(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870292
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】プラスチック基板の表面処理方法及びそれを用いた金属張積層基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/02 20060101AFI20210426BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20210426BHJP
H05K 3/26 20060101ALI20210426BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20210426BHJP
H05K 3/16 20060101ALI20210426BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20210426BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20210426BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
C23C14/02 A
C25D5/56 Z
H05K3/26 E
H05K3/26 A
H05K3/18 G
H05K3/16
B08B3/08 Z
B32B15/08 J
C23C18/20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-225012(P2016-225012)
(22)【出願日】2016年11月18日
(65)【公開番号】特開2018-80374(P2018-80374A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】浅川 吉幸
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−166107(JP,A)
【文献】
特開2009−148995(JP,A)
【文献】
特開2014−214365(JP,A)
【文献】
特開2013−189667(JP,A)
【文献】
特開2010−095737(JP,A)
【文献】
特開2011−127152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン及び酸素を両方とも含むマイクロバブルが、該マイクロバブルを構成する混合ガス中のオゾン濃度3体積%以上20体積%以下の範囲で導電率1μS/cm以下の純水に含まれてなる処理液に、プラスチック基板を接触させることを特徴とするプラスチック基板の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理方法で処理されたプラスチック基板の表面に接着剤を介さずに金属膜を成膜することを特徴とする金属張積層基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属膜の成膜が、前記プラスチック基板の表面に乾式めっき法で下地金属層を成膜する工程と、該下地金属層の表面に金属被膜層を成膜する工程とからなることを特徴とする、請求項2に記載の金属張積層基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属被膜層を成膜する工程が、乾式めっき法で金属薄膜層を成膜する工程と、該金属薄膜層の表面に湿式めっき法で金属厚膜層を成膜する工程とからなることを特徴とする、請求項3に記載の金属張積層基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属被膜層が銅からなることを特徴とする、請求項3又は4に記載の金属張積層基板の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の製造方法で作製した金属張積層基板の前記金属膜をパターニング加工することで配線回路を形成することを特徴とする配線回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブルを含んだ処理液でプラスチック基板の表面を処理する表面処理方法、及び該処理方法で表面処理されたプラスチック基板に接着剤を介することなく金属膜を成膜することで作製する金属張積層基板の製造方法、並びに該製造方法で作製された金属張積層基板をパターニング加工することで作製する配線回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基板はその優れた電気絶縁性のため様々な産業分野で広く使用されている。例えばプラスチック基板に金属膜を成膜することで作製されるいわゆる金属張積層基板は、配線回路基板の基材として使用されている。金属膜をプラスチック基板上に成膜する際は、スパッタリング等の乾式めっき法や電気めっき等の湿式めっき法、あるいはこれら両者を併用した成膜法が一般的に採用されており、このようにして成膜した金属膜をパターニング加工することで所望の配線回路を有する配線回路基板を作製することができる。
【0003】
上記金属膜のパターニング加工法としては、セミアディテブ法又はサブトラクティブ法が一般的に採用されている。これらパターニング加工法は、いずれも金属膜の表面にフォトレジストを印刷・露光・現像するか、あるいはドライフィルムレジストをラミネート・露光・現像することで所定のパターンを有するレジスト膜を形成する。そして、セミアディテブ法では、レジスト膜で覆われていない露出箇所が配線になるため、該露出箇所の金属膜の表面に更に金属膜を成膜して膜厚化した後、レジスト膜で覆われている不要な金属膜を除去する。一方、サブトラクティブ法では、レジスト膜で覆われている箇所が配線になるため、レジスト膜で覆われていない露出箇所の金属膜をエッチングにより除去する。
【0004】
ところで、上記の配線回路基板の製造方法では、出発原料のプラスチック基板の表面に異物が付着していると、この異物が成膜時や配線回路の形成時に障害となり、ピンホールの多発、配線リードの欠け、又は断線等の不良を生じさせたり、エッチング不良のため金属が除去されずに配線間をまたぐように残存して短絡を頻発させたりする。特に、近年は配線ピッチがますます微細化する傾向にあり、従来はあまり問題にならなかった微小な異物でも上記のような不良の原因となり得るため、異物除去の重要度が高まっている。そこで、これら異物を除去する様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、ロールツーロールで搬送される長尺状のフィルム基板に対してその表面に付着している異物をロールツーロール搬送経路に設けた粘着ローラーで除去する技術が提案されている。
【0005】
また、金属張積層基板には高い剥離強度が求められる場合があり、プラスチック基板に表面改質を行うことでプラスチック基板と金属膜との密着性を高めることが行われている。この表面改質の方法として、例えば特許文献2にはプラスチック基板の表面を酸化剤の存在下で紫外線照射処理した後、過マンガン酸塩等の酸化剤による化学反応でエッチングし、これによりプラスチック基板の表面を粗化してそのアンカー効果により密着性を向上させる表面処理法が開示されている。更に簡易的な改質法として、特許文献3にはオゾンなどの気体状酸化剤の雰囲気下でプラスチック基板の表面に紫外線照射を行って表面改質を行う技術が開示されている。また、減圧雰囲気下でプラスチック基板の表面にプラズマ処理を行い、これにより該プラスチック基板の表面に金属と結合できる反応性の官能基を生成させて密着性を発現する改質法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−167688号公報
【特許文献2】特開平9−157417号公報
【特許文献3】特開2006−274176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の配線回路基板の不良の原因となる異物としては、プラスチック基板のスリットによるスリット異物(プラスチックくず)、プラスチック基板の原料のモノマー等の有機物、触媒等の低分子量の付着物、プラスチックの未硬化物等のオリゴマー付着物等を挙げることができる。これら異物のうち、プラスチック基板に付着している比較的大きな異物は上記の特許文献1の方法である程度除去できるが、有機物や細かな異物は除去するのが困難であった。
【0008】
有機物がプラスチック基板に付着したままであると、真空成膜時に当該有機物が揮発し、該真空成膜による被膜層を酸化あるいは炭化してしまい、当該被膜層が良好にエッチングできなくなり、配線加工時に不具合が生ずることがあった。また、プラスチック基板に付着している有機物がオリゴマー付着物の場合は、真空成膜の次工程において電気めっき処理を行う場合、導電性が低下するため電気めっき膜の成長に異常をきたして表面に凹凸が生じさせ、その後の配線加工の際にショートあるいはオープン不良が生ずることがあった。
【0009】
また、金属張積層基板の剥離強度を高めるため、酸化剤でプラスチック基板の表面をエッチングする特許文献2の方法は、溶液中で処理を行うためプラスチック基板を表面改質しながら洗浄することが可能であるが、液状の酸化剤によるプラスチック基板の表面処理では化学反応の制御が難しく、プラスチック基板の表面の分子を寸断するなどの劣化を生じさせるおそれがある。このように表面が劣化したプラスチック基板では、金属膜との密着性が低下することがあった。これに対してオゾンガス雰囲気下での紫外線照射やプラズマ処理による表面改質は、プラスチック基板と金属膜との密着性をある程度確保できるものの、液相中での処理ではないので表面改質と同時に有機物や異物の洗浄を行うことはできない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、プラスチック基板の表面に付着している異物や有機物を除去して金属張積層基板の作製時にピンホールの発生等の不良を発生しにくくし、よって外観不良や性能不良等の不具合がほとんどない配線回路基板を高収率で作製することが可能なプラスチック基板の表面処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のプラスチック基板の表面処理方法は、オゾン及び酸素を両方とも含むマイクロバブルが、該マイクロ
バブルを構成する混合ガス中のオゾン濃度3体積%以上20体積%以下の範囲で導電率1μS/cm以下の純水に含まれてなる処理液に、プラスチック基板を接触させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラスチック基板の表面に付着している異物や有機物を効果的に除去することができるので、ピンホール等の不具合がほとんどない金属張積層基板を作製することができ、この金属張積層基板をパターニング加工することで作製される配線回路基板には外見不良や性能不良等の不具合がほとんど生じないようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のプラスチック基板の表面処理方法の一具体例について説明する。この本発明の一具体例のプラスチック基板の表面処理方法は、金属張積層基板の基材となるプラスチック基板の少なくとも金属膜を積層する側の面に、酸素及びオゾンを両方とも含んだマイクロバブルを含む好適には水からなる処理液を接触させるものである。なお、後工程の真空成膜においてプラスチック基板の成膜側の面に活性な金属膜が形成されるため、金属膜を積層しない側の面にも処理液を接触させるのが好ましい。その理由は、該成膜側の面とは反対側の面に細かな異物が付着していると成膜後の巻き取り時に活性な金属膜に当該異物が接触して転写するおそれがあるが、処理液の接触により異物を除去することが可能になるからである。
【0014】
この表面処理方法で使用するオゾン及び酸素を含むマイクロバブルを含んだ処理液は、好適には純水からなる水の中にノズルを介して例えばオゾナイザからオゾン及び酸素の混合ガスを導入することで生成することができる。ここでマイクロバブルとは気泡の直径が約1μmから数百μm程度の気泡のことである。この処理液(オゾン液とも称する)を、プラスチック基板の少なくとも金属膜が積層される側の表面に接触させることで、該表面に付着している有機物等を分解することができる。また、オゾンを含有したマイクロバブルを用いることで、プラスチック基板の表面改質も可能となる。
【0015】
プラスチック基板の表面に処理液を接触させる方法としては、例えばプラスチック基板の表面に処理液を吹き付ける方法や、プラスチック基板を処理液に浸漬させる方法を挙げることができる。その際、処理液とプラスチック基板との接触時間は5秒以上60秒以下が望ましい。この接触時間が5秒未満では表面処理の効果が得られないおそれがあり、逆に60秒を超えてもそれ以上効果が向上することは期待できないので経済的でない。なお、上記接触時の処理液の温度は特に制約はないが、10〜90℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。この温度が10℃未満では有機物の分解反応の効率の低下が顕著になり、逆に90℃を超えるとマイクロバブルの液面からの放散量が多くなるので効果が得られにくくなる。
【0016】
上記マイクロバブルを構成する混合ガス中のオゾン濃度は、酸素ガスからオゾンを発生させるオゾナイザの性能にもよるが3体積%以上20体積%以下が好ましい。このオゾン濃度が3体積%未満では後述するプラスチック基板の密着性の向上が図れないことがある。逆にオゾン濃度が20体積%を超えてもそれ以上効果が向上することは期待できないので経済的でない。オゾナイザに供給する酸素は、酸素ボンベから供給される純酸素でもよいし、吸着材を利用したPSA(Pressure Swing Adsorption:圧力スイング吸着)方式の酸素濃縮装置によって大気中の空気から取り出した酸素ガスでもよい。オゾナイザのオゾン発生法には特に制約はなく、酸素ガスへの水銀灯等による紫外線照射や放電等の公知の方法を用いることができる。
【0017】
上記処理液に用いる水には純水を用いるのが好ましく、導電率1μS/cm以下の純水を用いるのがより好ましい。この導電率が1μS/cmを超えると不純物が多く含まれることになるので、プラスチック基板を汚染する恐れがある。このような不純物の少ない純水の製造方法は特に制約はなく、例えばイオン交換樹脂を用いた公知の純水製造装置で製造することができる。なお、導電率は公知の導電率計で測定することができる。
【0018】
上記処理液に含まれるマイクロバブルの直径の上限は100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。マイクロバブルの直径が100μmを超えるとプラスチック基板の接触面積が狭くなるので好ましくない。一方、マイクロバブルの直径の下限は小さければ小さいほど好ましく、ナノレベルの超微細な気泡が含まれていても構わないが、気泡の直径が小さくになるに従ってその生成が困難になり、直径の測定も容易ではないので、通常は数μm〜数十μm程度が下限となる。ここで、マイクロバブルの直径は体積積算のメジアン値で表したものであり、これは例えばマイクロトラック(登録商標)等のレーザー光散乱式の粒度分布測定装置で瞬間的に測定することができる。なお、マイクロバブルの直径は、マイクロバブルを発生させる際のオゾン及び酸素の混合ガスの供給圧力やこの混合ガスの水中への吹き込みに用いる後述するノズルの形状により定まる。
【0019】
上記混合ガスからなるマイクロバブルを水中で発生させる方法は、純水などの液中に上記混合ガスを放出するノズルの先端部を浸漬させ、このノズルに加圧した混合ガスを導入すればよい。この場合のノズルには公知のノズルを用いることができ、例えば気体と液体の旋回流を発生するノズル、ベンチュリー型発生器を具備するノズル、キャビテーション型ノズル等を用いることができる。
【0020】
上記した処理液をプラスチック基板の表面に接触させることによって、プラスチック基板の表面に付着しているモノマーやオリゴマーなどの有機物などの分解除去と、金属膜との密着性の向上に寄与する官能基をプラスチック基板の表面に導入する等の表面改質とを同時に行うことが可能になる。すなわち、マイクロバブルを含んだ処理水との接触によりプラスチック基板の表面に付着しているプラスチックくずや有機物等の異物が物理的に除去されて該表面の清浄が行われると共に、当該マイクロバブルを構成する酸素やオゾンにより金属膜との密着性の向上に寄与する官能基がプラスチック基板を構成する分子に導入される。その結果、後工程においてプラスチック基板の表面に内部に欠陥のない金属膜を成膜することができ、よってピンホール等の不具合のない高品質の金属張積層基板を作製することができる。かかる高品質の金属張積層基板は、これをパターニング加工することで得られる配線回路基板においても外観不良や性能不良が生じにくいので、高品質の配線回路基板を高い収率で作製することができる。
【0021】
上記した本発明の一具体例の表面処理方法で好適に処理できるプラスチック基板の材質としては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムなどの樹脂フィルムを挙げることができる。上記表面処理方法は、更にエポキシ樹脂、ガラスエポキシ基板、その他樹脂ボード等のプラスチック基板にも使用可能である。上記のプラスチック基板の中では、プラスチック基板の分子に官能基を導入できるものがより好ましく、このようなプラスチックとしては例えばポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、液晶ポリマー系フィルム、及びガラスエポキシ基板を挙げることができる。これらプラスチック基板は、その分子内にイミド結合やベンゼン環等を有しているので、オゾンにより官能基を導入しやすいからである。
【0022】
例えば、プラスチック基板にポリイミド系フィルムを用いる例で説明すると、ポリイミド系フィルムの表面にはイミド化が不十分な未硬化物が残留している。このポリイミド系フィルムの表面に残留する未硬化物は、ポリイミド系フィルムの脆弱層となり、金属膜とポリイミド系フィルムの密着性を低下させる。そこで、オゾン及び酸素を含むマイクロバブルを含む処理液で処理することによってこの未硬化物を分解除去することができる上、当該未硬化物が除去された表面のポリイミド分子に酸素原子等を導入することができる。
【0023】
更に、ポリイミド分子のイミド結合がマイクロバブルのオゾンや酸素と反応し、これにより金属膜との結合に寄与するカルボキシル基等の官能基も生じる。また、通常市販されているポリイミド系フィルムには、ジメチルアセトアミド等の有機溶剤や酢酸等の触媒などが数百ppm程度含まれているが、上記の処理液によってこれらの不純物を分解して除去することが可能となる。なお、プラスチック基板の表面に未硬化物のオリゴマーが残留している場合であっても、上記処理液による表面処理で除去できるので、金属膜との密着性の向上が期待できる。
【0024】
上記の処理液による表面処理後は、プラスチック基板を過熱水蒸気に晒す処理を施すことが望ましい。これにより、プラスチック基板の洗浄と乾燥とを同時に行うことができる。すなわち、上記マイクロバブルを含む処理液による処理と過熱水蒸気による処理とを併用することで、プラスチック基板の清浄度をより一層向上させることができるので、より欠陥の少ない金属被膜を有する金属張積層基板を作製することが可能となる。
【0025】
上記のプラスチック基板の処理に使用する過熱水蒸気の温度は、200℃以上500℃以下が好ましい。この温度が200℃未満ではプラスチック基板を良好に洗浄することが期待できず、逆に500℃を超えるとプラスチック基板が変形するおそれがあるので望ましくない。比較的高い耐熱温度を有するポリイミド系フィルムを用いる場合でも、500℃を超える過熱水蒸気に晒されるとポリイミド系フィルムが変形することがある。上記過熱水蒸気にプラスチック基板を晒す時間は5〜20分間が望ましい。この時間が5分未満では過熱水蒸気による洗浄の効果が十分に得られないことがあり、逆に20分を超えてもそれ以上効果が向上することは期待できないので経済的でない。上記過熱水蒸気にプラスチック基板を晒す際は、雰囲気ガスの酸素濃度に留意するのが好ましく、その酸素濃度を0.3体積%以下にすることが好ましい。
【0026】
過熱水蒸気にプラスチック基板を晒す方法としては、例えば処理容器内にプラスチック基板を装入し、この処理容器内に過熱水蒸気を導入すればよい。この場合の処理容器は、枚葉式のプラスチック基板をバッチ処理できるような密閉型の処理容器でも良いし、長尺プラスチック基板(長尺プラスチックフィルム)をロールツーロールで連続的に処理できるように、搬送経路の途中に処理容器を設けてもよい。後者の方法ではプラスチック基板が処理容器内を連続的に通過することになるので、処理容器に設けたプラスチック基板の入口及び出口から過熱水蒸気が漏れないように、これら入口及び出口にスリットを設けたり、プラスチック基板を両面から挟み込む一対のロールを設けたりするのが好ましい。これにより処理容器から漏れた過熱水蒸気が凝縮してプラスチック基板に付着するのを避けることができる。過熱水蒸気が導入されている時の処理容器内の雰囲気圧力は大気圧以上が保持されていればよく、処理容器はかかる圧力と温度に耐える構造にする必要がある。なお、過熱水蒸気は誘導加熱など公知の手段により製造することができる。
【0027】
上記の方法で表面処理が施されたプラスチック基板に対して必要に応じて発塵のない環境下で液状の付着成分を乾燥させる処理を行った後、その片面又は両面に接着剤を介さずに乾式めっき法で金属膜を成膜する。これにより金属張積層基板を作製することができる。この金属張積層基板の一例である銅張積層基板(プラスチック銅積層体)は、プラスチック基板の表面に先ず乾式めっき法で下地金属層を形成した後、該下地金属層の上に銅被覆層を形成することで作製される。乾式めっき法ではプラスチック基板の表面に金属膜を直接成膜できるので、プラスチック基板と下地金属層との間に接着剤を介在させる必要はない。
【0028】
特に、上記した本発明の一具体例の表面処理方法により処理されたプラスチック基板は表面が清浄化されている上、金属膜との密着性の向上に寄与する官能基が導入されているので、例えばスパッタリング法で乾式成膜すると、プラスチック基板の表面に下地金属層として堆積するスパッタ粒子の原子と当該プラスチック基板とがより強固に結合するので、結果的にプラスチック基板と金属膜との密着性が向上する。上記の下地金属層は、例えば膜厚3〜40nmであってニッケルの割合が50〜95質量%のニッケル系合金からなり、上記銅被膜層は例えば膜厚10nm〜35μmの銅から成る。これら下地金属層及びその上の被膜層の組成や膜厚を変更することで、プラスチック銅積層体以外の金属張層積層板を作製することができる。下地金属層は一般的にスパッタリング法、蒸着法等の公知の真空成膜法による乾式めっき法で成膜されるため、例えば所定の合金組成を有する下地金属層を成膜する場合は、その合金組成を有する合金ターゲットを用いてスパッタリングすればよい。
【0029】
上記の下地金属層の上に形成する銅被膜層は、スパッタリング法、蒸着法等の公知の真空成膜方法からなる乾式めっき法や電気めっき法などの湿式めっき法により成膜することができる。これら乾式めっき法及び湿式めっき法を併用してもよく、例えば下地金属層の表面に乾式めっき法で銅薄膜層を形成し、この銅薄膜層の上に更に電気めっき法で銅厚膜層を成膜することができる。電気めっき法は乾式めっき法より成膜速度が速いので全体としての成膜時間を短縮することができる。このようにして作製した金属張積層基板を前述したサブトラクティブ法やセミアディテブ法でパターニング加工することで配線回路基板を作製することができる。
【実施例】
【0030】
厚さ38μmのポリイミドフィルム(東レ・デユポン社製、製品名「カプトン150EN」)から縦12cm×横12cmのフィルム基板を9枚切り出し、マイクロバルブを含む25℃の処理液に60秒浸漬させる処理、及び超音波振動がかけられた25℃の純水に60秒浸漬させる処理で各々3枚ずつ処理し、残る3枚にはこれらの処理を施さなかった。なお、上記のマイクロバルブを含む処理液は、導電率0.1μS/cmの純水に、オゾン濃度5体積%の酸素ガスを旋回型ノズル(ナノプラネット社製、型番M2−LM/SUS)を用いて吹き込むことで生成した。この生成した処理液に含まれるマイクロバブルの直径をレーザー光散乱式の粒度分布測定装置(Sympatec社製レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS)を用いて測定したところメジアン値で15μmであった。
【0031】
次に、上記の9枚のフィルム基板の各々の片面側に、第1層目として7質量%Cr−Ni合金ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いて直流スパッタリング法により7質量%Cr−Ni合金からなる下地金属層を成膜した。これら成膜後の9枚のうち、表面処理が異なるものを1枚ずつ3枚抜き出して透過電子顕微鏡(TEM:日立製作所株式会社製)を用いて金属層の層厚を測定したところ全て10nmであった。次に、残る6枚の各々に対して第2層目としてCuターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を用いて直流スパッタリング法により膜厚8μmの銅被膜層を成膜した。このようにして表面処理が異なる試料1〜3の金属張積層基板(銅張積層基板)を各試料2枚ずつ作製した。
【0032】
得られた各試料の銅張積層基板のうちの一方に対して、銅被膜層の上にフォトレジストで20μmピッチ(線幅10μm、隣接する線間の間隔10μm)の回路パターンを形成し、塩化第二鉄の水溶液でエッチング処理を行い、上記回路パターンを有する銅からなる配線が形成された3枚の試験片を作製した。これら3枚の試験片に対して外観観察を行って断線している箇所、配線欠けが生じている箇所、10μmの線幅から銅層がはみ出している箇所、良好にエッチングされずに銅層が配線間をまたいで残留する短絡箇所の個数をそれぞれカウントした。更に、各試料の銅張積層基板のうちのもう一方に対して、金属膜に線幅1mmのライン状の回路パターンが形成されるように該金属膜をエッチング加工し、その室温での密着強度をIPC−TM−650、Number:2.4.9、Revision:E、Method:Aに従い測定した。その測定結果を上記の不具合箇所の数と共に下記表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
上記表1から分かるように、マイクロバブルを含む処理液で処理したフィルム基板を用いて作製した銅張積層基板及びこれをパターニング加工して得た回路基板は、超音波洗浄で処理した場合や未処理の場合に比べて全ての検査項目において優れていた。その理由は、超音波洗浄は未処理の場合に比べて不具合箇所が減っているのでフィルムに付着している異物はある程度除去できると考えられるが、超音波洗浄による処理や未処理の場合は、ポリイミドフィルムの分子に密着性の向上に寄与する官能基は導入できないことやポリイミドフィルム表面の脆弱層の除去が不十分になるので、マイクロバブルを含む処理液で処理した場合に比べて特に密着強度が顕著に低下したと考えられる。