組成物を製造するときに、他成分との相溶性に寄与する。
【0029】
(D)成分として使用するフェノール樹脂は、特に限定されず、テルペンフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等の各種フェノール樹脂が、挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の粘着性および接着性の観点から、テルペンフェノール樹脂がより好ましい。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0030】
樹脂組成物において、(D)成分のフェノール樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、10〜35質量部であると、より好ましい。(D)成分のフェノール樹脂の含有量が、10質量部未満であると、(D)成分による接着強度向上の効果が十分でないおそれがある。一方、(D)成分のフェノール樹脂の含有量が30質量部を超えると、他成分との相溶性の調整が難しくなる。(D)成分のフェノール樹脂の含有量は、(A)成分のアクリル樹脂100質量部に対して、10〜30質量部であると、より好ましく、15〜25質量部であると、さらに好ましい。
【0031】
なお、(C)成分のテトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートと、(D)成分のフェノール樹脂と、ともに使用すると、(B)成分のエポキシ樹脂間での硬化反応が進行せず、樹脂組成物に含まれる異なる成分間、すなわち、(A)成分のアクリル樹脂と、(B)成分のエポキシ樹脂と、の間、(A)成分のアクリル樹脂と、(D)成分のフェノール樹脂と、の間、または、(B)成分のエポキシ樹脂と、(D)成分のフェノール樹脂と、の間で硬化反応が進行するため、架橋密度が密になることがなく、加熱硬化後の樹脂組成物を、有機溶剤で溶解除去することができる。
【0032】
樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、カーボンブラックなどの顔料、染料、シランカップリング剤、消泡剤、酸化防止剤、その他の添加剤等、更に有機溶剤等を配合することができる。
【0033】
樹脂組成物は、(A)〜(C)成分等が、所望の含有割合となるように、溶剤中に溶解または分散させることによって得ることができる。この際に使用する溶剤としては、比較的沸点の低いメチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ブチルセロソルブ、2−エトキシエタノール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が、挙げられる。
【0034】
樹脂組成物は、150℃以上の温度で硬化し、接着力が増加する。
【0035】
また、樹脂組成物の硬化後のポリエチレンテレフタレートフィルムとのシェア強度(剪断強度)は、10N以上である。ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの替わりにシリコンウエハを用いた場合、シェア強度測定時に、シリコンウエハが破壊されてしまい、シェア強度を正確に測定できない。このため、本発明ではポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いて、シェア強度の測定を行う。シェア強度の測定方法は、以下である。フィルムを、剥離処理されていない2枚のPETフィルム(厚さ100μm)で挟み、プレスにより熱圧着(160℃、60分、0.5MPa)させて積層体とした後、試験片1.5cm×2cmを切り出し、オートグラフを用い、硬化フィルムとPETフィルム間のシェア強度を測定する。
【0036】
〔バックグラインドフィルム〕
本発明のバックグラインドフィルム(以下、バックグラインドフィルムという)は、上述の樹脂組成物を含む。バックグラインドフィルムは、通常、支持体・バックグラインドフィルム・シリコンウエハの順に積層された構造で、バックグラインド工程に用いられる。
【0037】
バックグラインドフィルムは、厚さが5〜50μmであると、好ましい。バックグラインドフィルムの厚さが、50μmを超えると、厚すぎるため、フィルムの柔軟性が低下して、取扱い性が悪化し易い。また、泡の巻き込みや溶剤の残留による後工程での気泡の生成などにより、製造されるフィルムに気泡が残留し易くなる。また、組成が均一なフィルムを製造するのが難しくなる。一方、フィルムの厚さが、5μm未満であると、薄すぎるため、接着時または取扱時にフィルムが裂けるおそれがある。また、静電気を帯びやすくなるので、取扱い性が悪化する。バックグラインドフィルムは、厚さが10〜40μmであると、より好ましく、10〜35μmであると、さらに好ましい。
【0038】
バックグラインドフィルムは、樹脂組成物を、基材に塗布した後、基材を加熱して溶剤を除去し、その後、基材から剥離することによって得ることができる。
【0039】
基材としては、(A)成分のアクリル樹脂と疎水性または親水性が同傾向でない基材が、用いられる。(A)成分のアクリル樹脂と疎水性または親水性が同傾向でない基材としては、ポリイミド、ガラス、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等を撥水成分もしくは疎水成分でコートした高分子フィルム材料、または無機材料の基材が、好ましく用いられる。
【0040】
使用前のバックグラインドフィルムは、異物が付着することを防止するため、保護フィルムで挟んだ状態で保管されると、好ましい。保護フィルムとしては、基材として記載したものを用いることができる。
【0041】
バックグラインドフィルムは、150℃以上の温度で硬化し、接着力が増加する。バックグラインドフィルムを使用するときには、バックグラインドフィルムを所定の部位のうちの一方(すなわち、バックグラインドフィルムを挟んで上下となる位置関係の構成要素のうち、下方の構成要素)に載置し、バックグラインドフィルムに所定の部位のうちの他方(すなわち、バックグラインドフィルムを挟んで上下となる位置関係の構成要素のうち、上方の構成要素)を、バックグラインドフィルムの露出面と接するように載置した状態で、所定温度及び所定時間、具体的には160℃で60〜90分間、プレスによる熱圧着を行えばよい。ここで、下方の構成要素としては支持体、上方の構成要素としてはシリコンウエハ等が、挙げられる。なお、プレスにより熱圧着した際に、バックグラインドフィルムは、加熱硬化する。以下、本明細書において、熱圧着後のバックグラインドフィルムの特性のことを、加熱硬化後のバックグラインドフィルムの特性(樹脂組成物の硬化物の特性も同じ)として記載する。
【0042】
バックグラインドフィルムは、プレスによる熱圧着時の寸法変化が少ない。具体的には、後述する実施例に記載の手順にしたがって、プレスによる熱圧着時のバックグラインドフィルムの厚さの変化を測定した際に、バックグラインドフィルムの厚さの変化が10μm未満であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である。
【0043】
加熱硬化後のバックグラインドフィルムは、十分な接着強度を有している。具体的には、上述のように、シェア強度が10N以上である。
【0044】
加熱硬化後のバックグラインドフィルムは、適切な有機溶剤を選択することにより、溶解除去することができる。このような目的で使用される有機溶剤としては、ケトン系溶剤として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DIBK(ジイソブチルケトン)、シクロヘキサノン、DAA(ジアセトンアルコール)など、炭化水素系溶剤として、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、メチルエチルケトン、アセトンが、溶解性に優れ、低温での乾燥が可能である観点から、好ましい。
【0045】
加熱硬化後のバックグラインドフィルムを溶解除去する方法は、特に限定されないが、例えば、バックグラインドフィルムの硬化物の外周から溶解除去する方法や、支持体に孔や溝を形成し、バックグラインドフィルムの硬化物の外周に加えて、これらの孔や溝から有機溶剤を浸漬させることにより、バックグラインドフィルムの硬化物を溶解除去する方法が、挙げられる。この際、特開2007−073798号公報で開示されているように、有機溶剤を供給、排出(回収)しながら、硬化物の溶解除去を行ってもよい。支持体に形成される孔や溝の形状についても、特に限定されず、例えば、特開2007−073798号公報や特開2007−073929号公報のサポートプレートに形成されているものを適宜利用することができる。孔や溝の形成の例としては、直径0.5〜5mmの孔、または0.1〜1mm幅の溝を、1mm間隔、2.5mm間隔、5mm間隔で形成する方法が、挙げられる。
【0046】
〔半導体素子の製造方法〕
本発明の半導体素子の製造方法は、例えば、バックグラインドフィルムに貼り付けられた加工済(パターンや構造体が形成されたもの)シリコンウエハを、バックグラインドした後、バックグラインドフィルムの硬化物を除去する工程を含み、その後、個片化して得られる。
【実施例】
【0047】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0048】
〔実施例1〜7、比較例1〜5〕
表1、2に示す配合割合(質量部)になるように成分(A)〜(D)を溶剤(メチルエチルケトン)中に溶解させた溶液を基材(離型処理をほどこしたPETフィルム)に塗布した後、基材を加熱して溶剤を除去し、その後、基材から剥離することにより、フィルム(厚さ:30μm)を得た。なお、成分(A)〜(D)はそれぞれ以下の通り。
【0049】
《(A)成分》
アクリル樹脂A1:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=7/3、Tg:50℃、Mw:500,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂A2:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=7/3、Tg:50℃、Mw:510,000、水酸基価:1[mg/KOH])
アクリル樹脂A3:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=4/6、Tg:20℃、Mw:650,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂a1:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合体(比率=8/2、Tg:90℃、Mw:400,000、水酸基価:10[mg/KOH])
アクリル樹脂a2:メタクリル酸メチル(Tg:120℃、Mw:18,000、水酸基価:150[mg/KOH])
【0050】
《(B)成分》
エポキシ樹脂B:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(Mw:370)
《(C)成分》
硬化触媒C:テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレート
硬化触媒c1:イミダゾール
硬化触媒c2:テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート
《(D)成分》
フェノール樹脂D1:テルペンフェノール樹脂(Mw:1100、水酸基価:50[mg/KOH])
フェノール樹脂D2:テルペンフェノール樹脂(Mw:700、水酸基価:35[mg/KOH])
【0051】
〔評価方法〕
得られたフィルム、または、フィルムとする前の溶液に対して、以下の物性評価を実施した。
【0052】
《相溶性》
(A)〜(D)成分(実施例7と比較例5は、(A)〜(C)成分)を、溶剤(メチルエチルケトン)中に溶解させた溶液を、均一になるまで攪拌し、その後、静置したものを、以下の基準で評価した。表1、2に、結果を示す。
○:室温で1週間静置したものを目視したとき、均一状態となっている。
△:室温で2日間静置したものを目視したとき、不均一状態となっている。
×:撹拌中において、均一にならなかった。
【0053】
《溶解性》
フィルムを、150℃、60分加熱硬化させた後、有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解させた。以下の基準で評価した。表1、2に、結果を示す。
○:有機溶剤に完全に溶解した。
×:膨潤したが溶解しなかった。
【0054】
《シェア強度》
フィルムを、剥離処理されていない2枚のPETフィルム(厚さ100μm)で挟み、プレスにより熱圧着(160℃、60分、0.5MPa)させて積層体とした後、試験片1.5cm×2cmを切り出し、オートグラフを用い、硬化フィルムとPETフィルム間のシェア強度を測定した。表1、2に、結果を示す。
○:シェア強度が10N以上である。
×:シェア強度が10N未満である。
【0055】
《Tg(ガラス転移温度)測定(TMA)》
フィルムを、プレスにより熱硬化(160℃、60分、0.5MPa)させた後、試験片0.5cm×2.5cmを切り出し、TMA(熱機械分析装置)の引張り法で、Tgを測定した。Tgは、高い方が好ましい。
【0056】
《引張弾性率の測定方法》
フィルムを、プレスにより熱硬化(160℃、60分、0.5MPa)させた後、試験片2.5cm×25cmを切り出し、オートグラフにて引張弾性率を測定した。弾性率は、1GPa以上であると好ましい。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1、2から明らかなように、Tgが50℃、20℃のアクリル樹脂(A1,A2,A3)を使用した実施例1〜7は、いずれも、相溶性、溶解性、シェア強度の結果が、良好であった。表には記載していないが、実施例1のシェア強度は25N、実施例7のシェア強度は、22Nであった。また、弾性率は、実施例1〜実施例7で0.2GPa〜2MPaの範囲内であり、例えば、実施例1で1.5GPa、実施例7で1GPaであった。硬化物のTgは、実施例1〜実施例7で25℃〜100℃の範囲内であり、例えば、実施例1では60℃であった。これらに対して、(C)成分の代わりにイミダゾールを使用した比較例1は、溶解性が悪かったため、シェア強度の測定を行わなかった。(C)成分の代わりにテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートを使用した比較例2、(A)成分の代わりにTgが高過ぎるアクリル樹脂a1を使用した比較例3、(A)成分の代わりにTgが高過ぎるアクリル樹脂a2を使用した比較例4は、いずれも、相溶性に劣っていたため、フィルム化を行わなかった。(C)成分の代わりにイミダゾールを使用し、(D)成分を含まない比較例5は、溶解性が悪かったため、シェア強度の測定を行わなかった。
【0060】
本発明の樹脂組成物は、溶剤で溶解可能で、シェア強度が高いため、MEMS工程におけるシリコンウエハのバックグラインドフィルムの作製用として、非常に適している。