(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒担持体と、該触媒担持体の外側を覆うケーシングと、該触媒担持体と該ケーシングとの間に介装されたマットとを備える排ガス浄化装置において、該マットが請求項5に記載のマットであることを特徴とする排ガス浄化装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
なお、数値範囲を示す「a〜b」の記述は、「a以上b以下」を意味する。
【0022】
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0023】
[無機繊維成形体]
本発明の無機繊維成形体は、無機繊維で構成され、
厚み方向に延在したニードル痕を有し、該ニードル痕には、該厚み方向に延在した該無機繊維よりなる縦糸条が存在する無機繊維成形体において、
該無機繊維成形体は、
下記剥離試験を行ったときに、50mm×50mmの範囲における、一方の剥離面及び他方の剥離面から突出する全ての縦糸条のうち、直径100μm以上で突出長さ2mm以上である縦糸条を有効縦糸条と表した場合、
下記(I)及び(II)の少なくとも一方の特性を満たすことを特徴とする。
(I) 該範囲における有効縦糸条の、前記剥離面から突出した部分の総体積を該範囲におけるニードル痕の数で除した、ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積が1.0mm
3以上である。
(II) 該範囲における有効縦糸条1条あたりの、前記剥離面から突出した部分の平均体積が3.0mm
3以上である。
【0024】
本発明の無機繊維成形体は、無機繊維で構成され、かつニードリング処理が施された無機繊維成形体である。無機繊維成形体は、所定厚みを有したマット状である。無機繊維成形体の厚み方向と垂直な面を以下、マット面ということがある。また、無機繊維成形体のマット面と垂直な側面(厚み方向の面)を端面ということがある。
【0025】
[無機繊維成形体の製造方法]
本発明の無機繊維成形体は、ゾル−ゲル法により無機繊維前駆体のマット状集合体を得る工程と、得られた無機繊維前駆体のマット状集合体にニードリング処理を施す工程と、ニードリング処理された無機繊維前駆体のマット状集合体を焼成して無機繊維成形体とする焼成工程とを含む方法により製造することができる。しかし、本発明の無機繊維成形体は、これ以外の方法によって製造されてもよい。
【0026】
以下、この無機繊維成形体の製造方法の一例を、アルミナ/シリカ系繊維成形体の製造方法を例示して説明するが、本発明の無機繊維成形体は、アルミナ/シリカ系繊維成形体に何ら限定されず、前述の如く、シリカ、ジルコニア、スピネル、チタニア或いはこれらの複合繊維よりなる成形体であってもよい。
【0027】
<紡糸工程>
ゾル−ゲル法によりアルミナ/シリカ系繊維のマット状集合体を製造するには、まず、塩基性塩化アルミニウム、ケイ素化合物、増粘剤としての有機重合体及び水を含有する紡糸液をブローイング法で紡糸してアルミナ/シリカ繊維前駆体の集合体を得る。
【0028】
≪紡糸液の調製≫
塩基性塩化アルミニウム;Al(OH)
3−xCl
xは、例えば、塩酸又は塩化アルミニウム水溶液に金属アルミニウムを溶解させることにより調製することができる。上記の化学式におけるxの値は、通常0.45〜0.54、好ましくは0.5〜0.53である。ケイ素化合物としては、シリカゾルが好適に使用されるが、その他にはテトラエチルシリケートや水溶性シロキサン誘導体などの水溶性ケイ素化合物を使用することもできる。有機重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子化合物が好適に使用される。これらの重合度は、通常1000〜3000である。
【0029】
紡糸液は、塩基性塩化アルミニウム由来のアルミニウムとケイ素化合物由来のケイ素の比が、Al
2O
3とSiO
2の重量比に換算して、通常99:1〜65:35、好ましくは99:1〜70:30で、アルミニウムの濃度が170〜210g/Lで、有機重合体の濃度が20〜50g/Lであるものが好ましい。
【0030】
紡糸液中のケイ素化合物の量が上記の範囲より少ない場合は、短繊維を構成するアルミナがα−アルミナ化し易く、しかも、アルミナ粒子の粗大化による短繊維の脆化が起こり易い。一方、紡糸液中のケイ素化合物の量が上記の範囲よりも多い場合は、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)と共に生成するシリカ(SiO
2)の量が増えて耐熱性が低下しやすい。
【0031】
紡糸液中のアルミニウムの濃度が170g/L未満の場合又は有機重合体の濃度が20g/L未満の場合は、何れも、紡糸液の適当な粘度が得られずに得られるアルミナ/シリカ系繊維の繊維径が小さくなる。すなわち、紡糸液中の遊離水が多すぎる結果、ブローイング法による紡糸の際の乾燥速度が遅く、延伸が過度に進み、紡糸された前駆体繊維の繊維径が変化し、所定の平均繊維径で且つ繊維径分布がシャープな短繊維が得られない。しかも、アルミニウムの濃度が170g/L未満の場合は、生産性が低下する。一方、アルミニウムの濃度が210g/Lを超える場合又は有機重合体の濃度が50g/Lを超える場合は、何れも、粘度が高すぎて紡糸液にはならない。紡糸液中のアルミニウムの好ましい濃度は180〜200g/Lであり、有機重合体の好ましい濃度は30〜40g/Lである。
【0032】
上記の紡糸液は、塩基性塩化アルミニウム水溶液に上記Al
2O
3:SiO
2比となる量のケイ素化合物と有機重合体を添加し、アルミニウム及び有機重合体の濃度が上記の範囲となるように濃縮することによって調製される。
【0033】
≪ブローイング≫
紡糸(紡糸液の繊維化)は、通常、高速の紡糸気流中に紡糸液を供給するブローイング法によって行われ、これにより、アルミナ短繊維前駆体が得られる。上記の紡糸の際に使用する紡糸ノズルの構造は、特に制限はないが、例えば、特許第2602460号公報に記載されているような、エアーノズルより吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルより押し出される紡糸液流とは並行流となり、しかも、空気の並行流は充分に整流されて紡糸液と接触する構造のものが好ましい。
【0034】
また、紡糸に際しては、先ず、水分の蒸発や紡糸液の分解が抑制された条件下において、紡糸液から充分に延伸された繊維が形成され、次いで、この繊維が速やかに乾燥されることが好ましい。そのためには、紡糸液から繊維が形成されて繊維捕集器に到達するまでの過程において、雰囲気を水分の蒸発を抑制する状態から水分の蒸発を促進する状態に変化させることが好ましい。
【0035】
アルミナ/シリカ系繊維前駆体は、紡糸気流に対して略直角となるように金網製の無端ベルトを設置し、無端ベルトを回転させつつ、これにアルミナ/シリカ系繊維前駆体を含む紡糸気流を衝突させる構造の集積装置により捕集して集積させ、アルミナ/シリカ系繊維前駆体の連続シート状の集積体(薄層シート)として回収することができる。
【0036】
この薄層シートの坪量は、10〜200g/m
2、特に好ましくは、30〜100g/m
2程度であるが、これに限定されない。
【0037】
上記の集積装置より回収された薄層シートは、さらに積層することができる。具体的には、例えば、無機繊維前駆体の集積体(薄層シート)を連続的に引出して折畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ねつつ、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動させることにより無機繊維前駆体の積層集積体(積層シート)にすることができる。このように薄層シートを積層させることにより、積層シートの坪量(目付量)がシート全体に亘って均一となる。上記の折畳み装置としては、特開2000−80547号公報に記載のものを使用することができる。
【0038】
積層シートは、好ましくは5層以上、より好ましくは8層以上、特に好ましくは10〜80層の薄層シートを積層することにより形成される。ただし、積層数はこれに限定されない。
【0039】
<ニードリング助剤添着工程>
紡糸により得られたアルミナ/シリカ系繊維前駆体の積層シート又は積層シートのシート面に必要に応じ前述のニードリング助剤を添着する。ニードリング助剤は、双方のシート面に添着することが好ましい。
【0040】
ニードリング助剤としては、無機繊維前駆体集合体のマット面付近の糸条を強化する作用を有するものであれば、特に限定されず、各種コーティング剤、例えば、アクリル系ポリマーコーティング剤などを用いることができる。
【0041】
ニードリング助剤を付着後に、無機繊維前駆体マット状集合体を乾燥させてもよい。すなわち、ニードリング助剤は、ドライコーディングとすることが好ましい。ニードリング助剤は、無機繊維前駆体を集積するときに付着させてもよい。
【0042】
なお、ニードリング助剤と併用して、ニードルと繊維との摩擦を低減させる作用を有する減摩剤(界面活性剤やエマルジョン)を使用しても良い。その場合、ニードリング助剤と減摩剤とを使用する順序は特に限定されないが、例えば、ニードリング助剤液を付着後に、減摩剤を溶媒に溶かしたり、分散させたりして塗布(ウェットコーティング)することなどが好ましい。
【0043】
<ニードリング処理工程>
紡糸により得られたアルミナ/シリカ系繊維前駆体の積層シートに、必要に応じニードリング助剤を添着した後、バーブを有するニードルを積層シートに抜き刺しするニードリング処理を施す。ニードリング処理は、いずれか一方の面からのみ施されてもよく、両面から施されてもよい。好ましくは、両面から施される。
【0044】
ニードルは、積層シートのシート面と垂直方向に抜き刺しされることが好ましい。ニードルは、積層シートの厚み方向中央よりも深く刺し込まれる。ニードルは積層シートを厚み方向に貫通するように刺し込まれてもよい。
【0045】
このように、ニードリング処理することにより、無機繊維成形体にニードル痕が形成される。即ち、バーブが付いたニードルを無機繊維集積体に抜き刺しするニードリング処理を施すと、ニードルが抜き刺しされた箇所においては、少なくとも一部の繊維がニードルによって略厚み方向に延在せしめられる。これによって、無機繊維成形体の表面にニードル痕が形成される。ニードリング処理をされた無機繊維成形体の内部において、略厚み方向に延在した無機繊維の糸条を縦糸条という。
【0046】
ニードリング処理は、縦糸条を形成することにより、無機繊維成形体の嵩密度や剥離強度、面圧(高温サイクル後の面圧)、反発力の耐久性(高温サイクル後の面圧保持率)を調整するために行われる。
【0047】
ニードル痕は、無機繊維成形体を貫通していてもよく、一方のマット面から貫入し、他方のマット面に達しないように延在してもよい。
【0048】
<焼成工程>
本発明の無機繊維成形体は、好ましくは、ニードリング処理された無機繊維前駆体を焼成してなる無機繊維成形体の焼成体である。ニードリング処理後の焼成は、通常900℃以上、好ましくは1000〜1300℃の温度で行う。焼成温度が900℃以上であれば、十分に結晶化が進み、強度に優れたアルミナ/シリカ系繊維が得られるため好ましい。また、焼成温度が1300℃以下であれば、繊維の結晶の粒成長が進行し過ぎず、適度な強度を有するアルミナ/シリカ系繊維を得られるため好ましい。
【0049】
[無機繊維成形体の好適な構成]
<無機繊維>
本発明の無機繊維成形体を構成する無機繊維としては、特に制限はなく、シリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア等の単独、又は複合繊維が挙げられるが、特に好ましいのはアルミナ/シリカ系繊維、特に結晶質アルミナ/シリカ系繊維である。アルミナ/シリカ系繊維のアルミナ/シリカの組成比(重量比)は60〜95/40〜5の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは70〜84/30〜16の範囲、特に好ましくは70〜76/30〜24の範囲である。
【0050】
また、無機繊維は、短繊維であることが好ましい。無機繊維の平均繊維径は3〜10μm、特に5〜8μmであることが好ましい。無機繊維の平均繊維径の上限がこの範囲であれば、無機繊維成形体としての適度な反発力を有するため好ましい。また、無機繊維の平均繊維径の下限がこの範囲であれば、空気中に浮遊する発塵量を抑えることができるため好ましい。
【0051】
<ニードル痕密度>
≪ニードル痕密度の測定方法≫
本発明の一態様において、無機繊維成形体は焼成体である。この場合、ニードル痕密度は焼成後の無機繊維成形体のマット面の単位面積(1cm
2)当りのニードル痕の数を意味する。
【0052】
無機繊維成形体のマット面に可視光を当てると、ニードル痕における透過光量は、ニードル痕以外の領域における透過光量よりも多いので、剥離面で透過光が光点として観察される。この剥離面への透過による光点と縦糸条の数をカウントすることにより、ニードル痕の数を求める。
【0053】
すなわち、無機繊維成形体の一方の面に可視光を当て、この剥離面への透過による光点と縦糸条の数をカウントすることにより、ニードル痕の数を求める。
【0054】
≪ニードル痕密度の好ましい範囲≫
本発明において、無機繊維成形体のマット面の単位面積(1cm
2)当りのニードル痕の数(ニードル痕密度)は、マット面全体の平均値として、好ましくは1個/cm
2以上、より好ましくは3個/cm
2以上、さらに好ましくは5個/cm
2以上、特に好ましくは8個/cm
2以上であり、好ましくは30個/cm
2以下、より好ましくは28個/cm
2以下、さらに好ましくは25個/cm
2以下、特に好ましくは20個/cm
2以下である。ニードル痕の数がこのような範囲にあれば、無機繊維成形体の面圧が高く保持され、排ガス浄化装置用マットのような反発力の耐久性が要求される用途に特に好ましく用いられる。
【0055】
本発明では、ニードル痕の平均径が、無機繊維成形体を構成する無機繊維における平均繊維径の10〜400倍、特に30〜300倍、とりわけ50〜200倍であることが好ましい。この範囲であることにより、繊維の損傷が少なく縦糸を形成できるため、無機繊維成型形体の面圧が高く保持され、排ガス浄化装置用マットのような反発力の耐久性が要求される用途に特に好ましく用いられる。
【0056】
<無機繊維成形体の坪量及び厚み>
本発明の無機繊維成形体の坪量(単位面積当りの質量)は、用途に応じて適宜決定されるが、好ましくは600g/m
2以上、より好ましくは700g/m
2超、より好ましくは800g/m
2超、更に好ましくは900g/m
2超、特に好ましくは1000g/m
2超である。また、本発明の無機繊維成形体の坪量は、特段の制限はないが、好ましくは5000g/m
2以下、より好ましくは4500g/m
2以下、さらに好ましくは4000g/m
2以下、特に好ましくは3500g/m
2以下である。
【0057】
本発明の無機繊維成形体の厚みは、好ましくは4mm以上、より好ましくは5mm以上、特に6mm以上である。また、本発明の無機繊維成形体の厚みは、好ましくは40mm以下、さらに好ましくは35mm以下、特に好ましくは30mm以下である。
【0058】
無機繊維成形体の単位面積当りの坪量や厚みは、該無機繊維成形体を構成する無機繊維集積体を折り畳み装置にて積層する際、単位面積当りの繊維量を調整することによって、上記の範囲とすることができる。また、本発明の無機繊維成形体は、複数の無機繊維成形体を接着した構成であっても、単一の構成であってもよいが、ハンドリング性や接着界面における剥離強度の点から、単一の構成であることが好ましい。
【0059】
<縦糸条>
本発明の無機繊維成形体は、ニードリング処理により形成されたニードル痕を有する。前述の通り、バーブが付いたニードルを無機繊維集積体に抜き刺しするニードリング処理を施すと、ニードルが抜き刺しされた箇所においては、少なくとも一部の繊維がニードルによって略厚み方向に延在せしめられる。このニードリング処理により形成された、無機繊維成形体の内部に存在する、略厚み方向に形成される無機繊維の糸条を縦糸条という。
【0060】
<有効縦糸条>
本発明において、無機繊維成形体の内部に存在する、縦糸条のうち、特定の径及び長さを有する縦糸条を有効縦糸条とする。具体的には、後述の剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面(一方の剥離面1a及び他方の剥離面1b)から突出する全ての縦糸条F(
図1)のうち、直径100μm以上で突出長さ2mm以上である縦糸条を有効縦糸条とする。なお、縦糸条に関する各数値の測定を行う単位面積(50mm×50mm)は、試験片(150mm×50mm)のうち、厚み中央に30mm深さの切り込みを入れた部分を避け、任意の領域とする。
【0061】
有効縦糸条は、無機繊維成形体の内部において、略厚み方向に存在する縦糸条のうち、無機繊維成形体の嵩密度や剥離強度、反発力の耐久性(高温サイクル後の面圧保持率)を調整するように作用する径及び長さを有するものである。
【0062】
[特性I,IIの説明]
<剥離試験>
無機繊維成形体から幅50mm、長さ150mmの試験片1を型抜きし、
図2のようにこの試験片1の一方の端面1eの厚み中央に30mm深さの切り込みを入れる。切り込みは、該幅方向の一端から他端まで延在するように設けられる。次いで、
図1のように、切り込みにより形成されたその両端をつかみ治具2に支持した後、引張試験機にセットし、500mm/minの速度でマット面と垂直な相反方向(
図1では上方と下方)に引っ張って試験片を2つに裂く。
【0063】
<最大剥離強度>
図1の通り、500mm/minの速度でマット面と垂直な相反方向に引っ張って試験片1を2つに裂いたときの荷重ピークの最大値(N)を最大剥離強度とする。
【0064】
本発明の無機繊維成形体は、上記に記載の剥離試験による荷重ピーク(N)として求められる最大剥離強度が3.0N以上であることが好ましく、5.0N以上であることがより好ましく、6.0N以上であることがより好ましく、6.5N以上であることが特に好ましい。無機繊維成形体の剥離強度は高い程有利であるが、50.0N以下が好ましく、45.0N以下がより好ましく、40.0N以下であることが特に好ましい。
【0065】
本発明の無機繊維成形体は、例えば断熱材として加工する際、成形時の作業性悪化、密度分布差を最小限に抑えるため、剥離強度に優れるものであることが好ましい。また、自動車等に使用される排ガス浄化装置用マットとして触媒担持体に巻回し、金属ケーシングに組み付けたときにマットの層間ずれを発生させないため、剥離強度に優れるものであることが好ましい。
【0066】
<有効縦糸条の剥離面から突出した部分の総体積V>
上記剥離試験を行った後、剥離面1a及び1bから突出する有効縦糸条の数(本数)N、直径(太さ)D、長さ(剥離面1a又は1bからの突出長さ)Lをそれぞれデジタルマイクロスコープで測定する。デジタルマイクロスコープの測定倍率は10〜20倍とすることが好ましい。長さLは、剥離面1a又は1bから突出した部分の長さであって、直径100μm以上の部分を計測する。直径Dは、剥離面1a又は1bから突出した部分の長さ方向中間部で測定された値である。
【0067】
この50mm×50mmの範囲における、有効縦糸条の剥離面から突出した部分の総体積Vは、N本の有効縦糸条の各々についてそれぞれ剥離面1a又は1bから突出した部分の体積(πD
2・L/4)を算出して合計した値である。
【0068】
本発明の無機繊維成形体では、剥離面から突出する部分における有効縦糸条の総体積(体積の和)Vは、好ましくは2.0mm
3/cm
2以上、より好ましくは4.0mm
3/cm
2以上、さらに好ましくは8.0mm
3/cm
2以上、特に好ましくは12.0mm
3/cm
2以上である。有効縦糸条の総体積が、上記の範囲であることは、無機繊維成形体の内部に、縦糸条がさらに強固に存在することを意味し、略厚み方向における層間剥離強度をさらに改善することができる。
【0069】
この総体積(体積の和)Vの値は、単位面積(50mm×50mm)あたりに換算すると、好ましくは50mm
3以上、より好ましくは100mm
3以上、さらに好ましくは200mm
3以上、特に好ましくは300mm
3以上である。
【0070】
<ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の剥離面から突出した部分の平均体積(特性I)>
上記の50mm×50mmの範囲におけるニードル痕の数nを前述の測定方法により測定しておく。剥離試験を行って求めた上記総体積Vをnで除算することにより、ニードル痕1個当りの有効縦糸条の剥離面から突出した部分の平均体積(以下、「ニードル痕1個当たりの有効縦糸条の平均体積」ということがある。)が求められる。
【0071】
即ち、ニードル痕1個当たりの有効縦糸条の平均体積とは、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりの剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)に存在する、全ての有効縦糸条の剥離面から突出した部分の体積の和(総体積)Vを、該単位面積あたりのニードル痕の数nで除した値V/nである。ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積V/nが大きいほど、ニードリング処理が効果的に行われ、より強固な有効縦糸条が形成される。
【0072】
第1態様の無機繊維成形体では、ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積V/nは1.0mm
3以上であり、より好ましくは、1.3mm
3以上、さらに好ましくは、1.6mm
3以上、特に好ましくは、1.9mm
3以上である。ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積が上記の範囲であれば、無機繊維成形体の内部において、略厚み方向の繊維同士が強固に絡み合い、高い面圧と優れた剥離強度を両立することができる。そして、排ガス浄化装置用の触媒担持体とその把持材(排ガス浄化装置用マット)を金属ケーシングに圧入する際、該マットが剥離するのを防ぐことができる。第1態様の無機繊維成形体のニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積V/nは、好ましくは、50mm
3以下、さらに好ましくは、40mm
3以下、特に好ましくは、30mm
3以下である。
【0073】
<有効縦糸条1条当りの剥離面から突出した部分の平均体積(特性II)>
上記総体積Vを有効縦糸条の数Nで除算することにより、有効縦糸条1条当りの剥離面から突出した部分の平均体積(以下、「有効縦糸条1条あたりの平均体積」ということがある。)が求められる。
【0074】
即ち、有効縦糸条1条あたりの平均体積とは、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりの剥離両面(一方の剥離面及び他方の剥離面)に存在する、全ての有効縦糸条の剥離面から突出した部分の体積の和(総体積)Vを、該単位面積における有効縦糸条の数Nで除した値V/Nである。無機繊維成形体における有効縦糸条1条あたりの平均体積V/Nが大きいほど、ニードリング処理が効果的に行われ、より強固な有効縦糸条が形成される。
【0075】
第2態様の無機繊維成形体では、有効縦糸条1条あたりの平均体積V/Nは3.0mm
3以上であり、より好ましくは、3.5mm
3以上、さらに好ましくは、4.0mm
3以上である。有効縦糸条1条あたりの平均体積V/Nが上記の範囲であれば、剥離強度を向上させることができる。そして、排ガス浄化装置用の触媒担持体とその把持材(排ガス浄化装置用マット)を金属ケーシングに圧入する際、該マットが剥離するのを防ぐことができる。無機繊維成形体の有効縦糸条1条あたりの有効縦糸条の平均体積V/Nは、好ましくは、100mm
3以下、さらに好ましくは、50mm
3以下、特に好ましくは、40mm
3以下である。
【0076】
無機繊維成形体の面圧や反発力の耐久性を高めるためには、ニードリング処理における打数を減らし、ニードル痕密度を小さくすることで、繊維の拘束を緩める手段が考えられる。しかしながら、ニードル痕密度を小さくすると、剥離強度などの他の物性が低下する恐れがあった。そこで、本発明においては、縦糸条の形態に着眼し、第1態様では、ニードル痕1個あたりの有効縦糸条の平均体積V/nを1.0mm
3以上とし、第2態様では、有効縦糸条1条あたりの平均体積V/Nを3.0mm
3以上とする。これにより、縦糸条がより強固に形成される。
【0077】
本発明において、特性(I)及び(II)の少なくとも一方を満たすことにより、ニードリング処理により形成される縦糸条がより強固になり、ニードリング処理による糸切れを低減される。
【0078】
縦糸条をより強固にする手段としては、特段限定されないが、次にあげる具体的な手段(i),(ii)が例示される。
【0079】
(i)無機繊維前駆体の集合体の表面に、太い無機繊維前駆体の糸条物を配材し、この太い糸条物をニードリング処理の時にニードルによって無機繊維前駆体の集合体中に押し込むようにして、縦糸条を形成する。
【0080】
太い糸条物をニードリングするニードルの種類は、特に限定はしないが、フォークニードルが好ましい。この太い糸条物は、無機繊維前駆体と同材質であることが好ましく、特に無機繊維前駆体の集合体を集積させるときに集積装置内に副生する、前駆体の繊維が一方向に配向した太い紐状の糸条物が好ましい。また、この太い紐状の糸状物は短繊維の集合体であることが好ましい。この太い紐状の糸状物の平均直径は、有効縦糸条の平均直径の1.2倍以上、特に1.5倍以上であり、また4倍以下、特に3倍以下であることが好ましい。
【0081】
(ii)ニードリング処理に先行して、無機繊維前駆体の集合体の表面に、ニードリング助剤液を噴霧等により付着(添着)させることにより、縦糸条を構成する無機繊維前駆体の物性を強化する。好適なニードリング助剤は、前述の通りである。
【0082】
<有効縦糸条の平均太さ>
本発明では、有効縦糸条の平均太さ(直径)は、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上、特に好ましくは700μm以上である。また、有効縦糸条の平均太さは、好ましくは3000μm以下、より好ましくは2800μm以下、特に好ましくは2500μm以下である。有効縦糸条の平均太さが上記の範囲であれば、有効縦糸条に外力が加わった際に破断しにくく、剥離強度の高いブランケットとなる。
【0083】
<有効縦糸条の平均長さ>
本発明の無機繊維成形体の縦糸条は、一方の剥離面における有効縦糸条の平均長さL’が、他方の剥離面の厚みz(すなわち、無機繊維成形体の全厚みの1/2)に対して、特定の比率の範囲内にあることが好ましい。すなわち、剥離試験を行ったときに、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、一方の剥離面の有効縦糸条の平均長さL’を、他方の剥離面の厚みzで除した比率(L’/z)・100(%)は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。比率(L’/z)・100(%)が上記の範囲にあると、剥離強度をさらに向上させることができるため、好ましい。一方、比率(L’/z)・100(%)は、好ましくは200%以下、さらに好ましくは150%以下である。比率(L’/z)・100(%)が上記範囲内であれば、閉ループの突出を小さく抑えられるため、工程上のトラブルを軽減することができる。
【0084】
<単位面積あたりの有効縦糸条の数>
本発明の無機繊維成形体では、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面に存在する有効縦糸条の合計が、好ましくは20条以上、より好ましくは40条以上、特に好ましくは60条以上である。有効縦糸条の数が上記の範囲であれば、剥離強度をさらに向上できるため好ましい。一方、該単位面積あたりの有効縦糸条の数は、好ましくは500条以下、より好ましくは400条以下、特に好ましくは250条以下である。有効縦糸条の数の上限が上記の範囲であれば、無機繊維成形体の面圧を低下させることなく剥離強度を向上させることができるため、特に、面圧が要求される用途等において好ましい。
【0085】
<面圧および反発力の耐久性>
本発明の無機繊維成形体において、面圧(高温サイクル後の面圧)および反発力の耐久性(高温サイクル後の面圧保持率)は、次の測定試験により求めることができる。無機繊維成形体をGBD(嵩密度)=0.30で30分間圧縮した後、上下のプレートを600℃まで昇温し、開放時GBD=0.27、圧縮時GBD=0.30とする、開放と圧縮を1000回繰り返す。その際、第1回目の開放時(GBD=0.27)の面圧値と、第1000回目の開放時(GBD=0.27)の面圧値を測定する。このとき、第1000回目の開放時の面圧値(kPa)を、面圧(高温サイクル後の面圧)とする。また、第1000回目の開放時の面圧値(kPa)と第1回目の開放時の面圧値(kPa)とに基づいて、以下の式より、面圧の劣化度合いの指標となる高温サイクル後面圧保持率(%)を求め、反発力の耐久性とする。
高温サイクル後面圧保持率(%)=([第1000回目の面圧値]/[第1回目の面圧値])×100
【0086】
本発明の無機繊維成形体は、面圧(高温サイクル後の面圧)が高いほど、優れた保持力を有することができる。そのため、本発明の無機繊維成形体は面圧が30(kPa)以上であることが好ましく、33(kPa)以上であることがより好ましく、36(kPa)以上であることが特に好ましい。また、面圧が高いほど有利であるが、一般に層間剥離強度は低下傾向にあり有効縦糸条体積を大きくするほど本願発明の効果は大きくなる。本発明の無機繊維成形体は、面圧の上限は特段の制限はないが、1000(kPa)以下であることが好ましく、900(kPa)以下であることがより好ましく、800(kPa)以下であることが特に好ましい。
【0087】
本発明の無機繊維成形体は、反発力の耐久性(高温サイクル後の面圧保持率)が高いほど好ましく、60(%)以上であることが好ましく、65(%)以上であることがより好ましく、70(%)以上であることが特に好ましい。また、反発力の耐久性は高いほど有利であるが、100(%)以下であることが好ましく、99(%)以下であることがより好ましく、98(%)以下であることが特に好ましい。
【0088】
[無機繊維成形体の用途]
本発明の無機繊維成形体の用途としては、特に制限はなく、各種断熱材、パッキンなどがあるが、特に排ガス浄化装置用マットとして有用である。
【0089】
<排ガス浄化装置用マット>
排ガス浄化装置用マットは、排ガス浄化装置の触媒担持体の把持材であって、触媒担持体を金属ケーシングに収容する際に、触媒担持体に巻回され、触媒担持体と金属ケーシングの間(GAP)に介装される排ガス浄化装置用のクッション材である。本発明の排ガス浄化装置用マットは、本発明の無機繊維成形体により構成される。具体的には、本発明の無機繊維成形体に切断等の形状加工を施し、排ガス浄化装置用マットとする。本発明の排ガス浄化装置用マットを構成する無機繊維成形体は、有機バインダーを含んでもよい。有機バインダーの含有量は10重量%未満が好ましく、5重量%未満がより好ましく、2.5重量%未満が特に好ましい。
【0090】
有機バインダーの含有量が10重量%以上であると、エンジン燃焼時の排ガスの高熱による有機バインダーの分解で、NO
x、CO、HC等の分解ガス発生の問題が大きくなることがある。
【0091】
有機バインダーとしては、各種のゴム、水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを使用することができる。
【0092】
上記の有機バインダーを有効成分とする水溶液、水分散型のエマルション、ラテックス、又は有機溶媒溶液が市販されている。これらの有機バインダー液は、そのまま又は水等で希釈して用いることができ、マット中に有機バインダーを含有させるのに好適に使用することができる。なお、マット中に含有されている有機バインダーは、必ずしも1種である必要はなく、2種以上の混合物であっても何等差し支えない。
【0093】
上記有機バインダーの中では、アクリルゴム、ニトリルゴム等の合成ゴム;カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;又はアクリル樹脂が好ましく、中でもアクリルゴム、ニトリルゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルゴムに含まれないアクリル樹脂が特に好ましい。これらのバインダーは、有機バインダー液の調製又は入手が容易であり、またマット中への含浸操作も簡単であり、比較的低含有量としても十分な厚み拘束力を発揮し、得られる成形体が柔軟で強度に優れ、使用温度条件下で容易に分解又は焼失されることから好適に使用することができる。
【0094】
[排ガス浄化装置]
排ガス浄化装置は、触媒担持体と、該触媒担持体の外側を覆うケーシングと、該触媒担持体と該ケーシングとの間に介装されたマットとを備える。本発明の排ガス浄化装置は、このマットとして、本発明の排ガス浄化装置用マットを用いたものであり、マットの剥離強度が高いため、排ガス浄化装置組立時のマットの取り扱い性、作業性に優れ、また、組立後の触媒担持体の把持性能も良好である。
【0095】
なお、この排ガス浄化装置の構成自体には特に制限はなく、本発明は、触媒担持体とケーシングと触媒担持体の把持体としてのマットとを備える各種の排ガス浄化装置に適用することが可能である。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0097】
なお、以下において、得られた無機繊維成形体の各種物性や特性の測定ないし評価方法は以下の通りである。
【0098】
<剥離試験>
無機繊維成形体から幅50mm、長さ150mmの試験片を型抜きし、この試験片の一方の端面1eの厚み中央に30mm深さの切り込みを入れる。
図1に示すように、切り込みにより形成された双方の端部をそれぞれつかみ治具2で把持した後、引張試験機にセットし、500mm/minの速度でマット面と垂直な相反方向に引っ張って試験片1を2つに裂いたときの荷重ピークの最大値(N)を計測した。
【0099】
<有効縦糸条の総体積V>
上記剥離試験を行った後、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、剥離両面(一方の剥離面1a及び他方の剥離面1b)から突出する、全ての縦糸条のうち、平均直径100μm以上で突出長さ2mm以上の縦糸条を該範囲における有効縦糸条とした。その数(本数)、直径(太さ)、長さをそれぞれ測定し、有効縦糸条の総体積を求めた。上記の有効縦糸条の直径、長さ及び本数等は、剥離面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX−5000)倍率は10倍)で観察して測定した。
【0100】
<有効縦糸条の平均長さ比率(L’/z)・100%>
上記剥離試験を行った後、単位面積(50mm×50mm)あたりにおける、一方の剥離面の有効縦糸条の平均長さL’を、他方の剥離面の厚みz(試験に供した無機繊維成形体の厚みの1/2)で除して、有効縦糸条の平均長さ比率を求めた。
【0101】
<ニードル痕の数の測定方法>
無機繊維成形体を50mm×50mmの正方形に切断してサンプルとし、無機繊維成形体の一方の面に可視光を当て、この剥離面への透過による光点と縦糸条の数をカウントすることにより、単位面積当りのすべてのニードル痕の数をカウントした。
【0102】
<面圧、および反発力の耐久性の測定方法>
面圧および反発力の耐久性は、次の方法で求めた。
無機繊維成形体をGBD(嵩密度)=0.30で30分間圧縮した後、上下のプレートを600℃まで昇温し、開放時GBD=0.27、圧縮時GBD=0.30とする、開放と圧縮を1000回繰り返した。その際、第1回目の開放時(GBD=0.27)の面圧値と、第1000回目の開放時(GBD=0.27)の面圧値を測定した。
第1000回目の開放時の面圧値(kPa)を、面圧(高温サイクル後の面圧)とした。
第1000回目の開放時の面圧値(kPa)と第1回目の開放時の面圧値(kPa)とに基づいて、以下の式より、面圧の劣化度合いの指標となる高温サイクル後面圧保持率(%)を求め、反発力の耐久性とした。
高温サイクル後面圧保持率(%)=([第1000回目の面圧値]/[第1回目の面圧値])×100
【0103】
[比較例1]
塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム含有量165g/L、Al/Cl=1.8(原子比))水溶液に、シリカゾルを、最終的に得られるアルミナ繊維の組成がAl
2O
3:SiO
2=72:28(重量比)となるように加え、更に、ポリビニルアルコールを加えた後、濃縮して、粘度70ポイズ(25℃)、アルミナ・シリカ含量約35重量%の紡糸液を調製し、該紡糸液を用いてブローイング法で紡糸した。これを集綿してアルミナ/シリカ系繊維前駆体繊維の集合体を得た。
【0104】
上記の紡糸液をブローイング法で紡糸した。紡糸ノズルとしては、特許第2602460号公報
図6に記載されたものと同様の構造の紡糸ノズルを使用した。また、集綿に際しては、紡糸気流に対して略直角となる様に金網製の無端ベルトを設置し、無端ベルトを回転させつつ、これにアルミナ短繊維前駆体を含む紡糸気流を含む紡糸気流を衝突させる構造の集積装置により連続シート(薄層シート)として回収した。
【0105】
集積装置より回収された薄層シートは、スプレーにて減摩剤を塗布された後連続的に引出して折畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ねつつ、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動させることにより積層シート(無機繊維集積体)にした。上記の折畳み装置としては、特開2000―80547号公報に記載されたものと同様の構造の折畳み装置を使用した。
【0106】
ニードリング処理はニードルパンチング機械によりパンチングして行った。
【0107】
その後、1200℃で焼成し、坪量2800g/m
2の結晶質アルミナ/シリカ系繊維よりなる無機繊維成形体(焼成綿)を得た。焼成は、電気炉で1200℃まで昇温速度5℃/min,1200℃で30分保持後自然冷却にて行った。
【0108】
なお、この結晶質アルミナ/シリカ系繊維の組成比は、アルミナ/シリカ=72/28(重量比)であり、無機繊維成形体について顕微鏡観察することにより測定した結晶質アルミナ/シリカ系繊維の平均繊維径(100本の平均値)は5.5μmであった。
【0109】
得られた無機繊維成形体について、剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0110】
[実施例1]
ニードリング処理の前に、ニードリング助剤を添着したこと以外は、比較例1と同様にして、実施例1の無機繊維成形体を得た。具体的には、無機繊維集積体に減摩剤を付着させた後、ニードリング助剤として、三菱ケミカル株式会社製「ユカフォーマー(登録商標)301」の10%エタノール溶液を、32g/m
2噴霧により添着した後、ニードリング処理を行った。なお、ニードリング助剤の添着後、無機繊維集積体は乾燥させていない。表1,3の「WET」の記載は、ウェットコーティングを意味する。実施例1の無機繊維成形体について、剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0111】
[実施例2]
ニードリング助剤による処理以外は、実施例1と同様にして、実施例2の無機繊維成形体を得た。ニードリング助剤による処理として、具体的には、ニードリング助剤として、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤフォーマー(登録商標)Z−631」の5%エタノール溶液を34g/m
2添着させ、50℃、60min乾燥させた後、ニードリング処理を行った。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。表1の「DRY」の記載は、ドライコーティングを意味する。
【0112】
[実施例3]
ニードリング助剤を添着後、乾燥工程を経なかった(ウェットコーティングとした)こと以外は、実施例2と同様にして、実施例3の無機繊維成形体を得た。すなわち、ニードリング助剤として、三菱ケミカル株式会社製「ダイヤフォーマー(登録商標)Z−631」の5%エタノール溶液を34g/m
2添着させた。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0113】
[実施例4]
比較例1と同様の方法でニードリング処理を行い、得られた無機繊維集積体上に、平均直径1300μm、平均長さ80mmの前駆体繊維の糸条(前記集積体製造時の副生物)を5.7条/cm
2となるように配置した。その後、配置した糸条の中央付近をフォークニードル押し込み、再度、ニードリング処理を行った。その後の焼成以降のプロセスは、比較例1と同様の方法で行い、実施例4の無機繊維成形体を得た。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0114】
[実施例5]
無機繊維集積体上に配置した糸条物として、平均直径1000μm、平均長さ80mmの前駆体繊維の糸条(前記集積体製造時の副生物)を1.1条/cm
2となるように配置したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5の無機繊維成形体を得た。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0115】
[比較例2]
塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム含有量165g/L、Al/Cl=1.8(原子比))水溶液に、シリカゾルを、最終的に得られるアルミナ繊維の組成がAl
2O
3:SiO
2=72:28(重量比)となるように加え、更に、ポリビニルアルコールを加えた後、濃縮して、粘度70ポイズ(25℃)、アルミナ・シリカ含量約35重量%の紡糸液を調製し、該紡糸液を用いてブローイング法で紡糸した。これを集綿してアルミナ/シリカ系繊維前駆体繊維の集合体を得た。
【0116】
上記の紡糸液をブローイング法で紡糸した。紡糸ノズルとしては、特許第2602460号公報
図6に記載されたものと同様の構造の紡糸ノズルを使用した。また、集綿に際しては、紡糸気流に対して略直角となる様に金網製の無端ベルトを設置し、無端ベルトを回転させつつ、これにアルミナ短繊維前駆体を含む紡糸気流を含む紡糸気流を衝突させる構造の集積装置により連続シート(薄層シート)として回収した。
【0117】
集積装置より回収された薄層シートは、スプレーにて減摩剤を塗布された後連続的に引出して折畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ねつつ、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動させることにより積層シート(無機繊維集積体)にした。上記の折畳み装置としては、特開2000―80547号公報に記載されたものと同様の構造の折畳み装置を使用した。
【0118】
ニードリング処理はニードルパンチング機械により、焼成後のニードリング痕密度が15〜30打/cm
2になるようにパンチングして行った。
【0119】
その後、1200℃で焼成し、坪量1400g/m
2の結晶質アルミナ/シリカ系繊維よりなる無機繊維成形体(焼成綿)(以下、「原反」と称す場合がある。)を得た。焼成は、電気炉で1200℃まで昇温速度5℃/min,1200℃で30分保持後自然冷却にて行った。
【0120】
なお、この結晶質アルミナ/シリカ系繊維の組成比は、アルミナ/シリカ=72/28(重量比)であり、無機繊維成形体について顕微鏡観察することにより測定した結晶質アルミナ/シリカ系繊維の平均繊維径(100本の平均値)は5.5μmであった。
【0121】
得られた無機繊維成形体について、剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0122】
[比較例3]
焼成後のニードリング痕密度が5〜15打/cm
2になるようにパンチングして行った以外は、比較例2と同様にして、比較例3の無機繊維成形体を得た。得られた無機繊維成形体について、剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0123】
[実施例6]
比較例1と同様の方法で、焼成後のニードリング痕密度が8〜20打/cm
2になるようにパンチングして行ったニードリング処理を行い、得られた無機繊維集積体上に、平均直径1300μm、平均長さ80mmの前駆体繊維の糸条(前記集積体製造時の副生物)を1.3条/cm
2となるように配置した。その後、配置した糸条の中央付近をフォークニードル押し込み、再度、ニードリング処理を行った。その後の焼成以降のプロセスは、比較例1と同様の方法で行い、実施例1の無機繊維成形体を得た。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0124】
[実施例7]
焼成後のニードリング痕密度が5〜15打/cm
2になるようにパンチングして行ったニードリング処理を行い、無機繊維集積体上に配置した糸条物として、平均直径1000μm、平均長さ80mmの前駆体繊維の糸条(前記集積体製造時の副生物)を1.0条/cm
2となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の無機繊維成形体を得た。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0125】
[実施例8]
焼成後のニードリング痕密度が3〜10打/cm
2になるようにパンチングして行ったニードリング処理を行い、無機繊維集積体上に配置した糸条物として、平均直径1500μm、平均長さ80mmの前駆体繊維の糸条(前記集積体製造時の副生物)を1.0条/cm
2となるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8の無機繊維成形体を得た。剥離強度の測定結果等を表1、2に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
表1、2に示す通り、実施例の無機繊維成形体は、ニードル痕1個あたりの平均体積を大きいことが示された。また、実施例の無機繊維成形体は、有効縦糸条1条あたりの平均体積を大きいことが示された。そして、これによる高い剥離強度を示した。
【0129】
また、実施例6〜8、比較例2、3の、高温サイクル後の面圧及び高温サイクル後面圧の保持率を表1に示す。
【0130】
表1に示す通り、実施例6〜8の無機繊維成形体においては、優れた面圧(高温サイクル後の面圧)と高い剥離強度とを両立できることが示された。一方、従来製法により成形された比較例2は、面圧が不十分であった。また、比較例3は、剥離強度が不十分であった。
【0131】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年8月6日付で出願された日本特許出願2019−144390及び2020年5月27日付で出願された日本特許出願2020−092409に基づいており、その全体が引用により援用される。
高い面圧と優れた剥離強度を両立する無機繊維成形体と、この無機繊維成形体を用いた排ガス浄化装置用マット及び排ガス浄化装置が提供される。無機繊維で構成され、厚み方向に延在したニードル痕を有し、該ニードル痕には、該厚み方向に延在した該無機繊維よりなる縦糸条が存在する無機繊維成形体において、該無機繊維成形体は、規定の剥離試験により測定される、ニードル痕1個あたりの縦糸条の平均体積が1.0mm