(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段により異物混入ありと検出判定された前記被検出対象が前記伝送線路の電磁界内に配置されているときの、当該伝送線路で送受信される前記高周波信号の時間応答を測定し、時間応答の相違により前記被検出対象内の前記異物の位置を特定する位置特定手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の非破壊検出装置。
高周波信号を伝送線路に伝送することで、前記伝送線路の外部の少なくとも被検出対象がある位置に電磁界を発生させ、前記伝送線路から出力された前記高周波信号に基づいて、前記被検出対象内に異物が混入しているか否かの非破壊検出をコンピュータに実行させる非破壊検出プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記伝送線路から出力された前記高周波信号を測定して得た測定値のうち、最初の測定値を基準値とし、2回目以降の測定値を判定用測定値とする測定機能と、
前記基準値と前記判定用測定値との差に基づき、所定の二次元座標における直線の勾配を計算する勾配計算機能と、
前記伝送線路に前記高周波信号を伝送させることで前記伝送線路の外部に発生される電磁界内に、予め異物が存在しないことが確認されている既知の被検出対象を配置し、そのときの伝送線路からの高周波信号の測定値に基づいて事前に計算した前記所定の二次元座標における直線の勾配を基準勾配として記憶しておき、その基準勾配と前記勾配計算機能で計算した勾配とを比較し、前記計算した勾配が前記基準勾配と異なるとき、前記被検出対象に異物混入ありの検出判定をする判定機能と、
を実現させ、
前記高周波信号の測定値は複素表記された前記高周波信号のSパラメータの実部及び虚部の値であり、前記所定の二次元座標は前記実部及び虚部、又はそれらを演算して得た位相及び振幅の一方を縦軸とし、他方を横軸としたときの二次元座標である
ことを特徴とする非破壊検出プログラム。
【背景技術】
【0002】
食品の製造時や収穫時に、食品中に金属片、プラスチック片、ガラス片、石、土、髪の毛などの、本来その食品中に存在すべきでない異物が混入して製造され、その食品の製品が消費者に流通して発見されるような事態になると、製造業者は多数の製品を回収する必要があり、多額の損失が生じるとともにその製品(以下、本明細書では便宜上、食品の製品も単に「食品」ということがある)の製造業者の信頼性が毀損されることとなる。したがって、食品中に混入する異物をいかに検出して排除するかの品質管理が食品業界において極めて重要な課題となっている。このため、従来から食品中の異物を、人力による目視検査や光を用いた色彩選別法、金属検知器、X線の高い透過性と画像処理技術を融合したX線異物検出法などの非破壊検出法が開発され、実用化されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0003】
これらのうち赤外線や近赤外線、可視光線、紫外線等の光を用いた色彩選別法では、対象とする食品にレーザ光を照射し、その反射光・透過光・散乱光の強度を受光部が測定し、基準値と比較することで異物を検出する。ここで使用する基準値は被検出対象毎に異なるため、被検出対象毎に基準値や検量線を予め準備する必要がある。したがって、この色彩選別法では、異物として検出したい対象が予め定まっており、かつ、それぞれの被検出対象毎に基準値や検量線を予め作成しておかなければならない。更に、物体として同じ検出対象であっても、対象表面の色が異なると、光の吸収率が異なるため、基準値や検量線を別に作成する必要がある。したがって、色彩選別法では、検出対象が不明な場合は、それを異物として検出することが極めて困難である。
【0004】
また、特許文献1記載の非破壊検出方法では、食品に近赤外波長領域のレーザ光を照射して得られる、透過光や散乱光の強度を測定して比較することにより、食品内に埋没している金属以外のプラスチック等の異物を非破壊で検出する方法が開示されている。この非破壊検出方法では、レーザ光を被検出対象に照射する必要があるため、レンズなどの光学部品を用いてレーザ光を制御するか、あるいは機械制御により被検出対象を固定した光源下に移動するなどの手段を用いる必要がある。また、特許文献2には、カメラなどを用いて被検出対象の食品を撮影し、撮影した光の吸光度などに基づく画像認識や目視により食品中に髪の毛などの非金属異物が混入しているか否かを判定する非破壊検査方法が開示されている。この非破壊検出方法は、前記の各非破壊検出方法に比べて面的に被検出対象をとらえることができるので、被検出対象表面に存在する異物を広範囲にわたって検索することができる。
【0005】
また、特許文献3にはX線を用いて被検出対象の非破壊検査を行う方法が開示されている。X線は高い物質透過性を有するため、X線を用いた非破壊検出方法は、被検出対象である食品の内部に埋没している異物を非破壊検出するために有効な方法である。更に、アンテナを使用した電波による非破壊検出装置が従来知られている(例えば、非特許文献1及び2、特許文献4参照)。この電波を用いた非破壊検出装置では、アンテナ等を用いて測定対象に電波を照射し、その反射または透過を測定して、その測定値を基準値と比較することで非破壊検出を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の光を用いた非破壊検出方法では、いずれの方法においても、被検出対象の食品が小型でそれほど厚みがなく、かつ、光に対して吸収が大きくない物質で構成されている食品であれば、食品対象の表面から僅かに内部に光が侵入するため、光源や装置の工夫や、検出器の超高感度化などにより、内部に埋没している異物を非破壊で検出できる可能性がある。しかし、被検出対象の食品が、例えば損失が大きい水分が豊富な食材や、表皮が厚い果物や野菜、あるいは包装されていて光が透過しないような包装済み食品などの場合には、その内部に埋没している異物を検出することができない。また、例えば濁っていたり、曇っていたりする被検出対象についても光による異物の検出は困難である。
【0009】
特許文献3に記載されたようなX線を用いた非破壊検出方法は、金属や密度の高い物質で構成される異物については、比較的容易に検出することができる。しかし、例えばプラスチック片など、X線に対して高い透過性を持つ物質で構成される異物については、異物のX線画像が周辺X線画像と殆ど一体化してしまうため、その検出が極めて困難である。
【0010】
一方、電波は光のようにビームの範囲を絞ることが容易ではないため、空間に放射された電波は被検出対象の製造現場などにおいては、周辺にある機械などの金属類による反射の影響などが大きくなる。そこで、従来の電波による非破壊検出装置では、周辺などの影響と異物による影響とを識別するために、予め検出したい対象(異物)に対する電波の特性を測定し、基準値を得ておく必要がある。すなわち、この非破壊検出装置では、予め検出したい異物に対する電波の伝搬特性を調べておかなければならない。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、検出したい異物の情報を予め調べる必要なく、容易に対象空間を設定することができると共に、被検出対象の表面に存在する異物だけでなく、水分が豊富で吸収が大きい被検出対象の内部に埋没している金属で構成された異物及びプラスチック片などの非金属で構成された異物のいずれも非破壊で検出できる非破壊検出方法及び非破壊検出装置並びに非破壊検出プログラムを提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の他の目的は、被検出対象の内部に埋没している金属で構成される異物及び非金属で構成される異物の被検出対象内の位置を検出し得る非破壊検出方法及び非破壊検出装置並びに非破壊検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明の非破壊検出方法は、伝送線路に高周波信号を伝送させて、前記伝送線路の外部の少なくとも被検出対象がある位置に電磁界を発生させる信号伝送ステップと、前記伝送線路を伝送した前記高周波信号を測定し、最初の測定値を基準値とする基準値測定ステップと、前記伝送線路を伝送した前記高周波信号を測定し、2回目以降の測定値を得る測定ステップと、前記基準値と前記2回目以降の測定値との差に基づき、所定の二次元座標における直線の勾配を計算する勾配計算ステップと、予め異物が存在しないことが確認されている既知の被検出対象の位置に、前記伝送線路に前記高周波信号を伝送させて前記伝送線路の電磁界を発生させ、そのときの伝送線路からの高周波信号の測定値に基づいて事前に計算しておいた前記所定の二次元座標における直線の勾配を基準勾配とし、その基準勾配と前記勾配計算ステップで計算した勾配とを比較し、前記計算した勾配が前記基準勾配と異なるとき、前記被検出対象に異物混入ありの検出判定をする判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、上記の目的を達成するため、本発明の非破壊検出装置は、伝送線路と、高周波信号を発生して前記伝送線路に伝送することで、前記伝送線路の外部の少なくとも被検出対象がある位置に電磁界を発生させ、前記伝送線路から出力された前記高周波信号を受信する送受信手段と、前記送受信手段で受信された前記高周波信号を測定して得た測定値のうち、最初の測定値を基準値とし、2回目以降の測定値を判定用測定値とする測定手段と、前記基準値と前記判定用測定値との差に基づき、所定の二次元座標における直線の勾配を計算する勾配計算手段と、前記伝送線路に前記高周波信号を伝送させることで前記伝送線路の外部に発生される電磁界内に、予め異物が存在しないことが確認されている既知の被検出対象を配置し、そのときの伝送線路からの高周波信号の測定値に基づいて事前に計算した前記所定の二次元座標における直線の勾配を基準勾配として記憶しておき、その基準勾配と前記勾配計算手段で計算した勾配とを比較し、前記計算した勾配が前記基準勾配と異なるとき、前記被検出対象に異物混入ありの検出判定をする判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記の目的を達成するため、本発明の非破壊検出プログラムは、高周波信号を伝送線路に伝送することで、前記伝送線路の外部の少なくとも被検出対象がある位置に電磁界を発生させ、前記伝送線路から出力された前記高周波信号に基づいて、前記被検出対象内に異物が混入しているか否かの非破壊検出をコンピュータに実行させる非破壊検出プログラムにおいて、前記コンピュータに、前記伝送線路から出力された前記高周波信号を測定して得た測定値のうち、最初の測定値を基準値とし、2回目以降の測定値を判定用測定値とする測定機能と、前記基準値と前記判定用測定値との差に基づき、所定の二次元座標における直線の勾配を計算する勾配計算機能と、前記伝送線路に前記高周波信号を伝送させることで前記伝送線路の外部に発生される電磁界内に、予め異物が存在しないことが確認されている既知の被検出対象を配置し、そのときの伝送線路からの高周波信号の測定値に基づいて事前に計算した前記所定の二次元座標における直線の勾配を基準勾配として記憶しておき、その基準勾配と前記勾配計算機能で計算した勾配とを比較し、前記計算した勾配が前記基準勾配と異なるとき、前記被検出対象に異物混入ありの検出判定をする判定機能と、を実現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出したい異物の情報を予め調べる必要なく、容易に対象空間を設定することができると共に、被検出対象の表面に存在する異物だけでなく、水分が豊富で吸収が大きい被検出対象の内部に埋没している金属で構成された異物及びプラスチック片などの非金属で構成された異物のいずれも非破壊で検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の非破壊検出原理について説明する。
本発明では、伝送線路に高周波信号を入力して伝送させることでその伝送線路の外部周囲の空間に電磁界を発生させ、その電磁界中に被検出対象を近づけると被検出対象の電気的特性(具体的には複素誘電率)に応じて伝送線路から出力される高周波信号の複素表記された実部(例えば位相)の値と虚部(例えば振幅)の値が変化する。この伝送線路から出力される高周波信号の実部及び虚部のうち一方の値を横軸に、他方の値を縦軸にとった二次元座標において、上記の実部と虚部の各変化量の比を示す値が、伝送線路と被検出対象との相対位置や相対距離(すなわち、被検出対象の透過電磁界量)に応じて変化する直線で表される。また、その直線の傾きである勾配は、被検出対象の電気的特性に応じて変化するが、電気的特性が一定であれば変化しない。一方、被検出対象の電気的特性は、異物が混入していないときと混入しているときとで異なる。
【0019】
そこで、本発明では、異物が混入していない被検出対象を、伝送線路の周囲の空間に発生している電磁界に透過させた時に得られる複素表記された高周波信号の実部と虚部の二次元座標における実部と虚部の各変化量の比の分布状態を示す直線の勾配を予め比較の基準として用意し、それと異物の混入が不明な実際の被検出対象に対して同様にして得られた高周波信号の実部と虚部の二次元座標における実部と虚部の各変化量の比の分布状態を示す直線の勾配とを比較し、異なるときその被検出対象には異物が含まれていると検出する。なお、本明細書では「変化量」は伝送線路の入力高周波信号に対する出力高周波信号の変化量を意味する。
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る非破壊検出装置の一実施形態のブロック図を示す。同図において、本実施形態の非破壊検出装置10は、伝送線路11、送受信器12及び解析装置13から構成されている。伝送線路11は例えばマイクロストリップラインで構成されており、その入力端子から出力端子へ例えばマイクロ波帯の高周波信号が伝送されると、外部周囲の空間にマイクロ波帯の電磁界を発生する。また、送受信器12は、例えばベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で構成されており、マイクロ波帯の高周波信号を送受信する機能を備える。解析装置13は、コンピュータ及び表示装置等により構成されており、伝送線路11を伝送する高周波信号のSパラメータ(本明細書では、具体的には入力信号に対する出力信号の電圧比を示す伝達係数)を測定し、複素表記されたその実部(例えば位相)の変化量と虚部(例えば振幅)の変化量とを解析し、被検出対象(本実施形態では食品)の電気的特性を得る機能を備える。
【0021】
次に、本実施形態の非破壊検出装置10の動作について
図2のフローチャートを併せ参照して説明する。まず、送受信器12は、マイクロ波帯の高周波信号を発生して伝送線路11の入力端子に供給する。伝送線路11は、入力端子に供給された高周波信号を設計値に従って伝搬し、その出力端子から出力する。送受信器12は伝送線路11から出力された高周波信号を受信する(以上、ステップS1)。
【0022】
伝送線路11は、高周波信号の伝送時にその外部周囲の空間に電磁界分布を発生する。このとき、食品サンプルなどの被検出対象20を伝送線路11に近づけると、伝送線路11上の電磁界分布と被検出対象20の電気的特性に応じて伝送線路11から出力される高周波信号が減衰し、その複素表記された実部(例えば位相)の値と虚部(例えば振幅)の値が、被検出対象20が無いときと比べて変化する。
【0023】
解析装置13は、送受信器12が受信した伝送線路11の出力高周波信号を送受信器12から供給され、最初に供給された高周波信号のSパラメータを算出し、そのSパラメータの実部と虚部の値の相関関係(それらの比)を解析して基準値とする(ステップS2、S3)。続いて、被検出対象20を移動すると共に、上記と同様にして送受信器12が伝送線路11を伝送した高周波信号を受信する(ステップS4)。解析装置13は、送受信器12が2回目に受信した伝送線路11の出力高周波信号が供給され、その高周波信号のSパラメータの実部と虚部の値(測定値)を算出し(ステップS5)、ステップS3で設定した基準値との差を基に勾配計算をする(ステップS6)。
【0024】
すなわち、伝送線路11上の電磁界分布内を被検出対象20を透過する電磁界量が変化する方向に被検出対象20が移動すると、それに応じて伝送線路11から送受信器12へ出力される高周波信号のSパラメータの実部と虚部の値(測定値)が被検出対象20の移動前に比べて変化する。そこで、解析装置13は、X軸及びY軸の一方を実部の変化量とし、他方を虚部の変化量とした二次元座標で表されるそれら変化量の比の分布状態を示す直線の勾配を求める(上記のステップS6)。これにより、温度や湿度など、周辺環境の影響による装置系のドリフトの影響を排除することができ、また、異物がない状態の被検出対象(食品など)の測定値を基準値として用いることができるため、損失の大きい食品などに埋没した異物でも感度良く検出することができる。ただし、被検出対象である食品と異物の物性が大きく異なる場合は、この差分処理をせず、測定値そのものを使用するだけでも、異物を容易に検出することができる。
【0025】
続いて、解析装置13は、異物が存在しない被検出対象について同様の方法で予め求めて記憶しておいた比較用の基準勾配を上記の計算した勾配と比較して被検出対象20に異物が混入しているか否かを判定する(ステップS7)。ここで、上記の実部の変化量と虚部の変化量の各測定値は、被検出対象20が伝送線路11上の電磁界分布を透過する電磁界量に応じて変化するが、被検出対象20の電気的特性が同一であれば、複数回の測定による各測定値(Sパラメータの実部と虚部)により示される変化量の比は、被検出対象20自体の大きさや形によらず、同一勾配の同じ直線上に分布する。一方、上記の比較用の基準勾配は、異物が存在しないことを確認した既知の被検出対象に対して上記と同様にして測定して得た実部の変化量と虚部の変化量の比の分布を示す直線の勾配である。
【0026】
これに対し、被検出対象20の表面や内部に異物が混入している場合は、被検出対象20の電気的特性が、異物が存在しない被検出対象20の電気的特性と異なるから、原理上、測定した実部の変化量と虚部の変化量の比の分布を示す直線の勾配は、上記の比較用の基準勾配と異なる。よって、解析装置13は上記の被検出対象20の測定値により示される変化量の比の分布を示す直線の勾配が、比較用の基準勾配と異なるか否かをステップS7で判定し、異なる場合は異物が存在するとの検出結果を得ることができる。ステップS7の判定により異物が存在しないと判定したときは、ステップS4〜S7の処理に戻り、同様にして次の測定値に基づく異物判定を行う。そして、ステップS7の判定により異物が存在すると判定したときは、非破壊検出処理を終了する(ステップS8)。
【0027】
このように、本実施形態によれば、伝送線路11上を異物が存在しない被検出対象を近づけたときの測定値に基づく伝送線路11の出力高周波信号の実部と虚部の各変化量の比の分布を示す直線の勾配を比較基準として、異物の混入が不明な被検出対象20を伝送線路11上に近づけたときの測定値に基づく伝送線路11の出力高周波信号の実部と虚部の各変化量の比の分布を示す直線の勾配と比較するようにしたため、混入が想定される異物の情報を予め調べる必要がなく、従来技術で必須であった異物毎の情報に基づく検量線を作成しなくても、被検出対象20の異物の混入の有無を非破壊検出することができる。
【0028】
また、包装用フィルムやプラスチック、紙、ペットボトルや段ボールなどに覆われた状態の被検出対象でも未開封の状態で異物の混入の有無を検出することができる。また、本実施形態によれば、被検出対象の表面だけでなく内部に埋没した状態など、異物の存在する位置や状態、大きさや形によらずに異物を検出することができる。また、本実施形態によれば、野菜など水分が豊富で吸収が大きい食品中に埋没しているX線に対して高い透過性を持つ物質で構成された異物(例えばプラスチック片など)でも非破壊で検出することができる。
【0029】
更に、電波による非破壊検出装置では、予め検出したい異物に対する電波の伝搬特性を調べておかなければならなかったが、本実施形態の非破壊検出装置10によれば、伝送線路11の周囲の空間に発生している電磁界分布により決まる検出範囲空間における電気的特性(複素誘電率)の変化を検出するようにしているため、従来の電波を用いた非破壊検出装置で必要な異物毎の電波の伝搬特性を調べておく必要がなく、対象空間の電気的特性の相対変化を得ることができる。更にまた、本実施形態の非破壊検出装置10によれば、センサとして伝送線路11を用いているので、検出対象空間を限定することができるため、アンテナを使用した従来の電波を用いた非破壊検出装置で問題となるマルチパスや周辺からの反射による情報の分離といった問題を容易に回避することができる。
【0030】
なお、本実施形態の非破壊検出装置10に類似する他の非破壊検出装置として、本出願人が開示した特許文献(日本特開2015−161597号公報)に記載の装置がある。この特許文献記載の水分量測定装置によれば、被検出対象に電磁波を照射して得た電磁波の振幅と位相の変化量から物質の水分量を非破壊で推定するため、検出対象の水分量が既知の複数の物質のそれぞれについて、予め電磁波の振幅と位相の変化量の関係を直線近似した直線の傾きを求め、更にこの直線の傾きと水分量との関係を表す検量線を乾燥重量法などの別の方法を用いて求めておく。そして、水分量測定装置は、水分量が未知の被検出対象に照射して得た電磁波の振幅と位相の変化量の関係を示す直線の傾きを求めて、複数の検量線のいずれに当てはまるか判定することにより、被検出対象の水分量を推定する。
【0031】
これに対し、本実施形態の非破壊検出装置10によれば、前述したように、異物が混入していない被検出対象を、伝送線路の周囲の空間に発生している電磁界に透過させた時に得られる高周波信号のSパラメータの実部と虚部の二次元座標における各変化量の比の分布状態を示す直線の勾配を予め比較の基準として用意し、それと異物の混入が不明な実際の被検出対象に対して同様にして得られた高周波信号のSパラメータの実部と虚部の二次元座標における直線の勾配とを比較し、異なるときその被検出対象には異物が含まれていると検出する構成である。このため、本実施形態の非破壊検出装置によれば、上記水分量測定装置と異なり、異物毎の情報に基づく検量線を作成する必要がないという特有の効果がある。
【0032】
ところで、上記の実施形態では、被検出対象20の伝送線路11上の位置を移動して、伝送線路11上の電磁界分布から受ける被検出対象20の電磁界量の変化に基づく伝送線路11を伝送する高周波信号の測定値に基づき、複素表記された高周波信号の実部の変化量と虚部の変化量との比の分布を示す直線の勾配を求めている。被検出対象20を伝送線路11上で移動させながら測定を行う理由は、伝送線路11上の空間にある電磁界の被検出対象の透過量を変化させるためである。すなわち、伝送線路11上に被検出対象を移動させず置いただけでは、たとえ複数回の測定を行っても、二次元座標の同じ座標位置に複数回の測定点が重なるだけで直線の勾配を得ることができない。しかし、被検出対象20を伝送線路11上で移動させると、伝送線路11から出力される複素表記された高周波信号の実部と虚部の値が変化するため、それらの変化量の比の分布状態を示す直線の勾配を得ることができる。
【0033】
これに対し、次に説明する本発明の他の実施形態では、被検出対象を伝送線路上に置いただけで移動することなくそのまま測定するものである。この実施形態の構成は
図1のブロック図に示した構成とほぼ同様であるが、
図1の送受信器12とは異なり、本実施形態では送受信器が被検出対象の異物の検出に最適な周波数と、その最適周波数を中心として例えば10%〜20%程度の所定の周波数範囲で掃引させた高周波信号を送信して伝送線路を伝送させるか、あるいはこの周波数範囲にある最適周波数及び他の複数の周波数成分からなる合成高周波信号を送信して伝送線路を伝送させる構成である。
【0034】
この実施形態について
図3のフローチャートを併せ参照して説明する。伝送線路は上記の送受信器から供給された高周波信号の最適周波数及びその近傍の複数の周波数成分にそれぞれ対応した電磁界分布をその外部周囲に発生し、最適周波数及びその近傍の複数の周波数成分毎に同じ被検出対象に対する異なる複数の電気的特性に応じた変化量を示した高周波信号を出力する。送受信器はこの伝送線路からの高周波信号を受信する(ステップS11)。この送受信器で受信される高周波信号は、最適周波数及びその近傍の複数の周波数成分毎に同じ被検出対象に対する異なる複数の電気的特性に応じた変化量を示した、実部と虚部の各変化量が互いに異なる信号である。これにより、解析装置はこの高周波信号の周波数毎の各Sパラメータを算出し(ステップS12)、その実部と虚部の各値を示す、異なる複数の測定点のデータに基づき、
図1に示した一実施形態とほぼ同様の複数の直線の勾配の基準値を得る(ステップS13)。
【0035】
続いて、上記と同様にして送受信器が伝送線路を伝送した高周波信号を受信する(ステップS14)。解析装置13は、送受信器が新たに受信した2回目の伝送線路の出力高周波信号が供給され、その高周波信号の周波数毎のSパラメータを算出し(ステップS15)、その実部と虚部の各値を示す、異なる複数の測定点のデータに基づき、ステップS13で設定した複数の基準値との差を基にして得られる複数の直線の勾配の計算をする(ステップS16)。これにより、解析装置13は、X軸及びY軸の一方を実部の変化量とし、他方を虚部の変化量とした二次元座標で表されるそれら変化量の比の分布状態を示す複数の直線の勾配が求められる。解析装置は、それら複数の直線の勾配と異物が混入していないことが分かっている被検出対象から予め同様にして求めて記憶しておいた比較用の単一の基準勾配とを比較し、複数の直線の勾配のすべてが基準勾配と同じであるときは、被検出対象に異物が混入していないと判定し(ステップS17)、再びステップS14の処理に戻る。一方、ステップS17で上記複数の直線の勾配のいずれかが基準勾配と異なるときは、被検出対象に異物が混入していると判定し、被検出対象の異物混入の非破壊検出処理を終了する(ステップS18)。
【0036】
したがって、この実施形態では被検出対象を伝送線路上から移動することなく、被検出対象に混入した異物の非破壊検出ができる。なお、この実施形態は異物の非破壊検出だけでなく、水分量や糖度などの品質を非破壊計測するなど、伝送線路をセンサとして用いた品質検査技術全般に適用可能である。
【0037】
次に、本発明に係る非破壊検出装置において、被検出対象の表面又は内部に混入した異物の非破壊検出に加えて、異物の位置を検出する変形例について2つ説明する。
図4は、本発明に係る非破壊検出装置の第1の変形例のブロック構成図を示す。同図に示すように、第1の変形例の非破壊検出装置30は、伝送線路11a及び11b、送受信器12a及び12b、解析装置15から構成されている。すなわち、この変形例の非破壊検出装置30は
図1の非破壊検出装置10における伝送線路11及び送受信器12を2セット設けた構成である。伝送線路11aはその長手方向がベルトコンベア25の移動方向に対して直角に配置されている。伝送線路11bは、ベルトコンベア25の移動方向に対して伝送線路11aの下流側で、かつ、その長手方向が斜めに配置されている。被検出対象20はベルトコンベア25に載置されて、伝送線路11a及び11bの電磁界分布の存在する上方位置を既知の一定速度で移動するようになされている。
【0038】
次に、この変形例の非破壊検出装置30の動作について
図5のフローチャートを併せ参照して説明する。なお、
図5中、
図2と同一処理ステップには同一符号を付し、その説明を省略する。まず、送受信器12aから送信され伝送線路11aを伝送して送受信器12aで受信された後、解析装置15に供給される高周波信号に基づき、解析装置15は伝送線路11aを伝送した高周波信号のSパラメータを算出し、
図5のステップS3で設定した基準値との差を基に勾配計算をする(
図5のステップS5、S6)。解析装置15は、X軸及びY軸の一方を実部の変化量とし、他方を虚部の変化量とした二次元座標で表されるそれら変化量の比の分布状態を示す直線の勾配を求め(上記のステップS6)、伝送線路11aを用いて異物が混入していない被検出対象から上記と同様の方法で予め求めて記憶しておいた比較用の基準勾配と比較して被検出対象20に異物が混入しているか否かを判定する(
図5のステップS7)。
【0039】
解析装置15は、
図5のステップS7で被検出対象20の測定値により示される変化量の比の分布を示す直線の勾配が、比較用の第1の基準勾配と異なり、異物が存在すると判定した場合は以下の動作を行う。まず、解析装置15は時間測定を開始する(ステップS21)。続いて、送受信器12bから送信され伝送線路11bを伝送して送受信器12bで受信された後、解析装置15に供給される最初の高周波信号に基づき、解析装置15は伝送線路11bを伝送した高周波信号のSパラメータを算出する(以上ステップS22、S23)。次に、解析装置15はこのSパラメータの実部と虚部の値の相関関係(それらの比)を解析して第2の基準値とする(ステップS24)。
【0040】
引き続き送受信器12bから送信された高周波信号が伝送線路11bを伝送して送受信器12bで受信され、更に解析装置15に入力される(ステップS25)。解析装置15はステップS25で受信した伝送線路11bを伝送した2回目の高周波信号のSパラメータを算出し(ステップS26)、そのSパラメータの実部と虚部の値の相関関係と第2の基準値との差を基に勾配計算をする(ステップS27)。すなわち、解析装置15は、ステップS27においてX軸及びY軸の一方を実部の変化量とし、他方を虚部の変化量とした二次元座標において、第2の基準値が示す測定点とステップS26で算出したSパラメータの実部と虚部の値の比を示す測定点とを結ぶ直線の勾配を求める。
【0041】
続いて、解析装置15は、ステップS27で計算した勾配と前記比較用の基準勾配とを比較し、被検出対象20に異物が混入しているか否かを判定する(ステップS28)。ステップS28では解析装置15はステップS27で計算した勾配が基準勾配とほぼ一致していれば異物無しと判定してステップS25の処理に戻り、再び異物が混入しているか否かの処理に戻る。一方、解析装置15はステップS28で上記計算した勾配が基準勾配と異なるときは異物ありと判定し、ステップS21での時間測定開始から、ステップS28の判定時点までの経過時間を計算する(ステップ29)。
【0042】
ベルトコンベア25の速度は既知の一定速度であり、また、ベルトコンベア25の移動方向に対して伝送線路11aは長手方向が直角に配置され、かつ、伝送線路11bは伝送線路11aの下流側で、かつ、その長手方向が上記移動方向に対して斜めに配置されているので、解析装置15は上記の経過時間から被検出対象20に混入している異物の位置を算出する(ステップS30)。すなわち、ベルトコンベア25の移動方向における伝送線路11a及び11bの中心位置間の距離の所定の移動時間に対する経過時間の長短のずれにより異物の位置が分かる。その後、異物位置検出処理を終了する(ステップS31)。なお、ベルトコンベア25の移動方向を上記の例とは逆方向とし、斜めに配置された伝送線路11bと、伝送線路11bの下流側に直角に配置された伝送線路11aとを用いても、上記と同様の処理により異物の位置の検出は可能である。
【0043】
次に、時間領域測定を用いて異物の位置を検出する第2の変形例について説明する。この第2の変形例の構成は
図1の構成と同様で、解析装置13の解析アルゴリズムが
図1の実施形態と異なる。第2の変形例の非破壊検出装置の動作について、
図6のフローチャートを併せ参照して説明する。なお、
図2のフローチャートと同一処理ステップには同一符号を付し、その説明を省略する。解析装置13は、ステップS7で異物ありと判定したときは、続いて、ステップS4等により周波数領域で得られた波形から数学的に時間領域の波形に変換して計測する時間領域の計測を行って、周波数領域ではわからない伝送線路11上の被検出対象20内に異物があるときに現れる、不整合の位置と大きさを検出する。
【0044】
すなわち、解析装置13はVNAで構成されており、伝送線路11の入力信号及び出力信号だけでなく反射されて送受信器12に供給される反射信号も含めたSパラメータを計算することで、送受信器12で送受信される高周波信号の時間応答を測定し、これにより伝送線路11上の異物有りと判定された被検出対象20内の異物の有る場所と無い場所との時間応答の違いから距離を算出する(ステップS41)。続いて、解析装置13は高周波信号の応答の違いから算出した距離から被検出対象20内の異物の有る場所の位置を特定する(ステップS42)。なお、デジタル掃引による高速掃引を用いて得られた測定値を解析装置13で解析することで、伝送線路11上の被検出対象20のどの位置に異物があるかを高速に特定することができる。
【0045】
次に、異物の非破壊検出プロセス全体のループ化による送受信器及び伝送線路のドリフトの除去方法について、
図7のフローチャートと共に説明する。上記の
図2、
図3、
図5及び
図6に示した各フローチャートによる異物検出方法を長時間実行すると、周辺環境等の影響により送受信器及び伝送線路のドリフトの影響が現れる可能性がある。検出感度を高く維持するためには、定期的に基準値を得ることが望ましい。そこで、上記の
図2、
図3、
図5又は
図6に示したフローチャートによる異物検出処理を、定期的にN回(Nは所望の自然数)ループ化して繰り返し実行することで、N回毎に基準値を再設定する(
図7のステップS51〜S53)。これにより、検出感度を高く維持することができる。
【0046】
ところで、被検出対象の食品の厚みや幅が大きい場合は、食品に混入している異物が伝送線路から離れた位置にあることがあり、その場合は異物の非破壊検出が困難になる。そこで、この問題に対する対策として、伝送線路を被検出対象である食品を間に挟んで上下、左右などのように離間対向して配置する。これにより、一方の伝送線路から距離が離れた位置に異物が存在しても、他方の伝送線路からは異物の位置との距離が近いので、他方の伝送線路により異物を感度良く検出することができる。また、円筒形などの筒状のパイプ等の内部を食品が通過するような場合は、柔軟な材料を用いて印刷技術などにより伝送線路を作成し、これらのパイプ内部の形状に合わせて伝送線路を配置することで、パイプ内部を流れる食品に混入した異物を感度良く検出することができる。
【0047】
次に、本実施形態の非破壊検出装置10の実証実験結果について説明する。まず、異物検出の原理実証のために、電気的特性が既知で、大きさの異なるセラミックサンプルを2種類用意して原理実証実験を行った。本実施形態の原理によれば、電気的特性が同じであれば、被検出対象の大きさや外形によらず、高周波信号の実部と虚部の各値の比を示す二次元座標において同じ直線に測定値(高周波信号の実部と虚部の値)が分布するはずである。そこで、粒径が1.5mm、3mm、5mmのアルミナサンプルと、粒径3mm及び5mmのジルコニアサンプルを使用した。
【0048】
図8は、上記の実証実験結果を示すグラフである。同図において、横軸は受信高周波信号の実部の値から演算により算出した位相の変化量(単位rad)を示し、縦軸は受信高周波信号の虚部の値から演算により算出した振幅の変化量(単位dB)を示す。また、
図8において、縦軸の二列の数値、及び横軸の二行の数値はいずれもグラフに近い内側の数値がアルミナサンプルの数値、外側の数値がジルコニアサンプルの数値である。
図8に示す二次元座標のグラフにおいて、アルミナサンプルの位相の変化量及び振幅の変化量の比はIに示す直線の上に分布し、ジルコニアサンプルの位相の変化量及び振幅の変化量の比はIIに示す直線の上に分布することが確認された。また、互いに電気的特性が相違するアルミナサンプルとジルコニアサンプルの上記の直線I及びIIの勾配は、電気的特性に応じた異なる値であることも確認された。
【0049】
次に、実際に食品中に混入した異物を検出した例について説明する。被検出対象はコンビニエンスストアやスーパーなどで市販されている、
図9に容器の外観を示すカップ入り生野菜サラダである。このサラダの中に外部から視認できない位置に異物を入れて、カップ入り生野菜サラダの容器越しに本実施形態による異物の検出実験を行った。
図10は、その実験結果を示すグラフである。同図において、横軸は受信高周波信号の実部の値から演算により算出した位相の変化量(単位rad)を示し、縦軸は受信高周波信号の虚部の値から演算により算出した振幅の変化量(単位dB)を示す。
【0050】
図10において、丸印の複数の測定点が並ぶ直線IIIは異物が混入していないカップ入り生野菜サラダの特性を示し、四角印の複数の測定点が並ぶ直線IVは異物として小石が混入しているカップ入り生野菜サラダの特性を示し、×印の複数の測定点が並ぶ直線Vは異物としてガラスが混入しているカップ入り生野菜サラダの特性を示す。
図10から分かるように、異物が混入している食品(カップ入り生野菜サラダ)の特性の直線IV及びVは、異物が混入していない食品の特性の直線IIIと勾配が異なるため、異物の混入の有無を容器越しに非破壊で検出することができる。同様に、食品中に混入した虫の検出も可能であることを確認している。
【0051】
以上より、本実施形態や変形例に係る非破壊検出装置によれば、工業製品やその製造材料、農産物や食品のような不定形サンプルにも適用でき、異物の検出を容器越しでも非破壊でリアルタイムに検出することができる。
【0052】
なお、本発明は
図2、
図3、
図5、
図6及び
図7の各フローチャートで実行される非破壊検出方法のうち、少なくとも一以上の非破壊検出方法の処理ステップを解析装置であるコンピュータにより実行させる非破壊検出プログラムも包含するものである。この非破壊検出プログラムは、記録媒体から再生してコンピュータの実行用メモリにロードしてもよいし、通信ネットワークに配布されてコンピュータにダウンロードするようにしてもよい。