特許第6870231号(P6870231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6870231-酸化ニッケルの製造方法、流動焙焼炉 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870231
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】酸化ニッケルの製造方法、流動焙焼炉
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20210426BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20210426BHJP
   F27B 15/10 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C01G53/04
   B01J8/24 311
   F27B15/10
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-147715(P2016-147715)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-16516(P2018-16516A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸弘
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031446(JP,A)
【文献】 特開昭53−037581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/04
B01J 8/00
B01J 8/24
B01J 8/32
B01J 8/34
C22B 1/02
C22B 23/02
F27B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼し、酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、
前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けて上方向にガスを供給し、かつ、前記固定層から流動媒体層に向けて供給するガスの流量の0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で、前記炉本体の中心軸と重なる中心軸を有するガス供給部から、前記流動媒体層において下方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する
酸化ニッケルの製造方法。
【請求項2】
炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼し、酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、
前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ、前記固定層から流動媒体層に向けて供給するガスの流量の0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で、前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面と対向する方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する
酸化ニッケルの製造方法。
【請求項3】
炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼し、酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、
前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ、前記固定層から流動媒体層に向けて供給するガスの流量の0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で、前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面に沿う方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する
酸化ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記ガスとして空気を用いる
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸化ニッケルの製造方法。
【請求項5】
硫黄含有量が80ppm以下の酸化ニッケルを製造する
請求項1乃至のいずれか1項に記載の酸化ニッケルの製造方法。
【請求項6】
水酸化ニッケルを流動焙焼して酸化ニッケルを製造するための流動焙焼炉であって、
流動焙焼が行われる炉本体と、
前記炉本体にガスを供給するガス供給部と、を備え、
前記炉本体は、下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを有し、
前記ガス供給部は、前記固定層から前記流動媒体層に上方向にガスを供給する第1ガス供給部と、前記炉本体の中心軸と重なる中心軸を有するガス供給部から前記流動媒体層において下方向にガスを供給する第2ガス供給部とを有し、
前記第2ガス供給部から供給されるガスが、前記第1ガス供給部から供給されるガスの流量に対して、0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で供給可能に構成される、
流動焙焼炉。
【請求項7】
水酸化ニッケルを流動焙焼して酸化ニッケルを製造するための流動焙焼炉であって、
流動焙焼が行われる炉本体と、
前記炉本体にガスを供給するガス供給部と、を備え、
前記炉本体は、下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを有し、
前記ガス供給部は、前記固定層から前記流動媒体層にガスを供給する第1ガス供給部と、前記炉本体の中心軸と重なる中心軸を有するガス供給部から、前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面と対向する方向にガスを供給する第2ガス供給部とを有し、
前記第2ガス供給部から供給されるガスが、前記第1ガス供給部から供給されるガスの流量に対して、0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で供給可能に構成される、
流動焙焼炉。
【請求項8】
水酸化ニッケルを流動焙焼して酸化ニッケルを製造するための流動焙焼炉であって、
流動焙焼が行われる炉本体と、
前記炉本体にガスを供給するガス供給部と、を備え、
前記炉本体は、下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを有し、
前記ガス供給部は、前記固定層から前記流動媒体層にガスを供給する第1ガス供給部と、前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面に沿う方向にガスを供給する第2ガス供給部とを有し、
前記第2ガス供給部から供給されるガスが、前記第1ガス供給部から供給されるガスの流量に対して、0.02倍以上0.67倍以下の範囲の流量で供給可能に構成される、
流動焙焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケルの製造方法に関するものであり、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、流動焙焼炉は、原料単独、もしくは流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象の粒状の原料をあたかも流体のように浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げ、効率的に焙焼する装置である。焙焼対象の原料と流動媒体とを混合させた状態で焙焼することにより原料と流動媒体とが衝突しながら焙焼が進み、また、原料が流動媒体層内に比較的長時間滞留できるため、効率的に焙焼することができる。
【0003】
このような流動焙焼炉を用いて供給した原料に対する焙焼を確実に行うためには、ガスの流速を、原料(以下、「被焙焼物」とも称する)と流動媒体との混合物の空塔速度が、最小流動化速度以上、終末速度未満の範囲となるように制御して供給する必要がある。ここで、空塔速度とは、ガス流量/炉断面積で求められる実速度であり、最小流動化速度とは、粉体(被焙焼物と流動媒体との混合物)が流動する最小の速度であり、終末速度とは、流動媒体層から粉体が上昇して飛び出し始める速度をいう。
【0004】
すなわち、ガスの流速が、原料と流動媒体との混合物の最小流動化速度未満であると、原料が流動化しないために焙焼が均一に進まず、原料の凝集が発生する等の問題が生じる。一方で、ガスの流速がその混合物の終末速度以上であると、流速が速すぎて原料や流動媒体がガスによって流されてしまい、効果的に焙焼を施すことができないという問題や収率が大きく低下するという問題が生じる。つまり、流動焙焼においては、ガス流量を適切な範囲内で制御して、原料を焙焼に足る時間、流動媒体層内で流動化させることが必要となる。
【0005】
しかしながら、ガスの流速の基準となる最小流動化速度や終末速度は、焙焼の前後において変わることも多い。例えば、水酸化ニッケル(Ni(OH))を焙焼して酸化ニッケル(NiO)を製造する場合、水酸化ニッケルの水酸基が分解して揮発することで、最小流動化速度や終末速度が変わることがあるが、焙焼前後で変わる特性は最小流動化速度、終末速度だけではない。
【0006】
また、焙焼前後で変わる特性は最小流動化速度、終末速度だけではない。特に、水酸化ニッケルを原料とする酸化ニッケルの製造においては、その水酸化ニッケルが、水分を含み易い材料であるために粉末状であってもべたつきが生じ、固まりを生じ易く、また、凝集し易いために焙焼が困難になる。加えて、水酸化ニッケルは、硫黄分を含むことも多く、焙焼時に発生した水と硫黄とが反応することで硫酸が生成し、これが炉壁に付着して原料を付着させる原因となる。
【0007】
このように、水酸化ニッケルを焙焼させるにあたっては多くの問題があり、これらの問題を解決するために、例えば特許文献1のような技術が提案されている。
【0008】
特許文献1には、水酸化ニッケルのケーキを入れた乾燥機内を減圧雰囲気とし、外気を取り込みながら静置乾燥した後、乾燥機内を密閉してさらに減圧し、乾燥機内の金属水酸化物のケーキを撹拌解砕する技術が開示されており、これにより得られる水酸化ニッケル粉末を、非還元雰囲気下で焙焼処理して酸化ニッケル粉末を得る技術も開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、水酸化ニッケルのケーキを静置乾燥させており、乾燥効率が悪いために生産性が低く、またハンドリング性も悪いため、量産には適していない。また、静置乾燥によって乾燥状態が不均一になり、凝集も進行し易くなる。また静置乾燥後には、減圧する工程と撹拌解砕する工程を要するため、静置乾燥後においても生産性が低い。
【0010】
さて、酸化ニッケルは、近年電池等の材料として多用されており、例えば、硫酸ニッケル(NiSO)等の塩を含有する水溶液にアルカリを添加し中和して水酸化ニッケルを得て、上述したように、その水酸化ニッケルを焙焼して製造することができる。ところが、得られた酸化ニッケルに含まれる不純物、特に原料に起因する硫黄品位が高いと、それを用いて製造した電池等の特性を大きく低下させる等の悪影響を及ぼすことが知られており、均一かつ確実に焙焼処理を施して製造することが欠かせない。具体的には、不純物としての硫黄の場合、その含有量を概ね100ppm未満にまで低減することが必要とされる。
【0011】
しかしながら、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを工業的に焙焼しようとする場合、炉内で均一な焙焼を進行させることは、高品質の酸化ニッケルを製造する上で欠かせないことであり、焙焼後の酸化ニッケルを連続的に取り出して回収することについても非常に重要であるにも関わらず、そのような焙焼処理は容易ではない。そして、均一な焙焼が行われ難いことにより、硫黄品位が部分的に上昇したり、生産効率が低下したりする等、焙焼処理方法として流動焙焼法を有効に活用することができていない。
【0012】
また、高品質の酸化ニッケルを製造するには高い製造コストがかかっており、製造コストのさらなる低減も求められている。
【0013】
このように、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを効率的に焙焼、乾燥して高品質の酸化ニッケルを製造するには、多くの改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2015−117152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造するにあたり、流動焙焼炉を用いて焙焼することによって、硫黄分等の不純物の含有量が少ない、高品質の酸化ニッケルを効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉において、固定層から流動媒体層に向けてガスを供給しつつ、流動焙焼炉の他の方向からも流動媒体層にガスを供給して焙焼することにより、水酸化ニッケル中の硫黄分をはじめとした不純物を、確実にかつ効率的に除去することができ、これにより高品質の酸化ニッケルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
(1)本発明の第1の発明は、炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼し、酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ前記流動焙焼炉の他の方向から前記流動媒体層にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する酸化ニッケルの製造方法である。
【0018】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記ガスとして空気を用い、前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ前記流動媒体層において下方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する酸化ニッケルの製造方法である。
【0019】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記ガスとして空気を用い、前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面と対向する方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する酸化ニッケルの製造方法である。
【0020】
(4)本発明の第4の発明は、第1の発明において、前記ガスとして空気を用い、前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給し、かつ前記流動媒体層において前記流動焙焼炉の壁面に沿う方向にガスを供給しながら、前記水酸化ニッケルを焙焼する酸化ニッケルの製造方法である。
【0021】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記流動焙焼炉の他の方向から前記流動媒体層に供給する前記ガスの流量が、前記流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に供給する前記ガスの流量の0.01倍以上0.70倍以下である酸化ニッケルの製造方法である。
【0022】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、硫黄含有量が80ppm以下の酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法である。
【0023】
(7)本発明の第7の発明は、水酸化ニッケルを流動焙焼して酸化ニッケルを製造するための流動焙焼炉であって、流動焙焼が行われる炉本体と、前記炉本体にガスを供給するガス供給部と、を備え、前記炉本体は、下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを有し、前記ガス供給部は、前記固定層から前記流動媒体層にガスを供給する第1ガス供給部と、前記炉本体における他の方向から前記流動媒体層にガスを供給する第2ガス供給部とを有する流動焙焼炉である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高品質の酸化ニッケルを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の一例を模式的に示す図であり、流動媒体層において下方向にガスを供給する一例を模式的に示す図である。
図2】流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の他の一例を模式的に示す図であり、流動媒体層において流動焙焼炉の壁面と対向する方向にガスを供給する一例を模式的に示す図である。
図3】流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の他の一例を模式的に示す図であり、流動媒体層において流動焙焼炉の壁面に沿う方向にガスを供給する一例を模式的に示す図である。
図4】流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の他の一例を模式的に示す図であり、流動媒体層において、下方向と流動焙焼炉の壁面と対向する方向とを組み合わせた方向にガスを供給する一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0027】
本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法は、炉本体の下方に形成される固定層と、前記固定層の上に形成される流動媒体層とを備えた流動焙焼炉を用いて、原料である水酸化ニッケルを流動焙焼することによって酸化ニッケルを得る方法である。流動焙焼炉を用いた流動焙焼法では、流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象である水酸化ニッケルを浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げて焙焼する方法である。このような流動焙焼により処理することで、連続的にかつ効果的に、被焙焼物である水酸化ニッケルを焙焼することができ、高い生産性で酸化ニッケルを製造することができる。
【0028】
そして、本実施の形態に係る製造方法では、流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給しつつ、流動焙焼炉の他の方向からも流動媒体層にガスを供給して焙焼する。このような処理を行うことで、流動媒体層内でチャネリング等が発生し難くなり、また流動媒体層内で乱流がより一層起きやすくなる。これにより、流動媒体と原料の衝突頻度が高まるとともに、流動媒体と原料の混合がより一層促進されるため、水酸化ニッケルに含まれる硫黄分をはじめとした不純物の、確実かつ効率的な除去を行うことができる。
【0029】
なお、本実施の形態においては、流動焙焼により水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する方法について示すが、被焙焼物(原料)として水酸化ニッケルに対する焙焼だけでなく、その他の原料に対する焙焼処理にも応用することができ、不純物品位の低い高品質な焙焼物を効率的に製造することが可能である。
【0030】
≪原料(水酸化ニッケル)について≫
酸化ニッケルの製造方法において、流動焙焼による焙焼の対象となる原料は水酸化ニッケルである。原料の水酸化ニッケルとしては、Ni(OH)を主成分としているものであればよく、特に限定されない。
【0031】
例えば、電池材料の原料として使用するための酸化ニッケル(NiO)は、電池特性を低下させ得る硫黄が極力含まれないものであることが好ましい。したがって、その酸化ニッケルを製造するための原料である水酸化ニッケルにおいても、硫黄やその他の不純物成分の含有量が少ないものであることが好ましいが、比較的揮発し易く、乾燥処理や流動焙焼処理によって除去できる成分であれば、含まれていてもよい。
【0032】
ここで、本実施の形態に係る製造方法では、焙焼するNi(OH)が硫黄、水分及びその他の比較的揮発し易い成分を不純物として含んでいても、乾燥処理を経て流動焙焼することによって、これらの成分を除去できるため、高純度のNiOを製造することが可能である。
【0033】
また、水酸化ニッケルの粒径についても、特に限定されない。その中でも、平均粒径が数μm〜数100μmである水酸化ニッケルでは、粒子の内部まで比較的短時間で均一に焙焼することができるため好ましい。なお、平均粒径が1mmを超えるような粗粒になると、内部まで均一に焙焼するのに時間がかかる上、部分的に焙焼の進み方に偏りが生じて不均一になる可能性があり、このような場合には焙焼時間が長くなることがある。
【0034】
≪流動焙焼処理について≫
(1)流動焙焼炉の構成
図1は、流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の一例を模式的に示す図である。本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法においては、例えば図1に示すような流動焙焼装置1aを用いて水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する。なお、流動焙焼装置1aとしては、炉の下方からガスを流して流動焙焼を行うことができ、焙焼して得られた材料(酸化ニッケル)を上方に向かって気流搬送して回収することができる設備を備えるものであれば、図1に例示するものに限定されない。
【0035】
流動焙焼装置1aは、図1に示すように、少なくとも、流動焙焼が行われる炉本体11と、炉本体にガスを供給するガス供給部(第1ガス供給部12、第2ガス供給部23a)と、炉本体11の上方に位置し焙焼して得られた焙焼物(酸化ニッケル)を回収する回収サイクロン13とを備える。なお、図1中の「X」は、被焙焼物(原料)の水酸化ニッケルを表す。
【0036】
[炉本体]
炉本体11は、例えば円筒形状を有し、流動焙焼を行う焙焼室を構成するものである。この炉本体11の内部において、原料である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物がガスにより浮遊流動化して流動媒体層を形成する。より具体的に、炉本体11は、炉本体上部11Aと、炉本体下部11Bとに分けられる。
【0037】
炉本体上部11Aは、原料(被焙焼物)である水酸化ニッケルを投入する原料投入管15が設けられている。炉本体上部11Aにおいては、原料投入管15から投入された水酸化ニッケルを、炉本体11の下方から第1ガス供給部12を介して供給されるガスと、炉本体11の他の方向から第2ガス供給部23aを介して供給されるガスにより浮遊させ、流動媒体との混合状態で焙焼処理が行われる。
【0038】
炉本体下部11Bは、炉本体11の下方から供給されるガスを整流するための固定層(整流層)21と、固定層21上に形成された流動媒体層22とにより構成されている。
【0039】
固定層21は、ビーズ形状等の形状を有するアルミナ、シリカ、ムライト等の無機化合物により構成され、その下方から供給されるガスを整流する。
【0040】
流動媒体層22は、原料の水酸化ニッケルとともに混合状態を形成して流動焙焼するための媒体(流動媒体)により構成されている。その流動媒体としては、被焙焼物である水酸化ニッケルと反応しないものであって、その被焙焼物と同等あるいはそれよりも速い最小流動化速度を有する媒体であることが好ましい。例えば、固定層21を構成する化合物と同様に、アルミナ、シリカ、ムライト等の無機化合物を用いることができる。
【0041】
流動媒体として、被焙焼物と同等の最小流動化速度のものを用いることにより、混合状態が良好なものとなり、焙焼効率が向上する。また、流動媒体としては、その終末速度が、焙焼物である酸化ニッケルの終末速度よりも速いものであることが好ましい。流動媒体の終末速度が焙焼物より速いものであれば、回収時に、焙焼物である酸化ニッケルの終末速度以上、流動媒体の終末速度未満の範囲の流速(流量)でガスを供給することによって、焙焼して得られた酸化ニッケルのみを選択的に気流搬送することができ、これにより、酸化ニッケルのみを効率的に回収することができる。
【0042】
なお、流動媒体の粒径としては、特に限定されないが、過度に大きいと流動化することができず、一方、過度に小さいと原料の水酸化ニッケルとの衝突が有効に生じず、またそれ自体が飛散し易くなり取り扱いが困難となる。例えば、球形の流動媒体である場合には、その直径が、0.05mm〜1mm程度のものが好ましく、0.1mm〜0.5mm程度のものがより好ましい。
【0043】
炉本体11においては、その下部の流動媒体層を構成する箇所(炉本体下部11Bの付近)にヒーター16が包囲して設けられ、炉本体11の内部が所定の焙焼温度となるように加熱する。なお、ヒーター16は、所望の焙焼温度にまで加熱制御可能なものであれば、特に限定されない。
【0044】
[ガス供給部]
ガス供給部は、炉本体にガスを供給するための配管であり、炉本体11の固定層21から流動媒体層22に向けてガスを導入する第1ガス供給部12と、第1ガス供給部12と異なる方向からガスを導入する第2ガス供給部23aとを備える。
【0045】
(第1ガス供給部)
このうち、第1ガス供給部12は、固定層21から流動媒体層22に向けて、上方向に供給されるガスを導入するための配管であり、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体とを、炉本体11(炉本体下部11B)の付近(ヒーター16により加熱されている空間)で浮遊させることができる。また、焙焼して得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する際にも、この第1ガス供給部12からガスを導入し、そのガスによって酸化ニッケルを気流搬送して回収する。なお、図1中の矢印は、ガスの流れを示している。
【0046】
第1ガス供給部12は、炉本体下部11Bの下方(底部)に設けられており、導入されたガスは炉本体下部11Bを構成する固定層21にて整流され、流動媒体層22を構成する流動媒体を炉本体下部11B付近のヒーター16で加熱されている内部空間に浮遊流動させる。また、導入されたガスは、その炉本体上部11Aに設けられた原料投入管15より投入された原料を、その空間内に浮遊流動させる。
【0047】
第1ガス供給部12においては、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物の最小流動化速度以上、終末速度未満の流速でガスを炉本体11に供給することが好ましい。このように、供給するガスの流速を被焙焼物と流動媒体との混合物の最小流動化速度以上とすることで、効果的に被焙焼物を流動化させて焙焼を施すことができる。また、ガスの流速を終末速度未満とすることで、そのガスにより被焙焼物が飛ばされることを防ぎながら、均一な焙焼を施すことができる。
【0048】
第1ガス供給部12を用いて供給するガスの流速は、流動焙焼時と焙焼後の回収時とでそれぞれ適切な範囲に制御することが好ましい。例えば、使用する流動媒体の種類や、後述する第2ガス供給部23aを用いて供給するガスの流速によっても異なるが、焙焼物である酸化ニッケルの終末速度よりも速い終末速度を有する流動媒体を用いて焙焼を行った場合には、焙焼後の回収時において、酸化ニッケルの終末速度以上、流動媒体の終末速度未満の範囲にガス流速を制御してガスを供給することで、焙焼物である酸化ニッケルのみを効率的に気流搬送させて回収することができる。
【0049】
また、供給するガスの種類は、特に限定されるものではなく、焙焼する原料の量や反応性、求められるガス流速等に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、空気(圧縮空気)、酸素、そして窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【0050】
また、供給するガスの流量についても、流動焙焼時と焙焼後の回収時とでそれぞれ適切な範囲に制御することが好ましい。特に、焙焼時に供給するガス流量よりも多い流量のガスを供給して、焙焼物である酸化ニッケルを回収することが好ましい。
【0051】
(第2ガス供給部)
また、第2ガス供給部23aは、第1ガス供給部12と異なる方向から流動媒体層22に向けてガスを導入するための配管である。
【0052】
第2ガス供給部23aは、供給口が炉本体下部11Bの流動媒体層22に設けられており、第1ガス供給部12と異なる方向から流動媒体層22に向けてガスを導入することで、第1ガス供給部12から供給されるガスと衝突し、また流動媒体が吹き上がる。これにより、流動媒体層22においてチャネリング等が発生し難くなり、また、流動媒体層22の中で乱流が起きやすくなる。そして、流動媒体と原料の衝突頻度が高くなるとともに混合状態がより一層促進されるため、原料の焙焼が短時間であっても、硫黄分をはじめとした不純物を確実に除去できる。よって、原料の焙焼を効率的に行うことができ、かつ、品質の高い酸化ニッケルを製造することができる。
【0053】
第2ガス供給部23aの具体的構成としては、流動媒体層22において下方向にガスが供給されるように、炉本体11に第2ガス供給部23aの供給口を設けることが好ましい。より具体的には、炉本体11の中心軸と第2ガス供給部23aの中心軸が重なるように第2ガス供給部23bを設け、その延長方向にガスが供給されるように、第2ガス供給部23aの供給口を設けることが好ましい。
【0054】
このように設けられた第2ガス供給部23aからのガスは、流動媒体層22の底面に当って流動媒体が吹き上がり、また、第1ガス供給部12から供給されるガスと衝突する。
【0055】
他方で、図2に示す流動焙焼装置1bにあるように、流動媒体層22において炉本体11の壁面に向けてガスが供給されるように、炉本体11に第2ガス供給部23bの供給口を設けることも好ましい。より具体的には、炉本体11の中心軸と第2ガス供給部23bの中心軸が重なるように第2ガス供給部23bを設け、これらの中心軸の法線方向にガスが供給されるように、第2ガス供給部23bの供給口を設けることが好ましい。ここで、炉本体11が円筒形状である場合は、円筒の断面の径方向にガスが供給されるように、第2ガス供給部23bの供給口を設けることがより好ましい。
【0056】
このように設けられた第2ガス供給部23bからのガスは、炉本体11の壁面に当って流動媒体層22の全体に広がっていき、その間に第1ガス供給部12から供給されるガスと衝突する。
【0057】
また、図3に示す流動焙焼装置1cにあるように、流動媒体層22において炉本体11の壁面に沿う方向に(炉本体11の接線方向に)ガスが供給されるように、炉本体11に第2ガス供給部23cの供給口を設けることも好ましい。より具体的には、炉本体11の壁面に沿うように第2ガス供給部23cを設け、炉本体11の壁面に沿ってガスが供給されるように、第2ガス供給部23cの供給口を設けることが好ましい。ここで、炉本体11が円筒形状である場合は、第2ガス供給部23cの供給口が含まれる円筒の接線の方向にガスが供給されるように、第2ガス供給部23cの供給口を設けることがより好ましい。
【0058】
このように設けられた第2ガス供給部23cからのガスは、炉本体11の壁面から流動媒体層22の全体へと拡散されていき、その間に第1ガス供給部12から供給されるガスとの衝突が起こり易くなる。
【0059】
また、図4に示す流動焙焼装置1dにあるように、流動媒体層22から、下方向、炉本体11の壁面と対向する方向、及び、炉本体11の壁面に沿う方向を組み合わせた方向に向けてガスが供給されるように、炉本体11に第2ガス供給部23dの供給口を設けてもよい。
【0060】
なお、本発明における第2ガス供給部は、図1図4で例示した実施態様に限定されるものではない。
【0061】
第2ガス供給部23aを用いて供給するガスの種類は、原料及び流動媒体層の浮遊状態を安定させるため、第1ガス供給部12から供給されるガスと同じことが好ましい。
【0062】
また、第2ガス供給部23aを用いて供給するガスの流量は、例えば、使用する流動媒体の種類や、第1ガス供給部12から供給するガスの流速によっても異なるが、後述するように、第1ガス供給部12から固定層21に供給するガス流量の0.01倍以上0.70倍以下が好ましい。第2ガス供給部23aを用いて供給するガスの流量が、第1ガス供給部12から固定層21に供給するガス流量の0.01倍未満では、ガス流量が少なすぎて、実質的に第2ガス供給部23aからのガスを供給した効果が現れ難くなる。一方、0.70倍以上のガスを流してしまうと、合計のガス流量が多くなり過ぎて、焙焼されていない被焙焼物が回収サイクロン13に飛散し易くなる。また、第1ガス供給部12からのガス供給量が少なくなって、流動媒体や被焙焼物の一部が固定層21の上で動き難くなり、流動化し難くなる。
【0063】
[回収サイクロン]
回収サイクロン13は、炉本体11の上方に位置し、炉本体11内で流動焙焼して得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する。回収サイクロン13としては、回収時におけるガス供給により、酸化ニッケルを効率的に回収できるものであれば特に限定されない。
【0064】
回収サイクロン13には、例えば、回収した酸化ニッケルを取り出す取出口(排出口)に、篩等の分級装置を設けることができる。これにより、回収サイクロン13に、回収対象である酸化ニッケルと流動媒体が一緒に回収されてしまった場合でも、その粒径の違いを利用して簡易に分級することができ、酸化ニッケルのみを選択的に回収できる。
【0065】
(2)流動焙焼処理
流動焙焼処理においては、例えば、固定層21をアルミナにより構成し、また流動媒体として球状のアルミナを用いて、所定の流速、流量のガスを、第1ガス供給部12を介して炉本体11の下方から固定層21に供給するとともに、第2ガス供給部23aを介して炉本体11の他の方向から流動媒体層22に供給しながら、炉本体11の内部に原料である水酸化ニッケルを投入して、その水酸化ニッケルと流動媒体とを浮遊流動化させることによって行う。
【0066】
このように、水酸化ニッケルを浮遊流動化させて所定の温度で焙焼することで、被焙焼物である水酸化ニッケルを酸化ニッケルにする。そして、本実施の形態においては、第2ガス供給部23aを用いて、第1ガス供給部12と異なる方向からも流動媒体層22に向けてガスを導入していることから、第2ガス供給部23aから供給されるガスが第1ガス供給部12から供給されるガスと衝突し、また、その第2ガス供給部23aから供給されるガスによって流動媒体が吹き上がる。これにより、流動媒体層22においてチャネリング等が発生し難くなり、また、流動媒体層22の中で乱流が起きやすくなる。そして、流動媒体と原料の衝突頻度が高くなるとともに混合状態がより一層促進されるため、原料の焙焼が短時間であっても、硫黄分をはじめとした不純物を確実に除去できる。よって、原料の焙焼を効率的に行うことができ、かつ、品質の高い酸化ニッケルを製造することができる。なお、固定層21を構成する化合物や流動媒体等は、あくまでも一例であり、これに限定されるものではない。
【0067】
ここで、流動焙焼処理は、上述したように、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物の最小流動化速度以上の流速(流量)で、第1ガス供給部12から固定層21にガスを供給することによって行う必要がある。このような流速でガスを供給することで、被焙焼物と流動媒体とが良好に混合された状態となり、均一で、ばらつきのない焙焼が効率的に進行する。
【0068】
また、第2ガス供給部23aから流動媒体層22に供給するガスの流量は、例えば、使用する流動媒体の種類や、第1ガス供給部12から供給するガスの流速によっても異なるが、第1ガス供給部12から固定層21に供給するガス流量の0.01倍以上が好ましく、0.10倍以上がより好ましい。また、第2ガス供給部23aから流動媒体層22に供給するガスの流量は、第1ガス供給部12から固定層21に供給するガス流量の0.70倍以下が好ましく、0.50倍以下がより好ましい。このような範囲で流動媒体層22にガスを供給することによって、流動媒体と原料の衝突頻度をより一層高められ、また、不純物のより確実かつ効率的な除去を行うことが可能となる。
【0069】
流動焙焼時における焙焼温度としては、特に限定されないが、概ね800℃以上1200℃以下とすることが好ましく、850℃以上1000℃以下とすることがより好ましい。焙焼温度が800℃未満であると、焙焼処理に時間がかかってしまい、また温度が低いために均一な焙焼ができなくなる可能性がある。一方で、焙焼温度が1200℃を超えても、単に温度が高いだけで熱エネルギーが高くなってコスト高となり、ヒーター16や炉体の寿命が短くなる可能性もある。また、焙焼温度を、より好ましく850℃以上1000℃以下とすることによって、より一層効率的に、かつ均一に焙焼処理を施すことができるとともに、ランニングコストも有効に抑えることができる。
【0070】
ここで、焙焼温度は、炉本体11の下方(炉本体下部11Bの付近)に包囲して設けられたヒーター16により、炉本体11の内部を加熱して調整することができる。
【0071】
流動焙焼における焙焼時間としては、特に限定されないが、短すぎると焙焼が不十分になって品質や純度が低下してしまう可能性がある。一方で、必要以上に焙焼時間が長すぎると、焙焼温度を維持するための熱エネルギーや供給するガスが無駄となり、効率的な処理を行うことができなくなる。具体的には、焙焼時間としては装置の大きさや構造、焙焼温度等に依存するものの、概ね3分以上50分以下とすることが好ましい。このような範囲の焙焼時間で処理することによって、より効率的に、均一な焙焼を行うことができる。
【0072】
本明細書における「焙焼温度」は、流動焙焼炉において原料を加熱する温度であり、炉本体11の内部雰囲気の温度を意味する。
【0073】
本明細書における「焙焼時間」は、流動焙焼炉において原料が所定の焙焼温度の範囲内におかれている時間であり、昇温によって炉本体11の内部雰囲気の温度が所定の焙焼温度の範囲内に入ってから、冷却によって炉本体11の内部雰囲気の温度が所定の焙焼温度より低い温度になるまでの時間を意味する。
【0074】
このような処理により回収される酸化ニッケルは、十分な焙焼が施されて硫黄の含有量が有効に低減されており、例えば、80ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは20ppm以下程度の極めて硫黄品位の低いものとなる。
【0075】
≪回収処理について≫
流動焙焼によって水酸化ニッケルを焙焼したのち、得られた焙焼物である酸化ニッケルを流動焙焼炉から回収する。上述したように、酸化ニッケルの回収は、例えば、図1に示すように、流動焙焼炉の炉本体11の後段に連続して設けられた回収サイクロン13によって回収することができる。
【0076】
そして、その酸化ニッケルの回収においては、焙焼時と同様に、炉本体11の第1ガス供給部12から所定量のガスを供給し、そのガスによって、炉本体11から回収サイクロン13に向けて焙焼物である酸化ニッケルを気流搬送する。このように、ガスを供給して気流搬送することで、回収物中における酸化ニッケルの含有割合を高めて、効率的に回収することができる。
【0077】
このとき、焙焼時に第1ガス供給部12から供給するガスの流量よりも多い流量でガスを供給して回収することが好ましい。このように、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体とが良好な状態で流動化して焙焼された後、得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する際には、焙焼時よりもガスの流量を上げることによって、酸化ニッケルのみを効率的に気流搬送させて回収することができ、回収物中における酸化ニッケルの含有割合をさらに高めることができるとともに、硫黄の含有量もより低減させることができる。また、焙焼後の酸化ニッケルのみを回収することにより、流動焙焼装置1aを停止して酸化ニッケルを回収する必要がなくなることで、連続的に焙焼を行うことができるため、より生産性の高い焙焼処理を行うことができる。
【0078】
なお「回収率」とは、流動焙焼するために投入した水酸化ニッケルの全てが酸化ニッケルになったときの重量から硫黄の含有量を引いた重量に対する、回収した試料の重量の百分率をいう。また、「回収物中における酸化ニッケルの含有割合(含有率)」とは、回収した試料中における酸化ニッケルと水酸化ニッケルとの合計含有量に対する、酸化ニッケルの含有量の割合をいう。したがって、この酸化ニッケルの含有率が高いことは、焙焼が効率的に進行し、回収物中に焙焼が不十分な原料(未焙焼原料)をほとんど含まず、焙焼が完了して得られた酸化ニッケルを選択的に回収できたことを意味する。
【0079】
以上のように、本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法は、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを得る方法であり、流動焙焼炉の固定層から流動媒体層に向けてガスを供給しつつ、流動焙焼炉の他の方向からも流動媒体層にガスを供給して焙焼することを特徴としている。このように、複数の方向から流動媒体層にガスを供給して焙焼することにより、流動媒体層内でチャネリング等が発生し難くなり、また流動媒体層内で乱流がより一層起きやすくなる。これにより、流動媒体と原料の衝突頻度が高まるとともに、流動媒体と原料の混合がより一層促進されるため、水酸化ニッケルに含まれる硫黄分をはじめとした不純物の、確実かつ効率的な除去を行うことができる。
【0080】
なお、水酸化ニッケルに対する焙焼処理の終了後に速やかにガス流量を大きくして焙焼物である酸化ニッケルを回収し、その後、ガス流量を焙焼時のレベルに戻し、再び水酸化ニッケルを投入して焙焼してもよい。このようなサイクルを繰り返すことによって、流動焙焼炉を停止することなく、連続的に操業することができる。
【0081】
また、仮に被焙焼物である水酸化ニッケルが流動媒体層(炉本体11の内部)に残ったとしても問題はなく、再度の連続的な操作で焙焼されるようになるため、焙焼が不十分な原料が回収されることを効果的に防ぐことができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)として、水酸化ニッケル(Ni(OH))を準備した。水酸化ニッケルは、平均粒径が21.5±1.0μmのものである。また、その水酸化ニッケルについて分析したところ、硫黄分が2.2±0.1%の割合で含まれるものであることが確認された。なお、その他の不可避的に含まれる成分は、含有量が少なく実質的に無視できる程度であった。
【0084】
<焙焼処理>
(実施例1〜18:第2ガス供給部を用いた水酸化ニッケルの焙焼)
流動焙焼炉を用いて原料の水酸化ニッケルを焙焼し、焙焼物である酸化ニッケル(NiO)を回収する処理を行った。具体的に、流動焙焼炉としては、新島ネオライト工業株式会社製の装置を用い、焙焼炉の炉心の内径は直径145mmで、有効な均熱帯は高さ方向で約35cmであり、その範囲で流動焙焼を行った。
【0085】
この流動焙焼炉には、炉本体の底部にある固定層から流動媒体層に向けてガスが供給されるように、第1ガス供給部の供給口を炉本体に設けた。
【0086】
また、流動焙焼炉には、第1ガス供給部から供給されるガスとは異なる方向からガスを供給する第2ガス供給部を設けた。実施例1〜6では、流動媒体層において下方向にガスが供給されるように、第2ガス供給部の供給口を炉本体に設けた(図1を参照)。また、実施例7〜14では、流動媒体層において炉本体の壁面に向けて(炉本体の中心軸の法線方向に)ガスが供給されるように、第2ガス供給部の供給口を炉本体に設けた(図2を参照)。また、実施例13〜18では、流動媒体層において炉本体の壁面に沿って(炉本体の接線方向に)ガスが供給されるように、第2ガス供給部の供給口を炉本体に設けた(図3を参照)。
【0087】
このような流動焙焼炉を用い、先ず固定層としてアルミナを装入して炉の底部にセットした後、流動媒体として直径0.10mmの球状アルミナを投入した。そして、第1ガス供給部及び第2ガス供給部より空気を流しながら、原料の水酸化ニッケルを投入し、ヒーターにより所定の焙焼温度まで昇温した。このとき、第2ガス供給部からは、第1ガス供給部からの空気流量1.0に対して、0.02〜0.67のガス流量の空気を供給した。焙焼温度は、全てのサンプルにおいて900℃とし、温度が設定温度まで達して安定した段階で、原料の水酸化ニッケルを投入し、20分間の焙焼時間で焙焼した。
【0088】
焙焼が終了した後、第2ガス供給部からの空気の供給を止めた後、第1ガス供給部から焙焼時のガス流量の2倍の流量のガスを10分間流し、焙焼物である酸化ニッケルをガスとともに流送して回収サイクロンで回収した。
【0089】
(比較例1:第2ガス供給部を用いない水酸化ニッケルの焙焼)
比較例1では、実施例1と同様に流動焙焼炉を用いた処理を行ったが、第2ガス供給部を設けない流動焙焼炉を用いた。そして、原料の水酸化ニッケルを焙焼炉に投入し、ヒーターにより900℃まで昇温して20分間焙焼させた。このとき、第1ガス供給部からは、実施例1〜18の第1ガス供給部からの空気流量1.0に対して、1.3のガス流量の空気を供給した。
【0090】
<評価>
実施例、比較例のそれぞれの処理において、焙焼により得られた試料の回収率、回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合、及び、回収物中における硫黄の含有量について評価した。表1に、評価結果を示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0091】
[焙焼により得られた試料の回収率]
焙焼により得られた試料の回収率は、下記の(1)式により算出した。
回収率(%)=回収した試料重量÷(投入したNi(OH)が全てNiOになったときの重量−硫黄の含有量)×100 ・・・(1)式
【0092】
[回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合]
回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合は、回収物中に含まれる酸化ニッケル(NiO)と水酸化ニッケル(Ni(OH))の含有量をそれぞれ算出し、それぞれの含有量の合計値に対するNiO含有量の割合(重量%)として算出した。
【0093】
[回収物中における硫黄の含有量]
回収物中における硫黄の含有量は、硫黄分析装置(三菱化学株式会社製,型式:TOX−100)を用いて測定した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、第2ガス供給部を用いて水酸化ニッケルを焙焼した実施例1〜18では、回収率は全て98.6%以上の高い値を示し、その回収物中における酸化ニッケルの含有割合も全て99.8%以上であり、焙焼が十分効果的に行われたことが分かる。そして、ほとんどが酸化ニッケルである回収物中の硫黄の含有量も15ppm以下と極めて少なく、硫黄品位が低い高品質な酸化ニッケルを得ることができた。
【0096】
一方、第2ガス供給部を用いないで水酸化ニッケルを焙焼した比較例1では、回収率は94.1%と低く、また、硫黄の含有量についても30ppmと高いものであり、実施例に比べて品質も悪いものであった。
【符号の説明】
【0097】
1a〜1d 流動焙焼装置
11 炉本体
11A 炉本体上部
11B 炉本体下部
12 第1ガス供給部
13 回収サイクロン
15 原料投入管
16 ヒーター
21 固定層
22 流動媒体層
23a〜23d 第2ガス供給部
図1
図2
図3
図4