(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉛蓄電池は、コスト、安全性及び信頼性に優れた二次電池であり、様々な用途に用いられている。鉛蓄電池の用途の一つとして、ハイブリッド車(HV)又は電気自動車(EV)用の補機バッテリーが挙げられる。補機バッテリーとして使用される鉛蓄電池(以下、「補機鉛蓄電池」という。)は、上記車種のモーター及びエンジンの制御用コンピュータ並びに一般電装品等に電気を供給する。
【0005】
HV又はEV用の補機鉛蓄電池には格子体の耳部がストラップとの付け根から切損しやすいという技術的課題がある。これはストラップに対する耳部の付け根の隙間から腐食が進行するためであると考えられ、腐食が進行しやすい原因はストラップ内に残存した耳部が再結晶化することによって生じる結晶粒界が腐食に敏感であるためと推察される。この対策として、ストラップに対する耳部の付け根に、腐食に強いフィレットを設けることが考えられる(特許文献1)。これにより、再結晶化によって生じた結晶粒界が電解液にさらされなることを抑制でき、その結果、両者の接合部の腐食の進行を抑えることができる。
【0006】
特許文献1に記載のとおり、耳部の付け根にフィレットを設けることはある程度有効な手段であるといえる。しかし、この手段は、腐食に対して効果的なフィレットを安定して形成すること、耳部の高い機械的強度を十分に維持すること、耳部とストラップとを溶接する際に耳痩せを抑制すること等の技術的課題を克服することが困難であり、未だ改善の余地があった。特に、特許文献1に記載の発明においては、鉛−錫合金からなるフィレットが耳部の付け根に設けられているものの、ストラップと耳部の界面には鉛−錫合金層がないために当該箇所に結晶粒界が生じていると考えられ、耳部の機械的強度が不安視される。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ストラップと耳部との接合部における腐食を十分に抑制できる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉛蓄電池は、耳部をそれぞれ有する複数の極板と、耳部の一部が埋設されているストラップと、耳部の表面のうち、ストラップに埋設されずに露出している部分を覆うように形成された第1の鉛−錫合金層と、耳部の表面のうち、ストラップに埋設されている部分を覆うように当該部分とストラップとの間に形成された第2の鉛−錫合金層と、ストラップに対する耳部の付け根の部分に形成されているフィレットとを備える。
【0009】
例えば、HV又はEVに搭載される補機鉛蓄電池は、駆動用バッテリー(例えばニッケル水素電池)から電気が供給されて高い充放電が維持されるため、格子体(特に格子体の耳部)の腐食によって電池劣化が進行する。本発明に係る鉛蓄電池は、上述のとおり、第1の鉛−錫合金層及びフィレットに加え、耳部におけるストラップに埋設されている部分とストラップとの間に第2の鉛−錫合金層が形成されているため、これらの界面に結晶粒界が生じることに起因する腐食を十分に抑制できる。これにより、耳部の高い機械的強度を十分長期にわたって維持することができる。なお、現在、HV又はEV用補機鉛蓄電池において、正極板の格子体に鉛−アンチモン合金を使用し、負極板の格子体に鉛−カルシウム合金を使用した補機鉛蓄電池が主流となっている。これらの合金からなる格子体の耳部とストラップとを溶接する際に第2の鉛−錫合金層を形成することで、これらの接合部の強度を高めることができる。
【0010】
本発明に係る鉛蓄電池におけるストラップは、より一層優れた耐腐食性を達成する観点から、鉛−カルシウム系合金からなることが好ましい。
【0011】
本発明に係る鉛蓄電池は制御弁式鉛蓄電池(VRLA:Valve Regulated Lead Acid)であることが好ましい。HV又はEVはエンジンルームのスペースが限られていることから、エンジンルーム以外のコンパートメント(例えばトランクルーム又は後部座席下などの車室内)に補機鉛蓄電池が搭載される場合がある。搭載箇所が車屋内である場合、鉛蓄電池から生じるガスが問題となるため、上述のとおり、補機バッテリーとして制御弁式鉛蓄電池を採用することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ストラップと耳部との接合部における腐食を十分に抑制できる鉛蓄電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。例えば、以下の実施形態においては、HV又はEVに搭載される補機バッテリーとして使用される鉛蓄電池を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下で例示する材料は、特に断らない限り、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
<鉛蓄電池>
図1に示す鉛蓄電池1は、複数の正極板Pと、複数の負極板Nと、正極板Pと負極板Nとの間に設けられる複数のセパレータ4と、電槽5と、蓋体6とを備える。正極板P、セパレータ4及び負極板Nが交互に積層されてなる電極群が電槽5内に収容されている。鉛蓄電池1は、電槽5内に極板群を収容し、蓋体6で閉塞した後、所定量の電解液を注入して電槽化成を行うことによって作製される。
【0016】
鉛蓄電池1は、HV又はEVに搭載される補機バッテリーとして使用されるものであり、満充電状態を100%とすると、通常、95〜100%(好ましくは98〜100%)の充電状態(SOC)で運用される。鉛蓄電池1は密閉化の観点から制御弁式鉛蓄電池であることが好ましい。制御弁式鉛蓄電池は、蓄電池内部では、流動するフリーの電解液が存在せず、蓄電池を横置きしても電解液がこぼれることがないという利点がある。また、充電中に水の電気分解反応が起こっても、水素ガスの発生を抑え、発生する酸素ガスも負極板N表面での化学反応により元の水に還元して電解液中に戻す作用があり、水分が失われにくく、液量の点検及び補水が不要であるという利点もある。充電中に正極板Pで発生した酸素ガスのうち、負極板Nにおけるガス吸収反応で吸収しきれなかった過剰ガスは制御弁7から電槽5外に排出される。
【0017】
電槽5内は複数のセル室に分けられていてもよく、この場合、各セル室内に極板群が収容され、隣接するセル室内に収容された極板群と反対極性のストラップ間を相互に接続することにより、所定の定格電圧と定格容量を持つ鉛蓄電池が構成される。他方、単セル電槽のときは、複数の鉛蓄電池の端子間を、導電板を用いて並列又は直列に接続することで所定の電圧又は容量の電池を構成することができる。
【0018】
(正極板)
正極板Pは、
図2(a)に示す正極格子体2と、正極格子体2の格子間に充填された正極活物質とを備えている。正極格子体2は、特に制限されないが、例えば鉛を主成分として含む鉛合金からなり、鉛以外の成分として、アンチモン、錫、カルシウム及びアルミニウムから選ばれる一種又は二種以上の元素を含んでもよい。該鉛合金は、例えばビスマス及び/又は銀を更に含有していてもよい。正極格子体2を構成する鉛合金のアンチモン濃度は、鉛合金の全質量基準で、例えば0.5〜5.0質量%である。正極格子体2としては、該鉛合金を鋳造して得られるものであってもよいし、該鉛合金からなるエキスパンド格子であってもよい。
【0019】
正極格子体2は、格子本体部2aと、格子本体部2aから外側に突出するように設けられた耳部2bとを有する。正極格子体2の格子間にペースト状活物質を充填し、その後、熟成工程及び乾燥工程を経ることによって正極板Pが得られる。正極板Pの製造に用いられる活物質は、特に限定されるものではないが、鉛粉及び鉛丹と、希硫酸と、水及び添加剤とを混合させて得られるペースト状の活物質であってよい。添加剤は、例えば活物質の強度を高める目的で添加され、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル系繊維等であってよい。熟成工程では、例えば、温度75〜85℃、相対湿度95〜98%の環境にて4〜40時間熟成し、次いで、50〜65℃、相対湿度50%以上の環境にて20時間以上熟成する。乾燥工程では、例えば、温度40〜65℃の環境で20〜40時間乾燥する。
【0020】
各正極格子体2の耳部2b同士がストラップPsを介して接続されることにより、複数の正極板Pは互いに電気的に接続されている。ストラップPsは、複数の耳部2bが接合されている部分である棚部Ptを有する。正極のストラップPsには、正極板Pを正極端子8に接続するための正極柱8aが設けられている。
図3(a)に示すとおり、耳部2bの上端側の一部が棚部Ptに埋設されている。耳部2bの表面のうち、ストラップPsの棚部Ptに埋設されずに露出している部分を覆うように第1の鉛−錫合金層2L
1が形成されている。第1の鉛−錫合金層2L
1の厚さは好ましくは6〜15μmであり、より好ましくは8〜12μmであり、更に好ましくは10μm程度である。第1の鉛−錫合金層2L
1を構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0021】
耳部2bの表面のうち、ストラップPsの棚部Ptに埋設されている部分を覆うように当該部分と棚部Ptとの間に第2の鉛−錫合金層2L
2が形成されている。第2の鉛−錫合金層2L
2の厚さは好ましくは6〜15μmであり、より好ましくは8〜12μmであり、更に好ましくは10μm程度である。第2の鉛−錫合金層2L
2を構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0022】
ストラップPsの棚部Ptに対する耳部2bの付け根の部分にはフィレット2Fが形成されている。フィレット2Fを構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0023】
これらの構成(第1及び第2の鉛−錫合金層2L
1,2L
2並びにフィレット2F)を採用したことにより、耳部2bと棚部Ptとの界面における結晶粒界の発生に起因する腐食を十分に抑制できる。上記界面における腐食をより一層確実に抑制する観点から、第1の鉛−錫合金層2L
2が耳部2bの表面のうちの棚部Ptに埋設されている部分の全体を覆っていることが好ましい。これを実現するには、耳部2bと棚部Ptとを溶接によって接合するに先立ち、耳部2bの表面に上記鉛−錫合金の溶融物を塗布すればよく、より具体的には、該溶融物に耳部2bを漬け込めばよい。漬け込み時間(塗布時間)は好ましくは6〜14秒であり、より好ましくは8〜12秒である。漬け込まれる溶融物の温度は好ましくは215〜245℃であり、より好ましくは220〜240℃である。
【0024】
ストラップPs(棚部Pt)に対する耳部2bの溶接は、例えばキャストン法、バーニング法によって実施すればよく、温度制御がしやすい点から、キャストン法によって実施することが好ましい。キャストン法は、鋳型の上部に耳部2bを配置し、溶融鉛合金を鋳型に流し込んだ後に固化させることで棚部Ptを形成するとともに、ストラップPs(棚部Pt)に対して耳部2bの上端側を埋設する。棚部Ptを構成する鉛合金の組成にもよるが、キャストン法における鋳型の温度は好ましくは220〜250℃であり、より好ましくは230〜240℃であり、また鋳型に注ぐ勺の温度は好ましくは390〜470℃であり、より好ましくは400〜460℃である。
【0025】
ストラップPs(特に棚部Pt)を構成する鉛合金として、鉛−カルシウム系合金を採用することが好ましい。鉛−カルシウム系合金のカルシウム濃度は好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0026】
(負極板)
負極板Nは、
図2(b)に示す負極格子体3と、負極格子体3の格子間に充填された負極活物質とを備えている。負極格子体3は、特に制限されないが、例えば、鉛を主成分として含む鉛合金からなり、鉛以外の成分として、カルシウム、錫及び/又はビスマスから選ばれる一種又は二種以上の元素を含んでもよい。負極格子体3を構成する鉛合金のカルシウム濃度は、鉛合金の全質量基準で、例えば0.06〜0.10質量%である。負極格子体3としては、該鉛合金を鋳造して得られるものであってもよいし、該鉛合金からなるエキスパンド格子であってもよい。
【0027】
負極格子体3は、格子本体部3aと、格子本体部3aから外側に突出するように設けられた耳部3bとを有する。負極格子体3の格子間にペースト状活物質を充填し、その後、熟成工程及び乾燥工程を経ることによって負極板Nが得られる。負極板Nの製造に用いられる活物質は、特に限定されるものではないが、鉛粉と、希硫酸及び水及び添加剤とを混合させたことで得られるペースト状の活物質であってよい。添加剤は、放電時に生成する硫酸鉛(PbSO
4)の核として機能する硫酸バリウム(BaSO
4)、負極活物質粒子の結晶成長を抑制するリグニン等の有機化合物、導電性を付与する炭素材などであってよい。添加剤は、正極板Pと同様に、PET、アクリル系繊維等であってもよい。熟成工程では、例えば、温度37〜43℃、相対湿度92〜98%の環境にて24時間程度熟成し、次いで、例えば、温度37〜43℃、相対湿度50%以上の環境にて16時間以上熟成する。乾燥工程では、例えば、温度35〜45℃の環境にて12〜40時間乾燥する。
【0028】
各負極格子体3の耳部3b同士がストラップNsを介して接続されることにより、複数の負極板Nは互いに電気的に接続されている。ストラップNsは、複数の耳部3bが接合されている部分である棚部Ntを有する。負極のストラップNsには、負極板Nを負極端子9に接続するための負極柱9aが設けられている。
図3(b)に示すとおり、耳部3bの上端側の一部が棚部Ntに埋設されている。耳部3bの表面のうち、ストラップNsの棚部Ntに埋設されずに露出している部分を覆うように第1の鉛−錫合金層3L
1が形成されている。第1の鉛−錫合金層3L
1の厚さは好ましくは6〜15μmであり、より好ましくは8〜12μmであり、更に好ましくは10μm程度である。第1の鉛−錫合金層3L
1を構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0029】
耳部3bの表面のうち、ストラップNsの棚部Ntに埋設されている部分を覆うように当該部分と棚部Ntとの間に第2の鉛−錫合金層3L
2が形成されている。第2の鉛−錫合金層3L
2の厚さは好ましくは6〜15μmであり、より好ましくは8〜12μmであり、更に好ましくは10μm程度である。第2の鉛−錫合金層3L
2を構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0030】
ストラップNsの棚部Ntに対する耳部3bの付け根の部分にはフィレット3Fが形成されている。フィレット3Fを構成する鉛−錫合金の錫濃度は好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは58〜62質量%である。
【0031】
これらの構成(第1及び第2の鉛−錫合金層3L
1,3L
2並びにフィレット3F)を採用したことにより、耳部3bと棚部Ntとの界面における結晶粒界の発生に起因する腐食を十分に抑制できる。上記界面における腐食をより一層確実に抑制する観点から、第1の鉛−錫合金層3L
2が耳部3bの表面のうちの棚部Ntに埋設されている部分の全体を覆っていることが好ましい。これを実現するには、耳部3bと棚部Ntとを溶接によって接合するに先立ち、耳部3bの表面に上記鉛−錫合金の溶融物を塗布すればよく、より具体的には、該溶融物に耳部3bを漬け込めばよい。漬け込み時間(塗布時間)は好ましくは6〜14秒であり、より好ましくは8〜12秒である。漬け込まれる溶融物の温度は好ましくは215〜245℃であり、より好ましくは220〜240℃である。
【0032】
ストラップNs(棚部Nt)に対する耳部3bの溶接は、例えばキャストン法、バーニング法によって実施すればよく、温度制御がしやすい点から、キャストン法によって実施することが好ましい。キャストン法は、鋳型の上部に耳部3bを配置し、溶融鉛合金を鋳型に流し込んだ後に固化させることで棚部Ntを形成するとともに、ストラップNs(棚部Nt)に対して耳部3bの上端側を埋設する。棚部Ntを構成する鉛合金の組成にもよるが、キャストン法における鋳型の温度は好ましくは220〜250℃であり、より好ましくは230〜240℃であり、また鋳型に注ぐ勺の温度は好ましくは390〜470℃であり、より好ましくは400〜460℃である。
【0033】
ストラップNs(特に棚部Nt)を構成する鉛合金として、鉛−カルシウム系合金を採用することが好ましい。鉛−カルシウム系合金のカルシウム濃度は好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0034】
(セパレータ)
セパレータ4は、例えば、希硫酸等の電解液を保持する電解液保持体(リテーナ)である。セパレータ4は、
図1に示すように板状であってよく、他の実施形態において、例えば正極板Pを包むことが可能な袋状であってもよい。セパレータ4は、正極板Pと負極板Nとの間の電気的な接触を阻止しつつ、電解液を保持して硫酸イオン及び水素イオン(プロトン)を透過させるものであれば、特に限定されるものではない。セパレータ4は、好ましくは微細ガラス繊維(綿)を抄造したAGM(Absorbed Glass Mat)である。セパレータ4の一枚あたりの厚さは、任意に設定されるが、例えば1〜3mmであってよい。
【0035】
(その他)
電槽5は、正極板P、負極板N及びセパレータ4からなる極板群を収容可能であり、希硫酸等の電解液に対する耐性を有していれば、特に制限されない。電槽5は、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂等で形成されている。一実施形態においては、電槽内は、複数のセル室に分けられていてもよく、この場合、各セル室内に極板群が収容されている。そして、一のセル室内に収容された極板群と、それに隣接するセル室内に収容された極板群とを、反対の極性のストラップ間が接続されるように互いに接続することにより、所定の定格電圧又は定格容量を有する鉛蓄電池が構成される。
【0036】
蓋体6は、電槽5を密閉可能なように、例えば電槽5と同じ材料で形成されている。蓋体6は、例えば、熱融着又は接着剤を用いた接着により、電槽5に取り付けられる。
【0037】
鉛蓄電池1の電解液は例えば希硫酸である。電解液はアルミニウムイオンを含むことが好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.002〜0.2mol/Lが好ましく、0.003〜0.1mol/Lがより好ましく、0.005〜0.08mol/Lが更に好ましい。電解液のアルミニウムイオンの濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することもできる。なお、電解液は、セパレータ4のみならず、正極板及び負極板の中にも含まれている。
【実施例】
【0038】
正極格子体として鉛−アンチモン合金(アンチモン濃度:0.5〜5.0質量%の範囲内)からなる鋳造格子を用い、負極格子体として板として鉛−カルシウム合金(カルシウム濃度:0.06〜0.10質量%の範囲内)からなる鋳造格子を用いた。正極及び負極用の活物質としてペースト状のものをそれぞれ使用し、正極格子体及び負極格子体にそれぞれ練塗した。これらの極板がセパレータを介して複数配置された状態とし、それぞれの極板群にてキャストン法によるストラップ溶接によって複数の耳部とストラップとの接合を行った。
【0039】
ストラップ溶接に先立って、溶接状態が良好になるよう正極板及び負極板の耳部の表面に刃によるスクラッチ研磨処理をそれぞれ施した後、ペースト状のフラックスを塗布し、その後、鉛−錫合金の溶融物の塗布を行った。鉛−錫合金の溶融物の塗布は溶融物に極板耳部を漬け込むことで行った。表1に示すとおり、耳部に塗布する鉛−錫合金の錫濃度、温度及び漬け込み時間、並びに、金型に鉛−錫合金を注ぐ勺の温度(勺温度)及び金型温度を変化させ、耳部とストラップの接合体を溶接によってそれぞれ得た。
【0040】
耳部とストラップの接合部の断面を顕微鏡で確認し、耳部の全体を覆うように鉛−錫合金の層(第1及び第2の鉛−錫合金層)が形成され且つ耳部の付け根の部分にフィレットが形成された試験例を実施例とした(実施例1〜5)。鉛−錫合金の溶融物の温度が高すぎると耳部が溶け出すことに起因して耳痩せが発生した(比較例1,2)。なお、勺温度又は金型の温度が高すぎると、耳部とストラップの境界面の鉛−錫合金の層の厚みが増大し耳痩せが発生すると推察される。また、勺温度が高すぎるとストラップ側に焼けが見られ、金型温度が高すぎると溶接部が固まりにくくなる。種々の温度が低すぎると、フィレットが形成されない、溶接されない、あるいは手でちぎれてしまうといったことが発生した(比較例3)。
【0041】
<制御弁式鉛蓄電池の作製>
ガラス不織布を介して3枚の正極板と4枚の負極板を交互に積層し極板群を作製した。作製した極板群を、電槽へ挿入し、正極端子及び負極端子を極板群に溶接した後、電槽を密閉した。希硫酸を主成分とする電解液を排気栓口から注入した後、電槽化成を行った。これにより、制御弁式鉛蓄電池を得た。電槽化成条件は、水槽中で水温度:40℃、課電量:正極活物質の理論化成電気量に対し250%、時間:60時間とした。
【0042】
(寿命試験)
鉛蓄電池として、ハイパックLHM−38−12(商品名、日立化成株式会社製)を使用し、温度65℃、湿度30%の条件下において充放電を行うことによって高温加速寿命試験を実施した。表1及び表2に結果(14年相当5HR放電時間)を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】