(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性塗布材料を25μmギャップのアプリケーターを用いて5cm/秒の移動速度でスライドガラス上に塗布し、120℃で10分間乾燥させた後の塗膜の、触針式粗さ計による塗工方向の算術平均粗さRaが0.2μm以下である、請求項1に記載の導電性塗布材料。
分散媒が、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、及びエチレンオキサイド鎖を有するノニオン系界面活性剤からなる群から選択された1種以上の分散媒又はそれらの混合物である、請求項1〜8のいずれかに記載の導電性塗布材料。
非加熱硬化型樹脂が、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、及びポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された1種以上の非加熱硬化型樹脂である、請求項1〜11のいずれかに記載の導電性塗布材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0015】
[導電性塗布材料]
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、半導体素子を基材に接合するための導電性塗布材料であって、金属粉と、非加熱硬化型樹脂と、分散媒とを含み、せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’である。
【0016】
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、金属粉と、非加熱硬化型樹脂と、分散媒とを含む導電性塗布材料であって、せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’であり、導電性塗布材料を25μmギャップのアプリケーターを用いて5cm/秒の移動速度でスライドガラス上に塗布し、120℃で10分間乾燥させた後の塗膜の、触針式粗さ計による塗工方向の算術平均粗さRaが0.2μm以下である。
【0017】
導電性塗布材料は、常温常圧において、いわゆるペーストの状態として取り扱える組成物である。ペースト状の材料を、塗工あるいは印刷して、その後に加熱することによって焼結し、半導体素子を基材に接合することができる。
【0018】
[半導体素子]
導電性塗布材料によって接合される半導体素子は、導電性塗布材料による接合が、好適に実現できる半導体素子であれば、特に制約はない。このような半導体素子として、例えば、Si、SiC、GaN、Ga
2O
3をあげることができるが、これに限られるものではない。
【0019】
[基材]
導電性塗布材料によって接合される基材は、導電性塗布材料による接合が、好適に実現できる基材であれば、特に制約はない。このような基材として、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、コルソン合金、リン青銅をあげることができるが、これに限られるものではない。
【0020】
[金属粉]
導電性塗布材料に含まれる金属粉は、導電性塗布材料のペーストの製造に使用される公知の金属粉を使用することができる。好適な実施の態様において、金属粉として、銅粉、又は銅合金の粉を、使用することができる。金属粉は、所望により、表面処理された金属粉であってもよい。
【0021】
好適な実施の態様において、導電性塗布材料に含まれる金属粉の含有量は、例えば80〜92質量%の範囲、好ましくは82〜90質量%の範囲とすることができる。
【0022】
[固めかさ密度]
好適な実施の態様において、金属粉の固めかさ密度は、例えば3.0[g/cm
3]未満、好ましくは2.5[g/cm
3]未満とすることができる。固めかさ密度の下限には、特に制約はないが、例えば1.5[g/cm
3]以上とすることができる。固めかさ密度は、後述する実施例に開示された手段によって、測定することができる。
【0023】
[BET比表面積]
好適な実施の態様において、金属粉のBET比表面積は、例えば1.5〜10.0[m
2/g]の範囲、好ましくは1.5〜5.0[m
2/g]の範囲とすることができる。BET比表面積は、後述する実施例に開示された手段によって、測定することができる。
【0024】
[非加熱硬化型樹脂]
導電性塗布材料に含まれる非加熱硬化型樹脂は、導電性塗布材料のペーストの製造に使用される公知の非加熱硬化型樹脂を使用することができる。本発明において、非加熱硬化型樹脂とは、加熱硬化型樹脂を含まないことを意味しており、非加熱硬化型樹脂として加熱硬化型樹脂を使用することはできない。
【0025】
好適な実施の態様において、非加熱硬化型樹脂として、例えば、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアセタール、ケトン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンをあげることができる。
【0026】
好適な実施の態様において、非加熱硬化型樹脂として、例えば、ポリカルボナート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステルをあげることができる。
【0027】
好適な実施の態様において、非加熱硬化型樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、及びポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された1種以上の非加熱硬化型樹脂を使用することができる。
【0028】
好適な実施の態様において、導電性塗布材料に含まれる非加熱硬化型樹脂の含有量は、例えば0.1〜5質量%の範囲、好ましくは0.3〜5質量%の範囲とすることができる。
【0029】
[分散媒]
導電性塗布材料に含まれる分散媒は、導電性塗布材料のペーストの製造に使用される公知の分散媒を使用することができる。このような公知の分散媒として、例えば、アルコール溶剤(例えばテルピネオール、ジヒドロテルピネオール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、テルピネルオキシエタノール、ジヒドロテルピネルオキシエタノールからなる群から選択された1種以上)、グリコールエーテル溶剤(例えばブチルカルビトール)、アセテート溶剤(例えばブチルカルビトールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ジヒドロカルビトールアセテート、カルビトールアセテート、リナリールアセテート、ターピニルアセテートからなる群から選択された1種以上)、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン)、炭化水素溶剤(例えばトルエン、シクロヘキサンからなる群から選択された1種以上)、セロソルブ類(例えばエチルセロソルブ、ブチルセロソルブからなる群から選択された1種以上)、ジエチルフタレート、又はプロピネオート系溶剤(例えばジヒドロターピニルプロピネオート、ジヒドロカルビルプロピネオート、イソボニルプロピネオートからなる群から選択された1種以上)をあげることができる。
【0030】
好適な実施の態様において、分散媒として、好ましくは、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、グリコール系溶剤、及びエチレンオキサイド鎖を有するノニオン系界面活性剤からなる群から選択された1種以上の分散媒又はそれらの混合物を使用することができる。
【0031】
好適な実施の態様において、分散媒として、沸点が200℃以上300℃未満の低沸点溶媒と、沸点が300℃以上の高沸点溶媒の混合物を使用することができる。好適な実施の態様において、低沸点溶媒の沸点を、200℃以上300℃未満、好ましくは200℃以上250℃未満とすることができる。
【0032】
好適な実施の態様において、低沸点溶媒として、例えばアルコール系溶剤、グリコールエーテル溶剤をあげることができる。
【0033】
好適な実施の態様において、低沸点溶媒として、好ましくは、ターピネオール、ジヒドロターピネオールをあげることができる。
【0034】
好適な実施の態様において、高沸点溶媒として、イソボルニルシクロヘキサノール(MTPH、日本テルペン社製)、ステアリン酸ブチル、エキセパールBS(花王社製)、ステアリン酸ステアリル、エキセパールSS(花王社製)、ステアリン酸2−エチルヘキシル、エキセパールEH−S(花王社製)、ステアリン酸イソトリデシル、エキセパールTD−S(花王社製)、イソオクタデカノール、ファインオキソコール180(日産化学社製)、ファインオキソコール180T(日産化学社製)、2−ヘキシルデカノール、ファインオキソコール1600(日産化学社製)、トリブチリン、テトラエチレングリコール、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘネイコサン、ドコサン、メチルヘプタデカン、トリデシルシクロヘキサン、テトラデシルシクロヘキサン、ペンタデシルシクロヘキサン、ヘキサデシルシクロヘキサン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、ペンタデシルベンゼン、ヘキサデシルベンゼン、ヘプタデシルベンゼン、ノニルナフタレン、ジフェニルプロパン、オクタン酸オクチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、リノール酸メチル、ステアリン酸メチル、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサン酸)、クエン酸トリブチル、ペンチルフェノール、セバシン酸ジブチル、オレイルアルコール、セチルアルコール、メトキシフェネチルアルコール、ベンジルフェノール、ヘキサデカニトリル、ヘプタデカニトリル、安息香酸ベンジル、シンメチリン、エチレンオキサイド鎖を有するノニオン系界面活性剤をあげることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、高沸点溶媒として、好ましくはblaunon L 207をあげることができる。
【0036】
好適な実施の態様において、低沸点溶媒と高沸点溶媒は、例えば含有される(低沸点溶媒)/(高沸点溶媒)の質量比を、例えば0.1〜0.7、好ましくは0.2〜0.5の範囲とすることができる。
【0037】
好適な実施の態様において、導電性塗布材料に含まれる分散媒の含有量は、例えば7〜20質量%の範囲、好ましくは8〜15質量%の範囲とすることができる。
【0038】
[含有比率]
好適な実施の態様において、導電性塗布材料に含有される(非加熱硬化型樹脂)/(金属粉)の比率は、例えば0.0005〜0.08の範囲、好ましくは0.003〜0.07の範囲とすることができる。
【0039】
好適な実施の態様において、導電性塗布材料に含有される(分散媒)/(金属粉)の比率は、例えば0.07〜0.25の範囲、好ましくは0.1〜0.21の範囲とすることができる。
【0040】
[貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’]
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’である。貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’は、公知の手段によって測定することができ、さらに詳細には後述する実施例に開示された手段によって測定することができる。
【0041】
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、周波数1Hz、温度25℃の歪み分散測定において、ひずみ0.01%におけるG’が0.3×10
5〜1.5×10
5[Pa]の範囲にあり、せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、G’’/G’の比率が、例えば0.1〜0.7の範囲、好ましくは0.15〜0.60の範囲にある。
【0042】
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、大面積の部材を比較的低温で接合する場合に使用可能な導電性塗布材料であって、保存期間に依存した接合強度の変動が少ない導電性塗布材料となっている。一般に、導電性塗布材料はペースト状であり、これによって接合した場合の特性は保存期間に依存して変動し、通常は劣化し、すなわち接合強度が低下する。これに対して、本発明の導電性塗布材料は、このような保存期間に依存した接合強度の低下が抑制されると同時に、大面積の部材を比較的低温で接合する場合にも十分な接合強度を備えたものとなっている。
【0043】
[体積収縮率]
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、25μmアプリケーターで5cm/秒の速度で印刷し、120℃で10分間、乾燥させた後の塗膜を解砕して得られる粉を、2vol%H
2残部窒素雰囲気で、98mNの荷重をかけて、5℃/分の速度で昇温して、体積収縮率が2%になるときの温度が350℃未満であり、すなわち乾燥塗膜の解砕粉の2%体積収縮温度が350℃未満であり、好ましくは200〜340℃の範囲にある。この2%体積収縮温度は、さらに詳細には後述する実施例に開示された手段によって測定することができる。
【0044】
[塗膜の表面粗さRa]
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料は、25μmギャップのアプリケーターを用いて5cm/秒の移動速度でスライドガラス上に塗布し、120℃で10分間乾燥させた後の塗膜の、触針式粗さ計による塗工方向の算術平均粗さRaが、例えば0.2[μm]以下、好ましくは0.1[μm]以下、あるいは例えば0.01〜0.3[μm]の範囲、好ましくは0.05〜0.2[μm]の範囲とすることができる。乾燥塗膜の表面粗さRaは、後述する実施例に開示された手段によって測定することができる。
【0045】
[接合強度]
好適な実施の態様において、本発明の導電性塗布材料を使用して接合した接合体の接合強度は、例えば15[MPa]以上、好ましくは20[MPa]以上とすることができる。接合強度は、後述する実施例に開示された手段によって測定することができる。
【0046】
[導電性塗布材料の製造]
好適な実施の態様において、導電性塗布材料は、上記の金属粉、非加熱硬化型樹脂、分散媒を、公知の手段によって混合して攪拌することによって、製造することができる。好適な実施の態様において、混合して攪拌した後に、3本ロールに通過させて、導電性塗布材料を得ることができる。これらの手順は詳細には、後述する実施例の手順によって、行うことができる。
【0047】
[好適な実施の態様]
本発明は次の(1)以下の実施態様を含む。
(1)
半導体素子を基材に接合するための導電性塗布材料であって、
金属粉と、非加熱硬化型樹脂と、分散媒とを含み、
せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、貯蔵弾性率G’>損失弾性率G’’である、導電性塗布材料。
(2)
前記導電性塗布材料を25μmギャップのアプリケーターを用いて5cm/秒の移動速度でスライドガラス上に塗布し、120℃で10分間乾燥させた後の塗膜の、触針式粗さ計による塗工方向の算術平均粗さRaが0.2μm以下である、(1)に記載の導電性塗布材料。
(3)
周波数1Hz、温度25℃の歪み分散測定において、ひずみ0.01%におけるG’が0.3×10
5〜1.5×10
5[Pa]の範囲にあり、
せん断歪み0.01%、温度25℃において、角周波数0.1〜100[rad/s]の範囲にわたり、G’’/G’の比率が0.1〜0.7の範囲にある、(1)〜(2)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(4)
非加熱硬化型樹脂を0.1〜5質量%の範囲で含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(5)
金属粉を80〜92質量%の範囲で含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(6)
含有される(非加熱硬化型樹脂)/(金属粉)の比率が、0.0005〜0.08の範囲にあり、
含有される(分散媒)/(金属粉)の比率が、0.07〜0.25の範囲にある、(1)〜(5)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(7)
金属粉のかさ密度が、3[g/cm
3]未満である、(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(8)
金属粉のBET比表面積が、1.5〜10.0[m
2/g]の範囲にある、(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(9)
分散媒が、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、及びエチレンオキサイド鎖を有するノニオン系界面活性剤からなる群から選択された1種以上の分散媒又はそれらの混合物である、(1)〜(8)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(10)
前記分散媒は、沸点が200℃以上300℃未満の低沸点溶媒と、沸点が300℃以上の高沸点溶媒とを含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(11)
金属粉の金属が、銅又は銅合金である、(1)〜(10)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
(12)
非加熱硬化型樹脂が、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、及びポリビニルアルコール系樹脂からなる群から選択された1種以上の非加熱硬化型樹脂である、(1)〜(11)のいずれかに記載の導電性塗布材料。
【0048】
本発明は、上述の特定事項を備えた導電性塗布材料を含み、導電性ペースト放熱材料を含む。
【実施例】
【0049】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[例1](発明例1〜9、比較例1〜2)
[銅粉の調製]
銅粉を以下の手順で調製した。
亜酸化銅1kg、アラビアゴム4.0gを純水7Lに分散させ、容器の中で500rpmで回転させた。ここに25vol%の希硫酸2Lを瞬間的に添加し、銅粉を得た。デカンテーションで十分に銅粉を沈降させ、その後上澄み液を取り除き、純水を7L加え、撹拌させ、静置させた。この作業を上澄み液のpHが4を上回るまで繰り返した。
pHが4を上回ったら、上澄み液を捨て、pH12のアンモニア水を7L添加し、30分撹拌させ、遠心分離で固液分離した。得られた銅粉に純水を7L加え、撹拌した。上澄み液のpHが8を下回るまで繰り返した。固形分の含水率が10%となるように遠心分離で銅粉を回収した後、窒素中で70℃、2時間で乾燥させた。得られた乾燥銅粉を自動乳鉢で710μmの篩を通過するまで解砕し、さらにジェットミルで解砕した。
【0051】
[銅粉のBET比表面積]
解砕して得られた銅粉のBET比表面積を、BELSORP−miniII(マイクロトラックベル社)で測定した。銅粉を真空中で200℃、5時間脱気した後、比表面積を測定し、3.1[m
2・g
-1]であった。
【0052】
[銅粉の固めかさ密度]
得られた銅粉の固めかさ密度を、パウダテスタPT−X(ホソカワミクロン社)を使って測定した。10ccのカップにガイドを取り付けてカップに銅粉を入れ、1000回タップさせた。ガイドを残して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている銅粉の重量を測定し求めた固めかさ密度は2.1[g・cm
-3]であった。
【0053】
[ペーストの調製]
銅粉を使用したペーストを以下の手順で調製した。
ジヒドロターピネオールとアクリル樹脂ビークル(固形分35%、互応化学KFA−2000)を表1に記載の比率となるように秤量し、自転公転ミキサーで5分撹拌した。そこに上記銅粉を表1に記載の比率となるように添加し、さらに自転公転ミキサーで5分撹拌した。得られた混合物を、ロール径80mmのロール間ギャップを5μmとし、3本のロール周速を出側:中央:入側を9:3:1で、出側の周速が150rpmとして3本ロールに5パス通し、ペーストを得た。ロール材質は3本ともアルミナロールである。
【0054】
このような手順が、後述の結果に与えた影響は不明であるが、本発明者は次のように考察している。すなわち、銅粉との混練前に分散媒と樹脂とを予め混練することで、分散媒に樹脂が分散した。さらに周速差が生じるように3本のロールの周速を設定することで、銅粉が変形しないほどの適度なせん断応力が混練物に付与され、さらに分散が進んだ。樹脂が分散した分散媒に銅粉を混錬することで、混合物における樹脂及び銅粉の分散性を一層向上させることができた。その結果、導電性塗布材料中の各々の銅粉は樹脂に覆われ、導電性塗布材料の安定性が向上した。つまり、導電性塗布材料の特性が経時変化しにくくなったと本発明者は考えている。
【0055】
[ペーストの粘弾性]
得られたペーストの粘弾性を、MCR102(アントンパール社製)で測定した。MCR102を用いて、周波数1Hzでペーストに与えられるせん断ひずみを0.001〜1000[%]の範囲で変化させ、得られたペーストの貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を求めた。ジオメトリーは2°のコーンプレートとした。ステージとジオメトリーのギャップは104μmとした。ペルチェ素子でサンプルステージを25℃に設定した。せん断ひずみを0.001〜1000[%]の範囲で変化させたときにG’、G’’が一定の低せん断領域はペーストの弾性変形領域を表す。この弾性変形領域内に対応する、0.01%のせん断ひずみを周波数0.1〜100[rad・s
-1]で変化させ、G’、G’’の周波数に対する挙動を追跡した。
【0056】
[ペーストによって接合した接合体の調製]
アルカリ脱脂、酸洗、水洗の前処理を施した厚み1mmの無酸素銅板に厚み100μm、開口部6mm×6mmのステンレスマスクでペーストを印刷し、ホットプレート上で70℃、3分で予備加熱をした。Au層をスパッタリングで形成した5mm×5mmのSiチップを、ペースト乾燥塗膜とAu面が接するように搭載して、0.4MPaの荷重をかけ、ギ酸バブリングした窒素で室温から300℃まで昇温し、300℃で15分保持し、接合体を得た。この接合体の接合強度をボンドテスターのツールをSiチップ側面から無酸素銅版から150μmの高さで掃引速度100μm/秒で当てることにより測定した。また、このペーストを、20℃、軟膏容器に窒素を封入した雰囲気下で2ヶ月間保持した後に、同様に接合強度を測定した。
【0057】
[例2](比較例3)
例1と同様の手順で亜酸化銅スラリーに希硫酸を添加し、銅粉を得た。上澄み液のpHがpH4を上回るまでデカンテーションと水洗を繰り返した。pHが4を上回ったら、遠心分離で固液分離し、含水率11%の固形分を得た。例1の手順で解砕まで行った。得られた銅粉のBET比表面積、固めかさ密度を例1の手順で測定し、それぞれ、3.0[m
2g
-1]、3.4[g・cm
-3]であった。例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0058】
[例3](比較例4)
例1の銅粉、ジヒドロターピネオール、アクリル樹脂ビークルを表1に記載の比率となるように秤量し、これらを自転公転ミキサーで5分撹拌し、ペーストを作製した。その後、例1の手順で評価した。
【0059】
[例4](発明例10)
アクリル樹脂ビークルとblaunon L 207を2.9:11の比率で自転公転ミキサーで5分撹拌した。 そこにblaunon L 207が11に対して例1の銅粉が85となるように銅粉を混合物に添加し、さらに自転公転ミキサーで5分撹拌した。得られた混合物を、ロールギャップを5μmとした3本ロールに5パス通し、ペーストを作製し、例1の手順で評価した。
【0060】
[例5](発明例11)
例1の銅粉、エチルセルロース、ジヒドロターピネオールが所定の比率となるようにエチルセルロースビークル(日新化成、EC−100FTD)とジヒドロターピネオールを混自転公転ミキサーで5分撹拌した。ここに例1の銅粉を所定量加え、例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0061】
[例6](比較例5)
例1においてアクリル樹脂ビークルの固形分がエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:EX−214L)となるようにエポキシ樹脂とジヒドロターピネオールを混合し、例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0062】
[例7](比較例6)
例1においてアクリル樹脂ビークルの固形分がレゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、レヂトップPL−4348)となるようにフェノール樹脂とジヒドロターピネオールを混合し、例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0063】
[例8](発明例12)
例1の手順で製粉後にpHが4を上回るまでデカンテーションと水洗を繰り返した。pHが4を上回ったら、上澄み液を捨て、pH13のアンモニア水を7L添加し、30分撹拌させ、遠心分離で固液分離し、例1の手順で乾燥、解砕し、銅粉を得た。得られた銅粉のBET比表面積、固めかさ密度を例1の手順で測定し、それぞれ、3.2[m
2・g
-1]、1.8[g・cm
-3]であった。例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0064】
[例9](発明例13)
例1の手順でアラビアゴムを分子量5000の豚から精製したコラーゲンペプチドとして製粉を行い、pHが4を上回るまでデカンテーションと水洗を繰り返した。pHが4を上回ったら、上澄み液を捨て、pH13のアンモニア水を7L添加し、30分撹拌させ、遠心分離で固液分離し、例1の手順で乾燥、解砕し、銅粉を得た。得られた銅粉のBET比表面積、固めかさ密度を例1の手順で測定し、それぞれ、4.8[m
2・g
-1]、1.5[g・cm
-3]であった。例1の手順に従いペーストを作製し、評価した。
【0065】
[例10](発明例14)
亜酸化銅1kg、アラビアゴム4.0gを純水7Lに分散させ、容器の中で500rpmで回転させた。ここに25vol%の希硫酸2Lを10mL/分の速度で添加し、銅粉を得た。この後、例1の手順で銅粉を作製し、これを用いて例1の手順で評価を行った。
【0066】
[例11](発明例15)
亜酸化銅1kg、アラビアゴム4.0gを純水7Lに分散させ、容器の中で500rpmで回転させた。ここに25vol%の希硫酸2Lを50mL/分の速度で添加し、銅粉を得た。この後、例1の手順で銅粉を作製し、これを用いて例1の手順で評価を行った。
【0067】
[例12]
[塗膜の表面粗さRa]
上記の発明例及び比較例で得られたペーストをスライドガラス上に25μmアプリケーターで5cm/秒の速度で印刷し、得られた塗膜を120℃、10分で乾燥させた。この乾燥塗膜の表面粗さRaをJIS B 0633:2001に従い、触式粗さ計で測定した。この乾燥塗膜をスライドガラスからはがし、乳棒、乳鉢で解砕し、得られた粉を密度4.7[g・cm
-3]のペレットに成型した。このペレットをTMA4000(ネッチ・ジャパン社)で2%H
2−N
2を100mL流しながら、98mNの荷重をかけ、5℃/分の速度で昇温し、2%体積が収縮する温度を求めた。その結果、いずれのペーストも350℃未満であった。
【0068】
[結果]
上記測定した結果と、それぞれの条件を、表1(表1−1、表1−2、表1−3、表1−4)にまとめて示す。表1−3の「G’/10
5・Pa」及び「G’’/10
5・Pa」は、周波数1Hzにおけるひずみ分散の測定結果による値である。表1−3の「G’’/G’」は0.01%ひずみにおける比率であり、これは印刷前の静置状態における値に対応する。表1−4の「周波数分散測定で常にG’>G’’か」は、弾性変形領域のひずみを0.01%に固定して測定しており、「常にG’>G’’」である場合に「○」と評価し、そうでない場合には「×」と評価した。
【0069】
発明例1、比較例1について、角周波数[rad・s
-1]を横軸として貯蔵弾性率[×10
5・Pa]及び損失弾性率[×10
5・Pa]を縦軸としたグラフを、
図1として示す。発明例1、比較例1について、ひずみ[%]を横軸として貯蔵弾性率[×10
5・Pa]及び損失弾性率[×10
5・Pa]を縦軸としたグラフを、
図2として示す。
【0070】
【表1-1】
【0071】
【表1-2】
【0072】
【表1-3】
【0073】
【表1-4】
【0074】
図1において、発明例1は、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’について、角周波数0.1〜100[rad/s]において常に「G’>G’’」を満たしていた。一方、
図1において、比較例1は、0.1[rad/s]では「G’<G’’」でありその後に交差して100[rad/s]では「G’>G’’」となっていた。
【0075】
図2において、発明例1は、ひずみ分散0.01%における貯蔵弾性率G’が0.64×105[Pa]であって印刷時の負荷に対して適度な流動性を示す、換言すれば、印刷性が良い。一方、
図2において、比較例1は、ひずみ分散0.01%における貯蔵弾性率G’が2.3×105[Pa]であって、印刷時の負荷に対する流動性が低い、換言すれば、印刷性が悪い。
【0076】
実際の印刷では1000%以上のひずみが印刷物に加えられる。それ以下のひずみでも発明例は1000%までのひずみであってもG’>G’’を保っているので、導電性組成物中の構造は維持される。つまり、印刷後でも金属粉がよく分散した状態を維持すると推定される。これに対して、比較例ではひずみが大きくなるとG’>G’’とはならない。これは印刷で金属粉の分散状態が変わることを示唆しており、印刷後には金属粉が部分的に凝集した塗膜となる可能性があり、高い接合強度は期待できない。
【0077】
このような指標が重要となることの理由は不明であるが、本発明者は、導電性塗布材料(ペースト)を印刷するにあたって、角周波数0.1〜100[rad/s]において常に「G’>G’’」を満たすか否かが、印刷された導電性塗布材料(ペースト)が理想的な塗膜の状態を維持できるかどうかに影響して、結果として接合強度に影響を与えるのではないかと洞察している。
【0078】
なお、比較例5,6は、上記「G’>G’’」の関係を満たすものの、接合強度の維持率が60%を下回っている。この理由は不明であるが、発明者は、導電性塗布材料を構成する樹脂として、加熱硬化型の樹脂を用いていることに起因して、接合強度の維持率が60%を下回ったと考えている。