(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンナノチューブの含有量が1.0質量%以上30.0質量%以下であり、前記分散剤の含有量が0.1質量%以上3.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の電気化学素子用導電材分散液。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子用導電材分散液は、電気化学素子電極用スラリーを製造する際の材料として用いられる。そして、本発明の電気化学素子電極用スラリーは、本発明の電気化学素子用導電材分散液を用いて調製される。加えて、本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子電極用スラリーを用いて形成された電極合材層を備えることを特徴とする。また、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えることを特徴とする。
【0019】
(電気化学素子用導電材分散液)
本発明の導電材分散液は、導電材、分散剤及び分散媒を含み、任意に、その他の成分を含有する。ここで導電材としては、少なくともCNTを用いることが必要である。なお、導電材分散液には、通常、電極活物質(正極活物質、負極活物質)は含まれない。
そして、本発明の導電材分散液は、キャッソン粘度及びキャッソン降伏値、並びに所定の手法で測定されるヒステリシス定数がそれぞれ所定の値以下であることを特徴とする。このような導電材分散液を用いれば、柔軟性及び平滑性に優れ、また電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る電極を作製することができる。
【0020】
<導電材>
導電材としては、少なくともCNTを使用するが、CNTとCNT以外の導電材(その他の導電材)を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
<<カーボンナノチューブ>>
CNTは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであってもよい。またCNTとしては、単層CNTと多層CNTを組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ここでCNTは、BET比表面積が180m
2/g以上であることが好ましく、200m
2/g以上であることがより好ましく、1,500m
2/g以下であることが好ましく、1,000m
2/g以下であることがより好ましい。CNTのBET比表面積が180m
2/g以上であれば、電気化学素子のサイクル特性を更に向上させつつ、低温出力特性及びレート特性を高めることができる。一方、CNTのBET比表面積が1,500m
2/g以下であれば、同じ固形分濃度であっても導電材分散液の粘度を低く抑えることができる。よって導電材分散液の固形分濃度を上げることができるため、導電材分散液を用いて得られる電極合材層の密度を高め得り、結果として電極の柔軟性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を意味する。
【0023】
CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて合成したものを使用することができる。
【0024】
<<その他の導電材>>
その他の導電材としては、電極合材層中で電極活物質同士の電気的接触を確保し得る導電材として機能するものであれば、特に限定されず用いることができる。その他の導電材の例としては、CNT以外の炭素材料が挙げられる。そしてこのような炭素材料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど);グラファイト;カーボンフレーク;カーボンナノファイバー;が挙げられる。これらは一種単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
なお導電材としては、CNTを単独で使用してもよく、上述した通りCNTとその他の導電材を組み合わせて使用してもよい。しかしながら、本発明においては、所期の効果を良好に達成する観点から、導電材全体に占めるCNTの割合は、導電材全体の質量を100質量%として、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、100質量%であること(すなわち、導電材がCNTのみからなること)が特に好ましい。
【0026】
<<CNTの含有量>>
導電材分散液中のCNTの含有量は、特に限定されないが、導電材分散液全体の質量を100質量%として、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、3.0質量%以上であることが更に好ましく、30.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましく、7.0質量%以下であることが更に好ましい。導電材分散液中のCNTの含有量が上述の範囲内であれば、電極の柔軟性及び平滑性、並びに電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。くわえて、電気化学素子の低温出力特性及びレート特性を高めることができる。
【0027】
<分散剤>
分散剤としては、上述したCNTを含有する導電材を分散媒中に分散させ得る重合体であれば特に限定されない。このような重合体としては、ニトリル基含有単量体単位を含む重合体が好ましい。
【0028】
<<ニトリル基含有単量体単位>>
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、アクリロニトリルが好ましい。
【0029】
重合体である分散剤中におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、当該分散剤を構成する重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。分散剤中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、分散剤の分散媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)への溶解性が十分に確保され、また得られる電極合材層を集電体へ良好に密着させることができる。そのため、導電材分散液中で導電材を良好に分散させることができ、電極の柔軟性及び平滑性、並びに電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。くわえて、電気化学素子の低温出力特性及びレート特性を高めることができる。
【0030】
<<ニトリル基含有単量体単位を含む重合体の例>>
ニトリル基含有単量体単位を含む重合体としては、例えば、ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体、ニトリル基含有単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体が好ましく挙げられるが、電気化学素子のレート特性を高めつつサイクル特性を更に向上させる観点から、二トリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体が好ましい。
なお、本発明において「アルキレン構造単位」とは、一般式:−C
nH
2n−[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
また、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0031】
[ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体]
この重合体は、上述したニトリル基含有単量体単位に加えアルキレン構造単位を少なくとも含み、ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を任意に含むことができる。また、アルキレン構造単位の炭素数は4以上である(即ち、上記一般式のnが4以上の整数である)ことが好ましい。
【0032】
―アルキレン構造単位―
アルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、電気化学素子のレート特性を向上させる観点から、アルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。
【0033】
そして、重合体である分散剤へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)、(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1−オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が分散剤の製造が容易であり好ましい。
【0034】
共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。すなわち、アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3−ブタジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。
また、1−オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や1−オレフィン単量体はそれぞれ、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
そして、重合体である分散剤中におけるアルキレン構造単位の含有割合は、当該分散剤を構成する重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。分散剤中のアルキレン構造単位の含有割合が上述した範囲内であれば、CNTなどの導電材と分散剤の親和性が高まるためと推察されるが、電極の柔軟性及び平滑性、並びに電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。くわえて、電気化学素子の低温出力特性及びレート特性を高めることができる。
なお、分散剤が、上記(1)の方法に従って得られた重合体である場合には、分散剤におけるアルキレン構造単位の含有割合及び共役ジエン単量体単位の合計割合が、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0036】
―その他の繰り返し単位―
ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体におけるその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、芳香族ビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が挙げられる。なお、ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体は、1種類のその他の繰り返し単位を含んでいてもよく、2種類以上のその他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0037】
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン及びビニルナフタレンが挙げられる。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、スチレンが好ましい。
【0038】
酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、カルボン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体及びリン酸基含有単量体が挙げられる。なお、酸性基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
カルボン酸基含有単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体や、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基含有単量体としては、加水分解によりカルボン酸基を生成する酸無水物も使用できる。中でも、カルボン酸基含有単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0040】
スルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリル及び/又はメタリルを意味する。
【0041】
リン酸基含有単量体としては、例えば、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチル、などが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
なお、ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体におけるその他の繰り返し単位の含有割合は、当該重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、0質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
[ニトリル基含有単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体]
この重合体は、上述したニトリル基含有単量体単位に加え(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を少なくとも含み、ニトリル基含有単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を任意に含むことができる。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、「ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体を含む重合体」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0046】
そして、重合体である分散剤中における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、当該分散剤を構成する重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0047】
―その他の繰り返し単位―
ニトリル基含有単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む重合体におけるその他の繰り返し単位としては、特に限定されないが、芳香族ビニル単量体単位、酸性基含有単量体単位が好ましく挙げられる。分散剤としてのニトリル基含有単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体は、1種類のその他の繰り返し単位を含んでいてもよく、2種類以上のその他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0048】
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、「ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体を含む重合体」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、スチレンが好ましい。
【0049】
そして、重合体である分散剤中における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、当該分散剤を構成する重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0050】
酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、「ニトリル基含有単量体単位とアルキレン構造単位を含む重合体を含む重合体」の項で上述したものと同様のものが挙げられる。なお、酸性基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、メタクリル酸が好ましい。
【0051】
そして、重合体である分散剤中における酸性基含有単量体単位の含有割合は、当該分散剤を構成する重合体中の全繰り返し単位を100質量%として、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
<<重量平均分子量>>
なお、重合体である分散剤は、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることが更に好ましく、400,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることが更に好ましい。分散剤の重量平均分子量が10,000以上であれば、分散剤の電解液への溶出が抑制されるためと推察されるが、電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。一方、分散剤の重量平均分子量が400,000以下であれば、低温出力特性及びレート特性を向上させることができる。くわえて、同じ固形分濃度であっても導電材分散液の粘度を低く抑えることができる。よって導電材分散液の固形分濃度を上げることができるため、導電材分散液を用いて得られる電極合材層の密度を高めることが可能となり、結果として電極の柔軟性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「重量平均分子量」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0053】
<<分散剤の調製方法>>
分散剤の調製方法は特に限定されない。分散剤は、例えば、1種類又は2種類以上の単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、任意に水素化を行うことにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の繰り返し単位(単量体単位及び/又は構造単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。また、水素化は、既知の方法により行うことができる。
【0054】
<<分散剤の含有量>>
導電材分散液中の分散剤の含有量は、特に限定されないが、導電材分散液全体の質量を100質量%として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。分散剤の含有量が上述の範囲内であれば、電極の柔軟性及び平滑性、並びに電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。くわえて、電気化学素子の低温出力特性及びレート特性を高めることができる。
【0055】
<分散媒>
分散媒としては、水、有機溶媒の何れも用いることができるが、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。なお、分散媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そして、分散媒としては、導電材分散液中でCNT等の導電材を良好に分散させる観点から、有機溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0056】
<その他の成分>
導電材分散液が含み得るその他の成分としては、特に限定されず、「電気化学素子電極用スラリー」で後述する電極活物質以外の成分が挙げられる。なお、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0057】
<キャッソン粘度>
ここで、本発明の導電材分散液は、キャッソン粘度が、上述した通り30(Pa・s)
1/2以下であることが必要であり、20(Pa・s)
1/2以下であることが好ましく、10(Pa・s)
1/2以下であることがより好ましい。キャッソン粘度が30(Pa・s)
1/2超であると、導電材分散液が過度な粘性を有することになる。そのため導電材分散液の固形分濃度を上げることが困難となるため導電材分散液を用いて得られる電極合材層の密度を高めることもできず、結果として電極の柔軟性が損なわれる。なお、キャッソン粘度の下限は0(Pa・s)
1/2超であれば特に限定されず、例えば0.01(Pa・s)
1/2以上である。
ここでキャッソン粘度が所定の値以下である導電材分散液は、「導電材分散液の調製方法」で後述する手法で調製することができるが、キャッソン粘度は、分散剤の重量平均分子量、組成(例えばニトリル基含有単量体単位の含有割合など)を変更することでも制御することができる。
【0058】
<キャッソン降伏値>
また、本発明の導電材分散液は、キャッソン降伏値が、上述した通り20Pa
1/2以下であることが必要であり、15Pa
1/2以下であることが好ましく、10Pa
1/2以下であることがより好ましく、6Pa
1/2以下であることが更に好ましい。キャッソン降伏値は、せん断速度が0のときのせん断応力に相当する値であり、当該値が大きいと導電材分散液の粘度安定性が損なわれる。ここで、粘度安定性の低い導電材分散液を含有する電極用スラリーを用いて集電体などの上に電極合材層を形成すると、合材層表面に凹凸が生じてしまい電極の平滑性が損なわれる。そして、平滑性に劣る電極を用いても、電気化学素子に優れた素子特性(特には、低温出力特性)を発揮させることができない。なお、キャッソン降伏値の下限は0Pa
1/2超であれば特に限定されず、例えば0.01Pa
1/2以上である。
【0059】
<ヒステリシス定数>
ヒステリシス定数とは、下記の式(I)により特定される値である。
ヒステリシス定数C=(N
1−N
2)/N
1 ・・・(I)
ここで、式(I)中、
N
1:電気化学素子用導電材分散液について、温度25℃で、レオメーターを用いてせん断速度を10
−2s
−1から10
3s
−1まで上昇させて粘度を測定した際の、せん断速度10s
−1における粘度(Pa・s)
N
2:N
1を測定した後の電気化学素子用導電材分散液について、温度25℃で、レオメーターを用いてせん断速度を10
3s
−1から10
−2s
−1まで低下させて粘度を測定した際の、せん断速度10s
−1における粘度(Pa・s)
である。
換言すると、ヒステリシス定数は、上記の通りせん断速度を低い側(10
−2s
−1)から高い側(10
3s
−1)に上昇させる過程(第一せん断処理)でのせん断速度10s
−1における導電材分散液の粘度N
1と、第一せん断処理後にせん断速度を高い側(10
3s
−1)から低い側(10
−2s
−1)に低下させる過程(第二せん断処理)でのせん断速度10s
−1における導電材分散液の粘度N
2とを測定した上で、式(I)により、粘度N
1から粘度N
2への低下度合いを算出することで得られる。
本発明者の検討によれば、このせん断による粘度の低下度合いが小さいということは即ち、導電材分散液がせん断に対する耐性を有し、構造変化が起きにくいことを意味する。そしてこのような性質を強く呈する導電材分散液は、増粘し難く導電材の分散不良が生じにくいためと推察されるが、電極合材層の形成に用いることで導電材による導電パスが良好に形成され、電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させ得る。
【0060】
そして、本発明の導電材分散液は、ヒステリシス定数が、上述した通り0.7以下であることが必要であり、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることが更に好ましい。ヒステリシス定数が0.7超であると、電気化学素子のサイクル特性が低下する。なお、ヒステリシス定数の下限は0超であれば特に限定されず、例えば0.01以上である。
【0061】
<固形分濃度>
なお、本発明の導電材分散液は、当該導電材分散液全体に占める固形分の割合(即ち、固形分濃度)が、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、4.0質量%以上であることが更に好ましく、5.0質量%以上であることが特に好ましく、30.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましく、10.0質量%以下であることが更に好ましく、7.0質量%以下であることが特に好ましい。導電材分散液の固形分濃度が1.0質量%以上であれば、ヒステリシス定数を低下させて電気化学素子のサイクル特性を更に向上させることができる。一方、導電材分散液の固形分濃度が30.0質量%以下であれば、キャッソン粘度及びキャッソン降伏値を低下させて電極の柔軟性及び平滑性を更に向上させ、電気化学素子の低温出力特性及びレート特性を高めることができる。
【0062】
<導電材分散液の調製方法>
ここで、キャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数がそれぞれ上述した上限値以下である導電材分散液は、例えば、上述した導電材、分散剤及び分散媒などの成分を、少なくとも二段階の分散工程(第一分散工程及び第二分散工程)を経て混合する方法により製造され得る。当該方法において、第一分散工程及び/又は第二分散工程における分散処理の条件(分散装置の種類、回転数及び周速、分散処理の時間及び温度、並びに分散処理時のCNTと分散剤の量比)を調整することで、導電材分散液中に含まれるキャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数を制御することができる。
【0063】
以下、二段階の分散工程を経て導電材分散液のキャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数をそれぞれ所定の上限値以下に制御するための好適な条件について説明する。なおこの態様においては、二段階の分散工程は、通常、それぞれ異なる分散装置を用いる。二段階の分散工程において異なる分散装置を使用することで、被分散体に対し分散初期(粗分散段階)と分散後期(本分散段階)で異なる方式での分散処理を施すことが可能となり、キャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数がそれぞれ所定の上限値以下となる新規の導電材分散液を、容易に調製することができる。またこの態様においては、第一分散工程及び第二分散工程以外の工程が実施されてもよい。
分散剤の導電材への吸着状態を制御すべく、分散剤の添加方法や、導電材と分散剤の比率を変更する手法は以前より実施されていた。確かに、導電材としてカーボンブラックを用いる場合は、上記のような手法により吸着状態の制御が可能である。しかしながら、本発明の導電材分散液は導電材としてCNTを含有しており、吸着状態、そしてキャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数(特にヒステリシス定数)の制御には、更に複数因子の制御が重要となる。
なお、本発明の導電材分散液を調製する方法は、必ずしもこの態様に限定されるものではない。
【0064】
<<第一分散工程>>
第一分散工程では、少なくともCNTと分散剤と分散媒を含む組成物に分散処理を施し、粗分散液を得る。第一分散工程は、被分散体であるCNTと、分散剤及び分散媒とを濡れさせる(なじませる)ことを主目的とする工程である。
【0065】
第一分散工程において使用する分散装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、ボールミルが挙げられる。そして第一分散工程で使用する分散装置としては、ディスパー、プラネタリ―ミキサーが好ましく、ディスパーがより好ましい。
【0066】
分散装置としてディスパーを用いた場合、回転数は、500rpm以上であることが好ましく、1,000rpm以上であることがより好ましく、2,000rpm以上であることが更に好ましく、8,000ppm以下であることが好ましく、7,000rpm以下であることがより好ましく、6,000rpm以下であることが更に好ましい。
【0067】
分散装置としてプラネタリ―ミキサーを用いた場合、回転数は5rpm以上であることが好ましく、10rpm以上であることがより好ましく、30rpm以上であることが更に好ましく、150rpm以下であることが好ましく、120rpm以下であることがより好ましく、100rpm以下であることが更に好ましい。
【0068】
第一分散工程における分散処理の時間は、12分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、20分以上であることが更に好ましく、60分以下であることが好ましく、50分以下であることがより好ましく、40分以下であることが更に好ましい。
【0069】
第一分散工程における分散処理の温度は、分散剤や分散媒の分子運動性を制御し、分散系粘度や、CNT・分散媒・分散剤それぞれの相互作用の度合いを制御する観点から、5℃以上であることが好ましく50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、35℃以下であることが更に好ましく、25℃以下であることが特に好ましい。分散処理の温度が5℃以上であれば、分散媒がCNTのバンドルの隙間に侵入し易く、50℃以下であれば、分散剤の変質を抑制し且つ分散剤がCNTに吸着しやすい。また分散処理の温度を上述した範囲内とすることで分散剤同士の架橋を抑制して、導電材分散液のキャッソン降伏値を適切に低下させることができる。
【0070】
また第一分散工程における分散処理時のCNTと分散剤の比については、第一分散工程において分散処理を施す組成物中の分散剤の含有量が、CNT100質量部当たり5質量部以上であることが好ましく、10質量部であることがより好ましく、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。なお、第一分散工程において、分散剤は、分散処理の初期に全量を一括添加してもよいし、分割して添加してもよい。一括添加と分割添加の何れを採用するかは、分散剤の吸着力などに応じて適宜決定すればよい。このように分散剤の吸着力に応じた分散剤の添加方法を採用することで、導電材分散液のキャッソン降伏値を適切に低下させることができる。
【0071】
<<第二分散工程>>
第二分散工程では、第一分散工程で得られた粗分散液に対し、任意に追加の分散剤などを加えた上で更に分散処理を施し、導電材分散液を得る。第二分散工程は、被分散体であるCNTを分散・解繊するために、剪断力や衝突エネルギーを与えることを主目的とする工程である。
【0072】
第二分散工程では、上述した通り、通常、第一分散工程とは異なる分散装置を使用する。第二分散工程において使用する分散装置としては、例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、及びボールミルや、フィルミックス(登録商標)などの薄膜旋回型高速ミキサーが挙げられる。そして第二分散工程で使用する分散装置としてはメディアを使用しない(すなわちメディアレスの)分散装置が好ましく、薄膜旋回型高速ミキサーがより好ましい。特に本分散である第二分散工程でメディアを使用する分散装置を用いると、CNTとメディアの接触により筒状の構造体であるCNTが破損しその長さが損なわれ、電気化学素子のレート特性、低温出力特性及びサイクル特性が低下する場合もある。これに対し、薄膜旋回型高速ミキサーなどのメディアレスの分散装置を用いれば、CNTの破損を抑制しつつCNTのバンドルを効率良く解繊し、所期の効果を更に向上させることができる。
【0073】
分散装置として薄膜旋回型高速ミキサーを用いた場合、周速は、10m/秒以上であることが好ましく、20m/秒以上であることがより好ましく、25m/秒以上であることが更に好ましく、45m/秒以下であることが好ましく、40m/秒以下であることがより好ましく、35m/秒以下であることが更に好ましい。周速が上記範囲内であれば、CNTの長さを損なわずバンドルを効率よく解繊することができる。
【0074】
第二分散工程における分散処理の時間は、2分以上であることが好ましく、3分以上であることがより好ましく、4分以上であることが更に好ましく、20分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、7分以下であることが更に好ましい。分散処理の時間が上記範囲内であれば、導電材分散液の均質化を促進し、粘度の低下及び粘度安定性の向上が可能となる。
【0075】
また第二分散工程における分散処理時のCNTと分散剤の比については、通常、得られる導電材分散液と同様とする。なお、第二分散工程において、分散剤は、分散処理の初期に全量を一括添加してもよいし、CNTの分散・解繊の進行によって生じた新生界面への効率的な吸着を促進するため、分割して添加してもよい。
【0076】
(電気化学素子電極用スラリー)
本発明の電極用スラリーは、上述した導電材分散液及び電極活物質を含み、必要に応じて結着材などの任意成分を含む。換言すると、本発明の電極用スラリーは、CNTを含有する導電材と、分散剤と、分散媒とを含み、必要に応じて結着材などの任意成分を含む。
このように、上述した導電材分散液を含む電極用スラリーから形成される電極合材層を備える電極は、柔軟性及び平滑性に優れ、また当該電極によれば電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0077】
<電極活物質>
電極用スラリーに配合する電極活物質(正極活物質、負極活物質)としては、特に限定されることなく、既知の電極活物質を用いることができる。
【0078】
例えばリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質としては、特に限定されないが、リチウム(Li)を含有する金属酸化物が挙げられる。そして正極活物質としては、リチウム(Li)に加え、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及び鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1つ含む正極活物質が好ましい。このような正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、Li
1+xMn
2−xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等が挙げられる。なお、正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
なお、電極活物質の粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている電極活物質と同様とすることができる。
また、電極用スラリー中の電極活物質の量も、特に限定されず、従来使用されている範囲内とすることができる。
【0080】
<任意成分>
電極用スラリーに含まれ得る任意成分としては、例えば、結着材、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤が挙げられる。これらの任意成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
上述した任意成分の中でも、電極用スラリーは、得られる電極合材層を集電体に良好に密着させる観点から、結着材を含むことが好ましい。
【0081】
<<結着材>>
結着材としては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVOH)が好ましく、フッ素含有樹脂、PANがより好ましい。
なお、電極用スラリー中の電極活物質の量は、特に限定されず、従来使用されている範囲内とすることができる。
【0082】
<電極用スラリーの調製方法>
上述した成分を混合して電極用スラリーを得るに際し、混合方法には特に制限は無く、一般的な混合装置を用いることができる。
【0083】
(電気化学素子用電極)
本発明の電極は、上述した本発明の電極用スラリーを使用して得られる電極合材層を備える。より具体的には、本発明の電極は、通常、上記電極合材層を集電体上に備える。ここで、電極合材層には、電極活物質と、CNTと、分散剤とが含まれ、任意に結着材等が含まれている。そして、本発明の電極は、上述した本発明の電極用スラリーを用いて形成した電極合材層を備えているので、柔軟性及び平滑性に優れ、また電気化学素子に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0084】
<集電体>
集電体は、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料からなる。集電体としては、特に限定されず既知の集電体とを用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池の正極が備える集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる集電体を用い得る。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。アルミニウム及びアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0085】
<電極の製造方法>
本発明の電極を製造する方法は特に限定されない。例えば、本発明の電極は、上述した本発明の電極用スラリーを、集電体の少なくとも一方の面に塗布し、乾燥して電極合材層を形成することで製造することができる。より詳細には、当該製造方法は、電極用スラリーを集電体の少なくとも一方の面に塗布する工程(塗布工程)と、集電体の少なくとも一方の面に塗布された電極用スラリーを乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを含む。
【0086】
<<塗布工程>>
電極用スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、電極用スラリーを集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0087】
<<乾燥工程>>
集電体上の電極用スラリーを乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の電極用スラリーを乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える電極を得ることができる。
【0088】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層を集電体に良好に密着させることができる。
さらに、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させてもよい。
【0089】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、上述した本発明の電極を備える。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電極を備えているため、サイクル特性に優れている。なお、本発明の電気化学素子は、例えば非水系二次電池であり、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0090】
ここで、以下では、本発明の電気化学素子の一例としてのリチウムイオン二次電池の構成について説明する。このリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、セパレータを備える。そして正極と負極の少なくとも一方が、本発明の電極である。即ち、このリチウムイオン二次電池において、正極が本発明の電極であり負極が本発明の電極以外の電極であってもよく、正極が本発明の電極以外の電極であり負極が本発明の電極であってもよく、正極と負極の双方が本発明の電極であってもよい。
【0091】
<本発明の電極以外の電極>
本発明の電極に該当しない電極としては、特に限定されず既知の電極を用いることができる。
【0092】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましく、LiPF
6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0093】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0094】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0095】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明に従うリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0096】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。また、重合体が、共役ジエン単量体単位を含む重合物を水素化して成る水素化重合体である場合に、水素化重合体における、未水添の共役ジエン単量体単位と、水素化された共役ジエン単量体単位としてのアルキレン構造単位との合計含有割合は、重合物の重合に用いた全単量体に占める、共役ジエン単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例及び比較例において、分散剤の重量平均分子量、導電材分散液のキャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数、正極の平滑性及び柔軟性、並びにリチウムイオン二次電池の低温出力特性、レート特性及びサイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0097】
<重量平均分子量>
重合体である分散剤の重量平均分子量(Mw)を、濃度10mMのLiBr−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を使用し、下記の測定条件でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)より測定した。
・分離カラム:Shodex KD−806M(昭和電工株式会社製)
・検出器:示差屈折計検出器 RID−10A(株式会社島津製作所製)
・溶離液の流速:0.3mL/分
・カラム温度:40℃
・標準ポリマー:TSK 標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
<キャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数>
調製した導電材分散液ついて、レオメーター(Anton Paar社製、製品名「MCR302」)を使用し、温度25℃において、せん断速度を10
−2s
−1から10
3s
−1までの範囲で設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、そして一回目の複素弾性率を測定した(第一せん断処理)。その後、第一せん断処理と同じレオメーターを使用し、温度25℃において、せん断速度を10
3s
−1から10
−2s
−1までの範囲で設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、そして二回目の複素弾性率を測定した(第二せん断処理)。
得られた一回目の複素弾性率のせん断速度D(s
−1)に対するせん断応力(Pa)の測定データについて、せん断速度Dの平方根(D
1/2)をX軸、せん断応力Sの平方根(S
1/2)をY軸としてキャッソンプロットを作成した。そしてせん断速度Dが10
2s
−1から10
3s
−1の範囲で、当該プロットを1次直線回帰して得られるS
1/2=A×D
1/2+BにおけるA(傾き)をキャッソン粘度、Bをキャッソン降伏値とした。
また第一せん断処理時のせん断速度10s
−1における粘度N
1(Pa・s)と、第二せん断処理時のせん断速度10s
−1における粘度N
2(Pa・s)から、ヒステリシス定数Cを下記式(I)で算出した。
ヒステリシス定数C=(N
1−N
2)/N
1 ・・・(I)
<平滑性>
作製した正極が備える正極合材層の表面粗さRaについて、スライドガラスに張り付けた正極合材層をセットし、ナノスケールハイブリッド顕微鏡(キーエンス社製、製品名「VN−8010」)を用いて、倍率100倍における粗さ曲線から、温度25℃下にて測定し、下記の基準で評価した。表面粗さRaが小さいほど、正極が平滑性に優れていることを示す。
A:表面粗さRaが1μm以下
B:表面粗さRaが1μm超3μm以下
C:表面粗さRaが3μm超5μm以下
D:表面粗さRaが5μm超
<柔軟性>
作製した正極の正極合材層側に直径の異なるSUS製円柱棒を載置し、正極を円柱棒に巻き付けて正極合材層が割れるかどうかを目視で評価した。直径が小さいほど、正極合材層および正極が柔軟性に優れていることを示す。
A:2.0mmφの棒で割れない
B:2.5mmφの棒で割れない
C:3.0mmφの棒で割れない
D:3.5mmφの棒で割れない
<低温出力特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、25℃の環境下で、0.1Cの充電レートで5時間の充電操作を行い、充電操作後の電圧V0を測定した。
次に、−10℃環境下で、1Cの放電レートにて放電操作を行い、放電開始から15秒後の電圧V1を測定した。そして、電圧変化ΔVを、ΔV=V0−V1の式にて計算した。当該電圧変化ΔVの値が小さいほど、リチウムイオン二次電池が低温出力特性に優れていることを示す。
A:電圧変化ΔVが350mV未満
B:電圧変化ΔVが350mV以上450mV未満
C:電圧変化ΔVが450mV以上550mV未満
D:電圧変化ΔVが550mV以上
<レート特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
次に、温度25℃の環境下、0.1Cの定電流法によって4.2Vまで充電しその後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量を求めた。さらに、0.1Cにて4.2Vまで充電しその後1Cにて3.0Vまで放電し、1C放電容量を求めた。これらの測定を作製したリチウムイオン二次電池10セルについて行い、各測定値の平均値を、0.1C放電容量a、1C放電容量bとした。そして、電気容量の比=b/a×100(%)を算出し、下記の基準で評価した。電気容量の比の値が大きいほど、リチウムイオン二次電池がレート特性に優れることを示す。
A:電気容量の比が85%以上
B:電気容量の比が75%以上85%未満
C:電気容量の比が60%以上75%未満
D:電気容量の比が60%未満
<サイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
次に、温度25℃の環境下、セル電圧4.20−3.00V、1.0Cの充放電レートにて充放電の操作を100サイクル行った。その際、第1回目のサイクルの放電容量をX1,第100回目のサイクルの放電容量をX2と定義した。該放電容量X1および放電容量X2を用いて、容量維持率=(X2/X1)×100(%)を算出し、下記の基準で評価した。容量維持率の値が大きいほど、リチウムイオン二次電池がサイクル特性に優れることを示す。
A:容量維持率が93%以上
B:容量維持率が88%以上93%未満
C:容量維持率が83%以上88%未満
D:容量維持率が83%未満
【0098】
(実施例1)
<分散剤(HNBR−1)の調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水100部、並びに単量体としてのアクリロニトリル35部及び1,3−ブタジエン65部を仕込み、乳化剤としてオレイン酸カリウム2部、安定剤としてリン酸カリウム0.1部、さらに、分子量調整剤としてtert−ドデシルメルカプタン(TDM)0.7部を加えて、重合開始剤として過硫酸カリウム0.35部の存在下に30℃で乳化重合を行い、1,3−ブタジエンとアクリロニトリルとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で、単量体100部あたり0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、加温し、減圧下で約70℃にて水蒸気蒸留して、残留単量体を回収した後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、重合体の水分散液を得た。
次に、得られた重合体の水分散液400mL(全固形分:48g)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体の水分散液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒として、酢酸パラジウム50mgを、Pdに対して4倍モル当量の硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPa(ゲージ圧)まで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して、水素化ニトリルゴム(HNBR−1)の水分散液を得た。
この水分散液100部にNMP200部を加え、減圧下に水、残留モノマーをすべて蒸発させたのちNMPを蒸発させて、HNBR−1のNMP溶液(固形分濃度:8%)を得た。得られたHNBER−1の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。なお重量平均分子量は「130,000」であったが、表1では「×10
4」を省略し「13」と表記している。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−1)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)と、NMP82.5部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。次いで、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速30m/秒で5分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。この導電材分散液について、キャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数を評価した。結果を表1に示す。
<正極用スラリーの調製>
正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、平均粒子径:10μm)98.0部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン1.0部と、上記導電材分散液1.0部(固形分換算量)と、NMPとを添加し、プラネタリーミキサーにて混合(60rpm、30分)して、正極用スラリーを調製した。なお、NMPの添加量は、得られる正極用スラリーの粘度(JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計により測定。温度:25℃、回転数:60rpm)が4000〜5000mPa・sの範囲内となるように調整した。
<正極の作製>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリーを、コンマコーターでアルミ箔上に乾燥後の目付量が20mg/cm
2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm
3の正極合材層と、アルミ箔とからなるシート状正極を作製した。このシート状正極を幅48.0mm、長さ47cmに切断して、リチウムイオン二次電池用正極とした。この正極について、柔軟性及び平滑性を評価した。結果を表1に示す。
<負極の作製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、スチレン63.5部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し重合反応を停止して、粒子状の結着材(スチレン−ブタジエン共重合体)を含む混合物を得た。上記混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、混合物を30℃以下まで冷却し、負極用結着材を含む水分散液を得た。
プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛48.75部および天然黒鉛48.75部、並びに増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部(固形分相当)を投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分混練した。その後、上述のようにして得た負極用結着材を含む水分散液を固形分相当で1.5部投入し、回転速度40rpmで40分混練した。そして、粘度が3000±500mPa・s(B型粘度計、25℃、60rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、負極用スラリーを調製した。
上記の負極用スラリーを、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量が10±0.5mg/cm
2となるように塗布した。その後、負極合材層用スラリー組成物が塗布された銅箔を、400mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上の負極用スラリーを乾燥させ、集電体上に負極合材層が形成された負極原反を得た。
この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.6g/cm
3の負極合材層とアルミ箔とからなるシート状負極を作製した。そして、シート状負極を幅50.0mm、長さ52cmに切断して、リチウムイオン二次電池用負極とした。
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記リチウムイオン二次電池用正極とリチウムイオン二次電池用負極とを、互いの電極合材層同士が向かい合うようにし、厚さ15μmのセパレータ(ポリエチレン製の微多孔膜)を介在させて、直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。そして、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。なお、圧縮後の捲回体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また、電解液として濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を準備した。
その後、圧縮後の捲回体をアルミ製ラミネートケース内に3.2gの電解液とともに収容した。そして、負極の所定の箇所にニッケルリード線を接続し、正極の所定の箇所にアルミニウムリード線を接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、リチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池は、幅35mm、高さ60mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は700mAhであった。
得られたリチウムイオン二次電池について、低温出力特性、レート特性及びサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例2)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:B−2)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)と、NMP82.5部とを、プラネタリ―ミキサーを用いて、温度を45℃に保ちながら回転数60rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。次いで、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速30m/秒で5分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0100】
(実施例3)
以下のようにして調製した分散剤(HNBR−2)及び導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<分散剤(HNBR−2)の調製>
TDMの使用量を0.4部に変更した以外は、実施例1のHNBR−1と同様にして、HNBR−2のNMP溶液(固形分濃度:8%)を得た。
<導電材分散液の調製(調製方法:B−3)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−2のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)と、NMP82.5部とを、プラネタリ―ミキサーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数60rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。第一分散工程後に得られた組成物に対し、更にHNBR−2のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)を添加し、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速30m/秒で5分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0101】
(実施例4)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−3)>
第二分散工程において薄膜旋回型高速ミキサーの周速を20m/秒に変更した以外は、実施例1の調製方法A−1と同様にして導電材分散液を調製した。
【0102】
(実施例5)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−4)>
第二分散工程において薄膜旋回型高速ミキサーの周速を40m/秒に変更した以外は、実施例1の調製方法A−1と同様にして導電材分散液を調製した。
【0103】
(実施例6)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−5)>
第二分散工程において薄膜旋回型高速ミキサーによる分散処理の時間を3分間に変更した以外は、実施例1の調製方法A−1と同様にして導電材分散液を調製した。
【0104】
(実施例7)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−6)>
第二分散工程において薄膜旋回型高速ミキサーによる分散処理の時間を10分間に変更した以外は、実施例1の調製方法A−1と同様にして導電材分散液を調製した。
【0105】
(実施例8)
以下のようにして調製した分散剤(ACL)を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電材分散液、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<分散剤(ACL)の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水164部、2−エチルヘキシルアクリレート35部、スチレン32部、アクリロニトリル30部、メタクリル酸3部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム1.2部、分子量調整剤としてTDM0.6部を入れ、十分に撹拌した後、70℃で3時間、80℃で2時間加温して重合を行い、アクリル系重合体(ACL)の水分散液を得た。なお、この水分散体の固形分濃度は37.3%であり、固形分濃度から求めた重合転化率は96%であった。
この水分散液100部にNMP200部を加え、減圧下に水、残留モノマーをすべて蒸発させたのちNMPを蒸発させて、ACLのNMP溶液(固形分濃度:8%)を得た。
【0106】
(実施例9)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:C−2)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)、NMP82.5部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。
次いで、第一分散工程後に得られた組成物に対し、更にHNBR−1のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)を添加し、ビーズミル(アシザワファインテック社製、製品名「LMZ015」)を用いて、直径1.5mmのジルコニアビーズを見かけ充填率50体積%となるようにし、周速12m/秒にて20分間混合した。次に直径0.8mmのジルコニアビーズを見かけ充填率50体積%となるようにし、周速8m/秒にて20分間混合した。さらに直径0.8mmのジルコニアビーズを見かけ充填率80体積%となるようにし、周速12m/秒にて20分間混合し、導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0107】
(比較例1)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−2)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)と、NMP82.5部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3,000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。第一分散工程後に得られた組成物に対し、更にHNBR−1のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)を添加し、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速30m/秒で5分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0108】
(比較例2)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:B−1)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)と、NMP82.5部とを、プラネタリ―ミキサーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数60rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。次いで、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速30m/秒で5分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0109】
(比較例3)
導電材分散液の調製に際し、HNBR−1に代えて実施例3と同様にして調製したHNBR−2を使用した以外は、比較例2と同様にして、導電材分散液、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
(比較例4)
導電材分散液の調製に際し、HNBR−1に代えて実施例3と同様にして調製したHNBR−2を使用した以外は、比較例1と同様にして、導電材分散液、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
(比較例5)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:C−1)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−1のNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)、NMP82.5部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。
次いで、第一分散工程後に得られた組成物に対し、ビーズミル(アシザワファインテック社製、製品名「LMZ015」)を用いて、直径1.25mmのジルコニアビーズを見かけ充填率80体積%となるようにし、周速8m/秒にて1時間混合し、導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0112】
(比較例6)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例3と同様にして、分散剤(HNBR−2)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:C−3)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、HNBR−2のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)、NMP82.5部とを、プラネタリ―ミキサーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数60rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。
次いで、第一分散工程後に得られた組成物に対し、更にHNBR−2のNMP溶液6.25部(固形分として0.5部相当)を添加し、ビーズミル(アシザワファインテック社製、製品名「LMZ015」)を用いて、直径1.25mmのジルコニアビーズを見かけ充填率80体積%となるようにし、周速8m/秒にて20分間混合し、導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0113】
(比較例7)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−7)>
ポリビニルピロリドン(東京化成工業社製。製品名「PVP K15」)のNMP溶液(固形分濃度:8%)を準備した。
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)4部と、PVPのNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)と、NMP83.5部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。次いで、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速40m/秒で1分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0114】
(比較例8)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、分散剤(HNBR−1)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:A−8)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)5部と、PVPのNMP溶液12.5部(固形分として1部相当)と、NMP82.5部とを、ディスパーを用いて、温度を45℃に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。次いで、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス社、製品名「フィルミックス、56−50型」)を用いて、周速50m/秒で20分間、分散処理を実施して導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0115】
(比較例9)
以下のようにして調製した導電材分散液を用いた以外は、実施例3と同様にして、分散剤(HNBR−2)、正極用スラリー、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
<導電材分散液の調製(調製方法:C−1)>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:250m
2/g)2部と、HNBR−のNMP溶液5部(固形分として0.4部相当)、NMP93部とを、ディスパーを用いて、温度を25℃以下に保ちながら回転数3000rpmで30分間、分散処理を実施した(第一分散工程)。
次いで、第一分散工程後に得られた組成物に対し、ビーズミル(アシザワファインテック社製、製品名「LMZ015」)を用いて、直径1.25mmのジルコニアビーズを見かけ充填率80体積%となるようにし、周速8m/秒にて1時間混合し、導電材分散液を調製した(第二分散工程)。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表1及び表2より、CNTを含有する導電材、分散剤、及び分散媒を含み、キャッソン粘度、キャッソン降伏値及びヒステリシス定数がそれぞれ所定の値以下である実施例1〜9の導電材分散液を用いれば、柔軟性及び平滑性に優れ正極を作製でき、また当該正極によればリチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させ得ることが分かる。また実施例1〜9では、リチウムイオン二次電池が低温出力特性及びサイクル特性に優れることも分かる。