【文献】
Cabot Corporation,PBX51 CARBON ADDITIVE,[online],令和2年7月31日検索,インターネット,<URL:http://www.cabotcorp.de/~/media/files/product-datasheets/datasheet-pbx-51pdf.pdf>
【文献】
久 英之,導電性カーボンブラックの現状,日本印刷学会誌,日本印刷学会,2007年,第44巻,第3号,pp.133-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンブラックの含有量が、負極材の総量を基準として0.03質量%〜2.0質量%であり、アイドリングストップ車用に適用する請求項1又は2に記載の鉛蓄電池。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る鉛蓄電池は、(A)負極活物質と、(B) 比表面積X(m
2/g)及びDBP吸油量Y(ml/100g)が所定の関係式を満たすカーボンブラックと、を含む負極材を備える鉛蓄電池である。
【0019】
<(A)成分:負極活物質>
(A)成分としては、海綿状鉛(spongylead)等が挙げられる。
前記海綿状鉛は、電解液中の硫酸と反応して、次第に硫酸鉛(PbSO
4)に変わる。
前記(A)成分は、例えば、後述する原料鉛粉から作製することができる。
【0020】
<(B)成分:カーボンブラック>
本発明で用いる成分(B)は、比表面積X(m
2/g)及びDBP吸油量Y(ml/100g)が下記の式(1)及び(2)の関係式を満たすカーボンブラックである。
30≦X≦1600 ・・・(1)
0.072X+30≦Y≦0.072X+130・・・(2)
【0021】
本発明で使用するカーボンブラックにおいて、Xは120以上が好ましく、200以上がより好ましい。また、Yは0.072X+50以上0.072X+120以下が好ましく、0.072X+70以上0.072X+110以下がより好ましい。
【0022】
DBP吸油量はパラフィンオイルなどのオイルを吸収する能力としてオイル吸収量(OAN)で示されることもある。
【0023】
上記カーボンブラックを用いることにより優れたサイクル特性及び充電受け入れ性を得られる理由は定かではないが、本発明者は以下のように考えている。
【0024】
カーボンブラックは、吸油量が大きい程導電性に優れ、サイクル特性及び充電受け入れ性の向上に効果があると考えられる。しかし、吸油量が大きい程ペーストを調整する際に多くの水を含むため、活物質の密度が低下し、サイクル特性及び充電受け入れ性に悪影響を及ぼす。すなわち活物質の密度の点からは吸油量は小さい程サイクル特性及び充電受け入れ性を向上させるためには好ましい。従って吸油量には最適な範囲が存在すると考えられる。一方、比表面積が大きい程導電性が向上し、充電受け入れ性及びサイクル特性が向上するが、逆に、比表面積が大きすぎるとカーボンブラックの分散性が顕著に低下する。本発明で用いるカーボンブラックは、上記の導電性と活物質密度に与える影響のバランスが良いため、充電受け入れ性及びサイクル特性が共に向上すると推察される。
【0025】
カーボンブラックの比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。
また、DBP吸油量はASTM D2414に従って測定することができる。
【0026】
<(C)成分:ビスフェノール系化合物>
本発明に係る鉛蓄電池は、前記負極活物質の固定化のために(C)成分としてビスフェノール系樹脂を用いることが好ましい。(C)成分は、樹脂骨格に2個のヒドロキシフェニル基を有する化合物であるり、負極活物質との混和性及び親和性を向上させる効果が有するため、優れたサイクル特性が得られ、放電特性及び充電受け入れ性等の電池性能を両立して向上させることができる。(C)成分は、例えば、下記に示す(c1)、(c2)及び(c3)の各成分を反応させて得ることができる。
【0027】
[(c1)成分:ビスフェノール系化合物]
(c1)成分としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下、「ビスフェノールS」という)等が挙げられる。(c1)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(c1)成分としては、充電受け入れ性に更に優れる観点からはビスフェノールAが好ましく、放電特性に更に優れる観点からはビスフェノールSが好ましい。
【0028】
(c1)成分としては、サイクル特性、放電特性及び充電受け入れ性がバランス良く向上しやすい観点から、ビスフェノールAとビスフェノールSとを併用することが好ましい。この場合、(C)ビスフェノール系樹脂を得るためのビスフェノールAの配合量は、サイクル特性、放電特性及び充電受け入れ性がバランス良く向上しやすい観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、70モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましい。ビスフェノールAの配合量は、サイクル特性、放電特性及び充電受け入れ性がバランス良く向上しやすい観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、99モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、97モル%以下が更に好ましい。
【0029】
[(c2)成分:アミノベンゼンスルホン酸及びアミノベンゼンスルホン酸誘導体]
アミノベンゼンスルホン酸としては、2−アミノベンゼンスルホン酸(別名オルタニル酸)、3−アミノベンゼンスルホン酸(別名メタニル酸)、4−アミノベンゼンスルホン酸(別名スルファニル酸)等が挙げられる。
【0030】
アミノベンゼンスルホン酸誘導体としては、アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基(−SO
3H)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム及びカリウム)で置換された化合物などが挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基で置換された化合物としては、4−(メチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、3−メチル−4−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−メチルベンゼンスルホン酸、4−(エチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、3−(エチルアミノ)−4−メチルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基の水素原子がアルカリ金属で置換された化合物としては、2−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、3−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、4−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、2−アミノベンゼンスルホン酸カリウム、3−アミノベンゼンスルホン酸カリウム、4−アミノベンゼンスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0031】
(c2)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(c2)成分としては、サイクル特性及び充電受け入れ性が更に向上する観点から、4−アミノベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0032】
(C)ビスフェノール系樹脂を得るための(c2)成分の配合量は、放電特性が更に向上する観点から、(c1)成分1モルに対して、0.5モル以上が好ましく、0.6モル以上がより好ましく、0.8モル以上が更に好ましく、0.9モル以上が特に好ましい。(c2)成分の配合量は、サイクル特性及び放電特性が更に向上しやすい観点から、(c1)成分1モルに対して、1.3モル以下が好ましく、1.2モル以下がより好ましく、1.1モル以下が更に好ましい。
【0033】
[(c3)成分:ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体]
ホルムアルデヒドとしては、ホルマリン(例えばホルムアルデヒド37質量%の水溶液)中のホルムアルデヒドを用いてもよい。
【0034】
ホルムアルデヒド誘導体としては、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン等が挙げられる。(c3)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ホルムアルデヒドとホルムアルデヒド誘導体とを併用してもよい。(c3)成分としては、優れたサイクル特性が得られやすくなる観点から、ホルムアルデヒド誘導体が好ましく、パラホルムアルデヒドがより好ましい。パラホルムアルデヒドは、例えば下記のような構造を有する。
HO(CH
2O)
n1H …(I)
[式(I)中、n1は2〜100の整数を示す。]
【0035】
(C)ビスフェノール系樹脂を得るための(c3)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(c2)成分の反応性が向上する観点から、(c1)成分1モルに対して、2モル以上が好ましく、2.2モル以上がより好ましく、2.4モル以上が更に好ましい。(c3)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、得られる(C)ビスフェノール系樹脂の溶媒への溶解性の向上の観点から、(c1)成分1モルに対して、3.5モル以下が好ましく、3.2モル以下がより好ましく、3モル以下が更に好ましい。
(C)ビスフェノール系樹脂は、例えば、下記一般式(II)で表される構造単位、及び、下記一般式(III)で表される構造単位の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0036】
【化1】
[式(II)中、X
2は、2価の基を示し、R
21、R
23及びR
24は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
22は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、n21は、1〜150の整数を示し、n22は、1〜3の整数を示し、n23は、0又は1を示す。また、ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1〜5のアルキル基で置換されていてもよい。]
【0037】
【化2】
[式(III)中、X
3は、2価の基を示し、R
31、R
33及びR
34は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
32は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、n31は、1〜150の整数を示し、n32は、1〜3の整数を示し、n33は、0又は1を示す。また、ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1〜5のアルキル基で置換されていてもよい。]
【0038】
式(II)で表される構造単位、及び、式(III)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(C)ビスフェノール系樹脂としては、式(II)で表される構造単位、及び、式(III)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0039】
前記X
2及びX
3としては、例えば、アルキリデン基(メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、sec−ブチリデン基等)、シクロアルキリデン基(シクロヘキシリデン基等)、フェニルアルキリデン基(ジフェニルメチリデン基、フェニルエチリデン基等)などの有機基;スルホニル基が挙げられ、充電受け入れ性に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(−C(CH
3)
2−)基が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(−SO
2−)が好ましい。前記X
2及びX
3は、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。前記X
2及びX
3がシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
【0040】
R
21、R
23、R
24、R
31、R
33及びR
34のアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。n21及びn31は、サイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、1〜150が好ましく、10〜150がより好ましい。n22及びn32は、サイクル特性、放電特性及び充電受け入れ性がバランス良く向上しやすい観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n23及びn33は、製造条件により変化するが、サイクル特性及び(B)成分の保存安定性に更に優れる観点から、0が好ましい。
【0041】
(C)成分の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極から(C)成分が電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、20000以上が好ましく、40000以上がより好ましく、60000以上が更に好ましく、80000以上が特に好ましい。(C)成分の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下して分散性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、100000以下が好ましく、800000以下がより好ましく、70000以下が更に好ましい。
【0042】
(C)成分の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW
(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10
6、5.80×10
5、2.55×10
5、1.46×10
5、1.01×10
5、4.49×10
4、2.70×10
4、2.10×10
4;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10
2;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10
2;キシダ化学株式会社製)
【0043】
(C)ビスフェノール系樹脂の製造方法は、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分を反応させてビスフェノール系樹脂を得る樹脂製造工程を備えている。(C)ビスフェノール系樹脂を含む樹脂組成物は、樹脂製造工程において得られる組成物であってもよく、樹脂製造工程後に(C)ビスフェノール系樹脂と他の成分とを混合して得られる組成物であってもよい。
【0044】
(C)ビスフェノール系樹脂を含む樹脂組成物は、溶媒を更に含んでいてもよい。溶媒としては、水(例えばイオン交換水)、有機溶媒等が挙げられる。前記溶媒は、(C)ビスフェノール系樹脂を得るために用いた反応溶媒であってもよい。
【0045】
(C)ビスフェノール系樹脂を含む樹脂組成物における不揮発分含量(Nonvolatile Matter content)は、(C)ビスフェノール系樹脂の溶解性及び電池特性に更に優れる観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。同様の観点から、(C)ビスフェノール系樹脂を含む樹脂組成物における不揮発分含量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0046】
不揮発分含量の測定は、例えば、下記の手順により測定することができる。まず、所定量(例えば2g)の樹脂組成物を容器(例えばステンレスシャーレ等の金属シャーレ)に入れた後、熱風乾燥機を用いて樹脂組成物を150℃、60分間乾燥させる。次に、容器の温度が室温(例えば25℃)に戻った後、残分質量を測定する。そして、下記の式から不揮発分含量を算出する。
不揮発分含量(質量%)=[(乾燥後の残分質量)/(乾燥前の樹脂組成物の質量)]×100
【0047】
(C)ビスフェノール系樹脂は、例えば、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分を反応溶媒中で反応させることにより得ることができる。反応溶媒は、水(例えばイオン交換水)であることが好ましい。反応を促進させるために、有機溶媒、触媒、添加剤等を用いてもよい。
【0048】
樹脂製造工程は、鉛蓄電池のサイクル特性が更に向上する観点から、(c2)成分の配合量が(c1)成分1モルに対して0.5〜1.3モルであり、且つ、(c3)成分の配合量が(c1)成分1モルに対してホルムアルデヒド換算で2〜3.5モルである態様が好ましい。(c2)成分及び(c3)成分の好ましい配合量は、(c2)成分及び(c3)成分の配合量のそれぞれについて上述した範囲である。
【0049】
(C)ビスフェノール系樹脂は、充分量の(C)ビスフェノール系樹脂が得られやすい観点から、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分を塩基性条件(アルカリ性条件)で反応させることにより得ることが好ましい。塩基性条件に調整するためには、塩基性化合物を用いてもよい。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。塩基性化合物の中でも、反応性に優れる観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。
【0050】
反応時の反応溶液が中性(pH=7)である場合、(C)ビスフェノール系樹脂の生成反応が進行しにくい場合があり、反応溶液が酸性(pH<7)である場合、副反応が進行する場合がある。そのため、反応時の反応溶液のpHは、(C)ビスフェノール系樹脂の生成反応を進行させつつ副反応が進行することを抑制する観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましく、7.2以上が更に好ましい。反応溶液のpHは、(C)ビスフェノール系樹脂の(c2)成分に由来する基の加水分解が進行することを抑制する観点から、12以下が好ましく、10以下がより好ましく、9以下が更に好ましい。反応溶液のpHは、例えば株式会社堀場製作所製のツインpHメーター AS−212で測定することができる。pHは25℃におけるpHと定義する。
【0051】
前記のようなpHに調整しやすいことから、強塩基性化合物の配合量は、(c2)成分1モルに対して、1.01モル以上が好ましく、1.02モル以上がより好ましく、1.03モル以上が更に好ましい。同様の観点から、強塩基性化合物の配合量は、(c2)成分1モルに対して、1.1モル以下が好ましく、1.08モル以下がより好ましく、1.07モル以下が更に好ましい。強塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0052】
本実施形態では、(C)ビスフェノール系樹脂の製造方法により得られる反応物(反応溶液)をそのまま、後述する電極の製造に用いてもよいし、反応物を乾燥して得られる(C)ビスフェノール系樹脂を溶媒(水等)に溶解させて、後述する電極の製造に用いてもよい。
【0053】
(C)ビスフェノール系樹脂を樹脂組成物(例えば25℃において液状の樹脂溶液)として用いる場合、樹脂組成物のpHは、(C)ビスフェノール系樹脂の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましい。樹脂組成物のpHは、未反応の(c2)成分の含有量を低減できる観点から、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8.5以下が更に好ましい。特に、樹脂製造工程において得られる組成物を樹脂組成物として用いる場合、樹脂組成物のpHは、前記範囲であることが好ましい。樹脂組成物のpHは、例えば株式会社堀場製作所製のツインpHメーター AS−212で測定することができる。pHは25℃におけるpHと定義する。
【0054】
(C)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分が反応してビスフェノール系樹脂が得られればよく、例えば、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分を同時に反応させてもよく、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分のうちの2成分を反応させた後に残りの1成分を反応させてもよい。
【0055】
(C)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、次のように二段階で行うことが好ましい。第一段階の反応では、例えば、(c2)成分、溶媒(水等)及び塩基性化合物を仕込んだ後に攪拌し、(c2)成分におけるスルホ基の水素原子をアルカリ金属等で置換して(c2)成分のアルカリ金属塩等を得る。これにより、後述の縮合反応において副反応を抑制しやすくなる。反応系の温度は、(c2)成分の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば30分である。
【0056】
第二段階の反応では、例えば、第一段階で得られた反応物に(c1)成分及び(c3)成分を加えて縮合反応させることにより(C)ビスフェノール系樹脂を得る。反応系の温度は、(c1)成分、(c2)成分及び(c3)成分の反応性に優れる観点から、75℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、87℃以上が更に好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、93℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば5〜20時間である。
【0057】
<鉛蓄電池及びその製造方法>
本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極、負極、電解液(硫酸)及びセパレータを備えている。本実施形態に係る鉛蓄電池としては、液式鉛蓄電池、制御弁式鉛蓄電池等が挙げられ、液式鉛蓄電池が好ましい。前記鉛蓄電池の製造方法は、例えば、電極(正極及び負極)を得る電極製造工程と、前記電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程とを備えている。
【0058】
電極が未化成である場合、電極は、例えば、電極活物質の原料等を含む電極層(活物質層)と、当該電極層を保持する集電体とを有している。化成後の電極は、例えば、電極活物質等を含む電極層(活物質層)と、当該電極層を保持する集電体とを有している。本実施形態に係る鉛蓄電池は、化成後の電極を備えており、例えば、前記(A)負極活物質を含む負極を備えている。
【0059】
電極製造工程では、例えば、活物質ペーストを集電体(鋳造格子体、エキスパンド格子体等)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極(例えば極板)を得る。活物質ペーストは、(B)比表面積X(m
2/g)及びDBP吸油量Y(ml/100g)が上記の式(1)及び(2)の関係式を満たすカーボンブラックを含む負極材を備える鉛蓄電池を含有しており、分散剤として前記(C)ビスフェノール系樹脂を含有していることが好ましく、他の添加剤等を更に含有していてもよい。電極が負極である場合、未化成の負極活物質は、塩基性硫酸鉛及び金属鉛、並びに、低級酸化物から構成される。
【0060】
活物質ペーストには、添加剤が適宜配合されることが好ましい。添加剤としては、硫酸バリウム、炭素材料、補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)などが挙げられる。前記炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
【0061】
電極が負極である場合、負極活物質ペーストは、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、鉛粉に添加剤を添加して乾式混合することにより混合物を得る。次に、この混合物に、溶媒(水等)と、前記(C)ビスフェノール系樹脂を含む樹脂組成物とを加えて混練する。そして、希硫酸を加えて混練することにより負極活物質ペーストが得られる。この負極活物質ペーストを集電体(鋳造格子体、エキスパンド格子体等)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の負極板を得る。前記鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉が挙げられる。
【0062】
負極活物質ペーストにおいて、硫酸バリウムを用いる場合、硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.3〜2.0質量%が好ましい。炭素材料の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.05〜1.9質量%が好ましい。(C)ビスフェノール系樹脂の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、樹脂固形分換算で、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜0.3質量%が更に好ましい。
【0063】
集電体の材質としては、例えば、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金及び鉛−アンチモン合金が挙げられる。これらにセレン、銀、ビスマス等を微量添加することができる。
【0064】
熟成条件としては、温度45〜65℃、湿度70〜98RH%の雰囲気で15〜30時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜60℃で15〜30時間が好ましい。
【0065】
電極が正極である場合、正極活物質ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、正極活物質の原料(鉛粉等)に補強用短繊維を加えた後、水及び希硫酸を加える。これを混練して正極活物質ペーストを作製する。正極活物質ペーストを作製するに際しては、鉛丹(Pb
3O
4)を加えてもよい。この正極活物質ペーストを集電体(鋳造格子体、エキスパンド格子体等)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の正極板を得る。集電体の種類、熟成条件、乾燥条件は、負極の場合とほぼ同様である。
【0066】
正極活物質ペーストにおいて、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.05〜0.3質量%が好ましい。前記補強用短繊維としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0067】
正極活物質は、後述するように、正極活物質の原料を含む正極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成活物質を得た後に化成することで得ることができる。化成後の正極活物質は、α−PbO
2を含むことが好ましい。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば、鉛粉が挙げられる。また、正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を加えてもよい。
【0068】
正極活物質の平均粒径は、充電受入性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。正極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。正極活物質の平均粒径としては、例えば、化成後の正極の中央部における縦10μm×横10μmの範囲の透過型電子顕微鏡写真(1000倍)を取得した後、画像内における全ての粒子の長辺の長さの値を算術平均化した数値を用いることができる。
【0069】
正極活物質の比表面積は、充電受入性及びサイクル特性の観点から、4m
2/g〜11m
2/gが好ましく、5m
2/g〜10m
2/gがより好ましく、6m
2/g〜8m
2/gが更に好ましい。正極活物質の比表面積は、例えば、正極活物質ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成活物質の段階で活物質を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。
【0070】
負極活物質及び正極活物質の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。
【0071】
鉛蓄電池の組み立て工程では、例えば、前記のように作製した未化成の負極及び正極を、セパレータを介して交互に積層し、同極性の電極の集電部をストラップで連結(溶接等)させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成電池を作製する。次に、未化成電池に希硫酸を入れた後、直流電流を通電して電槽化成する。化成後の硫酸の比重(20℃換算)を適切な電解液比重に調整して鉛蓄電池が得られる。化成に用いる硫酸比重(20℃換算)は1.20〜1.25が好ましい。化成後の調整された硫酸比重(20℃換算)は1.26〜1.30が好ましい。
【0072】
セパレータとしては、微多孔性ポリエチレンシート、ガラス繊維と合成樹脂からなる不織布等が挙げられる。なお、化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程後に実施されることに限られず、電極製造工程の熟成、乾燥後において実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例】
【0073】
<鉛蓄電池の作製>
[実施例1]
(正極板の作製)
正極活物質の原料として、鉛粉と鉛丹(Pb
3O
4)を用いた。正極活物質の原料と、正極活物質の原料の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを加えて混練した。続いて、比重1.280(20℃換算、以下同様)の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、正極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの正極活物質ペーストを充填した後、50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後乾燥して未化成の正極板を作製した。
【0074】
(負極板の作製)
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。ビスフェノール系樹脂0.2質量%、補強用短繊維(アクリル繊維)0.1質量%、硫酸バリウム1.0質量%、及び、カーボンブラック(オイルファーネスブラック、比表面積245m
2/g、DBP吸油量117ml/100g)0.2質量%の混合物を前記鉛粉に添加した後に乾式混合した(前記配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)。次に、水を加えた後に混練した。このときビスフェノール樹脂、カーボンブラックおよび水を事前に固練りして、カーボンブラックの凝集をほぐした処理をしてから使うと、カーボンブラックの分散性が向上して、なお、高い効果が得られる。続いて、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、負極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの負極活物質ペーストを充填した後、50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の負極板を作製した。
【0075】
(電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータに未化成負極板を挿入した。次に、未化成正極板4枚と、前記袋状セパレータに挿入された未化成負極板5枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。前記極板群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS5301規定のB19サイズの単セルに相当)を組み立てた。アルミニウムイオン濃度が0.04mol/Lになるように硫酸アルミニウム無水物を溶解させた比重1.280の希硫酸をこの電池に注液した。その後、60℃の水槽中、通電電流10Aで16時間の条件で化成して鉛蓄電池を得た。
【0076】
[実施例2]
カーボンブラックに比表面積1420m
2/g、DBP吸油量181ml/100gのオイルファーネスブラックを用いた以外は、実施例1と同様に鉛蓄電池を得た。
【0077】
[実施例3]
カーボンブラックに比表面積1540m
2/g、DBP吸油量210ml/100gのオイルファーネスブラックを用いた以外は、実施例1と同様に鉛蓄電池を得た。
【0078】
[比較例1]
カーボンブラックに比表面積240m
2/g、DBP吸油量170ml/100gのオイルファーネスブラックを用いた以外は、実施例1と同様に鉛蓄電池を得た。
【0079】
[比較例2]
カーボンブラックに比表面積1500m
2/g、DBP吸油量330ml/100gのオイルファーネスブラックを用いた以外は、実施例1と同様に鉛蓄電池を得た。
【0080】
<電池特性の評価>
前記の2V単セル電池について、充電受け入れ性、放電特性及びサイクル特性を下記のとおり測定した。比較例1の充電受け入れ性、放電特性及びサイクル特性の測定結果をそれぞれ100とし、実施例の各特性を相対評価した。結果を表1に示す。
【0081】
(充電受け入れ性)
充電受け入れ性として、25℃の雰囲気下で12時間以上温調した化成後の満充電状態の電池を充電状態(State of charge)が90%になった状態、つまり、満充電状態から電池容量の10%を放電し、更に12時間休止後、2.33Vで定電圧充電した際の5秒後の電流値を測定した。5秒後の電流値が大きいほど初期の充電受け入れ性が良い電池であると評価される。
【0082】
(放電特性)
放電特性として、−15℃の雰囲気下で16以上おいた満充電状態の電池を5Cで定電流放電し、電池電圧が1.0Vに達するまでの放電持続時間を測定した。放電持続時間が長いほど放電特性に優れる電池であると評価される。なお、前記Cとは、“放電電流値(A)/電池容量(Ah)”を意味する。
【0083】
(サイクル特性)
サイクル特性は、日本工業規格の軽負荷寿命試験(JIS D 5301)に準じた方法で評価した。サイクル数が大きいほど耐久性が高い電池であると評価される。
【0084】
実施例1〜3及び比較例1〜2について、電池特性の評価結果を下記の表1に示す。また、
図1に、実施例1〜3及び比較例1〜2で使用するカーボンブラックの比表面積XとDBP吸油量Yとの関係を示す。
図1において、点線で囲った枠内の部分が、上記(1)及び(2)式の関係式を満たす範囲である。
【0085】
【表1】
【0086】
図1において(○)で示す実施例1〜3は、カーボンブラックの比表面積と吸油量が点線で囲った枠内の範囲に含まれているのに対して、(●)で示す比較例1〜2はその範囲から外れている。このように、実施例1〜3の鉛蓄電池は、点線で囲った枠内の範囲に含まれる比表面積XとDBP吸油量Yを有するカーボンブラックを備えるため、充電性能、放電特性及びサイクル性能に優れることが確認された。