特許第6867954号(P6867954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6867954水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6867954
(24)【登録日】2021年4月13日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20210426BHJP
   C08L 57/12 20060101ALI20210426BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20210426BHJP
   C08F 220/60 20060101ALI20210426BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C08L29/04 S
   C08L57/12
   C08F220/36
   C08F220/60
   C08F216/14
   C09J133/14
   C09J129/04
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-557715(P2017-557715)
(86)(22)【出願日】2016年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2016005200
(87)【国際公開番号】WO2017110091
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年7月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-254225(P2015-254225)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】谷田 達也
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104497927(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0130679(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102532386(CN,A)
【文献】 特開平11−227340(JP,A)
【文献】 特表2002−537306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08C 19/00− 19/44
C08F 2/00− 2/60
6/00−246/00
301/00
C09J 1/00− 5/10
9/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)と、分散剤としてビニルアルコール系重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、
該エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)が、下記一般式(W)で表される官能基を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(a)に由来する構造単位を含み、
前記エチレン性不飽和単量体(a)が、記一般式(II)で表される化合物であり

該ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度が80モル%以上であり、
前記エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)が、前記エチレン性不飽和単量体(a)と、共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体を有し、
前記共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(b)がビニルエステル系単量体のみからなる又はビニルエステル系単量体とオレフィン系単量体のみからなる、水性エマルジョン。
【化1】
(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、*は結合手を表す。)
【化2】
(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、及びR1は2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)
【化3】
(式中、R4は、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、A1は−O−又は−NR5−を表し、R5は水素原子又はC1〜C8アルキル基を表し、AlkはC2〜C8アルキレン鎖を表す。)
で表される官能基からなる群から選ばれる基を表し、A2は2又は3個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、前記アルキレン鎖は、置換基を有していてもよく、前記炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。)
【請求項2】
1がアクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)で表される官能基からなる群から選ばれる基である、請求項1に記載の水性エマルジョン。
【化4】
(式中、R4は、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、A1は−O−又は−NR5−を表し、R5は水素原子又はC1〜C8アルキル基を表し、AlkはC2〜C8アルキレン鎖を表す。)
【請求項3】
1が下記一般式(IV)で表される官能基である、請求項1又は2に記載の水性エマルジョン。
【化5】
(式中、R4は、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、A1は−O−又は−NR5−を表し、R5は水素原子又はC1〜C8アルキル基を表し、AlkはC2〜C8アルキレン鎖を表す。)
【請求項4】
Xが酸素原子であり、A2が2個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、AlkがC2〜C4アルキレン鎖を表す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項5】
2が無置換のアルキレン鎖である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和単量体(a)がN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、又はN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和単量体(b)がビニルエステル系単量体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項8】
前記重合体(A)と前記ビニルアルコール系重合体(B)の固形分基準での質量比(A)/(B)が98/2〜80/20である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項9】
前記ビニルアルコール系重合体(B)がエチレン変性ビニルアルコール系重合体である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水性エマルジョン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性エマルジョンを含有する、接着剤。
【請求項11】
前記ビニルアルコール系重合体(B)の存在下、前記エチレン性不飽和単量体(a)と、共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(b)とを含む単量体を共重合し、
前記共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(b)がビニルエステル系単量体のみからなる、又はビニルエステル系単量体とオレフィン系単量体のみからなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性エマルジョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐水性(特に耐温水性、耐煮沸性)、及び粘度安定性に優れる水性エマルジョン、及び当該水性エマルジョンを含む接着剤に関する。さらに詳しくは、接着剤層の着色が少ない接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)を保護コロイドとして用いて酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニル系水性エマルジョンは、紙加工用、木工加工用及び繊維加工用の接着剤や塗料等に広く使用されている。なかでも耐水性や接着性が要求される場合には、PVAを保護コロイドとして用い、カルボキシ基含有不飽和単量体を併用することが広く行われている。
【0003】
しかしながら、このようにして得られる水性エマルジョンを用いた接着剤は、接着性や耐水性は向上するものの耐熱性に劣り、耐温水性、耐煮沸性等が不十分であるという問題点があった。
【0004】
そこで、これらの問題点を解決するためにいくつかの解決策が提案されてきた。例えば、特許文献1では、酸性媒体中でアルデヒド基を生成しうるポリアルデヒドを含有するエマルジョン接着剤が提案されている。しかしながら、この方法では耐水性に優れる反面、粘度安定性が不十分であった。さらには、当該接着剤は架橋反応の触媒として強酸やアルミニウム金属等を用いるため、これらが接着層、及び木材等の被着体の強度劣化を助長するとともに接着層(グルーライン)の着色を招く問題があった。
【0005】
特許文献2では、酢酸ビニルモノマーとN−メチロールアクリルアミドを共重合したエマルジョンが提案されている。しかしながら、この方法では低温での耐水性が不十分であり、接着剤として使用した際、ホルムアルデヒドが発生するという環境上の問題点もあった。
【0006】
特許文献3には、エチレンを含有させた変性PVA(以下、「エチレン変性PVA」と略記することがある)を保護コロイドとして、酢酸ビニル、又は酢酸ビニルと(メタ)アクリル酸エステル類を乳化(共)重合することが提案されている。しかしながら、これらの方法ではある程度は耐熱性、耐温水性を改善するものの未だ不十分であり、また最終的な接着強度や耐煮沸性に関しては満足すべき結果は得られていない。
【0007】
特許文献4では、保護コロイドとしてエチレン変性PVAを用い、酢酸ビニルを重合する際にカルボキシ基含有不飽和単量体の(共)重合物又はアマイド変性PVAを併用することが提案されている。しかしながら、この方法でも、耐熱性において未だ不十分であった。
【0008】
一方、メタクリルアミド−エチル−エチレンウレア等のウレイド基を有するモノマーを一成分とし、他の共重合性ビニルモノマーと共に乳化重合して得られるビニル共重合体の水性エマルジョンからなる水性被覆組成物(特許文献5)、路面表示用塗料(特許文献6)、防水木材表面処理剤(特許文献7)が開示されているが、接着剤としての性能に関しての性能は未知であった。また上記と同様の水性エマルジョンからなる床用接着剤配合物(特許文献8)が開示されているが、その耐熱性、耐水性、耐温水性、耐煮沸水に関する言及はなく、これらの性能は未知であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−60116号公報
【特許文献2】特開平10−121017号公報
【特許文献3】特開平11−106727号公報
【特許文献4】特開2001−123138号公報
【特許文献5】特開平9−255894号公報
【特許文献6】特許第4393082号明細書
【特許文献7】特許第5296540号明細書
【特許文献8】特表2003−523476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、耐熱性、耐水性(特に耐温水性、耐煮沸性)、及び粘度安定性に優れる水性エマルジョンの提供を目的とする。さらには、当該水性エマルジョンを含み、接着剤層の着色が少なく、安全性にも優れる接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、分散質として特定の構造単位を有するエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)と、分散剤としてビニルアルコール系重合体(B)とを含む水性エマルジョン、及び当該水性エマルジョンを含む接着剤によって上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]分散質としてのエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)と、分散剤としてのビニルアルコール系重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、該エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)が、下記一般式(W)で表される官能基を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(a)に由来する構造単位を含み、該ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度が80モル%以上である、水性エマルジョン。
【化1】

(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、*は結合手を表す。)
[2]前記のエチレン性不飽和単量体(a)が、下記一般式(I)で表される化合物、下記一般式(II)で表される化合物及び下記一般式(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体である、上記[1]の水性エマルジョン。
【化2】

(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Rは2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)
【化3】

(式中、Rは水素原子、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aは−O−、−NR−を表し、Rは水素原子又はC〜Cアルキル基)を表し、AlkはC〜Cアルキレン鎖を表す。)
で表される官能基からなる群から選ばれる基を表し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を表す。)
【化4】

(式中、X及びRは上記と同一の意味を有し、Aは2又は3個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、前記アルキレン鎖は、置換基を有していてもよく、前記炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。)
【化5】

(式中、X、A、R及びRは、上記と同一の意味を有する。)
[3]前記エチレン性不飽和単量体(a)が、下記一般式(II)で表される化合物を含む、上記[1]又は[2]の水性エマルジョン。
【化6】

(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Rは2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)
【化7】

(式中、Rは、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aは−O−又は−NR−を表し、Rは水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkはC〜Cアルキレン鎖を表す。)
で表される官能基からなる群から選ばれる基を表し、Aは2又は3個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、前記アルキレン鎖は、置換基を有していてもよく、前記炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。)
[4]Rが下記一般式(IV)で表される官能基である、上記[2]又は[3]の水性エマルジョン。
【化8】

(式中、Rは、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aは−O−又は−NR−を表し、Rは水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkはC〜Cアルキレン鎖を表す。)
[5]Xが酸素原子であり、Aが2個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、AlkがC〜Cアルキレン鎖を表す、上記[2]〜[4]のいずれかの水性エマルジョン。
[6]Aが無置換のアルキレン鎖である、上記[2]〜[5]のいずれかの水性エマルジョン。
[7]前記エチレン性不飽和単量体(a)がN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、又はN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアである上記[1]〜[6]のいずれかの水性エマルジョン。
[8]前記エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)が、前記エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能なエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体を有する上記[1]〜[7]のいずれかの水性エマルジョン。
[9]前記エチレン性不飽和単量体(b)がビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[8]の水性エマルジョン。
[10]前記重合体(A)と前記ビニルアルコール系重合体(B)の固形分基準での質量比(A)/(B)が98/2〜80/20である上記[1]〜[9]のいずれかの水性エマルジョン。
[11]前記ビニルアルコール系重合体(B)がエチレン変性ビニルアルコール系重合体である、上記[1]〜[10]のいずれかの水性エマルジョン。
[12]上記[1]〜[11]のいずれかの水性エマルジョンを含有する接着剤。
[13]前記ビニルアルコール系重合体(B)の存在下、前記エチレン性不飽和単量体(a)を含む単量体を重合する上記[1]〜[11]のいずれかの水性エマルジョンの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性エマルジョンは、耐熱性、耐水性(特に耐温水性、耐煮沸性)、及び粘度安定性に優れる。さらに、当該水性エマルジョンを含有する接着剤は、接着剤層の着色が少ない。また、本発明は、実質的に架橋剤の使用を必要としないとともにホルムアルデヒドのような揮発性低分子の発生がないため、安全性にも優れる接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
<水性エマルジョン>
本発明の水性エマルジョンは、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)と、分散剤としてビニルアルコール系重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、該エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)が、下記一般式(W)
【化9】

(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、*は結合手を表す。)
で表される官能基を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(a)に由来する構造単位を含み、該ビニルアルコール系重合体(B)のけん化度が80モル%以上であることを特徴とする。
【0015】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0016】
(重合体(A))
本発明の水性エマルジョンの分散質であるエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)は、上記のように、一般式(W)で表される官能基を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(a)に由来する構造単位を含む。
【0017】
前記エチレン性不飽和単量体(a)は、下記一般式(I)で表される化合物、下記一般式(II)で表される化合物及び下記一般式(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体であることが好ましい。
【化10】

(式中、Xは酸素原子又は硫黄原子であり、Rは2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリロイル基(H2C=CH-C(=O)-)、メタクリロイル基(H2C=C(CH3)-C(=O)-)、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)
【化11】

(式中、Rは2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基(CH2=C(CH3)-CO-O-CH2-CO-)を表し、Aは−O−又は−NR−を表し、Rは水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkはC〜Cアルキレン鎖を表す。)
で表される官能基からなる群から選ばれる基を表し、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基を表す。)
【化12】

(式中、X及びRは上記と同一の意味を有し、Aは2又は3個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、前記アルキレン鎖は、置換基を有していてもよく、前記炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。)
【化13】

(式中、X、A、R及びRは、上記と同一の意味を有する。)
【0018】
上記Rは2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基及び下記一般式(IV)
【化14】

(式中、各記号は上記と同一の意味を有する。)
で表される官能基の中から選択することができる。
【0019】
上記一般式(I)、(II)及び(III)において、Xは酸素原子であることが好ましい。上記一般式(I)、(II)及び(III)において、Rは、2−(2−カルボキシアクリルアミド)エチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、一般式(IV)で表される官能基が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、一般式(IV)で表される官能基がより好ましく、一般式(IV)で表される官能基がさらに好ましい。
【0020】
上記一般式(I)、(II)及び(III)において、R及びRは、それぞれ同一又は異なって、水素原子又はC〜Cアルキル基が好ましく、水素原子又はC〜Cアルキル基がより好ましい。
【0021】
及びRのC〜Cアルキル基としては、直鎖あるいは分岐鎖のいずれであってもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,4−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチル−プロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(II)及び(III)において、Aの2又は3個の炭素原子を有するアルキレン鎖は、置換基を有していてもよく、前記炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。すなわち、置換基を有するアルキレン鎖であってもよく;前記炭素原子の間にカルボニル基を有するアルキレン鎖であってもよく;置換基を有し、かつ、前記炭素原子の間にカルボニル基を有するアルキレン鎖であってもよい。また、上記一般式(II)及び(III)において、Aは2個の炭素原子を有するアルキレン鎖であることが好ましく、2個の炭素原子を有する無置換のアルキレン鎖であることがより好ましい。一般式(III)のAのアルキレン鎖が無置換とは、R以外は水素原子が炭素原子に結合していることを意味する。
【0023】
のC〜Cアルキル基としては、前記したR及びRのC〜Cアルキル基と同様のものが挙げられる。一般式(IV)のAlkのC〜Cアルキレン鎖としては、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、n−ペンチレン基、1−メチル−n−ブチレン基、2−メチル−n−ブチレン基、3−メチル−n−ブチレン基、1,1−ジメチル−n−プロピレン基、1,2−ジメチル−n−プロピレン基、2,2−ジメチル−n−プロピレン基、1−エチル−n−プロピレン基、n−ヘキシレン基、1−メチル−n−ペンチレン基、2−メチル−n−ペンチレン基、3−メチル−n−ペンチレン基、4−メチル−n−ペンチレン基、1,1−ジメチル−n−ブチレン基、1,2−ジメチル−n−ブチレン基、1,3−ジメチル−n−ブチレン基、2,2−ジメチル−n−ブチレン基、2,3−ジメチル−n−ブチレン基、3,3−ジメチル−n−ブチレン基、1−エチル−n−ブチレン基、2−エチル−n−ブチレン基、1,1,2−トリメチル−n−プロピレン基、n−ヘプチレン基、n−オクチレン基等が挙げられる。Alkのとしては、C〜Cアルキレン鎖が好ましく、C〜Cアルキレン鎖がより好ましく、C〜Cアルキレン鎖がさらに好ましい。一般式(IV)のAlkのC〜Cアルキレン鎖は、一般式(II)及び(III)において、Aと同様に、置換基を有していてもよく、炭素原子の間にカルボニル基を有していてもよい。
【0024】
前記置換基としては、特に限定されないが、C〜Cアルキル基、C〜Cアルコキシ基、及び水酸基からなる群から選ばれる基が挙げられる。前記アルキル基としては、R及びRで例示したものと同様のものが挙げられる。前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0025】
エチレン性不飽和単量体(a)としては、特に限定されないが、一般式(II)で表される化合物、及び/又は(III)で表される化合物が好ましい。
【0026】
一般式(II)で表される化合物としては、Rが一般式(IV)で表される官能基を表し、Xが酸素原子であり、Aが2個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、Rが2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aが−O−又は−NR−を表し、Rが水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkがC〜Cアルキレン鎖を表す化合物が好ましく、Rが一般式(IV)で表される官能基を表し、Xが酸素原子であり、Aが2個の炭素原子を有するアルキレン鎖を表し、Rが2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aが−O−又は−NR−を表し、Rが水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkがC〜Cアルキレン鎖を表す化合物がより好ましく、Rが一般式(IV)で表される官能基を表し、Xが酸素原子であり、Aが2個の炭素原子を有する無置換のアルキレン鎖を表し、Rが2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はメタクリロイルオキシアセト基を表し、Aが−O−又は−NR−を表し、Rが水素原子又はC〜Cアルキル基を表し、AlkがC〜Cアルキレン鎖を表す化合物がさらに好ましい。
【0027】
エチレン性不飽和単量体(a)の例としては、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、N−(2−アクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、N−(メタクリルアミドメチル)エチレンウレア、N−(アクリルアミドメチル)エチレンウレア、N−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレア、N−(2−アクリルアミドエチル)エチレンウレア、N−ビニルエチレンウレア、N−ビニルオキシエチルエチレンウレア、N−[(2−(メタクリロイルオキシアセタミド)エチル]−N,N’−エチレンウレア、N−[(2−(アクリロイルオキシアセタミド)エチル]−エチレンウレア、1−[2−[[2−ヒドロキシ−3−(2−プロペニロキシ)プロピル]アミノ]エチル]−2−イミダゾリドン、N−メタクリルアミドメチルウレア、N−メタクリロイルウレア、N−(3−[1,3−ジアザシクロヘキサン−2−オン]プロピル)メタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルエチレンウレア、N−アミノエチルエチレンウレア、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)アミノエチルエチレンウレア、N−メタクリルアミノエチルエチレンウレア、N−アクリルアミノエチルエチレンウレア、N−メタクリロキシアセトキシエチルエチレンウレア、N−メタクリロキシアセタミノエチルエチレンウレア、N−ジ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)アミノエチルエチレンウレア、アリルアルキル(C〜C)エチレンウレア類が挙げられる。これらのうち、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア、又はN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアが特に好ましい。
【0028】
本発明の水性エマルジョンでは、前記した不飽和単量体(a)を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記エチレン性不飽和単量体(a)の単位の含有量は、エチレン性不飽和単量体単位の全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、0.2〜8.0質量%であることがより好ましく、0.5〜5.0質量%であることがさらに好ましい。前記不飽和単量体(a)の単量体単位の含有量が0.1質量%未満の場合、耐熱性、耐水性、耐温水性及び耐煮沸性が不十分となる場合があり、10質量%を超える場合、重合が困難となる場合がある。
【0030】
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(A)は、前記エチレン性不飽和単量体(a)と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(b)との共重合体が好ましい。ここで、当該エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、α,β−不飽和モノ又はジカルボン酸系単量体、ジエン系単量体、オレフィン系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、ニトリル系単量体、芳香族ビニル系単量体、複素環式ビニル系単量体、ビニルエーテル系単量体、アリル系単量体、多官能性アクリレート系単量体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の不飽和単量体が好ましく、ビニルエステル系単量体がより好ましい。なお、明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタアクリルを意味する。
【0031】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、デカン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、4−tert−ブチルベンゼン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられ、工業的観点から、酢酸ビニルが特に好ましい。
【0032】
(ビニルアルコール系重合体(B))
本発明で分散剤として使用するビニルアルコール系重合体(B)(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)のけん化度は、80モル%以上であり、83モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が80モル%未満では、保護コロイドとしての効果が乏しく安定な水性エマルジョンが得られない。一方、けん化度の上限は特に制限が無いが、99.9モル%以下であることが好ましく、99.5モル%以下であることがより好ましい。けん化度が99.9モル%を超えると、得られる水性エマルジョンの粘度の粘度安定性に劣るおそれがある。また、けん化度が80モル%以上である、けん化度の異なるPVAを組み合わせて使用してもよい。前記けん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた値である。けん化度が80モル%以上のPVAであれば、無変性PVAであってもよく、変性PVAであってもよい。変性PVAとしては、例えば、スルホン酸基変性PVA、カルボン酸基変性PVA等のアニオン変性PVA;第4級アミン基変性PVA等のカチオン変性PVA;アミド変性PVA;アセトアセチル基変性PVA;ダイアセトンアクリルアミド変性PVA;エチレン変性PVA等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上を併用してもよい。これらのうち、得られる水性エマルジョンの耐水性の観点からエチレン変性PVAが好ましい。変性基の含有量は特に限定されないが、0.5〜10モル%であってもよい。分散剤は、実質的にPVA(B)のみから構成されていてもよい。本明細書において、「実質的にある成分のみを含む」とは、当該成分以外の成分の含有量が、10質量%未満であり、好ましくは5.0質量%未満であり、より好ましくは1.0質量%未満であり、さらに好ましくは0.5質量%未満であることを意味する。
【0033】
前記PVA(B)の粘度平均重合度(以下単に「重合度」あるいは「平均重合度」と言うことがある)は、一般的に乳化重合に使用される範囲であればよく、下限値は300以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましく、400以上であることがさらに好ましい。重合度が300未満の場合は、乳化重合時の重合安定性に劣るおそれがある。一方、重合度の上限値は4000以下が好ましく、3800以下がより好ましく、3500以下がさらに好ましい。重合度が4000を超えると乳化重合時の溶液粘度が高くなりすぎ、攪拌や除熱が困難になる。ここで前記重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた値である。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0034】
本発明の水性エマルジョンにおける前記重合体(A)と前記PVA(B)の固形分基準での質量比(A)/(B)に関しては特に制限は無いが、98/2〜80/20が好ましく、95/5〜85/15がより好ましい。当該質量比が98/2を超える場合は、水性エマルジョンの粘度安定性が劣ることがある。一方、当該質量比が80/20未満の場合は、得られる皮膜の耐水性に劣ることがある。
【0035】
本発明の水性エマルジョンにおける固形分含有量は、30質量%以上60質量%以下が好ましい。
【0036】
<水性エマルジョンの製造方法>
本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、1)前記エチレン性不飽和単量体(a)を含むエチレン性不飽和単量体に対し、けん化度80モル%以上のPVA(B)を分散剤として存在させた下で重合開始剤を適宜選択して乳化重合する方法が一例として挙げられる。また、その他に乳化重合時の調整方法として、2)前記エチレン性不飽和単量体(a)に対するPVA(B)の添加量を変更する方法、3)イオン交換水の量を変更する方法等が挙げられる。本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、これらの方法を適宜組み合わせ使用してもよい。
【0037】
本発明の水性エマルジョンの製造方法は特に限定されないが、例えば、上記エチレン性不飽和単量体(a)を含むエチレン性不飽和単量体100質量部に対し、上記分散剤のPVA(B)を0.5〜40質量部の存在下に乳化重合する方法が挙げられる。当該方法において、重合系内へ上記分散剤を仕込む場合、その仕込み方法及び添加方法については特に制限はない。重合系内に分散剤を初期一括で添加する方法、重合中に連続的に分散剤を添加する方法等を挙げることができる。なかでも、PVA(B)の水性エマルジョン分散質へのグラフト率を高める観点から、重合系内に分散剤を初期一括で添加する方法が好ましい。
【0038】
本発明で分散剤として使用するPVA(B)の使用量は特に制限は無いが、通常、前記エチレン性不飽和単量体(a)を含むエチレン性不飽和単量体の全単量体単位に対して2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。PVA(B)の使用量が2質量%未満では、乳化重合時の安定性が十分に得られないことがある。一方、PVA(B)の使用量の上限は、前記エチレン性不飽和単量体の全単量体単位に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。PVA(B)の使用量が20質量%を超えると得られる水性エマルジョンを用いる皮膜の耐水性、耐温水性及び耐煮沸性が低下することがある。
【0039】
上記乳化重合において、重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられる水溶性の単独開始剤又は水溶性のレドックス系開始剤が使用できる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、レドックス系開始剤が好ましい。
【0040】
水溶性の単独開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化水素、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)等の過酸化物等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0041】
レドックス系開始剤としては、酸化剤と還元剤を組み合わせたものを使用できる。酸化剤としては、過酸化物が好ましい。還元剤としては、金属イオン、還元性化合物等が挙げられる。酸化剤と還元剤の組み合わせとしては、過酸化物と金属イオンとの組み合わせ、過酸化物と還元性化合物との組み合わせ、過酸化物と、金属イオン及び還元性化合物とを組み合わせたものが挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロキシパーオキサイド、t−ブチルヒドロキシパーオキサイド等のヒドロキシパーオキサイド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)、過酢酸t−ブチル、過酸エステル(過安息香酸t−ブチル)等が挙げられる。金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cu+等の1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。還元性化合物としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせがより好ましい。
【0042】
また、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、アルカリ金属化合物、界面活性剤、緩衝剤、重合度調節剤等を適宜使用してもよい。
【0043】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含む限り特に限定されず、アルカリ金属イオンそのものであってもよく、アルカリ金属を含む化合物であってもよい。
【0044】
アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、用いられるアルカリ金属化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、水性エマルジョン(固形換算)の全質量に対して、100〜15000ppmが好ましく、120〜12000ppmがより好ましく、150〜8000ppmが最も好ましい。アルカリ金属化合物の含有量が100ppmより低い場合、水性エマルジョンの乳化重合の安定性が低下することがあり、15000ppmを超えると、水性エマルジョンからなる皮膜が着色するおそれがあるため好ましくない。なお、アルカリ金属化合物の含有量は、ICP発光分析装置により測定した値であってもよい。本明細書において、「ppm」は、「質量ppm」を意味する。
【0045】
アルカリ金属を含む化合物としては、具体的には、弱塩基性アルカリ金属塩(例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物塩、アルカリ金属硝酸塩)、強塩基性アルカリ金属化合物(例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド)等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物は、1種単独又は2種以上を併用してもよい。
【0046】
弱塩基性アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等)、アルカリ金属カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等)、アルカリ金属硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム等)、アルカリ金属ハロゲン化物塩(塩化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等)、アルカリ金属硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム等)が挙げられる。これらのうち、エマルジョン内が塩基性を帯びる観点から、解離時に弱酸強塩基の塩として振舞えるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩が好ましく用いられ、アルカリ金属のカルボン酸塩がより好ましい。
【0047】
これらの弱塩基性アルカリ金属塩を用いることにより、乳化重合において当該弱塩基性アルカリ金属塩がpH緩衝剤として作用をすることで、乳化重合を安定に進めることができる。
【0048】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤のいずれを使用してもよい。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルスルフォネート、ヒドロキシアルカノールのサルフェート、スルフォコハク酸エステル、アルキル又はアルキルアリールポリエトキシアルカノールのサルフェート及びホスフェート等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。界面活性剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル)の全量に対して2質量%以下であることが好ましい。界面活性剤の使用量が2質量%を超えると、耐水性、耐温水性及び耐煮沸性が低下することがあるため好ましくない。
【0049】
緩衝剤としては、酢酸、塩酸、硫酸等の酸;アンモニア、アミン荷性ソーダ、荷性カリ、水酸化カルシウム等の塩基;又はアルカリ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。重合度調節剤としては、メルカプタン類、アルコール類等が挙げられる。
【0050】
上記乳化重合における分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記水性エマルジョンの製造方法において、乳化重合の開始の前に上記分散剤のPVA(B)を加熱し、分散媒に溶解させたのち、冷却し、窒素置換を行うことが好ましい。加熱温度は90℃以上が好ましい。乳化重合の温度は、特に限定されないが、20〜85℃程度が好ましく、40〜80℃程度がより好ましい。
【0051】
<接着剤>
本発明の実施形態の一つとして、水性エマルジョンを含有する接着剤が挙げられる。このような接着剤は、本発明の水性エマルジョンからなる主剤に、可塑剤、架橋剤等の副剤を配合することによって得られる。さらに、本発明では必ずしも必要としないが、副剤としては、架橋剤を含むものも好ましい。
【0052】
可塑剤としては、例えば、ジカルボン酸エステル系化合物、アリールオキシ基含有化合物等が挙げられる。
【0053】
ジカルボン酸エステル系化合物としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート、アジピン酸メチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヒドロアビエチル、イソフタル酸ジメチル等が挙げられる。
【0054】
アリールオキシ基含有化合物におけるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、置換フェノキシ基が挙げられる。置換フェノキシ基としては、C1〜C12アルコキシフェノキシ基、C1〜C12アルキルフェノキシ基等が挙げられる。置換基の数は、特に限定されず、1〜5個が好ましく、1〜3個がより好ましい。アリールオキシ基含有化合物としては、置換又は無置換フェノキシ基含有化合物が好ましく、ビニル基を含まない置換又は無置換フェノキシ基含有化合物がより好ましい。アリールオキシ基含有化合物の具体例としては、フェノキシエタノール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル等が挙げられる。可塑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
可塑剤の含有量は、各種の状況に応じて適宜選定すればよく、固形分換算で主剤の固形分100質量部に対して、0.5〜20質量部が好ましく、1.0〜10質量部がより好ましい。可塑剤の含有量が上記範囲にあることにより、接着性に優れる接着剤が得られる。
【0056】
架橋剤としては、例えば、多価イソシアネート化合物;ヒドラジン化合物;ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物;塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等の水溶性アルミニウム塩;尿素−グリオキザール系樹脂等のグリオキザール系樹脂等が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する。多価イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、水素化TDI、トリメチロールプロパン−TDIアダクト(例えばバイエル社の「Desmodur L」)、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(PMDI)、水素化MDI、重合MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。多価イソシアネート化合物としては、ポリオールに過剰のポリイソシアネートで予めポリマー化した末端基がイソシアネート基を持つプレポリマーを用いてもよい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、架橋剤としては、ヒドラジン化合物を用いてもよい。ヒドラジン化合物としては、分子中にヒドラジノ基(H2N−NH−)を有する化合物であれば特に制限はなく、ヒドラジン、ヒドラジンヒドラード、ヒドラジンの塩酸、硫酸、硝酸、亜硫酸、リン酸、チオシアン酸、炭酸等の無機塩類及びギ酸、シュウ酸等の有機塩類、ヒドラジンのメチル、エチル、プロピル、ブチル、アリル等の一置換体、1,1−ジメチル,1,1−ジエチル、4−n−ブチル−メタル等の対称二置換体等が挙げられる。さらに、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド等の多価ヒドラジド化合物等、従来知られている各種のものを用いることができ、これらの化合物は1種単独で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。これらの中でも、特に、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0058】
架橋剤の含有量は、各種の状況に応じて適宜選定すればよく、固形分換算で主剤の固形分100質量部に対して、3〜100質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲にあることにより、接着性に優れる水性エマルジョンを安価に製造することができる。
【0059】
上記の方法で得られる本発明の水性エマルジョンは、木工用、紙加工用等の接着用途をはじめ、塗料、繊維加工等に使用でき、中でも接着用途が好適である。当該エマルジョンは、そのままの状態で用いることができるが、必要であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンや、通常使用される添加剤を併用し、エマルジョン組成物とすることができる。添加剤としては、例えば、有機溶剤(トルエン、キシレン等の芳香族化合物、アルコール、ケトン、エステル、含ハロゲン系溶剤等)、架橋剤、界面活性剤、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤、結合剤、保水剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。その他、本発明の水性エマルジョンは、例えば、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等広範な用途に利用され得る。さらには、得られた水性エマルジョンを噴霧乾燥等により粉末化した、いわゆる粉末エマルジョンとしても有効に利用される。
【0060】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
【0062】
水性エマルジョンの乳化重合安定性、並びに接着剤の接着性(常態、耐水、耐温水、耐煮沸)、耐熱性、熱処理時の着色性、及び粘度安定性を以下に示す方法で評価した。
【0063】
(1)乳化重合安定性の評価
実施例及び比較例で得られた水性エマルジョン500gを60メッシュの金網にてろ過し、ろ過残分を秤量し以下の通り評価した。
A:ろ過残分が1.0%以下である
B:ろ過残分が1.0%より大である
C:重合不安定となり粗粒化のためろ過できない
【0064】
(2)接着性評価(常態、耐水性、耐温水性、耐煮沸性の評価)
〔接着条件〕
被着材:ツガ/ツガ(マサ目)
塗布量:150g/m(両面塗布)
圧締条件:20℃、24時間、圧力10kg/cm
〔測定条件〕
JIS K 6852(1994年)による圧縮剪断接着強度を測定した。
常態:20℃、7日間養生後そのままの状態で測定した。
耐水性:30℃の水に3時間浸漬した後、濡れたままの状態で測定した。
耐温水性:60℃の水に3時間浸漬した後、濡れたままの状態で測定した。
耐煮沸性:20℃で7日間養生後、試験片を煮沸水中に4時間浸漬した後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸漬してから、室温(20℃)の水中に冷めるまで浸し、濡れたままの状態で測定した。
【0065】
(3)耐熱性評価
耐水性評価と同様の試料を作製し、以下の条件で処理を行い圧縮剪断接着強度を測定した。
〔測定条件〕
耐熱性:20℃、7日間養生後、80℃で1時間恒温槽にて加熱後、熱いままで測定した。
【0066】
(4)皮膜の耐着色性の評価
実施例及び比較例で得られた接着剤を20℃65%RH下でPETフィルム上に流延し、7日間乾燥させてPETフィルムから剥離し、500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜をステンレス製の金属型枠(20cm×20cmで幅1cmの金属枠)にクリップで固定し、ギアオーブンにて120℃で3時間加熱処理した場合の、皮膜の着色性を目視で以下の通り評価した。
A:着色がない
B:やや着色
C:黄色に着色
【0067】
(5)粘度安定性の評価
実施例及び比較例で得られた接着剤の粘度をB型粘度計(40℃、20rpm)で粘度(η)を測定した。その後40℃で1ヶ月間水性エマルジョンを静置した。静置後、再度B型粘度計(40℃、20rpm)で粘度(η30)を測定した。増粘倍率をη30/ηとして定義し、下記の通り評価した。
A:増粘倍率が1.5よりも小さい
B:増粘倍率が1.5以上、2.0以下
C:増粘倍率が2.0よりも大きく、3.0よりも小さい
D:増粘倍率が3.0以上
【0068】
(実施例1)
(Em−1の合成)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水275g、「PVA−117」(株式会社クラレ製、けん化度98.5モル%、平均重合度1700)20.9gを仕込み95℃で2時間攪拌し、完全に溶解した。さらに、酢酸ナトリウム(NaOAc)を0.3g添加し、混合溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の20%水溶液2.4g及び5%過酸化水素水3.2g(初期仕込みの全単量体に対し、モル比でそれぞれ0.015)をショット添加後、酢酸ビニル26gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了(酢酸ビニルの残存量が1%未満)を確認した。酒石酸の10%水溶液1g及び5%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル250g及びN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア2.8gを2時間にわたって連続的に添加し、重合温度を80℃に維持して重合を完結させ、固形分濃度49.1%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(エチレン性不飽和単量体単位の全量に対しN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアを1.0質量%含有;(Em−1))が得られた。得られたエマルジョン(Em−1)の重合安定性を評価したところ、ろ過残分が1.0%以下であった。Em−1の重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0069】
(接着剤−1)
Em−1の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合して接着剤を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
(実施例2)
(Em−2の合成)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水275g、特許第4772175号の実施例に記載の方法に準じて作製したエチレン変性PVA1(重合度1700、けん化度95モル%、エチレン変性量5モル%)21gを仕込み95℃で2時間攪拌し、完全に溶解した。さらに、酢酸ナトリウム(NaOAc)を0.3g添加し、混合溶解した。次に、このエチレン変性PVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の20%水溶液2.4g及び5%過酸化水素水3.2g(初期仕込みの全単量体に対し、モル比でそれぞれ0.015)をショット添加後、酢酸ビニル28gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了(酢酸ビニルの残存量が1%未満)を確認した。酒石酸の10%水溶液1g及び5%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル250g及びN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア5.6gを2時間にわたって連続的に添加し、重合温度を80℃に維持して重合を完結させ、固形分濃度50.2%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(エチレン性不飽和単量体単位の全量に対しN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア2.0質量%含有;(Em−2))が得られた。得られたエマルジョン(Em−2)の重合安定性を評価したところ、ろ過残分が1.0%以下であった。Em−2の重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0071】
(接着剤−2)
Em−2の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合して接着剤を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0072】
(実施例3)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量を2.0質量%から5.0質量%に変えたこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−3)を得た。Em−3の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−3を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例4)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量を2.0質量%から8.0質量%に変えたこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−4)を得た。Em−4の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−4を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例5)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量を2.0質量%から11.0質量%に変えたこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−5)を得た。Em−5の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−5を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例6)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアをN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアに変えたこと以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン(Em−6)を得た。Em−6の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−6を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例7)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアをN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアに変えて、エチレン性不飽和単量体単位の全量に対しN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレアを1.0質量%使用したこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−7)を得た。Em−7の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−7を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例8)
(Em−8の合成)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水310g、特許第4772175号の実施例に記載の方法に準じて作製したエチレン変性PVA2(重合度1700、けん化度90モル%、エチレン変性量5モル%)19gを仕込み95℃で2時間攪拌し、完全に溶解した。さらに、酢酸ナトリウム(NaOAc)を0.3g添加し、混合溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の20%水溶液2.4g及び5%過酸化水素水3.2g(初期仕込みの全単量体に対し、モル比でそれぞれ0.015)をショット添加後、酢酸ビニル25gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了(酢酸ビニルの残存量が1%未満)を確認した。酒石酸の10%水溶液1g及び5%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル226g及びN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレア5gを2時間にわたって連続的に添加し、重合温度を80℃に維持して重合を完結させ、固形分濃度44.5%のポリ酢酸ビニル系エマルジョン(エチレン性不飽和単量体単位の全量に対しN−(2−メタクリルアミドエチル)エチレンウレア2.0質量%含有;(Em−8))が得られた。得られたエマルジョン(Em−8)の重合安定性を評価したところ、ろ過残分が1.0%以下であった。Em−8の重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0078】
(接着剤−8)
Em−8の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合して接着剤−8を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例9)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアに変えてN−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)アミノエチルエチレンウレアを0.5質量%使用したこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−9)を得た。Em−9の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−9を作製し、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(実施例10)
(Em−10の合成)
いかり型攪拌機を備えた内容量1.5リットルのステンレス型オートクレーブに、イオン交換水360g、ポリビニルアルコール「PVA−205」(株式会社クラレ製、けん化度88モル%、平均重合度500)24.3g及び「PVA−217」(株式会社クラレ製、けん化度88モル%、平均重合度1700)2.9gを仕込み95℃で2時間攪拌し、完全に溶解した。さらに、酢酸ナトリウム(NaOAc)を0.04g添加した。次に酢酸ビニル350g、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア3.65gを仕込み、オートクレーブ内の空気をエチレンで充分に置換した。続いて10%アスコルビン酸水溶液19.5gを仕込み、攪拌下、重合温度を60℃に、エチレン圧を5.0MPaに昇圧した。1%過酸化水素水100gを8時間かけて均一に添加すると共に、酢酸ビニル117gとN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア1.22gを6時間かけて均一に添加した。エチレン圧は酢酸ビニル及びN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア添加終了まで5.0MPaを保った。触媒添加終了後に冷却して、消泡剤及びpH調整剤を添加し、水性エマルジョン(エチレン性不飽和単量体単位の全量に対しN−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレア1.0質量%含有;(Em−10))を得た。得られたエマルジョン(Em−10)の重合安定性を評価したところ、ろ過残分が1.0%以下であった。Em−10の重合安定性の評価結果を表1に示す。
【0081】
(接着剤−10)
Em−10の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合して接着剤−10を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例1)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアを使用しないこと以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン(Em−11)を得た。Em−11の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−11を作製し、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0083】
(比較例2)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアに変えてN−メチロールアクリルアミドを3.0質量%使用したこと以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン(Em−12)を得た。Em−12の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、Em−12の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合し、100質量部の前記可塑剤含有Em−12に、架橋剤としてAlCl1.5質量部を添加して接着剤−12を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例3)
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアを使用しないこと以外は実施例2と同様にして水性エマルジョン(Em−13)を得た。Em−13の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−13を作製し、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例4)
N−(メタクリルアミドエチル)エチレンウレアを使用しないこと以外は実施例8と同様にして水性エマルジョン(Em−14)を得た。Em−14の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−14を作製し、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
(比較例5)
特許文献1(特開平8−60116号公報)の実施例1に記載された内容に従いエマルジョン(Em−15)を作製した。組成を表1に示す。Em−15の重合安定性の評価結果を表1に示す。表1において、Mowiol(R) 18−88は、88モル%の加水分解度の部分的に加水分解されたポリビニルアルコールを表す。Em−15の100質量部(固形分)に対して可塑剤としてフェノキシエタノール5質量部を添加混合し、100質量部の前記可塑剤含有Em−15に、架橋剤としてAlCl3.4質量部、20%グルタル酸ジアルデヒド−ビスナトリウム亜硫酸水素塩水溶液25部を添加して接着剤−15を作製した。次いで、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
(比較例6)
特許文献4(特開2001−123138号公報)の実施例1に記載された内容に従いエマルジョン(Em−16)を作製した。組成を表1に示す。Em−16の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−16を作製し、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0088】
(比較例7)
特許文献8(特表2003−523476号公報)の実施例I−bに記載された内容に従いエマルジョン(Em−17)を作製した。組成を表1に示す。Em−17の重合安定性の評価結果を表1に示す。次いで、接着剤−1と同様の方法で接着剤−17を作製し、上記方法に従って、各種条件下での接着性の評価、耐熱性評価、粘度安定性及び皮膜の耐着色性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の水性エマルジョンを用いた接着剤は、耐熱性に優れ、耐水性(特に耐温水性、耐煮沸性)及び粘度安定性にも優れ、熱処理時に皮膜の着色が少なく、木工用、紙工用等の接着用途をはじめ、塗料、繊維加工等に使用できる。