特許第6870618号(P6870618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870618
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】回路接続用接着剤組成物及び構造体
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/00 20060101AFI20210426BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20210426BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210426BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20210426BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20210426BHJP
   H05K 1/14 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C09J4/00
   C09J9/02
   C09J11/04
   C09J11/06
   H01B1/22 D
   H05K1/09 D
   H05K1/14 H
   H05K1/14 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-552682(P2017-552682)
(86)(22)【出願日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2016084747
(87)【国際公開番号】WO2017090659
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229924(P2015-229924)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】森尻 智樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】立澤 貴
(72)【発明者】
【氏名】篠原 研吾
(72)【発明者】
【氏名】川端 泰典
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−024949(JP,A)
【文献】 特開2015−166406(JP,A)
【文献】 特開2014−074139(JP,A)
【文献】 特開2015−005435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 4/00
C09J 9/02
C09J 11/04
C09J 11/06
H01B 1/22
H05K 1/09
H05K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラジカル重合性化合物と、(B)ラジカル発生剤と、(C)金属水酸化物及び金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属化合物を含む粒子と、シランカップリング剤と、を含有し、
前記金属化合物が、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、ビスマス、カルシウム、錫、マンガン、アンチモン、及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記シランカップリング剤の含有量が当該回路接続用接着剤組成物の接着剤成分の全質量を基準として0.1〜10質量%である、回路接続用接着剤組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が前記金属水酸化物を含む、請求項1に記載の回路接続用接着剤組成物。
【請求項3】
前記(C)成分の平均一次粒径が10μm以下である、請求項1又は2に記載の回路接続用接着剤組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の含有量が前記(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の回路接続用接着剤組成物。
【請求項5】
導電粒子を更に含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の回路接続用接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の回路接続用接着剤組成物又はその硬化物を備える、構造体。
【請求項7】
第一の回路電極を有する第一の回路部材と、
第二の回路電極を有する第二の回路部材と、
前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備え、
前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極が電気的に接続されており、
前記回路接続部材が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の回路接続用接着剤組成物又はその硬化物を含む、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路接続用接着剤組成物、及び、それを用いた構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、液晶ディスプレイ等の分野において、電子部品の固定、又は、回路接続を行うために各種の接着剤が使用されている。これらの用途では、ますます高密度化又は高精細化が進み、高い接着性又は信頼性が接着剤に求められている。特に、回路接続材料としては、液晶ディスプレイとTCPとの接続、FPCとTCPとの接続、FPCとプリント配線板との接続、半導体シリコンチップと基板との接続、FPCとタッチパネルモジュールとの接続、FPCとFPCとの接続等において、導電粒子を含有する異方導電性接着剤が使用されている。
【0003】
従来、前記接着剤では、高接着性及び高信頼性を示す熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)が用いられている。エポキシ樹脂を使用した接着剤の構成成分としては、エポキシ樹脂、及び、エポキシ樹脂に対する反応性を有するカチオン種又はアニオン種を熱又は光により発生させる潜在性硬化剤が一般に用いられている。潜在性硬化剤は、硬化温度及び硬化速度を決定する重要な因子であり、常温での貯蔵安定性及び加熱時の硬化速度の観点から、種々の化合物が用いられてきた。実際の工程では、例えば、温度170〜250℃、10秒〜3時間の硬化条件で硬化することにより所望の接着性を得ていた。
【0004】
また、近年、半導体素子の高集積化及びディスプレイ表示素子の高精細化に伴い、素子間及び配線間ピッチが狭小化し、硬化時の熱によって、周辺部材に悪影響を及ぼすおそれがある。さらに、低コスト化のためには、スループットを向上させる必要があり、低温(90〜170℃)且つ短時間(1時間以内、好ましくは40秒以内、より好ましくは20秒以内)での接着、換言すれば、低温短時間硬化(低温速硬化)での接着が要求されている。この低温短時間硬化を達成するためには、活性化エネルギーの低い熱潜在性触媒を使用する必要があるが、常温付近での貯蔵安定性を兼備することが非常に難しいことが知られている。
【0005】
そのため、近年、ラジカル硬化系の接着剤(例えば、(メタ)アクリレート誘導体と、ラジカル重合開始剤である過酸化物とを併用したラジカル硬化系の接着剤)が注目されている。ラジカル硬化系は、反応活性種であるラジカルが非常に反応性に富むため短時間硬化が可能であり、且つ、ラジカル重合開始剤の分解温度以下では、接着剤が安定に存在することから、低温短時間硬化と貯蔵安定性(例えば、常温付近での貯蔵安定性)とを両立した硬化系である。また、ラジカル硬化系は、カチオン−エポキシ硬化系、アニオン−エポキシ硬化系等のエポキシ硬化系のようなイオン重合を用いないため、エポキシ硬化系と比べた利点として、一般的な高温高湿試験を行った際の耐腐食性が優れるという特徴がある。一方、カチオン−エポキシ硬化系又はアニオン−エポキシ硬化系の接着剤では、金属水酸化物又は金属酸化物等を添加することで、前記腐食を抑えることがある(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−199778号公報
【特許文献2】特開2012−46756号公報
【特許文献3】特開2012−46757号公報
【特許文献4】特開2012−41544号公報
【特許文献5】国際公開第2009/063827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ウェアラブル端末(身につける端末)、及び、高耐久性を付加価値として有するディスプレイ端末(スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ等)が増えてきている。これらの端末の構成部材向けの回路接続材料に対しては、汗、海水等の塩水を想定して、回路接続材料を用いて得られた構造体が塩水に曝された場合であっても優れた接続信頼性、すなわち、優れた塩水耐性(塩水への耐性)を有することが求められている。
【0008】
本発明は、優れた塩水耐性を有する構造体を得ることが可能な回路接続用接着剤組成物、及び、それを用いた構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)ラジカル重合性化合物と、(B)ラジカル発生剤と、(C)金属水酸化物及び金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属化合物を含む粒子と、を含有し、前記金属化合物が、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、ビスマス、カルシウム、錫、マンガン、アンチモン、ケイ素及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、回路接続用接着剤組成物に関する。
【0010】
本発明に係る回路接続用接着剤組成物によれば、優れた塩水耐性(塩水(汗、海水等)に曝された場合であっても優れた接続信頼性)を有する構造体を得ることができる。そのため、ウェアラブル用途等の厳しい環境に対しても優れた信頼性を得ることができる。また、本発明に係る回路接続用接着剤組成物によれば、低温短時間接続を達成することもできる。そのため、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)等の耐熱性が低い材料の被着体を用いることが可能であることから、被着体の選択肢を広げることができる。
【0011】
塩水耐性(塩水への耐性)を評価する方法としては、JIS Z 2371(2000 塩水噴霧試験方法);ISO 9227(2006 Corrosion tests in artificial atmospheres−Salt spray tests.);5%の塩水につける方法;塩水につけた後に高温高湿槽に入れる方法等が行われている。本発明者らの検証の結果、回路接続用接着剤組成物で接続して得られる構造体に対して、塩水耐性に関する前記試験を行う場合、ラジカル硬化系の回路接続用接着剤組成物は、カチオン−エポキシ硬化系又はアニオン−エポキシ硬化系の回路接続用接着剤組成物に比べて塩水耐性が低いことがわかった。ラジカル硬化系の回路接続用接着剤組成物の極性が低く、被着体(基板等)と接着剤組成物との界面の密着性が低いため、塩水中のイオン性成分が前記界面に容易に侵入し、接着阻害が起こると考えられる。例えば、ラジカル重合性化合物の重合体が主骨格として炭素−炭素結合(C−C)を有する場合には、極性が低い傾向がある。特に、被着体が、SiO、SiN等の絶縁材料を含む絶縁材料部を有する場合、当該絶縁材料部は、表面に水酸基を多数有し、水(塩水等)に対して濡れやすいのに対し、ラジカル硬化系の回路接続用接着剤組成物に対して濡れにくいため、接着阻害が起こりやすく、構造体の信頼性を著しく低下させる。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ラジカル硬化系の回路接続用接着剤組成物において、特定の金属元素を含む金属水酸化物又は金属酸化物を含む粒子を用いることにより、構造体の塩水耐性を著しく向上させることができることを見出した。これは、金属水酸化物又は金属酸化物により、接着剤組成物自体の極性が上がること、及び、接着阻害を招くイオン性成分を金属水酸化物又は金属酸化物が捕捉して接着阻害を抑制すること等が要因であると考えられる。
【0013】
前記(C)成分は、前記金属水酸化物を含んでいてもよい。前記(C)成分の平均一次粒径は、10μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る回路接続用接着剤組成物は、シランカップリング剤を更に含有してもよい。本発明に係る回路接続用接着剤組成物は、導電粒子を更に含有していてもよい。
【0015】
本発明の構造体は、前記接着剤組成物又はその硬化物を備える。
【0016】
本発明の構造体は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材と、前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備え、前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極が電気的に接続されており、前記回路接続部材が前記接着剤組成物又はその硬化物を含む態様であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた塩水耐性を有する構造体を得ることが可能な回路接続用接着剤組成物、及び、それを用いた構造体を提供することができる。
【0018】
本発明によれば、構造体(回路接続構造体等)又はその製造への接着剤組成物又はその硬化物の応用を提供することができる。本発明によれば、回路接続への接着剤組成物又はその硬化物の応用を提供することができる。本発明によれば、ウェアラブル用途への構造体の応用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
図2】本発明の構造体の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0021】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。「常温」とは、25℃を意味する。
【0022】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0023】
<接着剤組成物>
本実施形態の接着剤組成物は、(A)ラジカル重合性化合物(ラジカル重合性物質、ラジカル反応性成分)と、(B)ラジカル発生剤と、(C)金属水酸化物及び金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属化合物を含む粒子と、を含有する回路接続用接着剤組成物である。以下、各成分について説明する。
【0024】
(ラジカル重合性化合物)
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能な官能基を有する化合物である。このようなラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリレート化合物、マレイミド化合物、シトラコンイミド化合物、ナジイミド化合物等が挙げられる。「(メタ)アクリレート化合物」とは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。ラジカル重合性化合物は、モノマー又はオリゴマーの状態で用いてもよく、モノマーとオリゴマーとを併用することもできる。ラジカル重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリレート化合物以外のラジカル重合性化合物としては、例えば、特許文献5(国際公開第2009/063827号)に記載の化合物を好適に使用することができる。(メタ)アクリレート化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
ラジカル重合性化合物としては、更に優れた塩水耐性を得る観点から、(メタ)アクリレート化合物が好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物は、耐熱性が向上する観点から、ジシクロペンテニル基、トリシクロデカニル基及びトリアジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有することが好ましい。
【0027】
また、ラジカル重合性化合物として、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物を用いることが好ましく、(メタ)アクリレート化合物等の前記ラジカル重合性化合物と、式(I)で表されるリン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物とを併用することがより好ましい。これらの場合、無機物(金属等)の表面に対する接着強度が向上するため、例えば、回路電極同士の接着に好適である。
【化1】
[式中、nは1〜3の整数を示し、Rは、水素原子又はメチル基を示す。]
【0028】
前記リン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物は、例えば、無水リン酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。前記リン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物の具体例としては、モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドフォスフェート、ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドフォスフェート等が挙げられる。式(I)で表されるリン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
式(I)で表されるリン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物の含有量は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、ラジカル重合性化合物(ラジカル重合性化合物に該当する成分の総量。以下同様)100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。式(I)で表されるリン酸エステル構造を有するラジカル重合性化合物の含有量は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0030】
前記ラジカル重合性化合物は、アリル(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。この場合、アリル(メタ)アクリレートの含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
【0031】
ラジカル重合性化合物の含有量は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、接着剤組成物の接着剤成分(接着剤組成物中の導電粒子以外の固形分。以下同様)の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。ラジカル重合性化合物の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。ラジカル重合性化合物の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。これらの観点から、ラジカル重合性化合物の含有量は、10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましく、30〜70質量%であることが更に好ましい。
【0032】
(ラジカル発生剤)
ラジカル発生剤は、熱、光(UV等)、超音波、電磁波などにより分解して遊離ラジカルを発生する硬化剤(ラジカル重合開始剤等)である。
【0033】
ラジカル発生剤としては、過酸化物(有機過酸化物等)、アゾ系化合物などが挙げられる。ラジカル発生剤は、目的とする接続温度、接続時間、ポットライフ等により適宜選定される。ラジカル発生剤の10分間半減期温度は、高反応性及びポットライフの向上の観点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、高反応性及びポットライフの向上の観点から、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。ラジカル発生剤は、高反応性及びポットライフの向上の観点から、10分間半減期温度が40℃以上、且つ、1分間半減期温度が180℃以下の有機過酸化物が好ましく、10分間半減期温度が60℃以上、且つ、1分間半減期温度が170℃以下の有機過酸化物がより好ましい。
【0034】
熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤である過酸化物の具体例としては、ジアシルパーオキサイド(ベンゾイルパーオキサイド等)、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイドなどが挙げられる。
【0035】
ラジカル発生剤としては、電極(回路電極等)の腐食を抑える観点から、含有される塩素イオン及び有機酸の濃度が5000ppm以下である硬化剤が好ましく、熱分解後に発生する有機酸が少ない硬化剤がより好ましい。このような硬化剤の具体例としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、シリルパーオキサイド等が挙げられ、高反応性が得られる観点から、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート及びパーオキシエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
パーオキシエステルとしては、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。パーオキシエステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記パーオキシエステル以外の、熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤としては、例えば、特許文献5(国際公開第2009/063827号)に記載の化合物を好適に使用することができる。
【0037】
熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤であるアゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
【0038】
光により遊離ラジカルを発生する硬化剤としては、波長150〜750nmの光によってラジカルを発生する化合物を用いることができる。このような化合物としては、光照射に対する感度が高い観点から、Photoinitiation,Photopolymerization,and Photocuring,J.−P. Fouassier,Hanser Publishers(1995年)、p17〜p35に記載されているα−アセトアミノフェノン誘導体及びホスフィンオキサイド誘導体が好ましい。光により遊離ラジカルを発生する硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ラジカル発生剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤(過酸化物、アゾ系化合物等)と、光により遊離ラジカルを発生する硬化剤とを組み合わせて用いてもよい。ラジカル発生剤と、分解促進剤、分解抑制剤等とを併用してもよい。また、ラジカル発生剤をポリウレタン系又はポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化してもよい。マイクロカプセル化した硬化剤は、可使時間が延長されるために好ましい。
【0040】
ラジカル発生剤の含有量は、接続時間が25秒以下である場合、充分な反応率が容易に得られる観点から、下記の範囲が好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。これらの観点から、ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましく、1〜30質量部であることが更に好ましい。
【0041】
ラジカル発生剤の含有量は、接続時間が25秒以下である場合、充分な反応率が容易に得られる観点から、下記の範囲が好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。これらの観点から、ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、0.1〜40質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましく、1〜20質量部であることが更に好ましい。
【0042】
接続時間を限定しない場合のラジカル発生剤の含有量は、充分な反応率が容易に得られる観点から、下記の範囲が好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい。これらの観点から、ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることが更に好ましい。
【0043】
接続時間を限定しない場合のラジカル発生剤の含有量は、充分な反応率が容易に得られる観点から、下記の範囲が好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい。これらの観点から、ラジカル発生剤の含有量は、ラジカル重合性化合物及びフィルム形成材(必要により使用される成分)の合計100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることが更に好ましい。
【0044】
(金属水酸化物又は金属酸化物を含む粒子)
本実施形態の接着剤組成物は、金属水酸化物及び金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属化合物を含む粒子(以下、場合により「(C)成分」という)を含有する。(C)成分は、金属水酸化物を含んでいてもよく、金属酸化物を含んでいてもよい。前記金属化合物は、金属水酸化物又は金属酸化物を構成する金属元素として、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、ビスマス、カルシウム、錫、マンガン、アンチモン、ケイ素及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0045】
金属水酸化物は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。酸化物は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化錫、酸化チタン、酸化マンガン及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属水酸化物を含む粒子と、金属酸化物を含む粒子とを併用してもよい。
【0046】
(C)成分の平均一次粒径は、接着剤組成物中の優れた分散性、及び、被着体への高い接着性を得る観点、被着体の腐食を防止する観点、イオン成分の捕捉能を得る観点、並びに、大粒子による短絡((C)成分が異物となる場合の短絡)を抑制する観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。(C)成分の平均一次粒径が小さくなることで接着剤組成物中の(C)成分全体の比表面積が増えることにより、被着体への高い接着性を得る効果、被着体の腐食を防止する効果、及び、イオン成分の捕捉能を得る効果が得られると考えられる。(C)成分の平均一次粒径は、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。(C)成分の平均一次粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0047】
(C)成分の含有量は、接着剤組成物の接着剤成分の全質量を基準として下記の範囲であることが好ましい。(C)成分の含有量は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、3質量%以上であることが特に好ましく、4質量%以上であることが極めて好ましい。(C)成分の含有量は、優れた分散性が得られることにより、凝集粒子に起因する短絡が容易に抑制される観点から、50質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。これらの観点から、(C)成分の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、2〜10質量%であることが更に好ましく、3〜10質量%であることが特に好ましく、4〜5質量%であることが極めて好ましい。
【0048】
(C)成分の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、下記の範囲であることが好ましい。(C)成分の含有量は、更に優れた塩水耐性を得る観点から、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが更に好ましく、3質量部以上であることが特に好ましく、4質量部以上であることが極めて好ましく、5質量部以上であることが非常に好ましく、7質量部以上であることがより一層好ましい。(C)成分の含有量は、優れた分散性が得られることにより、凝集粒子に起因する短絡が容易に抑制される観点から、200質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが更に好ましく、30質量部以下であることが特に好ましく、20質量部以下であることが極めて好ましく、10質量部以下であることが非常に好ましい。これらの観点から、(C)成分の含有量は、0.1〜200質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましく、2〜100質量部であることが更に好ましく、3〜50質量部であることが特に好ましく、4〜30質量部であることが極めて好ましく、5〜20質量部であることが非常に好ましく、7〜10質量部であることがより一層好ましい。
【0049】
(シランカップリング剤)
本実施形態の接着剤組成物は、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤を用いることにより、接着剤組成物の密着力(ガラスに対する密着力等)を上昇させることができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、及び、これらの縮合物が挙げられる。
【0050】
シランカップリング剤の含有量は、接着剤組成物の接着剤成分の全質量を基準として、0.1〜10質量%が好ましく、0.25〜5質量%がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.1質量%以上であれば、回路部材と回路接続材料との界面の剥離気泡の発生を抑制する効果が更に大きくなる傾向がある。シランカップリング剤の含有量が10質量%以下であると、接着剤組成物のポットライフが長くなる傾向がある。
【0051】
(フィルム形成材)
本実施形態の接着剤組成物は、必要に応じて、フィルム形成材を含有してもよい。フィルム形成材は、液状の接着剤組成物をフィルム状に固形化した場合に、通常の状態(常温常圧)でのフィルムの取扱い性を向上させ、裂け難い、割れ難い、べたつき難い等の特性をフィルムに付与することができる。フィルム形成材としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルホルマール、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリアミド、キシレン樹脂、ポリウレタン等が挙げられる。これらの中でも、接着性、相溶性、耐熱性及び機械的強度に優れる観点から、フェノキシ樹脂が好ましい。フィルム形成材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
フェノキシ樹脂としては、例えば、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類とを重付加させることにより得られる樹脂、及び、2官能フェノール類とエピハロヒドリンとを高分子化するまで反応させることにより得られる樹脂が挙げられる。フェノキシ樹脂は、例えば、2官能フェノール類1モルと、エピハロヒドリン0.985〜1.015モルとをアルカリ金属水酸化物等の触媒の存在下、非反応性溶剤中で40〜120℃の温度で反応させることにより得ることができる。フェノキシ樹脂としては、樹脂の機械的特性及び熱的特性に優れる観点から、特に、2官能性エポキシ樹脂と2官能性フェノール類との配合当量比をエポキシ基/フェノール水酸基=1/0.9〜1/1.1とし、アルカリ金属化合物、有機リン系化合物、環状アミン系化合物等の触媒の存在下、沸点が120℃以上の有機溶剤(アミド系、エーテル系、ケトン系、ラクトン系、アルコール系等)中で、反応固形分が50質量%以下の条件で50〜200℃に加熱して重付加反応させて得た樹脂が好ましい。フェノキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
2官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニルジグリシジルエーテル、メチル置換ビフェニルジグリシジルエーテル等が挙げられる。2官能フェノール類は、2個のフェノール性水酸基を有する化合物である。2官能フェノール類としては、ハイドロキノン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、メチル置換ビスフェノールフルオレン、ジヒドロキシビフェニル、メチル置換ジヒドロキシビフェニル等のビスフェノール類などが挙げられる。フェノキシ樹脂は、ラジカル重合性の官能基、又は、その他の反応性化合物により変性(例えば、エポキシ変性)されていてもよい。
【0054】
フィルム形成材の含有量は、接着剤組成物の接着剤成分の全質量を基準として、10〜90質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
【0055】
(導電粒子)
本実施形態の接着剤組成物は、導電粒子を更に含有していてもよい。導電粒子の構成材料としては、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、はんだ等の金属、カーボンなどが挙げられる。また、非導電性の樹脂、ガラス、セラミック、プラスチック等を核とし、この核に前記金属(金属粒子等)又はカーボンを被覆した被覆導電粒子でもよい。被覆導電粒子(例えば、プラスチックを核とする導電粒子)又は熱溶融金属粒子は、加熱加圧により変形性を有するため、接続時に回路電極の高さばらつきを解消し、接続時に電極との接触面積が増加することから信頼性が向上するため好ましい。
【0056】
導電粒子の平均粒径は、分散性及び導電性に優れる観点から、1〜30μmであることが好ましい。導電粒子の平均粒径は、例えば、レーザー回折法等の機器分析を用いて測定することができる。導電粒子の含有量は、導電性に優れる観点から、接着剤組成物の接着剤成分100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。導電粒子の含有量は、電極(回路電極等)の短絡を抑制しやすい観点から、接着剤組成物の接着剤成分100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。これらの観点から、導電粒子の含有量は、0.1〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。
【0057】
(その他の成分)
本実施形態の接着剤組成物は、必要に応じて、ハイドロキノン、メチルエーテルハイドロキノン類等の重合禁止剤を適宜含有してもよい。
【0058】
本実施形態の接着剤組成物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマー成分を重合させて得られる単独重合体又は共重合体を更に含有していてもよい。本実施形態の接着剤組成物は、応力緩和に優れる観点から、グリシジルエーテル基を有するグリシジル(メタ)アクリレートを重合させて得られる共重合体であるアクリルゴム等を含有することが好ましい。前記アクリルゴムの重量平均分子量は、接着剤組成物の凝集力を高める観点から、20万以上が好ましい。
【0059】
本実施形態の接着剤組成物は、前記導電粒子の表面を高分子樹脂等で被覆した被覆微粒子を含有してもよい。このような被覆微粒子を前記導電粒子と併用した場合、導電粒子の含有量が増加した場合であっても、導電粒子同士の接触による短絡を抑制しやすいことから、隣接した回路電極間の絶縁性を向上させることができる。導電粒子を用いることなく前記被覆微粒子を単独で用いてもよく、被覆微粒子と導電粒子とを併用してもよい。
【0060】
本実施形態の接着剤組成物は、ゴム微粒子、充填剤((C)成分を除く)、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤、カップリング剤、フェノール樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート類等を含有することもできる。本実施形態の接着剤組成物は、密着性向上剤(カップリング剤を除く)、増粘剤、レベリング剤、着色剤、耐候性向上剤等の添加剤を適宜含有してもよい。
【0061】
ゴム微粒子は、導電粒子の平均粒径の2倍以下の平均粒径を有し、且つ、常温での貯蔵弾性率が、導電粒子及び接着剤組成物の常温での貯蔵弾性率の1/2以下である粒子が好ましい。特に、ゴム微粒子の材質がシリコーン、アクリルエマルジョン、SBR、NBR又はポリブタジエンゴムである場合、ゴム微粒子は、単独で又は2種以上を混合して用いることが好適である。3次元架橋したゴム微粒子は、耐溶剤性に優れており、接着剤組成物中に容易に分散される。
【0062】
充填剤は、回路電極間の電気特性(接続信頼性等)を向上させることができる。充填剤としては、例えば、導電粒子の平均粒径の1/2以下の平均粒径を有する粒子を好適に使用できる。導電性を有さない粒子を充填剤と併用する場合、導電性を有さない粒子の平均粒径以下の粒子を充填剤として使用できる。充填剤の含有量は、接着剤組成物の接着剤成分の全質量を基準として5〜60質量%であることが好ましい。前記含有量が60質量%以下であることにより、接続信頼性の向上効果を更に充分に得られる傾向がある。前記含有量が5質量%以上であることにより、充填剤の添加効果を充分に得られる傾向がある。
【0063】
本実施形態の接着剤組成物は、常温で液状である場合にはペースト状で使用することができる。接着剤組成物が常温で固体状である場合には、加熱して使用する他、溶剤を使用してペースト化してもよい。使用できる溶剤としては、接着剤組成物中の成分に対して反応性がなく、且つ、充分な溶解性を示す溶剤であれば、特に制限はない。溶剤は、常圧での沸点が50〜150℃である溶剤が好ましい。沸点が50℃以上であると、常温での溶剤の揮発性に乏しいため、開放系でも使用できる。沸点が150℃以下であると、溶剤を揮発させることが容易であるため、接着後に良好な信頼性が得られる。
【0064】
本実施形態の接着剤組成物は、フィルム状であってもよい。必要に応じて溶剤等を含有する接着剤組成物の溶液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、剥離性基材(離型紙等)上に塗布した後、溶剤等を除去することによりフィルム状の接着剤組成物を得ることができる。また、不織布等の基材に前記溶液を含浸させて剥離性基材上に載置した後、溶剤等を除去することによりフィルム状の接着剤組成物を得ることができる。接着剤組成物をフィルム状で使用すると、取扱性等に優れる観点から一層便利である。フィルム状の接着剤組成物の厚さは、1〜100μmであってもよく、5〜50μmであってもよい。
【0065】
本実施形態の接着剤組成物は、例えば、加熱又は光照射と共に加圧することにより接着させることができる。加熱及び光照射を併用することにより、更に低温短時間で接着できる。光照射は、150〜750nmの波長域の光を照射することが好ましい。光源は、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯(超高圧水銀灯等)、キセノンランプ、メタルハライドランプなどを使用することができる。照射量は、0.1〜10J/cmであってよい。加熱温度は、特に制限はないが、50〜170℃の温度が好ましい。圧力は、被着体に損傷を与えない範囲であれば、特に制限はないが、0.1〜10MPaが好ましい。加熱及び加圧は、0.5秒〜3時間の範囲で行うことが好ましい。
【0066】
本実施形態の接着剤組成物は、同一種の被着体の接着剤として使用してもよく、熱膨張係数の異なる異種の被着体の接着剤として使用してもよい。具体的には、異方導電接着剤、銀ペースト、銀フィルム等に代表される回路接続材料;CSP用エラストマー、CSP用アンダーフィル材、LOCテープ等に代表される半導体素子接着材料などとして使用することができる。
【0067】
<構造体及びその製造方法>
本実施形態の構造体(回路接続体)は、本実施形態の接着剤組成物又はその硬化物を備える。本実施形態の構造体は、例えば、回路接続構造体等の半導体装置である。本実施形態の構造体の一態様として、回路接続構造体は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材と、第一の回路部材及び第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備える。第一の回路部材は、例えば、第一の基板と、当該第一の基板上に配置された第一の回路電極と、を有する。第二の回路部材は、例えば、第二の基板と、当該第二の基板上に配置された第二の回路電極と、を有する。第一の回路電極及び第二の回路電極は、相対向すると共に電気的に接続されている。回路接続部材は、本実施形態の接着剤組成物又はその硬化物を含んでいる。本実施形態の構造体は、本実施形態の接着剤組成物又はその硬化物を備えていればよく、前記回路接続構造体の回路部材に代えて、回路電極を有していない部材(基板等)を用いてもよい。
【0068】
本実施形態の構造体の製造方法は、本実施形態の接着剤組成物を硬化させる工程を備える。本実施形態の構造体の製造方法の一態様として、回路接続構造体の製造方法は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材との間に、本実施形態の接着剤組成物を配置する配置工程と、第一の回路部材と第二の回路部材とを加圧して第一の回路電極と第二の回路電極とを電気的に接続させると共に、接着剤組成物を加熱して硬化させる加熱加圧工程と、を備える。配置工程において、第一の回路電極と第二の回路電極とが相対向するように配置することができる。加熱加圧工程において、第一の回路部材と第二の回路部材とを相対向する方向に加圧することができる。本実施形態の構造体の製造方法は、相対向する半導体素子の回路電極と半導体搭載用基板の回路電極との間に本実施形態の接着剤組成物を介在させ、相対向する回路電極を加圧して加圧方向の電極間を電気的に接続する態様であってもよい。
【0069】
以下、図面を用いて、本実施形態の一態様として、回路接続構造体及びその製造方法について説明する。図1は、構造体の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示す回路接続構造体100aは、相対向する回路部材(第一の回路部材)20及び回路部材(第二の回路部材)30を備えており、回路部材20と回路部材30との間には、これらを接続する回路接続部材10が配置されている。回路接続部材10は、本実施形態の接着剤組成物の硬化物を含む。
【0070】
回路部材20は、基板(第一の基板)21と、基板21の主面21a上に配置された回路電極(第一の回路電極)22とを備えている。基板21の主面21a上には、場合により絶縁層(図示せず)が配置されていてもよい。
【0071】
回路部材30は、基板(第二の基板)31と、基板31の主面31a上に配置された回路電極(第二の回路電極)32とを備えている。基板31の主面31a上には、場合により絶縁層(図示せず)が配置されていてもよい。
【0072】
回路接続部材10は、絶縁性物質(導電粒子を除く成分の硬化物)10a及び導電粒子10bを含有している。導電粒子10bは、少なくとも、相対向する回路電極22と回路電極32との間に配置されている。回路接続構造体100aにおいては、回路電極22及び回路電極32が導電粒子10bを介して電気的に接続されている。
【0073】
回路部材20,30は、単数又は複数の回路電極(接続端子)を有している。回路部材20,30としては、例えば、電気的接続を必要とする電極を有する部材を用いることができる。回路部材としては、半導体チップ(ICチップ)、抵抗体チップ、コンデンサチップ等のチップ部品;プリント基板、半導体搭載用基板等の基板などを用いることができる。回路部材20,30の組み合わせとしては、例えば、半導体チップ及び半導体搭載用基板が挙げられる。基板の材質としては、例えば、半導体、ガラス、セラミック等の無機物;ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂等の有機物;ガラスとエポキシ等との複合物などが挙げられる。基板は、プラスチック基板であってもよい。
【0074】
図2は、構造体の他の実施形態を示す模式断面図である。図2に示す回路接続構造体100bは、回路接続部材10が導電粒子10bを含有していないこと以外は、回路接続構造体100aと同様の構成を有している。図2に示す回路接続構造体100bでは、回路電極22と回路電極32とが導電粒子を介することなく直接接触して電気的に接続されている。
【0075】
回路接続構造体100a,100bは、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、接着剤組成物がペースト状である場合、接着剤組成物を塗布及び乾燥することにより、接着剤組成物を含む樹脂層を回路部材20上に配置する。接着剤組成物がフィルム状である場合、フィルム状の接着剤組成物を回路部材20に貼り付けることにより、接着剤組成物を含む樹脂層を回路部材20上に配置する。続いて、回路電極22と回路電極32とが対向配置されるように、回路部材20上に配置された樹脂層の上に回路部材30を載せる。そして、接着剤組成物を含む樹脂層に加熱処理又は光照射を行うことにより、接着剤組成物が硬化して硬化物(回路接続部材10)が得られる。以上により、回路接続構造体100a,100bが得られる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0077】
<フィルム状の回路接続材料の作製>
(実施例1)
フェノキシ樹脂(商品名:PKHC、ユニオンカーバイド株式会社製、重量平均分子量45000)50gを、トルエン/酢酸エチル(質量比:50/50)の混合溶剤に溶解して、固形分40質量%のフェノキシ樹脂溶液を用意した。ラジカル重合性化合物として、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(商品名:M−215、東亜合成株式会社製)、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(リン酸エステル、商品名:ライトエステルP−2M、共栄社化学株式会社製)、及び、ウレタンアクリレート(商品名:U−2PPA、新中村化学株式会社製)を用いた。シランカップリング剤として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学工業株式会社製)を用意した。ラジカル発生剤として、ベンゾイルパーオキサイド(商品名:ナイパーBMT−K40、日油株式会社製、1分間半減期温度:131.1℃、10分間半減期温度:73℃)を用意した。(C)成分として、平均一次粒径1μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粒子を用意した。
【0078】
上記材料を固形分質量でフェノキシ樹脂/イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート/2−メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート/ウレタンアクリレート/シランカップリング剤/ラジカル発生剤/(C)成分を50g/27g/5g/20g/3g/3g/5gの割合で混合し、接着剤組成物含有液Aを調製した。さらに、ポリスチレン粒子(核)の表面に厚み0.2μmのニッケル層を有する平均粒径5μm、比重2.5の導電粒子を作製した。100質量部の接着剤組成物含有液Aに対して導電粒子を5質量部分散させて回路接続材料含有液を調製した。
【0079】
塗工装置を用いて、片面を表面処理した厚み50μmのPETフィルム上に前記回路接続材料含有液を塗布した後、70℃で3分間熱風乾燥させることにより、PETフィルム上に厚み20μmのフィルム状の回路接続材料を得た。
【0080】
(実施例2)
(C)成分を平均一次粒径1μmの水酸化マグネシウム(Mg(OH))粒子に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム状の回路接続材料を作製した。
【0081】
(実施例3)
(C)成分を平均一次粒径1μmの酸化マグネシウム(Mg)粒子に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム状の回路接続材料を作製した。
【0082】
(実施例4)
(C)成分を平均一次粒径1μmの酸化ジルコニウム(ZrO)粒子に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム状の回路接続材料を作製した。
【0083】
(比較例1)
(C)成分を用いないこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム状の回路接続材料を作製した。
【0084】
<剥離評価(塩水噴霧試験の評価)>
上記製法によって得たフィルム状の回路接続材料を介して、ライン幅75μm、ピッチ150μm、厚み18μmの銅回路を500本有するフレキシブル回路板(FPC)と、厚み0.5μmの窒化シリコン(SiN)の薄層を形成したガラス板(厚み0.7mm)とを、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング株式会社製)を用いて170℃、3MPaで20秒間の加熱加圧を行って幅2mmにわたり接続し、回路接続構造体を作製した。塩水噴霧試験機(スガ試験機株式会社製)を用いて、JIS Z 2371に準じて塩水噴霧試験を回路接続構造体に対して24時間行った。試験前後の接続部の外観を観察し、剥離の有無を評価した。剥離が観察されない場合を「A」と評価し、剥離が観察される場合を「B」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
以上より、実施例では、比較例と比較して、塩水噴霧後にも被着体(無機基板)の表面への接着性(塩水耐性)を良好に保つことができることが確認される。また、実施例では、低温短時間接続を達成しつつ、接着性(塩水耐性)を良好に保つことができることが確認される。
【符号の説明】
【0087】
10…回路接続部材、10a…絶縁性物質、10b…導電粒子、20…第一の回路部材、21…第一の基板、21a…主面、22…第一の回路電極、30…第二の回路部材、31…第二の基板、31a…主面、32…第二の回路電極、100a,100b…回路接続構造体。
図1
図2