(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、環状コアシートに対して熱処理を行うことにより、磁気特性の改善、または、応力状態の調整を行うことが可能である。この場合に、特許文献1に記載のステータコアでは、積層方向に隣接する一方の環状コアシートの凹部に、積層方向に隣接する他方の環状コアシートの凸部が圧入される(嵌め込まれる)際に、環状コアシートに応力が加えられるため、積層前(ステータコア作製前)に熱処理を行ったとしても、凹部に凸部を圧入した後(ステータコアが作製された後)に、磁気特性が低下したり、応力歪が発生したりする。このため、凹部に凸部を圧入した後に、ステータコアに対して、磁気特性の改善、または、応力状態の調整のための熱処理を行う必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のステータコアでは、凹部に凸部を嵌め込んだ後(ステータコアが作製された後)に、ステータコアに対して、磁気特性の改善、または、応力状態の調整のための熱処理を行った場合には、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間に残留した空気が膨張することに起因して、ステータコアが変形してしまうという場合があるという問題点(課題)があることを本願発明者は発見した。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、凹部に凸部を嵌め込んだ後に、熱処理を行った場合であっても、積層コアが変形するのを抑制することが可能な積層コアおよびその積層コアの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の局面による積層コアは、複数の積層コア用板材が板厚方向に隣接する積層コアであって、複数の積層コア用板材は、第1面側に形成され、第1面とは反対の第2面側に窪む凹部と、第2面から突出する凸部と、を備え、隣接する一方の積層コア用板材の凹部に、隣接する他方の積層コア用板材の凸部が嵌め込まれた状態で、複数の積層コア用板材が板厚方向に積層されており、
凸部の外周面には、凹部に凸部が嵌め込まれて形成される凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を外部に逃がすための
溝部が設けられ
、凸部の周方向において、溝部の長さは、溝部が設けられていない部分の長さよりも小さい。
【0010】
本発明の第1の局面による積層コアでは、上記のように、積層コア用板材
の凸部に、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を外部に逃がすための
溝部を設ける。これにより、
溝部により、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を、積層コアの外部に逃がすことができるので、凹部に凸部を嵌め込んだ後に、熱処理を行った場合であっても、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内に残留した空気が膨張することに起因して積層コアが変形するのを抑制することができる。
【0011】
上記第1の局面による積層コアにおいて
、空気逃がし部は、凸部の
外周面に形成された
溝部を含む。
これにより、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を、
溝部を介して、積層コアの外部に逃がすことができる。
【0012】
この場合、好ましくは、
溝部は、凸部の突出方向に沿って延びるように形成されている。このように構成すれば、
溝部を、容易に形成することができる。
【0013】
本発明の第2の局面による積層コアの製造方法は、複数の積層コア用板材が板厚方向に隣接する積層コアの製造方法であって、複数の積層コア用板材の各々において、第1面側から第1面とは反対の第2面側に窪む凹部と、第2面から突出する凸部を形成し、複数の積層コア用板材の各々において、
凸部の外周面に、凹部に凸部が嵌め込まれて形成される凹部の内底面と凸部の先端面との間の空気を外部に逃がすための
凸部の周方向における長さが形成されていない部分の凸部の周方向の長さよりも小さい溝部を形成し、
溝部が形成された複数の積層コア用板材を隣接して配置し、隣接する一方の積層コア用板材の凹部に、隣接する他方の積層コア用板材の凸部を嵌め込むことによって、複数の積層コア用板材を板厚方向に隣接させて積層し、積層された複数の積層コア用板材に対して熱処理を行う。
【0014】
本発明の第2の局面による積層コアの製造方法では、上記第1の局面による積層コアと同様に、凹部に凸部を嵌め込んだ後の熱処理時に、
溝部により、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を、外部に逃がすことができるので、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内に残留した空気が膨張することに起因して変形するのが抑制された、積層コアを得ることができる。
また、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間内の空気を、溝部を介して、積層コアの外部に逃がすことができる。
【0015】
上記第2の局面による積層コアの製造方法において、好ましくは、積層コア用板材において、プレス加工により、凹部と、凸部と、
溝部とを同時に形成する。このように構成すれば、凹部と、凸部と、
溝部とを別々の工程により形成する場合と比べて、積層コアの製造工程を効果的に減少させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、凹部に凸部を嵌め込んだ後に、熱処理を行った場合であっても、積層コアが変形するのを抑制することが可能な積層コアおよびその積層コアの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
[本実施形態]
まず、
図1〜
図7を参照して、本発明の一実施形態による積層コア100の構成について説明する。
【0021】
(積層コアの構成)
本発明の一実施形態による積層コア100は、
図1に示すように、複数枚(14枚)の積層コア用板材10および1枚の最下層板材20が、板厚方向(Z方向)に隣接して積層されることによって形成されている。この積層コア100は、
図2に示すように、平面視において略C字形状を有している。なお、積層コア100(積層コア用板材10および最下層板材20)の平面視における形状は、略C字形状に限られない。
【0022】
積層コア100は、図示しない電流センサの磁性体コアとして用いられる部材である。この積層コア100を電流センサの磁性体コアとして用いる場合には、X2側に設けられたギャップ1aに、図示しないホール素子が配置された状態で、検出対象としての電流が流れる配線が略C字形状の積層コア100の内側領域1bを貫通するように配置される。これにより、電流センサでは、配線に電流が流れることにより発生する磁界を、ホール素子において電圧に変換することによって、配線に流れる電流の大きさを測定するように構成されている。
【0023】
積層コア100では、
図1および
図3に示すように、14枚の積層コア用板材10が板厚方向(Z方向)に積層されているとともに、Z2側の最下層に1枚の最下層板材20が配置(積層)されている。これらの14枚の積層コア用板材10および最下層板材20は、
図1および
図2に示すように、各々、平面視において同一の形状(略C字形状)になるように形成されている。
【0024】
積層コア用板材10および最下層板材20は、パーマロイから構成されている。なお、パーマロイとは、Ni(ニッケル)を約35質量%以上約80質量%以下含有する鉄−ニッケル合金であり、低保磁力で、かつ、高透磁率の軟磁性材料である。このパーマロイは、熱処理(磁性焼鈍)が行われることによって、高透磁率化して磁気特性が向上する金属材料である。
【0025】
また、14枚の積層コア用板材10と1枚の最下層板材20とは、積層コア100の3か所の固定部F1、F2およびF3において、板厚方向に互いに固定されている。なお、固定部F1は、略C字形状の積層コア100において、X2側で、かつ、Y1側の端部近傍に形成されている。また、固定部F2は、略C字形状の積層コア100において、X2側で、かつ、Y2側の端部近傍に形成されている。また、固定部F3は、略C字形状の積層コア100において、X1側で、かつ、Y方向の略中央に形成されている。
【0026】
積層コア用板材10は、
図1〜
図5に示すように、上面11a側に形成され、上面11aとは反対側の下面11b側に窪む3個の凹部12と、下面11bから矢印Z2方向に向かって突出する3個の凸部13とを有している。なお、3個の凹部12および凸部13は、固定部F1、F2およびF3に対応する部分にそれぞれ形成されている。また、上面11aおよび下面11bは、それぞれ、特許請求の範囲の「第1面」および「第2面」の一例である。
【0027】
図3に示すように、積層コア用板材10の凹部12には、Z1側に隣接する積層コア用板材10の凸部13が嵌め込まれる。これにより、積層コア100では、積層コア用板材10と、Z1側に隣接する積層コア用板材10とが接合されている。また、積層コア用板材10の凸部13は、Z2側に隣接する積層コア用板材10の凹部12、または、Z2側に隣接する最下層板材20の後述する貫通孔部21に嵌め込まれる。これにより、積層コア100では、積層コア用板材10と、Z2側に隣接する積層コア用板材10または最下層板材20とが接合されている。
【0028】
凹部12は、
図2および
図5に示すように、Z1側から見て、直径Dの円形状を有している。また、
図5に示すように、凹部12は、Z1側の開口12aからZ2側の内底面12bに向かって、略一様の大きさ(直径Dの円形状)になるように形成されているとともに、Z方向に延びるように形成されている。
【0029】
凸部13は、
図5〜
図7に示すように、Z2側から見て、凹部12と略同じ直径Dの円形状を有している。また、凸部13は、円柱状に形成されている。具体的には、Z2側の先端面13aからZ1側の下面11bに向かって、略一様の大きさ(直径Dの円形状)になるように形成されているとともに、Z方向に延びるように形成されている。この結果、凹部12および凸部13の直径Dが略同じであるため、凹部12の内側面12cと凸部13の外側面13bとの間のクリアランスは、小さい。また、凸部13の突出高さHは、凹部12の窪み深さL1と略同じであるので、固定部Fにおいて凹部12の内側面12cと凸部13の外側面13bとがZ方向に接触する長さは、窪み深さL1および突出高さHと略等しくなる。
【0030】
ここで、本実施形態では、円柱状の凸部13の外側面13bには、外側面13bから円柱状の凸部13の中心線O1(径方向内側)に向かって窪む、3個の溝部14が設けられている。この溝部14は、
図5および
図6に示すように、Z2側の先端面13aからZ1側の下面11bまで、凸部13の突出方向(矢印Z2方向)に沿って延びるように形成されている。また、
図7に示すように、3個の溝部14は、平面視において、円柱状の凸部13の外側面13bに、略等角度間隔(約120度)で形成されている。なお、溝部14は、特許請求の範囲の「空気逃がし部」および「窪み」の一例である。
【0031】
また、溝部14の中心線O1への窪み深さL2は、凸部13の直径Dの約0.5%以上約5%以下であるのが好ましく、より好ましくは凸部13の直径Dの約0.8%以上約4%以下である。たとえば、凸部13の直径Dが約1.2mmである場合には、窪み深さL2は、約6μm以上約65μm以下であるのが好ましく、より好ましくは約9μm以上約50μm以下である。
【0032】
最下層板材20は、
図1および
図3に示すように、上面と下面とを貫通する3個の貫通孔部21を有している。なお、3個の貫通孔部21は、固定部F1、F2およびF3に対応する部分にそれぞれ形成されている。この貫通孔部21には、上記したように、最下層板材20に対してZ1側に隣接する積層コア用板材10の凸部13が嵌め込まれる。これにより、積層コア100では、最下層板材20と、Z1側に隣接する積層コア用板材10とが接合されるように構成されている。
【0033】
また、積層コア100では、14枚の積層コア用板材10と1枚の最下層板材20とが、3か所のF1、F2およびF3において、板厚方向に互いに固定された状態で、熱処理が行われている。これにより、積層コア100全体において、磁気特性が向上している。
【0034】
[積層コアの製造方法]
次に、
図8〜
図13を参照して、本発明の本実施形態による積層コア100の製造方法について説明する。
【0035】
まず、
図8に示すように、パーマロイからなる軟磁性板材101を準備する。そして、軟磁性板材作製装置200の搬送部201により、軟磁性板材101が矢印X2方向に搬送されながら、凹部12、凸部13および溝部14の形成工程と、打抜き工程とが行われる。
【0036】
凹部12、凸部13および溝部14の形成工程においては、軟磁性板材101の所定の位置に、凹部12、凸部13および溝部14(
図11および
図12参照)が形成される。なお、軟磁性板材101の所定の位置とは、後述する打抜き工程により積層コア用板材10が所定の略C字形状に打抜かれた際に、積層コア用板材10における3個の凹部12および凸部13の各々の位置である。
【0037】
軟磁性板材作製装置200は、凹部12、凸部13および溝部14の形成工程が行われる位置において、軟磁性板材101が上面に配置される下型202と、軟磁性板材101の所定の位置の直上(Z1側)に配置されるパンチ203とを含んでいる。パンチ203は、
図8および
図9に示すように、Z2側から見て、直径Dよりも若干小さな円形状であるとともに、Z方向に延びる円柱状に形成されている。
【0038】
軟磁性板材101の所定の位置の直下における下型202には、
図9に示すように、加工用凹部204が形成されている。つまり、加工用凹部204は、パンチ203の直下に形成されている。加工用凹部204は、円柱状のパンチ203に対応するように、
図10に示すように、Z1側から見て、直径Dの円形状を有している。また、加工用凹部204は、
図9に示すように、Z1側の開口204aからZ2側の底部204bに向かって略一様の大きさ(直径Dの円形状)で、Z方向に延びるように形成されている。
【0039】
また、
図10に示すように、加工用凹部204の内側面204cには、内側面204cから加工用凹部204の中心線O2に向かって突出する、3個の突起部205が設けられている。この3個の突起部205は、平面視において、加工用凹部204の内側面204cに、略等角度間隔(約120度)で形成されている。また、突起部205は、
図9に示すように、Z1側の開口からZ2側の底面まで、突起部205の突出方向(矢印Z2方向)に沿って延びるように形成されている。
【0040】
これにより、パンチ203を矢印Z2方向に移動させて、軟磁性板材101の所定の位置を上面側(Z1側)から押下するプレス加工を行うことによって、所定の位置における軟磁性板材101が下方に塑性変形される。これにより、
図11に示すように、所定の位置における軟磁性板材101の上面(Z1側の面)側に、上面とは反対側の下面側に窪む凹部12が形成される。また、所定の位置における軟磁性板材101の下面(Z2側の面)側に、下面から矢印Z2方向に向かって突出する凸部13が形成される。
【0041】
ここで、本実施形態の製造方法では、加工用凹部204の内側面204cに3個の突起部205が設けられているので、所定の位置における軟磁性板材101が下方に塑性変形される際に、突起部205に対応する位置を避けるようにして、軟磁性板材101が塑性変形される。この結果、円柱状の凸部13の外側面13bにおける、突起部205に対応する位置には、外側面13bから円柱状の凸部13の中心線O1に向かって窪む、3個の溝部14が設けられる。
【0042】
その後、
図8に示すように、打抜き工程により積層コア用板材10が所定の略C字形状に打抜かれる。これにより、3個の凹部12と、溝部14が形成された3個の凸部13とを備える積層コア用板材10が作製される。
【0043】
また、図示しない最下層板材作製装置により、積層コア用板材10が作製されたパーマロイからなる軟磁性板材101と同様の軟磁性板材から、3個の貫通孔部21を有し、積層コア用板材10と同じ外形形状を有する最下層板材20が作製される。
【0044】
その後、
図12に示すように、最下層板材20を図示しない固定部材に固定した状態で、最下層板材20の上側(Z1側)に、積層コア用板材10を隣接させる。そして、最下層板材20の3個の貫通孔部21の各々に、積層コア用板材10の凸部13が嵌め込まれるように、治具206を用いて上方から押圧する。これにより、最下層板材20と積層コア用板材10とが接合される。
【0045】
その後、最下層板材20のZ1側に積層させた積層コア用板材10の上側(Z1側)に、別の積層コア用板材10を隣接させる。そして、積層コア用板材10の3個の凹部12の各々に、積層コア用板材10の凸部13が嵌め込まれるように、治具206を用いて上方から押圧する。この際、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間に隙間C(
図3参照)が形成される場合がある。これにより、板厚方向に隣接する積層コア用板材10同士が接合される。この積層コア用板材10同士を接合する工程が14回繰り返されることによって、熱処理前の積層コア100が形成される。
【0046】
なお、凹部12および凸部13の形成工程、打抜き工程および積層工程において、積層コア用板材10および最下層板材20には、応力が印加される。このため、熱処理前の積層コア100には、磁気特性が十分でなく、かつ、応力に起因する歪などが形成されている。
【0047】
そこで、最後に、熱処理前の積層コア100に対して、熱処理を行うことによって、磁性焼鈍を行う。具体的には、
図13に示すように、熱処理前の積層コア100を炉207内に配置する。そして、炉207内を水素雰囲気下にした状態で、所定の時間、炉207内の温度を所定の温度(たとえば、約1100℃)に維持する。これにより、積層コア100の磁気特性が向上するとともに、応力歪も緩和される。
【0048】
この際、熱により、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間Cに残留した空気が膨張するものの、膨張した空気は溝部14に逃げる。そして、溝部14に逃げた空気は、溝部14の上端から積層コア用板材10同士の間の隙間を伝って積層コア100の外部に排出される。この結果、磁気特性が向上し、かつ、空気による変形が抑制された積層コア100が作製される。
【0049】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
本実施形態では、上記のように、積層コア用板材10の凸部13に、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を積層コア100の外部に逃がすための溝部14を設ける。これにより、溝部14により、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、積層コア100の外部に逃がすことができるので、凹部12に凸部13を嵌め込んだ後に、熱処理を行った場合であっても、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内に残留した空気が膨張することに起因して積層コア100が変形するのを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、凸部13の外側面13bに溝部14を形成することによって、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、溝部14を介して、積層コア100の外部に逃がすことができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、溝部14を、凸部13の突出方向(Z2方向)に沿って延びるように形成することによって、空気逃がし部としての溝部14を容易に形成することができる。
【0053】
また、本実施形態の製造方法では、上記のように、プレス加工により、凹部12と、凸部13と、溝部14とを同時に形成する。これにより、凹部12と、凸部13と、溝部14とを別々の工程により形成する場合と比べて、積層コア100の製造工程を効果的に減少させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、溝部14の中心線O1への窪み深さL2を、凸部13の直径Dの約0.5%以上にする。これにより、溝部14を介して、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、積層コア100の外部に確実に逃がすことができる。また、溝部14の窪み深さL2を大きくした場合には、溝部14が形成される部分のパーマロイの除去すべき体積が大きくなるため、プレス加工後の積層コア用板材10において、形状の乱れが生じやすくなる。そこで、窪み深さL2を、凸部13の直径Dの約5%以下にすることにより、プレス加工後の積層コア用板材10において、形状の乱れが生じるのを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、3個の溝部14を、平面視において、円柱状の凸部13の外側面13bに、略等角度間隔(約120度)で形成する。これにより、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間Cが、凹部12と凸部13との間の全体に亘って形成されておらず、一部の領域にのみ形成されている場合であっても、隙間C内の空気を積層コア100の外部に確実に逃がすことができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、積層コア用板材10を、熱処理(磁性焼鈍)が行われることによって、より良い磁気特性が得られる金属材料であるパーマロイから構成する。これにより、磁気特性を向上させつつ、積層コア100が変形するのを抑制することができる。
【0057】
[本実施形態の第1変形例]
次に、
図1および
図14を参照して、本実施形態の第1変形例について説明する。この第1変形例では、積層コア用板材10の凸部13の外側面13bに溝部14が形成された上記実施形態とは異なり、積層コア用板材310の凸部13の外側面13bに突起部314を形成する場合について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成に関しては、同じ符号を付すとともに、説明を省略する。また、突起部314は、特許請求の範囲の「空気逃がし部」および「突起」の一例である。
【0058】
本実施形態の第1変形例では、
図14に示すように、積層コア用板材310の凸部13の外側面13bに、外側面13bから径方向外側に向かって突出する、3個の突起部314が設けられている。この突起部314は、Z2側の先端面13aからZ1側の下面11bまで、凸部13の突出方向(矢印Z2方向)に沿って延びるように形成されている。また、3個の突起部314は、平面視において、円柱状の凸部13の外側面13bに、略等角度間隔(約120度)で形成されている。
【0059】
これにより、積層コア用板材310の凹部12(
図5参照)に他の積層コア用板材310の凸部13を嵌め込んだ場合であっても、突起部314により、凹部12の内側面12c(
図5参照)と凸部13の外側面13bとの間に、空気逃がし用の隙間(空気逃がし部)を形成することができる。したがって、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、空気逃がし用の隙間(空気逃がし部)を介して、積層コア300(
図1参照)の外部に逃がすことが可能である。なお、本実施形態の第1変形例のその他の構成および効果は、上記実施形態と同様である。
【0060】
[本実施形態の第2変形例]
次に、
図1および
図15を参照して、本実施形態の第2変形例について説明する。この第2変形例では、積層コア用板材10の凸部13の外側面13bに溝部14が形成された上記実施形態とは異なり、積層コア用板材410の凹部12の内側面12cに溝部414を形成する場合について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成に関しては、同じ符号を付すとともに、説明を省略する。また、溝部414は、特許請求の範囲の「空気逃がし部」および「窪み」の一例である。
【0061】
本実施形態の第2変形例では、
図15に示すように、積層コア用板材410の凹部12の内側面12cに、内側面12cから径方向外側に向かって窪む、3個の溝部414が設けられている。この溝部414は、Z1側の開口12aからZ2側の内底面12bまで、凹部12の窪む方向(矢印Z2方向)に沿って延びるように形成されている。また、3個の溝部414は、平面視において、凹部12の内側面12cに、略等角度間隔(約120度)で形成されている。
【0062】
これにより、積層コア用板材410の凹部12に他の積層コア用板材410の凸部13を嵌め込んだ場合であっても、溝部414を介して、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、積層コア400(
図1参照)の外部に逃がすことが可能である。なお、本実施形態の第2変形例のその他の構成および効果は、上記実施形態と同様である。
【0063】
[本実施形態の第3変形例]
次に、
図1および
図16を参照して、本実施形態の第3変形例について説明する。第3変形例では、積層コア用板材10の凸部13の外側面13bに溝部14が形成された上記実施形態とは異なり、積層コア用板材510の凹部12の内側面12cに突起部514を形成する場合について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成に関しては、同じ符号を付すとともに、説明を省略する。また、突起部514は、特許請求の範囲の「空気逃がし部」および「突起」の一例である。
【0064】
本実施形態の第3変形例では、
図16に示すように、積層コア用板材510の凹部12の内側面12cに、内側面12cから凹部12の中心(径方向内側)に向かって突出する、3個の突起部514が設けられている。この突起部514は、Z1側の開口12aからZ2側の内底面12bまで、凹部12の窪む方向(矢印Z2方向)に沿って延びるように形成されている。また、3個の突起部514は、平面視において、凹部12の内側面12cに、略等角度間隔(約120度)で形成されている。
【0065】
これにより、積層コア用板材510の凹部12に他の積層コア用板材510の凸部13を嵌め込んだ場合であっても、突起部514により、凹部12の内側面12cと凸部13の外側面13bとの間に、空気逃がし用の隙間(空気逃がし部)を形成することができる。したがって、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、空気逃がし用の隙間(空気逃がし部)を介して、積層コア500(
図1参照)の外部に逃がすことが可能である。なお、本実施形態の第3変形例のその他の構成および効果は、上記実施形態と同様である。
【0066】
[実施例]
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0067】
<実施例の積層コアの作製>
本実施例では、上記実施形態に対応する、熱処理前の実施例の積層コア100を作製した。具体的には、まず、45質量%のNiを含有するパーマロイ(Fe−45Ni合金)からなる軟磁性板材101を準備した。なお、軟磁性板材101の厚みは0.5mmであった。
【0068】
そして、上記実施形態の製造方法に基づいて、軟磁性板材101から略C字形状の14枚の積層コア用板材10を作製した。なお、凹部12および凸部13の直径を1.2mmとするとともに、凹部12の窪み深さL1および凸部13の突出高さHを0.35mmとした。また、凸部13に設けられた3個の溝部14の窪み深さL2を25μm(約2%)とした。
【0069】
また、軟磁性板材101と同様の軟磁性板材から、3個の貫通孔部21を有し、積層コア用板材10と同じ外形形状を有する最下層板材20を作製した。
3個の貫通孔部21を有し、積層コア用板材10と同じ外形形状を有する最下層板材20を作製した。
【0070】
そして、最下層板材20および14枚の積層コア用板材10を、板厚方向(Z方向)に互いに接合させることによって、最下層板材20および14枚の積層コア用板材10を積層させた。これにより、熱処理前の実施例の積層コア100を作製した。なお、熱処理前の実施例の積層コア100の積層高さ(板厚方向の高さ)は、6.58mm以上6.60mm以下の範囲内であり、平均積層高さは、6.60mmであった。
【0071】
一方、比較例の熱処理前の積層コアを作製した。ここで、積層コア用板材に溝部などの空気逃がし部を設けない点を除き、比較例の熱処理前の積層コアを、実施例の熱処理前の積層コアと同様の構成にした。
【0072】
そして、実施例および比較例の熱処理前の積層コアに対して熱処理を行った。この際、水素雰囲気下の炉内の温度を1100℃にするとともに、1100℃で3時間維持することによって、熱処理を行った。そして、熱処理後の実施例および比較例の積層コアの変形度合を観察した。
【0073】
実施例の熱処理後の積層コア100では、積層高さが、6.55mm以上6.60mmの範囲内になり、熱処理前の積層高さと比べて、ほとんど変化していなかった。つまり、実施例の積層コア100では、例えば熱処理前の6.58mmに対して熱処理後の6.55mmは−0.5%の変化に過ぎず、熱処理の前後で変形がほとんど生じていないことが確認できた。これは、凸部13に形成された溝部14により、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間C内の空気を、積層コア100の外部に逃がすことができたからであると考えられる。一方、比較例の熱処理後の積層コアでは、一部の積層高さが6.90mmに変化していた。つまり、比較例の積層コアでは、例えば熱処理前の6.58mmに対して熱処理後の6.90mmは+4.9%と大きく変化しており、熱処理後に大きな変形が生じていることが確認された。このことから、積層コア用板材に溝部(空気逃がし部)を設けることにより、熱処理後の変形を効果的に抑制することができることが確認できた。
【0074】
なお、上記実施形態の第1〜第3変形例の積層コア300、400および500であっても、凹部12の内底面12bと凸部13の先端面13aとの間の隙間Cの空気を、積層コア300、400および500の外部に逃がすことができるので、熱処理の前後で変形がほとんど生じないと考えられる。
【0075】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0076】
たとえば、上記実施形態では、積層コア用板材10の凸部13の外側面13bに溝部14(窪み)を形成した例を示し、上記第1変形例では、積層コア用板材310の凸部13の外側面13bに突起部314(突起)を形成した例を示した。また、上記第2変形例では、積層コア用板材410の凹部12の内側面12cに溝部414(窪み)を形成した例を示し、上記第3変形例では、積層コア用板材510の凹部12の内側面12cに突起部514(突起)を形成した例を示した。しかしながら、本発明はこれらに限られない。たとえば、積層コア用板材の凸部の外側面に、窪みと突起とを両方形成してもよいし、積層コア用板材の凹部の内側面に、窪みと突起とを両方形成してもよい。また、積層コア用板材の凹部と凸部との双方に、窪みまたは突起を形成してもよい。
【0077】
また、本発明の「空気逃がし部」は、凹部の内側面もしくは凸部の外側面に形成された窪みまたは突起に限られない。たとえば、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間と積層コア(積層コア用板材)の外部とを接続する空気抜き孔を、空気逃がし部として積層コア用板材に設けてもよい。
【0078】
また、上記実施形態および第1変形例では、溝部(窪み)および突起部(突起)を、Z2側の先端面13aからZ1側の下面11b(第2面)まで、凸部13の突出方向に沿って延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、窪み、または、突起により形成される空気逃がし用の隙間を介して、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間の空気を、積層コアの外部に逃がすことが可能であれば、窪みまたは突起を、凸部の先端面から第2面まで延びるように形成しなくてもよい。
【0079】
また、上記第2変形例および第3変形例では、溝部(窪み)および突起部(突起)を、Z1側の開口12aからZ2側の内底面12bまで、凹部12の窪む方向に沿って延びるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、窪み、または、突起により形成される空気逃がし用の隙間を介して、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間の空気を、積層コアの外部に逃がすことが可能であれば、窪みまたは突起を、凹部の開口から内底面まで延びるように形成しなくてもよい。
【0080】
つまり、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間の近傍にのみ、窪みまたは突起が設けられた場合であっても、凹部の内側面と凸部の外側面とのクリアランスが、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間の近傍周辺のみにおいて小さく、当該隙間から離れるにしたがって若干大きくなるような場合などでは、窪み、または、突起により形成される空気逃がし用の隙間を介して、凹部の内底面と凸部の先端面との間の隙間の空気を、積層コアの外部に逃がすことが可能である。
【0081】
また、上記実施形態および第1〜第3変形例では、3個の溝部14(414)または3個の突起部314(514)を、凹部12の内側面12cまたは凸部13の外側面13bに略等角度間隔で形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、3個の溝部または3個の突起部を、凹部の内側面または凸部の外側面に略等角度間隔に形成しなくてもよい。また、溝部の数および突起部の数は、3個に限られず、1個、2個、または4個以上であってもよい。すなわち、本発明における上記の溝部および突起部は、その数、その角度間隔、その角度の均等度などを、用途に応じて適切に選択するのが好ましい。
【0082】
また、上記実施形態および第1〜第3変形例では、積層コア用板材がパーマロイから構成される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、積層コア用板材がパーマロイ以外の、熱処理により磁気特性の調整、または、応力状態の調整(歪取り)が求められる各種の金属材料から構成されていてもよい。たとえば、積層コア用板材を、鉄、パーマロイ以外の鉄系合金、純ニッケル、ニッケル系合金、純チタン、チタン系合金、純銅、銅系合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム系合金、または、コバルト系合金などから構成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態の積層コア用板材10の構成に加えて、積層コア用板材10の上面11aに、溝部14に連通する連通溝部を形成してもよい。この場合、連通溝部を、溝部14から積層コア用板材10の側端面まで延びるように、上面11aに形成するのがよい。これにより、溝部14に逃げた空気を、連通溝部を介して、積層コア100の外部に確実に排出することが可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、14枚の積層コア用板材10および最下層板材20を、平面視において同一の形状(略C字形状)になるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数の積層コア用板材の形状を各々異ならせてもよいし、複数の積層コア用板材の形状と最下層板材の形状とを異ならせてもよい。また、積層コア用板材(最下層板材)の形状は、略C字形状に限られず、不連続箇所(たとえば、
図2のギャップ1a)が形成されていない環状形状などであってもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、プレス加工により、凹部12と、凸部13と、溝部14(空気逃がし部)とを同時に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、凹部と凸部とを同時に形成する一方、空気逃がし部を凹部および凸部とは別個の工程で形成してもよい。また、凹部、凸部、および、空気逃がし部を各々別個の工程で形成してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、積層コア100を、電流センサの磁性体コアとして用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、積層コアを、電流センサ以外に用いてもよい。たとえば、積層コアを、モータのコアとして用いてもよい。