特許第6867632号(P6867632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867632
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/16 20060101AFI20210419BHJP
   G01K 7/22 20060101ALI20210419BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   G01K7/16 S
   G01K7/22 N
   H01C7/04
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-564112(P2018-564112)
(86)(22)【出願日】2017年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2017039172
(87)【国際公開番号】WO2018138993
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2019年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-14178(P2017-14178)
(32)【優先日】2017年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】日置 泰典
(72)【発明者】
【氏名】関谷 毅
(72)【発明者】
【氏名】植村 隆文
(72)【発明者】
【氏名】尾上 智章
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−237065(JP,A)
【文献】 特開2004−031795(JP,A)
【文献】 特開昭55−039456(JP,A)
【文献】 特開平04−291811(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/119205(WO,A1)
【文献】 特開2005−150146(JP,A)
【文献】 特開2004−311588(JP,A)
【文献】 特開昭63−060502(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/022373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機無機複合負特性サーミスタと、トランジスタとを備える温度センサであって、
前記有機無機複合負特性サーミスタは、
Mn、NiおよびFeを含むスピネル型半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層と、
1対の電極層と
を含み、前記サーミスタ層および前記1対の電極層は、前記トランジスタの一方主面側に形成されており、前記半導体磁器組成物の粉末において、MnとNiとのモル比率が85/15≧Mn/Ni≧65/35であり、かつMnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Feの含有量が30モル部以下であり、前記半導体磁器組成物の粉末は、X線回折パターンの29°〜31°付近に極大値を有するピークを有し、該ピークの半値幅は0.15以上であり、
前記トランジスタは、前記有機無機複合負特性サーミスタの電極層のいずれか一方と接続される、温度センサ。
【請求項2】
前記トランジスタが有機トランジスタである、請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記有機トランジスタが、ゲート電極層、ゲート絶縁膜、有機半導体層、ソース電極層およびドレイン電極層を含む、請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記温度センサが、基板と、該基板上にマトリクス状に交差して配置された複数のx電極および複数のy電極とを更に備え、
前記x電極と前記y電極との各交差部の近傍にそれぞれ、前記有機無機複合負特性サーミスタと、該有機無機複合負特性サーミスタの電極層のいずれか一方と接続される前記トランジスタとが配置され、
前記トランジスタはそれぞれ、前記x電極および前記y電極に接続される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記温度センサが、前記有機無機複合負特性サーミスタの抵抗値変化を読み取る読み取り部と、該読み取り部で読み取られた情報を送信する無線通信部とを更に備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記半導体磁器組成物の粉末の平均粒径が2μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記半導体磁器組成物の粉末がCo、TiおよびAlからなる群から選択される1種以上を更に含み、
MnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Co、TiおよびAlの含有量の合計が2.0モル部以上60モル部以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項8】
前記半導体磁器組成物の粉末の比表面積が2m/g以上12m/g以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項9】
前記サーミスタ層における前記半導体磁器組成物の粉末の体積割合が30vol%以上70vol%以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項10】
前記有機高分子成分が熱硬化性樹脂を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂である、請求項10に記載の温度センサ。
【請求項12】
前記有機高分子成分が、熱可塑性樹脂を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の温度センサ。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂、硬化剤未添加のエポキシ樹脂、硬化剤未添加のフェノキシ樹脂 、ポリエステルおよびポリ酢酸ビニルからなる群から選択される1以上の樹脂である、請求項12に記載の温度センサ。
【請求項14】
前記有機高分子成分がフェノキシ樹脂を更に含む、請求項10または11に記載の温度センサ。
【請求項15】
前記サーミスタ層の厚さが200μm以下である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
正特性サーミスタ(PTCサーミスタ)および負特性サーミスタ(NTCサーミスタ)等の温度センサは、温度補償用または温度検知用等の用途で幅広く用いられている。中でも、フレキシブル性(可とう性)を有する温度センサは、医療分野等の幅広い分野への応用が期待されており、開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、一般式CHCHCOOXで示される第1のアクリルモノマーと、一般式CHCHCOOXで示される第2のアクリルモノマーとを共重合させたアクリルポリマーに、導電性粒子が分散された温度センサ用樹脂組成物が記載されている。また、特許文献1には、二枚の電極と、二枚の電極に挟まれるように配置された上述の温度センサ用樹脂組成物とを備えることを特徴とする温度センサ用素子、ならびに上述の温度センサ用素子と、温度センサ用素子のいずれか一方の電極と接続されたトランジスタとを備える温度センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/119205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の温度センサ用樹脂組成物は、低温では導電性粒子が互いに接触しているので、低い抵抗値を示す。一方、特定の温度を超えると、温度センサ用樹脂組成物中のポリマーが熱膨張して導電性粒子間に間隙が生じ、抵抗値が増大する。特許文献1に記載の組成物は、このように、温度によりポリマーが膨張および収縮して組成物の抵抗値が変化する性質を利用して、温度変化を測定することができるものである。しかし、ポリマーは膨張および収縮を繰り返すと少しずつ変形し、完全に元の形態には戻らなくなるので、ポリマー中に分散された導電性粒子の配置も徐々に変化してしまう。そのため、特許文献1に記載の温度センサ用樹脂組成物は、繰り返し使用することで抵抗値が徐々に変化し、ヒステリシスを示す傾向にある。
【0006】
また、ポリマーの膨張および収縮を利用した温度センサ用樹脂組成物の場合、使用されるポリマーが大きく膨張および収縮する温度は一般に、軟化点や結晶融点等、その物質に固有の温度である。そのため、ポリマーの組成を固定した場合、ある特定の温度域においてのみ、温度の測定が可能である。温度測定が可能な温度(応答温度)を変更するためには、ポリマーの組成を変更する必要がある。
【0007】
また、ポリマーの膨張および収縮を利用した温度センサ用樹脂組成物の場合、所望の応答温度を得るにはポリマーの組成が限定されるため、良好なフレキシブル耐性を有するポリマーを選択することが困難な場合があり、フレキシブル耐性が低くなる場合がある。
【0008】
更に、ポリマーの膨張および収縮という物理的変化を利用して温度を測定する場合、温度センサと電極配線との接合部に物理的負荷がかかってしまい、繰り返し温度測定を行うと接合部が剥離するおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、抵抗値の繰り返し精度が高く、測定温度範囲が広く、良好なフレキシブル耐性を得ることができ、かつ電極配線との密着信頼性が高い温度センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、NTC特性を有する半導体磁器組成物の粉末および有機高分子成分を含むサーミスタ層と、1対の電極層とを含む有機無機複合負特性サーミスタを温度センサ用素子として用いることにより、抵抗値の繰り返し精度が高く、測定温度範囲が広く、良好なフレキシブル耐性を得ることができ、かつ電極配線との密着信頼性が高い温度センサを得ることができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の第1の要旨によれば、有機無機複合負特性サーミスタと、トランジスタとを備える温度センサであって、
有機無機複合負特性サーミスタは、
Mn、NiおよびFeを含むスピネル型半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層と、
1対の電極層と
を含み、半導体磁器組成物の粉末において、MnとNiとのモル比率が85/15≧Mn/Ni≧65/35であり、かつMnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Feの含有量が30モル部以下であり、半導体磁器組成物の粉末は、X線回折パターンの29°〜31°付近に極大値を有するピークを有し、そのピークの半値幅は0.15以上であり、
トランジスタは、有機無機複合負特性サーミスタの電極層のいずれか一方と接続される、温度センサが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抵抗値の繰り返し精度が高く、測定温度範囲が広く、良好なフレキシブル耐性を得ることができ、かつ電極配線との密着信頼性が高い温度センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一の実施形態に係る温度センサの断面模式図である。
図2】本発明の一の実施形態に係る温度センサの回路図である。
図3】複数の有機無機複合負特性サーミスタおよび複数のトランジスタをマトリクス状に配置した場合の構成例を示す模式図である。
図4】本発明の一の実施形態に係る温度センサの使用例を示す図である。
図5】有機無機複合負特性サーミスタの構成例を示す模式図である。
図6】温度センサにおけるトランジスタのドレイン電流の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一の実施形態に係る温度センサおよびその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。但し、本発明に係る温度センサならびに各構成要素の形状および配置等は、以下に説明する実施形態および図示される構成に限定されるものではない。
【0015】
[温度センサ]
図1に本発明の一の実施形態に係る温度センサの断面模式図を示す。図1に示す温度センサ1は、有機無機複合負特性サーミスタ(以下、「有機無機複合NTCサーミスタ」ともよぶ)10と、トランジスタ20とを備える。有機無機複合NTCサーミスタ10は、Mn、NiおよびFeを含むスピネル型半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層13と、1対の電極層11および12とを含む。有機無機複合NTCサーミスタ10およびトランジスタ20の詳細については後述する。
【0016】
本実施形態に係る有機無機複合NTCサーミスタ10は、サーミスタ層13に含まれる半導体磁器組成物の粉末が感温機能(NTC特性、温度上昇とともに抵抗値が低下する性質)を有することにより、温度センサ用素子として機能するものである。半導体磁器組成物は、抵抗値の繰り返し精度が良好であり、ヒステリシスを示さないという特徴を有する。また、サーミスタ層13に含まれる有機高分子成分は、有機PTCサーミスタに含まれるポリマーとは異なり、温度変化により膨張および収縮するものではない。そのため、本実施形態における有機無機複合NTCサーミスタ10は、抵抗値の繰り返し精度が高く、ヒステリシスを示さないという利点を有する。
【0017】
また、本実施形態における半導体磁器組成物は、幅広い温度領域にわたって抵抗値が変化するという特徴を有する。そのため、本実施形態に係る温度センサは、一の組成を有する半導体磁器組成物を用いることで、広い温度範囲にわたって温度測定を行うことができるという利点を有する。
【0018】
また、サーミスタ層13に含まれる有機高分子成分は、感温機能を有する半導体磁器組成物の粉末を保持する機能を有するものであれば、その組成は特に限定されるものではないので、有機高分子成分の設計は、幅広い選択肢を有する。そのため、フレキシブル耐性の高い柔軟な有機高分子成分を設計することにより、ポリマーの選択肢が限定される有機PTCサーミスタよりもフレキシブル耐性の高い温度センサを得ることが可能である。
【0019】
また、上述したように、有機高分子成分の組成は特に限定されるものではないので、電極配線(例えばトランジスタに接続するための電極配線)との密着性が良好な有機高分子成分を設計することができる。そのため、温度センサと電極配線との接合部における物理的負荷を低減することができ、電極配線との密着信頼性を高くすることができる。
【0020】
本実施形態に係る温度センサ1において、トランジスタ20は、有機無機複合NTCサーミスタ10の電極層のいずれか一方と接続される。図1に示す例において、トランジスタ20は、有機無機複合NTCサーミスタ10の電極層11と接続される。
【0021】
温度センサ1において、有機無機複合NTCサーミスタ10の抵抗値が変化すると、トランジスタ20を流れる電流値が変化し、その電流値に応じた信号が外部に出力される。具体的には、有機無機複合NTCサーミスタ10の抵抗値が変化すると、ソース電極21とドレイン電極22との間を流れる電流値が変化する。例えば、温度が上昇して有機無機複合NTCサーミスタ10の抵抗値が低下すると、ソース電極21とドレイン電極22間に流れる電流値が上昇する。この電流値を測定することにより、温度変化を測定することができる。
【0022】
本実施形態に係る温度センサ1は、例えば、図2に示す回路図で表すこともできる。図2に示す温度センサ1は、有機無機複合NTCサーミスタ10と、有機無機複合NTCサーミスタ10に接続されたトランジスタ20とを備える。図2に示す例において、外部に出力される電圧は、以下の式(1)で表すことができる。

EN=VDD×(R/(R+R))・・・(1)

式中、VENは外部に出力される電圧であり、VDDはドレイン電圧であり、Rはトランジスタ20の抵抗値であり、Rは有機無機複合NTCサーミスタ10の抵抗値である。ゲート電圧Vを変化させると、トランジスタ20の抵抗値Rが変化し、その結果、式(1)に示すように外部に出力される電圧VENが変化する。すなわち、温度センサ1は、トランジスタ20のゲート電圧Vを変化させることで、外部に出力される電圧VENを変化させることができる。
【0023】
本実施形態に係る温度センサにおいて、トランジスタはスイッチとして機能する。トランジスタをスイッチとして利用することにより、配線数を少なくすることができるという利点を有する。
【0024】
本実施形態に係る温度センサは、有機無機複合負特性サーミスタおよびトランジスタを1つずつ備えるものであってよいが、複数の有機無機複合NTCサーミスタおよび複数のトランジスタを備えることが好ましい。温度センサが複数の有機無機複合NTCサーミスタおよび複数のトランジスタを備える場合、温度センサは、基板と、基板上にマトリクス状に交差して配置された複数のx電極および複数のy電極とを更に備え、x電極とy電極との各交差部の近傍にそれぞれ、有機無機複合負特性サーミスタと、トランジスタとが配置される。トランジスタは、有機無機複合負特性サーミスタの電極層のいずれか一方と接続される。トランジスタはそれぞれ、x電極およびy電極に接続される。図3に、複数の有機無機複合負特性サーミスタ10および複数のトランジスタ20をマトリクス状に配置した場合の構成例を模式的に示す。図3において、X1、X2、X3、…はx電極を示し、Y1、Y2、Y3、…はy電極を示す。このように複数の有機無機複合負特性サーミスタ10および複数のトランジスタ20をマトリクス状に配置して温度センサを構成することにより、各素子をトランジスタにてスイッチングし、各素子での温度を読み取ることが可能となる。アクティブマトリクス方式を採用することにより、配線数を少なくすることが可能となるため、高密度、高精細な温度センサが実現する。また、センサ信号読み出し回路についても配線数の削減と同様にその数を減らす事が可能であるため、小型化が可能である。
【0025】
温度センサは、有機無機複合負特性サーミスタの抵抗値変化を読み取る読み取り部と、読み取り部で読み取られた情報を送信する無線通信部とを更に備えてよい。温度センサがトランジスタを備えることで、抵抗値変化の読み取り回路の小型化が可能であり、測定した温度データを無線通信によりコンピュータ等に送信することができる。読み取り部および無線通信部としては、公知の技術を適宜採用してよく、例えば、有機無機複合負特性サーミスタに接続された読み出し回路モジュールであってよい。読み出し回路モジュールにより、温度データ等の読み出された情報は、Bluetooth(登録商標)モジュール等を搭載したコンピュータ等に送信することができる。
【0026】
本実施形態に係る温度センサは、良好なフレキシブル性を有するので、例えば図4に示すように人体に巻きつけることができ、体表面の温度分布を測定するのに利用することができる。なお、図4において温度センサは符号100で示す。
【0027】
(有機無機複合負特性サーミスタ)
本実施形態における有機無機複合NTCサーミスタについて以下に説明する。本発明の一の実施形態に係る有機無機複合NTCサーミスタは、Mn、NiおよびFeを含むスピネル型半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層と、1対の電極層とを含む。図1に示す構成例において、有機無機複合NTCサーミスタ10は、トランジスタ20の上に、電極層11および電極層12を積層し、その上にサーミスタ層13を積層したものである。
【0028】
図5は、図1に示す有機無機複合NTCサーミスタの構造を模式的に示したものである。図5(a)は、有機無機複合NTCサーミスタ10の1対の電極層11および12の配置を示す平面図である。図5(b)は、図5(a)に示す電極層11および12の上に配置されたサーミスタ層13を示す平面図である。図5(c)は、図5(b)の直線A−A’に沿った断面の一部拡大図である。図5に示す例において、1対の電極層11および12は、トランジスタ20の上に配置される。1対の電極層11および12は、図5に示すように櫛型の形状であってよいが、本発明における電極層の形状はかかる形状に限定されるものではない。電極層11および12が櫛型の形状を有する場合、トランジスタ20の上に電極層ペーストを1回印刷することにより1対の電極層11および12を同時に形成することができるので、工程数を少なくすることができる。電極層11および12はそれぞれ、複数の電極線を有する。一方の電極層11の電極線と、他方の電極層12の電極線とが互いに離間して交互に配置され、それにより、電極層11と電極層12とが互いに対向する。
【0029】
図5(a)に示す電極層11および12の上に、サーミスタ層13が配置される。サーミスタ層13は、図5(c)に示すように、一方の電極層11の電極線と、他方の電極層12の電極線との間に存在する。このように電極層11および12とサーミスタ層13とを配置することにより有機無機複合NTCサーミスタが得られる。
【0030】
サーミスタ層は、Mn、NiおよびFeを含むスピネル型半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含む。半導体磁器組成物の粉末において、MnとNiとのモル比率は85/15≧Mn/Ni≧65/35であり、かつMnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Feの含有量は30モル部以下である。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末は、上記組成を有することにより、スピネル構造を有し、かつ異相の存在量が少ない。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末において、異相が実質的に存在しないことが好ましい。上述の半導体磁器組成物の粉末は高いB定数を有する。そのため、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量が少ない場合であっても、B定数の値が高い有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。また、半導体磁器組成物の粉末における異相の存在量が少ないので、B定数の値のばらつきが小さい有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。
【0031】
半導体磁器組成物の粉末は、Co、TiおよびAlからなる群から選択される1種以上を更に含むことが好ましい。この場合、MnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Co、TiおよびAlの含有量の合計は、2.0モル部以上60モル部以下であることが好ましい。半導体磁器組成物の粉末がCo、TiおよびAlからなる群から選択される1種以上を更に含むことにより、B定数が大きく、B定数のばらつきが小さい所望のサーミスタ特性を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。半導体磁器組成物の粉末は更に、上述の金属元素に加えて、Zn(ZnO等)、Cu(CuO、CuCO等)、Zr(ZrO等)等を含んでもよい。
【0032】
半導体磁器組成物の粉末の平均粒径は、2μm以下であることが好ましい。半導体磁器組成物の粉末の平均粒径が上述の範囲内であると、サーミスタ層内において、半導体磁器組成物の粉末同士のつながりを効率よく形成することができ、導電パス(パーコレーションパス)を効率よく形成することができる。その結果、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量が少ない場合であっても、優れたサーミスタ特性を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。更に、B定数のばらつきを小さくすることができる。具体的には、例えば、B定数が2500K以上であり、かつB定数のばらつきが±2.5%以内である有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。B定数のばらつきの算出方法については後述する。
【0033】
また、半導体磁器組成物の粉末の平均粒径が2μm以下であると、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量を少なくすることができるので、サーミスタ層における有機高分子成分の含有量を増加させることができる。その結果、サーミスタ層のフレキシブル性が向上し、有機無機複合NTCサーミスタを備える温度センサを屈曲させた場合であっても、サーミスタ層における割れ等の発生を抑制することができ、温度センサとして機能し得る。更に、平均粒径が2μm以下であると、サーミスタ層の厚さを小さくすることができ、サーミスタ層のフレキシブル性をより一層向上させることができる。加えて、平均粒径が2μm以下であると、サーミスタ層をスクリーン印刷等の印刷手法により形成することが可能である。半導体磁器組成物の粉末の平均粒径は、より好ましくは0.4μm以上1.5μm以下である。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末として、所定の平均粒径を有する1種類の粉末を用いてよく、あるいは、異なる平均粒径を有する2種類以上の粉末を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態における半導体磁器組成物の粉末は、単峰性の粒度分布を有してよく、あるいは2峰性等の多峰性の粒度分布を有してもよい。サーミスタ層中に存在する半導体磁器組成物の平均粒径は、有機無機複合NTCサーミスタを切削してサーミスタ層の断面を露出させ、露出面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、統計解析を行うことにより算出することができる。
【0034】
本実施形態における半導体磁器組成物の粉末は、後述のように、原料混合物を比較的低温で熱処理することにより得ることができる。そのため、本実施形態における半導体磁器組成物の粉末は、従来の高温焼成により得られる焼結体と比較して、硬度が低い傾向にある。そのため、粉砕により、2μm以下の平均粒径を達成することができる。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末と、従来の高温焼成により得られる焼結体とは、例えば、XRD測定により区別することが可能である。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末は、X線回折パターンの29°〜31°付近に極大値を有するピークを有する。このピークは、スピネル型結晶構造の(220)面に対応するピークであり、以下、「(220)面のピーク」ともよぶ。本実施形態における半導体磁器組成物の粉末における(220)面のピークの半値幅は、従来の高温焼成により得られる焼結体における半値幅よりも大きくなる傾向にあり、例えば、0.15以上であり得る。これに対し、従来の高温焼成により得られる焼結体における(220)面のピークの半値幅は、0.15より小さくなる傾向にある。
【0035】
半導体磁器組成物の粉末の比表面積は、2m/g以上12m/g以下であることが好ましい。比表面積が2m/g以上であると、サーミスタ層内において、半導体磁器組成物の粉末同士のつながりを効率よく形成することができ、導電パス(パーコレーションパス)を効率よく形成することができる。その結果、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量が少ない場合であっても、優れたサーミスタ特性を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。更に、B定数のばらつきを小さくすることができる。具体的には、例えば、B定数が2500K以上であり、かつB定数のばらつきが±2.5%以内である有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。比表面積が12m/g以下であると、半導体磁器組成物の粉末をサーミスタ層内において効率よく分散することができ、粗大な凝集物の発生を抑えることができる。サーミスタ層に含まれる半導体磁器組成物の粉末の比表面積は、サーミスタ層中の有機高分子成分を熱処理等により消失させて、残分である半導体磁器組成物の比表面積をガス吸着法により測定することにより求めることができる。
【0036】
サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の体積割合(以下、「PVC」とも言う)は、30vol%以上70vol%以下であることが好ましい。体積割合が30vol%以上であると、サーミスタ層の内部において半導体磁器組成物の粉末同士が効率よくつながって導電パスが形成されるので、より一層高いB定数を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。本実施形態において、半導体磁器組成物の粉末の平均粒径が2μm以下と小さいことにより、半導体磁器組成物の粉末の体積割合が30vol%であっても、2500K以上のB定数を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。また、半導体磁器組成物の粉末の体積割合が高いほど、有機無機複合NTCサーミスタの抵抗値を低くすることができる。半導体磁器組成物の粉末の体積割合が70vol%以下であると、サーミスタ層のフレキシブル性をより一層向上させることができる。PVCの値は、下記式
【数1】
を用いることにより算出することができる。半導体磁器組成物の粉体および有機高分子成分の体積は、例えば、半導体磁器組成物の粉末および有機高分子成分の比重の値、ならびにサーミスタ層に含まれる半導体磁器組成物の粉体および有機高分子成分の重量の値に基づいて算出することができる。半導体磁器組成物の粉末の比重は、例えば、真比重測定法により測定することができ、有機高分子成分の比重は、例えば、アルキメデス法により測定することができる。
【0037】
別法として、PVCの値は、イオンフォーカスビーム(FIB)等の方法で有機無機複合NTCサーミスタを掘削して、サーミスタ層の断面を露出させ、露出面において半導体磁器組成物の粉末が占める領域と有機高分子が占める領域とに分けて各領域の面積(それぞれ「半導体磁器組成物の面積」および「有機高分子成分の面積」とよぶ)を算出し、下記式
【数2】
を用いることにより算出することも可能である。
【0038】
サーミスタ層に含まれる有機高分子成分は、サーミスタ層にフレキシブル性を付与する機能を有する。有機高分子成分の組成は、所望のフレキシブル耐性および電極配線との密着性が得られるように、適宜調整することができる。有機高分子成分は、熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。有機高分子成分が熱硬化性樹脂を含むことにより、熱硬化時に有機高分子成分が硬化収縮し、それにより半導体磁器組成物の粉末同士が互いに押し付けられる。これにより、サーミスタ層内における半導体磁器組成物の粉末同士のつながりをより一層効率よく形成することができ、導電パスをより一層効率よく形成することができる。その結果、B定数のばらつきがより小さい有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。また、有機高分子成分が熱硬化性樹脂を含む場合、サーミスタ層において導電パスをより一層効率よく形成することができるので、有機無機複合NTCサーミスタの抵抗値を低くすることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。熱硬化性樹脂は、上述のいずれか1つを単独で用いてよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂は体積収縮率が比較的大きいので、半導体磁器組成物の粉末同士のつながりをより一層効率よく形成することができ、その結果、B定数のばらつきがより一層小さい有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。
【0039】
別法として、有機高分子成分は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル、ポリエステル等の熱可塑性樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フッ素系樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニルサルファイド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、硬化剤未添加のエポキシ樹脂、硬化剤未添加のフェノキシ樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂は、上述のいずれか1つを単独で用いてよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。有機高分子成分が熱可塑性樹脂を含む場合、サーミスタ層のフレキシブル性をより一層向上させることができる。その結果、サーミスタ層における割れ等の発生をより一層効果的に抑制することができる。
【0040】
有機高分子成分として熱硬化性樹脂を用いた場合、および熱可塑性樹脂を用いた場合のいずれにおいても、2500K以上の高いB定数を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。
【0041】
有機高分子成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを組み合わせて用いてもよい。熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を組み合わせることで、サーミスタ層のフレキシブル性を向上させることができる。
【0042】
有機高分子成分は、上述の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂に加えて、フェノキシ樹脂を更に含むことが好ましい。フェノキシ樹脂は繰り返し単位n=100(分子量10,000)以上のエポキシ樹脂を指し、可とう性を有し、柔軟であるという特性を有する。そのため、有機高分子成分が熱硬化性樹脂に加えてフェノキシ樹脂を含むことにより、サーミスタ層のフレキシブル性がより一層向上し、サーミスタ層における割れ等の発生をより一層効果的に抑制することができる。サーミスタ層の厚さが大きいほど、サーミスタ層において割れが発生しやすくなる傾向にある。従って、サーミスタ層の厚さが比較的大きい場合、上述のフェノキシ樹脂の添加の効果はより顕著である。有機高分子成分は、例えば、エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂を含むことが好ましい。また、サーミスタ層に柔軟性を付与するために、フェノキシ樹脂に代えて、またはフェノキシ樹脂に加えて、CTBN変性エポキシ樹脂、変性シリコーン樹脂、溶剤に可溶なゴム成分(フッ素ゴム等)などを有機高分子成分に添加してもよい。
【0043】
有機高分子成分は更に、サーミスタ層に柔軟性を付与する可塑剤として、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、脂肪族2塩基酸エステル等を含んでもよい。有機高分子成分は、上述の成分に加えて、半導体磁器組成物の分散性を向上させるための分散剤、サーミスタ層全体の抵抗を下げるための導電性助剤等を含んでもよい。
【0044】
サーミスタ層の厚さは、200μm以下であることが好ましい。サーミスタ層の厚さが200μm以下であると、割れ等の発生をより一層抑制することができ、優れたフレキシブル性を有することができる。サーミスタ層の厚さは、より好ましくは5μm以上50μm以下である。
【0045】
電極層の組成は、トランジスタとの密着性が良好であり、導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。電極層は、例えば金を含んでよく、金からなるものであってもよい。電極層の厚さは温度センサの用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、5nm以上200nm以下であってよく、好ましくは20nm以上100nm以下である。
【0046】
(トランジスタ)
本実施形態に係る温度センサに用いられるトランジスタは、有機トランジスタであることが好ましい。有機トランジスタはそれ自体がフレキシブル性を有するため、有機トランジスタを用いることにより、温度センサのフレキシブル性をより一層向上させることができる。有機トランジスタの種類は特に限定されるものではなく、例えば電界効果トランジスタであってよい。
【0047】
有機トランジスタは、ゲート電極層、ゲート絶縁膜、有機半導体層、ソース電極層およびドレイン電極層を含むものであってよい。有機半導体層は、ジナフトチエノチオフェンを含むことが好ましい。有機トランジスタは、例えば図1に示すトランジスタ20と同様の構造を有してよいが、これに限定されるものではなく、任意の適切な構造を有してよい。有機トランジスタは、例えば、ボトムゲート/ボトムコンタクト型構造、トップゲート/ボトムコンタクト構造、ボトムゲート/トップコンタクト構造、トップゲート/トップコンタクト構造等の構造を有し得る。
【0048】
ゲート電極層、ソース電極層およびドレイン電極層としては、Au、Ag、Al、Cr、CuおよびMo等の金属膜、またはPEDOT:PSS(PEDOT:ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、PSS:ポリスチレンスルホン酸)等の有機導電性薄膜を用いてよい。ゲート絶縁膜としては、パリレン、アモルファスフッ素樹脂、ベンゾシクロブテン、ポリイミド、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂等のポリマー樹脂を用いてよい。有機半導体層としては、ジナフトチエノチオフェン、ペンタセン、チエノチオフェン、ジケトピロロピロール・チエノチオフェンポリマー等を用いてよい。
【0049】
[温度センサの製造方法]
次に、本発明の一の実施形態に係る温度センサの製造方法の一例について以下に説明する。尤も、本発明に係る温度センサの製造方法は以下に説明する製造方法に限定されるものではない。
【0050】
まず、以下に説明する手順でフレキシブル基材上にトランジスタを形成する。ガラス基板等の基板を準備し、イソプロピルアルコール(IPA)およびアセトン等の溶剤で洗浄した後、乾燥させ、窒素ガスで表面をブローする等により基板表面のゴミを除去した。
【0051】
基板上に、剥離剤を塗布して乾燥させる。剥離剤を定着させるために熱処理を行ってよい。剥離剤を塗布した基板上にパリレン(登録商標)を化学気相重合法(CVD法)等により成膜し、フレキシブル基材を作製した。
【0052】
このフレキシブル基材上にトランジスタを作製する。ここでは、真空蒸着法によって有機トランジスタを作製する方法について説明する。まず、フレキシブル基材上にゲート電極層として、真空蒸着法によって金を成膜する。次に、酸素プラズマを照射してゲート電極表面を洗浄する。その後、ゲート絶縁膜として、パリレンを化学気相重合法(CVD法)で成膜する。次に、有機半導体層として、ジナフトチエノチオフェン(DNTT)を成膜する。その上に、ソース電極層およびドレイン電極層として、真空蒸着法によって金を成膜する。次いで、歩留まり向上のためにエージング処理を行う。その上に、中間保護層としてパリレンを成膜する。トランジスタのソース電極層と有機無機複合NTCサーミスタの電極層とを接続するために、中間保護層にレーザー加工法によってビアホールを形成する。
【0053】
次に、トランジスタの上に有機無機複合NTCサーミスタを形成する。有機無機複合NTCサーミスタの製造方法は、概略的には、原料混合物を粉砕する工程と、原料混合物を熱処理して半導体磁器組成物を得る工程と、半導体磁器組成物を粉砕して半導体磁器組成物の粉末を得る工程と、半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層ペーストを得る工程と、トランジスタの上に電極層およびサーミスタ層を形成することにより、有機無機複合NTCサーミスタを得る工程とを含む。
【0054】
まず、Mn源、Ni源およびFe源の粉末を含む原料混合物を粉砕する。Mn源として、例えば、Mn、MnCO等を用いてよい。Ni源として、例えば、NiO、NiCO等を用いてよい。Fe源として、例えば、Fe等を用いてよい。これらの各原料を、MnとNiとのモル比率が85/15≧Mn/Ni≧65/35であり、かつMnおよびNiの総モル量を100モル部としたとき、Feの含有量が30モル部以下であるように秤量して、原料混合物を得る。なお、原料混合物における各元素の組成比は、得られる有機無機複合NTCサーミスタのサーミスタ層に含まれる半導体磁器組成物の粉末における各元素の組成と実質的に同一であるとみなして差し支えない。この原料混合物を粉砕する。原料混合物の粉砕方法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミルを用いて、粉砕媒体(例えばジルコニアからなる粉砕媒体)と共に湿式粉砕してよい。
【0055】
このように粉砕した原料混合物を700℃以上900℃以下の温度で熱処理して、半導体磁器組成物を得る。本実施形態に係る方法において、原料混合物を構成する元素の割合を上述のように設計したことにより、1000℃未満の比較的低い熱処理温度であっても、スピネル構造を有し、B定数が大きい半導体磁器組成物を得ることができる。更に、上述の熱処理により得られる半導体磁器組成物における異相の存在量が少ないので、得られる有機無機複合NTCサーミスタにおけるB定数のばらつきを小さくすることができる。熱処理は、大気中で行うことが好ましい。大気中で熱処理を行うことにより、半導体磁器組成物の粒子の成長を抑制することができる。別法として、異相の形成を抑制したいなどの場合には、窒素雰囲気または酸素雰囲気の下で熱処理を行ってもよい。雰囲気を変更して熱処理を行う場合、所望の半導体磁器組成物を得るために、酸素分圧を適宜変更してよい。
【0056】
上述の半導体磁器組成物を粉砕して、平均粒径が2μm以下の半導体磁器組成物の粉末を得る。本実施形態に係る方法において、半導体磁器組成物の熱処理は比較的低温で行われるので、得られる半導体磁器組成物の硬度を低くすることができる。そのため、粉砕による半導体磁器組成物の微粒化が可能であり、平均粒径が2μm以下の半導体磁器組成物の粉末を得ることが可能である。半導体磁器組成物の粉砕方法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル法により湿式粉砕してよく、あるいは乾式粉砕してもよい。また、粉砕の際に、必要に応じて分散剤等の添加物を配合してもよい。粉砕により得られる半導体磁器組成物の粉末は、場合により乾燥させてよい。有機高分子成分等と混合してサーミスタ層ペーストを調製する前の半導体磁器組成物(原料の半導体磁器組成物)の粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めることができ、メディアン径(D50)として表される。なお、原料の半導体磁器組成物の粉末の平均粒径は、完成品中の有機無機複合NTCサーミスタのサーミスタ層中に存在する半導体磁器組成物の平均粒径と同じであるとみなして差し支えない。
【0057】
原料の半導体磁器組成物の粉末の比表面積は、2m/g以上12m/g以下であることが好ましい。比表面積が2m/g以上であると、サーミスタ層内において、半導体磁器組成物の粉末同士のつながりを効率よく形成することができ、導電パス(パーコレーションパス)を効率よく形成することができる。その結果、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量が少ない場合であっても、優れたサーミスタ特性を有する有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。更に、B定数のばらつきを小さくすることができる。具体的には、例えば、B定数が2500K以上であり、かつB定数のばらつきが±2.5%以内である有機無機複合NTCサーミスタを得ることができる。比表面積が12m/g以下であると、半導体磁器組成物の粉末をサーミスタ層内において効率よく分散することができ、粗大な凝集物の発生を抑えることができる。半導体磁器組成物の粉末の比表面積は、ガス吸着法により測定することができる。なお、サーミスタ層ペーストを調製する前の半導体磁器組成物の粉末の比表面積は、完成品中の有機無機複合NTCサーミスタのサーミスタ層中に存在する半導体磁器組成物の比表面積と同じであるとみなして差し支えない。
【0058】
また、半導体磁器組成物の粉末の比表面積が2m/g以上であると、サーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末の含有量を少なくすることができるので、サーミスタ層における有機高分子成分の含有量を増加させることができる。その結果、サーミスタ層のフレキシブル性が向上し、温度センサを屈曲させた場合であっても、サーミスタ層における割れ等の発生を抑制することができ、温度センサとして機能し得る。更に、比表面積が2m/g以上であると、サーミスタ層の厚さを小さくすることができ、サーミスタ層のフレキシブル性をより一層向上させることができる。加えて、比表面積が2m/g以上であると、サーミスタ層をスクリーン印刷等の印刷手法により形成することが可能である。
【0059】
このようにして得られた半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを混合して、半導体磁器組成物の粉末と、有機高分子成分とを含むサーミスタ層ペーストを得る。半導体磁器組成物および有機高分子成分の割合は、半導体磁器組成物のPVCが30%以上70%以下の範囲となるように設定することが好ましい。サーミスタ層ペーストの混合は、例えば、乳鉢または3本ロールミル等で混錬することにより行ってよい。得られたサーミスタ層ペーストを、ステンレスメッシュ等のふるいに通すことにより、ペーストに含まれ得る凝集物を除去してよい。メッシュの目開きは、除去したい凝集物の大きさに応じて適宜選択することができる。更に、サーミスタ層ペーストに溶剤を添加して撹拌することにより、サーミスタ層ペーストの粘度を印刷に適した粘度に調整してよい。撹拌方法は、サーミスタ層ペーストと溶剤とを一様に撹拌できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、自転公転式撹拌脱泡機を用いて撹拌してよい。溶剤としては、例えば、エチレングリコール、セロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等を用いてよい。溶剤の添加量は、所望のサーミスタ層ペーストの粘度に応じて適宜調節することができる。なお、サーミスタ層ペーストにおける半導体磁器組成物の粉末および有機高分子成分の含有比率と、得られる有機無機複合NTCサーミスタのサーミスタ層における半導体磁器組成物の粉末および有機高分子成分の含有比率とは、実質的に同一であるとみなして差し支えない。
【0060】
次いで、トランジスタの上に、有機無機複合NTCサーミスタの電極層およびサーミスタ層を形成する。ここでは、図5に示す構造を有する有機無機複合NTCサーミスタを形成する場合について主に説明する。まず、上述の中間保護層の上に、有機無機複合NTCサーミスタのくし型電極として、金を成膜する。これにより、有機トランジスタのソース電極と有機無機複合NTCサーミスタのくし型電極とが、ビアホールを介して接続される。
【0061】
くし型電極の上に、サーミスタ層ペーストを印刷等により塗布し、熱処理を行う。サーミスタ層の厚さや熱処理条件は、形成すべきサーミスタ層の厚さやサーミスタ層ペーストの組成に応じて適宜調整することができる。熱処理は、例えば熱風式オーブンにおいて行ってよい。サーミスタ層ペーストを印刷した後の熱処理は、例えば、サーミスタ層が十分に固定化される温度で行えばよい。また、サーミスタ層に含まれる有機高分子成分が熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂の硬化温度以上で熱処理することが好ましい。また、各々の熱処理において、比較的低温で電極層ペーストおよび/またはサーミスタ層ペーストの乾燥を行った後、乾燥温度よりも高い温度で更に加熱を行ってよい。
【0062】
このようにして形成した有機無機複合NTCサーミスタの上に、封止保護層としてパリレンを成膜してよい。最後に、基板から温度センサを剥離して、フィルム状のフレキシブル温度センサが得られる。
【実施例】
【0063】
以下に説明する手順で温度センサを作製した。
【0064】
(ガラス基板の洗浄と剥離処理)
ガラス基板をIPAとアセトンで洗浄した後、120℃で10分間乾燥させ、窒素ガスで表面をブローして埃などのゴミを除去した。ガラス基板上に、剥離剤をスピンコート法で塗布し、乾燥させた。剥離剤を定着させるために120℃で1時間熱処理した。剥離剤を塗ったガラス基板上にパリレンを化学気相重合法(CVD法)で厚さ5μmに成膜し、フィルム温度センサのフレキシブル基材を作製した。
【0065】
(有機トランジスタの作製)
フレキシブル基材上に、真空蒸着法によって、アクティブマトリックス型有機トランジスタを縦12個×横12個の合計144個作製した。まず、フレキシブル基材上にゲート電極層として、真空蒸着法によって金を厚さ50nm成膜した。次に、ゲート電極層の表面に酸素プラズマを照射して電極層表面を洗浄した。その後、ゲート絶縁膜として、パリレンを化学気相重合法(CVD法)で厚さ250nm成膜した。次に、有機半導体層として、DNTTを厚さ20nm成膜した。ソース電極層およびドレイン電極層として、真空蒸着法によって金を厚さ50nm成膜した。次いで、歩留まり向上のためにエージング処理を行った。この上に、中間保護層として、パリレンを厚さ2μm成膜した。中間保護層にレーザー加工法によってビアホールを形成した。
【0066】
(有機無機複合NTCサーミスタの作製)
中間保護層の上に、有機無機複合NTCサーミスタのくし型電極を金で厚さ50nm成膜した。これによって、有機トランジスタのソース電極層と有機無機複合NTCサーミスタのくし型電極を、ビアホールを介して接続した。
【0067】
くし型電極の上に、有機NTCとなるペーストを印刷し、150℃で1時間熱処理した。その上に、封止保護層として、パリレンをCVD法によって厚さ2μm成膜した。最後に、温度センサをガラス基板から剥離して、フィルム状のフレキシブル温度分布センサを完成させた。
【0068】
(温度センサ評価)
フレキシブル温度分布センサを、30℃〜60℃に設定したホットプレート上に置き、有機トランジスタのソース電極とドレイン電極間に−1Vの電圧を印加し、ソース電極とゲート電極間の電圧Vを+20V〜−20Vまで掃引したときのドレイン電流(ソース電極とドレイン電極間に流れる電流)Iを測定した。結果を図6(a)および(b)に示す。なお、図6(a)において、「W/O Load」は有機トランジスタ単独の測定を行った結果を示す。図6(b)はゲート電圧Vを−20Vに固定したときのドレイン電流値Iを示している。図6に示すように、温度に応じて変化するドレイン電流が観測された。これは、温度が高くなると有機無機複合NTCサーミスタの抵抗値が低下し、それにより有機トランジスタのドレイン電流量が増大したからである。このように、ドレイン電流量を計測することにより、温度を測定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る温度センサは、優れたフレキシブル性を有し且つ高い信頼性を有するため、医療用途等の幅広い分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、100 温度センサ
10 有機無機複合負特性サーミスタ
11 電極層
12 電極層
13 サーミスタ層
20 トランジスタ
21 ソース電極
22 ドレイン電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6