(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体チップが配置される貫通スペースを設けたリードフレーム用の金属板と、前記金属板の両面のそれぞれに、前記貫通スペースの外側の周囲の少なくとも一部に沿って配置された外側樹脂部分を有する樹脂部材とを備えるインサート成形品を製造する方法であって、
前記貫通スペースから外側に向けて延びる複数箇所の切欠き部を設けた前記金属板を、射出成形金型内に配置し、
前記射出成形金型内で、前記金属板の少なくとも二箇所の前記切欠き部を設けた各位置に配置したゲートから、樹脂材料を射出し、前記金属板の両面のそれぞれに、前記切欠き部内に位置する樹脂部分で連結された前記外側樹脂部分を成形し、
前記外側樹脂部分の、前記切欠き部が存在しない位置にウエルドラインが形成される、インサート成形品の製造方法。
前記射出成形金型内で、前記樹脂部材を成形した後、前記金属板の表面および裏面のうちの一方の面と、前記一方の面側の外側樹脂部分の外面に、各エジェクタピンを押し付けて、前記射出成形金型からインサート成形品を取り出す、請求項7に記載のインサート成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなインサート成形品では、用途等に応じて、樹脂部材と金属板とを強固に密着させることが必要になる。しかしながら、金属板と固着させる樹脂部材の形状等によっては、それらの所要の密着性を十分に確保し得なくなるという問題があった。
【0006】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、特定の形状の樹脂部材を有するインサート成形品で、樹脂部材と金属板との密着性を向上させることができるインサート成形品および、インサート成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のインサート成形品は、半導体チップが配置される貫通スペースを設けたリードフレーム用の金属板と、前記金属板の両面のそれぞれに、前記貫通スペースの外側の周囲の少なくとも一部に沿って配置された外側樹脂部分を有する樹脂部材とを備え、前記貫通スペースが、該貫通スペースから外側に向けて両面の前記外側樹脂部分の間に延びる複数
箇所の切欠き部を有し、両面の前記外側樹脂部分の相互が、前記切欠き部内に位置する樹脂部分で連結されており、前記外側樹脂部分の、少なくとも二箇所の前記切欠き部が存在する各位置に、ゲート跡が設けられて
おり、前記外側樹脂部分の、前記切欠き部が存在しない位置にウエルドラインが形成されているというものである。
【0008】
この発明のインサート成形品では、前記金属板の表面および裏面のうちの一方の面と、前記一方の面側の外側樹脂部分の外面に、エジェクタピン跡が設けられていることが好適である。
この場合、前記金属板の表面側で、前記樹脂部材の前記外側樹脂部分が、前記貫通スペースの周囲の前記金属板の内縁部を露出させて配置されており、前記エジェクタピン跡が、前記金属板の前記内縁部の、前記切欠き部により区画された複数個の金属セグメントのそれぞれの表面に存在することが好ましい。
【0009】
なお、この発明のインサート成形品では、前記樹脂部材は、液晶性ポリエステル樹脂を含有するものとすることがある。
また、この発明のインサート成形品では、前記樹脂部材の密度が1.50g/cm
3以上であることが好ましい。
そしてまた、この発明のインサート成形品では、前記樹脂部材の体積が、前記ゲート跡の一個当たり0.02cm
3〜0.5cm
3であることが好ましい。
【0010】
この発明のインサート成形品の製造方法は、半導体チップが配置される貫通スペースを設けたリードフレーム用の金属板と、前記金属板の両面のそれぞれに、前記貫通スペースの外側の周囲の少なくとも一部に沿って配置された外側樹脂部分を有する樹脂部材とを備えるインサート成形品を製造する方法であって、前記貫通スペースから外側に向け
て延びる複数
箇所の切欠き部を設けた前記金属板を、射出成形金型内に配置し、前記射出成形金型内で、前記金属板の少なくとも二箇所の前記切欠き部を設けた各位置に配置したゲートから、樹脂材料を射出
し、前記金属板の両面のそれぞれに、前記切欠き部内に位置する樹脂部分で連結された前記外側樹脂部分を成形し、前記外側樹脂部分の、前記切欠き部が存在しない位置にウエルドラインが形成されるというものである。
【0011】
この発明のインサート成形品の製造方法では、前記射出成形金型内で、前記樹脂部材を成形した後、前記金属板の表面および裏面のうちの一方の面と、前記一方の面側の外側樹脂部分の外面に、各エジェクタピンを押し付けて、前記射出成形金型からインサート成形品を取り出すことが好ましい。
この場合、前記金属板の表面側で、前記樹脂部材の前記外側樹脂部分が、前記貫通スペースの周囲の前記金属板の内縁部を露出させて配置されたインサート成形品を製造するものとし、前記金属板の前記内縁部の、前記切欠き部により区画された複数個の金属セグメントのそれぞれの表面に、各エジェクタピンを押し付けることが好ましい。
【0012】
なお、この発明のインサート成形品の製造方法では、液晶性ポリエステル樹脂を含有する前記樹脂材料を用いることがある。
また、この発明のインサート成形品の製造方法では、前記樹脂部材の成形時に、前記ゲートの一本当たり0.02cm
3〜0.5cm
3の前記樹脂材料を射出することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明のインサート成形品では、前記外側樹脂部分の、少なくとも二箇所の前記切欠き部が存在する各位置に、ゲート跡が設けられていることにより、射出成形時に、ゲートから射出される樹脂材料が切欠き部を経て、金属板の両面側のそれぞれに良好な流動性でほぼ均一に流れた結果として、金属板の両面のそれぞれに外側樹脂部分が形成されたものとなる。それにより、金属板と、両面のそれぞれの当該外側樹脂部分を含む樹脂部材との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に例示するインサート成形品1は、板厚方向(紙面の表裏方向)に貫通する貫通スペース2を設けた長方形等の所定の平面外輪郭形状の金属板3と、金属板3に固着させて配置した樹脂部材4とを備えてなる。
なお、金属板3に設ける貫通スペース2は平面視で、図示の例ではほぼ長方形状を有するものとしているが、後述するような、そこに配置される半導体チップの形状、構成等の条件に応じて、正方形もしくはその他の多角形状又は円形状等といった様々な形状とすることができる。
【0016】
ここで、樹脂部材4は、
図1及び2にそれぞれ平面図及び底面図で示すように、金属板3の両面のそれぞれに、貫通スペース2の外側の周囲の少なくとも一部に沿って配置された外側樹脂部分4a、4bを有する。
【0017】
より詳細には、この実施形態では、樹脂部材4の大部分を構成する外側樹脂部分4a、4bはそれぞれ、金属板3の表面Sf側及び裏面Sb側のそれぞれに配置されており、いずれも表面Sf側及び裏面Sb側のそれぞれで、貫通スペース2の外側で貫通スペース2の周囲をその全周にわたって取り囲む平面視が中空矩形の枠形状をなす。但し、図示は省略するが、外側樹脂部分は、矩形以外の平面形状である場合がある他、その一部が途切れて枠形状とはならないものもある。外側樹脂部分4a、4bは、貫通スペース2の外側の周囲の少なくとも一部に沿って配置されるものであればよい。
【0018】
またここで、金属板3には、
図3に示すように、たとえば平面視でほぼ中央域に位置する貫通スペース2に開口するとともに、貫通スペース2から外側に向けて延びる複数
箇所の切欠き部5が形成される。図示の実施形態では、長方形状の金属板3の長手方向(図では左右方向)の外側のそれぞれに、貫通スペース2につながって外側樹脂部分4a、4bの配置箇所を通って外側に向けて延びて拡幅する長方形状の切欠き部5及び、それよりも大きな面積を有する多角形状の切欠き部5と、金属板3の長手方向の中央位置で幅方向(上下方向)の外側のそれぞれに、貫通スペース2につながって外側に向けて延びてやや細長い長方形状に拡幅する切欠き部5との、計六箇所の切欠き部5が形成されている。但し、切欠き部の形成箇所、個数及び形状は適宜決定することができる。
なおこの例では、上記の切欠き部5が、金属板3の板厚方向に貫通して形成されており、金属板3は、表面Sf側と裏面Sb側とで実質的に同じ形状になる。
【0019】
このようなインサート成形品1は、
図4に示すように、金属板3の貫通スペース2の内側に、半導体チップ51が配置されるとともに、金属板3が、表面Sf側で枠状の外側樹脂部分4aより内側に露出した内縁部3aで、半導体チップ51とボンディングワイヤ52によって接続される。これにより、インサート成形品1の金属板3を、半導体チップ51と図示しない外部配線とを接続するリードフレームとして機能させることができる。なお、金属板3のこの内縁部3aの詳細については後述する。
【0020】
ところで、上述したようなインサート成形品1は、金属板3を図示しない射出成形金型内に配置して射出成形を行うインサート成形により製造されるものである。具体的には、樹脂部材4の形状に対応するキャビティを有する射出成形金型内に金属板3を配置し、この状態で、射出成形金型の所定の位置に設けたゲートから、キャビティに向けて樹脂材料を射出する。この際に、樹脂材料はゲートから、キャビティ内で外側樹脂部分4a、4bの形状に対応する流路を流れて、キャビティに充填される。その後、当該樹脂材料を冷却等により固化させて、インサート成形品1が得られる。
【0021】
ここにおいて、金属板3の切欠き部5は、少なくともその一部が、表面Sf側の外側樹脂部分4aと裏面Sb側の外側樹脂部分4bとの間に延びてその相互間に位置することから、かかる切欠き部5も、上述した射出成形の際にキャビティを流れる樹脂材料で充填される。その結果、インサート成形品1では、表面Sf側の外側樹脂部分4aと裏面Sb側の外側樹脂部分4bとが、切欠き部5の内側に位置してそこで充填固化した樹脂部分4cで連結されることになる。
このように、金属板3に設けた切欠き部5の少なくとも一部に樹脂材料を充填し、その切欠き部5の部分を両面側から挟む外側樹脂部分4a、4bを、切欠き部5内に位置する樹脂部分4cで連結することにより、金属板3と樹脂部材4との密着性を大きく向上させることができる。
【0022】
他方、切欠き部5は、金属板3を部分的に除去して形成されていることから、各外側樹脂部分4a、4bの、金属板3の切欠き部5上を通る箇所では必然的に、その背後から金属板3でバックアップされなくなる。つまり、切欠き部5を設けた箇所では、外側樹脂部分4a、4bの相互間に金属板3が存在しなくなる。これによって、外側樹脂部分4a、4bの強度は、切欠き部5を設けた箇所で低下する。
【0023】
この状況下で、先に述べた射出成形金型のゲートを設ける位置に応じて、仮に、外側樹脂部分の、切欠き部を設けた箇所に、キャビティを流れる樹脂材料が合流した際にできるウエルドラインが形成された場合、切欠き部の存在に起因する外側樹脂部分の強度の低下と相俟って、外側樹脂部分の当該箇所に、ウエルドラインを起点としてクラックが発生しやすくなり、インサート成形品の信頼性の低下を招く。
【0024】
この問題に対処するため、射出成形金型で、金属板3の少なくとも二箇所の切欠き部5を設けた各位置に、樹脂材料を射出するゲートを配置することとする。このようにすれば、樹脂材料は、金属板3の少なくとも二箇所の切欠き部5を設けた各位置に配置したゲートから射出され、キャビティを流動することになるので、切欠き部5を設けた位置とは異なる位置で合流する。
そして、これにより製造されたインサート成形品1では、外側樹脂部分4a、4bの、切欠き部5が存在する位置から外れた位置(すなわち、切欠き部5が存在しない位置)に、上記の樹脂材料の合流に起因するウエルドラインが形成されるとともに、少なくとも二箇所の切欠き部5が存在する各位置に、ゲート跡6が設けられたものになる。それにより、インサート成形品1に曲げ変形が生じたとしても、ウエルドラインを起点とするクラックが発生しにくくなるので、インサート成形品1の曲げ特性が向上する。
【0025】
しかもこの場合、射出成形金型のキャビティで、金属板3の少なくとも二箇所の切欠き部5を設けた各位置に配置したゲートから、樹脂材料が射出されることにより、当該樹脂材料は切欠き部5を経て、金属板3の表面Sf側及び裏面Sb側のそれぞれに、良好な流動性でほぼ均一に流れることになるので、金属板3と外側樹脂部分4a、4bとの密着性を高めることができる。言い換えれば、切欠き部5とは異なる位置にゲートを配置して、そこから樹脂材料を射出した場合、金属板の表面側又は裏面側のいずれか一方側で、切欠き部を経て遅れて流動する樹脂材料の流動性が悪化することによって、その一方側で該樹脂材料の温度が次第に低下等して途中で固化し始め、その結果として、金属板と外側樹脂部分との密着性が低下する可能性が否めない。
【0026】
なお、ゲート跡6は、射出成形金型のゲートを設けた位置と対応する外側樹脂部分4a、4bの金属板3と平行な外面に、離型時等に樹脂が引きちぎられたことによる、該外面から窪む凹状または、該外面から突出する凸状のような形状として形成され、これは目視により容易に確認することができる。また、ウエルドラインは、図示は省略しているが、二箇所以上のゲートのそれぞれから射出された樹脂材料が合流した位置に、直線もしくは曲線等の線状に形成されるものであり、これも外側樹脂部分4a、4bの外面を目視で観察することにより確認可能である。
【0027】
ここで、射出成形金型のゲートは、外側樹脂部分4a、4bを形成しようとする位置であって、複数
箇所の切欠き部5のそれぞれを設けた位置のうち、少なくとも二箇所に配置することができる。図示の例では、金属板3の長手方向の外側の大きめの各切欠き部5及び、金属板3の長手方向の中央位置の各切欠き部5のそれぞれの、貫通スペース2に隣接して幅が狭くなる位置の計四箇所にゲートを配置し、このような射出成形金型で製造されたことにより、当該位置のそれぞれにゲート跡6が設けられたものとなっている。但し、ゲートの配置位置及び、それに起因するゲート跡の形成位置は、切欠き部が存在する位置で、切欠き部にウエルドラインが形成されることのないように適宜決定することができる。ゲート跡6は、切欠き部5が存在する位置と少しでも重なっていれば、切欠き部が存在する位置に設けられているものとする。
【0028】
この実施形態では、ゲートが金属板3の表面Sf側に配置された結果として、
図1及び2にそれぞれ示すように、表面Sf側の外側樹脂部分4aの外面にはゲート跡6が設けられている一方で、裏面Sb側の外側樹脂部分4bの外面にはゲート跡6が存在しないものとなっている。
なお、
図1、2、4および後述する
図5〜
図7において、ゲートは、金属板の表面Sf側に設けられているが、ゲートは金属板の裏面Sb側に配置されてもよい。ゲートが裏面Sb側に配置された場合、インサート成形品の表面Sf側の美観が優れる。また、この実施形態では、外側樹脂部分4aの方が外側樹脂部分4bよりも幅狭である。そのため、外側樹脂部分4aおよび4bに平板状の対象物を接着するような場合に外側樹脂部分4a(表面Sf)側にゲートを設けてしまうと、ゲート近傍の平らな接着面積が小さくなりすぎて、対象物と外側樹脂部分4aとの密着強度を担保できない可能性がある。この意味で、ゲートは、幅広の外側樹脂部分側(図の例では裏面Sb側)に配置されることが好ましい。
【0029】
樹脂部材4の体積は、ゲート跡6の一個当たり0.02cm
3〜0.5cm
3であることが好ましい。言い換えれば、射出成形時に、ゲートの一本当たり0.02cm
3〜0.5cm
3の樹脂材料を射出することが好適である。ゲートの一本当たりの樹脂材料量を減らすと、ゲート本数を増やす必要が生じる。ゲート本数が多すぎると、多くのウエルドが形成されることになり、クラックが発生しやすくなる他、ウエルドを起点として金属板3と樹脂部材4との密着度が低下し得る。一方、ゲート本数が少なすぎると、樹脂の走行距離が長くなることに起因して充填率が低下し、ゲート間で樹脂部材4の密度が低下することが懸念される。
ゲート跡6の一個当たりの樹脂部材4の体積は、樹脂部材4の全体の体積を、ゲート跡6の個数で除して算出する。
なお、金属板3の板厚は一般に、0.10mm〜0.30mm程度である。
金属板3は、たとえば、銅系合金、鉄系合金又はアルミニウム系合金を含むものとすることができる。
【0030】
なおここでは、金属板3の長手方向の最も外側のそれぞれで幅方向の中央に、金属板3を貫通する真円形状の孔部9を設けているが、これらの孔部9は、外側樹脂部分4a、4
bよりも外側に外れて位置し、金属板3と樹脂部材4との密着性に関与しない。
【0031】
樹脂部材4と金属板3との密着性を高めるため、樹脂部材4の密度は、1.50g/cm
3以上であることが好ましい。特に金属板3の界面では、樹脂部材4の密度が密着性に大きく影響することが多く、密度が高くなるほど密着性が向上する傾向にある。樹脂部材4の密度が1.50g/cm
3未満になると、JIS Z2331に規定されるヘリウム漏れ試験に従って測定したヘリウム漏れが1.0×10
-6pa・m
3/sec以上になって、密着不良になるおそれがある。この観点より、樹脂部材4の密度は、1.60g/cm
3以上であることがより一層好ましい。
樹脂部材4の密度は、インサート成形品1の重量を測定し、溶剤としてペンタフルオロフェノール(PFP)またはPFPとクロロホルムとの混合溶液を用いて樹脂部材4を溶解し、金属板3の重量を測定し、それらの差分重量を樹脂部材4の体積で除することにより算出する。
【0032】
図5に示す実施形態のインサート成形品11は、射出成形金型から取り出す際に作動するエジェクタピンが押し付けられて形成された実質的に円形状等のエジェクタピン跡20a〜20cが設けられていることを除いて、先に述べた実施形態と実質的に同様の構成を有するものである。ここでは、エジェクタピン跡20a〜20cはいずれも、金属板13の表面Sf側に存在するが、金属板13の裏面Sb側に設けられていてもよい。
【0033】
特に、このインサート成形品11では、金属板13の表面Sf上のエジェクタピン跡20a、20cだけでなく、その表面Sfと同じ側に配置された外側樹脂部分14aの外面上のエジェクタピン跡20bも形成されていることが肝要である。外側樹脂部分14aの外面上にもエジェクタピン跡20bがあるということは、インサート成形の射出成形金型から取り出す際に、当該外側樹脂部分14aの外面もエジェクタピンが押し付けられたことを意味し、これにより、金属板13と樹脂部材14との密着性が大きく高まる。これを言い換えると、金属板の表面もしくは裏面だけにエジェクタピンを押し付けた場合は、インサート成形品のうち、樹脂部材の射出成形金型から離れ始めるタイミングが、金属板の射出成形金型から離れ始めるタイミングよりも遅くなり、その結果として、樹脂部材に対して金属板から剥れる方向の力が作用し、この際に樹脂部材と金属板との密着性の悪化を招く懸念がある。
【0034】
外側樹脂部分14aの外面上のエジェクタピン跡20bは、この実施形態のように、たとえば枠状等の外側樹脂部分14aに沿って複数個設けられていることが好ましい。これにより、射出成形金型からインサート成形品11を取り出す際に、複数個のエジェクタピンにより、貫通スペース12の外側の周囲に沿って配置された外側樹脂部分14aに均等に力を作用させることができるので、金属板13と樹脂部材14との密着性の低下をより有効に抑制することができる。
【0035】
エジェクタピン跡20a〜20cは、金属板13の表面Sfもしくは裏面Sb及び、外側樹脂部分14aもしくは14bの外面上に、当該面から若干窪んだ凹状に形成されるものであり、目視により有無を確認することができる。
【0036】
図示のインサート成形品11では、先に述べたインサート成形品1と同様に、金属板13の裏面Sbの外側樹脂部分14bは、金属板13の、貫通スペース12の周囲に位置する内縁部13aまで覆って配置される一方で、表面Sf側の外側樹脂部分14aは、
図6に拡大図で示すように、金属板13の内縁部13aを露出させて配置されている。
そして、表面Sf側の外側樹脂部分14aより内側に露出する金属板13の内縁部13aは、
図6に示すように、外側樹脂部分14aの外側から延びて貫通スペース12につながる各切欠き部15により、複数個の金属セグメント13c及び13dに区画されている。
【0037】
これらの金属セグメント13c及び13dのうち、金属セグメント13cはそれぞれ、金属板13の長手方向の中央寄りに位置し、先述の半導体チップ51と接続するためのボンディングワイヤ52が取り付けられ、いわゆるメインリードとして機能する矩形状の金属板部分の端部を構成する。また、金属セグメント13dは、外側樹脂部分14aの内側に延びる金属板13の屈曲部13bの先端部に相当する。
【0038】
このようなインサート成形品11では、
図6に示すように、切欠き部15により区画された複数個の金属セグメント13c及び13dのそれぞれに、エジェクタピン跡20aが設けられていることが好適である。各金属セグメント13c及び13dにエジェクタピンを作用させることで、それらのそれぞれが射出成形金型から離れる速度をほぼ同じにすることができて、金属板13がねじれることなしに、射出成形金型からインサート成形品11を取り出すことができるからである。
なお、図示の例のように、メインリードの端部になる各金属セグメント13cは、必要に応じて複数個、たとえば二個のエジェクタピン跡20aが設けられたものとすることができる。外側樹脂部分14aよりも外側のメインリードになる金属板部分は、その面積が大きいことにより、図示のように、比較的大径のエジェクタピン跡20cを設けることができる。
【0039】
以上に述べたインサート成形品1、11の樹脂部材4、14は、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂および、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含むものとすることができる。特に、所定の要求性能を満たすため、樹脂部材4、14が液晶性ポリエステル樹脂(LCP)を含有するものとした場合は、当該樹脂部材4、14と金属板3、13との密着性の問題が顕在化することが考えられるので、先に述べたような密着性向上の対策を施すことが望ましい。
【実施例】
【0040】
次に、この発明のインサート成形品を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0041】
図1〜3に示すようなインサート成形品で、樹脂部材の密度、ゲート本数等を変更した発明例1〜4並びに比較例1及び2を製造した。
発明例1は、
図1の金属板の表面Sf側ではなく裏面Sb側にゲートを配置し、裏面Sb側の外側樹脂部分にゲート跡が形成されたことを除いて、
図1と同様の構成を有するものとした。発明例2は、樹脂部材の密度を変更したことを除いて、発明例1と同じ構成を有するものである。発明例3は、樹脂部材の密度を変更し、ゲート本数を六本として、それらのゲート位置を
図7に示す位置としたことを除いて、発明例1と同じ構成を有するものである。発明例4は、樹脂部材の密度を変更し、ゲート本数を三本として、そのゲート位置を、金属板の裏面Sb側で
図1の左側及び右側の二点と下側の一点とした(つまり
図1の上側の一点のゲート跡がない)ことを除いて、発明例1と同じ構成を有するものである。
【0042】
比較例1は、樹脂材料の充填量を変更して樹脂部材の密度が異なるものとなったことを除いて、発明例1と同じ構成を有するものである。比較例2は、樹脂部材の密度を変更し、ゲート本数を二本として、そのゲート位置を、金属板の裏面Sb側で
図1の左側及び右側の二点とした(つまり
図1の上側及び下側の二点のゲート跡がない)ことを除いて、発明例1と同じ構成を有するものである。
【0043】
これらの各発明例1〜4並びに比較例1及び2について、金属板と樹脂部材との密着性の指標として、JIS Z2331に規定されるヘリウム漏れ試験を行い、ヘリウム漏れ(Heリーク)を確認した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
発明例1〜4は、樹脂部材の密度が比較的高くなったことから、Heリークの値が小さくなり、金属板と樹脂部材との密着性に優れたものになった。一方、比較例1及び2は、樹脂部材の密度が低いことに起因して、Heリークの値が大きくなった。それにより、比較例1及び2は、密着不良と判断され得るものである。
また特に、発明例3はゲート本数を発明例1よりも多くしたことにより、樹脂部材の密度が大きくなり、密着性がさらに向上したことが解かる。