特許第6868194号(P6868194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6868194調心機構付きダイス、エナメル線の製造装置およびエナメル線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868194
(24)【登録日】2021年4月14日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】調心機構付きダイス、エナメル線の製造装置およびエナメル線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20210426BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210426BHJP
   B05C 11/02 20060101ALI20210426BHJP
   B05C 3/15 20060101ALI20210426BHJP
   B05D 7/20 20060101ALI20210426BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20210426BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01B13/16 C
   H01B13/00 517
   B05C11/02
   B05C3/15
   B05D7/20
   B05D3/00 F
   B05D1/28
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-107028(P2017-107028)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-206491(P2018-206491A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】船山 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】石原 純二
(72)【発明者】
【氏名】宮地 信介
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇善
【審査官】 中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−144384(JP,A)
【文献】 特開2013−232379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
B05C 3/15
B05C 11/02
B05D 1/28
B05D 3/00
B05D 7/20
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行線を走行させるための貫通孔を有するダイスと、
前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材と、
前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して、前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに、前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材と、
を備え、
前記可動部材は、前記ベアリング部材が嵌入される凹部、および前記凹部の底面に設けられて前記ダイスの一部を貫入させる孔部を有する本体部と、前記本体部の前記走行方向の前方側に配置され、前記走行線の前記走行方向に直交する方向へ前記本体部を可動させる可動部と、を有する、
調心機構付きダイス。
【請求項2】
前記ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有するとともに、前記一方端面を含む鍔部と、前記鍔部から延伸した前記他方端面を含む胴体部を有し、前記貫通孔が前記一方端面から前記他方端面に沿って前記貫通孔が設けられている請求項1に記載の調心機構付きダイス。
【請求項3】
前記ベアリング部材は、前記走行線の周方向に前記ダイスを回動させるベアリング部を有し、環状の外形からなる請求項1又は2に記載の調心機構付きダイス。
【請求項4】
前記可動部材と前記ダイスとの間に配置され、前記走行線の前記走行方向に凸状をなして前記ベアリング部材に当接される山部を有する受け部材をさらに備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の調心機構付きダイス。
【請求項5】
前記可動部材と接するように配置され、前記可動部材を案内させる案内面を有する案内部材をさらに備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の調心機構付きダイス。
【請求項6】
前記可動部材は、前記可動部がローラからなる請求項1に記載の調心機構付きダイス。
【請求項7】
前記可動部材は、前記可動部がボールローラからなる請求項1に記載の調心機構付きダイス。
【請求項8】
前記案内部材は、開口部を有する請求項5に記載の調心機構付きダイス。
【請求項9】
走行線の外周に塗料を塗布する塗布機構と、
前記塗布機構の前方側に配置され、前記走行線を走行させるための貫通孔を有するダイス、前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材、および前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材を備える調心機構付きダイスと、
を有し、
前記調心機構付きダイスは、前記可動部材が、前記ベアリング部材が嵌入される凹部、および前記凹部の底面に設けられて前記ダイスの一部を貫入させる孔部を有する本体部と、前記本体部の前記走行方向の前方側に配置され、前記走行線の前記走行方向に直交する方向へ前記本体部を可動させる可動部と、を有する、
エナメル線の製造装置。
【請求項10】
走行線の外周に塗料を塗布する塗布工程と、
前記走行線を走行させるための貫通孔を有するダイス、前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材、および前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材を備え、前記可動部材が、前記ベアリング部材が嵌入される凹部、および前記凹部の底面に設けられて前記ダイスの一部を貫入させる孔部を有する本体部と、前記本体部の前記走行方向の前方側に配置され、前記走行線の前記走行方向に直交する方向へ前記本体部を可動させる可動部と、を有する調心機構付きダイスによって前記走行線の外周に塗布された前記塗料の厚さを調整する調整工程と、
を含むエナメル線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調心機構付きダイス、エナメル線の製造装置およびエナメル線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エナメル線を製造する際には、例えば銅やアルミニウム等の金属線材(走行線)の周囲に、絶縁塗料等の塗料を塗布して塗料層を形成することが行われている(例えば特許文献1参照)。このような塗料層の形成には、塗料を走行線の表面に塗布する塗布部と、走行線が通過する貫通孔が形成されたダイスとを有する塗料塗布装置が用いられている。この塗料塗布装置では、塗布部で塗料が塗布された走行線がダイスの貫通孔を通過することにより、走行線の表面に塗布された余分な塗料が除去され、塗料の厚さが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−144384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
横型の装置において、走行線の周囲に塗布された塗料の付き回りを均一にするためには、走行線がダイスの貫通孔の中心を通過することが好ましい。しかし、走行線が走行する際に走行線が振動することや走行線が捩れること、あるいは横型の装置の場合であれば走行線の自重によって線懸垂が生じること等がある。このような走行線の振動、捩れ、線懸垂により、走行線はダイスの貫通孔の中心を通過することが難しくなる。
【0005】
また、走行線の周囲に塗料を塗布して塗料層を形成する工程の前工程として、伸線機や圧延機によって走行線の形状や線径を成形するための工程がある。このような走行線の形状や線径を成形する工程と塗料を塗布して塗料層を形成する工程とを同一の製造ラインに組み込んだ場合、各工程での走行線の速度等の違いにより、走行線に振動や捻れ等が生じ、走行線がダイスの貫通孔の中心を通過しにくくなることもある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、横型の装置において、走行線がダイスの貫通孔の中心を通過しやすくするための調心機構付きダイス、及びそれを用いたエナメル線の製造装置、並びにエナメル線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の調心機構付きダイス、エナメル線の製造装置、及びエナメル線の製造方法を提供する。
【0008】
[1]走行線を走行させるための貫通孔を有するダイスと、前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材と、前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して、前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに、前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材と、を備える、調心機構付きダイス。
[2]前記可動部材は、前記ベアリング部材が嵌入される凹部、および前記凹部の底面に設けられて前記ダイスの一部を貫入させる孔部を有する本体部と、前記本体部の前記走行方向の前方側に配置され、前記走行線の前記走行方向に直交する方向へ前記本体部を可動させる可動部と、を有する上記[1]に記載の調心機構付きダイス。
[3]前記ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有するとともに、前記一方端面を含む鍔部と、前記鍔部から延伸した前記他方端面を含む胴体部を有し、前記貫通孔が前記一方端面から前記他方端面に沿って前記貫通孔が設けられている上記[1]又は[2]に記載の調心機構付きダイス。
[4]前記ベアリング部材は、前記走行線の周方向に前記ダイスを回動させるベアリング部を有し、環状の外形からなる上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の調心機構付きダイス。
[5]前記可動部材と前記ダイスとの間に配置され、前記走行線の前記走行方向に凸状をなして前記ベアリング部材に当接される山部を有する受け部材をさらに備える上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の調心機構付きダイス。
[6]前記可動部材と接するように配置され、前記可動部材を案内させる案内面を有する案内部材をさらに備える上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の調心機構付きダイス。
[7]前記可動部材は、前記可動部がローラからなる上記[2]に記載の調心機構付きダイス。
[8]前記可動部材は、前記可動部がボールローラからなる上記[2]に記載の調心機構付きダイス。
[9]前記受け部材は、前記山部が前記ダイスの前記鍔部に隣接して配置される基材上に配置されている上記[5]に記載の調心機構付きダイス。
[10]前記受け部材は、前記基材の外径が前記鍔部の外径よりも大きい上記[9]に記載の調心機構付きダイス。
[11]前記案内部材は、開口部を有する上記[6]に記載の調心機構付きダイス。
[12]走行線の外周に塗料を塗布する塗布機構と、前記塗布機構の前方側に配置され、前記走行線を走行させるための貫通孔を有するダイス、前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材、および前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材を備える調心機構付きダイスと、を有するエナメル線の製造装置。
[13]走行線の外周に塗料を塗布する塗布工程と、前記走行線の外周に塗布された前記塗料の厚さを、前記走行線を走行させるための貫通孔を有するダイス、前記ダイスを前記走行線の周方向に回動させるベアリング部材、および前記走行線の走行方向が前記走行方向に直交する方向へ変化するのに対して前記ベアリング部材による前記ダイスの回動を妨げずに前記貫通孔の中心軸を前記走行方向に調心させるように前記ダイスを可動させる可動部材を備える調心機構付きダイスによって調整する調整工程と、を含むエナメル線の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、横型の装置において、走行線がダイスの貫通孔の中心を通過しやすくするための調心機構付きダイス、及びそれを用いたエナメル線の製造装置、並びにエナメル線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態(または第2実施形態)によるエナメル線の製造装置の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、第1実施形態によるエナメル線の製造装置が有する調心機構付きダイスの構成を示す分解斜視図である。
図3図3は、第1実施形態によるエナメル線の製造装置が有する調心機構付きダイスの構成を示す側面図である。
図4図4は、第2実施形態によるエナメル線の製造装置が有する調心機構付きダイスの構成を示す側面図である。
図5図5(a)および図5(b)は、エナメル線の構成を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態によるエナメル線の製造装置(絶縁電線の製造装置、被覆線の製造装置)100について説明する。まず、図1を参照して、エナメル線の製造装置100の全体構成について説明する。併せて、エナメル線の製造方法の概略的な流れについて説明する。図1は、エナメル線の製造装置100の全体構成を示す概略図である。
【0012】
第1実施形態では、走行線をほぼ鉛直方向に走行させながら塗料の塗布を行う竪型のエナメル線の製造装置ではなく、走行線をほぼ水平方向に走行させながら塗料の塗布を行う横型のエナメル線の製造装置について説明する。横型のエナメル線の製造装置を、以下「横型の装置」と呼ぶこともある。
【0013】
エナメル線の製造装置100は、送出機110、塗装部120、硬化炉130、巻取機140、およびプーリ150、151を有する。送出機110から、金属線材からなる導体を含む走行線300が送り出される。なお、図1図4では、走行線300の走行方向を矢印で示す。また、第1実施形態においては、図1の紙面左右方向が水平方向を表す。
【0014】
走行線300では、銅線やアルミニウム線等の公知の金属線材が導体として用いられる。なお、図5は、本実施形態によって得られるエナメル線の横断面を例示したものであり、図5(a)は、平角線の導体301の外周に絶縁被覆310を有するエナメル線(絶縁電線、被覆線)320を例示し、図5(b)は、丸線の導体301の外周に絶縁被覆310が形成されたエナメル線(絶縁電線、被覆線)320を例示する。
【0015】
送出機110から送り出された走行線300は、塗装部120に搬入される。塗装部120では、走行線300の外周上に絶縁性の塗料が塗布され、塗布された絶縁性の塗料の厚さや形状が後述する調心機構付きダイスにて所定の厚さや形状に調整される。塗料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等からなる樹脂を含むエナメル塗料を適宜選択して用いることができる。
【0016】
塗装部120で塗料が塗装された走行線300は、硬化炉130に搬入される。硬化炉130では、塗装部120において走行線300の外周上に塗装された塗料を加熱することにより、塗料の焼き付け(硬化)が行われて、走行線300の外周上に絶縁被覆が形成される。
【0017】
走行線300は、プーリ150、151に案内されて、塗装部120および硬化炉130を繰り返し経由する。絶縁被覆の総厚さが所定厚さに到達するまで、塗料の塗装および焼き付けが繰り返し行われる。図1(b)に示すように、走行線300は、一巡するごとに横に(紙面垂直方向に)隣接する位置の塗装部120および硬化炉130を経由して、塗装および焼き付けが繰り返し行われる。
【0018】
所定厚さの絶縁被覆310が形成された走行線300は、巻取機140に巻き取られる。このようにして、エナメル線(絶縁電線、被覆線)320が製造される。
【0019】
なお、エナメル線の製造装置100は、必要に応じて、送出機110と塗装部120との間に圧延機、伸線機、焼鈍炉等の他の処理部を同一の製造ライン上に備えていてもよい。例えば、送出機110から送り出された走行線300を圧延機や伸線機によって丸線から平角線に加工し、次いで、加工された走行線300を焼鈍炉によって焼鈍し、その後に上述した塗装と焼き付けが繰り返し行われる工程を経ることにより、エナメル線320が製造されることであってもよい。
【0020】
(塗装部)
次に、塗装部120について、さらに説明する。図2は、エナメル線の製造装置100における塗装部120が有する調心機構付きダイス200の構成を示す分解斜視図である。図3は、調心機構付きダイス200の構成を示す側面図である。
【0021】
図1に示す塗装部120では、走行線300の走行方向に沿って、塗布機構と図2に示す調心機構付きダイス200とを、この順に有する。塗布機構は、走行線300の外周に塗料を塗布するための塗料槽および塗布ロールを有する。塗料槽には、塗料が溜められている。塗布ロールは、その一部が塗料に浸漬するように塗料槽の内部に配置されている。走行線300は、塗布ロールの外周部に設けられた溝に嵌まるように配置された状態で走行する。走行線300の走行と同期して塗布ロールが回転し、塗布ロールの溝に付着した塗料が、走行線300の外周に塗布される。
【0022】
調心機構付きダイス200は、図2に示すように、塗布ロールに対して、走行線300の走行方向の前方側(以下単に「前方側」あるいは「下流側」と呼ぶこともある)に配置されている。本実施形態においては、塗布ロールが、調心機構付きダイス200の直前で走行線300に接触するローラ部材である。
【0023】
調心機構付きダイス200は、走行線300を走行させるための貫通孔215を有するダイス210と、ダイス210を走行線300の周方向に回動させるベアリング部材230と、走行線300の走行方向が当該走行方向に直交する方向へ変化するのに対して、ベアリング部材230によるダイス210の回動を妨げずに、貫通孔215の中心軸を走行方向に調心させるようにダイス210を可動させる可動部材240と、を備える。
【0024】
例えば、調心機構付きダイス200は、図2に示すように、ダイス210と、受け部材220と、ベアリング部材230と、可動部材240と、案内部材250と、を有する。なお、調心機構付きダイス200は、調心機能付きのダイス機構と捉えることもできる。
【0025】
ダイス210は、互いに対向する一方端面211および他方端面212を有し、一方端面211を含む鍔部213と、鍔部213から走行方向前方側へ延伸した他方端面212を含む胴体部214と、一方端面211から他方端面212へ走行線300が走行するための貫通孔215と、を有する。ダイス210では、走行線300が貫通孔215を通過することで走行線300に塗布された余分な塗料が(塗料の一部が)除去される(掻き取られる)ことにより、走行線の周囲に塗布された塗料の厚さや形状が調整されるように構成されている。ダイス210により掻き取られた塗料は、上述した塗料槽に回収される。貫通孔215の形状は、走行線300の形状や、1回の塗布で形成したい塗膜の厚さ等に応じて、適宜調整することができる。
【0026】
走行線300の走行に起因して、走行線300には、ダイス210の貫通孔215の中心を通過させようとする(貫通孔215を通過する部分での走行線300の中心軸と、貫通孔215の中心軸とが一致するように走行線300を走行させようとする)調心力が働く。
【0027】
したがって、理想的には、調心力により走行線300がダイス210の貫通孔215の中心を通過し、走行線300の外周に塗料が均一に塗装される。ただし、実際には、以下に説明するように、調心力を妨げるいくつかの要因が存在する。
【0028】
第1に、走行線300の(理想的な)送り方向、つまり水平方向に対して、実際の走行方向が変化する(ずれる)ことで、調心力が妨げられる。
【0029】
走行線300の走行に伴い走行線300は振動し、走行線300の走行方向には振れが生じる。特に、塗布ロールの軸方向と直交する面である鉛直面内での振動、つまり、走行線300の走行方向に直交する鉛直方向についての振れが大きい。
【0030】
加えて、横型の装置においては、走行線300が塗布ロールから離れる点(走行線300と塗布ロールとの接触部分のうちの最も前方側の端)から前方側で、走行線300が自重で垂れ下がり懸垂線状にたわんだ形状となる。このようなたわみによっても、走行線300の走行方向は、下方にずれ、水平な一定方向からずれてしまう。
【0031】
また、走行線300の走行方向には、水平面内での振動、つまり、水平方向についての振れも生じる。さらに、走行方向の水平方向への位置ずれ(平行移動)も生じる。
【0032】
第2に、走行線300が走行に伴い回動する(捩れる)ことによっても、調心力が妨げられる。
【0033】
第3に、横型の装置においては、ダイス210の重量により、走行線300と貫通孔215の内面との間の上方側部分が押しつぶされたような状態となることもある。このように、ダイス210の重量によっても、調心力が妨げられてしまう。
【0034】
第1の要因(走行方向の変化)や第2の要因(走行線の回動)によって調心力が妨げられた状態において、ダイス210が同一姿勢に固定されていれば、走行線300は貫通孔215の中心を通過せず、走行線300の外周に塗料を均一に塗布できない。そして、横型の装置において、走行線300の振動、捩れ、線懸垂によって走行線300の外周に塗料を均一に塗装できない主な理由は、第1の要因および第2の要因に依るところが大きい。
【0035】
なお、第3の要因(ダイス210の重量)によって調心力が妨げられた状態においても、走行線300は貫通孔215の中心を通過せず、走行線300の外周に塗料を均一に塗布できないこともある。
【0036】
第1実施形態によるエナメル線の製造装置100では、第1の要因および第2の要因に対して、調心機構付きダイス200を用いることにより、走行線300の走行方向が当該走行方向に直交する方向へ変化することや走行線300が周方向に捩れることに対して、ダイス210の周方向への回動を妨げずに、貫通孔215の中心軸を走行方向に調心させ、調心力が妨げられ難くなるように走行線300の走行方向の変化や回動に追従させることを見出した。これにより、エナメル線の製造装置100では、走行線300の振動、捩れ、線懸垂が生じる場合であっても、走行線300にダイス210の貫通孔215の中心を通過させるようにすることができるようになる(少なくとも、ダイス210の姿勢が調心されずに固定されている場合と比べて、走行線300の中心軸と貫通孔215の中心軸とのずれを抑制して走行線300を走行させることができるようになる)。
【0037】
また、第1実施形態によるエナメル線の製造装置100では、第3の要因に対して、調心機構付きダイス200の重量を相殺するように吊り上げることにより、走行線の中心軸と貫通孔215の中心軸とのずれを抑制することができるため、調心力が妨げられ難くなる。
【0038】
受け部材220は、ダイス210の鍔部213に隣接して配置される基材221と、基材221上に配置され、走行線300の走行方向の前方側に凸状をなす山部222を有する。すなわち、受け部材220は、基材221がダイス210の鍔部213に当接している状態で配置されている。受け部材220は、円環状等からなる環状の外形からなり、その中心部分にダイス210の胴体部214を貫入させるための孔が設けられている。なお、この孔は、例えば、当該孔の内面が胴体部214の表面に接することができる外径を有することが好ましい。受け部材220は、このような外径を有する孔が設けられていることにより、受け部材220の孔に胴体部214を貫入させた状態でダイス210に受け部材220を保持させることができる。そのため、走行線300が周方向に回動するときに、走行線300の回動に追従して受け部材220とダイス210とを一体として回動させることができる。
【0039】
受け部材220は、基材221の外径がダイス210の鍔部213の外径よりも大きいことが好ましい。走行線300がダイス210の貫通孔215を通過することによって走行線300の外周上に塗布された余分な塗料が除去される。このとき、受け部材220の基材221の外径を、ダイス210の鍔部213の外径よりも大きくすることにより、ダイス210にて除去された余分な塗料が、ダイス210の一方端面211側から後述するベアリング部材230へ流入することを防止することができる。そのため、受け部材220では、ダイス210を用いて走行線300の外周上から除去された余分な塗料がベアリング部材230に付着し、この付着によってベアリング部材230の回動が妨げられてしまう、ということを防止することができる。その結果、調心機構付きダイス200では、走行線300の回動(所謂、走行線300の捩れ)に追従させるようにダイス210の姿勢を効果的に変化させることができる。
【0040】
受け部材220は、走行線300の走行方向の前方側に凸状をなす山部222を有する。この山部222は、後述するベアリング部材230のベアリング部231と接触する状態で配置されていることにより、ベアリング部231が走行線300の周方向へ回動することによって付与される回転力を、受け部材220を介してダイス210へ与えることができる。そのため、調心機構付きダイス200では、走行線300の周方向へ走行線300が回動することに対してダイス210の姿勢を追従させるように変化させることができる。
【0041】
なお、山部222は、ベアリング部231と当接する部分である横断面の外径が、ベアリング部231と当接することができる程度の大きさを有することが好ましい。すなわち、山部222は、上述した作用を得るとの観点から、横断面の形状がベアリング部231に当接することが可能な形状(例えば、円環状などからなる形状)を有することが好ましい。
【0042】
ベアリング部材230は、受け部材220の山部222に隣接して配置され、走行線300の周方向にダイス210を回動させるベアリング部231を有する。すなわち、ベアリング部材230は、ベアリング部231が受け部材220の山部222に接触している状態で後述する可動部材240に設けられた凹部241の内部に嵌入されている。ベアリング部231は、転動体(玉)と、転動体を挟み込むように対向して配置される内輪および外輪とを有するものからなる。具体的には、例えば、ラジアルベアリングやアキシャルベアリング等が適用可能である。ベアリング部材230は、ベアリング部231が走行線300の周方向へ回動することにより、走行線300が周方向に捩れることに追従してダイス210が周方向へ回動することができる。
【0043】
ベアリング部材230は、円環状等からなる環状の外形からなり、その中心部分にダイス210の胴体部214を貫入させるための孔が設けられている。なお、この孔は、例えば、当該孔の内面が胴体部214の表面に接することができる外径を有することが好ましい。ベアリング部材230は、このような外径を有する孔が設けられていることにより、ベアリング部材230の孔に胴体部214を貫入させた状態でダイス210にベアリング部材230を保持させることができる。
【0044】
可動部材240は、ダイス210の鍔部213や受け部材220と対向する面内に、ベアリング部材230が嵌入される凹部241と、凹部241の底面242に設けられて胴体部214を貫入させる孔部243を有する本体部244、及び本体部244の走行方向側(凹部241が設けられている面よりも前方側)の部分に配置され、走行線300の走行方向と直交する方向に本体部244を可動させる可動部245を有する。
【0045】
可動部材240の凹部241には、ベアリング部材230が嵌入された状態で配置される。これにより、ダイス210は、胴体部214が受け部材220、ベアリング部材230、及び可動部材240の全てに対して貫入された状態で保持されることになる。すなわち、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240が連接されて一体となった調心機構付きダイスとなる。このとき、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240は、同心軸上に配置されていることが好ましい。また、本体部240には、図2に示すように、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230の嵌入作業、および走行線300を本体部240の内部へ配置する作業を容易にするために、走行線300の直径や厚みよりも広径な大きさを有する切欠き部247が設けられていることが好ましい。
【0046】
可動部材240では、ベアリング部材230が本体部244の凹部241に嵌入された状態で配置されているとともに、可動部245がベアリング部材230と別体に配置されていることにより、走行線300の走行方向が当該走行方向に直交する方向へ変化するのに対して、ベアリング部材230によるダイス210の回動を妨げずに、貫通孔215の中心軸を走行方向に調心させるようにダイス210が可動することになる。
【0047】
案内部材250は、可動部材240の可動部245と接するように配置され、走行線300の走行方向の変化にダイス210が連動して可動するように可動部材240を案内させるための案内面251を有する。案内部材250は、可動部材240に対して前方側に固定的に配置される。また、案内部材250には、走行方向に配置された案内面251から案内面251に対向する面にかけて貫通している開口部を有し、その開口部の横断面形状が略U字状を有する。なお、ダイス210に挿通された走行線300は、案内部材250の開口部を走行した後に、次工程である硬化炉130へ供給されることになる。案内部材250は、例えば、鉄やSUS等の金属材料を機械加工することにより作製することができる。また、案内部材250は、横断面形状が略U字状であることにより、開口部からダイス210をセットすることが容易になる。
【0048】
可動部材240の可動部245は、ローラからなることが好ましい。可動部245は、例えば、図3に示すように、鉛直方向に並置された異なる2つのローラ245a、245bで構成される。このとき、ダイス210は、胴体部214がローラ245a、245bの間に嵌入され、かつ胴体部214の他方端面212が案内部材250の開口部の内部に位置するように配置される。
【0049】
ローラ245aは、円柱状のローラ本体の外周上に、ローラ本体の幅の長さよりも小さい幅の長さを有する表層部が配置されたものからなる。ローラ245aの表層部の幅の長さは、案内部材250に設けられた開口部の幅の長さと同じであり、ローラ245aのローラ本体の幅の長さは案内部材250の開口部の幅の長さよりも大きい。可動部材240は、ローラ245aの表層部が案内部材250の開口部に嵌め込まれ、かつローラ245aのローラ本体が案内部材250の案内面251に当接されるように、案内部材250に当接させる。一方、ローラ245bは、案内面251に当接するローラ本体のみからなるものであってもよく、また、ローラ245aと同じ構造を有するものであってもよい。
【0050】
調心機構付きダイス200では、このような可動部245を有する可動部材240が案内部材250と当接されることにより、走行線300の走行方向に直交する鉛直方向に対して走行線300が振れたときや、走行線300が自重で垂れ下がり懸垂線状にたわんだ形状となったときに、可動部材240が案内部材250から脱離するのを防止しつつ、ダイス210の姿勢を走行線300の走行方向の変化に追従させるように変化させ、調心力が妨げられ難くする。そのため、調心機構付きダイス200では、走行線300にダイス210の貫通孔215の中心を通過させるように調心することができるようになる。
【0051】
ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240は、走行線300の走行時に可動部材240が案内面251に当接することで、それ以上前方側への移動が抑止される。このように、案内部材250は、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240の前方側の抑止部材としても機能する。
【0052】
案内面251は、走行線300の走行方向の前方側に向かって凸状の曲面形状を有することが好ましい。案内面251は、このような曲面形状を有することにより、走行線300の走行方向が鉛直方向へ変化する際にダイス210及び可動部材240を案内して、ダイス210及び可動部材240の姿勢を制御するのに効果的である。これにより、走行線300が貫通孔215の中心を通過するように、ダイス210の姿勢を制御することができる。
【0053】
なお、案内面251の曲面形状は、上述のような形状に限定されない。案内面251の曲面形状は、走行線300の走行方向が変化する際に、ダイス210の姿勢が固定されている場合と比べて、走行線300の中心軸とダイス210の貫通孔215の中心軸とのずれが抑制されるようにダイス210を案内することが可能な形状であればよい。
【0054】
横型の装置における走行線300の走行方向は、特に、鉛直方向についての変化が大きくなりやすい。このため、横型の装置においては、案内面251の鉛直面内での断面形状が、走行線300の走行方向前方に向かって凸状の形状であることが好ましい。
【0055】
可動部材240は、本体部244に、走行線300に外部から掛かる重量、つまり、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240の重量を相殺するよう、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240を吊り上げる(吊るす)ための吊上部246をさらに有する。
【0056】
吊上部246に吊上機構を接続することより、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240、さらに必要に応じてダイス210から溢れ落ちる塗料の重量を相殺することで(走行線300にダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240の重量が掛かり難くなるよう、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240を浮かせることで)、ダイス210、受け部材220、ベアリング部材230及び可動部材240の重量に起因して調心力が妨げられることを抑制できる。
【0057】
吊上部246に接続される吊上機構としては、例えば、ダイス210等の重量と等しい重量を持つ錘を、滑車を介して線状体により吊上部246と接続した構造を有するものがある。また、吊上部246に接続される他の吊上機構としては、例えば、吊上部246の上方に配置される固定部材に、バネなどの弾性体を介して可動部材240をぶら下げた構造を有するものがある。
【0058】
なお、調心力への影響が無視できる場合は、吊上部246及び吊上機構を省略してもよい。
【0059】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明の第2実施形態によるエナメル線の製造装置が有する調心機構付きダイス200の構成を示す側面図である。なお、図4に示す調心機構付きダイス200では、図3に示す調心機構付きダイス200と対比して、可動部材240の構造が異なることのみで相違する。以下の説明では、説明の煩雑さを避けるため、第1実施形態と対応する部材や構造等について、共通の参照番号を用いて説明を進める。以下主に、第1実施形態との違いについて説明する。
【0060】
図4に示す調心機構付きダイス200において、可動部材240は、案内部材250の案内面251と対向する位置に、ボールローラ245cからなる可動部245を有する。可動部材240は、例えば、図4に示すように、鉛直方向に並置された複数のボールローラ245cが配置されている。このとき、ボールローラ245cの先端は、案内面251に接触した状態になっている。そして、ダイス210は、胴体部214がボールローラ245cの間に嵌入され、かつ胴体部214の他方端面212が案内部材250の開口部の内部に位置するように配置される。
【0061】
図4に示す調心機構付きダイス200では、ボールローラ245cからなる可動部245を適用することにより、走行線300が鉛直方向、水平方向、および周方向に対して変化するのに追従するように、ダイス210及び可動部材240の姿勢を制御することができる。これにより、調心機構付きダイス200は、走行線300が貫通孔215の中心を通過するように、ダイス210の姿勢を制御することができる。
【0062】
〔実施形態の効果〕
第1及び第2実施形態によれば、塗装部120において走行線300の走行方向の変化等が生じる際に、調心機構付きダイス200により、走行線300にダイス210の貫通孔215の中心を通過させるようにすることができる(少なくとも、ダイス210の姿勢が固定されている場合と比べて、走行線300の中心軸と貫通孔215の中心軸とのずれを抑制して走行線300を走行させることができる)。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0064】
例えば、調心機構付きダイス200では、ダイス210と可動部材240との間に、ベアリング部材230に接するように受け部材220を別体として設けた例で説明したが、これに限定されず、受け部材220をダイス210に一体化させた構造のダイスを用いてもよい。ダイス210と受け部材220とを一体化させた構造のダイスとしては、例えば、ダイス210の鍔部213の表面に、走行方向の前方側に凸状をなしてベアリング部材230に当接する山部が設けられているもの等がある。このとき、胴体部214は、鍔部213の表面に設けられた山部の表面に設けられていることになる。
【0065】
また、調心機構付きダイス200では、受け部材220の基材221がダイス210の鍔部213よりも外径が大きい例で説明したが、これに限定されず、鍔部213の外径を、ダイス210にて除去された余分な塗料がダイス210の一方端面211側からベアリング部材230へ流入することを防止することが可能な大きさにすることでもよい。
【0066】
このように、本発明の実施形態では、発明の主旨を逸脱しない範囲内において、部品点数を削減した構造の調心機構付きダイス200にすることも可能である。
【0067】
上記に記載した実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0068】
100 エナメル線の製造装置
120 塗装部
130 硬化炉
200 調心機構付きダイス
210 ダイス
220 受け部材
230 ベアリング部材
240 可動部材
250 案内部材
300 走行線
310 絶縁被覆
320 エナメル線
図1
図2
図3
図4
図5