(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記診断部は、さらに、前記第1から第5映像のそれぞれに対応する分布マップにおいて視点が前記表示面内に存在する割合を示す視点取得率を算出し、前記視点取得率が所定値以下である場合に、対応する診断結果を無効化し、認知機能障害のうちの前頭側頭型認知症の可能性があると診断する
請求項7に記載の認知機能障害診断装置。
表示面を有する表示部と、撮像部とに接続され、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示す症例特徴データを記憶する記憶部を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、
認知機能障害の診断用映像を前記表示面に表示し、
前記撮像部によって被検者の目を撮像し、
前記撮像部により撮像された画像に基づいて、前記表示面における前記被検者の視点を時系列的に検出し、
検出された視点の分布を示す分布マップを作成し、
前記分布マップが前記症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって前記被検者の認知機能障害を診断する
ことをコンピュータに実行させ、
前記診断用映像は、正解図形を含み正解図形以外の図形を含まない第1画像と、前記正解図形および複数の類似図形を含む第2画像とを含む映像であり、
前記診断用映像の表示では、前記正解図形を前記被検者に記憶させるために前記第1画像を表示し、前記第1画像の表示を終了した直後に前記被検者の記憶力を診断するために前記第2画像を表示し、
前記症例特徴データは、前記第2画像において、被検者の視点が前記正解図形の表示領域に存在する割合が小さいほど、認知機能が低いという特徴を示し、
前記認知機能障害の診断では、前記分布マップにおいて前記正解図形の表示領域に存在する視点の割合を算出し、算出した割合がしきい値以下である場合に、認知機能が低下している可能性ありと診断し、
前記複数の類似図形は、前記正解図形と、図形として、同じ部分と異なる部分とを有する
認知機能障害診断プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0027】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付している。
【0028】
(実施の形態)
以下、実施の形態における認知機能障害診断装置および認知機能障害診断プログラムについて図面を参照しながら説明する。
【0029】
[1.認知機能障害診断装置の構成]
図1は、実施の形態における認知機能障害診断装置の構成例を示すブロック図である。また、
図2は、実施の形態における認知機能障害診断装置の外観例を示す図である。
【0030】
図1に示すように認知機能障害診断装置1は、表示部10、撮像装置20およびPC(Personal Computer、パソコン)30を備える。この認知機能障害診断装置1は、市販されている一般的なPC30を主な制御装置として、さらに、PC30に表示部10および撮像装置20を付加した構成例を示している。
【0031】
表示部10は、表示面11を有するフラットパネル型のディスプレイであり、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示する。表示部10は、
図2に示すように、診断用映像を被検者に見せるために、高齢者でも見やすい大型の液晶ディスプレイ、または有機ELディスプレイである。なお、表示部10は、パソコン用のモニターでもよいし、市販の大型テレビをモニターとしてもよい。また、表示部10は、フラットパネル型のディスプレイの代わりに、表示面11としてのスクリーンと、プロジェクタとから構成してもよい。
【0032】
撮像装置20は、表示部10に取り付け可能なモジュールであり、少なくとも被検者の目を撮像するための撮像部21および光源部24を備える。
【0033】
撮像部21は、カメラ22およびカメラ23を有するステレオカメラである。カメラ22およびカメラ23は、それぞれ例えば赤外線カメラでよい。他の例では、カメラ22およびカメラ23は、それぞれ可視光カメラでよい。また、撮像部21は、ステレオカメラではなく単体のカメラでもよいし、3つ以上のカメラであってもよい。
【0034】
光源部24は、赤外線を照明光として被検者に照射する光源25および光源26を備える。光源25および光源26はそれぞれ、例えば、1つまたは複数の赤外線LED(Light Emitting Diode)を有する構成でよい。他の例では、光源25および光源26はそれぞれ、1つまたは複数の白色LED(Light Emitting Diode)でもよい。なお、被検者の照明環境が十分に明るい場合には、撮像装置20は光源部24を備えなくてもよい。また、撮像装置20は、表示部10の上部に取り付けても良いし、分割して左右に取り付けてもよい。
【0035】
PC30は、プロセッサ31、記憶部32、入力部33、出力部34、表示部35、インターフェース部36、検出部37、作成部38および診断部39を備える。
図1に示す機能ブロックのうち、プロセッサ31、記憶部32、入力部33、出力部34、表示部35およびインターフェース部36は、市販されているコンピュータの一般的なハードウェアおよびソフトウェアにより構成される。他の機能ブロック、つまり検出部37、作成部38および診断部39は、主に本実施の形態における認知機能障害診断プログラムをプロセッサ31が実行することによって実現される構成要素を示している。
【0036】
プロセッサ31は、記憶部32に記憶されたプログラムを実行するいわゆるCPU(Central Processing Unit)である。
【0037】
記憶部32は、プロセッサ31によって実行されるプログラムと、プロセッサ31により処理されるデータとを記憶する。記憶部32に記憶されるプログラムには、各種ファームウェア、OS(Operating System)、ドライバソフトウェア等のソフトウェアに他に、本実施形態における認知機能障害診断プログラムを含む。また、記憶部32に記憶されるデータには、診断用映像データ、症例特徴データ、視点データ、分布マップデータなどが含まれる。診断用映像データは、認知機能障害の診断用に作成された静止画像または動画像である。症例特徴データは、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示すデータである。視点データは、検出部37によって検出された視点の位置と時刻とを示す時系列的なデータである。分布マップは、作成部38によって作成され、視点データに従って時系列的な視点を二次元平面に順次リアルタイムにプロットしたものであり、視点の二次元的な分布を示す。
【0038】
なお、記憶部32は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成されるメインメモリまたは一次メモリと、HDD(Hard Disc Drive)装置やSSD(Solid State Drive)装置で構成される補助メモリまたは二次メモリと、キャッシュメモリとを含む。つまり、本書では記憶部32は、プログラムおよびデータを記憶する機能を有する構成要素の総称として用いている。
【0039】
入力部33は、例えばキーボード、マウス、トラックパッド等を含み、操作者の操作を受け付ける。
【0040】
出力部34は、例えばスピーカであり、音声を出力する。
【0041】
表示部35は、例えば液晶ディスプレイであり、ユーザ(ここでは検査する人)のモニター用に分布マップが重畳された診断用映像などを表示する。
【0042】
インターフェース部36は、ケーブルを介して表示部10および撮像装置20を接続して通信する機能を有する。インターフェース部36は、例えば、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)ポートおよびUSB(Universal Serial Bus)ポートを有する。この場合、インターフェース部36は、HDMI(登録商標)ケーブルを介して表示部10を接続し、USBケーブルを介して撮像部21および光源部24を接続する。
【0043】
検出部37は、撮像部21により撮像された画像に基づいて、表示面11における被検者の視点を時系列的に検出する。例えば、検出部37は、撮像部21により撮像された画像から被検者の視線を検出し、視線が表示面11に交差する点の座標を表示面11における被検者の視点の位置として検出する。視点の位置の検出は、周期的に行われる。周期は、数10mSから数100mSの間で定めればよく、例えば100mSでよい。検出部37は、例えば、時刻を含む座標データ(x、y、t)の集合を、時系列的な視点の位置を表す視点データとしてリアルタイムに生成する。ここで、x、yは平面(例えば、表示面11または診断用映像)の座標、tは時刻である。
【0044】
作成部38は、検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する。分布マップは、例えば、上記座標データ(x、y、t)に対応するマーク(例えば色付きドット)を二次元平面上にプロットした図であり、PC30の表示部35に表示される診断用映像にリアルタイムに重畳される。上記のマークは、例えば、最新の視点ほど明るく表示してもよい。
【0045】
診断部39は、分布マップが症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能を診断する。
【0046】
以上のように、
図1に示す認知機能障害診断装置1は、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、前記撮像部21により撮像された画像に基づいて、前記表示面11における前記被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、前記検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部38と、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示す症例特徴データ310を記憶する記憶部32と、前記分布マップが前記症例特徴データ310の特徴を有するかどうかを判定することによって前記被検者の認知機能障害を診断する診断部39とを備える。
【0047】
この構成によれば、認知機能障害診断装置1による認知機能の診断において、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0048】
なお、
図1および
図2に示すPC30は、ノート型のコンピュータであってもデスクトップ型のコンピュータであってもよい。
【0049】
[1.1 記憶部32のプログラムおよびデータ]
次に、記憶部32に記憶されるプログラムおよびデータについて説明する。
【0050】
図3は、実施の形態における記憶部32の記憶内容の一例を示す図である。同図において記憶部32は、診断用映像データ300、症例特徴データ310、プログラム320、視点データ322、分布マップデータ323を記憶する。プログラム320は、認知機能障害診断プログラム321を含む。
【0051】
診断用映像データ300は、第1映像データ301から第5映像データ305を含む複数の映像データの集まりである。複数の映像データのそれぞれは、認知機能障害の有無もしくは程度を診断するために作成された映像、または、認知機能障害の症例を鑑別するために作成された映像である。
【0052】
症例特徴データ310は、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示すデータであって、第1特徴データ311から第5特徴データ315を含む複数の特徴データの集まりである。第1特徴データ311から第5特徴データ315は、第1映像データ301から第5映像データ305とそれぞれ対応する。
【0053】
プログラム320は、各種ファームウェア、OS(Operating System)、ドライバソフトウェア等のソフトウェアと、認知機能障害診断プログラム321とを含む。認知機能障害診断プログラム321は、コンピュータつまりPC30が実行するプログラムであって、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示し、撮像部21によって被検者の目を撮像し、撮像部21により撮像された画像に基づいて表示面11における被検者の視点を時系列的に検出し、検出された視点の分布を示す分布マップを作成し、分布マップが症例特徴データの特徴を分布マップが有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能障害を診断することをコンピュータに実行させる。このうち、PC30が撮像部21により撮像された画像に基づいて前記表示面11における被検者の視点を時系列的に検出することは、検出部37の機能である。PC30が、検出された視点の分布を示す分布マップを作成することは、上記の作成部38の機能である。PC30が、分布マップが症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって被検者の認知機能障害を診断することは診断部39の機能である。
【0054】
視点データ322は、検出部37により検出された視点の位置と時刻とを示す時系列的なデータであり、例えば、既に説明した時刻を含む座標データ(x、y、t)の集合である。
【0055】
分布マップデータ323は、既に説明した分布マップを示すデータである。
【0056】
なお、記憶部32は、
図3に示したプログラムおよびデータ以外に、被検者の診断結果を示す診断データや、被検者毎の視点データ322、分布マップデータ323および診断データを関連づけるデータも記憶する。
【0057】
続いて、症例特徴データ310の具体例について説明する。
【0058】
図4は、実施の形態における症例特徴データ310の一例を示す図である。同図の症例特徴データ310は、第1特徴データ311から第6特徴データ316を含む。同図では、第1特徴データ311から第6特徴データ316それぞれの特徴と対応する認知機能障害の症例とを記してある。
【0059】
第1特徴データ311は、第1特徴と前頭側頭型認知症とを対応付けている。前頭側頭型認知症は、FTD(Fronto-Temporal Dementia)と略記されることがある。第1特徴は、前頭側頭型認知症という症例の患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第1特徴は、一点を中心とする局所的な部分に視点が連続的に集中するという特徴を示す。この第1特徴は、一点注視パターンとも呼ばれる。第1特徴は、第1映像データ301による診断用映像である第1映像を被検者に見せていることを前提とする。この場合、第1映像は、例えば、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した画像でよい。
【0060】
第2特徴データ312は、第2特徴と認知機能の低下とを対応付けている。すなわち、第2特徴は、認知機能が低下している患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第2特徴は、分布マップにおいて被検者の視点が正解図形の表示領域に存在する割合が小さいほど、認知機能が低いという特徴を示す。この第2特徴は、第2映像データ302による診断用映像である第2映像を被検者に見せていることを前提とする。この場合、第2映像は、正解図形を含み正解図形以外の図形を含まない第1画像と、正解図形および複数の類似図形を含む第2画像とを含む映像でよい。第2画像は、第1画像を表示した直後に表示される。上記の分布マップは、被検者が第2画像を見ているときの視点の分布である。
【0061】
第3特徴データ313は、第3特徴と大脳皮質基底核変性症とを対応付けている。すなわち、第3特徴は、大脳皮質基底核変性症の患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第3特徴は、画像の左側半分に視点が存在しないという特徴、言い換えれば、左側半側空間を無視するという特徴を示す。この第3特徴は、第3映像データ303による診断用映像である第3映像を被検者に見せていることを前提とする。この場合、第3映像は、例えば、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した静止画でよい。
【0062】
第4特徴データ314は、第4特徴とレビー小体型認知症とを対応付けている。すなわち、第4特徴は、レビー小体型認知症の患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第4特徴は、人の顔の幻視を誘発する誘発画像に視点が集中するという特徴を示す。この第4特徴は、第4映像データ304による診断用映像である第4映像を被検者に見せていることを前提とする。この場合、第4映像は、誘発画像と、人の顔の幻視を誘発しない複数の非誘発画像の両方を含む静止画像でよい。
【0063】
第5特徴データ315は、第5特徴と認知機能の低下とを対応付けている。すなわち、第5特徴は、認知機能が低下している患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第5特徴は、映像中の移動する物体を追視するのが困難であるという特徴を示す。この第5特徴は、第5映像データ305による診断用映像である第5映像を被検者に見せていることを前提とする。この場合、第5映像は、例えば、表示面11を移動する物体を表した動画でよい。
【0064】
第6特徴データ316は、第6特徴と前頭側頭型認知症とを対応付けている。すなわち、第6特徴は、前頭側頭型認知症の患者に典型的に現れる特徴である。具体的には、第6特徴は、視点取得率が所定値(この所定値を第2のしきい値th2と呼ぶ)以下になるという特徴を示す。ここで、視点取得率は、分布マップにおいて視点が表示面11内に存在する割合をいう。この第6特徴は、任意の診断用映像を被検者に見せていることを前提とする。この診断用映像は、第1映像から第5映像の全部または一部と兼用してもよい。
【0065】
上記の視点取得率は、認知機能障害診断装置1による認知機能障害の診断の有効性を示す指標である。すなわち、分布マップにおいて視点が表示面11から外れている割合が大きければ、認知機能障害診断装置1による第6特徴データ316以外の特徴データによる、認知機能障害の診断結果の有効性を担保できない。そこで、視点取得率が所定値(所定値を第1のしきい値th1と呼ぶ)以下である場合には、第6特徴データ316以外の特徴データによる診断結果を無効化し、視点取得率が第1のしきい値より大きい場合には、認知症機能障害診断装置1による診断結果を有効なものとする。視点取得率が0から1までの値で表される場合、第1のしきい値th1は、例えば0.8である。また、第2のしきい値th2は、第1のしきい値th1と同じ値でもよいし、異なる値でもよい。
【0066】
[1.2 認知機能障害診断装置1の動作]
以上のように構成された実施の形態における認知機能障害診断装置1について、その動作を説明する。
【0067】
図5は、実施の形態における認知機能障害診断装置1による診断処理例を示すフローチャートである。また、
図6は、
図5の診断処理例に要する時間の一例を示す図である。
【0068】
図5および
図6に示すように、認知機能障害診断装置1は、第1診断処理(S10)から第5診断処理(S50)を逐次実行する。ただし、第6診断処理は、
図6のように第1診断処理から第5診断処理と並列に実行される。
図5および
図6の診断処理例は、主にPC30が認知機能障害診断プログラム321を実行することにより実現する処理である。また、
図6の横軸の時刻t0〜t5は、各診断処理の開始時刻または終了時刻を示す。
図6では、時刻t0〜t5は、均等に0.5分(30秒)間隔としている。
【0069】
第1診断処理は、第1映像データ301および第1特徴データ311を用いる診断処理である。第2診断処理は、第2映像データ302および第2特徴データ312を用いる診断処理である。第3診断処理は、第3映像データ303および第3特徴データ313を用いる診断処理である。第4診断処理は、第4映像データ304および第4特徴データ314を用いる診断処理である。第5診断処理は、第5映像データ305および第5特徴データ315を用いる診断処理である。第6診断処理は、第6特徴データ316を用いる診断処理である。また、分布マップデータ323は、第1映像から第5映像に対応する第1分布マップから第5分布マップを含む。
【0070】
図6では、第1診断処理から第5診断処理それぞれの時間は、0.5分である。第6診断処理の時間は、第1診断処理から第5診断処理と並列に行うので2分30秒である。同図では、第1診断処理から第6診断処理までの6つの診断処理に要する時間は約2分30秒である。これは、現在でも利用されている一般的なMMSEによる質問形式の認知機能障害の診断方法が約30分かかる点と比較すれば、認知機能障害診断装置1は、複数の診断処理の時間を大幅に短縮している。
【0071】
なお、第1診断処理から第5診断処理それぞれの時間は、0.5分(30秒)でなくてもよく、約10秒から数10秒の間で定めてもよい。また、第1診断処理から第6診断処理までの全体の処理時間は、数分以下、例えば3分以下に定めてもよい。
【0072】
また、第1診断処理から第5診断処理のそれぞれにおいて認知機能の低下が全く見られず健常と判断される場合には、途中で処理を完了してもよい。
【0073】
なお、第1診断処理から第5診断処理の順番は、
図5および
図6とは異なる順番であってもよい。例えば、認知機能の低下を診断する第2診断処理および第5診断処理を実行した後に、認知機能障害の症例を鑑別可能な第1診断処理、第3診断処理、第4診断処理を実行してもよい。
【0074】
また、
図5および
図6において、第1診断処理から第6診断処理のうちの少なくとも1つを選択して実行してもよい。一例として、認知機能の低下を診断する第2診断処理および第5診断処理を選択して実行してもよい。他の例として、認知機能障害の症例を鑑別可能な第1診断処理、第3診断処理、第4診断処理を選択して実行してもよい。さらに他の例として、第1診断処理から第6診断処理のうちの何れか1つを選択して実行してもよい。さらに別の例として、認知機能の低下を診断する第2診断処理および第5診断処理と、診断処理の有効性も判定する第6診断処理とを実行し、認知機能の低下があると診断された場合には、他の第1診断処理、第3診断処理および第4診断処理を実行するようにしてもよい。
【0075】
なお、
図5および
図6の診断処理例の開始前に、視点検出のキャリブレーション処理を行ってもよい。
【0076】
[1.2.1 第1診断処理]
次に、第1診断処理について詳しく説明する。第1診断処理は、上記の第1特徴を利用している。つまり、第1診断処理は、前頭側頭型認知症の患者には、一点を凝視し続けるという一点注視パターンが見られるという特徴を利用している。
【0077】
図7は、
図5の第1診断処理(S10)の一例を示すフローチャートである。
図7のようにPC30は、まず、記憶部32から第1映像データ301を読み出して、表示部10において第1映像データ301が示す第1映像の表示を開始させる(S11)。
【0078】
図13Aは、実施の形態における第1映像の表示例を示す図である。
図13Aにおいて表示面11には、スカイダイビングで空中を落下する複数人と、地上とを撮像した画像V11が表示されている。画像V11は、
図13Aでは便宜上線画で表しているが、実際はフルカラー画像でよい。
【0079】
PC30は、
図6の時刻t0からt1まで、
図13Aのような画像V11を表示する。あるいは、
図13Aのような画像V11を表示した後に他の画像を表示してもよい。
【0080】
さらに、PC30は、撮像部21において被検者の目の撮像を開始させる、あるいは、撮像中である場合は撮像を継続させ(S12)、被検者の視点の検出を開始し、あるいは、検出中である場合は継続する(S13)。さらに、PC30は、第1映像の表示開始時から終了時まで検出部37から視点データを取得し、第1映像に対応する第1分布マップをリアルタイムに作成し(S14)、表示部35に第1映像を表示し、表示部35の第1映像に第1分布マップを重畳する。表示部10および表示部35における第1映像の表示、撮像部21による撮像、PC30(より詳しくは
図1の検出部37)による視点の検出、および、PC30(より詳しくは
図1の作成部38)による第1マップの作成は、並列に実行される。
【0081】
その後、PC30は、第1分布マップが症例特徴データの第1特徴を含むかどうかを判定し(S15)、含む場合には(S16でyes)前頭側頭型認知症の可能性があると診断する(S17)。第1特徴は、一点注視パターンであって、前頭側頭型認知症の患者は、ある一点を凝視し続けるという特徴があり、言い換えると、一点を中心とする局所的な部分に視点が集中するという特徴を示す。
【0082】
図13Bは、
図13Aの第1映像に視点の第1分布マップを重ねた表示例を示す図である。
図13Bでは、PC30の表示部35における表示例であって、前頭側頭型認知症の患者が被検者である場合に、第1映像に含まれる画像V11に第1分布マップを重畳した表示例である。
図13Bにおいて、黒丸1つが検出された1つの視点を表している。破線枠A11には少数の視点があり、破線枠A12には圧倒的多数の視点が集まっている。この第1分布マップは、破線枠A12において、一点注視パターンという特徴を含んでいる。
【0083】
以上のように、第1診断処理において、前記診断用映像は、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した画像Vを含み、前記症例特徴データ310は、一点を中心とする局所的な部分に視点が連続的に集中する一点注視パターンという特徴を示し、前記診断部39は、前記分布マップが前記特徴を有する場合に、認知機能障害のうちの前頭側頭型認知症の可能性があると診断する。
【0084】
これにより、第1診断処理は、認知機能障害のうちの前頭側頭型認知症を簡便に鑑別することができる。しかも、第1診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0085】
[1.2.2 第2診断処理]
次に、第2診断処理について詳しく説明する。第2診断処理は、上記の第2特徴を利用した図形パターンマッチングによる認知機能障害の診断処理である。すなわち、第2診断処理は、特定の図形を提示し、その後複数の異なる図形と共に正解図形(つまり初めに提示した特定の図形)を提示し、被検者が正解図形をどのくらい注視できているかを評価することによって、認知機能の低下を診断する。
【0086】
図8は、
図5の第2診断処理(S20)の一例を示すフローチャートである。
図8のようにPC30は、まず、記憶部32から第2映像データ302を読み出して、表示部10において第2映像データ302が示す第2映像の表示を開始させる(S21)。第2映像は、正解図形を含み正解図形以外の図形を含まない第1画像と、前記正解図形および複数の類似図形を含む第2画像とを含む映像である。第2画像は第1画像の表示が終了した直後に表示される。
【0087】
図14Aは、実施の形態における第2映像の表示例を示す図である。
図14Aの上段は、表示面11表示された第1画像V21の表示例である。第1画像V21は、正解図形P20を含み、他の図形を含んでいない。なお、正解図形は、被検者に最初に提示される1つの図形をいい、第2診断処理で最初に表示される第1画像中の1つの図形をいう。この第1画像V21の表示時間は、例えば、5〜20秒間でよい。なお、第1画像は、「この図形をよく覚えて下さい」等の正解図形の記憶を促すメッセージ画像を含んでいてもよい。また、PC30は、第1画像の表示と共に、「この図形をよく覚えて下さい」というメッセージ音声を被検者に繰り返し伝えてもよい。さらに、PC30は、メッセージ画像とメッセージ音声の両方を用いてもよい。
【0088】
さらに、PC30は、撮像部21において被検者の目の撮像を開始させる、あるいは、撮像中である場合は撮像を継続させ(S22)、被検者の視点の検出を開始し、あるいは、検出中である場合は継続する(S23)。さらに、PC30は、第1映像の表示開始時から終了時まで検出部37から視点データを取得し、第2映像に対応する第2分布マップをリアルタイムに作成し(S24)、表示部35に第2映像を表示し、表示部35の第2映像に第2分布マップを重畳する。このとき、PC30は、第2分布マップとして、第1画像が表示されている期間の視点の分布を示す第1部分マップと、第2画像が表示されている期間の視点の分布を示す第2部分マップとをそれぞれリアルタイムに生成する。つまり、第2分布マップは、第1部分マップと第2部分マップの2つからなる。なお、表示部10および表示部35における第2映像の表示、撮像部21による撮像、PC30(より詳しくは
図1の検出部37)による視点の検出、および、PC30(より詳しくは
図1の作成部38)による第2分布マップの作成は、並列に実行される。
【0089】
図14Aの下段は、表示面11表示された第2画像V22の表示例である。第2画像V22は、正解図形P20の他に、類似図形P21、P22、P23を含む。類似図形P21、P22、P23は、それぞれ正解図形に類似する図形であり、正解図形と同じ部分と異なる部分とを有する。この第2画像V22の表示時間は、例えば、5秒〜15秒でよい。なお、第2画像は、「先の図形と同じ図形を見つめて下さい」等の正解図形への注視を促すメッセージ画像を含んでいてもよい。またに、PC30は、第2画像の表示中に、「先の図形と同じ図形を見つめて下さい」等の正解図形への注視を促すメッセージ音声を被検者に繰り返し伝えてもよい。さらに、PC30は、メッセージ画像とメッセージ音声の両方を用いてもよい。
【0090】
その後、PC30は、第2分布マップが症例特徴データの第2特徴を含むかどうかを判定する。具体的には、PC30は、第2部分マップにおいて正解図形の表示領域に視点が存在する割合を算出して、算出した割合がしきい値以下であるかどうかを判定する(S25)。さらに、PC30は、割合がしきい値以下である場合には(S26でyes)認知機能低下の可能性がある診断する(S27)。このしきい値は例えば0.5(つまり50%)でもよい。また、PC30は、視点が正解図形の表示領域に存在する割合を正規化することにより点数化し(S28)、表示部35に点数を表示する。例えば、PC30は、上記の割合が0%〜20%なら1点、20%〜40%なら2点、40%〜60%なら3点、60%〜80%なら4点、80%〜100%なら5点というように、5点満点の点数化をしてもよい。このような点数化における点数の意味については、例えば、5点は健常者を示す。4点は認知機能の低下がほとんど見られないこと、つまり健常者を示す。3点は、認知機能の低下が少しあり、認知機能の軽微な低下があること、つまり健常と認知症のボーダーライン上にあることを示す。2点は、認知機能の軽い低下があること、つまり重くない初期認知症患者であることを示す。1点は、認知機能の低下が大きいこと、つまり重い認知症であることを示す。
【0091】
図14Bは、
図14Aの第2映像中の第1画像V21に、第2分布マップ中の第1部分マップを重ねた表示例を示す図である。
図14Bでは、PC30の表示部35における表示例である。図中の黒丸1つが検出された1つの視点を表している。
図14Bの第1画像V21は、被検者に正解図形P20の記憶を促している。同図では、破線枠A20に示すように、正解図形P20の表示領域に多数の視点が集中していることから、被検者が正解図形P20を注視して正解図形P20の記憶に努めていることが分かる。
【0092】
図14Cは、
図14Aの第2映像中の第2画像V22に、健常者の第2分布マップ中の第2部分マップを重ねた表示例を示す図である。同図は、表示部35における表示例を示す。同図の破線枠A21に示すように、正解図形P20に表示領域には、類似図形P21〜P23の表示領域よりも多くの視点が存在している。この例では、正解図形の表示領域に視点が存在する割合がしきい値(例えば50%)以上になることから、PC30は、ステップS26でnoと判定し、認知機能が低下している可能性があると診断することなく、ステップS28の点数化で5点満点の5点または4点と算出することになる。
【0093】
図14Dは、
図14Aの第2映像中の第2画像V22に、アルツハイマー型認知症患者の第2部分マップを重ねた表示例を示す図である。同図も表示部35における表示例を示す。
図14Dは、
図14Cと比べて、視点が正解図形P20の表示領域に集まることなく、正解図形P20および類似図形P21〜P23の表示領域にランダムに存在している。
図14Dの例では、正解図形P20の表示領域に視点が存在する割合がしきい値(例えば50%)より小さくなることから、PC30は、ステップS26でyesと判定し、ステップS27で認知機能が低下している可能性があると診断し、ステップS28の点数化で5点満点の1点または2点と算出することになる。
【0094】
続いて、第2診断処理の点数化における点数と一般的なMMSEによる点数とを比較して説明する。
【0095】
図18は、実施の形態における第2診断処理による認知機能スコアと従来のMMSE法による認知機能スコアとを対比した図である。同図の縦軸は、第2診断処理における認知機能スコアであり、ステップS28の点数化における上記の5点満点の点数を示す。横軸は、従来のMMSEによる認知機能スコアを示す。MMSEによる認知機能スコアは、30点満点であり、30点なら健常者、点数が低いほど認知機能が低下していることを示す。
【0096】
同図では、認知症の有無および病型(原因疾患)が予め分かっている約20人の被検者が第2診断処理とMMSEによる診断との両方を受けた結果を示している。同図において、バツ印は、アルツハイマー病またはMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知機能障害)の被検者を示す。白丸印は、健常者または生理的物忘れのある被検者を示す。黒丸印は、レビー小体型認知症の被検者を示す。上に凸の三角印は、前頭側頭型認知症の被検者を示す。下の凸の三角印は、皮質基底核変性症の疑いのある被検者を示す。菱形印は、脳血管性認知症の疑いのある被検者を示す。四角印は、意味性認知症の被検者を示す。
【0097】
図18において、第2診断処理による認知機能スコアと従来のMMSE法による認知機能スコアとは、おおむね相関している。すなわち、第2診断処理が、従来のMMSEのように被検者の認知機能を評価できている。
【0098】
さらに、第2診断処理では、破線枠A18に示すように、MMSEでは高得点になり健常者と評価されるが、認知症が始まっている初期の患者を検出することができている。破線枠A18内の被検者は、脳脊髄液検査によって初期認知症であると診断されている。このように、第2診断処理は、従来のMMSEよりも高感度に認知機能障害を診断することができている。
【0099】
以上のように、第2診断処理において、前記診断用映像は、正解図形P20を含み正解図形P20以外の図形を含まない第1画像と、前記正解図形および複数の類似図形P21〜P23を含む第2画像とを含む映像であって、前記表示部10は、前記正解図形を前記被検者に記憶させるために前記第1画像を表示し、前記第1画像の表示を終了した直後に前記被検者の記憶力を診断するために前記第2画像を表示し、前記症例特徴データは、前記第2画像において、被検者の視点が前記正解図形の表示領域に存在する割合が小さいほど、認知機能が低いという特徴を示し、前記診断部39は、前記分布マップにおいて前記正解図形の表示領域に存在する視点の割合を算出し、算出した割合がしきい値以下である場合に、認知機能が低下している可能性ありと診断する。
【0100】
これによれば、第2診断処理は、認知機能の低下を簡便に診断することができる。また、第2診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0101】
ここで、前記診断部39は、さらに、前記正解図形の表示領域に存在する視点の割合を正規化することにより点数化してもよい。
【0102】
これによれば、認知機能の低下の度合いを定量化することができる。第2診断処理は、従来のMMSEと同様の診断結果を得ることができ、加えて、従来のMMSEでは検出できない初期認知症を検出することができる。
【0103】
なお、
図8において、ステップS28をステップS25とS26の間で実行し、ステップS26のしきい値を所定の点数(例えば5点満点中の2点)としてもよい。言い換えれば、PC30は、
図8のステップS25の後に、算出した割合を正規化することにより点数化した後に、当該点数がしきい値以下である場合に認知機能低下の可能性があると診断するようにしてもよい。
【0104】
また、上記の正解図形は、図形に限らず文字または画像でもよいし、図形、文字および画像等の任意の組み合わせでもよい。同様に、類似図形は、図形に限らず文字または画像でもよいし、図形、文字および画像等の任意の組み合わせでもよい。
【0105】
[1.2.3 第3診断処理]
次に、第3診断処理について詳しく説明する。第3診断処理は、上記の第3特徴を利用している。つまり、第3診断処理は、大脳皮質基底核変性症の患者には左側半側空間を無視するという特徴が見られることを利用している。
【0106】
図9は、
図5の第3診断処理(S30)の一例を示すフローチャートである。
図9のようにPC30は、まず、記憶部32から第3映像データ303を読み出して、表示部10において第3映像データ303が示す第3映像の表示を開始させる(S31)。
【0107】
図15A、
図15C、
図15Eは、実施の形態における第3映像の第1例、第2例、第3例をそれぞれ示す図である。
【0108】
図15Aにおいて表示面11には、第3映像として魚群の画像V31が表示されている。
図15Cにおいて表示面11には、第3映像として横断歩道、信号機、子供および自動差を表した画像V32が表示されている。
図15Eにおいて表示面11には、第3映像としてスーパーマーケットの棚および客を表した画像V33が表示されている。画像V31〜画像V33は、便宜上線画で表しているが、実際はフルカラー画像でよい。
【0109】
PC30は、第3診断処理の期間中(
図6では時刻t2からt3までの期間中)、画像V31〜画像V33のうちの1つを表示しても良いし、画像V31〜画像V33のうちの複数を順次切り替えて表示してもよい。
【0110】
さらに、PC30は、撮像部21において被検者の目の撮像を開始させる、あるいは、撮像中である場合は撮像を継続させ(S32)、被検者の視点の検出を開始し、あるいは、検出中である場合は継続する(S33)。さらに、PC30は、第3映像の表示開始時から終了時まで検出部37から視点データを取得し、第3映像に対応する第3分布マップをリアルタイムに作成し(S34)、表示部35に第3映像を表示し、表示部35の第3映像に第3分布マップを重畳する。上記の表示部10および表示部35における第3映像の表示、撮像部21による撮像、PC30(より詳しくは
図1の検出部37)による視点の検出、および、PC30(より詳しくは
図1の作成部38)による第3分布マップの作成は、並列に実行される。
【0111】
その後、PC30は、第3分布マップが症例特徴データの第3特徴を含むかどうかを判定し(S35)、含む場合には(S36でyes)大脳皮質基底核変性症の可能性があると診断する(S37)。第3特徴は、左側半側空間無視という特徴であって、画像の左側半分に視点が存在しないという特徴を示す。
【0112】
図15B、
図15D、
図15Fは、
図15A、
図15C、
図15Eの第3映像に第3分布マップを重ねた表示例をそれぞれ示す図である。
図15B、
図15Dおよび
図15Fでは、大脳皮質基底核変性症の被検者による第3分布マップを重畳している。これらの図のいずれも、画像の右側半分の破線枠A31、A32およびA33内には視点が存在するが左側半分には視点が存在しない。つまり、これらの図に重畳された第3分布マップは、第3特徴(つまり左側半側空間無視という特徴)を含んでいる。
【0113】
図15B、
図15Dおよび
図15Fの例では、PC30は、ステップS35において、第3分布マップが第3特徴を含むと判定し、ステップS37において大脳皮質基底核変性症の可能性があると診断することになる。
【0114】
以上のように、第3診断処理において、前記診断用映像は、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した静止画を含み、前記症例特徴データは、左側の空間を無視するという特徴と、当該特徴が認知機能障害のうちの大脳皮質基底核変性症に対応することを示し、前記診断部39は、前記分布マップが前記特徴に該当する場合に、認知機能障害のうちの大脳皮質基底核変性症の可能性があると診断する。
【0115】
これにより、第3診断処理は、認知機能障害のうちの大脳皮質基底核変性症を簡便に鑑別することができる。しかも、第3診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0116】
[1.2.4 第4診断処理]
次に、第4診断処理について詳しく説明する。第4診断処理は、上記の第4特徴を利用している。つまり、第4診断処理は、レビー小体型認知症の患者には、人の顔の幻視を誘発する誘発画像に視点が集中するという特徴が見られることを利用している。
【0117】
図10は、
図5の第4診断処理(S40)の一例を示すフローチャートである。
図10のようにPC30は、まず、記憶部32から第4映像データ304を読み出して、表示部10において第4映像データ304が示す第4映像の表示を開始させる(S41)。
【0118】
図16Aは、実施の形態における第4映像の例を示す図である。
図16Aにおいて表示面11には、第4映像として静止画像V41が表示されている。静止画像V41は、人の顔の幻視を誘発する誘発画像P40と、幻視を誘発しない複数の非誘発画像P41、P42とを含む。誘発画像P40、非誘発画像P41、P42は、いずれも花の画像である。なお、
図16Aでは第4映像は線画であるが、フルカラー画像でよい。
【0119】
PC30は、第4診断処理の期間中(
図6では時刻t3からt4までの期間中)、1つの静止画像V41を表示してもよいし、誘発画像と複数の非誘発画像を含む複数の静止画像を順次切り替えて表示してもよい。なお、第4映像は、「気になるものを見つめて下さい」等の注視を促すメッセージ画像を含んでいてもよい。また、PC30は、第4映像の表示中に、「気になるものを見つめて下さい」等の注視を促すメッセージ音声を被検者に繰り返し伝えてもよい。さらに、PC30は、メッセージ画像とメッセージ音声の両方を用いてもよい。
【0120】
さらに、PC30は、撮像部21において被検者の目の撮像を開始させる、あるいは、撮像中である場合は撮像を継続させ(S42)、被検者の視点の検出を開始し、あるいは、検出中である場合は継続する(S43)。さらに、PC30は、第4映像の表示開始時から終了時まで検出部37から視点データを取得し、第4映像に対応する第4分布マップをリアルタイムに作成し(S44)、表示部35に第4映像を表示し、表示部35の第4映像に第4分布マップを重畳する。上記の表示部10および表示部35における第4映像の表示、撮像部21による撮像、PC30(より詳しくは
図1の検出部37)による視点の検出、および、PC30(より詳しくは
図1の作成部38)による第4分布マップの作成は、並列に実行される。
【0121】
その後、PC30は、第4分布マップが症例特徴データの第4特徴を含むかどうかを判定し(S45)、含む場合には(S46でyes)レビー小体型認知症の可能性があると診断する(S47)。
【0122】
図16Bは、
図16Aの第4映像に、アルツハイマー型認知症患者の第4分布マップを重ねた表示例を示す図である。また、
図16Cは、
図16Aの第4映像に、レビー小体型認知症患者の第4分布マップを重ねた表示例を示す図である。
【0123】
図16Bの第4分布マップでは誘発画像P40、非誘発画像P41およびP42にほぼ均等に視点が存在する。これに対して、
図16Cの第4分布マップでは、誘発画像P40に視点が集中し、非誘発画像P41およびP42には視点が存在しない。つまり、
図16Bの第4分布マップは第4特徴を含まないのに対して、
図16Cの第4分布マップは、第4特徴を含む。
【0124】
図16Bの例では、PC30は、ステップS45において、第4分布マップが第4特徴を含まないと判定するので、レビー小体型認知症の可能性があるとは診断しない。
【0125】
図16Cの例では、PC30は、ステップS45において、第4分布マップが第4特徴を含むと判定し、ステップS47においてレビー小体型認知症の可能性があると診断することになる。
【0126】
以上のように、第4診断処理において、前記診断用映像は、幻視を誘発する誘発画像と、幻視を誘発しない複数の非誘発画像とを含む静止画像を含み、前記症例特徴データは、前記誘発画像への視点の集中を示し、前記診断部39は、前記分布マップにおいて視点が前記誘発画像に集中している場合に、認知機能障害のうちのレビー小体型認知症の可能性があると診断する。
【0127】
これにより、第4診断処理は、認知機能障害のうちのレビー小体型認知症を簡便に鑑別することができる。しかも、第4診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0128】
[1.2.5 第5診断処理]
次に、第5診断処理について詳しく説明する。第5診断処理は、上記の第5特徴を利用している。つまり、第5診断処理は、認知機能が低下している患者には、映像において移動する物体を追視するのが困難であるという特徴が見られることを利用している。
【0129】
図11は、
図5の第5診断処理(S50)の一例を示すフローチャートである。
図11のようにPC30は、まず、記憶部32から第5映像データ305を読み出して、表示部10において第5映像データ305が示す第5映像の表示を開始させる(S51)。
【0130】
図17は、実施の形態における第5映像の例を示す図である。
図17の上段、中段、下段は、時間の経過とともに移動する物体(同図ではコインC1)を表す動画V51が第5映像として表示面11に表示されている。同図のコインC1の画像は、図中の破線で示すように表示面11を上下左右に移動する。なお、
図17では第5映像は線画であるが、フルカラー動画でよい。
【0131】
PC30は、第5診断処理の期間中(
図6では時刻t4からt5までの期間中)、1つの動画V51を表示してもよいし、物体が移動する複数の動画を順次切り替えて表示してもよい。なお、第5映像は、「コインを見つめて下さい」等の注視を促すメッセージ画像を含んでいてもよい。また、PC30は、第5映像の表示中に、「コインを見つめて下さい」等の注視を促すメッセージ音声を被検者に繰り返し伝えてもよい。さらに、PC30は、メッセージ画像とメッセージ音声の両方を用いてもよい。
【0132】
さらに、PC30は、撮像部21において被検者の目の撮像を開始させる、あるいは、撮像中である場合は撮像を継続させ(S52)、被検者の視点の検出を開始し、あるいは、検出中である場合は継続する(S53)。さらに、PC30は、第5映像の表示開始時から終了時まで検出部37から視点データを取得し、第5映像に対応する第5分布マップをリアルタイムに作成し(S54)、表示部35に第5映像を表示し、表示部35の第5映像に第5分布マップを重畳する。上記の表示部10および表示部35における第5映像の表示、撮像部21による撮像、PC30(より詳しくは
図1の検出部37)による視点の検出、および、PC30(より詳しくは
図1の作成部38)による第5分布マップの作成は、並列に実行される。
【0133】
その後、PC30は、第5分布マップが症例特徴データの第5特徴を含むかどうかを判定し(S55)、含む場合には(S56でyes)認知機能が低下している可能性があると診断する(S57)。
【0134】
以上のように、第5診断処理において、前記診断用映像は、前記表示面を移動する物体を表した映像(V51)を含み、前記症例特徴データは、前記移動する物体に視点が追従できないことであり、前記診断部39は、前記分布マップにおいて視点が前記物体の移動に追従していない場合に、認知機能が低下している可能性ありと診断する。
【0135】
これにより、第5診断処理は、認知機能の低下を簡便に診断することができる。しかも、第5診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0136】
[1.2.6 第6診断処理]
次に、第6診断処理について詳しく説明する。第6診断処理は、上記の第6特徴を利用している。つまり、第6診断処理は、前頭側頭型認知症の患者には、他の症例の認知症患者と比べて視点取得率が低い特徴が見られることを利用している。視点取得率は、視点が表示面11内に存在する時間的な割合をいう。視点が表示面11から外れるほど視点取得率は小さくなる。
【0137】
図12は、
図6の第6診断処理(S60)の一例を示すフローチャートである。同図の第6診断処理は、
図6のように、第1診断処理から第5診断処理と並列に実行する例を示している。ループ1(S61〜S69)は、第1診断処理から第5診断処理に同期して実行される5回の繰り返しからなる。
【0138】
i=1(つまり1回目の繰り返し)のとき、表示部10には第1映像が表示されている。PC30は、第1映像が表示されている期間(
図6では時刻t=0からt=t1までの期間)、検出部37から視点データを取得する(S62、S63)。PC30は、第1映像の表示終了時(
図6では時刻t1)に、第1映像が表示されている期間における視点取得率P1を算出し(S64)、算出した視点取得率P1が第1しきい値th1よりも小さければ(S65でyes)、第1診断処理を無効化し(S66)、算出した視点取得率P1が第2しきい値th2よりも小さければ(S67でyes)、前頭側頭型認知症の可能性があると診断する(S68)。ここで、第1しきい値th1は、第1診断処理が有効に成立する前提条件を満たしているかどうかを示す指標である。言い換えれば、視点検出による認知機能障害の診断処理では被検者が表示された診断用映像を見ていることを前提条件としている。第1しきい値th1は、視点取得率P1が0から1の範囲である場合、例えば0.8でよい。また、第2しきい値th2は、上記の第6特徴の有無を判定する指標である。第2しきい値th2は、視点取得率P1が0から1の範囲である場合、例えば0.8でよい。なお、第1しきい値th1と第2しきい値th2は、同じ値でもよいし、異なる値でもよい。
【0139】
i=2〜5(つまり2回目〜5回目の繰り返し)のときも、i=1(つまり1回目の繰り返し)とほぼ同様である。
【0140】
なお、
図12の5回の繰り返しにおいて、ステップS65の5回の判定結果が同じになるとは限らないが、5回の判定結果はそのまま表示部35に表示すればよい。同様に、
図12の5回の繰り返しにおいて、ステップS67の5回の判定結果が同じになるとは限らないが、5回の判定結果はそのまま表示部35に表示すればよい。
【0141】
また、
図12では、第6診断処理として5回の繰り返しをもつループ処理の例を示したが、これに限らない。例えば、第6診断処理は、第1診断処理から第5診断処理までの期間(
図6ではt=0からt=t5までの期間)を通して、1回の繰り返しに相当する処理(つまり
図12のS62〜S68)であってもよい。また、他の例として、第6診断処理は、第1診断処理から第5診断処理までの何れかの診断処理の期間のみ、1回の繰り返しに相当する処理(つまり
図12のS62〜S68)であってもよい。
【0142】
さらに、第6診断処理を並列ではなく単体で実行することもできる。例えば、第6映像として、第1〜第5映像を表示し、または、他の映像を表示して、
図12のS64〜S68を実行してもよい。
【0143】
続いて、複数の被検者を対象として本願発明者らが収集した視点取得率に関するデータを紹介する。
【0144】
図19は、被検者の年齢別の視点取得率を示す図である。同図の横軸は、被検者の年齢を示す。縦軸は、約30人の被検者を対象とした診断処理における視点取得率を示す。同図において、破線枠A19内の被検者3人を除いて、0.8以上の高い視点取得率が得られている。つまり、年齢に関わりなく90歳以上の超高齢者であっても高い視点取得率が得られることがわかる。
【0145】
図20は、被検者の症例別の視点取得率を示す図である。
図20の横軸は、
図19と同じ被検者の症例別の分類を示す。縦軸は、視点取得率を示す。各棒グラフは平均(mean)と標準誤差(SEM:Standard Error of Mean)とを示す。
【0146】
横軸に示すように、被検者はA〜Hの症例に分類される。Aは、健常な成人で19〜53歳の複数の被検者を示す。Bは、健常な高齢者で64〜83歳の複数の被検者を示す。Cは、超高齢者で92歳の被検者を示す。Dは、生理的物忘れ、または、MCI(軽度任り障害)の複数の被検者を示す。Eは、アルツハイマー型認知症の複数の被検者を示す。Fは、前頭側頭型認知症の複数の被検者を示す。Gは、レビー小体型認知症の複数の被検者を示す。Hは、その他の認知症の被検者を示す。
【0147】
同図において、破線枠A20を付加したF(前頭側頭型認知症)を除いて、高い視点取得率が得られている。破線枠A20を付加したFの前頭側頭型認知症の被検者は、
図19の破線枠A19の3人の被検者と同じである。このことから、前頭側頭型認知症の被検者は、視点取得率の平均値も、標準誤差を加えた視点取得率であっても、他の症例よりも低く(
図20では0.8より小さい)、有意な差があることがわかる。言い換えれば、
図20は、既に説明した第6特徴の裏付けになっている。
図20のデータ例では、上記の第2しきい値は0.8でよいことがわかる。
【0148】
なお、視点取得率は、表示面11の大きさ、表示面11と被検者との距離等の環境条件に影響されると考えられる。第1しきい値th1、第2しきい値th2は、上記の0.8でなくてもよく、環境条件等に応じて定めればよい。
【0149】
以上のように、第6診断処理において、前記診断部39は、さらに、前記分布マップにおいて視点が前記表示面内に存在する割合を示す視点取得率を算出し、前記視点取得率が所定値以下である場合に、認知機能障害のうちの前頭側頭型認知症の可能性があると診断する。
【0150】
これにより、第6診断処理は、前頭側頭型認知症を簡便に診断することができる。しかも、第6診断処理は、数10秒という短時間で実行することができ、簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0151】
以上説明してきたように本実施の形態の一態様に係る認知機能障害診断装置1は、認知機能障害の診断用映像を表示面11に表示する表示部10と、被検者の目を撮像する撮像部21と、前記撮像部21により撮像された画像に基づいて、前記表示面11における前記被検者の視点を時系列的に検出する検出部37と、前記検出部37によって検出された視点の分布を示す分布マップを作成する作成部38と、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示す症例特徴データ310を記憶する記憶部32と、前記分布マップが前記症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって前記被検者の認知機能障害を診断する診断部39とを備える。
【0152】
この構成によれば、認知機能障害診断装置1による認知機能障害の診断において簡便性、低コスト、客観性、定量性、汎用性(言語非依存性)を兼ね備えることができる。
【0153】
ここで、前記診断用映像は、第1映像から第5映像を含んでいてもよい。前記第1映像は、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した画像を含んでいてもよい。前記第2映像は、正解図形以外の図形を含まない第1画像と、前記正解図形および複数の類似図形を含む第2画像とを含む映像であってもよい。前記第3映像は、人物、物体、風景および図形の少なくとも1つを表した静止画を含んでいてもよい。前記第4映像は、幻視を誘発する誘発図形と、幻視を誘発しない複数の非誘発図形とを含む静止画像を含んでいてもよい。前記第5映像は、前記表示面を移動する物体を表した映像を含んでいてもよい。前記表示部10は、前記第1映像から第5映像をそれぞれ10秒から30秒までの期間表示し、前記診断部39は、前記第1映像から第5映像のそれぞれの表示期間に対応する分布マップに基づいて、認知機能の低下、前頭側頭型認知症、大脳皮質基底核変性症およびレビー小体型認知症の可能性の有無を診断してもよい。
【0154】
この構成によれば、第1映像から第5映像を用いた診断は、わずか数分間の間に、認知機能の低下の有無および低下の程度の診断と、低下している場合の症例の鑑別まで行うことができる。例えば、検診時間の大幅な短縮、集団検診の効率の向上を実現し、高齢者人口の爆発的増加に対応することができる。
【0155】
ここで、前記診断部39は、さらに、前記第1から第5映像のそれぞれに対応する分布マップにおいて視点が前記表示面11内に存在する割合を示す視点取得率を算出し、前記視点取得率が所定値以下である場合に、対応する診断結果を無効化し、認知機能障害のうちの前頭側頭型認知症の可能性があると診断してもよい。
【0156】
これによれば、視点取得率によって、認知機能障害診断装置1による診断の有効性と、前頭側頭型認知症の鑑別をすることができる。
【0157】
また、本実施の形態の一態様に係る認知機能障害診断プログラムは、表示面11を有する表示部10と、撮像部21とに接続され、認知機能障害の典型例に対応する視点分布の特徴を示す症例特徴データ310を記憶する記憶部32を備えるコンピュータが実行する認知機能障害診断プログラムであって、認知機能障害の診断用映像を前記表示面に表示し、前記撮像部21によって被検者の目を撮像し、前記撮像部21により撮像された画像に基づいて、前記表示面11における前記被検者の視点を時系列的に検出し、検出された視点の分布を示す分布マップを作成し、前記分布マップが前記症例特徴データの特徴を有するかどうかを判定することによって前記被検者の認知機能障害を診断することをコンピュータに実行させる。
【0158】
なお、認知機能障害診断装置1は、同時に複数の被検者を対象としてもよい。この場合、撮像部21は複数の被検者を撮像し、検出部37は被検者毎に視点を検出し、作成部38は被検者毎に分布マップの作成し、診断部39は被検者毎に診断すればよい。また、認知機能障害診断装置1が、同時に複数の被検者を対象とする場合に、撮像装置20を複数備えてもよい。この場合、撮像装置20と被検者とは、1対1でもよいし、1対多でもよい。これにより、認知機能障害診断装置1は、さらに、集団検診の効率を向上させることができる。
【0159】
上述の実施の形態及びその変形例は、本発明の技術内容を説明することを目的とする例示として記載されたものであり、本願に係る発明の技術的範囲をこの記載の内容に限定する趣旨ではない。本願に係る発明の技術的範囲は、明細書、図面および請求の範囲またはこれに均等の範囲において当業者が想到可能な限り、変更、置き換え、付加、省略されたものも含む。