(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ゴム被膜を形成するシリコーンエマルション組成物は、従来から種々の組成のものが公知であり、ウェザーストリップ剤、エアーバック用コーティング剤等として使用されている。
【0003】
例えば、ヒドロキシル化ジオルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ及び有機スズ化合物又は有機アミン化合物からなるシリコーンエマルション組成物(特許文献1:特開昭56−16553号公報)、ジメチルシロキサン単位とモノフェニルシロキサン単位とからなるシロキサンブロックコポリマー、水、カチオン系界面活性剤、充填剤及びアミノシランからなるシリコーンラテックス組成物(特許文献2:米国特許第3,817,894号明細書)、ヒドロキシル基含有オルガノポリシロキサン、Si−H基含有オルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ、アミド基及びカルボキシル基含有シラン、エポキシ基含有シラン及び硬化用触媒からなるシリコーンエマルション組成物(特許文献3:特開平8−85760号公報)、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、Si−H基含有オルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ、アミノシランと酸無水物の反応物、エポキシシラン、付加反応用触媒からなるシリコーンエマルション組成物(特許文献4:特開平9−208826号公報)、分子末端が水酸基で封鎖されたハイドロジェンシロキサン、乳化剤、水、硬化触媒からなるシリコーンエマルション組成物(特許文献5:特開平9−208900号公報)等が提案されている。
【0004】
これらに使用される官能基含有シランとしては、アミノ基含有シラン、エポキシ基含有シラン、アミド基及びカルボキシル基含有シラン或いはこれらを併用することが示されている。これら官能基含有シランと被膜補強剤であるコロイダルシリカと硬化触媒として有機スズ化合物をシリコーンラテックスに配合することにより、ゴム強度を有して、繊維基材に対する消臭剤、抗菌剤等の各種薬剤の密着性を向上させたシリコーン被膜を形成することが可能である。
【0005】
しかしながら、有機スズ化合物はその毒性の問題から、用途、分野、国により、使用の制限や規制が強化されつつあり、ジブチルスズ化合物からオクチルスズ化合物への代替、更にはオクチルスズ化合物から無機スズ化合物、あるいは他の金属化合物への代替が求められている。
【0006】
スズ化合物以外の硬化触媒としては、ビスマス化合物、チタン化合物等が提案されている。ビスマス化合物では、二価のビスマスのカルボン酸塩が加水分解性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン重合体の硬化触媒として有効であることが提案されている(特許文献6:特開2000−129126号公報)。また、チタン化合物では加水分解性シリル基含有有機重合体とチタンテトラ(2−エチルヘキサノアート)からなる湿気硬化型組成物が提案されている(特許文献7:特開2003−147220号公報)。
【0007】
しかしながら、ビスマス化合物ではSi−H基含有オルガノポリシロキサンを併用する必要があること、また、チタン化合物では硬化速度が遅い等の問題がある。
【0008】
硬化触媒を含まない被膜形成性エマルションとして、ヒドロキシル基含有オルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ、アミド基及びカルボキシル基含有シラン、エポキシ基含有シランからなるシリコーンエマルション組成物(特許文献8:特開2008−231276号公報)やヒドロキシル基含有オルガノポリシロキサン、コロイダルシリカ、長鎖アルキル基含有オルガノアルコキシシランからなるシリコーンエマルション組成物(特許文献9:特開2015−205951号公報)が提案されている。しかしながら、上記組成物の硬化被膜は膜の硬さが柔らかく引張強度が低いという問題が指摘されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、有機スズ化合物及び無機スズ化合物を使用しなくても、良好な被膜形成性を有し、硬化後の被膜の強度、柔軟性に優れ、各種基材に対して密着性が良好な被膜が形成され、エマルションの保存安定性が良好な被膜形成性シリコーンエマルション組成物、及び被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合するヒドロキシル基及びアルコキシ基から選ばれる基を含有するオルガノポリシロキサン、(B)界面活性剤、(C)セルロース及びセルロース誘導体から選ばれる1種以上、(D)コロイダルシリカ及び(E)水をそれぞれ含有する被膜形成性シリコーンエマルション組成物が、有機スズ化合物及び無機スズ化合物を使用しなくても、良好な被膜形成性を有し硬化後の被膜の強度、柔軟性に優れ、各種基材に対して密着性が良好な被膜が形成され、エマルションの保存安定性を向上できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は下記被膜形成性シリコーンエマルション組成物及び被膜を提供する。
[1].(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合するヒドロキシル基及びアルコキシ基から選ばれる基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部
(B)界面活性剤:0.1〜50質量部
(C)セルロース及びセルロース誘導体から選ばれる1種以上:0.01〜10質量部
(D)コロイダルシリカ:0.5〜50質量部、及び
(E)水:50〜1,000質量部
を含有する被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[2].上記セルロースが、セルロースナノファイバーである[1]記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[3].上記セルロース誘導体が、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース塩又はこれらの混合物である[1]又は[2]記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[4].上記アルキルセルロースが、メチルセルロースである[3]記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[5].上記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシエチルメチルセルロースである[3]記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[6].上記カルボキシアルキルセルロースがカルボキシメチルセルロースであり、カルボキシアルキルセルロース塩がカルボキシメチルセルロースナトリウムである[3]記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[7].有機スズ化合物及び無機スズ化合物を含まない[1]〜[6]のいずれかに記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物。
[8].[1]〜[7]のいずれかに記載の被膜形成性シリコーンエマルション組成物を硬化させてなる被膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機スズ化合物及び無機スズ化合物を使用しなくても、良好な被膜形成性を有し、硬化後の被膜の強度、柔軟性に優れ、各種基材に対して密着性が良好な被膜が形成され、エマルションの保存安定性が良好な被膜形成性シリコーンエマルション組成物、及び被膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合するヒドロキシル基及びアルコキシ基から選ばれる基を含有するオルガノポリシロキサンであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(A)成分は、直鎖状でも分岐状でもよいが、分岐状のオルガノポリシロキサンが好ましい。中でも、下記平均組成式(1)で示されるものが好ましい。
【0015】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は独立に、水素原子、ヒドロキシル基、又は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基もしくはアルコキシ基であり、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合するヒドロキシル基及びアルコキシ基から選ばれる基を含有する。a、b、c、dはそれぞれa≧2、b≧5、c≧0、d≧0、かつ10≦a+b+c+d≦15,000を満たす数である。)
【0016】
R
1及びR
2は独立に、水素原子、ヒドロキシル基、又は置換又は非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基もしくはアルコキシ基である。非置換の炭素原子数1〜20の1価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキル等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ヘキセニル等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基等が挙げられる。置換された炭素原子数1〜20の1価炭化水素基としては、上記に例示した炭素原子数1〜20の1価炭化水素基中の水素原子の一部をハロゲン原子、アミノ原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等で置換したものが例示される。好ましくは、炭素原子数1〜6の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基が挙げられる。炭素原子数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。
【0017】
全R
1の80%以上がメチル基のものがさらに好ましい。R
2は、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素原子数1〜6のアルキル基のものがさらに好ましい。
【0018】
a、b、c、dはそれぞれa≧2、b≧5、c≧0、d≧0、かつ10≦a+b+c+d≦15,000を満たす数であり、より好ましくは、a≧2、b≧5、c+d≧1、かつ、10≦a+b+c+d≦15,000を満たす数である。a、b、c、dは、オルガノポリシロキサンの25℃における粘度が、10mPa・s以上500,000mPa・s未満となる数が好ましく、50mPa・s以上250,000mPa・s未満となる数がより好ましく、100mPa・s以上100,000mPa・s未満となる数がさらに好ましい。なお、この粘度は絶対粘度であって、液状で測定できるものはそのまま、測定できないものは15質量%トルエン溶解粘度を、回転粘度計により、25℃で測定した値である(以下、同じ)。
【0019】
本発明における(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0020】
【化2】
(式中、b1〜b4の和は上記bであり、c及びdは上記と同じ。)
【0021】
【化3】
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基であり、b1〜b4の和は上記bであり、c及びdは上記と同じ。)
【0022】
本発明における(A)成分のオルガノポリシロキサンは、公知の方法によって合成することができる。例えば、アルカリ金属水酸化物のような触媒存在下に、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン、又はこれとα,ω−ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω−ジアルコキシシロキサンオリゴマーあるいはオルガノアルコキシシランとを平衡化反応させることにより得られる。また、アルカリ金属水酸化物等の触媒存在下に、α,ω−ジヒドロキシジメチルポリシロキサンとオルガノアルコキシシランとの脱水、脱アルコール縮合反応させることでも得ることができる。
【0023】
なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、水中油型エマルションの形態で使用されることが好ましい。エマルションの形態にする方法として公知の機械乳化方法や乳化重合法等が挙げられる。
【0024】
公知の機械乳化法では、(A)成分のオルガノポリシロキサンと界面活性剤を混合し、これをホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサー等の乳化機で乳化することにより、水中油型エマルションを得ることができる。
【0025】
公知の乳化重合法では、予め、環状シロキサン、α,ω−ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω−ジアルコキシシロキサンオリゴマー、あるいはオルガノアルコキシシラン等をアニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸、アルカリ性物質等の触媒を添加して乳化重合反応を行うことにより容易に水中油型エマルションを得ることができる。
【0026】
[(B)成分]
(B)成分の界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコール等が例示される。
【0028】
中でも、下記一般式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
R
3O(EO)
n(PO)
mH (2)
(式中、R
3は炭素原子数8〜30、好ましくは炭素原子数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、n,mは0〜50、好ましくは0〜25であり、n+m=5〜20である。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。)
【0029】
アニオン性界面活性剤としては、下記一般式(3)で表されるアルキル硫酸塩、下記一般式(4)で表されるアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
R
4−OSO
3M (3)
R
4−C
6H
4−OS
3Mで (4)
(式中、R
4は炭素原子数8〜30、好ましくは炭素原子数8〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基で、Mは水素原子又は金属元素、好ましくは水素原子、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素である。)
【0030】
アルキル硫酸塩としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、ヘキシルベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、セチルベンゼンスルホン酸、ミリスチルベンゼンスルホン酸の塩等が挙げられる。
【0031】
また、アニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸等の高級脂肪酸及びその塩、下記一般式(5)で表されるポリオキシエチレンモノアルキルエーテル硫酸塩、下記一般式(6)で表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩が挙げられる。
R
5O(EO)
n'(PO)
m'SO
3M (5)
R
5−C
6H
4−O(EO)
n'(PO)
m'SO
3M (6)
(式中、R
5は炭素原子数8〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Mは水素原子又は金属元素、n’,m’はそれぞれ0〜30、好ましくは0〜20の整数であり、n’+m’=5〜20である。EOはポリオキシエチレン基、POはポリオキシプロピレン基である。)
【0032】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン性乳化剤、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等のカチオン性乳化剤等が挙げられる。
【0033】
両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アルキルイミダゾリン等が挙げられる。
【0034】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であり、0.5〜25質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。0.1質量部未満では、(B)成分の量が不十分で被膜形成性エマルションを得るのが困難である。50質量部を超えると、得られる被膜形成性シリコーンエマルション組成物の経時安定性が悪くなる。
【0035】
[(C)成分]
(C)成分のセルロース及びセルロース誘導体から選ばれる1種以上は、被膜補強剤の作用を有するもので、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0036】
セルロースとしては、セルロースナノファイバーが挙げられる。セルロースナノファイバーは水性分散液として使用することができる。セルロースナノファイバー水分散液としては、市販のものを使用すればよく、その種類に制限はない。例えば、平均繊維幅を10nm未満にナノ化したものでよく、具体的にはレオクリスタ(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0037】
セルロース誘導体としては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース塩又はこれらの混合物が挙げられる。セルロース誘導体は水性溶解液として使用することができる。アルキルセルロースとしては、メチルセルロース等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。カルボキシアルキルセルロースとしてカルボキシメチルセルロースが好ましい。また、カルボキシアルキルセルロース塩として、カルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましい。セルロース誘導体としては、市販のものを使用すればよく、その種類に制限はない。例えば、メトローズ(信越化学工業(株)製)、セロゲン(第一工業製薬(株)製)、サンローズ(日本製紙(株)製)等が挙げられる。
【0038】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、セルロース又はセルロース誘導体の純分換算で、0.01〜10質量部であり、0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。0.01質量部未満では、得られる被膜形成性シリコーンエマルション組成物を硬化させてなる硬化被膜が十分な被膜強度を得られない。10質量部を超えると得られる被膜形成性シリコーンエマルション組成物の粘度が高くなりハンドリング性が悪くなる。
【0039】
[(D)成分]
(D)成分のコロイダルシリカは被膜補強剤として作用する。本発明において、コロイダルシリカは水性分散液として使用することができる。コロイダルシリカの水分散液としては、市販のものを使用すればよく、その種類に制限はない。例えば、平均粒径が5〜50nmでナトリウム、アンモニウム、アルミニウム等で安定化したものでよく、具体的には、スノーテックス(日産化学工業社製)、ルドックス(グレース社製)、シリカドール(日本化学工業社製)、アデライトAT(ADEKA社製)、カタロイドS(触媒化成工業社製)、コスモ(日揮触媒化成社製)等が挙げられる。
【0040】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対してコロイダルシリカの純分換算で0.5〜50質量部であり、好ましくは1〜30質量部である。コロイダルシリカの配合量が0.5質量部未満では被膜強度、難燃性を向上させる効果がなく、50質量部を超えると被膜が硬く脆いものとなり、伸びと柔軟性が低下する。
【0041】
[(E)成分]
本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物には、(E)成分として水を配合する。水の配合量は(A)成分100質量部に対して50〜1,000質量部であり、好ましくは50〜500質量部である。
【0042】
本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物は、有機スズ化合物及び無機スズ化合物を使用しなくても、良好な被膜形成性を有し硬化後の被膜の強度、柔軟性に優れ、各種基材に対して密着性が良好な被膜が形成され、エマルションの保存安定性を向上できる。また、本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物は、必要により、繊維処理剤、水性塗料や化粧品に添加配合される他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、顔料、無機粉体、浸透剤、帯電防止剤、防腐剤等を適宜配合することができる。
【0043】
[製造方法]
本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物の調製方法は、従来公知の乳化重合方法、転相乳化方法に従えばよい。乳化機は特に制限されるものでなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、万能混合攪拌機、コンビミックス、ラインミキサー等を使用することができる。また、(A)成分及び(B)成分でエマルション組成物を調製した後、他の成分を配合してもよい。シリコーンエマルション組成物の固形分濃度は、10〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。
【0044】
本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物は、無機又は有機物質のバインダー、繊維処理剤、塗料、離型剤、粘着シートの背面処理剤、化粧品等として広く応用可能である。
【0045】
[硬化物]
本発明は、上記被膜形成性シリコーンエマルション組成物の硬化物からなる被膜を提供することができる。被膜形成性シリコーンエマルション組成物は、繊維、紙、金属、木材、ゴム、プラスチック、ガラス等各種基材表面に処理して使用される。基材を処理する方法としては特に制限はなく、刷毛塗り、ロールコート、スプレー塗布、ナイフコート、浸漬塗布等の公知の方法により行うことができる。硬化は、上記被膜形成性シリコーンエマルション組成物中の水分を揮発させればよく、温度は室温でも加温してもよく、時間等は特に限定されない。
【0046】
本発明の被膜形成性シリコーンエマルション組成物は、化粧品(例えば被膜形成材料)、繊維処理剤(例えば、繊維用風合い改良剤)、無機又は有機物質のバインダー(例えば、光触媒等機能性無機フィラーのバインダー剤)、塗料、離型剤、粘着シートの背面処理剤、各種基材の表面コーティング剤、ゴム製物品表面への離型性や滑り性付与剤、紙や木材用撥水剤等へ使用可能であるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を、「部」は質量部を示す。
【0048】
[製造例1:(A−1)]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、フェニルトリエトキシシラン2g、10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液50g及び10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液50gを2リットルポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、均一な白色エマルションを得た。このエマルションを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2リットルガラスフラスコに移し、50℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中和した。このエマルションは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%であった。エマルション中のオルガノポリシロキサンは、NMR、GPC、IR等の機器分析を行ったところ、下記平均組成式
[(HO)(CH
3)
2SiO
1/2]
6[(CH
3)
2SiO
2/2]
3200[C
6H
5SiO
3/2]
4で表される末端がヒドロキシル基で封鎖された、25℃の15質量%トルエン溶解溶液の粘度1,200mPa・sの軟ゲル状のものであった(A−1)。このようにして(A−1)成分のオルガノポリシロキサンを含有するエマルションを得た。
【0049】
[製造例2:(A−2)]
オクタメチルシクロテトラシロキサン500g、10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液50g及び10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液50gを2リットルポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し均一な白色エマルションを得た。このエマルションを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2リットルガラスフラスコに移し、50℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中和した。このエマルションは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.5%であった。エマルション中のオルガノポリシロキサンは、NMR、GPC、IR等の機器分析を行ったところ、下記平均組成式
[(HO)(CH
3)
2SiO
1/2]
2[(CH
3)
2SiO
2/2]
3000
で示され、25℃の15質量%トルエン溶解液の粘度105mPa・sの生ゴム状のものであった。このようにして(A−2)成分のオルガノポリシロキサンを含有するエマルションを得た。
【0050】
(C)成分として下記を用いた。
(C−1)セルロースナノファイバー:レオクリスタI−2SP(第一工業製薬(株)製)
(C−2)ヒドロキシプロピルメチルセルロース:メトローズ60SH−10000(信越化学工業(株)製)
(C−3)カルボキシメチルセルロースナトリウム:セロゲンFS(第一工業製薬(株)製)
(C−4:比較)ポリビニルアルコール:ゴーセノールEG−40C(日本合成化学(株)製)
【0051】
(D)成分として、コロイダルシリカ(COSMO S40、日揮触媒化成(株)製、有効成分40%)を用いた。
【0052】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
表1に示す配合組成で、シリコーンエマルション組成物(不揮発分40%)を得た。ここで、(B)成分は上記製造例で得られたエマルションに含まれる量であり、(E)成分は上記製造例で得られたエマルションと、(D)成分等に含まれる量と、これら以外に新たに添加した量を含むものであり、表中の量は各成分の量を示す。得られたシリコーンエマルション組成物について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。なお、得られたシリコーンエマルション組成物20gを15cm×10cmのPP(ポリプロピレン)トレーに秤量、25℃で48時間乾燥し、水分を揮発させたところ、実施例1〜4、比較例1〜3の全てにおいてゴム状の被膜を形成した。
【0053】
1.被膜物性の評価
各シリコーンエマルション組成物20gを、ポリプロピレン樹脂製のディスポトレー(150mm×105mm×10mm)に流し込み、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気中で48時間放置後、105℃で1時間加熱して、厚さ約1mmの硬化被膜を作製した。得られた被膜について、硬さ、引張強さ及び伸びをJIS K6249に準じて測定した。評価結果を表1に併記する。
【0054】
2.エマルションの保存安定性
各シリコーンエマルション組成物100gをガラス瓶に取り、40℃の恒温槽に30日間静置し保存した後、外観及び上層と下層の不揮発分を目視観察して、下記評価基準に基づき保存安定性を評価した。
〈評価基準〉
A:上層と下層で濃淡分離が全く認められない。
B:上層と下層でわずかに濃淡分離が確認される。
C:完全に二層に分離している。
【0055】
3.被膜形成性
上記にて調製した被膜の状態を、下記評価基準に基づき被膜形成性を評価した。
A:均一な被膜を形成し、ディスポトレーから容易に剥離ができる強度がある。
B:均一な被膜を形成しているが、ディスポトレーから剥離ができない。
C:均一な被膜を形成していない。
【0056】
【表1】