特許第6869888号(P6869888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869888非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物、並びに、それを用いた非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869888
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物、並びに、それを用いた非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/409 20210101AFI20210426BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M2/16 L
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-533132(P2017-533132)
(86)(22)【出願日】2016年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2016073048
(87)【国際公開番号】WO2017022845
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-156188(P2015-156188)
(32)【優先日】2015年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】太田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊充
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 準治
(72)【発明者】
【氏名】趙 俊相
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/168662(WO,A1)
【文献】 特開2013−251205(JP,A)
【文献】 特開2013−234307(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050708(WO,A1)
【文献】 特開2010−146960(JP,A)
【文献】 特開2010−146961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン類とマレイン酸類とが共重合したα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を含み、かつ、
前記中和塩が、前記共重合体と水酸化リチウムとを反応させて得られる中和塩であり、アルカリ金属としてリチウムを含むこと、
前記共重合体におけるマレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度が0.3〜1.0であること、及び、
前記共重合体の重量平均分子量が325,000〜500,000であることを特徴とする、非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のセパレータ用樹脂組成物からなる被覆層を備える、非水電解質電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項2に記載のセパレータを有する、非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物、並びに、それを用いた非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、パッド型情報端末機器などの携帯端末の普及が著しい。これら携帯端末の電源に用いられている二次電池には、非水電解質電池が多用されている。携帯端末は、より快適な携帯性が求められるため、小型化、薄型化、軽量化、高性能化が急速に進み、様々な場で利用されるようになった。この動向は現在も続いており、携帯端末に使用される電池にも、小型化、薄型化、軽量化、高性能化がさらに要求されている。
【0003】
また、電気自動車、ハイブリット自動車、電気自動車等の大型機器にも、非水電解質電池を利用する動きが広がっている。そのため、高容量化、大電流での充放電特性といった性能が求められているが、非水電解質電池であるため、水系電池と比較して、発煙、発火、破裂等の危険性が高いことが知られており、安全性の向上要求されている。
【0004】
非水電解質電池は、正極と負極とをセパレータを介して設置し、LiPF、LiBF LiTFSI(リチウム(ビストリフルオロメチルスルホニルイミド))、LiFSI(リチウム(ビスフルオロスルホニルイミド))のようなリチウム塩をエチレンカーボネート等の有機液体に溶解させた電解液と共に容器内に収納した構造を有している。
【0005】
そのため外熱による温度上昇、過充電、内部短絡、外部短絡等によって発煙等の危険性が高まる。これらは、外部保護回路によってある程度防ぐことが可能である。また、非水電解質電池セパレータとして使用されているポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムが120℃付近で溶融し、孔が閉塞して電流やイオンの流れを遮断することによって、電池の温度上昇を抑制することも可能である。これは、シャットダウン機能と呼ばれている。しかし、外熱によって温度が上昇した場合や温度上昇によって電池内部で化学反応が起きた場合には、シャットダウン機能が働いても電池温度は更に上昇し、電池温度が150℃以上にまで達すると、多孔質フィルムが収縮して内部短絡が起こり、発火等が起きることがあった。
【0006】
このように、セパレータのシャットダウン機能では電池の発火を抑制することができ難くなっている。また、電池の高容量化に伴って充放電における大電流化も進んでおり、その際に発生するジュール熱を抑制するために、電解液を含浸したセパレータの電気抵抗値そのものを下げることも必要になっている。そのため、ポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムよりも熱収縮温度を上げることによって、内部短絡を起こり難くして電池の発火を抑制すると共に、電気抵抗値を下げることを目的として、金属酸化物を用いたセパレータが開発されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
このようなセパレータにおける耐熱層の形成は、ペースト化された金属酸化物をセパレータの表面に塗工することにより行われており、金属酸化物をペースト化する際の増粘剤もしくは分散剤として、一般的にカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略すことがある)がバインダーとして多く利用されている(例えば、特許文献3)。
【0008】
CMCは金属酸化物及びセパレータとの接着性が良く、150℃程度の熱安定性はあるものの、電気抵抗が高く、ハイレートや繰り返し充放電時には高い電気抵抗であるがために電池の温度上昇や内部短絡が起こり易くなる。その結果、想定以上に発熱し、CMCが分解しセパレータとして機能し難くなるという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題事情に鑑みてなされたものであり、電気抵抗が低くかつ、耐熱性が高い非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物、並びに、それを用いた非水電解質電池用セパレータ及び非水電解質電池を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001−527274号公報
【特許文献2】特開2010−021033号公報
【特許文献3】国際公報2015/029944号パンフレット
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記構成の非水電解質電池セパレータ用樹脂組成物(以下、単にセパレータ用樹脂組成物とも称す)を使用することで、上記目的を達することを見出し、この知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の一局面に係るセパレータ用樹脂組成物は、α−オレフィン類とマレイン酸類とが共重合したα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を含み、かつ、前記共重合体におけるマレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度が0.3〜1.0であることを特徴とする。
【0013】
このような組成物を使用することにより、耐熱性が高く、電気抵抗を抑制することができるセパレータを提供できると考えられる。
【0014】
特に、前記セパレータ用樹脂組成物において、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体のマレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度が0.3〜1.0であることにより、塗工性に非常に優れるという利点がある。
【0015】
さらに組成物の水溶性が向上するために、増粘し、集電箔との接着性や分子同士の結着性が高くなる。結果的に、増粘剤や分散剤などを使用する必要がなくなるという利点をも有する。
【0016】
本発明のさらに他の局面に係る非水電解質電池用セパレータは、上記セパレータ用樹脂組成物からなる被覆層を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のさらに他の局面に係る非水電解質電池は、上記セパレータを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性があり短絡が少なく生産性に優れたセパレータを得ることができ、さらにそれを用いて、非水電解質電池の電池特性の向上を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本実施形態のセパレータ用樹脂組成物は、α−オレフィン類とマレイン酸類とが共重合したα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を含み、かつ、前記共重合体における中和度が0.3〜1.0であることを特徴とする。
【0021】
本実施形態において、α−オレフィン類とマレイン酸類とが共重合したα−オレフィン−マレイン酸類共重合体は、α−オレフィンに基づく単位(A)とマレイン酸類に基づく単位(B)とからなり、(A)および(B)の各成分は(A)/(B)=1/1〜1/3(モル比)を満足することが好ましい。また、重量平均分子量が10,000〜500,000である線状ランダム共重合体であることが好ましい。
【0022】
本実施形態において、α−オレフィン類に基づく単位(A)とは一般式−CH2CR−(式中、RおよびRは同じであっても互いに異なっていてもよく、水素、炭素数1〜10のアルキル基またはアルケニル基を表わす)で示される構成を意味する。また本実施形態で使用するα−オレフィンとは、α位に炭素−炭素不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐状のオレフィンである。特に、炭素数2〜12とりわけ2〜8のオレフィンが好ましい。使用し得る代表的な例としては、エチレン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、n−ペンテン、イソプレン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、n−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ブテン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン等が挙げられる。この中でも特に、入手性、重合成、生成物の安定性という観点から、イソブチレンが好ましい。ここでイソブチレンとは、イソブチレンを主成分として含む混合物、例えば、BB留分(C4留分)をも包含する。これ等のオレフィン類は単独で用いても2種以上組合せて用いても良い。
【0023】
本実施形態において、マレイン酸類に基づく単位(B)としては、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル(例えば、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸フェニル等)、マレイン酸ジエステル(例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジフェニル等)等の無水マレイン酸誘導体、マレイン酸イミドまたはそのN−置換誘導体(例えば、マレイン酸イミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換アルキルマレイミドN−フエニルマレイミド、N−メチルフエニルマレイミド、N−エチルフエニルマレイミド等のN−置換アルキルフエニルマレイミド、あるいはN−メトキシフエニルマレイミド、N−エトキシフエニルマレイミド等のN−置換アルコキシフエニルマレイミド)、更にはこれ等のハロゲン化物(例えばN−クロルフエニルマレイミド)、無水シトラコン酸、シトラコン酸、シトラコン酸モノエステル(例えば、シトラコン酸メチル、シトラコン酸エチル、シトラコン酸プロピル、シトラコン酸フェニル等)、シトラコン酸ジエステル(例えば、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、シトラコン酸ジプロピル、シトラコン酸ジフェニル等)等の無水シトラコン酸誘導体、シトラコン酸イミドまたはそのN−置換誘導体(例えば、シトラコン酸イミド、2−メチル−N−メチルマレイミド、2−メチル−N−エチルマレイミド、2−メチル−N−プロピルマレイミド、2−メチル−N−n−ブチルマレイミド、2−メチル−N−t−ブチルマレイミド、2−メチル−N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換アルキルマレイミド2−メチル−N−フエニルマレイミド、2−メチル−N−メチルフエニルマレイミド、2−メチル−N−エチルフエニルマレイミド等の2−メチル−N−置換アルキルフエニルマレイミド、あるいは2−メチル−N−メトキシフエニルマレイミド、2−メチル−N−エトキシフエニルマレイミド等の2−メチル−N−置換アルコキシフエニルマレイミド)、更にはこれ等のハロゲン化物(例えば2−メチル−N−クロルフエニルマレイミド)が好ましく挙げられる。これらの中では、入手性、重合速度、分子量調整の容易さという観点から、無水マレイン酸の使用が好ましい。また、これらのマレイン酸類は単独で使用しても、複数を混合して使用してもよい。マレイン酸類は、上述のように、アルカリ塩により中和され、生成したカルボン酸およびカルボン酸塩は、1,2−ジカルボン酸または塩の形を形成する。この形は、正極より溶出する重金属を補足する機能を有する。
【0024】
本実施形態の共重合体における上記各構造単位の含有割合は、(A)/(B)がモル比で1/1〜1/3の範囲内にあるのが望ましい。水に溶解する高分子量体としての親水性、水溶性、金属やイオンへの親和性という利点が得られるからである。特に、(A)/(B)のモル比にあっては1/1またはそれに近い値であることが望ましく、その場合にはα−オレフィンに基づく単位、すなわち−CHCR−で示される単位と、マレイン酸類に基づく単位が交互に繰り返された構造を有する共重合体となる。
【0025】
本実施形態の共重合体を得るための、α−オレフィン類及びマレイン酸類の仕込み混合比は目的とする共重合体の組成により変わるが、マレイン酸類モル数の1〜3倍モル数のα−オレフィンを用いるのがマレイン酸類の反応率を高めるために有効である。
【0026】
本実施形態の共重合体を製造する方法については、特に限定はなく、例えば、ラジカル重合により共重合体を得ることができる。その際、使用する重合触媒としてはアゾビスイソブチロニトリル、1,1−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾ触媒、ベンンゾイルパーオキサイド、ジクミルパ−オキサイド等の有機過酸化物触媒が好ましい。前記重合触媒の使用量は、マレイン酸類に対し0.1〜5モル%となる範囲を必要とするが、好ましくは0.5〜3モル%である。重合触媒およびモノマーの添加方法として重合初期にまとめて添加しても良いが、重合の進行にあわせて遂次添加する方法が望ましい。
【0027】
本実施形態の共重合体の製造方法において、分子量の調節は主にモノマー濃度、触媒使用量、重合温度によって適宜行なうことができる。例えば、分子量を低下させる物質として周期律表第I、IIまたはIII族の金属の塩、水酸化物、第IV族の金属のハロゲン化物、一般式N≡、HN=、HN−もしくはHN−で示されるアミン類、酢酸アンモニウム、尿素等の窒素化合物、あるいはメルカプタン類等を、重合の初期または重合の進行中に添加することによって共重体の分子量を調節することも可能である。重合温度は40℃〜150℃であることが好ましく、特に60℃〜120℃の範囲であることがより好ましい。重合温度が高すぎると生成する共重合物がブロック状になり易く、また重合圧力が著しく高くなるおそれがある。重合時間は、通常1〜24時間程度であることが好ましく、より好ましくは2〜10時間である。重合溶媒の使用量は、得られる共重合物濃度が5〜40重量%あることが好ましく、より好ましくは10〜30重量%となる様に調節することが望ましい。
【0028】
上述したように、本実施形態の共重合体は、通常、10,000〜500,000の重量平均分子量を有することが好ましい。より好ましい重量平均分子量は、15,000〜450,000である。本実施形態の共重合体の重量平均分子量が10,000未満となると、結晶性が高く、粒子間の結着強度が小さくなるおそれがある。一方、500,000を超えると、水や溶媒への溶解度が小さくなり、容易に析出する場合がある。
【0029】
本実施形態の共重合体の重量平均分子量は、例えば、光散乱法や粘度法によって測定することができる。粘度法を用いて、ジメチルホルムアミド中の極限粘度(〔η〕)を測定した場合、本実施形態の共重合体は極限粘度が0.05〜1.5の範囲にあることが好ましい。なお、本実施形態の共重合体は通常16〜60メッシュ程度の粒のそろった粉末状で得られる。
【0030】
本実施形態において、共重合体の中和塩とは、マレイン酸類から生成するカルボニル酸の活性水素が、塩基性物質と反応し、塩を形成して中和塩となっているものであることが好ましい。本実施形態で使用するα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩においては、塗工性の観点から前記塩基性物質として、一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニアを使用することが好ましい。
【0031】
本実施形態において、一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニアの使用量は、特に制限されるものではなく、使用目的等により適宜選択されるが、通常、マレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位1モル当り0.6〜2.0モルとなる量であることが好ましい。このような使用量であれば、本実施形態のバインダー組成物の中和度を所定の範囲に調整することが可能となると考えられる。なお、一価の金属を含む塩基性物質の使用量を、好ましくは、マレイン酸共重合体中のマレイン酸単位1モル当り0.8〜1.8モル量とすると、アルカリ残留の少なく水溶性の共重合体塩を得ることができる。
【0032】
α−オレフィン−マレイン酸類共重合体と、一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニア等のアミン類との反応は、常法に従って実施できるが、水の存在下に実施し、α−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を水溶液として得る方法が簡便であり、好ましい。
【0033】
本実施形態で使用可能な一価の金属を含む塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩;リン酸三ナトリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩等が挙げられる。アンモニア等のアミン類としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミンなどの1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどの2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレンイミン、トリエチレンイミン、ポリエチレンイミンなどのポリアミン等が挙げられる。これらの中でもアンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。特に、リチウムイオン二次電池用のバインダーとしては、アンモニア、水酸化リチウムの使用が好ましい。一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニアは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また電池性能に悪影響を及ぼさない範囲内であれば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などを含有する塩基性物質を併用して、α−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を調製してもよい。
【0034】
次に、本実施形態において、前記共重合体における、マレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度は0.3〜1.0である。前記中和度が0.3未満になると、水や溶媒への溶解度が小さくなり容易に析出し、スラリー塗工が困難となる。また、前記中和度が1.0を超えると、中和を行う塩基性物質がスラリー中に過剰に存在することになるため、抵抗成分となるおそれがある。より好ましくは、前記中和度が0.4〜0.8の範囲であることが望ましい。それにより、より塗工性に優れたスラリー組成物を得ることができる。
【0035】
本実施形態において、中和度は、塩基による適定、赤外線スペクトル、NMRスペクトルなどの方法を用いることができるが、簡便且つ正確に中和点を測定するには、塩基による滴定を行うことが好ましい。具体的な滴定の方法としては、特に限定されるものではないが、イオン交換水等の不純物の少ない水に溶解して、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質により、中和を行うことによって実施できる。中和点の指示薬としては、特に限定するものではないが、塩基によりpH指示するフェノールフタレインなどの指示薬、PHメーターを使用することが出来る。
【0036】
本実施形態において、前記共重合体における中和度は、例えば、前記共重合体の中和度を調整することで調整してもよいし、前記共重合体を溶解させた水溶液の中和度を直接調整してもよい。具体的には、例えば、中和度の調整は、上述したような一価の金属を含む塩基性物質(アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)の添加量を調整することによって、前記範囲に調整することが可能であるが、それに限定はされない。なお、具体的には、前述の通り、一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニアを、好ましくは、マレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位1モル当り0.6〜2.0モルとなる量添加することによって、前記範囲に調整することができる。より好ましくは、一価の金属を含む塩基性物質および/またはアンモニアを、マレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位1モル当り0.6〜1.8モルとなる量添加することにより、より確実に前記範囲に調整することができる。
【0037】
次に、本実施形態において、共重合体の開環率は、マレイン酸類として無水マレイン酸を用いた場合の、α−オレフィン類と重合する無水マレイン酸類部位の加水分解率を表す。本実施形態の共重合体において、好ましい開環率は、60〜100%であり、より好ましくは、70%〜100%、更に好ましくは、80〜100%である。開環率が低すぎると、共重合体の構造的自由度が小さくなり、伸縮性に乏しくなるため、隣接する極材粒子を接着する力が小さくなるおそれがあり、好ましくない。さらに、水に対する親和性が低く、溶解性が乏しいという問題点を生じるおそれがある。開環率は、例えば、無水マレイン酸のα位に位置する水素を基準として、開環したマレイン酸のα位の水素を1H−NMRで測定して比率を求めることも出来るし、マレイン酸のカルボニル基と開環した無水マレイン酸に由来するカルボニル基をIR測定によって比率を決定することも出来る。
【0038】
次に、本実施形態において、150℃における前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体の質量減少率は4%未満が望ましく、前記質量減少率は2%未満であることがより好ましい。質量減少率が4%以上であると、繰り返し充放電したときに生じた熱によって容量が低下する可能性がある。
【0039】
本実施形態において、前記質量減少率は、例えば、前記セパレータ用樹脂組成物に含有される前記共重合体の中和度を調整することによって、前記範囲に調整することが可能であるが、それに限定はされない。また、中和度が一定以上(中和度=1)である場合には、前記共重合体の分子量を調節することによってさらに調整することもできる。
【0040】
本実施形態において、前記質量減少率は、特に限定はされないが、例えば、後述の実施例に記載の方法等によって、測定することができる。
【0041】
本実施形態のセパレータ用樹脂組成物は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体を単独で含むものであってもよいし、さらに、必要に応じて、無機粒子、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤等を含んでいてもよい。
【0042】
無機粒子としては、合成品及び天然産物のいずれでも、特に限定なく用いることができる。無機粒子としては、例えば、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、コランダム等のアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、タルク、合成カオリナイト、カオリンクレー、カオリナイト、フライボンタイト、スチブンサイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、オーディナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、ソーコナイト、スインホルダイト、バーミキュライト、フッ素バーミキュライト、バーチェリン、セリサイト、アメサイト、ケリアイト、フレイポナイト、ブリンドリアイト、ベントナイト、ゼオライト、黒雲母、金雲母、フッ素金雲母、鉄雲母、イーストナイト、テニオライト、シデロフィライトテトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、フッ素四ケイ素雲母、ポリリシオナイト、白雲母、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、ソーダ雲母、クリンナイト、木下、ビテ雲母、アナンダ石、真珠雲母、クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアサイト、スドーアイト、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ藻土及びケイ砂等の、セラミックス及びガラス繊維が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
前記セパレータ用樹脂組成物が無機微粒子を含有する場合、セパレータ用樹脂組成物中の無機微粒子の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体1重量部に対し、通常、10〜10000重量部であることが好ましく、より好ましくは20〜1000重量部である。
【0044】
界面活性剤等の分散剤としては、例えば、硫酸エステル型、リン酸エステル型、カルボン酸型、スルホン酸型などのアニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩型、アミドアミン型などのカチオン系活性剤、アルキルベタイン型、アミドベタイン型、アミンオキサイド型などの両性界面活性剤、エーテル型、脂肪酸エステル型、アルキルグルコキシドなどの非イオン系界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリナフタレンスルホン酸塩、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド、ポリアルキレンポリイミンアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン、セルロース型などの高分子型界面活性剤など、各種界面活性剤を用いることができる。フィラー同士の凝集を防ぐ目的で、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。分散剤は、上述のものと同様の効果が得られるものであれば、それらに限定されるものではない。
【0045】
前記セパレータ用樹脂組成物が分散剤を含有する場合、セパレータ用樹脂組成物中の分散剤の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体100重量部に対し、通常、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0046】
増粘剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ウレタン変性ポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体などの合成高分子、カルボメトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、ダイユータンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンガムなどの天然多糖類、デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせても用いられる。増粘剤は、上述のものと同様の効果が得られるものであれば、それらに限定されるものではない。
【0047】
前記セパレータ用樹脂組成物が増粘剤を含有する場合、セパレータ用樹脂組成物中の増粘剤の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体100重量部に対し、通常、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0048】
湿潤剤としては、例えば、脂肪族ポリエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤、変性シリコーン、変性ポリエーテル、ジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体を用いることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。湿潤剤は、上述のものと同様の効果が得られるものであれば、それらに限定されるものではない。
【0049】
前記セパレータ用樹脂組成物が湿潤剤を含有する場合、セパレータ用樹脂組成物中の湿潤剤の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体100重量部に対し、通常、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0050】
消泡剤としては、例えば、ミネラルオイル系、シリコーン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤を用いることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。消泡剤は、上述のものと同様の効果が得られるものであれば、それらに限定されるものではない。
【0051】
前記セパレータ用樹脂組成物が消泡剤を含有する場合、セパレータ用樹脂組成物中の消泡剤の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体100重量部に対し、通常、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0052】
本実施形態のセパレータ用樹脂組成物における溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、N,N−ジメチルホルミアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどの環状アミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが例示される。これらの中では、安全性、溶解性という観点から、水の使用が好ましい。
【0053】
また、本実施形態のセパレータ用樹脂組成物の溶媒として水を使用する場合、以下に示す有機溶媒を、溶媒全体の好ましくは20重量%以下となる範囲で併用しても良い。そのような有機溶媒としては、常圧における沸点が100℃以上300℃以下のものが好ましく、例えば、n−ドデカンなどの炭化水素類;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノールなどのアルコール類;γ−ブチロラクトン、乳酸メチルなどのエステル類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド・スルホン類などの有機分散媒が挙げられる。
【0054】
前記セパレータ用樹脂組成物における溶媒の量は、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体10重量部に対し、通常、40〜150重量部であることが好ましく、より好ましくは70〜130重量部である。α−オレフィン−マレイン酸類共重合体の量が過度に少ないと粘度が低くなり塗工性が低下し、セパレータ基材表面を十分被覆することができず、ショートが発生するなど良好な電池特性が発現しなくなる場合がある。逆に、α−オレフィン−マレイン酸類共重合体の量が過度に多いと粘度が高くなり塗工性が低下し、セパレータ基材表面を十分被覆することができないおそれがあり、また電気抵抗も増大するため放電容量が低下する可能性がある。
【0055】
さらに、本発明には、上記セパレータ用樹脂組成物からなる被覆層を備える非水電解質電池用セパレータが包含される。
【0056】
本実施形態の非水電解質電池用セパレータは、上述したセパレータ用樹脂組成物をセパレータ基材に塗工して、セパレータ基剤表面に被覆層を形成することによって得ることができる。セパレータ用樹脂組成物をセパレータ基材に塗工する方法に特に制限はなく、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0057】
本実施形態において、セパレータ用樹脂組成物で被覆した層の付着量としては特に制限はないが、1.0〜30g/mが好ましく、更に4.0〜20g/mがより好ましい。被覆層の付着量が1.0g/m未満であると、セパレータ基材表面を十分被覆することができず、細孔径が大きくなり、ショートが発生するなど良好な電池特性が発現しなくなる場合がある。一方、被覆した層の付着量が30g/mを超えると、セパレータの薄膜化が困難となる場合がある。
【0058】
本実施形態のセパレータ用樹脂組成物は、非水電解質電池において電池の充放電を妨げることなく電極の短絡を防止しうるセパレータ基材として任意の部材に使用することができる。
【0059】
本実施形態において、セパレータ基材としては、例えば、微細な孔を有する有機材料からなる多孔質フィルムや不織布等を用いることができる。
【0060】
より具体的には、セパレータ基材の構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びそれらの誘導体、芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどのポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、脂肪族ポリケトン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン及びポリ塩化ビニルなどの樹脂からなる繊維並びにセルロース繊維などが挙げられる。本実施形態のセパレータ基材は、これらの構成材料の2種以上を含有していても構わない。
【0061】
セパレータ基材の厚みは、通常0.5μm以上、このましくは1μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下である。この範囲であると電池内でのセパレータ基材による抵抗が小さくなり、また、電池製造時の作業性に優れる。
【0062】
本実施形態において、セパレータ用樹脂組成物に含まれる水などの溶媒を、セパレータ基材へ塗工した後に乾燥させる方法は特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による通気乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、電子線などの照射線乾燥などが挙げられる。乾燥条件は、応力集中によってセパレータ用樹脂組成物で被覆した層に亀裂が入ったり、セパレータ用樹脂組成物で被覆した層がセパレータから剥離しない程度の速度範囲となる中で、できるだけ早く溶媒が除去できるように調整するとよい。
【0063】
本実施形態の非水電解質電池用セパレータにおいて、セパレータの坪量は10.0〜50.0g/mが好ましく、15.0〜40.0g/mがより好ましい。また、セパレータの厚みは10.0〜50.0μmが好ましく、15.0〜40.0μmがより好ましい。セパレータの密度としては0.4〜1.2g/cmが好ましく、0.6〜1.0g/cmがより好ましい。
【0064】
本実施形態において、前記樹脂組成物を塗工・乾燥後、前記被覆層表面の平坦化や厚みをコントロールする目的で、カレンダー処理によりセパレータ被覆層を平滑化してもよい。
【0065】
さらに、本発明には、上記セパレータと、負極と、正極と、電解液を備えた、非水電解質電池も包含される。
【0066】
本実施形態の非水電解質電池の負極及び正極に使用される集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料を使用することができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本実施形態では負極として、非水電解質電池で通常用いられる材料を用いることができる。例えば、Li、Na、C、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Pb及びBiよりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の元素、これらの元素を用いた合金、酸化物、カルコゲン化物又はハロゲン化物などが使用される。さらに、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;SiOx,SnOx,LiTiOxで表される複合金属酸化物やその他の金属酸化物やリチウム金属、リチウム合金などのリチウム系金属;TiS、LiTiSなどの金属化合物などが例示される。
【0068】
本実施形態では、必要に応じて、さらに増粘剤を添加することができる。添加できる増粘剤としては、特に限定されるものではなく、種々のアルコール類、特に、ポリビニルアルコールおよびその変性物、セルロース類、でんぷんなどの多糖類を使用することができる。
【0069】
増粘剤の使用量は、負極活物質100部に対し0.1〜4重量部程度であることが好ましく、より好ましくは0.3〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。増粘剤が過度に少ないと負極活物質及び溶媒を含むスラリー組成物(以下、単に負極用スラリー組成物とも称する)の粘度が低すぎて混合層の厚みが薄くなる場合があり、逆に、増粘剤が過度に多いと放電容量が低下する場合がある。
【0070】
また、負極用スラリー組成物に必要に応じて配合される導電助剤としては、例えば、金属粉、導電性ポリマー、アセチレンブラックなどが挙げられる。導電助剤の使用量は、負極活物質100重量部に対し、通常、0.5〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜7重量部である。
【0071】
本実施形態において、負極は、上述したような負極活物質を、導電助剤と、SBR、NBR、アクリルゴム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダー等とを、溶媒などに混合して調製した負極用スラリーを、上述したような集電体、例えば、銅等の負極集電体に塗布して溶媒を乾燥させて負極とすることができる。
【0072】
本実施形態では、正極は、非水電解質電池に通常使用される正極が特に制限なく使用される。例えば、正極活物質としては、TiS、TiS、非晶質MoS、Cu、非晶質VO−P、MoO、VO5、V13などの遷移金属酸化物やLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMnなどのリチウム含有複合金属酸化物などが使用される。また、正極活物質を、上記負極と同様の導電助剤や増粘剤、SBR、NBR、アクリルゴム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーとを、水や上記の常圧における沸点が100℃以上300℃以下の溶媒などに混合して調製した正極用スラリー組成物を、例えば、アルミニウム等の正極集電体に塗布して溶媒を乾燥させて正極とすることができる。
【0073】
それぞれの電極用スラリー組成物を集電体へ塗布する方法は、特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。塗布する量も特に制限されないが、溶媒または分散媒を乾燥などの方法によって除去した後に形成される活物質、導電助剤、バインダーおよび増粘剤を含む混合層の厚みが好ましくは0.005〜5mm、より好ましくは0.01〜2mmとなる量が一般的である。
【0074】
スラリー組成物に含まれる水などの溶媒の乾燥方法は特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による通気乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、電子線などの照射線乾燥などが挙げられる。乾燥条件は、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲となる中で、できるだけ早く溶媒が除去できるように調整するとよい。更に、電極の活物質の密度を高めるために、乾燥後の集電体をプレスすることは有効である。プレス方法としては、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。
【0075】
また、本実施形態の非水電解質電池には、電解質を溶媒に溶解させた電解液を使用することができる。電解液は、通常の非水電解質電池に用いられるものであれば、液状でもゲル状でもよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを適宜選択すればよい。具体的な電解質としては、例えば、従来より公知のリチウム塩がいずれも使用できLiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl4、LiCl、LiBr、LiB(C)4、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪族カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0076】
このような電解質を溶解させる溶媒(電解液溶媒)は特に限定されるものではない。具体例としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチルラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4―メチル−1,3―ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素化合物類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類などが挙げられ、これらは単独もしくは二種以上混合して使用できる。ゲル状の電解液を用いるときは、ゲル化剤としてニトリル系重合体、アクリル系重合体、フッ素系重合体、アルキレンオキサイド系重合体などを加えることができる。
【0077】
本実施形態の非水電解質電池を製造する方法としては、特に限定はないが、例えば、次の製造方法が例示される。すなわち、負極と正極とを、上述した本実施形態のセパレータを介して重ね合わせ、電池形状に応じて巻く、折るなどして、電池容器に入れ、電解液を注入して封口する。電池の形状は、公知のコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型など何れであってもよい。
【0078】
本実施形態の非水電解質電池は、内部短絡及び抵抗上昇が起こりにくい電池であり、様々な用途に有用である。例えば、小型化、薄型化、軽量化、高性能化の要求される携帯端末に使用される電池としても有用であり、高い安全性が求められる電気自動車等の大型機器に使用される電池としても非常に有用である。
【0079】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0080】
すなわち、本発明の一局面に係るセパレータ用樹脂組成物は、α−オレフィン類とマレイン酸類とが共重合したα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩を含み、かつ、前記共重合体におけるマレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度が0.3〜1.0であることを特徴とする。
【0081】
このような組成物を使用することにより、耐熱性が高く、電気抵抗を抑制することができるセパレータを提供できると考えられる。
【0082】
特に、前記セパレータ用樹脂組成物において、前記α−オレフィン−マレイン酸類共重合体のマレイン酸類から生成するカルボン酸に対する中和度が0.3〜1.0であることにより、塗工性に非常に優れるという利点がある。
【0083】
さらに組成物の水溶性が向上するために、増粘し、集電箔との接着性や分子同士の結着性が高くなる。結果的に、増粘剤や分散剤などを使用する必要がなくなるという利点をも有する。
【0084】
本発明のさらに他の局面に係る非水電解質電池用セパレータは、上記セパレータ用樹脂組成物からなる被覆層を含むことを特徴とする。
【0085】
また、本発明のさらに他の局面に係る非水電解質電池は、上記セパレータを備えることを特徴とする。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
<セパレータ用樹脂組成物>
セパレータ用樹脂組成物として水溶性のリチウム変性イソブテン−無水マレイン酸共重合樹脂(平均分子量325,000、中和度1.0、開環率100%)25g(0.16mol)を用い、10重量%水溶液を調整して以下の試験で用いた。中和度の調整は、水酸化リチウムをマレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位に対し2.0当量(0.320mol)添加することによって行った。
【0088】
<質量減少率の測定>
熱分析計(ヤマト科学社製)を用いて上記α-オレフィン‐マレイン酸類共重合体の熱
重量測定を行った。測定温度範囲50℃〜1000℃、昇温速度20℃/分にて測定を行った結果、150℃での質量減少率は0.3%であった。結果を下記表1に示す。
【0089】
<被覆セパレータの作製>
上記10重量%のセパレータ用樹脂組成物をセパレータ基材表面被覆液として5重量%に希釈し、セパレータ(27cm×25cm、不織布)を該希釈液に浸漬した。実験用手動マングル(熊谷理機工業製)を使用し、上記セパレータ基材表面被覆液の希釈液で被覆されたセパレータを搾液処理後、室温で12時間乾燥した。乾燥後のシートを熱プレス装置(古川製作所製)でプレスし、厚さ20μmに調整した(ロール温度室温、速度1m/min、線圧100hg/cm)。付着量は2.1g/mであった。
【0090】
<負極用スラリーの作製>
電極用スラリー作製は活物質として天然黒鉛(DMGS、BYD製)94重量部に対して、バインダーとして、スチレン−ブタジエンゴム(SBR、TRD2001、JSR製)の48.3重量%水分散液を固形分として3重量部、カルボキシメチルセルロールナトリウム(CMC、セロゲンBSH−6、第一工業製薬製)の1重量%水溶液を固形分として1重量部、および導電助剤(導電付与剤)としてSuper−P(ティムカル社製)を固形分として2重量部を専用容器に投入し、遊星攪拌器(ARE−250、シンキー製)を用いて混練した。スラリー中の活物質と導電助剤とバインダー(SBR−CMC)の組成比は固形分として、天然黒鉛:導電助剤:SBR:CMC=94:2:3:1である。
【0091】
<電池用負極の作製>
得られたスラリーをバーコーター(T101、松尾産業製)を用いて集電体の銅箔(CST8G、福田金属箔粉工業製)上に塗工量が8.1mg/cmとなるように塗工し、80℃で30分間熱風乾燥機(ヤマト科学製)にて一次乾燥後、ロールプレス(宝泉製)を用いて圧延処理を行なった。その後、電池用電極(φ14mm)として打ち抜き後、120℃で3時間減圧条件の二次乾燥によってコイン電池用電極を作製した。
【0092】
<正極用スラリーの作製>
電極用スラリー作製は活物質としてニッケル・コバルト・マンガン(NCM)92重量部に対して、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分として5重量部、および導電助剤(導電付与剤)としてデンカブラック(粉状、電気化学工業製)を固形分として3重量部を専用容器に投入し、遊星攪拌器(ARE−250、シンキー製)を用いて混練した。スラリー粘度調整のため、混練時は水を添加して再度混練することによって電極塗工用スラリーを作製した。スラリー中の活物質とバインダーの組成比は固形分として、黒鉛粉末:導電助剤:バインダー組成物=92:3:5である。
【0093】
<電池用正極の作製>
得られたスラリーをフィルムアプリケーター(テスター産業製)を用いて集電体のアルミ箔(IN30−H、冨士加工紙製)上に塗工し、80℃で30分間熱風乾燥機(ヤマト科学製)にて一次乾燥後、ロールプレス(宝泉製)を用いて圧延処理を行なった。その後、電池用電極(φ14mm)として打ち抜き後、120℃で3時間減圧条件の二次乾燥によってコイン電池用電極を作製した。
【0094】
<電池の作製>
上記で得られた被覆セパレータ及び電池用負極をアルゴンガス雰囲気下のグローブボックス(美和製作所製)に移送した。上記で作製した正極と負極、および電解液は六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート溶液(1mol/L LiPF、EC/DMC/EMC=1/1/1)を用いて、コイン電池(2032タイプ)を作製した。
【0095】
<評価方法:充放電特性試験>
作製したコイン電池は、市販充放電試験機(TOSCAT3100、東洋システム製)を用いて充放電試験を実施した。コイン電池を25℃の恒温槽に置き、電池電圧が4.2Vになるまで0.2C(約0.5mA/cm)の定電流充電を行った。このときの容量を充電容量(mAh)とした。次いで、電池電圧が3Vになるまで0.2C(約0.5mA/cm)の定電流放電を行った。このときの容量を放電容量(mAh)とした。初期放電容量と充電容量差を不可逆容量、放電容量/充電容量の百分率を充放電効率とした。コイン電池の直流抵抗は、1回の充電を行った後(満充電状態)の抵抗値を採用した。上記結果を下記表1に示す。
【0096】
上記作製方法で作製したコイン電池を20個作製した内、短絡したコイン電池は2個であった。結果を下記表1に示す。
【0097】
(実施例2)
セパレータ用樹脂組成物として水溶性のリチウム変性イソブテン−無水マレイン酸共重合樹脂(平均分子量325,000、中和度0.5、開環率96%)の10重量%水溶液を調整した。中和度の調整は、水酸化リチウムをマレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位に対し1.0当量(0.160mol)添加することによって行った。被覆セパレータを上記実施例1と同様の方法によって作製した。付着量は1.8g/mであった。さらに、上記実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。上記結果を下記表1に示す。
【0098】
上記実施例1と同様の方法によってα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の質量減少率の測定を行った結果、150℃での質量減少率は0.5%であった。結果を下記表1に示す。
【0099】
(実施例3)
セパレータ用樹脂組成物として水溶性のリチウム変性イソブテン−無水マレイン酸共重合樹脂(平均分子量325,000、中和度0.3、開環率82%)の10重量%水溶液を調整した。中和度の調整は、水酸化リチウムをマレイン酸類共重合体中のマレイン酸単位に対し0.60当量(0.096mol)添加することによって行った。被覆セパレータを上記実施例1と同様の方法によって作製した。付着量は1.9g/mであった。さらに、上記実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。上記結果を下記表1に示す。
【0100】
上記実施例1と同様の方法によってα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の質量減少率の測定を行った結果、150℃での質量減少率は1.2%であった。結果を下記表1に示す。
【0101】
(比較例1)
セパレータ用樹脂組成物として48.3重量%水溶液のSBRを固形分として4重量部、および1.0重量%水溶液のCMC−Naを固形分として1重量部を用い、被覆セパレータを上記実施例1と同様の方法によって作製した。付着量は1.9g/mであった。さらに、上記実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。上記結果を下記表1に示す。
【0102】
上記実施例1と同様の方法によってカルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC−Na)の質量減少率の測定を行った結果、150℃での質量減少率は7.1%であった。結果を下記表1に示す。
【0103】
(比較例2)
セパレータ基材表面被覆液を用いることなく、上記実施例1と同様の方法によって塗工負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。上記結果を下記表1に示す。
【0104】
(比較例3)
セパレータ用樹脂組成物としてポリアクリル酸(平均分子量187,000、中和度0.5、アルドリッチ製)の51.2w%水溶液の50%Na塩を固形分として、被覆セパレータを上記実施例1と同様の方法によって作製した。付着量は2.1g/mであった。さらに、上記実施例1と同様の方法によって電池用負極を作製し、コイン電池を得て、充放電特性試験を行った。上記結果を下記表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
(考察)
本発明のセパレータ用樹脂組成物を用いたセパレータ基材表面被覆液で被覆したセパレータを用いた実施例1〜3は、α−オレフィン−マレイン酸類共重合体がセパレータの欠陥を補完し短絡が少なく、歩留まりが向上した結果が得られた。一方、被覆をしなかったセパレータ(比較例2)については、短絡し易かった。
【0107】
当該セパレータ基材表面被覆液で被覆したセパレータは電気抵抗が被覆しなかったセパレータを用いた場合と同等であったが、汎用的に用いられているSBR/CMC−Naを用いた場合(比較例1)、抵抗が上昇し、電池性能も低下することが示された。当該セパレータ基材表面被覆液を構成するα−オレフィン−マレイン酸類共重合体の中和塩が電池内のイオン伝達を向上していると考えられる。
さらに、同じく凡用品であるポリアクリル酸を用いた比較例3では、カルボン酸部位を本発明同様に有するにも関わらず、直流抵抗が高くなっていることが解る。
【0108】
この出願は、2015年8月6日に出願された日本国特許出願特願2015−156188を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0109】
本発明を表現するために、前述において図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、非水電解質電池の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。