(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(b)アルカリ土類金属の水酸化物が、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、及び水酸化ベリリウムからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、透析液を検体とした場合に前記方法を適用すると、培地が白濁して微生物のコロニーの視認性が低下するという新たな課題が生じた。これは、透析液に通常多量に含まれる炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウム(非特許文献2)が、ポリアクリル酸ナトリウムと反応して炭酸ガスを発生させて、培地中に無数の気泡を生じさせることに起因することが分かった。
かかる状況において、本発明は、透析液等の炭酸イオンや重炭酸イオンを含有する検体中に存在する少量の微生物数を、透析液由来の炭酸ガスの発生を抑制し簡便かつ正確に計測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究の末、ポリアクリル酸ナトリウムを含む培地の成分として、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物を添加すると、炭酸ガスの発生を抑制でき、微生物数計測の際の視認性を確保できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1](a)ポリアクリル酸及び/又はその塩、(b)アルカリ土類金属の水酸化物、並びに(c)栄養成分を含有する、微生物数計測用培地を調製するための組成物。
[2]さらに(d)呈色試薬を含有する、[1]に記載の組成物。
[3]前記(b)アルカリ土類金属の水酸化物が、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、及び水酸化ベリリウムからなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の組成物と、培養容器とを含む、微生物数計測用培養器材。
[5][1]〜[3]のいずれかに記載の組成物に検体を加えて混和する工程、前記検体に含まれる微生物を培養する工程、及び前記微生物のコロニー数を計測する工程を含む、微生物数の計測方法。
[6]前記検体が、0.005mol/100mL以上の炭酸イオン又は重炭酸塩イオンを含有する、[5]に記載の計測方法。
[7]前記検体中の微生物数が、0.1CFU/mL以下である、[5]又は[6]に記載の計測方法。
[8]前記検体重量が、前記組成物中の前記(a)ポリアクリル酸及び/又はその塩の重量の10〜10000倍である、[5]〜[7]のいずれかに記載の計測方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭酸イオンや重炭酸イオンを含有する検体に対しても、炭酸ガスの発生を抑制し検体中の微生物数を、簡便かつ正確に計測することが可能になる。特に大容量の検体中に存在する少量の微生物数であっても、定量的な検出を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組成物は、(a)ポリアクリル酸及び/又はその塩、(b)アルカリ土類金属の水酸化物、並びに(c)栄養成分を必須に含有する。
本発明の組成物は、微生物数計測用培地を調製するためのものである。前記調製は、通常、計測対象の微生物を含む液体検体をそのまま培地を構成するゲルの溶媒として添加し混和することにより行われる。かかる使用態様において、本発明の組成物及びこれを用いて調製された培地は、従来の微生物用の培地とは異なる。
【0012】
(a)ポリアクリル酸及び/又はその塩は、対象微生物の培養及び計測のための培地を構成するゲル化剤の役割を担う。ポリアクリル酸及び/又はその塩は、液体検体と混和することにより、均一なゲルを形成する。かかるゲル形成において、通常は加熱による溶解や冷却を要しないため、操作を簡便が簡便であり、また対象微生物の生育が妨げられない。
形成されるゲルは通常は流動性がないため、微生物の存在数を正確に計測することができる。また、該ゲルからは通常は離水が生じないため、微生物のコロニーの存在数を正確に計測することができる。
また、ポリアクリル酸及び/又はその塩により形成されるゲルは通常は透明であるため、微生物のコロニーを目視で正確に検出することができる。
【0013】
一般に、微生物用培地等には、寒天、カラギーナン、ローカストビーンガム等のゲル化剤が用いられるが、これらは液体溶媒を固化させる際に加熱が必要であるため、微生物を
含む液体検体をそのまま固化させるのには適さない。また、前記ゲル化剤を用いて固化させたゲルは透明性が低い点も適さない。
また、ポリビニルアルコールは、液体溶媒と均一に混和させるのが難しいうえ、離水しやすいという問題がある。また、キサンタンガムも、液体溶媒と均一に混和させるのが難しくダマになりやすいうえ、固化させたゲルが不透明になりやすい。
カルボキシメチルセルロースは、液体検体を固化することができず、流動性のあるゲルとなるため、微生物の定量的な検出に適さない。
【0014】
(a)ポリアクリル酸及び/又はその塩として、ポリアクリル酸ナトリウムを用いる場合は、固化能の観点から、重合度10,000以上のものが好ましく、重合度22,000以上のものがより好ましい。また、架橋されていてもされていなくてもよい。
【0015】
本発明におけるポリアクリル酸ナトリウムの使用時の濃度は、特に限定されないが、例えば0.01〜10g/100mLが好ましく、0.5〜5g/100mLがより好ましい。
また、他の(a)ポリアクリル酸及び/又はその塩を用いる場合は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、使用時の濃度は固形ゲルが形成される範囲とすればよい。
【0016】
(b)アルカリ土類金属の水酸化物は、前記ポリアクリル酸等と検体中の炭酸イオン又は重炭酸イオンとの反応による炭酸ガスの発生を抑制するためのものである。
アルカリ土類金属の水酸化物は、特に限定されないが、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ラジウム、及び水酸化ベリリウムが好ましく挙げられ、取り扱いや微生物の発育への影響の点で水酸化カルシウムが特に好ましい。
なお、これらを添加した場合でも、ポリアクリル酸等のゲルの透明性やゲル化は妨げられない。
【0017】
本発明における(b)アルカリ土類金属の水酸化物の使用時の濃度は、特に限定されないが、好ましくは、検体に含まれる炭酸イオン及び重炭酸イオンの等モル濃度以下である。例えば、一般的な透析液を検体とし、(b)アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウムを使用する場合は、使用時の濃度として0.01〜10g/100mLが好ましく、0.1〜0.5g/100mLがより好ましい。
【0018】
(c)栄養成分は、対象微生物を発育させるためものである。
栄養成分としては、特に限定されないが、ペプトン、獣肉エキス、酵母エキス、魚肉エキス等を好ましく挙げられる。
非特許文献1に記載されているように、上水試験では標準寒天培地、製薬用水や透析水の試験ではR2A寒天培地を用いることが推奨されている。そのため、これら寒天培地の寒天を排除したブイヨン培地かそれと同等の成分を、本発明の組成物の含有成分とすることが好ましい。
【0019】
本発明の組成物は、さらに(d)呈色試薬を含有することが好ましい。これは、培養によって生じた微生物のコロニーを有色のものとしてより検出・計測しやすくするためである。
呈色試薬としては、例えば、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)やテトラゾリウムバイオレット等をはじめとする酸化還元指示薬が挙げられる。これは、検体中に存在する全ての種類の微生物を計測したい場合に好ましく用いることができる。TTCを用いる場合は使用時の濃度として1〜100mg/Lが好ましく、10〜50mg/Lがより好ましい。
【0020】
また、呈色試薬としては、特定の微生物種のみが保有する酵素に対する基質(以下、酵素基質という)であって、分解されることにより色素化合物を遊離し得る化合物を用いてもよい。これは、該特定の微生物を計測したい場合に好ましく用いることができる。
ここで色素化合物とは、可視光下で有色のもの及び蛍光発色するものの何れでもよい。可視光下で有色の化合物として遊離され得る官能基としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル基等が挙げられ、遊離した5−ブロモ−4−クロロ−3−インドールは酸化縮合して5,5’−ジブロモ−4,4’−ジクロロ−インディゴとなり、青色を呈する。蛍光発色する化合物として遊離され得る官能基としては、4−メチルウンベリフェリル基等が挙げられ、遊離した4−メチルウンベリフェロンは紫外線照射下で蛍光を発する。
【0021】
酵素基質の例を挙げると、対象微生物が大腸菌群の場合は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−ガラクトピラノシド(X−GAL)や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルクロン酸等を、黄色ブドウ球菌の場合は、リン酸5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル(X−phos)等を、腸球菌等の場合は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D−グルコピラノシド(X−GLUC)等を、真菌の場合は、X−phos、酢酸5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルや酪酸5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル等を、それぞれ好ましく用いることができる。さらに、全ての微生物種を検出したい場合には、これら全てを組み合わせて使用してもよい。
これらの酵素基質の使用時の濃度は、例えば、0.01〜1.0g/Lが好ましく、0.2〜1.0g/Lがより好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、さらに、選択物質、抗菌性物質、無機塩類、糖類、増粘剤、pH調整剤、等を任意に含有してもよい。
選択物質としては、例えば、ポリミキシンBやバンコマイシンなどの抗生物質や、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween80、コール酸ナトリウム等の胆汁酸塩等の界面活性剤が挙げられる。
抗菌性物質としては、例えば、ポリリジン、プロタミン硫酸塩、グリシン、ソルビン酸等が挙げられる。
無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機酸金属塩、ピルビン酸ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸金属塩が挙げられる。
糖類としては、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース、キシロース、セロビオース、マルトースが挙げられる。
増粘剤としては、例えば、デンプン及びその誘導体、ヒアルロン酸、アクリル酸誘導体、ポリエーテル、コラーゲン等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。なお、本発明の組成物は、対象微生物の生育の観点から、使用時のpHが好ましくは6.0〜8.0に、より好ましくは6.5〜7.5になるような組成である。
【0023】
本発明の組成物は、培養容器と組み合わせて、微生物数計測用培養器材として提供されてもよい。
かかる培養容器は、液体検体を、通常は濃縮や希釈等の処理をすることなく、そのまま収容し、その中で本発明の組成物と混和して、前記組成物が含有する高分子化合物をゲル化させて培地を形成し、微生物を培養するためのものである。
培養容器の形態は特に限定されず、必要量の液体検体を十分に収容できるものであればよい。例えば、本発明の組成物と液体検体とを振とうにより混和させるのには、円筒形等の形状で、変形しにくい材料の容器が好ましい。また、例えば本発明の組成物と液体検体とを容器ごと揉んだり押圧したりして混和させるのには、変形しやすい、柔軟性のある材
料の容器が好ましい。例えば、ポリビニル系やポリエチレン系ポリマー等の袋状容器が好ましく挙げられ、蓋やジッパー等の封入具があればより好ましい。また、培養容器は透明であることが、微生物のコロニーを容器外から計測しやすいことから、好ましい。これらの収容可能用量としては、特に限定されないが、100〜1000mLが好ましく挙げられ、少量の微生物を含む大容量の検体に適用するのに適する。
従来は予め形成されている培地を含む培養器材に検体を接触させて培養及び計測を行うものであったのに対し、本発明の微生物数計測用培養器材においては、培養容器内で液体検体そのものを溶媒として前記高分子化合物をゲル化させ、検体中の微生物がゲル内部で培養され計測に供されるという使用態様に好適である点で異なる。
【0024】
また、培養容器を小型の平板(シート)状としてもよく、例えば1mL程度の少量の検体を用いて検出を行うのに適する。
例えば、一般的なシャーレや、凹型の皿状シートと平型又は凸型のシートとを重ねた収容容器の形態が挙げられる。平板状の形態とすることで、微生物のコロニーがより計測しやすくなる。また、小型化することにより、一度に複数の検体を並行して処理しやすくなる。
このような小型の平板状の培養容器の場合は、希釈した検体にも使用が可能となるため、検体中の微生物数が、例えば300CFU/mL以下である場合にも好適となる。
【0025】
上記説明した本発明の微生物数計測用培地を調製するための組成物は、本発明の計測方法に好適に用いることができる。
本発明の計測方法は、本発明の組成物に検体を加えて混和する工程、前記検体に含まれる微生物を培養する工程、及び前記微生物のコロニー数を計測する工程を含む。
本発明の組成物と液体検体との混和は、任意の方法で行うことができ、例えば容器ごと振とうしたり揉んだり、又は滅菌した器具でかき混ぜればよい。
微生物の培養条件は、特に限定されないが、対象微生物の種類により適正に選ばれるが、例えば35±2℃で24〜48時間が好ましい。
培養後の培地中には、対象微生物の生育コロニーが出現し、目視等で確認することができ、また、炭酸ガスの気泡が生じにくいため、正確に数を計測することができる。
【0026】
本発明の計測方法は、微生物の存在量が少ない、すなわち清浄度の高い検体に好適に用いることができる。例えば、検体中の微生物数が、通常の1mLの検査では検出できない0.1CFU/mL以下である場合に好適である。
一般に、微生物の存在量が多い検体であれば、検出方法に適するように適当に希釈して計測することができるが、存在量が少ない場合は濃縮が繁雑であったり困難であったりする。本発明の計測方法は、そのような場合でも、簡便かつ正確に微生物数を検出できる点で有用である。
【0027】
また、本発明の計測方法は、量の多い液体検体であっても、前処理することなくそのまま計測に供することができる点でも有用である。例えば、検体重量が、本発明の組成物中の前記(a)ポリアクリル酸ナトリウムの抱水能に応じた大量の、例えばその重量の10〜10000倍である場合に好適である。あるいは、大量の、例えば100mL以上の検体の場合に好適である。
【0028】
本発明の計測方法を適用しうる検体としては、特に限定されないが、通常は、炭酸イオン又は重炭酸塩イオンを0.005mol/100mL以上含有する液体検体である。かかる液体検体としては透析水が好ましく挙げられる。また、このような検体を予めトリプトソイブイヨン等で培養した培養液であってもよい。
【実施例】
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
<参考例1>
(1)微生物計測用培地を調製するための組成物の作製
表1に示す組成の原料を、容積150mLの円筒形の無色透明プラスチック容器内で混合して組成物を作製した。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)菌株の供試
供試菌株はBacillus subtilis NBRC3134を使用した。これをトリプトソイ寒天培地で24時間前培養した後、マクファーランド比濁#1相当(約3.0×10
8CFU/mL)
になるように滅菌綿棒を用いて滅菌生理食塩水に懸濁し、菌原液とした。該菌原液を用いて、滅菌生理食塩水にて10倍段階希釈を10
-8まで繰り返し、数CFU/1mLの菌希釈液を作製した。該菌希釈液1mLを99mLの滅菌水に加えて、数CFU/100mLの、ごく少量しか微生物が存在しない試料液とした。該試料液を、上記(1)で作製した組成物に100mL加え、数分間上下に振とうして混和し、室温にて固化させた。固化した培地を静置し、35℃で24時間培養した後、発育の有無を確認した。
【0033】
(3)結果
図1にBacillus subtilisのコロニーを示す。
参考例1の組成物を用いることで、供試菌株の試料液は速やかに固化し、培養後は
図1に示すように透明のゲルの中に赤色のコロニーが確認でき、容易にその数を計測することができた。
【0034】
<実施例1及び比較例1>
(1)微生物計測用培地を調製するための組成物の作製
表2に示す組成の原料を、容積100mLの無色透明プラスチック製スパウトバッグ容器内で混合して、比較例1の組成物を作製した。
また、表2に示す組成の原料に、水酸化カルシウム0.3g/100mLも加えて、容積100mLの無色透明プラスチック製スパウトバッグ容器内で混合して、実施例1の組成物を作製した。なお、実施例1の組成物における水酸化カルシウムの使用時の濃度は、後述の(2)で添加する透析液リンパック透析剤TA3(ニプロ株式会社製)の100m
L中の炭酸水素ナトリウム含有量の25mol%に相当する。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)透析液の供試
リンパック透析剤TA3(ニプロ株式会社製)を添付文書に従って調製した透析液を、実施例1又は比較例1の組成物を収納する容器に100mLずつ加え、数分間容器を揉むことにより十分に混和したのち、室温にて固化させた。その後、35℃、24時間静置した後に培地の様子を観察した。
【0037】
(3)結果
図2に示すように、比較例1の組成物を用いて作製した培地では、炭酸ガスと思われる無数の気泡が発生し、培地が白く濁ったように見えた。
一方、
図3に示すように、実施例1の組成物を用いて作製した培地では、炭酸ガスと思われる気泡の発生が抑制され、微生物数計測の際の視認性が向上した。なお、実施例1の組成物を用いた場合であっても、比較例1とゲル化速度は変わらなかった。