【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、特にMOS構造を有するメモリ、ロジック、イメージセンサなどにおいて、半導体と誘電体膜との界面に存在するエネルギー準位(界面準位)は、トランジスタ、キャパシタ、フォトダイオードの動作性能、品質に大きな影響を及ぼす。
そのため、半導体装置の製造にあっては、界面準位を測定することが非常に重要な要素となっている。
従来の界面準位測定法として、チャージポンピング法(例えば、特許文献1、2)、或いはC−V法(例えば特許文献3)などが行われている。
【0003】
特許文献1,2に開示されるチャージポンピング法とは、FET(Field Effect Transistor)のゲート電極にパルス電圧を印加した際、界面トラップによるキャリアの捕獲・放出に起因した基板電流より界面準位密度を導出する方法である。
この方法によれば、界面準位密度のバンドギャップ内エネルギー分布、及びチャネル方向の分布を算出することができる。
また、特許文献3に開示されるC−V法とは、MIS型半導体素子におけるC−V特性の周波数依存性から界面準位を求める原理に基づくものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に開示された従来の測定方法にあっては、いずれも半導体基板に誘電体膜、電極からなるMOS構造、或いはMIS構造の評価サンプルを形成した後に測定を行う必要があり、評価サンプルを準備するために時間を要する上、破壊検査を行う必要があった。
【0006】
即ち、評価サンプルを形成するには、シリコン基板の酸化、多結晶シリコンの堆積、パターンニング、エッチング、イオン注入による不純物導入、アニール、といった時間的に長い工程が必要であり、合計で1週間以上の時間が必要とされる。
【0007】
半導体デバイスの製造現場においては、プロセスで形成した誘電体膜と半導体との界面の質を評価して、プロセス装置の状態などに迅速にフィードバックすることが求められており、測定に長い時間がかかっていては実用に適さない。
【0008】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、例えばMOS構造を有する半導体デバイスにおいて、半導体と誘電体膜との界面に存在するエネルギー準位の密度を迅速に非破壊かつ高精度に測定することのできる界面準位密度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る界面準位密度測定装置は、半導体基板上に形成された誘電体膜と前記半導体基板との界面準位の密度を測定する装置であって、前記半導体基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部に保持された半導体基板の誘電体膜に対し所定の間隙をもって配置されるプローブ電極と、前記プローブ電極を電極として前記半導体基板に電圧印加する電圧印加部と、前記プローブ電極からパルス発光させ、前記電圧印加部により電圧印加された前記半導体基板に光照射する光照射部と、照射光の波長を測定するスペクトル検出器と、前記界面準位に捕獲されていたキャリアの移動に伴う電圧の変化を測定する測定部と、前記測定部により測定された信号のピーク電圧に基づき界面準位密度を算出するコンピュータと、を備えることに特徴を有する。
なお、前記光照射部は、パルス光源と、前記パルス光源から発生させたパルス光を所望の波長に分光する分光光学系と、を備えることが望ましい。
また、前記分光光学系は、パルス光の波長を220nm〜400nmの範囲内で任意の波長幅で分光することが望ましい。
【0010】
このような構成によれば、シリコンウェーハを酸化しただけの基板であっても、ウェーハと誘電体膜との界面準位密度を非接触かつ迅速に測定することが可能である。従って、例えば、製造工程途中のシリコンウェーハを迅速に評価し、プロセス改善に迅速にフィードバックすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る誘電体膜の電気伝導率測定装置によれば、例えばMIS構造を有する半導体デバイスにおいて、誘電体膜の電気伝導率を迅速に非破壊かつ高精度に測定することのできる誘電体膜の電気伝導率測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る界面準位密度測定装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、パルス光を照射するための光学系の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明に適用可能な光学系の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明にかかる実施形態で照射する光のスペクトルを示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明にかかる実施形態で照射する光のスペクトルを示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明にかかる実施形態で照射する光のスペクトルを示すグラフである。
【
図7】
図7は、本発明にかかる実施形態で照射する光のスペクトルを示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明にかかる実施形態で照射する光のスペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図1の界面準位密度測定装置における測定の流れを示すフローである。
【
図10】
図10は、測定した光信号の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、求めた補正係数を界面準位密度計算結果に乗算した結果を示す表である。
【
図15】
図15は、
図14のグラフにおいて印加電圧が0Vの際の結果であって、バンドギャップ中の各エネルギー領域における界面準位密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る界面準位密度測定装置について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係る界面準位密度測定装置(以下、単に測定装置ともいう)の構成を模式的に示すブロック図である。
【0014】
図1の測定装置1は、測定検体である半導体基板(以下、単に基板Wと呼ぶ)を吸着保持するための金属製のチャック2(基板保持部)を備える。このチャック2には、測定電圧増幅器3を介して基板W側からの信号を取得するためのオシロスコープ4(測定部)が接続されている。なお、基板Wは、シリコンウェーハ上に誘電体膜が形成されており、測定装置1はその誘電体膜とウェーハとの界面におけるエネルギー準位の密度を測定するものである。
【0015】
また、測定装置1は、基板Wの上方に配置される上下移動可能なプローブ電極5と、光導波路(光ファイバ11)を介して前記プローブ電極5と接続されるモノクロメータ6と、前記モノクロメータ6に対しパルス光を照射するための光を発生する光源部7(例えばキセノンフラッシュランプを光源に含む構成)とを備える。
さらに測定装置1は、プローブ電極5に電力供給する印加電圧増幅器8と、任意の波形を発生し光源部7及び印加電圧増幅器8に供給する任意波形発生器9とを備える。
【0016】
プローブ電極5は、例えば直径1.61mmのアルミ製中空円筒構造の電極である。その中空部分にコア径1mmの光ファイバ11を通し、光源部7からモノクロメータ6を通した光を光ファイバへ導入し、基板W上にUV光照射がなされる。プローブ電極5の先端と基板Wとの間のギャップ幅は、数μm程度とされる。このプローブ電極5は、前記のように印加電圧増幅器8に接続されており、基板Wに対し電圧印加するとともに、光ファイバからのパルス光を基板Wに照射する。
【0017】
さらに、測定装置1は、界面準位密度計算用の演算処理を行うコンピュータ(図示せず)を備えている。任意波形発生器9(例えばTektronix社製AWG2005)は、光源部7へのトリガ信号、基板Wへの印加電圧のタイミング同期に用いられる。
【0018】
ここで測定原理を説明する。
まず、基板Wのシリコンウェーハに対してプローブ電極5により非接触でパルス電圧を印加する。
次いでパルス電圧が印加されている状態でパルス光照射することにより、バンドギャップ中の界面準位に捕獲されていたキャリアが励起して酸化膜中へ移動する。
このときのキャリア移動に伴う信号をオシロスコープ4で観測する。
そして、観測した信号のピーク電圧ΔVを用いて以下の式(1)により界面準位密度を計算する。
【0020】
なお、式(1)中、Q
itは移動したキャリアの電荷[C]、D
itは界面準位密度[cm
-2eV
-1]、C
fはケーブルの容量[F]、ΔVはピーク電圧[V]、Sは電極面積 [cm
2]、qは素電荷[C]、lはキャリアが酸化膜を移動する距離[m]、W
oxideは酸化膜厚[m]、ΔEは測定のエネルギー分解能[eV]である。
【0021】
また、界面準位密度のエネルギー分布を求めるためにバンドギャップ中の特定のエネルギー領域の界面準位密度を測定する場合は、照射するパルス光のエネルギーを調整する。その際に照射する光のエネルギーは、酸化膜伝導帯下端とシリコン伝導帯下端のエネルギー差3.1eVと、強反転状態になる電圧を印加した際のシリコンのバンド曲がり分に相当するエネルギーψs(inv)と、さらにシリコン伝導帯下端から測定したいエネルギー領域のエネルギー差の合計であることが望ましい。
ψsは次の式(2)で表すことができる。
【0023】
式(2)において、Kはボルツマン定数、qは素電荷、NAはアクセプタ不純物濃度(シリコンがp型の場合)、niは真性キャリア濃度である。
【0024】
照射する光で必要とされる最大のエネルギーは、ψs(inv)が最大になる場合、即ち、シリコンの不純物濃度が最大になるときである。シリコンの場合、p型、n型共に不純物濃度は、10
21cm
-3以下の範囲であり、NA=10
21cm
-3ではψs(inv)は1.29eVとなる。これに酸化膜伝導帯下端とシリコン伝導帯下端のエネルギー差3.1eVとシリコンのバンドギャップ1.12eVを加えたものの和は、5.51eVとなる。これが必要とされる最大のエネルギーであり、そのエネルギーに相当する光の波長は、225nmである。
【0025】
照射する光で必要とされる最小のエネルギーは、酸化膜伝導帯下端とシリコン伝導帯下端のエネルギー差3.1eVである。これは光の波長にして400nmに相当する。
照射する光の波長の範囲は、225nmから400nmであれば、シリコンと酸化膜間の界面準位エネルギーの全ての範囲をカバーすることができる。
【0026】
続いて、
図1の測定装置1を用いた、より具体的な測定方法について説明する。
なお、本実施の形態にあっては、シリコンバンドギャップ中の界面準位のエネルギー分布を5分割し、エネルギー分解能0.224eVで測定するものとする。測定に使用する基板Wを構成するシリコンウェーハは酸化膜厚82.9nm、面方位(100)のn型抵抗率0.1Ωcmの3inchウェーハである。抵抗率0.1Ωcmの場合、アクセプタ不純物濃度は、2.77×10
17cm
-3であるので、ψs=0.87eV分バンドが曲がることになる。シリコンのバンド曲がりが0.87eVの場合、照射する光の波長は244nm〜313nmである。界面準位をエネルギー分解能0.224eVで測定する為には、光の波長を、それぞれ244nm〜255nm、255nm〜268nm、268nm〜281nm、281nm〜296nm、296nm〜313nmの波長幅に分光して照射する。
【0027】
測定を行うには、先ずプローブ電極5からのパルス照射光を形成する必要がある。そのためには、例えば
図2に示す光学系(光源部7)を用い、界面準位密度のエネルギー分布測定のために、照射する光のエネルギーを制限する。光のエネルギーは以下の式(3)で求めることが出来る。
【0029】
なお、式3において、Eは光のエネルギー[eV]、hはプランク乗数[j・s]、cは光速[m・s
-1]、eは素電荷[c]、λは光の波長[m]である。
【0030】
照射光のエネルギーを調整するためには光の波長を制限すれば良い。そこで
図3に示すようにスペクトル検出器12を用い、照射光のスペクトルを確認しながら目的の波長になるように照射光の波長を変えることが出来るモノクロメータ6を調整し、モノクロメータ6の設定をコンピュータの記憶部(図示せず)に記録する。またその際に調整したそれぞれの照射光のスペクトルを前記コンピュータの記憶部に保存する。
【0031】
ここで、
図4乃至
図8のグラフは本実施形態で照射する光のスペクトルの例である。各グラフにおいて、縦軸であるcountは光量[W・nm
-1]を相対値として表した値である。本実施形態では、
図4乃至
図8に示すスペクトルの光を基板Wに照射することにより、シリコンバンドギャップ中の界面準位密度をシリコン伝導帯下端から分解能0.224eVで測定することができる。
【0032】
次に、装置1における界面準位密度の測定について
図9のフローに沿って説明する。なお、本実施形態においては、光信号の測定において5種類の照射光ごとに4種類の印加電圧で測定するため計20回の光信号測定を行う。
先ず、前記したように測定に必要な波長の光(296nm〜313nm)になるように光学系(モノクロメータ6)を設定し、設定値をコンピュータの記憶部に記憶させる(ステップS1)。
次いで、光源7内のフラッシュランプを点灯させ(ステップS2)、基板Wからプローブ電極5を接触しないように離した状態とし、任意波形発生器9により所定の電圧(26.94V)を生成し基板Wに印加する(ステップS3)。
【0033】
さらにプローブ電極5を基板Wから光信号が出るまで基板Wに近づけ、オシロスコープ4により光信号が測定されると光信号を(表計算ソフトにより編集可能な形式として)コンピュータの記憶部に保存する(ステップS4)。
また、他の条件でさらに測定する場合には(ステップS5)、印加電圧を再設定し、照射光波長を再設定し、再度、電圧印加とパルス光照射を行う。
【0034】
コンピュータにおいては、測定された光信号に基づき、界面準位密度計算を行う(ステップS6)。
具体的には、
図10に一例を示す測定信号のピーク電圧を求め、式(1)を用いて界面準位密度を計算する。
【0036】
なお、式(1)において、Q
itは移動したキャリアの電荷[C]、D
itは界面準位密度[cm
-2eV
-1]、C
fはケーブルの容量[F]、ΔVはピーク電圧[V]、Sは電極面積 [cm
2]、qは素電荷[C]、lはキャリアが酸化膜を移動する距離[m]、W
oxideは酸化膜厚[m]、ΔEは測定のエネルギー分解能[eV]である。
【0037】
ここで前記界面準位密度の計算において、C
f=4.0×10
-12[F]、S=4.76×10
-4 [cm
2]、q=−1.6×10
-19[C]、ΔE=0.224[eV]、W
oxide/1=10と仮定すると、界面準位密度の計算結果は
図11に示す表に示すようになる。
【0038】
次いで、照射光の種類によって異なるフォトン数に関する補正を行う。
具体的には、
図4乃至
図8のスペクトルは光量換算[W・nm
-1]であるため、フォトン換算[s
-1・nm
-1]に変換して積分フォトン数を表計算ソフトで計算し、フォトン数を補正するための補正係数を求める。補正係数は積分フォトン数の逆数である。
図12の表に補正係数を求めた結果を示す。また、
図13の表に求めた補正係数を界面準位密度計算結果に乗算した結果を示す。
【0039】
次に、印加電圧が0Vの場合の界面準位密度を求め、界面準位密度のエネルギー分布を導出する。即ち、
図14のように界面準位密度の結果をグラフ化し、近似直線によって、励起したキャリアが加速されない印加電圧0Vのときの正味の界面準位密度を求める。
そして、前記印加電圧が0Vの際の結果が、バンドギャップ中の各エネルギー領域における界面準位密度となり、その結果をグラフ化したものが
図15である。
【0040】
以上のように、本実施の形態によれば、シリコンウェーハを酸化しただけの基板であっても、ウェーハと誘電体膜との界面準位密度を非接触かつ迅速に測定することが可能である。従って、例えば、製造工程途中のシリコンウェーハを迅速に評価し、プロセス改善に迅速にフィードバックすることができる。