(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871034
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】評価方法及び計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/16 20060101AFI20210426BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
G01B21/16
C23C14/54 G
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-59089(P2017-59089)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162985(P2018-162985A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕利
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】坂内 雄也
【審査官】
眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−084536(JP,A)
【文献】
特開2005−206939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に、板厚方向に貫通する透孔を備えて基板への処理範囲を規定するマスクプレートを近接配置し、マスクプレートから基板に向かう方向をZ軸方向上として、基板上にタッチプレートを介して複数個の磁石を列設してなる磁石アレイを配置することで、当該基板を挟み込むようにしてタッチプレートにマスクプレートを密着させたとき、基板とマスクプレートとの密着状態を評価するための評価方法において、
Z軸方向に直交する平面内で互いに直交する2方向をX軸方向及びY軸方向とし、投光素子と受光素子とを有する第1計測部をマスクプレートのZ軸方向下方に離隔配置し、投光素子からの光が基板下面で反射する位置を起点位置として、この起点位置から第1計測部を計測対象物に対してX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、投光素子からの光がマスクプレートで反射する計測位置にて投光素子から光を照射して受光素子でその反射光を受光することで、第1計測部の走査経路における第1計測部に対するマスクプレートの変位量に応じた第1走査データを取得する第1工程と、
空間磁束密度の測定が可能な第2計測部をマスクプレートのZ軸方向下方に離隔配置し、起点位置からの第1計測部の走査経路に沿って第2計測部を走査すると共に、取得済みの走査データを基にマスクプレートからZ軸方向に上動または下動させながら、マスクプレートの下面から所定距離離れた位置での空間磁束密度についての第2走査データを取得する第2工程とを含むことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記第1計測部と第2計測部とをX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動自在な単一の支持台に設置し、各計測位置にて前記第1工程と前記第2工程を連続して実施することを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の評価方法であって、マスクプレートの各透孔が下方向に向けて末拡がり内面を持つものにおいて、前記第1走査データを取得するときの前記計測位置に、透孔の下面内縁部で反射する光を受光するものを含むことを特徴とする評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の評価方法であって、投光素子から基板に対して垂直に光を照射するものにおいて、
投光素子からの光が基板下面で反射する位置を起点位置とし、この起点位置から第1計測部を基板に対してX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、投光素子からの光が基板下面で反射する複数の位置にて受光素子でその反射光を受光し、XY平面に対する基板の傾きを計測する工程と、投光素子からの光が基板に対して直角に入射するように、計測した基板の傾きに応じて第1計測部及び第2計測部を傾動させる工程とを更に含むことを特徴とする評価方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の評価方法を実施する計測装置であって、
前記第1計測部と前記第2計測部とが単一の支持台に設けられ、前記第1計測部をX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に水平移動可能であって前記第2計測部をZ軸方向に上下動可能な移動部を備えることを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の一方の面に、板厚方向に貫通する透孔を備えて基板への処理範囲を規定するマスクプレートを近接配置し、マスクプレートから基板に向かう方向をZ軸方向上として、基板上にタッチプレートを介して複数個の磁石を列設してなる磁石アレイを配置することで、当該基板を挟み込むようにしてタッチプレートにマスクプレートを
密着させたとき、基板とマスクプレートとの
密着状態を評価するための評価方法及びこの評価方法を実施する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機ELデバイスを製造する方法の一つとして真空蒸着法が知られている。この真空蒸着法では、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバ内に、ガラス基板等の基板と、板厚方向に貫通する透孔を備えて蒸着(処理)範囲を規定するマスクプレートとを重ね合わせて配置し、蒸着源より蒸着物質を昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着物質をマスクプレート越しに基板の一方の面(即ち、成膜面)に付着、堆積させることで、各種の薄膜が所定のパターンで成膜される(例えば、特許文献1参照)。この場合、マスクプレートの下方に蒸着源を配置し、所謂デポアップ式で成膜することが通常である。
【0003】
また、真空蒸着による成膜時、所定のパターンで成膜された薄膜に所謂マスクボケ(即ち、マスク越しに所定の薄膜を所定の基準膜厚で成膜し、例えば一方向に沿う薄膜の膜厚分布をみたとき、基準膜厚で成膜される範囲がマスクの一方向の開口幅より狭く、この開口幅を超えた所定の範囲まで成膜されてしまうこと)が発生することを可及的に抑制するために、基板とマスクプレートとをその全面に亘って
密着させることが好ましい。このことから、複数個の磁石を列設してなる磁石アレイを吸着手段として用い、マスクプレートを設置した後、その上方から位置合わせして基板を重ね、基板上にタッチプレートを介して吸着手段を配置することで当該基板を挟み込むようにしてタッチプレートにマスクプレートを
密着させることが一般に行われている。
【0004】
ところで、近年では、処理すべき基板として大型で板厚の薄いもの(例えば、1500mm×1800mm×厚さ0.5mm)が用いられるようになっており、これに伴い、マスクプレートの各透孔を通過して基板に成膜される膜が断面略矩形の輪郭を持つように高精度に成膜するために、マスクプレートとしては数μm〜数百μmの板厚である箔状のものが用いられるようになっている。このため、撓み易い基板とマスクプレートとをその全面に亘って確実に
密着させることが難しく、基板面内においてマスクボケが局所的に発生する場合がある。
【0005】
上記マスクボケは、成膜される基板の下面とマスクプレートの上面との間に所定以上のギャップ(数μm以上の隙間)が局所的に発生していることに起因するが、このようなギャップは、マスクプレートの撓みや歪だけでなく、磁石アレイを構成する各磁石の個体差、その組付誤差或いは磁力の経時変化に伴う基板面内における磁石アレイの空間磁束密度の相違により発生しているものと推測される。そこで、このようなマスクボケは製品歩留まりを低下させる要因となるため、成膜される基板の下面とマスクプレートの上面との間でギャップを発生させる原因、即ち、本発明で言うところの基板とマスクプレートとの
密着状態を評価するための評価方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−93278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、磁石アレイを用いて基板を挟み込むようにしてタッチプレートにマスクプレートを
密着させたときの基板とマスクプレートとの
密着状態を評価することができる評価方法及びこの評価方法を実施する計測装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の評価方法は、基板の一方の面に、板厚方向に貫通する透孔を備えて基板への処理範囲を規定するマスクプレートを近接配置し、マスクプレートから基板に向かう方向をZ軸方向上として、基板上にタッチプレートを介して複数個の磁石を列設してなる磁石アレイを配置することで、当該基板を挟み込むようにしてタッチプレートにマスクプレートを
密着させたとき、基板とマスクプレートとの
密着状態を評価するための評価方法において、Z軸方向に直交する平面内で互いに直交する2方向をX軸方向及びY軸方向とし、投光素子と受光素子とを有する第1計測部をマスクプレートのZ軸方向下方に離隔配置し、投光素子からの光が基板下面で反射する位置を起点位置として、この起点位置から第1計測部を計測対象物に対してX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、投光素子からの光がマスクプレートで反射する計測位置にて投光素子から光を照射して受光素子でその反射光を受光することで、第1計測部の走査経路における第1計測部に対するマスクプレートの変位量に応じた第1走査データを取得する第1工程と、空間磁束密度の測定が可能な第2計測部をマスクプレートのZ軸方向下方に離隔配置し、起点位置からの第1計測部の走査経路に沿って第2計測部を走査すると共に、取得済みの走査データを基にマスクプレートからZ軸方向に上動または下動させながら、マスクプレートの下面から所定距離離れた位置での空間磁束密度についての第2走査データを取得する第2工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、起点位置において第1計測部の投光素子からの光を基板下面の所定位置に対して照射し、この下面からの反射光を受光素子で受光し、これを基準とする。次に、例えば投光素子から照射される光のスポット径を走査ピッチとして、この走査ピッチで起点位置から第1計測部を相対的に走査し、投光素子から光を照射していくと、マスクプレート下面で反射するもの、マスクプレートの透孔の内面で反射するものや、基板下面で再度反射するものが順次繰り返して受光素子で受光され、これらから第1計測部に対するマスクプレートの変位量に応じた矩形波状の第1走査データが取得できる。なお、取得した第1走査データによれば、例えば各計測位置でのピーク値とマスクプレートの板厚とから基板とマスクプレートとの間の(上下方向の)ギャップが夫々計測でき、これら計測されたギャップからマスクプレート面内における撓みを評価することができる。
【0010】
次に、第1走査データが取得されると、起点位置から第1計測部の走査経路に沿って第2計測部を走査し、第1計測部での測定位置毎に、基板の下面から所定距離離れた位置での空間磁束密度が測定される。このとき、取得済みの第1走査データを基にマスクプレートからZ軸方向に上動または下動させることで、基板とマスクプレートとの間に発生し得るギャップの影響を受けない、マスクプレートの下面から常に所定の距離離れた位置での空間磁束密度についての第2走査データを取得することができる。
【0011】
これら取得した第1走査データと第2走査データとから基板とマスクプレートとの
密着状態を評価することができる。即ち、例えば第2走査データにて各測定位置での空間磁束密度が所定の範囲内の値であるにも拘わらず、第1走査データにて基板の下面とマスクプレートの上面との間に、所定のパターンで成膜された薄膜にマスクボケを生じさせる所定以上のギャップが発生している場合には、マスクプレートの歪や撓みが原因であると評価することができる。他方、第1走査データにて所定以上のギャップが発生している測定位置にて、第2走査データの空間磁束密度が他の測定位置のものと比較して異なっている場合には、例えば磁石アレイに吸着力が局所的に弱い部分があると評価することができる。
【0012】
このように本発明では、同一の測定位置にて基板の下面とマスクプレートの上面との間のギャップと、基板の下面から所定の距離離れた位置での空間磁束密度とを計測することで、所定以上のギャップを発生させる原因としての基板とマスクプレートとの
密着状態を効果的に評価できる。そして、本発明を適用すれば、マスクプレートとして数μm〜数百μmの板厚である箔状のものを用いるときに当該マスクプレートの撓みを考慮して、基板とマスクプレートとをその全面に亘って確実に
密着させるための磁石アレイの開発(磁石種やその形状、各磁石の配列等)にも有効利用できる。また、第1走査データの取得は第2走査データの取得に比較して多大な時間を要することから、基板面内の所定の範囲内でのみ第1走査データと第2走査データとを取得し、第1走査データと第2走査データとから、基板の下面とマスクプレートの上面との間に発生する所定以上のギャップと、そのときの空間磁束密度との相関を予め評価しておき、基板面内のその他の個所においては、第2走査データのみ取得して基板面内の全体に亘る基板とマスクプレートとの
密着状態の評価に利用することもできる。なお、本発明の評価方法は、大気中だけでなく、真空雰囲気でも実施することができ、例えば、大気圧下の基板を真空チャンバ内に搬送するために、この真空チャンバにゲートバルブを介して連設されるロードロックチャンバにて行い、真空雰囲気中で計測後のものを搬送してそのまま成膜を行うことができる。
【0013】
また、本発明において、大型の基板に対しその全面に亘ってマスクプレートとの
密着状態を効率よく評価するために、前記第1計測部と第2計測部とをX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動自在な単一の支持台に設置し、各計測位置にて前記第1工程と前記第2工程を連続して実施することが好ましい。
【0014】
ところで、マスクプレートに設けられる透孔の中には、例えば成膜レートの向上等の目的でマスクプレートの各透孔が下方向に向けて末拡がり内面を持つようにしたものがある。このような透孔をマスクプレートにエッチング等により形成すると、各透孔の末拡がり内面が歪んでいる場合があり、これに起因して、基板の下面とマスクプレートの上面との間に、測定誤差に起因する見かけ上のギャップが生じることがある。そこで、本発明では、マスクプレートの各透孔が下方向に向けて末拡がり内面を持つものにおいて、前記第1走査データを測定するときの前記計測位置に、透孔の下面内縁部で反射する光を受光するものを含むことが好ましい。これにより、当該計測位置でのピーク値とマスクプレートと板厚とが一致すれば、基板とマスクプレートとの間にギャップが発生していないと評価でき、矩形波のピーク値とマスクプレートの板厚との間に差があれば、この差を基板とマスクプレートとの間のギャップとして計測することができる。
【0015】
本発明において、より正確な計測を行うには、投光素子からの光が基板下面で反射する位置を起点位置とし、この起点位置から第1計測部を基板に対してX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、投光素子からの光が基板下面で反射する複数の位置にて受光素子でその反射光を受光し、XY平面に対する基板の傾きを計測する工程と、投光素子からの光が基板に対して直角に入射するように、計測した基板の傾きに応じて第1計測部及び第2計測部を傾動させる工程とを更に含むことが好ましい。
【0016】
また、上記評価方法を実施する本発明の計測装置は、前記第1計測部と前記第2計測部とが単一の支持台に設けられ、前記第1計測部をX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に水平移動可能であって前記第2計測部をZ軸方向に上下動可能な移動部を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は、本発明の実施形態の評価方法を実施する計測装置を示す模式断面図であり、(b)は、
図1(a)のIb−Ib線に沿う模式断面図。
【
図3】(a)及び(b)は、本発明の実施形態におけるギャップの計測を説明する図。
【
図4】(a)及び(b)は、本発明の実施形態における空間磁束密度の計測を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、基板を矩形のガラス基板とし(以下、単に基板Swとする)、基板Swの一方の面に、板厚方向に貫通する透孔を備えて基板Swへの処理範囲を規定するマスクプレートMpを密着させたとき、基板SwとマスクプレートMpとの間の密着状態を評価するための本発明の評価方法の実施形態を説明する。以下においては、マスクプレートMpから基板Swに向かう方向をZ軸方向上として、Z軸方向に直交する基板の一方の面内で互いに直交する2方向をX軸方向及びY軸方向とする。
【0019】
図1を参照して、LCは、基板Swに対して真空蒸着法による成膜が実施できる真空チャンバ(図示省略)にゲートバルブ(図示省略)を介して連設された予備チャンバである。予備チャンバLCには真空ポンプPuが接続され、その内部を大気圧から所定圧力まで真空引きできるようになっている。予備チャンバLCには、本実施形態の評価方法を実施する計測装置Mmが設けられている。計測装置Mmは、第1計測部1aと、第2計測部1bと、これら両計測部1a,1bをX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に水平移動可能であってZ軸方向に上下動可能な移動部2とで構成されている。移動部2は、予備チャンバLCの底面にX軸方向に沿って敷設された2本のレール21,21に摺動自在に係合するスライダ22を有する門型のフレーム23を備え、図示省略のモータにより所定のピッチでX軸方向にフレーム23が進退できるようになっている。また、フレーム23には、Y軸方向にのびる第1送りねじ24が設けられ、第1送りねじ24に支持台11の図示省略する取付部が螺合し、支持台11が図示省略のモータにより所定のピッチでY軸方向に進退できるようになっている。更に、フレーム23には、Z軸方向にのびる支柱部に沿って2本の他の第2送りねじ25,25が設けられ、第2送りねじ25,25には、第1送りねじ24の両端に夫々設けた支持枠24aの図示省略する取付部が螺合し、支持台11が図示省略のモータにより所定のピッチでZ軸方向に上下動できるようになっている。そして、単一の支持台11に第1計測部1aと第2計測部1bとが設けられている。この場合、
図1(b)に示す移動部2の原点位置から支持台11がX軸方向に沿って移動(走査)される(
図1(b)中、左から右に向って移動される)とき、X軸方向前方に第1計測部1aが、X軸方向後方に第2計測部1bが夫々位置するようにしている。
【0020】
第1計測部1aは、投光素子12と受光素子13とを有する変位センサで構成される。この場合、投光素子12としては、半導体レーザーやファイバーヘッド等を用いることができ、受光素子13としては、CMOSやCCDを用いることができ、また、その計測方法としては、反射光をもとに三角測量の原理で計測するものや、投影したレーザーとその反射光の位相差で計測するものが利用できる。また、μmオーダーのギャップを効率よく計測するために、広帯域レーザーを使用して分光干渉法により変位量を計測できるものが好ましい。他方、第2計測部1bは、ホール素子を有する磁気センサで構成され、X軸、Y軸及びZ軸の3軸全ての方向における空間磁束密度(G)を測定できるようになっている。なお、第1及び第2の各計測部1a,1b自体は公知のものであるため、これ以上の詳細な説明は省略する。また、特に図示して説明しないが、計測装置Mmの作動はマイクロコンピュータ、シーケンサやメモリ等を備える公知の制御手段により統括制御されると共に、制御手段により計測値のデータ処理や、処理したデータのディスプレイ(表示手段)への表示などが行われるようになっている。
【0021】
第1及び第2の各計測部1a,1bから離隔した予備チャンバLCの上部空間には支持枠3が設けられ、支持枠3で計測対象物Moが後述のマスクプレートMpを下側にした姿勢で支持できるようにしている。
図2を参照して、計測対象物Moは、マスクプレートMpと基板SwとタッチプレートTpと磁石アレイMaとで構成される。マスクプレートMpは、常温付近で熱膨張率が小さい金属材料から選択され、例えばインバーで作製される。マスクプレートMpには、板厚方向に貫通する複数の透孔Mfが所定のパターンで開設されている。この場合、マスクプレートMpとしては、透孔Mfを通過して基板Swに成膜される膜が断面略矩形の輪郭を持ち、かつ、このような膜を高精度に成膜するために、数μm〜数百μmの板厚である箔状のものが用いられ、マスクプレートMpより板厚の厚い支持枠(図示省略)で保持されるようになっている。また、透孔Mfの内面は、成膜レートを向上させる目的で、下方に向けて末広がりなすり鉢状に開設されている(
図3参照)。この場合、マスクプレートMpの上面での透孔Mfの輪郭は、円形や長円等、成膜しようとするパターンに応じて適宜設定される。なお、このような透孔Mfを開設すると、各透孔の末拡がり内面が歪んでいる場合があり、これに起因して、基板SwとマスクプレートMpとの間に、測定誤差に起因する見かけ上のギャップが生じることがある。
【0022】
タッチプレートTpは、透磁率が小さい金属材料から選択され、例えば、オーステナイト系ステンレスが用いられる。この場合、基板Swが密着するタッチプレートTpの下面は、所定の平坦度を有するように加工され、タッチプレートTpに基板Swがその全面に亘って密着したとき、基板Swを平坦に保持する役割を果たすようにしている。磁石アレイMaは、板状のヨークYoと、ヨークYoの下面に、同一形状かつ同種のY軸方向に長手の棒状磁石BmをX軸方向に間隔を存してかつ下側の磁極を交互に変えて列設して構成されている。以下に、基板SwとマスクプレートMpとの間の密着状態を評価するための評価方法を具体的に説明する。
【0023】
先ず、予備チャンバLC内で計測対象物Moを準備する。予備チャンバLCに設けた支持枠3上にマスクプレートMpを設置する。次に、マスクプレートMp上に位置合わせして基板Swを重ね合わせる。この場合、マスクプレートMpと基板Swとの所定位置にはアライメントマーク(図示せず)が設けられ、アライメントマークをCCDカメラ等で撮像しながら、マスクプレートMpに対する基板Swの位置が調整される。そして、基板Sw上に、その上方から下降させてタッチプレートTpを載置した後、その上方から下降させてタッチプレートTp上に磁石アレイMaを設置する。これにより、基板Swを挟み込むようにしてタッチプレートTpにマスクプレートMpが吸着され、計測対象物Moが準備される。
【0024】
次に、計測対象物Moが準備されると、第1工程が実施される。即ち、投光素子12からの光が基板Swの下面Sw1で反射する位置を起点位置とし(
図3(a)中、第1計測部1aが最左端にある位置)、この起点位置にて、投光素子12から光を基板Swの下面Sw1の所定位置(光がマスクプレートMpの透孔Mfを通過する位置)に対して照射し、この基板Swの下面Sw1からの反射光を受光素子13で受光し、これを基準とする。そして、移動部2により第1計測部1aを起点位置からX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査する。ここで、例えば、投光素子12から照射される光のスポット径を走査ピッチとし、この走査ピッチで起点位置から、
図3(a)中右側に向かって第1計測部1aを相対的に走査し、投光素子12から光を照射していくと、マスクプレートMpの透孔Mfの内面で反射する光、透孔Mfの下面内縁部Mp2で反射する光(つまり、
図3(a)中、透孔Mfの左側のエッジでの反射光)、マスクプレートMpの下面Mp1で反射する光、透孔Mfの他の下面内縁部Mp2で反射する光(つまり、
図3(a)中、透孔Mfの右側のエッジでの反射光)、及び、透孔Mfの他の下面内縁部Mp2で反射する光(つまり、透孔Mfのエッジでの反射光)が順次受光素子13で受光され、これを一周期としてこの操作が繰り返される(
図3(a)参照)。これにより、第1計測部1aに対するマスクプレートMpの変位量に応じた矩形波状の第1走査データ(
図3(b)参照)を取得できる。マスクプレートMpに撓みが生じているような場合には、例えば、マスクプレートMpの下面Mp1で反射する各計測位置でのピーク値とマスクプレートMpの板厚とから、基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間のギャップGpを計測することができる。
【0025】
次に、第1走査データが取得されると、この第1走査データを基に第2工程が実施される。即ち、移動部2により支持台11上の第2計測部1bが起点位置に戻され、第1計測部1aの走査経路に沿って第2計測部1bを走査し、第1計測部1aでの測定位置毎に、第2計測部1bにより空間磁束密度(G)が測定される。このとき、
図4(a)に示すように、取得済みの第1走査データを基に、マスクプレートMpに対して支持台11をZ軸方向に上動または下動させることで、基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間に発生しているギャップGpの影響を受けない、第2計測部1bによりマスクプレートMpの下面Sw3から常に所定の距離Dsだけ離れた位置での空間磁束密度(G)についての第2走査データを取得することができる(
図4(b)参照)。
【0026】
第1走査データと第2走査データとが取得されると、これらから基板SwとマスクプレートMpとの
密着状態が評価される。即ち、例えば、
図4(b)に示すように、第2走査データにて各測定位置での空間磁束密度(G)が所定の範囲内の値であるにも拘わらず、
図3(b)に示すように、第1走査データにて基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間に、所定のパターンで成膜された薄膜にマスクボケを生じさせる所定以上のギャップGpが発生している場合には、マスクプレートMpの歪や撓みが原因であると評価することができる。他方、第1走査データにて所定以上のギャップGpが発生している測定位置にて、第2走査データの空間磁束密度(G)が他の測定位置のものと比較して異なっている場合には、例えば磁石アレイMaに吸着力が局所的に弱い部分があると評価することができる。
【0027】
以上説明したように、同一の測定位置にて基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間のギャップGpと、マスクプレートMpの下面Mp1から所定の距離離れた位置での空間磁束密度(G)とを計測することで、所定以上のギャップGpを発生させる要因としての基板SwとマスクプレートMpとの
密着状態を効果的に評価することができる。そして、上記のように第1走査データと第2走査データとを取得できれば、マスクプレートMpとして数μm〜数百μmの板厚である箔状のものを用いるときにマスクプレートMpの撓みを考慮して、基板SwとマスクプレートMpとをその全面に亘って確実に
密着させるための磁石アレイMaの開発(磁石種やその形状、各磁石の配列等)にも有効利用できる。
【0028】
上述したように、マスクプレートMp上に基板Swを重ね合わせ、基板Sw上にその上方から下降させてタッチプレートTpを載置した後、その上方から下降させてタッチプレートTp上に磁石アレイMaを設置することで基板Swを挟み込むようにしてタッチプレートTpにマスクプレートMpが吸着させる場合、基板Sw1には、その自重やその外周縁部がマスクプレートMpの支持枠で支持されることで撓みが発生する一方で、長手の棒状磁石BmをX軸方向に間隔を存して設けた磁石アレイMa(即ち、X軸方向に空間磁束密度(G)の高い部分と低い部分とが正弦波状に繰り返すもの)でマスクプレートMpが吸着されることで、マスクプレートMpにより上方に押し上げられる力の作用する。このため、計測対象物Moを準備した状態では、基板Swの下面Sw1は単純な平面とはならない場合が多い。そこで、基板Swの下面Sw1を基準面として空間磁束密度(G)が評価される(なお、本発明では、実際の測定点が基準面としての基板Swの下面Sw1から下方に離れた(オフセット)した位置での空間磁束密度(G)の測定で評価する)。
【0029】
空間磁束密度(G)を評価するにあたっては、ISO 25178で示されるパラメータと同様の評価を用いることができる。この場合、例えば「最大山高さ」が高ければ、マスクプレートMpと基板Swとの密着が向上するとは言えない場合がある。即ち、上記磁石アレイMaで空間磁束密度(G)を高くすれば、その分「谷」も深くなるため、これでは基板Swの下面Sw1を平滑化できない。また、上記評価基準として例えばクルトシス(尖り度)で磁石アレイMaの磁気回路を評価し、磁気回路設計の良否判定を行うことができる。更に、マスクプレートMpの形状によっては、磁束の波長方向との相関が存在する場合がある。このような場合には、測定した空間磁束密度(G)を空間パラメーターの表面性状の方向(Std)で評価することが考えられる。
【0030】
このように本発明では、基板Swの下面Sw1から所定距離離れた位置における空間磁束密度(G)を測定することで、基板Swの下面Sw1の表面性状を多種の側面から評価を行うことができると共に、同一の計測位置にて基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間のギャップGpの情報を取り込むことで、空間磁束密度(G)の分布との相関を容易に把握することができる。つまり、磁石アレイMaの空間磁束密度(G)が吸着時に基板Swの下面Sw1にあらわれる表面粗さで評価される。この場合、空間磁束密度(G)を表面粗さ同様に評価するには、3軸方向で取得される空間磁束密度(G)を1軸方向のデータ(例えば、基板Swの下面Sw1の法線方向のデータ、または、Z軸方向のデータ)に変換すればよい。なお、このような基板Swの下面Sw1の表面性状を多種の側面から評価や、ギャップGpと空間磁束密度(G)との相関を把握は、上記制御手段により行うことができ、その結果をディスプレイ(表示手段)に表示できるように制御手段とディスプレイとから評価システムを構築しておくこともできる。
【0031】
なお、第1走査データの取得は第2走査データの取得に比較して多大な時間を要することから、基板Sw面内の所定の範囲内でのみ第1走査データと第2走査データとを取得し、第1走査データと第2走査データとから、基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間に発生する所定以上のギャップGpと、そのときの空間磁束密度(G)との相関を予め評価しておき、基板Sw面内のその他の個所においては、第2走査データのみ取得して基板Sw面内の全体に亘る基板SwとマスクプレートMpとの
密着状態の評価に利用することもできる。また、上記においては、第1走査データを取得した後、移動部2により支持台11上の第2計測部1bを一旦起点位置に戻し、第1計測部1aでの測定位置毎に、第2計測部1bにより空間磁束密度(G)を測定しているが、これに限定されるものではない。例えば、移動部2により第1計測部1aを起点位置からX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、測定位置にて第1計測部1aに対するマスクプレートMpの変位量を測定した後、この変位量に応じて移動部2により支持台11をZ軸方向に上動または下動させ、同一の計測位置にて第1走査データの取得に連続して空間磁束密度(G)に関する第2走査データの取得、即ち、各計測位置にて第1工程と第2工程とを連続して実施するようにしてもよい。これによれば、基板Swが大型であっても、その全面に亘ってマスクプレートMpとの
密着状態を効率よく評価することができ、有利である。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。上記実施形態では、計測装置Mmの移動部2として、フレーム23や送りねじ24,25を備えるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、各計測部1a,1bを支持する単一の支持台11をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動できるものであれば、その形態は問わない。例えば、支持台11にZ軸方向に上下動自在なステージ(図示せず)を設け、ステージ上に空間磁束密度(G)を測定する計測部1bを設けるようにしてもよい。他方、第1計測部1aと、第2計測部1bとを別々に移動できるように構成することもでき、また、支持台11を固定とし、計測対象物MoをX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動できるように構成することもできる。更に、支持台11に角度調整機構を付設し、マスクプレートMpに対する光の入射角やマスクプレートMpでの反射角を調整できるように構成することができる。
【0033】
ところで、
図2及び
図3(a)に示すような下方に向けて末拡がりな内面を持つ透孔MfをマスクプレートMpにエッチング等により形成すると、各透孔Mfの末拡がり内面が歪んでいる場合があり、これに起因して、基板SwとマスクプレートMpとの間に、測定誤差に起因する見かけ上のギャップが生じることがある。このような場合には、計測位置として、透孔Mfの下面内縁部Mp2で反射する光を受光するものを含むことで、当該計測位置でのピーク値とマスクプレートMpの板厚とが一致すれば、基板SwとマスクプレートMpとの間のギャップGpは生じていないと評価でき、矩形波のピーク値とマスクプレートMpの板厚との間に差があれば、この差を基板Swの下面Sw1とマスクプレートMpの上面Mp3との間のギャップGpとして計測することができる。
【0034】
また、計測位置として、透孔Mfの下面内縁部Mp2で反射する光を受光することを含む場合、精度よく測定するには、投光素子12から基板Swに対して垂直に光を照射する必要がある。そこで、投光素子12からの光が基板Swの下面Sw1で反射する位置を起点位置とし、この起点位置から第1計測部1aを計測対象物Moに対してX軸方向及びY軸方向の少なくとも一方向に相対的に走査し、投光素子12からの光が基板Swの下面Sw1で反射する複数の位置(少なくとも3点)にて受光素子13でその反射光を受光し、XY平面に対する基板Swの傾きを計測する。そして、計測した基板Swの傾きに応じて、公知のチルト機構等を用いて支持台11、ひいては第1計測部1aを傾動させれば、投光素子12からの光を基板Swに対して直角に入射させることができ、有利である。
【0035】
ところで、第1計測部1aとして分解能の高いものを用いる場合、第1計測部1aとマスクプレートMpとの距離を短くする必要がある。このため、マスクプレートMpの撓み量が多い場合等には、第1計測部1aを移動させると、第1計測部1aがマスクプレートMpに接触する虞がある。そこで、計測部1aとは別に、計測部1aとマスクプレートMpとの距離を長くできる分解能の低い他の計測部を更に設け、この他の計測部により基板Swの傾きや撓みを上記と同様にして計測し、第1計測部1aを移動させてもマスクプレートMpに接触しないことを確認して走査するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
Gp…ギャップ、Sw…基板、Mp…マスクプレート、Tp…タッチプレート、Ma…磁石アレイ、Bm…磁石、1a…変位センサ(第1計測部)、12…投光素子、13…受光素子、1b…磁気センサ(第2計測部)、2…移動部。