(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0017】
(絶縁バスバーの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの構成を示す説明図であり、(a)は絶縁バスバーの上面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B断面図である。
【0018】
図1に示されている通り、絶縁バスバー10は、例えば板状の導体(バスバー)1と、導体1上に設けられた絶縁層2と、を備えている。絶縁バスバー10は、例えばインバーターやコンバーター等の電力変換装置内にて電流を伝送する配線部材(絶縁被覆導体)として用いられるものである。
【0019】
導体1は、銅、アルミニウムまたは銅とアルミニウムのクラッド材で構成されている。
図1(a)及び(b)に示されている通り、導体1は端子部1aを有し、その端子部1aには電気機器等の端子(図示しない)を挿入するための孔1bが設けられている。この電気機器等の端子(図示しない)が装着される端子部1a(孔1bを含む)は、絶縁層2で覆われていない。なお、バスバーの形状としては、平角導体のような線形タイプ、2次元構造の平板タイプ、L字型のように折り曲げた3次元構造の立体タイプがある。
【0020】
また、
図1(c)に示すように、導体1のエッジ部1cはラウンド加工及び面取り加工されていることが望ましい。導体1は、その外枠の切断加工と端子部1aへの孔1bの穴開け加工とを伴うが、このような加工はプレス加工、若しくは、レーザーやウォータージェットなどの溶断、切削加工で実現可能である。しかし、どの加工方法でも必ず切断面にエッジが存在し、その角度が鋭利なほどその部分に電界が集中するため、絶縁設計上問題となる。特に本発明のような塗料を付着して絶縁層を形成する場合においては、エッジ部1cの形状には細心の注意を払う必要がある。図示したようにエッジ部1cにラウンド加工及び面取り加工を施すことにより、塗料の付き回りを向上させると共に、エッジ部1cへの電界集中を低減することができる。
【0021】
絶縁層2は、要求される絶縁特性及び耐熱性によって、例えばポリイミド、アミドイミド、エポキシ、アクリル等の樹脂(塗料)の中から適宜選定可能であるが、高い耐熱性を要求される用途においては、ポリイミド、アミドイミド、エポキシ等の熱硬化性の樹脂を選定することが必須となる。絶縁塗装方式は電着塗装又は粉体塗装両者が可能であり、用途に応じて選定すればよい。電着塗装の場合、得られる絶縁層2の被覆の厚みは50μm以下であり、主として低電圧の用途が対象となる。一方、粉体塗装の場合、得られる絶縁層2の被覆の厚みは100μm以上を確保することが可能であり、主として中高圧以下の用途が対象となる。
【0022】
(積層絶縁バスバーの構成)
図2は、本発明の実施の形態に係る積層絶縁バスバーの構成を示す積層絶縁バスバーの横断面図である。
【0023】
図2に示されている通り、積層絶縁バスバー20は、板状の上側導体(上側バスバー)3と、上側導体3上に設けられた絶縁層4と、板状の下側導体(下側バスバー)5と、下側導体5上に設けられた絶縁層6と、を備え、絶縁層4と絶縁層5はその接する部分において後述する熱硬化工程で溶着されている。この積層絶縁バスバー20は、例えばインバーターやコンバーター等の電力変換装置内にて電流を伝送する配線部材(絶縁被覆導体)として用いられるものである。
【0024】
上側導体4及び下側導体5は、上述した導体1と同様の材質、形状のもので構成され、電気機器等の端子(図示しない)が装着される端子部及び孔を有しており、端子部及び孔の部分は絶縁層5、6で覆われていない。
図2は、上側導体4に上側端子7aが装着され、下側導体5に下側端子7bが装着された状態を示している。また、上側導体4及び下側導体5は、上述した導体1と同様に、そのエッジ部はラウンド加工及び面取り加工されていることが望ましい。また、絶縁層5、6の材質及び厚さは、上述した絶縁層2と同様であり、ここでは説明を省略する
【0025】
(第1の実施の形態(絶縁バスバーの製造方法))
図3は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの製造工程を示す説明図である。
【0026】
まず、
図1で説明した導体1(エッジ部1cをラウンド加工及び面取り加工したもの)を準備し、端子部1a及び孔1bに塗装前の準備作業としてマスキング処理を施す。すなわち、端子部の周囲は通電を確保する必要があり、絶縁処理をしてはいけない箇所となるため、その箇所には塗料が付着しないようなマスキング処理を施す必要がある。マスキング材料には、ポリイミド、シリコン、綿布、ポリエステル等のテープ材や中空の内面を保護するためのプラグ材、キャップ材、チューブ材等がある。また、200℃以上の耐熱性を有するマスキング材も数多く存在している。よって、マスキング材料は、導体(バスバー)1の構造や絶縁層を形成する際の温度等の条件を考慮して最適の材料を選定すれば良い。
【0027】
(塗膜形成工程S1)
塗膜形成工程S1は、導体の表面に塗料を付着させる工程であり、上述のマスキング処理を施した導体に以下に説明する手法で塗料を付着させる。なお、導体に塗料を付着する手法としては、電着塗装または粉体塗装がある。
【0028】
電着塗装は被塗物を陽極にするアニオン電着塗装と陰極にするカチオン電着塗装があるが、導体が銅、アルミニウムまたは銅とアルミニウムのクラッド材の場合は酸化溶解変色のおこらないカチオン電着塗装が適している。カチオン電着塗装の塗料にはポリイミド、アミドイミド、エポキシ、アクリル等があるが、絶縁層に耐熱性が要求される場合はポリイミド、アミドイミド、エポキシから選定することが望ましい。カチオン電着塗装の場合、陰極となる被塗物の表面で水の電気分解により水素ガスが発生し、その水素ガスが堆積した塗料を突き抜けていくため、電着塗装が終了した段階では堆積した樹脂間に微小な隙間やボイドが存在しているような状態になる。
【0029】
一方、粉体塗装で樹脂を塗装する方法には、静電スプレー法と流動浸漬法がある。前者の静電スプレー法は、粉体を帯電させた後にスプレーガンによって粉体を被塗物に向けて噴出し、アースに落とした被塗物と帯電した粉体間に静電気力を発生させることで、100〜200μm程度の均一な塗膜を形成する技術である。後者の流動浸漬法は、粉体を入れた容器の下部に多孔質の隔壁を設け、その下部より不活性の気体で粉体を均一に浮かした状態にした後、予備加熱をおこなった被塗物を浸漬することで、200μm以上の均一な塗膜を形成する技術である。しかし、いずれの手法でも、塗装した粉体粒子間に微小な空隙やボイドが存在した状態になる。
【0030】
上述した通り、電着塗装または粉体塗装のいずれの手法でも、塗装した直後の塗膜は、樹脂粒子同士間に微小な空隙(またはボイド)が存在している(
図4(A)または
図5(A)参照)。したがって、この状態で一般の加熱装置(熱風またはヒータ)で樹脂を加熱すると、塗膜の溶融はその表面(導体とは反対側の面)から進み、ある程度の隙間は、塗膜(樹脂)が溶融する過程で大きなボイドとなって表面に出現した後に、そこを溶融した樹脂が埋めることで消滅するが、全ては抜けきらずに樹脂の内部に閉じ込められ、ボイドとして存在することになる。特に、塗装表面から離れている導体との界面近傍に微小なボイドが残りやすい。
【0031】
(溶融脱泡工程S2)
この溶融脱泡工程S2は、塗膜形成工程S1で形成した塗膜を溶融すると共に、塗膜を脱泡する(すなわち、塗膜の内部に存在していた空隙やボイドをなくす)工程である。具体的には、塗膜を付着させた導体を加熱装置にセットし、塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)以上、熱硬化温度未満に加熱して塗膜を溶融させる。そして、塗膜が溶融している状態で塗膜の内部に存在している空隙(またはボイド)がなくなるように脱泡する(
図4(A)〜(D)及び
図5(A)〜(D)参照)。この工程により、ボイドがない塗膜を得ることができる。
【0032】
(熱硬化工程S3)
熱硬化工程S3は、溶融脱泡工程S2後の塗膜を熱硬化する工程である。具体的には、溶融脱泡工程後の塗膜を熱硬化温度まで昇温することにより、樹脂を熱硬化する(
図4(E)及び
図5(E)参照)。溶融脱泡工程後の塗膜にはボイドがないため、熱硬化後の塗膜にもボイドが存在しない。
【0033】
(冷却工程S4)
冷却工程S4は、熱硬化した塗膜を冷却して絶縁層を得る工程である。この工程を経て、ボイドがない絶縁層を有する絶縁バスバーが得られる(
図4(F)及び
図5(F)参照)。なお、冷却工程S4の後に、端子部を保護していたマスキング材を除去することは言うまでもない。
【0034】
(絶縁バスバーの製造方法の一実施例(導体加熱法))
図4は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの製造方法の一実施例を示す説明図である。この
図4は、
図3の溶融脱泡工程S2から冷却工程S4までの工程の詳細を説明するもので、各工程の塗膜の状態や温度条件及び圧力条件を示している。なお、
図4(A)〜(F)は、グラフ中のA〜Fの位置(時間)における塗膜の状態を示している。
【0035】
本実施例では、塗膜形成工程S1で導体表面に付着させた塗膜から空隙(またはボイド)をなくすために、溶融脱泡工程S2において、導体加熱法を用いている。導体加熱を実現する方法は、導体に大電流を通電しジュール熱で加熱する方法や、高周波電源とコイルにより誘導電流により加熱する方法があるが、被塗物の体積、形状、生産性に応じて適宜選定すれば良い。
【0036】
図4(A)〜(D)に示すように、加熱装置(図示しない)内で常温の状態から導体101を加熱することにより、導体101が昇温していき、導体101側から塗膜102が徐々に溶融していくと共に、導体101上に塗装した塗膜102の内層部の圧力が外層部より高くなり、溶融する過程で空気が外層部側に向かって(すなわち、塗膜表面から外に)逃げる。その結果、空隙103(またはボイド)は導体101側から徐々に消滅していき、塗膜102全体が溶融した状態の溶融塗膜104中には隙間及びボイドが残っていない。
【0037】
なお、
図4(A)〜(D)において、加熱温度は塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)(図中の破線)以上、熱硬化温度以下であればよく、加熱装置内の雰囲気中の圧力は大気圧若しくは加圧状態である。
【0038】
上述の溶融脱泡工程後は、加熱装置内で導体101の温度を更に昇温し、溶融塗膜104が熱硬化する温度以上に達したら一定時間保持し、溶融塗膜104を熱硬化し、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105とする(
図4(E))。この時の加熱装置内の雰囲気中の圧力は溶融脱泡工程と同じ圧力で良い。
【0039】
熱硬化後は導体101の加熱を停止して温度を徐々に下げ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105を冷却する(
図4(F))。以上の工程を経て、ボイドがない絶縁層を導体上に形成した絶縁バスバー10が得られる。
【0040】
(絶縁バスバーの製造方法の他の実施例(加熱・圧力制御法))
図5は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの製造方法の他の実施例を示す説明図である。この
図5は、
図3の溶融脱泡工程S2から冷却工程S4までの工程の詳細を説明するもので、各工程の塗膜の状態や温度条件及び圧力条件を示している。なお、
図5(A)〜(F)は、グラフ中のA〜Fの位置(時間)における塗膜の状態を示している。
【0041】
本実施例では、塗膜形成工程S1で導体表面に付着させた塗膜から空隙(またはボイド)をなくすために、溶融脱泡工程S2において、加熱・圧力制御法を用いている。この加圧・圧力制御法では、加熱中に圧力を変動させその圧力差を利用して脱泡を行う。圧力差を出す手法は、加熱装置として、真空恒温槽を用いる手法と加熱加圧恒温槽を用いる場合があるが、考え方は同じである。真空恒温槽を用いる場合は、加熱開始時から塗膜(樹脂)溶融時までは一般の熱風炉と変わりなく、大気圧の状態で被塗物を加熱し、脱泡処理の際に真空引き(減圧)する。これに対し、加圧加熱恒温槽を用いる場合は、溶融時に大気圧よりも高い圧力に加圧し、脱泡時に減圧する。
【0042】
図5(A)(B)に示すように、常温の状態から加熱装置内(熱風若しくはヒータ等の加熱手段)で加熱することにより、塗膜102の表面側から温度が上昇し、徐々に溶融塗膜104となっていく。なお、塗膜102を溶融させる工程では、むしろ塗膜102中に空気(隙間103)が存在している方が塗装102全体に熱が伝わりやすく、短時間で溶融状態まで進行させることができる。
【0043】
塗膜全体が溶融塗膜104となったところで、脱泡処理を行う(
図5(C))。溶融塗膜104すなわち溶融状態の塗膜(樹脂)中には、塗料(樹脂粒子)の隙間に存在していた空気が集まり、塗膜(樹脂)中に散在する状態になっている。この状態で周囲(雰囲気)の圧力を減圧する(好ましくは真空にする)と、溶融塗膜104中のボイド106が高圧になるため、圧力が低い溶融塗膜104の外側に向けて移動することになる。この状態を一定時間保持することにより、溶融塗膜104中に残っていたボイド106を除去することができる。
【0044】
脱泡処理によりボイド106が抜けた後は、加熱装置内の圧力を大気圧(または加圧状態)に戻す(
図5(D)。これにより、溶融塗膜104の内部よりもその周囲(雰囲気)の方の圧力が高くなっているため、溶融塗膜104中にボイド106が再び発生することはない。その状態で昇温すれば、短時間で塗膜を熱硬化できる。
【0045】
なお、
図5(A)〜(D)において、加熱温度は塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)(図中の破線)以上、熱硬化温度以下であれば良い。ただし、熱硬化温度に達しない温度でも、熱硬化樹脂は熱硬化を開始する場合がある。もし溶融脱泡工程で、溶融塗膜104の表面が熱硬化を開始すると、ボイドが完全に抜け切らないばかりでなく、一部のボイドは熱硬化した層を突き抜けて外に逃げるため、塗膜表面に凹凸が形成されてしまう。この凹凸は最終的に得られる絶縁層表面に残ったままとなる。そのため、本実施例の脱泡処理工程では、その工程中に溶融塗膜104の表面が熱硬化を開始しないよう加熱温度及び加熱時間を調整する必要がある。
【0046】
上述の溶融脱泡工程後は、加熱装置の温度を更に昇温し、溶融塗膜104が熱硬化する温度以上に達したら一定時間保持し、溶融塗膜104を熱硬化し、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105とする(
図5(E))。この熱硬化時の加熱装置内の雰囲気の圧力は、
図5(D)の時の圧力をそのまま保持することで良い。
【0047】
熱硬化後は加熱を停止して加熱装置内の雰囲気温度を徐々に下げ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105を冷却する(
図5(F))。以上の工程を経て、ボイドがない絶縁層を導体上に形成した絶縁バスバー10が得られる。
【0048】
(第2の実施の形態(絶縁積層バスバーの製造方法))
図6は、本発明の実施の形態に係る絶縁積層バスバーの製造工程を示す説明図である。
【0049】
まず、
図2で説明した上側導体3及び下側導体5(いずれもエッジ部をラウンド加工及び面取り加工したもの)を準備し、端子部及び孔に塗装前の準備作業としてマスキング処理を施す。マスキング処理は、上述した第1の実施形態(絶縁バスバーの製造方法)の場合と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0050】
(塗膜形成工程S11)
塗膜形成工程S11は、導体の表面に塗料を付着させる工程であり、上述のマスキング処理を施した導体に以下に説明する手法で塗料を付着させる。この塗膜形成工程は、上述した第1の実施形態(
図3の塗膜形成工程1)と同様であり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0051】
(溶融脱泡工程S12)
この溶融脱泡工程S12は、塗膜形成工程S11で形成した塗膜を溶融すると共に、塗膜を脱泡する(すなわち、塗膜の内部に存在していた空隙やボイドをなくす)工程である。具体的には、塗膜を付着させた導体を加熱装置にセットし、塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)以上、熱硬化温度未満に加熱して塗膜を溶融させる。そして、塗膜が溶融している状態で塗膜の内部に存在している空隙(またはボイド)がなくなるように脱泡する(
図8(A)〜(D)及び
図9(A)〜(D)参照)。この工程により、ボイドがない塗膜を得ることができる。この溶融脱泡工程S12の後、塗膜を冷却して固化させ、一旦、加熱装置から塗膜付き導体(バスバー)を取り出す。なお、この状態で塗膜は熱硬化していない。
【0052】
(導体積層工程S13)
導体積層工程S13は、冷却固化した塗膜を有する導体(バスバー)を複数枚準備し、これらを所定の組み合わせ及び所定の配置で積層して、加熱装置にセットする工程である。
【0053】
(熱硬化工程S14)
熱硬化工程S3は、塗膜付き導体を積層した状態で塗膜を熱硬化すると共に、接している塗膜同士を接着(溶着)させる工程である(
図8(E)及び
図9(E)参照)。溶融脱泡工程後の塗膜にはボイドがないため、熱硬化後の塗膜(熱硬化樹脂層)にもボイドが存在しない。
【0054】
この熱硬化工程S14は、例えば
図7に示す方法で行う。すなわち、塗膜4を有する上側導体3と塗膜6を有する下側導体5を加熱装置内の下側プレート8a及上側プレート8bの間にセットし、この積層した状態で熱硬化する温度まで加熱する。なお、加熱中は上側プレート8bの積層方向の上方から(
図7中の矢印の如く)加圧することが望ましい。
【0055】
(冷却工程S15)
冷却工程S15は、熱硬化及び積層した部分において溶着した塗膜を冷却して絶縁層を形成する工程である。この工程を経て、ボイドがない絶縁層4、6を有する積層絶縁バスバー20が得られる(
図8(F)及び
図9(F)参照)。なお、冷却工程S15の後に、端子部を保護していたマスキング材を除去することは言うまでもない。
【0056】
(積層絶縁バスバーの製造方法の一実施例(導体加熱法))
図8は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの製造方法の一実施例を示す説明図である。この
図8においては、
図6の溶融脱泡工程S12から冷却工程S15までの工程の詳細を説明するもので、各工程の塗膜の状態や温度条件及び圧力条件を示している。なお、
図8の(A)〜(F)の図面は、グラフ中の温度A〜Fの位置(時間)における塗膜の状態を示している。
【0057】
本実施例では、塗膜形成工程S11で導体表面に付着させた塗膜から空隙(またはボイド)をなくすために、溶融脱泡工程S12において、導体加熱法を用いている。導体加熱を実現する方法は、単に導体に大電流を通電しジュール熱で加熱する方法や、高周波電源とコイルにより誘導電流により加熱する方法があるが、被塗物の体積、形状、生産性に応じて適宜選定すれば良い。
【0058】
図8(A)〜(D)に示すように、加熱装置(図示しない)内で常温の状態から導体101(
図2の上側導体3または下側導体5に相当。本実施例において以下同じ)を加熱することにより、導体101側が高温になるため、導体101上に塗装した塗膜102(
図2の塗膜3または6に相当。本実施例において以下同じ)の内層部の圧力が外層部より高くなり、溶融する過程で空気が外層側に向かって(すなわち、塗膜表面から外に)逃げる。その結果、空隙103は導体101側から徐々に消滅していき、塗膜102の全体が溶融した状態の溶融塗膜104中には隙間(ボイド)が残っていない。
【0059】
なお、
図8(A)〜(D)において、加熱温度は塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)(図中の破線)以上、熱硬化温度以下であればよく、加熱装置内の雰囲気中の圧力は大気圧若しくは加圧状態である。
【0060】
図8(D)の後、溶融塗膜104を冷却して固化させ、加熱装置から塗膜付き導体101を取り出す。この状態で塗膜は熱硬化していない。このようにして得られた塗膜付き導体101を、所定の組み合わせ及び配置の状態に積層して、加熱装置にセットする。なお、
図8における導体積層工程の圧力(大気圧)を示す線は便宜上破線としている。この導体積層工程は大気圧中で行われるが、その前後の工程の加熱装置内の雰囲気の圧力は大気圧ではない場合がある。
【0061】
塗膜付き導体101の積層作業が完了したら、加熱装置内で導体101の温度を昇温するか若しくは雰囲気温度を昇温する。塗膜が熱硬化する温度以上に達したら一定時間保持し、塗膜を熱硬化させ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105とする(
図8(E))。なお、塗膜は熱硬化する温度まで昇温する過程で溶融状態となる。そのため、積層した状態で接している塗膜同士は相溶して接着(溶着)する。その状態で熱硬化させることにより、接する塗膜同士を溶着一体化することが可能となる。なお、
図7で説明した通り、加熱中は積層した塗膜付き導体101に対し、その積層方向(紙面上、上方)から加圧することが望ましい。また、熱硬化中の加熱装置内の雰囲気圧力は、大気圧または加圧状態のいずれでも良いが、真空または減圧状態としても良い。
【0062】
熱硬化後は導体101の加熱を停止若しくは加熱装置内の雰囲気温度を徐々に下げ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105を冷却固化する(
図8(F))。以上の工程を経て、複数枚の絶縁層付き導体(バスバー)を積層一体化させた積層絶縁バスバー20が得られる。
【0063】
(積層絶縁バスバーの製造方法の他の実施例(加熱・圧力制御法))
図9は、本発明の実施の形態に係る絶縁バスバーの製造方法の他の実施例を示す説明図である。この
図9においては、
図6の溶融脱泡工程S12から冷却工程S15までの工程の詳細を説明するもので、各工程の塗膜の状態や温度条件及び圧力条件を示している。なお、
図9の(A)〜(F)の図面は、グラフ中のA〜Fの位置(時間)における塗膜の状態を示している。
【0064】
本実施例では、塗膜形成工程S11で導体表面に付着させた塗膜から空隙(またはボイド)をなくすために、溶融脱泡工程S12において、加熱・圧力制御法を用いている。この加圧・圧力制御法では、加熱中に圧力を変動させその圧力差を利用して脱泡を行う。圧力差を出す手法は、加熱装置として、真空恒温槽を用いる手法と加熱加圧恒温槽を用いる場合があるが、考え方は同じである。真空恒温槽を用いる場合は、加熱開始時から塗膜(樹脂)溶融時までは一般の熱風炉と変わりなく、大気圧の状態で被塗物を加熱し、脱泡処理の際に真空引き(減圧)する。これに対し、加圧加熱恒温槽を用いる場合は、溶融時に大気圧よりも高い圧力に加圧し、脱泡時に減圧する。
【0065】
図9(A)(B)に示すように、常温の状態から加熱装置内(熱風若しくはヒータ等の加熱手段)で加熱することにより、導体101(
図2の上側導体3または下側導体5に相当。本実施例において以下同じ)上に形成した塗膜102(
図2の塗膜3または6に相当。本実施例において以下同じ)の表面側から温度が上昇し、徐々に溶融塗膜104となっていく。なお、塗膜102を溶融させる工程では、むしろ塗膜102中に空気(隙間103)が存在している方が塗装102全体に熱が伝わりやすく、短時間で溶融状態まで進行させることができる。
【0066】
塗膜全体が溶融塗膜104となったところで、脱泡処理を行う(
図9(C))。溶融塗膜104すなわち溶融状態の塗膜(樹脂)中には、塗料(樹脂粒子)の隙間に存在していた空気が集まり、塗膜(樹脂)中に散在する状態になっているが、この状態で周囲(雰囲気)の圧力を減圧する(好ましくは真空にする)と、溶融塗膜104中のボイド106が高圧になるために、圧力が低い溶融塗膜104の外側に向けて移動することになる。この状態を一定時間保持することにより、溶融塗膜104中に残っていたボイド106を除去することができる。
【0067】
ボイド106が抜けた後は、加熱装置内の圧力を大気圧(または加圧状態)に戻す(
図9(D)。これにより、溶融塗膜104の内部よりもその周囲(雰囲気)の方の圧力が高くなっているため、溶融塗膜104中にボイド106が再び発生することはない。その状態で昇温すれば、短時間で樹脂を硬化できる。
【0068】
なお、
図9(A)〜(D)において、加熱温度は塗膜(樹脂)のガラス転移温度(Tg)(図中の破線)以上、熱硬化温度未満であればよく、加熱装置内の雰囲気中の圧力は大気圧若しくは加圧状態である。ただし、本実施例の脱泡処理工程においても、上述した通り、溶融塗膜104の表面が熱硬化を開始しないよう加熱温度及び加熱時間を調整する必要がある。
【0069】
図9(D)の後、溶融塗膜104を冷却して固化させ、加熱装置から塗膜付き導体101を取り出す。この状態で塗膜は熱硬化していない。このようにして得られた塗膜付き導体101を、所定の組み合わせ及び所定の配置で積層して、加熱装置にセットする。なお、
図9における導体積層工程の圧力(大気圧)を示す線は便宜上破線としている。この導体積層工程は大気圧中で行われるが、その前後の工程の加熱装置内の雰囲気の圧力は大気圧ではない場合がある。
【0070】
塗膜付き導体101の積層作業が完了したら、加熱装置内の温度を更に昇温する。塗膜が熱硬化する温度以上に達したら一定時間保持し、塗膜を熱硬化させ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105とする(
図9(E))。なお、塗膜を熱硬化させる温度まで昇温する過程で、塗膜は溶融状態となる。そのため、積層した状態で接している塗膜同士は相溶して接着(溶着)する。その状態で熱硬化することにより、接する塗膜同士を溶着一体化することができる。なお、
図7で説明した通り、加熱中は積層した塗膜付き導体101に対し、その積層方向(紙面上、上方)から加圧することが望ましい。また、熱硬化中の加熱装置内の雰囲気圧力は、大気圧または加圧状態のいずれでも良いが、真空または減圧状態としても良い。
【0071】
熱硬化後は加熱を停止して加熱装置の雰囲気温度を徐々に下げ、熱硬化した塗膜(熱硬化樹脂層)105を冷却固化する(
図9(F))。以上の工程を経て、複数枚の絶縁層付き導体(バスバー)を積層一体化させた積層絶縁バスバー20が得られる。
【0072】
以上に説明した通り、本発明の各実施例の絶縁バスバーの製造方法及び積層絶縁バスバーの製造方法によれば、絶縁層の内部及び導体との界面近傍にボイドがない絶縁バスバー及び積層絶縁バスバーを得ることができる。なお、絶縁層のボイドの有無は、例えばX線検査装置、X線CT検知装置、超音波映像装置のような非破壊検査装置で確認することができる。また、導体との界面におけるボイドの有無は、絶縁層を導体から剥離して目視(顕微鏡)で確認することもできる。
【0073】
(本発明で得られる絶縁バスバー及び積層絶縁バスバーの用途等)
上述のとおり、省エネルギーの観点からインバーター、コンバーターが広く普及し、今後も変換効率の向上が大きな課題となっている。その変換効率向上に向け、次世代のパワー素子であるSiC等を用いたパワーモジュールの採用が急速に増えつつある。このようなパワーモジュールは、現行のIGBTに比較し、電力変換装置の小型化のため高周波で動作する、高温で動作する、伝送するパワーが増大する(高電圧化・大電流化)という特徴があるが、この技術的進化に対応したパワーモジュール実装用の配線板(バスバー)が求められる。
【0074】
一方、電力変換用装置用のバスバーは、スイッチングのON時の電圧の跳ね上がりを抑制するため、インダクタンス成分を極力低減した構造にすることが望ましく、積層絶縁バスバー構造で設計されることが一般的である。そのため、上述したパワーモジュールを採用した電力変換装置に用いられる絶縁バスバー(特に積層絶縁バスバー)の絶縁設計においては、絶縁層として耐熱性の樹脂を使用し、インダクタンス低減のために絶縁層の厚さを極力薄くするとともに、所定の電圧に耐えるために絶縁強度を向上させ、高温動作を可能とすることが要求される。しかし、インダクタンス低減のために絶縁層を薄くしていくと耐電圧を保持することが難しくなる。すなわち、インダクタンス低減と耐電圧とはトレードオフの関係にある。
【0075】
本発明により得られる絶縁バスバー及び積層絶縁バスバーは、絶縁層にボイドがないため、絶縁層の厚さが薄くても耐電圧を保持することができる。特に、導体界面近傍において最も電界ストレスが高くなるが、そこに微小なボイドがないため、高電圧印加、高温動作という使用環境下においても、インダクタンス低減と耐電圧保持の両立が可能であり、パワーモジュールを採用した電力変換装置に用いられる絶縁バスバー及び積層絶縁バスバーに好適である。