(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被処理基板を保持する基板保持部が内部に設けられ該内部が減圧された処理容器に、原料ガスを供給すると共に、前記被処理基板を加熱し、該被処理基板上に成膜を行う成膜装置のクリーニング方法であって、
成膜中に生成され前記被処理基板以外の部分に付着した反応生成物を、成膜後に前記処理容器内にフッ素系クリーニングガスを供給することにより除去する反応生成物除去工程と、
該反応生成物除去工程で残留し、次の成膜時に不要な不純物及び欠陥の要因となる物質を、前記処理容器内に大気を供給することにより除去する残留物除去工程と、
前記反応生成物除去工程で残留し、前記残留物除去工程で除去することができない物質を、前記処理容器内に水素ガスを供給することにより除去する追加除去工程と、
前記追加除去工程に続いて、前記処理容器に前記原料ガスを供給し、前記基板保持部の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、を含み、
前記反応生成物除去工程において、前記基板保持部は、前記処理容器の外側に設けられた、高周波電源に接続されたコイルによる誘導加熱により選択的に加熱され、
前記追加除去工程における前記基板保持部の温度は1500℃以上であり、
前記保護膜形成工程における前記基板保持部の温度は1600℃〜1700℃である。
被処理基板を保持する基板保持部が内部に設けられ排気ラインが接続された処理容器に、原料ガスを供給すると共に、前記被処理基板を加熱し、該被処理基板上に成膜を行う成膜装置であって、
前記処理容器の外側に設けられ、誘導加熱により前記基板保持部を選択的に加熱するコイルに高周波電力を供給する高周波電源と、前記処理容器内に原料ガス、フッ素系クリーニングガス及び水素ガスを供給するガス供給ラインと、前記処理容器内に大気を導入する大気導入ラインと、前記排気ラインと、を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
成膜中に生成され前記被処理基板以外の部分に付着した反応生成物を、成膜後に前記処理容器内にフッ素系クリーニングガスを供給することにより除去する反応生成物除去工程と、
該反応生成物除去工程で残留し、次の成膜時に不要な不純物及び欠陥の要因となる物質を、前記処理容器内に大気を供給することにより除去する残留物除去工程と、
前記反応生成物除去工程で残留し、前記残留物除去工程で除去することができない物質を、前記処理容器内に水素ガスを供給することにより除去する追加除去工程と、
前記追加除去工程に続いて、前記処理容器に前記原料ガスを供給し、前記基板保持部の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、が実行され、
前記反応生成物除去工程において、前記基板保持部が、前記コイルによる誘導加熱により選択的に加熱され、
前記追加除去工程における前記基板保持部の温度が1500℃以上となり、
前記保護膜形成工程における前記基板保持部の温度が1600℃〜1700℃となるように、前記高周波電源、前記ガス供給ライン、前記大気導入ライン及び前記排気ラインを制御する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、エピタキシャル成長によるSiC膜の成膜装置において成膜の際に付着した不要な反応生成物を除去するときに、従来の定期的に拭き取りや研磨を行ったり基板保持部を加熱しながら水素ガスを供給したりする方法では、前述のような問題があるため、SiC膜の成膜装置において、成膜後にClF
3ガスを供給して不要な反応生成物を除去することを検討した。検討の結果、ClF
3ガスを用いて上記反応生成物を除去する際、基板保持部(
図4の符号15参照)の温度を少なくとも室温より高い温度(例えば500℃)にすることにより、基板保持部上に形成された3C−SiCや排気管(
図3の符号12a参照)の内壁に形成されるSiH
Xデポ、基板保持部内へのガス導入口に形成されるシリコン(Si)デポを除去することが確認された。
【0016】
しかし、クリーニングとして単にClF
3ガスを用いて不要な反応生成物を除去するのみでは、除去後に成膜した際に、以下に示すように、(1)SiC膜中に不要な不純物が含まれてしまうこと、及び、(2)SiC膜中に三角欠陥が多数発生することが判明した。
【0017】
図1は、ClF
3ガスを用いたクリーニング前にエピタキシャル成長により成膜したSiC膜とクリーニング後に成膜したSiC膜との深さ方向の不純物濃度分布を示す図であり、ボロン(B)の不純物濃度分布を示す。なお、図において、横軸は基板表面からの深さ、縦軸は濃度である。また、成膜したSiC膜の厚さは7μmである。
【0018】
図1に示すように、ClF
3ガスを用いたクリーニング後は、クリーニング前のものに比べて、成膜したSiC膜内のボロン濃度が約10倍となってしまう。なお、ボロンはSiCのエピタキシャル成長膜においてP型ドーパントとなる。
【0019】
図2は、エピタキシャル成長により成膜したSiC膜の表面の欠陥マップを示す図であり、
図2(A)はClF
3ガスを用いたクリーニング前に成膜したSiC膜の表面の欠陥マップ、
図2(B)はクリーニング後に成膜したSiC膜のものである。なお、欠陥マップとは基板において欠陥が存在した位置に黒色印を示したものである。
図示するように、クリーニング後に成膜したSiC膜の表面には非常に多くの欠陥が存在する。
【0020】
そこで、本発明者らは、クリーニングとして、ClF
3ガスを用いた不要な反応生成物の除去後に、さらに水素アニールを行うことを検討した。
検討の結果、ClF
3ガスを用いた上記除去及び水素アニール後に成膜した際に、SiC膜中に含まれる不要な不純物の量が少ないことが判明した。例えば、処理室内に水素ガスを流しながら、サセプタの温度を上げて所定時間保持する水素アニールを行うことにより、SiC膜のキャリア濃度を所望の値にすることができ、水素アニールによりSiC膜中の不要な不純物の濃度を減らすことができた。
【0021】
しかし、クリーニングレートが低い場合(ClF
3ガスを用いた不要な反応生成物除去時のClF
3ガスの流量が少ない場合)、反応生成物の除去及び水素アニール後に成膜したSiC膜に発生する欠陥を少量とすることができるが、クリーニングレートが高い場合(低い場合の例えば4倍のレート)、上記欠陥の量を十分に減らすことはできない。
例えば、ClF
3ガスの流量が1000sccmと多い場合、水素アニール後に成膜したSiC膜の欠陥マップは、
図2(B)の欠陥マップと同様になり、SiC膜の表面には非常に多くの欠陥が存在する。
【0022】
上記欠陥は、水素アニールを長時間行っても生じ、また、水素アニールに代えて、ダミーランを複数回行うようにしても生じる。ダミーランとは、製品としての成膜の前に予備的に行われる成膜処理である。
【0023】
以下の本発明の実施形態は、上述の検討結果を踏まえたものである。
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係るクリーニング方法のクリーニング対象の成膜装置の構成の概略を模式的に示した図である。
図4は、
図3の成膜装置の処理容器の構造の概略を模式的に示した図である。
【0026】
図3の成膜装置1は、略直方体上の処理容器11を備える。
処理容器11には、排気ライン12が接続されており、処理容器11は、排気ライン12により所定の減圧状態(圧力)に調整することが可能となっている。排気ライン12は、処理容器11に一端が接続される排気管12aを有する。排気管12aは、排気マニホールド等から成り、処理容器側とは反対側にメカニカルブースターポンプ等からなる真空ポンプ12bが接続されている。排気管12aにおける処理容器11と真空ポンプ12bとの間には、APC(自動圧力制御)バルブや比例制御弁等からなる、処理容器11内の圧力を調整する圧力調整部12cが設けられている。また、処理容器11には、圧力計13が設けられており、圧力調整部12cによる処理容器11内の圧力の調整は、圧力計13での計測結果に基づいて行われる。
【0027】
処理容器11は、両端に開口部を有する中空の四角柱状の処理容器本体11aと、上記開口部に接続される側壁部11bとにより構成されている。処理容器本体11aの外側には、高周波電源14aに接続されたコイル14が設けられている。コイル14は、処理容器11内の被処理基板及び後述の基板保持部を誘導加熱する。
処理容器11の内部には、
図4に示すように、被処理基板としてのSiC基板Wを保持すると共に加熱する基板保持部15が設けられている。なお、SiC基板Wの表面の面方位は例えば(0001)である。
【0028】
基板保持部15は、SiC基板W(以下、基板W)が載置される載置台15aと、載置台15aを収容する収容構造体15bとを有する。この基板保持部15は、コイル14により誘導加熱される。
成膜装置1では、基板Wは、基板W自身のコイル14からの誘導加熱に加えて、誘導加熱された基板保持部15からの輻射や熱伝導により加熱される。このような構成にすることにより、基板Wを、効率的に、また、温度の均一性を良好に加熱することが可能になっている。なお、処理容器本体11aは、温度上昇に耐えるとともに、誘電損失が少ない材料(例えば石英)により構成される。また、基板保持部15の載置台15a及び収容構造体15bは、耐熱性が高くかつ誘導加熱による加熱が容易な導電性材料で形成されており、例えば、保護膜としてのSiC膜で表面がコーティングされたグラファイト製の部材から構成される。
【0029】
また、基板保持部15の収容構造体15bは、互いに対向する二つの面に開口が設けられた直方体状に形成され、一方の面の開口から成膜用の原料ガスが供給され、他方の面の開口から原料ガスが排出される構造となっている。この構造では、基板W上に供給される原料ガスは基板Wに平行な方向に沿って供給され、排出される。
【0030】
また、基板保持部15の外周には、該基板保持部15すなわち基板Wと処理容器11とを断熱する断熱材16が設けられている。
基板保持部15は、例えば、いわゆるバルク材料と呼ばれる程度に密度が大きいカーボン材料を用いて形成され、断熱材16は、例えば、上記バルク材料に比べて空隙率が著しく大きい繊維状のカーボン材料を用いて形成される。
なお、図示は省略するが、断熱材16の外側には、断熱材16を処理容器11から離間させた状態で該断熱材16を保持するための保持構造体が設けられている。
【0031】
図3の説明に戻る。
処理容器11内には、ガス供給ライン17により成膜の原料となる原料ガス等が供給されるよう構成されている。ガス供給ライン17は、処理容器11に接続されるガス供給管17aと、該ガス供給管17aに接続されるガス供給管17b
1〜17b
5とを有する。
【0032】
ガス供給管17b
1〜17b
5にはそれぞれ、質量流量コントローラ(MFC)17c
1〜17c
5とバルブ17d
1〜17d
5とが設けられている。
ガス供給管17b
1には、ガス供給源17e
1が接続され、該供給源17e
1からSiH
4ガスが供給される。同様に、ガスライン17b
2〜17b
5にはそれぞれガス供給源17e
2〜17e
5が接続され、各ガス供給源17e
2〜17e
5からC
3H
8ガス、H
2ガス、ClF
3ガス、Arガスが供給される。
【0033】
基板W上に、エピタキシャル成長によるSiC膜の成膜を行う場合には、成膜のための原料ガスとして、ガス供給管17b
1〜17b
3からSiH
4ガス、C
3H
8ガス、H
2ガスが処理容器11に供給される。
また、処理容器11のクリーニングの際には、ガス供給管17b
3〜17b
5からClF
3ガス、H
2ガス、Arガスのうちの1種が、または、これらのうちの2種以上のガスが混合されて、処理容器11に供給される。
【0034】
さらに、成膜装置1では、処理容器11のクリーニングの際に、該処理容器11内に大気を導入するため、排気管12aにおける圧力調整部12cの上流に大気導入ライン18が接続されている。大気導入ライン18は、一端が排気管12aに接続され他端に大気導入口18bが形成された配管18aを有する。配管18aには、排気管12a側から順に質量流量コントローラ(MFC)18cとバルブ18dが設けられている。
なお、大気導入ライン18は、処理容器11内を大気雰囲気とすることができればよく、接続先は排気管12aに限られない。また、配管18aには大気から塵や埃等を除去するため不図示のフィルタを設けることが好ましい。
【0035】
また、成膜装置1は制御部100を備えている。制御部100は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、バルブやMFC、高周波電源、圧力調整部等の各機器を制御して、成膜処理や成膜装置1のクリーニング処理を行うためのプログラムも格納されている。
【0036】
なお、上記のプログラムは、例えばコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、メモリーカードなどのコンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御部100にインストールされたものであってもよい。
【0037】
(第1の実施形態)
次に、成膜装置1を用いた、成膜処理と該成膜装置1のクリーニング処理とを含む基板処理を説明する。
図5は、第1の実施形態に係る上記基板処理の一例を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、不図示の搬送手段を用いて、不図示のゲートバルブを介して、基板Wを処理容器11内に搬入し、載置台15a上に載置する(ステップS1)。
【0038】
次に、処理容器11内に原料ガスを供給すると共に、基板Wを誘導加熱し、エピタキシャル成長により基板W上にSiC膜を成膜する(ステップS2)。具体的には、バルブ17d
1〜17d
3を開状態とし、MFC17c
1〜17c
3で流量を調整して、処理容器11内にSiH
4ガス、C
3H
8ガス、H
2ガスを供給する。また、高周波電源14aからコイル14に高周波電力を印加することで基板Wを加熱する。なお、成膜中において、処理容器11内の圧力は例えば10Torr〜600Torrであり、SiH
4ガス、C
3H
8ガス、H
2ガスの流量はそれぞれ例えば10〜600sccm、10〜600sccm、10〜200slmであり、基板Wの温度は例えば1500℃〜1700℃である。また、成膜したSiC膜をn型とする場合にはN
2ガス、p型とする場合にはTMA(トリメチルアルミニウム)を原料ガスに添加すればよい。
【0039】
成膜完了後、バルブ17d
1〜17d
3を閉状態とし、原料ガスの供給を停止した後、不図示のゲートバルブを介して、基板Wを処理容器11内から搬出する(ステップS3)。なお、基板Wの搬出中、コイル14への高周波電力の供給を遮断してもよいが、次工程において最適な基板保持部15の温度になるよう制御しながらコイル14へ高周波電力を供給することが好ましい。
【0040】
基板Wの搬出後、処理容器11内にClF
3ガスを供給し、成膜時に基板W以外の部分に付着した不要な反応生成物を除去する(ステップS4)。具体的には、バルブ17d
4、17d
5を開状態とし、MFC17c
4、17c
5で流量を調整して、処理容器11内にClF
3ガスと希釈用のArガスを供給する。ClF
3ガスの供給の際、高周波電源14aからコイル14に高周波電力を印加し、基板保持部15を加熱することが好ましい。なお、反応生成物の除去処理中において、処理容器11内の圧力は例えば10Torr〜100Torrであり、ClF
3ガスの流量は例えば100〜2000sccmであり、基板保持部15の温度は例えば400℃〜600℃である。なお、基板保持部15に付着した反応生成物(SiC)のエッチング速度を上げるために基板保持部15の温度は400℃以上が好ましい。また、基板保持部15の温度を上げることにより処理容器11等の周囲の部材の温度も上がり、該周囲の部材がClF
3ガスによりエッチングされることがあるため、基板保持部15の温度は600℃以下が好ましい。
【0041】
反応生成物の除去処理後、処理容器11からClF
3ガスを排出する(ステップS5)。具体的には、バルブ117d
5を開状態としたままバルブ17d
4を閉状態とし、MFC17c
5で流量を調整して、処理容器11内にArガスを供給することにより、処理容器11内のClF
3ガスを排出する。
【0042】
ClF
3ガスの排出後、処理容器11内に大気を導入し、これにより、ClF
3ガスを用いたクリーニング後に残留している、所定の物質すなわち次の成膜時に不要な不純物及び欠陥の要因となる物質を除去する(ステップS6)。具体的には、バルブ17d
5を閉状態とすると共にバルブ18dを開状態とし、MFC18cで流量を調整して、処理容器11内に大気を導入し、残留している上記所定の物質を除去する。なお、大気導入中は、処理容器11内の圧力は例えば10kPa〜65kPaになるよう制御され、大気導入は0.5〜2.0時間行われる。また、350℃を超えた高温で大気導入がなされると、酸化によるダメージが基板保持部15等に生ずるおそれがある。したがって、大気導入は、350℃以下になった時点から0.5〜2.0時間行うことが好ましい。
【0043】
クリーニング後の残留物質の除去後、処理容器11内にH
2ガスを供給し、水素アニールを行う(ステップS7)。具体的には、バルブ18dを閉状態とすると共にバルブ17d
3を開状態とし、MFC17c
3で流量を調整して、処理容器11内にH
2ガスを供給する。水素アニールの際、高周波電源14aからコイル14に高周波電力を印加し、基板保持部15を加熱する。この水素アニールにより、反応生成物の除去工程及び残留物質の除去工程で除去できなかった物質を除去する。なお、水素アニール中において、H
2ガスの流量は例えば10〜200slmであり、基板保持部15の温度は例えば1500℃以上である。
【0044】
水素アニール後、ステップS1に処理を戻して、別のSiC基板を処理容器11内に搬入し、ステップS1〜ステップS7の処理を繰り返す。なお、ステップS4〜S7の一連のクリーニング処理は、複数枚のSiC基板に対し成膜を行う毎に行うようにしてもよい。
【0045】
上述のように、本実施形態のクリーニング方法では、成膜後に、処理容器11にClF
3ガスを供給するため、成膜装置1内の不要な反応生成物であって多種多様なものを除去することができる。特に、この反応生成物の除去の際、誘導加熱により基板保持部15のみを選択的に加熱するため、基板保持部15の載置台15aに成長した硬い3C−SiC多結晶は高温で除去し、基板保持部15の収容構造体15bのガス導入口付近に付着したSiやSiリッチな樹状生成物、排気管12aに付着したSiH
XといったClF
3ガスと反応しやすいデポ物は低温で除去する、というように、特性の違うデポ物を一度の処理で同時に除去することができる。
また、このClF
3ガスを用いた除去工程では、断熱材16や処理容器11等については著しい劣化はない。成膜装置1では、誘導加熱により基板保持部15のみを選択的に加熱することができるからである。
【0046】
なお、SiCやSi、SiH
XはClF
3ガスと以下の反応式に従って反応し除去されるものと考えられる。
3SiC+8ClF
3→3SiF
4+3CF
4+4Cl
2
3Si+4ClF
3→3SiF
4+2Cl
2
3SiH
X+4ClF
3→3SiF
4+4HCl+nH
2
【0047】
また、本実施形態のクリーニング方法では、ClF
3ガスを用いた反応生成物の除去工程後に、処理容器11内に大気を導入し、これにより、上記反応生成物除去工程後に残留している、所定の物質を除去することができる。後述するように、上記所定の物質は、大気中の水分と反応して、処理容器11から排出されると考えられる。
このように上記所定の物質を除去することできるため、一連のクリーニング処理の後に成膜したSiC膜中の不要な不純物及び欠陥の量を大幅に減らすことができる。
【0048】
以上の説明では、水素アニール工程は、大気導入による残留物質の除去工程後に行われていたが、該残留物質の除去工程前に行ってもよい。水素アニールを行うことで、ClF
3ガスを用いた反応生成物の除去工程の際に生成され、大気導入による残量物質の除去工程では除去できない物質を除去することができる。
本発明者らの検討によれば、例えば、ClF
3ガスにより載置台15a上の3C−SiCの表面が変質され、該表面がカーボンリッチ層となることがある。また、三角欠陥の原因として、成膜雰囲気中のパーティクルの存在や高C/Si条件での成長が知られており、カーボンリッチ層からの炭素の粉が三角欠陥の原因となるパーティクルとなる可能性や、カーボンリッチ層がエッチングされて発生したCH系ガスが成長雰囲気のカーボンリッチ化を促した可能性が考えられる。
水素アニールを行うことで、カーボンリッチ化した3C−SiCを除去することができる。
したがって、一連のクリーニング処理の後に成膜したSiC膜中の不要な不純物及び欠陥の量をさらに減らすことができる。
【0049】
本実施形態のクリーニング方法では、反応生成物除去工程後の残留物質の、大気導入による除去後に、処理容器11内にArガスを供給して、処理容器11内の大気を排出する工程を含むようにしてもよい。これにより、大気中の水分と酸素が、水素アニール工程において水素ガスと反応するのを防ぐことができ、また、大気中の窒素が後の成膜時にドーパントとして取り込まれるのを防ぐことができる。
なお、この大気を排出する工程に用いるガスは、水分や酸素を含まず、上記後の成膜時にドーパントとして取り込まれることがなければ、Arガス以外であってもよい。
【0050】
また、本実施形態のクリーニング方法では、水素アニール工程後に、処理容器11内にArガスを供給して処理容器11内の水素ガスを排出する工程を含むようにしてもよい。
【0051】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係る基板処理の一例を説明するためのフローチャートを示す図である。
【0052】
第1の実施形態では、ステップS7の水素アニール後、ステップS1に処理を戻していた。それに対し、本実施形態では、
図6に示すように、ステップS7の水素アニール後、基板保持部15の表面に保護膜としてのSiC膜を形成し、言い換えると、基板保持部15の表面をSiC膜でコーティングする(ステップS11)。具体的には、S7の水素アニール処理の終了後(例えば、水素アニール処理の際の水素ガス供給開始から所定時間経過後)、バルブ17d
3を開状態に維持したまま、バルブ17d
1、17d
2を開状態とし、MFC17c
1、17c
2で流量を調整して、処理容器11内にSiH
4ガス、C
3H
8ガスを供給する。これにより、ステップS1〜ステップS7の処理が行われた後の基板保持部15の基板W側の表面に例えば10μm程度のSiC膜を形成する。
【0053】
SiC膜のコーティング後、ステップS1に処理を戻して、別のSiC基板を処理容器11内に搬入し、ステップS1〜ステップS7、ステップS11の処理を繰り返す。なお、本例では、水素アニール工程及びSiC膜のコーティング工程は、大気導入による残留物質の除去工程後に行われていたが、該残留物質の除去工程前に行ってもよい。
【0054】
前述のように、基板保持部15はSiC膜で表面がコーティングされたグラファイト製の部材から構成されるが、ステップS5のClF
3ガスを用いた除去工程で基板保持部15の表面のSiC膜が除去されグラファイトが露出することがある。本実施形態では、ステップS5のClF
3ガスを用いた除去工程の後のステップS11において、基板保持部15の表面をSiC膜でコーティングするため、クリーニング後の成膜時に基板保持部15においてグラファイトが露出することがない。したがって、クリーニング後の成膜時に、基板保持部15を構成するグラファイトのパーティクルに起因した欠陥が生じたり、カーボン原子の飛散に起因した不純物濃度に異常が生じたりすることを防ぐことができる。
【0055】
また、本実施形態のようにクリーニング毎に10μm程度のSiC膜を基板保持部15にコーティングすることにより、基板保持部15の寿命を延ばすことができる。
【0056】
さらに、本実施形態のように、水素アニール工程に続いて、SiC膜のコーティング工程を行うことで、基板保持部15の昇温が必要なくなるため、上記コーティング工程を含むクリーニング処理に要する時間を短縮することができる。
【0057】
なお、SiC膜のコーティング工程では、処理容器11内の圧力は例えば10Torr〜600Torrであり、SiH
4ガス、C
3H
8ガス、H
2ガスの流量はそれぞれ例えば10〜600sccm、10〜600sccm、100〜150slmであり、基板保持部15の温度は例えば1600〜1700℃である。SiH
4ガス及びC
3H
8ガスは、より具体的には、例えば、最初の数分間は、C/Si比が0.5となるようそれぞれの流量が調整され、続いて、C/Si比が0.8となるようにC
3H
8ガスの流量が上昇される。C
3H
8ガスの流量の上昇後、SiH
4ガス及びC
3H
8ガスを例えば30分間保持することで所望の膜厚のSiC膜を基板保持部15の表面に形成することができる。
【0058】
なお、SiC膜のコーティング工程において、上述のように、SiC膜形成開始時のC/Si比を0.5等と低くすることにより、基板保持部15のグラファイトと当該コーティング工程において形成されるSiC膜との密着性を高めることができる。
【0059】
また、SiC膜のコーティング工程では、基板保持部15の保護膜としてのSiC膜の上に、成膜時と同条件でSiC膜を形成してもよい。この場合は、例えば、前述のようにC/Si比が0.8となるような状態でSiH
4ガス及びC
3H
8ガスの流量を30分間保持した後、C/Si比が1.2〜1.4程度となるようにプロパン流量を上昇させると共に、所定流量のドーパントガスを流し、その状態で所定の時間(例えば30分)維持する。基板保持部15の保護膜としてのSiC膜の上に、成膜時と同条件でSiC膜を形成することにより、基板保持部15に形成されたSiC膜がクリーニング後の成膜時に影響を及ぼすのを防ぐことができる。
【0060】
さらに、本例では、基板Wが載置台15a上に直接載置される形態であるが、複数枚の基板Wを保持することが可能な平板状のホルダ単位で基板Wの搬入出が行われ載置台15aにホルダが載置される場合がある。この場合、SiC膜のコーティング工程の際に、研磨によるメンテナンスがなされ基板Wを保持していないホルダを載置台15a上に載置しておいてもよい。これにより、基板保持部15の収容構造体とホルダを同時にSiC膜でコーティングすることができる。
【0061】
以上の説明では、クリーニング時に載置台15a上に何も載置されていなかったが、載置台15aの表面を、クリーニングによるダメージから防止するため、クリーニング時に、クリーニング用のホルダまたは基板等を載置台15aに載置させて、載置台15aを保護するようにしてもよい。
【0062】
なお、以上の説明では、成膜時に付着した不要な反応生成物を除去するために、ClF
3ガスを用いていたが、ClFガスやClF
5ガス等の他のフッ素系クリーニングガスを用いてもよい。
【0063】
また、以上の例は、基板W上に供給される原料ガスが基板Wに平行な方向に沿って供給され排出されるものであったが、原料ガスが基板Wに垂直な方向から供給される成膜装置にも本実施形態のクリーニング方法を適用することができる。
【実施例】
【0064】
実施例は、
図3の成膜装置1に対し第1の実施形態のクリーニング方法を行った後にSiC膜が成膜されたSiC基板Wである。実施例に係るクリーニング方法では、ClF
3ガスを用いた反応生成物除去工程後に、大気導入による残留物質の除去工程を、大気の流量が7slm、処理容器11内の圧力が70kPa、基板保持部15の温度が室温という条件で行った。
【0065】
比較例1は、
図4の成膜装置1に対し、本実施形態のクリーニング方法に含まれる工程のうち、大気導入による残留物質の除去工程以外の全ての工程含むクリーニング方法を行った後にSiC膜が成膜されたSiC基板Wである。
【0066】
比較例2は、
図4の成膜装置1に対し、以下のArガス導入工程を含むクリーニング方法を行った後にSiC膜が成膜されたSiC基板Wである。比較例に係るクリーニング方法は、第1の実施形態に係るクリーニング方法の大気導入による残留物質の除去工程に代えて処理容器11にArガスを導入する工程を含むものであり、この工程以外の工程は第1の実施形態に係るクリーニング方法のものと同様である。比較例に係るクリーニング方法では、ClF
3ガスを用いた反応生成物除去工程後に、Arガス導入工程を、大気の流量が7slm、処理容器11内の圧力が70kPa、基板保持部15の温度が550℃という条件で行った。
【0067】
なお、実施例及び比較例1、2のSiC基板W上のSiC膜の厚さは7μmである。また、実施例及び比較例1、2に係るクリーニング方法では、ClF
3ガスを用いた反応生成物除去工程を、Arガスの流量が13slm、処理容器11内の圧力が5kPa、基板保持部15の温度が550℃という条件で行った。
【0068】
図7は、実施例及び比較例1の深さ方向の不純物の濃度分布を示す図であり、ボロン濃度を示している。
図7に示すように、実施例は比較例1に比べてボロン濃度が非常に低く、デバイスとして使用可能な基準レベル(0.01ppm以下)を満たしている。
【0069】
図8は、実施例及び比較例2の表面を、光学顕微鏡を用いて撮像した結果を示す図であり、
図9は、実施例及び比較例2における欠陥の分布を示す図である。
図8(A)及び
図9(A)に示すように、比較例2では、三角欠陥がSiC基板W全体に亘って観察された。
それに対し、実施例では、
図8(B)及び
図9(B)に示すように、三角欠陥はほとんど観察されなかった。
【0070】
(大気導入による残留物質の除去工程の作用効果の考察)
図7〜
図9からも明らかなように、第1の実施形態のクリーニング方法のように、ClF
3ガスを用いた反応生成物除去工程後に、大気導入による残留物質の除去工程を行うことにより、一連のクリーニング処理の後に成膜したSiC膜中の不要な不純物及び欠陥の量を大幅に減らすことができる。以下では、大気導入による残留物質の除去工程の作用効果について考察する。
【0071】
ClF
3ガスを用いた反応生成物の除去後に、処理容器11内に大気を導入したときに、真空ポンプ12bから排気された気体についてFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)分析を行った。このFTIR分析の際、大気の流量が7slm、処理容器11内の圧力が65kPa、収容構造体15bの温度が室温となるように制御しながら、大気を処理容器11内に導入した。また、大気の導入の停止後、圧力調整部12cのAPCバルブを開状態とし、以後、Arガスを処理容器11内に所定の流量で断続的に導入した。
また、比較のために、ClF
3ガスを用いた反応生成物の除去後に、処理容器11内にArガスを導入したときに、真空ポンプ12bから排気された気体についてFTIR分析を行った。このFTIR分析の際、Arガスの流量が7slm、処理容器11内の圧力が72kPa、収容構造体15bの温度が550℃となるように制御しながら、Arガスを処理容器11内に供給した。
【0072】
前者のFTIR分析によれば、大気すなわち水分を含む気体を処理容器11内に導入すると、導入直後にSiF
4ガスが急激に増加し、また、処理容器11内の圧力が上昇すると、HFガスが発生する。大気導入中において、これらSiF
4ガスやHFガスは次第に量が減っていく。また、大気導入終了後、Arガスを処理容器11内に供給すると、SiF
4ガスは供給開始直後に増加するが、HFガスの量はArガスの供給の有無によらず、減少していく。
また、後者の比較のためのFTIR分析によれば、ClF
3ガスを用いたクリーニング直後に大気に代えてArガスすなわち水分を含まないガスを導入した場合、同様に導入直後にSiF
4ガスが急激に増加するが、処理容器11内の圧力が上昇してもHFガスは発生しない。
【0073】
これらの結果から、以下のことが推測される。すなわち、ClF
3ガスを用いた反応生成物の除去の際に、Siや炭素(C)とフッ素が反応して生成された不安定なフッ素化合物が処理容器11内に残り、このフッ素化合物が後の成膜時に悪影響を及ぼす原因物質となると考えられる。しかし、このフッ素化合物を大気中の水分と反応させて、HFガスとして排出することで無害化し、後の成膜時に欠陥が生ずるのを防ぐことが可能となっているものと推測される。
なお、処理容器11内の上記フッ素化合物の一例としてのC
XF
Yは、例えば以下反応式に従って大気中の水分と反応し、HFガスとして排出されるものと考えられる。
C
XF
Y+2H
2O→C
XF
(Y−4)+4HF+O
2【0074】
(参考の実施形態)
不要な反応生成物質の除去工程におけるClF
3ガスが小さい場合は、大気ガスの導入による残留物質の除去工程を行わずに、上述の水素アニール工程のみを行うようにしてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。