(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体50〜97質量%及び(a2)ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂から選ばれる少なくとも1種3〜50質量%を含む樹脂100質量部と、ハロゲン系難燃剤30〜60質量部と、ホウ酸亜鉛20〜50質量部と、金属水和物20〜50質量部と、三酸化アンチモン0〜50質量部とを含有し、その際の、前記ハロゲン系難燃剤、前記ホウ酸亜鉛、前記金属水和物及び前記三酸化アンチモンの合計含有量が、前記樹脂100質量部に対して、50〜105質量部であり、前記ポリプロピレン系樹脂がエチレン成分の含有量が1〜10質量%のエチレンープロピレンランダム共重合体、メソペンタッド分率が30〜60mol%の低立体規則性ポリプロピレン、プロピレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種である、難燃性架橋樹脂組成物。
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含有量が10〜25質量%であり、かつ前記樹脂中の酢酸ビニル含有量が5〜25質量%である請求項1に記載の難燃性架橋樹脂組成物。
前記ポリプロピレン系樹脂がエチレン成分の含有量6〜10質量%のエチレン−プロピレンランダム共重合体、低立体規則性ポリプロピレン及びプロピレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種であり、前記ポリブテン系樹脂がブテン系エラストマーである請求項1又は2に記載の難燃性架橋樹脂組成物。
前記金属水和物が、脂肪酸及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種で表面処理されている水酸化マグネシウムを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明における好ましい実施の形態を詳細に説明する。
<<難燃性架橋樹脂組成物>>
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、(a1)エチレン−酢酸ビニル共重合体50〜100質量%及び(a2)ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂から選ばれる少なくとも1種0〜50質量%を含む樹脂100質量部と、ハロゲン系難燃剤20〜60質量部と、ホウ酸亜鉛10〜50質量部と、金属水和物5〜50質量部と、三酸化アンチモン0〜50質量部とを含有する。
【0012】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物において、エチレン−酢酸ビニル共重合体の少なくとも一部は架橋している。このとき、エチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋態様は、特に限定されず、エチレン−酢酸ビニル共重合体同士で架橋していてもよく、後述する難燃剤等を含んで(包含した状態で)架橋していてもよい(この場合、樹脂と難燃剤との複合体を形成する)。
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、通常、エチレン部分が架橋する。また、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が後述する架橋助剤を含有する場合、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン部分と、後述する架橋助剤の官能基とが架橋反応して、エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋助剤を介して架橋する。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(難燃性架橋樹脂組成物)の架橋度は、用途などに応じて一義的に決定できないが、例えば、後述する架橋方法及び架橋条件によって得られる架橋度が挙げられる。具体的には、架橋度として、ゲル分率が、50〜90質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋度が上記範囲にあると、難燃性架橋樹脂組成物に、優れた、耐熱性、機械的特性又は加熱変形特性を付与できる。ゲル分率は、105℃に熱したキシレンを溶媒としたゲル分率測定によって、測定できる。
【0013】
本発明において、エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋していない難燃性樹脂組成物を、難燃性未架橋樹脂組成物又は難燃性非架橋樹脂組成物という。両者は、エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋していない点で共通するが、架橋処理される予定の樹脂組成物を難燃性未架橋樹脂組成物といい、架橋処理される予定のない(架橋処理を施さない)樹脂組成物を難燃性非架橋樹脂組成物という点で、相違する。したがって、難燃性未架橋樹脂組成物は、本発明の難燃性架橋樹脂組成物の製造中間体(製品)ということもできる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体が架橋していないとは、エチレン−酢酸ビニル共重合体が完全に架橋されていない態様に加えて、エチレン−酢酸ビニル共重合体の一部が架橋されている態様、例えば、ゲル分率が上記50質量%未満である態様も含む。
【0014】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、高度の難燃性を示す。具体的には、難燃性としては、後述するように、垂直燃焼試験VW−1において、30sec以上燃焼することなく、また指示旗及び綿も燃焼せず、しかも炭化物のドリップも生じないという特性を少なくとも示す。
また、本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、上記高度の難燃性と機械的特性を兼ね備え、必要により、耐熱性、耐寒性又は絶縁特性をも兼ね備える。本発明の難燃性架橋樹脂組成物が有する、機械的特性、耐寒性及び絶縁特性は、それぞれ、好ましくはUL1581の規格を満足する高度なものである。また、本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、好ましくはUL3289又はUL3398に規定の150℃クラスの耐熱性を有する。
更に、本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、軽量であり、JIS K 7112の水中置換法において好ましくは1.50未満の比重を有する。
【0015】
以下に、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が含有する成分について説明する。
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、樹脂と、難燃剤として、ハロゲン系難燃剤、金属水和物及びホウ酸亜鉛、好ましくは更に三酸化アンチモンとを含有し、必要により各種添加剤などを含有する。
【0016】
<樹脂>
本発明に用いる樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、好ましくは更にポリプロピレン及びポリブテンから選ばれる少なくとも1種を含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン及びポリブテン以外の樹脂を含有することもできる。
【0017】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、特に限定されず、エチレンと酢酸ビニルとを共重合して得られる共重合体の樹脂等が挙げられる。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレン成分及び酢酸ビニル成分が交互に重合してなる交互共重合体であってもよく、また、エチレン成分の重合ブロック及び酢酸ビニル成分の重合ブロックが結合してなるブロック共重合体でもよく、更にエチレン成分及び酢酸ビニル成分がランダムに重合しているランダム共重合体であってもよい。
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
エチレン−酢酸ビニル共重合体は、その酢酸ビニル含有量(Bi)が10〜25質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることが好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量が上記範囲内にあると、上述の優れた特性を兼ね備えたものとなる。すなわち、共重合体における酢酸ビニル含有量が高すぎると、機械的特性、耐寒性又は絶縁特性が低下することがある。酢酸ビニル含有量が低すぎると、難燃性が低下することがある。同様の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体を2種以上併用する場合についても、エチレン−酢酸ビニル共重合体それぞれが上記範囲の酢酸ビニル含有量を有していることが好ましい。
エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量は、JIS K 7192に準拠して求めることができる。
【0019】
また、本発明において、樹脂中の、エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量(X)は、5〜25質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることが好ましい。樹脂中の酢酸ビニル含有量が上記範囲内にあると、高度の難燃性を確保することができる。また、絶縁特性及び引張強度、更には耐寒性にも優れたものとなる。
樹脂中の酢酸ビニル含有量は、以下の式(1)により、求めることができる。
X(質量%)=Σ(Ai×Bi)/100 式(1)
Ai=エチレン−酢酸ビニル共重合体の、樹脂中の含有率(質量%)
Bi=エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量(質量%)
【0020】
エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(以下、MFRと記し、ASTM D−1238に準拠して、温度190℃、加重21.18Nの条件で、測定した値をいう。)は、絶縁電線等の配線材を製造する際の成形性の点から、0.1g/10分以上であることが好ましく、機械強度の点から10g/10分以下であることが好ましい。
【0021】
エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂としては、例えば、エバフレックス(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)、レバプレン(商品名、バイエル社製)を挙げることができる。
【0022】
エチレン−酢酸ビニル共重合体の、樹脂中の含有率は、50〜100質量%である。この含有率が50質量%未満であると、難燃性架橋樹脂組成物に、高度の難燃性を付与できないことがある。また、十分な柔軟性(引張伸び)及び耐熱性を付与できないことがある。上記含有率の上限値は、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下である。一方、その下限値は、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上である。本発明において、エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有率の範囲は、上記上限値と上記下限とを任意に組み合わせることができる。
【0023】
(ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリブテン系樹脂)
本発明に用いる樹脂は、上述のようにポリプロピレン系樹脂及び/又はポリブテン系樹脂を含むことが好ましい。このような樹脂を含有することにより、組成物中に共存するホウ酸亜鉛と協働して、難燃性架橋樹脂組成物の難燃性を更に高めることができる。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂は、特に限定されず、構成成分としてプロピレン成分を含む単独重合体又は共重合体の樹脂又はエラストマー等が挙げられ、具体的には、プロピレンの単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体又はエチレン−プロピレンブロック共重合体などの樹脂又はエラストマー等が挙げられ、エチレン−プロピレンランダム共重合体、低立体規則性ポリプロピレン、プロピレン系エラストマー等が好ましい。本発明では、ポリプロピレン系樹脂として、エチレン−プロピレンランダム共重合体が、難燃性架橋樹脂組成物に、難燃性に加えて、良好な引張特性、耐熱性及び加熱変形特性を付与できる点で、好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂としては、後述するエチレン成分の含有量6〜10質量%のエチレン−プロピレンランダム共重合体、低立体規則性ポリプロピレン及びプロピレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種が、難燃性架橋樹脂組成物に、難燃性に加えて、良好な引張特性、耐熱性及び加熱変形特性、柔軟性を付与できる点で、好ましい。
【0025】
ここで、エチレン−プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が好ましくは1〜10質量%(1〜5質量%及び5を超え10質量%)程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。難燃性架橋樹脂組成物に柔軟性を付与する観点からは、6〜10質量%のエチレン成分を有するエチレン−プロピレンランダム共重合体が好ましい。また、エチレン−プロピレンブロック共重合体は、エチレン又はEPDM成分の含有量が好ましくは5〜15質量%程度のものをいい、エチレン又はEPDM成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
【0026】
低立体規則性ポリプロピレンは、メソペンタッド分率が30〜60mol%であるものが好ましい。メソペンタッド分率とは、ポリプロピレン分子鎖中のアイソタクチック連鎖の存在割合を示すものである。より具体的には、ポリプロピレン中のプロピレンモノマー単位中に含まれるメチル基が互いに同じ方向に5つ連続している割合を示すもので、ポリプロピレンの立体規則性を表す指標である。この数値が大きいほど立体規則性が高いことを示し、剛性が高くなる。一方、この数値が低いと軟質になる。
メソペンタッド分率の測定は、例えば
13C−NMRを用いて行うことが一般的である。メソペンタッド分率は、具体的には、プロピレン単位で5つ連続してメソ結合した連鎖の中心にあるメチル基に由来する吸収強度(A)と、プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度(B)の比、すなわちA/Bとして求められる。
【0027】
ポリプロピレンのMFR(ASTM−D−1238に準拠して、温度230℃、加重21.18Nの条件で、測定した値をいう。)は、好ましくは0.1〜60g/10分であり、より好ましくは0.1〜25g/10分、更に好ましくは0.3〜15g/10分である。
【0028】
ポリプロピレン系樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、サンアロマーPP(商品名、サンアロマー社製)、プライムポリプロ(商品名、プライムポリマー社製)などが挙げられる。低立体規則性ポリプロピレンとしては、例えば、L−MODU(商品名、出光興産社製)が挙げられる。プロピレン系エラストマーとしては、例えば、タフマーXM(商品名、三井化学社製)が挙げられる。
【0029】
ポリブテン系樹脂は、特に限定されず、構成する主成分としてブテン成分を含む単独重合体又は共重合体の樹脂又はエラストマー等が挙げられる。
本発明では、ポリブテン系樹脂として、ポリブテン(ブテン、好ましくは1−ブテン、の単独重合体)、ブテン系エラストマー等が挙げられる。難燃性架橋樹脂組成物に、難燃性に加えて、良好な引張特性、耐熱性及び加熱変形特性、柔軟性を付与できる点で、ブテン系エラストマーが好ましい。
ポリブテン系樹脂のMFR(ASTM−D−1238に準拠して、温度190℃、加重21.18Nの条件で、測定した値をいう。)は、好ましくは0.1〜60g/10分であり、より好ましくは0.1〜20g/10分、更に好ましくは0.3〜10g/10分である。
ポリブテン系樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ポリブテンの樹脂としては、例えば、ビューロン(商品名、三井化学社製)、ブテン系エラストマーとしては、例えば、タフマーBL(商品名、三井化学社製)が挙げられる。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂の、樹脂中の含有率は、合計で0〜50質量%である。この含有率が50質量%を超えると、難燃性架橋樹脂組成物に高度の難燃性を付与できないことがある。また、十分な柔軟性及び耐熱性、更には耐寒性を付与できないことがある。上記含有率の上限値は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。一方、その下限値は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。本発明において、ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂の含有率の範囲は、上記上限値と上記下限とを任意に組み合わせることができる。
特に、樹脂が、酢酸ビニル含有量が10〜25質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜97質量%と、ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂から選ばれる少なくとも1種3〜50質量%とを含み、樹脂中の酢酸ビニル含有量が5〜25質量%であると、難燃性架橋樹脂組成物に上述の優れた特性を付与することができる。
【0031】
本発明に用いる樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂以外の樹脂成分を含有することもできる。このような樹脂成分としては、特に限定されず、種々の共重合体の樹脂若しくはゴム等が挙げられるが、エチレン−αオレフィン共重合体又は不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン(共)重合体が好ましく挙げられる。
【0032】
(エチレン−αオレフィン共重合体)
本発明に用いる樹脂がエチレン−αオレフィン共重合体を含有すると、難燃性架橋樹脂組成物の耐寒性や絶縁特性を更に向上させることができる。
エチレン−αオレフィン共重合体としては、例えばエチレンと炭素数4〜12のαオレフィンとの共重合体の樹脂等が挙げられる。αオレフィン成分としては、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。本発明において、エチレン−α−オレフィン共重合体には、ジエン成分を含有する共重合体、例えばエチレン−プロピレン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム)を含む。
エチレン−αオレフィン共重合体としては、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、又は、メタロセン触媒存在下に合成されたポリエチレンなどが挙げられ、中でも、メタロセン触媒存在下で合成されたLLDPEが好ましい。
エチレン−αオレフィン共重合体の密度は、特に限定されないが、0.880〜0.940g/cm
3が好ましく、より好ましくは0.900〜0.930g/cm
3である。これによって、各種難燃剤などの無機フィラーに対する受容性が向上し、優れた機械的特性が得られる。エチレン−αオレフィン共重合体の密度は、JIS K 7112に記載の方法によって、測定することができる。
エチレン−αオレフィン共重合体としては、例えば「カーネル」(商品名、日本ポリエチレン社製)、「エボリュー」(商品名、プライムポリマー社製)、「スミカセン」(商品名、住友化学社製)を挙げることができる。
【0033】
エチレン−αオレフィン共重合体は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記樹脂がエチレン−αオレフィン共重合体を含有する場合、エチレン−αオレフィン共重合体の、樹脂中の含有率は、0〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。エチレン−αオレフィン共重合体の含有率が多すぎると、難燃性架橋樹脂組成物の難燃性や耐熱性が低下することがある。
【0034】
(不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン)
本発明に用いる樹脂は、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンを含有することができる。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンを含有すると、難燃性架橋樹脂組成物の機械的特性又は耐磨耗性を更に向上させることができる。
不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンは、特に限定されず、不飽和カルボン酸でポリオレフィンを変性した(共)重合体の樹脂等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン又はポリメチルペンテンなどが挙げられる。強度特性及び伸び特性のバランスの点で、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸又は無水フマル酸が挙げられる。
不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンにおける不飽和カルボン酸による変性量は、ポリオレフィン樹脂に対して、0.5〜15質量%が好ましい。
【0035】
不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンは、適宜に合成してもよく、市販品を用いてもよい。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンを合成する場合、通常、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸で変性する、通常の方法により、得ることができる。例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下で、加熱、混練することにより、行うことができる。
不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの市販品としては、例えば、「アドテックス」(商品名、日本ポリエチレン社製)、「アドマー」(商品名、三井化学社製)、「ポリボンド」(商品名、ケムチュラ社製)を挙げることができる。
【0036】
不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンは、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記樹脂が不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する場合、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンの、樹脂中の含有率は、0〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。この含有率が多すぎると難燃性架橋樹脂組成物の柔軟性又は伸び特性が低下することがある。
【0037】
<難燃剤>
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、少なくとも、ハロゲン系難燃剤、ホウ酸亜鉛及び金属水和物を含有し、好ましくは更に三酸化アンチモンを含有する。これらの各難燃剤を組み合わせて用いることにより、難燃剤の合計含有量を低減しても、難燃性架橋樹脂組成物に高度の難燃性を付与できる。
【0038】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物において、ハロゲン系難燃剤、ホウ酸亜鉛、金属水和物及び三酸化アンチモンの含有量は、それぞれ、後述する範囲から選択されるが、その際、これら難燃剤の合計含有量を、樹脂100質量部に対して、50〜105質量部とする。難燃剤の合計含有量が50質量部未満であると、高度の難燃性を示さないことがある。一方、105質量部を超えると、機械的特性、耐熱性、絶縁性及び耐寒性の少なくとも1つの特性、特に引張強度が低下することがある。難燃剤の合計含有量は、高度の難燃性、更には機械的特性、耐熱性、絶縁性又は耐寒性を難燃性架橋樹脂組成物に付与できる点で、樹脂100質量部に対して、好ましくは60〜95質量部、より好ましくは70〜85質量部である。
【0039】
(ハロゲン系難燃剤)
本発明に用いるハロゲン系難燃剤としては、ハロゲン原子を有する難燃剤であれば特に限定されないが、塩素原子を含有する塩素系難燃剤又は臭素原子を含有する臭素系難燃剤が好ましく用いられる。ハロゲン系難燃剤1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
塩素系難燃剤は、難燃性樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられ、例えば、デカクロロドデカヒドロジメタノシクロオクテンを使用することができる。市販の塩素系難燃剤としては、例えば、デクロランプラス(商品名、ドデカクロロドデカヒドロジメタノジベンゾシクロオクテン、オキシデンタル・ケミカル社製)などが挙げられる。
【0041】
臭素系難燃剤は、ポリブロモフェニルエーテル及びポリブロモフェニルを除くものであれば、特に限定されず、難燃性樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられる。例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド化合物、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド化合物、臭素化ビスフェノール化合物、又は、1,2−ビス(ブロモフェニル)エタン化合物などの有機系臭素含有難燃剤が挙げられる。中でも、1,2−ビス(ブロモフェニル)エタンが好ましく、その市販品として、例えば、サイテックス(商品名、アルベマール社製)、ファイヤーマスター(商品名、ケムチュラ・ジャパン社製)が挙げられる。
【0042】
ハロゲン系難燃剤は、ハロゲン原子の含有量が多いもの(例えば、難燃剤中、好ましくは65質量%以上、より好ましくは80質量%以上)が好ましく、この含有量が多いほど、優れた難燃性を難燃性架橋樹脂組成物に付与できる。ハロゲン原子の含有量の測定方法は、例えばエネルギー分散型蛍光X線(EDX)、燃焼イオンクロマトグラフなどで測定できる。
ハロゲン系難燃剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、20〜60質量部の範囲から、上述の合計含有量を満たすように、選択される。ハロゲン系難燃剤の含有量が20質量部未満であると、難燃性の改善効果が十分ではないことがあり、一方、60質量部を越えると、引張強度が低下することがある。ハロゲン系難燃剤の含有量は、機械的特性(引張強度)を損なわず、優れた難燃性を難燃性架橋樹脂組成物に付与できる点で、好ましくは25〜50質量部、より好ましくは28〜40質量部の範囲から選択される。
【0043】
(ホウ酸亜鉛)
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、ホウ酸亜鉛を含有する。ハロゲン系難燃剤及び金属水和物、好ましくは更に三酸化アンチモンに加えて、更にホウ酸亜鉛を含有することにより、難燃剤の含有量を低減しても難燃性を更に高度なものに改善できる。更に好ましくは、機械的特性、耐熱性、耐寒性及び絶縁特性の特性を維持できる。
【0044】
本発明で用いるホウ酸亜鉛は、難燃性架橋樹脂組成物を成形したときの外観の点で、平均粒子径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
ここで、平均粒子径は、ホウ酸亜鉛をアルコール又は水に分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置などの光学式粒径測定器によって測定された値である。
ホウ酸亜鉛としては、例えば、ファイアーブレイクZB、ファイアーブレイクZB−Fine、ファイアーブレイクZB−XF、ファイアーブレイク415、ファイアーブレイク500(いずれも商品名、Borax社製)、又は、SZB−2335(商品名、堺化学社製)が挙げられ、特に構造中に結晶水を多く有するファイアーブレイクZBやSZB−2335などが難燃性付与の点で好ましく使用できる。
ホウ酸亜鉛は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ホウ酸亜鉛の含有量は、樹脂100質量部に対して、10〜50質量部の範囲から、上述の合計含有量を満たすように、選択される。ホウ酸亜鉛の含有量が10質量部未満であると、難燃性の改善効果が十分ではないことがあり、一方、50質量部を越えると、引張強度、耐熱性及び絶縁特性のいずれかが低下することがある。更には成形したときの外観が悪くなることがある。ホウ酸亜鉛は、上記点で、樹脂100質量部に対して、好ましくは12〜40質量部、より好ましくは15〜30質量部の範囲から選択される。
【0045】
(金属水和物)
本発明に用いる金属水和物としては、水酸基又は結晶水を有する化合物が挙げられる。例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト又はタルクなどが挙げられる。
金属水和物は、中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウムが好ましく、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムがより好ましく、水酸化マグネシウムが更に好ましい。
【0046】
金属水和物は、表面処理を施されているものが好ましい。表面処理の例としては、脂肪酸処理、リン酸処理、リン酸エステル処理、チタネート処理、又は、シランカップリング剤による処理が挙げられる。中でも、絶縁特性の観点から、脂肪酸処理、リン酸処理又はリン酸エステル処理が好ましく、脂肪酸処理又はリン酸エステル処理がより好ましく、リン酸エステル処理が更に好ましい。
脂肪酸としては、金属水和物の表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、炭素数10〜22の飽和脂肪酸及び炭素数10〜22の不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、飽和脂肪酸として、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸が挙げられ、不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノレン酸、リノール酸が挙げられる。
リン酸エステルとしては、金属水和物の表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、ステアリルアルコールリン酸エステルやその金属塩やラウリルアルコールリン酸エステルやその金属塩等が挙げられる。
チタネートとしては、金属水和物の表面処理に通常用いられるものであれば特に限定されない。
シランカップリング剤としては、金属水和物の表面処理に通常用いられるビニル基又はエポキシ基を末端に有するものであれば特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又はメタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
金属水和物としては、脂肪酸及びリン酸エステルから選ばれる少なくとも1種で表面処理されている水酸化マグネシウムが好ましい。
金属水和物の表面処理量は、特に限定されないが、例えば、金属水和物100に対して、0.05〜3.0質量%であることが好ましい。
表面処理された金属水和物としては、通常の方法により金属水和物を表面処理したものを用いることができ、また、市販品を用いることもできる。例えば、リン酸エステルにより表面処理された水酸化マグネシウムとしては、例えば、キスマ5J(商品名、協和化学工業社製)が挙げられる。
【0047】
金属水和物は、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
金属水和物の含有量は、樹脂100質量部に対して、5〜50質量部の範囲から、上述の合計含有量を満たすように、選択される。金属水和物の含有量が5質量部未満であると、難燃性の改善効果が十分ではないことがあり、一方、50質量部を越えると、引張強度、耐熱性及び絶縁特性のいずれかが低下することがある。金属水和物の含有量は、上記点で、樹脂100質量部に対して、好ましくは8〜30質量部、より好ましくは10〜25質量部の範囲から選択される。
【0048】
(三酸化アンチモン)
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、更に三酸化アンチモンを含有することが好ましい。三酸化アンチモンは、ハロゲン系難燃剤の難燃助剤として、ハロゲン系難燃剤と併用することができる。本発明の難燃性架橋樹脂組成物が三酸化アンチモンを含有すると、難燃性架橋樹脂組成物の難燃性を更に向上させることができる。
三酸化アンチモンとしては、例えば、PATOX−C、PATOX−M、PATOX−K(いずれも商品名、日本精鉱社製)、AT3、AT−3CN(いずれも商品名、鈴裕化学社製)、三酸化アンチモン(豊田通商社製)が挙げられる。
三酸化アンチモンは、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
三酸化アンチモンの含有量は、樹脂100質量部に対して0〜50質量部の範囲から、上述の合計含有量を満たすように、選択される。三酸化アンチモンの含有量が50質量部を越えると、難燃性向上は見られず、難燃性架橋樹脂組成物の、引張強度が低下し、又は、比重が高くなることがある。三酸化アンチモンの含有量は、これらの点で、好ましくは18〜30質量部であり、より好ましくは20〜25質量部の範囲から選択される。
【0049】
<その他の成分>
本発明において、難燃性架橋樹脂組成物は、電線、電線部品、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ又はパイプなどに一般的に使用される各種の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜含有することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、架橋助剤、安定剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤が挙げられる。
【0050】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤、硫黄酸化防止剤又はベンゾイミダゾール酸化防止剤等が挙げられる。アミン酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等が挙げられる。フェノール酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。硫黄酸化防止剤としては、例えば、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル)スルフィド、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等が挙げられる。ベンゾイミダゾール酸化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩、2−メチルメルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩が挙げられる。
【0051】
酸化防止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明においては、フェノール酸化防止剤とベンゾイミダゾール酸化防止剤とを併用することが、150℃を超える高温での耐熱性及び長期間の耐熱性の点で、好ましい。
【0052】
酸化防止剤は、市販品を用いることができる。例えば、フェノール酸化防止剤としては、イルガノックス1010(商品名、BASF社製)、イルガノックス1076(商品名、BASF社製)、アデカスタブA−80(商品名、ADEKA社製)が挙げられる。また、ベンゾイミダゾール酸化防止剤としては、ノクラックMB、ノクラックMBZ(商品名、大内新興化学社製)が挙げられる。
【0053】
本発明において、酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは8〜20質量部である。
酸化防止剤の中でもフェノール酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、上記酸化防止剤の含有量の範囲内であれば特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部であり、より好ましくは1〜8質量部であり、更に好ましくは2〜6質量部である。
酸化防止剤の中でもベンゾイミダゾール酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、上記酸化防止剤の含有量の範囲内であれば特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは3〜15質量部であり、更に好ましくは5〜12質量部である。
【0054】
(金属不活性剤)
金属不活性剤としては、特に限定されず、例えば、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
金属不活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属不活性剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.3〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜3質量部である。
【0055】
(架橋助剤)
架橋助剤としては、少なくともエチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋を形成又は促進させる化合物であれば、特に限定されない。
架橋助剤の官能基は、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン部分と反応する基であり、エチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン部分に応じて、通常適用される各種の官能基が選択される。このような官能基として、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等のエチレン性二重結合が挙げられる。このような官能基を2以上有する架橋助剤は、官能基とエチレン−酢酸ビニル共重合体のエチレン部分とが架橋反応して、エチレン−酢酸ビニル共重合体の間に架橋構造を形成する。
架橋助剤としては、例えば、2官能(メタ)アクリレート、又は、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このような架橋助剤としては、より具体的には、例えば、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
架橋助剤としては、市販品を用いることができ、例えば、オグモント又はNKエステル(ともに商品名、新中村化学社製)が挙げられる。
架橋助剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
架橋助剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部であり、より好ましくは2〜6質量部である。
【0056】
(安定剤)
安定剤は、本発明の難燃性架橋樹脂組成物に、長期の耐熱性、特に長期における耐電圧特性を付与するために用いられる。このような安定剤としては、例えば、硫化亜鉛が挙げられる。安定剤は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。安定剤(特に硫化亜鉛)の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部であり、より好ましくは3〜6質量部である。
【0057】
(難燃(助)剤又は充填剤)
難燃(助)剤又は充填剤としては、上記難燃剤以外の難燃(助)剤又は充填剤であればよく、例えば、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、シリコーン化合物、石英、ホワイトカーボンなどが挙げられる。難燃(助)剤又は充填剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。難燃(助)剤又は充填剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは3〜15質量部である。
【0058】
(滑剤)
滑剤としては、特に限定されないが、炭化水素系、シロキサン系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などの各滑剤が挙げられる。滑剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。滑剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部であり、より好ましくは0.3〜2質量部である。
【0059】
<<配線材>>
本発明の配線材は、本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有する。
この配線材としては、電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線又は光ファイバコードが挙げられ、絶縁電線又はケーブルが好ましい。
本発明の配線材は、上記のように、高度の難燃性を示し、更に、機械的特性、耐熱性、耐寒性又は絶縁特性をも有する。具体的には、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が示す、難燃性、機械的特性、耐熱性、耐寒性及び絶縁特性と同じである。
したがって、本発明の配線材は、配線材の中でも、特に、高度の難燃性が求められる配線材として、また、150℃以上の耐熱性が求められる配線材等として、好ましく用いられる。
更に、本発明の配線材は、高度の難燃性を示し、更に機械的特性(引張強度)と柔軟性とを有するものとすることもできる。このような配線材は、機械的特性と柔軟性との両立が求められる配線材(例えば、電子機器用電線、自動車用配線材など)として、好ましく用いられる。
【0060】
<絶縁電線>
絶縁電線は、導体と、この導体の周囲(外周面)に、本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有する。
絶縁電線は、上記構成を有していれば、その他の形態は特に限定されず、導体の数及び被覆層の数等は、それぞれ、1でも2以上でもよい。また、断面形状も特に限定されず、円形、楕円形、矩形又は眼鏡形などが挙げられる。
導体としては、絶縁電線に通常用いられるものを特に限定されることなく用いることができる。例えば、軟銅若しくは銅合金、又は、アルミニウム等の単線若しくは撚線等の金属導体が挙げられる。また、導体としては、裸線の他に、錫メッキしたもの、エナメル被覆層を有するもの等を用いることもできる。被覆層が複層構造を有する場合、少なくとも1層が本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成されていればよい。この場合、他の層は、絶縁電線に通常用いられる樹脂又はその組成物で形成することができる。
絶縁電線及び導体の外径は、用途などに応じて、適宜に決定される。被覆層、特に本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成された被覆層の厚さは、用途などに応じて、適宜に決定されるが、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が有する優れた特性を発揮する点で、0.1〜5.0mmが好ましく、0.4〜1.0mmがより好ましい。
【0061】
<ケーブル>
ケーブルとは、導体と、この導体の周囲に被覆層を有する絶縁電線を複数拠り合わせ、これらを一括して被覆する被覆層(シース)を有するものが挙げられる。このようなケーブルにおいて、被覆層(シース)を本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成することができる。
【0062】
<<難燃性架橋樹脂組成物及び配線材の製造方法>>
以下に、本発明の難燃性架橋樹脂組成物及び配線材の製造方法を説明する。
【0063】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、好ましくは、上記各成分を混合することにより、難燃性未架橋樹脂組成物を調製し、この難燃性未架橋樹脂組成物を架橋処理して、製造される。
難燃性未架橋樹脂組成物は、上述の、樹脂、ハロゲン系難燃剤、ホウ酸亜鉛及び金属水和物、更に、好ましくは三酸化アンチモン、必要に応じて他の添加物を加熱混練して、調製される。混練温度や混練時間などの混練条件は、特に限定されず、樹脂の溶融温度以上の温度範囲内で適宜に設定できる。混練温度は、例えば、120〜220℃とすることが好ましい。混練方法としては、ゴム又はプラスチックの混練などで通常用いられる方法であれば、特に限定されない。用いる装置としても、特に限定されず、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダーなどが挙げられる。
この加熱混練により、各成分が均一に分散(混合)された難燃性未架橋樹脂組成物を得ることができる。上述の難燃性非架橋樹脂組成物も同様にして調製できる。
【0064】
上記混練において、エチレン−酢酸ビニル共重合体が一部架橋(部分架橋)することもあるが、得られる難燃性未架橋樹脂組成物及び難燃性非架橋樹脂組成物において、成形可能な成形性が保持されたもの(例えば、架橋度を難燃性架橋樹脂組成物の上記架橋度未満)とすることが好ましい。
【0065】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、難燃性未架橋樹脂組成物を架橋処理して、得られる。この架橋処理は、難燃性未架橋樹脂組成物等を成形する前に行っても、成形した後に行ってもよい。本発明においては、成形容易性の点で、難燃性未架橋樹脂組成物等を成形した後に架橋処理することが好ましい。したがって、本発明の配線材を製造する場合(配線材の製造方法)、上述のようにして難燃性未架橋樹脂組成物を調製し、次いで、この難燃性未架橋樹脂組成物を導体の外周に配置(押出成形)し、架橋処理する。
【0066】
難燃性未架橋樹脂組成物等の押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、導体等の周囲に押出被覆することにより行うことができる。押出成形機の温度は、樹脂の種類、導体などの引取り速度の諸条件により、一義的には決定できない。例えば、シリンダー部で120〜150℃程度、クロスヘッド部で160〜180℃程度にすることが好ましい。
【0067】
配線材の製造方法においては、上述のようにして成形された難燃性未架橋樹脂組成物を、架橋処理する。架橋処理は、エチレン−α−オレフィン共重合体を架橋できる方法であれば特に限定されない。例えば、架橋助剤を用いた化学架橋法、放射線(電子線又はγ線)の照射による架橋法、又は、これらを併用する方法が挙げられる。本発明においては、架橋反応を効率よく行い、量産性の点で、架橋助剤を用いた放射線架橋法が好ましい。
放射線架橋法において、放射線として電子線を用いる場合は、電子線の照射量は、エチレン−α−オレフィン共重合体を架橋できるのであれば特に限定されないが、例えば、1〜30Mradとすることが好ましい。照射量が少なすぎると、エチレン−α−オレフィン共重合体の架橋反応が十分に進行せず、難燃性架橋樹脂組成物に上記優れた特性、特に耐熱性を付与できないことがある。一方、照射量が多すぎると、難燃性架橋樹脂組成物に十分な引張伸び等を付与できないことがある。また、電子線の照射における加速電圧も、エチレン−α−オレフィン共重合体を架橋できるのであれば特に限定されないが、例えば、500〜750keVとすることが好ましい。その理由は、電子線の照射量と同じである。
【0068】
上述のようにして、本発明の難燃性架橋樹脂組成物が調製され、また本発明の配線材が製造される。
このように、本発明の配線材は、上記優れた特性を示す本発明の難燃性架橋樹脂組成物で形成された被覆層を有する。本発明の難燃性架橋樹脂組成物は、上述のように、難燃剤を低含有量で含有していても高度の難燃性を示し、更に、高度の、機械的特性、耐熱性、耐寒性又は絶縁特性をも兼ね備える。したがって、本発明の配線材もまた、高度の難燃性を示す。この点は、被覆層が上記のような幅広い範囲の厚さを有していても、同様である。更に、本発明の配線材は、上述のように、高度の、機械的特性、耐熱性、耐寒性又は絶縁特性をも兼備する。
【0069】
本発明の難燃性架橋樹脂組成物及び配線材(以下、配線材等ということがある。)が、優れた垂直難燃性(VW−1)を発揮する理由は、定かではないが、次のように考えられる。
すなわち、配線材等が着火した場合、まず、ホウ酸亜鉛により殻(チャー)が速やかに形成され(殻形成速度の増大)、また殻形成がより強固になり、被覆層(難燃性架橋樹脂組成物)のドリップを抑制することができる。更に、ハロゲン系難燃剤と好ましく用いられる三酸化アンチモンの相乗効果、具体的には気相におけるラジカルトラップ効果及び酸素遮断効果により、被覆層の燃焼が抑制される。これに加えて、金属水和物の吸熱効果により、更に高い難燃性を示すと考えられる。この金属水和物の吸熱効果は、特に被覆層の厚さが0.8mm以上の場合に、顕著になる。そのため、配線材等は、高度の難燃性を発現し、難燃剤の合計含有量を低減することもできる。
更に、樹脂としてポリプロピレン及び/又はポリブテンを含有する難燃性架橋樹脂組成物を、電子線照射により架橋処理しても、ポリプロピレン及び/又はポリブテンは架橋されない。そのため、被覆層の着火時におけるホウ酸亜鉛の殻形成がより効率的に作用し、ホウ酸亜鉛の難燃作用が効果的に発揮され、難燃性架橋樹脂組成物に更に優れた難燃性を付与することができると考えられる。また、ポリプロピレン系樹脂の場合、その融点は、一般に140℃以上であるため、加熱変形特性の向上にも寄与する。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
表1〜3において、各実施例及び比較例における配合組成の数値は、特に断らない限り質量部を表し、空白は該当する成分が無含有であることを表す。
表1〜3に、上記式により算出した、樹脂中の酢酸ビニル含有量(X)を示した。
表1〜3中に示す各成分として下記のものを使用した。
【0072】
<樹脂>
(1)エチレン−酢酸ビニル共重合体A:エバフレックスV5274R(商品名)、酢酸ビニル含有量17質量%、MFR0.8g/10分、三井・デュポンポリケミカル社製
(2)エチレン−酢酸ビニル共重合体B:エバフレックスEV360(商品名)、酢酸ビニル含有量25質量%、MFR2.0g/10分、三井・デュポンポリケミカル社製
(3)エチレン−プロピレンランダム共重合体:PB222A(商品名)、MFR0.8g/10分、サンアロマー社製
(4)エチレン−プロピレンランダム共重合体:PM940M(商品名)、MFR30g/10分、サンアロマー社製
(5)低立体規則性ポリプロピレン:L−MODU S901(商品名)、MFR50g/10分、メソペンタッド分率45mol%、出光興産社製
(6)プロピレン系エラストマー:タフマーXM5070(商品名)、MFR7.0g/10分、三井化学社製
(7)ポリブテン系樹脂:ビューロンP5050N(商品名)、MFR0.5g/10分、三井化学社製
(8)ブテン系エラストマー:タフマーBL3450(商品名)、MFR4.0g/10分、三井化学社製
(9)エチレン−αオレフィン共重合体(LLDPE):スミカセンCU5001(商品名)、密度923kg/m
3、住友化学社製
(10)不飽和カルボン酸変性ポリエチレン:アドテックスL6100M(商品名)、不飽和カルボン酸はマレイン酸、不飽和カルボン酸による変性量1.5質量%、日本ポリエチレン社製
【0073】
<難燃剤>
(11)臭素系難燃剤:ファイヤーマスター2100R(商品名)、化合物名:デカブロモジフェニルエタン、臭素含有量82質量%、ケムチュラ・ジャパン社製
(12)塩素系難燃剤:デクロランプラス25(商品名)、化合物名:ドデカクロロドデカヒドロジメタノジベンゾシクロオクテン、塩素含有量65質量%、オキシデンタル・ケミカル社製
(13)三酸化アンチモン:PATOX−C(商品名)、日本精鉱社製
(14)ホウ酸亜鉛:SZB−2335(商品名)、平均粒子径3.9μm、堺化学社製
(15)シラン表面処理水酸化マグネシウム:マグシーズFK621(商品名)、シランカップリング剤:ビニルトリメトキシシラン、表面処理量1.0質量%、神島化学社製
(16)脂肪酸表面処理水酸化マグネシウム:キスマ5A(商品名)、脂肪酸:ステアリン酸、表面処理量3.0質量%、協和化学社製
(17)リン酸エステル表面処理水酸化マグネシウム:キスマ5J(商品名)、リン酸エステル:ステアリルリン酸エステル、表面処理量2.3質量%、協和化学社製
【0074】
<その他の添加剤>
(18)ヒンダードフェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010(商品名)、化合物名:ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、BASF社製
(19)ベンゾイミダゾール系酸化防止剤:ノクラックMBZ(商品名)、化合物名:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学社製
(20)架橋助剤:オグモントT200(商品名)、化合物名:トリメチロールプロパントリメタクリレート、新中村化学社製
(21)安定剤:サクトリスHD−S(商品名)、硫化亜鉛、サクトレーベン社製
【0075】
<実施例
2、7
、9、11〜20、比較例1〜12、並びに参考例1
〜7>
表1〜3に示す各成分を、各表に示す割合(質量部)で、バンバリーミキサーを用いて溶融混練(混練温度200℃、混練時間10分)した後、ペレット化して、コンパウンド(難燃性未架橋樹脂組成物)をそれぞれ得た。
【0076】
次に、40mmφ押出機(L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=25)において、クロスヘッド部及びダイスの温度を170℃、以下、フィーダー側に向かって、C3ゾーン=150℃、C2ゾーン=140℃、C1ゾーン=130℃の押出温度条件に設定した。
次いで、実施例
2、
7、9、11、12、及び14〜20、比較例1〜12、並びに参考例1
〜7においては、錫めっき処理軟銅線、21本/0.18mmφの導体の周囲に、上記押出機により、調製した難燃性未架橋樹脂組成物を、表1〜3に示す被覆層の厚さとなるように、押出成形した。
一方、実施例13においては、錫めっき処理軟銅線、7本/0.08mmφの導体の周囲に、上記押出機により、調製した難燃性未架橋樹脂組成物を、表2に示す被覆層の厚さとなるように、押出成形した。
【0077】
このようにして導体の周囲に押出成形した難燃性未架橋樹脂組成物を、加速電圧750keV、照射量15Mrad、実施例13においては、加速電圧750keV、照射量8Mrad電子線を照射して、架橋させた。
このようにして、導体の周囲に難燃性架橋樹脂組成物からなる被覆層を有する、実施例及び比較例の各絶縁電線を製造した。
各例における被覆層のゲル分率を、上記方法により測定した結果、いずれも、50〜90質量%の範囲内であった。
【0078】
<絶縁電線の特性評価>
得られた各絶縁電線について、UL1581又はUL3289(若しくはUL3398)に準拠して、各規格に規定された下記特性を評価した。その結果を表1〜3にまとめて示す。
【0079】
1.垂直燃焼試験VW−1(難燃性の評価)
製造した各絶縁電線を、たるみのない状態で垂直に張った後、この絶縁電線上部に指示旗、絶縁電線の下方に綿を設置(敷設)した。フードを外した状態で15secの着火(接炎)と60secの離火を5回繰り返した。
難燃性は、下記基準により、評価した。本垂直燃焼試験VW−1においては、高度の難燃性を要求するものであり、ランクA及びBを合格とし、ランクC及びDを不合格とした。ただし、UL1581規格では、ランクCでも合格である。
A(特に高度の難燃性):15sec以上の絶縁電線の燃焼、指示旗の燃焼及び綿の燃焼、炭化物のドリップの全てが観察されなかった場合
B(高度の難燃性):30sec以上の絶縁電線の燃焼、指示旗の燃焼及び綿の燃焼、炭化物のドリップの全てが観察されなかった場合
C:指示旗の燃焼及び綿の燃焼は観察されなかったが、31〜60secの絶縁電線の燃焼又は炭化物のドリップが観察された場合
D:61sec以上の燃焼、指示旗の燃焼又は綿の燃焼が観察された場合
【0080】
2.引張試験(機械的特性(引張強度及び引張伸び)の評価)
各絶縁電線から導体を抜き取った管状サンプルを作製し、標点距離25mm、引張速度500mm/minで、破断伸び(%)、破断強度(MPa)、及び100%モデュラスを測定した。破断伸びの評価は300%以上であった場合をA(合格)とし、中でも、350%以上であった場合をAA(高度なもの)とした。破断強度の評価は、13.79MPa以上であった場合をA(合格)とし、中でも、15.0MPa以上であった場合をAA(高度なもの)とした。一方、破断伸びが300%未満であった場合、及び、破断強度が13.79MPa未満であった場合を、それぞれ、D(不合格)とした。
100%モデュラスは、伸び100%時における引張強度であり、この数値が低い程柔軟性に優れる。100%モデュラスの評価は、8MPa以下をAA(高度なもの)とし、8MPaを越え9MPa以下をA(良好)、9MPaを越える場合をBとした。
【0081】
3.耐熱性試験
上述の引張試験で用いた管状サンプルについて、標点距離25mm、引張速度500mm/minで、初期破断伸び(%)及び初期破断強度(MPa)を測定した。更に、上記管状サンプルを、180℃下で7日及び14日保持した後に、同様にして、保持後破断伸び(%)及び保持後破断強度(MPa)を測定した。
保持後破断伸びを初期破断伸びで除して、破断伸びの残率(%)を算出した。同様に、引張強度の残率(%)を算出した。
耐熱性の評価は、破断伸びの残率及び引張強度の残率について、7日保持後の残率がいずれも80%以上であったものをA(合格)とし、中でも、14日保持後でも残率がいずれも80%以上を維持していたものをAA(高度なもの)とした。一方、7日保持後の残率のいずれか一方でも80未満であった場合を、D(不合格)とした。
【0082】
4.加熱変形試験
加熱変形試験は、絶縁電線の外部からの側圧特性やハンダを用いた加工時の耐熱性を評価するものである。
UL1581に基づき、各管状サンプルの加熱変形特性を測定した。
試験は、外径2.63mmの管状サンプルに対しては400gf(3.92N)、外径1.08mmの管状サンプルに対しては250gf(2.45N)の負荷荷重をかけて、行った。
加熱変形率が、50%以下であった場合をA(合格)とし、中でも30%以下であった場合をAA(高度なもの)とした。一方、50%を越えた場合をD(不合格)とした。
【0083】
5.絶縁特性試験
製造した各絶縁電線(長さ50m)を20℃の水槽に24時間浸漬して、絶縁抵抗値を測定した。このとき、測定電圧、荷電時間及び測定時間は、それぞれ、500V、10秒及び50秒とした。絶縁抵抗値が、2500MΩ・km以上であるものをA(合格)とし、中でも、10000MΩ・km以上のものをAA(高度なもの)とした。一方、2500MΩ・km未満であったものをD(不合格)とした。
【0084】
6.低温巻き付け試験(耐寒性の評価)
UL1581に基づき、製造した各絶縁電線を−40、−50及び−60℃の環境下にそれぞれ4時間以上放置した。その後、冷却した各絶縁電線を、絶縁電線の外径の2倍径を有する金属マンドレル(絶縁電線と同様に−40、−50又は−60℃に冷却して、巻き付ける絶縁電線と同じ温度に冷却したもの)に、巻き付けた。−40℃に冷却して巻き付けた後に、絶縁電線の被覆層にクラックが観察されなかったものをB(合格)、−50℃でもクラックが観察されなかったものをA(合格)とした。中でも、−60℃に冷却して巻き付けた後にも、絶縁電線の被覆層にクラックが観察されなかったものをAA(高度なもの)とした。一方、−40℃に冷却して巻き付けた後に、絶縁電線の被覆層にクラックが観察されたものをD(不合格)とした。
【0085】
7.比重(軽量性の評価)
JIS K 7112に基づき、製造した各絶縁電線から導体を引き抜き、管状試験片から水中置換法によって樹脂組成物の比重を測定した。比重が低いほど製品は軽量になり好ましく、具体的には1.50未満が好ましく、更には1.45未満であると非常に良好である。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表1〜3の結果から、以下のことが分かった。
難燃剤を多量に含有する難燃性架橋樹脂組成物の被覆層を有する絶縁電線は高度の難燃性を示したが、破断強度が小さく、機械的特性と難燃性とを両立できなかった。一方、難燃剤の含有量を低減した架橋樹脂組成物の被覆層を有する絶縁電線は難燃性が十分ではなかった(比較例1〜11)。また、本発明で規定する組成を満たさない架橋樹脂組成物の被覆層を有する絶縁電線は、耐熱性、絶縁特性及び耐寒性の少なくとも1つの特性が十分ではなく、難燃性に加えて、上記特性を高い水準で兼ね備えることはできなかった。エチレン−酢酸ビニル共重合体を含まない架橋樹脂組成物の被覆層を有する絶縁電線は、機械的特性(引張強度及び引張伸び)に劣っていた(比較例12)。
【0090】
これに対して、本発明で規定する組成を満たす難燃性架橋樹脂組成物の被覆層を有する絶縁電線(実施例
2、7
、9、11〜20)は、いずれも、樹脂100質量部に対して50質量部まで難燃剤の含有量を少なくしても(難燃剤を低含有量で含有していても)、高度の難燃性を示した。具体的には、垂直燃焼試験VW−1の評価がランクB以上であり、難燃性の更なる改善又は向上という要求に応えることができた。しかも、絶縁電線は、いずれも、高度の難燃性に加えて機械的特性(引張強度)にも優れていた。更には、高度の難燃性、機械的特性、耐熱性、耐寒性及び絶縁特性を高い水準で兼ね備えていた。具体的には、UL1581の規格を満たす、高度の、機械的特性、難燃性、耐寒性及び絶縁特性と、UL3289又はUL3398の規格に規定された150℃クラスの高い耐熱性とのいずれをも有していた。
特に、樹脂が、酢酸ビニル含有量が10〜25質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体50〜97質量%とポリプロピレン系樹脂及びポリブテン系樹脂から選ばれる少なくとも1種3〜50質量%とを含み、樹脂中の酢酸ビニル含有量が5〜25質量%であると、上述の優れた各特性を保持しつつ難燃性を更に改善できた(実施例2及び19)。
また、実施例
2、7
、9、11〜20の絶縁電線は、いずれも、加熱変形試験(側圧特性及びハンダを用いた加工時の耐熱性)にも優れていた。